3. 発明の概要
本発明は、ワクチンとして使用するための、異種遺伝子を含有する遺伝子工学的に作製された組換えRSウイルスおよびウイルスベクターに関する。本発明によれば、組換えRSウイルスベクターおよびウイルスは、他のウイルスの遺伝子、病原体、細胞性遺伝子、腫瘍抗原などの異種遺伝子を含有するかまたはRSVの異なる株に由来する遺伝子の組み合わせをコードするように工学的に作製される。
RNA依存性RNAポリメラーゼを発現しかつ相補鎖形成が可能な形質転換細胞にトランスフェクトすべく使用しうる組換えネガティブ鎖ウイルスRNA鋳型が記載されている。他の選択肢として、ネガティブ鎖ウイルスRNA鋳型の相補鎖形成が可能であるように細胞にトランスフェクトすべく、適切なプロモーターからRNAポリメラーゼの構成成分を発現するプラスミドを使用することができる。ヘルパーウイルスまたは野生型ウイルスを用いてRNA依存性RNAポリメラーゼを提供することにより、相補鎖形成を達成することも可能である。RNA鋳型は、DNA指向RNAポリメラーゼを用いて適切なDNA配列の転写を行うことにより調製される。得られたRNA鋳型は、負または正の極性をもち、ウイルスRNA合成装置による鋳型の認識を可能にする適切な末端配列を含有する。ウイルス配列の翻訳の内部開始を可能にしさらに通常の末端開始部位からの外来タンパク質コード配列の発現を可能にするかまたはその逆の順序で発現させるように、二シストロン性mRNAを構築することができる。
本明細書に記載の実施例により示されるように、RSVのM2/ORF 1タンパク質を用いてまたは用いずに、ウイルスヌクレオキャプシド(N)タンパク質、会合ヌクレオキャプシドリンタンパク質(P)、大型(L)ポリメラーゼサブユニットタンパク質をコードする発現ベクターと共に、ポジティブセンス配向またはネガティブセンス配向の組換えRSVゲノムをコトランスフェクトして感染性ウイルス粒子を産生する。合成的に得られるRNPを複製および転写することのできるタンパク質源として、RSウイルスポリペプチドをコードするプラスミドを使用する。ウイルスRNPの特異的複製および発現に必要なRSVタンパク質の最小サブセットは、3種のポリメラーゼ複合タンパク質(N、P、およびL)であることを見いだした。このことから、感染性RSVの複製、発現、およびレスキューを行ううえで、M2-1を発現する別個のプラスミドにより供給されるM2-1遺伝子機能全体が絶対的に必要とされるわけではないことが示唆される。
得られた発現産物および/またはキメラビリオンは、ワクチン製剤に有利に利用することが可能である。とくに、弱毒化表現型を示すように遺伝子工学的に作製された組換えRSVは、生のRSVワクチンとして利用することが可能である。本発明の他の実施形態では、他の株のRSVの抗原性ポリペプチド(たとえば、RSV GおよびFタンパク質)または他のウイルスの抗原性ポリペプチド(たとえば、HIVのgpl20に由来する免疫原性ペプチド)を発現させて、脊椎動物の体液性と細胞媒介性免疫応答との両方を誘発することのできるワクチンとして役立つキメラRSVが産生されるように、組換えRSVを工学的に作製することが可能である。組換えインフルエンザまたは組換えRSVをこの目的に使用することはとりわけ魅力的である。というのも、これらのウイルスはかなりの株変異性を示し、それにより広範にわたるワクチン製剤の構築が可能になるからである。キメラウイルスを構築するために何千ものウイルス変異体から選択することができるので、ワクシニアウイルスのような他のウイルスを使用したときに遭遇する宿主耐性の問題は回避される。
本発明はさらに、単独のまたは組合されたウイルスアクセサリー遺伝子の欠失によるヒト呼吸器合胞体ウイルスの弱毒化に関する。
本発明はさらに、ウイルスM2-1遺伝子の突然変異誘発によるヒト呼吸器合胞体ウイルスの弱毒化に関する。
a. 定義
本明細書中で使用する場合、以下の用語は記載の意味を有する。
cRNA=アンチゲノムRNA
HA=赤血球凝集素(エンベロープ糖タンパク質)
HIV=ヒト免疫不全ウイルス
L=大型ポリメラーゼサブユニット
M=マトリックスタンパク質(エンベロープの内側に並ぶ)
MDCK=Madin Darbyイヌ腎臓細胞
MDBK=Madin Darbyウシ腎臓細胞
moi=感染多重度
N=ヌクレオキャプシドタンパク質
NA=ノイラミニダーゼ(エンベロープ糖タンパク質)
NP=核タンパク質(RNAと会合し、ポリメラーゼ活性に必要である)
NS=非構造タンパク質(機能は不明)
nt=ヌクレオチド
P=ヌクレオキャプシドリンタンパク質
PA、PB1、PB2=RNA指向RNAポリメラーゼ構成成分
RNP=リボ核タンパク質(RNA、PB2、PB1、PA、およびNP)
rRNP=組換えRNP
RSV=呼吸器合胞体ウイルス
vRNA=ゲノムウイルスRNA
ウイルスポリメラーゼ複合体=PA、PB1、PB2、およびNP
WSN=インフルエンザA/WSN/33ウイルス
WSN-HKウイルス: WSNウイルス由来の7つの遺伝子とインフルエンザA/HK/8/68ウイルス由来のNA遺伝子とを含有する再構成ウイルス。
4. 図の説明
図1: レスキュー実験で使用したRSV/CAT構築物(pRSVA2CAT)の概略図。部分的にオーバーラップした相補性を有する合成オリゴヌクレオチドを制御下でアニーリングすることにより、RSVの長さ約100ntのリーダー領域および長さ200ntのトレーラー領域を構築した。構築物中に示される、オーバーラップしたリーダーオリゴヌクレオチドを1L〜5Lで表す。構築物中に示される、オーバーラップしたトレーラーヌクレオチドを1T〜9Tで表す。リーダーDNAおよびトレーラーDNAのヌクレオチド配列を、それぞれ、精製されたCAT遺伝子DNA中のXbaIおよびPstIで表される部位に連結させた。次に、この構築物全体を、KpnI/HindIIIで消化したpUC19中に連結させた。トレーラー配列およびリーダー配列にそれぞれフランキングするT7プロモーター配列およびHgaI部位を組込むことにより、正確なゲノム配列の3'および5'末端を含有するRSV/CAT RNA転写産物のin vitro合成を可能にした。
図2: 感染および図11に示されるRSV/CAT構築物から転写したRNAによるトランスフェクションを行った後の293細胞抽出物中に存在するCAT活性を示す薄層クロマトグラム(TLC)。6ウェルプレート中の293細胞の集密的単層(約106細胞)に、0.1〜1.0pfu細胞のm.o.i.でRSV A2またはB9320のいずれかを感染させた。感染1時間後、Life TechnologiesのTransfect-ActTMプロトコールを用いて5〜10μgのCAT/RSVを細胞にトランスフェクトした。感染24時間後、感染/トランスフェクトした単層を採取および処理してから、Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, Chapter 9.6.2; Gorman, et al., (1982) Mol. Cell. Biol. 2:1044-1051に従ったCATアッセイに供した。レーン1、2、3、および4は、非感染193細胞、CAT/RSV-A2をトランスフェクトした293細胞、感染293細胞、上記の(2)からの上清を用いて共感染させた293細胞中に存在するCAT活性を示す。各レーンに示されたCAT活性は、106細胞からの全細胞抽出物の1/5から得られた。
図3: 全ゲノムを含むcDNAの合成に使用したプライマー対の相対位置を示すRSV株A2のゲノムの概略図。これらのクローンを1つにつなぎ合わせるのに使用したエンドヌクレアーゼ部位を示す。これらの部位は、天然のRSV配列中に存在し、cDNA合成に使用したプライマー中にも含まれていた。7つのcDNAのそれぞれを個別に合成するために、約100ngのウイルスゲノムRNAをRT/PCR反応で使用した。また、ゲノムRNA鋳型から第1鎖および第2鎖cDNAを合成するためのプライマーを示す。それぞれのcDNAの第1鎖を合成するためのプライマーは番号1〜7のものであり、第2鎖を合成するためのプライマーは番号1'-7'のものである。
図4: RSVサブグループBのB9320株の概略図。B9320株由来のGおよびF遺伝子をRSVサブグループA2アンチゲノムcDNA中にクローン化するために、RT/PCRに使用するオリゴヌクレオチドプライマー中にBamHl部位を形成した(図4A)。A2株の4326ヌクレオチド〜9387ヌクレオチドまでのGおよびF遺伝子を含有するcDNA断片を、pUC19中にまずサブクローン化した(pUCRVH)。4630(SH/G遺伝子間連結部)(図4B)および7554(F/M2遺伝子間連結部)(図4C)の位置にBgl II部位を形成した。A-GおよびF遺伝子の欠失したpUCR/HにB93260 A-Gおよび-F cDNAを挿入した。得られたアンチゲノムcDNAクローンをpRSVB-GFと名づけ、そしてそれを用いてHep-2細胞にトランスフェクトし感染性RSVB-GFウイルスを産生した。
図5: RSVサブグループB特異的プライマーを用いるRT/PCRにより、組換えRSVB-GFウイルスの特性づけを行った。G領域のRSVサブグループB特異的プライマーを組換えRSVウイルスゲノムのアリコートと共にインキュベートし、PCRに付した。1%アガロースゲル上で電気泳動することによりPCR産物を分析し、臭化エチジウムで染色することにより視覚化した。示されるように、RSV A2を鋳型として用いたRT/PCR反応では、DNA産物は産生しなかった。しかしながら、RSVB-GF RNAおよびPCR対照のプラスミドpRSV-GF DNAを鋳型としたRT/PCRでは、254塩基対の予測された産物が認められた。このことから、レスキューされたウイルスはB9320ウイルスに由来するGおよびF遺伝子を含有することが示唆される。
図6: RT/PCRによるキメラrRSVA2(B-G)の同定およびRNA発現のノーザンブロット分析。図6A. 野生型A2(A2)と比較したキメラrRSV A2(B-G)のRT/PCT分析。rRSVA2(B-G)(レーン1、2)およびrRSVA2(レーン3、4)から抽出したビリオンRNAを、逆転写酵素(RT)の存在下(+)または不在下(-)で、RSV F遺伝子内で(-)センスvRNAにアニーリングするプライマーを用いて逆転写し、続いて、B-G挿入部位にフランキングするプライマー対を用いてPCRを行った。逆転写酵素(RT)が不在の場合(レーン2、4)、RT/PCRでDNAは検出されなかった。A2由来のcDNAよりも約lkb大きいcDNA断片が、rRSVA(B-G)から生成した。このより長いPCR DNA産物を、挿入されたB-G遺伝子に唯一存在するStu I制限酵素により消化した(レーン5)。100bp DNAサイズマーカーが示されている(M)。図6B. G mRNA発現のノーザンブロット分析。RSV B9320、rRSVA2、およびキメラrRSVA2(B-G)をHep-2細胞に感染させた。感染48時間後、全細胞RNAを抽出し、ホルムアルデヒドを含有する1.2%アガロースゲルを用いて電気泳動した。RNAをHybond Nylon膜に移し、A2-Gに特異的であるかまたはB9320-G mRNAに特異的である32P標識オリゴヌクレオチドプローブをそのフィルターにハイブリダイズさせた。A2 G特異的転写産物およびB9320 G特異的転写産物の両方が、rRSVA2(B-G)感染細胞で検出された。rRSV A2(B-G)感染細胞から放出されたRNA転写産物(G-M2)も示されている。
図7: rRSVA2(B-G)によるタンパク質発現の分析。Hep-2細胞に対して、擬感染(レーン1、5)、RSV B9320による感染(レーン2、6)、rRSVA2による感染(レーン3、7)、およびrRSV A2(B-G)による感染(レーン4、8)を行った。感染14〜18時間後、感染細胞を35Sプロミックスで標識し、次いで、RSV A2株に対するヤギポリクローナル抗血清により(レーン1〜5)またはRSV B9320株に対するマウスポリクローナル抗血清により(レーン5〜8)、ポリペプチドを免疫沈降させた。10%ポリアクリルアミドゲルを用いて、免疫沈降ポリペプチドを分離した。RSV A2特異的Gタンパク質およびRSV B9320特異的Gタンパク質の両方が、rRSV A2(B-G)感染細胞中で産生された。Gタンパク質の移動は*で示されている。F 1糖タンパク質ならびにN、PおよびMの移動度が示されている。分子量は、左側にキロダルトンで示している。
図8: rRSV、rRSVC4G、rRSVA2(B-G)、および野生型A2ウイルス(wt A2)のプラーク形態。Hep-2細胞にそれぞれのウイルスを感染させ、35℃で6日間インキュベートした。細胞単層を固定し、免疫染色により視覚化し、そして写真撮影した。
図9: rRSV、rRSVC4G、野生型A2 RSV(wt A2)、およびキメラrRSVA2(B-G)の増殖曲線。Hep-2細胞にそれぞれのウイルスを0.5のmoiで感染させ、24時間ごとに培地を回収した。Hep-2細胞に対するプラークアッセイによりそれぞれのウイルスの力価を2重反復試験方式で測定し、免疫染色により視覚化した。
図10: 部位特異的突然変異誘発の標的としたRSV Lタンパク質の荷電残基クラスター。QuikChange部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene)を用いてRSV L遺伝子の部位特異的突然変異誘発により、クラスター中の連続した荷電アミノ酸残基をアラニンに変換した。
図11: 部位特異的突然変異誘発の標的としたRSV Lタンパク質のシステイン残基。QuikChange部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene)を用いてRSV L遺伝子の部位特異的突然変異誘発により、システイン残基をアラニン残基に変換した。
図12: RSV M2-2およびSH欠失突然変異体の同定。pET(S/B)のHind III消化を行ってから残りのSac I−BamHI断片を全長クローン中に再クローン化することにより、M2-2における欠失を作製した。pET(A/S)のSac I消化を行ってから残りのAvr II−Sac I断片を全長クローン中に再クローン化することにより、SHにおける欠失を作製した。図12A. それぞれSH遺伝子またはM2-2遺伝子に特異的なプライマー対を用いるRT/PCRにより、回収されたrRSVΔSHおよびrRSVΔM2-2の同定を行った。図12B. M2-2およびSH遺伝子に特異的なプライマー対を用いるRT/PCRにより、rRSVΔSHΔM2-2の検出も行った。臭化エチジウムアガロースゲル上でRT/PCR産物を泳動させ、紫外(UV)光によりバンドを視覚化した。
図13: rA2ΔM2-2ゲノムの構造およびrA2ΔM2-2の回収。(A). 示された配列は、M2-1およびM2-2オープンリーディングフレームがオーバーラップするM2遺伝子の領域である。M2-2のC末端78アミノ酸をコードする合計234ntを、導入されたHind III部位(下線を付した)を利用して欠失させた。M2-2オープンリーディングフレームのN末端12アミノ酸残基は、M2-1遺伝子とオーバーラップするように保持される。(B). 逆転写酵素(RT)の存在下(+)または不在下(-)におけるプライマーV1948およびV1581を用いるrA2ΔM2-2およびrA2ウイルスRNAのRT/PCR産物。rA2またはrA2ΔM2-2に由来するDNA産物のサイズが示されている。
図14: rA2ΔM2-2およびrA2によるウイルスRNA発現。(A). 感染48時間後、rA2またはrA2ΔM2-2感染Vero細胞から全RNAを抽出し、それを1.2%アガロース/2.2Mホルムアルデヒドゲル上で電気泳動により分離し、そしてそれをナイロン膜に移した。M2-2、M2-1、F、SH、G、またはN遺伝子に特異的なDig標識リボプローブをそれぞれのブロットにハイブリダイズさせた。RNAマーカーのサイズが左側に示されている。(B). Hep-2およびVero細胞にrA2またはrA2ΔM2-2を24時間かけて感染させ、全細胞RNAを抽出した。ウイルスゲノムRNAを検出するためにネガティブセンスF遺伝子に特異的な32P標識リボプローブを用いてRNAノーザンブロットにハイブリダイズさせるか、またはウイルスアンチゲノムRNAおよびF mRNAを検出するためにポジティブセンスF遺伝子に特異的な32P標識リボプローブを用いてRNAノーザンブロットのハイブリダイゼーションを行った。右側のノーザンブロットの上側パネルを、下側パネルに示されるゲルの上側部分から切り離し、1週間暴露に付してアンチゲノムを検出した。ノーザンブロットの下側パネルを3時間暴露に付してF mRNAを検出した。ゲノム、アンチゲノム、F mRNA、および二シストロン性F-M2 RNAが示されている。
図15: rA2ΔM2-2およびrA2感染細胞のウイルスタンパク質発現。(A). 感染14〜18時間後、擬感染Vero細胞、rA2ΔM2-2およびrA2感染Vero細胞を35Sプロミックス(100μCi/ml)で代謝標識した。細胞溶解物を調製し、ヤギポリクローナル抗RSV抗血清またはウサギポリクローナル抗M2-2抗血清による免疫沈降に付した。4Mウレアを含有する17.5%ポリアクリルアミドゲルを用いて免疫沈降ポリペプチドを分離し処理して、オートラジオグラフィーにかけた。それぞれのウイルスタンパク質の位置は右側に示され、分子量サイズマーカーは左側に示されている。(B). ウェスタンブロッティングによるHep-2細胞およびVero細胞中のタンパク質合成動態。Hep-2およびVero細胞にrA2またはrA2ΔM2-2を感染させ、感染10時間後、24時間後、または48時間後、4Mウレアを含有する17.5%ポリアクリルアミドゲルを用いて感染細胞の総ポリペプチドを分離した。タンパク質をナイロン膜に移し、記載のごとくM2-1、NS1、またはSHに対するポリクローナル抗血清でブロットをプローブした。
図16: rA2ΔM2-2およびrA2のプラーク形態。1%メチルセルロースと2% FBSを含有する1×L15培地とで構成された半固体オーバーレイ下で、Hep-2またはVero細胞にrA2AM2-2またはrA2を5日間かけて感染させた。ヤギポリクローナル抗RSV抗血清を用いて免疫染色することによりウイルスプラークを視覚化し、顕微鏡下で写真撮影した。
図17: Hep-2細胞およびVero細胞におけるrA2ΔM2-2の増殖曲線。Vero細胞(A)またはHep-2細胞(B)にrA2ΔM2-2またはrA2を0.5のm.o.i.で感染させ、記載のごとく培地のアリコートを24時間ごとに採取した。Vero細胞でプラークアッセイを行うことによりウイルス力価を決定した。それぞれの時間点のウイルス力価は、2回の実験の平均である。
図18: rA2ΔNS1、rA2ΔNS2、およびrA2ΔNSlΔNS2のノーザンブロット分析。感染24時間後、rA2、rA2ΔNS1、rA2ΔNS2、およびrA2ΔNS1ΔNS2感染Vero細胞から全細胞RNAを抽出し、1.2%アガロース/2.2Mホルムアルデヒドゲルを用いて電気泳動にかけることにより分離し、そしてナイロン膜に移した。記載のごとくNS1、NS2、またはM2-2遺伝子に特異的なDig標識リボプローブをそれぞれのブロットにハイブリダイズさせた。
図19: 欠失突然変異体のプラーク形態。1%メチルセルロースと2%FBSを含有する1×L15培地とで構成された半固体オーバーレイ下で、記載のごとくHep-2またはVero細胞にそれぞれの欠失突然変異体を6日間かけて感染させた。ヤギポリクローナル抗RSV抗血清を用いて免疫染色することによりウイルスプラークを視覚化し、顕微鏡下で写真撮影した。
図20: Vero細胞におけるrA2ΔNS1の増殖曲線。Vero細胞にrA2ΔNS1またはrA2を0.5のm.o.i.で感染させ、記載のごとく培地のアリコートを24時間ごとに採取した。Vero細胞でプラークアッセイを行うことによりウイルス力価を決定した。
図21: Vero細胞におけるrA2ΔNS2の増殖曲線。Vero細胞にrA2ΔNS2またはrA2を0.5のm.o.i.で感染させ、記載のごとく培地のアリコートを24時間ごとに採取した。Vero細胞でプラークアッセイを行うことによりウイルス力価を決定した。
図22: Vero細胞におけるrA2ΔSHΔM2-2の増殖曲線。Vero細胞にrA2ΔSHΔM2-2またはrA2を0.5のm.o.i.で感染させ、記載のごとく培地のアリコートを24時間ごとに採取した。Vero細胞でプラークアッセイを行うことによりウイルス力価を決定した。
図23: いくつかの欠失突然変異体のノーザンブロット分析。感染24時間後、記載したそれぞれの欠失突然変異体に感染したVero細胞から全細胞RNAを抽出し、1.2%アガロース/2.2Mホルムアルデヒドゲルを用いて電気泳動にかけることにより分離し、そしてナイロン膜に移した。記載のごとく、NS1、NS2、SH、またはM2-2遺伝子に特異的なDig標識リボプローブをそれぞれのブロットにハイブリダイズさせた。
図24: Vero細胞におけるrA2ΔNS2ΔM2-2の増殖曲線。Vero細胞にrA2ΔNS2ΔM2-2またはrA2を0.5のm.o.i.で感染させ、記載のごとく培地のアリコートを24時間ごとに採取した。Vero細胞でプラークアッセイを行うことによりウイルス力価を決定した。
図25: Vero細胞におけるrA2ΔNS1ΔNS2の増殖曲線。Vero細胞にrA2ΔNS1ΔNS2またはrA2を0.5のm.o.i.で感染させ、記載のごとく培地のアリコートを24時間ごとに採取した。Vero細胞でプラークアッセイを行うことによりウイルス力価を決定した。
図26: 組換えA2株中へのRSV B9320株のGおよびF遺伝子の挿入。BamH I制限酵素部位を含有するプライマーを用いるRT/PCRにより、B9320のGおよびF遺伝子を増幅した。次に、A2株のRSV GおよびF遺伝子にフランキングする導入されたBgl II制限酵素部位を用いて、B9320のGおよびF遺伝子を含有するDNAカセットをpRSV(R/H)サブクローン中に導入した。続いて、Xho IおよびBamH I部位で連結することにより、B9320のGおよびF遺伝子を含有するcDNA断片を全長A2アンチゲノムcDNA中にシャフリング導入した。B9320のG遺伝子の遺伝子開始シグナルおよびF遺伝子の遺伝子終結シグナルには下線が付されている。また、クローニングに使用した制限酵素部位が示されている。
図27: キメラRSV rA-GBFBおよびrA-GBFBΔM2-2の株特異的発現。A. ウイルスRNA発現。ウイルス感染Vero細胞から全細胞RNAを抽出し、サブグループAまたはサブグループB RSVのいずれかのGまたはF遺伝子に特異的なプローブを用いてノーザンブロットのハイブリダイゼーションを行った。M2-2オープンリーディングフレームに特異的なリボプローブを用いて、M2-2遺伝子発現を調べた。B. ウイルスタンパク質発現。感染Vero細胞を35Sメチオニンおよび35Sシステインで標識し、抗RSVポリクローナル抗体または抗M2-2抗体を用いて細胞溶解物を免疫沈降させた。Gタンパク質発現を検出するために、感染細胞抽出物を、Gタンパク質に対するサブグループ特異的モノクローナル抗体を用いるウエスタンブロッティングに付した。rA-GBFBおよびrA-GBFBΔM2-2はいずれも、サブグループB特異的GおよびFタンパク質を発現し、かつサブグループA2主鎖に由来する他の遺伝子の正常な発現を保持した。rA-GBFBΔM2-2感染細胞では、M2-2タンパク質は発現されなかった。レーン1: rA2、レーン2: rA2ΔM2-2、レーン3: B9320、レーン4: rA-GBFB、レーン5: rA-GBFBΔM2-2。
図28: Hep-2細胞およびVero細胞におけるキメラウイルスの増殖動態。Hep-2またはVero細胞に対する0.1または0.01のいずれかのmoiでのウイルス感染を、2重反復試験方式により行った。24時間ごとに感染培養物の上清を採取し、Vero細胞でプラークアッセイを行うことによりウイルス力価を決定した。
5. 発明の説明
本発明は、異種遺伝子もしくは突然変異RSウイルス遺伝子または異なる株のRSウイルスに由来するウイルス遺伝子の組合せを発現する遺伝子工学的に作製された組換えRSウイルスおよびウイルスベクターに関する。本発明は、適切な宿主細胞における異種遺伝子産物の発現および/またはウイルス粒子中の異種遺伝子のレスキューを行うためにウイルスRNA指向RNAポリメラーゼと共に用いられ得る組換えネガティブ鎖RSウイルスRNA鋳型の構築および使用に関する。本発明のRNA鋳型は、バクテリオファージT7、T3、またはSp6ポリメラーゼのようなDNA指向RNAポリメラーゼを用いて適切なDNA配列の転写を行うことにより調製することが可能である。組換えRNA鋳型は、相補鎖形成を可能にするRNA指向RNAポリメラーゼタンパク質を発現する連続細胞系/トランスフェクト細胞系へのトランスフェクションに使用することができる。
RSVポリメラーゼ複合体のN、P、およびLタンパク質を発現する細胞中に導入されたゲノムセンスまたはアンチゲノムセンスのRSVゲノムを含有するcDNAから感染性RSVをレスキューする実施例により、本発明は実証される。さらに、cDNAから感染性RSVを回収するうえでM2-1発現プラスミドの発現は必要でないことが実施例により実証されるが、このことは、以前報告された内容とは逆である(Collins et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 11563-7)。さらに、組換えRSV cDNAからM2-ORF2を欠失させると、弱毒化RSV粒子のレスキューが可能になる。M2-2欠失RSVは、異種遺伝子産物をコードするキメラRSVを産生する優れたビヒクルであり、これらのキメラウイルスベクターおよびレスキューされたウイルス粒子は、異種遺伝子産物を発現させるための発現ベクターとして、およびRSV抗原性ポリペプチドまたは他のウイルスの抗原性ポリペプチドのいずれかを発現する生の弱毒化RSVワクチンとして、有用である。
T7プロモーター、デルタ肝炎ウイルスリボザイム、およびT7ターミネーターに加えて、RSVの完全ゲノムを含有するcDNAクローンを使用して、RSVのN、P、Lタンパク質をコードする発現ベクターと共にコトランスフェクトしたときに感染性ウイルス粒子が産生されるようにした実施例により、本発明はさらに実証される。このほか、実施例には、RSVゲノムの5'末端および3'末端ヌクレオチドにフランキングしたクロラムフェニコール-アセチル-トランスフェラーゼ(CAT)遺伝子または緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子のコード領域(ネガティブセンス配向)を含有するクローン化DNAのRNA転写産物が記載されている。RSVプロモーターを突然変異させて活性を増大させることにより、全長RSV cDNAから感染性RSV粒子を高効率でレスキューできるようになることが実施例によりさらに実証される。これらの結果から、組換えウイルスネガティブ鎖鋳型および増大された活性を有するRSVポリメラーゼを使用してRSVをうまくレスキューできるようになることが実証される。この系は、特定の生物学的性質を有するRSVウイルス、たとえば、RSVに対する生の弱毒化ワクチンを工学的に作製したり、異種遺伝子産物を発現させるための発現ベクターとして組換えRSVを使用したりするための優れたツールである。
本発明は、適切な宿主細胞における異種遺伝子産物の発現、ウイルス粒子における異種遺伝子のレスキュー、および/または突然変異したもしくはキメラの組換えネガティブ鎖ウイルスRNA鋳型の発現を行うための、ウイルスRNA指向RNAポリメラーゼと共に用いられうる組換えネガティブ鎖ウイルスRNA鋳型の構築および使用に関する(参照により全体が本明細書に組み入れられるものとするPaleseらに付与された米国特許第5,166,057号を参照されたい)。本発明の特定の実施形態では、異種遺伝子産物は、他の株のウイルスまたは他のウイルスに由来するペプチドまたはタンパク質である。RNA鋳型は、ポジティブセンス配向であってもネガティブセンス配向であってもよく、バクテリオファージT7、T3、またはSp6ポリメラーゼのようなDNA指向RNAポリメラーゼを用いて適切なDNA配列の転写を行うことにより調製することが可能である。
RNPをin vitroで再構成できることにより、外来遺伝子を発現する新規なキメラのインフルエンザウイルスおよびRSVウイルスのデザインが可能になる。この目標を達成する一方法では、既存のウイルス遺伝子の改変を必要とする。たとえば、外部ドメインにインフルエンザのHA遺伝子のような外来配列が含まれるように、GまたはF遺伝子を改変することが可能である。異種配列が病原体のエピトープまたは抗原である場合、これらのキメラウイルスは、これらの決定基が由来する疾患因子に対する防御免疫応答を誘発するために使用することが可能である。たとえば、ヒト免疫不全ウイルスのgpl20コード領域に由来するコード配列をRSVのコード配列に挿入し、野生型RSVを感染させた宿主細胞にこのキメラRNAセグメントをトランスフェクトしてキメラウイルスを作製することにより、キメラRNAを構築することが可能である。
表面タンパク質をコードする遺伝子の改変に加えて、非表面タンパク質をコードする遺伝子の改変を行ってもよい。後者の遺伝子は、RSウイルス系における重要な細胞性免疫応答のほとんどと関連していることが明らかにされている。したがって、RSVのGまたはF遺伝子に外来決定基を組み込めば、感染後、この決定基に対する効果的な細胞性免疫応答が誘発されるであろう。そのような方法は、防御免疫が細胞性免疫応答の誘発に極度に依存する場合にとくに有用であると思われる(たとえばマラリアなど)。
本発明はまた、ポリメラーゼタンパク質のようなRSVタンパク質のアミノ酸変化を引き起こす特異的突然変異をRSVのゲノムに導入することにより産生される、弱毒化表現型を呈する弱毒化組換えRSVに関する。
さらにまた、本発明は、ウイルスアクセサリー遺伝子の特異的欠失を単独でまたは組合せて導入することにより産生される弱毒化組換えRSVの産生に関する。とくに、本発明は、M2-2、SH、NS1、またはNS2ウイルスアクセサリー遺伝子のいずれかの欠失を有する弱毒化組換えRSVの産生に関する。さらに、本発明は、M2-2/SHウイルスアクセサリー遺伝子、M2-2/NS2ウイルスアクセサリー遺伝子、NS1/NS2ウイルスアクセサリー遺伝子、NS1/NS2ウイルスアクセサリー遺伝子、SH/NS1ウイルスアクセサリー遺伝子、SH/NS2ウイルスアクセサリー遺伝子、またはSH/NS1/NS2ウイルスアクセサリー遺伝子のいずれかの欠失の組合せを有する弱毒化組換えRSVの産生に関する。
本発明は、M2-2、SH、NS1、またはNS2ウイルスアクセサリー遺伝子における欠失を単独でまたは組合せて有するRSV cDNAから感染性弱毒化RSVをレスキューする本明細書に提示された実施例により実証される。そのようなM2-2、SH、NS1、NS2、M2-2/SH、M2-2/NS2、NS1/NS2、SH/NS1、SH/NS2、またはSH/NSl/NS2が欠失したRSVは、生の弱毒化RSVワクチンを作製するための優れたビヒクルとなる。さらに、そのようなM2-2、SH、NS1、NS2、M2-2/SH、M2-2/NS2、NS1/NS2、SH/NS1、SH/NS2、またはSH/NS1/NS2が欠失したRSVは、M2-2、SH、NS1、NS2、M2-2/SH、M2-2/NS2、NS1/NS2、SH/NS1、SH/NS2、またはSH/NS1/NS2遺伝子の代わりに異種遺伝子産物をコードするキメラRSVを作成するための優れたビヒクルとなる。したがって、これらのキメラRSVベースのウイルスベクターおよびレスキューされた感染性弱毒化ウイルス粒子は、異種遺伝子産物を発現させるための発現ベクターとして、およびRSV抗原性ポリペプチドまたは異種ウイルスの抗原性ポリペプチドのいずれかを発現する生の弱毒化RSVワクチンとして、有用である。
本発明はさらに、M2-1遺伝子に特異的突然変異を導入することにより産生される弱毒化組換えRSVの産生に関する。とくに、本発明は、限定されるものではないが、M2-1タンパク質のシステインスキャニング突然変異誘発やC末端トランケーションなどの1つ以上の技法により導入されたM2-1遺伝子の突然変異を有する弱毒化組換えRSVの産生に関する。
a. 組換えRNA鋳型の構築
ウイルスポリメラーゼ結合部位/プロモーターの相補体、たとえば、3'RSV末端または3'および5'RSV末端の相補体にフランキングする異種遺伝子コード配列は、当技術分野で公知の方法を用いて構築することが可能である。異種遺伝子コード配列にはまた、RSVポリメラーゼ結合部位/プロモーター、たとえば、RSVのリーダー配列およびトレーラー配列、の相補体を、当技術分野で公知の方法によりフランキングさせてもよい。これらのハイブリッド配列を含有する組換えDNA分子をクローン化し、バクテリオファージT7、T3、またはSp6ポリメラーゼなどのようなDNA指向RNAポリメラーゼにより転写させることにより、ウイルスポリメラーゼの認識および活性化を可能にする適切なウイルス配列を有する組換えRNA鋳型を産生することができる。
本発明の好ましい実施形態では、異種配列は、他の株のRSVのゲノムに由来する。たとえば、RSV B株の抗原性ポリペプチドGおよびFをコードするヌクレオチド配列またはそれらの断片を含むように、RSV A株のゲノムを工学的に操作する。本発明のそのような実施形態では、他の株のRSVに由来する異種コード配列を用いて出発株の抗原性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を置換するか、または親株の抗原性ポリペプチドだけでなく該異種コード配列も発現させることができる。後者の場合、RSVの1種、2種、またはそれ以上の株の抗原性ポリペプチドが発現されるように組換えRSVゲノムを工学的に操作することができる。
本発明のさらに他の実施形態では、異種配列は、任意の株のインフルエンザウイルスのゲノムに由来する。本発明によれば、RSVウイルスタンパク質内に異種ペプチド配列を含有するキメラ遺伝子産物が発現されるように、インフルエンザの異種コード配列をRSVコード配列中に挿入することが可能である。いずれの実施形態においても、インフルエンザのゲノムに由来する異種配列として、HA、NA、PB1、PB2、PA、NS1、またはNS2を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
本発明の特定の一実施形態では、異種配列は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、好ましくはヒト免疫不全ウイルス-1またはヒト免疫不全ウイルス-2のゲノムに由来する。本発明の他の実施形態では、インフルエンザウイルスタンパク質内に異種ペプチド配列を含有するキメラ遺伝子産物が発現されるように、異種コード配列をRSV遺伝子コード配列中に挿入することが可能である。本発明のそのような実施形態では、異種配列は、ヒト免疫不全ウイルス、好ましくはヒト免疫不全ウイルス-1またはヒト免疫不全ウイルス-2のゲノムに由来するものであってもよい。
異種配列がHIV由来である場合、そのような配列としては、env遺伝子(すなわち、gp160、gp120、および/またはgp41の全部もしくは一部分をコードする配列)、pol遺伝子(すなわち、逆転写酵素、エンドヌクレアーゼ、プロテアーゼ、および/またはインテグラーゼの全部もしくは一部分をコードする配列)、gag遺伝子(すなわち、p7、p6、p55、p17/18、p24/25の全部もしくは一部分をコードする配列)、tat、rev、nef、vif、vpu、vpr、および/またはvpxに由来する配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらのハイブリッド分子を構築する方法の1つは、ウイルスポリメラーゼ活性に必要なウイルス配列、すなわち、ウイルスポリメラーゼ結合部位/プロモーター(これ以降ではウイルスポリメラーゼ結合部位と記す)が異種配列にフランキングするように、RSVのゲノムRNAのDNA相補体に異種コード配列を挿入する方法である。代替的方法では、ウイルスポリメラーゼ結合部位をコードするオリゴヌクレオチド、たとえば、ウイルスゲノムセグメントの3'末端または両方の末端の相補体に異種コード配列を連結させて、ハイブリッド分子を構築することができる。以前は、標的配列内の外来遺伝子または外来遺伝子のセグメントの配置を標的配列内の適切な制限酵素部位の存在により規定した。しかしながら、分子生物学の最近の進歩により、この問題は大幅に軽減された。部位特異的突然変異誘発を利用して、標的配列内の任意の位置に制限酵素部位を容易に配置することができる(たとえば、Kunkel, 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 82;488などに記載の方法を参照されたい)。以下に記載のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術に変更を加えることにより、配列(すなわち制限酵素部位)の特異的挿入が可能になるとともに、ハイブリッド分子の容易な構築が可能になる。他の選択肢として、PCR反応を用いて組換え鋳型を調製すれば、クローニングを行う必要はないであろう。たとえば、PCR反応を用いれば、DNA指向RNAポリメラーゼプロモーター(たとえば、バクテリオファージT3、T7、またはSp6)と、異種遺伝子およびインフルエンザウイルスポリメラーゼ結合部位を含有するハイブリッド配列と、を含有する二本鎖DNA分子を調製できるであろう。次に、この組換えDNAからRNA鋳型を直接転写させることができるであろう。さらに他の実施形態では、RNAリガーゼを用いて、異種遺伝子の負の極性を指定するRNAをウイルスポリメラーゼ結合部位に連結することにより、組換えRNA鋳型を調製することが可能である。ウイルスポリメラーゼ活性に必要とされる配列および本発明に従って使用しうる構築物については、後述する。
i. 異種遺伝子の挿入
Lタンパク質をコードする遺伝子は、単一のオープンリーディングフレームを含有する。M2をコードする遺伝子は、それぞれ、ORF1および2に対する2つのオープンリーディングフレームを含有する。NS1およびNS2は、2つの遺伝子NS1およびNS2によりコードされている。別個の遺伝子によりコードされているGおよびFタンパク質は、ウイルスの主要表面糖タンパク質である。したがって、これらのタンパク質は、感染後の体液性免疫応答の主要な標的である。発現させる外来配列を追加するか、ウイルスコード領域を外来遺伝子で完全に置換するか、または部分的に置換することにより、これらのコード領域のいずれかに外来遺伝子配列を挿入することが可能である。RSVゲノムに挿入される異種配列は、約5キロベースまでの任意の長さをもちうる。完全置換は、おそらく、PCR指向突然変異誘発を用いて最も良好に達成されるであろう。
他の選択肢として、ウイルス配列の翻訳の内部開始を可能にしさらに通常の末端開始部位からの外来タンパク質コード配列の発現を可能にするように、二シストロン性mRNAを構築することが可能である。他の選択肢として、ウイルス配列が通常の末端オープンリーディングフレームから翻訳され、外来配列が内部部位から開始される二シストロン性mRNA配列を構築することも可能である。特定の内部リボソームエントリー部位(IRES)配列を利用することも可能である。選択されるIRES配列は、RSウイルスパッケージング限界を超えない程度に十分に短いものでなければならない。したがって、そのような二シストロン法に用いるべく選択されたIRESは、500ヌクレオチド以下の長さが好ましく、250ヌクレオチド未満の長さであることが好ましい。さらに、利用されるIRESは、ピコルナウイルスエレメントとの配列または構造の相同性をもたないことが好ましい。好ましいIRESエレメントとしては、哺乳動物BiP IRESおよびC型肝炎ウイルスIRESが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
b. 組換えRNA鋳型を用いる異種遺伝子産物の発現
上述したように調製された組換え鋳型は、適切な宿主細胞で異種遺伝子産物を発現させたりまたは異種遺伝子産物を発現するキメラウイルスを産生したりすべく、さまざまな形で使用することができる。一実施形態では、組換え鋳型を以下に記載の精製されたウイルスポリメラーゼ複合体と組合せて、感染性rRNPを生産することができる。この目的のために、ウイルスポリメラーゼ複合体の存在下で組換え鋳型を転写させることができる。他の選択肢として、組換え鋳型を、組換えDNA法を用いて調製されたウイルスポリメラーゼ複合体と混合するかまたは該複合体の存在下で転写させることが可能である(たとえば、Kingsbury et al., 1987, Virology 156:396-403を参照されたい)。さらに他の実施形態では、組換え鋳型を用いて適切な宿主細胞にトランスフェクトすることにより、高レベルの異種遺伝子産物の発現を指令することができる。高レベルの発現を提供する宿主細胞系としては、ウイルス機能を提供する連続細胞系、たとえば、RSVを重複感染させた細胞系、RSVウイルス機能を相補するように工学的に作製された細胞系などが挙げられる。
c. キメラネガティブ鎖RNAウイルスの調製
キメラウイルスを調製するために、外来タンパク質をコードする1つまたは複数の改変RSV RNAを含有する再構成RNPを用いて、「親」RSVウイルスを感染させた細胞にトランスフェクトすることが可能である。他の選択肢として、再構成RNP調製物を野生型親ウイルスのRNPと混合し、直接トランスフェクトすべく使用することが可能である。トランスフェクション後、新規なウイルスを単離し、ハイブリダイゼーション分析によりそれらのゲノムを同定することが可能である。感染性キメラウイルスを生産するための本明細書に記載の他の方法では、RSVまたはインフルエンザウイルスポリメラーゼタンパク質を発現する宿主細胞系(たとえば、ウイルス/宿主細胞発現系、ポリメラーゼタンパク質を発現するように工学的に作製された形質転換細胞など)においてrRNPを複製し、それにより、感染性キメラウイルスをレスキューすることが可能であり、この場合には、ヘルパーウイルスを利用する必要はない。なぜなら、この機能は、発現されたウイルスポリメラーゼタンパク質により提供されるからである。とくに望ましい方法では、8つのインフルエンザウイルスセグメントすべてに関して工学的に操作されたrRNPを細胞に感染させることにより、望ましい遺伝子型を含有する感染性キメラウイルスを生産することが可能であり、これにより選択系は不要となる。
理論上、RSVの遺伝子のうちの任意の1つまたはRSV遺伝子のうちの任意の1つの一部分を外来配列で置換することができる。しかしながら、この問題で必要とされるのは、欠損ウイルス(正常なウイルス遺伝子産物が存在しないかまたは改変されているために欠損している)を増殖させる能力である。この問題を回避するためのいくつかの可能な方法が存在する。
組換えウイルスを増殖させる第3の方法では、野生型ウイルスと一緒に共生培養を行うことを伴う。単に組換えウイルスを採取し、このウイルスと他の野生型ウイルス(好ましくはワクチン株)とを細胞に共感染させることにより、これを行うことが可能である。野生型ウイルスは、欠損ウイルス遺伝子産物を相補し、しかも野生型ウイルスおよび組換えウイルスの両方の増殖を可能にするものでなければならない。これは、インフルエンザウイルスの干渉性欠損粒子の増殖と同じような状況であろう(Nayak et al., 1983, In: Genetics of Influenza Viruses, P. Palese and D. W. Kingsbury, eds., Springer Verlag, Vienna, pp. 255-279)。干渉性欠損ウイルスの場合、増殖ウイルスの大部分が野生型ウイルスではなく欠損粒子になるように、条件を変化させることができる。したがって、この方法は、高力価の組換えウイルス・ストックを作製するのに有用であると思われる。しかしながら、これらのストックは、必然的にいくらかの野生型ウイルスを含有するであろう。
他の選択肢として、RSウイルスポリメラーゼタンパク質を発現する組換えウイルスを共感染させた細胞で合成RNPを複製することが可能である。実際に、この方法を用いて本発明に従って組換え感染性ウイルスをレスキューすることが可能である。この目的のために、限定するものではないがウイルス発現ベクター(たとえば、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、バキュロウイルスなど)を含む任意の発現ベクター/宿主細胞系またはポリメラーゼタンパク質を発現する細胞系で、RSVウイルスポリメラーゼタンパク質を発現させることが可能である(たとえば、Krystal et al., 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:2709-2713を参照)。
d. 弱毒化表現型を有するキメラウイルスの産生
本発明の方法を用いて突然変異または異種配列を導入することにより、RSVの分子生物学の解析、病原性解析、増殖および感染特性の解析をはじめとする多くの用途を有するキメラ弱毒化ウイルスを産生することが可能である。本発明に従って、たとえば、FまたはGタンパク質コード配列、NS1、NS2、M1ORF1、M2ORF2、N、P、またはLコード配列に、突然変異または異種配列を導入することが可能である。本発明のさらに他の実施形態では、特定のウイルス遺伝子またはその発現を喪失させて弱毒化表現型を生成させることが可能である。たとえば、RSVゲノムからM ORFを欠失させて、弱毒化表現型を有する組換えRSVを産生させることが可能である。さらに他の実施形態では、ヒトRSVの個別の内部遺伝子を、他の株の対応遺伝子またはウシもしくはネズミの対応遺伝子で置換することができる。これには、NS1、NS2、N、P、M、SH、M2(ORF1)、M2(ORF2)、およびL遺伝子またはGおよびF遺伝子のうちの1つ以上の遺伝子の一部分または全部が含まれていてもよい。RSVゲノムは、3つの膜貫通タンパク質、すなわち、Gタンパク質、浸透に必要な融合Fタンパク質、および小型SHタンパク質;ヌクレオキャプシドタンパク質N、PおよびL;転写伸長因子M2 ORF 1;マトリックスMタンパク質、ならびに2つの非構造タンパク質NS1およびNS2をコードする10個のmRNAを含有する。これらのタンパク質のうちの任意の1つを標的として弱毒化表現型を生成させることが可能である。弱毒化表現型を生成させるのに利用しうる他の突然変異は、リーダー配列およびトレーラー配列の挿入、欠失、ならびに部位特異的突然変異である。
本発明によれば、弱毒化RSVは、野生型ウイルスと比較して、増殖速度の低下をはじめとする実質的に低下した毒性を呈し、免疫化個体にウイルス感染の症状は現れない。
本発明によれば、弱毒化組換えRSVは、単一ヌクレオチド変化、部位特異的突然変異、挿入、置換、欠失、または再配列をはじめとする広範にわたる突然変異を組み込むことにより、作製することが可能である。これらの突然変異は、突然変異の性質に依存して、RSVゲノムの小型セグメント(たとえば15〜30ヌクレオチド)またはRSVゲノムの大型セグメント(たとえば50〜1000ヌクレオチド)に影響を及ぼしうる。さらに他の実施形態では、活性を除くことにより弱毒化表現型が得られるように、既存のシス作用性調節エレメントの上流または下流に突然変異を導入する。
本発明によれば、ウイルスの非コード調節領域を改変することにより、弱毒化ウイルスが得られるように、任意のウイルス遺伝子のダウンレギュレーション、たとえば、そのmRNAの転写の低下および/またはvRNA(ウイルスRNA)の複製の低減を達成することができる。
ウイルス遺伝子の複製のダウンレギュレーションおよび/またはウイルス遺伝子の転写のダウンレギュレーションを引き起こすウイルスゲノムの非コード調節領域の改変により、複製の各ラウンドで欠損粒子が産生されるであろう。すなわち、完全に感染性であり病原性であるウイルスに必要なウイルスセグメントの完全相補体よりも少ないセグメントをパッケージした粒子が得られるであろう。したがって、改変ウイルスは、複製の各ラウンドで野生型粒子を上回る多くの欠損粒子を放出するという点で弱毒化特性を示すであろう。しかしながら、各ラウンドで合成されるタンパク質の量は野生型ウイルスでも欠損粒子でも同程度であるので、そのような弱毒化ウイルスは良好な免疫応答を誘発することができる。
以上の方法は、セグメント化ウイルスおよび非セグメント化ウイルスのいずれにも等しく適用可能であり、ウイルス遺伝子の転写のダウンレギュレーションにより、そのmRNAおよびコードされた遺伝子産物の生成は低減されるであろう。ウイルス遺伝子が、構造タンパク質、たとえば、キャプシドタンパク質、マトリックスタンパク質、表面タンパク質、またはエンベロープタンパク質をコードする場合、複製時に産生される粒子の数が減少することにより、改変ウイルスは、弱毒化特性、たとえば、無症状レベルの感染を引き起こす力価を呈するであろう。たとえば、ウイルスキャプシド発現を減少させれば、複製時にパッケージングされるヌクレオキャプシドの数が減少し、一方、エンベロープタンパク質の発現を減少させれば、後代ビリオンの数および/または感染能が減少するであろう。他の選択肢として、複製に必要なウイルス性酵素、たとえば、ポリメラーゼ、レプリカーゼ、ヘリカーゼなどの発現を減少させれば、複製時に産生される後代ゲノムの数が減少するはずである。複製時に産生される感染性粒子の数が減少するので、改変ウイルスは弱毒化特性を呈した。しかしながら、産生される抗原性ウイルス粒子の数は強力な免疫応答を誘発するのに十分であろう。
弱毒化ウイルスを工学的に作製する代替法では、1つ以上のアミノ酸残基および/またはエピトープの挿入、欠失、もしくは置換(ただし、これらに限定されるものではない)をはじめとする改変を1つ以上のウイルスタンパク質に導入する。この導入は、対応するウイルス遺伝子配列中に適切な改変を工学的に組込むことにより容易に行いうる。ウイルスの複製が改変または低減されるようにウイルスタンパク質の活性を改変する任意の変更を、本発明に従って組込むことが可能である。
たとえば、宿主細胞レセプターへのウイルスの付着および続いて起こる感染を(完全に阻止するわけではないが)妨害する変更を、ウイルス表面抗原またはプロセシングに関与するウイルスプロテアーゼに工学的に組込むことにより、弱毒化株を産生することができる。この実施形態によれば、宿主細胞レセプターに対するウイルス抗原の結合親和性を阻害または低減する1つ以上のアミノ酸またはエピトープの挿入、置換、または欠失が含まれるように、ウイルス表面抗原を改変することができる。この方法には、外来エピトープを発現するとともに弱毒化特性をも呈するキメラウイルスを作製することが可能であるというさらなる利点がある。そのようなウイルスは、生の組換えワクチンとして使用するための理想的な候補である。たとえば、本発明に係るキメラウイルスに工学的に組込むことのできる異種遺伝子配列としては、gpl20のようなヒト免疫不全ウイルス(HIV)のエピトープ;B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg);ヘルペスウイルスの糖タンパク質(たとえば、gD、gE);ポリオウイルスのVP1;および細菌や寄生虫のような非ウイルス性病原体の抗原決定基が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらはいくつかの例を列挙したにすぎない。
これに関連して、RSVは、外来エピトープを工学的に組込むための理想的な系である。なぜなら、キメラウイルスの構築のために何千種ものウイルス変異体から選択することができるので、ワクシニアウイルスのような他のウイルスベクターを使用したときに見られる宿主耐性または免疫寛容の問題を回避できるからである。他の実施形態では、ウイルスタンパク質のプロセシングに必要なウイルスプロテアーゼの改変を工学的に行って弱毒化を達成することができる。酵素活性に影響を及ぼして酵素のプロセシング効率を低下させる改変を行えば、ウイルス感染能、パッケージング、および/または放出に影響を及ぼして弱毒化ウイルスを生産できるはずである。
他の実施形態では、酵素の効率または活性が低下するように、ウイルスの複製およびウイルス遺伝子の転写に関与するウイルス酵素、たとえば、ウイルスポリメラーゼ、レプリカーゼ、ヘリカーゼ等を改変することが可能である。そのように酵素活性を低下させることによって、より少ない後代ゲノムおよび/またはウイルス転写産物が生産されることになり、結果として、複製時に産生される感染性粒子が少なくなる。
ウイルス酵素のいずれかに工学的に組込まれる改変としては、分子の活性部位のアミノ酸配列の挿入、欠失、および置換が挙げられるが、これらに限定されるものではない。たとえば、基質に対する結合親和性を低下させた結果として酵素の特異性および/または効率が減少するように、酵素の結合部位を改変することが可能である。たとえば、すべてのポリメラーゼタンパク質に温度感受性突然変異が存在することから、選択の標的はウイルスポリメラーゼ複合体である。したがって、弱毒化株が産生されるように、そのような温度感受性と関連があるアミノ酸位置に導入される変化をウイルスポリメラーゼ遺伝子に工学的に組込むことができる。
i. 弱毒化の標的としてのRSV L遺伝子
本発明によれば、RSV L遺伝子は、弱毒化表現型を有する組換えRSVを産生するための重要な標的である。L遺伝子は、RSVゲノム全体の48%を構成する。本発明には、RSV L遺伝子に特定した突然変異またはランダム突然変異を有するL遺伝子突然変異体の産生が包含される。当業者に公知の技術を必要なだけ用いて、特定した突然変異またはランダム突然変異のいずれかをRSV L遺伝子に組込むことが可能である。突然変異を導入した後、ミニゲノム複製系を用いてin vitroでL遺伝子cDNA突然変異体の機能をスクリーニングし、次に、回収したL遺伝子突然変異体をin vitroおよびin vivoでさらに分析する。
次のストラテジーは、弱毒化表現型を有する突然変異体を産生するのに使用しうる方法の代表的な例である。さらに、以下に記載されている次のストラテジーは、単に例としてL遺伝子に適用したにすぎず、他のRSV遺伝子のいずれにも適用しうる。
弱毒化表現型を有する突然変異体を産生する方法の1つは、荷電アミノ酸のクラスターをアラニンに突然変異させるスキャニング突然変異誘発法を利用するものである。荷電アミノ酸のクラスターは一般的にはタンパク質構造内に埋込まれた状態で見いだされることはないので、この方法は機能性ドメインを標的とするのにとくに有効である。荷電アミノ酸を中性アミノ酸、たとえばアラニンのような保存的代替物で置換すると、タンパク質の構造は大きく変化することはないが、タンパク質の機能性ドメインの活性は変化するはずである。すなわち、荷電クラスターを破壊すると、そのタンパク質が他のタンパク質と相互作用する能力が阻害され、結果として、突然変異タンパク質の活性が感熱性になって、温度感受性突然変異体が得られるはずである。
荷電アミノ酸のクラスターは、少なくとも2個以上の残基が荷電残基である5アミノ酸からなるストレッチとして任意に定義することが可能である。スキャニング突然変異誘発法によれば、クラスター中の荷電残基のすべてが部位特異的突然変異誘発によりアラニンに突然変異される。RSV L遺伝子は大型の部位であるため、多くのクラスター化荷電残基が存在する。L遺伝子内には、4個の連続した荷電残基を含む少なくとも2個のクラスターと、3個の連続した荷電残基を含む少なくとも17個のクラスターが存在する。それぞれのクラスター中の荷電残基の少なくとも2〜4個を中性アミノ酸、たとえばアラニンで置換することが可能である。
弱毒化表現型を有する突然変異体を産生するさらに他の方法では、スキャニング突然変異誘発法を利用して、システインをグリシンまたはアラニンのようなアミノ酸に突然変異させる。そのような方法では、システインが分子内または分子間の結合形成に頻繁に関与していることを利用して、システインを、保存的代替物(たとえばバリンもしくはアラニン)または激変的代替物(たとえばアスパラギン酸)のような他の残基に突然変異させることにより、タンパク質の三次構造を破壊してタンパク質の安定性および機能を改変することが可能である。RSV L遺伝子中には約39個のシステイン残基が存在する。
さらに他の方法では、荷電基やシステイン残基以外の残基を対象としてRSV L遺伝子のランダム突然変異誘発が行われるであろう。RSV L遺伝子は非常に大きいので、そのような方法は、PCR突然変異誘発によりL遺伝子の大きなcDNA断片について突然変異誘発することにより行うことが可能である。そのような突然変異体の機能をミニゲノム複製系によりスクリーニングし、次に、回収された突然変異体をin vitroおよびin vivoでさらに分析することが可能である。
e. キメラウイルスを用いたワクチン製剤
事実上任意の異種遺伝子配列を本発明のキメラウイルスに組込んでワクチンに使用することが可能である。好ましい実施形態では、本発明は、RSV-AおよびRSV-Bに対する防御をもたらす二価RSVワクチンに関する。そのようなワクチンを製剤化するために、RSV-AおよびRSV-Bサブタイプの両方の抗原性ポリペプチドを発現するキメラRSウイルスを使用する。さらに他の好ましい実施形態では、本発明は、RSVおよびインフルエンザの両方に対する防御をもたらす二価ワクチンに関する。そのようなワクチンを製剤化するために、RSVおびインフルエンザの両方の抗原性ポリペプチドを発現するキメラRSウイルスを使用する。
好ましくは、さまざまな病原体のいずれかに対して防御免疫応答を誘発するエピトープまたは中和抗体に結合する抗原を、キメラウイルスによりまたはその一部分として発現させることが可能である。たとえば、ワクチンに使用すべく本発明のキメラウイルスに組込むことのできる異種遺伝子配列としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、好ましくはタイプ1またはタイプ2に由来する配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい実施形態では、抗原の供給源となりうる免疫原性HIV由来ペプチドをキメラインフルエンザウイルスに組込んで、それを脊椎動物における免疫応答を誘発するために使用することが可能である。
そのようなHIV由来ペプチドとしては、env遺伝子(すなわち、gp160、gp120、および/またはgp41の全部もしくは一部分をコードする配列)、pol遺伝子(すなわち、逆転写酵素、エンドヌクレアーゼ、プロテアーゼ、および/またはインテグラーゼの全部もしくは一部分をコードする配列)、gag遺伝子(すなわち、p7、p6、p55、p17/18、p24/25の全部もしくは一部分をコードする配列)、tat、rev、nef、vif、vpu、vpr、および/またはvpxに由来した配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
他の異種配列は、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)、ヘルペスウイルスの糖タンパク質(たとえば、gD、gE)、ポリオウイルスのVP1、細菌および寄生虫のような非ウイルス性病原体の抗原決定基に由来するものであってもよいが、ただし、これらはいくつかの例を列挙したにすぎない。他の実施形態では、免疫グロブリン遺伝子の全部もしくは一部分を発現させることが可能である。たとえば、そのようなエピトープを模擬する抗イディオタイプ免疫グロブリンの可変領域を本発明のキメラウイルスに組込むことが可能である。
生の組換えウイルスワクチンまたは不活性化組換えウイルスワクチンのいずれかを製剤化することができる。生ワクチンが好ましいと思われる。なぜなら生ワクチンは、宿主中で増殖することにより、自然感染で生じるのと同じような種類および大きさの刺激が持続するため、かなり長期にわたる持続性免疫が付与されるからである。そのような生の組換えウイルスワクチン製剤の製造は、細胞培養でまたはニワトリ胚の尿膜中でウイルスを増殖させてから精製を行う従来の方法を用いて行うことが可能である。
これに関連して、遺伝子工学的に作製されたRSV(ベクター)をワクチンに使用するには、これらの株に弱毒化特性をもたせることが必要であろう。ヒトに使用するための現在の生のインフルエンザウイルスのワクチン候補は、低温適応性であるか、温度感受性であるか、またはトリインフルエンザウイルスからいくつかの(6種の)遺伝子を引き出すように継代されたものであり、それにより弱毒化されている。トランスフェクションに使用する鋳型に適切な突然変異(たとえば欠失)を導入することにより、弱毒化特性を有する新規なウイルスを提供することが可能である。たとえば、温度感受性または低温適応性に関連する特異的ミスセンス突然変異を欠失突然変異として作製してもよい。これらの突然変異は、低温感受性または温度感受性突然変異体に関連する点突然変異よりも安定で、復帰頻度はきわめて低いはずである。
他の選択肢として、「自殺」特性を有するキメラウイルスを構築することが可能である。そのようなウイルスは、宿主中でわずか1ラウンドまたは数ラウンドの複製を行うに過ぎないであろう。ワクチンとして使用する場合、組換えウイルスは、1回の複製サイクルを経ることにより十分なレベルの免疫応答を誘発するが、ヒト宿主中でそれ以上複製されず、疾患を引き起こすことはないであろう。必須RSウイルス遺伝子が1つ以上欠如した組換えウイルスは、複製のラウンドを継続することができないであろう。特定の遺伝子(複数も可)が欠如した再構成RNPを、この遺伝子を永続的に発現する細胞系にコトランスフェクトすることにより、そのような欠損ウイルスを生産することができる。必須遺伝子(複数も可)が欠如したウイルスは、これらの細胞系では複製されるであろうが、ヒト宿主に投与したときは1ラウンドの複製を完了することができないであろう。そのような調製物は、免疫応答を誘発するのに十分な数の遺伝子を(この頓挫サイクルの中で)転写および翻訳しうる。他の選択肢として、これらの調製物が不活性化(死滅)ウイルスワクチンとして働くように、その株をより大量に投与することが可能である。不活性化ワクチンの場合、異種遺伝子産物がビリオンに関連するように、その異種遺伝子産物をウイルス構成成分として発現することが好ましい。そのような調製物の利点は、それらが天然タンパク質を含有していることおよび死滅ウイルスワクチンの製造に使用されるホルマリンまたは他の薬剤の処理による不活性化を受けないことである。
本発明のこの態様の他の実施形態では、キメラウイルスを「死滅」させる従来法を用いて、不活性化ワクチン製剤を調製することが可能である。不活性化ワクチンは、その感染能が破壊されているという意味で「死んだ状態」である。理想的には、免疫原性に影響を及ぼすことなくウイルスの感染能を破壊する。不活性化ワクチンを調製するために、細胞培養でまたはニワトリ胚の尿膜中でキメラウイルスを増殖させ、ゾーン超遠心分離により精製し、ホルムアルデヒドまたはβ-プロピオラクトンにより不活性化させ、そしてプールすることが可能である。得られたワクチンは、通常、筋肉内に接種される。
免疫応答を増強するために、不活性化ウイルスを好適なアジュバントと共に製剤化することも可能である。そのようなアジュバントとしては、鉱質ゲル、たとえば水酸化アルミニウム;リゾレシチン、プルロニック(pluronic)ポリオール、ポリアニオンのような界面活性物質;ペプチド;油乳剤;ならびにBCGおよびコリネバクテリウム・パルブム(Corynebacterium parvum)のような潜在的に有用なヒトアジュバントが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
以上に記載のワクチン製剤を導入するために、多くの方法を使用することが可能である。これらの方法としては、限定されるものではないが、経口、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、また鼻腔内経路を用いる方法が挙げられる。ワクチンの設計対象となる病原体の自然感染経路によりキメラウイルスワクチン製剤を導入することが好ましいと思われる。生のキメラウイルスワクチン調製物を使用する場合、インフルエンザウイルスの自然感染経路により製剤を導入することが好ましいであろう。強力な分泌性および細胞性免疫応答を誘発するRSVおよびインフルエンザウイルスの能力は有利に使用することができる。たとえば、キメラRSVまたはインフルエンザウイルスを気道に感染させることにより、特定の疾患誘発因子に対する防御を行うと同時に、たとえば泌尿生殖器系で、強力な分泌性免疫応答を誘発することが可能である。
次の節では、異種遺伝子発現のためのキメラウイルスを作製してワクチン接種のための感染性ウイルス粒子および弱毒化ウイルス粒子を産生する上での本発明の方法の適用可能性を示すために、一例としてRSVを用いるネガティブ鎖RNAウイルスゲノムの操作について説明するが、これは例として記載したものであり、これに限定されるものではない。
6. 特異的組換えDNAに由来するRNAを用いる感染性呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のレスキュー
この例では、RSV RNAゲノム全体をコードする組換えcDNAに由来する感染性呼吸器合胞体ウイルス(RSV)をレスキューして上記の第5節に記載の安定な感染性RSVを得る方法について説明する。記載の方法は、オルトミクソウィルス、パラミクソウイルスたとえば、センダイウイルス、パラインフルエンザウイルスタイプ1〜4、ムンプスウイルス、ニューカッスル病ウイルス;モルビリウイルス、たとえば、麻疹ウイルス、イヌジステンパーウイルス、牛疫ウイルス;ニューモウイルス、たとえば、呼吸器合胞体ウイルス;ラブドウイルス、たとえば、狂犬病ウイルス、ベシクロウイルス、水疱性口内炎ウイルス;をはじめとするセグメント化および非セグメント化RNAウイルスの両方に適用可能であるが、例としてRSVを用いて説明する。この方法は、HIV envタンパク質のような他のウイルスタンパク質を含めて、外来遺伝子、すなわち、RSVには本来存在しない遺伝子を発現させることのできるキメラRSVウイルスの生産に使用することができる。キメラRSVの生産を行う他の代表的な方法では、詳述されているように、既存の天然RSV遺伝子の改変が行われる。したがって、この例では、RSV病原性を特定的に弱毒化してヒトに使用するための工学的に操作された特定の生物学的性質を有するワクチンを産生するうえでの、この方法の有用性についても説明する。
全RSV RNAゲノムを用いるレスキュー方法の第1のステップでは、RSV株A2の15キロベース(kb)ゲノムの全長コピーを合成することが必要である。サイズ1kb〜3.5kbの範囲のサブゲノム二本鎖cDNAを1つにつなぎ合わせ、完全ゲノムcDNAを形成することにより(遺伝子操作の標準的手順を用いる)、この合成を行う。ゲノムcDNAのヌクレオチド配列を決定することにより、アセンブリープロセスの際に導入されたエラーを同定することが可能であり、部位特異的突然変異誘発によりまたは化学合成二本鎖DNA断片でエラー領域を置換することにより、エラーを修正することができる。アセンブリーに続いて、ゲノムcDNAの一端を転写プロモーター(たとえば、T7プロモーター)に隣接させて他端を転写終結可能なDNA配列(たとえば、特異的エンドヌクレアーゼまたはリボザイム)に隣接させて配置することにより、完全ウイルスゲノムのプラスまたはマイナスセンスRNAコピーの合成をin vitroでまたは培養細胞中で行えるようにする。リーダー配列またはトレーラー配列は、所望により、フランキングリボザイムおよびタンデムT7転写ターミネーターのような追加の配列を含有していてもよい。リボザイムは、デルタ肝炎ウイルスリボザイムであってもハンマーヘッド型リボザイムであってもよく、非ウイルスヌクレオチドを含まない正確な3'末端を生成する機能を有する。
本発明のこの態様によれば、天然RSVゲノム配列に対して突然変異、置換または欠失の突然変異を引き起こし、RSVプロモーター活性を増大させることができる。出願人は、RSVプロモーター活性を増大させた場合でもRSVのレスキューの効率が大きく向上し、突然変異を有する全長RSV cDNAから感染性RSV粒子をレスキューできることを実証した。とくに、ゲノムの位置4で点突然変異(CからGへ)を起こすと、プロモーターの活性、および突然変異を有する全長RSV cDNAクローンからの感染性ウイルス粒子のレスキューが、数倍に増加する。
レスキュー方法は、構築されたcDNAから転写される全長RSV株A2ゲノムRNAと、培養細胞内のヘルパーRSVサブグループBウイルスタンパク質と、の相互作用を利用する。これはいくつかの方法で行うことができる。たとえば、RSV株A2由来の全長ウイルスゲノムRNAをin vitroで転写し、標準的なトランスフェクションプロトコールを用いて293細胞のようなRSV株B9320感染細胞にトランスフェクトすることができる。このほか、安定に組込まれたウイルス遺伝子から必須RSV株A2タンパク質を発現する細胞系に(ヘルパーウイルスの不在下で)、RSV株A2からin vitroで転写したゲノムRNAをトランスフェクトしてもよい。
他の選択肢として、必須ヘルパーRSV株A2タンパク質、とくに、N、P、L、および/またはM2-ORF1タンパク質を発現する異種ウイルス(たとえば、とくにワクシニアウイルス)を感染させた細胞に、in vitroで転写したウイルスゲノムRNA(RSV株A2)をトランスフェクトすることもできる。このほか、ヘルパーN、P、およびL遺伝子を含有するトランスフェクトプラスミドDNAからのヘルパータンパク質の発現を可能にするT7ポリメラーゼを発現する異種ウイルスたとえばワクシニアウイルスを感染させた細胞に、in vitroで転写したゲノムRNAをトランスフェクトすることも可能である。
in vitroで転写したゲノムRNAのトランスフェクションに代わる手段として、必須ヘルパーRSV株A2タンパク質とT7ポリメラーゼとを発現する異種ウイルスたとえばワクシニアウイルスを感染させた細胞に、全RSV cDNA構築物を含有するプラスミドDNAをトランスフェクトすることにより、RSV cDNA構築物を含有するプラスミドDNAから全RSVゲノムRNAを転写できるようにすることも可能である。しかしながら、ワクシニアウイルスは、ヘルパータンパク質それ自体を供給する必要はなく、T7ポリメラーゼだけを供給すればよい。その場合、プラスミド自体のもつT7プロモーターに隣接させて適切に配置したRSV N、P、およびL遺伝子を含有するトランスフェクトプラスミドから、ヘルパータンパク質を発現させることが可能である。
レスキュー実験時、ウイルスを複製することがヘルパー機能を提供することである場合、RSVのB9320株を使用して、レスキューにより導かれた後代をRSV B9320と区別することが可能である。レスキューされたRSV株A2は、レスキュー前にRSVゲノムのcDNAコピー中に挿入された特異的ヌクレオチド「マーカー」配列の存在により明確に同定される。
天然すなわち「野生型」のRSV株A2に対するレスキュー系が確立されれば、RSVゲノムのcDNAコピーに改変を導入して、得られるレスキューウイルスの病原性が弱くなるように天然RSVの配列とはいくらか異なる配列を含有するキメラRSVを構築することにより、先の第5.4節で論じたような安全で効き目のあるヒトワクチンを提供することが可能になる。ウイルス弱毒化を引き起こすのに必要な遺伝的改変は、さらに詳述されているように、全体的なものであってもよいし(たとえば、ウイルスゲノム内の全遺伝子および/または調節配列のトランスロケーション)、小規模なものであってもよい(たとえば、ウイルスゲノム内の重要な調節性または機能性ドメインの単一または複数のヌクレオチド置換、付加、および/または欠失)。
RSV遺伝物質の改変(トランスロケーションに起因する改変を含む)により異種配列を提供するほかに、この方法は、遺伝的エレメントの発現をもたらす形での生物学的機能または抗原性を呈する「外来」遺伝子(すなわち、RSVには本来存在しない遺伝子)またはその遺伝子構成成分の挿入を可能にする。このようにして、改変キメラRSVは、予防もしくは治療に利用できる可能性のあるリボザイム、アンチセンスRNA、特異的オリゴリボヌクレオチドのような他の異種タンパク質もしくは遺伝的エレメント、またはワクチンに使用するための他のウイルスタンパク質に対する発現系として機能することができる。
a. ヘルパーウイルスとしてRSV株B9320を用いるRSV株A2のリーダー配列およびトレーラー配列のレスキュー
i. ウイルスおよび細胞
この実施例ではRSV株A2およびRSV株B9320を使用したが、それらは代表例である。この実施例の教示に従ってRSVサブグループAおよびRSVサブグループBのウイルスの他の株を使用することは、当該技術の範囲内である。そのような他の株を利用する方法は、本発明に包含される。
RSV株A2およびRSV株B9320をそれぞれHep-2細胞およびVero細胞中で増殖させ、293細胞をトランスフェクション/レスキュー実験で宿主として使用した。3つの細胞系はすべて、ATCC(Rockville, Maryland)から入手したものである。
ii. リポータープラスミドの構築および機能分析
プラスミドpRSVA2CAT(図1)を以下に記載されているように構築した。
RSV株A2の44ヌクレオチドリーダー成分および155ヌクレオチドトレーラー成分のcDNA(Mink et al., Virology 185:615-624 (1991); Collins et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 88:9663-9667 (1991)を参照されたい)(トレーラー成分には、バクテリオファージT7ポリメラーゼのプロモーターコンセンサス配列も含まれる)を、部分的にオーバーラップした相補性を有するオリゴヌクレオチドの制御下でのアニーリングにより別々にアセンブリーした(図1参照)。アニーリングに使用したオリゴヌクレオチドは、Applied Biosystems DNA合成機(Foster City, CA)を用いて合成した。個々のオリゴヌクレオチドおよびリーダー配列およびトレーラー配列中のそれらの相対位置を図1に示す。リーダーを構築するのに使用したオリゴヌクレオチドは、次のとおりであった:
トレーラーを構築するのに使用したオリゴヌクレオチドは、次のとおりであった:
次に、完全なリーダーcDNAおよびトレーラーcDNAを、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)リポーター遺伝子のXbaI部位およびPstI部位にそれぞれ連結して、線状1kb RSV/CAT cDNA構築物を形成した。次に、このcDNA構築物をpUC19のKpn IおよびHind II部位に連結させた。Xba I/Pst IおよびKpn I/Hind II消化産物のサイズをゲル分析することにより、最終pRSVA2CAT構築物の完全性を検査した。また、適切な制限酵素部位を用いて、完全なリーダーcDNAおよびトレーラーcDNAを緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子に連結させて、線状cDNA構築物を形成した。得られたRSV-GFP-CATは、CATおよびGFPの両方を発現する二シストロン性リポーター構築物である。
T7供給業者のプロトコール(Promega Corporation, Madison, Wisconsin)に従って、バクテリオファージT7ポリメラーゼによるHga I線状化pRSVA2CATのin vitro転写を行った。6ウェルディッシュ中の集密的293細胞(1ウェルあたり約1×10
6細胞)に1細胞あたり1プラーク形成単位(p.f.u.)のRSV株B9320を感染させ、1時間後、pRSVA2CAT構築物からin vitroで転写した5〜10μgのRNAをトランスフェクトした。トランスフェクション手順は、Collins et al., Virology
195:252-256 (1993)のトランスフェクション手順に準拠した。また、製造業者の仕様(Gibco-BRL, Bethesda, Maryland)に従って、Transect/ACT
TM Opti-MEM試薬を利用した。感染24時間後、標準的プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, Chapter 9.6.2; Gorman, et al., 1982) Mol. Cell Biol. 2:1044-1051)を用いて、293細胞のCAT活性をアッセイした。高レベルのCAT活性が検出されたことにより、RSV株B9320により供給されたタンパク質を用いて、RSV A2株ゲノムの「リーダー」領域および「トレーラー」領域ならびにCAT遺伝子を含有するin vitroで転写させたネガティブセンスRNAを、キャプシド被包、複製、および発現できることが示された(図2参照)。これらの実験で観察されたCAT活性のレベルは、同種のRSV株A2をヘルパーウイルスとして使用した類似のレスキュー実験で観察されたレベルと少なくとも同程度の高さであった。抗原性の全く異なるサブグループBのRSV株B9320がサブグループAのRSV株A2のRNAのキャプシド被包、複製、および転写を支援する能力は、我々の知る限りではこれまで正式に報告されていなかった。
b. RSVの完全ゲノムに相当するcDNAの構築
cDNA合成用の鋳型を得るために、Ward et al., J. Gen. Virol. 64:167-1876 (1983)に記載の方法に従って、15,222ヌクレオチドを含むRSVゲノムRNAを感染Hep-2細胞から精製した。ゲノムRNA鋳型から第1鎖および第2鎖cDNAを合成するためのプライマーとして機能させるべく、公表されているRSVヌクレオチド配列に基づいてApplied Biosystems DNA合成機(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いてオリゴヌクレオチドを合成した。cDNAプライマーおよびRSVゲノム内の重要なエンドヌクレアーゼ部位のヌクレオチド配列および相対位置を図3に示す。Perkin Elmer Corporation, Norwalk, Connecticutの逆転写/ポリメラーゼ連鎖反応(RT/PCR)プロトコールに従ってウイルスゲノムRNAからのcDNAの生成を実施し(Wang et al., (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. 86:9717-9721も参照されたい)、増幅されたcDNAをアガロースゲルからの適切なDNAバンドの電気溶出により精製した。精製されたDNAをpCRIIプラスミドベクター(Invitrogen Corp. San Diego)中に直接連結し、「One Shot」大腸菌(E. coli)細胞(Invitrogen)または「SURE」大腸菌(E. coli)細胞(Stratagene, San Diego)のいずれかへとトランスフォームした。得られたウイルス特異的クローン化cDNAを標準的クローニング方法(Sambrook et al., Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor laboratory Press (Cold Spring Harbor, NY, 1989)によりアセンブリーし、完全RSVゲノムの範囲をカバーするcDNAを作製した。全cDNAゲノムの配列を決定し、正しくない配列を部位特異的突然変異誘発または化学合成DNAのいずれかにより置換した。ヌクレオチド置換を「F」遺伝子中の塩基7291および7294(塩基番号1はゲノムRNA 3'末端の開始位置である)に導入して新規なStu Iエンドヌクレアーゼ部位を作製し、また位置7423、7424、および7425(同様にF遺伝子中)に導入して新規なPme I部位を作製した。これらの変化がレスキュー事象の明確なマーカーとして機能するようにデザインした。ネガティブまたはポジティブセンスウイルスゲノムRNAをin vitroで合成できるように、バクテリオファージT7ポリメラーゼ部位およびHga Iエンドヌクレアーゼ部位をウイルスゲノムcDNAの両末端に配置した。T7ポリメラーゼプロモーター配列およびHga I認識配列に相当するcDNAをApplied Biosystems DNA合成機で合成し、そしてウイルスゲノムcDNAの末端に別々に連結させるかまたは適切な場合にはゲノムcDNAの末端部分を増幅する際にPCRプライマーの不可欠な一部分として付加した。後者の手順は、ゲノムcDNA末端の近傍に好適なエンドヌクレアーゼ部位が存在しないために化学合成T7プロモーター/Hga I部位cDNAをゲノムcDNAに直接連結させることができないときに使用した。次に、この完全構築物(ゲノムcDNAおよびフランキングT7プロモーター/Hga I認識配列)を、内因性T7プロモーターが部位特異的突然変異誘発により除かれているBluescript II SKファージミド(Stratagene, San Diego)のKpn I/Not I部位にクローン化した。この完全ゲノム構築物から転写したRNAを、実施例6.1に従ってRSVサブグループBヘルパーウイルスを用いてレスキューすることにより感染性RSVを得ることが可能である。完全な天然すなわち「野生型」のRSV A2株ゲノムRNAに対するこの基本的レスキュー系は、さまざまな改変をゲノムのcDNAコピーに導入して異種配列をゲノムに導入するために利用することができる。そのような変化は、ウイルスの複製を制限することなく、レスキューが不可能になるかまたはウイルス遺伝子発現が十分な免疫を刺激するのに不十分となるまでウイルス病原性を低減させるようにデザインすることができる。
リボザイム/T7ターミネーター配列を構築するために、次のオリゴヌクレオチドを使用した:
RSVの完全ゲノム、T7プロモーター、デルタ肝炎ウイルスリボザイム、およびT7ターミネーターを含有するcDNAクローンを作製した。この構築物は、T7ポリメラーゼの存在下でアンチゲノムRNAまたはRSVをin vivoで生成するために使用することができる。配列解析により、そのプラスミドはRSVゲノム中に多少の突然変異を含んでいることが示された。
RSVゲノムの改変
RSV RNAゲノムの改変は、遺伝子シャフリングのようなRSVの遺伝的構造の全体的改変を含みうる。たとえば、ウイルス遺伝子の発現における3'→5'方向の勾配が知られていることを利用して、ゲノムの5'末端により近接した位置にRSV M2遺伝子をトランスロケーションして、感染細胞におけるM2タンパク質発現のレベルを低減させることにより、ウイルスの構築および成熟の速度を減少させることができる。場合により、ヒトまたは動物由来の他の株のRSVから他の遺伝子および/または調節領域を適切にトランスロケーションすることも可能である。たとえば、ヒト由来サブグループB RSVのF遺伝子(および場合により「G」遺伝子)を異なるRSV A株のゲノムに(RSV A株のFおよびG遺伝子の代わりにまたはそれに加えて)挿入することが可能である。
他の方法では、同様に、遺伝子転写における3'→5'方向の勾配を利用して、RSVウイルスNタンパク質のRNA配列をその3'近接部位からゲノムの5'末端により近接した位置にトランスロケーションすることにより、生成するNタンパク質のレベルを低減させることができる。生成するNタンパク質のレベルを低減させれば、RSVに対する宿主免疫の刺激に関与する遺伝子の転写の相対速度が増加すると共に、ゲノム複製の相対速度が減少するであろう。したがって、RSV Nタンパク質をコードするRSV RNA配列をトランスロケーションすれば、天然RSVよりも病原性の弱められたキメラRSウイルスが産生されるであろう。
弱毒化キメラRSVの産生を引き起こす他の代表的なトランスロケーション改変としては、RSVのLタンパク質をコードするRSV RNA配列のトランスロケーションが挙げられる。RSウイルスのこの配列は、ウイルスポリメラーゼタンパク質を産生する役割を担っていると考えられる。Lタンパク質をコードするRSV配列を天然RSVゲノム中のその天然の5'末端側位置からゲノムの3'末端またはその近傍の位置にトランスロケーションすることにより、弱められた病原性を呈するキメラRSVウイルスが産生されるであろう。さらに他の代表的なトランスロケーションとしては、RSV GおよびFタンパク質をコードするRSV RNA配列の位置の交換(すなわち、ゲノム中での互いの位置に対して)が挙げられる。この場合、生成するGおよびFタンパク質の量のわずかな変化の結果として弱められた病原性を有するキメラRSVが得られるであろう。以上に例示および論述されているそのような遺伝子シャフリング改変は、天然RSV出発物質と比較して弱められた病原性を有するキメラ改変RSVを与えると考えられる。全RSVゲノムに対するヌクレオチド配列が公知であると同様に、上記のコードされたタンパク質に対するヌクレオチド配列もまた公知である。McIntosh, Respiratory Syncytial Virus in Virology, 2d Ed. edited by B. N. Fields, D. M. Knipe et al., Raven Press, Ltd. New York, 1990 Chapter 38, pp 1045-1073およびそこに引用されている参考文献を参照されたい。
これらの改変は、RSVゲノムの遺伝子内および/または調節性ドメイン内の局在的または部位特異的な単一もしくは複数のヌクレオチド置換、欠失、または付加を追加的または代替的に含みうる。そのような部位特異的な単一もしくは複数の置換、欠失、または付加により、過度に弱毒化することなくウイルスの病原性を低減させることができる。たとえば、Fタンパク質中の開裂部位にあるリシンまたはアルギニン残基の数を減少させて宿主細胞プロテアーゼによるその開裂の効率を低下させれば(その開裂は、Fタンパク質の機能活性化に不可欠なステップであると考えられる)、おそらく毒性が低下するであろう。RSVゲノムの3'または5'調節領域中の部位特異的改変を利用し、ゲノムの複製を犠牲にして転写を増大させることも可能である。このほか、転写と複製との間の切換えを制御すると考えられるNタンパク質内のドメインの局在的操作により、ゲノムの複製は低減されるが依然として高レベルの転写が可能であるようにすることができる。さらに、GおよびF糖タンパク質の細胞質ドメイン(複数も可)を改変することにより、感染細胞の小胞体およびゴルジ体を通過するそれらの移動速度を低下させてウイルスの成熟を遅らせることができる。そのような場合、RSV感染時に中和抗体の産生を刺激することに関与する主要抗原であるGタンパク質のみの移動を改変すれば十分であり、そうすれば、さらに「F」産生のアップレギュレーションが行われるであろう。RSVゲノムの遺伝子内および/または調節性ドメイン内におけるそのような局在的な置換、欠失、または付加によって、同様に天然RSVゲノムよりも低減された病原性を有するキメラ改変RSVが得られると考えられる。
c. RSVの完全ゲノムに相当するcDNAのレスキュー
i. 発現プラスミドの構築および機能分析
RSV N、P、およびL遺伝子は、RSVのウイルスポリメラーゼをコードする。RSV M遺伝子の機能は不明である。ヘルパーRSV株A2タンパク質の機能を提供するRSV N、P、M、およびL発現プラスミドの能力を、以下に記載されているように評価した。RSV N、P、L、およびM2-1遺伝子を改変PCITE 2a(+)ベクター(Novagen, Madison, WI)中のT7プロモーターの制御下にクローン化し、その3'末端にT7ターミネーターをフランキングさせた。pCITE-2a(+)のAlwn IおよびBgl II部位にPCITE-3a(+)由来のT7ターミネーター配列を挿入することにより、PCITE2a(+)を改変した。トランスフェクトしたpRSVA2CATを複製する能力により、N、PおよびL発現プラスミドの機能性を決定した。約80%の集密度において、6ウェルプレート中のHep-2細胞に5のmoiでMVAを感染させた。1時間後、lipofecTACE(Life Technologies, Gaithersburg, M.D.)を用いて、pRSVA2CAT(0.5mg)ならびにN(0.4mg)、P(0.4mg)、およびL(0.2mg)遺伝子をコードするプラスミドを感染細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションを5時間または一晩進行させてから、トランスフェクション培地を2%(ウシ胎仔血清)FBSを含有する新たなMEMと交換した。感染2日後、細胞を溶解させ、Boehringer MannheimのCAT ELISAキットを用いて溶解物のCAT活性を分析した。pRSVA2CATと共にN、P、およびLプラスミドをトランスフェクトした細胞ではCAT活性が検出された。しかしながら、発現プラスミドのうちのいずれか1つを抜かした場合、CAT活性は検出されなかった。さらに、RSV-GFP-CATと、N、P、およびL発現プラスミドとのコトランスフェクションを行ったところ、GFPおよびCATタンパク質の両方が発現された。リポーター遺伝子発現系において、種々の発現プラスミドと組換えワクシニアウイルスのmoiとの比を最適化した。
ii. 完全RSV cDNAからの感染性RSVの回収
Hep-2細胞にMVA(T7ポリメラーゼを発現する組換えワクシニアウイルス)を1のmoiで感染させた。50分後、トランスフェクション混合物を細胞上に添加した。トランスフェクション混合物は、2μgのN発現ベクター、2μgのP発現ベクター、1μgのL発現ベクター、1.25μgのM2/ORF1発現ベクター、増強されたプロモーターを有するRSVゲノムクローン2μg、50μlのLipofecTACE(Life Technologies, Gaithersburg, M.D.)、および1mlのOPTI-MEMからなるものであった。1日後、トランスフェクション混合物を2% FCSを含有するMEMと交換した。細胞を37℃で2日間インキュベートした。トランスフェクション上清を採取し、これを用いて40μg/mlのarac(ワクシニアウイルスに対する薬)の存在下で新たなHep-2細胞に感染させた。感染Hep2細胞を7日間インキュベートした。P1上清を採取した後、RSV A2株のFタンパク質に対する抗体を用いて免疫染色を行うために細胞を使用した。(RSV感染に特有な)目に見える細胞間融合を有するポジティブ染色された6つの部位が同定された。P1上清からRNAを抽出し、RT-PCR分析用の鋳型として使用した。FおよびM2領域に対応するPCR産物を生成した。いずれの産物にも、導入されたマーカーが含まれていた。対照の天然RSVウイルス由来のPCR産物はマーカーを欠如していた。
RSVゲノムクローンのリーダー配列の位置4に点突然変異を生成し(C残基からG残基へ)、このゲノムクローンをpRSVC4GLwtと名づけた。このクローンは、リポーター遺伝子に関して、プロモーター活性を野生型の数倍に増大させることが判明した。この突然変異を全長ゲノムに導入した後、cDNAクローンから感染性ウイルスをレスキューした。レスキューされた組換えRSVウイルスは、野生型RSVウイルスよりも小さいプラークを形成した(図8)。
この系は、突然変異RSVのレスキューを可能にする。したがって、その系は、RSVに対する生の弱毒化ワクチンを工学的に作製したり、RSVベクターおよびウイルスを使用して異種遺伝子発現を行ったりするための優れたツールであると思われる。タイプB RSVのGタンパク質をタイプAのバックグラウンドで発現させることができれば、ワクチンによりタイプAおよびタイプB RSV感染の両方を防御できるようになるであろう。また、遺伝子の順序を変化させることによりまたはLタンパク質の部位特異的突然変異誘発により、弱毒化および温度感受性の突然変異をRSVゲノムに導入することも可能であろう。
d. レスキューされたウイルスとヘルパーウイルスとを区別するためのモノクローナル抗体の使用
RSV株B9320ヘルパーウイルスを中和しかつレスキューされたA2株RSVの同定を容易にするために、RSV株B9320に対するモノクローナル抗体を次のように作製した。
6匹のBALB/c雌マウスに105プラーク形成単位(p.f.u.)のRSV B9320を鼻腔内(i.n.)感染させ、5週間後、50%の完全フロイントアジュバントを含有する混合物中の106〜107 pfuのRSV B9320を腹腔内(i.p.)接種した。i.p.接種の2週間後、標準的中和アッセイ(Beeler and Coelingh, J. Virol. 63:2941-2950 (1988))を用いて、それぞれのマウスから採取した血液サンプル中にRSV特異的抗体が存在するかを試験した。次に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の106p.f.u.のRSV株B9320を尾の付け根に静脈内注射することにより、最高レベルの中和抗体を産生するマウスをさらに追加免疫した。3日後、マウスを屠殺し、その脾臓をモノクローナル抗体産生B細胞の供給源として採取した。脾臓被膜を切開してマウス脾臓から脾細胞(B細胞を含む)を取り出し、5mlのDulbecco改変Eagle培地(DME)に加えた。細胞塊を沈降させ、室温において2000×gで5分間遠心分離することにより、残存する懸濁細胞を分離採取した。これらの細胞ペレットを15mlの0.83(W/V)NH4C1中に再懸濁させ、5分間放置して赤血球を溶解させた。次に、ウシ胎仔血清の10mlクッションを介して前と同じように遠心分離することにより、脾細胞を回収した。次に、脾細胞をDME中ですすぎ、再ペレット化し、そして最後に20mlの新たなDME中に再懸濁させた。次に、これらの脾細胞をSp2/0細胞(脾細胞の不死化のための融合パートナーとして使用されるマウス骨髄腫細胞系)と10:1の脾細胞:Sp2/0細胞比で混合した。Sp2/0細胞は、ATCCから入手し、10%ウシ胎仔血清で補足されたDME中で維持した。次に、室温において細胞混合物を2000×gで8分間遠心分離した。細胞ペレットを1mlの50%ポリエチレングリコール1000 mol. wt.(PEG 1000)中に再懸濁させ、続いて25mlの最終体積に達するまで1分間隔で等体積のDMEを添加した。次に、融合細胞を前と同じようにペレット化し、増殖培地(SP2/0細胞に由来する50%馴化培地。100ml RPMI、25ml F.C.S.、100μgmlゲンタマイシン、4ml 50×ヒポキサンチン,チミジン,アミノプテリン(HAT)培地を含有する50% HA培地であり、Sigma Chem. Co., St. Louis, MOから調製混合物として供給されたものである)中に3.5×106脾細胞ml-1で再懸濁させた。細胞懸濁液をウェルプレート(200μlウェル-1)に分配し、37℃、湿度95、および5% CO2でインキュベートした。次に、ハイブリドーマ細胞(脾細胞とSp2/0細胞とを融合させたもの)のコロニーを24ウェルプレートに入れて継代培養し、ほぼ集密状態になるまで増殖させた。次に、増殖培地の上清をサンプリングし、標準的中和アッセイ(Beeler and Coelingh, J. Virol. 63:2941-50 (1988))を用いてRSV株B9320中和モノクローナル抗体が存在するかを調べた。中和活性を有するウェル中のハイブリドーマ細胞を増殖培地中に再懸濁させ、100μlあたり0.5細胞の細胞密度になるまで希釈し、1ウェルあたり200μlを96ウェルプレートにプレーティングした。この手順により単クローン(すなわち、単一細胞に由来するハイブリドーマ細胞系)が産生されるようにした。次に、この単クローンを再アッセイして中和モノクローナル抗体を産生するかを調べた。続いて、RSV株B9320を中和することはできるがRSV株A2を中和できないモノクローナル抗体を産生したハイブリドーマ細胞系をマウスにi.p.感染させた(マウス1匹あたり106細胞)。i.p.注射の2週間後、RSV株B9320に対する中和モノクローナル抗体を含有するマウス腹水を19ゲージ針で採取し、-20℃で保存した。
第9.1節に記載されているRSV株A2のレスキューを行った後、このモノクローナル抗体を用いてRSV株B9320ヘルパーウイルスを中和した。これを次のように行った。まず、1% F.C.S.を含有するEagle最少必須培地(EMEM)中に溶解させた0.4%(w/v)融解寒天で中和モノクローナル抗体を1/50に希釈した。次に、1細胞あたり0.1〜0.01 p.f.u.のm.o.i.でレスキュー実験の後代を感染させたHep-2細胞単層に、この混合物を添加した。モノクローナル抗体を寒天重層中で用いたところ、RSV株B9320の増殖は阻害されたがRSV株A2は増殖したため、A2株によるプラークが形成された。これらのプラークをパスツールピペットで突いてプラーク上の寒天プラグおよびプラーク内の感染細胞を採取した。その細胞および寒天プラグを2mlのEMEM, 1% FCSに再懸濁させ、そして放出されたウイルスをモノクローナル抗体の存在下で新たなHep-2細胞単層上で再びプラーク形成させることにより、ヘルパーウイルスからさらに精製した。次に、2回プラーク形成させたウイルスを用いて24ウェルプレート中のHep-2細胞に感染させ、それから得られた後代を用いて、1細胞あたり0.1 p.f.u.のm.o.i.で6ウェルプレートに接種した。最後に、上記の第6.2節に記載されている「マーカー配列」(レスキュー事象を認識する手段として機能させるべくRSV株A2ゲノムに導入した)のどちらかの側に位置する第1鎖および第2鎖プライマーを用いて、6ウェルプレートの1ウェル中の感染細胞全RNAをRT/PCR反応にかけた。続いて、RT/PCR反応から産生されたDNAをStu IおよびPme Iで消化して、RSV株A2 cDNAに導入された「マーカー配列」をポジティブ同定することにより、レスキュー方法の妥当性を確証した。
7. M2発現の不在下における感染性RSV粒子のレスキュー
M2/ORF1遺伝子の存在下および不在下でRSビリオンのレスキューの効率を比較するために、次の実験を行った。RSV感染性粒子のレスキューを行うのにM2/ORF1遺伝子機能が必要でないならば、M2/ORF1遺伝子機能の発現の不在下でRSビリオンをレスキューできるはずである。本分析では、RSVのウイルスポリメラーゼの「N」、「P」、および「L」遺伝子をコードするプラスミドと、RSVの全長アンチゲノムに対応するcDNAとを、M2/ORF1遺伝子をコードするプラスミドDNAの存在下もしくは不在下で、RSV複製を行いうるHep-2細胞にコトランスフェクトし、感染性RSV粒子をレスキューするのにM2/ORF1遺伝子産物が必要であるか否かを決定すべく、RSV感染単位数を測定した。
次のプラスミドを以下に記載の実験で使用した:RSV株A2の全長アンチゲノムをコードするcDNAクローン(pRSVC4GLwtと記す);ならびにそれぞれT7 RNAプロモーターの下流で、N、PおよびLポリメラーゼタンパク質をコードするプラスミドおよびM2/ORF1伸長因子をコードするプラスミド(コードされたウイルスタンパク質の名称で記す)。
T7 RNAポリメラーゼを発現する組換えワクシニアウイルス(MVAと記す)を予め感染させたHep-2細胞中に、タンパク質N、P、およびLをコードするプラスミドと共にpRSVC4GLwtをトランスフェクトした。Hep-2細胞の他のセットでは、N、P、およびLポリメラーゼタンパク質をコードするプラスミドならびにM2機能をコードするプラスミドと共に、pRSVC4GLwtをコトランスフェクトした。トランスフェクションおよび組換えRSVの回収は、次のように行った:トランスフェクションの5時間前または24時間前、Hep-2細胞を6ウェルディッシュ(1ウェルあたり35mm)に分配した。それぞれのウェルには、10% FBS(ウシ胎仔血清)を含有するMEM(最少必須培地)で増殖させた約1×106細胞が入っていた。集密度70%〜80%のHep-2細胞の単層に、5の感染多重度(moi)でMVAを感染させ、35℃で60分間インキュベートした。次に、OPTI MEM(Life Technologies)で細胞を1回洗浄し、それぞれのディッシュの培地を、1mlのOPTI-MEMおよび0.2mlのトランスフェクション混合物と交換した。4種のプラスミド、すなわち、pRSVC4GLwt、N、P、およびLプラスミドを、0.5〜0.6μgのpRSVC4GLwt、0.4μgのNプラスミド、0.4μgのPプラスミド、および0.2μgのLプラスミドの量で、最終体積0.1mlとなるOPTI-MEM中に混合することにより、トランスフェクション混合物を調製した。0.4μgのM2/ORF1プラスミドをさらに含む第2の混合物を調製した。0.1mlのプラスミド混合物と、10μlのlipofecTACE(Life Technologies, Gaithersburg, M.D.)を含有する0.1mlのOPTI-MEMとを混合して、完全なトランスフェクション混合物を構成した。室温で15分間インキュベートした後、トランスフェクション混合物を細胞に添加し、1日後、これを2% FBSを含有するMEMと交換した。培養物を35℃で3日間インキュベートし、その時点で、上清を採取した。MVAウイルスがわずかに温度感受性であり、35℃がより一層効率的であるので、35℃で細胞をインキュベートした。
トランスフェクションの3日後、RSVパッケージ化粒子の存在を示すイムノアッセイにより、トランスフェクト細胞上清にRSV感染単位が存在するかをアッセイした(表1参照)。このアッセイでは、新たな(非感染)Hep-2細胞に0.3〜0.4mlの培養上清を接種し、1%メチルセルロースと2% FBSを含有する1×L15培地とを重層した。6日間インキュベートした後、上清を採取し、細胞を固定し、そしてRSVウイルス粒子を認識するヤギ抗RSV抗体(Biogenesis, Sandown, NH)およびそれに続いてホースラディッシュペルオキシダーゼにコンジュゲートさせたウサギ抗ヤギ抗体を用いて、間接的ホースラディッシュペルオキシダーゼ法により、染色した。製造業者の説明書に従ってAEC-(3-アミノ-9-エチルカルバゾール)クロモゲン基質(DAKO)を添加することにより、RSV感染細胞に結合した抗体複合体を検出した。クロモゲン基質とプラークに結合したRSV抗体複合体との反応により生じる黒色〜褐色の着色により、RSVプラークを検出した。トランスフェクション上清0.5mlあたりのプラーク形成単位(p.f.u.)の数としてRSVプラークの数を表した(表1参照)。
M2/ORF1の存在下または不在下でトランスフェクションディッシュの上清から回収されたRSビリオンの量の比較を表1に示す。4つの個別実験の結果から、トランスフェクションアッセイでM2/ORF1が不在であっても観察されるRSVの感染単位数は減少しないことが実証された。すなわち、M2/ORF1が不在であっても、3種のポリメラーゼタンパク質N、P、およびLをコードするプラスミドと全長RSVアンチゲノムをコードするcDNAとだけをトランスフェクトした細胞からRSVをレスキューできることが、これらの実験の結果から明確に示されている。レスキューされた組換えRSVを6代まで継代させることができることからも、M2/ORF1の不在下で真のRSビリオンがレスキューされることが示唆される。したがって、RSVビリオンの産生は、M2/ORF1遺伝子の発現に依存することはなく、トランスフェクションアッセイでM2/ORF1遺伝子を組込んでも、真のRSVレスキューの効率は増大しない。
それぞれの実験を二重反復試験方式または三重反復試験方式で個別に行った。0.5mlトランスフェクト細胞上清からのプラーク形成単位(pfu)の平均数を括弧内に示す。
8. 実施例: RSV A2株によるRSVサブグループBのGおよびFタンパク質の発現
2つ以上の株のRSVの抗原性ポリペプチドを発現するキメラRSVを作製するために、次の実験を行った。呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の2つの主要抗原サブグループ(AおよびB)が、ヒト疾患を引き起こす。糖タンパク質FおよびGは、RSVの2つの主要抗原決定基である。サブグループAおよびBのウイルスのF糖タンパク質は50%の近縁度をもつと推定されるが、G糖タンパク質の近縁度はかなり低く、約1〜5%である。RSVサブグループAが感染しても、サブグループB株の複製に対する耐性は部分的にしか誘発されないかまたはまったく誘発されない。その逆も同様である。RSV感染を防御するには、サブグループAおよびサブグループB RSVウイルスワクチンの両方が必要である。
本明細書に記載の第1の方法は、既存の感染性RSV A2 cDNAクローンのGおよびF領域をサブグループBのGおよびF遺伝子で置換することにより、サブグループBの抗原を発現する感染性キメラRSV cDNAクローンを作製するものである。キメラRSVは、サブグループB抗原特異性になるであろう。本明細書に記載の第2の方法は、1つのウイルスがサブグループAに特異的な抗原およびサブグループBに特異的な抗原の両方を発現するように、既存のA2 cDNAクローンにサブグループBのG遺伝子を挿入するものである。
a. B9320 GおよびF遺伝子によるA2 GおよびFの置換
RSVサブグループB株B9320 GおよびF遺伝子をRT/PCRによりB9320 vRNAから増幅し、pCRIIベクター中にクローン化して配列決定に供した。A2アンチゲノムcDNA中にB9320株由来のGおよびF遺伝子をクローン化するために、RT/PCRに使用するオリゴヌクレオチドプライマー中にBamH I部位を形成した(図4A)。A2株の4326nt〜9387ntのGおよびF遺伝子を含有するcDNA断片をpUC19中にまずサブクローン化した(pUCR/H)。Quickchange部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene, Lo Jolla, CA)により、4630(SH/G遺伝子間連結部)および7554(F/M2遺伝子間連結部)の位置にそれぞれBgl II部位を形成した。pCR.IIベクター中に挿入されたB9320 GおよびF cDNAをBamH I制限酵素で消化し、次にそれを、Bgl IIで消化されてA2 GおよびF遺伝子が除去されたpUCR/H中にサブクローン化した。A2 GおよびF遺伝子がB9320 GおよびFで置換されたcDNAクローンを用いて、全長A2アンチゲノムcDNAのXho I−Msc I領域を置換した。得られたアンチゲノムcDNAクローンをpRSVB-GFと名づけ、これを用いてHep-2細胞にトランスフェクトし、感染性RSVB-GFウイルスを作製した。
キメラRSVB-GFウイルスの作製を次のように行った。T7 RNAポリメラーゼを発現する組換えワクシニアウイルスであるMVAを感染させたHep-2細胞に、タンパク質N、P、およびLをコードするプラスミドと共にpRSVB-GFをトランスフェクトした。トランスフェクションの1日前、Hep-2細胞を6ウェルディッシュに分配した。集密度60%〜70%のHep-2細胞の単層にMVAを5のmoiで感染させ、35℃で60分間インキュベートした。次に、OPTI-MEM(Life Technologies, Gaithersburg, MD)で細胞を1回洗浄した。それぞれのディッシュを1mlのOPTI-MEMと交換し、0.2mlのトランスフェクション培地を添加した。5種のプラスミド、すなわち、0.6μgのRSVアンチゲノムpRSVB-GF、0.4μgのNプラスミド、0.4μgのPプラスミド、および0.2μgのLプラスミドを最終体積0.1mlとなるようにOPTI-MEM中に混合することにより、トランスフェクション培地を調製した。これを、10μlのlipofecTACE(Life Technologies, Gaithersburg, MD U.S.A.)を含有する0.1mlのOPTI-MEMと混合した。室温で15分間インキュベートした後、DNA/lipofecTACEを細胞に添加し、1日後、培地を2% FBSを含有するMEMと交換した。培養物を35℃で3日間さらにインキュベートし、上清を採取した。次に、培養上清のアリコートを用いて新たなHep-2細胞に感染させた。35℃で6日間インキュベートした後、上清を採取し、細胞を固定し、そしてヤギ抗RSV抗体(Biogenesis, Sandown, NH)およびそれに続いてホースラディッシュペルオキシダーゼにコンジュゲートさせたウサギ抗ヤギ抗体を用いて、間接的ホースラディッシュペルオキシダーゼ法により、染色した。製造業者の説明書に従って基質クロモゲン(DAKO, Carpinteria, CA, U.S.A.)を添加することにより、ウイルス感染細胞を検出した。pRSVB-GFをトランスフェクトした細胞からの上清を感染させた細胞でRSV様プラークが検出された。ウイルスはさらに2回プラーク精製し、Hep-2細胞中で増幅させた。
RSVサブグループB特異的プライマーを用いるRT/PCRにより、組換えRSVB-GFウイルスの特性づけを行った。2つの独立に精製された組換えRSVB GFウイルス単離株をRNA抽出キット(Tel-Test, Friendswood, TX)で抽出し、イソプロパノールによりRNAを沈澱させた。nt 4468から4492までのRSV領域をカバーするプライマーをビリオンRNAにアニーリングさせ、superscript reverse transcriptase(Life Technologies, Gaithersburg, MD)を用いて標準的RT条件下(10μl反応液)で1時間インキュベートした。それぞれの反応液のアリコートを、G領域のサブグループB特異的プライマー(CACCACCTACCTTACTCAAGTおよびTTTGTTTGTGGGTTTGATGGTTGG)を用いて、PCR(94℃で30秒、55℃で30秒、および72℃で2分を30サイクル)に付した。1%アガロースゲルを用いて電気泳動し、臭化エチジウムで染色して視覚化することにより、PCR産物を分析した。図5に示されているように、鋳型としてRSV A2株を用いたRT/PCR反応では、DNA産物は生成しなかった。しかしながら、鋳型としてRSVB-GF RNAまたはPCR対照プラスミドpRSVB-GF DNAを利用したRT/PCR反応では、254bpの予測された産物が検出されたことから、レスキューされたウイルスはB9320ウイルスに由来するGおよびF遺伝子を含有することが示された。
b. RSV A2ウイルスによるB9320Gの発現
RSVサブグループB株B9320 G遺伝子をRT/PCRによりB9320 vRNAから増幅し、pCRIIベクター中にクローン化して配列決定に供した。遺伝子開始シグナルおよび遺伝子終結シグナルをも含有するPCRプライマーに、2つのBgl II部位を組込んだ(GATATCAAGATCTACAATAACATTGGGGCAAATGCおよびGCTAAGAGATCTTTTTGAATAACTAAGCATG)。B9320G cDNAインサートをBgl IIで消化し、A2 cDNAサブクローンのSH/G(4630nt)またはF/M2(7552nt)遺伝子間連結部にクローン化した(図4Bおよび図4C)。SH/GまたはF/M2遺伝子間領域のいずれかにB9320G挿入を含むXho I−Msc I断片を用いて、A2アンチゲノムcDNAの対応するXho I−Msc I領域を置換した。得られたRSVアンチゲノムcDNAクローンを、pRSVB9320G-SH/GまたはpRSVB9320G-F/M2と名づけた。
F/M2遺伝子間領域に挿入されたB9320 G遺伝子を有するRSV A2ウイルスの作製は、RSVB-GFウイルスの作製に対して記載したのと同じようにして行った。簡潔に述べると、T7 RNAポリメラーゼを発現するMVAワクシニアウイルス組換え体(Life Technologies, Gaithersburg, M.D.)を感染させたHep-2細胞中に、タンパク質N、P、およびLをコードするプラスミドと共にpRSVB9320G-F/M2をトランスフェクトした。トランスフェクションの1日後、トランスフェクト細胞培地を、2%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するMEMと交換し、35℃でさらに3日間インキュベートした。次に、培養上清のアリコート(PO)を用いて、新たなHep-2細胞に感染させた。35℃で6日間インキュベートした後、上清を採取し、細胞を固定し、そしてヤギ抗RSV抗体(Biogenesis)およびそれに続いてホースラディッシュペルオキシダーゼに連結させたウサギ抗ヤギ抗体を用いて、間接的ホースラディッシュペルオキシダーゼ法により、染色した。次に、基質クロモゲン(Dako)を添加することにより、ウイルス感染細胞を検出した。pRSVB9320G/F/M2をトランスフェクトした細胞からの上清を感染させた細胞でRSV様プラークが検出された。
B9320G特異的プライマーを用いるRT/PCRにより、pRSVB9320G-F/M2ウイルスの特性づけを行った。鋳型としてpRSVB9320G-F/M2 RNAを用いたRT/PCRサンプルでは、410bpの予測されたPCR産物が観察されたことから、レスキューされたウイルスはB9320に由来するG遺伝子を含有することが示された(図6)。
A2-GまたはB-G mRNAに特異的な32P標識オリゴヌクレオチドを用いるノーザンブロットにより、挿入されたRSV B9320 G遺伝子の発現を分析した。感染48時間後、RNA抽出キット(RNA stat-60, Tel-Test)を用いて、野生型RSVB 9320、rRSVA2、またはrRSVB9320G-F/M2を感染させたHep-2細胞から全細胞RNAを抽出した。ホルムアルデヒドを含有する1.2%アガロースゲルを用いてRNAを電気泳動し、ナイロン膜(Amersham)に移した。A2株のG遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチド(5'TCTTGACTGTTGTGGATTGCAGGGTTGACTTGACTCCGATCGATCC-3')およびB9320 G遺伝子に特異的なオリゴヌクレオチド(5'CTTGTGTTGTTGTTGTATGGTGTGTTTCTGATTTTGTATTGATCGATCC-3')を、当業者に公知のキナーゼ処理(kinasing)反応により32P-ATPで標識した。標準的手順に従って、65℃で上記の膜と32P標識G遺伝子特異的オリゴヌクレオチドのうちの1つとのハイブリダイゼーションを行い、洗浄した。A2-GおよびB9320-G特異的RNAの両方が、rRSVB9320G-F/M2感染Hep-2細胞で検出された(図6B)。これらの結果から、サブタイプ特異的RNA発現が実証される。
35S標識感染Hep-2細胞溶解物の免疫沈降により、キメラrRSVA2(B-G)のタンパク質発現を、RSV B9320およびrRSVのタンパク質発現と比較した。簡潔に述べると、感染14〜18時間後、当業者に公知のプロトコールに従って、ウイルス感染細胞を35Sプロミックス(100μCi/mlの35S-Cysおよび35S-Met、Amersham, Arlington Heights, IL)で標識した。細胞単層をRIPA緩衝液で溶解させ、界面活性剤で破壊したRSV A2ウイルスに対してヤギで生成させたポリクローナル抗血清(図7(レーン1〜4))または非破壊B9320ビリオンに対してマウス中で生成させた抗血清(図7(レーン5〜8))のいずれかでポリペプチドを免疫沈降させた。0.1% SDSを含有する10%ポリアクリルアミドゲルを用いて放射標識免疫沈降ポリペプチドを電気泳動し、オートラジオグラフィーにより検出した。抗RSV A2血清は、RSV A2株の主要なポリペプチドを免疫沈降させたが、抗B9320血清は、主として、RSV B9320 Gタンパク質ならびにAおよびBサブグループの両方の保存Fタンパク質と反応した。図7に示されるように、RSV A2に対する抗血清を用いた場合、A2-Gタンパク質(レーン3)と同一のタンパク質が、rRSVA2(B-G)感染細胞から免疫沈降された(レーン4)。RSV B9320株のGタンパク質は、抗A2抗血清により認識されなかった。B9320ビリオンに対してマウスで生成させた抗血清を用いた場合、A2-Gタンパク質よりも小さいタンパク質種が、B9320(レーン6)およびrRSVA2(B-G)(レーン9)感染細胞の両方から免疫沈降された。このポリペプチドは、非感染細胞およびRSV A2感染細胞には存在せず、おそらくRSV B 9320株に特異的なGタンパク質であると思われる。A2およびB9320 RSV Gタンパク質の両方のアミノ酸配列の比較から、2つのさらなる潜在的N-グリコシル化部位(N-X-S/t)が、RSV A2Gタンパク質中に存在することが示唆された。これらの部位は、使用条件下でA2 Gタンパク質のより遅い移動に寄与している可能性がある。また、RSV B9320のFタンパク質は、RSV A2 Fタンパク質よりもわずかに速く移動した。PおよびMタンパク質もまた、2つのウイルスサブタイプ間で移動度の差異を示した。FSV B9320およびrRSVA2(B-G)感染細胞中に存在するタンパク質ゲルの上部付近のポリペプチドが何であるかは不明である。RSV B9320ビリオンに対してマウスで生成させた抗血清は、N、P、およびMタンパク質に対する認識能力が弱く、RSV A2株に対して生成させたヤギ抗血清とは対照的である。以上に記載のデータから、キメラrRSV A2(B-G)がRSV A2およびB9320特異的Gタンパク質の両方を発現することが明確に示される。
8.2.1 組織培養における組換えRSVの複製
組換えRSウイルスを3回プラーク精製し、Hep-2細胞中で増幅させた。1%メチルセルロースと2%ウシ胎仔血清(FBS)を含有する1×L15培地とからなるオーバーレイを用いて、12ウェルプレート中のHep-2細胞でプラークアッセイを行った。35℃で6日間インキュベートした後、単層をメタノールで固定し、プラークを免疫染色により同定した。rRSVのプラークサイズおよび形態は、野生型A2 RSVのものと非常に類似していた(図8)。しかしながら、rRSVC4Gにより形成されたプラークは、rRSVおよび野生型A2ウイルスのものよりも小さかった。rRSVとrRSVC4との間の唯一の遺伝的差異は、RSVリーダー領域中の単一ヌクレオチド置換であった。そして、rRSV A2(B-G)のより小さいプラークサイズをrRSVC4Gのものと区別することはできなかった。
rRSV、rRSVC4G、およびrRSV A2(B-G)の増殖曲線を、生物学的に生成された野生型A2ウイルスのものと比較した。T25培養フラスコ中でHep-2細胞を増殖させ、rRSV、rRSVC4G、rRSVA2(B-G)、または野生型RSV A2株を0.5のmoiで感染させた。37℃で1時間吸着させた後、2% FBSを含有するMEMで細胞を3回洗浄し、5% CO2中、37℃でインキュベートした。感染後4時間ごとに、250μlの培養上清を採取し、ウイルス力価測定まで-70℃で保存した。採取された各アリコート分は等量の新たな培地で置き換えた。Hep-2細胞を用いたプラークアッセイにより各ウイルスの力価を決定し、免疫染色により視覚化した(上記参照)。図9に示されるように、rRSVの増殖動態は、野生型A2ウイルスのものと非常に類似している。最大ウイルス力価は、いずれのウイルスについても、48時間〜72時間で達成された。rRSVC4Gのウイルス力価は、rRSVおよび野生型A2 RSVの1/2.4(48時間時点)および1/6.6(72時間時点)であった。また、rRSVC4Gの不十分な増殖は、リーダー領域の単一ヌクレオチド変化によるものと思われる。キメラrRSV A2(B-G)は、より遅い動態およびより低いピーク力価を示した(図9)。
9. 実施例: RSV L遺伝子突然変異体の作製
L遺伝子突然変異体を作製するストラテジーは、RSV L遺伝子中に特定突然変異またはランダム突然変異を導入することである。ミニゲノム複製系によりL遺伝子cDNA突然変異体の機能性をin vitroでスクリーニングすることができる。次に、回収されたL遺伝子突然変異体をさらにin vitroおよびin vivoで分析する。
9.1 突然変異誘発ストラテジー
9.1.1 クラスター化荷電アミノ酸をアラニンに改変するスキャニング突然変異誘発
この突然変異誘発ストラテジーは、タンパク質表面上に露出した機能性ドメインをシステマティックに標的化するのにとくに有効であることがわかっている。荷電残基のクラスターは一般的にはタンパク質構造中に埋込まれた状態では存在しないというのがその論理的根拠である。したがって、これらの荷電残基についてアラニンにより保存的置換を行うと、タンパク質の構造を大きく変化させることなく電荷が除去されるであろう。荷電クラスターを破壊すれば、RSV Lタンパク質と他のタンパク質との相互作用が妨害され、その活性が感熱性になり、それにより温度感受性突然変異体が得られ得る。
クラスターは、当初、2個以上の残基が荷電残基である5アミノ酸のストレッチとして任意に定義された。スキャニング突然変異誘発では、部位特異的突然変異誘発によりクラスター中のすべての荷電残基をアラニンに変化させることができる。RSV L遺伝子のサイズが大きいため、Lタンパク質中には多数のクラスター化荷電残基が存在する。したがって、L遺伝子全体にわたり3〜5アミノ酸の連続した荷電残基だけを標的にした(図10)。RSV Lタンパク質には、5個の連続した荷電残基のクラスターが2個、4個の連続した荷電残基のクラスターが2個、および3個の連続した電荷残基のクラスターが17個含まれている。それぞれのクラスター中の荷電残基のうちの2〜4個をアラニンで置換した。
本発明の第1のステップは、QuikChange部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene)を用いて、RSV L遺伝子全体を含有するpCITE-Lに変異を導入することであった。次に、導入された突然変異を配列解析により確認した。
9.1.2. システインスキャニング突然変異誘発
システインは、分子内および分子間の結合形成にしばしば関与するため、突然変異誘発の良好な標的である。システインをグリシンまたはアラニンに変化させることにより、タンパク質の安定性および機能を改変することが可能である。なぜなら、その三次構造が破壊されるからである。RSV Lタンパク質中には、39個のシステイン残基が存在する(図11)。パラミクソウイルスの他のメンバーとのRSV Lタンパク質の比較により、システイン残基のいくつかは保存されていることが示唆される。
QuikChange部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene)を用いて、5個の保存システイン残基をバリン(保存的変化)またはアスパラギン酸(非保存的変化)に変化させ、突然変異誘発オリゴヌクレオチドを作製した。突然変異誘発オリゴヌクレオチドの配列が所望のタンパク質配列により決定されることは当業者には自明なことであろう。導入された突然変異を配列解析により確認した。
9.1.3. ランダム突然変異誘発
ランダム突然変異誘発は、荷電残基やシステインだけでなく任意の残基を変化させうる。RSV L遺伝子のサイズを考慮し、いくつかのL遺伝子cDNA断片をPCR突然変異誘発により突然変異させた。Strategeneから入手したエキソPfuポリメラーゼを用いてPCRにより、これを行った。次に、突然変異誘発PCR断片をpCITE-Lベクター中にクローン化した。20個の突然変異誘発cDNA断片の配列決定分析によって、80%〜90%の突然変異率が達成されたことがわかった。次に、これらの突然変異体の機能性をミニゲノム複製系によりスクリーニングした。次に、改変されたポリメラーゼ機能を示すすべての突然変異体をさらに全長RSV cDNAクローン中にクローン化し、トランスフェクト細胞からウイルスを回収した。
9.2. ミニゲノム複製系によるRSV Lタンパク質突然変異体の機能分析
RSVリーダーおよびトレーラー配列がフランキングしたアンチセンスのCAT遺伝子を含有するRSVミニゲノムを複製する能力により、L遺伝子突然変異体の機能性を試験した。T7 RNAポリメラーゼを発現するMVAワクシニア組換え体をHep-2細胞に感染させた。1時間後、Nタンパク質およびPタンパク質を発現するプラスミドおよびCAT遺伝子を含有するpRSV/CATプラスミド(ミニゲノム)と共に、突然変異Lタンパク質を発現するプラスミドを細胞にトランスフェクトした。製造業者の説明書に従って、CAT ELISAアッセイ(Boehringer Mannheim)により、トランスフェクト細胞からのCAT遺伝子発現を測定した。次に、L遺伝子突然変異体により生成されたCAT活性量を、野生型Lタンパク質の場合と比較した。
9.3. 突然変異体組換えRSVの回収
突然変異体組換えRSVを回収またはレスキューするために、ポジティブセンスの全RSVゲノム(アンチゲノム)をコードするプラスミドにL遺伝子の突然変異を工学的に組込んだ。L遺伝子に突然変異を含有するL遺伝子cDNA制限断片(BamH IおよびNot I)をpCITEベクターから切り出し、全長RSV cDNAクローン中にクローン化した。cDNAクローンの配列決定を行って、導入された突然変異がそれぞれに含まれるかを確認した。
6ウェルプレート中で増殖させた半集密的Hep-2細胞に下記のプラスミドをコトランスフェクトすることにより、各RSV L遺伝子突然変異ウイルスをレスキューした。トランスフェクションを行う前に、T7 RNAポリメラーゼを発現する組換えワクシニアウイルスMVAをHep-2細胞に感染させた。1時間後、下記のプラスミドを細胞にトランスフェクトした:
・pCITE-N:野生型RSV N遺伝子をコードする、0.4μg
・pCITE-P:野生型RSV P遺伝子をコードする、0.4μg
・pCITE-L突然変異体:突然変異体RSV L遺伝子をコードする、0.2μg
・pRSVL突然変異体:pCITE-L突然変異体と同一のL遺伝子突然変異を含有するポジティブセンスの全長ゲノムRSV(アンチゲノム)、0.6μg
OPTI-MEMを用いてlipofecTACE(Life Technologies)により細胞中にDNAを導入した。5時間または一晩のトランスフェクションの後、トランスフェクション培地を除去して2% MEMと交換した。35℃で3日間インキュベートした後、トランスフェクト細胞の培地上清を用いてVero細胞に感染させた。感染Vero細胞からウイルスを回収し、ウイルスRNAから作製したRT/PCR DNAの配列決定を行うことにより、組換えウイルス中に導入された突然変異を確認した。
荷電残基からアラニンへのスキャニング突然変異誘発により得られたL遺伝子突然変異体の例を表2に示す。N、P、および野生型または突然変異型のLを発現するプラスミドをコトランスフェクトした後、pRSV/CATミニゲノムによるCATの発現を測定することにより、突然変異体をアッセイした。感染後、33℃または39℃で40時間インキュベートしてから、細胞を回収して溶解させた。CAT活性をCAT ELISAアッセイ(Boehringer Mannheim)によりモニターした。各サンプルについて、二重反復試験方式のトランスフェクションの平均を表す。各サンプルで産生されたCATの量を線形標準曲線から決定した。
上記の予備的研究から、さまざまなタイプの突然変異が見いだされた。
9.3.1. 有害突然変異
7種のLタンパク質突然変異体は、野生型Lタンパク質の場合と比較して、産生されるCATの量が99%を超える減少を示した。これらの突然変異は、RSVポリメラーゼの活性を劇的に低下させたので、生存可能であるとは思われない。
9.3.2.
中程度突然変異
いくつかのL突然変異体は、その野生型Lタンパク質に対して1%〜50%の範囲の中間レベルのCAT産生を示した。これらの突然変異体のサブセットをウイルスに導入したところ、生存可能であることがわかった。予備データから、33℃と比較して40℃で増殖させると突然変異体A2のウイルス力価が1/10〜1/20に低下することが示された。突然変異体A25は、33℃および39℃のいずれで増殖させた場合にも、より小さいプラーク形成の表現型を呈した。また、この突然変異体のウイルス力価は、33℃と比較して40℃では1/10に低下した。
9.3.3 野生型Lタンパク質と類似のまたはそれよりも高いLタンパク質機能を有する突然変異体
いくつかのL遺伝子突然変異体は、in vitroで野生型Lタンパク質と類似のまたはそれよりも高いCAT遺伝子発現レベルを示した。また、回収されたウイルス突然変異体は、組織培養において野生型ウイルスと区別できない表現型を有する。
温度感受性および弱毒化を付与するLにおける突然変異が一旦同定されると、その突然変異を組合せて、複数の温度感受性マーカーの蓄積効果を調べる試験が行われる。2つ以上の温度感受性マーカーをもつL突然変異体は、単一マーカーの突然変異体よりも低い許容温度を有し遺伝的により安定であると予想される。
作製されたL遺伝子突然変異体を、他のRSV遺伝子に存在する突然変異および/または非必須RSV遺伝子欠失突然変異体(たとえば、SH、NS1、およびNS2の欠失)と組合せることも可能である。これにより、安全、安定、かつ効果的な生の弱毒化RSVワクチン候補の選択が可能になるであろう。
10. ウイルスSHおよびM2ORF2遺伝子の欠失によるヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
10.1. M2-2欠失突然変異体
M2-2遺伝子を欠失させるために、2つのHind III制限酵素部位を、それぞれ、4478〜8505のRSV制限断片を含有するcDNAサブクローンpET(S/B)のRSVヌクレオチド8196および8430に導入した。Quikchange部位特異的突然変異誘発(Strategene, Lo Jolla, CA)により、RSV制限断片を事前に調製した。Hind III制限酵素によりpET(S/B)を消化させることにより、M2-2オープンリーディングフレームの大部分を含有する234ヌクレオチド配列を除去した。M2-2遺伝子産物のN末端の最初の13アミノ酸をコードするヌクレオチドは除去しなかった。なぜなら、この配列はM2-1とオーバーラップするからである。M2-2遺伝子欠失を含有するcDNA断片をSacIおよびBamHIで消化させ、全長RSV cDNAクローン中に再びクローン化した(pRSVΔM2-2と記す)。
N、P、およびL遺伝子を発現するMVA感染Hep-2細胞にpRSVΔM2-2プラスミドをトランスフェクトすることにより、このM2-2欠失を有する感染性RSVを作製させた。簡潔に述べると、T7 RNAポリメラーゼを発現する組換えワクシニアウイルス(MVA)を感染させたHep-2細胞に、タンパク質N、P、およびLをコードするプラスミドと共に、pRSVΔM2-2をトランスフェクトした。組換えRSVのトランスフェクションおよび回収は、次のように行った。トランスフェクションの5時間前または1日前、Hep2細胞を6ウェルディッシュ中に分配した。集密度70%〜80%のHep-2細胞の単層に5の感染多重度(moi)でMVAを感染させ、35℃で60分間インキュベートした。次に、細胞をOPTI-MEM(Life Technologies, Gaithersburg, M.D.)で1回洗浄した。それぞれのディッシュを1ml OPTI-MEMと交換し、0.2mlトランスフェクション培地を添加した。最終体積0.1mlとするOPTI-MEM培地中に0.5〜0.6μgのRSVアンチゲノム、0.4μgのNプラスミド、0.4μgのPプラスミド、および0.2μgのLプラスミドを混合することにより、トランスフェクション培地を調製した。これを、10μl lipofecTACE(Life Technologies)を含有する0.1mlのOPTI-MEMと混合した。室温で15分間インキュベートした後、DNA/lipofecTACE混合物を細胞に添加した。1日後、培地を、2% FBSを含有するMEMと交換した。培養物をさらに35℃で3日間インキュベートし、上清を採取した。感染3日後、0.3〜0.4mlの培養上清を新たなHep-2細胞に接種し、2% FBSを含有するMEMを用いてインキュベートした。6日間インキュベートした後、上清を採取し、細胞を固定し、そしてヤギ抗RSV抗体(Biogenesis)およびそれに続いてホースラディッシュペルオキシダーゼに連結されたウサギ抗ヤギ抗体を用いて間接的ホースラディッシュペルオキシダーゼ法により染色した。次に、製造業者の説明書に従って基質クロモゲン(DAKO)を添加することによりウイルス感染細胞を検出した。M2-2遺伝子欠失を含有する組換えRSVをトランスフェクト細胞から回収した。欠失領域にフランキングするプライマーを用いてRT/PCRによりrRSVΔM2-2の同定を行った。図12Aに示されるように、野生型RSVより234ヌクレオチド短いcDNA断片がrRSVΔM2-2感染細胞で検出された。RT反応に逆転写酵素が含まれないRT/PCR反応では、cDNAは検出されなかった。このことから、DNA産物はウイルスRNAに由来するものであって、混入物質に由来するものではないことが示された。M2-2欠失RSVの性質については、現在、評価を進めているところである。
10.2. SH欠失突然変異体
RSVからSH遺伝子を欠失させるために、SH遺伝子の遺伝子開始シグナルのnt 4220位置にSac I制限酵素部位を導入した。ユニークなSacI部位は、SH遺伝子のC末端にも存在する。AvrII(2129)SacI(4478)制限断片を含有するサブクローンpET(A/S)について、部位特異的突然変異誘発を行った。SacIを用いてpET(A/S)突然変異体を消化することにより、SH遺伝子の258ヌクレオチド断片を除去した。SH欠失を含有するpET(A/S)サブクローンの消化をAvr IIおよびSac Iにより行い、次に、得られた制限断片を全長RSV cDNAクローン中にクローン化した。SH欠失を含有する全長cDNAクローンをpRSVΔSHと名づけた。
上述したようにpRSVΔSH突然変異体の作製を行った(10.1参照)。N、P、およびL発現プラスミドと共にpRSVΔSHをコトランスフェクトしたMVA感染細胞からSH欠如RSV(rRSVΔSH)を回収した。SH遺伝子にフランキングするプライマー対を用いるRT/PCRにより、回収されたrRSVΔSHの同定を行った。図12Aに示されるように、野生型ウイルスよりも約258ヌクレオチド短いcDNAバンドが、rRSVΔSH感染細胞で検出された。RT反応に逆転写酵素が含まれないRT/PCR反応では、DNAは検出されなかった。このことから、PCR DNAはウイルスRNAから作製されたものでありアーチファクトではないこと、そして得られたウイルスは真にSH欠如RSVであることが示された。
10.3 SHおよびM2-2の両方が欠失した突然変異体の作製
SHおよびM2-2遺伝子の両方をcDNAサブクローン化により全長RSV cDNA構築物から欠失させた。cDNAサブクローンpET(S/B)ΔM2-2RSVから切り出したM2-2欠失を含有するSac I−Bam HI断片をpRSVΔSH cDNAクローン中にクローン化した。制限酵素マッピングにより二重遺伝子欠失プラスミドpRSVΔSHΔM2-2を確認した。図12Bに示されるように、SH/M2-2二重欠失突然変異体は野生型pRSV cDNAよりも短い。
SHおよびM2-2の両方の欠失を含有する感染性RSVの回収を、先に記載したように行った。SHおよびM2-2の両方が欠失した感染性ウイルスをトランスフェクトHep-2細胞から得た。
11. 実施例: ウイルスアクセサリー遺伝子を単独でまたは組合せて欠失させることによるヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
論理的根拠:
ヒト呼吸器合胞体ウイルスは、1歳未満の乳児の肺炎および細気管支炎の主な原因である。RSVは、呼吸器疾患を患って小児科に入院した患者の5人中2人以上の原因になっており、米国だけでも毎年4,500人の死亡者がでている。RSVに対する有効なワクチンを開発すべく数十年間にわたる探索研究が行われてきたにもかかわらず、RSV感染に関連する厳しい罹患率および深刻な死亡率を減少させる安全かつ効果的なワクチンは得られていない。RSVワクチン候補を開発するために種々の方法が使用されてきた:ホルマリン不活性化ウイルス、発現されたRSV糖タンパク質の組換えサブユニットワクチン、および生の弱毒化ウイルス。最近では、生の弱毒化RSV突然変異体の作製がRSVワクチン開発の対象になっている。これまでは、in vitro継代および/または化学的突然変異誘発によってのみ、生の弱毒化RSV突然変異体の作製が行えるにすぎなかった。ウイルスは弱毒化不足または弱毒化過剰のいずれかであり、遺伝的に安定ではなかった。本研究は、アクセサリー遺伝子を個別にまたは組合せて欠失させることにより、遺伝的に安定な生の弱毒化RSVワクチンを作製する直接的方法を提供するものである。遺伝子欠失は、RSVを弱毒化するための非常に強力なストラテジーであると考えられる。なぜなら、そのような欠失は復帰ぜす、したがって、組換えRSV欠失突然変異体は遺伝的に非常に安定であると予想されるからである。
RSVは、パラミクソウイルスの中でもその遺伝子構成がユニークである。すべてのパラミクソウイルスに共通したN、P、L、M、G、およびF遺伝子に加えて、RSVは、5種のタンパク質:NS1、NS2、SH、M2-1、およびM2-2をコードする5つの追加の遺伝子を含有している。M2-1およびM2-2は、M2 mRNAの中央でオーバーラップする2つのオープンリーディングフレームから翻訳される。M2-1は、mRNA転写プロセッシビティーを促進するとともに、遺伝子間接合部における転写リードスルーを増加させることにより抗転写終結因子としても機能する(Collins, P. L. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 81-85 (1996) ; Hardy, R. W. et al. J Virol. 72,520-526 (1998))。しかしながら、M2-2タンパク質は、in vitroでRSV RNA転写および複製を阻害することが見いだされている(Collins, P. L. et al.Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 81-85 (1996))。アクセサリータンパク質NS1は、効力の高い転写阻害剤であることが報告された(Atreya, P. L. et al., J Virol. 72,1452-1461 (1998))。SH遺伝子は、天然に存在するウイルスおよび工学的に操作されたSH欠失を有する組換えRSVの組織培養においてRSV増殖には必要でないことが示された(Bukreyev, A. et al., J Virol 71 (12), 8973-82 (1997); Karron, R. A. et al. J Infect. Dis. 176,1428-1436 (1997))。SH欠如RSVは、野生型RSVと同様にin vitroで複製する。最近、NS2遺伝子も欠失させうることが報告された(Teng, M. N., et al J Virol 73 (l), 466-73 (1999); Buchholz, U. J. et al. J Virol 73 (1), 251-9 (1999))。M2-1、M2-2、およびNS1の欠失については報告されていない。3つ以上の非必須遺伝子の欠失についても報告されていない。伝統的には、生の弱毒化ウイルス突然変異体は、より低い温度でRSVを多数回継代させることによりおよび/または化学試薬を用いて突然変異を誘発することにより、作製された。突然変異はランダムに導入されるが、復帰変異体が発生する可能性があるためにそのウイルス表現型を保持することは困難である。感染性cDNAからウイルスを産生することができれば、ウイルス病因に関連する1つまたは複数の遺伝子を欠失させることが可能である。遺伝子欠失は、単独でまたは他のウイルス遺伝子(G、F、M、N、P、およびL)における突然変異と組合せて、効果的にRSV感染を防止する安定に弱毒化されたRSVワクチンを作製しうる。
11.1 ウイルスM2-2遺伝子を欠失させることによるヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
この実施例では、M2-2遺伝子およびそのコードされたタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を除去することによりM2-2遺伝子の発現が阻止された組換えRSVの産生について記載する。RSV M2-2遺伝子は、M2-2遺伝子によりコードされており、そのオープンリーディングフレームは、5'に近接したM2-1オープンリーディングフレームと12アミノ酸だけ部分的にオーバーラップしている(Collins, P. L. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93,81-85 (1996))。予測されたM2-2ポリペプチドは、90アミノ酸を含有しているが、M2-2タンパク質はまだ細胞内で同定されていない。M2-2タンパク質は、ミニゲノムモデル系でRSV RNA転写および複製をダウンレギュレートする(Collins, P. L. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 11563-11567 (1995))。ウイルス複製サイクルにおけるRSV RNA転写および複製に対するこのマイナス効果の有意性は知られていない。
11.1.1 M2-2遺伝子の欠如した組換えRSVの回収
もはやM2-2タンパク質を発現しない組換えRSVを産生するために、M2-2遺伝子を親のRSV cDNAクローンから欠失させた(Jin, H. et al. Virology 251,206-214 (1998))。アンチゲノムcDNAクローンは、RSVの株A2の完全アンチゲノムRNAをコードする。この完全アンチゲノムRNAは組換えRSVの回収のためにうまく使用された。このアンチゲノムcDNAは、そのアンチゲノムセンスのリーダー領域の位置4にCからGへの単一ヌクレオチド変化を含有している。プラスミドpA2ΔM2-2の構築には、2ステップのクローニング手順が必要であった。Quickchange突然変異誘発キット(Strategene)を用いて、2つのHind III制限酵素部位を、それぞれ、RSV Sac I(4477nt)−BamHI(8504nt)cDNA断片を有するcDNAサブクローン(pETS/B)のRSV配列の8196ntおよび8430ntに導入した。Hind III制限酵素でこのcDNAクローンを消化させることにより、M2-2遺伝子を含有する234nt Hind III cDNA断片を除去した。次に、M2-2遺伝子を含有していない残存Sac I〜BamHI断片を、RSVアンチゲノムcDNA pRSVC4G中にクローン化した。得られたプラスミドをpA2ΔM2-2と名づけた。
M2-2オープンリーディングフレームを欠失した組換えRSVを回収するために、T7 RNAポリメラーゼをコードする改変ワクシニアウイルス(MVA-T7)を感染させたHep-2細胞に、T7プロモーターの制御下にRSV N、P、およびLタンパク質をコードするプラスミドと共に、pA2ΔM2-2をトランスフェクトした。トランスフェクトHep-2細胞を35℃で5時間インキュベートした後、培地を2% FBSを含有するMEMと交換し、細胞をさらに35℃で3日間インキュベートした。トランスフェクトHep-2細胞からの培養上清を用いて新たなHep-2またはVero細胞に感染させ、レスキューされたウイルスを増幅させた。合胞体形成を指標としてrA2ΔM2-2の回収を行い、ポリクローナル抗RSV A2血清を用いて感染細胞のポジティブ染色によりその確認を行った。回収したrA2ΔM2-2を3回プラーク精製し、Vero細胞中で増幅させた。rA2ΔM2-2がM2-2遺伝子欠失を含有していることを確認するために、ウイルスRNAをウイルスから抽出し、M2-2遺伝子の範囲をカバーするプライマー対を用いるRT/PCRに付した。RNA抽出キット(RNA STAT-50, Tel-Test, Friendswood, TX)により、rA2ΔM2-2およびrA2感染細胞培養上清からウイルスRNAを抽出した。ウイルスゲノムの7430nt〜7449ntに相補的なプライマーを用いて逆転写酵素によりウイルスRNAを逆転写させた。プライマーV1948(ポジティブセンスの7486nt〜7515nt)およびプライマーV1581(ネガティブセンスの8544nt〜8525nt)を用いるPCRにより、M2-2遺伝子をカバーするcDNA断片を増幅させた。1.2%アガロースゲルを用いてPCR産物を分析し、EtBr染色により視覚化させた。図13Bに示されるように、野生型rA2については、予測された1029ntの断片に対応したPCR DNA産物が生成され、一方、rA2ΔM2-2については、234nt短い795ntのPCR産物が生成された。RT/PCR産物の生成はRTステップに依存したことから、それらはDNA混入物質から作製されたものではなくRNAから作製されたものであることが示唆された。
11.1.2 rA2ΔM2-2のRNA合成
ノーザンブロットハイブリダイゼーションゲル分析により、rA2ΔM2-2またはrA2を感染させた細胞からのmRNA発現を分析した。RNA抽出キット(RNA STAT-60, Tel-Test, Friendswood, TX)によりrA2ΔM2-2またはrA2感染細胞から全細胞RNAを抽出した。ホルムアルデヒドを含有する1.2%アガロースゲルを用いてRNAを電気泳動し、ナイロン膜に移した(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)。ジゴキシゲニン(Dig)で標識したRSV遺伝子特異的リボプローブを膜にハイブリダイズさせた。核酸用のDigルミネセンス検出キット(Boehringer Mannheim, Indianapolis, IN)を用いて、ハイブリダイズされたRNAバンドを視覚化した。膜のリボプローブとのハイブリダイゼーションを65℃で行い、標準的手順に従って、膜洗浄およびシグナル検出を行った。rA2ΔM2-2およびrA2からのmRNA合成を調べるために、感染Vero細胞におけるM2 mRNAおよび他のウィルスmRNA産物の蓄積をノーザンブロットハイブリダイゼーションにより分析した。M2-2オープンリーディングフレームに特異的なプローブをブロットにハイブリダイズさせたが、rA2ΔM2-2感染細胞では、シグナルがまったく検出されなかった。一方、M2-1遺伝子に特異的なリボプローブを用いた場合には、より短いM2 mRNAがrA2ΔM2-2感染細胞で検出された(図14A)。これらの実験結果から、M2-2遺伝子はrA2ΔM2-2から取り除かれていることが確認された。他の9種のRSV mRNA転写産物の蓄積についても調べ、rA2ΔM2-2感染細胞とrA2感染細胞の場合を比較したところ、それぞれのmRNAの量は同程度であることがわかった。N、SH、G、およびFでプローブしたノーザンブロットの例についても、図14Aに示す。M2-2領域の欠失によりF-M2二シストロン性mRNAの移動がわずかに速くなることも、識別可能であった。
M2-2タンパク質はミニゲノム複製アッセイにおいて強力な転写ネガティブレギュレーターであることが以前報告された。しかしながら、ウイルスからM2-2遺伝子を欠失させても、感染細胞におけるウイルスmRNAの産生に影響が現れなかった。rA2ΔM2-2のウイルスアンチゲノムおよびゲノムRNAのレベルもまたrA2のときと類似しているかどうかを判定するために、感染VeroおよびHep-2細胞で産生されたウイルスゲノムおよびアンチゲノムRNAの量をノーザンハイブリダイゼーションにより調べた。ネガティブゲノムセンスRNAに特異的な32P標識F遺伝子リボプローブを感染全細胞RNAに対してハイブリダイズしたところ、rA2と比較してrA2ΔM2-2を感染させた細胞では非常に少ないゲノムRNAが生成されることがわかった(図14B)。ポジティブセンスRNAに特異的な32P標識F遺伝子リボプローブを二重試験用に調製した膜にハイブリダイズさせた。rA2ΔM2-2感染細胞のF mRNAの量はrA2の場合と同程度であったが、rA2ΔM2-2を感染させた細胞ではアンチゲノムRNAがごくわずかに検出された。したがって、RSVゲノムおよびアンチゲノム合成は、M2-2遺伝子の欠失によりダウンレギュレートされるものと思われる。このダウンレギュレーションは、Vero細胞およびHep-2細胞のいずれもで観察され、細胞型に依存しなかった。
11.1.3 rA2ΔM2-2のタンパク質合成
推定上のM2-2タンパク質はRSV感染細胞中でこれまで同定されていないので、M2-2タンパク質がRSVにより実際にコードされ感染細胞で生成されることを実証することが必要であった。細菌発現系で発現させたM2-2融合タンパク質に対してポリクローナル抗血清を生成させた。RSVのM2-2タンパク質に対する抗血清を産生させるために、8155nt〜8430ntのM2-2オープンリーディングフレームをコードするcDNA断片をPCRにより増幅し、pRSETAベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)中にクローン化した。pRSETA/M2-2をBL21-Gold(DE3)plysS細胞(Strategene, La Jolla, CA)にトランスフォームし、Hisタグ付きM2-2タンパク質の発現をIPTGにより誘導した。M2-2融合タンパク質をHiTrapアフィニティーカラム(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)に通して精製し、これを用いてウサギを免疫した。追加免疫の2週間後、ウサギから採血して血清を採取した。
感染細胞から産生されたウイルス特異的タンパク質を、感染細胞抽出物の免疫沈降によりまたはウェスタンブロッティングにより分析した。免疫沈降分析では、感染14〜18時間後、感染Vero細胞を35Sプロミックス(100μCi/ml 35S-Cysおよび35S-Met、Amersham, Arlington Heights, IL)で標識した。標識細胞単層をRIPA緩衝液により溶解させ、ポリクローナル抗RSV A2血清(Biogenesis, Sandown, NH)または抗M2-2血清によりポリペプチドを免疫沈降させた。抗M2-2抗体によるrA2感染Vero細胞溶解物の免疫沈降では、M2-2ポリペプチドの予測サイズである約10kDaのタンパク質のバンドを生じた。このポリペプチドはrA2ΔM2-2感染細胞では検出されなかったことから(図15A)、M2-2はRSVにより産生されるタンパク質産物でありその発現はrA2ΔM2-2では欠如していることが確認された。rA2ΔM2-2の全体的ポリペプチドパターンはrA2のものと区別できなかった。しかしながら、免疫沈降によれば、わずかに多くのPおよびSHタンパク質がrA2ΔM2-2感染Vero細胞で生成されたことが注目された。しかしながら、ウェスタンブロッティング分析では、rA2ΔM2-2またはrA2を感染させた細胞で、同等量のSHが生成した(図15B)。
0.1% SDSおよび4Mウレアを含有する17.5%ポリアクリルアミドゲルを用いて免疫沈降ポリペプチドを電気泳動し、オートラジオグラフィーにより検出した。ウェスタンブロッティング分析では、Hep-2細胞およびVero細胞にrA2ΔM2-2またはrA2を感染させた。感染後、種々の時点でウイルス感染細胞をタンパク質溶解緩衝液中に溶解させ、その細胞溶解物を0.1% SDSおよび4Mウレアを含有する17.5%ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動した。タンパク質をナイロン膜に移した。M2-1、NS1、またはSHに対するポリクローナル抗血清を用いて、Jinら(Jin, H. et al. Embo J 16 (6), 1236-47 (1997))に記載されているようにイムノブロッティングを行った。
Vero細胞系およびHep-2細胞系の両方でrA2ΔM2-2のタンパク質合成動態を調べるために、ウェスタンブロッティングを使用した。Hep-2細胞またはVero細胞にrA2ΔM2-2またはrA2を0.5のmoiで感染させ、感染後の種々の時点で感染細胞を採取し、4Mウレアを含有する17.5%ポリアクリルアミドゲルを用いてポリペプチドを分離した。タンパク質をナイロン膜に移し、3種のアクセサリータンパク質:M2-1、NS1、およびSHに対するポリクローナル抗血清でプローブした。3種のウイルスタンパク質のタンパク質発現動態はいずれも、Hep-2細胞およびVero細胞の両方でrA2ΔM2-2およびrA2を用いた場合と非常に類似していた(図15B)。NS1タンパク質は最初に翻訳される遺伝子であり感染細胞中に非常に豊富に存在するタンパク質産物であるので、M2-1およびSHの場合よりもわずかに早い感染10時間後にNS1タンパク質の合成を検出した。RSVに対するポリクローナル抗血清で膜をプローブした場合にも、類似のタンパク質合成動態が観察された(データは示されていない)。rA2ΔM2-2感染細胞で同程度のM2-1が検出されたことから、M2-2オープンリーディングフレームの欠失は同一のM2 mRNAにより翻訳されるM2-1タンパク質のレベルに影響を及ぼさないことが示された。
11.1.4 組織培養における組換えRSVの増殖の分析
rA2ΔM2-2のプラーク形態をrA2の場合と比較するために、Hep-2細胞またはVero細胞にそれぞれのウイルスを感染させ、1%メチルセルロースと2% FBSを含む1×L15培地とで構成された半固体培地を重層した。感染5日後、RSV A2株に対する抗血清で感染細胞を免疫染色した。写真撮影された顕微鏡画像からプラークを測定することにより、プラークサイズを決定した。Hep-2細胞およびVero細胞におけるrA2ΔM2-2のプラーク形成をrA2の場合と比較した。図16に示されるように、rA2ΔM2-2は、Hep-2細胞においてピンポイントサイズのプラークを形成し、rA2ΔM2-2で観察されたウイルスプラークサイズは、rA2の場合の約1/5に減少した。しかしながら、rA2ΔM2-2を感染させたVero細胞では、プラークサイズのわずかな減少(30%)が観察されたにすぎなかった。
rA2と比較したrA2ΔM2-2の増殖動態研究をHep-2細胞およびVero細胞の両方で行った。6cmディッシュ中で増殖させた細胞にrA2またはrA2ΔM2-2を0.5のmoiで感染させた。室温で1時間吸着させた後、感染細胞をPBSで3回洗浄し、4mlのOPTI-MEMと交換し、5% CO2を含む35℃のインキュベーターでインキュベートした。感染後の種々の時点で200μlの培養上清を採取し、ウイルス力価測定まで-70℃で保存した。採取した各アリコート分は等量の新たな培地と交換した。1%メチルセルロースと2% FBSを含有する1×L15培地とからなるオーバーレイを用いて12ウェルプレート上のVero細胞でプラークアッセイすることにより、ウイルス力価を決定した。図17に見られるように、Hep-2細胞において、rA2ΔM2-2は非常に遅い増殖動態を示し、rA2ΔM2-2のピーク力価は、rA2のピーク力価よりも約2.5〜3 log小さかった。Vero細胞では、rA2ΔM2-2は、rA2と同じようなピーク力価に達した。さまざまな宿主細胞におけるウイルスの複製を分析するために、6ウェルプレート中で増殖させた各細胞系にrA2ΔM2-2またはrA2を0.2のmoiで感染させた。感染3日後、培養上清を採取し、プラークアッセイによりウイルスを定量した。さまざまな宿主のさまざまな組織に由来する種々の細胞系においてrA2ΔM2-2の増殖特性を調べた(表3)。感染Hep-2、MRC-5、およびHeLa細胞(すべてヒト由来)において、rA2ΔM2-2の複製は著しく低減され、rA2よりも2桁小さい値が観察された。しかしながら、それぞれウシおよびアカゲザルの腎細胞に由来するMDBK細胞およびLLC-MK2細胞では、rA2ΔM2-2の複製は、ごくわずかに低減されたにすぎなかった。
11.1.5
マウスおよびコトンラットにおけるrA2ΔM2-2の複製
呼吸器病原体を有しない12週齢のBalb/cマウス(Simonsen Lab., Gilroy, CA)およびS.Hispidusコトンラット(Virion Systems, Rockville, MD)を用いてin vivoでウイルスの複製を調べた。6匹からなるグループのマウスまたはコトンラットに軽いメトキシフルラン麻酔をかけて、接種量0.1mlのrA2またはrA2ΔM2-2を動物1匹あたり10
6pfuで鼻腔内接種した。接種4日後、動物をCO
2で窒息させて屠殺し、それらの鼻甲介および肺を個別に採取した。組織をホモジナイズし、Vero細胞でプラークアッセイを行うことによりウイルス力価を決定した。免疫原性および予防効果を評価するために、3つのグループのマウスに、rA2、rA2ΔM2-2、または培地のみを0日目に鼻腔内接種した。3週間後、マウスに麻酔をかけ。血清サンプルを採取し、生物学的に得られた野生型RSV株A2の10
6pfuのチャレンジ接種を鼻腔内に行った。チャレンジ4日後、動物を屠殺し、鼻甲介および肺の両方を採取し、そしてプラークアッセイによりウイルス力価を決定した。RSV感染細胞の60%プラーク減少アッセイ(Coates, H. V. et al., AM J Epid. 83: 299-313 (1965))および免疫染色により、RSV A2株に対する血清抗体を調べた。
a 0日目、6匹のコトンラットからなるグループに10
6pfuの記載のウイルスを鼻腔内に免疫接種した。4日目、記載の試料を用いてプラークアッセイにより感染ウイルスの複製レベルを測定し、組織1グラムあたりの平均log
10力価±標準誤差(SE)を求めた。
弱毒化およびrA2ΔM2-2の免疫原性のレベルを評価するために、マウスおよびコトンラットの上気道および下気道におけるrA2ΔM2-2の複製を調べた。6匹からなるグループのコトンラットに106pfuのrA2ΔM2-2またはrA2を鼻腔内接種した。接種4日後、動物を屠殺し、それらの鼻甲介および肺組織を採取し、ホモジナイズし、そしてこれらの組織におけるウイルスの複製のレベルをプラークアッセイにより決定した。rA2ΔM2-2の複製は、感染コトンラットの鼻甲介および肺の両方において少なくとも2 logの減少を呈した(表4)。rA2ΔM2-2を感染させたコトンラットではウイルスの複製は検出されなかったが、ハイレベルの野生型rA2ウイルスの複製がコトンラットの上気道および下気道の両方で検出された。マウスにおいてもrA2ΔM2-2の弱毒化が観察された。2回の実験から得られたウイルス複製の幾何平均力価および標準誤差を表5に示す。rA2ΔM2-2の複製は、12匹の感染マウスのうちの1匹または2匹で検出されたにすぎなかった。複製は制限され、組織ホモジネートの1/10希釈でほんの少数のプラークが観察されたにすぎなかった。マウスにおける複製が制限されたにもかかわらず、rA2ΔM2-2は、野生型A2 RSVによるチャレンジに対して有意な耐性を誘発した(表5)。あらかじめrA2ΔM2-2またはrA2を接種したマウスに106pfu用量の野生型A2株を鼻腔内接種したとき、野生型A2ウイルスの複製はマウスの上気道および下気道で検出されなかった。したがって、rA2ΔM2-2は、野生型A2ウイルスのチャレンジに対して十分な防御性をもっていた。
rA2ΔM2-2の免疫原性についても調べた。2つのグループのマウスにrA2ΔM2-2またはrA2を感染させ、3週間後、血清サンプルを採取した。50%プラーク減少力価により血清中和力価を決定した。rA2ΔM2-2感染マウスで得られた中和力価はrA2で得られた中和力価と同程度であり、いずれも1:16希釈で60%プラーク減少力価を示した。また、rA2ΔM2-2感染マウスから得られた血清によりRSVプラークを免疫染色できたことから、RSV特異的抗体がrA2ΔM2-2感染マウスで産生されることが確認された。
a 0日目、12匹のBalb/cマウスからなるグループに10
6pfuの記載のウイルスを鼻腔内に免疫接種した。4日目、記載の組織における感染ウイルスのレベルをプラークアッセイにより測定し、組織1グラムあたりの平均log
10力価±標準誤差(SE)を求めた。
b 21日目、6匹のBalb/cマウスからなるグループに106pfuのRSV A2を鼻腔内に免疫接種し、その4日後に屠殺した。記載の組織における野生型RSV A2の複製をプラークアッセイにより測定し、組織1グラムあたりの平均log10力価±標準誤差(SE)を求めた。
2つのRSV抗原サブグループAおよびBは、M2-2タンパク質に関して比較的高い保存性を呈することから、M2-2タンパク質の機能の重要性が示唆される。本実施例においてrA2およびrA2ΔM2-2に対して転写解析を行ったところ重要な知見が得られた。両方のウイルスの全体的mRNA転写レベルは実質的に同じであったが、ノーザンブロット分析の結果、野生型rA2と比較してrA2ΔM2-2に対するウイルスゲノムおよびアンチゲノムRNAが劇的に減少することが判明した。この知見は、ミニゲノム系においてM2-2タンパク質がネガティブ転写調節を受けるという報告と矛盾している。したがって、ウイルス生活環におけるM2-2の機能的役割は以前考えられていたよりも複雑であると思われる。しかしながら、rA2ΔM2-2のゲノムおよびアンチゲノムのレベルが低下しても、見かけ上、感染Vero細胞におけるウイルス収量は影響を受けなかった。
rA2ΔM2-2がさまざまな細胞系で宿主域の制限を受けた複製を示すという知見は、非必須遺伝子の欠失が宿主域突然変異体を作製する良好な手段であることを強く示唆するものであった。このことは、ワクチン株の非常に重要な特徴となりうる。rA2ΔM2-2は、ヒトに由来するいくつかの細胞系ではうまく複製されず、これらの細胞系から生成されるウイルス収量はより少なかった。しかしながら、Hep-2細胞におけるタンパク質合成のレベルは、高レベルのrA2ΔM2-2を産生するVero細胞の場合と同程度であった。このことから、ウイルス放出不全はおそらくより後の段階、おそらくはウイルス構築過程での欠陥によるものであることが示唆された。
M2-2欠如ウイルスがVero細胞中で良好に増殖し、マウスおよびコトンラットの上気道および下気道で弱毒化を呈するという知見は、ワクチン開発に新規な利点を提供する。齧歯動物の気道における複製が低減しても、免疫原性およびチャレンジする野生型ウイルスの複製に対する防御は影響を受けなかったことから、このM2-2欠如ウイルスはヒトに使用するための良好なワクチンとして役立つと考えられる。234ntの欠失を伴うM2-2欠失突然変異の性質は、復帰に対する抵抗性が高いタイプの突然変異である。
11.2 ウイルスSH遺伝子を欠失させることによるヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
この実施例では、SH遺伝子およびそのコードされたタンパクをコードするポリヌクレオチド配列質を除去することによりSH遺伝子の発現が阻止された組換えRSVの産生について記載する。RSV SHタンパク質は、RSVにより翻訳される5番目の遺伝子であるSH mRNAによりコードされている。SHタンパク質は、株A2では64個のアミノ酸を含有し、アミノ酸位置14〜41に推定膜貫通ドメインを含有する。SHタンパク質だけは、シミアンウイルス5(Hiebert, S. W. et al. 5. J Virol 55 (3), 744-51 (1985))およびムンプスウイルス(Elango, N. et al. J Virol 63 (3), 1413-5 (1989))中に対応タンパク質を有する。SHタンパク質の機能は明確化されていない。この実施例では、RSVからSH遺伝子全体を除去できることを実証した。こうして、SH遺伝子欠失は、単独でまたは他の遺伝子欠失もしくは突然変異と組合せて、RSVを弱毒化するさらなる方法を提供しうる。
RSV中に欠失を有する組換えRSVを産生させるために、RSV A2株に由来する感染性cDNAクローンからSHオープンリーディングフレーム全体を欠失させた。cDNAサブクローンからSH遺伝子(4220nt〜4477nt)を欠失させるために、2ステップのクローニング手順を実施した。Sac I制限酵素部位をSH遺伝子の遺伝子開始シグナルの4220ntの位置に導入した。SH遺伝子のC末端の4477ntの位置にも、ユニークなSac I部位が存在する。RSV配列のAvr II(2129nt)−Sac I(4477nt)制限断片を含有するpET(A/S)サブクローンについて、SH遺伝子の5'側にSac I部位を導入する部位特異的突然変異誘発を行った。導入されたSac I部位を含有するpET(A/S)プラスミドをSac I制限酵素で消化することにより、SH遺伝子の258nt断片を除去した。SH遺伝子を欠失させたpET(A/S)をAvr IIおよびSac Iで消化し、次に、放出されたRSV制限断片を全長RSV cDNAクローン中にクローン化した。SH遺伝子欠失を有する全長cDNAクローンをpA2ΔSHと名づけた。
pA2ΔSH突然変異体の作製を上述したように行った(第7節参照)。それぞれN、P、およびLタンパク質を発現する3種のプラスミドと共にpA2ΔSHをコトランスフェクトしたMVA感染細胞からSH欠如RSV(rA2ΔSH)を回収した。SH遺伝子にフランキングするプライマー対を用いるRT/PCRにより、回収したrA2ΔSHの同定を行った。野生型RSV(rA2)よりも約258ヌクレオチド短いcDNAバンドが、rA2ΔSH感染細胞で検出された。RT反応に逆転写酵素が含まれないRT/PCR反応では、PCR産物は観察されなかった。このことから、PCR DNAはウイルスRNAから作製されるものであってアーチファクトではなく、得られたウイルスは真にSHの欠如したRSVであることが示された。
rA2ΔSHのプラーク形態をrA2の場合と比較するために、Hep-2またはVero細胞にそれぞれのウイルスを感染させ、1%メチルセルロースと2% FBSを有する1×L15培地とで構成された半固体培地を重層した。感染5日後、RSV A2株に対する抗血清で感染細胞を免疫染色した。rA2ΔSHのプラークサイズは、Hep-2およびVero細胞のいずれにおいてもrA2のプラークサイズと類似している。
種々の宿主のさまざまな組織に由来するさまざまな細胞系でウイルスの複製を分析するために、6ウェルプレート中で増殖させたそれぞれの細胞系にrA2ΔSHまたはrA2を0.2のmoiで感染させた。感染3日後、培養上清を採取し、プラークアッセイによりウイルスを定量した。表6に示されるように、rA2ΔSHの複製は、調べた細胞系のいずれにおいても、rA2の場合と非常に類似していた。このことから、SH欠如RSVの増殖は、宿主域効果により実質的に影響を受けないことが示された。
呼吸器病原体を有しない12週齢のBalb/cマウス(Simonsen Lab., Gilroy, CA)を用いてin vivoでウイルスの複製を調べた。6匹からなるグループのマウスに軽いメトキシフルラン麻酔をかけて、接種量0.1mlのrA2またはrA2ΔSHを動物1匹あたり10
6pfuで鼻腔内接種した。接種4日後、動物をCO
2で窒息させて屠殺し、それらの鼻甲介および肺を個別に採取した。組織をホモジナイズし、Vero細胞でプラークアッセイを行うことによりウイルス力価を決定した。表7に示されるように、下気道におけるrA2ΔSH複製のレベルは、rA2の場合よりもわずかに低かったにすぎないことから、SHの欠失は単独ではRSVを弱毒化するのに十分でないことが示唆された。
a 0日目、マウスのグループに10
6pfuの記載のウイルスを鼻腔内に免疫接種した。4日目、記載の試料についてプラークアッセイにより感染ウイルスの複製レベルを決定し、組織1グラムあたりの平均log
10力価±標準誤差(SE)を求めた。
11.3 ウイルスNS1遺伝子を欠失させることによるヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
この実施例では、NS1遺伝子およびそのコードされたタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を除去することにより、NS1遺伝子の発現が阻止された組換えRSVの産生について記載する。RSV NS1は、RSV遺伝子地図の3'→5'方向に3'に近接したNS1遺伝子によってコードされている。NS1タンパク質は、小さい139アミノ酸ポリペプチドであり、そのmRNAは、RSV mRNAの中で最も豊富である。NS1タンパク質の機能は、明確には特定されていない。再構成RSVミニゲノム系では、NS1タンパク質は、見かけ上、RSVミニゲノムの転写およびRNA複製のいずれに対してもネガティブ調節タンパク質であった(Grosfeld, H. et al.. J. Virol. 69, 5677-5686 (1995))。NS1タンパク質は、他のパラミクソウイルスにおいて公知の対応タンパク質を有しておらず、ウイルスの複製におけるその機能は不明である。この実施例では、RSVから全NS1遺伝子を除去することができること、およびNS1欠失が、または他のRSV遺伝子欠失もしくは突然変異と組合せてRSVを弱毒化するさらなる方法を提供しうることを実証した。
RSVからNS1遺伝子を欠失させるために、2つの制限酵素部位を、NS1遺伝子開始シグナルの位置およびNS1遺伝子終結シグナルの下流の位置に挿入した。RSVからNS1遺伝子全体を欠失させるために、2ステップのクローニング手順を実施した。Pst I制限酵素部位をRSV配列の45ntの位置および577ntの位置に部位特異的突然変異誘発により導入した。NS1、NS2、およびRSVのN遺伝子の一部分をコードするRSV配列の最初の2128ヌクレオチドを含有するpET(X/A)cDNAサブクローンについて突然変異誘発を行った。Xma IおよびAvr II制限酵素部位を介して2128ヌクレオチドのRSV配列をpETベクター中にクローン化した。導入された2つのPst I制限酵素部位を含有するpET(X/A)プラスミドを消化することにより、NS1遺伝子を含有する532ヌクレオチドの断片を除去した。欠失には、NS1遺伝子開始シグナル、NS1コード領域、およびNS1遺伝子終結シグナルが含まれていた。NS1欠失を有するpET(X/A)をAvr IIおよびSac Iで消化し、次に、切り出された制限断片を全長RSV cDNAクローン中にクローン化した。NS1遺伝子欠失を有する全長RSVアンチゲノムcDNAクローンをpA2ΔNS1と名づけた。
pA2ΔNS1突然変異体の作製を上述したように行った(第7節参照)。それぞれN、P、およびLタンパク質を発現する3種のプラスミドと共にpA2ΔNS1をコトランスフェクトしたMVA感染細胞からNS1欠如RSV(rA2ΔNS1)を回収した。合胞体形成を指標として感染性RSVの回収を行い、RSVに対する抗体を用いて免疫染色することによりその確認を行った。NS1遺伝子にフランキングするプライマー対を用いるRT/PCRにより、回収したrA2ΔNS1の同定を行った。野生型RSV(rA2)よりも約532nt短いcDNAバンドが、rA2ΔNS1感染細胞で検出された。RT反応に逆転写酵素が含まれないRT/PCR反応では、PCR産物は観察されなかった。このことから、PCR DNAはウイルスRNAから作製されたものであってアーチファクトではなく、得られたウイルスは真にNS1の欠如したRSVであることが示された。
rA2ΔNS1またはrA2を感染させた細胞からのmRNA発現をノーザンブロットハイブリダイゼーション分析により分析した。RNA抽出キット(RNA STAT-60, Tel-Test, Friendswood, TX)によりrA2ΔNS1またはrA2感染細胞から全細胞RNAを抽出した。ホルムアルデヒドを含有する1.2%アガロースゲルを用いてRNAを電気泳動し、ナイロン膜に移した(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)。NS1、NS2、またはM2-2遺伝子に特異的なリボプローブを膜にハイブリダイズさせた。図18に示されるように、NS1遺伝子に特異的なプローブを使用した場合、rA2ΔNS1を感染させた細胞ではNS1 mRNAは検出されなかった。RSVからNS1遺伝子を欠失させることができるという事実から、NS1タンパク質が、RSV複製に必須ではないアクセサリータンパク質産物であることが確認される。rA2ΔNS1は、感染Hep-2細胞で非常に小さいプラークを形成したが、Vero細胞ではわずかのプラークサイズの減少が観察されたにすぎなかった(図19)。小さいプラーク表現型は、一般に、弱毒化突然変異に関連づけられる。
rA2と比較したrA2ΔNS1の増殖動態研究をVero細胞で行った。6cmディッシュ中で増殖させた細胞にrA2またはrA2ΔNS1を0.2のmoiで感染させた。図20に見られるように、rA2ΔNS1は非常に遅い増殖速度を示し、そのピーク力価はrA2の場合よりも約1.5 log小さかった。さまざまな宿主細胞においてウイルスの複製を分析するために、6ウェルプレート中で増殖させたそれぞれの細胞系にrA2ΔNS1またはrA2を0.2のmoiで感染させた。感染3日後、培養上清を採取し、プラークアッセイによりウイルスを定量した。Vero細胞、Hep-2細胞、およびMDBK細胞では、rA2ΔNS1のウイルス力価は、rA2の場合と比較して約1〜1.5 log減少した。Hela細胞およびMRC5細胞では、約2 logのウイルス力価の減少が観察された(表8)。小動物モデルにおけるrA2ΔNS1の複製については、現在研究中である。予備データから、rA2ΔNS1はコトンラットにおいて弱毒化されていることが示された。したがって、NS1欠失突然変異体は、RSVを弱毒化するさらなる方法を提供する。
11.4
ウイルスNS2遺伝子を欠失させることによるヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
この実施例では、NS2遺伝子およびそのコードされたタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を除去することによりNS2遺伝子の発現が阻止された組換えRSVの産生について記載する。RSV NS2は、RSVゲノムの3'→5'方向に第2の3'近接NS2遺伝子によりコードされる小さなタンパク質である。NS2タンパク質は、RSVの二番目に豊富なRSVタンパク質であるが、その機能は、依然として不明である。
RSVからNS2遺伝子を欠失させるために、2つの制限酵素部位を、NS2遺伝子開始シグナルの上流の位置およびNS2遺伝子終結シグナルの下流の位置に挿入した。RSVから全NS1遺伝子を欠失させるために、2ステップのクローニング手順を実施した。Pst I制限酵素部位をRSV配列の577ntの位置および1110ntの位置に部位特異的突然変異誘発により導入した。NS1、NS2、およびRSVのN遺伝子の一部分をコードするアンチゲノムセンスのRSV配列の最初の2128ntを含有するpET(X/A)cDNAサブクローンを用いて突然変異誘発を行った。Xma IおよびAvr II制限酵素部位を介して2128ntのRSV配列をpETベクター中にクローン化した。導入された2つのPst I制限酵素部位を含有するpET(X/A)プラスミドを消化することにより、NS2遺伝子の533ヌクレオチドの断片を除去した。この533nt断片には、NS2の遺伝子開始シグナル、NS2コード領域、およびNS2の遺伝子終結シグナルが含まれていた。NS2遺伝子欠失を有するpET(X/S)プラスミドをAvr IIおよびSac I制限酵素で消化し、次に、放出されたRSV制限断片を全長RSV cDNAクローン中にクローン化した。NS2遺伝子欠失を有する全長cDNAクローンをpA2ΔNS2と名づけた。
rA2ΔNS2突然変異体の作製を上述したように行った(第7節参照)。それぞれN、P、およびLタンパク質を発現する3種のプラスミドと共にpA2ΔNS2をコトランスフェクトしたMVA感染細胞からNS2欠如RSV(rA2ΔNS2)を回収した。合胞体形成を指標として感染性RSVの回収を行い、RSVに対する抗体を用いて免疫染色することによりその確認を行った。NS2遺伝子にフランキングするプライマー対を用いてRT/PCRにより、回収したrA2ΔNS2の同定を行った。野生型RSV(rA2)よりも約533ヌクレオチド短いcDNAバンドが、rA2ΔNS2感染細胞で検出された。RT反応に逆転写酵素が含まれないRT/PCR反応では、PCR産物は観測されなかった。このことから、PCR DNAはウイルスRNAに由来するものであってアーチファクトではなく、得られたウイルスは真にNS2の欠如したRSVであることが示された。
rA2ΔNS2またはrA2を感染させた細胞からのmRNA発現を、先に記載したようにノーザンブロットハイブリダイゼーション分析により分析した。NS1、NS2、またはM2-2遺伝子に特異的なリボプローブを膜にハイブリダイズさせた。図18に示されるように、NS2遺伝子に特異的なプローブを使用した場合、rA2ΔNS2を感染させた細胞ではNS2 mRNAは検出されなかった。同等レベルのNS1およびM2 mRNAがrA2ΔNS2感染細胞で検出された。RSVからNS2遺伝子を欠失させることができるという事実から、NS2タンパク質が、RSV複製に必須ではないアクセサリータンパク質産物であることが確認される。rA2ΔNS2は、感染Hep-2細胞で非常に小さいプラークを形成したが、rA2ΔNS2感染Vero細胞ではrA2と類似のプラークサイズが観測された(図19)。小さいプラーク表現型は、一般に、弱毒性突然変異に関連づけられる。
rA2と比較してrA2ΔNS2の増殖動態研究をVero細胞で行った。6cmディッシュ中で増殖させた細胞にrA2またはrA2ΔNS2を0.2のmoiで感染させた。図21に見られるように、rA2ΔNS2はより遅い増殖動態を示し、そのピーク力価はrA2の約1/5であった。さまざまな宿主細胞においてウイルスの複製を分析するために、6ウェルプレート中で増殖させたそれぞれの細胞系にrA2ΔNS2またはrA2を0.2のmoiで感染させた。感染3日後、培養上清を採取し、プラークアッセイによりウイルスを定量した。Vero細胞では、rA2ΔNS2は、rA2と比較してごくわずかのウイルス力価の減少を示した。Hep-2、MDBK、HelaおよびMRC5細胞では、約1logのウイルス力価の減少が観測された(表9)。小動物モデルにおけるrA2ΔNS2の複製については、現在研究中である。rA2ΔNS2は、コトンラットの下気道において複製が約1/10に減少した(表10)。したがって、NS2欠失突然変異体は、弱毒化RSVを得るさらなる方法を提供する。
a 0日目、5匹のコトンラットからなるグループに10
5pfuの記載のウイルスを鼻腔内に免疫接種した。4日目、記載の試料を用いてプラークアッセイにより感染ウイルスの複製レベルを測定し、組織1グラムあたりの平均log
10力価±標準誤差(SE)を求めた。
11.5 ウイルスM2-2およびSH遺伝子を欠失させることによるヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
この実施例では、M2-2およびSH遺伝子ならびにそれらによってコードされたタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を除去することにより2つのRSV遺伝子M2-2およびSHの発現が阻止された組換えRSVの産生について記載する。先に記載したように、M2-2またはSH遺伝子は、in vitroにおけるRSV複製に必要ではない。2つのアクセサリー遺伝子を欠失させると異なる弱毒化表現型を有する組換えRSVが産生される可能性がある。2つの遺伝子の欠失により得られる弱毒化の度合は、増加することもあれば減少することもある。
cDNAクローニングによりSHおよびM2-2遺伝子を全長RSV cDNA構築物から欠失させた。Sac IおよびBamH I制限酵素で消化することにより、先に記載したようにpET(S/B)サブクローン中にM2-2欠失を有するSac I〜BamH I断片を取出し、SH遺伝子欠失を有する全長RSVアンチゲノムcDNAクローン(pA2ΔSH)中にクローン化した。SHおよびM2-2の欠失を有する得られたプラスミドをpA2ΔSHΔM2-2と名づけた。pA2ΔSHΔM2-2プラスミド中のSHおよびM2-2の欠失を制限酵素マッピングにより確認した。
rA2ΔSHΔM2-2突然変異体の作製を上述したように行った(第7節参照)。それぞれN、P、およびLタンパク質を発現する3種のプラスミドと共にpA2ΔSHΔM2-2をコトランスフェクトしたMVA感染細胞からSHおよびM2-2遺伝子の欠失を有する組換えRSV(rA2ΔSHΔM2-2)を回収した。合胞体形成を指標として感染性RSV欠失突然変異体の回収を行い、RSVに対する抗体で免疫染色することによりその確認を行った。
それぞれSH遺伝子およびM2-2遺伝子にフランキングする2セットのプライマーを用いてRT/PCRにより、rA2ΔSHΔM2-2中のSHおよびM2-2遺伝子の欠失を確認した。rA2ΔSHΔM2-2またはrA2を感染させた細胞からのmRNA発現を、先に記載したようにノーザンブロットハイブリダイゼーション分析により分析した。SH遺伝子またはM2-2遺伝子に特異的なプローブを用いた場合、SHおよびM2-2 mRNAはいずれも、rA2ΔSHΔM2-2を感染させた細胞で検出されなかった。2つのRSV遺伝子(SHおよびM2-2)をRSVから欠失させることができるという事実から、SHおよびM2-2タンパク質がRSV複製に必要ではないことが示唆される。Hep-2細胞で非常に小さいプラークを形成したrA2ΔM2-2とは対照的に、rA2ΔSHΔM2-2は、rA2ΔM2-2よりも大きいプラークサイズを有していた(図19)。
rA2と比較してrA2ΔSHΔM2-2の増殖動態研究をVero細胞で行った。6cmディッシュ中で増殖させた細胞にrA2またはrA2ΔSHΔM2-2を0.2のmoiで感染させた。図22に見られるように、rA2ΔSHΔM2-2は、より遅い増殖動態を示し、そのピーク力価はrA2のものよりも約1.5log小さかった。このことから、rA2ΔSHΔM2-2は組織培養において弱毒化されていることが示唆された。
rA2ΔSHΔM2-2の弱毒化のレベルを評価するために、マウスの下気道におけるrA2ΔSHΔM2-2の複製を調べた。6匹からなるグループのマウスに106pfuのrA2ΔSHΔM2-2またはrA2を鼻腔内接種した。接種4日後、動物を屠殺し、それらの鼻甲介および肺組織を採取し、ホモジナイズし、これらの組織におけるウイルスの複製のレベルをプラークアッセイにより決定した。rA2ΔSHΔM2-2は、感染マウスの肺において約2logの複製の減少を呈した(表11)。このデータから、rA2ΔSHΔM2-2は弱毒化の度合がrA2ΔM2-2ほど顕著ではないがマウスにおいて弱毒化されていることが示唆された。
a 0日目、6匹のマウスからなるグループに10
6pfuの記載のウイルスを鼻腔内に免疫接種した。4日目、記載の試料を用いてプラークアッセイにより感染ウイルスの複製レベルを測定し、組織1グラムあたりの平均log
10力価±標準誤差(SE)を求めた。
11.6 ウイルスM2-2およびNS1遺伝子を欠失させることによるヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
この実施例では、NS1およびM2-2遺伝子ならびにそれらによってコードされたタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を除去することにより2つの異なるRSV遺伝子NS1およびM2-2の発現が阻止された組換えRSVの産生について記載する。先に記載したように、NS1およびM2-2遺伝子は、単独では、in vitroにおけるRSV複製に必要ではない。この実施例では、RSVから2つのアクセサリー遺伝子を欠失させることにより異なる弱毒化方法を提供した。
cDNAクローニングによりNS1およびM2-2遺伝子を全長RSV cDNA構築物から欠失させた。Xma IおよびAvr II制限酵素で消化することにより、pET(X/A)サブクローン中にNS1欠失を有するXma I−Avr II断片を取出し、M2-2遺伝子欠失を有する全長RSVアンチゲノムcDNAクローン(pA2ΔM2-2)中にクローン化した。NS1およびM2-2の両方の欠失を有する得られたプラスミドをpA2ΔNS1ΔM2-2と名づけた。pA2ΔNS1ΔM2-2プラスミド中のNS1およびM2-2の欠失を制限酵素マッピングにより確認した。
rA2ΔNS1ΔM2-2突然変異体の作製を上述したように行った(第11.2節参照)。それぞれN、P、およびLタンパク質を発現する3種のプラスミドと共にpA2ΔNS1ΔM2-2をコトランスフェクトしたMVA感染細胞からNS1およびM2-2遺伝子の欠失を有する組換えRSVを回収した。合胞体形成を指標として感染性RSVの回収を行い、RSVに対する抗体で免疫染色することによりその確認を行った。回収されたrA2ΔNS1ΔM2-2の同定を、NS1遺伝子およびM2-2遺伝子にフランキングするプライマー対を用いてRT/PCRにより行った。
組織培養細胞系および小動物モデルにおけるrA2ΔNS1ΔM2-2の複製については、現在研究中である。in vitroにおける予備データから、rA2ΔNS1ΔM2-2は組織培養細胞において非常に弱毒化されており、NS1およびM2-2遺伝子の欠失を有する組換えRSVは、rA2ΔSHΔM2-2よりも弱毒化されていることが示唆された。
11.7 ウイルスNS2およびM2-2遺伝子を欠失させることによるヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
この実施例では、NS2およびM2-2遺伝子ならびにそれらによってコードされたタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を除去することにより2つの異なるRSV遺伝子NS2およびM2-2の発現が阻止された組換えRSVの産生について記載する。先に記載したように、NS2またはM2-2遺伝子は、in vitroにおけるRSV複製に必要ではない。RSVから2つのアクセサリー遺伝子を欠失させると異なる弱毒化表現型を有する組換えRSVが産生される可能性がある。
cDNAクローニングによりNS2およびM2-2遺伝子を全長RSV cDNA構築物から欠失させた。Xma IおよびAvr II制限酵素で消化することにより、pET(X/A)サブクローン中にNS2欠失を有するXma I−Avr II断片を取出し、M2-2遺伝子欠失を有する全長RSVアンチゲノムcDNAクローン(pA2ΔM2-2)中にクローン化した。NS2およびM2-2の両方の欠失を有する得られたプラスミドをpA2ΔNS2ΔM2-2と名づけた。pA2ΔNS2ΔM2-2プラスミド中のNS2およびM2-2の欠失を制限酵素マッピングにより確認した。
rA2ΔNS2ΔM2-2突然変異体の作製を上述したように行った(第7節参照)。それぞれN、P、およびLタンパク質を発現する3種のプラスミドと共にpA2ΔNS2ΔM2-2をコトランスフェクトしたMVA感染細胞からNS2およびM2-2遺伝子の欠失を有する組換えRSV(rA2ΔNS2ΔM2-2)を回収した。合胞体形成を指標として感染性RSVの回収を行い、RSVに対する抗体で免疫染色することによりその確認を行った。回収されたrA2ΔNS2ΔM2-2の同定を、それぞれNS2またはM2-2遺伝子にフランキングするプライマー対を用いてRT/PCRにより行った。
rA2ΔNS2ΔM2-2またはrA2を感染させた細胞からのmRNA発現をノーザンブロットハイブリダイゼーション分析により分析した。図23に示されるように、NS2遺伝子またはM2-2遺伝子に特異的なプローブを用いた場合、NS2 mRNAもM2-2 mRNAも、rA2ΔNS2ΔM2-2を感染させた細胞で検出されなかった。同等レベルのNS1およびSH mRNA発現が、rA2ΔNS2ΔM2-2を感染させた細胞で観測された。ノーザンブロットデータから、rA2ΔNS2ΔM2-2ではNS2およびM2-2の両方の発現が阻止されていることが確認された。
rA2と比較してrA2ΔNS2ΔM2-2の増殖動態研究をVero細胞で行った。6cmディッシュ中で増殖させた細胞にrA2またはrA2ΔNS2ΔM2-2を0.2のmoiで感染させた。図24に見られるように、rA2ΔNS2ΔM2-2は非常に遅い増殖動態を示し、そのピーク力価はrA2の約1/10であった。さまざまな宿主細胞においてウイルスの複製を分析するために、6ウェルプレート中で増殖させたそれぞれの細胞系にrA2ΔNS2ΔM2-2またはrA2を0.2のmoiで感染させた。感染3日後、培養上清を採取し、プラークアッセイによりウイルスを定量した。Vero細胞では、rA2ΔNS2ΔM2-2は、rA2と比較してウイルス力価がおよそ数分の一に減少した。しかしながら、Hep-2、MDBK、Hela、MRC5、およびLLC-MK2細胞では、2〜3logのウイルス力価の減少が観測された(表12)。したがって、rA2ΔNS2ΔM2-2の複製は、弱毒化の指標である実質的な宿主域効果を呈する。
呼吸器病原体を含まない4週齢のコトンラットを用いてin vivoでrA2ΔNS2/M2-2の複製を調べた。5匹からなるグループのコトンラットに軽いメトキシフルラン麻酔をかけて、接種量0.1mlのrA2またはrA2ΔNS2ΔM2-2を動物1匹あたり10
5pfuで鼻腔内接種した。接種4日後、動物をCO
2で窒息させて屠殺し、それらの鼻甲介および肺を個別に採取した。組織をホモジナイズし、Vero細胞でプラークアッセイを行うことによりウイルス力価を決定した。表13に示されるように、rA2ΔNS2ΔM2-2を感染させたコトンラットの上気道および下気道中でウイルスの複製は検出されなかった。このことから、NS2およびM2-2遺伝子の欠失はRSVを顕著に弱毒化することが示唆された。したがって、NS2およびM2-2の欠如したこの組換えRSVはヒトに使用するための良好なワクチン候補として役立つと考えられる。
a 0日目、5匹のコトンラットからなるグループに10
5pfuの記載のウイルスを鼻腔内に免疫接種した。4日目、記載の試料を用いてプラークアッセイにより感染ウイルスの複製レベルを測定し、組織1グラムあたりの平均log
10力価±標準誤差(SE)を求めた。
11.8 ウイルスNS1およびNS2遺伝子を欠失させることによるヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
この実施例では、NS1およびNS2遺伝子ならびにそれらによってコードされたタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を除去することにより2つのRSV遺伝子NS1およびNS2の発現が阻止された組換えRSVの産生について記載する。先に記載したように、NS1またはNS2遺伝子は、in vitroにおけるRSV複製に必要ではない。RSVから2つのアクセサリー遺伝子を欠失させると代替的弱毒化表現型を有する組換えRSVが産生される可能性がある。
RSVからNS1およびNS2遺伝子を欠失させるために、2つの制限酵素部位を、NS1の遺伝子開始シグナルの位置およびNS2の遺伝子終結シグナルの下流の位置に挿入した。RSVから全NS1およびNS2遺伝子を欠失させるために、2ステップのクローニング手順を実施した。Pst I制限酵素部位をRSV配列の45ntの位置および1110ntの位置に部位特異的突然変異誘発により導入した。NS1、NS2、およびRSVのN遺伝子の一部分をコードするRSV配列の最初の2128ntを含有するpET(X/A)cDNAサブクローンを用いて部位特異的突然変異誘発を行った。Xma IおよびAvr II制限酵素部位を介して2128ヌクレオチドのRSV cDNA断片をpETベクター中にクローン化した。導入された2つのPst I制限酵素部位を含有するpET(X/A)プラスミドを消化することにより、NS1およびNS2遺伝子を含む1065nt断片を除去した。NS1およびNS2欠失を有するpET(X/S)プラスミドをAvr IIおよびSac I制限酵素で消化し、次に、残存する1063ヌクレオチドのRSV cDNA断片を全長RSVアンチゲノムcDNAクローン中にクローン化した。NS1およびNS2の両方の欠失を有する得られたプラスミドをpA2ΔNS1ΔNS2と名づけた。pA2ΔNS1ΔNS2プラスミド中のNS1およびNS2の欠失を制限酵素マッピングにより確認した。
NS1およびNS2の両方の欠失を有する感染性RSV(rA2ΔNS1ΔNS2)の回収を、先に記載したように行った。NS1およびNS2の両方が欠失した感染性ウイルスをトランスフェクトHep-2細胞から得た。NS1およびNS2遺伝子の両方がrA2ΔNS1ΔNS2から欠失していることを確認するために、NS1およびNS2遺伝子にフランキングするプライマー対を用いてRT/PCRを行った。rA2ΔNS1ΔANS2からのNS1およびNS2の欠失を、ノーザンブロットによりさらに確認した。図18に示されるように、NS1またはNS2遺伝子に特異的なリボプローブを使用した場合、NS1 mRNAもNS2 mRNAも、rA2ΔNS1ΔNS2を感染させた細胞で検出されなかった。このことから、rA2ΔNS1ΔNS2ではNS1およびNS2の発現が阻止されていることが示唆された。
感染Hep-2細胞ではrA2ΔNS1ΔNS2は非常に小さいプラークを形成したが、Vero細胞ではプラークサイズのわずかな減少が観測されたにすぎなかった(図19)。小さいプラーク表現型は、一般に、弱毒性突然変異に関連づけられる。
rA2と比較してrA2ΔNS1ΔNS2の増殖動態研究をVero細胞で行った。6cmディッシュ中で増殖させた細胞にrA2またはrA2ΔNS1ΔNS2を0.2のmoiで感染させた。図25に見られるように、rA2ΔNS1ΔNS2はより遅い増殖動態を示し、そのピーク力価はrA2の約1/5であった。さまざまな宿主細胞においてウイルスの複製を分析するために、6ウェルプレート中で増殖させたそれぞれの細胞系にrA2ΔNS1ΔNS2またはrA2を0.2のmoiで感染させた。感染3日後、培養上清を採取し、プラークアッセイによりウイルスを定量した。Vero細胞では、rA2ΔNS1ΔNS2は、rA2と比較してごくわずかのウイルス力価の減少を示した。Hep-2、MDBK、およびLLC-MK2細胞では、約1.5logのウイルス力価の減少が観測された。HelaおよびMRC細胞ではより大きなウイルス力価の減少(約3log)が観測された(表14)。小動物モデルにおけるrA2ΔNS1ΔNS2の複製については、現在研究中である。予備データから、rA2ΔNS1ΔNS2はコトンラットにおいて弱毒化されていることが示唆された。rA2ΔNS1ΔNS2の複製がコトンラットで検出されないので、rA2ΔNS1ΔNS2欠失突然変異体は非常に弱毒化されていると思われる。したがって、NS1およびNS2欠失突然変異体は、RSVを弱毒化する代替的方法を提供する。
11.9
ウイルスNS1およびSH遺伝子を欠失させることによるヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
この実施例では、NS1およびSH遺伝子ならびにそれらによってコードされたタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を除去することにより2つの異なるRSV遺伝子NS1およびSHの発現が阻止された組換えRSVの産生について記載する。先に記載したように、NS1またはSH遺伝子は、in vitroにおけるRSV複製に必要ではない。RSVから2つのアクセサリー遺伝子を欠失させると増強された弱毒化表現型を有する組換えRSVが産生される可能性がある。
cDNAクローニングによりNS1およびSH遺伝子を全長RSV cDNA構築物から欠失させた。Xma IおよびAvr II制限酵素で消化することにより、pET(X/A)サブクローン中にNS1欠失を有するXma I−Avr II断片を取出し、SH遺伝子欠失を有する全長RSVアンチゲノムcDNAクローン(pA2 SH)中にクローン化した。NS1およびSHの両方の欠失を有する得られたプラスミドをpA2ΔNS1ΔSHと名づけた。pA2ΔNS1ΔSHプラスミド中のNS1およびSHの欠失を制限酵素マッピングにより確認した。
NS1およびSH欠失の両方を有する感染性RSV(rA2ΔNS1ΔSH)の回収を、先に記載したように行った。NS1およびSHの両方が欠失した感染性ウイルスをトランスフェクトHep-2細胞から得た。ウイルスを3回プラーク精製し、Vero細胞中で増幅させた。rA2ΔNS1ΔSH中のNS1およびSH遺伝子の両方の欠失をNS1またはSH遺伝子にそれぞれフランキングする2セットのプライマーを用いてRT/PCRにより確認した。NS1またはSH遺伝子に特異的なリボプローブを用いて、rA2ΔNS1ΔSH感染全細胞RNAのノーザンブロットを行った。図23に示されるように、rA2ΔNS1ΔSHを感染させた細胞ではNS1およびSH mRNAの発現は阻止された。
rA2ΔNS1ΔSHの複製については、現在、in vitroおよびin vivoで研究中である。効率は低下するがrA2ΔNS1ΔSHウイルスは増殖可能であるという事実から、NS1およびSH遺伝子がRSV複製に必要ではないことが示唆される。したがって、この突然変異体は、おそらく、さらなる可能性のある組換えRSVワクチン剤として役立つであろう。
11.10 ウイルスNS2およびSH遺伝子を欠失させることによるヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
この実施例では、NS2およびSH遺伝子ならびにそれらによってコードされたタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を除去することにより2つの異なるRSV遺伝子NS2およびSHの発現が阻止された組換えRSVの産生について記載する。先に記載したように、NS2またはSH遺伝子は、in vitroにおけるRSV複製に必要ではない。RSVから2つのアクセサリー遺伝子を欠失させるとさまざまな弱毒化表現型を有する組換えRSVが産生される可能性がある。
cDNAクローニングによりNS2およびSH遺伝子を全長RSV cDNA構築物から欠失させた。Xma IおよびAvr II制限酵素で消化することにより、pET(X/A)サブクローン中にNS2欠失を有するXma I−Avr II断片を取出し、SH遺伝子欠失を有する全長RSVアンチゲノムcDNAクローン(pA2ΔSH)中にクローン化した。NS2およびSHの両方の欠失を有する得られたプラスミドをpA2ΔNS2ΔSHと名づけた。pA2ΔNS2ΔSHプラスミド中のNS2およびSHの欠失を制限酵素マッピングにより確認した。
NS2およびSH欠失の両方を有する感染性RSV(rA2ΔNS2ΔSH)の回収を、先に記載したように行った。NS2およびSHの両方が欠失した感染性ウイルスをトランスフェクトHep-2細胞から得た。ウイルスを3回プラーク精製し、Vero細胞中で増幅させた。rA2ΔNS2ΔSH中のNS2およびSH遺伝子の両方の欠失をNS2またはSH遺伝子にそれぞれフランキングする2セットのプライマーを用いてRT/PCRにより確認した。NS2またはSH遺伝子に特異的なリボプローブを用いて、rA2ΔNS2ΔSH感染全細胞RNAのノーザンブロットを行った。図23に示されるように、rA2ΔNS2ΔSHを感染させた細胞ではNS2およびSH mRNAの発現は阻止された。
呼吸器病原体を含まない4週齢のコトンラットを用いてin vivoでrA2ΔNS2ΔSHの複製を調べた。5匹からなるグループのコトンラットに軽いメトキシフルラン麻酔をかけて、接種量0.1mlのrA2またはrA2ΔNS2ΔSHを動物1匹あたり105pfuで鼻腔内接種した。接種4日後、動物をCO2で窒息させて屠殺し、それらの鼻甲介および肺を個別に採取した。組織をホモジナイズし、Vero細胞でプラークアッセイを行うことによりウイルス力価を決定した。表15に示されるように、rA2ΔNS2ΔSHを感染させたコトンラットの上気道および下気道中でウイルス複製の減少が観測された。このことから、NS2およびSH遺伝子の欠失はRSVを弱毒化することが示唆された。また、NS2およびSH欠失を有するこの組換えRSVはヒトに使用するための良好なワクチン候補として役立つと考えられる。
a 0日目、5匹のコトンラットからなるグループに10
6pfuの記載のウイルスを鼻腔内に免疫接種した。4日目、記載の試料を用いてプラークアッセイにより感染ウイルスの複製レベルを測定し、組織1グラムあたりの平均log
10力価±標準誤差(SE)を求めた。
11.11 ウイルスNS1、NS2、およびSH遺伝子を欠失させることによるヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
この実施例では、3つのRSV遺伝子(NS1、NS2、およびSH)ならびにそれらによってコードされたタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を除去することにより3つの異なるRSV遺伝子NS1、NS2、およびSHの発現が阻止された組換えRSVの産生について記載する。先に記載したように、NS1、NS2、またはSH遺伝子は、単独では、in vitroにおけるRSV複製に必要ではない。RSVから3つのアクセサリー遺伝子を欠失させるとさまざまな弱毒化表現型を有する組換えRSVが産生される可能性がある。
cDNAクローニングによりNS1、NS2、およびSH遺伝子を全長RSV cDNA構築物から欠失させた。Xma IおよびAvr II制限酵素で消化することにより、pET(X/A)サブクローン中にNS1およびNS2欠失を有するXma I〜Avr II断片を取出し、SH遺伝子欠失を有する全長RSVアンチゲノムcDNAクローン(pA2ΔSH)中にクローン化した。3つの遺伝子(NS1、NS2、およびSH)の欠失を有する得られたプラスミドをpA2ΔNS1ΔNS2ΔSHと名づけた。pA2ΔNS1ΔNS2ΔSHプラスミド中のNS1、NS2、およびSHの欠失を制限酵素マッピングにより確認した。
3つの遺伝子(NS1、NS2、およびSH)の欠失を有する感染性RSV(rA2ΔNS1ΔNS2ΔSH)の回収を、先に記載したように行った。トランスフェクトHep-2細胞から感染性ウイルスを得た。ウイルスを3回プラーク精製し、Vero細胞中で増幅させた。rA2ΔNS1ΔNS2ΔSH中のNS1、NS2、およびSH遺伝子の欠失を、NS1およびNS2遺伝子またはSH遺伝子にそれぞれフランキングする2セットのプライマーを用いてRT/PCRにより確認した。NS1、NS2、またはSH遺伝子に特異的なリボプローブを用いて、rA2ΔNS1ΔNS2ΔSH感染全細胞RNAのノーザンブロットを行った。図23に示されるように、rA2ΔNS1ΔNS2ΔSHを感染させた細胞ではNS1、NS2、およびSH mRNAの発現は阻止された。このことから、これらの3つの遺伝子は実際にRSVから欠失していることが示唆された。
呼吸器病原体を含まない4週齢のコトンラットを用いてin vivoでrA2ΔNS1ΔNS2ΔSHの複製を調べた。5匹からなるグループのコトンラットに軽いメトキシフルラン麻酔をかけて、接種量0.1mlのrA2またはrA2ΔNS1ΔNS2ΔSHを動物1匹あたり105pfuで鼻腔内接種した。接種4日後、動物をCO2で窒息させて屠殺し、それらの鼻甲介および肺を個別に採取した。組織をホモジナイズし、Vero細胞でプラークアッセイを行うことによりウイルス力価を決定した。表16に示されるように、rA2ΔNS1ΔNS2ΔSHを感染させたコトンラットの上気道および下気道中でウイルスの複製は観測されなかった。このことから、NS2およびSH遺伝子の欠失はRSVを弱毒化することが示唆された。また、NS2およびM2-2欠失を有するこの組換えRSVはヒトに使用するための良好なワクチン候補として役立つと考えられる。
a 0日目、5匹のコトンラットからなるグループに10
5pfuの記載のウイルスを鼻腔内に免疫接種した。4日目、記載の試料を用いてプラークアッセイにより感染ウイルスの複製レベルを測定し、組織1グラムあたりの平均log
10力価±標準誤差(SE)を求めた。
結論として、表17にまとめられているように11の異なる遺伝子欠失突然変異体が得られた。4つのRSVアクセサリー遺伝子を個別にまたは組合せて欠失させた。これらの異なる欠失突然変異体は、異なるプラーク形成性および増殖性を示した。in vitroのプラークサイズとin vivoの弱毒化との間の良好な相関が実証された。これらの異なるRSV欠失突然変異体は、可能性のあるRSVワクチン候補として使用するためのいくつかの選択肢を提供する。
表17. RSV遺伝子欠失突然変異体の概要
ウイルス 回収
ΔM2-2 可
ΔSH 可
ΔNS1 可
ΔNS2 可
ΔM2-2ΔSH 可
ΔM2-2ΔNS1 NDa
ΔM2-2ΔNS2 可
ΔNS1ΔNS2 可
ΔSHΔNS1 可
ΔSHΔNS2 可
ΔSHΔNS1ΔNS2 可
a 実施せず。rA2ΔM2-2ΔNS1の複製は組織培養で検出されなかった。
12. 実施例: ウイルスM2-1遺伝子の突然変異誘発による弱毒化ヒト呼吸器合胞体ウイルスワクチン(RSV)候補の作製
論理的根拠:
cDNAから感染性RSVを作製することができれば、特定の改変をRSVゲノム中に導入することが可能になる。レスキューされたウイルスの表現型は、ゲノム中に遺伝子工学的に導入された改変に直接起因するものであると考えることができる。突然変異が導入された領域の配列を決定することにより、ウイルスゲノムの改変を容易に検証することができる。単一のウイルスにおいてさまざまな点突然変異および損傷を組合せることにより、適切に弱毒化された遺伝的に安定なRSVワクチン候補を作製することができる。RSVゲノムは、他のパラミクソウイルス中に対応タンパク質をもたないいくつかの補助的タンパク質:NS1、NS2、SH、M2-1、およびM2-2タンパク質をコードする。ウイルス生活環におけるこれらの遺伝子の機能は、進行中の研究課題である。
M2-1遺伝子の産物は、in vitroにおいて前進的逐次転写とRSVゲノムのそれぞれの遺伝子接合部での抗転写終結とを促進することが明らかにされた22kDaのタンパク質である(Collins, P. L. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 81-85 (1996); Hardy, R. W. et al. J. Virol. 72,520-526 (1998))。M2-1はまた、ウイルスヌクレオキャプシドの構造成分であると考えられており、RSV感染細胞においてM2-1とNタンパク質との相互作用が観測されている(Garcia et al. Virology 195:243-247 (1993))。M2-1タンパク質は、そのN末端に推定亜鉛結合モチーフ(Cys3Hisモチーフ)を含有している(Worthington et al., 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. 93:13754-13759)。このモチーフは、ニューモウイルス属全体にわたり高度に保存されている。
M2-1タンパク質に突然変異を導入するための2つの突然変異誘発ストラテジーをここで提示する。第1の方法では、システイン残基のそれぞれを個別にグリシンに変化させる(システインスキャニング突然変異誘発)。第2の方法では、M2-1タンパク質のカルボキシル末端で早期停止コドンを遺伝子工学的に導入し、種々の長さの末端切断型M2-1タンパク質を産生させる。これらのストラテジーは、生ワクチンとして使用するための弱毒化RSVを作製するためのさまざまな方法を提供する。
12.1 M2-1のシステインスキャニング突然変異誘発
M2-1タンパク質には4個のシステイン残基がアミノ酸位置7、15、21、および96に存在する。Cys7、Cys15、およびCys21は、推定亜鉛結合モチーフであるCys3Hisモチーフ中に位置する。Quickchange部位特異的突然変異誘発(Stratagene)によりこれらのシステインコドンをグリシンに対応するコドンに変化させるようにDNAオリゴヌクレオチドをデザインした。RSVゲノムのヌクレオチド4482〜ヌクレオチド8505を含有するcDNAサブクローン(pET-S/B)を用いて突然変異誘発を行った。突然変異誘発反応に使用したRSVゲノムのポジティブセンスに対応するオリゴヌクレオチドを表18に列挙する。
pET-S/B RSVサブクローン中に遺伝子工学的に導入された改変をDNA配列分析により検証した。M2-1中に突然変異システインコドンを含有する各Sac I〜Bam HI制限断片を、RSV株A2に由来する感染性RSVアンチゲノムcDNAクローン中に個別にクローン化した(Jin, H. et al. Virology 251, 206-214 (1998))。遺伝子工学的に導入されたシステイン→グリシンコドン改変を有する全長RSVアンチゲノムcDNAクローンをpA2MC1、2、3、または4と名づけた。
M2-1中に個別のシステイン突然変異を含有する感染性RSVを産生するために、N、P、およびLタンパク質を発現するプラスミドと共に、pA2MC1、2、3、または4を、T7 RNAポリメラーゼを発現する細胞にトランスフェクトした。簡潔に述べると、集密度70〜80%の6ウェルディッシュ中のHep-2細胞の単層に、T7 RNAポリメラーゼ(MVA)を発現する改変ワクシニアウイルスを5のmoiで感染させた。MVAの吸収を室温で1時間行った。感染細胞をOPTI-MEM (Life Technologies)で洗浄し、そしてT7プロモーターの制御下でそれぞれRSV N、P、およびLタンパク質をコードするプラスミドの混合物と共に、pA2MCl、pA2MC2、pA2MC3、またはpA2MC4アンチゲノムプラスミドをトランスフェクトした。それぞれのトランスフェクションに使用したプラスミドの量は次のとおりである:最終体積0.1mlのOPTI-MEM中、0.5μgのアンチゲノムプラスミド、0.4μgのNプラスミド、0.4μgのPプラスミド、および0.2μgのLプラスミド。最終プラスミド混合物を、10μlのlipofecTACE (Life Technologies)を含有する0.1mlのOPTI-MEMと混合した。室温で15分間インキュベートした後、トランスフェクション混合物をMVA感染細胞に添加した。トランスフェクション反応は、33℃における5時間のインキュベーションであった。5時間後、トランスフェクション培地を除去し、2%ウシ胎仔血清で補足されたMEMと交換し、そして33℃で3日間インキュベートした。3日間インキュベートした後、培地を採取し、Vero細胞で6日間継代させた。次に、ヤギ抗RSV抗体(Biogenesis)を用いて感染細胞単層のポジティブ免疫染色を行うことにより、首尾よくレスキューされたウイルスを含有するウェルを同定した。遺伝子工学的に導入された改変がレスキューされたウイルス中に存在することを確認するために、ゲノムウイルスRNAのRT/PCRを行った。導入されたシステイン改変を96の位置に有する組換えRSVであるrA2C4を得た。in vitroおよび動物モデルにおけるrA2C4の複製については、現在研究中である。予備的結果から、rA2C4は35℃において減少したプラークサイズを示すことが示唆されたので、おそらく弱毒化されていると思われる。予備的結果から、rA2C4はコトンラットの肺での複製が約1/10に減少することが示唆された(表19参照)。rA2C1、rA2C2、およびrA2C3の回収は、現在進行中である。推定亜鉛結合モチーフ中の3個のシステイン残基のうちのいずれかを変化させると、M2-1タンパク質に致命的な影響が現れる可能性が高い。
a 0日目、5匹のコトンラットからなるグループに10
5pfuの記載のウイルスを鼻腔内に免疫接種した。4日目、記載の試料を用いてプラークアッセイにより感染ウイルスの複製レベルを測定し、組織1グラムあたりの平均log
10力価±標準誤差(SE)を求めた。
12.2 M2-1タンパク質のC末端トランケーション
M2-1タンパク質のC末端から漸進的末端トランケーションを行うために、部位特異的突然変異誘発によりM2-1タンパク質のC末端にタンデム終止コドンを導入した。ヌクレオチド4482〜ヌクレオチド8505のRSV配列を含有するcDNAサブクローン(pET-S/B)を用いて突然変異誘発を行った。M2-1に早期タンデム終止コドンを生成するために使用したRSVゲノムのポジティブセンスに対応するオリゴヌクレオチドを表20に列挙する。
導入された突然変異を含有するRSVサブクローンの配列分析により、遺伝子工学的に導入された改変を検証した。M2-1中に早期タンデム終止コドンを含有するSac I〜Bam HI制限断片をRSVサブクローンpET-S/Bから切出し、全長感染性RSVアンチゲノムcDNAクローンに導入した(Jin et al., 1998)。ユニークなHind III部位と共に遺伝子工学的に導入された早期タンデム終止コドンを含有する再アセンブリーした全長RSVアンチゲノムcDNAを、それぞれ、pA2MCSCH1、pA2MSCH2、またはpA2MSCH3と名づけた。
上述したように、N、P、およびLタンパク質を発現するプラスミドと共に、pA2MCSCH1、pA2MSCH2、またはpA2MSCH3をトランスフェクトすることにより、M2-1タンパク質のC末端に欠失を有する組換えRSVを作製した。pA2MSCH3に由来しM2-1タンパク質のC末端に最も短い欠失を有する感染性RSVの回収を行った。アミノ酸178および179に2つのタンデム終止コドンを遺伝子工学的に導入したので、このウイルスは、M2-1のC末端に17アミノ酸の末端トランケーションを有していた。ウイルスプラーク精製、増幅、およびrA2MSCH3中の遺伝子工学的に導入されたタンデム終止コドンの検証については、現在進行中である。より長い欠失をM2-1タンパク質のC末端に含有する組換えRSVのレスキューについても研究を進めている。予備的結果から、コトンラットの肺におけるrA2MSCH3の複製は約1/15に減少することが示唆される(表19参照)。生存可能なM2-1欠失突然変異体は、ワクチンに使用すべく、単独でまたはRSVゲノム中の他の突然変異と組合せてRSVを弱毒化する代替的方法を提供する。
13. 実施例: サブグループBの糖タンパク質を有するキメラサブグループA呼吸器合胞体ウイルス(RSV)およびM2-2遺伝子のないRSVは、アフリカミドリザルにおいて弱毒性である。
13.1 序
この研究では、アフリカミドリザルを用いて、弱毒化、免疫原性、および後の野生型RSVのチャレンジに対する予防効果に関して、rA2ΔM2-2を評価した。感染したサルの上気道および下気道のいずれにおいてもrA2ΔM2-2の複製は1/1000に制限され、それにより誘導された血清抗RSV中和抗体の力価は、野生型rA2により誘導されたものよりもわずかに少なかった。rA2ΔM2-2感染サルに野生型A2ウイルスをチャレンジしたところ、チャレンジウイルスの複製は、上気道で約1/100、下気道で1/45,000に減少した。rA-GBFBをさらに弱毒化するために、rA-GBFBからM2-2オープンリーディングフレームを除去した。rA2ΔM2-2で記載したように、rA-GBFBΔM2-2は、Hep-2細胞では増殖が制限され、コトンラットでは弱毒化された。M2-2遺伝子の欠失を有するrA2およびrA-GBFBは、2つのRSVサブグループに属する複数の株を防御するための二価RSVワクチン組成物を構成しうる。
RSVワクチン候補の弱毒化、免疫原性、および予防効果を評価するために、アフリカミドリザル(AGM)を非ヒト霊長類モデルとして評価した。本発明者らは、rA2がAGMの上気道および下気道において高力価で複製されるが、rA2ΔM2-2はサルの気道においてそれほど複製されないことを明らかにした。rA2ΔM2-2およびrA-GBFBは、実験的チャレンジから動物を保護する中和抗体を誘導した。
13.2 材料および方法
細胞およびウイルス
HEp-2およびVero細胞(American Type Culture Collections, ATCCから入手した)の単層培養物を、5%ウシ胎仔血清(FBS)を含有する最少必須培地(MEM)中に保持した。野生型RSV株A2およびB9320をATCCから入手し、Vero細胞中で増殖させた。バクテリオファージT7 RNAポリメラーゼを発現する改変ワクシニアウイルスAnkara(MVA-T7)を、CEK細胞中で増殖させた。
キメラcDNAクローンの構築
野生型RSV B9320をVero細胞中で増殖させ、感染細胞培養上清からウイルスRNAを抽出した。RSV B9320のGおよびF遺伝子を含有するcDNA断片を、次のプライマーを用いてRT/PCRにより得た:
(クローニングのために遺伝子工学的に導入されたBamH I部位をイタリック体で示し、B9320特異的配列には下線が付されている)。Gの遺伝子開始配列の上流およびFの遺伝子終結配列の下流にBamH I制限酵素部位を導入した。最初にPCR産物をT/Aクローニングベクター(Invitrogen)中に導入し、DNA配列決定により配列を確認した。次に、B9320のGおよびF遺伝子カセットを含有するBamH I制限断片を、nt 4655(Gの遺伝子開始シグナルの上流)およびnt 7552(Fの遺伝子終結シグナルの下流)に導入されたBgl II部位を介して、nt 4326〜nt 9721のRSV配列を含有するRSV cDNAサブクローンpRSV(R/H)中に移した。これらの2つのBgl II部位の導入は、QuickChange突然変異誘発キット(Strategene, La Jolla, CA)を用いてPCR突然変異誘発により行った。BamH IおよびBgl IIの制限酵素部位は適合性末端を有しているが、連結により制限部位は両方とも消失する。次に、B9320のGおよびF遺伝子を含有するXho I(nt 4477)〜BamH I(nt 8498)制限断片を感染性RSVアンチゲノムcDNAクローンpRSVC4G(Jin et al., 1998)にシャトルベクター導入(shuttle)した。このキメラアンチゲノムcDNAをpRSV-G
BF
Bと名づけた。pRSV-G
BF
BからM2-2遺伝子を欠失させるために、M2-2欠失を有するrA2ΔM2-2(Jin et al., 2000a)由来のMsc I(nt 7692)〜BamH I(nt 8498)断片をpRSV-G
BF
B中に導入した。M2-2遺伝子が欠如したキメラcDNAクローンをpRSV-G
BF
BΔM2-2と名づけた。
組換えRSVの回収
cDNAからの組換えRSVの回収についてここに記載する。簡潔に述べると、集密度80%の6ウェルプレート中のHEp-2細胞にMVAを5pfu/細胞のm.o.i.で1時間感染させ、次に、LipofecTACE試薬(Life Technologies, Gaithersburg, MD)を用いて、RSV N、P、およびLタンパク質を発現するプラスミドと共に、全長アンチゲノムプラスミド(pRSV-GBFBまたはpRSV-GBFBΔM2-2)をトランスフェクトした。トランスフェクト細胞を35℃で3日間インキュベートした後、培養上清をVero細胞中で6日間継代させ、レスキューされたウイルスを増幅させた。回収した組換えウイルスを3回の逐次的プラーク精製により生物学的にクローン化し、Vero細胞中でさらに増幅させた。pRSV-GBFBトランスフェクト細胞から回収されたウイルスをrA-GBFBと名づけ、pRSV-GBFBΔM2-2トランスフェクト細胞から回収されたウイルスをrA-GBFBΔM2-2と名づけた。プラークアッセイによりウイルス力価を決定し、プラークは、ポリクローナル抗RSV A2血清(Biogenesis, Sandown, NH)を用いて免疫染色することにより視覚化した。
ウイルスの特性づけ
回収された各キメラRSVについてウイルスRNAの発現をノーザンブロッティングにより分析した。感染48時間後、ウイルス感染細胞から全細胞RNAを抽出した。B9320のF遺伝子に特異的なγ-32P-ATP標識オリゴヌクレオチドプローブ(GAGGTGAGGTACAATGCATTAATAGCAAGATGGAGGAAGA)またはA2のF遺伝子に特異的なγ-32P-ATP標識プローブ(CAGAAGCAAAACAAAATGTGACTGCAGTGAGGATTGTGGT)をRNAブロットにハイブリダイズさせた。キメラウイルスのG mRNAを検出するために、B9320のG遺伝子に特異的な190ntリボプローブまたはA2のG遺伝子に特異的な130ntリボプローブをRNAブロットにハイブリダイズさせた。両方のリボプローブをα-32P-CTPで標識した。Express Hyb溶液(Clontech, Palo Alto, CA)中、65℃で、一晩かけてハイブリダイゼーションを行った。ストリンジェント条件下、65℃で膜を洗浄し、フィルムに暴露した。
感染細胞に由来するウイルス特異的タンパク質を、感染細胞抽出物の免疫沈降によりまたはウェスタンブロッティングにより分析した。ウイルスタンパク質を免疫沈降させるために、感染14時間後〜18時間後、Vero細胞にウイルスを1.0のmoiで感染させ、35Sプロミックス(100μCi/ml 35S-Cysおよび35S-Met、Amersham, Arlington Heights, IL)で標識した。標識細胞単層をRIPA緩衝液で溶解させ、ポリクローナルヤギ抗RSV A2血清(Biogenesis, Sandown, NH)によりまたはM2-2タンパク質に対するポリクローナル抗体によりポリペプチドを免疫沈降させた。SDS-PAGEを用いて免疫沈降ポリペプチドを電気泳動にかけ、オートラジオグラフィーにより検出した。ウェスタンブロッティング分析を行うために、ウイルス感染Vero細胞をタンパク質溶解緩衝液で溶解させ、12%SDS-PAGEを用いてタンパク質を分離した。タンパク質をナイロン膜に移し、B9320のGタンパク質に対するモノクローナル抗体またはA2のGタンパク質に対するモノクローナル抗体を用いて、本明細書に記載されているようにイムノブロッティングを行った(Storch and Park, 1987 J. Med. Virol. 22: 345-356)。
in vitroにおけるキメラRSVの増殖を、野生型組換えA2(rA2)およびrA2ΔM2-2の場合と比較した。HEp-2およびVero細胞の両方で増殖サイクル分析を行った。6cmディッシュ中で増殖させた細胞に各ウイルスを0.01または0.1のmoiで感染させた。室温で1時間吸着させた後、感染細胞単層をPBSで3回洗浄し、5% CO2の入ったインキュベーター中で4mlのOpti-MEMと共に35℃でインキュベートした。感染後、種々の時点で、200μlの培養上清を採取し、ウイルス力価測定のために-70℃で保存した。取出された各アリコートを等量の新たな培地と交換した。1%メチルセルロースと2% FBSを含有する1×L15培地とからなるオーバーレイを用いて12ウェルプレート上のVero細胞でプラークアッセイを行うことにより、ウイルス力価を決定した。
コトンラットにおけるウイルスの複製
呼吸器病原体を含まないS. Hispidusコトンラットにおけるin vivoでのウイルスの複製を調べた。12匹からなるグループのコトンラットに軽いメトキシフルラン麻酔をかけて動物1匹あたり105.5pfuのウイルスを0.1mlの接種量で鼻腔内接種した。接種4日後、6匹の動物をCO2で窒息させて屠殺し、それらの鼻甲介および肺を個別に採取した。組織をホモジナイズし、Vero細胞でプラークアッセイすることによりウイルス力価を決定した。3週間後、残りの6匹の動物に麻酔をかけ、それらの血清サンプルを採取し、生物学的に誘導された106pfuの野生型RSV株A2またはB9320のチャレンジ接種を鼻腔内に行った。チャレンジ4日後、動物を屠殺し、鼻甲介および肺の両方を採取し、ホモジナイズし、そしてプラークアッセイによりウイルス力価を決定した。50%プラーク減少アッセイ(Coates et al., 1966, Am. J. Epidemiol. 83 (2):299-313)によりRSV A2またはB9320株に対する血清中和抗体を決定した。
AGMにおけるウイルスの複製
AGM(Cercopithecus aethiops)における複製、免疫原性、および予防効果に関して、組換えRSVを評価した。第1の研究(研究A)では、4.2歳の平均年齢および2.2〜4.3 kgの範囲の体重を有するSt. Kittsから入手したAGMを用いて、rA2の複製を野生型A2のものと比較した。第2の研究(研究B)では、5.3〜8.4歳の範囲の年齢および4.15kgの平均体重を有するAGMを使用した。いずれのサルも、RSV B9320またはA2に対する検出可能な血清中和抗体を有していなかった(力価<1:10)。4匹のサルからなるグループに、鼻腔内および気管内経路の両方により、それぞれの部位で105.5pfuの用量、1.0mlの接種量で、野生型A2、rA2、rA2ΔM2-2、野生型B9320またはrA-GBFBのいずれかを接種した。接種後、12日間毎日、Telazol麻酔をかけてそれぞれのサルから鼻咽頭(NP)スワブを収集し、感染3日後、5日後、7日後、および10日後、気管洗浄液(BAL)を収集した(Kakuk et al., 1993, J. Infect. Dis. 167 (3): 553-561)。感染28日後、それぞれの感染サルから血清サンプルを採取し、そして鼻腔内および気管内部位の両方において、野生型A2またはB9320のいずれかを、105.5pfuの用量、1.0mlの接種量で、サルにチャレンジした。NPおよび気管洗浄の試料中に放出されたウイルスを定量することにより、サルの上気道および下気道中におけるチャレンジウイルスの複製を調べた。NPサンプルを10日間毎日収集し、チャレンジ3日後、5日後、7日後、および10日後、BALのサンプルを収集した。野生型ウイルスのチャレンジの14日後、血清サンプルを採取し、野生型A2またはB9320ウイルスを用いて50%プラーク減少アッセイによりRSV中和抗体を測定した。NPおよびBALサンプル中に放出されたウイルスを、Vero細胞を用いたプラークアッセイにより定量した。
13.3 結果
cDNAの構築およびRSV A/Bキメラウイルスの回収
事前に、本発明者らは、wt RSV株A2をコードする感染性アンチゲノムcDNAおよびM2-2遺伝子の欠失を有するその誘導体を構築した。ここで、A2株のGおよびF遺伝子をB9320のものと交換することによりこれらのcDNAを改変し、RSVサブグループB抗原を発現するキメラウイルスを産生させた。遺伝子開始配列および遺伝子終結配列は、2つのRSVサブグループ間でかなりに保存されている。したがって、B9320自体の遺伝子開始シグナルおよび遺伝子終結シグナルを含むB9320の完全なGおよびF遺伝子をA2 cDNA主鎖に移した(図26)。B9320のGおよびF遺伝子をコードするcDNAをRT/PCRにより取得し、配列分析により確認した。構築されたキメラcDNAをpRSVA-GBFBと名づけた。pRSVA-GBFBからM2-2遺伝子を欠失させることによりpRSVA-GBFBΔM2-2を構築した。M2-2オープンリーディングフレームの欠失を有するrA2ΔM2-2由来のM2遺伝子を、ユニークなMsc IおよびBamH I制限酵素部位を介して、pRSVA-GBFB中に導入した。先に記載のレスキュー系を用いて、両方のキメラウイルス(rA-GBFBおよびrA-GBFBΔM2-2)をcDNAから回収した。回収した組換えウイルスをプラーク精製し、Vero細胞中で増幅させた。
in vitroにおける組換えキメラウイルスの特性づけ
キメラウイルスによるサブグループ特異的タンパク質の発現を、ノーザンおよびウェスタンブロッティングにより分析した。株特異的プローブを用いて、rA-GBFBおよびrA-GBFBΔM2-2を感染させた細胞でB9320特異的GおよびF mRNAを検出した(図27A)。rA-GBFBΔM2-2を感染させた細胞でM2-2遺伝子が検出されなかったことから、M2-2遺伝子はこのキメラウイルスから欠失していることが確認された。また、2つのキメラウイルスのB9320株特異的タンパク質発現を、rA2、rA2ΔM2-2、および野生型B9320のものと比較した(図27B)。rA-GBFBおよびrA-GBFBΔM2-2のF1タンパク質は、B9320のものと同一の移動度を示し、いずれもA2のものよりも速く移動した。株特異的モノクローナル抗体を用いてウェスタンブロッティング分析を行うことにより、サブグループBのGタンパク質がrA-GBFBおよびrA-GBFBΔM2-2により発現されることを確認した(図27B)。さらに、M2-2タンパク質に特異的なポリクローナル抗体を用いてウェスタンブロッティングを行うことにより、rA2ΔM2-2およびrA-GBFBΔM2-2中にM2-2遺伝子が欠如していることを確認した。
HEp-2およびVero細胞の両方において、キメラウイルスrA-GBFBおよびrA-GBFBΔM2-2の複製をrA2およびrA2ΔM2-2のときと比較した(図28)。Vero細胞では、0.1のmoiで感染させたとき、rA-GBFBおよびrA-GBFBΔM2-2はいずれも、それぞれ野生型rA2およびrA2ΔM2-2で見られたのと同じようなピーク力価に達した。より低い0.01のmoiでは、rA-GBFBのピーク力価は、rA2と比較してわずかに減少し;rA-GBFBΔM2-2の複製のレベルはrA-GBFBと比較して約1/10に減少した。HEp-2細胞では、0.1のmoiのとき、rA-GBFBは、野生型 A2と比較してわずかに低いピーク力価を示したが、rA-GBFBΔM2-2の複製は約1/100に減少した。0.01のmoiでは、rA-GBFBのピーク力価は、rA2と比較して約1/10に減少し、rA-GBFBΔM2-2のピーク力価は、1/100に減少した。したがって、rA2ΔM2-2で観測された結果と同様に、rA-GBFBΔM2-2はまた、HEp-2細胞では制限された複製を呈したが、Vero細胞ではその複製はそれほど阻害されなかった。
コトンラットにおけるキメラRSVの複製
コトンラットは、サブグループAおよびB RSVの両方に感染しやすい。コトンラットの鼻甲介および肺におけるrA-GBFBおよびrA-GBFBΔM2-2の複製のレベルを、rA2、rA2ΔM2-2、および野生型B9320のときと比較した(表21)。rA-GBFBの複製は、鼻甲介においてプラークアッセイによる検出限界未満であり、肺組織におけるその複製は、野生型B9320と比較して約3.6log10減少し、rA2に対して約2.0log10減少した。rA2ΔM2-2の複製は鼻甲介では検出されず、肺ではrA2と比較して1.6log低下した。rA-GBFBからM2-2を除去することにより、キメラウイルスはさらに弱毒化された。rA-GBFBΔM2-2を感染させたコトンラットの鼻甲介および肺のいずれにおいても、ウイルスの複製は検出されなかった。
rA-GBFBおよびrA-GBFBΔM2-2はコトンラットにおいて弱毒化されたにもかかわらず、キメラウイルスは両方とも、チャレンジから動物を保護するのに十分な免疫をRSVに対して誘導した(表21)。rA-GBFBにより誘導された血清抗RSV中和抗体のレベルは、野生型B9320により誘導されたレベルの1/2.85であった。rA-GBFBΔM2-2により誘導された血清抗RSV中和抗体は、B9320により誘導されたレベルの約1/4であり、rA-GBFBにより誘導されたレベルの約1/1.5であった。比較すると、rA2ΔM2-2により誘導された血清抗RSV中和抗体のレベルも、同様にrA2のときのレベルの約1/2に減少した。
AGMにおける野生型 RSVおよびrA2ΔM2-2の複製
霊長類におけるRSV弱毒化および免疫原性を調べるために、AGMにおける組換えRSVの複製をさらに研究した。研究Aでは、AGMの気道における組換えA2および野生型A2ウイルスの複製を調べた。RSV血清反応陰性のAGMに、5.5log10pfuのrA2または野生型 A2を鼻腔内または気管内感染させ、12日間にわたり上気道および下気道の両方でウイルス放出をモニターした。表22に示されるように、rA2は、AGMの上気道および下気道の両方で良好に複製した。rA2は、それぞれの部位でそれぞれ4.18および4.28log10pfu/mlのピーク力価に達し、野生型A2と同じ期間にわたりウイルスを放出したが(表22、研究A)、AGMの気道におけるrA2のピーク力価は、野生型A2ウイルスで得たピーク力価よりもわずかに小さかった。AGMにおいてrA2の高レベルの複製が確認されたので、AGMにおける弱毒化、免疫原性、および予防効果に関して、rA2ΔM2-2を評価した。別の研究(研究B、表22)では、rA2ΔM2-2は、rA2と比較して、鼻咽頭および気管のいずれにおいても大きく減少した複製レベルを示した。鼻咽頭におけるそのピーク力価は、3.1log10減少し、一方、気管におけるピーク力価は3.25log10減少した。気道における複製のレベルが大きく低下したにもかかわらず、rA2ΔM2-2は、有意なレベルの血清抗RSV中和抗体を誘導した。感染3週間後、rA2ΔM2-2により誘導された抗体価は、rA2により誘導された抗体価の約1/4であった(表23)。野生型A2ウイルスでチャレンジしたとき、rA2ΔM2-2は、免疫化サルの上気道において野生型RSVの複製を部分的に防御し、下気道において実質的に完全に防御した。rA2を接種したサルは、上気道および下気道の両方で十分に保護された(表23)。rA2ΔM2-2は免疫化サルの気道において完全な防御を提供しなかったが、5日目までウイルスの放出を低減させた。チャレンジ2週間後、rA2ΔM2-2感染サル由来の血清抗RSV中和抗体のレベルは、rA2により誘導された血清抗RSV中和抗体のレベルに近づいた。
AGMにおけるキメラrA-G B F B および野生型B9320の複製
キメラrA-GBFBの複製のレベルを野生型B9320のものと比較した。RSV血清反応陰性のAGMに、鼻腔内および気管内点滴注入により、5.5log10pfuのrA-GBFBまたはB9320で接種した。咽頭スワブおよび気管洗浄液のサンプルを12日間にわたり収集し、ウイルスの定量に供した。B9320は、野生型A2ウイルスのものと類似したレベルまで複製した(表22)。感染サルの気道におけるrA-GBFBのピーク力価は、B9320のものと比較して約1/1000に減少した。rA-GBFBを感染させた動物は、B9320を感染させたものよりも短い期間にわたりウイルスを放出した。複製が著しく弱められたにもかかわらず、野生型B9320でチャレンジしたとき、rA-GBFBは完全な防御を提供した。あらかじめrA-GBFBで免疫化されたサルの上気道および下気道のいずれにおいても、チャレンジウイルスは検出されなかった(表23)。rA-GBFBで免疫化されたサルで見られた防御のレベルと一致して、これらのサルにより誘導された血清抗RSV中和抗体のレベルは、野生型B9320感染動物で観測されたものと比較してわずかに減少したにすぎなかった(約1/2倍)。rA-GBFBにより誘導された血清抗RSV中和抗体のレベルは、その後の野生型RSV感染によって検討した。
13.4 考察
サブグループB RSVに対するワクチン開発を促進するために、組換えA2ウイルスをベクターとして使用し、サブグループB RSV表面抗原を発現させた。キメラウイルスは、バランスのとれた免疫応答を誘導し、サブグループB RSV感染を防御すると考えられる。RSVサブグループB抗原を発現させる方法として、本発明者らは、A2株のGおよびF遺伝子がB9320株のGおよびF遺伝子により完全に置換されたさまざまなキメラウイルスを構築した。次に、A2ウイルスを弱毒化すべく開発したストラテジーを用いて、キメラRSVをさらに弱毒化させた。
回収されたキメラRSV(rA-GBFB)は、Vero細胞では効率的に複製されたが、HEp-2細胞では、その増殖はrA2に対して1/5〜1/10に減少した。rA-GBFBは、コトンラットの上気道および下気道の両方で弱毒化された。rA-GBFBの弱毒化が宿主特異的であるかを調べるために、齧歯動物よりも遺伝的によりヒトに近いAGMにおいて、このキメラウイルスをさらに評価した。AGMにおけるRSV感染は、それほど良好に特性づけがなされておらず、報告されたピーク力価にはかなりの幅がある(Crowe et al., 1996, J. Infect. Dis. 173:829-839); (Kakuk et al., 1993, J. Infect. Dis. 167:553-561)。したがって、最初に、野生型ウイルスを用いてAGMにおけるRSV感染を試験した。サブグループAおよびサブグループB RSVはいずれも、AGMにおいて同じように良好に複製されることが判明した。また、AGMの上気道および下気道から回収されたウイルスの力価は、感染チンパンジーで観測されたものと同程度であった(Crow et al., 1994, Vaccine 12:783-790)。AGMにおいてrA-GBFBを評価したところ、上気道では3.0log10の平均ピーク力価の減少を示し、下気道では2.59log10の減少を示した。
AGMにおけるrA-GBFBの弱毒化のレベルは、コトンラットで観測されたレベルと一致した。しかしながら、この結果は、A2のGおよびF遺伝子をRSV B1株のもので置換した最近発表のキメラRSVに対する報告結果(rABl, Whitehead et al., 1999, J. Virol. 73:9773-80)とはいくらか異なっていた。rAB1およびrA-GBFBはコトンラットでは同様に弱毒化されるが、rAB1はチンパンジーでは弱毒化されなかった。rA-GBFBとは対照的に、rAB1は、チンパンジーの上気道および下気道のいずれにおいても、野生型 RSV B1よりも良好に複製された(Whitehead et al., 1999, J. Virol. 73:9773-80)。この不一致は、部分的には、野生型サブグループB RSV感染に対するチンパンジーの半許容性により説明することも可能である。しかしながら、サブグループB株表面抗原の差異またはこれらの抗原がA2のバックグラウンドに導入されたときの配置の差異が原因で、rA-GBFBがrAB1よりも弱毒化されている可能性も存在する。したがって、関連性の高い異なる異種タンパク質をキメラ化することにより、異なる表現型を生じたものと思われる。弱毒化ウイルスを生成する表面抗原のキメラ化については、いくつかのパラミクソウイルスで報告されている。HNおよびFタンパク質がVSVのGタンパク質で置換されたキメラ麻疹ウイルスは、in vitroにおける複製が高度に制限された(Spielhofer et al., 1998, J. Virol. 72:2150-2159)。関連性の高い羊疫ウイルスの異種表面タンパク質でFおよびHタンパク質が置換されたキメラ牛疫ウイルスは、遅いウイルス増殖および低いウイルス収率により示されるように、in vitroで弱毒化された(Das et al., 2000, J. Virol. 74:9039-9047)。ごく最近、PIV3のFおよびHN遺伝子がPIV2のもので置換されたPIV3-PIV2キメラウイルスは、in vitroでは弱毒化されないが、ハムスター、AGM、およびチンパンジーでは高度に弱毒化されることが報告された(Tao et al., 2000, J. Virol 74: 6448-6458)。一方、キメラPIV3-PIV1は、in vivoで弱毒化されなかった(Tao et al., 1998, J. Virol. 72: 2955-2961; Tao et al., 1999, Vaccine 17:1100-1108)。AGMでは弱毒化されたが、rA-GBFBは、有意なレベルの抗RSV中和抗体を誘導し、後からの野生型サブグループB RSVのチャレンジを完全に防御した。
本研究では、AGMにおいて、弱毒化、免疫原性、および野生型RSVのチャレンジに対する防御に関して、rA2ΔM2-2を評価した。rA2ΔM2-2は、AGMの気道において弱毒化されていることが判明した。また、あらかじめrA2ΔM2-2を感染させた動物において、チャレンジ後、野生型RSVの複製の大きな減少が観測された。AGMにおいてrA2ΔM2-2で観測された複製および防御のレベルは、チンパンジー研究においてM2-2タンパク質の発現が阻止された類似の組換えRSVで報告されたものと非常に類似している(Bermingham and Collins, 1999, pNAS USA 96:11259-11264; Teng et al., 2000, J. Virol. 74:9317-9321)。rA2ΔM2-2は、以前試験されたワクチン候補cpts248/404よりもヒトにおいてさらに弱毒化されている可能性がある(Teng et al., 2000, J. Virol. 74:9317-9321)。cpts248/404は、ナイーブな乳児において、弱毒化も十分でないし遺伝子的にも安定ではない(Crowe et al., 1994, Vaccine 12:783-790; Wright et al., 2000, J. Infect. Dis. 182: 1331-1342)。rA2ΔM2-2により誘導される血清抗RSV中和抗体力価は、野生型RSV感染により誘導されるものよりもわずかに小さい。しかしながら、チャレンジ後に中和抗体力価が増加することから、rA2ΔM2-2の免疫原性は反復投与により増強される可能性がある。
rA2ΔM2-2は生の弱毒化ワクチンに望まれる特徴の多くを呈するので、M2-2遺伝子の欠失はキメラrA-GBFBをさらに弱毒化するのに適した方法であると考えられた。in vitro研究から、rA-GBFBΔM2-2はrA2ΔM2-2と類似の弱毒化レベルを有し、合胞体形成の増大、HEp-2細胞における増殖の減少、および複製に対してアンバランスなRNA転写を呈することが示唆された。キメラrA-GBFBウイルスはコトンラットおよびAGMの両方ですでに弱毒化されているので、rA-GBFBΔM2-2はrA2ΔM2-2よりもさらに弱毒化されていると予想される。しかしながら、コトンラット研究から、rA-GBFBΔM2-2はrA-GBFBにより誘導されるレベルに近いレベルの血清RSV中和抗体を依然として誘導することができ、後からの実験的チャレンジを完全に防御することが示唆された。したがって、rA-GBFBΔM2-2は、サブグループB RSV感染を防御するのに好適なワクチン候補になると思われる。
本発明の範囲は、本発明の個別の態様の一例であることを意図して記載した特定の実施形態により限定されるものではなく、機能的に等価な構築物、ウイルス、または酵素はすべて、本発明の範囲内である。実際に、以上の説明および添付の図面から、本明細書に提示および説明した形態に加えて本発明のさまざまな変更形態が当業者に自明なものとなるであろう。そのような変更形態は添付の特許請求の範囲内に包含されるものとみなされる。
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