JP2008308423A - 両親媒性の高分子配位子によって安定化された高分子錯体および検査用組成物および医薬組成物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】疎水性配位子と親水性ポリマーからなる両親媒性のブロック共重合体と1種以上の金属原子からなる高分子錯体、より詳しくは、側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を含むヘリックス構造のデプシペプチドまたはペプチドからなる疎水性配位子と親水性ポリマーからなる両親媒性のブロック共重合体と1種以上の金属原子からなる高分子錯体。
【選択図】図10
Description
本発明の高分子錯体は、水系環境下に於いても金属原子を穏和な条件で簡便かつ安定に配位させることができるため、生体材料や医薬組成物として、より具体的には放射性薬剤、常磁性薬剤、蛍光性薬剤として、種々の異常組織の診断および治療に、特にある種の癌の診断および治療に有用である。
生物体に由来する、金属原子を比較的強固に結合した蛋白質は、金属蛋白質と呼ばれ、金属イオンの運搬や貯蔵、金属原子による活性中心を持つ酵素や電子伝達体として細胞の内外で機能を発揮している(例えば、非特許文献1)。金属原子の結合部位には主として蛋白質を構成するアミノ酸側鎖や主鎖が用いられている。特に複素環のイミダゾール基を有するヒスチジンは窒素原子の配位子として優れており、金属酵素の化学進化(例えば、非特許文献2)の過程で多くの金属蛋白に用いられるようになったと考えられる。
(a) Fe蛋白質
Fe原子の結合形式によって大きく3種類、Feイオンが低分子金属錯体であるヘム(Fe-ポルフィリン錯体)として結合しているヘム蛋白質、Feイオンがヘムを介さずに蛋白質へ結合している非ヘム蛋白質、Feイオンが硫黄原子とのクラスターとして蛋白質へ結合している鉄-硫黄蛋白質、に分類される。ヘム蛋白のシトクロムcでは、ヘム中のFeイオンにヒスチジンのイミダゾール基の窒素原子が配位している(例えば、非特許文献3)。非ヘム蛋白質ではメタンモノオキシゲナーゼ(例えば、非特許文献4)の2つのFeイオンに、鉄-硫黄蛋白質ではヒドロゲナーゼ(例えば、非特許文献5)の[4Fe4S]クラスターに、ヒスチジン側鎖の配位が見られる。
結晶構造が解明される以前から、分光学的に分類されてきた、Type I、Type II、Type IIIと呼ばれるCu蛋白質は、何れもヒスチジン側鎖の配位が見られる。Type Iに分類されるプラストシアニン(例えば、非特許文献6)は2つのイミダゾール基の窒素原子が配位している。その他にType IIとしてガラクトースオキシダーゼ(例えば、非特許文献7)、Type IIIとして2つのCuイオンを有するヘモシアニン(例えば、非特許文献8)が例として挙げられる。その他にマルチCu蛋白質であるアスコルビン酸酸化酵素(例えば、非特許文献9)、亜硝酸還元酵素(例えば、非特許文献10)にもヒスチジン側鎖の配位が見られる。
カルボキシペプチターゼA(例えば、非特許文献11)、炭酸脱水素酵素(例えば、非特許文献12)、アルコールデヒドロゲナーゼ(例えば、非特許文献13)では、酵素活性中心のZnイオンに1〜3つのイミダゾール基が配位して反応性が調節されている。酵素とは異なり、DNAに結合して遺伝子の発現と制御を行う亜鉛フィンガーと呼ばれる蛋白質
(例えば、非特許文献14)にもヒスチジン側鎖の配位が見られる。
複数のNiイオンを有するウレアーゼ(例えば、非特許文献15)、Fe-Mo-Sで構成されるクラスターを有するニトロゲナーゼ(例えば、非特許文献16)に於いて、金属原子とイミダゾール基の窒素原子の配位結合が知られている。
従来、医薬品として金属原子から発生する放射線を利用する場合(異常組織の破壊)、トレーサーとして他の医薬品に結合させる場合(異常組織の検出)に、錯体を形成する様々な配位子が用いられてきた。これらの配位子は厳密な意味でのキレート効果を利用しない場合も含めて「キレート剤」と一般に呼ばれており、放射性医薬品の重要な開発分野である。
分子プローブ(例えば、モノクローナル抗体)の開発、(c)組織の検出に用いる高分子プローブと組み合わせて用いる「キレート剤」の開発、の3点が重要である。例えば、放射性同位元素に金属元素を用いる場合、モノクローナル抗体と金属原子が直接に錯形成するのではなく、モノクローナル抗体に結合されたキレート剤に対して金属原子を錯形成させて用いる。この方法は、放射線によって異常組織を破壊することや異常組織の画像を作り出す、放射線治療や放射線診断として広く用いられている(例えば、特許文献1〜5)。その他に、放射性同位体ではなく常磁性金属イオンと「キレート剤」と抗体による高分子錯体を用いて同様に、異常組織の画像診断を行うことができる(MRI法)。これも広義の放射性医薬品として盛んに研究が行われている(例えば、特許文献6〜9)。
従来の「キレート剤」のうち、多く用いられているDTPAは、使用例が多いことに特徴がある。しかしカルボン酸と三級アミンのからなる親水性の低分子配位子であることから、(a) 金属蛋白質に見られるような、金属原子の種類や酸化状態に合わせた配位子ではないこと、(b) より安定な他の金属イオンとの交換反応、(c) DTPA無水物を用いた高分子プローブとの結合生成、の3点が問題点として挙げられる。(a)は(b)は金属イオンが「キレート剤」から解離して特定の組織に集積することが問題となりうる(DTPAではないが64Cuと大環状キレート配位子の研究例で、非特許文献20)。(c)はモノクローナル抗体−キレート剤の結合を生成する際に用いるDTPA無水物の反応性が低いこと、pHを8.5〜9.0とアルカリ条件で長時間反応させなくてはならないことが欠点として挙げられる。
金属蛋白質は、金属原子を持たないポリペプチド鎖(アポ蛋白)に金属原子を導入する、再構成反応に於いて高温処理の必要がない。またこの再構成反応に於いては、常温でも極めて短時間のうちに、極めて安定に金属原子が導入される(ホロ蛋白の生成)場合が多い。このように高分子錯体の観点から見て、金属蛋白質は極めて魅力的な特徴を備えている。しかしこれらの性質を、生体高分子材料や医薬組成物として利用した例はなかった。
両親媒性の高分子化合物を水中に分散させると、複数の高分子鎖が会合して、疎水性の内核と親水性の外殻を持つ、ミセル構造を形成する。一般に高分子ミセルは石鹸に代表される低分子ミセルの1/1,000−1/10,000ときわめて低い臨界ミセル濃度を持つ。また高分子ミセルの粒径は10-100 nmの範囲内にあり、ガン組織や炎症組織の血管壁から漏出しやすい(EPR効果; 例えば、非特許文献23)。その結果ミセル内に内包させた有効な医薬をこれらの異常組織に蓄積し、異常組織へ長期にわたって薬物を暴露させることができることが知られている。
Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-OEt (3)の研究を行ってきた。この化合物は有機溶媒に対し優れた溶解性と、CH3CN中でCoCl2と1:1キレート錯体を形成する(例えば、Ryo Nakaiら, Peptide Science 2002, The Japanese Peptide Society, 2003年, pp. 313-316.)。
そこでペプチド3のC末端にpolyethylene glycol4000 (PEG4000)を結合した、キレート型両親媒性高分子配位子Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (キレート型、2)を合成した。
このように種々の両親媒性高分子配位子および錯体について、合成から体内動態まで鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
(1)疎水性配位子と親水性ポリマーからなる両親媒性のブロック共重合体と1種以上の金属原子からなる高分子錯体。
(2)両親媒性のブロック共重合体が、下記一般式 (I)、(II)又は(II') で表される、(1)の高分子錯体。
親水性ポリマー-block-疎水性配位子 (I)
疎水性配位子-block-親水性ポリマー (II)
疎水性配位子-block-親水性ポリマー-block-疎水性配位子(II')
(3)疎水性配位子が、側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を含むヘリックス構造のデプシペプチドまたはペプチドである、(1)または(2)の高分子錯体。(4)側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を含むヘリックス構造を有するデプシペプチドまたはペプチドが、側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸と、ロイシン、フェニルアラニン、γ-保護グルタミン酸、ε−保護リジン、メチオニン、ヒドロキシカルボン酸および下記一般式(III)で表されるα-メチルアミノ酸から選択される1種類以上によって構成される、(3)の高分子錯体。
R1−Xaa−R4 (A)
R1−Xaa−R2−Yaa−R4 (B)
R1−Xaa−R2−Yaa−R3−Zaa−R4 (C)
(式中、XaaおよびYaaおよびZaaは側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を表し、R1はXaaに結合した、アミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸、もしくはデプシペプチド、または水素原子もしくはアミノ基の保護基を表し、R2およびR3はXaaおよびYaaに結合したアミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸もしくはデプシペプチドを表し、R4はXaaまたはYaaまたはZaaに結合した、アミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸もしくはデプシペプチド、またはXaaまたはYaaまたはZaaが直接親水性ポリマーに結合した単結合を表す。)
(6)側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸が、下記一般式(IV)〜(VIII)の何れかのアミノ酸である、(3)〜(5)の何れかの高分子錯体。
(7)一般式(A)が下記一般式(a)であり、一般式(B)が下記一般式(b)であり、一般式(C)が下記一般式(c)である、(5)の高分子錯体。
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(a)
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Yaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(b)
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Yaa-Leu-Leu-Aib-Zaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(c)
(Aib は aminoisobutylic acid 残基を表し、Y1はアミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸、もしくはデプシペプチドまたはアミノ基の保護基を表す。)
(8)親水性ポリマーがポリアルキレングリコールである、(1)〜(7)の何れかの高分子錯体。
(9)金属原子がアルカリ土類金属、遷移金属、後遷移金属、ランタニド、アクチニドから選択される、(1)〜(8)の何れかの高分子錯体。
(10)金属原子が放射性核種、または常磁性イオン、蛍光性イオン、もしくはこれらの金属クラスターを形成する金属原子である、(9)の高分子錯体。
(11)金属原子が、7Be、47Ca、46Sc、47Sc、48V、51Cr、52Mn、54Mn、52Fe、59Fe、55Co、56Co、57Co、58Co、63Ni、60Cu、61Cu、62Cu、64Cu、67Cu、62Zn、65Zn、66Ga、67Ga
、68Ga、89Sr、86Y、87Y、88Y、90Y、88Zr、89Zr、95Zr、95mTc、96Tc、99mTc、99Mo、97Ru、103Ru、99Rh、101mRh、105Rh、186Rh、105Cd、107Cd、107mAg、111Ag、111In、114mIn、117mSn、131Ba、139Ce、141Ce、145Eu、147Eu、146Gd、149Gd、149Pm、153Tb、155Tb、166Ho、167Tm、169Yb、171Lu、172Lu、177Lu、177mLu、175Hf、178W、183Re、185Re、186Re、187Re、188Re、191Pt、190Ir、192Ir、188Pt、191Pt、193mPt、195mPt、192Ir、198Au、199Au、201Tl、203Hgからなる群より選ばれる1種または複数の放射性核種である、(1)〜(9)の何れかの高分子錯体。
(12)金属原子が低分子金属錯体を形成した金属原子である、(1)〜(9)の何れかの高分子錯体。
(13)低分子金属錯体が、ポルフィリン配位子、クロリン配位子、シッフ塩基配位子、チオラート配位子、チオエーテル配位子、イミダゾール配位子、フェノラート配位子からなる群より選ばれる1種または複数の配位子を有する低分子錯体である、(12)の高分子錯体。
(14)(1)〜(13)の何れかの高分子錯体を含む医薬組成物。
(15)がんの治療または診断のための、(14)の医薬組成物。
両親媒性のブロック共重合体としては、例えば、下記一般式 (I)または(II)または(II')で表されるものが挙げられる。
親水性ポリマー-block-疎水性配位子 (I)
疎水性配位子-block-親水性ポリマー (II)
疎水性配位子-block-親水性ポリマー-block-疎水性配位子 (II')
ここで、Pal はβ-(3-pyridyl)-L-alanine残基を表し; His は L-histidine残基を表し、X1とX2はアルキル基、シリル基、アミド基、ウレタン基、エーテル基、もしくはエステル基を表す。
その他の疎水性アミノ酸としては、ロイシン、フェニルアラニン、γ(カルボキシル基)-保護グルタミン酸、ε(アミノ基)−保護リジン、メチオニン、下記一般式(III)で表されるα-メチルアミノ酸からなる群より選ばれる1種類以上が好ましい。なお、その他の疎水性アミノ酸として非天然のアミノ酸を用いる場合には、へリックスを安定にするためにβ位の炭素原子に分岐の無いアミノ酸を用いることが好ましい。
実際に2-aminoisobutylic acidとα-methylvalineは、安定にヘリックスを生成するアミノ酸残基として、多くのペプチドが合成されている。また、α-methylphenylalanineはフッ素原子を導入することで放射線医薬品として臨床応用がなされており、へリックスを安定化することが容易に予想される。
-dinitrophenyl), His(N-im-tosyl), His(N-im-triyl), His(N-im-tert-butoxycarbonyl), His(N-im-methyl), His(N-im-ethyl) を使用することもできる。
ここで、ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、ロイシン酸、リンゴ酸などが使用できる。
側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を含むヘリックス構造の疎水性デプシペプチドまたは疎水性ペプチドの長さは好ましくは5〜20である。
R1−Xaa−R4 (A)
R1−Xaa−R2−Yaa−R4 (B)
R1−Xaa−R2−Yaa−R3−Zaa−R4 (C)
これらの式中、XaaおよびYaaおよびZaaは、上述したような側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を表す。
R1は、Xaaに結合した、アミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸、もしくはデプシペプチド、または水素原子もしくはアミノ基の保護基(アセチル基、アルコキシカルボニル基など)を表す。
R2とR3は、XaaとYaaとZaaに結合したアミノ酸もしくはペプチド、またはヒドロキシカルボン酸もしくはデプシペプチドを表す。R2とR3がペプチドまたはデプシペプチドの場合、3残基または2残基のアミノ酸(合計3残基または2残基のアミノ酸とヒドロキシカルボン酸)からなるペプチド(デプシペプチド)であることが好ましい。
R4は、XaaまたはYaaまたはZaaに結合した、アミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸もしくはデプシペプチドを表し、両親媒性ブロック共重合体においてはR4のカルボキシ末端を介して親水性ポリマーが結合する。一方、R4は単結合(親水性ポリマーに直接Xaa(式IV)またはYaa(式V)またはZaa(式VI)が結合する状態)であってもよい。
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(a)
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Yaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(b)
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Yaa-Leu-Leu-Aib-Zaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(c)
ここで、Aib は aminoisobutylic acid 残基を表し、Y1はLeuのアミノ基に結合したアミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸、もしくはデプシペプチドまたはアミノ基保護基を表す。
(d) Boc-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-Phe-
(e) Boc-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-Phe-
(f) Boc-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-Phe-
(g) Boc-Leu-Leu-Ala-His-Phe-Leu-Phe-Lac-Leu-Phe-
(Lac = lactic acid residue)
(h) Boc-Phe-Leu-Phe-Lac-His-Leu-Leu-Ala-His-Phe-Leu-Phe-Lac-Leu-Phe-
(i) Boc-Leu-Leu-Aib-Cys-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-Phe-
(j) Boc-Leu-Leu-Aib-His-Leu-Leu-Aib-Cys-Leu-Leu-Aib-Phe-
なお、これらの配列において、HisはHis(N-im-benzyloxymethyl)、CysはCys(S-acetamidomethyl)やCys(S-methyl)などの保護基がある形でも良い。
上記のような配列は通常のペプチド合成法に従って合成することができる。
なお、疎水性配位子は蛍光物質で標識されていてもよい。蛍光物質としては、ローダミン、フルオレセインなどが挙げられ、疎水性配位子のアミノ末端のアミノ基などに導入することができる。
親水性ポリマーの分子量としては、100〜20000が好ましく、500〜10000がより好ましい。
ィリン配位子、クロリン配位子、シッフ塩基配位子、チオラート配位子、チオエーテル配位子、イミダゾール配位子、フェノラート配位子などの配位子とともに金属錯体を形成している金属原子が挙げられる。
なお、有機溶媒を使用する場合は、高分子錯体を形成させた後に乾燥するなどして有機溶媒を除去することが好ましい。
緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、スルホサリチル酸塩、および酢酸塩などが挙げられる。
凍結乾燥補助剤としては、マンニトール、ラクトース、ソルビトール、デキストラン、フィコール(Ficoll)、およびポリビニルピロリジン(PVP)などが挙げられる。
安定化補助剤としては、アスコルビン酸、システイン、モノチオグリセロール、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、ゲンチシン酸、イノシトールなどが挙げられる。
可溶化補助剤としては、エタノール、グリセリン、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート、ソルビタンモノオレアート、ポリソルベート類、ポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)ポリ(オキシエチレン)ブロックコポリマー(Pluronics)およびレシチンなどが挙げられる。
抗菌剤としては、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、クロルブタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンなどが挙げられる。
例えば、配位金属原子として上記のような放射性核種を用いる場合、がんの治療または診断に使用することができる。すなわち、ミセルを形成した本発明の高分子錯体が生体内のガン組織で漏出し、放射性核種から放射される放射線によって「検出」と「破壊」を行うことができる。腫瘍組織の検出はSPECTカメラ(γ線)やPETカメラ(陽電子)によって行うことができる。
また、高分子錯体を蛍光標識して使用することにより、腫瘍組織を明瞭に蛍光検出することもできる。
このような医薬組成物は、発明者らの関連研究および公知の方法を参考にすることにより開発することが可能である。(例えば、Tomohiro Sudaら, Peptide Science 2005, The
Japanese Peptide Society, 2006年, pp. 495-498; Aya Inoueら, Peptide Science 2006, The Japanese Peptide Society, 2006年, pp. 54-55; 片岡一則ら, 最新医学, 最新医学社, 2006年, vol 61, pp. 1092-1101; 前田浩, 最新医学, 最新医学社, 2006年, vol 6
1, pp. 1138-1148.)
Boc-Leu-OH = N-α-t-ブトキシカルボニル-L-ロイシン
Boc-Phe-OH = N-α-t-ブトキシカルボニル-L-フェニルアラニン
Boc-Pal-OH = N-α-t-ブトキシカルボニル-β-(3-ピリジル)-L-アラニン
HCl・H-Aib-OEt = 2-アミノイソ酪酸 エチルエステル 塩酸塩
Boc = tert-ブトキシカルボニル(t-Bu-O-CO-)
OEt = エチルエステル(-O-CH2-CH3)
OSu = スクシンイミドエステル
PEG4000 = ポリエチレングリコール4000(分子量4000)
DCC = N,N'-ジクロロへキシルカルボジイミド
DCUrea = ジシクロへキシルウレア
HOSu = N-ヒドロキシスクシンイミド
HOBt = 1-ヒドロキシベンゾトリアゾール
TFA = トリフルオロ酢酸
(Boc)2O = ジ-t-ブチルカルボネート
NMM = N-メチルモルホリン
EDC.HCl = 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩
DMAP = N,N'-ジメチルアミノピリジン
CFDA = カルボキシフルオレッセインジアセテート
CF = カルボキシフルオレッセイン
THF = テトラヒドロフラン
CHCl3 = クロロホルム
CDCl3 = 重水素化クロロホルム
AcOEt = 酢酸エチル
DMSO-d6 = 重水素化ジメチルスルホキシド
MeOH = メタノール
L-アミノ酸または側鎖を保護したL-アミノ酸(1.0 mol)を4M NaOH (250 mL, 1.0 mol)に溶かし、氷-MeOHで徐々に冷却しながら最小量のジオキサンに溶かした(Boc)2O (240.0 g, 1.1 mol)を30分かけて徐々に加えた。氷浴で1時間、室温で1時間半攪拌した。析出したNaHCO3をろ別した後、pH3.0にしてAcOEtで抽出する。抽出溶液は10%クエン酸水溶液で洗浄の後、Na2SO4で乾燥させた。乾燥剤をろ別後、ろ液は減圧濃縮し、残渣にヘキサンを加えて結晶化させた。その後、AcOEt-ヘキサンで再結晶を行い、Boc-L-アミノ酸を得た。
アミノ基をN-α-t-ブトキシカルボニル保護したペプチド化合物を300 mLナスフラスコに入れドラフト内でTFA(または4M HClのジオキサン溶液)を加え溶解させた。直ちに塩化カルシウム管で蓋をし、水分の混入を防いだ。TLCにより反応の終了を確認後、濃縮しTFA臭(または塩酸臭)がなくなるまで繰り返し蒸留Et2Oを加えて濃縮すると最終的にTFA塩(または塩酸塩)の白色粉末を得る。収率は、ほぼ定量的である。
アミノ基をN-α-t-ブトキシカルボニルで保護し、カルボキシル末端を脱保護したペプチド化合物 (2.1 mmol) を300 mL 三角フラスコに入れ蒸留CHCl3に溶かし、HOBt (0.28 g, 2.1 mmol)と縮合剤のEDC・HCl (0.40 g, 2.1 mmol)(またはDCC (0.43 g, 2.1 mmol))を加え攪拌した。次に300 mlのナスフラスコにアミノ基を上記合成手順2で脱保護しTFA塩のペプチド化合物 (0.7 mmol) を入れNMMでTFA塩を中和する。ほぼ等モル(0.075 mL, 0.70 mmol)で中和を確認できるが、結晶性が悪い塩の場合やや多くなることがある。二つの溶液を混合攪拌しながら、直ちに氷冷し反応を開始する。そのままゆっくり室温に戻して一晩攪拌する。この混合物をエバポレーターにより濃縮しAcOEtに溶かしてから、(DCCを使用した場合はAcOEtに不溶のDCUreaを除く)10%クエン酸水溶液、蒸留水、飽和NaHCO3水溶液、蒸留水、飽和食塩水の順に洗浄を行いNa2SO4で乾燥し濃縮してオイル状または無色粉末の縮合生成物を得る。これを、シリカゲルクロマトグラフィー(蒸留CH3Cl-ヘキサンまたはAcOEt-ベンゼン)またはゲルろ過クロマトグラフィー(ファルマシア製LH20、DMFまたはMeOH)により精製する。無色粉末の場合はAcOEt-蒸留Et2Oや蒸留CH3Cl-ヘキサンの溶媒系を用いて再結晶により精製しても良い。収率はおおよそ70-90%の範囲で得ることができる。
アミノ基をN-α-t-ブトキシカルボニル(Boc-)で保護し、カルボキシル末端を活性エステル化(-OSu)したペプチド化合物 (3.0 mmol)を300 mL 三角フラスコに入れ、蒸留THF中で攪拌する。次に300 mlのナスフラスコに、アミノ基を上記合成手順2で脱保護したTFA塩(またはHCl塩)のペプチド化合物 (1.0 mmol) を入れNMMでTFA塩(またはHCl塩)を中和する。ほぼ等モル (0.1 mL, 1.0 mmol) のNMMで中和を確認できるが、結晶性が悪い塩の場合やや多くなることがある。二つの溶液を混合撹拌しながら、常温で反応を開始する。およそ2日〜3日の間撹拌を続ける。この混合物を合成手順3と同様に処理して、生成物を得ることができる。収率はおおよそ70-90%の範囲で得ることができる。
(1)Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (1) の合成
(1a:Boc-Phe-OSuの合成)
Boc-Phe-OH (6.3 g, 25 mmol) とHOSu (3.5 g, 30 mmol) をDCC (6.2 g, 30 mmol) を用いて、合成手順3と同様に縮合反応を行った。ただしHOSuはアミノ基ではなく-OH基が脱水縮合するため、NMMによる中和反応を必要としない。反応後、無色のBoc-Phe-OSuを得た。収量8.7 g (収率 96%). 1H-NMR (CDCl3, 300 MHz): 7.63 (d, 1H, Boc-Phe NH); 7.24 (5H, Phe, C6H5-); 4.54 (1H, Phe αCH2); 3.14, 2.91 (2H, Phe βCH2); 2.81 (s, 4H, -OSu); 1.40 (s, 9H, Boc t-Bu).
Boc-Phe-OSu (4.4 g, 12 mmol) とPEG4000 (16 g, 4.0 mmol) をTHF中、 DMAP (0.050 g, 0.40 mmol) の存在下、合成手順3の方法で縮合反応を行った。反応は2日間かけて行った。1H-NMRによりPEG4000へのBoc-Pheの導入量を確認した。PEG40001分子に対して2等量の導入が可能である。導入量が不足する場合は再び、Boc-Phe-OSuとDMAPを加えて反応を行った。収量, 15.3 g (収率 84%). 1H-NMR (DMSO-d6, 300 MHz): 7.23 (10H, Phe C6H5-); 4.12 (2H, Phe αCH); 3.4-3.6 (360H, PEG4000 -CH2-); 2.85, 2.98 (4H, Phe βCH2); 1.31 (s, 18H, Boc t-Bu).
Boc-Leu-OH.H2O (44.9 g, 180 mmol)、HCl.H-Aib-OEt(25.1 g, 150 mmol)、NMM (16.5 mL, 150 mmol)、DCC (37.1 g, 180 mmol) を用いて、合成手順3の方法で縮合反応を行い、無色生成物を得た。収量, 27.2 g (収率 52%). 1H-NMR (CDCl3, 300 MHz): 6.74 (s, 1H, Aib NH); 4.92 (d, 1H, Leu NH); 4.18 (t, 2H, OEt -CH2-); 4.15 (1H, Leu αCH); 1.71 (1H, Leu γCH; 2H, Leu βCH2); 1.54 (s, 6H, Aib βCH3); 1.45 (9H, Boc t-Bu); 1.26 (q, 3H, OEt -CH3).0.93 (6H, Leu δCH3).
Boc-Leu-OH.H2O (13.0 g, 52.2 mmol)、HCl.H-Leu-Aib-OEt (12.2 g, 43.5 mmol, 合成手順2の方法でBoc-Leu-Aib-OEtから合成)、NMM (4.8 mL, 44 mmol)、DCC (10.8 g, 52.2
mmol) を用いて、合成手順3の方法で縮合反応を行い、無色生成物を得た。収量, 14.9 g (収率 75%). 1H-NMR (CDCl3, 300 MHz): 6.78 (s, 1H, Aib3 NH); 6.51 (d, 1H, Leu2 NH); 4.92 (d, 1H, Leu1 NH); 4.92 (d, 1H, Leu NH); 4.38 (1H, Leu2 αCH); 4.16 (t,
2H, OEt -CH2-); 4.08 (1H, Leu1 αCH); 1.70 (2H, Leu1,2 γCH; 4H, Leu1,2 βCH2)); 1.55 (s, 6H, Aib3 βCH3); 1.44 (s, 9H, Boc t-Bu); 1.24 (q, 3H, OEt -CH3).0.91
(6H, Leu δCH3).
Boc-Leu-Leu-Aib-OEt (14.8 g, 32.3 mmol) を500 mLナスフラスコに入れ、メタノールを加えて溶解させた。1M NaOHaq. (32.3 mL, 32.3 mmol) を加えて撹拌した。4時間で撹拌を止めて、減圧濃縮を行った。蒸留水を加えて4M塩酸で系を酸性にした後にEtOAcで抽出を行った。EtOAc溶液を、蒸留水と飽和食塩水で続けて洗浄した。Na2SO4で乾燥後に減圧濃縮し、ヘキサンを加えて結晶化させた。AcOEt-ヘキサンで再結晶を行い、無色生成物を得た。収量, 10.0 g (収率 72%). 1H-NMR (CDCl3, 300 MHz): 7.33 (d, 1H, Leu2 NH);
7.24 (s, 1H, Aib3 NH); 5.24 (d, 1H, Leu1 NH); 4.59 (1H, Leu2 αCH); 4.17 (1H, Leu1 αCH); 1.60 (2H, Leu1,2 γCH; 4H, Leu1,2 βCH2); 1.56 (s, 6H, Aib3 βCH3);
1.48 (s, 9H, Boc t-Bu); 0.92 (12H, Leu δCH3).
Boc-Leu-Leu-Aib-OEt (14.8 g, 32.3 mmol) を500 mLナスフラスコに入れ、メタノールを加えて溶解させた。1M NaOHaq. (32.3 mL, 32.3 mmol) を加えて撹拌した。4時間で撹拌を止めて、減圧濃縮を行った。蒸留水を加えて4M塩酸で系を酸性にした後にEtOAcで抽出を行った。EtOAc溶液を、蒸留水と飽和食塩水で続けて洗浄した。Na2SO4で乾燥後に減圧濃縮し、ヘキサンを加えて結晶化させた。AcOEt-ヘキサンで再結晶を行い、無色生成物を得た。収量, 10.0 g (収率 72%). 1H-NMR (CDCl3, 500 MHz): 6.96 (s, 1H, Aib3 NH);
6.52 (d, 1H, Leu2 NH); 4.86 (d, 1H, Leu1 NH); 4.41 (1H, Leu2 αCH); 4.07 (1H, Leu1 αCH); 1.66 (2H, Leu1,2 γCH; 4H, Leu1,2 βCH2); 1.25 (s, 6H, Aib3 βCH3);
1.39 (s, 9H, Boc t-Bu); 0.92 (12H, Leu δCH3).
Boc-Leu-Leu-Aib-OSu (1.1 g, 2.0 mmol)、HCl.H-Phe-PEG4000 (4.2 g, 1.0 mmol; 合成手順2の方法でBoc-Phe-PEG4000より生成し、HCl.H-Phe- のモル比はPEG4000 に対し、およそ1等量であることを1H-NMRより確認した)、NMM (0.29 mL, 0.66 mmol)を用いて、合成手順4の方法で縮合反応を行った。2日間かけて反応を進行させた。無色生成物を得た。Boc-Leu-Leu-Aib- の導入量はPEG4000 に対し、およそ1等量であると1H-NMRより明らかになった。収量, 3.2 g (収率 70%). Mp = 41-43 ℃. 1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz): 7.16-7.91 (4H, amide NH; 4H, Phe C6H5-); 6.88 (d, 1H, Leu1 NH); 3.7-4.5 (4H, αCH); 3.4-3.6 (360H, PEG4000 -CH2-); 1.2-1.3 (9H, Boc t-Bu); 0.92 (12H, Leu δCH3).
Boc-Pal-OH (1.0 g, 3.8 mmol) とHOSu (0.51 g, 4.5 mmol) をDCC (0.93 g, 4.5 mmol) を用いて、合成手順3やBoc-Phe-OSuの合成と同様に縮合反応を行った。反応後、無色の生成物をそのまま次の反応に用いた。収量はほぼ定量的.
Boc-Pal-OSu (0.36 g, 1.0 mmol)、HCl.H-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (3.0 g, 0.66 mmol; 合成手順2の方法でBoc-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000より合成)、NMM (0.070 mL, 0.66 mmol)を用いて、合成手順4の方法で縮合反応を行った。3日間かけて反応を進行させた。無色生成物を得た。Boc-Pal- の導入量はPEG4000 に対し、1H-NMRよりおよそ0.7等量と観測された。これは溶液中での凝集に伴う見かけ上の分子量の増大によるT2ブロードニングと考えられる。これ以降の化合物は同様に1H-NMRシグナルが広幅化している。従って積分比の記載はPEG4000 に対し1.0等量の時の数値を記載した。収量, 2.4 g (収率 78%). Mp = 44-46 ℃. 1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz): 7.17-8.42 (7H, amide NH; 5H, Phe C6H5-);
7.03 (1H, Leu NH); 3.6-4.6 (7H, αCH); 3.4-3.6 (360H, PEG4000 -CH2-); 1.2-1.3 (9H, Boc t-Bu); 0.81, 0.88 (12H, Leu δCH3).
Boc-Leu-Leu-Aib-OSu (0.51 g, 0.98 mmol)、2HCl.H-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (2.3 g, 0.49 mmol; 合成手順2の方法でBoc-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 より合成)、NMM (0.050 mL, 0.98 mmol)を用いて、合成手順4の方法で縮合反応を行った。2日間かけて反応を進行させた。無色生成物を得た。収量, 2.0 g (収率 82%). Mp = 47-48 ℃. 1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz): 7.17-8.42 (7H, amide NH; 5H, Phe C6H5-); 7.03 (1H, Leu
NH); 3.6-4.6 (8H, αCH); 3.4-3.6 (360H, PEG4000 -CH2-); 1.2-1.3 (9H, Boc t-Bu);
0.78, 0.81 (12H, Leu δCH3).
(2)Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (2) の合成
(2a:Boc-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000の合成)
Boc-Pal-OSu (0.28 g, 0.76 mmol)、2HCl.H-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (1.89 g, 0.38 mmol)、NMM (0.080 mL, 0.76 mmol)を用いて、合成手順4の方法で縮合反応を行った。2日間かけて反応を進行させ、無色生成物を得た。収量, 1.8 g (収率 92%). Mp = 45-47℃. 1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz): 7.12-8.41 (9H, amide NH; 5H, Phe C6H5-); 3.6-4.6 (7H, αCH); 3.4-3.6 (360H, PEG4000 -CH2-); 1.2-1.3 (9H, Boc t-Bu); 0.8-0.9 (24H, Leu δCH3).
Boc-Leu-Leu-Aib-OSu (0.26 g, 0.25 mmol)、2HCl.H-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (1.3 g, 0.25 mmol)、NMM (0.080 mL, 0.75 mmol)を用いて、合成手順4の方法で縮合反応を行った。2日間かけて反応を進行させた。無色生成物を得た。収量, 0.74 g (収率 54%). Mp = 46-49℃. 1H-NMR (DMSO-d6, 500 MHz): 7.12-8.43 (12H, amide NH; 5H, Phe C6H5-); 3.6-4.6 (7H, αCH); 3.4-3.6 (360H, PEG4000 -CH2-); 1.2-1.3 (9H, Boc t-Bu); 0.8-0.9 (36H, Leu δCH3).
(3)MALDI-TOF法による質量分析
実施例1および2で得られた高分子配位子についてMALDI-TOFスペクトルを測定した。スペクトル(図1)から、合成の各ステップで得られた中間体および最終生成物を分子量によって確認することができる。図1に示すようにスペクトルでは、2分子の会合体に相当する分子量として観測された。また、各スペクトル間の質量変化は、予想されるフラグメント又はアミノ酸の伸長に対応していた。従って、目的物の生成が質量分析法によって
も確認された。
(4)臨界ミセル濃度(cmc)の測定
実施例1で得られた高分子配位子、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(1)について、cmcを測定した(Y. Nagasaki他, Macromolecules, 1998年, vol. 31, pp. 1473-1479.)。蛍光スペクトルはJASCO FP6200蛍光分光光度計を用いた。疎水性プローブとして、ピレンの蛍光スペクトル変化を用いた。10 mgの1を10 mLの飽和ピレン水溶液に溶解し(〜0.14 mg/mL)20℃で1日静置した。スペクトル測定は、20℃で行い、励起光を300 nmから360 nmまで走査した際の390 nmの蛍光強度を記録した(図2)。スペクトルから得られる337 nmと334 nmでの強度比を1の濃度に対してプロット(図3)し、グラフの大きく変化する濃度をcmcとした。その結果、1の臨界ミセル濃度は0.060 mg/mLとわかった。
(5)CoCl2による高分子錯体の合成
実施例1で得られた高分子配位子Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(2)を、CoCl2の水溶液 (0.1 mM)に滴定した際の可視吸収スペクトル変化を測定した。図4より2の濃度 (2の平均分子量を5505として計算) が大きい範囲 (0.1〜0.4 mM) では、2の濃度が増加するに従って、400-800 nmのベースラインの増加することがわかった。これは2の濃度が増加するに従って、2がより大きな凝集体を形成し、入射光を散乱することにより生じる、みかけの吸光度の増大であると解釈される。
また、Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000 (1)とCoCl2からなる高分子錯体の構造も架橋型(図10A)と単核型(図10B)の存在することが考えられた。
(6)111InCl3による高分子錯体 (111In−1) の合成
実施例1で得られた高分子配位子Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(1)を用いて111InCl3と錯形成反応を行った。
エッペンチューブ中で1 (410 μg)を 200 μLのCH3CNに溶解させた。これに111InCl3溶液(日本メジフィジックス社製、〜20 MBq/mL)20 μLを加えて、15分間よく撹拌した。抗ガン剤などの医薬化合物を内包させる場合はここで同時に加えた。撹拌にはボルテックスミキサーと超音波洗浄機を用いた。また、超音波を当てる場合は溶液の温度上昇に注意した。この後、ロータリーエバポレーターと窒素ガスによって溶媒を留去した。90分
後でも残渣は粘性の高いオイル状であったので、そのまま得られたオイルに生理食塩水を加えて再溶解させて、15分間よく撹拌した。再溶解時には、体内動態または薬理活性を調べるのに適当な濃度とした。得られた溶液は、滅菌フィルターを通した。薄層クロマトグラフィー(Gelmal Sciences製ITLC-SG、シリカゲルガラスファイバー板, 生理食塩水にて展開)により111Inの分布から放射化学的純度を検定した。錯体を形成している111Inは原点に、錯形成をしていない111Inは展開先端に放射活性が見られる。得られた111In−1の高分子錯体溶液の純度は99.5%であった。
ガラス試験管中で1 (320 μg) を1600 μLの生理食塩水に溶解させた。これに111InCl3溶液(日本メジフィジックス社製、〜20 MBq/mL)15 μLを加え、超音波洗浄機を用いて、15分間よく撹拌した。抗ガン剤などの医薬化合物を内包させる場合は、同時に加えるがより長時間の撹拌を要する。撹拌時には溶液の温度上昇に注意が必要であった。15分の撹拌後に薄層クロマトグラフィー(Gelmal Sciences製ITLC-SG、シリカゲルガラスファイバー板, 生理食塩水にて展開)を行い、放射化学的純度は99.0%であった。
(7)111InCl3による高分子錯体 (111In−2) の合成
実施例2で得られた高分子配位子Boc-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(2)を用いて111InCl3と錯形成反応を行った。
エッペンチューブ中で2 (410 μg)を 200 μLのCH3CNに溶解させた。これに111InCl3溶液(日本メジフィジックス社製、〜20 MBq/mL)20 μLを加えて、10分間よく撹拌した。抗ガン剤などの医薬化合物を内包させる場合はここで同時に加えた。撹拌にはボルテックスミキサーや超音波洗浄機を用いるとよい。また、超音波を当てる場合は溶液の温度上昇に注意した。この後、ロータリーエバポレーターまたは窒素ガスによって溶媒を留去した。15〜30分後に残渣は無色固体となった。得られた固体に生理食塩水を加えて再溶解させて、10分間よく撹拌した。再溶解時には、体内動態または薬理活性を調べるのに適当な濃度とした。得られた溶液は、滅菌フィルターを通した。薄層クロマトグラフィー(Gelmal Sciences製ITLC-SG、シリカゲルガラスファイバー板, 生理食塩水にて展開)により放射化学的純度を検定した。得られた111In−2の高分子錯体の放射化学的純度は何れの場合も98.5〜99.8%であった。この、CH3CNを用いた方法は操作数がやや多いが、111Inが高分子配位子2 に迅速に高効率で取り込まれることがわかった。
ガラス試験管中で2 (420 μg) を2100 μLの生理食塩水に溶解させた。これに111InCl3溶液(日本メジフィジックス社製、〜20 MBq/mL)20 μLを加え、超音波洗浄機を用いて、15分間よく撹拌した。抗ガン剤などの医薬化合物を内包させる場合は、同時に加えるがより長時間の撹拌を要する。撹拌時には溶液の温度上昇に注意が必要であった。15分の撹拌後に薄層クロマトグラフィー(Gelmal Sciences製ITLC-SG、シリカゲルガラスファイバー板, 生理食塩水にて展開)で放射化学的純度を検定すると、98.0%であった。生理食塩水が少なく(200 μL)高濃度の場合は、111Inの配位が遅いため(純度検定でおよそ50%)さらに、15分間の撹拌と30分間室温で静置することで99%になった。生理食塩水を用いた方法は簡便ではあるが、濃度によっては錯体形成にやや時間のかかること、純度検定で錯体形成を必ず確認する必要のあることがわかった。
(8)高分子錯体 (111In−1, 111In−2) のゲルパーミエーションクロマトグラフィー
高分子錯体 (111In−1, 111In−2) の相対分子量と錯体形成の様子はゲルパーミエーシ
ョンクロマトグラフィー(GPC)によって解析した。装置は島津製作所製LC-10イナート型HPLCシステム、GPCカラムはTOSOH SW-3000、溶離液はリン酸バッファー(pH7.0)を0.2 mL/minで流した。試料の検出にUV検出器(220 nm)とγ線検出器を用いた。試料濃度はミセル体の影響を除くために1μg/mLとした。10μg/mL以上では2.0〜2.5 mLの溶出位置に凝集体に由来する大きなピークと2.5〜5.0 mLに広い溶出曲線のみがあらわれて単量体の分子量に関する情報を与えなかった。
(9)高分子配位子(2) による腫瘍組織の検出
合成手順2によって高分子配位子(2)のBoc基を脱保護してアミノ基を生成させた。このアミノ基に合成手順4によって、カルボキシフルオレッセインジアセテート活性エステル(CFDA-OSu)を結合させた。DMAPを触媒量(2に対して0.2等量)加えると反応が効率よく進行した。精製後に得られたCF-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Pal-Leu-Leu-Aib-Phe-PEG4000(3) を生理食塩水溶液(およそ1mg/1mL)として、後肢の付け根に繊維癌の細胞を移植したヌードマウスに投与(100μL/匹)した。2時間後、マウスを解剖し各組織を蛍光イメージャー(CRi社製Maestro)によって観察した。その結果、腫瘍組織のみならず、肝臓への転移癌を検出することができた(図9)。このように、高分子配位子(2)は腫瘍組織に集積する性質のあることがわかった。
(10)高分子錯体 (111In−1, 111In−2) の体内動態
実施例6,7で作成した高分子錯体 (111In−1, 111In−2)を用いて、体重28〜30gのddy系雄性マウス(体重28〜30g)での体内分布挙動を調べた。1匹あたり20μg/100μLを尾静脈から投与して1, 4, 24 時間後に屠殺解剖後、各臓器を秤量し、放射能をγ-カウンターで定量することで臓器別集積濃度(%dose/g)を算出した。表1と表2に111In−1, 111In−2それぞれの体内分布を示した。この条件では腎臓への集積が多く見られるが、より高濃度の高分子錯体を投与すると肝臓への集積が少しずつ増大する。111In−2の場合、腎臓への集積(〜20 %dose/g)は4〜24時間後にピークとなり、肝臓への集積は少量だが24, 48時間後も少しずつ増大する(2.6〜4.0 %dose/g)。これに伴い血中濃度は急激に減少した(投与1時間後10.0 %dose/gが24時間後に1.0 %dose/gへ)。また骨への集積(6.7〜9.3 %dose/g)は、高分子錯体の分解によって遊離した111Inイオンに由来すると考えられる。その他の組織に対しては特徴的な集積は見られなかった。111In−1も同様な傾向
を示した。
(11)高分子錯体 (111In−2) の腫瘍組織への集積
実施例6,7で作成した高分子錯体 (111In−2)を用いて、後肢の付け根に繊維癌の細胞を移植したSCIDマウスでの体内分布挙動を調べた。1匹あたり40μg/100μL(40g/匹)を尾静脈から投与して4時間後に屠殺解剖後、各臓器を秤量し、放射能をγ-カウンターで
定量することで臓器別集積濃度(%dose/g)を算出した。表3に体内分布を示した。この条件でも腎臓への集積(24 %dose/g)が多く見られるが、腫瘍組織への集積は5.8 %dose/gを示した。このように、高分子錯体 (111In−2)は腫瘍組織に集積する性質のあることがわかった。
Claims (15)
- 疎水性配位子と親水性ポリマーからなる両親媒性のブロック共重合体と1種以上の金属原子からなる高分子錯体。
- 両親媒性のブロック共重合体が、下記一般式 (I)、(II)又は(II') で表される、請求項1に記載の高分子錯体。
親水性ポリマー-block-疎水性配位子 (I)
疎水性配位子-block-親水性ポリマー (II)
疎水性配位子-block-親水性ポリマー-block-疎水性配位子 (II') - 疎水性配位子が、側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を含むヘリックス構造のデプシペプチドまたはペプチドである、請求項1または2に記載の高分子錯体。
- 側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を含むヘリックス構造を有するデプシペプチドまたはペプチドが下記一般式(A)、(B)または(C)で表される、請求項3または4に記載の高分子錯体。
R1−Xaa−R4 (A)
R1−Xaa−R2−Yaa−R4 (B)
R1−Xaa−R2−Yaa−R3−Zaa−R4 (C)
(式中、XaaおよびYaaおよびZaaは側鎖に金属原子に配位可能な複素環を有するアミノ酸を表し、R1はXaaに結合した、アミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸、もしくはデプシペプチド、または水素原子もしくはアミノ基の保護基を表し、R2およびR3はXaaおよびYaaに結合したアミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸もしくはデプシペプチドを表し、R4はXaaまたはYaaまたはZaaに結合した、アミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸もしくはデプシペプチド、またはXaaまたはYaaまたはZaaが直接親水性ポリマーに結合した単結合を表す。) - 一般式(A)が下記一般式(a)であり、一般式(B)が下記一般式(b)であり、一般式(C)が下記一般式(c)である、請求項5に記載の高分子錯体。
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(a)
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Yaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(b)
Y1-Leu-Leu-Aib-Xaa-Leu-Leu-Aib-Yaa-Leu-Leu-Aib-Zaa-Leu-Leu-Aib-Phe-(c)
(Aib は aminoisobutylic acid 残基を表し、Y1はアミノ酸、ペプチド、ヒドロキシカルボン酸、もしくはデプシペプチドまたはアミノ基の保護基を表す。) - 親水性ポリマーがポリアルキレングリコールである、請求項1〜7の何れか1項に記載の高分子錯体。
- 金属原子がアルカリ土類金属、遷移金属、後遷移金属、ランタニド、アクチニドから選択される、請求項1〜8の何れか1項に記載の高分子錯体。
- 金属原子が放射性核種、または常磁性イオン、蛍光性イオン、もしくはこれらの金属クラスターを形成する金属原子である、請求項9に記載の高分子錯体。
- 金属原子が、7Be、47Ca、46Sc、47Sc、48V、51Cr、52Mn、54Mn、52Fe、59Fe、55Co、56Co、57Co、58Co、63Ni、60Cu、61Cu、62Cu、64Cu、67Cu、62Zn、65Zn、66Ga、67Ga、68Ga、89Sr、86Y、87Y、88Y、90Y、88Zr、89Zr、95Zr、95mTc、96Tc、99mTc、99Mo、97Ru、103Ru、99Rh、101mRh、105Rh、186Rh、105Cd、107Cd、107mAg、111Ag、111In、114mIn、117mSn、131Ba、139Ce、141Ce、145Eu、147Eu、146Gd、149Gd、149Pm、153Tb、155Tb、166Ho、167Tm、169Yb、171Lu、172Lu、177Lu、177mLu、175Hf、178W、183Re、185Re、186Re、187Re、188Re、191Pt、190Ir、192Ir、188Pt、191Pt、193mPt、195mPt、192Ir、198Au、199Au、201Tl、203Hgからなる群より選ばれる1種または複数の放射性核種である、請求項1〜9の何れか1項に記載の高分子錯体。
- 金属原子が低分子金属錯体を形成した金属原子である、請求項1〜9の何れか1項に記載の高分子錯体。
- 低分子金属錯体が、ポルフィリン配位子、クロリン配位子、シッフ塩基配位子、チオラート配位子、チオエーテル配位子、イミダゾール配位子、フェノラート配位子からなる群より選ばれる1種または複数の配位子を有する低分子錯体である、請求項12に記載の高分子錯体。
- 請求項1〜13の何れか1項に記載の高分子錯体を含む医薬組成物。
- がんの治療または診断のための、請求項14に記載の医薬組成物。
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