JP2009046413A - N−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質 - Google Patents
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Abstract
【課題】血管傷害部位の平滑筋細胞、心筋細胞や骨格筋芽細胞に存在するN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質、その部位へこのタンパク質を介して特異的に薬物を輸送でき簡便に製造できる薬剤および薬物輸送剤を提供する。
【解決手段】N−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質は、摘出された心筋細胞又は血管平滑筋細胞からタンパク質群を溶解させて抽出し、その中からN−アセチルグルコサミン糖鎖基を含有する物質に結合し得るタンパク質を分離精製したものである。薬剤は、N−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質に結合するN−アセチルグルコサミン類を含有する。薬物輸送剤は、N−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質に結合するN−アセチルグルコサミン類が、コロイド粒子の表面から露出されたものである。
【選択図】なし
【解決手段】N−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質は、摘出された心筋細胞又は血管平滑筋細胞からタンパク質群を溶解させて抽出し、その中からN−アセチルグルコサミン糖鎖基を含有する物質に結合し得るタンパク質を分離精製したものである。薬剤は、N−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質に結合するN−アセチルグルコサミン類を含有する。薬物輸送剤は、N−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質に結合するN−アセチルグルコサミン類が、コロイド粒子の表面から露出されたものである。
【選択図】なし
Description
本発明は、虚血等により傷害を受けた心筋細胞や血管平滑筋細胞等の中に存在するN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質、およびこのタンパク質に特異的に結合する薬物輸送剤に関するものである。
動脈硬化や血栓形成により冠状動脈血管が狭窄している虚血性心疾患の患者に、血管へバルーンやステントを挿入して狭窄部位を押し広げるインターベーション治療が施される。
その際にバルーンやステントが狭窄部分で擦れ血管内皮細胞を剥離させて、傷害を与えてしまう。その結果、血管で炎症を引き起こしたり、その傷害部位の内皮下にある平滑筋細胞や心筋細胞の異常な増殖による内膜肥厚や新たな血栓形成を引き起こして血管を再び狭窄させたりする。そのため、抗炎症や肥厚防止や血栓防止等のための薬物の徐放性製剤が塗布されたコイルを、この部位に挿入して、再狭窄等を防止するという、煩雑で患者の負担の大きな処置を施さなければならない。
このような治療の際に心臓や血管の傷害部位へ特異的にこれらの薬物を輸送させることができる簡便なシステムが望まれている。薬物輸送システムとして、非特許文献1に、糖鎖導入ドラッグデリバリー材料であるネオ糖タンパク質とリポソームとの複合体が記載され、また非特許文献2に、肝細胞に特異的な遺伝子輸送剤であるポリエチレンイミンとアラビノガラクタンとの複合体が記載されている。しかし、これらは心臓や血管の傷害部位との特異的結合性がない。
虚血性心疾患の診断や治療の方法や薬剤の開発、発症メカニズムの研究を行うために、心臓や血管の傷害部位に特異的に結合する薬物輸送剤が望まれていた。
Noboru Yamazaki, Yoshifumi Jigami, Hans-Joachim Gabius, and ShujiKojima, Trends in Glycoscience and Glycotechnology, Vol.13, No.71, pp.319-329(May 2001)
M.Nogawa, T.Ishihara, T.Akaike,and A.Maruyama, S.T.P.Pharma Sciences,Vol.11, No.1, pp97-102 (2001)
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、血管傷害部位の平滑筋細胞や心筋細胞や骨格筋芽細胞に存在するN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質、その部位へこのタンパク質を介して特異的に薬物や遺伝子を輸送でき、簡便に効率よく製造できる薬剤および薬物輸送剤を提供することを目的とする。
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質は、摘出された心筋細胞又は血管平滑筋細胞からタンパク質群を溶解させて抽出し、その中からN−アセチルグルコサミン糖鎖基を含有する物質に結合し得るタンパク質を分離精製したものである。
このタンパク質は、この内皮細胞が剥離された血管傷害部位の内皮下で増殖している平滑筋細胞、心筋細胞、骨格筋芽細胞(C2C12)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、cos細胞に存在する。
このタンパク質は、あたかも鍵穴に鍵が嵌まるように、N−アセチルグルコサミン糖鎖基を認識して相互作用し、水素結合等により結合する。
請求項2に記載のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質は、該物質を、N−アセチルグルコサミン糖鎖化合物、N−アセチルグルコサミン糖鎖基含有樹脂化合物および/またはN−アセチルグルコサミン糖鎖基含有ビオチン化合物とするものであることを特徴とする。
請求項3に記載のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質は、界面活性剤及び/又は尿素を含む緩衝液により該抽出がなされたことを特徴とする。
このタンパク質が含まれる細胞は、ヒトや、ラットのような非ヒト哺乳類から摘出され、必要に応じ培養されたものであることが好ましい。
このタンパク質が含まれる細胞は、摘出されたりさらに培養されたりした心筋細胞又は血管平滑筋細胞を擂り潰したものであることが好ましい。
また、この細胞は、N−アセチルグルコサミン糖鎖基を含有する樹脂化合物が含まれた培地で予め培養されたものであってもよい。この樹脂化合物は、糖鎖基を介して前記タンパク質へ相互作用して結合する結果、生成した複合タンパク質を有する細胞のみが培地に粘着する。それ以外の細胞は、洗浄によって培地から除去される。また、細胞の培養によって、細胞中のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質も増加するので、純粋なこのタンパク質を、大量かつ簡便に得ることができるようになる。
前記のN−アセチルグルコサミン糖鎖基は、N−アセチルグルコサミン基や、それが2個結合したキトビオース基が挙げられる。
界面活性剤は、例えば非イオン性界面活性剤、より具体的にはTriton X−100(Aldrich社製;登録商標)、NP−40(株式会社同人化学研究所製;商品名)が挙げられる。界面活性剤は、例えばイオン性界面活性剤であってもよく、より具体的にはドデシル硫酸ナトリウムが挙げられる。
請求項4に記載のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質は、電気泳動により、該分離精製がなされたことを特徴とする。
単離されたN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質の分子量は、約52〜53kダルトン(Da)である。
請求項5に記載のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質は、デスミン及び/又はビメンチンであることを特徴とする。
同じく前記の目的を達成するためになされた請求項6に記載の薬剤は、請求項1に記載のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質に結合するN−アセチルグルコサミン類を含有することを特徴とする。
同じく前記の目的を達成するためになされた請求項7に記載の薬物輸送剤は、請求項1に記載の該N−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質に結合するN−アセチルグルコサミン類が、コロイド粒子の表面から露出されていることを特徴とする。
この薬物輸送剤は、それに含まれるN−アセチルグルコサミン類と、心筋細胞や平滑筋細胞等に存在するN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質とが、相互作用して水素結合等により結合する結果、これらの細胞に特異的に集積される。しかし、このタンパク質は、例えばラット肝細胞に存在しないので、この薬物輸送剤はこの肝細胞に集積されない。
請求項8に記載の薬物輸送剤は、該コロイド粒子が、生体分解性樹脂粒子、合成樹脂粒子、またはリポソームであることを特徴とする。
薬物輸送剤は、このコロイド粒子を0.5〜2.0%含有していることが好ましい。
コロイド粒子は、粒子径5〜500nmのいわゆるナノ粒子であることが好ましい。5nm未満であると、生体中で速やかに排泄されてしまい、一方500nmを超えると生体中の異物として排除されてしまう。約200nmであると、特に血管傷害部位の細胞間に生じた間隙や血管内で露出した平滑筋細胞に取り込まれ易い。
生体分解性樹脂粒子は、例えば懸濁させたポリ乳酸粒子が挙げられる。合成樹脂粒子は、平均粒径約200nmのポリスチレンビーズが挙げられる。リポソームは、例えば脂肪やリン脂質でできた直径50〜800nm、好ましくは200〜400のものが挙げられる。
請求項9に記載の薬物輸送剤は、該コロイド粒子中に、蛍光剤、造影剤または治療剤が含有されていることを特徴とする。
例えば薬物輸送剤は、投与されると、血液循環により血管傷害部位に到達する。すると薬物輸送剤が有するN−アセチルグルコサミン類と、血管傷害部位に露出した血管平滑筋細胞中のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質とが相互作用して引き寄せあい、この細胞に付着したり侵入したりする。その後、蛍光剤、造影剤または治療剤が薬物輸送剤のコロイド粒子表面から滲出して放出され、細胞に吸収され、蛍光させたり造影させたり薬効を発現したりする。
蛍光剤は、例えばフロオロセイン イソチオシアネート(FITC)、生細胞染色用色素Calcein−AM(株式会社同人化学研究所製;商品名)が挙げられる。造影剤は、例えば核磁気共鳴画像診断用ガドリニウム化合物が挙げられる。治療剤は、例えば血管内皮細胞増殖促進剤、血管平滑筋細胞増殖抑制剤、抗炎症剤、抗癌剤、抗リウマチ剤が挙げられる。
請求項10に記載の薬物輸送剤は、該N−アセチルグルコサミン類が、N−アセチルグルコサミンまたはキトビオースであることを特徴とする。
本発明のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質は、心筋細胞、平滑筋細胞、骨格筋芽細胞等に特異的に存在する。とりわけ心筋細胞や血管平滑筋細胞は心臓血管疾患患者の炎症や再生に深く関わっているから、このようなタンパク質は、薬物輸送に重要な役割を果たすものである。
本発明の薬剤や薬物輸送剤は、N−アセチルグルコサミン基を有しているので、このタンパク質を有する細胞へ選択的に集積させることができる。そのため、血管傷害部位、感染症や悪性腫瘍や動脈硬化やリウマチ等の血管病変部位、細胞再生部位へ集中的に薬物を到達させたり遺伝子を導入させたりすることができ、薬効の増強や、副作用の軽減を図ることができる。またこの薬剤や薬物輸送剤は徐放性を有するので、薬効を長期間持続させることができる。さらにこの薬剤や薬物輸送剤は、生体が元来有しているN−アセチルグルコサミン基を含むものであるから生体適合性が高く安全である。
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
先ず、心筋細胞又は平滑筋細胞中に、N−アセチルグルコサミン糖鎖を特異的に認識するレクチン様分子が存在するか否かについて、糖鎖ポリマーでコーティングした培養皿と心筋細胞又は平滑筋細胞との接着をMTTアッセイ試験によって、検討した。試験は4℃で、非特異的な結合を抑制しながら行なった。
(試験例1)
(1) 糖鎖ポリマーであるN−アセチルグルコサミン糖鎖基含有樹脂化合物として、キトビオースがN−アセチルグルコサミン末端で結合したビニル系樹脂PV−GlcNAc(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-O-2-アセトアミト゛-2-テ゛オキシ-β-D-ク゛ルコヒ゜ラノシル-(1→4)-2-アセトアミト゛-2-テ゛オキシ-β-D-ク゛ルコンアミト゛])(生化学工業株式会社製;商品名)を用いた。これの100μg/mLを培地96穴プレート(グライナー社製;商品名)にコートし、その上にラット血管平滑筋細胞またはラット胎仔心筋細胞を播種し、4℃で60分間インキュベーションを行なった。この樹脂と、それのキトビオース基を介してN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質とが結合する結果、このタンパク質を有する細胞が、培地に接着した。この培地を生理食塩水またはリン酸緩衝液で洗浄すると、このタンパク質を有しないために培地に接着できなかった細胞が取り除かれた。この培地をテトラゾリウム塩で染色し、イソプロパノールで過剰の色素を溶出させて脱色すると、生細胞が黄色から青色へ着色された。それの吸光度を570nmで測定したところ、図1のa)ラット心筋細胞及びb)ラット血管平滑筋細胞のグラフで示すように極めて高い値を示し、PV−GlcNAcが、心筋細胞および血管平滑筋細胞のタンパク質に結合していると確認できた。
(試験例1)
(1) 糖鎖ポリマーであるN−アセチルグルコサミン糖鎖基含有樹脂化合物として、キトビオースがN−アセチルグルコサミン末端で結合したビニル系樹脂PV−GlcNAc(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-O-2-アセトアミト゛-2-テ゛オキシ-β-D-ク゛ルコヒ゜ラノシル-(1→4)-2-アセトアミト゛-2-テ゛オキシ-β-D-ク゛ルコンアミト゛])(生化学工業株式会社製;商品名)を用いた。これの100μg/mLを培地96穴プレート(グライナー社製;商品名)にコートし、その上にラット血管平滑筋細胞またはラット胎仔心筋細胞を播種し、4℃で60分間インキュベーションを行なった。この樹脂と、それのキトビオース基を介してN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質とが結合する結果、このタンパク質を有する細胞が、培地に接着した。この培地を生理食塩水またはリン酸緩衝液で洗浄すると、このタンパク質を有しないために培地に接着できなかった細胞が取り除かれた。この培地をテトラゾリウム塩で染色し、イソプロパノールで過剰の色素を溶出させて脱色すると、生細胞が黄色から青色へ着色された。それの吸光度を570nmで測定したところ、図1のa)ラット心筋細胞及びb)ラット血管平滑筋細胞のグラフで示すように極めて高い値を示し、PV−GlcNAcが、心筋細胞および血管平滑筋細胞のタンパク質に結合していると確認できた。
(2) 試験例1(1)の糖鎖ポリマーPV−GlcNAcに代えて、
ラクトースがガラクトース末端で結合したビニル系樹脂PV−LA(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-O-β-D-カ゛ラクトヒ゜ラノシル-(1→4)-D-ク゛ルコンアミト゛])、
マンノビオースがマンノース末端で結合したビニル系樹脂PV−Man(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-O-β-D-マンノヒ゜ラノシル]-(1→4)-D-マンナミト゛)、
カルボキシル化ラクトースが結合したビニル系樹脂PV−LACOOH(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-6-O-カルホ゛キシメチル-6'-O-カルホ゛キシメチル-O-β-D-カ゛ラクトヒ゜ラノシル-(1→4)-D-ク゛ルコンアミト゛])、
グルコースが結合したビニル系樹脂PV−G(ホ゜リ 3-O-4'-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-D-ク゛ルコース)、
マルトースがグルコース末端で結合したビニル系樹脂PV−MA(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-O-α-D-ク゛ルコヒ゜ラノシル-(1→4)-D-ク゛ルコンアミト゛])、
ラミナリビオースがグルコース末端で結合したビニル系樹脂PV−Lam(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-O-α-D-ク゛ルコヒ゜ラノシル-(1→3)-D-ク゛ルコンアミト゛])、
メリビオースがガラクトース末端で結合したビニル系樹脂PV−MEA(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-O-α-D-カ゛ラクトヒ゜ラノシル-(1→6)-D-ク゛ルコンアミト゛])、
セロビオースがグルコース末端で結合したビニル系樹脂PV−CA、
開環グルコースが結合したビニル系樹脂PV−GA(いずれも生化学工業株式会社製;商品名)、
対照であるコラーゲン及びウシ血清アルブミン(BSA)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして、吸光度を測定したところ、図1に示すように、いずれも極めて低い値を示し細胞中のタンパク質に結合していないことが確認された。
ラクトースがガラクトース末端で結合したビニル系樹脂PV−LA(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-O-β-D-カ゛ラクトヒ゜ラノシル-(1→4)-D-ク゛ルコンアミト゛])、
マンノビオースがマンノース末端で結合したビニル系樹脂PV−Man(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-O-β-D-マンノヒ゜ラノシル]-(1→4)-D-マンナミト゛)、
カルボキシル化ラクトースが結合したビニル系樹脂PV−LACOOH(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-6-O-カルホ゛キシメチル-6'-O-カルホ゛キシメチル-O-β-D-カ゛ラクトヒ゜ラノシル-(1→4)-D-ク゛ルコンアミト゛])、
グルコースが結合したビニル系樹脂PV−G(ホ゜リ 3-O-4'-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-D-ク゛ルコース)、
マルトースがグルコース末端で結合したビニル系樹脂PV−MA(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-O-α-D-ク゛ルコヒ゜ラノシル-(1→4)-D-ク゛ルコンアミト゛])、
ラミナリビオースがグルコース末端で結合したビニル系樹脂PV−Lam(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-O-α-D-ク゛ルコヒ゜ラノシル-(1→3)-D-ク゛ルコンアミト゛])、
メリビオースがガラクトース末端で結合したビニル系樹脂PV−MEA(ホ゜リ[N-p-ヒ゛ニルヘ゛ンシ゛ル-O-α-D-カ゛ラクトヒ゜ラノシル-(1→6)-D-ク゛ルコンアミト゛])、
セロビオースがグルコース末端で結合したビニル系樹脂PV−CA、
開環グルコースが結合したビニル系樹脂PV−GA(いずれも生化学工業株式会社製;商品名)、
対照であるコラーゲン及びウシ血清アルブミン(BSA)を用いたこと以外は、試験例1と同様にして、吸光度を測定したところ、図1に示すように、いずれも極めて低い値を示し細胞中のタンパク質に結合していないことが確認された。
(3) 試験例1(1)および(2)のラット心筋細胞や血管平滑筋細胞に代えて、ラット肝細胞を用いたこと以外は、試験例1(1)および(2)と同様にして糖鎖ポリマーと細胞との接着について検討した。その結果、PV−LA、PV−Man、PV−Lam、PV−MEA、およびPV−CAは、ラット肝細胞がガラクトース結合性レクチンのアシアロ糖タンパクを有しているので、この細胞へ接着していた。しかし、PV−GlcNAcなどその他の糖鎖ポリマーは、この細胞に接着していなかった。
(4) 試験例1(1)の糖鎖ポリマーPV−GlcNAcやPV−MAの溶解濃度を、0〜500μg/mLまで変化させて心筋細胞および血管平滑筋細胞を夫々培養したこと以外は試験例1(1)と同様にして糖鎖ポリマーとこれらの細胞との接着について、検討した。PV−GlcNAcを用いた場合は、濃度依存的に心筋細胞や血管平滑筋細胞の結合が阻害されていた。一方、PV−MAを用いた場合は、濃度依存的に心筋細胞や血管平滑筋細胞の結合がどの濃度でも阻害されていなかった。
(5) 心筋細胞や血管平滑筋細胞へのPV−GlcNAcが接着していることは、0.1〜1.0MのN−アセチルグルコサミンの添加によって濃度に依存して阻害されたことからも明らかである。
(6) 心筋細胞や血管平滑筋細胞へのPV−GlcNAcの接着は、Ca2+の添加によっても阻害されないことからカルシウム非依存性であることが確認された。
これらの試験例の結果、これら心筋細胞や血管平滑筋細胞にGlcNAc基を特異的に認識する分子が存在すると推測された。この分子は、本発明を適用するN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質である。
実施例1に、そのN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質を単離、同定した例を示す。
(実施例1)
ラットから摘出した心筋細胞及び血管平滑筋細胞を夫々、培地で5日間培養した。非イオン性界面活性剤であるNP−40含有溶解緩衝液で、それに溶解する可溶分画を抽出した。それの沈殿を分取した不溶分画を、尿素含有溶解緩衝液に溶解させて抽出した。それら抽出物について10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミド ゲルを用い還元条件で一次元電気泳動を行った。電気泳動されたゲル中の全タンパク質からSDS基をTritonX−100により除去し、復元された全タンパク質を電気的にpolyvinylidene difluoride(PVDF)膜に転写した。このタンパク質が転写された膜に対してPV−GlcNAcに抗体標識蛍光色素であるフルオレセイン イソチオシアネート(FITC)を結合させたプローブであるFITC抱合PV−GlcNAcコーティングポリマーでインキュベートし、次いで、抗FITC抗体とぺルオキシダーゼ(HRP)抱合抗ウサギIgG抗体とで処理し、化学発光法によるウエスタンブロッティングで検出した。その結果を、図2に示す。図2から明らかな通り、心筋細胞と血管平滑筋細胞との可溶分画と不溶分画とに、N−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質と思われるGlcNAc結合分子の存在が示された。
ラットから摘出した心筋細胞及び血管平滑筋細胞を夫々、培地で5日間培養した。非イオン性界面活性剤であるNP−40含有溶解緩衝液で、それに溶解する可溶分画を抽出した。それの沈殿を分取した不溶分画を、尿素含有溶解緩衝液に溶解させて抽出した。それら抽出物について10%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミド ゲルを用い還元条件で一次元電気泳動を行った。電気泳動されたゲル中の全タンパク質からSDS基をTritonX−100により除去し、復元された全タンパク質を電気的にpolyvinylidene difluoride(PVDF)膜に転写した。このタンパク質が転写された膜に対してPV−GlcNAcに抗体標識蛍光色素であるフルオレセイン イソチオシアネート(FITC)を結合させたプローブであるFITC抱合PV−GlcNAcコーティングポリマーでインキュベートし、次いで、抗FITC抗体とぺルオキシダーゼ(HRP)抱合抗ウサギIgG抗体とで処理し、化学発光法によるウエスタンブロッティングで検出した。その結果を、図2に示す。図2から明らかな通り、心筋細胞と血管平滑筋細胞との可溶分画と不溶分画とに、N−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質と思われるGlcNAc結合分子の存在が示された。
(実施例2)
実施例1と同様にしてラットの心筋細胞から得た不溶分画を調製した。それをイオン交換カラムで精製後、ポリアクリルアミドゲルによる等電点と分子量とでの二次元電気泳動を、三つ同時に行った。その内の二つの電気泳動ゲルについて夫々、クマシーブリリアントブルー(CBB)染色と、FITC抱合PV−GlcNAcコーティングポリマーによるブロッティングを行った。その結果を、図3(a)及び(b)に示す。残る一つの電気泳動ゲルについてCBB染色やブロッティングで認められたスポットに対応する位置を切り出し、SDS電気泳動後のSDS基が付いたタンパク質を取り出し、TritonX−100によりSDS基を除去し、復元した二種類のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質を得た。それらをプロテインシーケンサーにてアミノ酸配列解析したところ、一方のタンパク質(1)が、GTNESLERQMREMEのアミノ酸配列を有する細胞骨格タンパク質である53kDaのビメンチン(vimentin)であり、他方のタンパク質(2)が、MAEGVEIATYRELLEのアミノ酸配列を有する細胞骨格タンパク質である52kDaのデスミン(desmin)であると、同定された。
実施例1と同様にしてラットの心筋細胞から得た不溶分画を調製した。それをイオン交換カラムで精製後、ポリアクリルアミドゲルによる等電点と分子量とでの二次元電気泳動を、三つ同時に行った。その内の二つの電気泳動ゲルについて夫々、クマシーブリリアントブルー(CBB)染色と、FITC抱合PV−GlcNAcコーティングポリマーによるブロッティングを行った。その結果を、図3(a)及び(b)に示す。残る一つの電気泳動ゲルについてCBB染色やブロッティングで認められたスポットに対応する位置を切り出し、SDS電気泳動後のSDS基が付いたタンパク質を取り出し、TritonX−100によりSDS基を除去し、復元した二種類のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質を得た。それらをプロテインシーケンサーにてアミノ酸配列解析したところ、一方のタンパク質(1)が、GTNESLERQMREMEのアミノ酸配列を有する細胞骨格タンパク質である53kDaのビメンチン(vimentin)であり、他方のタンパク質(2)が、MAEGVEIATYRELLEのアミノ酸配列を有する細胞骨格タンパク質である52kDaのデスミン(desmin)であると、同定された。
このアミノ酸配列解析の結果の妥当性を検討するため、同様にして行った二次元電気泳動後に、ウエスタンブロッティングを行い、FITC抱合GlcNAcコーティングポリマーによるN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質、抗ビメンチン抗体によるビメンチン、及び抗デスミン抗体によるデスミンの検出を行った。二種類のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質の一方のタンパク質(1)は、抗ビメンチン抗体のウエスタンブロッティングによりビメンチンであることが示され、他方のタンパク質(2)は、抗デスミン抗体ウエスタンブロッティングによりデスミンであることが示された(不図示)。
(実施例3)
実施例2と同様にしてラットの血管平滑筋胞から得た不溶分画を調製し、実施例2と同様な操作をしたところ、一種類のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質が、得られ(不図示)、実施例2のタンパク質(1)と同様、GTNESLERQMREMEのアミノ酸配列を有する細胞骨格タンパク質であるビメンチン(vimentin)であると、同定された。
実施例2と同様にしてラットの血管平滑筋胞から得た不溶分画を調製し、実施例2と同様な操作をしたところ、一種類のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質が、得られ(不図示)、実施例2のタンパク質(1)と同様、GTNESLERQMREMEのアミノ酸配列を有する細胞骨格タンパク質であるビメンチン(vimentin)であると、同定された。
(実施例4)
ビメンチンとデスミンとは細胞骨格タンパク質であり、本来的に細胞内に存在しているタンパク質であり、細胞表面に存在していないと考えられていた。そこで、ビメンチンとデスミンとが、細胞表面に発現していることを確かめるために、以下にようにして、心筋細胞と血管平滑筋細胞との細胞表面をビオチンで標識し、免疫沈降法により、細胞表面のタンパク質の分析を行った。
ビメンチンとデスミンとは細胞骨格タンパク質であり、本来的に細胞内に存在しているタンパク質であり、細胞表面に存在していないと考えられていた。そこで、ビメンチンとデスミンとが、細胞表面に発現していることを確かめるために、以下にようにして、心筋細胞と血管平滑筋細胞との細胞表面をビオチンで標識し、免疫沈降法により、細胞表面のタンパク質の分析を行った。
先ず、タンパク質の−NH2を認識してビオチン化するアミノ基標識用水溶性ビオチンラベル化剤であるビオチン−AC5Sulfo−OSu(株式会社同人化学研究所製;商品名)で、心筋細胞の細胞表面のタンパク質のみをビオチン化した。それをRIPA緩衝液で処理することにより、ビオチン化した細胞表面タンパク質を回収した。抗デスミン抗体とプロテインG/Aタンパク質を抱合したアガロースビーズ(サンタクルズ社)を混合することにより調製した抗デスミン抗体ビーズと、ストレプトアビジンを抱合したアガロースビーズであるアビジンビーズとにより、夫々免疫沈降させ、ウエスタンブロッティングによるプルダウンアッセイでデスミン及びビメンチンの細胞表面での発現と、GlcNAcの認識とを評価した。その結果を、図4(a)に示す。図4(a)から明らかな通り、抗デスミン抗体ビーズによるデスミンの沈降の結果、ビオチン化した場合にビオチン化デスミンが検出され、ビオチン化した場合もしない場合も、デスミンが検出された(同図(a-1))ことから、デスミンが心筋細胞表面で発現していることが確認できた。また、アビジンビーズによるビオチン化タンパク質の沈降の結果、ビオチン化した場合にデスミンとビメンチンとが検出され、一方、ビオチン化した場合もしない場合もβ−アクチン(43kDa)が検出されなかった(同図(a-2))ことから、デスミン及びビメンチンが心筋細胞表面で発現していることが確認できた。
次いで、同様に血管平滑筋の細胞表面のタンパク質のみもビオチン化し、抗ビメンチン抗体とプロテインG/Aタンパク質を抱合したアガロースビーズ(サンタクルズ社)を混合することにより調製した抗ビメンチン抗体ビーズを用いて、同様にウエスタンブロッティングによるプルダウンアッセイでビメンチンの細胞表面での発現と、GlcNAcの認識とを評価した。その結果を、図4(b)に示す。図4(b)から明らかな通り、抗ビメンチン抗体ビーズによるビメンチンの沈降の結果、ビオチン化した場合にビオチン化ビメンチンが検出され、ビオチン化した場合もしない場合もビメンチンが検出された(同図(b-1))ことから、ビメンチンが血管平滑筋細胞表面で発現していることが確認できた。また、アビジンビーズによるビオチン化タンパク質の沈降の結果、ビオチン化した場合にビメンチンが検出され、ビオチン化した場合もしない場合もβ−アクチンが検出されなかった(同図(b-2))ことから、ビメンチンが血管平滑筋細胞表面で発現していることが確認できた。
(実施例5)
ラットの心筋細胞と血管平滑筋細胞とにおけるデスミン及びビメンチンとGlcNAc結合分子との分布について、以下のようにして検討した。細胞表面での分布を観察するために、生きた状態で細胞を染色した後、固定し、評価した。
ラットの心筋細胞と血管平滑筋細胞とにおけるデスミン及びビメンチンとGlcNAc結合分子との分布について、以下のようにして検討した。細胞表面での分布を観察するために、生きた状態で細胞を染色した後、固定し、評価した。
先ず、心筋細胞について、抗デスミン抗体処理後の染色と、FITC抱合PV−GlcNAcコーティングポリマー処理後の染色とを行い、共焦点レーザー顕微鏡を用い、デスミンとGlcNAc結合分子との分布を観察し、さらにそれらのデータを重ね合わせて観察した。心筋細胞表面の同じ位置で、両方の染色が認められ、デスミンとGlcNAc結合分子との発現が示された。
次いで、血管平滑筋細胞について、抗ビメンチン抗体処理後の染色と、FITC抱合PV−GlcNAcコーティングポリマー処理後の染色とを行い、共焦点レーザー顕微鏡を用い、ビメンチンとGlcNAc結合分子との分布を観察し、さらにそれらのデータを重ね合わせて観察した。血管平滑筋細胞表面の同じ位置で、両方の染色が認められ、ビメンチンとGlcNAc結合分子との発現が示された。
(実施例6)
心筋細胞のGlcNAc基への接着に対するデスミンsiRNAの影響について以下のようにして検討した。コントロール、ネガティブsiRNA、デスミンsiRNAは、キアゲン社から購入したものである。遺伝子導入試薬によりコントロール、ネガティブsiRNA、デスミンsiRNAをそれぞれ心筋細胞に導入し、デスミンの発現を抑制した心筋細胞を調製し、ウシ血清アルブミン(BSA)、PV−LA、PV−MA、及びPV−GlcNAcをそれぞれ処理した培養皿に播種した。そして、RNA干渉を用いて、心筋細胞におけるデスミンの発現の抑制、GlcNAc基への認識能に与える影響を、MTTアッセイによる接着実験で、評価した。その結果を、図5に示す。図5から明らかな通り、siRNAを用いた心筋細胞におけるデスミンのノックアウトにより、デスミン及びビメンチンは、その発現が減弱し、GlcNAc基に対する認識能が低下し、GlcNAc基への接着が抑制されていた。
心筋細胞のGlcNAc基への接着に対するデスミンsiRNAの影響について以下のようにして検討した。コントロール、ネガティブsiRNA、デスミンsiRNAは、キアゲン社から購入したものである。遺伝子導入試薬によりコントロール、ネガティブsiRNA、デスミンsiRNAをそれぞれ心筋細胞に導入し、デスミンの発現を抑制した心筋細胞を調製し、ウシ血清アルブミン(BSA)、PV−LA、PV−MA、及びPV−GlcNAcをそれぞれ処理した培養皿に播種した。そして、RNA干渉を用いて、心筋細胞におけるデスミンの発現の抑制、GlcNAc基への認識能に与える影響を、MTTアッセイによる接着実験で、評価した。その結果を、図5に示す。図5から明らかな通り、siRNAを用いた心筋細胞におけるデスミンのノックアウトにより、デスミン及びビメンチンは、その発現が減弱し、GlcNAc基に対する認識能が低下し、GlcNAc基への接着が抑制されていた。
(実施例7)
デスミン及びビメンチンのGlcNAc基に対する結合能の評価を行った。評価にはBiacore(Biacore社製;登録商標)を用いた。
デスミン及びビメンチンのGlcNAc基に対する結合能の評価を行った。評価にはBiacore(Biacore社製;登録商標)を用いた。
先ず、PV−GlcNAcとPV−LAとPV−MAに対するビメンチンの分子間相互作用をBiacoreでビメンチンを固定化した金表面に対するPV−GlcNAcとPV−LAとPV−MAの分子間相互作用を表面プラズモン共鳴によって質量変化を測定した。その結果を図6(a)に示す。図6(a)から明らかなように、ビメンチンは、PV−GlcNAcに相互作用するが、PV−LAとPV−MAとに相互作用しない。従って、ビメンチンは、GlcNAc基に対して特異的に結合することが示された。反応速度解析により算出すると、ビメンチンとPV−GlcNAcとの結合定数KAは1.69×107M−1であり、解離定数KDは5.93×10−8Mであった。
先ず、PV−GlcNAcとPV−LAとPV−MAに対するデスミンの分子間相互作用を同様にして測定した。その結果を図6(b)に示す。図6(b)から明らかなように、デスミンは、PV−GlcNAcに相互作用するが、PV−LAとPV−MAとに相互作用しない。従って、デスミンは、GlcNAc基に対して特異的に結合することが示された。同様に算出すると、デスミンとPV−GlcNAcとの結合定数KAは9.72×107M−1であり、解離定数KDは1.03×10−8Mであった。
(実施例8)
心筋細胞以外の細胞として、ラット心筋芽細胞(H9c2)、ヒト子宮がん細胞(Hela)、サル腎臓がん細胞(cos-1)、ラット平滑筋腫瘍細胞(A7r5)、ヒト気道上皮細胞、ヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC)、ラット肝細胞の各細胞におけるビメンチンの発現とGlcNAc基に対する結合能を検討した。それぞれの細胞からタンパク質を抽出しウエスタンブロッティングにより、ビメンチンの発現とMTTアッセイによる細胞接着試験とで検討した。MTTアッセイでの570nm波長での吸光度(OD570)を測定した結果を、図7に示す。図7から明らかなように、心筋細胞以外であってビメンチンを発現する細胞でも、GlcNAc基に対する特異的な結合能が示され、その結合能はビメンチンの発現に伴っていることが示された。
心筋細胞以外の細胞として、ラット心筋芽細胞(H9c2)、ヒト子宮がん細胞(Hela)、サル腎臓がん細胞(cos-1)、ラット平滑筋腫瘍細胞(A7r5)、ヒト気道上皮細胞、ヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC)、ラット肝細胞の各細胞におけるビメンチンの発現とGlcNAc基に対する結合能を検討した。それぞれの細胞からタンパク質を抽出しウエスタンブロッティングにより、ビメンチンの発現とMTTアッセイによる細胞接着試験とで検討した。MTTアッセイでの570nm波長での吸光度(OD570)を測定した結果を、図7に示す。図7から明らかなように、心筋細胞以外であってビメンチンを発現する細胞でも、GlcNAc基に対する特異的な結合能が示され、その結合能はビメンチンの発現に伴っていることが示された。
次に、薬物輸送剤となる薬剤を調製し、その特性について検討した。
(実施例9)
GlcNAc基と心筋細胞の相互作用を確認する試験を以下のようにして行った。薬物輸送剤として、薬剤を封入したN−アセチルグルコサミン糖鎖結合リポソームを調製した。リポソーム作成用の脂質である(Dipalmitoyl phosphatidylcholine):Chol(Cholesterol standard):DPPE(Dipalmitoyl phosphatidylethanolamine)=80:20:2(mol%)と、蛍光物質であるDiD(1,1'-dioctadecyl-3,3,3'-tetramethylindodicarbocyanine
perchlorate)とを、クロロホルム/メタノール(7:3)に溶解し、エバポレーターによりなす型フラスコの底に薄くこれらの脂質を貼付けた状態を作成した。これに1mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加え超音波処理または、エクストルーダーによって、DiDを包理した200〜400nmのリポソームを作成した。これらのリポソームとアルキル鎖を共有結合させたPV-GlcNAcを混合しGlcNAc結合リポソーム液(DiD包理GlcNAc−Ls)を調製した。なお、対照として、GlcNAcに代えてマルトースを用いたこと以外は同様にしてDiDを包理したマルトース結合リポソーム液(DiD包理MA−Ls)を調製した。
GlcNAc基と心筋細胞の相互作用を確認する試験を以下のようにして行った。薬物輸送剤として、薬剤を封入したN−アセチルグルコサミン糖鎖結合リポソームを調製した。リポソーム作成用の脂質である(Dipalmitoyl phosphatidylcholine):Chol(Cholesterol standard):DPPE(Dipalmitoyl phosphatidylethanolamine)=80:20:2(mol%)と、蛍光物質であるDiD(1,1'-dioctadecyl-3,3,3'-tetramethylindodicarbocyanine
perchlorate)とを、クロロホルム/メタノール(7:3)に溶解し、エバポレーターによりなす型フラスコの底に薄くこれらの脂質を貼付けた状態を作成した。これに1mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加え超音波処理または、エクストルーダーによって、DiDを包理した200〜400nmのリポソームを作成した。これらのリポソームとアルキル鎖を共有結合させたPV-GlcNAcを混合しGlcNAc結合リポソーム液(DiD包理GlcNAc−Ls)を調製した。なお、対照として、GlcNAcに代えてマルトースを用いたこと以外は同様にしてDiDを包理したマルトース結合リポソーム液(DiD包理MA−Ls)を調製した。
これらのDiDを包理したリポソーム液を用い、心筋細胞における蛍光物質の取り込みの評価を行った。それらのリポソームを培養した心筋細胞に添加し、1時間後、フローサイトメトリーを用いて蛍光物質の取り込みを計測した。その結果を図8に示す。図8から明らかな通り、GlcNAc結合リポソームは、心筋細胞へ顕著に取り込まれていた。さらに位相差顕微鏡及び蛍光顕微鏡を用いて蛍光物質の取り込みを観察した。その結果、GlcNAc結合リポソームは、培養心筋細胞に蛍光物質を効率よく取り込ませていた。このN−アセチルグルコサミン糖鎖結合リポソームは、蛍光物質のような薬物を、心筋細胞に特異的に集積させる薬物輸送剤として、有用であることが示された。
(実施例10)
実施例9のDiDに代えて、水溶性スタチンであるプラバスタチンを用いたこと以外は、実施例9と同様にして、プラバスタチンを包理した200〜400nmのGlcNAc結合リポソーム液(プラバスタチン包理GlcNAc−Ls)を調製した。なお、対照として、実施例9のGlcNAcに代えてマルトースを用い、DiDに代えてプラバスタチンを用いたこと以外は同様にしてプラバスタチンを包理したマルトース結合リポソーム液(プラバスタチン包理MA−Ls)を調製し、さらに別な対照として、リポソームを用いないこと以外は同様にしてリポソーム未添加(NC)液を調製した。
実施例9のDiDに代えて、水溶性スタチンであるプラバスタチンを用いたこと以外は、実施例9と同様にして、プラバスタチンを包理した200〜400nmのGlcNAc結合リポソーム液(プラバスタチン包理GlcNAc−Ls)を調製した。なお、対照として、実施例9のGlcNAcに代えてマルトースを用い、DiDに代えてプラバスタチンを用いたこと以外は同様にしてプラバスタチンを包理したマルトース結合リポソーム液(プラバスタチン包理MA−Ls)を調製し、さらに別な対照として、リポソームを用いないこと以外は同様にしてリポソーム未添加(NC)液を調製した。
これらのリポソーム液とリポソーム未添加液とを、夫々50μLずつメタノールに溶解させ、それに含まれているプラバスタチンの量を239nmでの吸光度OD239を測定した。その結果を表1に示す。
表1から明らかなように、リポソームにはプラバスタチンが包理されていた。
(実施例11)
実施例10で調製したプラバスタチン包理GlcNAc−Ls液、プラバスタチン包理MA−Ls液、及びリポソーム未添加(NC)液を用い、心筋細胞におけるNO産生について検討した。プラバスタチン包理GlcNAc−Ls液、プラバスタチン包理MA−Ls液、及びリポソーム未添加(NC)液を培養心筋細胞に添加し、その一時間後に5ng/mLのインターロイキン−1β(IL−1β)を添加し、48時間後に硝酸塩濃度を測定した。その結果を図9に示す。図9から明らかな通り、プラバスタチン包理GlcNAc−Ls液は、ピタバスタチン(Pitavastatin)のみを添加したコントロール群のように、有意にNO産生が増加していた。プラバスタチン包理MA−Ls液やリポソーム未添加(NC)液は、NO産生増加が認められなかった。
実施例10で調製したプラバスタチン包理GlcNAc−Ls液、プラバスタチン包理MA−Ls液、及びリポソーム未添加(NC)液を用い、心筋細胞におけるNO産生について検討した。プラバスタチン包理GlcNAc−Ls液、プラバスタチン包理MA−Ls液、及びリポソーム未添加(NC)液を培養心筋細胞に添加し、その一時間後に5ng/mLのインターロイキン−1β(IL−1β)を添加し、48時間後に硝酸塩濃度を測定した。その結果を図9に示す。図9から明らかな通り、プラバスタチン包理GlcNAc−Ls液は、ピタバスタチン(Pitavastatin)のみを添加したコントロール群のように、有意にNO産生が増加していた。プラバスタチン包理MA−Ls液やリポソーム未添加(NC)液は、NO産生増加が認められなかった。
(実施例12)
実施例10で調製したプラバスタチン包理GlcNAc−Ls液、プラバスタチン包理MA−Ls液、及びリポソーム未添加(NC)液を用い、心筋細胞における一酸化窒素合成酵素(iNOS)の誘導発現について検討した。プラバスタチン包理GlcNAc−Ls液、プラバスタチン包理MA−Ls液、及びリポソーム未添加(NC)液を培養心筋細胞に添加し、その一時間後に、1ng/mLのIL−1βを添加し、iNOSの発現を電気泳動で検出した。プラバスタチン包理GlcNAc−Ls液には、顕著にiNOSの発現が認められたが、プラバスタチン包理MA−Ls液、及びリポソーム未添加(NC)液にはiNOSの発現が認められなかった。
別な薬物輸送剤として実施例13および14に、本発明を適用するN−アセチルグルコサミン類を有するポリスチレンビーズの薬物輸送剤の例を示す。また、比較例1に本発明を適用外のラクトースを有するポリスチレンビーズの薬物輸送剤の例を示す。
実施例10で調製したプラバスタチン包理GlcNAc−Ls液、プラバスタチン包理MA−Ls液、及びリポソーム未添加(NC)液を用い、心筋細胞における一酸化窒素合成酵素(iNOS)の誘導発現について検討した。プラバスタチン包理GlcNAc−Ls液、プラバスタチン包理MA−Ls液、及びリポソーム未添加(NC)液を培養心筋細胞に添加し、その一時間後に、1ng/mLのIL−1βを添加し、iNOSの発現を電気泳動で検出した。プラバスタチン包理GlcNAc−Ls液には、顕著にiNOSの発現が認められたが、プラバスタチン包理MA−Ls液、及びリポソーム未添加(NC)液にはiNOSの発現が認められなかった。
別な薬物輸送剤として実施例13および14に、本発明を適用するN−アセチルグルコサミン類を有するポリスチレンビーズの薬物輸送剤の例を示す。また、比較例1に本発明を適用外のラクトースを有するポリスチレンビーズの薬物輸送剤の例を示す。
(実施例13)
キトビオースとビオチンとをヒドラジド存在下、反応させてキトビオース−ビオチン結合体を合成した。これと、アビジンがコーティングされ蛍光剤のフルオロセイン イソチオシアネート(FITC)が含有された直径200nmのポリスチレンビーズFluoSphheres Neutrr Avidin labeled microspheres(Molecular Probes社製;商品名)とを攪拌して、キトビオース−ビオチン結合体のビオチン基にビーズのアビジン基が結合してできた薬物輸送剤のコロイドを調製した。このコロイド20μLにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)0.2mLを加え懸濁液を得た。
キトビオースとビオチンとをヒドラジド存在下、反応させてキトビオース−ビオチン結合体を合成した。これと、アビジンがコーティングされ蛍光剤のフルオロセイン イソチオシアネート(FITC)が含有された直径200nmのポリスチレンビーズFluoSphheres Neutrr Avidin labeled microspheres(Molecular Probes社製;商品名)とを攪拌して、キトビオース−ビオチン結合体のビオチン基にビーズのアビジン基が結合してできた薬物輸送剤のコロイドを調製した。このコロイド20μLにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)0.2mLを加え懸濁液を得た。
マウスの右大腿動脈にワイヤーを挿入して機械的に血管内膜に傷害を与えることにより、内皮細胞が剥れて平滑筋細胞が血管内腔に露出している血管傷害モデルを作製した。このモデルは、傷害を受けたままマウスを飼育すると、平滑筋細胞が異常増殖し、血管が再狭窄するというものである。
傷害を与えた直後に、この懸濁液を、尾静注により投与した。投与後、24時間経過してからその血管を摘出し、蛍光顕微鏡で観察したところ、傷害部位の血管平滑筋細胞に蛍光発光が認められ、この細胞に薬物輸送剤が到達していると確認された。
なお、ワイヤーにより傷害を受けていないマウスを対照として用い、同様に観察したが、血管内の細胞に蛍光発光が認められず、細胞へ薬物輸送剤が到達していないと確認された。
(実施例14)
キトビオースに代えてキトヘキサノースを用いたこと以外は、実施例13と同様にして薬物輸送剤のコロイドを調製し、マウスに投与したところ、実施例13と同様に血管の平滑筋細胞に蛍光発光が認められ、この細胞に薬物輸送剤が到達していると確認された。
キトビオースに代えてキトヘキサノースを用いたこと以外は、実施例13と同様にして薬物輸送剤のコロイドを調製し、マウスに投与したところ、実施例13と同様に血管の平滑筋細胞に蛍光発光が認められ、この細胞に薬物輸送剤が到達していると確認された。
(比較例1)
比較のため、実施例13のようなN−アセチルグルコサミンの二糖であるキトビオースに代えて、ガラクトースとグルコースとの二糖であるラクトースを用いたこと以外は、実施例13と同様にして薬物輸送剤を調製し、マウスに投与したところ、血管の平滑筋細胞に蛍光発光が認められず、細胞に薬物輸送剤が到達していないと確認された。
比較のため、実施例13のようなN−アセチルグルコサミンの二糖であるキトビオースに代えて、ガラクトースとグルコースとの二糖であるラクトースを用いたこと以外は、実施例13と同様にして薬物輸送剤を調製し、マウスに投与したところ、血管の平滑筋細胞に蛍光発光が認められず、細胞に薬物輸送剤が到達していないと確認された。
実施例15に、本発明を適用する別なN−アセチルグルコサミン類である五糖のキトペンタオースを有するポリスチレンビーズの薬物輸送剤の例を示す。また、比較例2に本発明を適用外の五糖のマルトペンタオースを有するポリスチレンビーズの薬物輸送剤の例を示す。
(実施例15)
実施例13のキトビオースに代えてキトペンタオースを用いたこと以外は、実施例13と同様にして薬物輸送剤のコロイドの懸濁液を調製した。マウスの心臓の冠動脈にバルーンカテーテルを挿入し、冠動脈をバルーンカテーテルごと結紮し、30分間の虚血後、結紮を解き、再灌流を行ない、バルーンカテーテルで血管を押し広げる心筋梗塞モデルとして、虚血再灌流モデルを作製した。虚血再灌流直後に、この懸濁液を尾静注により投与した。投与後、24時間経過してからその血管を摘出し、蛍光顕微鏡で観察したところ、傷害部位の血管平滑筋細胞に蛍光発光が認められ、この細胞に薬物輸送剤が到達していると確認された。
実施例13のキトビオースに代えてキトペンタオースを用いたこと以外は、実施例13と同様にして薬物輸送剤のコロイドの懸濁液を調製した。マウスの心臓の冠動脈にバルーンカテーテルを挿入し、冠動脈をバルーンカテーテルごと結紮し、30分間の虚血後、結紮を解き、再灌流を行ない、バルーンカテーテルで血管を押し広げる心筋梗塞モデルとして、虚血再灌流モデルを作製した。虚血再灌流直後に、この懸濁液を尾静注により投与した。投与後、24時間経過してからその血管を摘出し、蛍光顕微鏡で観察したところ、傷害部位の血管平滑筋細胞に蛍光発光が認められ、この細胞に薬物輸送剤が到達していると確認された。
(比較例2)
比較のため、実施例15のようなN−アセチルグルコサミンの五糖であるキトペンタオースに代えて、同じく五糖であるがN−アセチルグルコサミン糖鎖を有しないマルトペンタオースを用いたこと以外は、実施例15と同様にして薬物輸送剤を調製し、マウスに投与したところ、血管の平滑筋細胞に蛍光発光が認められず、細胞に薬物輸送剤が到達していないと確認された。
比較のため、実施例15のようなN−アセチルグルコサミンの五糖であるキトペンタオースに代えて、同じく五糖であるがN−アセチルグルコサミン糖鎖を有しないマルトペンタオースを用いたこと以外は、実施例15と同様にして薬物輸送剤を調製し、マウスに投与したところ、血管の平滑筋細胞に蛍光発光が認められず、細胞に薬物輸送剤が到達していないと確認された。
本発明のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質は、平滑筋細胞、心筋細胞、骨格筋芽細胞、ヘパトーマ細胞に特異的に存在するので、これらの細胞への選択的な薬物輸送の薬剤の探索や、心筋組織や血管組織での炎症や再生等の生理機能のメカニズムの解明に有用である。
本発明の薬剤や薬物輸送剤は、任意の形態での投与が可能な医薬品として、また遺伝子複合体はトランスフェクション試薬として、虚血性心疾患治療に対するインターベーション治療後の血管傷害部位、心筋梗塞部位、感染症等の血管病変部位、細胞再生部位の細胞近傍の標的部位へ特異的、集中的、効率的かつ安全に、薬物を輸送したり遺伝子を導入したりする治療のために用いられる。
Claims (10)
- 摘出された心筋細胞又は血管平滑筋細胞からタンパク質群を溶解させて抽出し、その中からN−アセチルグルコサミン糖鎖基を含有する物質に結合し得るタンパク質を分離精製したものであることを特徴とするN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質。
- 該物質が、N−アセチルグルコサミン糖鎖化合物、N−アセチルグルコサミン糖鎖基含有樹脂化合物および/またはN−アセチルグルコサミン糖鎖基含有ビオチン化合物であることを特徴とする請求項1に記載のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質。
- 界面活性剤及び/又は尿素を含む緩衝液により該抽出がなされたことを特徴とする請求項1に記載のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質。
- 電気泳動により、該分離精製がなされたことを特徴とする請求項1に記載のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質。
- デスミン及び/又はビメンチンであることを特徴とする請求項1に記載のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質。
- 請求項1に記載のN−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質に結合するN−アセチルグルコサミン類を含有することを特徴とする薬剤。
- 請求項1に記載の該N−アセチルグルコサミン糖鎖認識タンパク質に結合するN−アセチルグルコサミン類が、コロイド粒子の表面から露出されていることを特徴とする薬物輸送剤。
- 該コロイド粒子が、生体分解性樹脂粒子、合成樹脂粒子、またはリポソームであることを特徴とする請求項7に記載の薬物輸送剤。
- 該コロイド粒子中に、蛍光剤、造影剤または治療剤が含有されていることを特徴とする請求項7に記載の薬物輸送剤。
- 該N−アセチルグルコサミン類が、N−アセチルグルコサミンまたはキトビオースであることを特徴とする請求項7に記載の薬物輸送剤。
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