図1は、本発明が好適に適用される車両用動力伝達装置10の構成を説明する骨子図である。この動力伝達装置10は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられる縦置き型の駆動機構であり、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、単にケース12という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、その入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパ(振動減衰装置)等を介して間接に連結された切換型変速部16と、その切換型変速部16と出力軸22との間で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結された有段式自動変速機としての自動変速部20と、その自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを、直列に備えて構成されている。この動力伝達装置10は、走行用の駆動力源であるエンジン8と一対の駆動輪38(図5を参照)との間に設けられて、そのエンジン8から出力される動力を駆動装置の他の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36及び一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪38へ伝達する。なお、上記動力伝達装置10は、その軸心に対して略対称的に構成されているため、図1においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
上記動力伝達装置10内には、装置内部における摩擦力や摩耗を少なくするため、或いは各部の摩擦によって生じる熱を除去し、摩擦面の温度を低下させて焼き付きを防ぐなどの目的で、例えば石油系の潤滑油が溜め入れられている。この潤滑油は、上記動力伝達装置10の駆動に伴い図示しない油圧ポンプにより圧送されてその動力伝達装置10の内部を移動(流動)させられ、上述のように潤滑油として機能させられる。そして、所定の油路を通って上記動力伝達装置10の底部に設けられたオイルパンに還流させられ、再び油圧ポンプにより圧送されるというように、上記動力伝達装置10内を循環させられる。
前記エンジン8は、例えば、気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン或いはディーゼルエンジン等の内燃機関である。また、前記切換型変速部16は、第1電動機M1の出力と、前記入力軸14に入力されたエンジン8の出力とを機械的に合成し或いは分配する機械的機構であって、前記エンジン8に連結された第1回転要素RE1と、上記第1電動機M1に連結された第2回転要素RE2とを備えた差動部32において、その第1電動機M1の運転状態が制御されることにより入力回転速度と出力回転速度との差動状態が制御される動力分配装置34を備えている。また、前記伝達部材18と一体的に回転するように設けらた第2電動機M2を備えている。なお、この第2電動機M2は、前記伝達部材18から出力軸22までの間の何れの部分に設けられてもよい。また、本実施例の第1電動機M1及び第2電動機M2は、原動機(駆動力源)としての機能及び発電機としての機能を併せ持つ所謂モータジェネレータであるが、上記第1電動機M1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電機)としての機能を少なくとも備え、上記第2電動機M2は駆動力を出力するためのモータ(原動機)としての機能を少なくとも備えたものである。
上記動力分配装置34は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置24と、切換クラッチC0及び切換ブレーキB0とを主体的に備えて構成されている。上記第1遊星歯車装置24は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転及び公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素(要素)として備えており、第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
前記動力分配装置34において、第1回転要素RE1としての第1キャリヤCA1は、前記入力軸14すなわちエンジン8の出力軸に連結されている。また、第2回転要素RE2としての第1サンギヤS1は、上記第1電動機M1の回転子(ロータ)に連結されている。また、この第1電動機M1の固定子(ステータ)は、上記ケース12に固定されている。また、第3回転要素RE3としての第1リングギヤR1は、上記伝達部材18に連結されている。また、上記切換ブレーキB0は、上記ケース12と第1サンギヤS1との間に設けられており、そのケース12と第2回転要素RE2である第1サンギヤS1とを選択的に連結する。また、上記切換クラッチC0は、上記第1キャリヤCA1と第1サンギヤS1との間に設けられており、第1回転要素RE1である第1キャリヤCA1と第2回転要素RE2である第1サンギヤS1とを選択的に連結する。それら切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が解放されると、上記第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、及び第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能な差動作用が働く差動状態とされることから、前記エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されると共に、分配された前記エンジン8の出力の一部により前記第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり、前記第2電動機M2が回転駆動されたりするので、例えば所謂無段変速状態(電気的CVT状態)が成立させられ、前記エンジン8の所定回転に拘わらず前記伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、前記切換型変速部16が、その変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。
前記切換型変速部16が無段変速状態である場合に、前記エンジン8の出力による車両走行中に前記切換クラッチC0が係合させられて第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが一体的に係合させられると、上記第1遊星歯車装置24の3要素S1、CA1、R1が一体回転させられる非差動状態とされることから、前記エンジン8の回転と前記伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、前記切換型変速部16は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態とされる。また、前記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて第1サンギヤS1が非回転状態とされる非差動状態とされると、第1リングギヤR1は第1キャリヤCA1よりも増速回転されるので、前記切換型変速部16は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態とされる。
前記自動変速部20は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28、及びシングルピニオン型の第4遊星歯車装置30を備えて構成されている。上記第2遊星歯車装置26は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転及び公転可能に支持する第2キャリヤCA2、及び第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。上記第3遊星歯車装置28は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転及び公転可能に支持する第3キャリヤCA3、及び第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。上記第4遊星歯車装置30は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転及び公転可能に支持する第4キャリヤCA4、及び第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
前記自動変速部20では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して前記伝達部材18に選択的に連結されると共に第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結されるようになっている。また、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。また、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介して前記ケース12に選択的に連結されるようになっている。また、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて前記出力軸22に連結されている。また、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して前記伝達部材18に選択的に連結されるようになっている。
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3は、好適には、従来よく知られた油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本又は2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキ等により構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するための装置である。
以上のように構成された動力伝達装置10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、及び第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)の何れか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力歯車回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。また、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、前記切換型変速部16は前述したように無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。従って、前記動力伝達装置10では、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた前記切換型変速部16及び前記自動変速部20により有段変速機として作動する有段変速状態が構成される一方、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた前記切換型変速部16及び自動変速部20により電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。換言すれば、前記動力伝達装置10は、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられる一方、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。
前記動力伝達装置10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられる。また、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、及び第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、前記第2クラッチC2及び第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば前記切換クラッチC0のみが係合される。
一方、前記動力伝達装置10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0及び切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、前記切換型変速部16が無段変速機として機能し、それに直列に接続された前記自動変速部20が有段変速機として機能することにより、その自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対してその自動変速部20に入力される回転速度すなわち前記伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって前記動力伝達装置10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する前記切換型変速部16と有段変速部或いは第2変速部として機能する前記自動変速部20とから構成される前記動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、横軸方向において各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの相対関係を示し、縦軸方向において相対的回転速度を示す二次元座標であり、3本の横軸のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち前記入力軸14に連結された前記エンジン8の回転速度NEを示し、横軸XGが前記伝達部材18の回転速度を示している。また、前記切換型変速部16を構成する前記動力分配装置34の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は前記第1遊星歯車装置24のギヤ比ρ1に応じて定められている。すなわち、縦線Y1とY2との間隔を1に対応するとすると、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応するものとされる。さらに、前記自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2及び第3サンギヤS3を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第4リングギヤR4を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。すなわち、図3に示すように、各第2、第3、第4遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が1に対応するものとされ、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応するものとされる。
図3の共線図を用いて表現すれば、前記動力伝達装置10は、前記動力分配装置(無段変速部)34において、前記第1遊星歯車装置24の3回転要素(要素)の1つである第1キャリヤCA1が前記入力軸14に連結されると共に前記切換クラッチC0を介して他の回転要素の1つである第1サンギヤS1と選択的に連結される。また、その他の回転要素の1つである第1サンギヤS1が前記第1電動機M1に連結されると共に前記切換ブレーキB0を介して前記ケース12に選択的に連結される。また、残りの回転要素である第1リングギヤR1が前記伝達部材18及び第2電動機M2に連結されて、前記入力軸14の回転を前記伝達部材18を介して前記自動変速部(有段変速部)20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転速度と第1リングギヤR1の回転速度との関係が示される。例えば、前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の解放により無段変速状態に切換えられたときは、前記第1電動機M1の発電による反力を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転が上昇或いは下降させられ、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転速度が下降或いは上昇させられる。また、前記切換クラッチC0の係合により第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが連結されると、上記3回転要素が一体回転するロック状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で前記伝達部材18が回転させられる。また、前記切換ブレーキB0の係合によって第1サンギヤS1の回転が停止させられると、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1すなわち前記伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で前記自動変速部20へ入力される。
前記自動変速部20では、図3に示すように、前記第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、前記出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の前記出力軸22の回転速度が示される。同様に、前記第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と前記出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の前記出力軸22の回転速度が示される。また、前記第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と前記出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示される。また、前記第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と前記出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の前記出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、前記切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に前記切換型変速部16すなわち動力分配装置34からの動力が入力される。しかし、前記切換クラッチC0に替えて前記切換ブレーキB0が係合させられると、前記切換型変速部16からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、及び切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と前記出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の前記出力軸22の回転速度が示される。
図4は、前記動力伝達装置10を制御するために備えられた電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェース等から成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより前記エンジン8の駆動制御や、そのエンジン8、第1電動機M1、及び第2電動機M2に関するハイブリッド駆動制御、或いは前記自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。また、この電子制御装置40には、RAM等の記憶部48(図5を参照)が備えられており、図6に示す変速線図や図12に示す急制動時のM1回転速度許容範囲マップ等がその記憶部48に記憶されている。
図4に示すように、上記電子制御装置40には、各センサやスイッチから、エンジン水温を示す信号、シフトポジションを表す信号、前記エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を示す信号、M(モータ走行)モードを指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、前記出力軸22の回転速度に対応する車速信号、前記自動変速部20の作動油温を示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、アクセルペダルの操作量を示すアクセル開度信号、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の前後加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、各駆動輪の車輪速を示す車輪速信号、前記動力伝達装置10を有段変速機として機能させるために前記切換型変速部16を定変速状態に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を示す信号、前記動力伝達装置10を無段変速機として機能させるために前記切換型変速部16を無段変速状態に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を示す信号、前記第1電動機M1の回転速度NM1を表す信号、前記第2電動機M2の回転速度NM2を表す信号等が、それぞれ供給される。また、上記電子制御装置40からは、スロットル弁の開度を操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、前記エンジン8の点火時期を指令する点火信号、前記第1電動機M1及び第2電動機M2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、前記動力分配装置34や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42(図5を参照)に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、その油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
図5は、前記動力伝達装置10を制御するために前記電子制御装置40に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図5に示す切換制御手段50は、高車速判定手段52、高出力走行判定手段54、及び電気パス機能判定手段56を備えており、車両状態に基づいて前記動力伝達装置10を無段変速状態及び有段変速状態の何れかの状態に選択的に切り換える。また、ハイブリッド制御手段58は、前記動力伝達装置10の無段変速状態すなわち前記切換型変速部16の無段変速状態において前記エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方、前記エンジン8と第1電動機M1及び/又は第2電動機M2との駆動力の配分を最適になるように変化させて前記切換型変速部16の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。また、有段変速制御手段60は、例えば記憶部48に予め記憶された図6に示すような変速線図から車速V及び出力トルクToutで示される車両状態に基づいて前記自動変速部20の変速すべき変速段を判断してその自動変速部20の自動変速制御を実行する。
上記高車速判定手段52は、車両の状態例えば実際の車速Vが高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1以上の高車速となったか否かを判定する。上記高出力走行判定手段54は、車両の状態例えば駆動力に関連する駆動力関連値例えば前記自動変速部20の出力トルクToutが高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1以上の高トルク(高駆動力)走行となったか否かを判定する。上記電気パス機能判定手段56は、前記動力伝達装置10を無段変速状態とするための車両状態例えば制御機器の機能低下が判定される故障判定条件の判定を、例えば前記第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわちその第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ44、蓄電装置46、及びそれらを接続する伝送路等の故障(フェイル)や低温による機能低下或いは機能不全の発生に基づいて判定する。
増速側ギヤ段判定手段62は、前記動力伝達装置10を有段変速状態とする際に前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の何れを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて前記記憶部48に予め記憶された図6に示すような変速線図に従って前記動力伝達装置10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。これは、前記動力伝達装置10全体が有段式自動変速機として機能させられる場合に、第1速乃至第4速では前記切換クラッチC0が係合させられ、或いは第5速では前記切換ブレーキB0が係合させられるようにするためである。
また、前記切換制御手段50は、前記高車速判定手段52による高車速判定、前記高出力走行判定手段54による高出力走行判定すなわち高トルク判定、前記電気パス機能判定手段56による電気パス機能不全の判定のうち少なくとも1つが判定されたことに基づいて、前記動力伝達装置10を有段変速状態に切り換える有段変速制御領域であると判定して、前記ハイブリッド制御手段58に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力すると共に、前記有段変速制御手段60に対しては、予め設定された有段変速時の変速制御を許可する。この際、前記有段変速制御手段60は、前記記憶部48に予め記憶された例えば図6に示すような変速線図に従って前記自動変速部20の自動変速制御を実行する。図2は、このときの変速制御において選択される油圧式摩擦係合装置すなわちC0、C1、C2、B0、B1、B2、B3の作動の組み合わせを示している。
前記高車速判定手段52による高車速判定、前記増速側ギヤ段判定手段62による第5速ギヤ段判定、或いは前記高出力走行判定手段54による高出力走行判定が行われた場合であっても、前記増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段が判定される場合には、前記動力伝達装置10全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段を成立させるために前記切換制御手段50は前記切換型変速部16が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように前記切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を前記油圧制御回路42へ出力する。また、前記高出力走行判定手段54による高出力走行判定或いは前記増速側ギヤ段判定手段62により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、前記動力伝達装置10全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段を成立させるために前記切換制御手段50は前記切換型変速部16が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように前記切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を前記油圧制御回路42へ出力する。このように、前記切換制御手段50によって前記動力伝達装置10が有段変速状態に切り換えられると共に、その有段変速状態における2種類の変速段の何れかとなるように選択的に切り換えられて、前記切換型変速部16が副変速機として機能させられ、それに直列に設けられた前記自動変速部20が有段変速機として機能することにより、前記動力伝達装置10全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
また、前記切換制御手段50は、前記高車速判定手段52による高車速判定、前記高出力走行判定手段54による高出力走行判定、及び前記電気パス機能判定手段56による電気パス機能不全の判定の何れも判定されない場合には、前記動力伝達装置10を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域であると判定して、前記動力伝達装置10全体として無段変速状態を成立させるために前記切換型変速部16を無段変速状態として無段変速可能とするように前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0を解放させる指令を前記油圧制御回路42へ出力する。同時に、前記ハイブリッド制御手段58に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力すると共に、前記有段変速制御手段60には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは前記記憶部48に予め記憶された例えば図6に示すような変速線図に従って前記自動変速部20を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、前記有段変速制御手段60により、図2の係合表内において前記切換クラッチC0及び切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、前記切換制御手段50により無段変速状態に切り換えられた前記切換型変速部16が無段変速機として機能し、それに直列に設けられた前記自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、前記自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち前記伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。従って、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって前記動力伝達装置10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
前記ハイブリッド制御手段58は、前記エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、そのエンジン8と第1電動機M1及び/又は第2電動機M2との駆動力の配分を最適になるように変化させる。例えば、そのときの走行車速において、アクセルペダル操作量や車速から運転者の要求出力を算出し、運転者の要求出力と充電要求値から必要な駆動力を算出し、前記エンジン8の回転速度とトータル出力とを算出し、そのトータル出力とエンジン回転速度NEとに基づいて、所定の出力を得るように前記エンジン8を制御すると共に前記第1電動機M1の発電量を制御する。また、前記ハイブリッド制御手段58は、その制御を前記自動変速部20の変速段を考慮して実行したり、或いは燃費向上等のために前記自動変速部20に対する変速指令を行う。斯かるハイブリッド制御では、前記エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速V及び前記自動変速部20の変速段で定まる前記伝達部材18の回転速度とを整合させるために、前記切換型変速部16が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、前記ハイブリッド制御手段58は、無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立した予め記憶された最適燃費率曲線に沿って前記エンジン8が作動させられるように前記動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように前記切換型変速部16の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。
上記のように、前記ハイブリッド制御手段58は、前記第1電動機M1により発電された電気エネルギを前記インバータ44を通して前記蓄電装置46や第2電動機M2へ供給するので、前記エンジン8の動力の主要部は機械的に前記伝達部材18へ伝達される他、そのエンジン8の動力の一部は前記第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、前記インバータ44を通して電気エネルギの形で第2電動機M2或いは第1電動機M1へ供給され、その第2電動機M2或いは第1電動機M1から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、前記エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。また、前記ハイブリッド制御手段58は、前記エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、前記切換型変速部16の電気的CVT機能によって車両をモータ走行させることができる。更に、前記ハイブリッド制御手段58は、前記エンジン8の停止状態において前記切換型変速部16が有段変速状態(定変速状態)であっても前記第1電動機M1及び/又は第2電動機M2を作動させて車両をモータ走行させることもできる。
図6は、前記自動変速部20の変速判断を行うために前記記憶部48に予め記憶された変速線図(関係)であり、車速Vと駆動力関連値である出力トルクToutとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図(変速マップ)の一例である。この図6の実線はアップシフト線であり、一点鎖線はダウンシフト線である。また、破線は前記切換制御手段50による有段制御領域と無段制御領域との判定のための所定条件を定める判定車速V1及び判定出力トルクT1を示しており、高車速判定値である判定車速V1の連なりと高出力走行判定値である判定出力トルクT1の連なりである高車速判定線と高出力走行判定線を示している。更に、図6の破線に対して二点鎖線に示すように有段制御領域と無段制御領域との判定にヒステリシスが設けられている。この図6は判定車速V1及び判定出力トルクT1を含む、車速Vと出力トルクToutとをパラメータとして前記切換制御手段50により有段制御領域と無段制御領域との何れであるかを領域判定するための予め記憶された切換線図(切換マップ、関係)でもある。また、前記図6の破線は、例えば図7に示すエンジン回転速度NE及びエンジントルクTEをパラメータとする予め記憶された無段制御領域と有段制御領域との境界線としてのエンジン出力線を有する関係図(マップ)に基づいて前記自動変速部20の変速線図上に置き直された概念的な切換線である。換言すれば、図7は図6の破線を作るための概念図である。また、前記切換制御手段50は、この図7の関係図(マップ)から実際のエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとに基づいて、それらのエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとで表される車両状態が無段制御領域内であるか或いは有段制御領域内であるかを判定するものであってもよい。
図6の関係に示されるように、出力トルクToutが予め設定された判定出力トルクT1以上の高トルク領域、或いは車速Vが予め設定された判定車速V1以上の高車速領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行が前記エンジン8の比較的高トルクとなる高駆動トルク時、或いは車速の比較的高車速時において実行される一方、無段変速走行が前記エンジン8の比較的低トルクとなる低駆動トルク時、或いは車速の比較的低車速時すなわち前記エンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。同様に、図7の関係に示されるように、エンジントルクTEが予め設定された所定値TE1以上の高トルク領域、エンジン回転速度NEが予め設定された所定値NE1以上の高回転領域、或いはそれらエンジントルクTE及びエンジン回転速度NEから算出されるエンジン出力が所定以上の高出力領域が、有段制御領域として設定されているので、有段変速走行が前記エンジン8の比較的高トルク、比較的高回転速度、或いは比較的高出力時において実行される一方、無段変速走行が前記エンジン8の比較的低トルク、比較的低回転速度、或いは比較的低出力時すなわち前記エンジン8の常用出力域において実行されるようになっている。なお、図7における有段制御領域と無段制御領域との間の境界線は、高車速判定値の連なりである高車速判定線及び高出力走行判定値の連なりである高出力走行判定線に対応している。
以上のようにして、例えば、車両の低中速走行及び低中出力走行では、前記動力伝達装置10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保される一方、実際の車速Vが前記判定車速V1を越えるような高速走行では前記動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路で前記エンジン8の出力が前記駆動輪38へ伝達され、これにより電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上させられる。また、出力トルクTout等の駆動力関連値が判定トルクT1を越えるような高出力走行では前記動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ、専ら機械的な動力伝達経路で前記エンジン8の出力が前記駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる領域が車両の低中速走行及び低中出力走行となって、前記第1電動機M1が発生すべき電気的エネルギ(第1電動機M1が伝える電気的エネルギの最大値)を小さくでき、これにより前記第1電動機M1或いはそれを含む車両の駆動装置が一層小型化される。また、この高出力走行においては燃費に対する要求より運転者の駆動力に対する要求が重視されるので、無段変速状態より有段変速状態(定変速状態)に切り換えられるのである。これによって、運転者は例えば図8に示すような有段自動変速走行におけるアップシフトに伴うエンジン回転速度NEの変化すなわち変速に伴うリズミカルなエンジン回転速度NEの変化が楽しめる。
図9は、前記動力伝達装置10において、複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフトレバー72を備えた手動変速操作装置であるシフト操作装置70の構成を例示する図である。このシフト操作装置70は、例えば運転席の横に配設されており、上記シフトレバー72は、例えば図2の係合作動表に示されるように、前記自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つその自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、前記動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とする中立ポジション「N(ニュートラル)」、前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、又は前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションは、「P」ポジション及び「N」ポジションは車両を走行させないときに選択される非走行ポジションすなわち車両を駆動不能な非駆動ポジションであり、「R」ポジション、「D」ポジション及び「M」ポジションの各走行ポジションは例えば図2の係合作動表に示されるように前記クラッチC1及びクラッチC2の少なくとも一方が係合されるような車両を駆動可能な駆動ポジションでもある。また、「D」ポジションは最高速走行ポジションでもあり、「M」ポジションにおける例えば「4」レンジ乃至「L」レンジはエンジンブレーキ効果が得られるエンジンブレーキレンジでもある。
上記「M」ポジションは、例えば車両の前後方向において上記「D」ポジションと同じ位置において車両の幅方向に隣接して設けられており、上記シフトレバー72が「M」ポジションへ操作されることにより、「D」レンジ乃至「L」レンジの何れかがそのシフトレバー72の操作に応じて選択される。具体的には、この「M」ポジションには、車両の前後方向にアップシフト位置「+」、及びダウンシフト位置「−」が設けられており、上記シフトレバー72がそれ等のアップシフト位置「+」又はダウンシフト位置「−」へ操作されると、「D」レンジ乃至「L」レンジの何れかが選択される。例えば、「M」ポジションにおいて選択される「D」レンジ乃至「L」レンジの5つの変速レンジは、前記動力伝達装置10の自動変速制御が可能なトータル変速比γTの変化範囲における高速側(変速比が最小側)のトータル変速比γTが異なる複数種類の変速レンジであり、また、前記自動変速部20の変速が可能な最高速側変速段が異なるように変速段(ギヤ段)の変速範囲を制限するものである。また、上記シフトレバー72はスプリング等の付勢手段により上記アップシフト位置「+」及びダウンシフト位置「−」から、「M」ポジションへ自動的に戻されるようになっている。
図5に戻って、急制動判定手段64は、車両の急制動を判定する。具体的には、予め定められた関係から、ブレーキセンサにより検出されるフットブレーキ操作を示す信号及びGセンサ(車両加速度センサ)により検出される車両の前後加速度を示す加速度信号等に基づいて、車両の急制動を判定する。この判定は、単に車両の負の加速度(減速度)が予め定められた所定値以上であるか否かを判定するものであってもよく、その減速度が所定値以上である場合に車両の急制動を判定する。
車両前後方向傾斜算出部66は、車両の前後方向の傾斜(鉛直方向に垂直を成す平面に対する角度)を算出する。具体的には、予め定められた関係から、Gセンサにより検出される車両の前後加速度を示す加速度信号等に基づいて、車両の前後方向の傾斜角度を算出する。或いは、車速センサにより検出される実際の車速とアクセル開度センサにより検出されるアクセルペダルの操作量とに基づいて路面の勾配を算出し、その路面の勾配に対応する車両の傾斜角度を算出するものであってもよい。
ここで、前記ハイブリッド制御手段58は、前記急制動判定手段64により車両の急制動が判定される場合に、駆動力源としての前記エンジン8及び第1電動機M1等を介して前記動力伝達装置10の駆動を制御する急制動時制御を行う。具体的には、前記動力伝達装置10内において、急制動時に潤滑油の液面が所定位以上となる位置に配設された回転部材の回転速度を低下又は停止させる制御を行う。
図10は、前記動力伝達装置10内に溜め入れられた潤滑油の非急制動時における液面と急制動時における液面とを対比して例示する図である。なお、この図10では、前記動力伝達装置10の上側を省略し、下側のみを示している。また、この図10に示す液面は、発明を説明するために概略的に例示するものであり、そのケース12等に対する相対位置関係は必ずしも実際のものとは一致しない。前述のように、本実施例の動力伝達装置10は、車両において縦置きされるFR型車両に好適に用いられるものであり、図10に示すように、前記エンジン8に連結された側すなわち入力軸14側が車両進行方向(前進方向)に、前記差動歯車装置36に連結された側すなわち出力軸22側がその逆方向(後進方向)にそれぞれ相当する。車両の停止時や一定車速での走行時には、図10に一点鎖線で示すように、前記動力伝達装置10の内部に溜め入れられた潤滑油の液面は路面に対して略平行となる。一方、車両の急制動時においては、車体すなわちケース12を含む動力伝達装置10全体に負の加速がかかり、それに伴ってその動力伝達装置10の内部に溜め入れられた潤滑油が慣性により車両進行方向に移動させられ、図10に二点鎖線で示すように、その液面は車両進行方向において高く、その逆方向において低いものとなる。前記第1電動機M1は、前記動力伝達装置10内において前記エンジン8に比較的近い位置に配設されており、図10に二点鎖線で示すように、急制動時に潤滑油の液面が所定位以上となった場合、その潤滑油が前記第1電動機M1の回転子の回転によりかき混ぜられてブリーザから吹くおそれがある。本実施例のハイブリッド制御手段58は、斯かるブリーザ吹きを防止するため、上述のように前記急制動判定手段64により車両の急制動が判定される場合に、駆動力源としての前記エンジン8及び第1電動機M1等を介して前記動力伝達装置10の駆動を制御して、回転部材としての第1電動機M1の回転子の回転速度を低下又は停止させる急制動時制御を行う。
具体的には、前記ハイブリッド制御手段58は、前記急制動判定手段64により車両の急制動が判定される場合には、前記第1電動機M1の回転速度を低下又は停止させることにより回転部材としてのその第1電動機M1の回転子の回転速度を低下又は停止させる。また、好適には、斯かる急制動時制御の実行に際して、前記エンジン8の回転速度を低下又は停止させる。これにより、車両の急制動に際して図10に二点鎖線で示すように潤滑油が動力伝達装置10の前方(車両進行方向側)に移動した場合であっても、回転部材としての前記第1電動機M1の回転子の回転速度が低下乃至は停止させられるので潤滑油の攪拌が抑制され、ブリーザ吹きが好適に防止される。なお、前記エンジン8の停止と略同時に、前記切換クラッチC0を係合させてもよい。このようにすれば、その切換クラッチC0の係合により前記第1電動機M1の回転子の回転が停止させられ、上述の制御と同様の効果が得られる。
図11は、本実施例のハイブリッド制御手段58による急制動時駆動力源制御を説明するタイムチャートである。この図11に示すように、本実施例の急制動時制御では、先ず、時点t1において、運転者によりブレーキペダルの踏み込みが開始され、それに伴い車両に負の加速度が発生させられる。この時点t1から時点t2までの間のブレーキ操作及び車両加速度から車両の急減速が判定され、時点t2において、前記エンジン8の回転速度を低下させる制御が開始されると共に、前記第1電動機M1の回転速度を低下させる制御が開始される。斯かる駆動力源の出力を低下させる制御は、時点t3においてブレーキ踏力が所定値に達した後も継続され、時点t4において、前記エンジン8の回転速度が0とされてそのエンジン8の駆動が停止させられると共に、前記第1電動機M1の回転速度が0とされてその第1電動機M1の駆動が停止させられる。このように、本実施例のハイブリッド制御手段58は、好適には、前記急制動判定手段64により車両の急制動が判定された場合に、駆動力源としての前記エンジン8及び第1電動機M1の回転を停止させる制御を行う。
前記ハイブリッド制御手段58は、また、好適には、予め定められた関係から、前記車両前後方向傾斜算出部68により算出される車両の前後方向の傾斜に基づいて、前記急制動時駆動力源制御を実行する。換言すれば、前記ハイブリッド制御手段58による急制動時制御における回転部材の回転速度の許容範囲は、予め定められた関係から車両の前後方向の傾斜に応じて設定されるものである。図12は、斯かる制御を実行するために前記記憶部48等に予め記憶された急制動時のM1回転速度許容範囲マップを例示する図である。前記ハイブリッド制御手段58は、この図12に示すような回転速度許容範囲マップから、前記車両前後方向傾斜算出部66により算出される車両の前後方向の傾斜と、ブレーキスイッチやGセンサ等により検出されるブレーキ踏力或いは負の加速度(減速G)に基づいて、前記第1電動機M1の回転速度を制御する。すなわち、車両の前後方向の傾斜及びブレーキ踏力或いは減速Gが共に比較的小さく、図12に破線で区切られた3つの領域のうち左下の領域に該当する場合には、前記第1電動機M1の回転速度制限は無しとされる。すなわち、前記第1電動機M1の回転速度制御は実行されない。また、車両の前後方向の傾斜及びブレーキ踏力或いは減速Gが共に中程度であり、図12に破線で区切られた3つの領域のうち中央の領域に該当する場合には、前記第1電動機M1の回転速度制限は比較的大とされ、予め定められた許容回転速度範囲内でその第1電動機M1の回転速度制御が実行される。また、車両の前後方向の傾斜及びブレーキ踏力或いは減速Gが共に比較的大きく、図12に破線で区切られた3つの領域のうち右上の領域に該当する場合には、前記第1電動機M1の許容回転速度は0とされる。すなわち、前記第1電動機M1の回転速度を停止させる制御が実行される。なお、前述のように、本実施例のハイブリッド制御手段58は、前記第1電動機M1の回転速度制御に加えて前記エンジン8の回転速度制御をも実行してその第1電動機M1の回転子の回転速度を制御するものであるため、図12は、急制動時のエンジン回転速度許容範囲マップを例示する図であるとも言える。
図13は、前記電子制御装置40による急制動時駆動力源制御の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、ブレーキペダルの急踏込操作が行われたか否かが判断される。このS1の判断が肯定される場合には、S4以下の処理が実行されるが、S1の判断が否定される場合には、S2において、車両の負の加速度(減速G)が所定値以上であるか否かが判断される。このS2の判断が否定される場合には、S3において、非急制動時の駆動力源制御すなわち通常時の駆動力源制御が実行された後、本ルーチンが終了させられるが、S2の判断が肯定される場合には、前記ハイブリッド制御手段58の動作に対応するS4において、前記エンジン8が停止させられると共に、前記第1電動機M1の回転速度を0まで低下させる急制動時駆動力源制御が実行された後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S1及びS2が前記急制動判定手段64の動作に対応する。
このように、本実施例によれば、駆動に際して所定の軸心まわりに回転させられる回転部材を備えると共に、内部に潤滑油が移動可能に溜められた車両用動力伝達装置10の制御装置において、車両の急制動が判定される場合に、その急制動時に前記潤滑油の液面が所定位以上となる位置に配設された回転部材としての第1電動機M1の回転子の回転速度を低下又は停止させる急制動時制御を行うものであることから、急制動時に潤滑油が移動する部位にある前記第1電動機M1の回転子の回転速度が低下乃至は停止させられることで潤滑油の攪拌が抑制され、延いてはブリーザから潤滑油が吹くのを好適に防止できる。すなわち、急制動時におけるブリーザ吹きを好適に抑制する車両用動力伝達装置10の制御装置を提供することができる。
また、燃料の燃焼により駆動力を発生させるエンジン8を駆動力源として備えたものであり、前記急制動時制御の実行に際して、そのエンジン8の回転速度を低下又は停止させるものであるため、駆動力を発生させるエンジン8の回転速度を低下ないしは停止させることで、潤滑油の攪拌を好適に防止することができる。
また、電気エネルギにより駆動力を発生させる第1電動機M1を駆動力源として備え、前記回転部材はその第1電動機M1により回転速度の変化を可能とされたものであり、前記急制動時制御の実行に際して、前記第1電動機M1の回転速度を低下又は停止させることにより前記回転部材の回転速度を低下又は停止させるものであるため、前記回転部材の回転に関与する第1電動機M1の回転速度を低下ないしは停止させることで、潤滑油の攪拌を好適に防止することができる。
また、前記急制動時制御における前記第1電動機M1の回転速度の許容範囲は、予め定められた関係から車両の前後方向の傾斜に応じて設定されるものであるため、前記潤滑油の移動と密接な関係を有する車両の前後方向の傾斜に応じて前記第1電動機M1の回転速度を低下ないしは停止させることで、潤滑油の攪拌を更に好適に防止することができる。
また、前記エンジン8に連結された第1回転要素RE1と、前記第1電動機M1に連結された第2回転要素RE2とを備えた差動部32において、その第1電動機M1の運転状態が制御されることにより入力回転速度と出力回転速度との差動状態が制御される動力分配装置34を備え、前記回転部材は、前記差動部32の回転要素であるため、実用的なハイブリッド駆動装置において、急制動時におけるブリーザ吹きを好適に抑制することができる。
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
例えば、前述の実施例では、車両の急制動時に、前記動力伝達装置10に備えられた回転部材として、前記第1電動機M1の回転子の回転速度を制御する例を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、急制動時に前記潤滑油の液面が所定位以上となる位置に配設された回転部材に対応して広く適用され得るものである。すなわち、急制動時に車両前方に移動した前記潤滑油を攪拌し得る任意の回転部材の回転速度を制御することにより、本発明の一応の効果は得られる。
また、前述の実施例では、FR車両等に好適に搭載される縦置き型の動力伝達装置10に本発明が適用された例を説明したが、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両等に好適に搭載される横置き型の動力伝達装置においても、急制動時に前記潤滑油の液面が所定位以上となる位置に配設された回転部材の回転速度を低下又は停止させる急制動時制御を行うことで、本発明の一応の効果は得られる。
また、前述の実施例において、前記動力伝達装置10は、前記切換型変速部16が差動状態と非差動状態とに切り換えられることで電気的な無段変速機としての機能する無段変速状態と有段変速機として機能する有段変速状態とに切り換え可能に構成されていたが、無段変速状態と有段変速状態との切換えは前記切換型変速部16の差動状態と非差動状態との切換えにおける一態様であり、例えば前記切換型変速部16が差動状態であってもその切換型変速部16の変速比を連続的ではなく段階的に変化させて有段変速機として機能させるものであってもよい。換言すれば、前記動力伝達装置10(切換型変速部16)の差動状態/非差動状態と、無段変速状態/有段変速状態とは必ずしも一対一の関係にある訳ではないので、前記動力伝達装置10は、必ずしも無段変速状態と有段変速状態とに切り換え可能に構成される必要はない。
また、前述の実施例において、前記エンジン8、第1電動機M1、第2電動機M2、及び動力分配装置34は、共通の軸心上に同心に配置されていたが、必ずしも同心に配置される必要はない。例えば、前記第1電動機M1がカウンタギヤを介して第1サンギヤS1(第2要素RE2)に連結されて、その第1電動機M1と第1サンギヤS1との回転方向が逆になるような場合には、その第1電動機M1と第2電動機M2との回転方向を反対とすることで第2要素RE2及び第3要素RE3が同じ方向に回転させられる。
また、前述の実施例における動力分配装置34では、第1キャリヤCA1が前記エンジン8に連結され、第1サンギヤS1が前記第1電動機M1に連結され、第1リングギヤR1が前記伝達部材18に連結されたいたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、前記エンジン8、第1電動機M1、及び伝達部材18は、前記第1遊星歯車装置24の3要素CA1、S1、R1のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
また、前述の実施例では、前記切換型変速部16の出力部材である伝達部材18と駆動輪38との間の動力伝達経路に前記自動変速部20が介装されていたが、その代替として例えば自動変速機の一種である無段変速機(CVT)等の他の形式の動力伝達装置が設けられていてもよい。
また、前述の実施例では、前記エンジン8以外に前記第1電動機M1或いは第2電動機M2のトルクによって前記駆動輪38を駆動するハイブリッド車両用の動力伝達装置10に本発明が適用された例を説明したが、例えばハイブリッド制御を行わない電気的CVTと称される無段変速機としての機能のみを有するような車両用の駆動装置であっても本発明は適用され得る。
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。