発明の概要
本発明は、何百とまではいかなくても何十もの遺伝子の発現差異を含む、複数の複雑な過程が最適な組織修復および再構成に必要であるという前提に基づく。この概念に基づき、本発明は、創傷および病変の最適な修復は、単一のタンパク質、またはコード産物がそのような過程に関連することが公知の単一の遺伝子の投与により達成できず、組織回復過程が複雑なため、関連するタンパク質または遺伝子の組み合わせの投与によっても達成できないことに従う。本発明はある前駆細胞、例えば組織特異的前駆細胞の、時間および濃度依存性の協調的なおよび適当なシーケンスで、組織回復に関連する様々な因子、例えば成長因子およびサイトカインを分泌する能力に期待したものである。
本発明は、生分解性ポリマーまたはヒドロゲルに、同種または自家前駆細胞、そのような前駆細胞由来の馴化培地、またはそれらの組み合わせを負荷することができ、修復に組織の再構成および回復が必要な病変で自家自然治癒細胞を補充するおよび/または保持するために使用することができる。組織回復は、複数の損傷した細胞型が置換され、処置された組織に組織構築および機能を回復させる過程である。前駆細胞は、本発明の創傷包帯および装置コーティング中の生分解性ポリマーおよび/またはヒドロゲルにより保護され、増殖培地で養育され、送達される。
したがって、1つの態様では、本発明は、幹細胞、組織特異的前駆細胞、胚葉系列幹細胞、および多能性幹細胞から選択される少なくとも1つの前駆細胞、そのような細胞から得られた馴化培地、およびそれらの組み合わせを生分解性ポリマーまたはヒドロゲル中に分散させた生物活性創傷包帯を提供する。
別の態様では、本発明は、病変部位を本発明の創傷包帯と、病変部位の組織の回復を促進するのに適した条件下で接触させることにより、哺乳類被験体における病変部位での組織の回復を促進するための方法を提供し、ここで、創傷包帯は、生分解性ポリマーまたはヒドロゲル中に分散させた、幹細胞、組織特異的前駆細胞、胚葉系列幹細胞、および多能性幹細胞から選択される少なくとも1つの前駆細胞、そのような細胞から得られた馴化培地、およびそれらの組み合わせを含む。
さらに別の態様では、本発明は、移植可能な医療機器の少なくとも一部をコートするためのポリマーコーティングを提供する。本発明のポリマーコーティングは、移植部位での組織回復を増強させるために、その中に、幹細胞、組織特異的前駆細胞、胚葉系列幹細胞、および多能性幹細胞から選択される少なくとも1つの前駆細胞、そのような細胞から得られた馴化培地、およびそれらの組み合わせが分散されている生分解ポリマーを含む。使用した生分解性ポリマーは構造式(I)により記述される化学構造を有するPEAであり:
式中、nは約5〜約150の範囲であり、mは約0.1〜約0.9の範囲であり;pは約0.9〜約0.1の範囲であり;式中、R
1は(C
2〜C
20)アルキレンまたは(C
2〜C
20)アルケニレンからなる群より選択され;R
2は水素または(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルまたはt-ブチルまたは他の保護基であり;R
3は水素、(C
1〜C
6)アルキル、(C
2〜C
6)アルケニル、(C
2〜C
6)アルキニルおよび(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルからなる群より選択され;ならびに、R
4は下記からなる群より選択され:(C
2〜C
20)アルキレン、(C
2〜C
20)アルケニレンまたはアルキルオキシ、および一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環フラグメント:
ただし、構造式(I)の化学構造を有する不飽和ポリマーでは、R
1およびR
4は(C
2〜C
20)アルキレンおよび(C
2〜C
20)アルケニレンから選択され;ここで、R
1およびR
4の少なくとも1つは(C
2〜C
20)アルケニレンであり;nは約5〜約150であり;各R
2は独立して水素、または(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルであり;および各R
3は独立して水素、(C
1〜C
6)アルキル、(C
2〜C
6)アルケニル、(C
2〜C
6)アルキニルまたは(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルであることを除き、
または構造式(III)により記述される化学式を有するPEURであり:
式中、nは約5〜約150の範囲であり、mは約0.1〜約0.9の範囲であり;pは約0.9〜約0.1の範囲であり;式中、R
2は水素または(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルまたはt-ブチルまたは他の保護基であり;R
3は水素、(C
1〜C
6)アルキル、(C
2〜C
6)アルケニル、(C
2〜C
6)アルキニルおよび(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルからなる群より選択され;ならびに、R
4は下記からなる群より選択され:(C
2〜C
20)アルキレン、(C
2〜C
20)アルケニレンまたはアルキルオキシ、および一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環フラグメント;ならびに、R
6は独立して下記から選択され:(C
2〜C
20)アルキレン、(C
2〜C
20)アルケニレンまたはアルキルオキシ、および一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環フラグメント、
ただし、構造式(II)の化学構造を有する不飽和ポリマーでは、R
6およびR
4は(C
2〜C
20)アルキレンおよび(C
2〜C
20)アルケニレンから選択され;ここで、R
6およびR
4の少なくとも1つは(C
2〜C
20)アルケニレンであることを除き;
ここで、創傷包帯は、機器が被験体に移植された部位でインビボ組織修復または再構成を促進する。
発明の詳細な説明
1つの局面では、本発明は、生分解性の生物活性ポリマーまたはヒドロゲルを使用して創傷部位での内因性組織回復過程を促進する創傷包帯、移植可能な組成物、および医療機器用コーティングを作製することができるという知見に基づく。ポリマーまたはヒドロゲルマトリクスに分散させた同種または自家前駆細胞は、組織回復を促進する因子およびサイトカインの混合物との相互作用およびそれらの周囲組織への分泌により、創傷部位で内因性治癒過程を促進する。さらに、ポリマーには、前駆細胞をポリマーマトリクス内で引きつけるもしくは保持する、または創傷、例えば慢性創傷における自然治癒過程を促進する様々な生物活性剤を負荷することができる。ヒドロゲルまたはポリマーは時間経過に伴い生分解するので、放出された生物活性剤は、創傷もしくは病変部位の標的細胞中に吸収され細胞内で作用することができ、または細胞受容体分子に結合し、細胞内に入らずに細胞応答を引き起こすことができる。選択したポリマーまたはヒドロゲルの生分解速度によっては、任意で移植可能である本発明の創傷包帯の組織再構成特性がポリマーの生分解前であっても起き始める。
胚組織における幹細胞
一般に、ヒト組織の再生能力は非常に限られる。しかしながら、胚由来の幹細胞は全ての成体組織を形成する能力を有する。胚幹細胞を培養し、安定した多能性細胞群およびその関連する馴化培地の両方を生成させることができる。
成体組織中の幹細胞
胚幹細胞培養物の開発以来、「幹細胞」は多くの成体組織中に存在することが見出されている。実際、これらの広く標識された成体の「幹細胞」はより正確に、組織特異的前駆細胞、胚葉系列幹細胞、および多能性幹細胞を含む複数の細胞群から構成される「前駆細胞」と記述されるべきである。
組織特異的前駆細胞は単分化能(単一の細胞型を形成)から多分化能(複数の細胞型を形成)にわたる様々な分化能力を示す。
胚葉系列幹細胞は前駆細胞よりも広い範囲の細胞型を形成することができる。個々の胚葉系列幹細胞は、その個々の胚葉系列(すなわち、外胚葉、中胚葉または内胚葉)内の全ての細胞型を形成することができる。多能性幹細胞は単一胚葉系列幹細胞よりも広い範囲の細胞型を形成することができる。単一の多能性幹細胞は、3つの胚葉系列全てに属する細胞を形成することができる。このように、多能性幹細胞は、自己再生し、および分化し成体組織を再生するクローン細胞である。
胚葉系列幹細胞および多能性幹細胞はどちらも、前駆細胞の限られた寿命を大幅に上回る、拡大された自己再生能力を有する。
様々なカテゴリーの組織創傷および病変、ならびにそのような部位での関連組織の修復および回復を促進するのに適していることが認識された関連前駆細胞の型について記述する。本発明によれば、示した型の前駆細胞、またはそれらの馴化培地を含む創傷包帯を使用し、示した組織病変部位での組織再構成を促進することができる。
成体組織における幹細胞−骨髄由来
成体骨髄由来の前駆細胞は、従来、分化能力が制限された組織特異的細胞であると考えられている。しかしながら、最近の知見では、適当なサイトカイン分子の影響下では、そのような骨髄由来前駆細胞は実際には、様々な異なる系列の細胞を再生する潜在能力を有することが証明されている。このように、骨髄内には、身体全体の組織を再生および修復することができる共通の相互交換可能な前駆細胞が存在している可能性があるという仮定が、今日までに数例において確認されている。この結果から、様々な身体部位での治療的組織修復および再生のための細胞および馴化培地の源として骨髄由来肝細胞を使用するという可能性が発生した。
内皮および関連組織
骨髄由来内皮前駆細胞:成体血管新生
出生後血管新生は、血管形成に限定されず、脈管形成も含む。造血系では、幹細胞および前駆細胞プール中の長期自己再生細胞のみが骨髄の造血幹細胞である。血管外傷および/または組織虚血に応答して、成体の脈管形成中、骨髄幹細胞プール由来の内皮前駆細胞(EPC)は、体循環に補充される。これらの前駆細胞から、動脈、静脈およびリンパ内皮への内皮細胞成熟および分化が起こり、血管修復または形成のいずれかに至る。
上皮
目の幹細胞
角膜縁幹細胞は、角膜上皮の維持のために不可欠であり、これらの細胞は現在、ひどく損傷した角膜の修復のために臨床的に使用されている。
歯の発生および修復
将来の治療は、連続して成長する歯、例えば、成体における埋伏智歯における歯科上皮幹細胞の知見に基づく可能性がある。
肺形態形成および損傷修復
肺の発生、および肺における上皮損傷修復は、肺内の幹/前駆細胞の機能を同時制御すると考えられる刺激遺伝子対阻害遺伝子の間の微妙なバランスにより厳重に調整される。本発明の移植可能な組成物において活性化肺幹/前駆細胞を使用すると、難治性肺動脈弁閉鎖不全を有する子供および成体の両方において、肺損傷の寛解を支援し、肺の修復を増大させ、および/または肺の再生を誘導する可能性がある。
成人女性乳房上皮における腺性系統および筋上皮系統の前駆細胞
表現型的および挙動的には、ヒト乳房上皮の前駆(関係した成体幹)細胞は、様々な中間細胞を介して腺性または筋上皮細胞のいずれかに分化する可能性を有しており、そのような組織における病変部位の組織回復のために本発明の移植可能な組成物で使用されてもよい。
結合組織および骨格組織
骨生物学および応用骨再生における間葉系幹細胞
骨髄は骨、軟骨、筋肉、腱、および他の結合組織に分化することができる希な前駆細胞の群を含む。これらの細胞は、間葉系幹細胞(MSC)と呼ばれ、骨、軟骨、筋肉、腱、および他の結合組織における組織の再編成を増強させるために本発明の方法および装置において使用することができる。
筋肉
心筋
心筋前駆細胞は、成体の心臓では筋細胞の再生は起こりえないという定説を打破した。最も重要なことに、原始および前駆細胞がヒトの心臓で識別されている。損傷した心臓における心筋細胞の増殖では、骨髄由来幹細胞を使用すると、心血管組織工学、例えば心臓弁、血管および心筋と関連する本発明の装置および組成物において有益な細胞に対するより侵襲性の低い供給源が提供される。さらに、初期胚細胞を心筋系統に補充することができ、心臓組織回復におけるそのような目的のために使用することができる。
骨
理想的には、骨格再構築は、前駆細胞活性の開始の結果から得られる正常組織の再生に依存する。基本的な要件には、細胞付着および細胞機能の維持につながる足場、ならびに前駆細胞の豊富な供給源が含まれる。後者の点については、骨は特別な場合であり、幹細胞特性を有する細胞からの再生に対し大きな可能性が存在する。骨芽細胞、軟骨芽細胞、脂肪芽細胞、筋芽細胞および線維芽細胞の発生は、そのような単一の細胞由来のコロニーから得られることが示されている。原理的には、これらの前駆細胞を、全ての組織の再生のための本発明の移植可能な創傷治癒組成物において使用してもよく、これらの様々な細胞は下記を含む:骨、軟骨、脂肪、筋肉、腱、および靱帯。
特に、骨折の修復には必然的に、未分化骨軟骨前駆細胞の成熟骨芽細胞および軟骨細胞への変換を必要とする骨組織の合成が必要である。血球新生のために記述した系統に匹敵する系統を有する、一生骨髄中に存在する、全ての間葉組織に対する幹細胞あることが提案されている。骨髄由来および骨膜由来の前駆細胞は、多くのインビボおよびインビトロ研究において骨および軟骨を生成することが示されている。例えば、軟骨形成のインビトロ研究では、骨髄由来の前駆細胞は、それらの最終表現型、肥大軟骨細胞に分化することが示された。
関節軟骨の修復
損傷または病変軟骨を治癒させる自然修復機構は存在しない。しかしながら、肋軟骨下骨を含む全層欠陥は、骨髄由来のまたは移植した軟骨膜または骨膜由来の多能性前駆細胞を使用すると修復させることができる。線維軟骨修復機構は、骨髄から得られる間葉系細胞の増殖および分化により媒介されると考えられる。軟骨膜などの生体移植片を使用して全層欠陥を修復させることに成功しており、これはおそらく、軟骨膜の移植片が、軟骨芽細胞などに分化することができる前駆細胞を含むからである。
幹細胞および組織工学:歯科診療における組織再生のための見通し
前駆細胞からの歯および骨の発生を調節する特異的なシグナル分子が識別されている。この情報はすでに、インビトロおよびインビボでの歯槽組織の生成のために使用されている。将来の開発は、患者において新規エナメル質、象牙質、歯根膜、骨、または新しい歯全てを成長させることである。歯周組織の再生の可能性は、欠陥形態および「前駆細胞」の有効性に大きく依存することが証明されている。
靭帯および腱治癒の組織工学
靭帯および腱は、正常な関節の動きおよび安定性を媒介する高密度結合組織バンドである。間葉系前駆細胞を多能性細胞源として治癒環境に導入して、靭帯および腱に対する損傷を回復させることができる。
内耳における有毛細胞再生
内耳有毛細胞の喪失により引き起こされる聴覚障害および平衡障害は、耳鼻科-頭部および頸部手術において遭遇する一般的な問題である。現在の研究は、新規有毛細胞の前駆細胞源および有毛細胞再生の誘発の一因となるトリガー機構に焦点が当てられている。
神経細胞
脳の修復:神経発生およびグリア発生
神経幹細胞(NSC)は、損傷した神経系の修復において著しい能力を有することが認められている。しかしながら、NSCの分子アイデンティティは完全には確立されていない。ほとんどのNSC培養物は、多くの多能性、両能性、および系統制限神経前駆細胞を含み、それらのほとんどが、増殖後神経発生能を喪失すると考えられる。このように、単一NSCは、神経細胞、星状細胞、およびオリゴデンドロサイトを含む中枢神経(CNS)内の様々な種類の細胞を生成することができる。これらの特性のため、損傷した脳における治療的適用のために、NSCおよび神経前駆細胞への関心が増大している。
神経前駆細胞の研究における大きな進歩により、移植した前駆細胞を用いた損傷神経系の修復への合理的なアプローチが得られた。
網膜における神経保護および再生におけるミューラーグリア細胞の役割
脊椎動物の網膜は、胚発生における神経管からの対外反に由来し、中枢神経系の別の領域の神経細胞およびグリアを生成する前駆細胞と同様の前駆細胞により最初に生成される。グリア細胞は、神経細胞を様々な神経障害から保護すると考えられる。網膜に損傷があると、網膜中の主要なグリア要素であるミューラー細胞が、著しい形態、細胞および分子変化を受ける。ミューラー細胞は内皮細胞に接触し、低酸素条件中の血管新生過程を促進する。最近の研究は、損傷後の網膜再生におけるミューラー細胞の役割、前駆細胞への脱分化および異なる神経細胞型の発生に向けられている。
脳卒中後の増強した神経発生
神経前駆細胞の増殖、移動および成熟は虚血により影響を受ける。脳中に存在する神経前駆細胞は、脳卒中に対する代償性反応を開始させ、これにより新しい神経細胞が生成するという有力な証拠が存在する。成体脳への傷害後の神経自己修復の証拠は、最近になるまで十分ではなかった。虚血性傷害は現在では、歯状顆粒下帯、側脳室の内側にある脳室下帯、および海馬に隣接する脳室後周囲に存在する神経幹細胞または前駆細胞からの神経発生を誘発することが示されている(K.S. Aboody et al. PNAS (2002)97(23):12846-12851およびR-L. Zhao, Experimental Neurology (2002)174(1):11-20を参照されたい)。
嗅神経鞘細胞:損傷した脊髄を修復するための潜在的使用
脊髄内移植片(例えば、胎児神経細胞、前駆幹細胞、および嗅神経鞘細胞)を使用して、脊髄内回路を回復させ、または損傷軸索に対する「ブリッジ」として機能させた。鼻の嗅固有層由来の嗅神経鞘細胞(EC)は損傷した脊髄における下行路および上行路を「架橋する」ための最も良好な移植片の1つである。特に、培養ECにおける成長因子発現アッセイ法により、ECは神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養学因子(BDNF)およびグリア細胞系由来神経栄養因子(GDEF)を発現することが示されている。ELISAから、NGFおよびBDNFの細胞内の存在が確認され、BENFに比べ、約7倍のNGFがECにより分泌されたことが確認された。RT-PCR解析により、NGF、BDNF、GDNFおよびニュールツリン(NTN)に対するmRNAの発現が証明されている。さらに、ECはまた、受容体trkB、GFRα-1およびGFRα-2を発現した。このように、ECは多くの成長因子を発現し、特にそのBDNFはパラクリンおよび自己分泌様式の両方で作用することができる(E. Woodhall et al., Brain Res Mol Brain Res. (2001)88(1-2):203-13)。
脱髄中の神経幹/前駆細胞:多発性硬化症における修復機構
近年、成体哺乳類中枢神経系(CNS)は、未成熟な、未分化多能細胞として記述されている神経幹細胞(NSC)群を含み、これらは神経変性疾患および脱髄疾患における修復のために補充される可能性がある。これらのNSCは、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)および他のミエリン形成細胞を生じさせる可能性がある。
ミエリン形成OPCは多発性硬化症において分化することができないので、この成熟に関連する分子の新しい知識は、脱髄疾患、例えば多発性硬化症の将来の幹細胞に基づく治療の設計に役立つ可能性がある。実験研究により、移植された新生児OPCは内因性OPCよりもずっと効率的にMSの脱髄特性の広い領域を再配置できることが示される。
脊髄損傷からの回復の促進
損傷した軸索の再ミエリン化のための胚性幹細胞の移植が、提案されており、ある国では臨床試験中である。ヒト神経幹細胞は損傷細胞と置き換わることができ、脊髄損傷のマウスモデルでは機能を改善させることができる。ヒト神経幹細胞をマウスの脊髄挫傷部位に注入すると、ヒト細胞は生存し、損傷したマウス骨髄内で十分生着し、細胞は移植後17週間存続した。注入した神経幹細胞は神経細胞に分化し、神経細胞間にシナプスが形成された。そのように処置されたマウスは、生着後16週で協調歩行運動機能および足踏み能力を回復する証拠を示した(B.J. Cummings, PNAS (2005) Online edition September 19, 2005)。
内臓
肝臓再生および修復
肝細胞のための幹細胞および前駆細胞が数年の間に公知になっている。また、治療要求のための細胞の非生理学的供給源は、生理学的修復過程に関与するものに限定されない。代替物としては、他の成体個体群、例えば骨髄ストローマ細胞、胎児肝臓組織、または胚性幹細胞のエクスビボ分化由来の幹細胞が挙げられる。単離、培養および拡大させたエクスビボ胎児肝芽腫および胎児肝細胞を最初に研究した。これらの細胞はすでに肝系列に関係づけられ、肝芽腫の場合双方向的であり(すなわち、胆管細胞および肝細胞の両方に向かって)、および胎児肝細胞の場合肝細胞に関係づけられていたと仮定された。マウス胚性肝(ES)細胞の成熟肝細胞への分化は現在では多くのグループによりすでに証明されている。
そのような手順から実際の利益を示す可能性が最も高い疾患は、原発性肝疾患、または肝外症状が異常な遺伝子発現または肝臓による欠陥タンパク質産生により生じる疾患を含む(ウィルソン病、α-1-アンチトリプシン欠乏症、1型チロシン血症、高リピドーシス、およびポルフィリン症、代謝欠陥、例えば、クリグラー・ナジャー症候群、家族性高コレステロール血症およびアミロイドーシス、シュウ酸症および血友病、第IX因子欠乏のような凝固欠陥)。後天性肝疾患、特に毒性またはウイルス傷害に続発する急性不全が、限定された臨床試験で胎児および成体肝細胞を用いて治療されている。ドナー臓器が入手されるまで患者を生存させる場合のこれらの治療の効率は有望であり、肝性脳症および脳灌流圧などの臨床的測定値が改善される(S. Sell, Cancer Research (1990), 50(13):3811-3815)。
腎臓再生および修復
腎臓幹細胞および前駆細胞が存在する。
成体膵臓における前駆細胞:ある糖尿病
成体膵臓におけるβ細胞集団は、損傷後、限定された再生を受ける能力を有する。膵臓β細胞置換は、1型およびインスリン要求2型糖尿病患者の治療のための魅力的なアプローチを示す。この過程に関与する前駆細胞を識別し、それらの成熟に至る機構を理解すると、新しい治療の機会が得られると考えられる。
この見通しは現在、ドナー細胞の利用性が限定されているため制限される。可逆的不死化によるβ細胞増殖ならびに胚性および成体組織前駆細胞からの分化によるβ細胞の発生を含む最近の開発により、培養されたヒトβ細胞の豊富な供給源が提供される可能性がある。そのような細胞は、遺伝的に修飾することができ、および半透過性膜中にカプセル化することができ、β細胞変性作用物質(2型糖尿病)および再発性自己免疫(1型糖尿病)に対する耐性が増大する。
自己免疫疾患
関節リウマチのための高用量化学療法および自家造血幹細胞移植
激しい免疫抑制および自家造血幹細胞移植(SCT)が関連する新規治療アプローチが、関節リウマチ(RA)を含む重篤な不応型リウマチ性自己免疫疾患の治療のために、ここ数年登場している。この戦略の理論的根拠は、再注入した造血前駆細胞由来の未処理Tリンパ球のその後の再生を伴う激しい免疫抑制による免疫消失(immunoablation)の概念に基づく。
1つの局面では、本発明は、下記を備える創傷包帯およびインプラントを記述する:
(a)生体吸収性ヒドロゲルまたはポリマー(ポリマー、コポリマーまたはポリマー合金)担体、これに(b)が分散され、混合され、溶解され、ホモジナイズされ、および/または共有結合される(「分散される」)、
(b)数日、数週間または数ヶ月にわたり自然創傷治癒過程を促進するのに効果的な、少なくとも1つの同種または自家前駆細胞、そのような細胞から生成した馴化培地、またはそれらの組み合わせ。本発明の発明創傷包帯およびインプラントは、前駆細胞または馴化培地および他の生物活性剤を含むポリマーマトリクスを、ポリマー技術プロセス法により形成させることができる任意の形態とすることができる。
実験的証拠から、組織再構成治療が必要な患者の最も大きなコホートを示す高齢者では、組織再構成が損なわれることが示唆される。そのため、組織再構成を損なう年齢関連性因子はまた、高齢患者から回収され、創傷または病変に送達される自家前駆細胞、例えば、様々な型の前駆細胞の活性も損なう。
これらの欠点は、本発明の方法によれば、そのような患者に、若く健康な個体から得られた、単離した同種前駆細胞を培養し、それらから細胞を除去するように馴化培地を処理し、無細胞馴化培地を得ることにより調製した無細胞馴化培地を投与することにより克服することができる。
例えば、無細胞馴化培地を自家または同種骨髄のいずれかから調製する場合、骨髄を、増殖培地に置く前に、任意で濾過し、約300μ〜約200μより大きな粒子を除去することができる。骨髄細胞はまた、前駆細胞の生成に至る増殖のために濾過したABMから分離することができる。通常、骨髄細胞から、少数の細胞しか有さず、そのうち、1つまたは少数は前駆細胞である、組成物に移動させるのに必要な増殖時間は約7〜10日である。骨髄由来前駆細胞は単離することができ、さらに、適した増殖培地で適した期間、例えば、約24時間、増殖させることができ、細胞は、増殖培地中にサイトカイン、他の因子などの混合物を分泌することができる。サイトカイン、因子などの混合物を含む馴化培地は、細胞を除去するために選択したフィルタを通して収集され、実質的に細胞が除去されるように処理され、無細胞培地が生成する。両細胞増殖段階に適した培養条件は当技術分野において周知である。前駆細胞が他の組織由来である場合、同様の(しかし、必ずしも同一ではない)方法を使用することができる。
自家または同種前駆細胞、例えば、限定されないが骨髄由来のものインビトロ増殖由来の無細胞培地を、自己骨髄から得られた細胞培養物における増殖由来の馴化培地の代わりに使用して、患者の組織に、組織修復に関与する前駆細胞から分泌された多くの血管新生因子を送達させることができる。本発明の無細胞培地は、単離した同種または自家前駆細胞を適した条件下で、前駆細胞が混合分泌産物を馴化培地に分泌するのに十分な時間培養することにより生成される。その後、馴化培地を処理して、混合分泌産物を含む無細胞培地を得る。赤血球のみがタイプされ、適性検査される輸血のためのドナー血液の調製のように、投与される別の細胞、および血漿はタイプされずに投与される。これらの生成物のいずれに対しても重篤なアレルギー反応の発生率は非常に低い。同種または自家供給源の細胞由来の無細胞調製培地は、様々なドナーから得られた血清または血漿と同じくらいアレルゲンを含まないと考えることができる。
無細胞培地中に残ったサイトカインは、タンパク質のサイズと比べると比較的小さな分子であり、そのため、哺乳類の身体が非自己であると認識し、免疫応答に至る特徴が欠如している。細胞とサイトカインとの間のサイズの差のため、増殖培地を濾過することにより、または、例えば10k x gで5分間、遠心分離することにより、増殖培地から細胞を除去し無細胞培地を得るのに好都合である。無細胞培地を、例えば凍結または凍結乾燥によりさらに処理し、小さな容器に入れ、取り扱い、貯蔵および流通を好都合なものとしてもよい。当業者であれば、凍結または凍結乾燥無細胞培地は、滅菌水、生理食塩水などの流体を添加することにより、患者に投与するための別の型の血液細胞および血液製剤を調製するために適した当技術分野で公知の技術を使用することにより、使用するために容易に再構築されることを理解するであろう。
骨髄(BM)は、血管新生過程の制御に関連する広範囲のサイトカイン(例えば、成長因子)、様々な因子および細胞(本明細書では便宜上、集合的に「混合分泌産物」と呼ばれる)の自然源である。そのため、自己(A)BMまたはそれに由来する骨髄細胞の心筋内注入は、これらの細胞の適当な時間様式で多くの血管新生因子を分泌することができる能力を利用することにより、虚血心筋における側副路発達を達成するための最適介入を提供すると考えられる。
馴化培地が無細胞であるように調製されない場合、例えば、前駆細胞が自家である場合、濾過工程は省略される。また、さらに、単離した前駆細胞は、生きたまま、適した増殖培地中でヒドロゲルまたはポリマーマトリクス中に負荷させることができ、本発明の創傷包帯は、細胞により混合分泌産物のインサイチュー産生を可能とする組織回復を必要とする部位に配置することができ、その間、細胞はポリマーまたはヒドロゲルマトリクス内で捕捉される。いずれにしても、前駆細胞は、存在すれば、創傷包帯またはコート装置が配置された後一時的にのみ、周囲の組織と相互作用し適した分泌産物を生じさせ、または内因性組織再構築過程を開始させるのに十分長い時間のみ、生存し続ける必要がある。この治療効果が起きるのに必要な時間の正確な期間は、使用した前駆細胞の型および、本発明の創傷包帯またはコート装置が配置される周囲組織の型によって異なる。しかしながら、一般に、前駆細胞のインサイチュー寿命は10時間〜10日の範囲である。
本明細書で使用されるように、「有効量の」前駆細胞または混合前駆細胞-分泌産物を含む馴化培地は、創傷または病変部位での組織再構成の進行を刺激するのに十分な量を意味する。任意の特別な患者に対する有効量は、内科医が、患者の全体的な健康および年齢、治療する状態の重篤度、体重などを考慮して決定する。
前駆細胞により増殖培地中に分泌される分泌産物混合物は組織回復に影響を与え、促進することができるという知見により、本明細書で記述されるように、単離した自家または同種前駆細胞から得られた馴化培地は自家前駆細胞の代わりに使用することができ、組織回復効果が発生する。さらに、同種ドナーにより提供される前駆細胞を使用して、治療的馴化培地を生成させる利点はいくつかある。第1に、虚血または高齢患者は、例えば、骨髄から得ることができる自家前駆細胞を得るために麻酔を受ける必要がない。若くて健康なドナーは、より活発な前駆細胞を産生し、このため、同種細胞または、とりわけ、同種前駆細胞により生成された無細胞馴化培地を使用すると、本発明の創傷包帯または組成物において使用される細胞を獲得する患者への外傷が減少する。さらに、創傷治癒組成物を前もって生成させ、レシピエント患者による即時利用のために貯蔵することができる。例えば、同種細胞由来の無細胞馴化培地を含む創傷包帯組成物を凍結させ、貯蔵に順応させることができる。また、無細胞馴化培地は、本明細書で記述されるように調製され、貯蔵のために凍結または凍結乾燥され、その後、注入のために、または使用時に本発明のポリマーまたはヒドロゲル包帯中に「負荷」するために再構築される。
1つの態様では、本発明は、体内部位に移植するように設計され、分散された前駆細胞、馴化培地、創傷治癒薬または生物活性剤をかなりの期間、例えば、24時間、約7日、約30日、約90日、および約120日にわたり放出する生体吸収ポリマーの少なくとも1つの層を備える、生物活性創傷包帯または装置コーティングを提供する。本明細書で記述されるように、架橋ポリ(エステルアミド)、ポリカプロラクトン、またはポリ(エステルウレタン)をこの目的のために使用することができ、そのため、創傷包帯は完全に生体吸収性である。この場合、時間と共に、創傷包帯は、自然の酵素反応により、ポリマーの選択に依存する制御した速度で、再吸収され、細胞再構築によりその天然の機能が再開する。このように、前駆細胞または前駆細胞から得られた馴化培地が、哺乳類被験体、例えばヒトで見られる酵素によるポリマー担体の生分解の結果、インサイチューで放出される。
本発明の創傷包帯および移植可能な組成物はまた、様々な哺乳類患者、例えばペット(例えば、ネコ、イヌ、ウサギ、フェレット)、家畜(例えば、ブタ、ウマ、ラバ、乳牛および肉牛)ならびに競走馬における創傷および病変の動物治療における使用を対象とする。
本発明の創傷包帯および移植可能な組成物で使用される生分解性ポリマー中へ分散され、それらから放出される好ましい追加の生物活性剤としては、抗増殖剤、ラパマイシンおよびその任意の類似体または誘導体、パクリタキセルまたは任意のそのタキセン類似体または誘導体、エベロリムス、シロリムス、タクロリムス、または任意のそのリムス命名の薬剤ファミリー、ならびにスタチン、例えばシムバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、ロスバスタチン、ゲルダナマイシン、例えば17AAG(17-アリルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン);エポチロン(Epothilone)Dおよび他のエポチロン、17-ジメチルアミノエチルアミノ-17-デメトキシ-ゲルダナマイシンならびに熱ショックタンパク質90(HSp90)の他のポリケチド阻害剤、シロスタゾールなどが挙げられる。
本明細書で使用されるように、本発明の創傷包帯、移植可能な組成物および装置コーティングにおいて使用されるポリマーおよびヒドロゲルを記述するために使用される「生分解性」は、身体の正常な機能において無害の、生物活性産物に分解できることである。1つの態様では、創傷包帯または装置コーティング全体が生分解性である。好ましい生分解性、生物活性ポリマーは、生分解性を提供する加水分解可能なエステル架橋を有し、典型的には鎖が主にアミノ基により終了する。
本明細書で使用されるように、「分散された」という用語は、本明細書で開示したように創傷治癒薬もしくは薬物混合物および/または1つもしくは複数の生物活性剤が、ポリマーまたはヒドロゲル中に、分散、混合、溶解、ホモジナイズ、および/または共有結合されている(「分散された」)ことを意味する。
本発明の実施で使用するのに適したポリマーは、生物活性剤をポリマーに容易に共有結合させることができる官能性を有することができる。例えば、カルボキシル基を有するポリマーは、アミノ部分を有する生物活性剤と容易に反応することができ、これにより、得られたアミド基を介して、生物活性剤がポリマーに共有結合される。本明細書で記述されるように、生分解性、生物活性ポリマーおよび生物活性剤は、生物活性剤を生分解性生物活性ポリマーに共有結合させるのに使用することができる多くの相補的な官能基を含むことができる。
本発明の創傷包帯または装置コーティングを作製するのに使用されるポリマーはまた、本明細書で記述されるように製剤中に存在するか否かに関わらず、本明細書で記述されるように生物活性剤に結合されるか否かに関わらず、および本明細書で記述されるように生物活性剤と混合されるか否かにかかわらず、薬物療法において使用することができる。例えば、ポリマーは、医療機器または、移植可能な医療機器もしく薬物送達装置の少なくとも一部のためのコーティングの製造において使用することができる。そのような移植可能な医療機器としては、例えば、整形外科用インプラント、例えば人工関節、人工骨または脊椎内インプラント;骨ピンおよびプレート、外科用インプラントおよびラップ、移植可能な薬物送達装置、心臓血管医療機器、ステント、シャント、血管形成療法において有益な医療機器、人工心臓弁、人工バイパス、縫合糸、人工動脈、血管送達、モニタリングおよび治療カテーテル、ならびに局所生物活性送達システムのための接着バリヤが挙げられる。
本明細書で使用されるように、「生物活性」という用語は、創傷包帯または装置コーティングが、前駆細胞または馴化培地を創傷または病変部位に十分長い期間保持し、前駆細胞および/またはそのような細胞の増殖から得られた馴化培地を周囲組織と相互作用させ、組織修復過程に影響を与えることにより、一方、その中に含まれるポリマーおよび/またはヒドロゲルの生分解中に前駆細胞または薬物もしくは生物活性剤を徐々に放出することにより、創傷部位または装置インプラント部位での内因性治癒過程で活動する、分散された前駆細胞および/またはそのような細胞由来の馴化培地を有するポリマーを含むことを意味する。さらに、ある態様では、本明細書で開示されたポリマー(すなわち、構造式(I〜VIIIおよびXI)を有するもの)は酵素分解されると生物活性となる可能性があり、細胞を養育する必須アミノ酸が提供され、一方、別の分解産物は、脂肪酸および糖類が代謝されるように代謝される。
本発明の創傷包帯および装置コーティングにおいて使用されるポリマーおよびヒドロゲル内に分散されるように企図された生物活性剤としては、分解中にポリマーまたはヒドロゲルから解放または溶出されると、内皮細胞により内因的に産生される、治療的自然創傷治癒剤、例えば一酸化窒素の体内産生を促進する薬剤が挙げられる。また、分解中にポリマーから放出される生物活性剤は、内皮細胞による自然創傷治癒過程を促進する際に直接活性となる場合がある。これらの生物活性剤は、一酸化窒素を供与、移動、または放出し、一酸化窒素の内在レベルを上昇させ、一酸化窒素の内因的合成を刺激し、または、一酸化窒素シンターゼのための基質として作用する、または平滑筋細胞の増殖を阻害する任意の活性剤とすることができる。そのような薬剤としては、例えば、アミノキシル、フロキサン、ニトロソチオール、ニトレートおよびアントシアニン;アデノシンなどのヌクレオシドならびにアデノシン二リン酸(ADP)およびアデノシン三リン酸(ATP)などのヌクレオチド;神経伝達物質/神経調節物質、例えばアセチルコリンおよび5-ヒドロキシトリプタミン(セロトニン/5-HT);ヒスタミンおよびカテコールアミン、例えばアドレナリンおよびノルアドレナリン;脂質分子、例えばスフィンゴシン-1-リン酸およびリゾホスファチジン酸;アミノ酸、例えばアルギニンおよびリシン;ペプチド、例えばブラジキニン、サブスタンスPおよびカルシウム遺伝子関連ペプチド(CGRP)、ならびにタンパク質、例えばインスリン、血管内皮増殖因子(VEGF)およびトロンビンが挙げられる。
そのような抗体分子に結合し、これによりそれらを捕獲することが知られている、小さなタンパク質性モチーフ、例えば細菌タンパク質AのBドメインおよびタンパク質Gの機能的に等価なドメインは、Fc領域によりポリマーに共有結合させることができ、捕獲抗体として使用するために、抗体を結合させるためのリガンドとして作用し、患者の血流から前駆細胞を保持しまたは細胞を捕獲する。そのため、タンパク質Aまたはタンパク質G機能性領域を用いてポリマーコーティングに結合させることができる抗体の型は、Fc領域を含むものである。捕獲抗体は、次に、ポリマー表面近くで前駆細胞、例えば前駆細胞に結合し、それらを保持し、一方、好ましくはポリマーまたはヒドロゲル内で、増殖培地浴させた前駆細胞は、病変部位で様々な因子を分泌し、被験体の別の細胞と相互作用する。さらに、創傷包帯中に含まれる1つまたは複数の活性剤、例えばブラジキニンは前駆細胞を活性化する場合がある。
例えば、前駆細胞を結合させる、または被験体の血液からPECを捕獲するための生物活性剤は、公知の前駆細胞表面マーカーに対し誘導されるモノクローナル抗体である。例えば、内皮細胞の表面を修飾することが報告されている相補的決定因子(CD)としてはCD31、CD34+、CD34-、CD102、CD105、CD106、CD109、CDw130、CD141、CD142、CD143、CD144、CDw145、CD146、CD147、およびCD166が挙げられる。これらの細胞表面マーカーは、様々な特異性を有することができ、特別な細胞/発生型/段階に対する特異度は、多くの場合完全に特徴づけされていない。さらに、抗体が産生されるこれらの細胞マーカー分子は、(抗体認識の観点から)とりわけ同じ細胞系列の細胞上のCDと重なる:内皮細胞の場合、単球。循環内皮前駆細胞は、しばらく、(骨髄)単球から成熟内皮細胞への発生経路に沿う。CD106、142および144は、いくらかの特異性で成熟内皮細胞をマークすることが報告されている。CD34は現在、前駆内皮細胞に対し特異的であることが知られており、そのため現在では、創傷包帯が移植される部位の血液から前駆内皮細胞を捕獲するのに好ましい。そのような抗体の例としては、単鎖抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体フラグメント、Fabフラグメント、IgA、IgG、IgM、IgD、IgEおよびヒト化抗体が挙げられる。しかしながら、創傷包帯の循環血液への接触は、とりわけ慢性創傷の治療では、最小である可能性があることに注意すべきである。
下記薬物および生物活性剤は、本明細書で記述されるように持続放出生分解性ヒドロゲルまたは生分解性ポリマー、例えば、本明細書の式I〜XIで記述される化学構造を有するものに分散されるかどうかにかかわらず、本発明の創傷包帯を作製する際に使用されるポリマー内に分散させるのに特に効果的である。本発明の創傷包帯、および装置コーティング中に組み入れられる生物活性剤は、前駆細胞の型のように、特別な組織型または治療下の組織部位によって異なる可能性がある。
一般に、適した生物活性剤には、持続放出形態で創傷または病変表面に提供されると、創傷治癒を促進し、または創傷治癒に寄与する様々なクラスの化合物が含まれるが、それらに限定されない。そのような生物活性剤は、前駆細胞以外に、創傷治癒細胞を含み、これらは、本発明の創傷包帯中の生分解性ポリマーおよび/またはヒドロゲルにより保護、養育、送達できる。そのような追加の創傷治癒細胞としては、例えば、周皮細胞および内皮細胞、ならびに炎症治癒細胞が挙げられる。そのような細胞を創傷床または病変部位に補充するために、創傷包帯は、「細胞接着分子」(CAM)に特異的に結合する、そのような細胞のためのリガンド、例えば抗体および小分子リガンドを含むことができる。創傷治癒細胞のための例示的なリガンドとしては、細胞内接着分子(ICAM)、例えばICAM-1(CD54抗原);ICAM-2(CD102抗原);ICAM-3(CD50抗原);ICAM-4(CD242抗原);およびICAM-5;血管細胞接着分子(VCAM)、例えばVCAM-1(CD106抗原)];神経細胞接着分子(NCAM)、例えばNCAM-1(CD56抗原);またはNCAM-2;血小板内皮細胞接着分子PECAM、例えばPECAM-1(CD31抗原);白血球-内皮接着分子(ELAM)、例えばLECAM-1;またはLECAM-2(CD62E抗原)など]に特異的に結合するものが挙げられる。
これらの創傷治癒細胞は、例えば、細胞に適した増殖培地が負荷されたヒドロゲル内に分散させることができる。合成組織移植片、例えば、Apligraf(登録商標)(Novartis)は、糖尿病性慢性創傷の治癒のために特異的に処方されたものであり、本発明の創傷包帯におけるポリマー層への接着により支持することができる。
別の局面では、創傷治癒生物活性剤としては、本発明の創傷包帯またはインプラント中に分散させる、例えば供給結合によりもしくは非共有結合により結合させることができる細胞外マトリクスタンパク質、巨大分子が挙げられる。有益な細胞外マトリクスタンパク質の例としては、例えば、グリコサミノグリカン、通常タンパク質に結合(プロテオグリカン)、および線維状タンパク質(例えば、コラーゲン;エラスチン;フィブロネクチンおよびラミニン)が挙げられる。細胞外タンパク質の生体模倣物もまた使用することができる。これらは通常非ヒトであるが、生体適合性糖タンパク質、例えばアルギネートおよびキチン誘導体である。そのような細胞外基質タンパク質および/またはそれらの生体模倣物の特異フラグメントである創傷治癒ペプチドもまた使用することができる。
タンパク質性成長因子は、本明細書で記述した様々な本発明の創傷包帯中に組み入れるのに適した創傷治癒生物活性剤の別のカテゴリーである。例えば、血小板由来成長因子-BB(PDGF-BB)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、上皮増殖因子(EGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、チモシンB4;ならびに、様々な血管新生因子、例えば血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、腫瘍壊死因子-β(TNF-β)、およびインスリン様増殖因子-1(IGF-1)。これらのタンパク質性成長因子の多くは、市販されており、または当技術分野において周知の技術を用いて組換えで生成させることができる。
また、そのようなタンパク質性成長因子をコードする遺伝子を組み入れるベクター、特にアデノウイルスベクターを含む発現系を、成長因子を創傷床に投与するための本発明の創傷包帯中に分散させることができる。慢性創傷の治療では、成長因子、例えば、VEGF、PDGF、FGF、NGF、および進化的機能関連生体、ならびに血管新生酵素、例えばトロンビンが好ましい。急性創傷の治癒では、細胞補充生体、例えば治療抗体および細胞受容体または受容体リガンド分子、およびそれらの活性フラグメントが好ましい。
治癒を可能にする薬物は、本明細書で記述した様々な本発明の創傷包帯、ポリマーインプラントおよび装置コーティング中に分散させるのに適した創傷治癒生物活性剤の別のカテゴリーである。そのような治癒可能化薬としては、例えば、抗菌剤および抗炎症剤、ならびに、ある治癒促進剤、例えば、ビタミンAおよび脂質過酸化の合成阻害剤が挙げられる。
様々な抗生物質を本発明の創傷包帯、インプラントおよび移植可能な装置コーティングに分散させ、感染を阻止または制御することにより自然治癒過程を間接的に促進することができる。適した抗生物質としては、多くのクラス、例えばアミノグリコシド抗生物質またはキノロンもしくはβ-ラクタム、例えばセファロスポリン、例えばシプロフロキサシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、エリスロマイシン、バンコマイシン、オキサシリン、クロキサシリン、メチシリン、リンコマイシン、アンピシリン、およびコリスチンが挙げられる。適した抗生物質は文献で記述されている。
適した抗菌剤としては、例えば、アドリアマイシンPFS/RDF(登録商標)(Pharmacia and Upjohn)、ブレノキサン(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、セルビジン(登録商標)(Bedford)、コスメゲン(登録商標)(Merck)、ダウノキソウム(登録商標)(Nexstar)、ドキシル(登録商標)(Sequus)、ドキソルビシンヒドロクロリド(登録商標)(Astra)、イダマイシン(登録商標)PFS(Pharmacia and Upjohn)、ミトラシン(登録商標)(Bayer)、ミタマイシン(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、ニペン(登録商標)(SuperGen)、ノバントロン(登録商標)(Immunex)およびルベックス(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)が挙げられる。1つの態様では、ペプチドはグリコペプチドとすることができる。「グリコペプチド」は、サッカライド基により置換されていてもよい多環ペプチドコアにより特徴づけられるオリゴペプチド(例えば、ヘプタペプチド)抗生物質、例えばバンコマイシンを示す。
抗菌剤のカテゴリーに含まれるグリコペプチドの例は、Raymond C. RaoおよびLouise W. Crandallによる“Glycopeptides Classification, Occurrence, and Discovery”(“Bioactive agents and the Pharmaceutical Sciences” Volume 63, 編集Ramakrishnan Nagarajan、出版Marcal Dekker, Inc.)において見られる可能性がある。グリコペプチドの別の例は米国特許第4,639,433号;同第4,643,987号;同第4,497,802号;同第4,698,327号;同第5,591,714号;同第5,840,684号;および同第5,843,889号;EP 0 802 199;EP 0 801 075;EP 0 667 353;WO 97/28812; WO 97/38702; WO 98/52589; WO 98/52592;ならびに、J. Amer. Chem. Soc., 1996, 118, 13107-13108;J. Amer. Chem. Soc., 1997, 119, 12041-12047;およびJ. Amer. Chem. Soc., 1994, 116, 4573-4590において開示されている。代表的なグリコペプチドは、下記として識別されるものを含む:A477、A35512、A40926、A41030、A42867、A47934、A80407、A82846、A83850、A84575、AB-65、アクタプラニン、アクチノイジン、アルダシン、アボパルシン、アズレマイシン、バルヒミエイン、クロロオリエンチエイン、クロロポリスポリン、デカプラニン、-デメチルバンコマイシン、エレモマイシン、ガラカルジン、ヘルベカルジン、イズペプチン、キブデリン、LL-AM374、マノペプチン、MM45289、MM47756、MM47761、MM49721、MM47766、MM55260、MM55266、MM55270、MM56597、MM56598、OA-7653、オレンチシン、パルボジシン、リストセチン、リストマイシン、シンモニシン、テイコプラニン、UK-68597、UD-69542、UK-72051、バンコマイシンなど。本明細書で使用されるように「グリコペプチド」または「グリコペプチド抗生物質」はまた、糖部分が存在しない上記で開示したグリコペプチドの一般的クラス、すなわち、グリコペプチドのアグリコンシリーズを含むものとする。例えば、弱い加水分解によるバンコマイシン上のフェノールに付加された二糖部分の除去により、バンコマイシンアグリコンが得られる。「グリコペプチド抗生物質」の用語の範囲には、上記で開示したグリコペプチドの一般クラスの合成誘導体が含まれ、アルキル化およびアシル化誘導体が含まれる。さらに、バンコサミンと同様の様式で、追加のサッカライド残基、特にアミノグリコシドが付加されているグリコペプチドは、この用語の範囲内に含まれる。
「脂質付加されたグリコペプチド」と言う用語は特異的に、脂質置換基を含むように合成により修飾されたグリコペプチド抗生物質を示す。本明細書で使用されるように、「脂質置換基」という用語は、5つまたはそれ以上の炭素原子、好ましくは10〜40の炭素原子を含む任意の置換基を示す。脂質置換基は、任意で、ハロ、酸素、窒素、硫黄およびリンから選択される1〜6のヘテロ原子を含んでもよい。脂質付加されたグリコペプチド抗生物質は当技術分野において周知である。例えば、米国特許第5,840,684号、同第5,843,889号、同第5,916,873号、同第5,919,756号、同第5,952,310号、同第5,977,062号、同第5,977,063号、EP 667,353、WO 98/52589、WO 99/56760、WO 00/04044、WO 00/39156を参照されたい。これらの開示内容は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる。
治療を受ける身体部位に依存する、本発明の創傷包帯、インプラントおよび装置コーティングにおいて使用されるポリマーおよび/またはヒドロゲル中に分散させるのに有益な抗炎症剤としては、例えば、鎮痛剤(例えば、NSAIDSおよびサリチレート)、ステロイド、抗リウマチ薬、胃腸薬、痛風薬、ホルモン(グルココルチコイド)、点鼻薬、点眼薬、点耳薬(例えば、抗生物質およびステロイド併用薬)、呼吸薬、ならびに皮膚および粘膜剤が挙げられる。Physician's Desk Reference, 2004 Editionを参照されたい。特に抗炎症剤はデキサメタゾンを含むことができ、これは化学的に(11θ,16I)-9-フルオロ-11,17,21-トリヒドロキシ-16-メチルプレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオンとして示される。また、抗炎症剤は、シロリムス(ラパマイシン)を含むことができ、これはストレプトマイセス・ヒグロスコピカス(Steptomyces hygroscopicus)から単離されたトリエンマクロライド抗生物質である。
本発明のある態様では、生物活性剤は、本発明の創傷包帯、インプラントおよび装置コーティングにおいて使用されるポリマーに共有結合される。下記実施例は、生物活性剤のあるカテゴリーが発明のポリマー中に分散できる容易さを説明するものである。生物活性剤として使用するように企図されたアミノキシルは下記構造を有する:
例示的なアミノキシルとしては下記化合物が挙げられる:
2,2,6,6,-テトラメチルピペリジン-1-オキシ(1);2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシ(2);および2,2,5,5-テトラメチルピロリン-1-オキシ-3-カルボニル(3)。使用するために企図した別のアミノキシルとしては、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシ(TEMPAMINE);4-(N,N-ジメチル-N-ヘキサデシル)アンモニウム-2,2,6,6,-テトラメチルピペリジン-1-オキシ、ヨウ化物(CAT16);4-(N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル))アンモニウム-2,2,6,6,-テトラメチルピペリジン-1-オキシ(TEMPOコリン);4-(N,N-ジメチル-N-(3-スルホプロピル)アンモニウム-2,2,6,6,-テトラメチルピペリジン-1-オキシ;N-(4-(ヨードアセチル)アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシ(TEMPO 1A);N-(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシ-4-イル)マレイミド(TEMPOマレイミド、MAL-6);および4-トリメチルアンモニウム-2,2,6,6,-テトラメチルピペリジン-1-オキシ,ヨウ化物(CAT1);3-アミノ-2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシ;およびN-(3-(ヨードアセチル)アミノ)-2,2,5,5-テトラメチルピロリジン-1-オキシ(PROXYL 1A);スクシンイミジル2,2,5,5-テトラメチル-3-ピロリン-1-オキシ-3-カルボキシレートおよび2,2,5,5-テトラメチル-3-ピロリン-1-オキシ-3-カルボン酸などが挙げられる。
生物活性剤として使用するために企図したフロキサンは下記構造を有する:
例示的なフロキサンは、下記で示すように、4-フェニル-3-フロキサンカルボニトリルである:
ニトロソチオールは、-S-N=O部分を有する化合物、例えば、下記例示的なニトロソチオールを含む:
アントシアニンもまた、生物活性剤として使用するために企図される。アントシアニンはグリコシル化アントシアニジンであり、下記構造を有し:
式中、糖が3-ヒドロキシ位に結合される。アントシアニンはインビボでNO産生を刺激することが公知であり、そのため、本発明の実施において生物活性剤として使用するのに適している。
別の態様では、ポリマー中に分散された生物活性剤は、血管内の血流内で浮遊している前駆内皮細胞に結合する、またはそれらを捕獲するためのリガンドである。1つの態様では、リガンドは、「粘着性」ペプチドまたはポリペプチド、例えばタンパク質Aおよびタンパク質Gである。タンパク質Aは、特別な抗体または免疫グロブリン分子のFc領域に結合するブドウ球菌(スタフィロコッカス:staphylococcus)A細菌の成分であり、これらの分子を識別し、単離するのに広範囲に使用される。例えば、タンパク質Aリガンドは下記アミノ酸配列:
または機能的に等価なそれらのペプチド誘導体、例えば、下記アミノ酸配列:
を有する機能的に等価なペプチドとすることができ、またはそれを含むことができる。
タンパク質Gは、G群連鎖球菌の成分であり、タンパク質Aと同様の活性を示し、すなわち、特別な抗体または免疫グロブリン分子のFc領域に結合する。例えば、タンパク質Gリガンドは、下記アミノ酸配列:
を有するタンパク質G、または機能的に等価なそれらのペプチド誘導体、例えば、下記アミノ酸配列:
を有する機能的に等価なペプチドとすることができ、またはそれを含むことができる。
本発明の創傷包帯および装置コーティングにおいて使用されるポリマーおよび/またはヒドロゲルに分散させることを企図した別の生物活性ペプチドとしてはブラジキニンが挙げられる。ブラジキニンは、キニノーゲンに対するプロテアーゼの作用により形成される血管作用性ノナペプチドであり、デカペプチドカリジン(KRPPGFSPFR)(SEQ ID NO:5)を生成し、これはさらに、C末端タンパク質切断を受けることができ、ブラジキニン1ノナペプチドが得られ:(KRPPGFSPF)(SEQ ID NO:6)、またはN末端タンパク質切断を受けることができ、ブラジキニン2ノナペプチド:(RPPGFSPFR)(SEQ ID NO:7)が得られる。ブラジキニン1および2は、それぞれ、特異的ブラジキニン細胞表面受容体B1およびB2の作用薬として、機能的に区別される:カリジンおよびブラジキニン2はどちらもB2受容体に対する天然リガンドであり、一方それらのC末端代謝産物(それぞれ、ブラジキニン1およびオクタペプチドRPPGFSPF(SEQ ID NO:8)はB1受容体に対するリガンドである。循環ブラジキニンペプチドの一部は、さらに翻訳後修飾を受けることができる:配列中の第2プロリン残基のヒドロキシル化(ブラジキニン2アミノ酸番号におけるPro3→Hyp3)。ブラジキニンは非常に強力な血管拡張剤であり、後毛細血管細静脈の透過性を増加させ、内皮細胞に作用し、カルモジュリンを活性化させ、これにより一酸化窒素シンターゼを活性化する。
ブラジキニンペプチドを、本発明の創傷包帯で使用したポリマー中に、ペプチドの一端で結合させることにより分散させる。一般に、ブラジキニンの未結合端は、ポリマーから自由に延在し、病変部位の内皮細胞と接触し、これにより、接触した内皮細胞が活性化される。このようにして活性化された内皮細胞はさらに、接触する前駆内皮細胞を活性化し、これにより外傷部位での内皮細胞活性化のカスケードが引き起こされ、一酸化窒素の内因性産生に至る。
さらに別の局面では、生物活性剤はヌクレオシド、例えばアデノシンとすることができ、これもまた、内因的に一酸化窒素を産生する内皮細胞の強力な活性化剤であることが知られている。
本発明の創傷包帯における血液適合性の親水性ポリマー層またはコーティングを形成する際での使用が企図されているポリマーとしては、ポリエステル、ポリ(アミノ酸)、ポリエステルアミド、ポリウレタン、またはそれらのコポリマーが挙げられる。特に、生分解性ポリエステルの例としては、ポリ(α-ヒドロキシC1〜C5アルキルカルボン酸)、例えば、ポリグリコール酸、ポリ-L-ラクチド、およびポリ-D,L-ラクチド;ポリ-3-ヒドロキシブチレート;ポリヒドロキシバレレート;ポリカプロラクトン、例えば、ポリ(ε-カプロラクトン);および修飾ポリ(α-ヒドロキシアシッド)ホモポリマー、例えば、環状ジエステルモノマー、式4を有し、式中Rが低級アルキルである3-(S)[アルキルオキシカルボニル)メチル]-1,4-ジオキサン-2,5-ジオンのホモポリマーが挙げられ、これらは、Biomedical Applications of Polymeric Materials, Tsuruta, T., et al, eds., CRC Press, 1993, 179ページおけるKimura, Y., “Biocompatible Polymers”で示されている。
血液適合性の、親水性層またはコーティングを形成するのに有益な生分解性コポリマーポリエステルの例としては、コポリエステルアミド、コポリエステルウレタン、グリコリド-ラクチドコポリマー、グリコリド-カプロラクトンコポリマー、ポリ-3-ヒドロキシブチレート-バレレートコポリマー、および環状ジエステルモノマー、3-(S)[(アルキルオキシカルボニル)メチル]-1,4-ジオキサン-2,5-ジオンのL-ラクチドとのコポリマーが挙げられる。グリコリド-ラクチドコポリマーとしては、5:95〜95:5の範囲のグリコール酸のL-乳酸に対するモノマーモル比、および好ましくは45:65〜95:5の範囲のグリコール酸のL-乳酸に対するモノマーモル比を用いて形成させたポリ(グリコリド-L-ラクチド)が挙げられる。グリコリド-カプロラクトンコポリマーとしてはグリコリドおよびε-カプロラクトンブロックコポリマー、例えば、モノクリルまたはポリグレカプロンが挙げられる。
本発明の実施において使用するために企図されたポリマーの別の例としては、PEAバックボーン上に組み込まれた官能基を有するポリエステルアミドが挙げられ、これらの組み込まれた官能基は他の化学物質と反応し、別の官能基を組み入れることができ、PEAの官能生がさらに拡大される。そのため、本発明の方法で使用されるPEAは、水溶性を増大させる親水性構造を有する他の化学物質と、ならびに薬物および他の生物活性剤と反応することができ、事前修飾は必要ない。さらに、本発明の創傷包帯および装置コーティングにおいて使用するのに好ましいPEAは、生理食塩水(PBS)培地中で試験しても加水分解を示さないが、酵素溶液、例えばキモトリプシンまたはCT中では、均一な線形浸食挙動が観察された。
1つの態様では、使用する生分解性ポリマーは、構造式(I)により記述される化学構造を有するPEAであり:
式中、nは約5〜約150の範囲であり、mは約0.1〜約0.9の範囲であり;pは約0.9〜約0.1の範囲であり;式中、R
1は(C
2〜C
20)アルキレンまたは(C
2〜C
20)アルケニレンからなる群より選択され;R
2は水素または(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルまたは保護基であり;R
3は水素、(C
1〜C
6)アルキル、(C
2〜C
6)アルケニル、(C
2〜C
6)アルキニルおよび(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルからなる群より選択され;ならびにR
4は下記からなる群より選択され:(C
2〜C
20)アルキレン、(C
2〜C
20)アルケニレンまたはアルキルオキシ、および一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環フラグメント:
ただし、構造式(I)の化学構造を有する不飽和ポリマーでは、R
1およびR
4は(C
2〜C
20)アルキレンまたは(C
2〜C
20)アルケニレンから選択され;ここで、R
1およびR
4の少なくとも1つは(C
2〜C
20)アルケニレンであり;nは約5〜約150であり;各R
2は独立して、水素、または(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルであり;ならびに各R
3は独立して、水素、(C
1〜C
6)アルキル、(C
2〜C
6)アルケニル、(C
2〜C
6)アルキニルまたは(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルであることを除き、
または、構造式(III)により記述される化学式を有するPEURであり:
式中、nは約5〜約150の範囲であり、mは約0.1〜約0.9の範囲であり;pは約0.9〜約0.1の範囲であり;式中、R
2は水素または(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルまたはt-ブチルもしくは他の保護基であり;R
3は水素、(C
1〜C
6)アルキル、(C
2〜C
6)アルケニル、(C
2〜C
6)アルキニルおよび(C
6〜C
10)アリール(C
1〜C
6)アルキルからなる群より独立して選択され;ならびにR
4は(C
2〜C
20)アルキレン、(C
2〜C
20)アルケニレンまたはアルキルオキシ、および一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環フラグメントからなる群より独立して選択され;ならびに、R
6は(C
2〜C
20)アルキレン、(C
2〜C
20)アルケニレンまたはアルキルオキシ、および一般式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環フラグメントから独立して選択され;
ただし、構造式(II)を有する不飽和ポリマーでは、R
6およびR
4は(C
2〜C
20)アルキレンおよび(C
2〜C
20)アルケニレンから選択され;ここで、R
6およびR
4の少なくとも1つはC
2〜C
20アルケニレンであることを除く。
1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環フラグメントは「糖アルコール」、例えばD-グルシトール、D-マンニトール、およびL-イジトールから誘導することができる。有益な保護基としてはt-ブチルおよび当技術分野で公知である他のものが挙げられる。
1つの代案では、本発明のポリマーを作製する際に使用するα-アミノ酸の少なくとも1つは生物α-アミノ酸である。例えば、R3がCH2Phである場合、合成で使用される生物αアミノ酸はL-フェニルアラニンである。R3がCH2-CH(CH3)2である代案では、ポリマーは生物αアミノ酸、ロイシンを含む。R3を変化させることにより、別の生物α-アミノ酸、例えば、グリシン(R3がHである場合)、アラニン(R3がCH3である場合)、バリン(R3がCH(CH3)2である場合)、イソロイシン(R3がCH(CH3)-CH2-CH3である場合)、フェニルアラニン(R3がCH2-C6H5である場合)、リシン(R3が(CH2)4-NH2である場合);またはメチオニン(R3またはR4が-(CH2)2SCH3である場合)、およびそれらの混合物も使用することができる。さらに別の態様では、本発明のPEAおよびPEURポリマーに含まれる様々なα-アミノ酸は全て、本明細書で記述されるように、そのような生物α-アミノ酸である。
本明細書で使用されるように、「アミノ酸」および「α-アミノ酸」という用語は、アミノ基、カルボキシル基および本明細書で規定されるようなR3基を含む化学化合物を意味する。本明細書で使用されるように、「生物アミノ酸」および「生物α-アミノ酸」という用語は、合成で使用されるアミノ酸がL-フェニルアラニン、ロイシン、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、リシン、もしくはメチオニン、またはそれらの混合物であることを意味する。
「アリール」という用語は、本明細書では、構造式に関して使用され、フェニルラジカルまたは、少なくとも1つの環が芳香族である、約9〜10の環原子を有するオルト縮合二環式炭素環ラジカルを示す。ある態様では、環原子の1つまたは複数は、1つまたは複数のニトロ、シアノ、ハロ、トリフルオロメチル、またはトリフルオロメトキシで置換することができる。アリールの例としてはフェニルおよびナフチル、ならびにニトロフェニルが挙げられるが、それらに限定されない。
「アルケニレン」という用語は、本明細書では構造式に関して使用され、主鎖または側鎖中に少なくとも1つの不飽和結合を含む二価分枝または非分枝炭化水素鎖を意味する。
本明細書中の分子量および多分散性は、ゲル透過クロマトグラフによりポリスチレン標準を用いて決定する。より特定的には、数および重量平均分子量(MnおよびMw)は、高圧液体クロマトグラフィーポンプ、Waters486UV検出器およびWaters2410示差屈折率検出器を備えたModel 510ゲル透過クロマトグラフ(Water Associates, Inc., Milford, MA)を用いて決定する。テトラヒドロフラン(THF)を溶離剤として使用する(1.0mL/分)。ポリスチレン標準は狭い分子量分布を有する。
一般式にα-アミノ酸を含む、構造式(I)および(III)のポリマーを製造するための方法は当技術分野では周知である。例えば、Rがポリマー合成でα-アミノ酸中に組み入れられる構造式(I)のポリマーの態様では、αアミノ酸は、例えば、α-アミノ酸をジオールHO-R2-OHと縮合することにより、ビス-α-アミノ酸に変換することができる。その結果、エステルフラグメントが形成される。その後、ビス-α-アミノ酸は、セバシン酸などの二酸との重縮合反応に入り、エステルおよびアミド結合の両方を有する最終ポリマーが得られる。また、二酸の代わりに、二酸誘導体、例えば、ジ-パラ-ニトロフェノキシ二酸もまた使用することができる。
より特定的に、上記のような構造式(I)の生分解性ポリマーとして有益な不飽和ポリ(エステル-アミド)(UPEA)の合成について記述する:
式中、
および/または(b)R
4は-CH
2-CH=CH-CH
2-である。(a)が存在し(b)が存在しない場合、(I)中のR
4は-C
4H
8-または-C
6H
12-である。(a)が存在せず(b)が存在する場合、(I)中のR
1は-C
4H
8-または-C
8H
16-である。
UPEAは、(1)α-アミノ酸のジエステルのジ-p-トリエンスルホン酸塩と不飽和ジオールと飽和ジカルボン酸のジ-p-ニトロフェニルエステルまたは(2)α-アミノ酸のジ-p-トルエンスルホン酸塩と飽和ジオールと不飽和ジカルボン酸のジ-ニトロフェニルエステルまたは(3)α-アミノ酸のジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸と不飽和ジオールと不飽和ジカルボン酸のジ-ニトロフェニルエステルのいずれかの溶液重縮合により調製することができる。
アリールスルホン酸塩を、有機塩基の代わりに使用するが、アリールスルホン酸基が非常に良好な脱離基であり、これにより、縮合反応を促進し、反応式の右に移動させることができ、これにより生成物が高収率で得られるからであり、p-トルエンスルホン酸塩がアミノ酸残基を含むポリマー合成する際に使用されることが公知であるからである。
不飽和ジカルボン酸のジ-p-ニトロフェニルエステルは、p-ニトロフェニルおよび不飽和ジカルボン酸塩化物から、例えば、トリエチルアミンおよびp-ニトロフェニルをアセトンに溶解し、不飽和ジカルボン酸塩化物を、-78℃で撹拌しながら滴下し、水中に注ぎ入れ生成物を沈殿させることにより合成することができる。適した酸塩化物としては、フマル酸、マレイン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、エテニル-ブタン二酸および2-プロペニル-ブタン二酸塩化物が挙げられる。不飽和ジカルボン酸のジ-p-ニトロフェニルエステルの代わりに使用することができる別の化合物としては、下記構造式(IV)を有するものが挙げられ:
式中、各R
5は独立して、1つまたは複数のニトロ、シアノ、ハロ、トリフルオロメチル、またはトリフルオロメトキシにより任意で置換されていてもよい(C
1〜C
10)アリールであり;R
6は独立して(C
2〜C
20)アルキレンまたは(C
2〜C
8)アルキルオキシ(C
2〜C
20)アルキレンである。
α-アミノ酸および不飽和ジオールのジエステルのジ-アリールスルホン酸塩は、α-アミノ酸、例えば、p-アリールスルホン酸一水和物および飽和または不飽和ジオールをトルエン中で混合し、水の発生が最小となるまで還流温度まで加熱し、その後、冷却することにより調製することができる。不飽和ジオールとしては、例えば、2-ブテン-1,4-ジオールおよび1,18-オクタデク-9-エン-ジオールが挙げられる。
ジカルボン酸の飽和ジ-p-ニトロフェニルエステルおよびビス-α-アミノ酸エステルの飽和ジ-p-トルエンスルホン酸塩は、米国特許第6,503,538 B1号において記述されているように調製することができる。
上記のように構造式(I)の生分解性ポリマーとして有益な不飽和ポリ(エステル-アミド)(UPEA)の合成を以下、記述する。構造式(I)を有する不飽和化合物は、米国特許第6,503,538 B1号の化合物(VII)と同様に製造することができるが、ただし、同第6,503,535号の(III)のR4および/または同第6,503,538号の(V)のR1は上記のようにC2〜C20アルケニレンであることを除く。反応は、例えば、乾燥トリエチルアミンを、乾燥N,N-ジメチルアセトアミドに溶解した同第6,503,538号の前記(III)および(IV)ならびに(V)の混合物に、室温で添加し、その後、温度を80℃まで上昇させ、16時間撹拌し、その後、反応溶液を室温まで冷却し、エタノールで希釈し、水中に注ぎ入れ、ポリマーを分離し、分離したポリマーを水で洗浄し、減圧下で約30℃まで乾燥させ、その後、p-ニトロフェニルおよびp-トルエンスルホン酸に関する試験で陰性となるまで精製することにより実施する。好ましい反応物(IV)はベンジルエステルのp-トルエンスルホン酸塩である。ベンジルエステル保護基は好ましくは除去され、生分解性が付与されるが、米国特許第6,503,538号の実施例22のように水素化分解により除去されるべきではなく、というのは、水素化分解により所望の二重結合が飽和されるからであり;むしろ、ベンジルエステル基は、不飽和を維持する方法、例えばフルオロ酢酸またはガス状HFによる処理により酸性基に変換されるべきである。また、リシン反応物(IV)は、ベンジルとは異なる保護基により保護することができ、これは最終生成物で不飽和を保存したまま容易に除去することができ、例えば、リシン反応物はt-ブチルにより保護することができ(すなわち、反応物はリシンのt-ブチルエステルとすることができ)、t-ブチルは、不飽和生成物(I)を希酸で処理することにより不飽和を保存したままHに変換することができる。
構造式(I)を有する飽和化合物の実施例は、第6,503,538号の実施例1における(III)の代わりにL-フェニルアラニン2-ブテン-1,4-ジエステルのp-トルエンスルホン酸塩を使用することにより、または第6,503,538号の実施例1における(V)の代わりにジ-p-ニトロフェニルフマレートを使用することにより、または第6,503,538号の実施例1におけるIIIの代わりにL-フェニルアラニン2-ブテン-1,4-ジエステルのp-トルエンスルホン酸塩を使用することにより、およびまた、第6,503,538号の実施例1における(V)の代わりにデ-p-ニトロフェニルフマレートを使用することにより提供される。
構造式(I)を有する不飽和化合物では、下記が有効である:アミノキシルラジカル、例えば、4-アミノTEMPOは、縮合剤としてカルボニルジイミダゾールを使用して結合させることができる。本明細書で記述されるように、生物活性剤、追加の生物活性剤および創傷治癒剤などは、二重結合官能性を介して結合させることができる。ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートに結合させることにより親水性を付与することができる。
生分解性ポリマーおよびコポリマーは好ましくは、10,000〜300,000の範囲の重量平均分子量を有し;これらのポリマーおよびコポリマーは典型的には25℃で、標準粘度測定法により決定された、0.3〜4.0、好ましくは0.5〜3.5の範囲の固有粘度を有する。
さらに別の局面では、本発明の創傷治癒包帯、インプラントおよび装置を形成する際に使用が企図されたポリマーとしては、米国特許第5,516,881号;同第6,338,047号;同第6,476,204号;同第6,503,538号;ならびに米国特許出願第10/096,435号;同第10/101,408号;同第10/143,572号;および同第10/194,965号において記述されているものが挙げられる。
この態様では、生分解性ポリマーおよびコポリマーは、2までのアミノ酸、例えば生物アミノ酸を含んでもよく、好ましくは10,000〜125,000の範囲の重量平均分子量を有し;これらのポリマーおよびコポリマーは典型的には25℃で、標準粘度測定法により決定された、0.3〜4.0、好ましくは0.5〜3.5の固有粘度を有する。
使用が企図されたそのようなポリ(カプロラクトン)は下記の通り例示的な構造式(V)を有する:
使用が企図されたポリ(グリコリド)は下記の通り例示的な構造式(VI)を有する:
使用が企図されたポリ(ラクチド)は下記の通り例示的な構造式(VII)を有する:
アミノキシル部分を含む適したポリ(ラクチド-コ-ε-カプロラクトン)の例示的な合成を下記の通り記述する。第1工程は、触媒としてオクチル酸スズを使用する、ベンジルアルコールの存在下でのラクチドおよびε-カプロラクトンの共重合を含み、構造式(VIII)のポリマーが形成される。
ヒドロキシル末端ポリマー鎖を、その後、無水マレイン酸でキャップすることができ、構造式(IX)を有するポリマー鎖が形成される:
この時点で、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシをカルボン酸末端基と反応させ、アミノキシル部分を、4-アミノ基とカルボン酸末端基との間の反応により得られるアミド結合を介してコポリマーに共有結合させることができる。また、マレイン酸キャップコポリマーをポリアクリル酸とグラフトさせ、その後にさらにアミノキシル基を結合するための追加のカルボン酸部分を提供することができる。
本発明の実施で使用が企図されたポリマーは、当技術分野で周知の様々な方法により合成することができる。例えば、トリブチルスズ(IV)触媒が、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド)などのポリエステルを形成するために一般的に使用される。しかしながら、本発明の実施において使用するのに適したポリマーを形成するために、広範囲にわたる様々な触媒を使用することができることは理解される。
前駆細胞を、ポリマー担体に直接化学結合させずにポリマーマトリクス内に分散させるが、前駆細胞は、本明細書で記述したように、捕獲リガンド、例えば、細胞表面マーカーに結合する抗体によりポリマー内に保持されてもよいと考えられる。しかしながら、1つまたは複数の生物活性剤は、様々な適した官能基を介して、生分解性生物活性ポリマーに共有結合させることができる。例えば、生分解性生物活性ポリマーがポリエステルである場合、カルボキシル基鎖末端を使用して、生物活性剤上の相補部分、例えばヒドロキシ、アミノ、チオなどと反応させることができる。様々な適した試薬および反応条件は、例えば、Advanced Organic Chemistry, Reactions, Mechanisms, and Structure, Fifth Edition, (2001);およびComprehensive Organic Transformations, Second Edition, Larock(1999)において開示されている。
別の態様では、生物活性剤は、アミド、エステル、エーテル、アミノ、ケトン、チオエーテル、スルフィニル、スルホニル、ジスルフィドなどまたは直接結合を介して、構造(I)および(III)のポリマーのいずれかに結合させることができる。そのような結合は、適した官能化開始材料から、当業者に公知の合成手順を用いて形成させることができる。
本発明の1つの態様では、ポリマーは、ポリマーのカルボキシル基(例えば、COOH)を介して生物活性剤に結合させることができる。特に、構造(I)および(III)の化合物は生物活性剤のアミノ官能基または生物活性剤のヒドロキシル官能基と反応することができ、それぞれ、アミド結合またはカルボン酸エステル結合を介して結合された生物活性剤を有する生分解性生物活性ポリマーが提供される。別の態様では、ポリマーのカルボキシル基は、ハロゲン化アシル、アシル無水物/「混合」無水物、または活性エステルに変換させることができる。
また、生物活性剤はリンカーを介してポリマーに結合させてもよい。実際、生分解性生物活性ポリマーの表面疎水性を改善するため、生分解性生物活性ポリマーの酵素活性化に対する近接性を改善するために、および生分解性生物活性ポリマーの放出プロファイルを改善するために、リンカーを使用して、生物活性剤を生分解性生物活性ポリマーに間接的に結合させてもよい。ある態様では、リンカー化合物としては、約44〜約10,000、好ましくは44〜2000の分子量(MW)を有するポリ(エチレングリコール);アミノ酸、例えばセリン;1〜100の繰り返しユニットを有するポリペプチド;および任意の他の適した低分子量ポリマーが挙げられる。リンカーは典型的には、生物活性剤をポリマーから約5Å〜最大約200Åだけ分離する。
さらに別の態様では、リンカーは式W-A-Qの二価ラジカルであり、式中、Aは(C1〜C24)アルキル、(C2〜C24)アルケニル、(C2〜C24)アルキニル、(C3〜C8)シクロアルキル、または(C6〜C10)アリールであり、ならびにWおよびQはそれぞれ独立して、-N(R)C(=O)-、-C(=O)N(R)-、-OC(=O)-、-C(=O)O、-O-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S-S-、-N(R)-、-C(=O)-であり、ここで、各Rは独立してHまたは(C1〜C6)アルキルである。
本発明の実施で使用が企図されたポリマーは、当技術分野で周知の様々な方法により合成することができる。例えば、トリブチルスズ(IV)触媒が、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(グリコリド)、ポリ(ラクチド)などのポリエステルを形成させるのに共通して使用される。しかしながら、様々な触媒を使用して、本発明の実施での使用に適したポリマーを形成することができることは理解される。
ある態様では、生物活性剤は、様々な適した官能基を介して、生分解性生物活性ポリマーに共有結合させることができる。例えば、生分解性生物活性ポリマーがポリエステルである場合、カルボキシル基鎖末端を使用して、生物活性剤の相補部分、例えばヒドロキシ、アミノ、チオなどと反応させることができる。様々な適した試薬および反応条件は、例えば、Advanced Organic Chemistry, Reactions, Mechanisms, and Structure, Fifth Edition, (2001);およびComprehensive Organic Transformations, Second Edition, Larock(1999)において開示されている。
別の態様では、前駆細胞および生物活性剤は、化学結合を形成させずに、ポリマー上に「負荷する」ことにより、ポリマー中に分散させることができ、または、生物活性剤は、ポリマー中の任意の官能基、例えば、アミド、エステル、エーテル、アミノ、ケトン、チオエーテル、スルフィニル、スルホニル、ジスルフィドなどのいずれかに結合させ、直接結合を形成させることができる。そのような結合は、適した官能化開始材料から、当技術分野で公知の合成手順を用いて形成することができる。
また、さらに、生物活性剤は、ポリマーにリンカーを介して結合させてもよい。実際、生分解性生物活性ポリマーの表面疎水性を改善するため、生分解性生物活性ポリマーの酵素活性化に対する近接性を改善するために、および生分解性生物活性ポリマーの放出プロファイルを改善するために、リンカーを使用して、生物活性剤を生分解性生物活性ポリマーに間接的に結合させてもよい。ある態様では、リンカー化合物としては、約44〜約10,000、好ましくは44〜2000の分子量(MW)を有するポリ(エチレングリコール);アミノ酸、例えばセリン;1〜100の繰り返しユニットを有するポリペプチド;および任意の他の適した低分子量ポリマーが挙げられる。リンカーは典型的には、生物活性剤をポリマーから約5Å〜最大約200Åだけ分離する
さらに別の態様では、リンカーは式W-A-Qの二価ラジカルであり、式中、Aは(C1〜C24)アルキル、(C2〜C24)アルケニル、(C2〜C24)アルキニル、(C3〜C8)シクロアルキル、または(C6〜C10)アリールであり、ならびにWおよびQはそれぞれ独立して、-N(R)C(=O)-、-C(=O)N(R)-、-OC(=O)-、-C(=O)O、-O-、-S-、-S(O)、-S(O)2-、-S-S-、-N(R)-、-C(=O)-であり、ここで、各Rは独立してHまたは(C1〜C6)アルキルである。
本明細書で使用されるように、「アルキル」という用語は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシルなどを含む直鎖または分枝鎖炭化水素基を示す。
本明細書で使用されるように、「アルケニル」という用語は、1つまたは複数の炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分枝鎖炭化水素基を示す。
本明細書で使用されるように、「アルキニル」という用語は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を有する直鎖または分枝鎖炭化水素基を示す。
本明細書で使用されるように、「アリール」という用語は、6〜最大14の範囲の炭素原子を有する芳香族基を示す。
ある態様では、リンカーは約2〜最大約25アミノ酸を有するポリペプチドとしてもよい。使用が企図される適したペプチドとしては、ポリ-L-リシン、ポリ-L-グルタミン酸、ポリ-L-アスパラギン酸、ポリ-L-ヒスチジン、ポリ-L-オルニチン、ポリ-L-トレオニン、ポリ-L-チロシン、ポリ-L-ロイシン、ポリ-L-リシン-L-フェニルアラニン、ポリ-L-アルギニン、ポリ-L-リシン-L-チロシンなどが挙げられる。
リンカーは、最初に、ポリマーまたは生物活性剤に結合させることができる。リンカーを介して間接的に結合された生物活性剤を含むポリマーの合成中、リンカーは、当業者に周知の様々な保護基を用いて、非保護形態または保護形態のいずれかとすることができる。
保護リンカーの場合、リンカーの非保護末端を最初に、ポリマーまたは生物活性剤に結合させることができる。その後、保護基は、Pd/H2水素分解(hydrogen lysis)、弱酸または塩基加水分解、または当技術分野で公知の任意の他の一般的な脱保護法を用いて脱保護することができる。脱保護したリンカーはその後、生物活性剤に結合させることができる。リンカーとしてポリ(エチレングリコール)を使用する例をスキーム1に示す。
スキーム1
ポリマーと薬物/生物との間のリンカーとして使用されるポリ(エチレングリコール)
式中、
はポリマーを示し;
Rは薬物または生物活性剤のいずれかとすることができ;および
nは1〜200;好ましくは1〜50の範囲とすることができる。
本発明による生分解性生物活性ポリマーの例示的な合成(ここで、生物活性剤はアミノキシルである)について下記で記述する。
ポリエステルをアミノキシル、例えば、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシと、N,N'-カルボニルジイミダゾールの存在下で反応させ、ポリエステルの鎖末端のカルボキシル基中のヒドロキシル部分をアミノキシル-含有ラジカルに結合させたイミノで置換させることができ、そのため、イミノ部分はカルボキシル基のカルボニル残基の炭素に共有結合する。N,N'-カルボニルジイミダゾールはポリエステルの鎖末端のカルボキシル基中のヒドロキシル部分を中間生成物部分に変換し、これは、アミノキシル、例えば、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシと反応する。アミノキシル反応物は典型的には反応物のポリエステルに対するモル比が1:1〜100:1の範囲で使用される。N,N'-カルボニルジイミダゾールのアミノキシルに対するモル比は好ましくは約1:1である。
典型的な反応は下記の通りである。ポリエステルは反応溶媒に溶解され、溶解のために使用した温度で反応は容易に実施される。反応溶媒は、ポリエステルが溶解する任意のものとしてもよく;この情報は通常ポリエステルの製造者から入手可能である。ポリエステルがポリグリコール酸またはポリ(グリコリド-L-ラクチド)(グリコール酸のL-乳酸に対するモノマーモル比が50:50を超える)のいずれかである場合、115℃〜130℃では高精製(99.9+%純度)ジメチルスルホキシド、または室温ではDMSOが適当にポリエステルを溶解する。ポリエステルがポリ-L-乳酸、ポリ-DL-乳酸またはポリ(グリコリド-L-ラクチド)(グリコール酸のL-乳酸に対するモノマーモル比が50:50であるかまたは50:50未満)、テトラヒドロフラン、塩化メチレンおよびクロロホルムが、室温から50℃で、ポリエステルを適当に溶解する。
別の局面では、前駆細胞を負荷する前に、当技術分野で周知のように、生分解性ポリマーまたはヒドロゲルを医療機器の表面上に、多くの方法、例えば、浸漬コーティング、噴霧コーティング、イオン蒸着などにより医療機器の表面上にコートさせることができる。医療機器の多孔質表面をコートする際、細胞、因子など、例えば、創傷治癒および組織再構築の自然生物学的過程に関与する内皮細胞および他の血液因子が、装置の表面から装置内部まで近づく、または移動するのに必要な、細孔を塞がないように注意しなければならない。
医療機器は当技術分野公知なもののような任意の適した物質から形成することができる。例えば、医療機器は、バイオセラミック、例えば多孔質リン酸カルシウムセメントまたはそれから製造された移植可能な物体、または生体適合性金属、例えばステンレス鋼、タンタル、ニチノール、エルジロイ(elgiloy)など、および適したそれらの組み合わせから形成することができる。
別の態様では、医療機器はそれ自体、実質的に生分解性とすることができ、架橋可能な「星構造ポリマー」、またはデンドリマーから作製され、これらは当業者に周知である。1つの局面では、医療機器は、本明細書で記述されるように、生分解性架橋ポリ(エステルアミド)、ポリカプロラクトン、またはポリ(エステルウレタン)から形成される。
ポリマー/生物活性剤結合
1つの態様では、本明細書で記述されるように、創傷包帯および装置カバーリングを製造するために使用されるポリマーは、ポリマーに直接結合された自然創傷治癒を促進する1つまたは複数の生物活性剤を有する。ポリマーの残基は1つまたは複数の生物活性剤の残基に結合させることができる。例えば、ポリマーの1つの残基は、生物活性剤の1つの残基に直接結合させることができる。ポリマーおよび生物活性剤はそれぞれ、1つの空き原子価を有することができる。また、血管の自然内皮再生を促進する、1を超える生物活性剤、または生物活性剤混合物は直接ポリマーに結合させることができる。しかしながら、各生物活性剤の残基はポリマーの対応する残基に結合させることができるので、1つまたは複数の生物活性剤の残基の数はポリマーの残基上の空き原子価の数に対応することができる。
本明細書で使用されるように、「ポリマーの残基」という用語は、1つまたは複数の空き原子価を有するポリマーのラジカルを示す。ラジカルを生物活性剤の残基に結合させても生物活性が実質的に保持されるならば、本発明のポリマー(例えば、ポリマーバックボーンまたはペンダント基上)の任意の合成的に実現可能な原子、複数の原子、または官能基を除去して空き原子価を提供することができる。所望の結合に基づいて、当業者は、当技術分野で公知の手順を用いて本発明のポリマーから誘導することができる適当に官能化された開始材料を選択することができる。
本明細書で使用されるように、「構造式(*)の化合物の残基」は1つまたは複数の空き原子価を有する式(I、III〜VII)および(X)の化合物のラジカルを示す。ラジカルを生物活性剤の残基に結合させても生物活性が実質的に保持されるならば、式(I〜X)の化合物(例えば、ポリマーバックボーンまたはペンダント基上)の任意の合成的に実現可能な原子、複数の原子、または官能基を除去して空き原子価を提供することができる。さらに、ラジカルを生物活性剤の残基に結合させても生物活性が実質的に保持されるならば、任意の合成的に実現可能な官能基(例えば、カルボキシル)を式(I、II〜VII)および(X)の化合物上(例えば、ポリマーバックボーンまたはペンダント基上)で生成させ空き原子を提供することができる。所望の結合に基づいて、当業者は、当技術分野で公知の手順を用いて式(I、III〜VII)および(X)の化合物から誘導することができる適当に官能化された開始材料を選択することができる。
例えば、生物活性剤の残基は、構造式(I、III〜VII)および(X)の化合物の残基に、アミド(例えば、-N(R)C(=O)-または-C(=O)N(R)-)、エステル(例えば、-OC(=O)-または-C(=O)O-)、エーテル(例えば、-O-)、アミノ(例えば、-N(R)-)、ケトン(例えば、-C(=O)-)、チオエーテル(例えば、-S-)、スルフィニル(例えば、-S(O)-)、スルホニル(例えば、-S(O)2-)、ジスルフィド(例えば、-S-S-)、または直接(例えば、C-C結合)結合を介して結合させることができ、ここで、各Rは独立したHまたは(C1〜C6)アルキルである。そのような結合は、適当に官能化させた開始材料から、当技術分野において公知の合成手順を用いて形成させることができる。所望の結合に基づき、当業者は、構造式(I、III〜VII)および(X)の化合物の残基から、および生物活性剤のある残基から当技術分野において公知の手順を用いて誘導することができる、適当な官能性開始材料を選択することができる。生物活性剤の残基は、構造式(I、III〜VII)および(X)の化合物の残基上の任意の合成的に実現可能な位置に結合させることができる。さらに、本発明はまた、構造式(I、III〜VII)および(X)の化合物に直接結合させた1つまたは複数の生物活性剤の1つを超える残基を有する化合物を提供する。
ポリマーに結合させることができる生物活性剤の数は、典型的にはポリマーの分子量に依存することができる。例えば、構造式(I)の化合物では、nが約50〜約150であり、約300までの生物活性剤(すなわち、それらの残基)はポリマー(すなわち、その残基)に、生物活性剤をポリマーの末端基と反応させることにより直接結合させることができる。不飽和ポリマーでは、生物活性剤はまた、ポリマー中の二重(または三重)結合と反応させることができる。
創傷包帯において使用するためのヒドロゲル
非接着性創傷治癒包帯および本発明の創傷治癒包帯および移植可能な細胞または馴化培地送達組成物中で使用される非接着性層は生分解性ヒドロゲルを含む。インサイチュー送達のための、本明細書で記述されるような前駆細胞、創傷治癒薬物または生物活性剤を負荷することができる当技術分野で公知の任意の生分解性ヒドロゲルをこの目的のために使用することができるが、好ましいヒドロゲルは疎水性および親水性成分の両方を有し、フリーラジカル重合により1相架橋ポリマーネットワック構造を形成する。そのようなヒドロゲルは効果的に前駆細胞および疎水性薬物(ならびに親水性薬物)を収容し、疎水性および親水性成分を有するヒドロゲルは、全体的な親水性ヒドロゲルに比べ、かなり長い期間構造的完全性を維持し、増大した機械的強度を有するという利点を有する。その非接着特性のため、ヒドロゲル層を、直接創傷床または病変中に配置し、その前駆細胞または馴化培地負荷をインサイチューで送達させることができ、創傷床での細胞構築の発達に損害を与えずに除去することができる。
1つの局面では、そのようなヒドロゲルは、0.01〜99.99重量%、例えば95〜5重量%の(A)、ここで(A)は不飽和基末端を有する疎水性マクロマーである、および99.99〜0.01重量%、5〜95重量%の(B)、ここで、(B)は疎水性マクロマーの不飽和基と反応するヒドロキシル基を含む親水性多糖である、を有するヒドロゲル-形成系から形成される。(A)および(B)の総和は100%である。疎水性マクロマーは生分解性であり、ポリ(乳酸)の末端カルボン酸基のヒドロキシルをアミノエタノール基に変換することにより得られるジオールを不飽和基導入化合物と反応させることにより容易に調製される。
好ましくは、親水性ポリマーはデキストランであり、ここで、デキストランのグルコースユニットの1つまたは複数のヒドロキシルを不飽和基導入化合物と反応させる。1つの場合、親水性ポリマーは、PCT/US99/18818で記述されているようにデキストラン-マレイン酸モノエステルとすることができる。
本明細書で記述されるように、前駆細胞、馴化培地、創傷治癒生物活性剤または薬物は、細胞、作用物質または薬物の分子量によって、多くの手段によりヒドロゲル中に負荷(すなわち、分散)させることができる。例えば、インドメタシンにより例示されるように、200〜1,000の重量平均分子量の薬物を、三次元架橋ポリマーネットワーク中にトラップさせることができ、そこからの放出が制御される。また、インスリンにより例示される、重量平均分子量が1,000〜10,000の水溶性巨大分子、例えばポリペプチドを、三次元架橋ポリマーネットワーク中にトラップさせることができ、そこからの放出が制御される。さらに別の実施例では、例えば、フェムトグラムの範囲の重量の前駆細胞を三次元架橋ポリマーネットワーク中にトラップさせることができ、そこからの放出が制御される。
「ヒドロゲル」という用語は、水または他の水性溶液中で膨潤し、かなりの部分の水溶液をその構造内で、溶解せずに保持する能力を示すポリマー材料を意味するように本明細書では使用される。このように、本明細書で記述したヒドロゲルは、増殖培地に前駆細胞を負荷する、または馴化培地、例えば無細胞馴化培地を負荷するのに特に適している。
ある態様では、本発明の方法および装置で使用される生分解性ヒドロゲルは、少なくとも1つの生分解性成分、すなわち、水および/または哺乳類患者、例えばヒトおよび他の動物の創傷および病変で見られる酵素により分解される成分を含むヒドロゲル形成系から形成されるヒドロゲルである。
「架橋ポリマーネットワーク構造」という用語は本明細書では、架橋が疎水性分子間、親水性分子間、および疎水性分子と親水性分子との間で形成される相互結合構造を意味するために使用される。
「光架橋」という用語は本明細書では、放射線エネルギーの適用により、開始剤のビニル結合を破壊させ、別のビニル結合を架橋させることを意味するために使用される。
「マクロマー」という用語は本明細書では、500〜80,000の範囲の重量平均分子量を有するモノマーを意味するために使用される。
ヒドロゲルに関して本明細書で使用されるように「不飽和基導入化合物」という用語は、ヒドロキシル基と反応し、不飽和基を含むペンダントまたは末端基、例えばその末端にビニル基を有するペンダント基を提供する化合物を意味する。
本明細書では重量平均分子量および数平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフィーにより決定される。
そのような生分解性ヒドロゲルおよびそれらの調製法の詳細な説明は米国特許第6,388,047号および同第6,583,219号において記述されている。
生分解性ヒドロゲルの調製において疎水性マクロマー(A)として使用するのに適した化合物は、開始材料マクロマーの末端基を、末端ヒドロキシル基(そのようなものが末端基としてすでに存在していなければ)を有する基に変換し、すなわち、ジオールを提供する、および末端ヒドロキシルを不飽和基導入化合物と反応させ、マクロマー上で末端不飽和基、例えば、ビニル基を提供することにより容易に得られる。開始材料マクロマーは好ましくは、500〜20,000の範囲の重量平均分子量を有し、例えば、600〜8,000、例えば600〜1,000、または6,500〜8,000の範囲の重量平均分子量を有する脂肪族ポリエステルポリ(乳酸)、例えば、ポリ-D,L-乳酸(時としてPDLLAと呼ばれる)である。ポリ-D,L-乳酸は、生分解性、生体適合性、および十分な機械的強度の組み合わせのため、生分解性疎水性ポリマー材料として広く使用されている。インビボでのポリ-D,L-乳酸の分解はよく理解されており、分解生成物は、体内から容易に除去することができる自然代謝産物である。使用することができる別の開始材料マクロマーとしては、例えば、別の脂肪族ポリエステル、例えばポリ(グリコール酸)、ポリ(イプシロン-カプロラクトン)、ポリ(グリコリド-コ-ラクチド)、ポリ(ラクチド-エプシロン-カプロラクトン)、ポリカプロラクトンジオール(例えば、530、1250または2000に等しいMnを有する)、ポリカプロラクトントリオール(例えば、300または900に等しいMnを有する)、または、1つのカルボキシル末端基および1つのヒドロキシル末端基、両端のカルボキシル基、または両端のヒドロキシル基を有する任意の合成生分解性マクロマーが挙げられる。
ジオールの不飽和基導入化合物との反応により、不飽和末端基を有する疎水性ポリマーが得られる。不飽和基導入化合物は、例えば、塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、アクリル酸、メタクリル酸、または、分子の一端に不飽和、例えばビニル基を有するイソシアネート、例えばアリルイソシアネートもしくはイソシアナトエチルメタクリレートとすることができる。ビニル末端疎水性マクロマーAは、8〜120の範囲のmersを有するポリ-D,L-乳酸から調製することができる。
親水性ポリマー(B)は多糖誘導体である。(B)を調製するために有益な適した多糖はヒドロキシ官能性ペンダント基を有し、例えば、デキストラン、イヌリン、デンプン、セルロース、プラン、レバン、マンナン、キチン、キシラン、ペクチン、グルクロナン、ラミナリン、ガラクトマンナン、アミロース、アミロペクチン、およびフィトグルカンが挙げられる。これらの多糖は、三次元ネットワークの生成を可能にする複数のヒドロキシ官能基を有する。指名された多糖は安価である。デキストランは好ましい多糖開始材料であり、最も豊富な天然由来の生分解性ポリマーの1つである。デキストランは、体内で酵素消化を受けやすく、約5〜10%の(1→3)α-結合分枝を有する主に(1→6)α-D-グルコース結合から構成される。デキストランはグルコース繰り返しユニットあたり3つのヒドロキシル基を含み、そのため、架橋ポリマーネットワークの形成を媒介する。好ましくは、デキストラン開始材料は40,000〜80,000の範囲の重量平均分子量を有する。
多糖ヒドロキシ基を、不飽和基導入化合物と反応させる。生分解性ヒドロゲルを製造する際に使用するのに適した不飽和基導入化合物としては、例えば、塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、アクリル酸、メタクリル酸、または、分子の一端に不飽和、例えばビニル基を有するイソシアネート、例えばアリルイソシアネートもしくはイソシアナトエチルメタクリレートが挙げられる。
(A)および(B)の割合、疎水性マクロマーの分子量、親水性ポリマーの分子量、および親水性ポリマーにおける置換度は、本明細書で記述したヒドロゲル形成系から調製したヒドロゲルの疎水性/親水性、機械特性、膨潤比および生分解性に影響する変数である。「膨潤比」は、公知の質量の乾燥ヒドロゲルを、15mlの液体を含むバイアル中に浸漬させ、平衡が得られるまで、規則的な時間間隔で液体から膨潤ヒドロゲルを除去し、表面水をぬぐい去り、重さを計ることにより得られる。
(B)の割合が減少し、(A)の割合が増加すると、疎水性(ならびに疎水性剤および環境との適合性)が増加し、膨潤比が減少する(膨潤比における最も大きな割合の減少が、80%〜60%の(B)の割合の減少および20%〜40%の(A)の割合の増加において見られている)。(B)の割合が増加し、(A)の割合が減少すると、ヒドロゲルの親水性、および親水性剤および環境との適合性が増加する。(A)の割合が増加すると、ヒドロゲル形成系から形成したヒドロゲルの機械特性が改善された。(A)の分子量が増加すると疎水性および機械特性が増加し、AまたはBの割合が高い場合膨潤比が増加し、形成したヒドロゲルに対する生分解時間の増加が引き起こされる。(B)の分子量が増加すると、疎水性が減少し、膨潤比が減少し、機械特性の増加が引き起こされ、ここで、(B)がデキストラン誘導体である場合、形成したヒドロゲルでのデキストラーゼによる分解に対する時間が増加する。親水性ポリマーにおける置換度が増加すると、親水性および膨潤比が(より高い重量割合のデキストラン誘導体組成物では)減少し、機械特性が増加し、形成したヒドロゲルにおける分解時間が増加する。
本明細書における形成したヒドロゲルは化学的に、ヒドロゲル形成系の成分のいずれかまたは両方と反応する創傷治癒生物活性剤を組み入れることができ;これは、生物活性剤を本明細書におけるヒドロゲル形成系の1つまたは両方と反応させることにより達成することができる。
本明細書のヒドロゲル形成系の成分と反応しない創傷治癒剤は、反応混合物中に含有させ、光架橋を受けさせ、光架橋により生物活性剤がその中にトラップされた、または封入されたヒドロゲルを形成させることにより、物理的にヒドロゲル内にトラップさせることができ、または物理的にヒドロゲル内に封入することができる。
上記パラメータを変動させることにより、機械特性、疎水性/親水性、膨潤比および生分解性を変動させるために、本明細書で記述したヒドロゲル形成系を調整し、発明の創傷包帯および装置コーティングからの、その中に分散させた前駆細胞および/または馴化培地ならびに生物活性剤の放出を制御するヒドロゲルを生成することができる。上記のように、膨潤比が高いほど、放出速度が速く、創傷清浄効用にとって重要な高い親水性と関連し、衛生目的では良好な吸収が提供される。1つの態様では、発明の創傷包帯は組織工学のための足場として前駆細胞を含むヒドロゲルを利用する。
生分解性ヒドロゲル中に組み入れることができる合成または天然ポリマーとしては、例えば、タンパク質、ペプチド、多糖およびムコ多糖が挙げられる。この代替案のためのタンパク質としては、例えば、リゾチーム、インターロイキン-1、および塩基性線維芽細胞成長因子が挙げられる。この代替案は、合成または天然ポリマー剤の制御放出投与のための良好なアプローチを提供する。
トラップされた前駆細胞、馴化培地および創傷治癒生物活性剤は、成分(A)および(B)の溶液を、溶液中で(A)および(B)の総和が30〜50%(w/v)の濃度を提供するように形成させ、光開始剤を添加し、その後、例えば、0.5〜3%((A)および(B)の総重量に基づくw/w)のトラップさせる細胞および分子を添加し、その後、フリーラジカル重合を実施させることにより、生分解性ヒドロゲル中に容易に組み入れられる。溶媒は(A)および(B)、ならびにトラップさせる作用物質が溶解するものであるべきである。(A)および(B)が溶解するそのような溶媒としては、典型的には、例えば、フッ化ジメチル(DMF)およびジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられ、選択は、(A)および(B)が溶解する溶媒から、トラップさせるべき細胞および生物活性剤も溶解させる溶媒が得られるように行われる。
追加の生物活性剤
創傷治癒包帯およびインプラントに関連して本明細書で使用されるように、「追加の生物活性剤」は、本明細書で開示したように血管の内皮再生の自然創傷治癒過程を促進する上記「創傷治癒」剤以外の治療薬または診断薬を示す。そのような追加の生物活性剤もまた、当技術分野において公知の異なる治療目的を有する挿入または移植可能な医療または治療装置の表面上のポリマーマトリクスまたはコーティング内に分散させることができ、ここで、ポリマーコーティングの治療表面または血液由来細胞もしくは因子との接触、または生分解によるポリマーコーティングからの放出が望ましい。
具体的には、そのような追加の生物活性剤としては、1つまたは複数のポリヌクレオチド、ポリペプチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、ヌクレオシド類似体、ポリ核酸デコイ、治療抗体、アブシキシマブ、血液修飾因子、抗血小板薬、抗凝固剤、免疫抑制剤、抗腫瘍薬、抗癌剤、抗細胞増殖剤、および一酸化窒素放出剤が挙げられるが、それらに限定されない。
ポリヌクレオチドはデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、二本鎖DNA、二本鎖RNA、二本鎖DNA/RNA、アンチセンスポリヌクレオチド、機能性RNAまたはそれらの組み合わせを含むことができる。1つの態様では、ポリヌクレオチドはRNAとすることができる。別の態様では、ポリヌクレオチドはDNAとすることができる。別の態様では、ポリヌクレオチドはアンチセンスポリヌクレオチドとすることができる。別の態様では、ポリヌクレオチドはセンスポリヌクレオチドとすることができる。別の態様では、ポリヌクレオチドは少なくとも1つのヌクレオチド類似体を含むことができる。別の態様では、ポリヌクレオチドは、ホスホジエステル結合された3'-5'および5'-3'ポリヌクレオチドバックボーンを含むことができる。また、ポリヌクレオチドは、非ホスホジエステル結合、例えば、ホスホチオエート型、ホスホラミデートおよびペプチド-ヌクレオチドバックボーンを含むことができる。別の態様では、部分はポリヌクレオチドのバックボーン糖に結合させることができる。そのような結合を生成する方法は当業者には周知である。
ポリヌクレオチドは一本鎖ポリヌクレオチドまたは二本鎖ポリヌクレオチドとすることができる。ポリヌクレオチドは任意の適した長さを有することができる。特に、ポリヌクレオチドは、約2〜約5,000ヌクレオチドの長さ;約2〜約1000ヌクレオチドの長さ;約2〜約100ヌクレオチドの長さ;または約2〜約10ヌクレオチドの長さとすることができる。
アンチセンスポリヌクレオチドは典型的には、標的タンパク質をコードする、mRNAに相補的なポリヌクレオチドである。例えば、mRNAは癌促進タンパク質、すなわち、癌遺伝子産物をコードすることができる。アンチセンスポリヌクレオチドは一本鎖mRNAに相補的であり、二本鎖を形成し、これにより標的遺伝子の発現を阻害し、すなわち、癌遺伝子の発現を阻害する。本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするmRNAと二本鎖を形成することができ、標的タンパク質の発現を阻止する。
「機能性RNA」はリボザイムまたは翻訳されない他のRNAを示す。
「遺伝子治療薬」は、遺伝子を標的細胞中に導入し、続いて遺伝子産物を発現させることにより、標的細胞で遺伝子産物の発現を引き起こす作用物質を示す。そのような遺伝子治療薬の例は、細胞内に導入されると、タンパク質、例えばインスリンの発現を引き起こす遺伝子コンストラクトである。また、遺伝子治療薬は、標的細胞内の遺伝子の発現を減少させることができる。そのような遺伝子治療薬の例は、ポリ核酸セグメントの細胞内への導入であり、これは標的遺伝子中に一体化され、遺伝子の発現を妨害する。そのような作用物質の例としては、相同組換えにより遺伝子を妨害することができるウイルスおよびポリヌクレオチドが挙げられる。細胞内に遺伝子を導入し、妨害する方法は当業者に周知である。
本発明のオリゴヌクレオチドは任意の適した長さを有することができる。特に、オリゴヌクレオチドは、約2〜約100ヌクレオチドの長さ;最大約20ヌクレオチドの長さ;または約15〜約30ヌクレオチドの長さとすることができる。オリゴヌクレオチドは一本鎖または二本鎖とすることができる。1つの態様では、オリゴヌクレオチドは一本鎖とすることができる。オリゴヌクレオチドはDNAまたはRNAとすることができる。1つの態様では、オリゴヌクレオチドはDNAとすることができる。1つの態様では、オリゴヌクレオチドは一般的に公知の化学法に従い合成することができる。別の態様では、オリゴヌクレオチドは商業的供給元から得ることができる。オリゴヌクレオチドとしては、少なくとも1つのヌクレオチド類似体、例えばブロモ誘導体、アジド誘導体、蛍光誘導体またはそれらの組み合わせが挙げられるが、それらに限定されない。ヌクレオチド類似体は当業者には周知である。オリゴヌクレオチドは、連鎖停止剤を含むことができる。オリゴヌクレオチドはまた、例えば、架橋剤または蛍光タグとして使用することができる。多くの一般的な結合を使用して、オリゴヌクレオチドを別の部分、例えば、ホスフェート、ヒドロキシルなどに結合させることができる。さらに、部分は、オリゴヌクレオチド中に組み入れられたヌクレオチド類似体を介してオリゴヌクレオチドに結合させてもよい。別の態様では、オリゴヌクレオチドはホスホジエステル結合された3'-5'および5'-3'オリゴヌクレオチドバックボーンを含むことができる。また、オリゴヌクレオチドは非ホスホジエステル結合、例えばホスホチオエート型、ホスホラミデートおよびペプチド-ヌクレオチドバックボーンを含むことができる。別の態様では、部分はオリゴヌクレオチドのバックボーン糖に結合させることができる。そのような結合を生成する方法は当業者には周知である。
ヌクレオチドおよびヌクレオシド類似体は、当技術分野では周知である。そのようなヌクレオシド類似体の例としては、Cytovene(登録商標)(Roche Laboratories)、Epivir(登録商標)(Glaxo Wellcome)、Gemzar(登録商標)(Lilly)、Hivid(登録商標)(Roche Laboratories)、Rebetron(登録商標)(Schering)、Videx(登録商標)(Bristol-Myers Squibb)、Zerit(登録商標)(Bristol-Myers Squibb)、およびZovirax(登録商標)(Glaxo Wellcome)が挙げられるが、それらに限定されない。Physician's Desk Reference, 2004 Editionを参照されたい。
本発明の創傷包帯および移植可能な医療機器上のコーティング中のポリマー内に分散させた追加の生物活性剤として作用するポリペプチドは、任意の適した長さを有することができる。特に、ポリペプチドは約2〜約5,000アミノ酸の長さ;約2〜約2,000アミノ酸の長さ;約2〜約1,000アミノ酸の長さ;または約2〜約100アミノ酸の長さとすることができる。
ポリペプチドはまた、「ペプチド模倣物」を含むことができる。ペプチド類似体は薬学業界では、鋳型ペプチドの特性と類似の特性を有する非ペプチド生物活性剤として一般的に使用される。これらの型の非ペプチド化合物は、「ペプチド模倣物」または「ペプチド模倣薬」と呼ばれる。Fauchere, J.(1986)Adv, Bioactive agent Res., 15:29;Veber and Freidinger (1985) TINS p.392;およびEvans et al.(1987) J. Med. Chem., 30:1229;および通常、コンピュータ分子モデリングの助けを借りて開発される。一般に、ペプチド模倣薬は構造的にはパラダイムポリペプチド(すなわち、生化学特性または薬理活性を有するポリペプチド)に類似するが、当技術分野において公知の、下記参考文献においてさらに記述されている方法により、--CH2NH--、--CH2S--、CH2-CH2--、--CH=CH--(シスおよびトランス)、--COCH2--、--CH(OH)CH2--、および--CH2SO--からなる群より選択される結合により置換されていてもよい1つまたは複数のペプチド結合を有する:Spatola, A.F. in “Chemistry and Biochemistry of Amino Acids, Peptides, and Proteins,”B. Weinstein, eds., Marcel Dekker, New York, p.267(1983);Spatola, A.F.,Vega Data(March 1983), 1(3), “Peptide Backbone Modifications”(一般総説);Morley, J.S., Trends. Pharm. Sci., (1980) pp.463-468 (一般総説); Hudson, D. et al., Int. J. Pept. Prot. Res., (1979) 14:177-185(--CH2NH--、CH2-CH2--);Spatola, A.F. et al., Life Sci., (1986) 38:1243-1249(--CH2-S--);Harm, M.M., J. Chem. Soc. Perkin Trans I(1982)307-314(--CH=CH--、シスおよびトランス);Almquist, R.G. et al., J. Med. Chem., (1980)23:2533(--COCH2--);Jennings-Whie, C. et al., Tetrahedron Lett., (1982)23:2533(--COCH2--);Szelke, M. et al., European Appln., EP 45665(1982)CA:97:39405(1982)(--CH(OH)CH2--);Holladay, M. W. et al., Tetrahedron Lett., (1983)24:4401-4404(--C(OH)CH2--);およびHruby, V.J., Life Sci., (1982)31:189-199(--CH2-S--)。そのようなペプチド模倣物は重要であり、ポリペプチド態様よりも利点を有する可能性があり、例えば下記が挙げられる:より経済的な生産、より大きな化学安定性、増強した薬理学的特性(半減期、吸着、効力、有効性など)、変更された特異性(例えば、広範囲の生物学的活性)、減少した抗原性など。
さらに、ポリペプチド内で1つまたは複数のアミノ酸を置換して(例えば、L-リシンの代わりにD-リシンを有する)、より安定なポリペプチドおよび内因性プロテアーゼ耐性ポリペプチドを生成させてもよい。
1つの態様では、本発明の創傷包帯、インプラントおよび医療機器のコーティングにおいて使用されるポリマーまたはヒドロゲル中に分散させた追加の生物活性剤ポリペプチドは抗体とすることができる。1つの局面では、抗体は細胞接着分子、例えばカドヘリン、インテグリンまたはセレクチンに結合することができる。別の局面では、抗体は細胞外基質分子、例えばコラーゲン、エラスチン、フィブロネクチンまたはラミニンに結合することができる。さらに別の局面では、抗体は受容体、例えばアドレナリン受容体、B-細胞受容体、補体受容体、コリン受容体、エストロゲン受容体、インスリン受容体、低密度リポタンパク質受容体、成長因子受容体またはT-細胞受容体に結合することができる。ポリマーに結合した抗体(直接またはリンカーによる)はまた、血小板凝集因子(例えば、フィブリノーゲン)、細胞増殖因子(例えば、成長因子およびサイトカイン)、および血液凝固因子(例えば、フィブリノーゲン)に結合することができる。別の態様では、抗体は活性物質、例えばトキシンにコンジュゲートさせることができる。別の態様では、抗体はAbciximab(ReoProR)とすることができる。Abciximabはβ(3)インテグリンに結合するキメラ抗体のFabフラグメントである。Abciximabは、例えば血液細胞上の、血小板糖タンパク質IIb/IIIa受容体に特異的である。ヒト大動脈平滑筋細胞はそれらの表面上でα(v)β(3)インテグリンを発現する。β(3)発現平滑筋細胞を処理すると、別の細胞の接着が阻害され、細胞遊走または増殖が減少する可能性がある。Abciximabはまた血小板の凝集を阻害する。
使用してもよい有益な抗血小板または抗凝固剤としては、例えば、下記が挙げられる:Coumadin(登録商標)(DuPont)、Fragmin(登録商標)(Pharmacia & Upjohn)、Heparin(登録商標)(Wyeth-Ayerst)、Lovenox(登録商標)、Normiflo(登録商標)、Orgaran(登録商標)(Organon)、Aggrastat(登録商標)(Merck)、Agrylin(登録商標)(Roberts)、Ecotrin(登録商標)(Smithkline Beecham)、Flolan(登録商標)(Glaxo Wellcome)、Halfprin(登録商標)(Kramer)、Integrillin(登録商標)(COR Therapeutics)、Integrillin(登録商標)(Key)、Persantine(登録商標)(Boehringer Ingelheim)、Plavix(登録商標)(Bristol-Myers Squibb)、ReoPro(登録商標)(Centecor)、Ticlid(登録商標)(Roche)、Abbokinase(登録商標)(Abbott)、Activase(登録商標)(Genentech)、Eminase(登録商標)(Roberts)、およびStrepase(登録商標)(Astra)。Physician's Desk Reference, 2001 Editionを参照されたい。特に、抗血小板または抗凝固剤としては、トラピジル(アバントリン)、シロスタゾール、ヘパリン、ヒルジン、またはイルプロストが挙げられる。トラピジルは化学的に、N,N-ジメチル-5-メチル-[1,2,4]トリアゾロ[1,-5-a]ピリミジン-7-アミンとして指定される。シロスタゾールは化学的に、6-[4-(1-シクロヘキシル-1H-テトラゾール-5-イル)-ブトキシ]-3,4-ジヒドロ-2(1H)-キノリノンとして指定される。ヘパリンは抗凝固活性を有するグリコサミノグリカン;D-グルコサミンおよびL-イズロン酸またはD-グルクロン酸のいずれかの繰り返しユニットから構成される様々にスルホン化された多糖鎖の不均質混合物である。ヒルジンはヒル、例えばヒルドメディシナリス(Hirudo medicinalis)から抽出した抗凝固タンパク質である。イロプロストは化学的に、5-[ヘキサヒドロ-5-ヒドロキシ-4-(3-ヒドロキシ-4-メチル-1-オクテン-6-イニル)-2(1H)-ペンタレニリデン]ペンタン酸として指定される。
免疫抑制剤としては、例えば、Azathioprine(登録商標)(Roxane)、BayRho-D(登録商標)(Bayer Biological)、CellCept(登録商標)(Roche Laboratories)、Imuran(登録商標)(Glaxo Wellcome)、MiCRhoGAM(登録商標)(Ortho-Clinical Diagnostics)、Neoran(登録商標)(Novartis)、Orthoclone OKT3(登録商標)(Ortho Biotech)、Prograf(登録商標)(Fujisawa)、PhoGAM(登録商標)(Ortho-Clinical Diagnostics)、Sandimmune(登録商標)(Novartis)、Simulect(登録商標)(Novartis)、およびZenapax(登録商標)(Roche Laboratories)が挙げられる
特に、免疫抑制剤はラパマイシンまたはサリドマイドを含むことができる。ラパマイシンはストレプトマイセス・ヒグロスコピカス(Streptomyces hygroscopicus)から単離したトリエンマクロリドである。サリドマイドは化学的に2-(2,6-ジオキソ-3-ピペリジニル)-1H-イソ-インドール-1,3(2H)-ジオンとして指定される。
本発明の創傷包帯、インプラントおよび装置コーティング中に追加の生物活性剤として組み入れることができる抗癌剤または抗細胞増殖剤としては、例えば、ヌクレオチドおよびヌクレオシド類似体、例えば2-クロロ-デオキシアデノシン、補助抗腫瘍薬、アルキル化剤、ナイトロジェンマスタード、ニトロソ尿素、抗生物質、代謝拮抗剤、ホルモン作用薬/拮抗薬、アンドロゲン、抗アンドロゲン、抗エストロゲン、エストロゲン-ナイトロジェンマスタード併用薬、ゴナドトロピン放出ホルモン(GNRH)類似体、プロゲストリン、免疫調節薬、種々の抗腫瘍薬、光感作薬、ならびに皮膚および粘膜薬が挙げられる。Physician's Desk Reference, 2005 Editionを参照されたい。
適した補助抗腫瘍薬としては、Anzemet(登録商標)(Hoeschst Marion Roussel)、Aredia(登録商標)(Novartis)、Didronel(登録商標)(MGI)、Diflucan(登録商標)(Pfizer)、Epogen(登録商標)(Amgen)、Ergamisol(登録商標)(Janssen)、Ethyol(登録商標)(Alza)、Kytril(登録商標)(SmithKline Beecham)、Leucovorin(登録商標)(Immunex)、Leucovorin(登録商標)(Glaxo Wellcome)、Leucovorin(登録商標)(Astra)、Leukine(登録商標)(Immunex)、Marinol(登録商標)(Roxane)、Mesnex(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、Neupogen(Amgen)、Procrit(登録商標)(Ortho Biotech)、Salagen(登録商標)(MGI)、Sandostatin(登録商標)(Novartis)、Zinecard(登録商標)(Pharmacia and Upjohn)、Zofran(登録商標)(Glaxo Wellcome)およびZyloprim(登録商標)(Glaxo Wellcome)が挙げられる。
適した種々のアルキル化剤としてはMyleran(登録商標)(Glaxo Wellcome)、Paraplatin(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、Platinol(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)およびThioplex(登録商標)(Immunex)が挙げられる。
適したナイトロジェンマスタードとしては、Alkeran(登録商標)(Glaxo Wellcome)、Cytoxan(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、Ifex(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、Leukeran(登録商標)(Glaxo Wellcome)およびMustgargen(登録商標)(Merck)が挙げられる。
適したニトロソ尿素としては、BiCNU(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、CeeNU(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、Gliadel(登録商標)(Rhone-Poulenc Rover)およびZanosar(登録商標)(Pharmacia and Upjohn)が挙げられる。
適した代謝拮抗薬としては、Cytostar-U(登録商標)(Pharmacia and Upjohn)、Fludara(登録商標)(Berlex)、Sterile FUDR(登録商標)(Roche Laboratories)、Leustatin(登録商標)(Ortho Biotech)、Methotrexate(登録商標)(Immunex)、Parinethol(登録商標)(Glaxo Wellcome)、Thioguanine(登録商標)(Glaxo Wellcome)、およびXeloda(登録商標)(Roche Laboratories)が挙げられる。
適したアンドロゲンとしてはNilandron(登録商標)(Hoechst Marion Roussel)およびTeslac(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)が挙げられる。
適した抗アンドロゲンとしてはCasodex(登録商標)(Zeneca)およびEulexin(登録商標)(Schering)が挙げられる。
適した抗エストロゲンとしてはArimidex(登録商標)(Zeneca)、Fareston(登録商標)(Schering)、Femara(登録商標)(Novartis)およびNolvadex(Zeneca)が挙げられる。
適したエストロゲン-ナイトロジェンマスタード併用薬としてはEmcyt(登録商標)(Pharmacia and Upjohn)が挙げられる。
適したエストロゲンとしてはEstrace(登録商標)(Bristol-Myers Squibb)およびEstrab(登録商標)(Solvay)が挙げられる。
適したゴナドトロピン放出ホルモン(GNRH)類似体としてはLeupron Depot(登録商標)(TAP)およびZoladex(登録商標)(Zeneca)が挙げられる。
適したプロゲスチンとしてはDepo-Provera(登録商標)(Pharmacia and Upjohn)およびMegace(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)が挙げられる。
適した免疫調節薬としてはErganisol(登録商標)(Janssen)およびProleukin(登録商標)(Chiron Corporation)が挙げられる。
適した様々な抗腫瘍薬としては、Camptosar(登録商標)(Pharmacia and Upjohn)、Celestone(登録商標)(Schering)、DTIC-Dome(登録商標)(Bayer)、Elspar(登録商標)(Merck)、Etopophos(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、Etopoxide(登録商標)(Astra)、Gemzar(登録商標)(Lilly)、Hexalene(登録商標)(U.S. Bioscience)、Hycantin(登録商標)(SmithKline Beecham)、Hydrea(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、Hydroxyurea(登録商標)(Roxane)、Intron A(登録商標)(Schering)、Lysodren(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、Navelbine(登録商標)(Glaxo Wellcome)、Oncaspar(登録商標)(Rhone-Poulenc Rover)、Oncovin(登録商標)(Lilly)、Proleukin(登録商標)(Chiron Corporation)、Rituxan(登録商標)(IDEC)、Rituxan(登録商標)(Genentech)、Roferon-A(登録商標)(Roche Laboratories)、Taxol(登録商標)(パクリタキソール/パクリタキセル、Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、Taxotere(登録商標)(Rhone-Poulenc Rover)、TheraCys(登録商標)(Pasteur Merieux Connaught)、Tice BCG(登録商標)(Organon)、Velban(登録商標)(Lilly)、VePesid(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)、Vesanoid(登録商標)(Roche Laboratories)およびVumon(登録商標)(Bristol-Myers Squibb Oncology/Immunology)が挙げられる。
適した光感作薬としてはPhotofrin(登録商標)(Sanofi)が挙げられる。
特に、有益な抗癌剤または抗細胞増殖剤としてはTaxol(登録商標)(パクリタキソール)、一酸化窒素様化合物、またはNicOX(NCX-4016)が挙げられる。Taxol(登録商標)(パクリタキソール)は化学的に、(2R,3S)-N-ベンゾイル-3-フェニルイソセリンとの5β,20-エポキシ-1,2α4,7β,10β,13α-ヘキサヒドロキシタクス-11-エン-9-オン4,10-ジアセテート2-ベンゾエート13-エステルとして指定され、ラパマイシン、シロリムス、エベロリムス、パクリタキセルおよびそのタキセン類似体、17AAGおよび他のゲルダナマイシン、Epothilon Dおよび他のエポシロン、Estradiolおよび関連ステロイド誘導体;Lantrunculin D、Cytochalasin A、一酸化窒素、デキサメタゾン、ならびにAngiopeptinである。抗増殖薬を使用して、限定されないが、再狭窄、血管腫(血管形成異常);炎症状態、悪性または良性腫瘍、子宮内膜症、(先天性または内分泌/ホルモン異常)、癒着(腹部または複数)、ケロイド形成、骨過成長および感染を含む、過剰な細胞増殖が一因である広範囲の異常な成長に関連する兆候を治療することができる。
一酸化窒素様化合物としては、一酸化窒素放出官能基が結合された任意の化合物(例えば、ポリマー)が挙げられる。適した一酸化窒素様化合物は、例えば、米国特許第5,650,447号で開示されているように、ウシまたはヒト血清アルブミンのS-ニトロソチオール誘導体(付加物)である。例えば、“Inhibition of neointimal proliferation in rabbits after vascular injury by a single treatment with a protein adduct of nitric oxide”;David Marks et al. J. Clin. Invest.(1995)96:2630-2638を参照されたい。NCX-4016は化学的に、2-アセトキシ-ベンゾエート2-(ニトロキシメチル)-フェニルエステルとして指定され、抗血栓剤である。
当業者は、本発明で有益な生物活性剤が、生物活性剤または上記で開示した作用物質のいずれかにおいて存在する生物活性物質であることを理解することは認識される。例えば、Taxol(登録商標)は、典型的には注射可能な淡黄色の粘性溶液として入手可能である。しかしながら、生物活性剤は、化学名、(2R,3S)-N-ベンゾイル-3-フェニルイソセリンとの5β,20-エポキシ-1,2α4,7β,10β,13α-ヘキサヒドロキシタクス-11-エン-9-オン4,10-ジアセテート2-ベンゾエート13-エステルを有する結晶粉末である。Physician's Desk Reference (PDR), Medical Economics Company(Montvale, NJ), (53rd Ed.), pp.1059-1067。
本発明の創傷包帯および装置コーティング中に含有させるための好ましい生物活性剤および薬物としては、ラパマイシンおよび任意のその類似体または誘導体、パクリタキセルまたは任意のそのタキセン類似体または誘導体、エベロリムス、シロリムス、タクロリムス、または任意のそのリムスと命名される薬物ファミリー、ならびにスタチン、例えばシムバスタチン、アトルバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン、ロスバスタチン、ゲルダナマイシン、例えば17AAG(17-アリルアミノ-17-デメトキシゲルダナマイシン);Kosan KOS-862、17-ジメチルアミノエチルアミノ-17-デメトキシ-ゲルダナマイシンならびに熱ショックタンパク質90(Hsp90)の他のポリケチド阻害剤およびCilostazolなどが挙げられる。
本明細書で使用されるように、「生物活性剤残基」または「追加の生物活性剤残基」は、1つまたは複数の空き原子価を有する、本明細書で開示されるような生物活性剤のラジカルである。ラジカルを構造式(I、III〜VII)または(X)の化合物の残基に結合させても、生物活性が実質的に保持されるならば、任意の合成的に実現可能な生物活性剤の1つまたは複数の原子を除去して空き原子価を提供することができる。所望の結合に基づき、当業者は、当技術分野において公知の手順を用いて生物活性剤から誘導することができる適当に官能化された開始剤を選択することができる。
生物活性剤の残基は、任意の試薬および反応条件を使用して形成させることができる。適した試薬および反応条件は、例えば、Advanced Organic Chemistry, Part B: Reactions and Synthesis, Second Edition, Carey and Sundberg (1983);Advanced Organic Chemistry, Reactions, Mechanisms and Structure, Second Edition, March(1977);およびComprehensive Organic Transformations, Second Edition, Larock(1999)において開示されている。
ある態様では、ポリマー/生物活性剤結合は分解し、適した、有効量の遊離生物活性剤を提供することができる。当業者により認識されるように、生物剤の化学的および治療的特性により、ある別の態様では、ポリマーに結合された生物活性剤は、依然、ポリマーに結合されたまま治療効果を達成し、例えば、標的分子をポリマーに近接して保持するようにポリマーに結合しながら機能する、「リガンド」として本明細書で公知の「粘性」ポリペプチドタンパク質Aおよびタンパク質G、ならびに標的分子上の受容体と接触する(例えば、衝突する)ことにより機能する、ブラジキニンおよび抗体の場合である。任意の適した、有効量の生物活性剤を放出させることができ、典型的には、例えば、特定のポリマー、生物活性剤および選択したポリマー/生物活性剤結合に依存する。典型的には、ポリマー/生物活性剤結合の分解により、最大約100%の生物活性剤を放出させることができる。特に、約90%まで、75%まで、50%まで、または25%までの生物活性剤をポリマーから放出させることができる。ポリマーから放出される生物活性剤の量に典型的に影響する因子は、ポリマー/生物活性剤結合の型、ならびに製剤中に存在する追加の物質の性質および量である。
ポリマー/生物活性剤結合は、所望の期間にわたって分解し、治療される創傷の型により適した有効量の生物活性剤を持続放出するように選択することができる。生物活性剤のポリマーに対する結合の化学的特性を慎重に選択することにより任意の適した有効期間を選択することができる。典型的には、約24時間、約7日間、約30日間、約90日間、および約120日間から選択される期間にわたり適した有効量の生物活性剤を放出させることができる。移植可能な創傷包帯および装置コーティングに特に適した期間はより長い。生物活性剤がポリマーから放出される期間の長さに典型的に影響する追加の因子としては、例えば、ポリマーの性質および量、生物活性剤の性質および量、ならびに製剤中に存在する追加の物質の性質および量が挙げられる。
ポリマー/リンカー/生物活性剤結合
構造式(I、III〜VII)および(X)の化合物の残基に直接結合される(例えば、共有結合により)以外に、生物活性剤残基はまた、構造式(I、III〜VII)および(X)の化合物の残基に適当なリンカーにより結合される。本発明の得られた化合物が生物活性剤として有効な治療指数を有する限り、リンカーの構造は重要ではない。
適したリンカーとしては、構造式(I、III〜VII)および(X)の化合物の残基を生物活性剤残基から、約5Å〜約200Åの距離だけ分離するリンカーが挙げられる。他の適したリンカーとしては、構造式(I、III〜VII)および(X)の化合物の残基と生物活性剤残基を約5Å〜約100Åの距離だけ分離するリンカー、ならびに構造式(I、III〜VII)および(X)の化合物の残基を生物活性剤残基から、約5Å〜約50Å、または約5Å〜約25Åの距離だけ分離するリンカーが挙げられる。
リンカーは構造式(I、III〜VII)および(X)の化合物の残基上の任意の合成的に実現可能な位置に結合させることができる。所望の結合に基づき、当業者は、構造式(I、III〜VII)および(X)の化合物および生物活性剤から、当技術分野で公知の手順を用いて誘導することができる適当に官能化させた開始材料を選択することができる。
リンカーは、構造式(I、III〜VII)および(X)の化合物の残基または生物活性剤の残基に、アミド(例えば、-N(R)C(=O)-または-C(=O)N(R)-)、エステル(例えば、-OC(=O)-または-C(-O)O-)、エーテル(例えば、-O-)、ケトン(例えば、-C(=O)-)、チオエーテル(例えば、-S-)、スルフィニル(例えば、-S(O)-)、スルホニル(例えば、-S(O)2-)、ジスルフィド(例えば、-S-S-)、アミノ(例えば、-N(R)-)または直接(例えば、C-C)結合を介して便宜的に結合させることができ、ここで、各Rは独立してHまたは(C1〜C6)アルキルである。結合は、当技術分野において公知の合成手順を用いて、適当に官能化させた開始材料から形成することができる。所望の結合に基づき、当業者は、構造式(I、III〜VII)および(X)の化合物の残基、生物活性剤の残基から、およびある結合から、当技術分野で公知の手順を用いて誘導することができる適当に官能化させた開始材料を選択することができる。
特に、リンカーは式W-A-Qの二価ラジカルとすることができ、ここでAは(C1〜C24)アルキル、(C2〜C24)アルケニル、(C2〜C24)アルキニル、(C3〜C8)シクロアルキル、または(C6〜C10)アリールであり、ここで、WおよびQはそれぞれ独立して、-N(R)C(=O)-、-C(=O)N(R)-、OC(=O)-、-C(=O)O-、-O-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S-S-、-N(R)-、-C(=O)-または直接結合(すなわち、Wおよび/またはQは存在しない)であり;ここで、各Rは独立してHまたは(C1〜C6)アルキルである。
特に、リンカーは式W-(CH2)n-Qの二価ラジカルとすることができ、ここで、nは約1〜約20、約1〜約15、約2〜約10、約2〜約6、または約4〜約6であり;ここでWおよびQはそれぞれ独立して、-N(R)C(=O)-、-C(=O)N(R)-、-OC(=O)-、-C(=O)O-、-O-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S-S-、-C(=O)-、-N(R)-、または直接結合(すなわち、Wおよび/またはQは存在しない)であり;ここで、各Rは独立してHまたは(C1〜C6)アルキルである。
特に、WおよびQはそれぞれ独立して、-N(R)C(=O)-、-C(=O)N(R)-、-OC(=O)-、-N(R)-、-C(=O)O-、-O-、または直接結合(すなわち、Wおよび/またはQは存在しない)である。特に、リンカーは多糖から形成される二価ラジカルとすることができる。特に、リンカーはシクロデキストリンから形成される二価ラジカルとすることができる。特に、リンカーは二価ラジカル、すなわち、ペプチドまたはアミノ酸から形成される二価ラジカルとすることができる。ペプチドは2〜約25のアミノ酸、2〜約15のアミノ酸、または2〜約12のアミノ酸を含むことができる。
特に、ペプチドはポリ-L-リシン(すなわち、[-NHCH[(CH2)4NH2]CO-]m-Qとすることができ、式中、QはH、(C1〜C14)アルキル、または適したカルボキシ保護基であり;および式中、mは約2〜約25である。ポリ-L-リシンは約5〜約15の残基を含むことができる(すなわち、mは約5〜約15である)。例えば、ポリ-L-リシンは約8〜約11の残基を含むことができる(すなわち、mは約8〜約11である)。
特に、ペプチドはまた、ポリ-L-グルタミン酸、ポリ-L-アスパラギン酸、ポリ-L-ヒスチジン、ポリ-L-オルニチン、ポリ-L-セリン、ポリ-L-トレオニン、ポリ-L-チロシン、ポリ-L-ロイシン、ポリ-L-リシン-L-フェニルアラニン、ポリ-L-アルギニン、またはポリ-L-リシン-L-チロシンとすることができる。
特に、リンカーは1,6-ジアミノヘキサンH2N(CH2)6NH2、1,5-ジアミノペンタンH2N(CH2)5NH2、1,4-ジアミノブタンH2N(CH2)4NH2、または1,3-ジアミノプロパンH2N(CH2)3NH2から調製することができる。
1つまたは複数の生物活性剤は、リンカーを介してポリマーに結合させることができる。特に、各生物活性剤の残基はそれぞれ、ポリマーの残基にリンカーを介して結合させることができる。任意の適した数の生物活性剤(すなわち、その残基)をポリマー(すなわち、その残基)にリンカーを介して結合させることができる。リンカーを介してポリマーに結合させることができる生物活性剤の数は典型的にはポリマーの分子量、およびポリマーが飽和か不飽和かに依存する。例えば、約450までの生物活性剤(すなわち、その残基)をポリマー(すなわち、その残基)に1つのリンカーを介して結合させることができ、約300までの生物活性剤(すなわち、その残基)をポリマー(すなわち、その残基)に1つのリンカーを介して結合させることができ、または約150までの生物活性剤(すなわち、その残基)をポリマー(すなわち、その残基)に1つのリンカーを介して結合させることができる。
本発明の1つの態様では、本明細書で開示したようなポリマー(すなわち、その残基)は、ポリマーのカルボキシル基(例えば、COOR2)を介してリンカーに結合させることができる。例えば、遊離水素、または(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルを含むポリマー残基は、リンカーのアミノ官能基またはリンカーのヒドロキシル官能基と反応し、それぞれ、アミド結合を有するポリマー/リンカーまたはカルボキシルエステル結合を有するポリマー/リンカーを提供することができる。別の態様では、カルボキシル基を、ハロゲン化アシルまたはアシル無水物に変換することができる。
本発明の1つの態様では、生物活性剤(すなわち、その残基)は、リンカーのカルボキシル基(例えば、COOR、ここでRは水素、(C6〜C10)アリール(C1〜C6)アルキルまたは(C1〜C6)アルキルである)を介してリンカーに結合させることができる。特に、生物活性剤のアミノ官能基または生物活性剤のヒドロキシル官能基はリンカーのカルボキシル基と反応し、それぞれ、アミド結合を有するリンカー/生物活性剤またはカルボン酸エステル結合を有するリンカー/生物活性剤を提供することができる。別の態様では、リンカーのカルボキシル基を、ハロゲン化アシルまたはアシル無水物に変換することができる。
ポリマーが分解するにつれ、生物活性剤がポリマー結合しているか、ポリマー内に溶解しているか、またはポリマーと混合されているかにかかわらず、生物活性剤が放出される。任意の適した、有効量の生物活性剤を放出させることができ、それは典型的には、例えば、選択した特定のポリマー、生物活性剤、リンカー、およびポリマー/リンカー/生物活性剤結合に依存する。典型的には、最大約100%の生物活性剤をポリマーから放出させることができる。特に、約90%まで、75%まで、50%まで、または25%までの生物活性剤をポリマーから放出させることができる。ポリマー/リンカー/生物活性剤から放出される生物活性剤の量に典型的に影響する因子としては、例えば、ポリマーの性質および量、生物活性剤の性質および量、リンカーの性質および量、任意のポリマー/リンカー/生物活性剤結合の性質、ならびに製剤中に存在する追加の物質の性質および量が挙げられる。
ポリマーはある期間にわたって分解し、適した、有効量の生物活性剤を提供する。任意の適した、有効期間を選択することができる。典型的には、約24時間、約7日、約30日、約90日、約120日で適した、有効量の生物活性剤を放出させることができる。前駆細胞および/または生物活性剤がポリマーから放出される期間の長さに典型的に影響する因子としては、例えば、ポリマーの性質および量、前駆細胞、馴化培地または細胞のための増殖培地の性質および量、生物活性剤の性質および量、使用した任意のリンカーの性質、ポリマー/リンカー/生物活性剤結合の性質、ならびに製剤中に存在する追加の物質の性質および量が挙げられる。
生物活性剤または追加の生物活性剤と混合されるポリマー
1つまたは複数の生物活性剤に結合させる以外に、直接またはリンカーを介してのいずれかで、本明細書で記述した医療機器構造をコーティングするために使用するポリマーを、1つまたは複数の生物活性剤または追加の生物活性剤と物理的に混合し、製剤を提供することができる。
本明細書で使用される「混合」という用語は、生物活性剤と物理的に混合された本発明のポリマーまたは本明細書で記述されるように、生物活性剤と物理的に接触するポリマーを示す。
本明細書で使用されるように、「製剤」とは、1つまたは複数の生物活性剤または追加の生物活性剤と混合させた、本明細書で記述されるポリマーを示す。製剤は、1つまたは複数の生物活性剤がポリマーの表面上に存在する、またはポリマー内に部分的に埋め込まれている、またはポリマー内に完全に埋め込まれているポリマーを含む。さらに、製剤は、均質組成物(例えば、均質製剤)を形成する、本明細書で記述されるようなポリマーおよび生物活性剤を含む。
任意の適した量のポリマーおよび生物活性剤を使用して製剤を提供することができる。ポリマーは製剤の約0.1wt%〜約99.9wt%の量で存在することができる。典型的には、ポリマーは製剤の約25wt%を超えて;製剤の約50wt%を超えて;製剤の約75wt%を超えて;または製剤の約90wt%を超えて存在することができる。同様に、生物活性剤は、製剤の約0.1wt%〜約99.9wt%の量で存在することができる。典型的には、生物活性剤は製剤の約5wt%を超えて;製剤の約10wt%を超えて;製剤の約15wt%を超えて;または製剤の約20wt%を超えて存在することができる。
本発明のさらに別の態様では、本明細書で記述されるような、ポリマー/生物活性剤、ポリマー/リンカー/生物活性剤、製剤、またはそれらの組み合わせは、医療機器の表面にポリマー膜として適用することができる。医療機器の表面の少なくとも一部は、任意の適した厚さを有するポリマーまたはヒドロゲルの膜でコートすることができる。例えば、医療機器上の膜厚は、約1〜約50ミクロンまたは約5〜約20ミクロン厚とすることができる。
ポリマーおよび/またはヒドロゲル膜は、前駆細胞またはその馴化培地を隔離するように、ならびに医療機器、例えば整形外科用インプラント上の生物活性剤溶出コーティングとして効果的に作用することができる。この生物活性コーティングは任意の適したコーティング法、例えば、医療機器上でのポリマー膜の浸漬コーティング、真空蒸着、または噴霧コーティングにより医療機器上に生成させることができ、インプラントの部位での組織病変の回復を増強する局所生物活性剤送達システム型が作成される。
1つの態様では、創傷包帯は、単層または多層創傷包帯であり、ここで、上記ポリマーは微細なポリマー糸、例えばNanoskin(商標)(MediVas、LLP、San Diego、CA)の膜またはマットの形態である。そのようなポリマー包帯は、上皮前駆細胞が播種され、または同種上皮前駆細胞から得られた馴化培地が注入されると、例えば、火傷被害者のための組織回復のための、外科用ラップとして使用することができ、この場合、表面バリアが組織回復を増強し、その上、ポリマー膜が生体吸収される。別の態様では、ポリマー糸を織り、クモの巣状とし、編むなどすることができる。例えば、ポリマーの電気紡績により、ポリマーのマイクロファイバーのランダムウェビングまたはマットを作成することができる。
ポリマー膜の少なくとも1つの表面は、サンドイッチ型構造の追加の製剤層でコートしてもよく、自然組織回復過程を促進する生物活性剤が組織に送達される。そのようなヒドロゲル系薬物放出製剤の追加の層は、ヒドロゲル中に分散させた様々な生物活性剤を含むことができ、創傷包帯のポリマー成分の溶出速度とは異なる溶出速度が提供される。任意で、多層創傷包帯はさらに、ヒドロゲル層の上に存在する閉塞層を含んでもよい。
任意の適当なサイズのポリマーおよび生物活性剤を使用して、そのような製剤を提供することができる。例えば、ポリマーは約1×10-4m未満、約1×10-5m未満、約1×10-6m未満、約1×10-7m未満、約1×10-8m未満、または約1×10-9m未満のサイズを有することができる。
製剤は分解して、適した、有効量の、自家または同種とすることができる少なくとも1つの前駆細胞を提供することができる。任意の適した、有効量の前駆細胞を放出することができ、それは典型的には、例えば、選択した特性の製剤に依存する。典型的には、最大約100%の前駆細胞または馴化培地を製剤から放出させることができる。特に、約90%まで、75%まで、50%まで、または25%までの前駆細胞または馴化培地を実質的に線形速度で製剤から放出させることができる。典型的に製剤から放出される前駆細胞または馴化培地の量または速度に影響する因子としては、例えば、創傷包帯と接触する組織の型、ポリマーまたはヒドロゲルの性質および量、ポリマーまたはヒドロゲル中の前駆細胞の分散の型、前駆細胞の性質および量、ならびに製剤中に存在する任意の追加の創傷治癒生物活性剤の性質および量が挙げられる。
製剤はある期間にわたり分解し、適した、有効量の生物活性剤を提供することができる。任意の適した、有効期間は選択することができる。例えば、ポリマーは生物活性剤が約24時間、約2日、約7日、約90日、または約120日にわたり放出されるように選択することができ、移植可能な創傷包帯が所望である場合、後者が特に有益である。生物活性剤が製剤から放出される時間の長さに典型的に影響する因子としては、例えば、ポリマーの性質および量、生物活性剤の性質および量、ならびに製剤中に存在する追加の物質の性質および量が挙げられる。
1つの態様では、本発明の創傷包帯を製造するのに使用されるポリマーは、少なくとも1つの生物活性剤と物理的に混合される。別の態様では、ポリマーは直接またはリンカーを介して、少なくとも1つの生物活性剤に結合される。別の態様では、ポリマー中に支出される前駆細胞は、ポリマー生分解中、直接またはリガンドもしくはリンカーを介して、ポリマー内に保持され、ポリマーまたはヒドロゲルはまた、増殖培地中の1つもしくは複数の前駆細胞または馴化培地、例えば無細胞馴化培地と物理的に混合することができる。
前駆細胞および/または馴化培地を含む医療機器のための本発明のポリマー/ヒドロゲルコーティングは、本明細書で記述されるように製剤中に存在しているかどうかに関係なく、本明細書で記述されるように生物活性剤に結合されるかどうかに関係なく、および本明細書で記述されるように生物活性剤と混合されているかどうかに関係なく、医療機器の製造において使用することができる。適した医療機器としては、人工関節、人工骨および椎骨内インプラント、心血管医療機器、ステント、シャント、縫合糸、人工動脈、歯および他の身体インプラントが挙げられる。
さらに別の態様では、本発明は本発明のための方法を提供し、生分解性ポリマーおよびヒドロゲル内に分散させた、幹細胞、組織特異的前駆細胞、葉系列幹細胞、および多能性幹細胞から選択された少なくとも1つの前駆細胞、および/またはそのような細胞から得られた馴化培地を備える生分解性創傷包帯を使用し、病変部位を、創傷部位の組織の回復を促進するのに適した条件下で創傷包帯と接触させることにより、哺乳類被験体における病変部位の組織の回復を促進するための方法を提供する。
この目的のために、慢性創傷を治療する際には、創傷包帯のポリマーを創傷床と接触させて配置することができ、前駆細胞および馴化培地は、ポリマーが適当な期間にわたり生分解し、その中の生物活性剤を創傷床中に放出し、一方、ポリマーが創傷床に吸収される間、周囲の組織中の細胞および因子と相互作用することができる。また、慢性創傷の治療において使用される創傷包帯は生分解性ヒドロゲル層(すなわち、非接着層)を含み、これを創傷床と接触させて配置することができる。ポリマー層およびヒドロゲル層の製剤は、個々の細胞、馴化培地および生物活性剤を異なる速度で放出するように選択することができる。本発明の方法は、静脈うっ血潰瘍、糖尿病性潰瘍、褥瘡、または虚血性潰瘍などの慢性創傷の治療において都合よく使用される。
下記実施例は本発明を説明するためのものであり、制限するものではない。
実施例
実施例1
アルギン酸による成長/生存成分の送達
本実施例は、ヒドロゲル粒子の、細胞増殖および生存のために要求される成分を送達する能力を試験するために実施した実験を説明する。ヒドロゲル粒子は、公表されたプロトコル(J Raymond et al., Am J Neuroradiol(2003) 24: 1214-1221)の適応を用いて調製した低粘度アルギン酸(AA)(Sigma Chemicals, A2158)を用いて形成させた。
予備実験から、0.5%塩化ナトリウム中で構成させた4%低粘度アルギネートは、その体積の約3分の1の所望の培地、例えば、ヒト血液から単離した前駆細胞培養物由来の馴化培地を含むことができ、その後、5%の塩化カルシウムを添加することにより架橋することができることが証明された。重合は非常に迅速に起こり、AA粒子が形成し、アルギネート内に培地が封入される。最初の24時間の間での、粒子からの培地の放出速度は非常に速く、培地の約半分が放出される。放出速度はその後、次の48時間にわたり遅くなり、培地の大部分が72時間で放出される。
AA粒子からの放出速度を説明するために、トリパンブルーを指示薬化合物としてAA中に組み入れた。トリパンブルーを含むビーズをPBSを有さないウェル中に対照として入れ、ビーズの最初の色を証明し、PBSを加えたウェルに入れ、トリパンブルーの無色PBS中への放出を観察した。各時間点(24、48および72時間)で、トリパンブルーを含むビーズをPBSから取り出し、空のウェルに入れ、対照ビーズと比較した場合の色の変化を観察した。各時間点で、観察結果を記録し、写真撮影した。
24時間で、約50%の青色が、ヒドロゲル粒子から放出され、48時間では、粒子には依然として少量の色が残るが、72時間には、AA分子にはもはや色は残っておらず、全てのトリパンブルーが放出されたことが示された。
細胞レスキュー実験
この実施例は、生存成分を細胞に送達するためのAA粒子の効率を説明する。実験は、AA粒子中に封入したウシ胎児血清(FBS)を用いて設計し、AA粒子をFBSへの他のアクセス無しで増殖する細胞に提供した。内皮または平滑筋細胞を、12ウェル組織培養プレートに播種し、FBS含有粒子をプレート中の隣接細胞挿入物内に配置した(BD 35-3180、孔サイズ0.4ミクロン)。
実験プロトコルは、内皮細胞および平滑筋細胞の両方に対し、下記条件を含んだ:
1. 細胞を15,000細胞/ウェルで、12ウェルプレートに下記培地中に播種した(SMCに対する基本培地はSmGM-2 BulletKit(Cambrex, #CC-3182)およびECに対しては、EGM-2 BulletKit(Cambrex, #CC-3162)である)。
2.完全成長因子(SMCでは、これはhEGF、インスリン、hFGF-Bを含み;およびECでは、これはhEGF、VEGF、hFGF-B、R3-IGF-1を含んだ)および5% FBS。
3.成長因子をマイナスし、5%FBSをプラス。
4.成長因子をマイナスし、血清をマイナス。
5.成長因子をマイナスし、0% FBSを含むAA粒子をプラス。
6.成長因子をマイナスし、5% FBSを含むAA粒子をプラス。
7.成長因子をマイナスし、10% FBSを含むAA粒子をプラス。
AA粒子は下記のように作製した:滅菌4%低粘度アルギン酸(AA)を、1/3(v/v)FBSに添加し、その後、5%塩化カルシウムをAAと等しい体積で添加することにより架橋させた。粒子を2度PBS中ですすぎ、その後、細胞挿入物中に入れた。
24時間および48時間で顕微鏡観察を実施し、標準ATPアッセイ法を48時間で実施し細胞増殖を測定した。この同じ実験を数回繰り返すと、AA粒子はFBSを内皮細胞および平滑筋細胞の両方に送達し、細胞増殖を増強させることができることが証明された(図1)。
実施例2
ヒドロゲル中の細胞の封入
インビトロおよびインビボ用途で最適な、高度に精製され、よく特徴分析された、非常に低レベルのエンドトキシンおよびタンパク質を有するアルギン酸ナトリウムを使用して細胞を封入した(NovaMatrix、Pronova UltraPure(UP)LVMアルギネート)。このアルギネートは、いくらかの超音波処理を用いて2% HEPES中で構成させ、AAを完全に懸濁させ、その後、濾過して滅菌する。細胞+ウシ胎児血清(FBS)をアルギネートと混合し、混合物を1ccシリンジに引き入れ、5%塩化カルシウム溶液中に滴下し粒子を形成させることにより細胞含有粒子を作成する。この過程により、約2000細胞/粒子を有する約100粒子/mlが生成する。この実験に対し使用した細胞はSMCであり、これらは通常、懸濁液中で増殖しない、強固な、固定依存細胞系である。
AA粒子内での細胞生存率を決定するために、2つの生存率染料を使用した:
(1)カルセインAM、これは完全な膜を有する細胞内に保持される。カルセインAMは死細胞を標識せず、細胞溶解を引き起こす条件下で迅速に失われる。細胞内に入ると直ちに、無色の、非蛍光性AMエステルが非特異的エステラーゼにより切断され、化合物が蛍光を発する。(2)ヨウ化プロピジウム(Propidium oodide)、これは塩基間にインターカレートすることによりDNAに結合する。ヨウ化プロピジウムは膜非透過性であり、容易に生存細胞に入らない。対照粒子はAA粒子中にSMCを封入したが、染料に暴露されなかった。落射蛍光付属品を備えたNikon Eclipse TE2000-S位相差顕微鏡を用いて顕微鏡観察結果を記録し、写真撮影した(20x倍のBar=50ミクロン)。
最大6時間後、細胞をカラー写真撮影した。落射蛍光付属品を備えたNikon Eclipse TE2000-S位相差顕微鏡を用いて顕微鏡観察結果を記録し、写真撮影すると、写真から、カルセインAMは生細胞に取り込まれたが、ヨウ化プロピジウム(PI)は取り込まれないことが示された。この結果から、粒子中の細胞はAA粒子内で数時間、依然として生存していることが示された。
2つの生存率染料に暴露した、AA粒子中に封入されたSMCを用いた一連の時間経過実験から、カルセインAMは封入細胞に取り込まれたが、ヨウ化プロピジウムは取り込まれなかったので、SMCは最大6時間までの間生存し続けたことが示された。
実施例3
ヒドロゲル封入細胞のポリマーコーティング
蛍光ダンシル-リシンにコンジュゲートさせたPEAを用いて、粒子をコートし、コーティングの一貫性および完全性のためにポリマーコーティングを可視化した。この実験結果から、コーティングの一貫性および完全性を達成するようにAA粒子をコートする信頼できる方法は、粒子をポリマー中に懸濁させ、粒子を捕獲するメッシュを通してポリマーを流すものであることが示された。その後粒子は、適当な緩衝液中に再懸濁させることによりメッシュから迅速に除去された。
その後、AA粒子に含まれるSMCが、PEA.Hポリマーを有するコーティングから生存できるかどうかを決定するために、2000平滑筋細胞/粒子を含むAA粒子を形成させた。試験AA粒子を10%(w/vエタノール)ポリマー溶液でコートし、封入細胞に入ることができる上記実施例2で示した2つの生存率染料の存在下でインキュベートした。対照粒子はSMCを封入し、染料に暴露させたが、PEAポリマーでコートしなかった。落射蛍光付属品を備えたNikon Eclipse TE2000-S位相差顕微鏡を用いて顕微鏡観察結果を記録し、写真撮影した(200x倍;Bar=50ミクロン)。
上記実施例2では、カルセインAM取込およびヨウ化プロピジウム排除により測定されるように、AA粒子内のSMCが最大6時間生存し続けることが証明された。4時間後のこれらのポリマーコート粒子の視覚検査により、全体の細胞集団は、対照粒子中の細胞よりも生存率が低いことが示された。表面付近の細胞は、ポリマーコーティングに最も影響され;一方、より内部の細胞のいくつかは数時間生存することができた。そのため、AA-封入SMCのポリマーコーティングは、細胞が生存できる時間の長さを減少させるが、細胞のポリマー封入の原理は証明された。
全ての出版物、特許および特許文書は、個々に参照により組み入れられるように、参照により本明細書に組み入れられる。本発明について、様々な特異的で好ましい態様および技術を参照して記述した。しかしながら、本発明の精神および範囲内にある限り、多くの変更および改変が行われる可能性があることを理解すべきである。
本発明について上記実施例を参照して説明してきたが、改変および変更が本発明の精神および範囲内に含まれることは理解されると思われる。したがって、本明細書の発明は添付の特許請求の範囲によってのみ制限される。