JP2008067649A - 妊孕性診断キット、変異検出方法、ポリヌクレオチド、及びポリペプチド - Google Patents
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Abstract
【課題】妊孕可能性の推定及び不妊症の原因の同定を可能にする妊孕性診断キットを提供する。
【解決手段】第1の妊孕性診断キットは、ヒトTSSK2遺伝子の第903位の塩基の欠失変異の有無を検出するための試薬を含んでいる。第2の妊孕性診断キットは、ヒトHASPIN遺伝子の第204位の塩基と第205位の塩基との間の挿入変異の有無を検出するための試薬を含んでいる。
【選択図】なし
【解決手段】第1の妊孕性診断キットは、ヒトTSSK2遺伝子の第903位の塩基の欠失変異の有無を検出するための試薬を含んでいる。第2の妊孕性診断キットは、ヒトHASPIN遺伝子の第204位の塩基と第205位の塩基との間の挿入変異の有無を検出するための試薬を含んでいる。
【選択図】なし
Description
本発明は、妊孕可能性の推定及び不妊症の原因の同定を可能にする妊孕性診断キット、並びに、不妊症の治療方法の研究に用いられる変異型のポリペプチド及びそれをコードするポリヌクレオチドに関するものである。
近年、少子化の問題が頻繁に取り上げられ、この問題を解消するために様々な対策が模索されている。少子化の対策として、不妊症により子供を授からない夫婦を救済することが重要であることは言うまでもない。
非特許文献1では、子供を望む夫婦のうちの約15%が2年たっても妊娠できないという報告がなされている。近年では、体外受精(IVF;In Vitro Fertilization)の技術発展により、精子の活動能が低い場合においても妊娠出産が可能になっているが、不妊の背後にある分子メカニズムは依然として明らかになっていないのが現状である。
非特許文献2によると、マウスにおける雄性不妊の研究により、妊孕性に影響を与える多くの遺伝子の存在が明らかになっており、これらの遺伝子の変異がヒトにおいても男性不妊を引き起こす一因となっている可能性がある。
哺乳類の雄性生殖細胞の成熟は、数々の構造的及び機能的変化を経てなされる。その過程は精子形成と呼ばれ、主として(1)精原細胞の増殖及び分化、(2)精母細胞の前期段階における減数分裂、及び(3)半数体円形精子細胞から精子への分化の際の急激な形態変化、の3つの段階を含んでいる。
上述した半数体生殖細胞の分化において、円形精子細胞は、細胞分裂を伴わずに精子へと形態を大きく変化させる。このとき、核は変形し、ミトコンドリアは再配置され、鞭毛が発達し、そしてアクロソームが形成される。
上述した半数体生殖細胞の分化には、この時期特異的に発現する数々のタンパク質が関与している。そのタンパク質として、セリン/スレオニンキナーゼファミリーに属するTSSK2(testis-specific serine kinase 2)、及び、細胞周期の調節への関与が示唆するHASPIN(haploid germ cell-specific nuclear protein kinase)が報告されている(非特許文献3,4)。
TSSK2は、性成熟したオスの精巣に限定して発現するタンパク質であり、組織免疫染色により、後期精子細胞の細胞膜に局在し、残体(residual body)のような構造を形成することが分かっている。また、TSSK2は、脱離して精細管の内腔や精巣上体に存在する精子には存在しない。このように、TSSK2は、精子細胞の成熟期間の後期段階という短い期間に限定して発現するタンパク質である。
さらに、免疫沈降物のIn Vitroキナーゼアッセイにより、TSSK2は、自身をリン酸化する機能は有していないものの、TSSK2と共沈するタンパク質のセリン残基をリン酸化することが分かっている。
なお、TSSK2は、マウスだけでなく、ヒトにおいても存在することが明らかになっている(非特許文献5)。
一方、HASPINは、本願発明者らによって見出され、他の細胞に比べて半数体生殖細胞に極めて強く発現し、核に局在するタンパク質である。HASPINは、通常のプロテインキナーゼが備える12のサブドメインのうちの3つのサブドメインしか備えていないが、内在性のセリン/スレオニンキナーゼ活性を有している。そして、HASPIN遺伝子は、体細胞に異所発現させると、細胞周期をG1期で停止させ、細胞増殖の停止を引き起こすことが分かっている。
なお、HASPINもまた、マウスだけでなく、ヒトにおいても存在することが明らかになっている(非特許文献6)。
また、別の報告では、HASPINを体細胞系の培養細胞に強制発現させる実験により、局在する箇所が核正体であることが突き止められている(非特許文献7)。この報告では、In Vitroの実験において、強制発現したHASPINタンパク質が有糸分裂の際に中心体及び紡錘体に局在するとともに、ヒストンH3の第3位のスレオニンをリン酸化させることが示されている。このことは、HASPINが減数分裂期の染色体及び紡錘体の機能の制御に関与していることを示唆している。
以上のように、TSSK2及びHASPINは、半数体生殖細胞の分化に重要な影響を及ぼすタンパク質であると考えられている。
de Kretser DM et al., J Clin Endocrinol Metab. 1999; 84: 3443-3450. Matzuk MM et al., Nat Cell Biol. 2002; 4(Supp1): S41-S49 / Nat Med. 2002; 8 (Supp1): S33-S40. Kueng P et al.,J Cell Biol. 1997; Dec 29; 139(7): 1851-1859. Tanaka H et al., J Biol Chem. 1999; Jun 11; 274(24): 17049-17057. Hao Z et al., Mol Hum Reprod. 2004; Jun; 10(6): 433-444. Tanaka H et al., Mol Hum Reprod. 2001; Mar; 7(3): 211-218. Dai J et al., Genes Dev. 2005; Feb 15; 19(4): 472-488.
de Kretser DM et al., J Clin Endocrinol Metab. 1999; 84: 3443-3450. Matzuk MM et al., Nat Cell Biol. 2002; 4(Supp1): S41-S49 / Nat Med. 2002; 8 (Supp1): S33-S40. Kueng P et al.,J Cell Biol. 1997; Dec 29; 139(7): 1851-1859. Tanaka H et al., J Biol Chem. 1999; Jun 11; 274(24): 17049-17057. Hao Z et al., Mol Hum Reprod. 2004; Jun; 10(6): 433-444. Tanaka H et al., Mol Hum Reprod. 2001; Mar; 7(3): 211-218. Dai J et al., Genes Dev. 2005; Feb 15; 19(4): 472-488.
上述したように、TSSK2及びHASPIN遺伝子は、哺乳類において種を越えて保存され、かつ、半数体生殖細胞に特異的に発現するタンパク質をコードするものであることから、これらの遺伝子における変異は不妊を引き起こし得ると考えられる。しかしながら、現在までに、ヒトTSSK2遺伝子又はヒトHASPIN遺伝子の変異と不妊症との関係を示唆する症例は報告されていない。
ヒトTSSK2遺伝子又はヒトHASPIN遺伝子の変異と妊孕性との関係が明らかになれば、妊孕性の診断を簡易な遺伝子診断で行うことができるようになる。具体的には、被験者が不妊症に罹患する可能性が高いか否かの判定、或いは、不妊症患者の原因がこれらの遺伝子によるものか否かの判定を簡易に行うことができるようになる。
さらに、不妊症患者に見られる変異型ヒトTSSK2タンパク質又は変異型ヒトHASPINタンパク質があれば、上記の変異型タンパク質に起因する不妊症の治療を目的とした薬剤や治療法などの研究において極めて有用なツールとなる。
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、妊孕可能性の推定及び不妊症の原因の同定を可能にする妊孕性診断キットを提供することにある。
また、本発明の別の目的は、不妊症の治療方法を研究する際に有用なツールを提供することにある。
本願発明者らは、後述する実施例に示すように、男性不妊症患者及び健常者男性からなる集団について、ヒトTSSK2遺伝子の塩基配列を入念に解析した結果、ヒトTSSK2遺伝子の翻訳開始点から数えて第902位又は第903位の塩基の欠失変異と不妊症とが関連することを見出した。
上記課題を解決するために、本発明に係る第1の妊孕性診断キットは、翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトTSSK2遺伝子の第902位及び第903位のうちの一方の塩基の欠失変異の有無を検出するための試薬を含んでいることを特徴とする。
上記試薬は、ヒトTSSK2遺伝子の上記第902位及び第903位の塩基を含む領域を増幅させるためのプライマーの組と、上記領域の塩基配列を決定するための塩基配列決定試薬と、を含むものであってもよい。
あるいは、上記試薬は、上記欠失変異の有無をインベーダー法によって検出するものであってもよい。
さらにあるいは、上記試薬は、上記欠失変異の有無をSMMD法によって検出するものであってもよい。
また、本発明に係る第1のポリヌクレオチドは、翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトTSSK2遺伝子の翻訳領域の塩基配列において第902位及び第903位のうちの一方の塩基が欠失した塩基配列からなることを特徴とする。
また、本発明に係る第1の発現ベクターは、上記ポリヌクレオチドを有していることを特徴とする。
また、本発明に係る第1のポリペプチドは、上記ポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなることを特徴とする。
また、上記課題を解決するために、本発明に係る第1の変異検出方法は、翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトTSSK2遺伝子の第902位及び第903位のうちの一方の塩基の欠失変異の有無を検出する工程を含んでいることを特徴とする。
さらに、本願発明者らは、後述する実施例に示すように、男性不妊症患者及び健常者男性からなる集団について、ヒトHASPIN遺伝子の塩基配列を入念に解析した結果、ヒトHASPIN遺伝子の翻訳開始点から数えて第204位と第205位との間の挿入変異と不妊症とが関連することを見出した。
上記課題を解決するために、本発明に係る第2の妊孕性診断キットは、翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトHASPIN遺伝子の第204位の塩基と第205位の塩基との間の挿入変異の有無を検出するための試薬を含んでいることを特徴とする。
上記試薬は、ヒトHASPIN遺伝子の上記第204位及び第205位の塩基を含む領域を増幅させるためのプライマーの組と、上記領域の塩基配列を決定するための塩基配列決定試薬と、を含むものであってもよい。
あるいは、上記試薬は、上記欠失変異の有無をインベーダー法によって検出するものであってもよい。
さらにあるいは、上記試薬は、上記欠失変異の有無をSMMD法によって検出するものであってもよい。
また、本発明に係る第2のポリヌクレオチドは、翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトHASPIN遺伝子の翻訳領域の塩基配列において第204位の塩基と第205位の塩基との間にアデニン塩基が挿入した塩基配列からなることを特徴とする。
また、本発明に係る第2の発現ベクターは、上記ポリヌクレオチドを有していることを特徴とする。
また、本発明に係る第2のポリペプチドは、上記ポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなることを特徴とする。
また、上記課題を解決するために、本発明に係る第2の変異検出方法は、翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトHASPIN遺伝子の第204位の塩基と第205位の塩基との間の挿入変異の有無を検出する工程を含んでいることを特徴とする。
本発明に係る第1の不妊症キットには、不妊症患者に見られるTSSK2遺伝子の第902位又は第903位の塩基の欠失変異の有無を検出する試薬が備わっているので、妊孕可能性の推定及び不妊症の原因の同定を行うことができる。
また、本発明に係る第1のポリヌクレオチドは、上記の欠失変異を含むTSSK2遺伝子を提供するものである。また、本発明に係る第1の発現ベクター及び第1のポリペプチドは、不妊症患者に見られるヒト欠失変異型TSSK2タンパク質を提供するものである。従って、TSSK2遺伝子の欠失変異に起因した不妊症を研究する上で有用なツールとなる。
本発明に係る第2の不妊症キットには、不妊症患者に見られるHASPIN遺伝子の第204位と第205位との間の挿入変異の有無を検出する試薬が備わっているので、妊孕可能性の推定及び不妊症の原因の同定を行うことができる。
また、本発明に係る第2のポリヌクレオチドは、上記の挿入変異を含むHASPIN遺伝子を提供するものである。また、本発明に係る第2の発現ベクター及び第2のポリペプチドは、不妊症患者に見られるヒト挿入変異型HASPINタンパク質を提供するものである。従って、HASPIN遺伝子の欠失変異に起因した不妊症を研究する上で有用なツールとなる。
(1.ヒトTSSK2遺伝子における欠失変異)
TSSK2は、”testis-specific serine kinase 2”の略称であり、本明細書ではこの略称を用いることとする。TSSK2タンパク質は、上述したように、性成熟したオスの精巣に限定して発現し、後期精子細胞の細胞膜に局在することが報告されている。TSSK2は、自身をリン酸化する機能は有していないものの、自身と相互作用するタンパク質のセリン残基をリン酸化することが分かっている。
TSSK2は、”testis-specific serine kinase 2”の略称であり、本明細書ではこの略称を用いることとする。TSSK2タンパク質は、上述したように、性成熟したオスの精巣に限定して発現し、後期精子細胞の細胞膜に局在することが報告されている。TSSK2は、自身をリン酸化する機能は有していないものの、自身と相互作用するタンパク質のセリン残基をリン酸化することが分かっている。
図1は、ヒトTSSK2遺伝子の構造を示す模式図である。ヒトゲノムプロジェクトによって構築されたヒトゲノムリソース(Human Genome Resources: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genome/guide/human/)によれば、ヒトTSSK2遺伝子は、イントロンを持たないレトロポゾン様遺伝子であり、ヒト22番染色体長腕(22q11.21)に位置している。この遺伝子の転写産物は約1.3kbである。
配列番号1は、ジーンバンク(GenBank)にアクセッション番号gi34222349で登録されているヒトTSSK2遺伝子の転写産物の塩基配列の中から、翻訳領域のみを抽出したものである。配列番号1に示すように、TSSK2遺伝子は、1077bpからなる翻訳領域を有している。また、配列番号2は、ヒトTSSK2タンパク質の推定アミノ酸配列を示すものである。
本願発明者らは、後述する実施例に示す調査の結果、男性不妊症患者からなる集団の中に、配列番号1に示すヒトTSSK2遺伝子の翻訳領域における第903位のシトシン塩基(以下、単に「C」という)が片方のアレルにおいて欠失している患者がいることを見出した。一方、この第903位のCの欠失は、妊孕性が確認されている男性からなる集団では全く見られなかった。
なお、ヒトTSSK2遺伝子は、配列番号1に示すように、第902位と第903位が何れもCとなっている。従って、上記の欠失は第902位の塩基に生じているともいえるが、本質的にはどちらでもよいため、以下では説明の便宜上、第903位の塩基が欠失していることとして説明する。
ヒトTSSK2遺伝子に上記の欠失変異が起こると、正常なTSSK2タンパク質が発現しない。それゆえ、ヒトTSSK2遺伝子の上記第903位におけるCの欠失変異は、たとえ片方のアレルのみに起こっている場合であっても、正常なTSSK2タンパク質の翻訳量の低下などに基づき不妊症を引き起こす可能性が高いと推測される。
よって、被験者のTSSK2遺伝子について上記の第903位のCの欠失変異の有無を調べ、欠失変異が見つかった場合には、その被験者が不妊症或いは低妊孕性であると考えられる。そして、不妊症或いは低妊孕性であると判定された被験者に対しては、ICSI(Intracytoplasmic sperm injection;顕微授精)などの現存の治療法の適格な選択を提示することができる。
以上のことから、本発明に係る変異検出方法は、翻訳開始コドンをコードするアデニンを第1位の塩基としたときに、ヒトTSSK2遺伝子の第903位の塩基の欠失変異の有無を検出する工程を含んでいることを特徴とするものである。
また、本発明に係る妊孕性診断キットは、翻訳開始コドンをコードするアデニンを第1位の塩基としたときに、ヒトTSSK2遺伝子の第903位の塩基の欠失変異の有無を検出する試薬を含んでいることを特徴とするものである。
上記変異検出方法及び妊孕性診断キットは、ヒトTSSK2遺伝子の第903位の塩基の欠失変異の有無を検出するものであれば、その態様は特に限定されるものではない。変異検出方法及び妊孕性診断キットは、被験者のTSSK2遺伝子が上記の欠失変異を含んでいることを検知するものであってもよいし、上記の欠失変異を含んでいないことを検知するものであってもよい。
上記変異検出方法及び妊孕性診断キットとしては、公知の各種手法、例えば、塩基配列決定法、インベーダー法、又はSMMD法(simultaneous multiple mutation detection system)、PCR−RFLP法、MASA法、塩基伸長法、Taqmanプローブ法などに基づいたものを用いることができる。また、妊孕性診断キットには、使用方法が記載された取扱説明書が含まれていてもよい。
一実施形態において、本発明に係る変異検出方法及び妊孕性診断キットは、ヒトTSSK2遺伝子の上記第902位及び第903位の塩基を含む領域の塩基配列を決定することにより、上記の欠失変異の有無を検出するものであってもよい。塩基配列の決定には、サンガー法やこれを応用した公知の各種手法を用いることができる。
この場合、妊孕性診断キットには、ヒトTSSK2遺伝子の第902位及び第903位の塩基を含む領域を増幅させるために、第902位及び第903位を挟むようにして設計されたプライマーの組が含まれることが好ましい。このプライマーの組には、より詳細には、ヒトTSSK2遺伝子の第902位よりも上流の塩基配列を有するプライマーと、ヒトTSSK2遺伝子の第903位よりも下流の塩基配列と相補的な塩基配列を有するプライマーとが含まれる。
被験者のゲノムDNAを鋳型として上記のプライマーの組を用いてPCR(polymerase chain reaction)を行えば、ヒトTSSK2遺伝子の第902位及び第903位の塩基を含む領域がDNAフラグメントとして増幅され、さらに、上記のプライマーの組の一方又は両方のプライマーを用いて塩基配列の決定を行えば、欠失変異の有無を確実かつ簡便に検出することができる。塩基配列の決定は、例えばABI−PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems Inc.)などを取扱説明書に従って使用することにより、簡単に実施することができる。
なお、それぞれのプライマーは、TSSK2遺伝子と同一の塩基配列、或いは相補的な塩基配列を少なくとも10塩基以上有することが好ましく、15塩基以上有することがより好ましく、18塩基以上有することがさらに好ましく、20塩基以上有することが特に好ましい。TSSK2遺伝子と同一の(或いは相補的な)塩基配列の長さを長くすることにより、TSSK2遺伝子の第903位を含む目的の領域のみを確実に増幅させることができる。
また、上記のプライマーの組は、互いのプライマーによって挟まれる領域の長さが5kb以下であることが好ましく、3kb以下であることがより好ましく、2kb以下であることがさらに好ましく、1.5kb以下であることが特に好ましい。互いのプライマーによって挟まれる領域の長さを短くすることによって、上記の第903位の塩基を含む領域の増幅を効果的に行うことができる。
また、塩基配列の決定に用いるプライマーは、上記の第903位の塩基から2kb以内の位置に設定されることが好ましく、1.5kb以内の位置に設定されることが好ましく、1.0kb以内の位置に設定されることがより好ましく、0.7kb以内の位置に設定されることが特に好ましい。上記の構成により、塩基配列の決定を正確に行うことができる。
さらに、塩基配列の決定に用いるプライマーは、上記第902位及び第903位の塩基から20bp以上離れた位置に設定されることが好ましく、30bp以上離れた位置に設定されることがより好ましく、40bp以上離れた位置に設定されることがさらに好ましく、50bp以上離れた位置に設定されることが特に好ましい。また、上記プライマーの組は、ヒトTSSK2遺伝子の上記第902位及び第903位の塩基を含む20bp以上の領域を増幅させるものであることが好ましい。プライマーの近傍は、塩基配列の決定結果が不正確になる傾向にあるが、上記の構成により、塩基配列の決定を正確に行うことができる。
上記のプライマーの組としては、例えば、それぞれ配列番号9,配列番号10の塩基配列からなるプライマー(図1のPrimer1及びPrimer2)を用いることができるが、本発明に用いることのできるプライマーの塩基配列がこの配列に限定されないことはいうまでもない。ヒトTSSK2遺伝子の塩基配列及びその周辺の塩基配列は、当業者であれば上述したヒトゲノムリソースやジーンバンク(GenBank)から容易に入手することができるので、入手した塩基配列を基に、Oligo(登録商標、National Bioscience Inc.)又はGENETYX(ソフトウェア開発)などを用いてプライマーを設計することができる。
各プライマーは、例えばホスホロアミダイト法などの公知の方法によって合成することができ、例えばApplied Biosystems Inc.の392型シンセサイザーなどを取扱説明書に従って使用することによって簡単に合成することができる。
なお、上記の各プライマーには、蛍光標識が付されていてもよい。プライマーに蛍光標識が付されている場合、ダイプライマー法によって、放射性同位元素を用いることなく増幅領域の塩基配列を決定することができる。
一方、各プライマーに蛍光標識が付されていない場合、ダイターミネータ法によって塩基配列を決定することができる。この場合、上記妊孕性診断キットには、上記のプライマーの組に加えて、A,T,G,Cの各単量体からなるデオキシリボ核酸、蛍光標識されA,T,G,Cの各単量体からなるジデオキシリボ核酸(所謂ダイターミネータ)、及びポリメラーゼなどがさらに含まれていてもよい。
一実施形態において、本発明に係る変異検出方法及び妊孕性診断キットは、ヒトTSSK2遺伝子の上記第903位の塩基の欠失変異の有無をインベーダー法によって検出するものであってもよい。インベーダー法の詳細については、Lyamichevらによる論文(Lyamichev V et al., Nat biotechnol. 17, 292, 1999)に記載されており、本明細書ではこれを援用する。
図2は、インベーダー法の原理を説明する模式図である。インベーダー法では、非蛍光標識プローブのインベーダープローブ2及びシグナルプローブ3と、蛍光標識プローブのフレットプローブ5とが用いられる。
インベーダープローブ2は、ターゲット遺伝子1と相補的な塩基配列を有し、かつ、3’末端の塩基がターゲット遺伝子1の変異(又は一塩基多型)検出部位1aと対応するように設計される。一方、シグナルプローブ3は、ターゲット遺伝子1とは無関係な塩基配列であるフラップ5aと、ターゲット遺伝子1と相補的な塩基配列を有し、かつ、5’末端の塩基がターゲット遺伝子1の変異(又は一塩基多型)検出部位1aに対応するように設計されたヌクレオチド5bとが連結したものである。ここで、フラップ5aは、ヌクレオチド5bの5’末端側に連結されている。
このように設計されたプローブ2・3をターゲット遺伝子1とハイブリダイゼーションさせると、変異検出部位1aでは、ターゲット遺伝子1、インベーダープローブ2及びシグナルプローブ3が3重鎖を形成する。すると、フラップエンドヌクレアーゼ(「クリアベース(cleavase)」ともいう)4がこの3重鎖を認識し、シグナルプローブ3を3重鎖の3’側で切断する。その結果、フラップ3bと変異検出部位とが連結したフラップ遊離体3cが生成される。
フレットプローブ5は、5’末端側が自身とハイブリダイゼーションでき、かつ、3’末端側がフラップ3bとハイブリダイゼーションできるヌクレオチド5aと、蛍光色素5bと、クエンチャー(発光抑制体)5cとからなる。ここで、ヌクレオチド5aは、5’末端がフラップ遊離体3cの変異検出部位と相補的な塩基配列となっている。また、蛍光色素5bは、ヌクレオチド5aの5’末端に結合している。ただし、フレットプローブ5においては、クエンチャー5cにより蛍光色素5bの蛍光が抑制されている。
このようなフレットプローブ5に対してフラップ遊離体3cがハイブリダイゼーションすると、フラップ遊離体3cの変異検出部位について、再び3重鎖が形成される。その結果、上述のフラップエンドヌクレアーゼ4がこの3重鎖を再び認識し、フレットプローブ5の5’末端部分が切断される。その結果、フレットプローブ5の5’末端に結合していた蛍光色素5bが遊離し、蛍光が生じる。
従って、本発明に係る妊孕性診断キットがインベーダー法により上記の欠失変異の有無を検出するものである場合、妊孕性診断キットには、インベーダープローブ2、シグナルプローブ3及びフレットプローブ5などが含まれることが好ましい。
欠失変異が有る場合に蛍光が生じるようにする場合、インベーダープローブ2は、配列番号1に示す塩基配列からなるヒトTSSK2遺伝子と相補的な塩基配列を有し、かつ、3’末端の塩基が変異型TSSK2遺伝子の第902位の塩基と対応するように設計される。また、シグナルプローブ3のヌクレオチド3aは、ヒトTSSK2遺伝子と相補的な塩基配列を有し、かつ、5’末端の塩基がヒトTSSK2遺伝子の第903位の塩基と対応するように設計される。そして、フレットプローブ5は、上記インベーダープローブ2及び上記シグナルプローブ3が変異型TSSK2遺伝子とハイブリダイズして3重鎖構造が形成された場合にフラップエンドヌクレアーゼ4によって切断されるフラップ遊離体5cを検出できるように設計される。
上記の構成により、被験者のTSSK2遺伝子の第903位の塩基が欠失している場合は、オリゴヌクレオチド3aの3’末端とインベーダープローブ2の5’末端とがオーバーラップすることにより3重鎖が形成されて蛍光が生じる。一方、被験者のTSSK2遺伝子が野生型である場合は、プローブの末端部分で3重鎖が形成されないので蛍光が生じない。
また、上記の例では、被験者の有するTSSK2遺伝子が欠失変異型の場合に蛍光が生じる構成としたが、本発明はこれに限定されず、被験者の有するTSSK2遺伝子が野生型の場合に蛍光が生じ、欠失変異型の場合に蛍光が抑制される構成としてもよく、様々に改変することができる。
一実施形態において、本発明に係る変異検出方法及び妊孕性診断キットは、ヒトTSSK2遺伝子の上記第903位の塩基の欠失変異の有無をSMMD法によって検出するものであってもよい。SMMD法の詳細については、Wakaiらによる論文(Wakai J et al., Nucleic Acids Res., 2004. 32(18), e141.)に記載されており、本明細書ではこれを援用する。
図3は、SMMD法の原理を説明する模式図である。SMMD法は、電気化学的反応を利用して一塩基多型、置換変異、欠失変異、又は挿入変異などを検出するものである。まず、図1に示すように、被験者のゲノムDNA11を鋳型として変異検出部位を含む領域をPCRによって増幅させるため、カウンタープライマー13と特別プライマー12とを1:4の割合で用いて非対称PCRを行う(工程A)。ここで、特別プライマー12は、変異を検出したい遺伝子11の変異検出部位11aよりも下流の領域と相補的な塩基配列からなるオリゴマー12aと、タグ12bとからなる。タグ12bは、遺伝子11の変異検出部位11aよりも1塩基下流の塩基から、オリゴマー12aがハイブリダイゼーションする塩基よりも1塩基上流の塩基までの領域と相補的な塩基配列を有しており、オリゴマー12aの5’末端に連結されている。
上記の非対称PCRの結果、工程Bに示すPCR産物14が生成される(工程B)。このPCR産物14のうち、特別プライマー5を含む一本鎖の非対称PCR産物14は、タグ12bを含んでいるため、自己ループを形成して特別ターゲットを形成する(工程C・D)。
次に、変異型プローブ20及び野生型プローブ30を用意する。プローブ20・30は、ともに、変異を検出したい遺伝子11と同一の塩基配列を有し、かつ、変異検出部位11a・11bを3’末端とするオリゴマーを金電極25に固定したものである。ここで、変異型プローブ20はオリゴマーの3’末端が変異型の塩基配列(図中ではC)となっているのに対して、野生型プローブ30はオリゴマーの3’末端が野生型の塩基配列(図中ではA)となっている。これらの変異型プローブ20及び野生型プローブ30は、オリゴマーが上述した特別ターゲット15の3’末端側と相補的な塩基配列を有しているため、特別ターゲット15とハイブリダイゼーションすることができる。なお、金電極25にオリゴマーを固定するための詳細な方法は、Takenakaらによる論文(Takenaka S et al., Anal Chem., 2000, 72, 1334-1341)に記載されており、本明細書ではこれを援用する。
プローブ20・30を特別ターゲット15とハイブリダイゼーションさせる前に、フェロセニルナフタレンジイミド(ferrocenylnaphtalene diimide;以下「FND」と略称する)を含む溶液中で、予めバックグラウンド応答を行い、電流I0を測定しておく(工程E)。
そして、特別ターゲット15と変異型プローブ20及び野生型プローブ30とのハイブリダイゼーション及びライゲーションを行う。ここで、特別ターゲット15が変異型のものである場合(すなわち、被験者が変異型遺伝子を有している場合)、特別ターゲット15は変異型プローブ20と塩基配列が完全に一致するのでライゲーションが行われる一方で、野生型プローブ30とは塩基配列が末端部分で相違するのでライゲーションが行われない(工程F)。
その後、変性処理を行うと、野生型プローブ30と変異型の特別ターゲット15との組では、野生型プローブ30から変異型特別ターゲット15が解離する。一方、変異型プローブ20と変異型の特別ターゲット15との組では、ライゲーションが行われているので、解離が起こらない(工程G)。
そして、それぞれのサンプルを洗浄して余剰のDNAを除去し、FNDを添加して、FND分子の電気化学的電流I1を測定する(工程H)。ここで、2本鎖DNAを有する電極では、1本鎖DNAを有する電極に比べて電流I1が大きくなる(工程I)。
これにより、被験者のゲノムDNAが変異型であるか野生型であるかを測定した電流値に基づいて判定することができる。なお、SMMD法では、上記の変異型プローブ20及び野生型プローブ30をECA(Electrochemial array)チップとしてアレイ状に形成することにより、多数の変異を同時進行的に検出することができる。
従って、本発明に係る妊孕性診断キットがSMMD法により上記の欠失変異の有無を検出するものである場合、妊孕性診断キットには、特別プライマー12、カウンタープライマー13、変異型プローブ20及び野生型プローブ30などが含まれていることが好ましい。なお、変異型プローブ20及び野生型プローブ30は、何れか一方のみでもよい。
上記特別プライマー12aは、配列番号1に示すヒトTSSK2遺伝子の第903位よりも下流の所定領域と相補的な塩基配列からなるオリゴマー12aと、タグ12bとからなる。タグ12bは、ヒトTSSK2遺伝子の第904位から、オリゴマー12aがハイブリダイゼーションする部位までの領域と相補的な塩基配列を有しており、オリゴマー12aの5’末端に連結される。一方、上記カウンタープライマー13は、ヒトTSSK2遺伝子の第902位よりも上流の所定領域と同一の塩基配列からなる。
また、上記変異型プローブ20は、ヒトTSSK2遺伝子と同一の塩基配列からなり、かつ、第902位の塩基が3’末端になるオリゴマーを有するように設計される。また、上記野生型プローブ30は、ヒトTSSK2遺伝子と同一の塩基配列からなり、かつ、第903位の塩基が3’末端になるオリゴマーを有するように設計される。
上記の構成によれば、被験者のTSSK2遺伝子が欠失型の場合、特別ターゲット15は、変異型プローブ20とライゲーションできるが、野生型プローブ30とは、1塩基分のオーバーラップが生じるためにライゲーションできない。一方、被験者のTSSK2遺伝子が野生型の場合、特別ターゲット15は、野生型プローブ30とライゲーションできるが、変異型プローブ30とは、1塩基分の隙間が生じるためにライゲーションできない。
なお、上記の各方法において、TSSK2遺伝子のセンス鎖(コドンをコードする側の鎖)を調べることによって欠失変異の有無を判定する構成について詳細に説明したが、アンチセンス鎖を調べることによっても同様に判定することができるのはいうまでもない。
本明細書では、ヒト野生型TSSK2遺伝子の代表的な塩基配列として、配列番号1に示す塩基配列を例示したが、特許請求の範囲に記載の「ヒトTSSK2遺伝子」は、配列番号1に示された塩基配列のみに限定されない。なぜならば、ヒト遺伝子には多くの一塩基多型が存在し、ヒトTSSK2遺伝子においても例外ではないからである。従って、特許請求の範囲に記載のヒトTSSK2遺伝子には、配列番号1に示される塩基配列のみならず、配列番号1に示される塩基配列において一塩基多型により1又は複数の塩基が置換された塩基配列のものも含まれる。このことは、ヒト欠失変異型TSSK2遺伝子についても同様である。
次に、本発明に係るポリヌクレオチドについて説明する。本発明に係るポリヌクレオチドは、翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトTSSK2遺伝子の翻訳領域の塩基配列において第903位の塩基が欠失した塩基配列からなることを特徴とするものである。
一実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、配列番号3に示す塩基配列からなるものであってもよい。ただし、本発明に係るポリヌクレオチドは、配列番号3に示す塩基配列に限定されない。本発明に係るポリヌクレオチドには、配列番号3に示される塩基配列のみならず、配列番号3に示される塩基配列において一塩基多型により1又は複数の塩基が置換された塩基配列のものも含まれる。
本明細書において、「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」、または「核酸分子」と同義であり、ヌクレオチドの重合体を指す。本明細書において、「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と同義であり、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、DNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)の何れであってもよい。さらに、DNAの場合、二本鎖、一本鎖の何れであってもよい。さらに、一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)でもよいし、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)でもよい。
なお、本発明に係るポリヌクレオチドは、その5’末端又は3’末端に、タグ標識(タグ配列又はマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドが連結されていてもよい。
本発明に係るポリヌクレオチドを取得する方法としては、PCRを用いる方法が挙げられる。具体的には、上記第903位の塩基が欠失した変異型TSSK2遺伝子を有している人のゲノムDNAを鋳型としてPCRによって得ることもできるし、また、変異を入れたプライマーを用いてPCRを行うことにより、野生型TSSK2遺伝子から得ることもできる。
また、上記ポリヌクレオチドは、組換えベクターに挿入されていてもよい。この組換えベクターは、インビトロ翻訳に用いるベクターであっても組換え発現に用いるベクターであってもよい。
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択できる。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明に係るポリヌクレオチドからヒト変異型TSSK2タンパク質を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明に係るポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
上記発現ベクターは、導入されるべき宿主の種類に応じた発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーター、および/または複製起点等)を含有する。細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、慣用的なプロモーター(例えば、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等)が使用され、酵母用プロモーターとしては、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が挙げられ、糸状菌用プロモーターとしては、例えば、アミラーゼ、trpC等が挙げられる。また動物細胞宿主用プロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)が挙げられる。発現ベクターの作製は、制限酵素および/またはリガーゼ等を用いる慣用的な手法に従って行うことができる。発現ベクターによる宿主の形質転換もまた、慣用的な手法に従って行うことができる。
上記発現ベクターを用いて形質転換された宿主を、培養、栽培または飼育した後、培養物等から慣用的な手法(例えば、濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等)に従って、変異型TSSK2タンパク質を回収・精製することができる。
上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、例えば、本発明に係るポリペプチドを昆虫で発現させる場合には、バキュロウイルスを用いた発現系を用いればよい。
上記組換えベクターを使用すれば、本発明に係るポリヌクレオチドを生物または細胞に導入することができ、結果として当該生物または細胞中に変異型TSSK2タンパク質を発現させることができる。さらに、上記組換えベクターを無細胞タンパク質合成系に用いれば、変異型TSSK2タンパク質を選択的に合成することができる。
また、本発明に係る発現キットは、上述した組換えベクターを含み、かつ、上述した変異型TSSK2タンパク質を細胞に発現させるために用いられるキットである。
上記発現キットには、上記の組換えベクター以外の他の試薬を含んでいてもよい。他の試薬としては、例えば、組換えベクターを宿主細胞に導入するための導入用試薬、その宿主細胞、組換えベクターが宿主細胞内に導入されているかどうかを検定するためのプローブ群などが挙げられるがこれに限定されない。つまり、変異型TSSK2タンパク質の発現実験を、確実かつ簡便にできるように支援する試薬であればどのようなものが含まれていてもよい。本発明に係る発現キットを用いることにより、目的の宿主細胞において、確実に、かつ簡便に、変異型TSSK2タンパク質を発現させることができる。
また、本発明に係るポリペプチドは、上述した本発明に係る第1のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなることを特徴とするものである。
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、配列番号4に示すアミノ酸配列からなるものであってもよい。ただし、本発明に係るポリペプチドは、配列番号4に示すアミノ酸配列に限定されない。本発明に係るポリペプチドには、配列番号4に示されるアミノ酸配列のみならず、配列番号4に示されるアミノ酸配列において一塩基多型により1又は複数のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列のものも含まれる。
本明細書において、「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と同義である。また、本発明に係るポリペプチドは、天然供給源より単離したものであっても、化学合成したものであってもよい。
「単離した」ポリペプチドとは、天然の環境から取り出されたポリペプチドを指す。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生ポリペプチドは、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドと同様に、単離されていると考えられる。本発明に係るポリペプチドは、上述した本発明に係るポリヌクレオチドの利用方法に従って取得することができる。
本発明に係るポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)において組換え技術によって産生された産物を含む。なお、本発明に係るポリペプチドは、組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、グリコシル化されたり、非グリコシル化されたりしたものであってもよい。さらに、本発明に係るポリペプチドは、宿主媒介プロセスの結果として、翻訳開始を示すメチオニン残基が改変されたものであってもよい。
本発明に係るポリヌクレオチド、発現ベクター、又はポリペプチドによれば、ヒトの不妊症患者に見られる欠失変異型TSSK2タンパク質が得られる。従って、ヒトTSSK2遺伝子の第903位の塩基の欠失変異に起因する不妊症の治療を目的とした薬剤及び治療方法を開発する上で、極めて有用なツールを得ることができる。
(2.ヒトHASPIN遺伝子における欠失変異)
HASPINは、”haploid germ cell-specific nuclear protein kinase”の略称であり、本明細書ではこの略称を用いることとする。なお、HASPINは、GSG2(germ cell-specific gene 2; germ cell associated 2)と称されることもある。HASPINタンパク質は、上述したように、半数生殖細胞の核に局在し、減数分裂期の染色体及び紡錘体の機能の制御に関与していると考えられている。
HASPINは、”haploid germ cell-specific nuclear protein kinase”の略称であり、本明細書ではこの略称を用いることとする。なお、HASPINは、GSG2(germ cell-specific gene 2; germ cell associated 2)と称されることもある。HASPINタンパク質は、上述したように、半数生殖細胞の核に局在し、減数分裂期の染色体及び紡錘体の機能の制御に関与していると考えられている。
図4は、ヒトHASPIN遺伝子の構造を示す模式図である。ヒトゲノムプロジェクトによって構築されたヒトゲノムリソースによれば、ヒトHASPIN遺伝子は、イントロンを持たないレトロポゾン様遺伝子であり、ヒト17番染色体短腕(17p13)に位置している。この遺伝子の転写産物は約2.8kbである。
配列番号5は、ジーンバンク(GenBank)にアクセッション番号gi56790918で登録されているヒトHASPIN遺伝子の転写産物の塩基配列の中から、翻訳領域のみを抽出したものである。配列番号5に示すように、HASPIN遺伝子は、2397bpからなる翻訳領域を有している。また、配列番号6は、ヒトHASPINタンパク質の推定アミノ酸配列を示すものである。
本願発明者らは、後述する実施例に示す調査の結果、男性不妊症患者からなる集団の中に、配列番号5に示すヒトHASPIN遺伝子の翻訳領域の第204位のCと第205位のCとの間にアデニン塩基(以下、単に「A」という)が挿入されている患者がいることを見出した。この挿入は、片方のアレルにおいてのみ生じていた。一方、この第204位のCと第205位のCとの間へのAの挿入は、妊孕性が確認されている男性からなる集団では全く見られなかった。
ヒトHASPIN遺伝子に上記の挿入変異が起こると、正常なHASPINタンパク質は発現しない。それゆえ、ヒトHASPIN遺伝子の上記第204位と第205位の間へのAの挿入変異は、たとえ片方のアレルのみに起こっている場合であっても、正常なHASPINタンパク質の翻訳量の低下などに基づき不妊を引き起こす可能性が高いと考えられる。
よって、被験者のHASPIN遺伝子について上記挿入変異の有無を調べ、挿入変異が見つかった場合には、その被験者が不妊症或いは低妊孕性であると考えられる。そして、不妊症或いは低妊孕性であると判定された被験者に対しては、ICSIなどの現存の治療法の適格な選択を提示することができる。
以上のことから、本発明に係る変異検出方法は、翻訳開始コドンをコードするアデニンを第1位の塩基としたときに、ヒトHASPIN遺伝子の第204位の塩基と第205位の塩基との間の挿入変異の有無を検出する工程を含んでいることを特徴とするものである。
また、本発明に係る妊孕性診断キットは、翻訳開始コドンをコードするアデニンを第1位の塩基としたときに、ヒトHASPIN遺伝子の第204位の塩基と第205位の塩基との間の挿入変異の有無を検出する試薬を含んでいることを特徴とするものである。
以下では、(1.ヒトTSSK2遺伝子における欠失変異)の項で述べ、そのまま本項にも適用できる事項については説明を省略する。
上記変異検出方法及び妊孕性診断キットは、ヒトHASPIN遺伝子の第204位の塩基と第205位の塩基との間の挿入変異の有無を検出するものであれば、その態様は特に限定されるものではない。変異検出方法及び妊孕性診断キットは、被験者のHASPIN遺伝子が上記の挿入変異を含んでいることを検出するものであってもよいし、上記の挿入変異を含んでいないことを検出するものであってもよい。
一実施形態において、本発明に係る変異検出方法及び妊孕性診断キットは、ヒトHASPIN遺伝子の上記第204位及び第205位の塩基を含む領域の塩基配列を決定することにより、上記の挿入変異の有無を検出するものであってもよい。塩基配列の決定には、サンガー法やこれを応用した公知の各種手法を用いることができる。
この場合、妊孕性診断キットには、ヒトHASPIN遺伝子の上記第204位及び第205位の塩基を含む領域を増幅させるために、上記第204位及び第205位の塩基を挟むようにして設計されたプライマーの組が含まれることが好ましい。このプライマーの組には、より詳細には、ヒトHASPIN遺伝子の第204位よりも上流の塩基配列を有するプライマーと、ヒトHASPIN遺伝子の第205位よりも下流の塩基配列と相補的な塩基配列を有するプライマーとが含まれる。被験者のゲノムDNAを鋳型として上記のプライマーの組を用いてPCRを行えば、ヒトHASPIN遺伝子の第204位及び第205位の塩基を含む領域がDNAフラグメントとして増幅され、さらに、上記のプライマーの組の一方又は両方のプライマーを用いて塩基配列の決定を行えば、ヒトHASPIN遺伝子の第204位の塩基と第205位の塩基との間に起こる挿入変異の有無を確実かつ簡便に検出することができる。
なお、それぞれのプライマーは、HASPIN遺伝子と同一の塩基配列、或いは相補的な塩基配列を少なくとも10塩基以上有することが好ましく、15塩基以上有することがより好ましく、18塩基以上有することがさらに好ましく、20塩基以上有することが特に好ましい。HASPIN遺伝子と同一の(或いは相補的な)塩基配列の長さを長くすることにより、HASPIN遺伝子の第204位及び第205位の塩基を含む目的の領域のみを確実に増幅させることができる。
また、上記のプライマーの組は、互いのプライマーによって挟まれる領域の長さが5kb以下であることが好ましく、3kb以下であることがより好ましく、2kb以下であることがさらに好ましく、1.5kb以下であることが特に好ましい。互いのプライマーによって挟まれる領域の長さを短くすることによって、上記の第204位及び第205の塩基を含む領域の増幅を効果的に行うことができる。
また、塩基配列の決定に用いるプライマーは、上記の第204位の塩基から2kb以内の位置に設定されることが好ましく、1.5kb以内の位置に設定されることが好ましく、1.0kb以内の位置に設定されることがより好ましく、0.7kb以内の位置に設定されることが特に好ましい。上記の構成により、塩基配列の決定を正確に行うことができる。
さらに、塩基配列の決定に用いるプライマーは、上記の第204位の塩基から20bp以上離れた位置に設定されることが好ましく、30bp以上離れた位置に設定されることがより好ましく、40bp以上離れた位置に設定されることがさらに好ましく、50bp以上離れた位置に設定されることが特に好ましい。また、上記のプライマーの組は、また、ヒトHASPIN遺伝子の上記第204位及び第205位の塩基を含む20bp以上の領域を増幅させるものであることが好ましい。プライマーの近傍は、塩基配列の決定結果が不正確になる傾向にあるが、上記の構成により、塩基配列の決定を正確に行うことができる。
上記のプライマーの組としては、例えば、配列番号11及び配列番号12の塩基配列からなるプライマーの組(図4のPrimer3及びPrimer4)を用いることができるが、本発明に用いることのできるプライマーの塩基配列がこの配列に限定されないことはいうまでもない。HASPIN遺伝子の塩基配列及びその周辺の塩基配列は、当業者であれば上述したヒトゲノムリソースやジーンバンク(GenBank)から容易に入手することができるので、入手した塩基配列を基に、Oligo(登録商標、National Bioscience Inc.)又はGENETYX(ソフトウェア開発)などを用いてプライマーを設計することができる。
一実施形態において、本発明に係る変異検出方法及び妊孕性診断キットは、ヒトHASPIN遺伝子における挿入変異の有無をインベーダー法によって検出するものであってもよい。
本発明に係る妊孕性診断キットがインベーダー法により上記の挿入変異の有無を検出するものである場合、妊孕性診断キットには、インベーダープローブ2、シグナルプローブ3及びフレットプローブ5などが含まれることが好ましい。
挿入変異が有る場合に蛍光が生じるようにする場合、インベーダープローブ2は、配列番号7に示す塩基配列からなる変異型HASPIN遺伝子と相補的な塩基配列を有し、かつ、3’末端の塩基が変異型HASPIN遺伝子の第205位の塩基(野生型HASPIN遺伝子にはない挿入塩基)と対応するように設計される。また、シグナルプローブ3のヌクレオチド3aは、変異型HASPIN遺伝子と相補的な塩基配列を有し、かつ、5’末端の塩基が変異型HASPIN遺伝子の第205位の塩基と対応するように設計される。そして、フレットプローブ5は、上記インベーダープローブ2及び上記シグナルプローブ3が変異型HASPIN遺伝子とハイブリダイズして3重鎖構造が形成された場合にフラップエンドヌクレアーゼ4によって切断されるフラップ遊離体5cを検出できるように設計される。
上記の構成により、被験者のHASPIN遺伝子の第204位と第205位との間にAが挿入されている場合は、オリゴヌクレオチド3aの3’末端とインベーダープローブ2の5’末端とがオーバーラップすることにより3重鎖が形成されて蛍光が生じる。一方、被験者のHASPIN遺伝子が野生型である場合は、プローブの末端部分で3重鎖が形成されないので蛍光が生じない。
また、上記の例では、被験者の有するHASPIN遺伝子が挿入変異型の場合に蛍光が生じる構成としたが、本発明はこれに限定されず、被験者の有するHASPIN遺伝子が野生型の場合に蛍光が生じ、挿入変異型の場合に蛍光が抑制される構成としてもよい。
一実施形態において、本発明に係る変異検出方法及び妊孕性診断キットは、ヒトHASPIN遺伝子における挿入変異の有無をSMMD法によって検出するものであってもよい。
本発明に係る妊孕性診断キットがSMMD法により上記の挿入変異の有無を検出するものである場合、妊孕性診断キットには、特別プライマー12、カウンタープライマー13、変異型プローブ20及び野生型プローブ30などが含まれていることが好ましい。なお、変異型プローブ20及び野生型プローブ30は、何れか一方のみでもよい。
上記特別プライマー12aは、配列番号5に示すヒトHASPIN遺伝子の第205位よりも下流の領域と相補的な塩基配列からなるオリゴマー12aと、タグ12bとからなる。タグ12bは、ヒトHASPIN遺伝子の第205位から、オリゴマー12aがハイブリダイゼーションする部位までの領域と相補的な塩基配列を有しており、オリゴマー12aの5’末端に連結される。カウンタープライマー13は、ヒトHASPIN遺伝子の第205位よりも上流の所定領域と同一の塩基配列からなる。
また、上記変異型プローブ20は、配列番号7に示すヒト変異型HASPIN遺伝子と同一の塩基配列からなり、かつ、変異型HASPIN遺伝子の第205位の塩基が3’末端になるオリゴマーを有するように設計される。また、上記野生型プローブ30は、野生型HASPIN遺伝子と同一の塩基配列からなり、かつ、野生型HASPIN遺伝子の第204位の塩基が3’末端になるオリゴマーを有するように設計される。
上記の構成によれば、被験者のHASPIN遺伝子が挿入型の場合、特別ターゲット15は、変異型プローブ20とは配列がマッチしてライゲーションできるが、野生型プローブ30とは、1塩基分の隙間が生じるためにライゲーションできない。一方、被験者のHASPIN遺伝子が野生型の場合、特別ターゲット15は、野生型プローブ30とライゲーションできるが、変異型プローブ30とは、1塩基分のオーバーラップが生じるためにライゲーションできない。
なお、上記の各方法では、ヒトHASPIN遺伝子のセンス鎖(コドンをコードする側の鎖)を調べることによって挿入変異の有無を判定する構成について詳細に説明したが、アンチセンス鎖を調べることによっても同様に判定することができるのはいうまでもない。
本明細書では、ヒト野生型HASPIN遺伝子の代表的な塩基配列として、配列番号5に示す塩基配列を例示したが、特許請求の範囲に記載の「ヒトHASPIN遺伝子」は、配列番号5に示された塩基配列のみに限定されない。なぜならば、ヒト遺伝子には多くの一塩基多型が存在し、ヒトHASPIN遺伝子においても例外ではないからである。従って、特許請求の範囲に記載のヒトHASPIN遺伝子には、配列番号5に示される塩基配列のみならず、配列番号5に示される塩基配列において一塩基多型により1又は複数の塩基が置換された塩基配列のものも含まれる。このことは、ヒト挿入変異型HASPIN遺伝子についても同様である。
次に、本発明に係るポリヌクレオチドについて説明する。本発明に係るポリヌクレオチドは、翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトHASPIN遺伝子の翻訳領域の塩基配列において第204位の塩基と第205位の塩基との間にアデニン塩基が挿入した塩基配列からなることを特徴とするものである。
一実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、配列番号7に示す塩基配列からなるものであってもよい。ただし、本発明に係るポリヌクレオチドは、配列番号7に示す塩基配列のみに限定されない。本発明に係るポリヌクレオチドには、配列番号7に示される塩基配列のみならず、配列番号7に示される塩基配列において一塩基多型により1又は複数の塩基が置換された塩基配列のものも含まれる。
本発明に係るポリヌクレオチドを取得する方法としては、PCRを用いる方法が挙げられる。具体的には、上記第204位と第205位との間にAが挿入した変異型HASPIN遺伝子を有している人のゲノムDNAを鋳型としてPCRによって得ることもできるし、また、変異を入れたプライマーを用いてPCRを行うことにより、野生型HASPIN遺伝子から得ることもできる。
また、上記ポリヌクレオチドは、組換えベクターに挿入されていてもよい。この組換えベクターは、インビトロ翻訳に用いるベクターであっても組換え発現に用いるベクターであってもよい。
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択できる。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明に係るポリヌクレオチドからヒト変異型HASPINタンパク質を発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明に係るポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
上記発現ベクターを用いて形質転換された宿主を、培養、栽培または飼育した後、培養物等から慣用的な手法(例えば、濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等)に従って、変異型HASPINタンパク質を回収・精製することができる。
上記組換えベクターを使用すれば、本発明に係るポリヌクレオチドを生物または細胞に導入することができ、結果として当該生物または細胞中に変異型HASPINタンパク質を発現させることができる。さらに、上記組換えベクターを無細胞タンパク質合成系に用いれば、変異型HASPINタンパク質を選択的に合成することができる。
また、本発明に係る発現キットは、上述した組換えベクターを含み、かつ、上述した変異型HASPINタンパク質を細胞に発現させるために用いられるキットである。本発明に係る発現キットを用いることにより、目的の宿主細胞において、確実に、かつ簡便に、変異型HASPINタンパク質を発現させることができる。
また、本発明に係るポリペプチドは、上述した本発明に係るポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなることを特徴とするものである。
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、配列番号8に示すアミノ酸配列からなるものであってもよい。ただし、本発明に係るポリペプチドは、配列番号8に示すアミノ酸配列に限定されない。本発明に係るポリペプチドには、配列番号8に示されるアミノ酸配列のみならず、配列番号8に示されるアミノ酸配列において一塩基多型により1又は複数のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列のものも含まれる。
本発明に係るポリヌクレオチド、発現ベクター、又はポリペプチドによれば、ヒトの不妊症患者に見られる挿入変異型HASPINタンパク質が得られる。従って、ヒトHASPIN遺伝子の第204位と第205位との間の塩基の挿入変異に起因する不妊症の治療を目的とした薬剤及び治療方法を研究する上で、極めて有用なツールを得ることができる。
以下に、実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
(3.ヒトTSSK2遺伝子における欠失変異の解析)
(3−1.材料及び方法)
(3−1−a.参加者)
不妊症の日本人男性被験者(N=282)を精子形成の欠損の程度に基づいてサブグループに分割した。これらの不妊症被験者のうち、192人(68%)は非閉塞性無精子症であり、90人(32%)は重症精子過少症(<5×106細胞/mL)であった。遺伝的要因を調べたところ、これらの被験者は何れも原発性特発性不妊症であった(Birmingham A et al. Fertil Steril 2004; 9: 2313-2317)。
(3−1.材料及び方法)
(3−1−a.参加者)
不妊症の日本人男性被験者(N=282)を精子形成の欠損の程度に基づいてサブグループに分割した。これらの不妊症被験者のうち、192人(68%)は非閉塞性無精子症であり、90人(32%)は重症精子過少症(<5×106細胞/mL)であった。遺伝的要因を調べたところ、これらの被験者は何れも原発性特発性不妊症であった(Birmingham A et al. Fertil Steril 2004; 9: 2313-2317)。
一方、妊孕性が確認された男性のコントロールグループ(N=270)として、産婦人科医院にいる妊婦のもとに生まれた子供の父親を選択した。
なお、ドナーは、本研究において血液をゲノムDNAの解析に使用することに同意した。
(3−1−b.PCR増幅DNAのダイレクトシーケンシングによるTSSK2遺伝子の変異の同定)
ゲノムDNAは、プロテアーゼ処理及びフェノール抽出により血液サンプルから単離した(Sambrook J et al., Isolation of DNA from Mammalian Cells. New York: Cold Spring Harbor Press. 1989: pp. 9.16-9.21)。PCRに用いるプライマーの組としては、Primer1及びPrimer2を設計した(図1参照)。Primer1は、TSSK2遺伝子の+662〜+682(翻訳開始点を+1とする)と同一の塩基配列(配列番号9;5’−TCAGGAAGATGCTGCGTATCC−3’)からなる。Primer2は、TSSK2遺伝子の下流領域(TSSK2遺伝子の翻訳開始点を+1とすると+1249〜+1273の領域)と相補的な塩基配列(配列番号10;5’−GGTCAGTAAGGAACGTCTTTGCTGC−3’)からなる。
ゲノムDNAは、プロテアーゼ処理及びフェノール抽出により血液サンプルから単離した(Sambrook J et al., Isolation of DNA from Mammalian Cells. New York: Cold Spring Harbor Press. 1989: pp. 9.16-9.21)。PCRに用いるプライマーの組としては、Primer1及びPrimer2を設計した(図1参照)。Primer1は、TSSK2遺伝子の+662〜+682(翻訳開始点を+1とする)と同一の塩基配列(配列番号9;5’−TCAGGAAGATGCTGCGTATCC−3’)からなる。Primer2は、TSSK2遺伝子の下流領域(TSSK2遺伝子の翻訳開始点を+1とすると+1249〜+1273の領域)と相補的な塩基配列(配列番号10;5’−GGTCAGTAAGGAACGTCTTTGCTGC−3’)からなる。
PCRは以下の条件で行った:98℃で10秒間変性、62℃で30秒間アニーリング、及び72℃で1分間伸長を1サイクルとして、これを35サイクル。PCR増幅フラグメントはSUPREC PCRスピンカラム(タカラバイオ)を用いて精製した。
Primer1及びPrimer2からなるプライマーの組によって増幅したフラグメントに対して、同じPrimer1,Primer2を用いて、それぞれ両端から配列を決定した。このとき、サーマルサイクルシーケンシングキット(アプライドバイオシステムズ)を用いて反応を行い、反応産物をABI−PRISM 310 Genetic Analyzer(アプライドバイオシステムズ)によって解析した。両方向の決定結果を比較し、塩基配列を決定した。
(3−2.結果)
不妊症被験者及び妊孕性確認被験者のそれぞれについて、血液サンプル由来のゲノムDNAを鋳型として、Primer1及びPrimer2からなるプライマーのセットを用いてPCRを行い、PCR増幅DNAのダイレクトシーケンシングを行った。これにより、不妊被験者及び妊孕性確認被験者のTSSK2遺伝子の塩基配列を解析した。
不妊症被験者及び妊孕性確認被験者のそれぞれについて、血液サンプル由来のゲノムDNAを鋳型として、Primer1及びPrimer2からなるプライマーのセットを用いてPCRを行い、PCR増幅DNAのダイレクトシーケンシングを行った。これにより、不妊被験者及び妊孕性確認被験者のTSSK2遺伝子の塩基配列を解析した。
その結果、TSSK2遺伝子の第903位のシトシン塩基が片方のアレルにおいて欠失している被験者が、不妊症被験者の中に1人見出された。この被験者は、無精子症であった。一方、妊孕性確認被験者からは、上記の欠失変異が全く見出されなかった。
配列番号1に示すヒトTSSK2遺伝子の第903位のシトシン塩基が欠失すると、配列番号3に示す塩基配列となり、配列番号2に示すTSSK2タンパク質の第302位以降のアミノ酸が変異する(配列番号4参照)。
TSSK2遺伝子は哺乳類に広く保存されていること、並びに、そのタンパク質が精巣の半数体生殖細胞特異的に発現することから、TSSK2タンパク質の変異は、男性不妊を引き起こす(或いは引き起こしやすい)と考えられる。従って、欠失変異が見出された上記被験者は、正常なTSSK2タンパク質の翻訳量が低減したことにより、無精子症になったものと推測された。
なお、本研究により、上記の欠失変異以外にも様々な一塩基多型がTSSK2遺伝子内見出されたが、これらの一塩基多型は、そのパターンが不妊症被験者と妊孕性確認被験者との間で有意な相違を見せず、特に妊孕性に影響を与えるものとは認められなかった。
(4.ヒトHASPIN遺伝子における欠失変異の解析)
(4−1.材料及び方法)
(4−1−a.参加者)
参加者については、実施例1と同様である。
(4−1.材料及び方法)
(4−1−a.参加者)
参加者については、実施例1と同様である。
(4−1−b.PCR増幅DNAのダイレクトシーケンシングによるTSSK2遺伝子の変異の同定)
PCRに用いるプライマーの組としては、Primer3及びPrimer4を設計した(図4参照)。Primer3は、HASPIN遺伝子の5’非翻訳領域における−30〜−9(翻訳開始点を+1とする)と同一の塩基配列(配列番号11;5’−TGCGTTTGAACCTCTTGGCGGG−3’)からなる。Primer4は、HASPIN遺伝子の+661〜+680と相補的な塩基配列(配列番号12;5’−CCTCCTGTCGCTTCCTCCTG−3’)からなる。
PCRに用いるプライマーの組としては、Primer3及びPrimer4を設計した(図4参照)。Primer3は、HASPIN遺伝子の5’非翻訳領域における−30〜−9(翻訳開始点を+1とする)と同一の塩基配列(配列番号11;5’−TGCGTTTGAACCTCTTGGCGGG−3’)からなる。Primer4は、HASPIN遺伝子の+661〜+680と相補的な塩基配列(配列番号12;5’−CCTCCTGTCGCTTCCTCCTG−3’)からなる。
それ以外については、実施例1と同様である。
(4−2.結果)
不妊症被験者及び妊孕性確認被験者のそれぞれについて、血液サンプル由来のゲノムDNAを鋳型として、Primer3及びPrimer4からなるプライマーのセットを用いてPCRを行い、PCR増幅DNAのダイレクトシーケンシングを行った。これにより、不妊症被験者及び妊孕性確認被験者のHASPIN遺伝子の塩基配列を解析した。
不妊症被験者及び妊孕性確認被験者のそれぞれについて、血液サンプル由来のゲノムDNAを鋳型として、Primer3及びPrimer4からなるプライマーのセットを用いてPCRを行い、PCR増幅DNAのダイレクトシーケンシングを行った。これにより、不妊症被験者及び妊孕性確認被験者のHASPIN遺伝子の塩基配列を解析した。
その結果、片方のアレルにおいてHASPIN遺伝子の第204位のシトシン塩基と第205位のシトシン塩基との間にアデニン塩基が挿入されている被験者が、不妊症被験者の中に1人見出された。この被験者は、無精子症であった。一方、妊孕性確認被験者からは、上記の挿入変異が全く見出されなかった。
配列番号5に示すヒトHASPIN遺伝子の第204位と第205位との間にアデニン塩基が挿入されると、配列番号7に示す塩基配列となり、配列番号6に示すHASPINタンパク質の第69位以降のアミノ酸が変異する(配列番号8参照)。
HASPIN遺伝子は哺乳類に広く保存されていること、並びに、そのタンパク質が精巣の半数体生殖細胞において特に強く発現することから、HASPINタンパク質の変異は、男性不妊を引き起こす(或いは引き起こしやすい)と考えられる。従って、挿入変異が見出された上記被験者は、正常なHASPINタンパク質の翻訳量が低減したことにより、無精子症になったものと推測された。
なお、本研究により、上記の挿入変異以外にも様々な一塩基多型がHASPIN遺伝子内に見出されたが、これらの一塩基多型は、そのパターンが不妊症被験者と妊孕性確認被験者との間で有意な相違を見せず、妊孕性に影響を与えるものとは認められなかった。
本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明に係る妊孕性診断キットは、妊孕可能性の推定及び不妊症の原因の同定に用いることができるので、医療現場において利用可能である。
また、本発明に係るポリヌクレオチド、発現ベクター及びポリペプチドは、上述した遺伝子の変異に基づく不妊症患者において見られる変異型のポリペプチドを提供するものである。従って、この変異型のポリペプチドを利用して研究を行うことにより、有効な薬剤や治療法の確立が期待される。これらのポリヌクレオチド、発現ベクター及びポリペプチドは、研究現場へ販売することができ、十分に産業上利用可能である。また、これらをキット化することにより、産業上の利用可能性は一層向上する。
Claims (16)
- 翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトTSSK2遺伝子の第902位及び第903位のうちの一方の塩基の欠失変異の有無を検出するための試薬を含んでいることを特徴とする妊孕性診断キット。
- 上記試薬は、
ヒトTSSK2遺伝子の上記第902位及び第903位の塩基を含む領域を増幅させるためのプライマーの組と、
上記領域の塩基配列を決定するための塩基配列決定試薬と、
を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の妊孕性診断キット。 - 上記試薬は、上記欠失変異の有無をインベーダー法によって検出するものであることを特徴とする、請求項1に記載の妊孕性診断キット。
- 上記試薬は、上記欠失変異の有無をSMMD法によって検出するものであることを特徴とする、請求項1に記載の妊孕性診断キット。
- 翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトTSSK2遺伝子の翻訳領域の塩基配列において第902位及び第903位のうちの一方の塩基が欠失した塩基配列からなることを特徴とするポリヌクレオチド。
- 請求項5に記載のポリヌクレオチドを有していることを特徴とする発現ベクター。
- 請求項5に記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなることを特徴とするポリペプチド。
- 翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトTSSK2遺伝子の第902位及び第903位のうちの一方の塩基の欠失変異の有無を検出する工程を含んでいることを特徴とする変異検出方法。
- 翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトHASPIN遺伝子の第204位の塩基と第205位の塩基との間の挿入変異の有無を検出するための試薬を含んでいることを特徴とする妊孕性診断キット。
- 上記試薬は、
ヒトHASPIN遺伝子の上記第204位及び第205位の塩基を含む領域を増幅させるためのプライマーの組と、
上記領域の塩基配列を決定するための塩基配列決定試薬と、
を含んでいることを特徴とする請求項9に記載の妊孕性診断キット。 - 上記試薬は、上記欠失変異の有無をインベーダー法によって検出するものであることを特徴とする、請求項9に記載の妊孕性診断キット。
- 上記試薬は、上記欠失変異の有無をSMMD法によって検出するものであることを特徴とする、請求項9に記載の妊孕性診断キット。
- 翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトHASPIN遺伝子の翻訳領域の塩基配列において第204位の塩基と第205位の塩基との間にアデニン塩基が挿入した塩基配列からなることを特徴とするポリヌクレオチド。
- 請求項13に記載のポリヌクレオチドを有していることを特徴とする発現ベクター。
- 請求項13に記載のポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列からなることを特徴とするポリペプチド。
- 翻訳開始コドンをコードするアデニン塩基を第1位の塩基としたときに、ヒトHASPIN遺伝子の第204位の塩基と第205位の塩基との間の挿入変異の有無を検出する工程を含んでいることを特徴とする変異検出方法。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2010106788A1 (ja) | 2009-03-17 | 2010-09-23 | 凸版印刷株式会社 | 妊孕性検査方法、妊孕性検査キット、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、及び抗体 |
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- 2006-09-14 JP JP2006250055A patent/JP2008067649A/ja active Pending
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