以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
図2は、携帯電話に用いられている電力増幅モジュールの中で、本発明に係る電力増幅器がどの部分に対応するかを説明するための、電力増幅器モジュールの各部分の機能を示すブロック図である。
まず、携帯電話に用いられている電力増幅モジュールの中で、本発明に係る電力増幅器がどの部分に対応するかを、図2により説明する。図2に示す電力増幅モジュールは、入力端子101A,101B、入力整合回路102A,102B、ドライバ段103A,103B、段間整合回路104A,104B、出力増幅段105A,105B、出力整合回路106A,106B、ローパスフィルタ107A,107B、スイッチ108A,108B、端子109A,109B、出力端子110、制御回路111などから構成される。符号中の記号A,Bは、それぞれ帯域の異なる2系統の電力増幅経路に対応している。本発明に係る電力増幅器は、図2中の破線で囲んだ部分112A,112B、すなわち、ドライバ段103A,103B、段間整合回路104A,104B、出力増幅段105A,105B、出力整合回路106A,106Bに相当している。
なお、以下の実施例の説明では、簡単のため、図2の破線部分のみに関する図示及び記述とするが、実際には図2に示した破線以外の部分が付随していることは言うまでもない。
(実施の形態1)
図3、図4、図5、図6、図7により、本発明の実施の形態1による電力増幅器の構成を説明する。
図3は、本発明の実施の形態1による電力増幅器において、トランスフォーマとトランジスタからなるオーバーラップ型DAT(Distributed Active Transformer)の模式的構成を示す平面図である。
本実施の形態1によるオーバーラップ型DATは、例えば、薄膜状の金属配線1A〜1I,2、トランジスタ3A〜3F、容量4A〜4C、アルミワイヤ5A〜5Fなどから構成される。本構造はSi(シリコン)基板上に形成され、トランジスタ3A〜3FはLDMOSFET(Laterally Diffused Metal−Oxide−Semiconductor Field Effect Transistor)すなわち金属酸化膜半導体で作った電界効果型トランジスタであり、容量4A〜4Cは金属薄膜間に絶縁膜を挟み込んだMIM(Metal−Insulator−Metal)容量である。金属配線1A〜1Iと金属配線2によってトランスフォーマが構成され、金属配線1A〜1Iが1次コイル、金属配線2が2次コイルとしてはたらく。トランジスタ3A〜3Fのゲートは入力端子、ドレインは出力端子として機能し、ソースは接地されている。
例えば、トランジスタ3Aのドレインは、金属配線1F、アルミワイヤ5E、金属配線1H、アルミワイヤ5D、金属配線1Cからなる電流経路を介して、トランジスタ3Dのドレインと結合している。その電流経路の中間点が正電源Vddに接続され、それぞれのトランジスタのドレインからその正電源Vddに接続された部分までの電流経路が1本の1次コイルとなっている。上記のトランジスタ1個、1次コイル1本が1個のゲインブロックを構成し、さらに正電源Vddを介して2個のゲイインブロックが結合し1対の差動対を成すことにより、1個のプッシュプル増幅器を構成している。
例えば、トランジスタ3Cのドレインは、金属配線1B、アルミワイヤ5A、金属配線1I、アルミワイヤ5F、金属配線1Eからなる電流経路を介して、トランジスタ3Fのドレインと結合され、その電流経路の中間点が正電源Vddに接続され、それぞれのトランジスタのドレインからその正電源Vddに接続された部分までの電流経路が1本の1次コイルとなっている。また、トランジスタ3Eのドレインは、金属配線1D、アルミワイヤ5C、金属配線1G、アルミワイヤ5B、金属配線1Aからなる電流経路を介して、トランジスタ3Bのドレインと結合され、その電流経路の中間点が正電源Vddに接続され、それぞれのトランジスタのドレインからその正電源Vddに接続された部分までの電流経路が1本の1次コイルとなっている。これらのユニットも、トランジスタ3Aと3Dの場合と同様にそれぞれ1個のプッシュプル増幅器を構成している。すなわち、本実施の形態1によるDATは3個のプッシュプル増幅器からなり、6個のゲインブロックと、それらに属する6本の1次コイルを有している。
トランジスタ3Aのドレインは容量4Aを介してトランジスタ3Bのドレインと接続され、トランジスタ3Aのソースは直接トランジスタ3Bのソースと接続されている。トランジスタ3Cのドレインは容量4Bを介してトランジスタ3Dのドレインと接続され、トランジスタ3Cのソースは直接トランジスタ3Dのソースと接続されている。トランジスタ3Eのドレインは容量4Cを介してトランジスタ3Fのドレインと接続され、トランジスタ3Eのソースは直接トランジスタ3Fのソースと接続されている。お互いに接続された各トランジスタのソースは接地されている。
計6本の1次コイルは、ほぼ環状に近い金属配線2よりなる2次コイルの両側を挟むように配置され、それらの長さの合計は、2次コイルの長さのほぼ2倍となっている。従って、1次コイル1本(1個のゲインブロックに属する1次コイル)の長さと2次コイル全体の長さの比は、ほぼ3となっている。従って、このDATのインピーダンス変換回路としての変換比は、およそ9である。2次コイルの片方の端は接地され、もう一方の端は出力(Output)としてはたらく。
プッシュプル増幅器において差動対を成すゲインブロックのトランジスタのゲートには、それぞれ大きさがほぼ同じで位相が逆の高周波信号が入力される。そのため、それらのトランジスタのドレインとソースにも大きさがほぼ同じで位相が逆の高周波電流が流れる。その結果、差動対のうち一方のゲインブロックの1次コイルを流れる高周波電流の大半は、他方のゲインブロックの1次コイルに流れ込むことになり、正電源Vddからはほとんど流れ出さない。また、別のプッシュプル増幅器に属するが隣接するトランジスタ、例えばトランジスタ3Aとトランジスタ3Bのゲートにも、それぞれ大きさがほぼ同じで位相が逆の高周波信号が入力され、それらのトランジスタのドレインとソースにも大きさがほぼ同じで位相が逆の高周波電流が流れる。その結果、トランジスタのソースから流れ出る高周波電流の大半は、隣接しソース同士が接続されているトランジスタのソースに流れ込むことになり、接地側にはほとんど流れない。
図5に、上記のLDMOSFETの対の平面配置と、その中に実線で示した部分のLDMOSFETの縦断面構造を示す。
トランジスタ3A〜3Fに利用されるLDMOSFETは、例えば、p−型Si基板19、p−well20、Si酸化膜21、多結晶Si膜(ゲート電極)22、n型Si層23、n−型Si層24、n+型Si層(ドレイン拡散層)25、n+型Si層(ソース拡散層)26、p+型Si層27、金属膜28,29,30,31、絶縁膜32などから構成される。トランジスタのドレインとソースはLDMOSFETの本体からお互いに逆方向に引き出され、ゲートはドレインとソースの引き出し方向に対して直角に引き出されている。対をなすトランジスタのドレインがMIM容量を介して、ソースが直接、金属配線によりお互いに接続されている。図5下部の断面構造図に示すように、本実施の形態1に用いたLDMOSFETでは、通常のLDMOSFETと同様にゲート(多結晶Si膜22)と高濃度ドレイン拡散層(n+型Si層25)の間に低不純物濃度領域(n−型Si層24、オフセットドレイン)を設け、通常のCMOSトランジスタよりも耐圧が高くなるようにしている。但し、通常のLDMOSFETと異なるのは、Si基板(p−型Si基板19)が高抵抗である点である。
比較のため、図8に、通常のLDMOSFETの同じ部分の縦断面構造を示す。図8は、後述する実施の形態3におけるLDMOSFETの縦断面構造である。
図8に示すように、通常のLDMOSFETが形成されたSi基板の下方は高不純物濃度で低抵抗となっている。図8中で図5に含まれていないものは、p+型Si基板33、p−型Si層34、p+型多結晶Si膜35である。この場合には、基板の一定深さより下(p+型Si基板33)では高不純物濃度で低抵抗になっており、それが接地されているのに対し、本実施の形態1に用いたLDMOSFETでは、図5に示すようにp−型Si基板19は、デバイスが形成された表面付近を除いて、低不純物濃度で高抵抗となっている。これは、前述のように、LDMOSFET対が差動動作をすることから、高周波信号がソースと接地の間に流れることがなく、ソースの直近に接地を配置する必要がないためである。また、Si基板において、トランスフォーマが形成された領域の下方に低抵抗の層があると、トランスフォーマからの電磁気的影響により電力の損失が起こるが、それを避けるためにも高抵抗としている。
図4は、本発明の実施の形態1による電力増幅器の模式的構成を示す平面図である。
図4に示すように、本実施の形態1による電力増幅器は、図3に示したもの以外に、Siチップ7、プリント基板(PCB)8、金属薄膜配線よりなるインダクタ9B、チップ容量10A、金属電極11A,11Bなどから構成される。プリント基板8上に、図3により説明したオーバーラップ型DATが形成されたSiチップ7が搭載されている。プリント基板8上の、そのSiチップ7に隣接した領域に金属薄膜配線よりなるインダクタ9Bと、チップ容量10Aが配置されている。そのインダクタ9Bの一方の端子はDATの出力とワイヤにより接続され、他方の端子はプリント基板8上に形成された金属電極11Aを介して、チップ容量10Aの一方の端子と接続されている。このインダクタ9Bとチップ容量10Aが接続された端子(金属電極11A)は、電力増幅器の出力端子としてはたらく。チップ容量10Aの他方の端子はプリント基板8上に形成された金属電極11Bとビアを介して接地されている。このインダクタ9Bとチップ容量10Aよりなる回路は、インピーダンス整合回路としてはたらく。図3の説明で述べたように本実施例で用いられているDATのインピーダンス変換回路としての変換比はおよそ9で、本来必要とされる約64に対して不足している。本インピーダンス整合回路は、その不足を補うためのものである。
図6は、図4におけるDATが形成されたSiチップ7の平面構造を、図5に示したLDMOSFETの対の平面配置を用いてより具体的に示したものである。図6に示すように、本実施の形態1による電力増幅器のSiチップ7上には、ドライバ段12、バラン13、DAT14、LDMOSFET差動対15などが配置されている。Siチップ7上には、図3に示したDAT14に加え、DATのトランジスタ3A〜3Fを駆動するための電力増幅段(ドライバ段12)、およびその出力をDATのトランジスタ3A〜3Fの入力に伝えるためのバラン13が配置されている。
図7は、図4に示した本発明の実施の形態1による電力増幅器の立体的構造を示す斜視図である。図7において、実際にはプリント基板全体がレジンに覆われた構造となっているが、内部の構造が見えるようにするため、レジンの一部を無くした表示となっている。
図7に示すように、本実施の形態1による電力増幅器は、Siチップ7、プリント基板(多層配線基板)8、金属薄膜配線よりなるインダクタ9B、チップ容量10A、金属電極11A,11B、レジン16などから構成される。
本実施の形態1によると、DATと1対のインダクタと容量により電力増幅器の出力整合回路を構成できるので、従来のインダクタと容量からなるローパスフィルタ3個により構成した場合と比較して、出力整合回路の占有面積を約60%に低減できる。また、トランジスタとしてLDMOSFETを用いることにより、CMOSデバイスを用いた従来のDAT技術による電力増幅器と比較して、電力付加効率を約8ポイント向上できる。
また、トランスフォーマの1次コイル1本と2次コイル全体の長さの比を奇数にすることは、従来型DATでは不可能であった。本発明によるオーバーラップ型になって、それが初めて可能となり、出力の電圧と電流のバランスの最適化がより容易になる。また、オーバーラップ型では1次コイル2本が2次コイルの両側に配置される構造となっている。そのため、1次コイルが2次コイルの片側だけに配置されている従来のDATのトランスフォーマと比較して、1次コイルと2次コイルの間の磁気的結合が強くなり、トランスフォーマでの電力損失をより小さくできる。その結果、従来型DATでデバイスとしてLDMOSFETを用いた場合と比較して、電力付加効率を約3ポイント向上できる。また、従来のDATの場合と同様にDC電源やグランドには高周波電流が流れ込むことはない。従って、それらに高周波を阻止するためのインダクタや電源電圧を安定させるための大きな容量が不要になることによる低コスト化効果は、従来のDATの場合と同様に維持される。
(実施の形態2)
図9および図10により、本発明の実施の形態2による電力増幅器の構成を説明する。
図9は、本発明の実施の形態2による電力増幅器において、トランスフォーマとトランジスタからなるDATの部分の模式的構成を示す平面図である。
図9に示すように、本実施の形態2によるDATは、薄膜状の金属配線1,2、トランジスタ3A,3B、容量4などから構成される。
本構造はSi基板上に形成され、トランジスタ3A,3BはLDMOSFET、容量4はMIM容量である。金属配線1と金属配線2によってトランスフォーマが構成され、金属配線1が1次コイル、金属配線2が2次コイルとしてはたらく。トランジスタ3Aのドレインは、金属配線1からなる電流経路を介して、トランジスタ3Bのドレインと結合している。その電流経路の中間点が正電源Vddに接続され、それぞれのトランジスタのドレインからその正電源Vddに接続された部分までの電流経路が1本の1次コイルとなっている。上記のトランジスタ1個、1次コイル1本が1個のゲインブロックを構成し、さらに上記正電源Vddを介して2個のゲイインブロックが結合し1個の差動対を成すことにより、1個のプッシュプル増幅器を構成している。すなわち、このDATは1個のプッシュプル増幅器からなる。トランジスタ3Aのドレインは容量4を介してトランジスタ3Bのドレインと接続されている。トランジスタ3Aのソースは直接トランジスタ3Bのソースと接続されている。お互いに接続された各トランジスタのソースは接地されている。
2本の1次コイルの長さの合計は、2次コイルの長さとほぼ同じになっている。従って、1次コイル1本(1個のゲインブロックに属する1次コイル)の長さと2次コイルの長さの比は2となっている。従って、このトランスフォーマのインピーダンス変換回路としての変換比はおよそ4である。2次コイルの片方の端は接地され、もう一方の端は出力としてはたらく。
本実施の形態2におけるプッシュプル増幅器の基本的な動作は、前記実施の形態1の場合とほぼ同じである。差動対を成すゲインブロックのトランジスタのゲートには、それぞれ大きさがほぼ同じで位相が逆の高周波信号が入力される。そのため、それらのトランジスタのドレインとソースにも大きさがほぼ同じで位相が逆の高周波電流が流れる。その結果、差動対の一方のゲインブロックの1次コイルを流れる高周波電流の大半は、他方のゲインブロックの1次コイルに流れ込むことになり、正電源と接地にはほとんど電流の出入りがない。
図10は、本発明の実施の形態2による電力増幅器の模式的構成を示す平面図である。
図10に示すように、本発明の実施の形態2による電力増幅器は、例えば、Siチップ7、プリント基板(PCB)8、チップインダクタ9A、チップ容量10A、金属電極11A,11Bなどから構成される。プリント基板8上に、図9により説明したDATが形成されたSiチップ7が搭載されている。プリント基板8上のSiチップ7に隣接した領域に、チップインダクタ9Aとチップ容量10Aが配置されている。チップインダクタ9Aの一方の端子はDATの出力とワイヤにより接続され、他方の端子はプリント基板8上に形成された金属電極11Aを介して、チップ容量10Aの一方の端子と接続されている。このチップインダクタ9Aとチップ容量10Aが接続された端子は、電力増幅器の出力端子としてはたらく。チップ容量10Aの他方の端子はプリント基板上に形成された金属電極11Bとビアを介して接地されている。このチップインダクタ9Aとチップ容量10Aよりなる回路は、インピーダンス整合回路としてはたらく。図9の説明で述べたように本実施例で用いられているDATのインピーダンス変換回路としての変換比はおよそ4で、本来必要とされる約64に対して不足している。本インピーダンス整合回路は、その不足を補うためのものである。
本実施の形態2によると、前記実施の形態1の電力増幅器と比較して、電力付加効率は約3ポイント低いものの、それ以外はほぼ同じ効果がある。
(実施の形態3)
図11、図8により、本発明の実施の形態3による電力増幅器を説明する。
図11は、本発明の実施の形態3による電力増幅器の模式的構成を示す平面図である。
図11に示すように、本発明の実施の形態3による電力増幅器は、トランスフォーマとLDMOSFETがそれぞれ別々のSiチップ7,7A上に形成されている。他の構成は、図10と同じである。Siチップ7上に形成された一対のLDMOSFETと別のSiチップ7A上に形成されたトランスフォーマをプリント基板8上に搭載し、ワイヤで接続することにより、図9により説明したプッシュプル増幅器を形成している。プリント基板8上にチップインダクタ9Aとチップ容量10Aからなるインピーダンス変換回路が形成され、それとプッシュプル増幅器の出力とがワイヤで接続されている。
図8は、本実施の形態3に用いられているLDMOSFETの縦断面構造を示す図である。本実施の形態3のトランスフォーマやトランジスタの構造及び構成は、前記実施の形態2とほぼ同じであるが、実施の形態2はトランジスタがSiチップ7上に形成されているのに対し、本実施の形態3はトランスフォーマがそれとは異なるSiチップ7A上に形成されている点に違いがある。
この場合、LDMOSFETは図5の縦断面構造に示すようにSi基板下部が高抵抗であってもよいが、図8に示すように通常のLDMOSFETと同様にSi基板下部が高不純物濃度で低抵抗であっても良い。この場合、LDMOSFETのソースは基板下部と低抵抗Si層を介して電気的に接続されており、Si基板裏面を接地すると、ソースも自動的に接地される。前記実施の形態1や前記実施の形態2において、Si基板下部を高抵抗にしたのは、トランスフォーマからの電磁的な影響により基板の低抵抗領域で電力の損失が増大することを防ぐためである。本実施の形態3では、トランスフォーマは別のチップ上に形成されているために、LDMOSFETが形成された基板に電磁的影響をほとんど及ぼすことなく、LDMOSFETの下方の基板が低抵抗であっても損失が増大することはない。
本実施の形態3によると、性能やサイズにおいて、前記実施の形態2の電力増幅器とほぼ同じ効果がある。また、トランスフォーマがトランジスタと異なるSiチップ上に形成されることから、製造コストがより下がる効果もある。Siチップにおいて大部分の面積を占めるトランスフォーマを、トランジスタとは別に、工程数が少ない配線工程のみで安く形成できるので、Siチップ全体の製造コストを下げることができるからである。また、LDMOSFETを形成するために低抵抗の基板を用いて、接地をSiチップの下から取るようにすることにより、接地のためのボンディングワイヤの本数を減らすことができる効果もある。
(実施の形態4)
図12により、本発明の実施の形態4による電力増幅器を説明する。
図12は、本発明の実施の形態4による電力増幅器の模式的構成を示す平面図である。図12に示すように、本発明の実施の形態4による電力増幅器は、インダクタ9Bと容量10BがSiチップ7A上に形成されている。他の構成は、図11と同じである。Siチップ7上に形成された2個のLDMOSFETと別のSiチップ7A上に形成されたトランスフォーマをプリント基板上に搭載しワイヤで接続することにより、図9により説明したプッシュプル増幅器を形成している。トランスフォーマが形成されたのと同じSiチップ7A上に、金属薄膜配線からなるインダクタ9Bと容量10Bによりインピーダンス変換回路が形成され、それとプッシュプル増幅器の出力とが接続されている。
本実施の形態4のトランスフォーマやLDMOSFETの構造及び構成は、前記実施の形態2及び前記実施の形態3とほぼ同じであるが、トランスフォーマがLDMOSFETと異なるSiチップ7A上に形成されると共に、インピーダンス整合のためのインダクタ9Bと容量10Bも、プリント基板8上ではなくトランスフォーマと同じSiチップ7A上に形成されている点に違いがある。トランスフォーマ、インダクタ9B、容量10Bは同一基板上に形成されたIPD(Integrated Passive Device)となっている。この場合、インダクタ9Bと容量10Bは、チップデバイスではなく、Si基板上の金属配線による線路によるスパイラルインダクタや、金属配線の間に絶縁膜を挟みこんだMIM(Metal−Insulator−Metal)容量となっている。
本実施の形態4によると、性能やサイズにおいて、前記実施の形態2及び前記実施の形態3の電力増幅器とほぼ同じ効果がある。また、インダクタとLDMOSFETが、トランスフォーマと同一Siチップ上に形成されることから、チップインダクタとチップ容量をプリント基板上に搭載するための工程が不要となり、製造コストがより下がる効果もある。
(実施の形態5)
図13により、本発明の実施の形態5による電力増幅器を説明する。
図13は、本発明の実施の形態5による電力増幅器の模式的構成を示す平面図である。図13に示すように、本発明の実施の形態5による電力増幅器は、トランスフォーマがプリント基板8上に形成されている。他の構成は、図10とほぼ同じである。2個のLDMOSFETが形成されたSiチップ7をプリント基板8上に搭載し、その出力と金属薄膜配線によりプリント基板8上に形成されたトランスフォーマをワイヤで接続することにより、図9により説明したプッシュプル増幅器を形成している。プリント基板8上に、チップインダクタ9Aとチップ容量10Aからなるインピーダンス変換回路が形成され、それとプッシュプル増幅器の出力とがワイヤで接続されている。
本実施の形態5のトランスフォーマやLDMOSFETの構造及び構成は、前記実施の形態2〜4とほぼ同じであるが、トランスフォーマがチップインダクタ9A、チップ容量10Aと共に、プリント基板8上に形成されている点に違いがある。
本実施の形態5によると、トランスフォーマを形成する金属薄膜配線の厚みが、それをSiチップ上に形成する場合と比較して数倍厚くできる。その結果、トランスフォーマの抵抗に起因した損失が少なくでき、電力増幅器の電力付加効率を前記実施の形態2〜4の場合と比較して約5ポイント向上できる。それ以外の性能、サイズ、コストに関しては前記実施の形態2〜4の電力増幅器の場合とほぼ同じ効果がある。
(実施の形態6)
図14および図15により、本発明の実施の形態6による電力増幅器を説明する。
図14は本発明の実施の形態6による電力増幅器において、トランスフォーマとトランジスタからなるオーバーラップ型DATの部分の模式的構成を示す平面図である。図14中の各符号が示す部分の名称は、図3に示した前記実施の形態1の場合と同じである。
本構造はSi基板上に形成され、トランジスタ3A〜3DはLDMOSFET、容量4A,4Bは金属薄膜間に絶縁膜を挟み込んだMIM(Metal−Insulator−Metal)容量である。薄膜状の金属配線1A〜1Fと薄膜状の金属配線2によってトランスフォーマが構成され、金属配線1A〜1Fが1次コイル、金属配線2が2次コイルとしてはたらく。トランジスタ3Bのドレインは、金属配線1D、アルミワイヤ5C、金属配線1F、アルミワイヤ5B、金属配線1Aからなる電流経路を介して、トランジスタ3Aのドレインと結合している。その電流経路の中間点が正電源Vddに接続され、それぞれのトランジスタのドレインからその正電源Vddに接続された部分までの電流経路が、1本の1次コイルとなっている。上記のトランジスタ1個、1次コイル1本が1個のゲインブロックを構成し、さらに上記正電源Vddを介して2個のゲイインブロックが結合し1個の差動対を成すことにより、1個のプッシュプル増幅器を構成している。トランジスタ3Cのドレインは、金属配線1B、アルミワイヤ5A、金属配線1E、アルミワイヤ5D、金属配線1Cからなる電流経路を介して、トランジスタ3Dのドレインと結合している。これらのユニットも、トランジスタ3Aと3Bの場合と同様にそれぞれ1個のプッシュプル増幅器を構成している。すなわち、本DATは2個のプッシュプル増幅器からなり、4個のゲインブロックとそれらそれぞれに属する4本の1次コイルを有している。トランジスタ3Aのドレインは容量4Aを介してトランジスタ3Bのドレインと接続されている。トランジスタ3Aのソースは直接トランジスタ3Bのソースと接続されている。トランジスタ3Cのドレインは容量4Bを介してトランジスタ3Dのドレインと接続されている。トランジスタ3Cのソースは直接トランジスタ3Dのソースと接続されている。お互いに接続された各トランジスタのソースは接地されている。
計4本の1次コイルは、ほぼ環状に近い金属配線2よりなる2次コイルの両側を挟むように配置され、それらの長さの合計は、2次コイルの長さのほぼ2倍となっている。従って、1次コイル1本(1個のゲインブロックに属する1次コイル)の長さと2次コイル全体の長さの比は2となっている。従って、このDATのインピーダンス変換回路としての変換比はおよそ4である。2次コイルの片方の端は接地され、もう一方の端は出力としてはたらく。
本実施の形態6におけるプッシュプル増幅器の基本的な動作は、前記実施の形態1の場合とほぼ同じである。差動対を成すゲインブロックのトランジスタのゲートには、それぞれ大きさがほぼ同じで位相が逆の高周波信号が入力される。そのため、それらのトランジスタのドレインとソースにも大きさがほぼ同じで位相が逆の高周波電流が流れる。その結果、差動対の一方のゲインブロックの1次コイルを流れる高周波電流の大半は、他方のゲインブロックの1次コイルに流れ込むことになり、正電源Vddと接地にはほとんど電流の出入りがない。
図15は、本発明の実施の形態6による電力増幅器の模式的構成を示す平面図である。図15中の各符号の示す各部分の名称は、図14及び図10の場合と同じである。プリント基板8上に、図14により説明したオーバーラップ型トランスフォーマが形成されたSiチップ7が搭載されている。プリント基板8上の、Siチップ7に隣接した領域にチップインダクタ9Aと、チップ容量10Aが配置されている。そのチップインダクタ9Aの一方の端子はDATの出力とワイヤにより接続され、他方の端子はプリント基板8上に形成された金属電極11Aを介して、チップ容量10Aの一方の端子と接続されている。このチップインダクタ9Aとチップ容量10Aが接続された端子は、電力増幅器の出力端子としてはたらく。チップ容量10Aの他方の端子はプリント基板8上に形成された金属電極11Bとビアを介して接地されている。このチップインダクタ9Aとチップ容量10Aよりなる回路は、インピーダンス整合回路としてはたらく。図14の説明で述べたように本実施例で用いられているDATのインピーダンス変換回路としての変換比はおよそ4で、本来必要とされる約64に対して不足している。本インピーダンス整合回路は、その不足を補うためのものである。
本実施の形態6のトランスフォーマは、オーバーラップ型であるので1次コイル2本が2次コイルの両側に配置される構造となっている。そのため、1次コイルが2次コイルの片側だけに配置されている本発明の実施の形態2〜4の場合と比較して、1次コイルと2次コイルの間の磁気的結合が強くなり、トランスフォーマでの電力損失をより小さくできる。その結果、それらの実施例と比較して、電力付加効率が約1.5ポイント増加する効果がある。その他の性能、サイズ、コストに関しては前記実施の形態2〜4の電力増幅器の場合とほぼ同じ効果がある。
(実施の形態7)
図16により、本発明の実施の形態7による電力増幅器を説明する。図16は、本発明の実施の形態7による電力増幅器の模式的構成を示す平面図である。
本実施の形態7では、図14により説明したオーバーラップ型トランスフォーマが形成されたプリント基板8上に、トランジスタ3A〜3Dと容量4A,4Bが形成されたSiチップ7Aが、フリップチップボンディング法によりバンプ電極17を介して結合されている。プリント基板8上には、オーバーラップ型トランスフォーマと、チップインダクタ9Aと、チップ容量10Aが配置されている。バンプ電極17は、トランジスタ3A〜3Dの出力端子(ドレインもしくはコレクタ)毎に設けられている。図16中の矢印で示すように、Siチップ7Aは、バンプ電極17を介して、プリント基板8上に形成されたオーバーラップ型トランスフォーマの1次コイルに相当する金属配線1A〜1Dに結合している。すなわち、Siチップ7Aは、フリップチップボンディング法によりプリント基板8上に結合している。チップインダクタ9Aの一方の端子はDATの出力とワイヤにより接続され、他方の端子はプリント基板8上に形成された金属電極11Aを介して、チップ容量10Aの一方の端子と接続されている。このチップインダクタ9Aとチップ容量10Aが接続された端子は、電力増幅器の出力端子としてはたらく。チップ容量10Aの他方の端子はプリント基板上に形成された金属電極11Bとビアを介して接地されている。このチップインダクタ9Aとチップ容量10Aからなる回路は、インピーダンス整合回路としてはたらく。
本実施の形態7によると、トランスフォーマを形成する金属配線の厚みを、Siチップ上に形成する場合と比較して数倍厚くできる。その結果、トランスフォーマの抵抗に起因した損失が少なくなり、前記実施の形態6の場合と比較して電力増幅器の電力付加効率を約5ポイント向上させることができる。それ以外の性能、サイズ、コストに関しては、前記実施の形態6による電力増幅器の場合とほぼ同じ効果がある。
(実施の形態8)
図17により、本発明の実施の形態8による電力増幅器を説明する。図17は本発明の実施の形態8による電力増幅器において、トランスフォーマとトランジスタからなるオーバーラップ型DATの部分の模式的構成を示す平面図である。
図17に示すように、本実施の形態8によるオーバーラップ型DATは、薄膜状の金属配線1A〜1L,2、トランジスタ3A〜3H、容量4A〜4D、アルミワイヤ5A〜5Hなどから構成される。
本構造はSi基板上に形成され、トランジスタ3A〜3HはLDMOSFET、容量4A〜4Dは金属薄膜間に絶縁膜を挟み込んだMIM(Metal−Insulator−Metal)容量である。金属配線1A〜1Lと金属配線2によってトランスフォーマが構成され、金属配線1A〜1Lが1次コイル、金属配線2が2次コイルとしてはたらく。トランジスタ3Aのドレインは、金属配線1A、アルミワイヤ5A、金属配線1L、アルミワイヤ5H、金属配線1Fからなる電流経路を介して、トランジスタ3Fのドレインと結合している。その電流経路の中間点が正電源Vddに接続され、それぞれのトランジスタのドレインからその正電源Vddに接続された部分までの電流経路が、1本の1次コイルとなっている。上記のトランジスタ1個、1次コイル1本が1個のゲインブロックを構成し、さらに上記正電源Vddを介して2個のゲイインブロックが結合し1個の差動対を成すことにより、1個のプッシュプル増幅器を構成している。トランジスタ3Bのドレインは、金属配線1B、アルミワイヤ5D、金属配線1J、アルミワイヤ5E、金属配線1Eからなる電流経路を介して、トランジスタ3Eのドレインと結合している。トランジスタ3Cのドレインは、金属配線1C、アルミワイヤ5C、金属配線1I、アルミワイヤ5B、金属配線1Hからなる電流経路を介して、トランジスタ3Hのドレインと結合している。また、トランジスタ3Dのドレインは、金属配線1D、アルミワイヤ5F、金属配線1K、アルミワイヤ5G、金属配線1Gからなる電流経路を介して、トランジスタ3Gのドレインと結合している。これらのユニットも、トランジスタ3Aと3Dの場合と同様にそれぞれ1個のプッシュプル増幅器を構成している。すなわち、本DATは4個のプッシュプル増幅器からなり、8個のゲインブロックとそれぞれに属する8本の1次コイルを有している。トランジスタ3Aのドレインは容量4Aを介してトランジスタ3Bのドレインと接続されている。トランジスタ3Aのソースは直接トランジスタ3Bのソースと接続されている。トランジスタ3Cのドレインは容量4Bを介してトランジスタ3Dのドレインと接続されている。トランジスタ3Cのソースは直接トランジスタ3Dのソースと接続されている。トランジスタ3Eのドレインは容量4Cを介してトランジスタ3Fのドレインと接続されている。トランジスタ3Eのソースは直接トランジスタ3Fのソースと接続されている。トランジスタ3Gのドレインは容量4Dを介してトランジスタ3Hのドレインと接続されている。トランジスタ3Gのソースは直接トランジスタ3Hのソースと接続されている。お互いに接続された各トランジスタのソースは接地されている。
計8本の1次コイルは、ほぼ環状に近い金属配線2よりなる2次コイルの両側を挟むように配置され、それらの長さの合計は、2次コイルの長さのほぼ2倍となっている。従って、1次コイル1本(1個のゲインブロックに属する1次コイル)の長さと2次コイル全体の長さの比は4となっている。従って、このDATのインピーダンス変換回路としての変換比はおよそ16である。2次コイルの一方の端は接地され、他方の端は出力としてはたらく。2次コイルの出力は、他の実施例の場合と同様に、DATのインピーダンス変換比の不足を補うため、チップインダクタとチップ容量よりなるインピーダンス整合回路に接続される。
本実施の形態8におけるプッシュプル増幅器の基本的な動作は、前記実施の形態1の場合とほぼ同じである。プッシュプル増幅器において、差動対を成すゲインブロックのトランジスタのゲートには、それぞれ大きさがほぼ同じで位相が逆の高周波信号が入力される。そのため、それらのトランジスタのドレインとソースにも大きさがほぼ同じで位相が逆の高周波電流が流れる。その結果、差動対の一方のゲインブロックの1次コイルを流れる高周波電流の大半は、他方のゲインブロックの1次コイルに流れ込むことになり、正電源Vddからはほとんど流れ出さない。また、別のプッシュプル増幅器に属するが隣接するトランジスタ、たとえばトランジスタ3Aとトランジスタ3Bのゲートにも、それぞれ大きさがほぼ同じで位相が逆の高周波信号が入力され、それらのトランジスタのドレインとソースにも大きさがほぼ同じで位相が逆の高周波電流が流れる。その結果、トランジスタのソースから流れ出る高周波電流の大半は、隣接しソース同士が接続されているトランジスタのソースに流れ込むことになり、接地にはほとんど流れない。
本実施の形態8によると、前記実施の形態1の電力増幅器と比較して、電力付加効率は約1.5ポイント低いものの、それ以外はほぼ同じ効果がある。
(実施の形態9)
図18、図19により、本発明の実施の形態9による電力増幅器を説明する。図18は、本発明の実施の形態9による電力増幅器の模式的構成を示す平面図である。
図18に示す電力増幅器は、図11及び図6の構成と比較すると、化合物半導体チップ7B上に、化合物HBT(Hetero−junction Bipolar Transistor)により差動対18が形成されている点が異なる。本実施の形態9のDATおよびインピーダンス整合回路の基本的構成は、前記実施の形態3とほぼ同じであるが、トランジスタが化合物HBTである点に違いがある。
図19に、本実施の形態9で用いられている化合物HBTの差動対の平面配置と、その中の実線部分における化合物HBTの縦断面構造を示した。図19に示すように、化合物HBTによる差動対は、GaAs半絶縁性基板36、サブコレクタ層37、コレクタ層38、p+型GaAsベース層39、AlGaAsエミッタ層40、n型GaAs層41、コレクタ電極42、ベース電極43、エミッタ電極44、グランド電極45、バイアホール46などから構成される。ベースとコレクタは化合物HBTの本体からお互いに逆方向に引き出され、お互いに入り組み合ったくし型の配線により、それぞれを引き出すためのパッドに接続されている。エミッタはバイアホール46を介して、基板裏面に形成されたグランド電極45に接続されている。トランジスタのベースは入力端子、コレクタは出力端子であり、エミッタは接地されている。対をなすトランジスタのコレクタはMIM容量を介してお互いに接続されている。対をなすトランジスタのエミッタはバイアホール46と裏面金属膜を介してお互いに接続されている。
図18のプリント基板8上には、化合物HBTの差動対18が形成された化合物半導体チップ7B、トランスフォーマが形成されたSiチップ7A、およびSiチップ7Aに隣接した領域にチップインダクタ9Aと、チップ容量10Aが配置されている。化合物半導体チップ7B上には、化合物HBTの差動対18に加え、それらを駆動するための電力増幅段(ドライバ段)12、およびその出力を化合物HBTの差動対18の入力に伝えるためのバラン13が配置されている。差動対18を成す化合物HBTのコレクタ同士は、薄膜状の金属配線1からなる電流経路を介してお互いに結合している。その電流経路の中間点が正電源Vddに接続され、それぞれのトランジスタのコレクタからその正電源Vddに接続された部分までの電流経路が、1本の1次コイルとなっている。上記のトランジスタ1個、1次コイル1本が1個のゲインブロックを構成し、さらに上記正電源Vddを介して2個のゲイインブロックが結合し、1個のプッシュプル増幅器を構成している。薄膜状の金属配線2よりなるトランスフォーマの2次コイルの出力はチップインダクタ9Aの一方の端子にワイヤにより接続されている。チップインダクタ9Aの他方の端子はプリント基板8上に形成された金属電極11Aを介して、チップ容量10Aの一方の端子と接続されている。このチップインダクタ9Aとチップ容量10Aが接続された端子は、電力増幅器の出力端子としてはたらく。チップ容量10Aの他方の端子はプリント基板8上に形成された金属電極11Bとビアを介して接地されている。このチップインダクタ9Aとチップ容量10Aよりなる回路は、インピーダンス整合回路としてはたらく。
本実施の形態9の電力増幅器によると、性能やサイズにおいて、前記実施の形態3の電力増幅器とほぼ同じ効果がある。
上記実施の形態1〜9により説明した本発明に係る電力増幅器の概要をまとめると以下のようになる。
DATのアクティブデバイスとしてLDMOSFETや化合物HBT等の高耐圧トランジスタを用いる。nMOSトランジスタの場合よりも実質的にゲインブロック数を減らし、1次コイルに対する2次コイルの長さの比を小さくすることにより、デバイス出力での電圧振幅を大きくする。一方、それにより、出力整合回路としてのインピーダンス変換比が不足することになるので、トランスフォーマの出力に、インピーダンス変換回路として、チップ外に設置したインダクタや容量を接続することにより不足を補う。
デバイス出力での電圧振幅を決める根本的なパラメータは、1個のゲインブロックに属する1次コイルの長さに対する2次コイル全体の長さの比である。それを小さくする(1次コイルを相対的に長くする)ことによりデバイス出力での電圧振幅が大きくなる。本発明では、この比をほぼ4以下とする。以上が本発明の基本構成で、それらの実施例を図4、図10〜13、図15に模式図で示した。
先に述べたように、従来型のDATでは、1次コイルに対する2次コイルの長さの比は、ゲインブロック数にほぼ等しい。しかし、DATのトランスフォーマには色々な変形が考えられ、それらは、必ずしも1対1に対応しない。
本実施の形態の図3、図4、図14、図15、図17等で示したように、2次コイルの両側に1次コイルが配置されるオーバーラップ型構造のトランスフォーマの場合は、1次コイルに対する2次コイルの長さの比は、ゲインブロック数の1/2にほぼ等しい。従って、本発明の1個のゲインブロックに属する1次コイルの長さに対する2次コイル全体の長さの比がほぼ4以下とは、2次コイルの片側に1次コイルを配置する場合はゲインブロック数が4以下、2次コイルの両側に1次コイルを配置する場合はゲインブロック数が8以下であることを意味している。
この1次コイルの長さと2次コイル全体の長さの比に関して、上記範囲においてその種類を増やし、かつ1次コイルに結合したプッシュプル増幅器を正常に動作させることができるトランスフォーマの構造として、本実施の形態のオーバーラップ型トランスフォーマを発明した。図3、図14、図17にその基本構造の例を示した。
従来のDATでは、個々のプッシュプル増幅器のトランスフォーマ構造はお互いに重なることなく配置されている。一方、本発明の構造では、プッシュプル増幅器を構成する1次コイルの一部を、隣接するプッシュプル増幅器の1次コイルに対して2次コイルを介して対向して配置する。すなわち、個々のプッシュプル増幅器のトランスフォーマ構造の一部が、隣接するプッシュプル増幅器のトランスフォーマ構造とオーバーラップしている。環状の2次コイルは、その全長にわたって1次コイルに両側から挟まれる構造となり、1次コイルの長さの合計が2次コイルの長さのほぼ2倍となっている。すなわち、1次コイルの長さに対する2次コイル全体の長さの比が、ゲインブロック数が同じ従来のDATと比較して1/2となる。従来のDATと同様に、差動動作であることや、トランジスタのソースが隣接するトランジスタのソースと接続されて接地されていることから、DC電源やグランドに高周波電流が流れないという従来のDATの特長は、そのまま維持されている。
以上、本発明のポイントは、1個のゲインブロックに属する1次コイルの長さと2次コイル全体の長さの比を限定したトランスフォーマと外付けの受動素子を組み合わせた出力整合・合成回路の基本構成、およびオーバーラップ型トランスフォーマの適用により、アクティブデバイスにCMOSデバイス以外のもの、特にLDMOSFETや化合物HBT等の高耐圧トランジスタを用いた場合のDATにおいて良好な性能を得ることにある。
次に、上記実施の形態1〜9により説明した本発明に係る電力増幅器の作用・効果について説明する。
電力増幅器の負荷での最大電圧振幅Vmaxは、負荷のインピーダンスが50Ωの場合、出力をPとすると
と一意的に決まる。DATのトランスフォーマの出力を直接負荷に結合した場合、2次コイル全体に印加される最大電圧は(式1)に等しい。一方、1個のゲインブロックの1次コイルに印加される最大電圧振幅は、1個のゲイインブロックの1次コイルに対する2次コイル全体の長さの比をnとすると、近似的に
となる。デバイスのソース−ドレイン間に印加される最大電圧V
dmaxは、1個の1次コイルに印加される最大電圧振幅の2倍に等しく、
となる。GSM方式携帯電話端末の電力増幅器ではP=4Wであるので、従来のゲインブロック数8のDAT技術(n=8)を用いた場合、(式2)によりソース−ドレイン間に印加される電圧は約5Vとなる。アクティブデバイスとしてLDMOSFETや化合物HBT等の高耐圧トランジスタを用いた場合、このV
dmaxでは高効率動作をさせることはできない。
1個のゲインブロックに属する1次コイルの長さに対する2次コイル全体の長さの比を従来のDATの場合より小さくする(1次コイルを長くする)ことにより、(式3)に示されているように、Vdmaxを従来のDATの場合より大きくすることができる。例えば、nを4とするとVdmaxは10Vに増加する。
ただし、n=4の場合、トランスフォーマの出力整合回路としてのインピーダンス変換比は、n=8の場合の64から16に低下してしまう。その不足分を補うために、トランスフォーマと負荷との間に容量とインダクタよりなる整合回路を挿入する。
LDMOSFETや化合物HBT等の高耐圧トランジスタは、出力容量が小さく設計されていることにより、CMOSデバイスと比較してより高効率、低歪みの電力増幅を可能とする特性を有している。上記方法により、高耐圧トランジスタのその本来の性能を引き出すことのできる動作をさせることにより、CMOSデバイスを用いた従来のDAT技術による場合より高効率、低歪みの電力増幅器が実現できる。また、高耐圧トランジスタには破壊に強いという特長もある。
従来のDAT技術でのトランスフォーマでは、環状の1本の2次コイルに沿って、複数個のプッシュプル増幅器を環状に配置していた。各プッシュプル増幅器はゲインブロックの対からなっており、それぞれのゲインブロックのインダクティブパスが1次コイル1本と見なすことができる。その場合、1次コイルは全部で偶数本となり、それら全部で円弧1周を構成するので、それらの長さの合計が2次コイル全体の長さとほぼ同じとなる。そのため、1次コイル1本(1個のゲインブロックに属する1次コイル)の長さに対する2次コイル全体の長さの比は、ほぼゲインブロック数と同じになるので、2、4、6、・・・と偶数に制限され、奇数の比にすることは不可能であった。
一方、本発明におけるオーバーラップ型のトランスフォーマでは、1次コイルが偶数本であるのは同じであるが、それら全部で円弧のほぼ2周を構成しそれらの長さの合計が2次コイル全体の長さの2倍となる。従って、1次コイル1本に対する2次コイル全体の長さの比はプッシュプル増幅器の個数と同じ(ゲインブロック数の1/2)となり、プッシュプル増幅器が奇数個の場合は奇数にすることができる。以上の結果、トランジスタに印加される電圧と電流の多様性を増やすことができ、それらのバランスをより最適化することが可能となるため、電流増幅器の性能を向上させることができる。
従来のDAT技術の一例として示したインタディジタル型のトランスフォーマ(図20)では、各プッシュプル増幅器のインダクティブパス、すなわち各ゲインブロックの1次コイルの長さが完全に同じではない。従って、電力増幅器としての性能最適化のためには、トランジスタの大きさ、トランジスタのドレインに付加する容量値、入力インピーダンス等を、プッシュプル増幅器毎に調整する必要がある。その結果、パラメータが多くなり過ぎ最適化が困難となる問題があった。
一方、本発明におけるオーバーラップ型のトランスフォーマでは、各プッシュプル増幅器がほぼ等価であるため、そのような問題は起こらない。
従来、電力増幅器においてDATを用いずにトランジスタと負荷との間でインピーダンス整合を取る場合、伝送線路及びそれとグランドとの間に接続したチップ容量からなるユニットを複数個接続したインピーダンス整合回路を用いていた。
本発明の場合、トランスフォーマによるインピーダンス変換効果により、このユニットを従来と比較して1個もしくは2個減らすことができる。またトランスフォーマ1個の寸法はその受動素子のユニットの寸法よりも小さい。従って、従来のDAT技術が有するインピーダンス整合回路の占有面積低減効果は、本発明においても少なくとも部分的には維持される。
また、従来のDATの場合と同様に、差動動作であることやトランジスタのソースが隣接するトランジスタのソースと接続されて接地されていることから、電源回路やグランドにおいて、高周波を阻止するためのインダクタや電源電圧を安定させるための大きな容量が不要という低コスト化効果は、従来のDATの場合と同様に維持される。
従って、本発明に係る電力増幅器は、1個のゲインブロックに属する1次コイルの長さと2次コイル全体の長さの比を限定したトランスフォーマと外付けの受動素子を組み合わせた出力整合・合成回路の基本構成の採用により、従来のDAT技術の特長の大部分を残したまま、従来のDAT技術では困難であったトランジスタとしてLDMOSFETや化合物HBT等の高耐圧トランジスタを用いることを可能にできる。
高耐圧トランジスタを用いた場合、GSM方式携帯電話端末用電力増幅器の電力付加効率は、従来のDAT技術では約30%に過ぎないのに対し、上記本発明の基本構成により60%以上にすることができる。また、高耐圧トランジスタを用いることができることにより、従来のDAT技術においてCMOSデバイスを用いる場合と比較して、電力付加効率を約5%改善する効果と破壊が起こりにくく信頼性が向上する効果がある。
DATにオーバーラップ型トランスフォーマを採用することにより、1個のゲインブロックに属する1次コイルの長さに対する2次コイル全体の長さの比を従来のDATでは不可能であった奇数(3、5、・・・)にすることが可能となる。その結果、トランジスタに印加される電圧と電流のバランスをより最適化することが可能となり、電流増幅器の性能を向上させることができるという効果がある。1個のゲインブロックに属する1次コイルの長さに対する2次コイル全体の長さの比を、4から3にすることにより電力付加効率を約3ポイント増加させることができる。
また、オーバーラップ型トランスフォーマでは、2次コイルに対し、その両隣に1次コイルが配置される。その結果、1次コイル−2次コイル間の磁気的結合が大きくなることも電力増幅器の性能向上に寄与する。従来のDAT技術の一例として示した図20に示すインタディジタル型トランスフォーマも類似の配置であるため、同様に結合乗数が大きくなる。しかし、オーバーラップ型の方がインタディジタル型よりも電力負荷効率を約3ポイント増加させることができる。
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、前記実施の形態1〜9をそれぞれ適宜組み合わせてもよい。