JP2008500312A - 筋萎縮性側索硬化症の治療 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、運動ニューロン疾患の処置に関する。より具体的には、本発明は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の処置に関する。前臨床ALS動物モデルへの少量の血管内皮増殖因子の脳室内送達が、該動物の有意な運動性能及び生存時間の延長を誘導することが見出される。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、発症後3〜5年以内に患者を死亡させる、壊滅的な麻痺障害である1-4。臨床症状は、主に、脊髄及び脳幹における運動ニューロンの進行性の変性に起因し、認知機能は概して残される。その疾患は、家族歴のない症例の>90%において散発的に中年期の健康な個体に影響を与える。60歳未満では女性より男性の方が多く影響を受けるが、それより高い年齢では男女とも同様に影響を受ける5。3番目に多い神経変性性障害であるALSに罹患する個体は、集団が加齢するほど、多くなる6。多くのALS患者が、四肢における筋力低下を最初に認める(「四肢発症型」ALS)。ALS患者のおよそ25%においては、最初に脳幹の運動核において運動ニューロンが変性し(「球発症型」ALS)、構語障害、嚥下困難、及び呼吸器障害を引き起こす。球発症型ALS患者は、一般に、四肢発症型患者より速くかつ攻撃的な疾患進行を示すが、後者も最終的には球症状を発症する。ほとんどの場合、運動ニューロン変性の正確な原因は、概して謎のままである2,4,7。SOD−1突然変異は、ヒトにおいて、そして過剰発現させた場合にはトランスジェニックマウスにおいても、運動ニューロン変性を引き起こす。実際、SOD−1G93Aマウスは、新規薬物候補の治療可能性を査定するための最も標準的な動物モデルとなっている8。SOD−1G93Aラットは、攻撃的な型のALSを発症するが、新規治療の評価には未だ使用されていない9,10。ALSのための認可された有効な治療法は、未だ利用可能となっていない。リルゾール(Riluzole)は、全てではないがいくつかの国において認可されている唯一の薬物であるが、生存率に対してわずかな効果しか示さず、高価であり、副作用がないわけではなく、そして重要なこととして、球症状に対しては効果がない16。ALSは運動ニューロンの変性に起因するため、脳由来神経栄養因子(BDNF)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、インスリン様増殖因子(IGF)−1、白血病抑制因子(LIF)、カルジオトロフィン(cardiotrophin)(CT)−1、及び肝細胞増殖因子(HGF)のような神経栄養性の増殖因子が、長い間、ALSのための治療候補と見なされてきた。逆行性に軸索輸送されたウイルスベクターを使用したGDNF、特にIGF−1の遺伝子導入は、SOD−1G93Aマウスの生存を延長することが示された17,18。臨床試験が進行中であるがc、ALSのための遺伝子治療の臨床的な適用可能性は未だ確立されておらず、不可逆性に関する問題、有害な染色体効果のリスク、トランスジーン発現の不十分な調節、及び大量生産の必要が、未だ克服されていない。従って、その代わりに、組換え神経栄養性増殖因子を送達することは、投与されるタンパク質の用量及び投与期間の柔軟な調節を可能とするため、魅力的な治療戦略である。しかしながら、ある研究において、IGF−1送達後に疾患進行が26%遅れ、もう一つの研究においてはそうでなかったことを除いて21,22、BDNFのくも膜下腔内注入19、GDNFの脳室内送達a、又はBDNFbもしくはCNTF20の全身投与は、現在のところ、ALS患者における実質的な臨床的改善をもたらしていない。失敗の少なくとも一部は、これらのタンパク質の全身送達後の短い半減期、免疫原性、ニューロンの生存対アポトーシスに対する用量依存的な二重の効果、望まれない毒性、及び血液脳関門通過能の限界によるかもしれない23-25。もう一つの可能性のある理由は、これらの因子のいくつかは、外因的に供給された場合、急性の損傷を受けた運動ニューロンの生存は促進しても、ALSのような慢性疾患における成人運動ニューロン生存の内因性の調節においてはそのような重要な役割を果たし得ないという事実に関係しているかもしれない。本発明者らは、低いVEGFレベルが、運動ニューロンの発達にとっては不必要であるが、遺伝学的に修飾されたマウスにおいて成人発症型ALS様運動ニューロン変性を引き起こし(WO0176620)、ヒトにおける散発性及び家族性のALSのリスクも増加させることを最近発見した13-15。VEGFは、健康及び疾患における血管増殖に関与しているプロトタイプの血管形成因子である11,12。免疫の問題及び全身性副作用を回避し、VEGFの血液脳関門を通過する能力の限界を克服し、脊髄実質における最大のVEGFタンパク質レベルを達成するため、本発明者らは、ALSのトランスジェニックSOD−1G93Aラットモデルを使用して、前臨床ALS研究において組換えタンパク質の治療可能性を調査するため、即ち、長期にわたり組換えVEGFを脳室内送達するため、以前には使用されたことがない戦略を開発した。驚くべきことに、本発明者らは、極めて低レベルのVEGFが、運動性能を有意に改善するのみならず、予想外の長い時間、ラット前臨床ALSモデルにおける生存時間を延長することを見出した。結果は、低レベルのVEGFが脳室内投与された場合、ALSに罹患した患者の疾患進行を遅延させ得ることを示している。
本発明は、少量のVEGFの脳室内(ICV)送達が、攻撃的な型のALSに罹患したラット系統の発症を遅らせ、運動性能を改善し、生存を延長することを示す。これは、前臨床ALSモデルにおける疾患特徴に対する組換え増殖因子の有意な治療効果を示す最初の研究である。BDNF、IGF−1、CNTF、LIF、及びGDNFを含む、既知の神経栄養活性を有するいくつかの組換え増殖因子が、ALS患者又はSOD1G93Aマウスにおいて評価されているが、実質的な利益を一貫して提供した組換え増殖因子は一つもなく19-22,35、従って、以前の臨床試験の失敗以来19-22、組換え増殖因子の投与は大きく魅力を失っていた。本発明者らがここで示すように、VEGFは、in vivoの運動ニューロンに対する直接的な効果を有している。VEGFがin vivoの様々なニューロン過程に影響を与えることは既知であるが15、VEGFが、ニューロンに対して直接的に効果を発揮するのか、又は他の細胞型を通して、もしくは他の分子的中間体を介して間接的に効果を発揮するのかは確立されていなかった。このように、VEGFは、多面的な活性スペクトルを有しており、それが、本発明における注目すべき治療的利益に寄与したのかもしれない。本発明は、VEGFが、運動ニューロン障害の処置、より具体的には筋萎縮性側索硬化症及び筋萎縮性側索硬化症様疾患の処置のための医薬品を製造するために使用され得ることを示す。特定の実施態様において、VEGF165−アイソフォームが、運動ニューロン障害の処置、より具体的には筋萎縮性側索硬化症及び筋萎縮性側索硬化症様疾患の処置のための医薬品の製造のために使用され、ここで、該VEGFは発症の場所の近くに連続的に投与される。VEGF165は、典型的にはヒトVEGF(hVEGF)と呼ばれる165アミノ酸タンパク質である。VEGFは、オルタナティブRNAスプライシングに起因する複数のホモダイマー型(1モノマー当たり121、145、165、189、及び206アミノ酸)として多様な組織において発現される。VEGF121は、ヘパリンに結合しない可溶性の有系分裂促進物質であり;VEGFの型が長くなるほど、次第に高い親和性でヘパリンに結合するようになる。ヘパリン結合型VEGFは、プラスミンによりカルボキシ末端で切断され、(一つ又は複数の)拡散型のVEGFを放出し得る。さらに、胎盤増殖因子(PIGF)、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、及びVEGF−Eを含む、VEGFと構造的に関係のあるいくつかの分子も、最近同定されている。Ferrara and Davis-Smyth(1997)Endocr. Rev., Ogawa et al.(1998) J.Biological Chem.273: 31273-31281; Meyer et al.(1999) EMBO J.,18: 363-374。「医薬組成物」又は「医薬品」又は「を処置するための医薬品の製造のための使用」という用語は、上に示されたような運動ニューロン疾患を処置するための、上記のようなVEGF及び医薬的に許容される担体又は賦形剤(両方の用語は、交換可能に使用され得る)を含む組成物に関する。当業者に既知の適当な担体又は賦形剤は、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、ハンクス液、不揮発性油、オレイン酸エチル、5%デキストロースを含む生理食塩水、等張性及び化学的安定性を増強する物質、緩衝液、並びに保存剤である。その他の適当な担体には、タンパク質、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合体型アミノ酸、及びアミノ酸共重合体のような組成物を受容する個体に対して有害な抗体の産生を、それ自体、誘導しない担体が含まれる。特定の実施態様において、「医薬品」は、発症の場所の近くに、ある方法により投与され得る。実際、VEGFレベル及び治療的利益の空間的な勾配は、有意なCSF代謝回転にも関わらず、VEGFが注射部位の近傍に沈着することを示している。これは、VEGF療法を患者の必要に適合させる新規の機会を提示し得る。実際、球発症型のALSに罹患した個体は、頸髄レベルにおけるVEGFのICV又はくも膜下腔内送達から、より多くの利益を得ることができ、腰髄発症型のALS患者は、腰髄レベルにおけるVEGFのくも膜下腔内注入から、より多くの利益を得ることができる。一般に、医薬品は、VEGF、より具体的にはVEGF165が、0.01〜1.5μg/kg/日、より好ましくは0.05〜1μg/kg/日、最も好ましくは0.2〜0.8μg/kg/日の用量で与えられるよう、投与される。好ましくは、連続的な注入が使用され、浸透圧ミニポンプを介した連続的な皮下送達を含む。もう一つの実施態様において、VEGF165は、VEGF165が0.05〜1μg/kg/日の範囲内の用量で発症の場所の近くに連続的に投与される、運動ニューロン疾患を処置するための医薬品の製造のために使用される。もう一つの実施態様において、VEGF165は、VEGFが0.2〜0.8μg/kg/日の範囲内の用量で発症の場所の近くに連続的に投与される、運動ニューロン疾患を処置するための医薬品の製造のために使用される。もう一つの実施態様において、該発症に近い投与は、くも膜下腔内投与である。もう一つの実施態様において、該発症に近い投与は、脳室内投与である。VEGF165の投与が、0.01〜1.4μg/kg/日又は0.01〜1.3μg/kg/日又は0.01〜1.2μg/kg/日又は0.01〜1.1μg/kg/日又は0.01〜1μg/kg/日又は0.01〜0.9μg/kg/日又は0.01〜0.8μg/kg/日又は0.01〜0.7μg/kg/日又は0.01〜0.6μg/kg/日又は0.01〜0.5μg/kg/日又は0.01〜0.4μg/kg/日又は0.01〜0.3μg/kg/日又は0.01〜0.2μg/kg/日又は0.01〜0.1μg/kg/日又は0.01〜0.09μg/kg/日又は0.01〜0.08μg/kg/日又は0.01〜0.07μg/kg/日又は0.01〜0.06μg/kg/日又は0.01〜0.05μg/kg/日又は0.01〜0.04μg/kg/日又は0.01〜0.03μg/kg/日の範囲内の用量で発症の場所の近くに連続的に投与されることも明らかであるべきである。VEGF165の投与が、0.02〜1.5μg/kg/日又は0.03〜1.5μg/kg/日又は0.04〜1.5μg/kg/日又は0.05〜1.5μg/kg/日又は0.06〜1.5μg/kg/日又は0.07〜1.5μg/kg/日又は0.08〜1.5μg/kg/日又は0.09〜1.5μg/kg/日又は0.1〜1.5μg/kg/日又は0.2〜1.5μg/kg/日又は0.3〜1.5μg/kg/日又は0.4〜1.5μg/kg/日又は0.5〜1.5μg/kg/日又は0.6〜1.5μg/kg/日又は0.7〜1.5μg/kg/日又は0.8〜1.5μg/kg/日又は0.9〜1.5μg/kg/日又は1〜1.5μg/kg/日又は1.1〜1.5μg/kg/日又は1.2〜1.5μg/kg/日又は1.3〜1.5μg/kg/日の範囲内の用量で発症の場所の近くに連続的に投与されることも明らかであるべきである。従って、特定の実施態様において、VEGFを含む組成物の注入は、くも膜下腔内である。くも膜下腔内投与は、例えば、外科的にポンプを埋め込み、脊椎へとカテーテルを送ることによって実施され得る。本発明を明確にするため、「運動ニューロン疾患」という用語を、以下に説明する。運動ニューロン疾患とは、筋肉活動を調節する中枢神経系の神経である前角細胞の変性を含む疾患の群である。これは、筋系を徐々に衰弱させ、最終的には消耗(委縮)をもたらす。運動ニューロンの疾患は、上位運動ニューロン(UMN)及び/又は下位運動ニューロン(LMN)の関与によって分類される。上位運動ニューロンは、脳、特に運動皮質から発生し、下位運動ニューロンと直接的又は間接的にシナプス接合する。上位運動ニューロンは、より正確には、プレモトニューロン(pre-motoneurons)と呼ばれ、運動のための下行性の命令の伝達を担っている。下位運動ニューロンは、内臓運動ニューロン及び体性運動ニューロンという2つのカテゴリーへと工夫できる。内臓運動ニューロンとは、腺、血管、及び平滑筋を神経支配する節ニューロンの活動を制御する自律神経節前ニューロンである。体性運動ニューロンは、骨格筋を神経支配し、第1に、その名称が暗示するように脊髄の前角に位置する前角細胞を含み、第2に、脳神経核に位置する下位運動ニューロンを含む。筋萎縮性側索硬化症又はALSは、運動ニューロン障害の最も高頻度の型である(全症例のおよそ80%を占める)。ALSは、有名なヤンキース(Yankee)の野球選手にちなんで命名されたルーゲーリッグ(Lou Gehrig's)病として既知である。ALSの初期症状は、手及び脚の衰弱であり、影響を受けた筋肉の繊維束形成である場合も多い。いずれの肢が最初に影響を受けたとしても、最終的には四肢全てが影響を受ける。上位運動ニューロンへの傷害は、筋力低下、痙縮、及び機能亢進性の深部腱反射を生ずる。下位運動ニューロン傷害は、委縮、繊維束形成、無気力、及び減少した深部腱反射を伴う筋力低下を生ずる。ALSは、脳神経の上位及び下位両方の運動ニューロンの特色を有し、従って、症状は頭部及び頸部に隔離されている。脳神経のUMN関与を示す患者もおり、これが唯一の徴候である場合、それは仮性球麻痺と呼ばれる。脊髄筋萎縮症又は進行性筋萎縮症は、脳神経を含まない、下位運動ニューロン変性による運動ニューロン疾患である。シャイドレーガー(Shy-Drager)症候群は、体位性低血圧、失禁、発汗、筋硬直、及び振戦を特徴とし、交感神経繊維が発生する脊髄内の胸髄核からのニューロンの欠損を特徴とする。脊髄の破壊的な病変は、前角細胞の欠損をもたらす。これは、大きな液体が充填された嚢胞が頚部脊髄の中心に形成される脊髄髄膜瘤及び脊髄空洞症において見られる。
1.組換えVEGFの全身送達対脳室内送達
本発明者らは、まず、いずれの経路(即ち、全身又は脳室内)を介して、VEGFが最もよく投与されるであろうかを評価した。ALSの安全かつ有効な増殖因子療法は、タンパク質の投与が、免疫応答を開始させずに又は全身的な有害効果を誘導せずに、脊髄実質における十分に高い、即ち治療的なレベルをもたらすことを必要とする。初期の研究は、全ての商業的に入手可能な組換えのヒト、ラット、又はマウスのVEGF調製物が、2日毎に1μg(血管形成を刺激するための治療的用量37)でマウスに腹腔内投与された場合、2週間以内に強い免疫応答を引き起こすことを示した。我々の大腸菌により産生されたマウスVEGFを使用した場合、最適な結果が得られたが、この調製物ですら、4週間以内に免疫応答を引き起こし、従って、VEGFの慢性全身送達は妨げられた。さらに、VEGFは親水性であり、44kDaという分子量を有し、従って、注射された用量の1%超の効率で血液脳関門又は血液脳脊髄液(CSF)関門を通過する可能性は低い38。従って、脊髄実質における十分なVEGFレベルを入手するためには、毒性の全身性副作用を誘導する可能性が高い過剰量のVEGFが投与されなければならないであろう。さらに、VEGFは、ヘパラン硫酸リッチな細胞外マトリックスによって組織内に捕獲されるのみならず、可溶性Flt1(sFlt1)、即ち、VEGF受容体−1(Flt1とも呼ばれる)の細胞外リガンド結合ドメインによって血漿中にも捕獲される39,40。しかしながら、本発明者らは、マウスにおいて脳脊髄液より5倍高い血清中の可溶性Flt1レベルを検出した(3,800±594pg/ml対810±66pg/ml;N=3;P<0.05)。従って、全身投与された場合には、脳室内投与された場合より大きなVEGFの画分が、sFlt1及びヘパラン硫酸リッチなマトリックスにより捕獲されるであろう。最後に、VEGFレベルはCSF中に検出不可能であるが41、脈絡叢は、VEGFが成人において恒常的に発現し続けている体内の少数の部位のうちの一つである42。これらの全ての理由のため、本発明者らは、VEGFの脳室内(ICV)送達が代替的なアプローチを提示するであろうか否かを評価し、増殖因子の長期ICV送達のために必要な技術を最適化した。本発明者らは、VEGF164アイソフォーム(ヒト等価物はVEGF165である)が、運動ニューロン生存を刺激するための最適の生物学的特性を示すことを以前に決定したため13(WO0176620)、残りの研究においては、このアイソフォームを使用した。全ての送達実験にラットが使用されたため(下記参照)、本発明者らは、>99%純粋であり内毒素を含まないラットVEGF164タンパク質調製物をクローニングし発現させた。
ICV送達後の中枢神経系におけるVEGFの薬物動態に関しては何も知られていない38。CSFへ投与されたVEGFが、上衣関門を越えて脊髄実質へ拡散し得るか否かすら未知である。従って、本発明者らは、まず、健康なラットにおいてICV送達後の125I−VEGFの分布パターンを決定した。ICVのボーラス注射の1時間後、まだCSF中に存在していた125I−VEGFは、注射された量の12%のみであり、70%及び12%がそれぞれ脳及び脊髄の実質において回収されたが、このことは、125I−VEGFがCSFから実質へと容易に拡散したことを示している。従って、NGFの場合と同様だが、BDNFとは異なって、上衣層は、VEGFにとっては実質へと拡散するための関門とならない38。組織1グラム当たりの125I−VEGFレベルを示すと、125I−VEGFレベルは、注射部位の近傍において最も高く、脊髄に沿った吻側尾側勾配で次第に低下し:延髄/頸髄、胸髄、及び腰髄における125I−VEGFレベルは、それぞれ脳内レベルの80%、50%、及び16%であった。注射の3時間後には、注射された125I−VEGFの30%しか脳及び脊髄に存在せず、24時間後には無視し得る程度の量が検出可能となり、125I−VEGFは排泄物中に回収されたが、このことは、その他の増殖因子について立証されているように38、VEGFが静脈系及びリンパ系へと除去されたことを示唆している。これらの実験から、2つの結論が引き出され得る。第一に、ICV送達されたVEGFは、CSFから実質内のニューロンへと迅速に拡散するが、次いで、CSFから24時間以内に除去される。ALSにおける運動ニューロンは慢性的に生存シグナルを必要としているため、VEGFは連続的に送達されるべきである。第2に、ICV送達後、VEGFは吻側尾側勾配で分布する−これは、類似した空間的パターンで運動ニューロン生存に影響を与えるという結果を有し得る。
最長8ヶ月間のGDNFの長期ICV送達は、他の神経変性性障害のためヒトにおいて達成されているが43、この経路は、前臨床ALSモデルにおいて組換え増殖因子の治療可能性を評価するためには使用されていない。組換えVEGFの長期の連続的な一定の送達を達成するため、本発明者らは、動物の背部の皮下に浸透圧ミニポンプを埋め込み、脳の側脳室において定位的に位置決めされたカテーテルにそれらを接続した。マウスにおいて側脳室にカテーテルを挿入することは技術的には実行可能であるが、マウスが頭部を引っ掻くことによりそれらを取り除こうとするため、カテーテルは脳内に固定され続けず、数週間後に取り外されることになった。さらに、身体サイズに比べて比較的大きいポンプのサイズ(身体サイズのほぼ30%)は、信頼性のある運動性能測定を妨げた。従って、本発明者らは、組換えVEGFタンパク質のICV送達の治療可能性を査定するため、SOD1G93AラットALSモデルにおいて、ポンプを埋め込み、最長4週間、化合物を送達することに決定した。4週間毎にポンプを交換することにより、本発明者らは、有害効果なしに100日超にわたり再現性よくVEGFタンパク質を送達することに成功した(下記参照)。カテーテルの正確な位置及び開存性は、解剖の時点で各ラットにおいてチェックされた。重要なこととして、VEGFは、数週間、動物体内の浸透圧ミニポンプへ取り込まれた後であっても、その受容体、VEGF受容体−1(Flt1とも呼ばれる)及びVEGF受容体−2(Flk1)と結合する生物学的活性を依然として有していた。実際、3週間後にポンプから回収されたとき、ポンプ内に残存していたVEGFの89%及び68%が、それぞれ、Flt1及びFlk1に結合したが、このことは、ポンプ内に保管されていたrVEGF164の大部分が依然として活性であったことを示している。VEGFが中枢神経系に慢性的に投与されたことはなく(最長期間は1週間であった)、VEGFの急性投与と長期投与とでは効果が異なるかもしれないため、本発明者らはVEGFの特定の用量が、数ヶ月間の長期送達の後ですら、過度の血管増殖又は漏出を引き起こすことなく、運動ニューロン生存を刺激するであろうか否かを慎重に査定した。初期の実験は、高用量のVEGF(例えば、20μg/kg/日)を脳室内に受容したラットが全て数日後に死亡することを明らかにした。2μg/kg/日では、ラットの66%が3〜4週間後に発病した。それらは、麻痺してはいなかった(動物は、押されると、まだ普通に歩行することができた)が、一般に感情鈍麻であった。脳及び脊髄の巨視的検査及び組織学的分析は、付加的な血管増殖、心室膨張、並びに脳及び脊髄の発赤及び浮腫を明らかにした。0.2〜0.6μg/kg/日の用量範囲は、100日超にわたり慢性的に投与された場合ですら、浮腫、漏出、又は過剰の血管増殖を誘導することなく、ラットによってよく容認された。この用量において、CSF中のVEGFレベルは検出不可能なままであった。SOD1G93A/LSdラット(スプラーグドーリー(Sprague-Dawley)背景で少量のSOD1G93A発現を有するSOD1G93Aラット;実施例4参照)を、0.6μg VEGF/kg/日により処理した。この用量において、CSF中のVEGFレベルは検出不可能なままであったが、それは、おそらく、注入されたVEGFが脊髄実質へと迅速に拡散したためであった。検出可能なVEGFレベルのみが病理に関連しているため41、これは重要である。従って、本発明者らは、SOD1G93Aラットを処理するために0.6μg VEGF/kg/日という用量を使用した。この用量は、全身対脳/脊髄の相対分布容積の補正の後ですら、治療的血管形成に使用される用量より5倍低い37。コントロールとして注入された人工脳脊髄液(aCSF)も、長期にわたりよく容認され、このことは、その外科的手技が安全であったことを示している。この低いVEGF用量のもう一つの利点は、免疫応答を誘導しないということであった。実際、0.2〜0.6μg/kg/日の用量範囲のVEGFの100日間の送達の後ですら、抗VEGF抗体は、ラットの末梢血又はCSFの中に検出可能でなかった。
SOD1G93Aラットは、新規のALS治療パラダイムを評価するために以前に使用されたことはない。本発明者らは、スプラーグドーリーを背景(Sd)としてナガイ(Nagai)ら10により作出されたSOD1G93A/LSdラットを使用した(「L」は、このモデルにおける、低い、例えば2倍増加したSOD1G93Aレベルを示す)。このモデルにおける疾患進行は極めて攻撃的であり、疾患発症後10日以内に動物を死亡させる10。SOD1G93A/LSdラットは、95〜145日という範囲の、疾患発症の大きな同腹仔間可変性を示した。この可変性を減少させるため、本発明者らはSOD1G93A/Lsd同腹仔を使用し、対で結果を分析した(N=17ラットを6同腹仔対で分析した;詳細に関しては、方法を参照のこと)。60日齢における0.6μg VEGF/kg/日によるSOD1G93A/Lsdラットの処理は、コントロール人工CSF(aCSF)と比較して、疾患発症を有意に遅らせ、判定方法に関わらず、運動性能及び全体的な臨床結果を改善した。例えば、aCSF−動物が既に麻痺のサインを示し、次第に不動になり悪液質になりつつあった時点で、VEGFにより処理されたSOD1G93A/LSdラットは、一般に、活動的で、可動性で、注意力を有しており、毛づくろいを示した。コントロール動物は、VEGFにより処理されたラットより重度の筋萎縮を有していた。VEGFのICV送達は、後肢の引きずり、又は歩行もしくは立ち直りの際の前肢の不使用として判定された四肢麻痺の発症を10日間遅らせた(P<0.05)。レーザービーム検出系10を使用して、本発明者らは、ラットが「アクティビティケージ」において等間隔に配置されたレーザービームを1時間当たり少なくとも1,000回通過することができなくなる齢(自発的歩行行動の尺度)を同定した。VEGF送達後、ラットは、より高い齢において自発的に活動的なままであった(aCSFの135±5日に対し146±8日、VEGF;P<0.05)。また、本発明者らは、自発的活動の付加的な尺度として、ラットをビデオテープに録画し、ラットがケージ内を探索するのに費やした時間を決定し、ラットが後肢で立ち上がる頻度を計数した。疾患発症前、即ち110日齢においては、両方の群が同等に活動的にケージ内を探索し、同等の頻度で立ち上がりを示した(P=NS)。aCSF−ラットが四肢麻痺の最初のサインを示してから4日後、VEGFにより処理されたラットは、aCSFにより処理された動物より長時間ケージ内を探索し、より高頻度に立ち上がりを示した(P<0.05)。最後に、VEGFは、これらのALSラットの生存を10日間延長した(P<0.01)。従って、このモデルにおける極めて急速な疾患進行及び疾患発症の大きな同腹仔間可変性にも関わらず、VEGF処理は、有害効果を引き起こすことなく、SOD1G93A/LSdラットの発症を遅らせ、運動性能を改善し、生存を延長した。
本発明者らは、in vivoでVEGFが運動ニューロン生存を延長したメカニズムをさらに調査した。in vitroの研究は、VEGFが、VEGF受容体−2(Flk1とも呼ばれる)と結合することにより、ストレスによって誘導される細胞死から運動ニューロンを保護することを示したが13、in vivoのVEGFの直接的な神経栄養活性は証明されていない。後者の問題に取り組むため、本発明者らは、出生後のニューロンにおいてマウスFlk1の発現を駆動するためThy1.2発現カセットを使用してトランスジェニックマウスを作出した45。Thy−Flk1マウスは、非トランスジェニック同腹仔と比較して、より多くのFlk1 mRNA転写物(HPRT103コピー当たりのFlk1コピー数:470±45対50±5;N=3;P<0.05)及びタンパク質を発現した。非トランスジェニック同腹仔におけるFlk1発現は、血管において検出可能であり、より低いレベルで大きな運動ニューロンにおいても検出可能であった。対照的に、Thy−Flk1マウスにおいては、内皮細胞における基線発現に加え、高いFlk1レベルが前角の大きな運動ニューロンに存在した。Thy−Flk1マウスは、健康で、繁殖能を有しているようであり、SOD1G93Aマウスと交配された。注目すべきことに、SOD1G93AマウスにおけるFlk1のニューロン過剰発現は、運動障害の発症を23日遅らせ(N=8;P<0.001)、Thy1−Flk1:SOD1G93Aマウスは、26日間、SOD1G93Aマウスより高い性能を有していた(N=8;P<0.01)。さらに、Thy1−Flk1:SOD1G93Aマウスは、SOD1G93A同腹仔より10日間長く生存した(N=8、P<0.05)。従って、これらの遺伝学的所見は、運動ニューロン上のFlk1が、内因性VEGFの重要な生存シグナルを伝達し、それにより、ALSにおける早熟の運動ニューロン変性を遅らせることを示している。Flk1の神経保護効果についてのさらなる証拠は、VEGFシグナル伝達を損なうドミナントネガティブFlk1のニューロン発現を駆動するために同Thy1.2発現カセットを使用してトランスジェニックマウスを作出することにより提供された(Flk1DN)。Thy−Flk1DNマウスは、運動ニューロンにおいて高レベルのFlk1DNトランスジーンも発現した。3ヶ月齢において、Thy−Flk1DNマウスは、健康で、繁殖能を有し、正常な筋力、運動性能、及び運動ニューロン数(SMI32+運動ニューロン/前角:野生型マウス31±4.4に対しThy−Flk1DNマウス29±1.2;N=4;P=NS)を有していた。運動ニューロンにストレスを与えるため、マウスを、30日間1日おきに、10%O2を有するチャンバーに収容した。慢性の断続的な低酸素は、脊髄におけるVEGFレベルをアップレギュレートした(pg VEGF/μgタンパク質:正常酸素12±0.5に対し低酸素22±1.4;N=5;P<0.05)。野生型マウスは、問題なく低酸素症に耐え、それらの握力はわずかに増加すらした。対照的に、Thy−Flk1DNマウスは、低酸素曝露後1週間以内に握力を25%失い、実験の残りの間、より弱いままであった。組織学的分析は、Thy−Flk1DNマウスの灰白質における著しいグリオーシスを示したが、野生型マウスにおいては示さなかった(前角におけるGFAP+面積/灰白質面積:野生型0.13±0.45%に対しThy−Flk1DN 2.7±0.45%;N=3〜5;P<0.05)。さらに、Thy−Flk1DNマウスにおける運動ニューロンは、リン酸化された神経フィラメントを蓄積したが、野生型マウスにおいては蓄積しなかった(SMI31+ニューロン/10前角切片:野生型ゼロに対しThy−Flk1DN 15.3±7.2;N=3〜5;P<0.05)。従って、これらの所見は、Flk1が、低酸素ストレス条件における成人運動ニューロン維持において重要な防御的役割を有していることを例示している。
1.組換えラットVEGF164(VEGF164)の作製
ラットcDNAライブラリーから増幅されたVEGF164 cDNAを、製造業者(Invitrogen,Carlsbad,CA)の指示に従って、pPICZαA分泌ベクターへとクローニングし、ピキアパストリス(Pichia pastoris)酵母発現系を使用して発現させた。酵母条件培地を10mM 酢酸(pH5.5)に対して一夜透析した後、フェニルセファロース(phenyl Sepharose)6ファーストフロー(Phast flow)カラム及びヘパリン−アガロースカラム(いずれもAmersham Pharmacia Biotech製)における逐次クロマトグラフィによりVEGFを精製した。VEGF濃度を、ラットデュオセット(Duoset)ELISA(R&D Systems,Abingdon,UK)を使用して決定した。次いで、精製されたVEGF164を電気泳動にかけ、非還元条件下及び還元条件下でそれぞれ45kDa又は22kDaに染色された単一のバンドを、ゲルのクーマシーブルー染色及び銀染色により可視化した。バンドは、rVEGF164に特異的なモノクローナル抗体(R&D Systems)によるイムノブロッティング及びエドマン(Edman)の分解プロトコル後のN末端配列決定により、組換えラットVEGF164であることが確認された。顕著な45kDaのバンドをトリプシンで消化し、続いて、切断されたペプチドをdHPLCで分離した後、3つの内部ペプチドを選択し、エドマンの分解プロトコルに従ってN末端配列決定した。3つのペプチドは、全て、発表されているVEGF164アミノ酸配列と完全に一致した。
固定化されたrhFc−FLT1受容体及びrhFc−FLK1受容体(R&D Systems)との我々のVEGF164調製物の結合を、商業的に入手可能なラットVEGF164のものと比較した。結合したVEGF164を、ビオチン化抗ラットVEGF抗体(R&D Systems;200ng/ml)、ABCベクター染色キット、及び分光測定的読み出しを使用して検出した。我々が作成したVEGF164は、rhFc−FLK1に対するより高い親和性及びrhFc−FLT1に対する類似した結合親和性を示した。内毒素レベルを、リムルスアメボサイトライセート(Limulus Amebocyte Lysate)(LAL)キット(Bio-Whittaker, Waikersville, USA)を使用することにより決定したところ、VEGF164 350μg当たり1内毒素単位(又はVEGF164 1μg当たり3E10−3内毒素単位)の存在が明らかとなった。
25μCi/μg VEGF165の比放射能を有する放射標識されたヒト125I−VEGFを、アマシャムファルマシア(Amersham Pharmacia)から購入した。この調製物100ngを、10μLに溶解させ、33ゲージハミルトン針を使用することにより、健康な雌ウィスター(Wistar)ラットの左側脳室へと定位的に注射した−定位座標は、浸透圧ポンプの埋め込みの場合と同一であった(下記参照)。ICV注射に続いて、1、3、及び24時間後にラットを解剖し、脳、脊髄(頸髄、胸髄、及び腰髄へと分割された)、血液、並びにその他の器官(肝臓、腸、心臓等)を計量し、全カウント毎分(cpm)をガンマ−カウンターを使用して測定した。脳の実質における125I−hVEGF165の分布を、ミクロオートラジオグラフィーにより評価した。まず、125I標識VEGF165を含有している脳及び脊髄の凍結切片を、写真乳剤(Kodak,Cedex,France)に浸漬した。2日間の曝露の後、乳化された切片を現像し、光学顕微鏡検により検出されるような銀粒子の位置を使用して、125I標識VEGF165の組織分布を決定した。
以前に記載されたようにして59、成人ニューロンにおいて特異的にFlk−1を発現するトランスジェニックマウスを、マウスThy1.2発現カセットを使用して作出した。マウスFlk−1 cDNAをThy−1.2発現カセットへとクローニングし、標準的な微量注入技術を使用して、直鎖化された構築物をFvBマウス胚へと微量注入した。以前に記載されたようにして13,37、ファウンダーをPCRを使用して同定し、トランスジーンの発現をRT−PCR、ウェスタンブロッティング、及び免疫染色により決定した。
ヒトSOD1G93Aトランスジーンを発現するスプラーグドーリーラット(SOD1G93A−L)は、Dr.Itoyama10より寄贈され、ヒトSOD1G93Aトランスジーンを発現するマウスは、FvB背景において10世代を超えて戻し交配され、Dr.C.Kunst60より寄贈された。全ての動物実験が、地域の動物倫理委員会により承認された。
組換えラットVEGF164をラットの脳室へと注入するため、脳注入カニューレとカテーテルで接続されたアルゼット(Alzet)浸透圧ポンプ(モデル2004)を使用した。脳注入アセンブリに、5μg/ml組換えラットVEGF164溶液200μl又は人工CSFを充填し、生理食塩水で48時間プライミングした。人工CSFの組成は、150mM Na+、3mM K+、1.4mM Ca2+、0.8mM Mg2+、1mM PO4 3-、155mM Cl-であった。ポンプの埋め込みのため、ラットにハロセンで麻酔をかけ、目の後から出発して正中矢状切開を行い、頭蓋を露出させた。ラットの背部の肩甲中央(midscapular)領域に皮下ポケットを調製し、浸透圧ポンプをポケットへと挿入した。頭蓋に穴を空け、以下の定位座標を使用してカニューレを設置した:前頂部より0.8mm後側、頭蓋表面から1.6mm外側かつ4.5mm腹側。埋め込み手技が完了した時、皮膚切開部を縫合し、ラットを回復させた。28日後、空になった浸透圧ポンプを、新鮮な、完全に負荷されプライミングされた浸透圧ポンプと交換した。そのためには、ラットに再び麻酔をかけ、背部の肩甲中央部に小さな皮膚切開部を作成した。消費されたポンプの5mm前方でカテーテルを切断し、新鮮なポンプをカテーテル管材料に取り付けた。この手技は、0.25μl/h(1.25ng VEGF/時に相当)の速度でのVEGF164のCSFへの連続的な注入をもたらす。予防試験においては、60日齢でポンプを埋め込み、後退試験においては、80日(疾患発症齢)でポンプを埋め込んだ。マウスを、30日間1日おきに、12%酸素を含有している酸素チャンバーに移すことにより、慢性の断続的な低酸素に曝した。
週に3回、ラットの運動性能を、ロータロッド、筋力計、及び自発的活動尺度を使用してテストした。一定の回転スピード(毎分15回転)を有するラット用ロータロッド(Ugo Basile, Comerio VA, Italy)を使用した。最大180秒の試験5回の平均を、所定の日に決定した。ラットがロータロッド上に留まることができた平均時間が120秒未満であった場合、これを失敗と見なした。筋力計テストに関しては、各ラットについて試験5回の平均を得、ラットが平均800mgを引っ張ることができなかった場合、これを失敗と見なした。自発的活動を定量化するためには、ラットを3時間アクティビティケージ(Ugo Basile)に置き、1時間当たりの平均活動、即ち、ラットがケージ床より10cm上に位置付けられた赤外線ビームを通過する回数を計算した。ラットの疾患発症齢を判定する基準としては、歩行中の肢の引きずりを使用した。以前の研究においては、動物が最大30秒間片側に回された後に立ち直ることができない場合を、「臨床死」として判定した9。しかしながら、初期の実験は、立ち直りができないSOD1G93Aラットであっても、数日間生存し得ることを明らかにした−これは、前肢疾患を有するラットの場合、特に当てはまった。従って、本発明者らは、最終症状前(presymptomatic)齢における最初の体重の40%をラットが失った日として、死亡時点を判定した(実験は、その後24〜36時間以内に動物を示したため)。記載された臨床テストにより作出されたデータ、及び生存データを、カプランマイヤー(Kaplan Meyer)の統計分析を使用して、又はANOVA反復測定(ロータロッド、筋力計、及び活動)を使用することにより分析した。
動物を、深いネンブタール麻酔下で、経心的に、0.9%NaCl溶液で灌流し、続いて1%リン酸緩衝パラホルムアルデヒドで灌流した。脊髄及び脳を解剖し、同固定液で一夜後固定し、脱水し、パラフィンで包埋した。連続切片を、脳については20μm、脊髄については7μmの厚さで切断した。免疫組織化学には、以下のような一次抗体を使用した:マウス抗SMI−32及びマウス抗SMI−31(いずれも1:500、Sternberger Monoclonals);マウス抗GFAP(1:400、Sigma);ヤギ抗Glut−1(1:20、Santa Cruz Biotechnology);ウサギ抗ユビキチン(1/100、Dako)、及びウサギ抗アルブミン(1:250、ICN/Cappel)。脊髄の運動ニューロン計数に関しては、前角のSMI−32陽性ニューロンを、350μmの距離の等間隔の5つの切片において両側的に計数した。顔面神経核の運動ニューロンの数を決定するためには、10番目毎の脳幹切片を染色し、顔面神経核部の全SMI−32陽性ニューロンを計数した。顔面神経核の運動ニューロンの総数を推定するため、この数に10を掛けた。
脊髄及び血漿におけるVEGF164のレベルは、aCSFで処理されたマウスにおいてもVEGFで処理されたマウスにおいても、ELISA検出限界(32.5pg/mL;R&D Systems)未満であった(各群n=7)。VEGFで処理されたラットにおいて、循環血中抗VEGF抗体が存在するか否かを検出するため、96穴マイクロタイタープレートを、1μg/ml VEGF164タンパク質溶液100μlにより一夜コーティングした。aCSFで処理されたラット及びVEGFで処理されたラットからの血漿又はCSFと共にインキュベートした後、結合した抗VEGF164抗体を、HRP標識抗ラット免疫グロブリン(DAKO;200ng/ml)、ABCベクター染色キット、及び分光測定的読み出しを使用することにより検出した。
本発明者らはSPSSバージョン10を全ての統計計算に使用した。累積生存率統計は、カプランマイヤー統計を使用することにより計算した。自発的活動、ロータロッド、及び体重減少のデータは、反復測定ANOVAを使用して分析した。組織学的研究のための有意差を計算するためには、スチューデントt検定を使用した。
Claims (6)
- 運動ニューロン疾患を処置するための医薬品の製造のためのVEGFの使用であって、該VEGFが0.05〜1μg/kg/日の範囲内の用量で発症の場所の近くに連続的に投与される、使用。
- 用量が0.2〜0.8μg/kg/日の範囲内である、請求項1記載の使用。
- 投与がくも膜下腔内である、請求項1記載の使用。
- 投与が脳室内である、請求項1記載の使用。
- VEGFの連続的な投与が、埋め込まれた浸透圧ミニポンプを介して行われる、請求項1記載の使用。
- 運動ニューロン疾患が筋萎縮性側索硬化症である、請求項1記載の使用。
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