JP2008189984A - 熱延鋼板及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】自動車用等の用途に用いられる素材として好適な、降伏比YRが0.8以上の高降伏強度を有し、衝撃吸収特性と形状凍結性に優れる熱延鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Ti、Nb、Mo、Vのうちの1種又は2種以上を合計で0.05%以下含有し、フェライトを主相とする炭素鋼または低合金鋼からなる鋼板であって、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径D(μm)が下記の(1)式及び(2)式を満足し、降伏比YRが0.8以上であって、平均塑性接線勾配H'が下記の(3)式を満足する熱延鋼板。 1.2≦D≦7・・(1)式 D≦2.7+5000/(5+350・C+40・Mn)・・・(2)式 0.1≦H'/TS≦−2×YR+3.1・・・(3)式ここで、CおよびMnは鋼中の各元素の含有量(単位:質量%)、H'は平均塑性接線勾配、TSは引張強度(MPa)、YRは降伏比を示す。
【選択図】なし

Description

本発明は、衝撃吸収性と形状凍結性に優れた熱延鋼板及びその製造方法に関する。詳しくは、自動車用、家電用、機械構造用、建築用等の用途に用いられる素材として好適な、衝撃吸収性と形状凍結性に優れた熱延鋼板及びその製造方法に関する。
自動車をはじめとする輸送用機械や各種産業機械の構造用部材等の素材として供される鋼板には、衝突時の安全性向上の観点から、衝撃吸収特性を高めることが近年重要視されている。
衝撃吸収性能を向上するべく鋼板の降伏強度を高めるには、鋼板の組織を微細化することが有効である。そのため、鋼板の組織を微細するための方法が数多く提案されてきている。
従来技術における組織微細化の手段を総括すると、(i)大圧下圧延法、(ii)制御圧延法、(iii)合金元素添加法、もしくはこれらの組み合わせである。
(i)大圧下圧延法は、圧下率を50%程度以上と大きくして、1パスの圧延で大きな歪みを蓄積させ、その後オーステナイトから微細フェライトへと変態させるか、もしくは大歪みを利用して比較的粗大なフェライトを微細フェライトへ再結晶させる手法である。かかる手法によれば、1000℃近傍以下の温度に加熱した後、700℃近傍の低温域で大圧下圧延を行うことによって、1〜3μmの超微細フェライト組織が得られる。
(ii)制御圧延法は、一般的に800℃近傍以上の温度で、圧延1パス当たりの圧下率を20〜40%以下として、多パスの圧延を施した後、冷却する方法である。圧延温度をAr点近傍の狭い温度域にする方法、圧延のパス間の時間を短縮する方法、また、歪み速度と温度を制御してオーステナイトを動的再結晶させる方法などの多くの方法が開示されている。
(iii)合金元素添加法は、オーステナイトの再結晶化や回復を抑制する合金元素の微量の添加によってフェライト結晶粒の微細化を促進するものである。Nb、Ti等の合金元素は、炭化物を形成したり、粒界に偏析したりして、オーステナイトの回復と再結晶を抑制するため、熱間圧延後のオーステナイト粒が微細化して、オーステナイトからの変態で得られるフェライト結晶粒も微細化する。
この(iii)の合金元素添加法は、上記の(i)の大圧下圧延法や(ii)の制御圧延法と組み合わせて用いる場合が多い。この(iii)の合金元素添加法は、熱処理の際にもフェライトの粒成長を抑制する効果もある程度は有している。
これらの(i)大圧下圧延法、(ii)制御圧延法及び(iii)合金元素を添加する方法に言及した先行文献として、特許文献1がある。ここでは、Ar+50℃からAr+100℃の温度域で1秒以内に一回もしくは二回以上の合計圧下率が50%以上の加工を加え、加工終了後の600℃以上の温度域で20℃/秒以上の冷却速度の強制冷却を行う方法が開示されている。
また、特許文献2には、動的再結晶温度域での圧下を5スタンド以上の圧下パスにて行い、かつ、この動的再結晶温度域で圧下を加える最初のスタンド入り側と最後のスタンド出側の温度差を60℃以下にする方法が開示されている。
このように、鋼板の降伏強度値に代表される衝撃吸収特性だけをとらえてみれば、種々の手法によって、良好な衝撃吸収能を有する高降伏強度鋼板が提供されている。
一方、鋼板をプレス成型する際には、形状不良が発生しやすい。特に、良好な衝撃吸収能を有する高降伏強度を有する鋼は形状凍結性が悪く、プレス成型の際に形状不良が発生しやすいため、精度を要求される部材には適用できないという問題があった。
このプレス成型の際の鋼板の形状不良は、材料に曲げ加工を施すときに発生するスプリングバックに起因する。そして、スプリングバック量は曲げ部到達応力と相関関係にあることが知られている。
図1に、2種類の材料イ及びロに対して、曲げ試験を実施した場合における曲げ部の到達応力を示す。ここで、材料イは到達応力は大きいがその分スプリングバック量が大きく、そして、材料ロは到達応力が小さい分スプリングバック量が小さいことが、知られている。これは、到達応力の値は降伏強度YSと正の相関関係を有し、さらに、引張強度TSとも正の相関関係を有していることが知られている。したがって、スプリングバック量を低減させて、形状凍結性を改善するためには、材料の降伏強度YS及び/又は引張強度TSを低減させればよく、引張強度TSが同一の場合は降伏比YRを低減させればよい。
形状凍結性の芳しくない鋼板の形状精度を向上させる技術は、特許文献3に、曲げ加工時に板厚方向に生じる応力分布が表裏で均衡するように、事前に曲げ部に対して逆曲げ加工を施すことによりスプリングバックを抑制する手法が開示されている。
また、特許文献4に、鋼板のランクフォード値と集合組織の制御により形状凍結性を高める技術が開示されている。
特開昭59−205447号公報 特開平11−152544号公報 特開平7−148527号公報 特開2001−303175号公報
上述のとおり、組織微細化の手段として、(i)大圧下圧延法、(ii)制御圧延法、および、(iii)合金元素添加法が知られている。
しかしながら、(i)大圧下圧延法は、工業的に実現し難いばかりか、微細フェライト組織が熱処理によって粒成長し易い。したがって、溶接工程あるいは溶融めっき工程を経ると、所期の機械特性を失うため、実部品において十分な衝撃吸収特性を得られない。
(ii)制御圧延法は、圧延の直後から水冷するとされているが、直後冷却といっても圧延後0.2秒以上経過してからの冷却開始であり、冷却速度もせいぜい250℃/秒程度である。このような方法では、単純組成の低炭素鋼のフェライト結晶粒径は5μm程度にしかならない。したがって、衝撃吸収特性を十分に高めることができない。
(iii)合金元素添加法は、フェライトの結晶粒径を小さくはするもののフェライトの体積率を低下させる。また、添加する合金元素の分だけ、原料コストが嵩む。
このように、上記の特許文献1及び2に開示された、(i)大圧下圧延法、(ii)制御圧延法又は(iii)合金元素添加法によれば、微細な結晶組織の高降伏鋼板を得ることができるものの、その組織の熱的安定性は低い。
したがって、鋼板をプレス後に溶接等により組み立てて部品を得る場合や鋼板に溶融めっきを施す場合には、溶接時に加えられる熱や溶融めっき工程で加えられる熱によって結晶粒が粗大化しやすく、その機械特性が損なわれる場合がある。例えば、溶接時においてHAZ(Heat Affected Zone)部近傍の結晶組織が粗粒化し軟化が起こると、この部分に応力集中が起こりやすくなるため、この近傍で破断が起こり、溶接部における十分な衝撃吸収特性が得られないという結果になる。
なお、(iii)合金元素添加法を、上記の(i)の大圧下圧延法又は(ii)の制御圧延法と組み合わせて用いると、熱処理の際にもフェライトの粒成長を抑制する効果があるが、超微細フェライト結晶粒の溶接工程や溶融めっき工程での粒成長を抑制するには不十分であるため、適用できる鋼種が限定される。
しかしながら、鋼板の衝撃吸収性能を向上するべく、組織の微細化によって鋼板の降伏強度を高めたとしても、従来の高降伏強度を有する鋼は形状凍結性が悪く、プレス成型の際に形状不良が発生しやすいため、精度を要求される部材には適用できない。前述のとおり、形状凍結性を改善するためには、材料の降伏強度YS(引張強度TSが同一の場合は降伏比YR)及び引張強度TSを低減させることによってスプリングバック量を低減させればよいが、降伏強度YS(引張強度TSが同一の場合は降伏比YR)及び引張強度TSの低い材料は、衝撃吸収性能や疲労強度特性に劣る。すなわち、熱延鋼板の衝撃吸収性と形状凍結性を両立させることは困難であった。
形状凍結性については、前述のとおり、改善提案がなされている。しかしながら、特許文献3に開示の形状凍結性を向上させる手法では、曲げ部に前加工処理跡が残留し外観を損ねるとともに、曲げ加工を2つの工程で施す必要があり、コストの増大を招く。
また、特許文献4に開示の形状凍結性を向上させる手法では、これにより得られる鋼板の降伏強度比は低く、十分な衝撃吸収特性が得られない。
さらに、鋼板をプレス後に溶接等により組み立てて部品を得る場合や鋼板に溶融めっきを施す場合には、せっかく鋼板の組織を微細化して衝撃吸収特性等の機械特性を高めたとしても、その後に、溶接や溶融めっきの際に鋼板を加えられる熱によって、結晶粒が粗大化しやすく、その機械特性が損なわれ易い。
以上のとおり、表面性状を維持したまま、衝撃吸収特性と形状精度を両立してなる鋼板は実現できていない。また、衝撃吸収特性と形状精度を両立した上で、熱的にも安定な鋼板も実現できていない。
図2は、引張強度TSが同じ各種の熱延鋼板を、その降伏比YRとスプリングバック量でプロットしたものである。前述のとおり、従来材料では引張強度TSが同一材料の場合には、降伏比YRとスプリングバック量とは正の相関関係を有するので、小さいスプリングバック量を得ようとすると、その降伏比YRも小さくなることが分かる。このような熱延鋼板では、衝撃吸収性と形状凍結性を両立できない。本発明材の狙いは、鋼板としての機械的特性を損なうことなく、衝撃吸収性と形状凍結性を両立させるため、小さいスプリングバック量と大きい降伏比YRを有する熱延鋼板にある。また、本発明材の他の狙いは、衝撃吸収特性と形状精度を両立した上で、鋼板をプレス後に溶接等により組み立てて部品を得る場合や鋼板に溶融めっきを施す場合にあっても、熱的にも安定な鋼板にある。
本発明は、超微細な結晶粒を有し、引張強度に対する降伏強度の比(降伏比YR)が0.8以上の高降伏強度を有し、衝撃吸収特性と形状凍結性に優れた熱延鋼板及びその製造する方法を提供することを第1の目的とする。
さらに、本発明は、超微細な結晶粒を有し、引張強度に対する降伏強度の比(降伏比YR)が0.8以上の高降伏強度を有し、優れた衝撃吸収特性と形状凍結性に加えて、溶接工程や溶融めっき工程の熱にも耐え得る熱的安定性を有する熱延鋼板及びその製造する方法を提供することを第2の目的とする。
本発明者らは、微細フェライト結晶粒組織を有する熱延鋼板に関して、高降伏強度を有し、かつ、衝撃吸収特性と形状凍結性を両立させるべく、種々の検討と実験を行った。さらに、溶接工程や溶融めっき工程の熱にも耐え得る熱的安定性をも有する熱延鋼板を提供すべく、種々の検討と実験を行った。その結果、次の(a)〜(h)に示す知見を得た。
(a)フェライトの平均結晶粒径を一定の範囲にとどめることについて
フェライトの結晶粒径は小さくなるほど強度が増加するので、衝撃吸収特性をその分高めることができるが、結晶粒径が小さくなりすぎると粒界エネルギーによる粒成長の駆動力が増加するため、熱間圧延時に粒成長が促進されてしまうことが分かった。
具体的には、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置における平均結晶粒径が1.2μmを下回るようになると、熱間圧延時の粒成長を抑止することが困難になり、逆に、平均結晶粒径が2.7+5000/(5+350・C+40・Mn)μm及び7μmのいずれかの値を上回ると微細化による機械特性の向上が十分に期待できなくなることが、判明した。
したがって、衝撃吸収特性に優れた機械特性を有する熱延鋼板を得るためには、フェライトの平均結晶粒径の下限として1.2μmを採用し、そして、上限として、2.7+5000/(5+350・C+40・Mn)μm及び7μmのうちの小さい方の値を採用する必要がある。
よって、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径D(μm)は、下記の(1)式及び(2)式を満足する必要がある。
1.2≦D≦7・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)式
D≦2.7+5000/(5+350・C+40・Mn)・・・(2)式
ここで、Dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径(μm)を、そして、CおよびMnは鋼中の各元素の含有量(質量%)を示す。
(b)降伏比YRを0.8以上とすることについて
高衝撃吸収材料は、同一の引張強度TSで比較すると高いYR値を有し、その機械特性は高い降伏強度YSを有することになるので、衝撃吸収時の変形によって塑性仕事量が増大する。よって十分な衝突吸収性能を得るために、降伏比YRを0.8以上とする必要がある。なお、降伏比YRは0.85以上とするのが好ましい。
(c)JIS5号引張試験における降伏後の塑性歪み0.005から一様伸びの65%の歪みまでの範囲における平均塑性接線勾配H'に上限及び下限を規定することについて
本発明者らは、曲げ変形を熱延鋼板に負荷したときに生じる歪みを局所化することができれば、形状凍結性に優れた熱延鋼板を得ることができるのではないかとの着想の下に、曲げ成形におけるスプリングバックを低減する手法について、種々検討したところ、次の知見を得た。
図3は、曲げ成形における熱延鋼板の曲げ部周辺の断面図を示したものである。曲げ成形におけるスプリングバックの大きさは、(i)曲げ方向残留応力の板厚方向差(曲げ内側の残留応力と曲げ外側の残留応力の差)の分布と、(ii)この曲げ内外残留応力差が発生する領域の曲げ方向の分布により、決定される。
したがって、曲げ成型における残留応力と曲げ方向制御することができればスプリングバックを小さくすることができることになる。
そして、残留応力は、曲げ成形中の曲げ変形の挙動によって変化するが、(i)の曲げ内外の残留応力の差は、前述した、材料に曲げ加工を施すときの曲げ部到達応力と相関関係にあることが知られている。また、加工硬化特性が低い材料は、変形領域が狭いため、歪みが局所化されやすく、上記(ii)の曲げ内外残留応力差が発生する領域が局所化できることになり、その結果、スプリングバック量を低減させることができる。
次に、塑性接線勾配とは、引張試験における引張強度(TS)−塑性歪み曲線の接線勾配のことであり、加工硬化指数とともに材料変形時の歪みの伝播性を示す一つの値である。特に、JIS5号引張試験において降伏後の塑性歪み0.005から一様伸びの65%の歪みまでの範囲における平均塑性接線勾配H’が指標として好適であり、曲げ変形における平均塑性接線勾配H’が低いと、歪みが局所化するため形状凍結性が向上する。
図4は、塑性接線勾配曲線であり、X軸が塑性歪み(真歪み)を、そして、Y軸が応力(真応力)を示す。平均塑性接線勾配H’は、このうち、降伏後の塑性歪み0.005から一様伸びの65%の歪みまでの範囲を限定範囲として、その範囲内における接線勾配の平均値をいう。
図5は、図4の塑性接線勾配曲線のうち、上記限定範囲を拡大したものであり、ここでは、上記限定範囲のX軸の真歪み値を10等分(H'1、H'2、H'3、・・・・・・H'10)し、各区間の塑性接線勾配の平均値を求めることで、平均塑性接線勾配H’を求めることができることを示している。なお、ここでは、上記限定範囲のX軸の真歪み値を10等分することによって、平均塑性接線勾配H’を求めたが、特に上記限定範囲を10等分することにこだわらない。例えば、20等分することによって求めてもよい。あるいは、線形近似によって求めてもよい。
図6は、後述する実施例から得られたデータを、X軸に降伏比YRを、H'/TSをY軸に、プロットしたものである。○が衝撃吸収性と形状凍結性の両方に優れたものであり、■は衝撃吸収性と形状凍結性のうちの少なくとも一方に劣るものである。
図6からも分かるように、H'/TSが、[−2×YR+3.1]の値を上回ると、歪みの局所化が発生しにくくなり、十分なスプリングバック低減効果が得られない。また、衝撃吸収性の観点からすると、材料には有る程度の加工硬化特性が要求されるので、全く加工硬化しない材料は衝撃吸収性の点で不適当である。したがって、H’/TSの下限を0.1とする必要がある。なお、好ましい下限は0.13である。
ここで、H’/TSなる特性値を用いているが、その理由は次のとおりである。スプリングバック量は前述の通り、H’とTSに相関して大きくなり、また、H’の値もTSと相関をもって大きくなるから、引張強度TSが異なる鋼板においてもスプリングバック量を比較することができるようにするためである。
よって、JIS5号引張試験における降伏後の塑性歪み0.005から一様伸びの65%の歪みまでの範囲における平均塑性接線勾配H'が、次の(3)式を満足する必要がある。
0.1≦H'/TS≦−2×YR+3.1・・・・・・・・・・・・(3)式
ここで、H'は引張試験において降伏後の塑性歪み0.005から一様伸びの65%の歪みまでの範囲における平均塑性接線勾配を、TSは引張強度(MPa)を、そして、YRは降伏比を示す。
なお、平均塑性接線勾配H'の採用範囲の下限を、降伏後の「塑性歪み0.005」と規定する理由は次のとおりである。
通常の曲げ加工は、板厚表層部の塑性歪みが0.005以上発生する領域でなされる。というのは、塑性歪みが0.005を下回る領域では、例えば板厚が2mmの場合、表層部から板厚内部方向へ0.5mmの位置における塑性歪みは0.0025以下と極低歪みとなるため、十分な加工がなされないからである。したがって、塑性歪みが0.005を下回る領域では、本発明の意図とする歪みの局所化によるスプリングバック低減効果が十分に発揮されない。よって平均塑性接線勾配の採用範囲の下限を、降伏後の「塑性歪み0.005」とする。
また、平均塑性接線勾配H'の採用範囲の上限を、「一様伸びの65%の歪みまで」と規定する理由は次のとおりである。
実際の曲げ加工においては、曲げ部の塑性歪みが一様伸びの65%の歪み以下の範囲で加工されることが多い。例えば、一般的な条件である曲げ半径R=10mm、板厚1.4mmの熱延鋼板において、曲げ部最表層面に発生する塑性歪みは0.073である。ここで、一般的な材料の一様伸び(UEL)を0.15とした場合、その一様伸び(UEL)の65%の歪み(ε)は0.097となる。よって、平均塑性接線勾配H’の採用範囲の上限を、「一様伸びの65%の歪みまで」とする。
(d)Ti、Nb、V及びMoの含有量の上限を規定することについて
鋼の降伏強度を上昇させる手段として、Ti、Nb、V、Moといった析出強化元素を含有させることが有効であることが知られている。これらの元素は鋼中で微細な炭窒化物を形成し、転位運動を阻害するからである。これまで、実用的な構造用熱延鋼板に対して高い降伏比YRを付与するに当たって、これらの析出強化元素が積極的に使用されてきている。したがって、本発明においても、Ti、Nb、V及びMoの含有量の降伏強度及び形状凍結性に及ぼす影響について、詳細な検討を行った。
その結果、Ti、Nb、V及びMoの合計含有量の増加に伴って降伏比YRが増加するという結果が得られる一方で、同一の降伏比YRで比較すると、Ti、Nb、V及びMoが含有されない超微細粒鋼や、Ti、Nb、V及びMoの合計含有量の少ない超微細粒鋼と比較して、スプリングバック特性に劣るという結果が得られた。
この理由は定かではないが、次のように推察される。
Ti、Nb、V及びMoを含有しない、あるいは含有しても少量である、本発明に係る高降伏超微細粒鋼では、比較的軟質で等方的なフェライト粒が微細且つ比較的均一に存在するため、加工時の局所的な降伏領域単位が細かく微細分散していると考えられる。
これに対して、Ti、Nb、V又はMoを一定量含有する高降伏鋼板はフェライト粒界が複雑に蛇行した擬ポリゴナルなフェライトが形成されやすく、また微細析出強化量(硬度)によって粒間で比較的大きなバラツキが出やすいため、加工時に局所的な降伏領域単位が均一に分散せず、降伏点伸びが縮減され塑性接線勾配が大きくなり、歪みが局所化し難いため、形状凍結性が劣ると考えられる。
なお、形状凍結性の向上に有効であると考えられる局所的な降伏領域単位の均一分散化は、粒径に依存し、微細粒であるほうが有利であることは言うまでも無い。
したがって、実用の範囲で矯正が不必要あるいは軽微な矯正で良好な形状が得られるようにするために、Ti、Nb、Mo及びVのうちの一種又は2種以上を合計で0.05%以下の含有量とすることが必要である。なお、0.03以下の含有量とすることが好ましい。そして、添加せずに不純物レベルの混入にとどめることがより好ましい。
なお、本発明に用いる炭素鋼又は低合金鋼は、C:0.01〜0.25%を含有するものが好ましく、さらに、Si、Mn、Al、P、Ti、Nb、V、Cr、Cu、Mo、Ni、Ca、REM、Bのうちの1種又は2種以上を含有してもよい。
(e) フェライトの結晶粒径の分布を一定の範囲にとどめることについて
さらに鋼板の熱的安定性を高めるためには、フェライトの結晶粒径の分布を一定の範囲にとどめるのが好ましい。高温での粒成長が生じる一因は、粒界のエネルギーに基づく駆動力であり、微細なフェライト組織の中に比較的大きなフェライト結晶粒が混在していると、大きなフェライト結晶粒が粒界を駆動力として周囲の微細なフェライト結晶粒と容易に一体化し、粒成長が急速に進展する。このため、高温でのフェライト結晶粒の粒成長速度を抑制するためには、フェライト結晶粒を微細化してその平均結晶粒径D(μm)を前記の(1)式及び(2)式を満足する一定の範囲にとどめることに加えて、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトのうち、面積割合でフェライト結晶粒の80%以上が、平均結晶粒径D(μm)の1/3から3倍の範囲に収まるような粒径分布となることが好ましい。すなわち、結晶粒径d(μm)が下記の(4)式を満足する結晶粒の占める面積割合が80%以上であることが好ましい。
D/3≦d≦3D・・・・・・・・・・・・・・・・(4)式
ここで、dはフェライトの結晶粒径(μm)を、そして、Dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径(μm)を示す。
なお、より好ましくは90%以上のフェライト結晶粒が平均結晶粒径D(μm)の1/3から3倍の範囲に収まるような粒径分布となることである。
(f)A点直下の700℃近傍の温度におけるフェライトの平均結晶粒径Dの増加速度Xと平均結晶粒径Dの積D・Xの上限規定について
高温におけるフェライト結晶粒の粒成長速度は、温度の上昇と共に増加する。一般に、溶接工程や溶融めっき工程でフェライトの粒成長という問題が生じる温度域は、A点(730℃近傍)直下からA点近傍までの温度域であり、この温度範囲でフェライトの粒成長速度は大きく変化する。しかし、前記(a)に示したとおり、フェライトの平均結晶粒径が特定の範囲内にある鋼板、すなわち、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径D(μm)が(1)式及び(2)式の両方を満足する鋼板の粒成長速度の温度特性は、700℃近傍の温度におけるフェライトの粒成長速度によって決定されることが分かったので、700℃近傍の温度におけるフェライトの粒成長速度、すなわち、フェライトの平均結晶粒径の増加速度X(μm/min)と平均結晶粒径D(μm)の積D・X(μm/min)に、上限を設ければ、溶接工程や溶融めっき工程でより高い温度に加熱された場合においても、問題が発生しないことを見出した。そして、実験の結果、積D・Xを0.1μm/min以下に設定することが必要であることも判明した。なお、積D・Xは0.07μm/min以下が好ましく、0.05μm/min以下がさらに好ましい。
よって、溶接工程や溶融めっき工程でより高い温度に加熱される場合には、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径D(μm)の700℃における増加速度X(μm/min)と当該平均結晶粒径D(μm)が下記の(5)式を満足させることが好ましい。
D・X≦0.1・・・・・・・・・・・・・・・・(5)式
ここで、Dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径(μm)を、そして、Xは当該フェライトの平均結晶粒径D(μm)の700℃における増加速度(μm/min)を示す。
なお、さらに粒成長速度を低下させるためには、フェライト結晶粒内の転位密度を10/cm以下、より好ましくは10/cm以下とすることが好ましい。
(g) 板厚方向の結晶粒径の変化を緩やかにすることについて
板厚方向への緩やかな結晶粒径の変化は、鋼板の機械特性の向上に寄与する。たとえば、板表面側でより細粒となっているため、鋼板表面近傍が大きく変形される曲げ性が向上する。また、表面近傍から発生する亀裂の伝搬を、より細粒化した表面の組織が効果的に押さえることができるので、疲労特性も向上する。
したがって、鋼板表面から100μmの深さ位置における結晶粒径d(μm)、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置における結晶粒径d(μm)および板厚の中心部分における結晶粒径d(μm)が、下記の(6)式および(7)式を満足させることが好ましい。
≦0.7d・・・・・・・・・・・・・・・・(6)式
d≦0.9d・・・・・・・・・・・・・・・・(7)式
ここで、dは鋼板表面から100μmの深さ位置における結晶粒径(μm)を、dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置における結晶粒径(μm)を、そして、dは板厚の中心部分における結晶粒径(μm)を示す。
なお、d≦0.6dおよびd≦0.85dを満足するような板厚方向への結晶粒径変化を持たせるのが、より好ましい。
(h)衝撃吸収特性と形状凍結性、あるいはさらに、溶接工程や溶融めっき工程の熱にも耐え得る熱的安定性を有する熱延鋼板を製造するための方法について
高温域での圧延を採用することで、圧延が容易かつ高生産性の工業的方法を提供することができる。
まず、オーステナイト温度域から、多パス熱間圧延を開始し、最終の圧延パスをAr点以上かつ780℃以上の高温度で終了する。このとき、オーステナイト結晶粒内に歪みが蓄積される。
そして、熱間圧延終了直後の0.4秒以内に、720℃以下の温度までの冷却を完了する。このとき、冷却途中においてはこの歪みの解放が抑制されるので、歪みはオーステナイト粒内に蓄積された状態であり、720℃以下の温度になってはじめて、オーステナイトからフェライトへの変態が活発化し、蓄積された歪みを核としてフェライト結晶粒が多数発生し、微細なフェライト組織を形成する。この方法では、鋼板表面と圧延ロール表面の間の摩擦によって熱間圧延時に鋼板に導入される剪断歪みの解放をも抑制することができるため、板厚中心部よりも表面に近い部分でより多くのフェライト核が発生する。
さらにその後、600〜720℃の温度域で2秒以上保持する。これによって、微細かつ結晶粒径が狭い範囲に分布する所望のフェライト組織を得ることができるとともに、変態後の微細フェライト組織中に歪みが残存することも抑制される。また、上述の板厚方向へのフェライト核生成量変化によって、板厚中心から表面に向けて緩やかな粒径の勾配を持つ組織が生成する。
なお、熱間圧延終了直後の冷却条件は、上述のとおり、0.4秒以内に720℃以下の温度までの冷却を完了することが必要である。従来は、最も速いものでも、圧延終了直後から0.2秒以上経過してから冷却が開始され、その冷却速度もせいぜい250℃/秒程 度であった。Ar点が800℃の低炭素鋼を例にとると、低炭素鋼の熱間圧延をAr点で終了したとしても、800℃以上から720℃以下の温度まで冷却する間に、従来は0.52秒以上経過していたから、0.4秒以内に720℃以下の温度までの冷却を完了することは困難であった。
さらに、得られた熱延鋼帯について、0.1〜1.0%の調質圧延を施す必要がある。
従来から調質圧延は、熱延鋼板については平坦矯正程度、冷延母材については外装用途に懸念される表面性状を確保するために用いられてきたが、本発明者らはこの調質圧延の主に圧下率が、鋼板の形状凍結特性に及ぼす影響について精査した。
その結果、前述の方法により得られた鋼板について、0.1〜1.0%の調質圧延を施すと、本発明に規定する機械特性を安定的に得ることが出来ることを見出した。調質圧延が0.1%を下回ると鋼板の平坦度が低下し、成型後の部品精度を悪化させる。一方、上限の1.0%を超えて調質圧延を施すと、降伏点伸びの消失が起こり、例えば曲げ加工時に、曲げ接線方向の応力分布領域が拡大し、スプリングバック等が発生しやすくなり形状凍結性を損なう。あお、調質圧延率の上限は、0.5%が好ましい。
このように、降伏点伸びは塑性接線勾配を低くする。したがって、降伏点伸びの消失又は縮減の防止を図ることによって、スプリングバック量を低減することができる。
本発明は、このような知見と検討・実験結果に基づいて完成したものである。本発明の要旨とするところは、次の(1)〜(5)の熱延鋼板及び(6)〜(7)の熱延鋼板の製造方法である。以下、それぞれ、本発明(1)〜本発明(8)という。本発明(1)〜(8)を総称して、本発明ということがある。
(1) Ti、Nb、Mo、Vのうちの1種又は2種以上を合計で0.05%以下含有し、フェライトを主相とする炭素鋼または低合金鋼からなる鋼板であって、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径D(μm)が下記の(1)式及び(2)式を満足し、降伏比YRが0.8以上であって、JIS5号引張試験における降伏後の塑性歪み0.005から一様伸びの65%の歪みまでの範囲における平均塑性接線勾配H'が下記の(3)式を満足することを特徴とする熱延鋼板。
1.2≦D≦7・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)式
D≦2.7+5000/(5+350・C+40・Mn)・・・(2)式
0.10.1≦H'/TS≦−2×YR+3.1・・・・・・・・・・・・(3)式
ここで、Dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径(μm)を、CおよびMnは鋼中の各元素の含有量(質量%)を、H'は引張試験において降伏後の塑性歪み0.005から一様伸びの65%の歪みまでの範囲における平均塑性接線勾配を、TSは引張強度(MPa)を、そして、YRは降伏比を示す。
(2) 鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置において、結晶粒径d(μm)が下記の(4)式を満足するフェライト結晶粒のフェライトに占める面積割合が80%以上であることを特徴とする、上記(1)の熱延鋼板。
D/3≦d≦3D・・・・・・・・・・・・・・・・(4)式
ここで、dはフェライトの結晶粒径(μm)を、そして、Dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径(μm)を示す。
(3) 鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径D(μm)の700℃における増加速度X(μm/min)と当該平均結晶粒径D(μm)が下記の(5)式を満足することを特徴とする、上記(1)又は(2)の熱延鋼板。
D・X≦0.1・・・・・・・・・・・・・・・・(5)式
ここで、Dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径(μm)を、そして、Xは当該フェライトの平均結晶粒径D(μm)の700℃における増加速度(μm/min)を示す。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかの熱延鋼板の表面に、Zn、Al、Zn−Al合金またはFe−Zn合金の被覆層を備えることを特徴とする溶融めっき熱延鋼板。
(5) 炭素鋼又は低合金鋼からなるスラブを多パス熱間圧延して熱延鋼板を製造する方法であって、最終の圧延パスをAr点以上かつ780℃以上の温度で終了し、その後400℃/秒以上の冷却速度で0.4秒以内に720℃以下まで冷却した後、600〜720℃の温度域で2秒以上保持した後、0.1〜1.0%の調質圧延を施すことを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかの熱延鋼板の製造方法。
(6) 上記(5)の方法により得られた熱延鋼板を酸洗後、連続溶融めっきラインにて溶融めっきを施すことを特徴とする、溶融めっき熱延鋼板の製造方法。
本発明によれば、超微細な結晶粒を有し、引張強度に対する降伏強度の比(降伏比YR)が0.8以上の高降伏強度を有し、衝撃吸収特性と形状凍結性に優れた熱延鋼板及びその製造する方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、超微細な結晶粒を有し、引張強度に対する降伏強度の比(降伏比YR)が0.8以上の高降伏強度を有し、優れた衝撃吸収特性と形状凍結性に加えて、溶接工程や溶融めっき工程の熱にも耐え得る熱的安定性を有する熱延鋼板及びその製造する方法を提供することができる。
以下に、本発明に係る超微細結晶粒熱延鋼板について説明する。以下、各化学成分の含有量の「%」表示は、「質量%」を意味する。
(A)化学組成について
C:
Cは、オーステナイトからフェライトへの変態温度を低下させて、熱延の仕上げ温度を低下させることができるので、フェライト結晶粒の微細化を促進するのに有用な元素である。また、強度を確保するための元素である。このため、0.01%以上含有させることが好ましい。また、フェライト結晶粒の微細化をより促進するためには、0.03%以上含有させるのが好ましい。ただし、過度に含有させると、熱延後のフェライト変態が遅延し、フェライトの体積率が低下するため、また溶接性が劣化するため0.25%以下とすることが好ましい。溶接部の加工性を向上させるためには、C含有量を0.17%以下にするのが好ましく、0.15%以下とするのがより好ましい。
Si:
Siは、強度向上を目的として含有させることが好ましい。ただし、過剰に含有させると、延性の劣化が著しくなるうえに、熱間圧延時の表面酸化の問題が生じるので、含有量を3%以下とすることが好ましい。好ましくは2%以下、より好ましくは1.8%以下である。下限は不純物レベルでもよい。通常、製鋼段階で0.01%程度混入する。
Mn:
Mnは、強度確保のため、含有させることが好ましい。また、オーステナイトからフェライトへの変態温度を低下させて、熱間圧延における仕上温度を低下させることを可能にするので、フェライト結晶粒の微細化を促進するため、含有させることが好ましい。ただし、過度に含有させると、熱間圧延後のフェライト変態が遅延し、フェライトの体積率が低下するため、含有量を3%以下とすることが好ましい。より好ましくは2.7%以下である。下限は不純物レベルでもよいが、強度向上を目的として含有させる場合には、0.5%以上含有させることが好ましい。
Al:
Alは、延性を向上させるため含有させてもよい。しかし、過度に含有させると、高温でのオーステナイトが不安定化し熱間圧延における仕上温度を過度に上昇させる必要が生じること、また、安定した連続鋳造を困難にすることから、含有量を3%以下とすることが好ましい。下限は不純物レベルでもよい。通常脱酸過程により0.01%程度混入する。
P:
Pは、強度を増加させるため、含有させても良い。しかし、過度に含有させると、粒界偏析による脆化が生じるので、含有させる場合には、含有量を0.5%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは、0.1%以下である。下限は不純物レベルでもよい。通常、製鋼段階で0.01%程度混入してくる。
Ti:
Tiは、炭化物又は窒化物として析出し強度を増加させるため、また、この析出物がオーステナイトやフェライトの粗大化を抑制して、熱延時の結晶粒の微細化を促進し、熱処理の際には粒成長を抑制するため、含有させても良い。ただし、過度に含有させると、Ti系炭窒化物を形成し、成形性あるいは形状凍結性を損ねる傾向にあるため、Ti+Nb+Mo+Vの総量で0.05%以下とする必要がある。好ましくは0.03%以下、より好ましくは0.01%以下である。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.001%程度は混入する。
Nb:
Nbは、炭化物又は窒化物として析出し強度を増加させるため、また、この析出物がオーステナイトやフェライトの粗大化を抑制して、熱延時の結晶粒の微細化を促進し、熱処理の際には粒成長を抑制するため、含有させても良い。ただし、過度に含有させると、Nb系炭窒化物を形成し、成形性あるいは形状凍結性を損ねる傾向にあるため、Ti+Nb+Mo+Vの総量で0.05%以下とする必要がある。好ましくは0.03%以下、より好ましくは0.01%以下である。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.001%程度は混入する。
V:
Vは炭化物として析出し強度を増加させるため、また、この析出物がフェライトの粗大化を抑制して、結晶粒の微細化を促進するため、含有させても良い。ただし、過度に含有させると、Ti、Nbと同様な理由で、延性や加工性を阻害するので、Ti+Nb+Mo+Vの総量で0.05%以下とする必要がある。好ましくは0.03%以下、より好ましくは0.01%以下である。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.001%程度は混入する。
Mo:
Moは、MoCを析出し強度を増加させるため、また、この析出物がフェライトの粗大化を抑制して、結晶粒の微細化を促進するため、含有させても良い。また、Moは、Ti、Nbと複合含有させることで炭窒化物の粗大化を抑制する効果があり、成形性の製造安定性を向上する効果があるため、含有させても良い。ただし、過度に含有させると、Ti、Nb、Vと同様な理由で、延性や加工性を阻害するので、Ti+Nb+Mo+Vの総量で0.05%以下とする必要がある。好ましくは0.03%以下、より好ましくは0.01%以下である。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.001%程度は混入する。
Cr:
Crは、焼き入れ性を増加させ、フェライト組織中にマルテンサイトやベイナイトを生成させる作用を有するため、これらの作用を目的として含有させても良い。ただし、多量に含有させるとフェライトの生成が抑制されるため、含有量を1%以下とすることが好ましい。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.02%程度は混入する。
Cu:
Cuは、低温で析出して強度を増加させる作用を有するため、これらの作用を目的として含有させても良い。ただし、スラブの粒界割れなどを引き起こすおそれがあるため、含有量を3%以下とすることが好ましい。より好ましくは2%以下である。なお、含有させる場合は、含有量0.1%以上とすることが好ましい。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.02%程度は混入する。
Ni:
Niは、高温でのオーステナイトの安定度を増加する目的で含有させても良い。また、Cuを含有させる場合はスラブの粒界脆化を防止するために含有させても良い。ただし、過度に含有させると、フェライトの生成が抑制されるため、含有量を1%以下とすることが好ましい。なお、下限は不純物レベルでもよい。製鋼上、一般に0.02%程度は混入する。
Ca、REM、B:
Ca、希土類元素(REM)やBは凝固中に析出する酸化物や窒化物を微細化して、鋳片の健全性を保つため、その1種又は2種以上を含有させても良い。ただし、高価であるため、総含有量で0.005%以下とすることが好ましい。下限は不純物レベルでもよい。ここで、希土類元素(REM)とは、ランタニドの15元素とYおよびScを合わせた17元素を意味する。
なお、鋼中に混入する「不純物」としては、他には、S、N、Sn等が挙げられる。S、Nについては、できればその含有量を以下のように規制するのが望ましい。
S:
Sは硫化物系介在物を形成して加工性を低下させる不純物元素であるため、その含有量は0.05%以下に抑えるのが望ましい。そして、一段と優れた加工性を確保したい場合には、0.008%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.003%以下である。
N:
Nは加工性を低下させる不純物元素であり、その含有量は0.01%以下に抑えることが望ましい。より好ましくは、0.006%以下である。
(B)本発明に係る熱延鋼板の組織について
本発明に係る熱延鋼板は、フェライトを主相とし、主相とフェライト以外の第2相とからなる組織を有する鋼板である。ここで「主相」とは組織を構成する相のうち該組織に占める割合が最大となる相であるという意味である。主相のフェライトは、体積率で少なくとも50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上である。フェライトの体積率が50%未満では、鋼板の延性や加工性が損なわれる場合がある。
フェライトの結晶粒径(直径)は、熱延鋼板の機械特性と熱的安定性、さらには加工性に大きく影響する。したがって、本発明に係る熱延鋼板に十分な強度と延性や熱的安定性さらには加工性を確保するために、鋼板表面から板厚の1/4の深さにおけるフェライトの平均結晶粒径D(μm)を、下記の(1)式及び(2)式を満足する一定の範囲にとどめる必要がある。
1.2≦D≦7・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)式
D≦2.7+5000/(5+350・C+40・Mn)・・・(2)式
ここで、Dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径(μm)を、そして、CおよびMnは鋼中の各元素の含有量(質量%)を示す。
すなわち、その一定の範囲とは、1.2μmを下限とし、そして、2.7+5000/(5+350・C+40・Mn)μm及び7μmのうちの小さい方の値を上限とする範囲のことである。なお、(2)式中で、CおよびMnは、それぞれ、鋼中の各元素の含有量(質量%)を示す。
ここで、フェライトの平均結晶粒径Dの下限を1.2μmとするのは、1.2μm未満では、加工硬化係数が極端に減少して延性や加工性が劣化するだけでなく、微細フェライト組織の熱的安定性も劣化して、高温下で容易に粒成長するからである。より優れた延性や加工性や熱的安定性を得るためには、フェライトの平均結晶粒径Dの下限を1.5μmとするのが好ましい。一方、フェライトの平均結晶粒径Dの上限を2.7+5000/(5+350・C+40・Mn)μm及び7μmのうちの小さい方の値とするのは、これらのいずれかの値を超えると、十分な強度が得られなくなるからである。より優れた強度を得るためには、フェライトの平均結晶粒径Dの上限を、2.4+5000/(5+350・C+40・Mn)μm及び5.5μmのうちの小さい方の値を上限とするのが好ましい。なお、ここでは、15°以上の結晶方位差を持つ大角の粒界で囲まれた領域を1つの結晶粒と定義し、15°未満の小角の粒界は無視する。
衝撃吸収性能は部品構造(形状)のほか、材料の機械特性値として材料変形の際の塑性仕事量と強い相関がある。高衝撃吸収材料は、同一のTSで比較すると高い降伏比YRを有し、その機械特性は高い降伏強度YSを有することになるので、衝撃吸収時の変形によって塑性仕事量が増大する。よって十分な衝突吸収性能を得るために、降伏比YRを0.8以上とする必要がある。なお、降伏比YRは0.85以上とするのが好ましい。
曲げ加工中において材料の板厚方向の曲げ内側には圧縮応力が発生し、曲げ外側には引張の応力が発生する。材料を金型から取り出すと、これら板厚方向に分布する応力が解放され、弾性回復現象としてスプリングバックが発生する。
スプリングバックの大小関係を決定するものとしては、上記に示した材料の板厚方向の曲げ内外応力差と、その応力が発生する範囲が影響をおよぼす。
曲げ成形中に発生する曲げ内外応力差が大きければ、スプリングバック量も大きいものとなる。また、この応力差は曲げ成形による到達応力と相関があることが知られている。すなわち、同一成形条件においては、高強度鋼板ほど加工による到達応力が高いため、スプリングバックも大きいものとなる。
次に、曲げ応力の発生する範囲とは、例えば、曲げRが大きい場合は小さいものと比べて、曲げ方向の加工される範囲が大きくなる。すなわち、応力の発生する範囲が広い。よって、スプリングバック量が大きいものとなる。また、スプリングバックに及ぼす試験条件の関係としてはRp/tが、スプリングバックと強い相関を持つ事が、従来から知られている。ここで、Rpは金型のパンチの肩部の半径(mm)、そして、tは材料の板厚(mm)を意味する。なお、本明細書中において、曲げ半径RとはR=Rp+t/2を意味する。
よって、同一のRp/tにおいては、高い引張強度TSの材料ほどスプリングバック量が大きくなり、同一の引張強度TSの材料においては、Rp/tが大きくなるほどスプリングバック量が大きくなる。
ここで、低塑性接線勾配特性を持つ材料について説明すると、塑性接線勾配は材料の引張試験における応力−塑性歪み曲線の接線勾配のことであり、材料の加工中における歪みの伝播性を示す一つの値である。
本発明は、曲げ加工において応力発生領域を局所化することに着目したものである。本発明は、同一成形条件で曲げ試験を実施した場合に、低塑性接線勾配特性を有する材料ほど歪みが局所化し曲げ方向応力の発生する範囲が狭くなるために、スプリングバックが小さくなることを見出したことに基づいている。つまり、従来の知見によれば、Rp/t及び引張強度TSが同一であれば、同じスプリングバック量を示すことになるが、本発明によれば、それらの値が同一であっても塑性接線勾配が低いほどスプリングバックが小さくなる。衝撃吸収特性と形状凍結性を両立させることができるためには、平均塑性接線勾配H'/引張強度TSは[−2×YR+3.1]以下である必要があることが、シミュレーション解析により判明した。
ただし、極端に降伏強度YS及び降伏比YRが低い場合には、板厚方向の内外応力差が微小となり、H'の大小にかかわらず、スプリングバックが小さくなる場合がある。しかし、この場合は衝撃吸収性能に劣るため、本発明の目的とする衝撃吸収性能と形状凍結性を両立する鋼板とはならないので、本発明においては、極端に降伏強度YS及び降伏比YRが低い場合を想定する必要はない。
図7は、曲げ加工において発生する応力について、曲げ位置毎にその大きさをシミュレーションしたものである。(a)が塑性接線勾配H'/引張強度TS=0.98の材料(本発明材)であり、(b)が塑性接線勾配H'/引張強度TS=1.78の材料(SAPH440:JIS G 31133)である。いずれも、引張強度TSが440MPa程度の熱延鋼板である。シミュレーションは、動的陽解法汎用FEMコードLS−DYNA ver.970を用いたシミュレーション解析によった。
図7から分かるように、本発明に係る材料(a)では応力が発生する領域が狭いのに対して、比較材の(b)では応力が発生する領域が広い。したがって、本発明に係る材料(a)ではスプリングバックが小さいものとなるのに対して、比較材の(b)ではスプリングバックが大きいものとなる。
また、効率的な衝撃吸収構造としては部品変形時の座屈シワの発生挙動が影響を及ぼすことが知られている。理想的な座屈シワが発生する材料条件としては、材料に有る程度の加工硬化特性が要求される。よって、平均塑性接線勾配H'/引張強度TSは0.1以上とする必要がある。好ましくは0.13以上である。
よって、JIS5号引張試験における降伏後の塑性歪み0.005から一様伸びの65%の歪みまでの範囲における平均塑性接線勾配H'が、次の(3)式を満足する必要がある。
0.1≦H'/TS≦−2×YR+3.1・・・・・・・・・・・・(3)式
ここで、H'は引張試験において降伏後の塑性歪み0.005から一様伸びの65%の歪みまでの範囲における平均塑性接線勾配を、TSは引張強度(MPa)を、そして、YRは降伏比を示す。
さらに鋼板の熱的安定性を高めるためには、フェライトの結晶粒径の分布を一定の範囲にとどめるのが好ましい。高温での粒成長が生じる一因は、粒界のエネルギーに基づく駆動力であり、微細なフェライト組織の中に比較的大きなフェライト結晶粒が混在していると、大きなフェライト結晶粒が粒界を駆動力として周囲の微細なフェライト結晶粒と容易に一体化し、粒成長が急速に進展する。このため、高温でのフェライト結晶粒の粒成長速度を抑制するためには、フェライト結晶粒を微細化してその平均結晶粒径D(μm)を上記の(1)式及び(2)式を満足する一定の範囲にとどめることに加えて、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトのうち、結晶粒径d(μm)が下記の(4)式を満足する結晶粒の占める面積割合が80%以上であることが好ましい。
D/3≦d≦3D・・・・・・・・・・・・・・・・(4)式
ここで、dはフェライトの結晶粒径(μm)を、そして、Dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径(μm)を示す。
すなわち、面積割合でフェライト結晶粒の80%以上が、平均結晶粒径D(μm)の1/3から3倍の範囲に収まるような粒径分布となることが好ましい。好ましくは85%以上のフェライト結晶粒が平均結晶粒径D(μm)の1/3から3倍の範囲に収まるような粒径分布となることであり、より好ましくは90%以上のフェライト結晶粒が平均結晶粒径D(μm)の1/3から3倍の範囲に収まるような粒径分布となることである。
フェライトの結晶粒径とその分布を表面から板厚の1/4の深さで定義する理由は、熱延鋼板のフェライト結晶粒径は一般に板厚方向に変化するためである。本発明に係る鋼板は、この深さのフェライト結晶粒組織を上記の範囲にすることで、所望の機械特性と熱的安定性を確保することができる。特に粒径の熱的安定性は、板の表面から内部に渡る広い範囲で統計を取ったときの粒径分布で決まるのではなく、特定の深さで統計を取ったときの粒径分布で決まる。従って、板厚の1/4の深さで表面に平行な断面で組織観察を行うか、もしくは、表面に垂直な断面で観察するのであれば、板厚の1/4の深さから100μm以内の領域で観察を行い、統計を取る。
板厚方向への緩やかな結晶粒径の変化は、鋼板の機械特性の向上に寄与する。たとえば、板表面側でより細粒となっているため、鋼板表面近傍が大きく変形される曲げ性が向上する。また、表面近傍から発生する亀裂の伝搬を、より細粒化した表面の組織が効果的に押さえることができるので、疲労特性も向上する。
したがって、鋼板表面から100μmの深さ位置における結晶粒径d(μm)、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置における結晶粒径d(μm)および板厚の中心部分における結晶粒径d(μm)が、下記の(6)式および(7)式を満足させることが好ましい。
≦0.7d・・・・・・・・・・・・・・・・(6)式
d≦0.9d・・・・・・・・・・・・・・・・(7)式
ここで、dは鋼板表面から100μmの深さ位置における結晶粒径(μm)を、dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置における結晶粒径(μm)を、そして、dは板厚の中心部分における結晶粒径(μm)を示す。
なお、d≦0.6dおよびd≦0.85dを満足するような板厚方向への結晶粒径変化を持たせるのが、より好ましい。
フェライト以外の第2相は、パーライト、セメンタイト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイトやFe以外の元素の炭窒化物など、一般に低炭素鉄鋼材料中に生成することが知られる相であれば良い。
降伏比YRが0.8以上の機械特性と熱的安定性に優れ、かつ形状凍結性に優れる鋼板を効率的に製造するには、第2相の量を20%未満とすることが望ましい。これは、製造時に付与する調質圧延時において、硬質の第2相の量が多いと、形状凍結性が調質圧延率等の圧延条件に鋭敏となり、製造負荷が大きくなるためである。このことは、第2相硬度が上昇するほど顕著となるため、第2相について、例えばマルテンサイトよりもベイナイトであるほうが望ましい。
なお、フェライト以外の第2相としては、上記したものの外に、体積率で1%以下の微量の炭化物、窒化物、酸化物を含有させることもできる。これらには、Ti、Nb、V、Moの炭窒化物等がある。
(C)高温での粒成長速度について
フェライトの平均結晶粒径が上記の(1)式及び(2)式を満足する一定の範囲内にある鋼板の粒成長速度の温度特性は、700℃近傍の温度におけるフェライトの粒成長速度によって決定される。
よって、溶接工程や溶融めっき工程でより高い温度に加熱される場合には、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径D(μm)の700℃における増加速度X(μm/min)と当該平均結晶粒径D(μm)が下記の(5)式を満足させることが好ましい。
D・X≦0.1・・・・・・・・・・・・・・・・(5)式
ここで、Dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径(μm)を、そして、Xは当該フェライトの平均結晶粒径D(μm)の700℃における増加速度(μm/min)を示す。
すなわち、フェライトの平均結晶粒径の増加速度X(μm/min)と平均結晶粒径D(μm)の積D・X(μm/min)を、0.1μm/min以下に保つことで、溶接や溶融めっき工程における主要な熱履歴に対して安定となり、良好な熱的安定性が得られる。より優れた熱安定性を得るためには、積D・Xを0.07μm/min以下にするのが好ましく、0.05μm/min以下にするのがさらに好ましい。
なお、後掲する実施例2及び3に示すように、フェライトの平均結晶粒径の増加速度X(μm/min)と平均結晶粒径D(μm)の積D・X(μm/min)が、0.1μm/min以下である鋼板のフェライト結晶粒組織は、850℃で数十秒熱処理しても、殆ど粒径の変化を示さない。本発明に係る鋼板のフェライトの結晶粒径(直径)は、時間の平方根に比例する通常の粒成長とは異なり、700℃ではほぼ時間に比例して増加する。したがって、フェライトの平均結晶粒径の増加速度X(μm/min)は、700℃で1時間程度の間の粒径変化を測定して、その変化率を平均することによって、求めることとする。
また、さらに粒成長速度を低下させるためには、フェライト結晶粒内の転位密度を10/cm以下、より好ましくは10/cm以下とすることが好ましい。
(D)圧延について
圧延は、1000℃を超える温度から、レバースミルもしくはタンデムミルを用いて、オーステナイト温度域で行う。工業的生産性の観点からは、少なくとも最終の数段はタンデムミルを用いるのが好ましい。
連続鋳造や鋳造・分塊により得たスラブ、ストリップキャスティングにより得た鋼板などや、必要によってはそれらに一度、熱間又は冷間加工を加えたものを用い、それらが冷片であれば1000℃を超える温度に再加熱して圧延する。圧延の開始温度が1000℃以下になると、圧延荷重が過大になり、十分な圧延率を得ることが困難になるばかりか、十分な圧延率の圧延をAr点以上の温度で終了することも困難となり、所望の機械特性や熱的安定性を得られなくなる。好ましくは1025℃以上、より好ましくは1050℃以上の温度から圧延を開始する。上限は、オーステナイト粒の粗大化を抑制するため、また、設備費用や加熱燃料費を抑制するため、1350℃以下、好ましくは1250℃以下とする。TiCやNbCなどの析出物をオーステナイト中に十分に溶解させる必要がない鋼種の場合、この範囲の中でも比較的低い温度(1050〜1150℃)に再加熱することが好ましい。初期のオーステナイト結晶粒が微細化し、最終のフェライト結晶粒も微細化し易くなるためである。
圧延仕上げ温度は、圧延後にオーステナイトからフェライトへと変態させるためにAr点以上かつ780℃以上の温度範囲とする。仕上げ温度が、Ar点を下回ると、圧延中にフェライトが発生する。また780℃未満の温度では、圧延荷重が増大し、十分な圧下を加えることが困難となるばかりか、圧延中に板表層部でフェライト変態が生じる場合がある。好ましくは、Ar点以上かつ800℃以上の温度で圧延を終了する。
なお、圧延を終了する温度は、Ar点以上かつ780℃以上の温度範囲であれば低い程良い。これは、圧延によってオーステナイトに導入された加工歪みの蓄積効果が大きくなり、結晶粒の微細化が促進されるためである。本発明で用いる鋼種のAr点は、概ね780から900℃である。
総圧下量は、フェライトの微細化を促進するため板厚減少率で90%以上、好ましくは92%、より好ましくは94%以上である。圧延終了温度から「圧延終了温度+100℃」までの温度範囲における板厚減少率で40%以上とすることが好ましい。より好ましくは、圧延終了温度から「圧延終了温度+80℃」までの温度範囲における板厚減少率で60%以上である。圧延は、連続した複数パスの圧延とする。1パス当たりの圧下量は、好ましくは15〜60%である。1パス当たりの圧下量を大きく取る方がオーステナイトへの歪みを蓄積させ、変態によって生成するフェライトの結晶粒径を微細化する意味からは好ましいが、圧延荷重の増大が必要となるので、圧延設備が大型化するだけでなく、板形状の制御も困難になる。本発明の方法では、1パス当たりの圧下量を40%以下とした複数パスの圧延でも微細なフェライト結晶粒を得ることができる。したがって、特に板形状の制御を容易にしたいときには、最終の2パスの圧下率を40%/パス以下とすることが好ましい。
(E)圧延後の冷却について
圧延を終了後、オーステナイトに導入された加工歪みを解放することなく、これを駆動力としてオーステナイトからフェライトへと変態させ、微細なフェライト結晶粒組織を生成させるために、圧延終了から0.4秒以内に720℃以下の温度まで冷却する。好ましくは圧延終了から0.2秒以内に720℃以下の温度まで冷却する。冷却は、水冷を用いるのが望ましく、そして、その冷却速度は、空冷期間を除外し強制冷却を行っている期間の平均冷却速度として、400℃/秒以上とするのが、好ましい。
ここで、720℃以下の温度に冷却されるまでの時間を規定する理由は、720℃を超える温度で、冷却を停止もしくは鈍化させると、微細なフェライトが生成する以前に、加工によって導入された歪みが解放されて、又は、歪みの存在形態が変化して、フェライトの核生成に有効ではなくなり、フェライト結晶粒が顕著に粗大化するためである。
温度が720℃以下に達すると、フェライト変態が活発化する変態温度域に入る。上記のフェライト組織が得られるフェライト変態温度域は、この温度から600℃までの間の温度域である。したがって、720℃以下に達した後、冷却を一次停止、もしくはその速度を鈍化させて、この温度域で2秒以上保持させることによって、上記の熱的に安定なフェライト結晶粒組織の形成を確実にすることができる。この温度域での保持時間が短いと上記の熱的に安定なフェライト結晶粒組織の形成が阻害されるおそれがある。より好ましくは、620〜700℃の温度域で3秒以上滞留させるのがよい。
(F)冷却設備について
本発明において、上記の冷却を行う設備は限定されない。工業的には、水量密度の高い水スプレー装置を用いることが好適である。例えば、圧延板搬送ローラーの間に水スプレーヘッダーを配置し、板の上下から十分な水量密度の高圧水を噴射することで冷却することができる。
(G)調質圧延について
得られた熱延鋼帯について、調質圧延を施すことによって、本発明を効果的に発現することができる。
従来から調質圧延は、熱延鋼板については平坦矯正を目的に、冷延母材については外装用途において懸念される表面性状の向上に用いられてきたが、本発明者らは本発明における超微細粒鋼板について、この調質圧延のうち、特に圧下率の、鋼板組織、衝撃吸収特性および形状凍結特性に及ぼす影響について精査した。
その結果、調質圧延時の鋼板伸び率(調質圧延率)の上昇に伴って、降伏強度(衝撃吸収特性)は下に凸の特性を有し、調質圧延率の増加に伴って、形状凍結性指数であるH'は上昇(形状凍結性が低下)する傾向にあった。さらに、組織中の第2相量およびその硬度が上昇するほど、調質圧延率の上昇に伴うH'の上昇(形状凍結性の低下)が顕著であることを見出した。よって、衝撃吸収特性と形状凍結性をバランスするためには、鋼組織とともに調質圧延の制御が重要であるという知見を得た。
かかる検討をさらに推し進めた結果、鋼板の形状精度を維持しつつ、降伏強度(衝撃吸収特性)およびH'形状凍結性のバランスから、調質圧延を0.1〜1.0%に制御すると、本発明に規定する特性を安定的に得ることが出来ることを見出し、鋼組織においては第2相の量を20%未満とすると、調質圧延に対する特性安定性がさらに向上するという知見を得た。
すなわち、調質圧延が0.1%を下回ると、鋼板の平坦度が低下し成型後の部品精度と悪化させる。一方、1.0%を超えて調質圧延を施すと、本発明に規定する式の上限を超え、加工時の応力分布領域が拡大し、スプリングバックが発生しやすくなり形状凍結性を損なう。なお、調質圧延の上限は、好ましくは0.5%である。
(H)Znめっきについて
上述の組織とその熱的安定性を具備した微細粒熱延鋼板は、溶融めっきラインを用いてZn、Zn−Al合金、Al−Si合金、Fe−Zn合金等の被覆を鋼板表面に施すことが可能である。
Zn−Al合金のめっき浴の組成としては、Zn−(0.1〜60)%Al浴、更にSi及び/又はMgを複合添加した浴などを用いる。また、Al−Si合金のめっき浴の組成としては、Al−(7〜13)%Si浴などを用いる。めっき浴中にはその他、Fe、V、Mn、Ti、Nb、Ca、Cr、Ni、W、Cu、Pb、Sn、Cd、Sbが0.1%以下含まれていても特に支障はない。めっき後冷却された鋼板表面上の皮膜の組成は、浸漬並びに冷却時に鋼材と溶融金属の間で元素の相互拡散が起こるため、一般にめっき浴組成よりは若干Fe濃度の高い組成となる。合金化溶融亜鉛めっきは、この相互拡散を積極的に利用したものであり、皮膜中のFe濃度は7〜15%となる。めっき付着量は特に限定するものではないが、片面当たり30〜200g/mとするのが好ましく、そして、合金化溶融亜鉛めっきの場合は、パウダリングが懸念されるため、25〜60g/mとするのが好ましい。
溶融めっきラインによるめっき法は、以下のとおりである。
微細粒組織を達成した熱延鋼板は、酸洗工程を経て表層のスケールを除去した後、連続溶融亜鉛めっきラインに通板される。入り側から、アルカリ脱脂、水洗を経た後、予熱後水素を含有する雰囲気中で550〜900℃の温度に加熱し、鋼板表面のFe酸化物を還元して、この後のめっき処理に好適な表面を形成する。550℃未満の温度では還元が十分ではなく、900℃を超える温度まで加熱するとフェライト組織が粗大化する。めっき後にフェライト+パーライト組織もしくはフェライト+セメンタイト組織とするには、550℃から730℃近傍までの温度とすることが好ましい。一方、第2相としてベイナイト、マルテンサイト、残留γ等を生成させるには、A点から900℃までのフェライトとオーステナイトの二相共存温度域まで昇温する方が好ましい。雰囲気中の水素含有量は5〜40%が好ましい。水素含有量が5%未満では還元が十分に行われない。40%を超えると雰囲気ガスのコストが過度に増加する。水素以外の成分は還元を阻害しないガスであれば良い。好ましくはコストの点から窒素である。均熱の時間は、還元が十分に行われる時間であれば良く、特に指定しないが、一般に10秒以上である。上限は、フェライトを粗大化させないために5分以内、より好ましくは2分以内である。この還元のための加熱・均熱帯を経た後、鋼板温度はめっき浴温近傍まで冷却され、めっき浴に浸漬後、所定の付着量に調整され、室温まで冷却される。合金化溶融亜鉛めっきの場合は、上記のように溶融亜鉛めっきの後、470〜600℃に再加熱して地鉄とめっき膜の間の反応を生じさせ、鋼板表面にFe−Zn合金膜を形成する。
このように、溶融めっき法では、鋼板はめっき浴中で加熱されるだけでなく、めっき浴に浸される前の表面酸化層を還元する工程や、めっき浴浸漬後の合金化工程でも高温熱処理を受ける。しかし、本発明の鋼板のフェライト組織は熱的に安定であるために、これらの工程を経ても微細粒組織が保たれ、優れた機械特性を示す。さらに、表面のフェライト結晶粒が微細であるために、合金化反応速度が増加して、効率的に生産できるという利点も有する。
なお、めっきを施す場合の鋼組成としては、C:0.001〜0.15%とし、Si:0.005〜1.5%及び/またはP:0.005〜1.0%とすることが好ましい。
(I)溶接性について
従来の低温圧延により作成した微細粒組織を有する鋼板では、熱的安定性に劣り、HAZ部が軟化するため、溶接部の特性が低下する。これに対して、本発明に係る鋼板の熱的安定性は、鋼板そのものや上述の表面被膜を施した鋼板を溶接により接合した場合においても、良好であり、レーザ、スポット、アーク等の溶接を用いた溶接後の溶接部の成形性を向上させる。
以下、実施例により、本発明を更に詳しく説明する。
表1に示す化学組成を有する鋼種A1〜A11の鋼を溶製し、熱間鍛造によって30mm厚さにした。その後、1050℃以上に再加熱した後、試験用小型タンデムミルにて圧延を実施し、2mmの板厚に仕上げた。
表2に、その圧延仕上げ温度と冷却条件を示す。全ての圧延において、圧延の仕上げ温度は、各鋼種のAr点よりも高い温度とし、さらに、仕上げ温度〜[仕上げ温度+100℃]の温度域内で3パス以上の多パス圧延を行なった。最終の2パスの圧延は、試験番号3を除いて35%/パス以下の軽圧下圧延とした。試験番号3については最終の2パスを50〜60%の大圧下圧延とした。圧延仕上げ後は、表2に記載したとおり、水冷によって500〜720℃の温度域内の所定の温度まで冷却した。なお、試験番号によっては、水冷後に空冷時間を設けることで600〜720℃における保持時間を設けた。表2には、720〜600℃の温度域における保持時間に加えて、そのうちの620〜700℃の温度域における保持時間をも示した。その後、約100℃/sの速度で室温までの水冷を行うか、又は、400〜600℃の温度域内の所定の温度までの水冷後に炉中で炉冷を行うことによって、種々の第2相の組織を有する鋼板を作製した。
このようにして得られた熱延鋼板の組織について、走査電子顕微鏡を用いることによって鋼板板厚の断面を観察した。
フェライトの結晶粒径およびその粒径分布については、板表面から板厚の1/4の深さにて、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法を用いて結晶方位解析を行って求めた。各相の体積率の測定は、板表面から板厚の1/4の深さにて、ナイタール又はピクリン酸で腐食した組織を走査電子顕微鏡を用いて観察することで行った。なお、本実施例で製造した鋼板のフェライト相以外の第2相の組織は、パーライト、ベイナイト、そして、粒内の球状セメンタイト又は粒界セメンタイトであった。
本発明の鋼板に関しては、鋼板表面から100μmの深さ位置における結晶粒径と板厚の中心部分における結晶粒径を上記と同じ方法で測定した。その結果、全ての本発明鋼板に関し100μmの深さ位置における結晶粒径は板厚中心における粒径の60%以下、板厚の1/4の深さにおける粒径は板厚中心における粒径の85%以下であった。
機械的性質については、引張特性をJIS5号引張試験片にて行い、引張強度TS(MPa)、降伏比YR及び全伸びEl(%)を評価した。
熱的安定性については、700℃の塩浴に10、30又は60分間浸した後、急冷し、上記したのと同じ方法で粒径を測定し、焼鈍前粒径d(μm)と焼鈍後粒径d(μm)の差を、焼鈍時間(min)で割り算をすることによって、平均結晶粒径の増加速度X(μm/min)を算出した。
表3に、このようにして得られた熱延鋼板の組織とその性質および引張試験結果を示す。ここで、試験番号1は、600〜720℃の温度域における保持時間が0.7秒と短いため、フェライト体積率は14.2%と少ないだけでなく、700℃で焼鈍したときの粒成長速度も大きく、熱的安定性に劣る。試験番号3は、低温で大圧下圧延を採用したため、粒径が1.22μmと過度に細かく、熱的安定性と強度・伸びバランスに劣る。これらの比較例に対して、冷却条件が本発明の範囲内である本発明例は、熱的安定性および機械的性質の両方に優れている。
表4に示す化学組成を有する鋼種1〜5からなる鋼片(サイズ:80mm幅×100mm長×35mm厚)を、表5に示す条件でAr点以上の温度で熱間圧延後、水冷し、板厚が1.2mmの熱延鋼板を得た。
得られた熱延鋼板について、板表面から板厚の1/4の深さにおけるフェライト平均結晶粒径、その粒径分布と転位密度の測定を行い、そして、熱的安定性の評価を行った。なお、フェライト結晶粒径、その粒径分布と転位密度の測定を行い、そして、熱的安定性の評価については、前記したのと同じ方法で行った。転位密度ρ(cm−2)は、透過電子顕微鏡観察により明視野像において、任意の線分の長さL(cm)と転位線との交切点の数Nを測定し、膜厚t(cm)として、次の(8)式にしたがって求めた。
ρ=2N/Lt・・・・・・・・・・・・・・・(8)式
ここで、ρは転位密度(cm−2)を、Nは転位線との交切点のNを、Lは任意の線分の長さ(cm)を、そして、tは膜厚(cm)を示す
フェライト結晶粒の熱的安定性については、700℃の塩浴に10、30又は60分浸した後、急冷し、前記したのと同じ方法で粒径を測定し、焼鈍前粒径d(μm)と焼鈍後粒径d(μm)の差を、焼鈍時間(min)で割り算をすることによって、平均結晶粒径の増加速度X(μm/min)算出した。
本発明鋼板に関しては、鋼板表面から100μmの深さ位置における結晶粒径と板厚の中心部分における結晶粒径を前記したのと同じ方法で測定した。その結果、全ての本発明鋼板に関し100μmの深さ位置における結晶粒径は板厚中心における粒径の60%以下、板厚の1/4の深さにおける粒径は板厚中心における粒径の85%以下であった。
このようにして得られた熱延鋼板の機械特性に及ぼす熱処理の影響を明らかにする目的で、730〜830℃の範囲で再加熱処理を行った後、再度、フェライト平均結晶粒径を測定した。ここで、機械的性質については、引張特性をJIS5号引張試験片にて行い、引張強度TS(MPa)、降伏比YR及び全伸びEl(%)を評価した。
表6に、このようにして得られた熱延鋼板の組織とその性質および引張試験結果、さらに、730〜830℃の範囲で再加熱処理を行った後、再度、フェライト平均結晶粒径を測定した結果を示す。ここで、試験番号C及びFは、熱延後の鋼板は機械特性に劣るとともに熱的安定性にも劣る。そして、再加熱処理によって、そのフェライト結晶粒径が8μmを超えるようになり、一層機械特性が劣化することが確認できた。これらの比較例に対して、本発明例の熱的安定性に優れる鋼板は、優れた機械特性を示すとともに、730℃〜830℃で数十秒熱処理をしても、殆んど粒径の変化を示さない。よって、本発明に係る鋼板は、熱処理後も細粒強化されていることが確認できた。
また、めっきを施した試験番号I、JおよびKについても、H’が低いことを確認できたため、同一の塑性歪みを受けた場合にはスプリングバック量が小さくなることが理論的にも言えることが分かった。
表7に示す化学組成を有する鋼種からなる鋼片(サイズ:80mm幅×100mm長×35mm厚)を、表8に示す条件でAr点以上の温度で熱間圧延後、水冷し、板厚が2.0mmの熱延鋼板を得た。その結果を表9に示す。
フェライトの結晶粒径およびその粒径分布については、板表面から板厚の1/4の深さにて、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法を用いて結晶方位解析を行うことで求めた。各相の体積率の測定は、板表面から板厚の1/4の深さにて、ナイタール又はピクリン酸で腐食した組織を走査電子顕微鏡を用いて観察することで行った。なお、本実施例で製造した鋼板のフェライト相以外の第2相の組織は、パーライト、ベイナイト、そして、粒内の球状セメンタイト又は粒界セメンタイトであった。
本発明の鋼板に関しては、鋼板表面から100μmの深さ位置における結晶粒径と板厚の中心部分における結晶粒径を上記と同じ方法で測定した。その結果、全ての本発明鋼板に関し100μmの深さ位置における結晶粒径は板厚中心における粒径の60%以下であり、板厚の1/4の深さにおける粒径は板厚中心における粒径の85%以下であった。
機械的性質については、引張特性をJIS5号引張試験片にて行い、引張強度TS(MPa)、降伏比YR及び全伸びEl(%)を評価した。
熱的安定性については、700℃の塩浴に10、30又は60分間浸した後、急冷し、上記と同じ方法で粒径を測定し、焼鈍前粒径d(μm)と焼鈍後粒径d(μm)の差を、焼鈍時間(min)で割り算をすることによって、平均結晶粒径の増加速度X(μm/min)を算出した。
さらに鋼板の形状凍結性について試験を実施した。
形状凍結性は曲げ試験におけるスプリングバック量により評価を行った。
曲げ試験方法を図8に示す。曲げ試験方法は、U曲げ試験方法であり、図8は成形下死点状態にある。aがパンチ、bがダイス、cがパッド、dが材料である。図8(a)と(b)はともに曲げ試験中の状態であり、材料dにパッドcとパンチaで背圧をかけて押さえ込み、パンチ底で材料dにたわみが生じないようにして成形する。図8(a)は直角に曲げ加工したとき、そして、図8(b)は60゜に曲げ加工したときである。
次に、図9にスプリングバック量の測定方法を示す。図9(a)は直角に曲げ加工したとき、そして、図9(b)は60゜に曲げ加工したときである。いずれも、曲げ試験終了後の状態を示しており、材料dにスプリングバックが生じていることが分かる。点線がスプリングバック前であり、実線がスプリングバック後(離型後の弾性回復をした状態)である。ここで、金型から離型後の弾性回復後の角度θをスプリングバック量であるとした。本試験条件は、直角に加工し、一般的なプレス成形におけるRp/tの範囲で実施し、材料の板厚は1.4mmとした。
試験結果を表10に示す。θがスプリングバック量であり、各Rp/t条件において設定しているスプリングバックの判定基準により、○〜×を判断した。
スプリングバックの判定基準は、次のとおりである。なお、各Rp/t条件において、これ以上のスプリングバックが発生した場合には金型見込み等によるスプリングバック低減が困難となる値をスプリングバック不良とした。
○:スプリングバック良好、
△:スプリングバックは良好だが降伏比YRが低い(衝撃吸収性能に劣る)、
×:スプリングバック不良。
本発明材料においては、スプリングバック量が良好となることを確認した。また、スプリングバックが判定基準内であっても降伏比YRが低い材料は衝撃吸収性能が劣るため、本発明材が目的とする特徴を満足してはいない。
例えば、パンチRp=10で、板厚t=1.4mmの場合は、Rp/t=7.1となる。このときの、スプリングバック許容量はθ<6.5でありこれ以上のスプリングバックが発生すると金型見込み等によるスプリングバックの低減が困難となる。
本発明に係る熱延鋼板は、超微細な結晶粒を有し、引張強度に対する降伏強度の比(降伏比YR)が0.8以上の高降伏強度を有し、衝撃吸収特性と形状凍結性に優れる。さらに、本発明に係る熱延鋼板は超微細な結晶粒を有し、引張強度に対する降伏強度の比(降伏比YR)が0.8以上の高降伏強度を有し、優れた衝撃吸収特性と形状凍結性に加えて、溶接工程や溶融めっき工程の熱にも耐え得る熱的安定性を有する。そして、これらの熱延鋼板は、本発明の方法によって、容易に製造することができる。
曲げ試験を実施した場合における曲げ部の到達応力を示す。 各種の熱延鋼板を降伏比YRとスプリングバック量でプロットしたものである。 曲げ成形における熱延鋼板の曲げ部周辺の断面図を示したものである。 塑性接線勾配曲線であり、X軸が塑性歪み(真歪み)を、そして、Y軸が応力(真応力)を示す。 図4の塑性接線勾配曲線のうち、上記限定範囲を拡大したものである。 実施例から得られたデータを、X軸にYRを、H'/TSをY軸に、プロットしたものである。 曲げ加工において発生する応力について、曲げ位置毎にその大きさをシミュレーションしたものである。 曲げ試験方法を示す。 スプリングバック量の測定方法を示す。
符号の説明
a パッド
b ダイス
c パッド
d 材料

Claims (6)

  1. Ti、Nb、Mo、Vのうちの1種又は2種以上を合計で0.05%以下含有し、フェライトを主相とする炭素鋼または低合金鋼からなる鋼板であって、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径D(μm)が下記の(1)式及び(2)式を満足し、降伏比YRが0.8以上であって、JIS5号引張試験における降伏後の塑性歪み0.005から一様伸びの65%の歪みまでの範囲における平均塑性接線勾配H'が下記の(3)式を満足することを特徴とする熱延鋼板。
    1.2≦D≦7・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)式
    D≦2.7+5000/(5+350・C+40・Mn)・・・(2)式
    0.1≦H'/TS≦−2×YR+3.1・・・・・・・・・・・(3)式
    ここで、Dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径(μm)を、CおよびMnは鋼中の各元素の含有量(質量%)を、H'は引張試験において降伏後の塑性歪み0.005から一様伸びの65%の歪みまでの範囲における平均塑性接線勾配を、TSは引張強度(MPa)を、そして、YRは降伏比を示す。
  2. 鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置において、フェライトの結晶粒径d(μm)が下記の(4)式を満足するフェライト結晶粒のフェライトに占める面積割合が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱延鋼板。
    D/3≦d≦3D・・・・・・・・・・・・・・・・(4)式
    ここで、dはフェライトの結晶粒径(μm)を、そして、Dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径(μm)を示す。
  3. 鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径D(μm)の700℃における増加速度X(μm/min)と当該平均結晶粒径D(μm)が下記の(5)式を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱延鋼板。
    D・X≦0.1・・・・・・・・・・・・・・・・(5)式
    ここで、Dは鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置におけるフェライトの平均結晶粒径(μm)を、そして、Xは当該フェライトの平均結晶粒径D(μm)の700℃における増加速度(μm/min)を示す。
  4. 請求項1から3までのいずれかに記載の熱延鋼板の表面に、Zn、Al、Zn−Al合金またはFe−Zn合金の被覆層を備えることを特徴とする溶融めっき熱延鋼板。
  5. 炭素鋼又は低合金鋼からなるスラブを多パス熱間圧延して熱延鋼板を製造する方法であって、最終の圧延パスをAr点以上かつ780℃以上の温度で終了し、その後400℃/秒以上の冷却速度で0.4秒以内に720℃以下まで冷却した後、600〜720℃の温度域で2秒以上保持した後、0.1〜1.0%の調質圧延を施すことを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の熱延鋼板の製造方法。
  6. 請求項5に記載の方法により得られた熱延鋼板を酸洗後、連続溶融めっきラインにて溶融めっきを施すことを特徴とする、溶融めっき熱延鋼板の製造方法。
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