JP2009008618A - 脂質膜センサ - Google Patents

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Abstract

【課題】 脂質膜の物理的安定性を向上させ、脂質膜のゆらぎに起因した電気的ノイズが低減された脂質膜センサを提供することを目的とする。
【解決手段】 水中の物質を検出する脂質膜センサである。表面および裏面を有し、前記表面から前記裏面に達する複数の貫通孔が設けられた基板と、前記基板の前記貫通孔内に配置され、前記物質と相互作用を示す脂質膜と、前記脂質膜の前記相互作用の情報を獲得する参照電極および脂質膜と電極間に充填した適当な電解液とを具備することを特徴とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、物質を検出する脂質膜センサに係り、特に、水中に存在する環境汚染物質を測定するセンサに関する。
近年環境問題に対する関心が高まり、種々の有害物質を検知し、監視する仕組み作りが行われている。上水道に取り込まれる可能性のある水中に含有される有害物質についても、これをモニタして有害物質混入の事故の発生を予防している。これまでに、水中の有害物質(環境汚染物質)をリアルタイムで検出するために、種々の方法が提案されてきている。たとえば、水中で有害物質に敏感に反応する魚類などの水中生物を飼育し、その行動観察から水中の有害物質の存在を検知したり、あるいは硝化細菌を利用して水中の有害物質を検知したりすることが知られている。ところが、いずれの方法においても、メンテナンスが必要であり、実用化に困難が伴うばかりでなく、有害物質の種類や量を決定することは困難であった。
このような状況で、本発明者らは、水中の物質の種類や量を正確に特定することが可能な環境汚染物質検出用センサを、提案している(特許文献1参照)。このセンサは、脂質膜を用いることにより、有害物質を連続的に検出するとともに、該物質の種類や量の正確な測定が可能となった。
また、かかる脂質膜は、を水中で再生する機構もまた、本発明者らにより提案された(特許文献2参照)。これらの技術においては、膜の破壊を自動的に検知し、基板の穴内部に自動的に脂質溶液を注入することにより脂質膜を再生して、脆弱性が改善された。
しかしながら、この脂質膜を含むセンサシステムを用い、実地下水を流下して連続測定を実施したところ、脂質膜が予想以上に脆弱であり実使用上改善の余地があることが判明した。また、送液ポンプに由来した電気的ノイズが大きく、測定精度および感度にも著しい低下が認められ(例えば、非特許文献1参照)、上記脂質膜を用いた有害物質検出システムの改善が求められている。
特開平11−56389号公報 特開2001−91494号公報 2005年度IMS成果報告会予稿集「エコセンサシステムによる地下水中のVOC(揮発性有機塩素化合物)の検出」
本発明では、脂質膜の物理的安定性を向上させ、脂質膜のゆらぎに起因した電気的ノイズが低減された脂質膜センサを提供することを目的とする。
本発明の一態様である脂質膜センサは、水中の有害物質を検出する脂質膜センサであって、表面および裏面を有し、前記表面から前記裏面に達する複数の貫通孔が設けられた基板と、前記基板の前記貫通孔内に配置され、前記物質と相互作用を示す脂質膜と、前記脂質膜の前記相互作用の情報を検知する参照電極および脂質膜と電極間に充填した適当な電解液とを具備することを特徴とする。
本発明によれば、脂質膜の物理的安定性を向上させ、脂質膜のゆらぎに起因した電気的ノイズが低減された脂質膜センサを実現することができる。

[発明の原理]
以下、本発明の原理について説明する。
本発明の実施形態にかかる脂質膜センサは、水中に存在する有害物質の種類および量を決定するものである。本明細書において、有害物質とは環境汚染物質も含むものと定義される。
まず、有害物質の作用について説明する。有害物質とは、生体に害を及ぼす物質であり、生体「細胞」に害を及ぼす物質であると言い換えることもできる。したがって、有害物質の作用は、「細胞膜」にも何らかの影響を及ぼすものと推測される。ここでいう「何らかの影響」とは、細胞膜に接着・吸着されたり、細胞膜内に取り込まれたりすることなどを意味している。
そこで、人工的に作製された擬似細胞膜(人工膜)への有害物質の作用をリアルタイムで測定する脂質膜センサを実現できることが予測される。すなわち、有害物質との反応により変化する擬似細胞膜の物理情報を測定し、有害物質反応前後の出力値の差から、有害物質の混入を判定することができる。物理情報とは、具体的には、膜電位、電気容量、インピーダンス、イオン透過性、発光、蛍光および発熱・吸熱などが挙げられる。
有害物質の種類や量は、次のようにして決定される。すなわち、一般に細胞膜は、リン脂質を主成分とする脂質二分子膜に蛋白質や糖などの分子が取り込まれたり、表面に接着したりして構成されている。擬似細胞膜は、脂質膜またはそれに代わる高分子膜をベースとし、対象となる有害物質と作用する各種の蛋白質や糖などの分子を配合することによって、人工的に作製することができる。有害物質の種類によっては、脂質膜のみで応答を示す場合もある。
したがって、用いる脂質や蛋白質・糖などの種類や量、さらには擬似細胞膜の作製方法などを変化させることによって、各種の有害物質を測定可能な脂質膜センサが得られる。測定に当たっては、個々の脂質膜センサの有害物質応答を予め求めておく。すなわち、有害物質の種類や量に応じて出力値がどのように変化するか、想定される混合系を含めて決定しておく。複数の種類の異なる脂質膜センサのこうした応答パターンの組合せに基づいて、実際の測定結果(複数の脂質膜センサからの出力値)から有害物質の種類および量を決定することができる(前記特許文献1参照)。
上述したように構成される脂質膜センサにおいては、ほぼリアルタイムで応答を得ることができる。しかも、構成物が生物あるいは微生物ではないことから、餌を与えるといったメンテナンスは何等必要とされない。また、定常状態からのズレを出力値として用いることにより、広範囲な環境条件でのセンサの使用が可能である。さらに、各脂質膜センサからの出力値を無線で信号処理施設へ転送できるため、河川や海洋などでも制約なしに使用することができる。
しかしながら、脂質膜を含む脂質膜は、物理的振動や静電気などの外力に対して極めて不安定であり、その寿命も精々数日間程度であった(静置状態の場合)。脂質膜センサを実用化するには、より安定なセンサデバイスを開発することが求められている。
本発明者らは、この問題を解決すべく鋭意検討した結果、適当な厚さを持つ基板に微小な(0.1mm以下)貫通孔を複数個形成することによって、物理的振動に対する安定性を著しく高め、かつ膜の揺らぎに伴う電気的ノイズを低減することが可能となることに着目して本発明を完成したものである。
[第1の実施の形態]
以下、本発明の第1の実施の形態について、脂質膜センサの概略を示す図1を用いて説明する。
図1において、石英ガラスのような試料と非反応性の材料でできている測定用セル11内に、シリコン樹脂のような材料のパッキング(図示せず)を用いて基板12を配置し、測定用セル11を2つの分室11a,11bに区分する。測定用セル11内の各分室11a,11bの容量は、測定用セル11の工作精度や、使用可能な試料の量などを考慮に入れて適宜設定することができるが、10〜100mLの範囲で設定することが好ましく、もっとも好ましいのは約25mL程度である。
上記測定用セル11の各分室11a.11bには、参照電極15が配置され、後述する脂質膜の膜電位などを測定することができるようになっている。参照電極15は、例えば、銀/塩化銀及び塩化カリウムにより構成することができる。この参照電極は、エレクトロメータ16および記録装置17などに接続され、膜電位などの特性を測定できるようになっている。
この脂質膜センサは、図1に見られるように、この基板12材料の中央部付近に、複数の貫通孔13が形成されており、この貫通孔に脂質膜が形成されている。この貫通孔として単一の貫通孔を形成するとしても、脂質膜の膜面積の大きなものを形成することが困難となる。安定に存在できる脂質膜を用いたセンサを組み立てることができたとしても、このセンサの感度は十分でなく、精度の低いセンサしか得られない。センサ感度を向上させるために膜面積の大きな脂質膜を形成した場合、その膜は不安定で、試料計測中に膜破壊が生じることになる。
前記脂質膜センサに用いる基板材料としては、試料液と非反応性の材料を用いることができるが、具体的には、フッ素樹脂などで被覆したニッケルなどの金属板材、シリコン板材、ガラス板材、サファイアなどのセラミック板材、硬質プラスチック板材などが挙げられる。この基板表面には、余分な脂質液の付着を抑制するために、シリコナイズ処理などによる親水化処理を施すことが好ましい。
デバイスとしての強度及び脂質膜の有害物質に対する感度などを考慮すると、基板の厚さは10〜100μmであることが好ましい。
また、前記脂質膜センサにおいて、前記基板に作製された複数の前記貫通孔の開口総面積が2×10−8〜4×10−7mmの範囲であることが好ましい。貫通孔の開口総面積が上記範囲を下回った場合、十分なセンサ感度を得ることができない。一方、貫通孔の開口総面積が上記範囲を上回った場合、基板の貫通孔形成部分の機械的強度が低下し、その取扱いが困難となる。開口総面積とは、単一貫通孔の開口面積に貫通孔の数を乗じて産出するものである。
また、前記基板の厚さは、10〜100μmの範囲であることが好ましい。この厚さが、10μmを下回った場合、基板の機械的強度が低下し、取扱いが困難である。一方、基板の厚さが、100μmを超えると、脂質膜の電気抵抗が上昇し、測定精度が低下する。
本発明において、適当な厚さを持つ基板に微小な(0.1mm以下)貫通孔を複数個形成し、この貫通孔に脂質膜を形成することによって、物理的振動に対する安定性を著しく高め、かつ膜の揺らぎに伴う電気的ノイズを低減することを可能としたものである。
また、脂質膜の水中での安定性は表面積に反比例することから、貫通孔の大きさは、直径1mm以下であることが好ましい。
前記貫通孔は、前記基板上に、1×10〜3×10個/cmの密度範囲で形成することが好ましい。この密度が、上記範囲を下回った場合、センサの感度が不十分であり、一方、密度が上記範囲を上回った場合、基板に形成した複数の貫通孔の形状を維持することが困難で、破壊に対する耐性が低下する。
(脂質膜)
前記脂質膜は、脂質を溶媒に溶解してなる脂質溶液を用いて、作製することができる。本発明において用いることのできる脂質としては、例えば、モノオレインなどの界面活性剤(擬似脂質)、リン脂質や糖脂質、コレステロール等が挙げられ、溶媒としては、n−デカン、クロロホルム、メタノール、アセトン、DMSO、n−ヘキサン等を使用することができる。溶媒中に所定の濃度で脂質を溶解して、脂質膜を形成するための脂質溶液が調製される。脂質溶液中には、必要に応じて有害物質反応物質を加えてもよい。有害物質反応物質としては、例えば、イオノフォア、イオンチャネル、抗体、レシチン、受容体等を用いることができる。
上記脂質膜において、脂質液の粘度をρ(単位:CP)、基板の貫通部分の厚さをt(単位:μm)、また、基板の貫通孔の直径をr(単位:μm)とした場合、
Sm=ρ・t/r
で表される脂質膜の安定性指標Sm(単位:CP)が0.5以上であることが好ましい。
この脂質膜の安定性指標が、0.5を下回った場合、脂質膜は安定に存在することができず、試料測定中に破壊されるなど、安定な計測に供することができない。一方、安定性指標が過度に大きいと、脂質膜を貫通孔内に形成することが困難となり、実用性に乏しい。最適な安定性指標の上限値は、30である。
(脂質膜の形成方法)
脂質膜は、以下の方法により形成することができる。
すなわち、前記脂質膜は、基板に設けられた貫通孔内に、刷毛塗法により脂質膜を形成する。刷毛塗法とは、脂質溶液を含ませた絵筆を用いて貫通孔の内部に脂質を注入し、自然放置することによって脂質二分子膜を作製する手法であり、自然薄化法とも呼ばれている方法である。
(測定方法)
上記脂質膜センサを用いて、次の方法によって有害物質の量を測定することができる。
まず、次のような試薬を用意した。トリオレイン(別名:グリセリルトリオレエート、分子量:885、融点:4〜5℃)およびトリクロロエチレン(通称:トリクレン)は、和光純薬工業社製を使用した。モノオレイン(別名:グリセリルモノオレエート、分子量:357、融点:33〜34℃)、n−デカンおよびアセトニトリルは、関東化学社製を用いた。また、コレステロール(分子量:387、融点:149℃)はシグマ社製を使用した。
その他、実験に使用した試薬は、全て市販特級品をそのまま使用した。水としては、イオン交換水を、超純水製造装置(ミリポア社製、Milli−Q)を通して使用した。
測定は、図1に示す装置を用いて、以下のような手順で行なうことができる。
表面をフッ素樹脂膜で被覆したニッケル基板12を、シリコン製パッキン(図示せず)を介して測定用セル11内にセットした。ニッケル基板12には、その中央に所要の数の貫通孔を設ける。測定用セル11の左右の各パート内には、電解液14として20mLの10mM食塩水をそれぞれ添加した。その後、膜電位が安定するまで15分程度放置する。この段階では、基板12の貫通孔内には、まだ脂質膜は形成されていない。
次いで、適当量の脂質溶液(例えば5%モノオレイン/n−デカン)を含ませた絵筆を用いて、ニッケル基板12の貫通孔の中に適量の脂質を入れ込む。絵筆の先端は、作業をし易くする目的で少し曲げてある。基板12の貫通孔内に脂質が侵入すると膜抵抗が生じて、膜電位が急激に変化する。その後(15〜30分間)、静かに放置すると膜電位が一定の値に落ち着き、ニッケル基板12の貫通孔内に脂質膜13が形成される。
基板を電解液に浸漬し、微小シリンジを用いて前述の脂質溶液を一定量、注入する。電解液としては、例えば、食塩水、リン酸緩衝液等を用いることができる。所定時間放置することによって、基板に設けられた貫通孔の内部に脂質膜が自然に再構成され、これと同時に電解液中に存在する有害物質反応物質(糖脂質など)はこの膜内に取り込まれる。
脂質膜13で隔てて、測定極であるAg/AgCl電極15(東亜電波社製、特注品)を試料となる測定用セル11内の溶液内に浸漬し、エレクトロメータ16(アドバンテスト社製、TR8411)を用いて、膜間の電位差(膜電位)を計測する。データは記録計17(横河ヒューレットパッカード社製、Type:3047)で記録する。データロガー(キーエンス社製、NR−600Gなど)を用いて、直接パソコンにデータを取り込んでも良い。なお、測定用セル11および電極15は、防振台上に載置して物理的な振動を防ぐとともに、全体を電気的絶縁箱の中に収納して測定を行なう。
上記構成の脂質膜センサを用い、以下の方法によって、試料溶液中に存在する有害物質の種類および量を測定することが可能となる。
(変形例1)
上記第1の実施の形態においては、基板に直接貫通孔を形成する例を示したが、図2に示すように、貫通孔は、基板に設けられたテーパ状凹部の底部に複数設けることもできる。
こうした基板を用いることによって、後述の第2の実施形態に示すような自動化した膜形成機構を有する装置において、脂質液供給作業が容易になる。しかも、テーパ状とすることにより、光リソグラフィーによる基板加工が可能となり、基板製造コストが低減するという点でも有利である。
(変形例2)
さらに、基板の貫通孔は、図3に示すように、中央にΦ1mm程度の開口を有するポリカーボネートのような硬質ポリマー板材31に、貫通孔を多数形成した硬質ポリマーフィルム32(中心のΦ0.1mmの部分)を貼り付ける構造としてもよい。
このような基板構造を採用することで、様々な口径の貫通孔を多数有する基板が早く、安く入手できるようになる。
[第2の実施形態]
上述の第1の実施形態においては、脂質膜の形成を測定開始前に行っておく形態を示したが、この脂質膜の形成を、測定中に複数回にわたって自動的に行うことも可能である。この実施の形態において用いることのできる装置の例を図5に示す。この装置は、一定量の脂質溶液を数μLレベルの量で、脂質膜を作製するための貫通孔内に自動注入する機構を有するものである。図5を参照して、自動の脂質膜センサについて説明する。
図示する装置においては、測定用セル51内にテフロン(登録商標)(登録商標)被覆ニッケル基板52が配置され、この基板52に設けられた貫通孔内に脂質膜53(必ずしも二分子膜構造ではない)が形成される。脂質溶液は吐出部59から吐出され、この吐出部59にはマイクロポンプ(吐出ポンプ)を用いることができる。吐出部59には、貯留槽60内に収容された脂質溶液が供給される。なお、吐出部59としてインクジェット方式(圧電素子利用)のポンプを採用した場合には、安価に小型化を図れる点で有利である。
測定用セル51内の各パートには、Ag/AgCl電極55が浸漬され、コントローラ58に接続されている。膜電位をモニタして、脂質膜の存在の有無を検知することができる。すなわち脂質膜が破壊されると膜電位が消失するので、このタイミングで脂質溶液を注入することで脂質膜が再形成できるのである。したがって、光学的な検出法に比べて非常に簡便になる。脂質溶液が貫通孔内に注入されると、±10mV以上の膜電位が発生し、脂質膜(必ずしも二分子膜構造ではない)が形成されるに従って、徐々に一定の電位に落ち着いてくる。実際の有害物質測定は、膜電位が一定になってから実施される。
(実施例)
図4に示す脂質膜センサを用いた実施例について説明する。
図4の脂質膜センサ装置は、密封可能になっている容器41の蓋部分に、試料となる水の注入口46と、試料水の排出口45、参照電極43,44が配置されている。また、参照電極43は、脂質膜が形成されている参照電極ケース43aの内部に電解液が充てんされ、電極43bが配置されている。また、他の参照電極44は、参照電極ケース44aと電極44bとからなっている。
参照電極43のケース43aは、下端部に基板が配置され、複数の貫通孔が設けられ脂質膜43cが形成されている。
この装置を用いて、基板をセットした後に空中で脂質液(5%モノオレイン/n−デカン;粘度(ρ)=0.95CP)を所定量貫通孔に注入し、その後に電解液として参照電極ケース内部43dに食塩水を導入し、次いで反応槽(容器)41に送液ポンプを使って食塩水を連続注入した(20mL/分)。10分間食塩水を循環させ、ポンプを停止させた後に膜電位を測定した。脂質膜の破壊は、膜電位の消失で判断した。脂質膜の安定性の目安として、30分以内で破壊されれば×、1時間までが△、3時間までは○、そして3時間以上を◎で表現することにした。結果を表1に示す。ここで脂質膜の安定性指標(Sm;CP)を、Sm=ρ(脂質液の粘度;CP)・t(貫通孔部分の厚さ;μm)/r(貫通孔の直径;μm)と定義する。表中のかっこ内に各基板のSmを示す。
Figure 2009008618
この装置を用いるには、脂質膜を作製し、安定な膜電位が得られるまでに15分程度の時間が掛かり、試料液の測定に15〜30分掛かるため、少なくとも1時間以上脂質膜として存在している必要があると判断した。そこで表1の結果から、Smとして0.5(CP)以上の貫通孔を有する基板が安定な脂質膜を得るためには適当であるとした。なお、開口面積(貫通孔の直径×貫通孔の数)は、測定感度と関係があり、測定物質および有害物質感応物質などにより個々の場合で最適化する必要があるが、本発明者らが検討した限りでは2×10−8〜4×10−7mmの範囲になる。参考のために、アセトンに溶解した5%モノオレインを脂質液(脂質液粘度;0.35CP)として用いた場合の安定性を表2に示す。この場合も、Smが0.5以上であれば1時間以上脂質膜が安定であることが分かる。
Figure 2009008618
この実施例の脂質膜センサの検出感度は、従来の脂質膜センサと比較して何等遜色ないものであった。
また、実施例の脂質膜センサは、フロー系での電気的ノイズが±3mV程度と安定した膜電位を示している。従来例では±10mV程度であったので、ポンプ由来の脂質膜の揺らぎを抑制することにより電気的ノイズを減少させられることが示された。
(比較例)
以下の手法により、基板の貫通孔内に手動で脂質膜を形成して、実際に脂質膜センサを作製した。すなわち、基板としては、単一の穴を有するニッケル基板(孔径:0.1〜0.6mm,厚さ:10μm)を用意した。この基板は、オプトニクス精密社製の特注品であり、表面をテフロン(登録商標)(登録商標)膜で被覆(絶縁加工)した後、穴の部分を針で破壊して使用した。
次のような試薬を用意した。トリオレイン(別名:グリセリルトリオレエート、分子量:885、融点:4〜5℃)およびトリクロロエチレン(通称:トリクレン)は、和光純薬工業社製を使用した。モノオレイン(別名:グリセリルモノオレエート、分子量:357、融点:33〜34℃)、n−デカンおよびアセトニトリルは、関東化学社製を用いた。また、コレステロール(分子量:387、融点:149℃)はシグマ社製を使用した。
その他、実験に使用した試薬は、全て市販特級品をそのまま使用した。水としては、イオン交換水を、超純水製造装置(ミリポア社製、Milli−Q)を通して使用した。
本比較例では図1に示す測定装置を用いた。石英ガラス製の測定用セル11内に、シリコンパッキング(図示せず)を用いてニッケル基板12を配置する。測定用セル11内の各パートの容量は、約25mLである。
ニッケル基板12に設けられた貫通孔内に、刷毛塗法により脂質二分子膜13を作製する。脂質二分子膜13の作製状況は、キーエンス社製のデジタルマイクロスコープ(VH−6300)などを用いて観察する。
脂質二分子膜13で隔てて、測定極であるAg/AgCl電極15(東亜電波社製)を溶液内に浸漬し、エレクトロメータ16(アドバンテスト社製、TR8411)を用いて、膜間の電位差(膜電位)を計測する。データは記録計17(横河ヒューレットパッカード社製、Type:3047)で記録する(データロガー(キーエンス社製、NR−600Gなど)を用いて、直接パソコンにデータを取り込んでも良い)。なお、測定用セル11および電極15は、防振台上に載置して物理的な振動を防ぐとともに、全体を電気的絶縁箱の中に収納して測定を行なう。
実際の実験は、以下のような手順で行なった。表面をテフロン(登録商標)(登録商標)膜で被覆したニッケル基板12を、シリコン製パッキン(図示せず)を介して測定用セル11内にセットした。ニッケル基板12には、その中央に直径0.6mmの貫通孔(1個)が設けられている。測定用セル11の左右の各パート内には、電解液14として20mLの10mM食塩水をそれぞれ添加した。その後、膜電位が安定するまで15分程度放置する。
次いで、適当量の脂質溶液(例えば5%モノオレイン/n−デカン)を含ませた絵筆を用いて、ニッケル基板12の貫通孔の中に適量の脂質を入れ込む。絵筆の先端は、作業をし易くする目的で少し曲げてある。基板12の貫通孔内に脂質が侵入すると膜抵抗が生じて、膜電位が急激に変化する。その後(15〜30分間)、静かに放置すると膜電位が一定の値に落ち着き、ニッケル基板12の貫通孔内に脂質膜13が形成される。
一方、トリクロロエチレンのアセトニトリル溶液を調製し、右側のパートに10μLを添加した。左側のパートには、同量のアセトニトリルを添加し、トリクロロエチレンを添加する毎に膜電位の変化を調べた。なお、攪拌装置からの電気的ノイズおよび物理的振動の影響を避けるため、測定液の攪拌は行なわなかった。
トリクロロエチレン(最終濃度:5ppm)の測定結果の一例を、図6に示す。本実験においては脂質として5%モノオレインを用い、測定は全て室温で行なった。
図6の結果から明らかなように、トリクロロエチレン溶液を添加すると、膜電位は直ちに減少して最小値に達した後、徐々に増加して一定の膜電位になる。初期の膜電位と比較すると約1mVの減少に相当する。この場合、繰り返してトリクロロエチレンを添加すると、添加の回数、すなわちトリクロロエチレン濃度の増大に伴って、平衡電位が徐々に低下することも明らかになった。
しかしながら、4回目の添加では、膜電位の変化はほとんど観測されず、しかも、4回目添加後には膜が破壊した。なお、膜電位の絶対値の変化が重要であり、極性(+側あるいは−側)の変化は使用する電極の特性に依存するので、あまり重要ではないものと推測された。
以上から、モノオレインという単一の脂質膜で、有害物質としてのトリクロロエチレンに対して膜電位応答を示すことが明らかになり、脂質膜を利用する有害物質バイオセンサ(脂質膜センサ)の基本原理が確認できたということができる。
(参考例)
単一の貫通孔を有する基板を用いた図5に示した脂質膜センサを用いて、cis−1,2−ジクロロエチレン(DCE)を実際に測定した。その結果を図4のグラフに示す。
本デバイスを使用して、最終濃度50ppbオーダーでもDCEが測定できることが明らかになった。その後の検討の結果、孔径を0.1mmにすることにより、10ppbオーダーまで測定可能であることが示された。しかしながら、図4では示されていないが、4回目のDCE注入前に脂質膜は破壊されてしまい、物理的な振動などに対して非常に脆弱であることが明らかになった。
以上の結果から明らかなように、従来の脂質(二分子)膜センサにおいては、水中に脂質(二分子)膜が単独で存在していたために、液や外部の物理的振動(送液ポンプの脈動などを含む)を拾い易い。そのため、脂質(二分子)膜の揺らぎに伴う大きな電気的ノイズが発生し、かつ物理的振動に伴って膜が破壊されてしまうことも多かったのである。
本発明の脂質膜センサの一例を表わす概念図。 本発明の貫通孔を有する基板の一例を示す模式図。 本発明の貫通孔を有する基板の他の一例を示す模式図。 本発明の一実施形態にかかる脂質膜センサ装置を示す断面図。 本発明の他の実施形態にかかる脂質膜センサを示す斜視図。 膜電位応答例を表わすグラフ図。 膜電位応答例を表わすグラフ図。
符号の説明
11…測定用セル;
12…基板;
13…脂質膜;
14…電解液(食塩水)
15…Ag/AgCl電極;
16…エレクトロメータ;
17…記録計
21…基板
23…貫通孔
24…テーパ
25…基板底部
31…硬質ポリマー板材
32…硬質ポリマーフィルム
41…容器
42…電解液
43…参照電極
44…参照電極
45…電解液排出口
46…電解液注入口
51…測定用セル;
52…テフロン(登録商標)(登録商標)被覆ニッケル基板
53…脂質二分子膜;
59…吐出部;
60…貯留槽;
55…Ag/AgCl電極
58…コントローラ

Claims (4)

  1. 水中の物質を検出する脂質膜センサであって、表面および裏面を有し、前記表面から前記裏面に達する複数の貫通孔が設けられた基板と、前記基板の前記貫通孔内に配置され、前記物質と相互作用を示す脂質膜と、脂質膜の前記相互作用の情報を獲得する参照電極および脂質膜と電極間に充填した適当な電解液とを具備することを特徴とする脂質膜センサ。
  2. 前記貫通孔は、1×10〜3×10個/cmの密度で前記基板に存在していることを特徴とする請求項1に記載の脂質膜センサ。
  3. 上記脂質膜センサにおいて、脂質膜の安定性指標Sm(単位:CP)が0.5以上であることを特徴とする請求項2に記載の脂質膜センサ。
    ここで、脂質液の粘度をρ(単位:CP)、基板の貫通部分の厚さをt(単位:μm)、また、基板の貫通孔の直径をr(単位:μm)とした場合、Smは次式で表されるものとする。
    Sm=ρ・t/r
  4. 前記脂質膜センサにおいて、前記基板に作製された前記貫通孔の開口総面積が2×10−8〜4×10−7mmの範囲であり、かつ基板の厚さは10〜100μmであることを特徴とする請求項2に記載の脂質膜センサ。

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