JP2008297500A - サーモクロミック体その製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 サーモクロミック特性を有する酸化バナジウム層を低温でガラス上に形成する方法を提供する。
【解決手段】 酸化バナジウムのシード層として、酸化ジルコニウム/酸化錫の積層体を用いることで、サーモクロミック特性を有する酸化バナジウムの成膜に適した結晶質層および配向性を有する酸化ジルコニウム/酸化錫シード層を非加熱成膜で形成することを可能にし、そのシード層に酸化バナジウム層を形成したサーモクロミック体を得る。
【選択図】 図1
Description
本発明は、サーモクロミック体とその製造方法に関し、特に結晶質を含む酸化ジルコニウム/酸化錫をこの順に成膜した積層型シード層を二酸化バナジウム層の下地層として設けたサーモクロミック体とその製造方法に関する。
遷移金属であるバナジウムの酸化物は多くの形態を取りうることが知られている。例えば二酸化バナジウム(VO2)は、室温に近い68℃(341K)付近に金属−絶縁体転移温度を有し、この転移温度より低い温度領域では赤外域の高い透過率を有し、相転移温度以上の温度では赤外域の透過率が減少する。また転移温度より高い温度領域では導電性を示し低い温度領域では絶縁性を示すことも知られている。また、特許文献1及び特許文献2に記載されるように、WやMoを添加することにより相転移温度が更に低下することも知られている。
酸化バナジウムは前記した特性を有するため、酸化バナジウムがコーティングされたサーモクロミック体を、ビルや一般家庭の住宅における窓ガラス或いは自動車や電車などの輸送機材の窓ガラスとして用いることで、環境温度によって自動的に赤外域の光の透過量を調節できる省エネルギー効果が期待される。
二酸化バナジウム(VO2)をガラス板上に形成する手段として種々の方法が考えられるが、反応性スパッタリングにより二酸化バナジウムのみを作製することは一般的に難易度が高い技術とされている。例えば、特許文献3には、V2O5ターゲットをHe雰囲気中でRFスパッタすることにより二酸化バナジウムを成膜する技術が提案されており、また特許文献4では、金属バナジウムをターゲットとし、バナジウムをシード膜として、その上にアルゴンと酸素の混合雰囲気中でRF反応性スパッタすることにより酸化バナジウム膜を生成する手法が知られている。
また、酸化バナジウムをコーティングしたサーモクロミック体を窓ガラスとして用いる際には、可視光域の透過率はできるだけ高い方が望ましい。例えば、特許文献5では、酸化バナジウムの表面に酸化チタンの反射防止膜を設けることで、可視光透過率を高め更に光触媒機能も付与する手法が知られている。
また、特許文献6では、反射防止膜にITO、ZnO及びSnO2を用いることで、可視光透過率を高めると共に、断熱機能も付与する手法が知られている。
しかしながら、上記手法では、酸化バナジウム単一相薄膜の形成が非常に難しいため、通常、数100℃の加熱が必要であり、大面積化が困難で、工業生産に適さない。例えば特許文献7では、酸化バナジウムの結晶構造と同じ、又はそれに近い結晶構造を有した物質、特にルチル構造を有する酸化スズ又は酸化チタンを、酸化バナジウム形成のシード層とすることで、酸化バナジウムを成膜する際の基材の温度を低下する手法が知られている。
酸化バナジウム層の下側にシード層を用いることで、酸化バナジウム結晶相の形成エネルギー障壁を低下させることができ、酸化バナジウムを成膜する際の基板温度を低下することができるが、シード層が非晶質ではなく、酸化バナジウムと同じ若しくは近い結晶構造の結晶質を含むことが望ましい。例えば、特許文献8にはルチル構造を有するシード層を得るために、シード層の形成時に、基板の温度を200−600℃にするという記載がある。
酸化バナジウム単一相薄膜を低温で安定して形成するには、シード層が酸化バナジウムと同じ若しくは近い結晶質を含むことに加えて、さらにシード層が酸化バナジウムの結晶化及び成長に適した格子面の配向性を持つことがより望ましい。
また、フロートガラス製造ライン上における熱処理プロセスにおいて、酸化チタンや酸化錫を、ガラスが高温のうちにCVD法で成膜し、シード層とすることも考えられるが、均一なコントロールが必要な酸化バナジウム層をスパッタリング法で形成する場合、連続的にシード層から酸化バナジウム層、更には機能性層(反射防止層や保護層など)を一連の真空プロセスで行うことがコスト的に求められる。
本発明は、酸化バナジウムのシード層として、酸化ジルコニウム/酸化錫の積層体を用いることで、サーモクロミック特性を有する酸化バナジウムの成膜に適した結晶質層および配向性を有する酸化ジルコニウム/酸化錫シード層を非加熱成膜で形成することを可能にし、そのシード層に酸化バナジウム層を形成したサーモクロミック体およびその製造方法に関するものである。本発明にあっては、酸化バナジウムは化学量論的にニ酸化バナジウム(VO2)でなくてもよいが、所定の結晶構造を有していればよい、具体的には温度によって光学特性が変化するサーモクロミック特性を持っていればよい。
また本発明は、酸化ジルコニウム/酸化錫/酸化バナジウムの連続的な層構造の上下に機能性層を含み、さらに膜厚を調整し適切な光学設計を行うことによって、高い可視光透過率と好ましいサーモクロミック機能を満たすサーモクロミック体およびその製造方法に関するものである。
また本発明は、酸化ジルコニウム層及び酸化錫層はDC及びDCパルスを用いた、ジルコニウムターゲット及び錫ターゲットの、アルゴン及び酸素ガスの存在下での反応性スパッタリングプロセスで、効果的に積層型シードを結晶化し、また好ましい配向性に調整した表面に、酸化バナジウム層を形成したサーモクロミック体およびその製造方法に関するものである。
また本発明で、酸化ジルコニウムは、その化学組成がZrO2に限らないが、単斜晶系または立方晶系の結晶構造を有する酸化ジルコニウムである。また、酸化錫は、その化学組成がSnO2に限らないが、正方晶系の結晶構造を有する酸化錫である。また、酸化バナジウムは、その化学組成がVO2に限らないが、X線回折法で室温相が単斜晶系の回折パターンを含む酸化バナジウムである。
酸化ジルコニウム/酸化錫よりなる積層型シードを酸化バナジウム層のシード層として設けることで、非加熱成膜でも酸化バナジウム形成に適した結晶質層を有したシード層が得られ、かつ酸化バナジウムの形成に好ましい配向性が得られ、シード層形成プロセスから加熱工程を省くことが可能となり、低コストでサーモクロミック体を、一連の成膜プロセスで形成することが可能になる。
成膜にはトッキ株式会社製スパッタ装置(型番:SPM−303)を用いた。同装置においては、ターゲットを3個まで装着することが可能であり、従って酸化ジルコニウム/酸化錫/酸化バナジウム多層膜の、同一真空プロセスでの成膜が可能である。ターゲットに対向する位置に基板を配置し、基板とターゲットの距離は約100mm、ターゲットサイズは直径3インチ(約75mm)であった。
酸化ジルコニウム及び酸化錫の成膜は、同装置(SPM−303)を用い、ENI製DC電源(型番:RPG−100)を用いて金属ジルコニウムおよび金属錫ターゲットの反応性スパッタにより行った。
具体的には、酸化ジルコニウムをフロートガラスの上に、スパッタガス圧が0.67〜2.0Pa、スパッタガスがアルゴン及び酸素の混合ガス100sccmの雰囲気下で、DC電力密度5.37W/cm2のスパッタリング条件で成膜した。
前記酸化ジルコニウムの上に、連続的な真空プロセス内で、酸化錫をスパッタガス圧が0.67Pa、スパッタガスが酸素100sccmで、DC電力密度1.24W/cm2のスパッタリング条件で成膜し、酸化バナジウム成膜用の積層型シード層とした。
前記積層型シード層の上に、連続的な真空プロセス内で、酸化バナジウム層を、DCパルス電源(ENI製RPG−100)を用いてバナジウム金属ターゲットの反応性スパッタにより成膜した。スパッタ圧は約1.0Paで、アルゴンと酸素の流量比がおよそ100/0.6sccmの雰囲気下で、DCパルス電力密度1.98W/cm2のスパッタ条件で成膜した。装置の加熱温度は350℃であった。
図1に本発明に関わる典型的なサーモクロミック体の構造を示す。図中1はガラス基板、2は酸化ジルコニウム層、3は酸化錫層、4は酸化バナジウム層である。
表1は実施例1、比較例1、2のサーモクロミックガラスの膜構成である。比較例1は、酸化ジルコニウムを成膜しない以外は、実施例1と同じスパッタ条件で、フロートガラス上に酸化錫を成膜してシード層とし、その上に酸化バナジウム層を成膜した。実施例2は、実施例1に記載の酸化ジルコニウムの代わりに、酸化珪素を成膜した以外は、実施例1と同じスパッタ条件で、酸化珪素の表面に酸化錫を成膜してシード層とし、その上に酸化バナジウム層を成膜した。
実施例1、比較例1、2のサーモクロミックガラスの室温(25℃)および高温(120℃)における透過率スペクトルを図2に示す。表2には室温相の透過率と高温相の透過率の差で規定した調光率を示す。積層型シード層に酸化バナジウムを形成したサーモクロミックガラスの場合で大きな調光率が得られることがわかる。
表3は実施例1から6のサーモクロミックガラスにおける、酸化ジルコニウム層のスパッタ条件および、酸化ジルコニウムと酸化錫の膜厚比である。実施例1から6において、酸化バナジウムは同じ条件で成膜した。表4は実施例1から6のサーモクロミックガラスの調光率を示す。
図3は実施例1及び比較例1について、酸化バナジウム層を形成する前の試料のX線回折プロファイルである。測定はX線回折装置(リガク製Smart Lab)を用い、表5の測定条件にてそれぞれのX線回折プロファイルを測定した。
実施例1のX線回折プロファイルには、明瞭にZrO2とSnO2の回折ピークが確認される。回折ピークの位置から酸化ジルコニウムの結晶系が単斜晶であり、酸化錫の結晶系が正方晶であることが確認された。
図4は実施例1の膜断面の断面TEM像である。酸化ジルコニウム層/酸化錫層/酸化バナジウム層それぞれに格子縞が確認される。格子縞の間隔から、断面TEM像には、酸化ジルコニウム単斜晶の(−111)および(111)面と酸化錫正方晶の(110)および(101)面の格子縞が確認された。酸化バナジウムの低温相と高温相における結晶格子の違いは非常に小さく、また室温に近い68℃で相転移が起きるので、断面TEM観察における電子線照射で相転移が起きた可能性も考えられ、今回の断面TEM像の格子縞からは酸化バナジウムが低温相と高温相のどちらであるかの判断はできなかった。酸化バナジウム層は、低温相の単斜晶として(011)および(002)面の格子縞、高温相の正方晶として(110)および(200)面の格子縞が確認された。
図5は実施例1の膜断面に対し直交方向から、酸化ジルコニウム層/酸化錫層/酸化バナジウム層それぞれに、同じ方向から電子線を照射して得られた微小領域電子線回折像である。図5の回折像においては、酸化ジルコニウム単斜晶の(−111)面からの回折スポットが観察され、また酸化錫正方晶の(110)面からの回折スポットが観察され、また酸化バナジウム低温相の(011)および(002)面、もしくは酸化バナジウム高温相の(110)および(200)面からの回折スポットが観察された。
また、実施例1と同じ条件で作製したサーモクロミックガラスを、真空装置内にて、酸化バナジウム層の成膜に続けて、700℃以下の温度で加熱したところ、酸化ジルコニウムの結晶系が斜方晶又は正方晶系に変化した場合もあったが、酸化バナジウム層の結晶系は変化せず、サーモクロミック特性を維持していた。
表6は酸化バナジウム層の表面に、反射防止層として酸化錫層を設けた実施例7、8のサーモクロミックガラスの膜構成である。図6は実施例7、8のサーモクロミックガラスの室温(25℃)および高温(120℃)における透過率スペクトルで、表7は室温相の透過率と高温相の透過率の差で規定した調光率を示す。ここで日射光透過率は、JIS R 3106に従って算出した。
なお、実施例では透明基板として板状ガラスを用いたが、板状セラミックス、ガラスブロックまたは板状樹脂などにも本発明を適用することができる。
以上詳述したように、本発明は、積層型シード層に成膜されたサーモクロミック体及びその製造方法に関するものであり、本発明により、従来加熱工程が必要であったサーモクロミック体のシード層を、結晶質を含む酸化ジルコニウム/酸化錫の積層型とすることで、シード層の形成を非加熱化でき、サーモクロミック体の製造工程を簡略化することを可能にできる。
また、本発明の酸化バナジウムがコーティングされたサーモクロミック体は、環境温度で自動的に赤外域の光の透過量を調節できる省エネルギー効果を持ち、建築物や自動車などの輸送機材に用いられるガラスとして利用される。
1…透明基板、2…酸化ジルコニウム層、3…酸化錫層、4…酸化バナジウム層。
Claims (12)
- 透明基板上に、結晶質を含む酸化ジルコニウム/酸化錫をこの順に成膜した積層型シード層の上に、サーモクロミック特性を有する酸化バナジウム層が形成されていることを特徴とするサーモクロミック体。
- 請求項1に記載のサーモクロミック体において、前記酸化ジルコニウムが単斜晶系の結晶構造を有し、また前記酸化錫が正方晶系の結晶構造を有し、また前記酸化バナジウムがX線回折法あるいは透過型電子顕微鏡で同定される室温相で単斜晶系の結晶構造を含むことを特徴とするサーモクロミック体。
- 請求項1または請求項2に記載のサーモクロミック体において、前記酸化ジルコニウム層の垂直断面に対し直交方向から電子線が入射したときの電子線回折像に酸化ジルコニウム単斜晶(−111)または(111)面に起因する回折スポットが認められ、かつ酸化錫層の垂直断面に対し直交方向から電子線が入射したときの電子線回折像に酸化錫正方晶(110)面に起因する回折スポットが認められ、さらに酸化バナジウム層断面に対し直交方向から電子線が入射したときの電子線回折像に酸化バナジウム室温相の単斜晶(011)面、若しくは酸化バナジウム高温相の正方晶(110)面に起因する回折スポットが認められる結晶構造を有することを特徴とするサーモクロミック体。
- 請求項1に記載のサーモクロミック体において、前記酸化ジルコニウムが斜方晶系若しくは正方晶系の結晶構造を有し、また前記酸化錫が正方晶系の結晶構造を有し、また前記酸化バナジウムがX線回折法あるいは透過型電子顕微鏡で同定される室温相で単斜晶系の結晶構造を含むことを特徴とするサーモクロミック体。
- 請求項1乃至請求項4の何れかに記載のサーモクロミック体において、前記酸化バナジウムが、W、Mo、Nb、Ta、Ti、Fe、Ni、Ptの中から選ばれた少なくとも1種類の金属を、バナジウムに対する原子量比率で0.05〜10原子%含むことを特徴とするサーモクロミック体。
- 請求項1に記載のサーモクロミック体において、前記透明基板と酸化ジルコニウムの層間、及び/又は酸化バナジウム層の表面に、熱線反射層、反射防止層および機能性層から選ばれた少なくとも1または2以上の層を有することを特徴とするサーモクロミック体。
- 請求項1に記載のサーモクロミック体において、前記透明基板が、ガラス、セラミックス、プラスチックまたはフィルムより成ることを特徴とするサーモクロミック体。
- 透明基板上に、結晶質を含む酸化ジルコニウム層を成膜する工程と、酸化ジルコニウム層の上に酸化錫層を成膜する工程と、酸化錫層の上にサーモクロミック特性を有する酸化バナジウム層を成膜する工程と、を含むことを特徴とするサーモクロミック体の製造方法。
- 請求項8に記載のサーモクロミック体の製造方法において、成膜する工程が、スパッタリングを用いた真空プロセスにより、ジルコニウムターゲット、錫ターゲット、およびバナジウムを主成分とするターゲット、をアルゴン及び酸素ガスの存在下での反応性スパッタリング法であることを特徴とするサーモクロミック体の製造方法。
- 請求項9に記載のサーモクロミック体の製造方法において、前記バナジウムを主成分とするターゲットが、バナジウム金属、またはバナジウム金属と他の金属の合金であることを特徴とするサーモクロミック体の製造方法。
- 請求項10に記載のサーモクロミック体の製造方法において、前記他の金属が、W、Mo、Nb、Ta、Ti、Fe、Ni、Ptのいずれかの金属若しくはこれらの合金であり、バナジウムに対する原子量比率で0.05〜10原子%含むことを特徴とするサーモクロミック体の製造方法。
- 請求項9に記載のサーモクロミック体の製造方法において、前記透明基板が、ガラス、セラミックス、プラスチックまたはフィルムのいずれかであることを特徴とするサーモクロミック体の製造方法。
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