JP2008045976A - Pi3キナーゼ阻害剤に対する感受性予測方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ホスファチジルイノシトール3(PI3)キナーゼ阻害剤の感受性を予測するための新規なバイオマーカーを同定し、被験者のPI3キナーゼ阻害剤感受性をin vitroで簡便に予測する方法を提供する。
【解決手段】被験者におけるRibosomal protein P2のリン酸化状態の異なる各分子種の発現量を解析することにより、当該被験者のPI3キナーゼ阻害剤感受性を予測する。
【選択図】図1
【解決手段】被験者におけるRibosomal protein P2のリン酸化状態の異なる各分子種の発現量を解析することにより、当該被験者のPI3キナーゼ阻害剤感受性を予測する。
【選択図】図1
Description
本発明は、Ribosomal Protein P2を指標としたPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性の予測方法に関する。より詳しくは、被験者におけるRibosomal protein P2のリン酸化状態の異なる分子種の各発現量を解析することにより、当該被験者のPI3キナーゼ阻害剤感受性を予測する方法に関する。
がん化学療法の進歩には、より有効な新規抗がん剤スクリーニング系とより正確な効果の評価系の確立が不可欠である。これに対し、発明者らは、これまで種々の臓器がんに由来し抗がん剤感受性の異なる39のヒトがん細胞株を用いた抗がん剤感受性の評価系を樹立し、抗がん剤の効果予測や新規薬剤のスクリーニング等に応用してきた(非特許文献1〜3)。さらに、上記評価系によって樹立した抗がん剤感受性データベースを、ウエスタン法やプロテインチップを利用した低分子域プロテオームによるタンパク質発現解析データと統合することで、新規ながん関連タンパク質の探索を行なってきた(非特許文献4)。そして、その結果として、これまで大腸癌(特許文献1)やがん悪液質(特許文献2)等の特定症状の指標となるタンパク質を同定しているが、特定の薬剤(抗がん剤)に対して、その感受性のマーカーとなるようなタンパク質を同定したことはない。
ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3キナーゼ)は、生体膜に存在するイノシトールリン脂質の3位をリン酸化する酵素で、(1)タンパク質キナーゼ等の活性化を介した核へのシグナル伝達、(2) 抗アポトーシスのシグナル伝達、(3) 細胞骨格の調節を介した、細胞の運動性や形態変化、(4)物質輸送、分泌調節、など生体内で様々な役割を担っている。最近、PI3キナーゼは発がんやがんの生存、増殖、転移などにも重要な役割を果たしていることから(非特許文献5及び6)、抗がん剤の有力な標的としても期待されている(非特許文献7及び8)。
しかしながら、PI3キナーゼ阻害剤については、これに対して感受性を有する細胞内発現タンパク質が報告されていないため、薬剤投与前にその効果を予測することは困難で、有用なバイオマーカーの開発が望まれていた。
本発明の課題は、ホスファチジルイノシトール3(PI3)キナーゼ阻害剤の感受性を予測するための新規なバイオマーカーを同定し、PI3キナーゼ阻害剤の適合性予測を可能にすることにある。
発明者らは、プロテインチップシステムを用いてタンパク質発現データベースを作成し、これを薬剤感受性データベース(前掲)と統合することで、PI3キナーゼ阻害剤のバイオマーカーを探索した。その結果見出された11.6kDaの分子ピークの近傍には、そのリン酸化修飾体と予測される、約80Daずつずれた2つのピーク(それぞれ、11.7kDaと11.8kDa)が観察された。そして、この3つのピークタンパク質のPI3キナーゼ阻害剤感受性を解析して、その感受性は分子のリン酸化状態と相関することを見出した。
ところで、一般に、タンパク質のリン酸化修飾体はイオン化効率が低減するため、質量分析器による測定は比較的に困難とされている。実際、ペプチドサイズ(<5000 m/z)の分子については、リン酸化修飾体での測定報告が幾つかあるものの、タンパク質サイズ(>5000 m/z)の分子については、リン酸化修飾体での測定報告はなかった。また、タンパク質発現と薬剤感受性との相関を解析することで、候補タンパク質を同定する試みはなされてきたものの具体的なタンパクが同定されたことはなく、また今回のようにタンパク質のリン酸化状態が薬剤感受性との相関を見出した例はなかった。
シークエンス解析の結果、前記した11.6kDa分子は、リン酸化されていないribosomal protein P2と同定された。このribosomal protein P2のPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性は、リン酸化状態によってドラスティックに変化し、それゆえ、リン酸化状態の異なる分子種の発現量を総合的に比較解析することで、PI3キナーゼ阻害剤に対する感受性を予測可能であることが示唆された。
すなわち、本発明は、Ribosomal protein P2のリン酸化状態の異なる3つの分子種から選ばれる1又は2以上について、被験者から単離された試料中における前記分子種の発現量を解析することにより、前記被験者のPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法に関する。
前記方法は、たとえば、以下の工程により実施することができる:
1)Ribosomal protein P2のリン酸化状態の異なる3つの分子種から選ばれる1又は2以上について、被験者から単離された検体中における前記各分子種の発現量をそれぞれ測定する;次いで、
2)被験者における前記各分子種の発現量データと、あらかじめ取得された各分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との相関データとを比較解析し、前記被験者のPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性を予測する。
1)Ribosomal protein P2のリン酸化状態の異なる3つの分子種から選ばれる1又は2以上について、被験者から単離された検体中における前記各分子種の発現量をそれぞれ測定する;次いで、
2)被験者における前記各分子種の発現量データと、あらかじめ取得された各分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との相関データとを比較解析し、前記被験者のPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性を予測する。
ここで、PI3キナーゼ阻害剤に対する感受性は、以下の相関関係に基づいて予測される:
1)Ribosomal protein P2のリン酸化されていない分子種あるいは1個リン酸化された分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との間の負の相関関係、
2)Ribosomal protein P2の2個リン酸化された分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との間の正の相関関係。
1)Ribosomal protein P2のリン酸化されていない分子種あるいは1個リン酸化された分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との間の負の相関関係、
2)Ribosomal protein P2の2個リン酸化された分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との間の正の相関関係。
例えば、被験者のPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性は、Ribosomal protein P2発現量に対する、前記リン酸化状態の異なる3つの分子種から選ばれる1又は2以上の発現量の比率に基づいて評価される。
PI3キナーゼ阻害剤感受性予測は、3種の分子種の全ての発現量を総合的に解析してもよいし、相関の強いリン酸化されていない分子種(11.6kDa分子)と、2つリン酸化された分子種(11.8kDa分子)の両方あるいは片方を用いてもよい。特に、相関の強いリン酸化されていない分子種と、2つリン酸化された分子種の2つの発現量を用いて解析を行うことが正確性と効率性の点から好ましい。
各分子種の発現量は、質量分析、あるいは各分子種に特異的な抗体を用いた免疫学的方法によって測定することができる。
本発明の方法において、感受性予測は、あらかじめ取得された各分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との相関データを格納したデータベースを用いたコンピューター解析によって実施することができ、これにより被験者のPI3キナーゼ阻害剤感受性(適合性)を薬剤投与前に簡便に診断することができる。
本発明によれば、ribosomal protein P2、特にリン酸化状態の異なる各分子種の発現量を指標として、PI3キナーゼ阻害剤に対する感受性をin vitroで簡便に予測することができる。これにより、薬剤投与前に当該薬剤に対する患者の適性(感受性)を的確に判断して、安全かつ有効な治療を行なうことができる。PI3キナーゼ阻害剤は抗がん剤としての効果が期待できるため、本発明はがんの治療と診断のための新規なツールとなりうる。
1.Ribosomal protein P2
リボソームは全ての生物に普遍的に存在し、翻訳機構の中心的な役割を担う。ヒト細胞基質の80Sリボソームは、大小2つのサブユニットから構成され、ヒトでは47 遺伝子からコードされる60S大サブユニットと32 遺伝子からコードされる40S小サブユニットからなる。そして、60SサブユニットにはP0, P1, P2 の3種の酸性タンパク質が存在することが知られている。
リボソームは全ての生物に普遍的に存在し、翻訳機構の中心的な役割を担う。ヒト細胞基質の80Sリボソームは、大小2つのサブユニットから構成され、ヒトでは47 遺伝子からコードされる60S大サブユニットと32 遺伝子からコードされる40S小サブユニットからなる。そして、60SサブユニットにはP0, P1, P2 の3種の酸性タンパク質が存在することが知られている。
本発明にかかる、Ribosomal protein P2とは、このリボソーム60Sサブユニットを構成するP2タンパク質であり、115アミノ酸からなる分子量11665Da、pI=4.49の酸性タンパク質である(Vard, et al., J Biol Chem 272 (1997) 20259-20262; Remacha et al., Biochem. Cell Biol. 73 (1995) 959-968)。ちなみに、ヒトのRibosome protein P2の遺伝子はGenBank Accession No.M17887(Human acidic ribosomal phosphoprotein P2 mRNA, complete cds.)として、またそのアミノ酸配列はGenBank Accession No.AAA3647あるいはUniProt Accession No.P05387として登録されている。配列表の配列番号1にヒトRibosome protein P2の塩基配列を、配列番号2にそのアミノ酸配列を示す。
Ribosome protein P2は、哺乳動物では102-Serと105-Serの2箇所がリン酸化修飾部位であり、in vitroにおいてcasein kinase 2(Hasler et al., 1991, J. Biol. Chem. 266, 13815-13820)及びG protein-coupled receptor kinase 2(Freeman et al., 2002, Biochem. 441, 12)によってリン酸化されることが報告されている。そして、リボソームの翻訳活性はこのRibosome protein P2タンパク質のリン酸化修飾によって向上することが報告されている(Freeman et al.,前掲)。
2.Ribosomal protein P2とPI3キナーゼ阻害剤感受性
発明者らは、Ribosomal protein P2の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対するがん細胞の感受性の間には相関関係があることを確認した。さらに、その相関関係は、Ribosomal protein P2のリン酸化状態によって、ドラスティックに変化する。すなわち、リン酸化されていない状態(11.6kDa分子)の場合には強い負の相関関係、1つリン酸化された状態(11.7kDa分子)の場合にはリン酸化されていない状態より弱い負の相関関係、2つリン酸化された状態(11.8kDa分子)の場合には強い正の相関関係を示すことを確認した。
発明者らは、Ribosomal protein P2の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対するがん細胞の感受性の間には相関関係があることを確認した。さらに、その相関関係は、Ribosomal protein P2のリン酸化状態によって、ドラスティックに変化する。すなわち、リン酸化されていない状態(11.6kDa分子)の場合には強い負の相関関係、1つリン酸化された状態(11.7kDa分子)の場合にはリン酸化されていない状態より弱い負の相関関係、2つリン酸化された状態(11.8kDa分子)の場合には強い正の相関関係を示すことを確認した。
さらに、同様の相関関係は、後述するPI3キナーゼ阻害剤であるZSTK474とQuercetinにおいても存在することが確認された。このことは、Ribosomal protein P2のリン酸化状態の異なる分子種の発現量あるいは発現比率が、PI3キナーゼ阻害剤に対するがん細胞の感受性の普遍的な指標となりうることを示唆するものである。
3.PI3キナーゼ阻害剤
すでに記載したように、PI3キナーゼは、発がんやがんの生存、増殖、転移などがんにとって重要な役割を果たすことからがん治療の有力な標的とされており、したがって、PI3キナーゼ阻害剤は、がんの治療薬として期待されている。
すでに記載したように、PI3キナーゼは、発がんやがんの生存、増殖、転移などがんにとって重要な役割を果たすことからがん治療の有力な標的とされており、したがって、PI3キナーゼ阻害剤は、がんの治療薬として期待されている。
現在知られているPI3キナーゼ阻害剤としては、たとえば、Wortmannin、LY294002 [2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one]、ZSTK474 [2-(2-difluoromethylbenzimidazol-1-yl)-4,6-dimorpholino-1,3,5-triazine](Yaguchi et al., J Natl Cancer Inst. 2006 Apr 19;98(8):545-56.)、Quercetin [3,3’,4’,5,7-Pentahydroxyflavone](W.F. Matter, R.F. Brown, C.J. Vlahos, The inhibition of phosphatidylinositol 3-kinase by quercetin and analogs, Biochem Biophys Res Commun 186 (1992) 624-631)等があげられる。
1)Wortmannin
細胞浸透性の真菌代謝産物である。PI3キナーゼの精製調製品及び細胞質画分に対し、選択的、非可逆的かつ強力な細胞浸透性阻害作用を有する。
2)LY294002 [2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one]
天然フラボノイドであるケルセチンのアナログである。PI3キナーゼ阻害効果に加えて、カゼインキナーゼII阻害効果も有する(Vlahos, C.J., Matter, W.F., Hui, K.Y., et al. A specific inhibitor of phosphatidylinositol 3-kinase, 2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one (LY294002). J Biol Chem 269, 5241-5248 (1994))。
細胞浸透性の真菌代謝産物である。PI3キナーゼの精製調製品及び細胞質画分に対し、選択的、非可逆的かつ強力な細胞浸透性阻害作用を有する。
2)LY294002 [2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one]
天然フラボノイドであるケルセチンのアナログである。PI3キナーゼ阻害効果に加えて、カゼインキナーゼII阻害効果も有する(Vlahos, C.J., Matter, W.F., Hui, K.Y., et al. A specific inhibitor of phosphatidylinositol 3-kinase, 2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one (LY294002). J Biol Chem 269, 5241-5248 (1994))。
3)ZSTK474 [2-(2-difluoromethylbenzimidazol-1-yl)-4,6-dimorpholino-1,3,5-triazine]
ZSTK474は、アロマターゼ(アンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素)阻害剤であるトリアジン誘導体として作製された化合物であるが、アロマターゼ阻害剤は全くなく、強いPI3キナーゼ阻害活性を有することが確認された。ZSTK474は既知のPI3K阻害剤LY294002やWortmanninと構造は異なるが、計算機による分子モデル解析からPI3KのATP結合部位へ配位しうることが判明している。ZSTK474は、動物がんモデルにおいて経口投与で強力な抗がん作用を示し、かつ低毒性であるというこれまでのPI3K阻害剤にない特徴をもつため、抗癌剤として開発が進められている(Yaguchi et al., J Natl Cancer Inst. 2006 Apr 19;98(8):545-56.)。
ZSTK474は、アロマターゼ(アンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素)阻害剤であるトリアジン誘導体として作製された化合物であるが、アロマターゼ阻害剤は全くなく、強いPI3キナーゼ阻害活性を有することが確認された。ZSTK474は既知のPI3K阻害剤LY294002やWortmanninと構造は異なるが、計算機による分子モデル解析からPI3KのATP結合部位へ配位しうることが判明している。ZSTK474は、動物がんモデルにおいて経口投与で強力な抗がん作用を示し、かつ低毒性であるというこれまでのPI3K阻害剤にない特徴をもつため、抗癌剤として開発が進められている(Yaguchi et al., J Natl Cancer Inst. 2006 Apr 19;98(8):545-56.)。
4)Quercetin [3,3’,4’,5,7-Pentahydroxyflavone]
PI3キナーゼ(IC50 = 3.8 μM)阻害作用のほか、フォスフォリパーゼA2 (IC50 = 2 μM)の阻害作用を有する。ミトコンドリアATPase,フォスフォジエステラーゼ及びプロテインキナーゼCに対する阻害作用も認められている。
PI3キナーゼ(IC50 = 3.8 μM)阻害作用のほか、フォスフォリパーゼA2 (IC50 = 2 μM)の阻害作用を有する。ミトコンドリアATPase,フォスフォジエステラーゼ及びプロテインキナーゼCに対する阻害作用も認められている。
4.PI3キナーゼ阻害剤感受性の予測(評価)
前項の結果は、試料細胞中のリン酸化状態が異なる3種のRibosomal protein P2分子種の各々の発現量を総合的に解析することにより、当該試料細胞のPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性を予測できることを示す。
前項の結果は、試料細胞中のリン酸化状態が異なる3種のRibosomal protein P2分子種の各々の発現量を総合的に解析することにより、当該試料細胞のPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性を予測できることを示す。
PI3キナーゼ阻害剤感受性予測は、3種の分子種の全ての発現量を総合的に解析してもよいし、相関の強いリン酸化されていない分子種(11.6 kDa分子)と、2つリン酸化された分子種(11.8 kDa分子)の両方あるいは片方を用いてもよい。特に、相関の強いリン酸化されていない分子種(11.6 kDa分子)と、2つリン酸化された分子種(11.8 kDa分子)の2つの発現量を用いて解析を行うことが正確性と効率性の点から好ましい。
具体的には、本発明の感受性予測は、1)Ribosomal protein P2のリン酸化状態の異なる3つの分子種から選ばれる1又は2以上について、被験者から単離された検体中における前記各分子種の発現量をそれぞれ測定し、2)被験者における前記各分子種の発現量データと、あらかじめ取得された各分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との相関データとを比較解析することにより実施される。
4.1 試料の調製
解析に用いる試料としては、被験者から採取した末梢血(血球)、あるいは標的部位の組織細胞等を使用することができる。
解析に用いる試料としては、被験者から採取した末梢血(血球)、あるいは標的部位の組織細胞等を使用することができる。
末梢血を用いる場合、被験者から採取した血液は、抗凝固処理をした後、比重遠心法や免疫磁気ビーズ法などによる分離を行うことで血液中の血球系がん細胞を回収し、その後の検出方法に応じて適宜調製される。質量分析用の試料は、例えば、回収した血球系がん細胞から細胞抽出液を調製して使用する。ELISA/RIA(あるいはこれらの変法)用試料は、例えば、前記細胞抽出液をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈したものを用いる。ウエスタンブロット用(電気泳動用)試料は、例えば、細胞抽出液をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈して、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動用の2−メルカプトエタノールを含むサンプル緩衝液(シグマ社製等)と混合したものを用いる。ドット/スロットブロット用試料は、例えば、回収した細胞抽出液そのもの、又は緩衝液で適宜希釈したものを、ブロッティング装置を使用するなどして、直接メンブレンへ吸着させたものを用いる。
試料として標的部位の組織細胞を使用する場合は、採取した組織細胞から細胞抽出液を調製して使用する。たとえば、採取した組織細胞を細胞破砕液で溶解し、遠心後の上清(細胞質・膜分画)に、尿素, CHAPS, DTT等を添加して、タンパク質を変性させて細胞抽出液を調製する。
4.2 Ribosomal protein P2の発現量の解析
本発明の方法では、Ribosomal protein P2のリン酸化状態が異なる3つの分子種から選ばれる1又は2以上の分子種の発現量を測定する。この場合、少なくとも薬剤感受性に対して負の相関を示す2つの分子種と、正の相関を示す1つの分子種については、区別して測定しなければならない。
本発明の方法では、Ribosomal protein P2のリン酸化状態が異なる3つの分子種から選ばれる1又は2以上の分子種の発現量を測定する。この場合、少なくとも薬剤感受性に対して負の相関を示す2つの分子種と、正の相関を示す1つの分子種については、区別して測定しなければならない。
よって、各分子種を質量差によって分離可能な質量分析を用いて、その発現量を定量するか、あるいはリン酸化状態の違いを区別可能な各分子種特異的抗体を用いて、その発現量を免疫学的に定量する。
(1)質量分析による解析
Ribosomal protein P2は酸性タンパク質であるため、前記のようにして調製した血清あるいは細胞抽出液は、適宜希釈した後、まず陰イオン交換クロマトグラフィーにかけてその吸着画分を集める。陰イオン交換体は、強陰イオン交換体(例えばQuaternary ammonium (Q)、Quaternary aminoethyl(QAE)等)、及び弱陰イオン交換体(例えばDiethylaminoethyl(DEAE)等)に分類されるが、本発明の解析方法にはいずれを用いてもよい。より好ましくは強陰イオン交換体を用いる。使用するバッファーのpHは、目的タンパク質であるRibosomal protein P2のpI値と特性(安定性)によって適宜決定され、本発明の場合はpH5〜8程度が好ましい。溶出バッファーの塩濃度勾配は、目的タンパク質の溶出するイオン強度に応じて決定され、本発明では、たとえば180±50〜380±50mM程度のNaCl濃度勾配を用いることができる。吸着画分は、必要に応じて、さらに逆相クロマトグラフィーにかけて精製した後、質量分析器にかけ、11.6 kDa、11.7 kDa、11.8 kDaのピークを定量する。
Ribosomal protein P2は酸性タンパク質であるため、前記のようにして調製した血清あるいは細胞抽出液は、適宜希釈した後、まず陰イオン交換クロマトグラフィーにかけてその吸着画分を集める。陰イオン交換体は、強陰イオン交換体(例えばQuaternary ammonium (Q)、Quaternary aminoethyl(QAE)等)、及び弱陰イオン交換体(例えばDiethylaminoethyl(DEAE)等)に分類されるが、本発明の解析方法にはいずれを用いてもよい。より好ましくは強陰イオン交換体を用いる。使用するバッファーのpHは、目的タンパク質であるRibosomal protein P2のpI値と特性(安定性)によって適宜決定され、本発明の場合はpH5〜8程度が好ましい。溶出バッファーの塩濃度勾配は、目的タンパク質の溶出するイオン強度に応じて決定され、本発明では、たとえば180±50〜380±50mM程度のNaCl濃度勾配を用いることができる。吸着画分は、必要に応じて、さらに逆相クロマトグラフィーにかけて精製した後、質量分析器にかけ、11.6 kDa、11.7 kDa、11.8 kDaのピークを定量する。
(2)免疫学的方法による解析
Ribosomal protein P2各分子種の発現量は、抗原抗体反応を利用した免疫学的方法を用いて検出することもできる。ここで「発現量」とは当該蛋白質の量に限定されず、これを間接的に示す力価(抗体価等)も含む。
Ribosomal protein P2各分子種の発現量は、抗原抗体反応を利用した免疫学的方法を用いて検出することもできる。ここで「発現量」とは当該蛋白質の量に限定されず、これを間接的に示す力価(抗体価等)も含む。
免疫学的方法としては、たとえば、免疫沈降法や、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、及びRIA法を含む固相免疫法あるいはこれらに改変を加えた公知の変法等を挙げることができる。
検出に用いられる抗体は、公知の方法にしたがって調製できる。抗体は、常法により、抗原となるRibosomal protein P2各分子種、あるいはその断片を用いて動物を免疫し、該動物生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature 256, 495-497, 1975、Kennet, R. ed., Monoclonal Antibody p.365-367, 1980, Prenum Press, N.Y.)にしたがって、特異的抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、これよりモノクローナル抗体を得てもよい。
抗体作製用の抗原は、リン酸付加状態の相違を反映するRibosomal protein P2各分子種の部分断片(エピトープ)、あるいはこれらに任意のアミノ酸配列や担体(例えば、N末端付加するキーホールリンペットヘモシアニン)が付加された誘導体を挙げることができる。前記抗原ポリペプチドは、遺伝子操作によって産生させたポリペプチドを適宜リン酸化して得てもよい。
抗体は、それを直接標識するか、又は該抗体を一次抗体とし、該一次抗体を特異的に認識する(抗体を作製した動物由来の抗体を認識する)標識二次抗体と協同で検出に用いられる。
前記標識の種類として好ましいものは、酵素(アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼ)又はビオチン(ただし二次抗体のビオチンにさらに酵素標識ストレプトアビジンを結合させる操作が加わる)であるが、これらに限定されない。標識二次抗体(又は標識ストレプトアビジン)としては、予め標識された抗体(又はストレプトアビジン)が、各種市販されている。なお、RIAの場合は125I等の放射性同位元素で標識された抗体を用い、測定は液体シンチレーションカウンター等を用いて行う。
これら標識された酵素の活性を検出することにより、抗原の発現量が測定される。アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼで標識する場合、これら酵素の触媒により発色する基質や発光する基質が市販されている。
発色する基質を用いた場合、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法を利用すれば、目視で検出できる。ELISA法では、市販のマイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度(測定波長は基質により異なる)を測定し、定量することが好ましい。また上述の抗体作製に使用した抗原の希釈系列を調製し、これを標準抗原試料として他の試料と同時に検出操作を行い、標準抗原濃度と測定値をプロットした標準曲線を作成することにより、他の試料中の抗原濃度を定量することも可能である。
一方、発光する基質を使用した場合は、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法においては、X線フィルム又はイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーや、インスタントカメラを用いた写真撮影により検出することができる。また、デンシトメトリーやモレキュラー・イメージャーFxシステム(バイオラッド社製)等を利用した定量も可能である。さらに、ELISA法で発光基質を用いる場合は、発光マイクロプレートリーダー(例えば、バイオラッド社製等)を用いて酵素活性を測定する。
4.3 評価(PI3キナーゼ阻害剤に対する感受性予測)
評価(PI3キナーゼ阻害剤に対する感受性予測)は、試料中に含まれるRibosomal protein P2各分子種の発現量データを、あらかじめ取得された各分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との相関データと比較解析することで行う。
評価(PI3キナーゼ阻害剤に対する感受性予測)は、試料中に含まれるRibosomal protein P2各分子種の発現量データを、あらかじめ取得された各分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との相関データと比較解析することで行う。
Ribosomal protein P2各分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性の間には、以下の相関関係が存在する:
1)Ribosomal protein P2のリン酸化されていない分子種あるいは1個リン酸化された分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との間の負の相関関係、
2)Ribosomal protein P2の2個リン酸化された分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との間の正の相関関係。
1)Ribosomal protein P2のリン酸化されていない分子種あるいは1個リン酸化された分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との間の負の相関関係、
2)Ribosomal protein P2の2個リン酸化された分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との間の正の相関関係。
前述のとおり、評価は3種の分子種の全ての発現量を総合的に解析して行ってもよいし、相関の強いリン酸化されていない分子種(11.6kDa分子)と、2つリン酸化された分子種(11.8kDa分子)の両方あるいは片方を用いてもよい。特に、11.6kDa分子と11.8kDa分子の2つの発現量を用いて解析を行うことが正確性と効率性の点から好ましい。例えば、Ribosomal protein P2発現量に対する、リン酸化状態の異なる分子種リン酸化の発現量の比率(特に11.6kDa分子と11.8kDa分子の2つの発現量の比率)を算出し、この比率に基づいて評価を行なうことができる。
データの解析方法は、上記のような単純な比率計算でもよいし、クラスタ解析、サポートベクターマシン等の機械学習のアルゴリズム等、当該技術分野で知られた任意の解析方法を用いてもよい。例えば、あらかじめ取得された各分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との相関データをデータベースに蓄えておけば、当該データベースからこれらのデータを取り出して測定された被験者のデータとコンピューターを用いて比較解析するだけで、被験者のPI3キナーゼ阻害剤感受性をいつでも簡便に評価することができる。
さらにデータベースには、他のマーカーの発現量や背景情報(対象者の性別、年齢、各種検査値等)も蓄積しておき、これらのデータもあわせて解析すれば、より実用的かつ正確な予測が可能となる。
5.診断用キット
本発明の方法で用いられる、各種試薬(抗体、バッファー、標識試薬等)、器具(クロマトグラフィー等)等は、PI3キナーゼ阻害剤に対する感受性予測(適合性診断)のためのキットとして、医療機関等に供することが可能である。
本発明の方法で用いられる、各種試薬(抗体、バッファー、標識試薬等)、器具(クロマトグラフィー等)等は、PI3キナーゼ阻害剤に対する感受性予測(適合性診断)のためのキットとして、医療機関等に供することが可能である。
プロテインチップシステム(Ciphergen Biosystems, Inc.)を使用して、以下に示すヒトがん細胞株パネル(Yamori, T. et al.; Cancer Res. 59, 4042-4049, 1999)の9臓器、計39株に由来するタンパク質の発現解析を行い、データベースを作成した後、既に作成された同じヒトがん細胞株パネルにおける薬剤感受性のデータベース(Yamori, T. et al.; Cancer Res. 59, 4042-4049, 1999; Dan, S. et al.; Cancer Res. 62, 1139-1147, 2002)と統合し、PI3キナーゼ(PI3K)阻害剤に対する感受性と相関するタンパク質を探索した。
ヒトがん細胞株パネル(39株)
乳癌:HBC-4、BSY-1、HBC-5、MCF-7、MDA-MB231、
神経腫:U251、SF-268、SF-295、SF-539、SNB-75、SNB-78、
大腸癌:HCC2998、KM-12、HT-29、HCT-115、HCT-116、
肺癌:NCI-H23、NCI-H226、NCI-H522、NCI-H460、A549、DMS273、DMS114、
メラノーマ:LOX-IMVI、
卵巣癌:OVCAR-3、OVCAR-4、OVCAR-5、OVCAR-8、SK-OV-3、
腎臓癌:RXF-631L、ACHN、
胃癌:St-4、MKN1、MKN7、MKN28、MKN45、MKN74、
前立腺癌:DU-145、PC-3
乳癌:HBC-4、BSY-1、HBC-5、MCF-7、MDA-MB231、
神経腫:U251、SF-268、SF-295、SF-539、SNB-75、SNB-78、
大腸癌:HCC2998、KM-12、HT-29、HCT-115、HCT-116、
肺癌:NCI-H23、NCI-H226、NCI-H522、NCI-H460、A549、DMS273、DMS114、
メラノーマ:LOX-IMVI、
卵巣癌:OVCAR-3、OVCAR-4、OVCAR-5、OVCAR-8、SK-OV-3、
腎臓癌:RXF-631L、ACHN、
胃癌:St-4、MKN1、MKN7、MKN28、MKN45、MKN74、
前立腺癌:DU-145、PC-3
(1)タンパク質発現データベースの作成
ヒトがん細胞株39種を播種して37℃で48時間インキュベーションした後に回収し、0.5%のNP-40と脱リン酸化酵素阻害剤(オルトバナジン酸、NaF, ピロリン酸)を含む細胞破砕液で溶解した。遠心後の上清(細胞質・膜分画)に、尿素, CHAPS, DTTを添加して、タンパク質を変性させた。この変性タンパク質溶液は最終濃度0.5 mg/mlとなるように、下記の異なるバッファーで等量希釈した。プロテインチップシステム用の3種類のチップ(陰イオン交換チップQ10、陽イオン交換チップCM10、金属修飾チップIMAC30-Ni)を、5つの異なるバッファー条件(Q10はHEPES-NaOH, pH 8.0とsodium acetate, pH 5.0、CM10はsodium phosphate, pH7.0とsodium acetate, pH 4.0、IMAC30はPBS)で平衡化した後、その変性タンパク質をチップ表面に吸着させた。チップは、各々の平衡化バッファーで洗浄、純水によるリンス後、乾燥させた。マトリックスとしてシナピン酸とCHCAの2種類使用し、吸着タンパク質の質量分析を行った。そして、マス測定で得られるシグナルピークをラベルし、各ピークについての質量とピークの高さをデータベース化した。この中から、S/N比が10以上になるピークとして、393個を選別した。
ヒトがん細胞株39種を播種して37℃で48時間インキュベーションした後に回収し、0.5%のNP-40と脱リン酸化酵素阻害剤(オルトバナジン酸、NaF, ピロリン酸)を含む細胞破砕液で溶解した。遠心後の上清(細胞質・膜分画)に、尿素, CHAPS, DTTを添加して、タンパク質を変性させた。この変性タンパク質溶液は最終濃度0.5 mg/mlとなるように、下記の異なるバッファーで等量希釈した。プロテインチップシステム用の3種類のチップ(陰イオン交換チップQ10、陽イオン交換チップCM10、金属修飾チップIMAC30-Ni)を、5つの異なるバッファー条件(Q10はHEPES-NaOH, pH 8.0とsodium acetate, pH 5.0、CM10はsodium phosphate, pH7.0とsodium acetate, pH 4.0、IMAC30はPBS)で平衡化した後、その変性タンパク質をチップ表面に吸着させた。チップは、各々の平衡化バッファーで洗浄、純水によるリンス後、乾燥させた。マトリックスとしてシナピン酸とCHCAの2種類使用し、吸着タンパク質の質量分析を行った。そして、マス測定で得られるシグナルピークをラベルし、各ピークについての質量とピークの高さをデータベース化した。この中から、S/N比が10以上になるピークとして、393個を選別した。
(2)相関解析
既に作成済みの、ヒト癌細胞株パネルにおけるPI3K阻害剤の感受性データベース(前掲)とこのタンパク質発現データベースとを統合化し、PI3K阻害剤感受性と相関するようなタンパク質をスクリーニングした。その結果、PI3K阻害剤の1つであるLY294002(Vlahos, C.J., Matter, W.F., Hui, K.Y., et al. A specific inhibitor of phosphatidylinositol 3-kinase, 2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one (LY294002). J Biol Chem 269, 5241-5248 (1994))に対して相関の高かった分子のトップ10を表1に示した。
既に作成済みの、ヒト癌細胞株パネルにおけるPI3K阻害剤の感受性データベース(前掲)とこのタンパク質発現データベースとを統合化し、PI3K阻害剤感受性と相関するようなタンパク質をスクリーニングした。その結果、PI3K阻害剤の1つであるLY294002(Vlahos, C.J., Matter, W.F., Hui, K.Y., et al. A specific inhibitor of phosphatidylinositol 3-kinase, 2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one (LY294002). J Biol Chem 269, 5241-5248 (1994))に対して相関の高かった分子のトップ10を表1に示した。
表1中で、トップ1として挙げられた11.6 kDa分子ピークは高い負の相関を示していた。この11.6 kDa分子ピークの近傍には+80 Daずつずれた2つのピーク(11.7, 11.8 kDa)がマスデータにおいて観察され(図1-B)、リン酸化修飾を受けていることが予測された。さらに興味深いことに、11.8 kDa分子のピークは、11.6 kDa分子ピークの場合とは逆に、PI3K阻害剤感受性に対して正の相関を示していることが確認された(図1-A:上段はLY294002、下段はZSTK474に対する感受性)。
同様の相関関係は、別なPI3K阻害剤であるQuercetinについても確認された(data not shown)。
(3)リン酸化タンパク質解析
11.7, 11.8 kDa分子が11.6 kDa分子のリン酸化修飾体であるかを調べるために、細胞抽出液に脱リン酸化酵素(λ-phosphatase)を添加処理した。処理したサンプルは、Q10チップ上で吸着・洗浄し、質量分析器にかけた(図2)。その結果、11.7, 11.8 kDa分子のピークは、脱リン酸化酵素処理により消失したが(図2-B)、一方、脱リン酸化酵素阻害剤(オルトバナジン酸、NaF、ピロリン酸)をさらに添加した場合はそれらのピーク消失は抑えられた(図2-C)。このことから、11.7, 11.8 kDa分子は、11.6 kDa分子のリン酸化修飾体であることが示唆された。
11.7, 11.8 kDa分子が11.6 kDa分子のリン酸化修飾体であるかを調べるために、細胞抽出液に脱リン酸化酵素(λ-phosphatase)を添加処理した。処理したサンプルは、Q10チップ上で吸着・洗浄し、質量分析器にかけた(図2)。その結果、11.7, 11.8 kDa分子のピークは、脱リン酸化酵素処理により消失したが(図2-B)、一方、脱リン酸化酵素阻害剤(オルトバナジン酸、NaF、ピロリン酸)をさらに添加した場合はそれらのピーク消失は抑えられた(図2-C)。このことから、11.7, 11.8 kDa分子は、11.6 kDa分子のリン酸化修飾体であることが示唆された。
(4)バイオマーカー候補タンパク質の精製と同定
まず、大量培養したがん細胞株の1つ(MKN-1)を0.5%のNP-40と脱リン酸化酵素阻害剤(1 mM オルトバナジン酸、25 mM NaF, 15 mM ピロリン酸)を含む細胞破砕液で溶解した。遠心後の上清(細胞質・膜分画)に、尿素, CHAPS, DTTを添加して、タンパク質を変性させた。この細胞抽出液は等量のバッファー(HEPES-NaOH, pH 8.0)で希釈し、同バッファーで平衡化させたQ-セファロース カラムに供した。カラムに吸着した標的分子は、180〜380 mMのNaCl濃度勾配をかけて溶出させた(図3-A)。溶出した画分はさらに、逆相クロマトグラフィーカラムに供して、36%〜40%のアセトニトリル濃度勾配で標的分子含有の画分を回収した。精製過程の画分中の標的分子は、随時、プロテインチップNP20(Ciphergen Biosystems, Inc.)を使用して質量分析器で観察した。3つの分子(11.6, 11.7, 11.8 kDa)を含む精製画分は、下記のタンパク質同定作業のタンパク質分解酵素消化の際の障害とならないように、リン酸化修飾部分を除外する目的で、さらに上記と同様な脱リン酸化酵素処理を行い、11.6 kDaのみを含む分子として回収し(図3-B)、電気泳動後のゲル上では単一バンドとして精製できたことを確認できた(図3-C)。
まず、大量培養したがん細胞株の1つ(MKN-1)を0.5%のNP-40と脱リン酸化酵素阻害剤(1 mM オルトバナジン酸、25 mM NaF, 15 mM ピロリン酸)を含む細胞破砕液で溶解した。遠心後の上清(細胞質・膜分画)に、尿素, CHAPS, DTTを添加して、タンパク質を変性させた。この細胞抽出液は等量のバッファー(HEPES-NaOH, pH 8.0)で希釈し、同バッファーで平衡化させたQ-セファロース カラムに供した。カラムに吸着した標的分子は、180〜380 mMのNaCl濃度勾配をかけて溶出させた(図3-A)。溶出した画分はさらに、逆相クロマトグラフィーカラムに供して、36%〜40%のアセトニトリル濃度勾配で標的分子含有の画分を回収した。精製過程の画分中の標的分子は、随時、プロテインチップNP20(Ciphergen Biosystems, Inc.)を使用して質量分析器で観察した。3つの分子(11.6, 11.7, 11.8 kDa)を含む精製画分は、下記のタンパク質同定作業のタンパク質分解酵素消化の際の障害とならないように、リン酸化修飾部分を除外する目的で、さらに上記と同様な脱リン酸化酵素処理を行い、11.6 kDaのみを含む分子として回収し(図3-B)、電気泳動後のゲル上では単一バンドとして精製できたことを確認できた(図3-C)。
(5)タンパク質同定
電気泳動によりゲル上で分離された標的タンパク質(11.6 kDa)を切り出し、公知の方法に従って、タンパク質のゲル内トリプシン消化及びV8プロテアーゼ消化の2通り行い、プロテインチップシステムにより測定した(図4)。この結果を用いて、データベース(Mascot)検索によりペプチドマッピングをした(図5〜6)。また、ペプチドマッピング解析で利用したペプチド断片のうち、1417.64 m/zの断片をさらに、ProteinChip TandemMS (QSTAR) Interface (Ciphergen BioSystems, Inc.)を搭載したAPI QSTAR Pulsar I (ABI/MDS Sciex)を使用して、シークエンス解析を行った(図7-A及び7-B)。
電気泳動によりゲル上で分離された標的タンパク質(11.6 kDa)を切り出し、公知の方法に従って、タンパク質のゲル内トリプシン消化及びV8プロテアーゼ消化の2通り行い、プロテインチップシステムにより測定した(図4)。この結果を用いて、データベース(Mascot)検索によりペプチドマッピングをした(図5〜6)。また、ペプチドマッピング解析で利用したペプチド断片のうち、1417.64 m/zの断片をさらに、ProteinChip TandemMS (QSTAR) Interface (Ciphergen BioSystems, Inc.)を搭載したAPI QSTAR Pulsar I (ABI/MDS Sciex)を使用して、シークエンス解析を行った(図7-A及び7-B)。
2通りのペプチドマッピング解析及びシークエンス解析のいずれの結果からも、PI3K阻害剤感受性に対して相関を示していた11.6 kDa分子は、ribosomal protein P2として同定された。このribosomal protein P2は、予測したとおり2箇所の部位でリン酸化修飾を受けることが報告されていた(Freeman et al.,前掲)。
(6)バイオマーカーとしての利用の可能性
以上の結果から、ribosomal protein P2は、そのリン酸化状態によって、PI3K阻害剤に対する感受性を予測できるバイオマーカーとなりうることが示唆された。具体的には、ribosomal protein P2がリン酸化修飾を2箇所受けると高感受性を、修飾を受けないと低感受性をPI3K阻害剤に対して示すことが示唆された。
以上の結果から、ribosomal protein P2は、そのリン酸化状態によって、PI3K阻害剤に対する感受性を予測できるバイオマーカーとなりうることが示唆された。具体的には、ribosomal protein P2がリン酸化修飾を2箇所受けると高感受性を、修飾を受けないと低感受性をPI3K阻害剤に対して示すことが示唆された。
本発明は、ribosomal protein P2のリン酸化状態を指標とすることにより、PI3キナーゼ阻害剤に対する感受性をin vitroで簡便に予測する方法を提供する。これにより、薬剤投与前に患者の適性を判断して、より有効な治療を行なうことができる。PI3キナーゼ阻害剤は抗がん剤としての効果が期待でき、したがって、本発明はがんの治療と診断のための新規なツールとして利用できる。
Claims (8)
- Ribosomal protein P2のリン酸化状態の異なる3つの分子種から選ばれる1又は2以上について、被験者から単離された試料中における前記分子種の発現量を解析することにより、前記被験者のPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性を予測する方法。
- 以下の工程を含む、請求項1に記載の方法:
1)Ribosomal protein P2のリン酸化状態の異なる3つの分子種から選ばれる1又は2以上について、被験者から単離された検体中における前記各分子種の発現量をそれぞれ測定する;
2)被験者における前記各分子種の発現量データと、あらかじめ取得された各分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との相関データとを比較解析し、前記被験者のPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性を予測する。 - 被験者のPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性を、以下の相関関係に基づいて予測することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法:
1)Ribosomal protein P2のリン酸化されていない分子種あるいは1個リン酸化された分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との間の負の相関関係、
2)Ribosomal protein P2の2個リン酸化された分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との間の正の相関関係。 - Ribosomal protein P2発現量に対する、リン酸化状態の異なる3つの分子種から選ばれる1又は2以上の発現量の比率に基づいて、前記被験者のPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性を予測することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
- Ribosomal protein P2のリン酸化されていない分子種とリン酸が2個付加した分子種の2種の発現量又は発現量の比率を解析することにより、前記被験者のPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性を予測することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- 前記各分子種の発現量が質量分析によって測定される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
- 前記各分子種の発現量が各分子種に特異的な抗体を用いた免疫学的方法によって測定される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
- 前記比較解析が、あらかじめ取得された各分子種の発現量とPI3キナーゼ阻害剤に対する感受性との相関データを格納したデータベースを参照するコンピューター解析によって行われることを特徴とする請求項2に記載の方法。
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---|---|---|---|
JP2006221146A JP2008045976A (ja) | 2006-08-14 | 2006-08-14 | Pi3キナーゼ阻害剤に対する感受性予測方法 |
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JP2011523031A (ja) * | 2008-03-31 | 2011-08-04 | ボストン メディカル センター コーポレーション | トポイソメラーゼi阻害剤のための予測マーカー |
JP2013528787A (ja) * | 2010-04-16 | 2013-07-11 | ジェネンテック, インコーポレイテッド | Pi3k/aktキナーゼ経路インヒビターの効果の予測バイオマーカーとしてのfox03a |
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-
2006
- 2006-08-14 JP JP2006221146A patent/JP2008045976A/ja active Pending
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US9644036B2 (en) | 2008-03-31 | 2017-05-09 | Boston Medical Center Corporation | Predictive marker for topoisomerase I inhibitors |
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