JP2009057588A - 金属含有物から金属を回収する方法、および金属回収装置 - Google Patents

金属含有物から金属を回収する方法、および金属回収装置 Download PDF

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Abstract

【課題】金属含有物から金属を金属イオンの形態ではなく、金属自体の形態で回収する方法を提供する。錯形成剤を再利用しつつ金属含有物から金属を回収する方法を提供する。金属含有物から金属を回収する装置を提供する。
【解決手段】金属含有物から金属を回収する際に、前記金属含有物に錯形成剤を含む高圧流体を接触させることによって金属錯体を形成し、前記金属含有物中の金属を金属錯体の形態で前記高圧流体中に抽出する工程と、金属錯体を含む高圧流体に錯体中の金属種を原子価が0の金属に変化させる還元剤を接触させることによって前記金属錯体に含まれる金属種を還元し、金属の形態で析出させて該金属を前記高圧流体から分離回収する工程、を含んで操業すればよい。
【選択図】図1

Description

本発明は、高圧流体を用いて金属含有物から金属を回収するための方法、および該方法を実施するための装置に関するものである。
地球環境の悪化を改善するために、限りある資源をリサイクルして再利用する循環型社会の構築が急務である。金属資源のなかでも、貴金属、特に、白金族元素(例えば、Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Ptなど)は埋蔵量が少なく、リサイクルが望まれている。また、白金族元素の埋蔵量は、南アフリカが世界の9割を占めており、生産量では南アフリカとロシアの2ヵ国で世界の9割を占めているため、偏在性が著しく、今後の安定供給に大きな不安がある。特に、近年では、先端科学技術の発展や環境規制により白金族元素の急激な需要増加が想定されている。例えば、貴金属は、自動車工業や化学工業等で使用されている不均一系触媒、プリント基板、ハードディスク、熱電対等電気関連分野等で用いられている。そこで産業廃棄物等から有価金属を分離回収し、資源としてリサイクルする技術の拡充・発展が望まれている。
産業廃棄物等から有価金属を分離回収する技術としては、特許文献1や2の技術が提案されている。
特許文献1では、金属およびメタロイドの種を含有する基体を、キレート化剤を含有する超臨界流体溶媒(例えば、超臨界二酸化炭素流体溶媒など)に曝し、該金属およびメタロイドのキレートが前記超臨界流体中に形成された後に、該超臨界流体中の金属およびメタロイドのキレートを酸性溶液に曝すことによって、前記金属およびメタロイドの種を前記金属およびメタロイドのキレートから前記酸性溶液中に抽出することが記載されている。
上記特許文献1では、酸性溶液を用いてキレート中の金属種を抽出しており、金属種は金属イオンの形態で分離回収される。そのため該金属イオンを金属の形態で回収するには、酸性溶液を蒸発させて金属塩として回収したり、酸性溶液に沈澱剤等を添加して金属塩として析出させる必要がある。しかし酸性溶液を蒸発させるには多量のエネルギーが必要となるし、沈澱剤としてpH調整剤を添加すると酸性溶液が中和されてしまい、廃液となって、酸性溶媒として再利用することはできない。
一方、特許文献2には、白金族元素を含む金属塩混合物の水溶液または有機溶液中から白金族元素を分離・回収する方法が記載されている。この特許文献2では、上記溶液中に錯形成剤を添加して白金属元素を錯体化し、生成した錯体に超臨界流体を接触させて前記錯体を超臨界流体に抽出し、この超臨界流体をアンモニア水溶液に超臨界状態を保った状態で吹き込むことによって、前記白金族元素を前記アンモニア水溶液中で回収している。
しかし超臨界流体をアンモニア水溶液に吹き込んでいるため、錯形成剤がアンモニウム化合物となる。アンモニウム化合物は、超臨界流体に溶解し難いため、この技術では、結局のところ錯形成剤を再利用できないのである。
特表2000−515932号公報 特開平8−291345号公報
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属含有物から金属を金属イオンの形態ではなく、金属自体の形態で回収する方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、錯形成剤を再利用しつつ金属含有物から金属を回収する方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、金属含有物から金属を回収する装置を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明に係る金属回収方法は、前記金属含有物に錯形成剤を含む高圧流体を接触させることによって金属錯体を形成し、前記金属含有物中の金属を金属錯体の形態で前記高圧流体中に抽出する工程と、金属錯体を含む高圧流体に錯体中の金属種を原子価が0の金属に変化させる還元剤を接触させることによって前記金属錯体に含まれる金属種を還元し、金属の形態で析出させて該金属を前記高圧流体から分離回収する工程、を含む点に要旨を有する。前記金属を分離回収した後の高圧流体は、前記抽出する工程に返送してもよい。
本発明の上記金属回収方法は、金属含有物に錯形成剤を含む高圧流体を接触させるための処理容器と、金属錯体を含む高圧流体に還元剤を接触させるための分離容器を備えた金属回収装置であって、前記処理容器には錯形成剤を含む高圧流体を供給する手段、前記分離容器には還元剤を供給する手段が夫々設けられている装置を用いることで実施をすることができる。上記金属回収装置には、前記分離容器から排出された高圧流体を前記処理容器へ返送する手段が更に設けられていてもよい。
本発明によれば、金属含有物に錯形成剤を含む高圧流体を接触させることによって金属錯体を形成した後、該錯体中の金属種を原子価が0の金属に変化させる還元剤を用いてこの金属錯体を還元することによって、金属含有物から金属を金属イオンの形態ではなく、金属自体の形態で回収できる。また、本発明によれば、金属錯体中の金属種を還元することによって金属を回収しているため、金属を回収した後の錯形成剤は、金属含有物から金属を抽出するための錯形成剤として再利用することができる。
本発明における金属回収方法は、金属含有物に錯形成剤を含む高圧流体を接触させることによって金属錯体を形成し、前記金属含有物中の金属を金属錯体の形態で前記高圧流体中に抽出する工程(以下、抽出工程と呼ぶことがある)と、金属錯体を含む高圧流体に錯体中の金属種を原子価が0の金属に変化させる還元剤を接触させることによって前記金属錯体に含まれる金属種を還元し、金属の形態で析出させて該金属を前記高圧流体から分離回収する工程(以下、分離回収工程と呼ぶことがある)、を含んでいるところに特徴がある。
即ち、本発明では、金属含有物に錯形成剤を含む高圧流体を接触させることによって金属錯体を形成することが重要である。金属は、金属自体の形態では、高圧流体中に抽出されないが、金属含有物に錯形成剤を含む高圧流体を接触させると金属錯体を形成し、この金属錯体は高圧流体へ溶解し易くなる。そのため金属含有物から金属を高圧流体中に抽出させることができる。
そして本発明では、金属錯体を含む高圧流体に、錯体中の金属種を原子価が0の金属に変化させる還元剤を接触させることによって金属を高圧流体から分離回収することができる。即ち、金属錯体を構成する金属種は、還元剤の作用によって金属の形態に変化するため、高圧流体には溶解できず、高圧流体から金属の形態で析出するのである。そのため本発明によれば金属を簡単に回収できるようになる。
一方、例えば、上記特許文献1のように、金属含有物に含まれる金属を錯体化した後、酸性溶液に曝すと、錯体中の金属種は金属イオンとなるため、金属自体の形態で回収するには、この酸性溶液中の金属イオンを金属の形態に変換する必要がある。即ち、従来では、金属の形態で回収するために、酸性溶液を蒸発させたり、沈澱剤等を別途添加して金属塩として析出させる必要があった。しかし本発明によれば、こうした金属イオンの変換工程は不要となる。
また、本発明では、金属錯体から金属種を除去しているため、金属錯体を形成していた錯形成剤が高圧流体中に残る。従って当該錯形成剤を含む高圧流体を上記抽出工程に返送すれば、錯形成剤を再利用できる。
上記高圧流体としては、例えば、二酸化炭素の流体を用いればよく、亜臨界流体、或いは超臨界流体であることが好ましい。二酸化炭素は、8MPa以上に加圧されていることが好ましく、超臨界流体とするには7.1MPa以上、31℃以上とすればよい。特に好ましくは、8〜30MPaに加圧し、35〜100℃に加熱すればよい。
本発明で処理対象とする金属含有物としては、有価金属元素を含有するものであれば特に限定されない。有価金属元素とは、例えば、Co、Ni、Cu、As、貴金属(例えば、Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、Auなど)などが挙げられる。
こうした有価金属元素を含有する金属含有物としては、例えば、廃電子部品(例えば、電気接点やコネクター、IC、コンデンサー、プリント配線板など)、ターゲット、貴金属含有スクラップ、めっき液(廃液を含む)、表面処理した活性炭、レジン、化学工業や食品工業から排出される廃触媒(例えば、自動車排気ガス浄化触媒など)、光学ガラス、液晶ガラス製造装置、研磨・切削くず、バフ粉、装飾品、入れ歯、防腐処理木材(防腐処理した木材はCuやCr、As等の重金属を薬剤成分として含有している)など、が挙げられる。
本発明で用いる錯形成剤は、金属含有物に含まれる有価金属元素を錯体化できる薬剤であれば特に限定されない。錯形成剤としては、例えば、キレート剤やイオン対試薬などが挙げられる。
錯形成剤の具体例としては、Fluka Chemika社製のCyanex(商品名)等[例えば、Cyanex301、Cyanex302、Cyanex272など(いずれも商品名)]や、β−ジケトン類、環式ジエン類などが挙げられる。なお、Cyanex302(商品名)は、下記構造式で示されるBis(2,2,4−trimetylpenthyl)monothiophosphinic acidである。
((CH33C−CH2−CH(CH3)−CH22−P(OH)=S
β−ジケトン類は下記一般式で示され、具体例は下記の通りである。
1−C(=O)−CH2−C(=O)−R2
[R1とR2は、互いに独立して、炭素数1〜8の炭化水素基を示しており、炭化水素基は、一部がハロゲン原子(例えば、フッ素原子)に置換されていてもよい。]
(β−ジケトン類の具体例)
アセチルアセトン(ペンタンジオン)[CH3−C(=O)−CH2−C(=O)−CH3
トリフルオロアセチルアセトン[CH3−C(=O)−CH2−C(=O)−CF3
ヘキサフルオロアセチルアセトン[CF3−C(=O)−CH2−C(=O)−CF3
テトラメチルヘプタンジオン[(CH33C−C(=O)−CH2−C(=O)−C(CH33
ジイソブチリルピバロイルメタン[(CH33C−C(=O)−CH2−C(=O)−CH(CH32
ジイソブチリルメタン[(CH32CH−C(=O)−CH2−C(=O)−CH(CH32
テトラメチルオクタンジオン[(CH33C−C(=O)−CH2−C(=O)−C(CH3)CH2CH3
ベンゾイルアセトン[C65−C(=O)−CH2−C(=O)−CH3
ジベンゾイルメタン[C65−C(=O)−CH2−C(=O)−C65
ヘキサフルオロペンタジオン。
環式ジエン類としては、例えば、シクロペンタジエンやシクロオクタジエンなどを用いることができる。
これらの錯形成剤のなかでも、Cyanex(商品名)等を用いることが好ましい。例えば、アセチルアセトン(β−ジケトン類)の超臨界二酸化炭素流体への溶解度は、おおよそ4×10-4mol/molレベルであるのに対し、Cyanex302(商品名)の超臨界二酸化炭素流体への溶解度は、おおよそ10-2mol/molレベルである。そして金属含有物としてPd含有物を用いてPdを分離回収する場合は、Pd含有物の形状や大きさ、Pd含有量にもよるが、錯形成剤としてアセチルアセトンを用いて形成したPd−アセチルアセトン錯体の超臨界二酸化炭素流体への溶解度は、おおよそ2×10-5〜6×10-5mol/mol程度となるのに対し、錯形成剤としてCyanex302(商品名)を用いて形成したPd−Cyanex302錯体の超臨界二酸化炭素流体への溶解度は、おおよそ10-3mol/molとなる。そのため錯形成剤としてアセチルアセトンを用いるよりも、Cyanex302(商品名)を用いた方が、効率良く金属を分離回収できる。工業的に採算をとって実施するには、超臨界二酸化炭素流体への溶解度が少なくとも10-3mol/molレベルの錯形成剤を用いることが望ましい。
なお、錯形成剤の汎用性を考慮すると、金属の回収効率は多少悪くなるが、錯形成剤としてCyanex(商品名)等よりもβ−ジケトン類を用いるのがよい。β−ジケトン類のなかでも、上記一般式のR1とR2が炭化水素基の場合は、超臨界二酸化炭素流体に対する溶解度が小さいため、この溶解度を高めるために、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)を含有するβ−ジケトン類を用いることが好ましい。ハロゲン原子含有β−ジケトン類は、常圧での沸点が100℃以下のものを用いることが好ましい。
ちなみに、処理対象物とする金属と錯形成剤が金属錯体を形成するときの反応式は、例えば、金属をPd、錯形成剤をL、酸化剤をOxとすると、下記(a)式または(b)式で示される。下記反応式中、( )内の数字は、価数を示している。
(a) Pd (0)+2H−L → Pd(II)2+H2
(b) Pd(0)+Ox (n) → Pd2+(II)+Ox(n-2)
Pd2+(II)+2H−L → Pd(II)2+2H+
例えば、錯形成剤Lとして、Cyanex302(商品名)を用いたときの反応式は、次の通りである。
Pd+2X2P(OH)=S → Pd[X2P(O)=S]2+H2
上記反応式では、Cyanex302(商品名)をX2P(OH)=Sで示している。Xは、「(CH33C−CH2−CH(CH3)−CH22−」である。
本発明で用いる還元剤は、錯体中の金属種を原子価が0の金属に変化させる作用を有する薬剤であれば特に限定されない。
上記還元剤の形態は特に限定されず、液体であってもよいし、気体であってもよい。還元剤が固体の場合は、固体還元剤を水に溶解して水溶液とすればよい。
上記還元剤は、酸性溶液に溶解した状態であってもよい。酸性溶液を用いると、酸が錯形成剤への水素供与源として作用する。酸としては、HClやHNO3などが挙げられる。
上記還元剤は、(1)有機系流体、(2)異なる価数を有する金属イオン、(3)還元性ガス、(4)活性な金属、(5)ヒドリドイオン化合物、(6)硫黄系イオンなどに大別できる。
(1)有機系流体
アルコール類:メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、n−ヘキサノール、i−ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノールなど。
アルデヒド類:ホルマリン、アセトアルデヒド、エナントアルデヒド(ヘプタナール)など。カルボン酸類:蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンテン酸(CH2=CHCH2CH2COOH)など。多価カルボン酸:シュウ酸など。ヒドロキシ酸:乳酸、グリセリン酸、酒石酸(ジヒドロキシコハク酸)、クエン酸、グリコール酸など。その他:アスコルビン酸(ビタミンC)など。
(2)異なる価数を持つ金属イオン
鉄、スズ、コバルト、チタン、クロム、セリウム、銅などのイオンを含有する水溶液を還元剤として用いることができる。
(3)還元性ガス
水素、一酸化炭素など。
(4)活性な金属
マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛など。
(5)ヒドリドイオン化合物
水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN)、水素化トリエチルホウ素リチウム[LiBH(C253]、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素リチウム[LiBH(sec−C493]、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素カリウム[KBH(sec−C493]、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素亜鉛、アセトキシ水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、ジボラン(B26)、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化トリブチルスズ[(n−C49)3SnH]。
(6)硫黄系イオン
硫化物イオン(例えば、硫化ナトリウム等)、硫化水素、チオ硫酸イオン(S23 2-)、次亜硫酸(S24 2-)、二亜硫酸イオン(S25 2-)、亜硫酸イオン(SO3 2-)などのイオンを含有する水溶液を還元剤として用いることができる。
ちなみに、金属錯体を還元するときの反応式は、例えば、金属錯体中の金属種をPd、錯形成剤をL、還元剤をZとすると、下記(c)式で示される。下記反応式中、( )内の数字は、価数を示している。
(c) Pd(II)2+Z(m) → Pd(0)↓+Z(m+2)+2L-
例えば、錯形成剤LとしてCyanex302(商品名)を用い、各種還元剤を用いたときの反応式は、次の通りである。下記反応式ではCyanex302(商品名)をX2P(OH)=Sで示している。Xは、「(CH33C−CH2−CH(CH3)−CH22−」である。
(還元剤Zとしてエタノールを用いた場合)
Pd[X2P(O)=S]2+CH3CH2OH → Pd↓+2[X2P(OH)=S]+CH3CHO
(還元剤Zとしてホルマリンを用いた場合)
Pd[X2P(O)=S]2+HCHO+2OH- → Pd↓+2[X2P(OH)=S]+H2CO3
(還元剤Zとして蟻酸を用いた場合)
Pd[X2P(O)=S]2+HCOOH → Pd↓+2[X2P(OH)=S]+CO2
(還元剤ZとしてFe2+を含有する水溶液を用いた場合)
Pd[X2P(O)=S]2+2FeCl2+2HCl → Pd↓+2[X2P(OH)=S]+2FeCl3
なお、上記式中、HClは、還元剤としては作用せず、錯形成剤の水素供与源としてのみ作用する。
(還元剤ZとしてCo2+を含有する水溶液を用いた場合)
Pd[X2P(O)=S]2+2Co(NO32+2HNO3 → Pd↓+2[X2P(OH)=S]+2Co(NO33
なお、上記式中、HNO3は、還元剤としては作用せず、錯形成剤の水素供与源としてのみ作用する。
(還元剤ZとしてTi3+を含有する水溶液を用いた場合)
Pd[X2P(O)=S]2+2TiCl3+2HCl → Pd↓+2[X2P(OH)=S]+2TiCl4
なお、上記式中、HClは、還元剤としては作用せず、錯形成剤の水素供与源としてのみ作用する。
(還元剤Zとして水素ガスを用いた場合)
Pd[X2P(O)=S]2+H2 → Pd↓+2[X2P(OH)=S]
(還元剤Zとして一酸化炭素ガスを用いた場合)
Pd[X2P(O)=S]2+CO+H2CO3 → Pd↓+2[X2P(OH)=S]+2CO2
上記還元剤Zとしては、還元後の生成物として、二酸化炭素を副生する蟻酸や一酸化炭素、或いは副生物を生成しない水素を用いることが好ましい。後工程での生成物の処理や金属種の回収が容易になるためである。
次に、本発明の金属回収方法を実施するための装置について、図面を用いて具体的に説明する。但し、下記図面は、本発明の金属回収装置を限定するものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で変更することは許容される。
図1は、本発明の金属回収装置の一構成例を示している。図1中、11は金属含有物に錯形成剤を含む高圧流体を接触させるための処理容器、12は金属錯体を含む高圧流体に還元剤21を接触させるための分離容器を示している。なお、処理容器11と分離容器12は、それぞれ加熱手段(例えば、ヒータ)などを備えていてもよい。
処理容器11と分離容器12は、処理容器11から排出される高圧流体を分離容器12へ供給するための経路13と、分離容器12から排出される高圧流体を処理容器11へ返送するための経路14で接続されている。経路13上(図1では、処理容器11の出口近傍)には弁17が設けられており、処理容器11から排出される高圧流体の流量を調整できる。経路14上には、循環ポンプ15が設けられており、高圧流体が系内を循環するように構成されている。循環ポンプ15と処理容器11の間(図1では、処理容器11の入口近傍)には、弁16が設けられており、処理容器11内へ流入する高圧流体の流量を調整できる。
次に、図1に示した金属回収装置を用いて金属を回収する手順について説明する。まず、処理対象とする金属含有物を処理容器11に装入し、蓋を閉めて処理容器11を密封する。金属含有物は、金属の回収を簡便にするために、ある程度の大きさに粉砕しておくことが好ましい。
処理容器11を密封した後、錯形成剤を含む高圧流体を供給する手段(図示せず)から高圧流体を供給する。錯形成剤を含む高圧流体は、高圧流体貯留タンク(図示せず)から供給される高圧流体と、錯形成剤貯留タンク(図示せず)から供給される錯形成剤を予め混合して調製し、これを必要に応じて加圧してから処理容器11へ供給してもよいし、或いは、高圧流体貯留タンクから高圧流体を、錯形成剤貯留タンクから錯形成剤を処理容器11へ夫々別々に供給し、処理容器11内で高圧流体と錯形成剤を混合し、必要に応じて加圧してもよい。また、錯形成剤を含む高圧流体として、分離容器12から排出される高圧流体を用いる場合は、図1に示した弁16を開けることで、錯形成剤を含む高圧流体を処理容器11へ供給することができる。このとき必要に応じて、錯形成剤のみを処理容器11へ供給して錯形成剤の濃度を調整すればよい。
処理容器11に供給された錯形成剤を含む高圧流体は、金属含有物と接触し、該金属含有物に含まれる金属種が錯形成剤と反応して金属錯体を形成する。形成した金属錯体は、高圧流体に溶解する。
高圧流体全体に占める錯形成剤の濃度は、錯形成剤の種類にもよるが、処理容器11内においては、例えば、0.05〜15質量%程度とすればよい。錯形成剤が0.05質量%を下回ると、金属含有物中の金属種を充分に錯体化できず、金属の回収が難くなる。しかし、錯形成剤を15質量%を超えて含有させてもその効果は飽和し、またコスト高となる。
処理容器11へ供給する高圧流体は、錯形成剤の他に、例えば、有機系流体等の高圧流体への溶解性を補助するエントレーナ(モディフィア)などを含有していてもよい。また、処理容器11へ供給する高圧流体には、還元剤が含まれていても良いが、還元剤を含む場合は、処理容器11内の温度を適切に制御し、処理容器11内では還元剤の還元作用を発揮させないように調整する必要がある。高圧流体が還元剤を含む場合については、後ほど詳述する。
上記処理容器11では、金属含有物に錯形成剤を含む高圧流体を接触させて金属錯体を形成するに先立って、前処理として、金属含有物に錯形成剤のみを接触させて金属含有物から大半の金属を予め抽出してもよい。即ち、金属含有物に錯形成剤のみを接触させて金属含有物の主に表面の金属を金属錯体へと変換させた後、錯形成剤を含む高圧流体と接触させることによって金属含有物の主に内部の金属を金属錯体化して、これらを表面に拡散させて高圧流体中に抽出する。高圧流体は錯形成剤と比べて粘性が低く、拡散速度が速いため、金属錯体の拡散を促進する作用を発揮する。
また、金属含有物に錯形成剤を含む高圧流体を接触させた後には、高圧流体のみを接触させて金属含有物を洗浄し、金属含有物から抽出できていなかった金属錯体を抽出してもよい。
金属含有物に錯形成剤を含む高圧流体を接触させて金属錯体を形成した後は、弁17を開けて金属錯体を随伴させた高圧流体を分離容器12へ供給する。分離容器12では、処理容器11から導入された高圧流体と、錯体中の金属種を原子価が0の金属に変化させる還元剤21を接触させることによって、金属錯体を構成する金属種が還元され、金属の形態で析出してくる。即ち、本発明の金属回収方法によれば、回収対象とする金属を、金属イオンの形態ではなく、金属の形態で回収できるため、簡単に金属を回収できる。
また、処理容器11と分離容器12を結ぶ経路13や14、循環ポンプ15、弁16や17等による多少の圧損はあるものの、本発明の金属回収方法によれば、処理容器11内での処理と分離容器12内での処理をほぼ同じ圧力で行うことができるため、加圧と減圧を繰り返す必要がない。しかも本発明の金属回収方法によれば、金属錯体から金属種を回収する際も高圧流体を相変化させる必要が無いため、高圧流体をガス化したり、加圧して高圧流体化するためのエネルギーが不要となり、省エネ化できる。
上記還元剤は、高圧流体を処理容器11から分離容器12に供給する前に、予め分離容器12内に充填しておけばよいが、高圧流体を処理容器11から分離容器12に供給した後に、還元剤貯留タンク(図示せず)から還元剤を分離容器12へ供給してもよい。
高圧流体として二酸化炭素流体を用い、還元剤としてエタノール等のアルコール類を用いると、二酸化炭素流体とアルコール類の親和性は良好であるため、15MPa以上に加圧すれば、ほぼ完全に相溶できる。
上記分離容器12内または経路14内に、高圧流体から分離した金属を回収するためにフィルターを設けてもよい。フィルターの種類は、金属を随伴させた高圧流体から金属を濾別できるものであればよく、高圧状態でも濾過作用を損なわないものであればよい。
上記分離容器12内には、加熱部材を設け、高圧流体から分離した金属を該加熱部材の表面に析出させてもよい。加熱部材の素材は特に限定されず、例えば、シリコンや金属などが挙げられる。加熱部材の形態も特に限定されず、例えば、板状や筒状、球状などが挙げられる。加熱部材は、予めヒータ等で加熱した部材(例えば、シリコン基板や金属基板など)を分離容器12内に設置してもよいし、加熱部材自体にヒータを設けて温度制御できるように構成してもよい。
分離容器12内に加熱部材を設ける場合は、系内における高圧流体の温度を制御するために、分離容器12と処理容器11を結ぶ経路14上に、冷却装置を設けることが好ましい。冷却装置の形態は特に限定されず、経路14を構成する配管の周囲に冷媒を循環させて高圧流体の温度を調整する機構が挙げられる。経路14を構成する配管に対して熱交換器を設けて不要な熱を回収してもよい。
上記分離容器12内の圧力を上記処理容器11内の圧力よりも低くすることによって、分離容器12内で高圧流体に含まれる過剰な錯形成剤を分離回収してもよい。即ち、分離容器12内での高圧流体の圧力を処理容器11内での高圧流体の圧力よりも低くすることで、錯形成剤の高圧流体に対する溶解度が小さくなる。そのため高圧流体に溶解していた過剰な錯形成剤(つまり、金属錯体を形成していない錯形成剤)が分離容器12内に残留する。このとき錯形成剤と、分離容器12内に充填されている還元剤は、一般に相溶作用が無いため、錯形成剤と還元剤は液液分離できる。
この場合の上記分離容器12内の圧力は、例えば、1MPa以上、用いる高圧流体の臨界圧力以下とすればよい。
減圧された高圧流体(例えば、二酸化炭素ガス)は、分離容器12から排出され、図示しない加圧手段で高圧流体に加圧された後、処理容器11へ供給される。
分離容器12内での高圧流体の圧力を処理容器11内での高圧流体の圧力よりも低くするための手段は特に限定されないが、例えば、経路13上に減圧バルブを設ければよい。
分離容器12内での高圧流体の圧力と、処理容器11内での高圧流体の圧力を変化させる場合は、分離容器12内の温度を高圧流体の沸点以上の温度(例えば、二酸化炭素の場合は、40〜60℃)とすればよい。
但し、分離容器12内の温度は、錯形成剤の沸点以上とするのが好ましい。錯形成剤をガス化することで、脱錯体化した金属との分離回収が容易になる。
図1では、分離容器12を1個設けた例について説明したが、分離容器12の数は1個に限定されず、2個以上であってもよい。分離容器12を2個設けたときの構成例を図2に示す。図2では、図1と重複する部分には同じ符号を付した。
図2に示すように、分離容器を2個(12aと12b)設け、処理容器11から排出された金属錯体を含む高圧流体を一旦分離容器12aへ装入する。このとき処理容器11と分離容器12aを結ぶ経路13a上に減圧バルブ18を設け、分離容器12a内の圧力を処理容器11内の圧力よりも低くすることによって、該分離容器12a内で高圧流体と、高圧流体に溶解している金属錯体や、高圧流体に過剰に溶解している錯形成剤を相分離することができる。分離容器12a内の圧力を処理容器11内の圧力よりも低くすることによって、高圧流体に対する金属錯体や錯形成剤の溶解度が小さくなるため、過飽和となった金属錯体や錯形成剤を高圧流体から分離できる。このように分離容器12bへ金属錯体含有高圧流体を供給する前に、予め分離容器12a内で高圧流体を除去しておくことで、分離容器12bへ供給される流量が少なくなり、分離容器12b内における金属錯体と還元剤の接触が効率良く行われる。なお、相分離された高圧流体は、経路14aを経て処理容器11へ返送し、再利用すればよい。
処理容器11内の圧力は、用いる高圧流体の臨界圧力以上に設定することが好ましく、分離容器12a内の圧力は、用いる高圧流体の臨界圧力以上、処理容器11内の圧力未満とすることが好ましい。分離容器12a内の圧力を、用いる高圧流体の臨界圧力以上とすることで、高圧流体の圧力損失を低減でき、エネルギー効率が高くなる。
相分離した金属錯体や錯形成剤は、経路13bを通して分離容器12bへ供給され、該分離容器12b内で上記還元剤を接触させることによって、上記図1と同様に、金属錯体に含まれる金属種を還元し、金属の形態で析出させて該金属を前記高圧流体から分離回収すればよい。
また、相分離した金属錯体や錯形成剤は、分離容器12aから直接系外へ排出し、錯形成剤と、金属錯体を構成している金属とを分離してもよい。
分離容器12a内の圧力を処理容器11内の圧力よりも低くする際には、分離容器12a内の温度を処理容器11内の温度よりも高くすることが好ましい。分離容器12a内を処理容器11と比べて相対的に高温にすることで、金属錯体の高圧流体への溶解度を低減できるからである。即ち、分離容器12a内の温度を高めることで、密度が更に小さくなるため、分離を一層効果的に行うことができる。分離容器12a内の温度を処理容器11内の温度よりも高くするには、処理容器11と分離容器12aを結ぶ経路13a上に、加熱装置19を設ければよい。なお、加熱装置19で加熱した高圧流体を経路14aや経路14bから処理容器11へ返送すると、処理容器11内の温度も高くなるため、経路14aや経路14b上に冷却装置20を設ける必要がある。
例えば、高圧流体として超臨界二酸化炭素流体を用いる場合は、処理容器11内は20MPa、60℃(CO2密度は720kg/m3)とし、分離容器12a内は15MPa、85℃(CO2密度は400kg/m3)とすればよい。
金属錯体に含まれる金属種を還元した後の還元剤は、分離容器12(図2では、分離容器12b)から取り出し、再生した後、分離容器12(図2では、分離容器12b)へ返送して再利用すればよい。
一方、金属種を解放した錯形成剤は、高圧流体に溶解したまま分離容器12(図2では、分離容器12b)から排出され、循環ポンプ15を動作させることによって経路14(図2では、経路14b)を通って処理容器11へ返送される。
このとき、高圧流体には水(例えば、還元剤由来の水)が数%溶解していることがあるため、該水に還元剤が溶解し、高圧流体と共に系内を循環する場合がある。こうした場合は、処理容器11内に還元剤が混入して金属錯体形成を阻害するのを防止するために、経路14上に還元剤等を除去するための手段を設けることが好ましい。還元剤を除去するための手段としては、吸着塔、熱交換器、液液抽出塔等が挙げられ、これらの手段によって、還元剤、或いはそれの付随する水等の成分を予め除去すればよい。
経路14上に還元剤を除去するための手段を設けない場合は、処理容器11内に還元剤が混入して金属錯体の形成を阻害するのを防止するために、処理容器11内の温度を制御することが望ましい。即ち、還元剤が還元作用を発揮する温度域は、個々の還元剤の種類によって決まっているため、分離容器12内における高圧流体の温度を、錯形成剤は錯体形成作用を発揮するが、還元剤は還元作用を発揮しない温度域に制御すればよい。
高圧流体の温度を制御するには、例えば、経路14上に冷却装置を設ければよく、分離容器12から排出された高圧流体を冷却することによって、処理容器11内で還元剤が還元作用を発揮しない温度域に調整すればよい。なお、処理容器11内で形成された金属錯体を含む高圧流体を還元剤の還元作用が抑えられた低温の状態で分離容器12へ供給すると、分離容器12内でも還元剤が還元作用を発揮しなくなるため、金属錯体に含まれる金属種を分離回収できない。そこで分離容器12から処理容器11へ返送する高圧流体を冷却した場合は、処理容器11と分離容器12を結ぶ経路13上に加熱装置を設けることによって、分離容器12内で還元剤が還元作用を発揮するように制御する必要がある。
処理容器11内における高圧流体の温度と分離容器12内における高圧流体の温度は、用いる還元剤の種類によるため一律に規定することができないが、還元剤としてアルコール類を用いる場合は、処理容器11内の温度を60℃以下(40℃前後)、分離容器12内の温度を70℃以上(80℃前後)に設定すればよい。
上記図1や図2では、処理容器11を1個設けた例について説明したが、処理容器11の数は1個に限定されず、2個以上設けてもよい。処理容器11を2個設けたときの金属回収装置の構成例を図3に示す。図3では、図1と重複する部分には同じ符号を付した。
図3では、処理容器を2個(処理容器11aと11b)設けており、処理容器と分離容器21を接続する経路13上には、処理容器11aの出口近傍に弁17aが、処理容器11bの出口近傍に弁17bが設けられており、弁17aと弁17bの開閉度合いを制御することによって、処理容器11aまたは11bから排出される高圧流体の流量を調整することができる。
また、分離容器21と処理容器を接続する経路14上には、処理容器11aの入口近傍に弁16aが、処理容器11bの入口近傍に弁16bが設けられており、弁16aと弁16bの開閉度合いを制御することによって、分離容器21から処理容器11aまたは11bに返送される高圧流体の流量を調整することができる。
図3に示すように処理容器を複数設けると、処理効率を高めることができる。即ち、処理容器11aを用いて金属含有物から金属を抽出している間は、弁16bと弁17bを閉じ、処理容器11bの蓋を開けて処理対象とする金属含有物を入れ替える。金属含有物の入れ替えが終わったら、弁16bを開き、金属の抽出を行う一方で、弁16aと弁17bを閉じて金属を抽出した後の処理対象物を処理容器11aから取り出す。このように処理容器を2個設けることによって、金属の抽出・分離・回収を連続的に行うことができ、処理効率が高くなる。金属の抽出・分離・回収を連続的に行うことができると、高圧流体の圧力損失が小さくなるため、エネルギー効率も良好となる。
図1は、本発明の金属回収装置の一構成例を示した概略説明図である。 図2は、本発明の金属回収装置の他の構成例を示した概略説明図であり、分離容器を2個設けた例を示している。 図3は、本発明の金属回収装置の他の構成例を示した概略説明図であり、処理容器を2個設けた例を示している。
符号の説明
11 処理容器
12 分離容器
13,14 経路
15 循環ポンプ
16,17 弁
18 減圧バルブ
19 加熱装置
20 冷却装置

Claims (4)

  1. 金属含有物から金属を回収する方法であって、
    前記金属含有物に錯形成剤を含む高圧流体を接触させることによって金属錯体を形成し、前記金属含有物中の金属を金属錯体の形態で前記高圧流体中に抽出する工程と、
    金属錯体を含む高圧流体に錯体中の金属種を原子価が0の金属に変化させる還元剤を接触させることによって前記金属錯体に含まれる金属種を還元し、金属の形態で析出させて該金属を前記高圧流体から分離回収する工程、
    を含むことを特徴とする金属含有物から金属を回収する方法。
  2. 前記金属を分離回収した後の高圧流体を、前記抽出する工程に返送する請求項1に記載の金属回収方法。
  3. 請求項1または2に記載の回収方法を実施するための装置であって、
    該装置は、金属含有物に錯形成剤を含む高圧流体を接触させるための処理容器と、金属錯体を含む高圧流体に還元剤を接触させるための分離容器を備えており、前記処理容器には錯形成剤を含む高圧流体を供給する手段、前記分離容器には還元剤を供給する手段が夫々設けられていることを特徴とする金属含有物から金属を回収する装置。
  4. 前記分離容器から排出された高圧流体を前記処理容器へ返送する手段が更に設けられている請求項3に記載の金属回収装置。
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