以下に本発明の実施の形態を説明するが、本発明の構成要件と、明細書または図面に記載の実施の形態との対応関係を例示すると、次のようになる。この記載は、本発明をサポートする実施の形態が、明細書または図面に記載されていることを確認するためのものである。従って、明細書または図面中には記載されているが、本発明の構成要件に対応する実施の形態として、ここには記載されていない実施の形態があったとしても、そのことは、その実施の形態が、その構成要件に対応するものではないことを意味するものではない。逆に、実施の形態が構成要件に対応するものとしてここに記載されていたとしても、そのことは、その実施の形態が、その構成要件以外の構成要件には対応しないものであることを意味するものでもない。
本発明の一側面の検出装置は、複数のエレメント(例えば、図4のセンサエレメント52)で構成される圧力センサ(例えば、図3の圧力検出部42)を備える検出装置(例えば、図1のセンサ21−1)において、前記圧力センサにより検出された圧力値を用いて、圧力中心位置を演算する圧力中心演算手段(例えば、図7の圧力中心演算部122)と、前記圧力中心演算手段により演算された前記圧力中心位置の時間変化を用いて、前記圧力中心位置の移動値を演算する圧力中心移動演算手段(例えば、図7の圧力中心移動演算部123)と、前記圧力中心移動演算手段により演算された前記圧力中心位置の移動値に基づいて、滑りを検出する滑り検出手段(例えば、図7の滑り覚検出部124)とを備える。
前記圧力センサにより検出された圧力値を用いて、前記圧力センサへの物体の接触検出を行ったエレメントを検出する接触検出手段(例えば、図7の接触検出部121)をさらに備え、前記圧力中心演算手段は、前記接触検出手段により検出された前記エレメントからの圧力値を用いて、前記圧力中心位置の移動値を演算することができる。
前記圧力センサは、その表面に粘弾性材料で構成される粘弾性体(例えば、図3の変形部41)を有することができる。
前記粘弾性体と前記圧力センサは、二色成形法により薄膜のシリコンゴム(例えば、図23のシリコンゴム222)と一体化されていることができる。
前記粘弾性体(例えば、図23の粘弾性体221)は、静電シールド材料が混合されて成形されていることができる。
前記粘弾性体と前記圧力センサは、二色成形法により薄膜のシリコンゴム(例えば、図23のシリコンゴム222)と一体化されていることができる。
本発明の一側面の検出方法またはプログラムは、複数のエレメントで構成される圧力センサを備える検出装置の検出方法またはプログラムにおいて、前記圧力センサにより検出された圧力値を用いて、圧力中心位置を演算し(例えば、図9のステップS32)、演算された前記圧力中心位置の時間変化を用いて、前記圧力中心位置の移動値を演算し(例えば、図9のステップS33)、演算された前記圧力中心位置の移動値に基づいて、滑りを検出する(例えば、図9のステップS34)ステップを含む。
以下、図を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明を適用したロボットハンドマニピュレータの外観の構成例を表している。
ロボットハンドマニピュレータは、肩関節部11、上腕部12、肘関節部13、前腕部14、手首部15、および手部16などからなるロボットハンド1と、ロボットハンド1の肩関節部11を介して、ロボットハンド1を支持する支持部2で構成されている。
ロボットハンド1の上腕部12および前腕部14には、それぞれセンサ21−1および21−2が設けられている。また、図1の左側に拡大して示すように、ロボットハンド1の手部16を構成する掌には、センサ21−3および21−4が設けられており、手部16を構成する親指の指掌面における第1関節より上には、センサ21−5、第1関節と第2関節の間には、センサ21−6がそれぞれ設けられており、人指し指の指掌面における第1関節より上には、センサ21−7、第1関節と第2関節の間には、センサ21−8がそれぞれ設けられている。
さらに、中指の指掌面における第1関節より上には、センサ21−9、第1関節と第2関節の間には、センサ21−10がそれぞれ設けられており、薬指の指掌面における第1関節より上には、センサ21−11、第1関節と第2関節の間には、センサ21−12がそれぞれ設けられており、小指の指掌面における第1関節より上には、センサ21−13、第1関節と第2関節の間には、センサ21−14がそれぞれ設けられている。
なお、センサ21−1乃至21−14を特に区別する必要がない場合、以下、単にセンサ21と称する。
ロボットハンドマニピュレータは、ロボットハンド1の肩関節部11、肘関節部13、手首部15や、手部16の指関節部などの各関節部に内蔵されるアクチュエータを動作させて、図1に示されるマグカップなどの任意物体に、手部16などの各センサ21を接触させる。
ロボットハンド1に設けられた各センサ21は、そのセンサ面に垂直な法線力(例えば、圧力)のみを検出する静電容量型圧力センサで構成され、その表面に、人間の皮膚のような柔らかさを有する粘弾性体を有している。この粘弾性体は、外部から受ける力とその形によって様々な形状に変化し、それによって内部のセンサ21に対して圧力が拡散される。センサ21は、粘弾性体に物体が接触した際に、その拡散された圧力値(以下、分布圧力値とも称する)を検出し、検出した分布圧力値に基づいて、ロボットハンド1による物体の安定把持、器用な操りなどの複雑な制御を行うために必要な把持情報である、把持物体と指先間の滑りを検出する。
ここで、本実施の形態の把持、操りにおける「滑り」とは、次のように定義される。
一般的には、指と対象物の間の相対運動を「滑り」と呼ぶ。
この相対運動には大きく分けて、「並進運動」と「回転運動」の2つがあり、前者の「並進運動」は、把持接触点における把持力(法線力)と直交する方向(せん断方向、接線方向)への運動であり、後者の「回転運動」は、接触を保ちながら回転移動する「転がり運動」と、把持接触点の「法線軸まわりの回転運動」である。これらを、それぞれ、並進滑り、回転滑りと呼んで区別するが、これらは、同時に組み合わさって発生することが多い。
また一方で、把持の安定性やロバスト性などを考慮すると、指先は柔軟な構造とすることが望ましい。この柔軟な指先で対象物を把持している際に対象物へのせん断力を加えていくと、接触領域の外周部から徐々に相対運動が生じて、固着領域と滑り領域が混在する「初期局所滑り」が発生する。さらに、せん断力を加えていくと、ある点を境にして、動摩擦係数に支配される運動状態(狭義の「滑り」)に至る。この滑り出しに相当する「初期局所滑り」時には、振動が発生するため、その観測が可能である。さらに、初期局所滑りに至る前の段階において、指先と対象物の接触領域は略不変であるものの、柔軟素材が変形して「ずれ」が発生する状態も存在する。
把持、操りにおいて、指と対象物の間の完全な相対運動のみを基に制御していたのでは制御の遅れによりうまく実現できないことが多い。したがって、「滑り」を予知し、未然に防ぐことも重要であると考え、上記の「初期局所滑り」および「ずれ」も含めたものまでを広義の「滑り」と呼ぶことにする。
なお、図1のセンサ21においては、このように定義される「滑り」のうち、「初期局所滑り」および「ずれ」を含めた「並進運動」と「回転運動」を検出することができる。
ロボットハンドマニピュレータは、検出された把持物体と指先間の滑りに基づき、センサ21自体の柔らかさおよび表面の摩擦によるグリップ性などを利用して、各関節部のアクチュエータを動作させることで、マグカップを把持し、マグカップの移動や運搬を行う。
以上のように、ロボットハンドマニピュレータは、多種多様な大きさや形状、表面状態、重量などの任意物体を器用に把持して操ることができる。
図2は、本発明のセンサの外観の構成例を示す斜視図である。
センサ21は、大きく分けて、物体や人の指などが触れる入力部31、変形する材料で構成される入力部31を支える固定部32、および電源を入力し、センサ21の検出結果などを、例えば、ロボットハンドマニピュレータのメイン制御部101(後述する図6)などに出力する外部接続部33により構成されている。
図2の例においては、入力部31は、入力面31aが四角形である四角柱型で形成されている。なお、以下、特に言及しない場合、この入力面31aと平行な面を、xyz座標系のxy平面とし、入力面31aに垂直な方向をz軸方向として説明する。
図3は、図2のセンサ21の内部の構成例を示している。図3の例においては、センサ21を真上から見た上面図と、センサ21の側断面図が示されている。なお、図3の上面図においては、内部構成がわかるように、入力部31および変形部41が段階的に透過された状態で示されている。
入力部31は、大きく分けて、変形部41および圧力検出部42により構成される。すなわち、入力部31は、上層の変形部41と下層の圧力検出部42からなる多層構造となっている。
変形部41は、例えば、シリコンゲル材料のような粘弾性特性を有する粘弾性材料(粘弾性体)で構成されており、外部からの荷重により容易に変形が可能である。圧力検出部42は、例えば、静電容量変化を利用して、圧力を検出する静電容量型圧力センサなどで構成されている。
この変形部41の変形によって応力緩和や応力分散が生じ、内部の圧力検出部42に対して圧力が拡散されるので、粘弾性体の変形による補間特性に基づき、圧力検出部42は、静電容量型圧力センサの空間分解能以上のセンシング性能を得ることができる。
粘弾性材料には、耐熱、耐寒、しゅう動、耐摩擦性の高いシリコンゲルが適しているが、他の材料を用いることもできる。また、固定部32との境界は拘束面になっており、接着や一体成形により固着されている。そのため、ゴム材料同等の非圧縮性から、例えば、側面や上面の一部が膨らむ、いわゆるバルジング現象を起こすこととなり、その形は、荷重値や入力面形状により様々な特徴をあらわすことが、出願人による実験の結果、認められている。
図4は、図3の圧力検出部42としての静電容量型圧力センサの例を示す図である。
圧力検出部42は、例えば、フレキシブル基板51上にマトリクス状に配置された複数の圧力検出素子(以下、センサエレメントとも称する)52により構成される。すなわち、圧力検出部42を構成するセンサは、分布型圧力センサとも呼ばれる。なお、図4の例においては、説明の便宜上、1つのセンサエレメントにしか符号が付されていない。
図4の例の場合、圧力検出部42は、縦21列×横8行の168個のセンサエレメント52により構成されており、センサエレメント52の各列および各行からは、それぞれ、引き出し線が信号処理部53に入力されている。これらの各センサエレメント52により検出された分布圧力値は、この引き出し線を介して、信号処理部53に入力され、信号処理部53により所定の信号処理が行われる。そして、センサ21の外部には、この信号処理の結果が出力される。
これらの圧力検出部42および信号処理部53が配置されたフレキシブル基板51の上に、粘弾性材料からなる変形部41が配置されて、センサ21が構成される。
図5は、粘弾性材料の圧縮および引張特性の例を示している。
縦軸は、粘弾性材料に荷重(外力)が働くと、これに抵抗して生じる応力[MPa]を表しており、横軸は、材料に荷重が働くことで現れる変形の、元の状態に対する度合いであるひずみ(歪)を表している。
ひずみが0.0である位置(すなわち、ひずみが生じていない位置)が粘弾性材料に外力が働いてない状態であり、ひずみが0.0である位置から圧縮の荷重が加わると、ひずみは、-0.8辺りまでしか変化せず、生じる応力は、ひずみが-0.5辺りまで、マイナス方向(図中下方向)に少しずつ増加し、ひずみが-0.6を超えた辺りから-0.8辺りまでは、急激に増加する。
一方、ひずみが0.0の位置から引張の荷重が加わると、ひずみは、2.0辺りまで変化し、生じる応力は、ひずみが2.0辺りまで、プラス方向(図中上方向)に、圧縮の場合の応力の増加に比してなだらかに増加する。
以上のように、粘弾性材料における圧縮の荷重に対するひずみは、ある一定の度合いを超えてしまうと、その度合い以上はあまり大きくなることはなく、その代わりにマイナス方向の応力が増加する。すなわち、粘弾性材料のひずみ(すなわち、変形)と応力には密接な関係がある。
また、粘弾性材料は、一般的に柔らかくなるほど表面の粘着性が高くなり、物体把持や人への接触を想定した場合、それをコーティングやパウダー処理などで改質し、摩擦を低減する必要がある。しかしながら、これらの改質方法では、耐久性が低く、使用環境で表面状態が変化する可能性が高いため、改質方法によっては、表面にムラができて、センサ21表面の位置的な特性差が発生する恐れがある。
そこで、図23を参照して後述するように、粘弾性材料である変形部41の表面に、二色成形法で、薄膜のシリコンゴムを一体化して入力部31を構成することで、表面の薄膜のシリコンゴムにより、内部(すなわち、粘弾性体)の柔らかさを損なうことなく、耐久性向上や摩擦のコントロールをすることが可能となる。
図6は、図1のロボットハンドマニピュレータの内部の電気的な構成例を示している。なお、図6の例の場合、説明の便宜上、センサ21は、1つしか図示されていない。
図6の例においては、ロボットハンドマニピュレータは、メイン制御部101、アクチュエータ102−1乃至102−n、および複数のセンサ21により構成されている。
メイン制御部101は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等を内蔵しており、CPUにおいて、メモリに記憶された制御プログラムが実行されることにより、各種の処理を行う。すなわち、メイン制御部101は、各センサ21により検出された把持物体と指先間の滑りの情報を受け、各センサ21からの把持物体と指先間の滑りの情報に基づき、センサ21自体の柔らかさおよび表面の摩擦によるグリップ性などを利用して、アクチュエータ102−1乃至102−nのうちの必要なものを駆動させ、これにより、ロボットハンド1に、物体を把持させて、移動や運搬などを行わせる。
アクチュエータ102−1乃至102−nは、それぞれ、ロボットハンド1の各関節部分(すなわち、肩関節部11、肘関節部13、手首部15や、手部16の指関節部)に配設されており、これにより、各関節部分は、所定の自由度を持って回転することができるようになっている。アクチュエータ102−1乃至102−nは、メイン制御部101からの駆動信号に従って駆動する。
センサ21は、圧力検出部42および信号処理部53により構成されている。圧力検出部42は、図4を参照して上述したように、複数のセンサエレメント52により構成されており、複数のセンサエレメント52により静電容量変化を検出原理として検出された分布圧力値を、信号処理部53に出力する。なお、分布圧力値の検出原理は、静電容量変化以外であってもよい。例えば、抵抗値変化とすることもできるし、分布圧力値がとれるのであれば、感圧ゴムを並べただけのセンサであってもよい。
信号処理部53は、圧力検出部42からの分布圧力値を用いて、所定の信号処理を行うことで、把持物体と指先間の滑りを検出し、検出した滑りの情報を、メイン制御部101にリアルタイムに出力する。
図7は、図6の信号処理部53の構成例を示している。図7の例において、信号処理部53は、接触検出部121、圧力中心演算部122、圧力中心移動演算部123、および滑り覚検出部124により構成されている。圧力検出部42からの分布圧力値の情報は、接触検出部121および圧力中心演算部122に入力される。
接触検出部121は、圧力検出部42からの分布圧力値を用いて、各センサエレメント52における接触検出を行い、センサ21(変形部41)への物体の接触検出が行われたセンサエレメント52の情報を、圧力中心演算部122に出力する。
圧力中心演算部122は、圧力検出部42からの分布圧力値を用いて、圧力中心位置を演算する。なお、このとき、圧力中心演算部122は、接触検出部121により接触検出が行われたセンサエレメント52の分布圧力値のみを用いて、圧力中心位置を演算することもできる。圧力中心演算部122からの圧力中心位置の情報は、圧力中心移動演算部123に出力される。
圧力中心移動演算部123は、圧力中心演算部122からの圧力中心位置を用いて、圧力中心の移動値を演算する。すなわち、圧力中心移動演算部123は、圧力中心演算部122からの圧力中心位置を時系列に蓄積する。圧力中心移動演算部123は、例えば、その蓄積された圧力中心位置の移動平均値の差分、または、圧力中心位置の差分を求め、求められた差分を、圧力中心移動演算値として、滑り覚検出部124に出力する。
滑り覚検出部124は、例えば、圧力中心移動演算部123からの演算結果(すなわち、圧力中心移動演算値)を用いて、圧力中心移動検出演算を行い、圧力中心移動検出演算の演算結果により、滑りを検出したり、圧力中心移動演算部123からの演算結果を用いて、滑りを検出する。なお、圧力中心移動検出演算の演算結果を用いる場合には、滑り覚検出部124は、圧力中心移動演算値に、圧力中心移動演算値の大きさに応じた係数を乗算することで、圧力中心移動検出演算を行い、圧力中心移動検出演算の演算結果により、滑りを検出する。
すなわち、滑り覚検出部124は、圧力中心移動検出演算の演算結果、または、圧力中心移動演算部123からの演算結果が、所定の閾値(以下、判定用閾値と称する)を超えたか否かを判定し、判定用閾値を超えたと判定した場合、滑りを検出する。
次に、図8のフローチャートを参照して、図1のロボットハンドマニピュレータの動作およびそれに伴う情報検出処理について説明する。なお、図8の例においては、図1のロボットハンドマニピュレータの物体把持を例に説明する。
メイン制御部101は、ステップS11において、メモリに記憶された制御プログラム、または、後述するステップS14において検出された各センサ21から把持物体と指先間の滑りの情報に基づき、センサ21自体の柔らかさおよび表面の摩擦によるグリップ性などを利用して、ロボットハンド1の各関節部などに設けられるアクチュエータ102−1乃至102−nのうちの必要なものを駆動させ、ロボットハンド1による所定の物体(例えばマグカップ)の把持動作を制御する。
ステップS12において、メイン制御部101からの把持動作の制御のもと、ロボットハンド1の対応するアクチュエータ102は、把持動作を行う。これにより、ロボットハンド1の各部に備えられているセンサ21が、把持する物体と接触し、その物体の形状とそれにより発生する応力により粘弾性材料で構成される変形部41が変形を始める。それによって内部の圧力検出部42に対して圧力が拡散される。
ステップS13において、複数のセンサエレメント52からなる圧力検出部42は、拡散された圧力(分布圧力)を検出する。すなわち、圧力検出部42を構成する複数のセンサエレメント52は、それぞれ、圧力が加わることで静電容量が変化するため、この静電容量の変化に基づいて、加えられた分布圧力を検出し、その値を、信号処理部53に出力する。
ステップS14において、信号処理部53は、圧力検出部42からの各センサエレメント52の分布圧力値を用いて、把持物体と指先間の滑りおよび滑りの方向を検出し、検出した滑りの情報を、メイン制御部101にリアルタイムに出力する。なお、このステップS14における滑り検出処理は、図9を参照して後述する。
ステップS15において、メイン制御部101は、動作を終了するか否かを判定する。ステップS15において、動作を終了しないと判定した場合、処理は、ステップS11に戻り、それ以降の処理を繰り返す。すなわち、メイン制御部101は、ステップS14において検出された把持物体と指先間の滑りの情報に基づいて、ロボットハンド1の動作を制御する。一方、ステップS15において、終了すると判定された場合、図8の物体把持処理は終了される。
次に、図9のフローチャートを参照して、図8のステップS14の滑り検出処理について詳しく説明する。例えば、圧力検出部42が、水平方向(x)にm個(x=0,1,2,…,m-1)、垂直方向(y)にn個(y=0,1,2,…,n-1)のm×n個(図4の例の場合は、縦を水平方向とみて、m=21,n=8)のセンサエレメント52からなる静電容量型圧力センサで構成されているとする。
ステップS31において、接触検出部121は、圧力検出部42からの分布圧力値を用いて、各センサエレメント52における接触検出を行う。例えば、接触検出部121は、それぞれのセンサエレメント52の出力(すなわち、圧力値)P(x,y)がある閾値th(x,y)を超えた場合、すなわち、次の式(1)を満たした場合、そのセンサエレメント52が、入力部31(変形部41)への物体の接触を検出したとする。
なお、th(x,y)は、全てのセンサエレメント52に対して同じ閾値であってもよい。
または、例えば、接触検出部121は、それぞれのセンサエレメント52の出力P(x,y)の総和がある閾値thを超えたら、すなわち、次の式(2)を満たした場合、それらのセンサエレメント52が接触を検出したとしてもよい。
以上のようにして接触を検出したセンサエレメント52の情報は、圧力中心演算部122に出力される。接触検出が行われたら、次に、接触位置検出が行われる。検出される接触位置は、例えば、圧力中心位置である。
ステップS32において、圧力中心演算部122は、圧力検出部42からの分布圧力値を用いて、圧力中心位置を求める。それぞれのセンサエレメント52により検出される圧力値をP(x,y)として、各センサエレメント52の単位面積S(x,y)とすると、圧力中心位置COPx,COPyは、次の式(3)で求められる。
すなわち、式(3)の右辺の分母は法線方向にかかる力の総和であり、右辺の分子は、トルクの総和であるので、式(3)によれば、トルクがかかっている位置の代表点としての圧力中心位置が求められる。
なお、図4の例の場合のように、各センサエレメント52の単位面積S(x,y)が全て同じ場合、圧力中心位置COPx,COPyは、簡易的に、次の式(4)で求められる。
なお、ここで、式(3)および式(4)では、全てのセンサエレメント52の圧力値P(x,y)を用いたが、式(1)または式(2)を満たす、すなわち、接触を検出したセンサエレメント52の圧力値P(x,y)のみを用いて、圧力中心位置COPx,COPyを求めることもできる。この場合、接触が検出されないときには圧力中止位置が求められないので、演算を止めておくことができる。
また、図4の例の場合、センサエレメント52を水平方向および垂直方向にそれぞれ配置した例を説明しているが、センサエレメント52は、水平方向だけや垂直方向だけに配置した場合にも同様な処理を行うことができる。センサエレメント52を水平方向だけに配置した場合は、n=0の場合であり、圧力中心位置COPxの結果のみが用いられる。また、センサエレメント52を垂直方向だけに配置した場合は、m=0の場合であり、圧力中心位置COPyの結果のみが用いられる。
以上のようにして求められる圧力中心位置COPx,COPyは、圧力値に応じて0≦COPx≦m-1, 0≦COPy≦n-1の値しかとらない。したがって、圧力中心位置COPx,COPyを圧力中心移動演算部123に渡すことにより、接触位置検出の検出結果が、圧力中心移動演算部123において利用可能になる。
ステップS33において、圧力中心移動演算部123は、圧力中心演算部122からの圧力中心位置を時系列に蓄積し、圧力中心移動演算を行う。
例えば、圧力中心位置の時系列情報を、それぞれ、COPx(t)およびCOPy(t)とする。圧力中心移動演算部123は、微小な変動分を吸収するため、COPx(t)およびCOPy(t)に対して、ローパスフィルタ、または移動平均を行う。ここでは、演算がより簡単な移動平均を用いた場合について説明する。なお、変動(ノイズ)が少ない場合には、ローパスフィルタや移動平均処理を行わなくてもよい。
移動平均をとる数をMとすると、移動平均COPxMA(t)およびCOPyMA(t)は、時系列で蓄積されたCOPx(t)およびCOPy(t)を用いて、次の式(5)で表される。
圧力中心移動演算部123は、求められた移動平均COPxMA (t)およびCOPyMA (t)も時系列で蓄積する。圧力中心移動演算部123は、蓄積された移動平均値を用いて、圧力中心移動演算値を次の式(6)のようにして求める。
すなわち、式(6)においては、例えば、時刻tの移動平均値と、時刻t-1、時刻t-2、および時刻t-3などとの移動平均値との差分が求められる。すなわち、複数回の時間の変化が求められる。この移動平均値の差分である圧力中心移動演算値Dx(t,i)およびDy(t,i)は、滑り覚検出部124に出力される。
ステップS34において、滑り覚検出部124は、圧力中心移動演算部123からの圧力中心移動演算値Dx(t,i)およびDy(t,i)を用いて、滑り(すなわち、滑り覚)を検出する。このステップS34における処理を具体的に説明すると、滑り覚検出部124は、まず、移動検出係数Kx(i)およびKy(i)を、式(7)を用いて求める。
ここで、thresholdは一定値であり、Cs,Clは、0<Cs<Clの定数である。例えば、Cs=1、およびCl=2を用いる。したがって、threshold ・iは、iが大きくなると大きくなる値である。すなわち、移動検出係数Kx(i)およびKy(i)は、圧力中心移動演算値Dx(t,i)およびDy(t,i)の大きさに応じて求められる係数、さらに具体的には、圧力中心移動演算値Dx(t,i)およびDy(t,i)の大きさと、時間に応じて大きくなる値との比較結果に応じて求められる係数である。なお、thresholdは可変の値であってもよい。
そして、滑り覚検出部124は、式(6)および式(7)により求めた値を用いて圧力中心移動検出演算を行う。この圧力中心移動検出演算の演算式は、式(8)で表される。
さらに、滑り覚検出部124は、式(8)により求めた値を用いて滑り覚検出演算を行う。この滑り覚検出演算の演算式は、式(9)で表される。
式(9)により求められる滑り覚検出値SdxおよびSdyは、滑り量が増大するとその量が増加し、方向成分がほぼ保存される性質を有する量である。そして、滑り覚検出部124は、この滑り覚検出値SdxおよびSdyが、判定用閾値を超えたと判定したときに、滑りを検出する。
なお、図21を参照して後述するが、式(9)におけるNの値を大きく、式(7)におけるthresholdを小さくすることで、非常にゆっくりと滑る場合の滑りも検出することができるようになり、Nの値を小さく、thresholdを大きくすることで、高速に滑った場合の滑りのみを検出することができる。したがって、滑り覚検出部124においては、複数のNに対して、また複数のthresholdに対して演算を行うことで、複数の種類の滑り覚検出値SdxおよびSdyを取得することができ、それを、検出目的に応じて使い分けることができる。
以上のようにして、滑り覚検出部124により検出された滑りと滑りの方向は、滑りの情報として、メイン制御部101にリアルタイムに出力される。これにより、メイン制御部101は、ロボットハンド1の物体把持の動作を正確に制御することができる。
なお、上述した図9のステップS33において求められる圧力中心移動演算値Dx(t,i)およびDy(t,i)は、式(6)に限らず、例えば、変動が少ない場合には、時系列で蓄積されたCOPx(t)およびCOPy(t)を用いて、次の式(10)で求めることも可能である。
さらに、上述した図9のステップS34において求められる滑り覚検出値SdxおよびSdyは、式(9)に限らず、次のようにして求めることも可能である。
例えば、極めて変動が少ない場合、滑り覚検出値SdxおよびSdyは、それぞれ、Dx(t,i)およびDy(t,i)のiを1として演算される。すなわち、滑り覚検出値SdxおよびSdyは、次の式(11)で表される。
なお、この場合、滑り覚検出値SdxおよびSdyを複数の判定用閾値に対して比較を行うことで、ゆっくり滑ることや高速に滑ることを検出できる。例えば、小さい判定用閾値と比較することでゆっくり滑ることを検出することができ、大きい判定用閾値と比較することで高速に滑ることを検出することができる。
さらに、上記ほどではないが、変動が少ない場合、滑り覚検出値SdxおよびSdyは、それぞれDx(t,i)およびDy(t,i)のiをNとして演算することも可能である。この場合、滑り覚検出値SdxおよびSdyは、次の式(12)で表される。
この場合にも、滑り覚検出値SdxおよびSdyを、複数のNと複数の判定用閾値に対して比較を行うことで、非常にゆっくり滑る場合でも、高速に滑る場合にもそれぞれ検出することができる。すなわち、Nを大きくして、判定用閾値を小さくすることで、ゆっくり滑ることが検出され、Nを小さくして、判定用閾値を大きくすることで、高速に滑ることが検出される。
また、移動平均をとった場合も同様であり、移動平均をとった場合の滑り覚検出値SdxおよびSdyも、それぞれ、Dx(t,i)およびDy(t,i)のiを1として演算することができ、それぞれDx(t,i)およびDy(t,i)のiをNとして演算することもできる。すなわち、移動平均をとった場合におけるDx(t,i)およびDy(t,i)のiを1として演算したときの滑り覚検出値SdxおよびSdyは、次の式(13)で表され、移動平均をとった場合におけるDx(t,i)およびDy(t,i)のiをNとして演算したときの滑り覚検出値SdxおよびSdyは、次の式(14)で表される。
そして、前者のとき(すなわち、移動平均をとった場合におけるDx(t,i)およびDy(t,i)のiを1として演算したとき)も、滑り覚検出値SdxおよびSdyを、複数の判定用閾値に対して比較を行うことで、ゆっくり滑ることや高速に滑ることを検出できる。例えば、小さい判定用閾値と比較することでゆっくり滑ることを検出することができ、大きい判定用閾値と比較することで高速に滑ることを検出することができる。
また、後者のとき(すなわち、移動平均をとった場合におけるDx(t,i)およびDy(t,i)のiをNとして演算したとき)も、滑り覚検出値SdxおよびSdyを、複数のNと複数の判定用閾値に対して比較を行うことで、非常にゆっくり滑る場合でも、高速に滑る場合にもそれぞれ検出することができる。すなわち、Nを大きくして、判定用閾値を小さくすることで、ゆっくり滑ることが検出され、Nを小さくして、判定用閾値を大きくすることで、高速に滑ることが検出される。
次に、センサ21による効果について説明する。
図10は、荷重前と荷重後の入力部31の形状の例を示している。なお、図10の例において、図中右方向がxyz座標系のx軸の正方向を表し、図中上方向がz軸の正方向を表している。
入力部31は、上述したように、粘弾性体の変形部41と圧力検出部42からなるため、外部からの荷重により、様々な形状に容易に変形が可能である。
また、入力部31と固定部32との境界は拘束面となっており、接着や一体成形により固着されている。このため、指Aなどの入力部31の押下により入力部31にz軸の負方向(図中下方向)に荷重Fzがかけられると、ゴム材料同等の非圧縮性から、荷重後の入力部31においては、点線に示されるもとの形状よりも側面や上面の一部が膨らむ、いわゆるバルジング現象が発生して、その形状が変形し、応力分散(緩和)により圧力分布が発生する。
例えば、荷重前の状態から、荷重後の状態に示されるように、指Aなどにより入力部31にz軸の負方向に荷重Fzがかけられ続けると、圧力検出部42を構成するセンサエレメント52のうち、荷重Fzによる圧力中心位置Cに位置するセンサエレメント52が計測する圧力値は、図11の圧力値と時間のグラフ(図11の図中下のグラフ)に示されるように、段々と上がり、所定の値に達すると、その所定の値が維持される静定状態となる。
この場合の圧力検出部42における圧力値の分布は、図11の圧力値とx軸方向の位置のグラフ(図11の図中上のグラフ)に示されるように、圧力中心位置Cの圧力値を最大とし、圧力値の分布範囲の両端における圧力値を最小とした略左右対称の山なりの形状となる。
なお、圧力検出部42の上に粘弾性がない場合には、指Aとほぼ点接触状態となり圧力中心位置Cに位置するセンサエレメント52の圧力値しか検出されないため、図11の圧力値とx軸方向の位置のグラフのような圧力分布は発生しない。
以上のように、圧力検出部42の上に粘弾性体からなる変形部41があることで、接触物(指A)の接触面積以上の圧力分布が発生する。そして、これにより、広範囲の圧力分布となり、圧力中心演算結果のノイズが低減される。
図12は、ずらし前とずらし後の入力部31の形状の例を示している。なお、図12の例におけるずらし前の入力部31の状態は、図10における荷重後の入力部31の状態となっている。
図12の例においては、ずらし前に示されるように、指Aなどの入力部31の押下により入力部31にz軸の負方向(図中下方向)に荷重Fzがかけられた後、ずらし後に示されるように、その指Aが入力部31を押下したまま、せん断力Fsで、x軸の正方向(図中右方向)にずらすずらし動作が行われる。
この場合、入力部31は、x軸の正方向へのずらし動作により、固定部32との拘束面を固着させたまま、せん断変形し、ずらし前の荷重Fzによる圧力中心位置Cに位置するセンサエレメント52に対する圧力分布位置関係に変化が生じる。図12の例の場合、ずらし前の圧力中心位置Cから、ずらし後の圧力中心位置がdずれてしまっている。また、せん断力が摩擦力を超えていない場合でも粘弾性体の柔軟構造により変形が発生し、圧力分布に変化が生じる。
すなわち、図13のずらし前とずらし後の圧力分布に示されるように、ずらし前の圧力分布は、圧力中心位置Cの圧力値を最大とし、圧力値の分布範囲の両端における圧力値を最小とした略左右対称の山なりの形状となっているが、ずらし後の圧力分布は、圧力値の分布範囲がずらし前よりも狭くなっており、さらに、ずらし前の圧力中心位置Cから、少し、x軸の正方向へずれた位置の圧力値を最大として、x軸の正方向よりもx軸の負方向になだらかな山なりの形状となる。すなわち、ずらしにより、圧力中心位置は変化する。
この圧力分布の変形量は、せん断力Fsの大きさに依存して大きくなるため、例え入力部31(変形部41)の粘弾性体と接触物(指A)との接触領域が略不変としても、圧力中心の変化を捉えることができ、広義の「滑り」を捉えることができる。したがって、ロボットハンド1によって把持を行っている際には、入力部31の粘弾性体と接触物との間の完全な相対運動を基に把持力制御を行うよりも、「ずれ」の状態で滑りを検出し、把持力制御を行った方が有効であるといえる。
次に、図14および図15を参照して、センサ21への荷重抜重の実験を行った結果について説明する。図14の例においては、センサ21への荷重抜重の実験概要と圧力検出部42の詳細が示されており、実験概要においては、図中右方向がxyz座標系のx軸の正方向を表し、図中上方向がz軸の正方向を表している。なお、圧力検出部42の詳細においては、図中左方向がxyz座標系のx軸の正方向を表し、図中上方向がy軸の正方向を表している。
この実験においては、まず、略1500ms乃至4000ms間に、図14の実線矢印に示されるように、センサ21の粘弾性体からなる変形部41に対して、先端に球Rを有するTipが、力Fz、所定の速度または加速度で押し込まれ、z軸の負方向(図中下方向)に荷重がかけられることで、変形部41の粘弾性体に、応力、ひずみ、ひずみE(エネルギ)が発生し、それにより、接触面積以上に圧力分布が拡散される。また、荷重をかけたまま一定時間(略4000ms乃至14500ms)経過した後で、略14500ms乃至17000ms間に、点線矢印に示されるように、抜重が行われる。そして、以上の変形部41に対する荷重から抜重の間の、圧力検出部42を構成するセンサエレメント52(図14の例の場合、ID(identification)1008乃至ID1175が付された21×8個の各センサエレメント52)からの出力データが計測される。
図15の例においては、図14の実験で計測された出力データが時間経過に沿って示されている。すなわち、上から順に、所定のセンサエレメント52の圧力値と時間のグラフ、接触素子数、接触面積、および接触素子の圧力値の総和と時間のグラフ、力および押し込み深さと時間のグラフが示されている。なお、この例においては、説明の便宜上、図14においてハッチングが付されているIDのセンサエレメント52の圧力値のみしか示されていない。
最上段において、グラフ131は、図14のTipの真下に配置されるID1084のセンサエレメント52から出力される圧力値を時間経過に沿って示している。以下、同様に、グラフ132は、ID1084のx軸の正方向側の隣に配置されるID1092のセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ133は、ID1092のx軸の正方向側の隣に配置されるID1100のセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ134は、ID1100のx軸の正方向側の隣に配置されるID1108のセンサエレメント52から出力される圧力値を示している。
中段において、グラフ135は、接触閾値を超えたセンサエレメント52からの圧力値の総和を時間経過に沿って示している。グラフ136(破線)は、接触閾値を超えたセンサエレメント52の数(すなわち、接触素子数)を時間経過に沿って示しており、グラフ137は、グラフ136で示される接触素子数に基づいて求められる接触面積を時間経過に沿って示している。
最下段において、グラフ138は、入力部31の上において6軸力センサで計測されるz軸方向(法線方向)の力Fz1を時間経過に沿って示しており、グラフ139は、Tipが変形部41に押し込まれる深さ(z軸方向の位置)を時間経過に沿って示している。なお、6軸力センサによる力Fz1は、後述する演算により求められる力Fzと比較のために計測されている。
すなわち、グラフ131乃至グラフ134により、Tipの真下に配置されるID1084のセンサエレメント52からの圧力値が最も大きい値であることがわかり、ID1084のセンサエレメント52から3つ離れたID1108のセンサエレメント52からの圧力値は、ずっと0であり、圧力値を検出していないことがわかる。また、荷重をかけたままであっても、グラフ131乃至グラフ134における略4000ms乃至14500msに示されるように、各センサエレメント52出力される圧力値は、少しずつ下がっている。これは、粘弾性体の応力緩和によるものである。
また、これらのグラフ131乃至グラフ134が示す圧力値に基づいて、接触領域、接触面積、加重された力Fz、圧力中心位置COPx,COPyを算出することができる。具体的には、接触領域とは、グラフ136で示される接触素子数を表しており、接触領域は、センサエレメント52毎に上述した式(1)が用いられ、接触閾値(例えば、th(x,y))を超えたものが接触素子(すなわち、接触を検出したセンサエレメント)であるとして求められる。グラフ137で示される接触面積は、グラフ136で示される接触素子数に、素子面積を掛け合わせて求めることができる。また、力Fzは、次の式(15)を用いて求めることができる。すなわち、式(15)で求められる力Fzは、誤差などがあるが、グラフ138で示される力Fz1と略同じ値となる。
圧力中心位置COPx,COPyは、上述した式(3)(または式(4))で求めることができる。なお、図14の例の場合、圧力中心位置COPx,COPyは、Tipの真下に配置されるID1084のセンサエレメント52の位置となる。
次に、図16および図17を参照して、センサ21への荷重後、せん断力Fsをかける実験を行った結果について説明する。図16の例においては、センサ21へせん断力Fsによる移動の実験概要と圧力検出部42の詳細が示されており、実験概要においては、図中右方向がxyz座標系のx軸の正方向を表し、図中上方向がz軸の正方向を表している。なお、圧力検出部42の詳細においては、図中左方向がxyz座標系のx軸の正方向を表し、図中上方向がy軸の正方向を表している。
この実験においては、まず、図14の例と同様に、センサ21の粘弾性体からなる変形部41に対して、Tipが、力Fz、所定の速度または加速度で押し込まれ、z軸の負方向(図中下方向)に荷重がかけられることで、変形部41の粘弾性体に、応力、ひずみ、ひずみE(エネルギ)が発生し、それにより、接触面積以上に圧力分布が拡散される。その後、荷重をかけたまま、略1000ms乃至11000ms間に、図16の実線矢印に示されるように、押し込み深さ−1.0mm、所定の速度または加速度で、x軸の正方向(図中右側)にTipを移動させる(ずらす)せん断力がかけられ、そのままの状態で、所定の時間Tipを停止させている。そして、以上の間の、圧力検出部42を構成するセンサエレメント52(図16の例の場合も、ID1008乃至ID1175が付された21×8の各センサエレメント52)からの出力データが計測される。
図17の例においては、図16の実験で計測された出力データが時間経過に沿って示されている。すなわち、上から順に、所定のセンサエレメント52の圧力値と時間のグラフ、接触素子数、接触面積、および接触素子の圧力値の総和と時間のグラフ、Tipのx軸方向の位置、圧力中心位置、および圧力中心移動速度と時間のグラフ、並びに、力および回転力と時間のグラフが示されている。なお、この例においても、説明の便宜上、図16においてハッチングが付されているIDのセンサエレメント52の圧力値のみしか示されていない。
最上段において、グラフ141は、図16のID1076のx軸の負方向側の隣に配置されるID1068のセンサエレメント52から出力される圧力値を時間経過に沿って示している。以下、同様に、グラフ142は、ID1084のx軸の負方向側の隣に配置されるID1076のセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ143は、Tipの真下に配置されるID1084のセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ144は、ID1084のx軸の正方向側の隣に配置されるID1092のセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ145は、ID1092のx軸の正方向側の隣に配置されるID1100のセンサエレメント52から出力される圧力値を示している。
また、グラフ146は、ID1100のx軸の正方向側の隣に配置されるID1108のセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ147は、ID1108のx軸の正方向側の隣に配置されるID1116のセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ148は、ID1116のx軸の正方向側の隣に配置されるID1124のセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ149は、ID1124のx軸の正方向側の隣に配置されるID1132のセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ150は、ID1132のx軸の正方向側の隣に配置されるID1140のセンサエレメント52から出力される圧力値を示している。
上から2段目において、グラフ151(破線)は、接触閾値を超えたセンサエレメント52からの圧力値の総和を時間経過に沿って示している。グラフ152(グレイの線)は、接触閾値を超えたセンサエレメント52の数(すなわち、接触素子数)を時間経過に沿って示しており、グラフ153は、グラフ152で示される接触素子数に基づいて求められる接触面積を時間経過に沿って示している。
上から3段目において、グラフ154は、x軸方向のTipの位置を時間経過に沿って示している。グラフ155は、上述した式(3)(または式(4))で求められる圧力中心位置COPx,COPyのうちのCOPxを時間経過に沿って示しており、グラフ156は、圧力中心位置COPxの差分を時間で除算した圧力中心位置の移動速度を時間経過に沿って示している。
最下段において、グラフ157は、入力部31の上において6軸力センサで計測されるx軸方向の力Fx1を時間経過に沿って示しており、グラフ158は、y軸方向の力Fy1を時間経過に沿って示しており、グラフ159は、z軸方向(法線方向)の力Fz1を時間経過に沿って示している。また、グラフ160は、入力部31の上において6軸力センサで計測されるx軸を中心とした回転方向の力Mx1を時間経過に沿って示しており、グラフ161は、y軸を中心とした回転方向の力My1を時間経過に沿って示しており、グラフ162は、z軸を中心とした回転方向の力Mz1を時間経過に沿って示している。なお、6軸力センサによる力や回転力は、後述する演算により求められる力Fzと比較のために計測されている。
すなわち、グラフ141乃至グラフ150により、最大の圧力値は、時間の経過に応じて、それぞれ、Tipの真下に配置されるID1084、ID1092、ID1100、ID1108、ID1116、ID1124、ID1132、ID1140の各センサエレメント52からの圧力値となる。
また、図14の例の場合と同様に、これらのグラフ141乃至グラフ150が示す圧力値に基づいて、接触領域、接触面積,力Fz,圧力中心位置COPx,COPyを算出することができる。具体的には、接触領域とは、グラフ152で示される接触素子数を表し、センサエレメント52毎に上述した式(1)が用いられ、接触閾値を超えたものが接触素子(すなわち、接触を検出したセンサエレメント)であるとして求めることができる。グラフ153で示される接触面積は、グラフ152で示される接触素子数に、素子面積を掛け合わせて求めることができる。また、力Fzは、上述した式(15)を用いて求められる。すなわち、式(15)で求められる力Fzは、誤差などがあるが、グラフ159で示される力Fz1と略同じ値となる。
また、グラフ155で示される圧力中心位置COPxと、圧力中心位置COPyは、上述した式(3)(または式(4))で求めることができる。グラフ155で示される圧力中心位置COPxは、グラフ154で示されるTipの位置を少し先行はしているものの、グラフ154で示されるTipの位置とほぼ同様に移動している。
図18は、図16と同様の実験で計測された出力データの他の例を示している。図18の例においては、上から順に、センサ21が、Tipで、約6000ms前後に荷重開始され、約9000ms乃至12000msの辺りで移動(ずらし)が開始された場合における、所定のセンサエレメント52の圧力値と時間のグラフ、接触素子数、接触面積、および接触素子の圧力値の総和と時間のグラフ、Tipのx軸方向の位置、圧力中心位置、および圧力中心移動速度と時間のグラフ、並びに、力および回転力と時間のグラフが示されている。なお、図18のグラフは、図17のグラフの他の例であり、その詳細な説明は基本的に同様であるため、繰り返しになるので適宜省略する。
最上段において、グラフ171は、グラフ173に示される圧力値を出力するセンサエレメント52のx軸の負方向側の2つ隣に配置されるセンサエレメント52から出力される圧力値を時間経過に沿って示している。以下、同様に、グラフ172は、グラフ173に示される圧力値を出力するセンサエレメント52のx軸の負方向側の隣に配置されるセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ173は、Tipの真下に配置されるセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ174は、グラフ173に示される圧力値を出力するセンサエレメント52のx軸の正方向側の隣に配置されるセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ175は、グラフ174に示される圧力値を出力するセンサエレメント52のx軸の正方向側の隣に配置されるセンサエレメント52から出力される圧力値を示している。
また、グラフ176は、グラフ175に示される圧力値を出力するセンサエレメント52のx軸の正方向側の隣に配置されるセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ177は、グラフ176に示される圧力値を出力するセンサエレメント52のx軸の正方向側の隣に配置されるセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ178は、グラフ177に示される圧力値を出力するセンサエレメント52のx軸の正方向側の隣に配置されるセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ179は、グラフ178に示される圧力値を出力するセンサエレメント52のx軸の正方向側の隣に配置されるセンサエレメント52から出力される圧力値を示し、グラフ180は、グラフ179に示される圧力値を出力するセンサエレメント52のx軸の正方向側の隣に配置されるセンサエレメント52から出力される圧力値を示している。
上から2段目において、グラフ181は、接触閾値を超えたセンサエレメントからの圧力値の総和を時間経過に沿って示している。グラフ183は、接触閾値を超えたセンサエレメント数(接触素子数)に基づいて求められる接触面積を時間経過に沿って示している。
上から3段目において、グラフ184は、x軸方向のTipの位置を時間経過に沿って示している。グラフ185は、上述した式(3)(または式(4))で求められる圧力中心位置COPx,COPyのうちのCOPxを時間経過に沿って示しており、グラフ186は、圧力中心位置COPxの差分を時間で除算した圧力中心位置の移動速度を時間経過に沿って示している。
最下段において、グラフ187は、入力部31の上において6軸力センサで計測されるx軸方向の力Fx1を時間経過に沿って示しており、グラフ188は、y軸方向の力Fy1を時間経過に沿って示しており、グラフ189は、z軸方向(法線方向)の力Fz1を時間経過に沿って示している。また、グラフ190は、入力部31の上において6軸力センサで計測されるx軸を中心とした回転方向の力Mx1を時間経過に沿って示しており、グラフ191は、y軸を中心とした回転方向の力My1を時間経過に沿って示しており、グラフ192は、z軸を中心とした回転方向の力Mz1を時間経過に沿って示している。
ここで、図18の上から2段目におけるグラフ181およびグラフ183のTipの移動開始(すなわち、約8000ms乃至16000ms)近辺を、図19に拡大して示す。グラフ183に示されるように、いままで(すなわち、略11000msの直前まで)安定していた接触面積が、急に減ったり、増えたりしている。すなわち、Tipの動き出し直前に、接触面積に、急に増えたりあるいは減少したりする大きな変化が見られる。
また、図18の上から3段目におけるグラフ184乃至グラフ186のTipの移動開始(すなわち、約10000ms乃至11000ms)近辺を、図20に拡大して示す。図20の例においては、グラフ184は、太線で示され、グラフ185は、破線で示され、グラフ186は、一点鎖線で示されている。グラフ184で示されるTipの位置は、円Aで示す辺りから移動を開始しているが、グラフ185に示される圧力中心位置COPxは、円Aで示すTipが移動を開始するよりも略100ms前の円Bで示す辺りから変化を始めている。すなわち、Tipの動き出し直前に、圧力中心位置COPxにも大きな変化が見られる。
以上のTipの動き出し直前における接触面積や圧力中心位置COPxの大きな変化は、粘弾性体の変形によるものと思われ、これらは、センサ単体では得ることができない。したがって、図3に示されるように、センサ21を粘弾性体からなる変形部41と静電容量型圧力センサからなる圧力検出部42の組み合わせで構成することにより、Tipの動き出し直前における接触面積や圧力中心位置の大きな変化の情報を取得することが可能になる。
図21は、図16と同様の実験方法により求められる滑り覚検出データを示している。図21の例においては、Tipを押し込み深さ-1.0mmとなるようにx軸の負方向に荷重をかけたまま、さらに、1.0mmの速度でx軸の正方向に移動させた場合のTipの位置、圧力中心位置COPx、および移動平均COPxMAと、それらから求められる3種類の滑り覚検出値が示されている。
すなわち、上段、中段、下段において、グラフ194は、Tipのx軸方向の位置を示しており、グラフ195は、x軸方向の圧力中心位置COPxを示しており、グラフ196は、移動平均COPxMAを示している。そして、上段において、グラフ197は、式(9)(または式(12)や式(14))においてNを大きくし、式(7)においてthresholdを小さくした低速(Low Speed)の滑り覚検出値を示している。中段において、グラフ198は、Nとthresholdを、上段と下段の中間的な値とした中速(Medium Speed)の滑り覚検出値を示している。また、下段において、グラフ199は、Nを小さく、thresholdを大きくした高速(High Speed)の滑り覚検出値を示している。
グラフ197に示されるように、低速の滑り覚検出値は、静止中は、略0を示し、滑り出してから滑り終わるまで、0.5乃至1.5程度の値を示し、停止後は、±0.25の値を示している。グラフ198に示されるように、中速の滑り覚検出値は、静止中は、略0を示し、滑り出してから滑り終わるまで、0.1乃至0.4程度の値を示し、停止後は、±0.15の値を示している。グラフ199に示されるように、高速の滑り覚検出値は、静止中は、略0を示し、滑り出してから滑り終わるまで、0.02乃至0.06程度の値を示し、停止後は、±0.03の値を示している。
すなわち、高速の滑り覚検出値は、低速の滑り覚検出値に比して微小の値であり、低速の滑りの方が、滑っている間と滑っていない間を容易に検出することができる。
以上の特徴、すなわち、粘弾性体の特性や、圧力値から取得される圧力中心位置などを使用することにより、物体との接触面で発生する滑りを検出することが可能となる。
なお、上記説明においては、x軸について説明を行ったが、y軸の場合も同様に滑りを検出することができる。
図22は、図2のセンサ21の他の外観の構成例を示している。図22の例においては、図中上には、入力部31の形状が異なるセンサ201乃至204を真上から見た上面図が示されており、図中下には、センサ201乃至204の断面図が示されている。なお、入力部31と固定部32の間には、例えば、静電容量型圧力センサで構成される圧力検出部42が示されている。
センサ201は、真上から見ると入力面31aが円形で、側面から見ると四角の形状である円柱型の入力部31で構成されている。センサ202は、真上から見ると入力面31aが円形で、側面から見るとドーム形状であるドーム型の入力部31で構成されている。センサ203は、真上から見ると入力面31aが四角形で、側面から見るとかまぼこ形状であるかまぼこ型の入力部31で構成されている。例えば、センサ203においては、フレキシブル基板に構成される圧力検出部42などが用いられる。
センサ204は、真上から見ると入力面31aがドーナツ形状で、側面から見ると、固定部32を挟むように固定部32の上下に入力部31が構成される四角の形状である円柱型の入力部31で構成されている。なお、センサ204におけるドーナツの穴(空洞)部分には、点線に示されるように軸を設けることができる。
以上、センサ201やセンサ202のように、入力部31の形状を入力面31aが円形となるように形成することもできる。
また、側面から見た場合の入力部31の形状を、センサ202やセンサ203のように、ドーム形状やかまぼこ形状にすることもできる。なお、このセンサ202やセンサ203などのドーム型やかまぼこ型は、物体に接触させる際に、平面のものを平面で接触させると生じやすい検出の誤差を抑制することができるため、物体に接触する場合、例えば、ロボットハンド1に設けられる場合などに適している。
さらに、入力部31の形状をセンサ204のようにドーナツ型にすることもできる。この場合、ドーナツ部分に軸を通すことができるので、例えば、ロボットハンド1などの各関節部などに設けられる場合に適している。
図23は、図2の入力部31の材料の他の例を示している。図23の例においては、静電気の漏洩と侵入を防止するための静電シールドを付加したセンサ211および212の側断面図が示されている。
センサ211は、固定部32が、シールド機能を有する固定部223に入れ替わった点と、入力部31の変形部41が、シールド機能を有する粘弾性体221とシリコンゴム222で構成されている点が、図2のセンサ21と異なっており、変形部41と固定部223の間に圧力検出部42が構成されている点は共通している。
センサ211の変形部41は、シールド機能を有する粘弾性体221の表面に、例えば、二色成形法で、薄膜のシリコンゴム222が一体化されて形成されている。
すなわち、センサ211においては、圧力検出部42は、粘弾性体221と圧力検出部42の下の固定部223との上下から、シールドされている。これにより、圧力検出部42の性能の低下を抑制することができる。
センサ212は、固定部32が、シールド機能を有する固定部233に入れ替わった点と、圧力検出部42が、変形部41のシールド機能を有する粘弾性体231と一体化され、その表面に、例えば、二色成形法で、薄膜のシリコンゴム232が一体化されて形成されている点が異なる。
すなわち、センサ212においては、圧力検出部42が、シールド機能を有する粘弾性体231と一体化されている点が、センサ211と異なる構成であるが、センサ212においても、圧力検出部42は、粘弾性体231と圧力検出部42の下の固定部233との上下から、シールドされている。これにより、圧力検出部42の性能の低下をより抑制することができる。
なお、図23のセンサ211および212においては、粘弾性体221および231がシールド機能を有するように構成したが、それらの代わりに、例えば、シリコンゴム222および232がシールド機能を有するように構成してもよい。
図24は、図2のセンサ21の他の内部の構成例を示している。図24の例においては、図3の例と同様に、センサ21を真上から見た上面図と、センサ21の側断面図が示されている。なお、図24の上面図においては、内部構成がわかるように、入力部31、圧力検出部261、および変形部41が段階的に透過された状態で示されている。
図24のセンサ21の入力部31は、圧力検出部261、変形部41、および圧力検出部262により構成される。圧力検出部261および262は、圧力検出部42と同様の構成をしており、粘弾性体で構成される変形部41を上下方向から挟む位置に配置されている。すなわち、入力部31は、上層の圧力検出部261、中層の変形部41、および下層の圧力検出部262からなる多層構造となっている。
以上のように、入力部31を、図3を参照して上述したように、上から、変形部41および圧力検出部42の2層で構成するだけに限らず、図24に示されるように、上から、圧力検出部261、変形部41、および圧力検出部262の3層で構成することもできる。この場合、圧力検出部261および圧力検出部262からの圧力値に基づいて、圧力中心位置が求められて、滑り覚が検出される。
なお、図示はしないが、図24の圧力検出部261の上層にさらに、粘弾性体を設けてもよいし、さらに多くの圧力検出部の層を構成するようにしてもよい。
以上説明したように、センサ21を、センサ面(入力面31a)に垂直な法線力を検出する静電容量型圧力センサと粘弾性材料を組み合わせた多層に構成し、このセンサ21からの圧力値を用いて、圧力中心位置を求めるなどの信号処理を行うようにしたので、その法線力に直交する接線力による対象物の滑りとその方向をより確実に検出することができる。
なお、滑りとは、指と対象物の間の完全な「相対運動」と「回転運動」のうちの「転がり運動」だけでなく、「初期局所滑り」および「ずれ」も含まれている。
したがって、このセンサ21を適用した図1のロボットハンドマニピュレータにおいては、指と対象物の間の完全な「相対運動」、「初期局所滑り」、および「ずれ」も含めた「滑り」を検出することができるので、スティックスリップ現象に代表される狭義の滑りだけの検出よりもより確実に「滑り」を検出することができ、それにより、未然に物体の落下などを抑制して、正確に、任意物体の把持や操作(移動や運搬)を行うことができる。さらには、柔軟な素材であることから、人間に対する安全性も向上し、人間とより親和性の高い物理インタラクションの実現が可能になる。
また、人と親和性の高い柔らかさと滑り性を有する柔軟な素材を入力部に用いることで、実世界機械や仮想空間への、人間と親和性の高い各種入力装置(例えば、リモートコントローラなど)に応用することも可能である。例えば、力、圧力による表現だけでなく、「材料自身のずれ」などの滑り現象を表現できることで、より多彩な表現入力手段を有する新感覚のヒューマンインタフェースの実現が考えられる。
すなわち、ロボットハンドおよびマニピュレータにおいて、多種多様な大きさや形状、表面状態、重量の任意物体を器用に把持して操りを行ったり、人間と親和性の高い物理的インタラクションを行うためには、「力の大きさ・方向・分布」に加えて「並進」「ころがり」「ずれ」などに代表される滑りや、初期局所滑り時に観測される「振動」などの物体の動的挙動を検知できることが必要である。さらに、物体を把持する指先や皮膚にあたる部分には、把持に最適な柔らかさ(粘弾性、超弾性、ゴム的性質)と表面の摩擦によるグリップ性が必要である。
一方、人間が手先を使って操作する機械(リモートコントローラ、コントローラ、あるいはスイッチなど)は、一般的に指先発生力やその位置を正確に検知するセンサデバイスが必要であるが、さらに、指先の動きや滑りなどまでを入力情報とできれば、新しい感覚のユーザインタフェースとなり得る。また、指先が接触する場所を柔らかくして人との親和性を高めることも、新しい感覚のユーザインタフェースに繋がる。
上述したように、本実施の形態におけるセンサ21は、粘弾性体と静電容量型圧力センサの組み合わせで構成されるので、例えば、ロボットハンドやマニピュレータの表面、さらには、ロボット全体に取り付けられ、人間の皮膚のような柔らかさを持った粘弾性体が外部から受ける力とその形によって様々な形状に変化し、それによって物体が接触した際に、静電容量型圧力センサに対して圧力が拡散される。これにより、圧力中心をロバストに求めることができる。
そして、この圧力中心を、例えば、ロボットハンドやマニピュレータの表面、ロボット全体の皮膚の滑り覚のセンシングに用いることで、滑り覚により滑り方向や滑り速度に相当する量が取得できるので、物体把持の制御やロボットハンドの指先で物を滑らせながら扱うような操り制御を行うことができる。
以上により、本発明を適用したセンサによれば、ロボットハンドマニピュレータにおける正確な任意物体把持や操りを容易に行うことができたり、接触検出やすべり検出により物体の落下(すべり落とし)防止や人間に対しての安全性に対する効果がある。さらには、その柔軟な素材から、人とより親和性の高い物理的インタラクション(相互作用)を容易にとることが可能である。
なお、上記説明においては、圧力検出部42が静電容量変化を検出原理として分布圧力値を検出すると説明したが、静電容量変化に限らず、圧力検出部42は、例えば、抵抗値変化を検出原理として分布圧力値を検出するように構成することもできるし、また、分布圧力値がとれるのであれば、感圧ゴムを並べただけのセンサで構成することもできる。
また、上記説明においては、センサ21がロボットハンドマニピュレータの腕や手などに設けられる場合を説明したが、本発明は、各種ロボットの関節機構部、ゲームのコントローラやジョイスティック、様々な入力装置、衝撃吸収装置、生態計測装置、ヘルスケア商品、スポーツ分野などの分野や製品などにも適用することができる。
上述した一連の処理は、ハードウエアにより実行させることもできるし、ソフトウエアにより実行させることもできる。
一連の処理をソフトウエアにより実行させる場合には、そのソフトウエアを構成するプログラムが、専用のハードウエアに組み込まれているコンピュータ、または、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のパーソナルコンピュータなどに、プログラム記録媒体からインストールされる。
図25は、上述した一連の処理をプログラムにより実行するパーソナルコンピュータ301の構成の例を示すブロック図である。CPU(Central Processing Unit)311は、ROM(Read Only Memory)312、または記憶部318に記憶されているプログラムに従って各種の処理を実行する。RAM(Random Access Memory)313には、CPU311が実行するプログラムやデータなどが適宜記憶される。これらのCPU311、ROM312、およびRAM313は、バス314により相互に接続されている。
CPU311にはまた、バス314を介して入出力インタフェース315が接続されている。入出力インタフェース315には、上述したセンサ21、キーボード、マウス、マイクロホンなどよりなる入力部316、ディスプレイ、スピーカなどよりなる出力部317が接続されている。CPU311は、入力部316から入力される指令に対応して各種の処理を実行する。そして、CPU311は、処理の結果を出力部317に出力する。
入出力インタフェース315に接続されている記憶部318は、例えばハードディスクからなり、CPU311が実行するプログラムや各種のデータを記憶する。通信部319は、インターネットやローカルエリアネットワークなどのネットワークを介して外部の装置と通信する。
また、通信部319を介してプログラムを取得し、記憶部318に記憶してもよい。
入出力インタフェース315に接続されているドライブ320は、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリなどのリムーバブルメディア321が装着されたとき、それらを駆動し、そこに記録されているプログラムやデータなどを取得する。取得されたプログラムやデータは、必要に応じて記憶部318に転送され、記憶される。
コンピュータにインストールされ、コンピュータによって実行可能な状態とされるプログラムを格納するプログラム記録媒体は、図25に示すように、磁気ディスク(フレキシブルディスクを含む)、光ディスク(CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory),DVD(Digital Versatile Disc)を含む)、光磁気ディスク、もしくは半導体メモリなどよりなるパッケージメディアであるリムーバブルメディア321、または、プログラムが一時的もしくは永続的に格納されるROM312や、記憶部318を構成するハードディスクなどにより構成される。プログラム記録媒体へのプログラムの格納は、必要に応じてルータ、モデムなどのインタフェースである通信部319を介して、ローカルエリアネットワーク、インターネット、デジタル衛星放送といった、有線または無線の通信媒体を利用して行われる。
なお、本明細書において、プログラム記録媒体に格納されるプログラムを記述するステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別に実行される処理をも含むものである。
また、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
1 ロボットハンド, 21,21−1乃至21−14 センサ, 31 入力部, 32 固定部, 33 外部接続部, 41 変形部, 42 圧力検出部, 52 センサエレメント, 53 信号処理部,101 メイン制御部, 102−1乃至102−n アクチュエータ, 121 接触検出部, 122 圧力中心演算部, 123 圧力中心移動演算部, 124 滑り覚検出部