JP2008011717A - 塩水逆移動式灌漑装置 - Google Patents

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晋一 高見
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Abstract

【課題】低廉、簡便に製造できるとともに、環境負荷が極めて小さい省資源、省エネルギー的技術を用いた灌漑装置を提供すること及び植物の水要求(蒸散)量に応じた給水を実現することにより、水利用効率を著しく向上させる灌漑装置を提供すること。詳細には、太陽エネルギーで促される植物の蒸散及び該植物が生育する土壌や固形培地内の水分の蒸発によって生じる吸引圧による水の逆移動を利用して、塩水の淡水化を可能とする灌漑装置を提供すること。
【解決手段】塩水に接する取込部と、前記取込部より取り込まれた水を導く導水体と、前記導水体から水を吸収する植物を含むとともにイオン交換手段を備える塩水逆移動式灌漑装置であって、前記イオン交換手段は、前記塩水が前記植物に至るまでに通過するように配されるイオン交換層及び/又は膜であって、前記導水体の吸引圧による塩水の逆移動とイオン交換手段によって、塩水が淡水化されることを特徴とする塩水逆移動式灌漑装置とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、塩水を淡水化できる塩水逆移動式灌漑装置に関する。詳細には、塩水に接する取込部と、前記取込部より取り込まれた水を導く導水体と、前記導水体から水を吸収する植物を含み、イオン交換手段と導水体の吸引圧による塩水の逆移動によって、塩水が淡水化された後、その水分を植物に供給する装置である。この塩水の逆移動は、植物の蒸散及び該植物が生育する土壌や固形培地内の水分の蒸発によって生じる導水体の吸引圧を利用したものである。
現在、アジア、アフリカ諸国における人口の急激な増加と発展途上国の工業化によって、世界各地で水不足が深刻化している。農業部門における水利用は全体の70%近くを占めることから、水資源逼迫の影響はとりわけ農業部門で大きい。このような水資源の危機的状況に鑑み、環境負荷を抑えながら、農業生産に必要な水を安価に確保するための方法の一つとして、塩分濃度の高い地下水や海水を農業に用いる方法が挙げられる。
前記塩分濃度の高い地下水や海水は多量の塩分を含むため、これら塩水を灌漑水として使用する場合、従来は、(1)適当な装置により塩水を淡水化し、その淡水を耕地へ輸送し供給する方法、又は(2)塩水を対象作物の耐塩性に応じて塩分濃度を調整した後、灌漑する方法のいずれかが採用されてきた。例えば、特許文献1には、ゼオライト処理および陰イオン交換樹脂処理もしくはキトサン処理を行うことにより、海水から農業用水を製造するための方法が開示されている。
上記(1)と(2)の方法、及び特許文献1の方法は、灌漑前に塩水の淡水化処理、及びその後の水輸送、又は塩分濃度を低下させるための希釈を行わなければならない。即ち、いずれの方法も、造水および水輸送のコストがかさむため、灌漑対象が商品価値の高い作物や庭園植栽に限られ、耕地作物用としてはほとんど使用されていないというのが現状である。
特開平11−209191号公報
本発明の塩水逆移動式灌漑装置は、上記問題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明の課題は、本発明の灌漑装置が低廉、簡便に製造できるとともに、環境負荷が極めて小さい省資源、省エネルギー的技術を用いた灌漑装置を提供することにある。詳細には、太陽エネルギーで促される植物の蒸散及び該植物が生育する土壌や固形培地内の水分の蒸発によって生じる吸引圧による水の逆移動を利用して、塩水の淡水化を可能とする灌漑装置を提供することにある。
本発明のさらなる課題は、植物の水要求(蒸散)量に応じた給水を実現することにより、水利用効率を著しく向上させる灌漑装置を提供することにある。
請求項1に係る発明は、塩水に接する取込部と、前記取込部より取り込まれた水を導く導水体と、前記導水体から水を吸収する植物を含むとともにイオン交換手段を備える塩水逆移動式灌漑装置であって、前記イオン交換手段は、前記塩水が前記植物に至るまでに通過するように配されるイオン交換層及び/又は膜であって、前記導水体の吸引圧による塩水の逆移動とイオン交換手段によって、塩水が淡水化されることを特徴とする塩水逆移動式灌漑装置に関する。
請求項2に係る発明は、前記導水体が植木鉢等の容器に収容された土壌からなり、前記取込部が該容器の開口部であって、前記土壌に前記イオン交換層及び/又は膜を含むことを特徴とする請求項1に記載の塩水逆移動式灌漑装置に関する。
請求項3に係る発明は、前記導水体が植木鉢等の容器に収容された土壌からなり、前記取込部が、該容器の開口部を前記イオン交換膜で被覆することにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の塩水逆移動式灌漑装置に関する。
請求項4に係る発明は、前記導水体がロックウール等の固形培地からなり、前記取込部が該固形培地と塩水が接する面であって、前記固形培地に前記イオン交換層及び/又は膜を含むことを特徴とする請求項1に記載の塩水逆移動式灌漑装置に関する。
請求項5に係る発明は、前記導水体がロックウール等の固形培地からなり、前記取込部が、該固形培地の表面を前記イオン交換膜で被覆することにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の塩水逆移動式灌漑装置に関する。
請求項6に係る発明は、前記導水体が地表面に畝を形成している土壌からなり、前記取込部が、該畝に沿って引かれた溝型部材又はパイプ表面の開口部であって、前記土壌に前記イオン交換層及び/又は膜を含むことを特徴とする請求項1に記載の塩水逆移動式灌漑装置に関する。
請求項7に係る発明は、前記導水体が地表面に畝を形成している土壌からなり、前記取込部が、該畝に沿って引かれた溝型部材又はパイプ表面の開口部を前記イオン交換膜で被覆することにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の塩水逆移動式灌漑装置に関する。
請求項8に係る発明は、前記導水体が、塩水を貯留した区画内に浸漬され、少なくとも前記取込部において塩水と接していることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の塩水逆移動式灌漑装置に関する。
請求項9に係る発明は、前記区画が、海の沿岸の一画を仕切って形成され、前記容器が筏に固定されて該区画内に浮かべられていることを特徴とする請求項8に記載の塩水逆移動式灌漑装置に関する。
請求項10に係る発明は、前記導水体と前記イオン交換層又は膜との間に保護膜が配設されてなる請求項1乃至9いずれかに記載の塩水逆移動式灌漑装置に関する。
本発明の塩水逆移動式灌漑装置は、低廉、簡便に製造できる。即ち、本発明の塩水逆移動式灌漑装置の必須構成は、植物、土壌又固形培地等の導水体、イオン交換手段である。
本発明の塩水逆移動式灌漑装置は、省資源、省エネルギー的技術であるから、環境負荷が極めて小さい。即ち、本発明の塩水逆移動式灌漑装置は、太陽エネルギーで促される植物の蒸散及び該植物が生育する土壌や固形培地内の水分の蒸発によって生じる導水体の吸引圧による水の逆移動を利用して、塩水の淡水化を可能とするものである。
本発明の塩水逆移動式灌漑装置の更なる効果は、水利用効率が著しく向上することである。これは、植物の水要求(蒸散)量に応じて「自動的に」給水がなされるからである。言い換えれば、植物が「飲みたいときに、飲みたいだけ飲む」ことが可能となる。更に、従来の灌漑のように土壌表層ではなく、深層から給水されるため、土壌面からの蒸発損失が殆ど生じない。
本発明の塩水逆移動式灌漑装置の他の効果は、土壌深層から給水が行われることにより、根が深根化するから、植物を良好に育成することができる。
まず、本発明の塩水逆移動式灌漑装置によって、塩水が淡水化されるメカニズムについて説明する。
概して、液体水は、「高い所から低い所へ流れる」。正確にいえば、その水ポテンシャル(単位量あたりのポテンシャルエネルギー)の高いところから低いところに移動する。したがって、塩水などの溶液を上方より注ぐと、この溶液は重力による水ポテンシャルを有するので、下方へ移動する。これが通常の水の移動である。しかしながら、重力の代わりに、加圧あるいは吸引圧によって移動のエネルギーをあたえることにより、移動速度、又は移動方向を変化させることが可能となる。但し、加圧にしろ、吸引圧にしろ、現行技術では、外部から電力等のエネルギーを投入する必要があり、工業上の利用にあたっては非常にコストがかかる。
しかしながら、前記吸引圧として、植物の蒸散及び該植物が生育する土壌や固形培地内の水分の蒸発による吸引圧を利用すれば、外部エネルギーを使用することなく重力に抗して溶液を低い所から高い所へ移動させることができる。地中の水が土壌表面から蒸発する現象はその代表的な例に他ならない。
本明細書において使用する「逆移動」とは、塩水が導水体を通り低い所から高い所へ移動する現象(重力移動の向きと逆になるため)を意味する。そして、本発明の塩水逆移動式灌漑装置は、この「逆移動」を利用したものである。
前述のとおり、本発明の塩水逆移動式灌漑装置は、植物の蒸散及び該植物が生育する土壌や固形培地内の水分の蒸発による吸引圧を利用して塩水の逆移動を引き起こす。このような熱力学原理を利用したシステムとして、例えば、特開2001‐129538号公報「ソーラーポンプ及びそれを備えたシステム」が挙げられる。
以下、図面を参照して、本発明の塩水逆移動式灌漑装置(以下、単に本灌漑装置という場合がある)における、塩水の逆移動によって塩水が淡水化されるメカニズムについて説明する。
図1中Aの矢印は塩水の流れ、Bの矢印は淡水の流れ、Cの矢印は蒸散によって放出される水の流れを示し、Dは土壌の表面から蒸発する水の流れを示す。図1中(9)は塩水、(2)は導水体、(3)は取込部を表し、該取込部にはイオン交換手段(4)が配されている。尚、図1中左上には太陽を示す。
まず、植物の蒸散及び該植物が生育する土壌や固形培地内の水分の蒸発によって、導水体(2)が乾燥し、その結果導水体において吸引圧が発生する。これにより塩水(9)は、取込部(3)及びイオン交換手段(4)を通り逆移動する。この結果、塩水の淡水化が起こり、その淡水が植物の根に導かれ(B矢印)、植物の根により吸収される。導水体或いは植物まで至った水は、最終的にはC矢印で示されるように植物の蒸散作用によって、或いはD矢印で示す如く土壌の表面から蒸発することにより、大気へ放出される。これにより、導水体の乾燥が進むとともに、導水体の吸引圧は増大し、導水体において吸引圧が生じて、塩水の逆移動が引き起こされる。
従って、本灌漑装置によると、塩水の逆移動とイオン交換手段によって、淡水化と灌漑-吸水とが同時、並行的且つ連続的に行われる。
本発明によって、淡水化される塩水の濃度は、最大で5.0%の塩水であり、好ましくは0.01〜3.0%である。
本灌漑装置により灌漑可能な植物は限定されないが、例えば、トウモロコシ、ヒエ、アワ、サトウキビ、キャッサバ、ワタ、ミレット等が挙げられる。これら植物は、要水量が少ないため好適に用いられる。
本発明に係るイオン交換手段は、イオン交換層及び/又はイオン交換膜からなる。本発明に係る塩水は、該塩水が植物の根に吸収されるまでに、少なくともイオン交換層及び/又はイオン交換膜を通過する。
前記イオン交換層とイオン交換膜としては、例えばアンバーライトなどのイオン交換樹脂、ゼオライト、キトサン、木質製樹脂が用いられる。
例えば、イオン交換層がアンバーライトからなる場合、粒状のアンバーライトを充填してイオン交換層を形成してもよい。層とするか膜を用いるかの決定は、本灌漑装置の設置場所等を考慮し適宜定めればよい。また、膜を用いる場合は、単体として用いてもよいが、場合によってはモジュールとしたものが好ましく用いられる。この理由は、強度を確保できること、膜面積を広くし給水量を増やせること、交換などの維持管理が容易であることからである。
以下、本発明の塩水逆移動式灌漑装置について、図面を参照しつつ説明する。
図2は、本灌漑装置が水槽に収容された状態の概略斜視図であり、図3(a)と(b)はその断面図である。図2及び図3中、(1)は植物、(2)は導水体、(5)は水槽、(7)は排水孔、(8)は給水孔、(11)は導水体収容容器を示す。
図3を参照する。図3(a)はイオン交換層(4a)、図3(b)はイオン交換膜(4b)を用いた本灌漑装置を示す。図中、(3)は取込部、(9)は塩水を示す。
本発明に係る導水体(2)は、好ましくは土壌や固形培地からなり、土壌の組成等は特に限定されない。但し、本発明において、導水体の変更に伴う水の逆移動への影響は少ない。
本発明に係るイオン交換手段、即ちイオン交換層(4a)及びイオン交換膜(4b)は、塩水(9)が植物(1)に至るまでに通過するように配される。
取込部(3)は、少なくとも塩水(9)に接している場所に配され、導水体の下方に位置していることが望ましい。この理由は、取込部を下方に設置することにより、植物は深層から給水されるため土壌面からの蒸発損失を抑制することができる、さらに植物の根が深根化するため、植物を良好に育成することができるからである。
図3(a)及び(b)中の導水体収容容器(11)としては、例えば植木鉢、プラスチック製のプランター等が例示できる。水槽(5)は、どのような物質から製造されてもよいが、屋外での使用を考慮すると、直射日光に耐え得る程度の耐熱性を有することが好ましく、さらに、塩水及び導水体収納容器を支持するための物理的強度を有することが望ましい。また、水槽(5)における排水孔(7)と給水孔(8)の取り付け位置は限定されないが、本灌漑装置が設置される場所、又はその場所の広さ、供給される塩水の量等を勘案して設けられる。
さらに、水槽(5)は、上蓋を有しており、この上蓋と導水体収納容器(11)を固定することにより、導水体(2)を一定の高さに保つことができる。即ち、水槽底面と導水体(2)の間に隙間を作ることにより、導水体(2)の底面に取込部(3)を設けることが可能となる。水槽底面から導水体(2)の底面までの距離は限定されないが、植物の種類、導水体の容量等によって適宜決定される。しかしながら、例えば、水槽(5)が上蓋を有さないために、導水体(2)と水槽の底面の間に隙間を設けることが出来ない場合は、取込部(3)は導水体(2)の側面に配される。このように取込部(3)が導水体(2)の側面に配された場合であっても、取込部は出来るだけ下方に位置することが望ましい。
図4の断面図は、導水体として固形培地(ロックウール)を使用した本灌漑装置が水槽に収容された状態を示す。図4中、(1)は植物、(2)は導水体、(3)は取込部、(5)は水槽、(7)は排水孔、(8)は給水孔、(13)は防水膜を示す。
図4中取込部(3)は、固形培地の表面をイオン交換膜(4b)で被覆することにより構成され、この取込部は塩水に接する固形培地の表面のうち、固形培地の底面のみをイオン交換膜(4b)で被覆される。このように、固形培地の塩水に接触している部分のうちの一部分をイオン交換膜(4b)で被覆し取込部とした場合、塩水と接触しながらイオン交換膜(4b)で被覆されない部分は、防水膜(13)で覆う必要がある。この防水膜の形成は定法で行われるが、例えば、ポリマーセメント系塗料、アグライアなどの再生性自然塗料の防水膜が挙げられる。
或いは、塩水に接する固形培地の表面すべてをイオン交換膜(4b)で被覆してもよく、またこの固形培地(導水体(2))が、水槽(5)の底部に置かれた場合には、該固形培地の側面にだけに取込部を設けてもよい。
次に図5を参照する。図5は、図3(b)及び図4中の取込部(3)の拡大断面図である。図5中、(2)は導水体、(6)は保護膜、(4)はイオン交換膜(4b)、(9)は塩水を表している。図5で表されるように、本発明において、好ましくは導水体(2)とイオン交換膜(4b)との間に保護膜(6)が配され、イオン交換膜(4b)を導水体から保護する役割を果たす。保護膜としては、濾紙、細孔の金網、不織布、麻や綿などの天然繊維、あるいは、サランやナイロンなどの合成繊維が挙げられるが、導水体として用いられる土壌や固形培地の種類、或いはイオン交換膜の種類によって適宜決定される。
次に、図6を参照する。図6は、導水体(2)が地表面上に畝を形成している土壌からなる本灌漑装置を示す。この畝に沿って引かれたパイプ(10)の表面の開口部をイオン交換膜(4b)で被覆することにより取込部(3)が形成されている。取込部(3)は、植物に対して出来るだけ下方に設けることが望ましいため、図6が示すとおり、畝の溝を利用して、その溝に沿ってパイプ又は溝を引くことが好ましい。
パイプ(10)に設けられる開口部の数、大きさ等は特に限定されないが、育成植物の種類、土壌の種類、パイプの大きさ等を考慮して定めればよい。パイプ(10)の開口部の位置、即ち取込部の位置は、前述の理由から、できるだけ下方に設けることが望ましい。
取込部(3)において、好ましくは保護膜が配される。即ち、取込部(3)の断面図は、好ましくは、左の取込部3において、左から、塩水(9)、イオン交換膜(4b)、保護膜(6)及び導水体(2)の順、右の取込部3においては、その逆となる。
パイプ(10)は、プラスチック製、金属製、或いは土製(土管)であってもよく、特に限定されないが、少なくとも直射日光に耐え得る程度の耐熱性と、塩水が保持、又は連続的に供給されるための物理的強度を有していることが好ましい。また、図6においては、塩水を供給するためにパイプを用いているが、例えば、溝型部材、チューブ、ホースがパイプの代わりとなり得る。しかしながら、上部が開放した溝型部材等を用いる場合は、異物の混入によるイオン交換膜や層の目詰りや、塩水の蒸発損失を抑えるため、蓋をしておくことが望ましい。
例えば、パイプ(10)として、点滴灌漑用のホースにイオン交換層や膜を装着したものを用いてもよく、この場合、点滴灌漑システムをそのまま応用できる。また、東南アジアのように竹を入手できるところでは、パイプやホースとして竹を用いることができる。ホースを用いた場合は、植物は定法で栽培されるが、好ましくは、前記ホースは、取込部のイオン交換層や膜が土壌と十分密に接触するように地中に埋設される。
図7は、本灌漑装置が、沿岸における「うき床栽培」で用いられている様子を表したものである。このうき床栽培は、入り江や浅瀬の波が起こりにくい一画、満潮時に海水が入れ代わる内湖で行われることが望ましい。或いは、簡単な堤防によって砂浜の一画にそのようなプールを作ってもよい。
このうき床栽培は、本灌漑装置を、例えば丸太(12)等の水面に浮かぶ素材に固定することにより容易に実施することができるだけでなく、海水を輸送して、給水する必要がないため、時間、経費等が削減できる点においても有利である。
図8は、本灌漑装置が、巨大水槽を用いて大量植物栽培に応用されている様子を表したものである。これは、図3又は4で示した本灌漑装置を幾列にも増やして形成される。
以下実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。
<試験例1> ハツカダイコンの成長試験
(試験方法)
実施例1として、高さ105mm,上面の直径88mm,底部の直径68mmのプラスチック製ポット(植木鉢)(11)内に、導水体(2)として土壌を厚さ15mm、イオン交換層(4a)としてアンバーライト85gを厚さ30mmとなるように充填した(図9参照)。尚、導水体(2)とイオン交換層(4a)の間、及びイオン交換層(4a)と灌漑水(9a)との間には、保護膜(6a)として濾紙を敷いた。
比較例1として、アンバーライト85gの代わりに、土壌100gを充填した。
実施例1及び比較例1を、受け皿(14)に貯留した灌漑水(9a)に浸した。植木鉢(11)の底部には、取込部(3)として開口部を有し、灌漑水が自由に出入りできる。灌漑水には、濃度0、0.5、1.0および2.0%の食塩(NaCl)水を用いた(以下、各々(a)〜(d)と称す)。濃度ごとに、実施例1と比較例1を1つずつ対にした。導水体(2)の土壌表層にハツカダイコン(品種:紅白はつか大根)の種子(15)を30粒蒔き,明期・暗期それぞれ12時間、気温を明期22℃、暗期20℃に設定した人工気象器内で栽培した。12日間栽培後、生育状況を撮影し,導水体(2)の土壌の電気伝導率(EC)を測定した。ECの測定は、土壌:水=1:5の抽出溶液で行った.
(試験結果)
実施例1(a)〜(d)ではハツカダイコンは良好な成長を示した(図10参照)。しかし、比較例1では、(a)を除けば、いずれの濃度でも成長が著しく阻害された。ハツカダイコンの成長と対応して、塩濃度の指標であるEC値にも、実施例1と比較例1の間で明瞭な差が認められた。表1が示すとおり、実施例1(a)〜(d)のいずれにおいても、EC値はほとんど同じであった。一方、比較例1(b)〜(d)の土壌では、EC値が著しく高かった。
Figure 2008011717
以上のとおり、実施例1ではイオン交換機能によって脱塩が行われ、その結果、植物が食塩を含まない水を灌漑した場合と同じ程度に成長することが分かった。
<試験例2> ハツカダイコンの発芽試験
(試験方法)
実施例2として、ペットボトル製の植木鉢(ポット)内に、導水体(2)として土壌を、イオン交換層(4b)としてアンバーライトを充填した(図9参照)。また、試験例1と同様、導水体(2)とイオン交換層(4a)の間、及びイオン交換層(4a)と塩水との間には、保護膜(6a)として濾紙を敷いた。
比較例2として、アンバーライトの代わりに土壌を、比較例3として、アンバーライトとの代わりに粉炭とバーミュキュライトを充填したものを作成した。
尚、使用した土壌は充填前に室内に1日放置し、乾燥させた。
実施例2、比較例2及び3をそれぞれ3つ準備し、土壌の表面にハツカダイコン種子を30粒ずつ置き、覆土はしなかった。これらのポットをそれぞれ2.5%の食塩水を入れたシャーレに浸した。そして、発泡スチロール製の箱にいれ、室温20℃、暗黒下で放置し、発芽状況を観察した。
(試験結果)
結果を表2に示す。表2は播種後の発芽種子数(累積)を示したものである。実施例2は4日までに全ての種子が発芽したのに対して、比較例2及び3ではほとんど発芽が認められなかった。
Figure 2008011717
本発明の塩水逆移動式灌漑装置に関し、水の逆移動によって、塩水が淡水化されるメカニズムを表す図である。 本発明の塩水逆移動式灌漑装置の概略斜視図であり、導水体として導水体収納容器に収容された土壌を含む本灌漑装置を示す図である。 本発明の塩水逆移動式灌漑装置(図2)の断面図であって、イオン交換手段として、イオン交換層を含む本灌漑装置(a)、イオン交換膜を含む本灌漑装置(b)を示す図である。 本発明の塩水逆移動式灌漑装置の断面図であり、導水体として、ロックウールを含む本灌漑装置を示す図である。 本発明の塩水逆移動式灌漑装置に関し、図3(b)で表される本灌漑装置の取込部の拡大断面図である。 本発明の塩水逆移動式灌漑装置の断面図であり、導水体が地表面上に畝を形成している土壌からなる本灌漑装置を示す図である。 本発明の塩水逆移動式灌漑装置に関し、本灌漑装置が「うき床栽培」に用いられる様子を表す図である。 本発明の塩水逆移動式灌漑装置に関し、本灌漑装置と巨大水槽を用いて大量植物栽培の様子を表す図である。 試験例1及び試験例2で使用した本灌漑装置の概略図である。 試験例1の試験結果を示す図である。
符号の説明
1 植物
2 導水体
3 取込部
4 イオン交換手段
4a イオン交換層
4b イオン交換膜
5 水槽
6 保護膜
6a 保護膜(濾紙)
7 排水孔
8 給水孔
9 塩水
9a 灌漑水
10 パイプ
11 導水体収納容器
12 丸太
13 防水膜
14 受け皿
15 種子

Claims (10)

  1. 塩水に接する取込部と、前記取込部より取り込まれた水を導く導水体と、前記導水体から水を吸収する植物を含むとともにイオン交換手段を備える塩水逆移動式灌漑装置であって、
    前記イオン交換手段は、前記塩水が前記植物に至るまでに通過するように配されるイオン交換層及び/又は膜であって、
    前記導水体の吸引圧による塩水の逆移動とイオン交換手段によって、塩水が淡水化されることを特徴とする塩水逆移動式灌漑装置。
  2. 前記導水体が植木鉢等の容器に収容された土壌からなり、
    前記取込部が該容器の開口部であって、
    前記土壌に前記イオン交換層及び/又は膜を含むことを特徴とする請求項1に記載の塩水逆移動式灌漑装置。
  3. 前記導水体が植木鉢等の容器に収容された土壌からなり、
    前記取込部が、該容器の開口部を前記イオン交換膜で被覆することにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の塩水逆移動式灌漑装置。
  4. 前記導水体がロックウール等の固形培地からなり、
    前記取込部が該固形培地と塩水が接する面であって、
    前記固形培地に前記イオン交換層及び/又は膜を含むことを特徴とする請求項1に記載の塩水逆移動式灌漑装置。
  5. 前記導水体がロックウール等の固形培地からなり、
    前記取込部が、該固形培地の表面を前記イオン交換膜で被覆することにより構成されていることを特徴とする請求項1に記載の塩水逆移動式灌漑装置。
  6. 前記導水体が地表面に畝を形成している土壌からなり、
    前記取込部が、該畝に沿って引かれた溝型部材又はパイプ表面の開口部であって、
    前記土壌に前記イオン交換層及び/又は膜を含むことを特徴とする請求項1に記載の塩水逆移動式灌漑装置。
  7. 前記導水体が地表面に畝を形成している土壌からなり、
    前記取込部が、該畝に沿って引かれた溝型部材又はパイプ表面の開口部を前記イオン交換膜で被覆することにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の塩水逆移動式灌漑装置。
  8. 前記導水体が、塩水を貯留した区画内に浸漬され、
    少なくとも前記取込部において塩水と接していることを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の塩水逆移動式灌漑装置。
  9. 前記区画が、海の沿岸の一画を仕切って形成され、
    前記容器が筏に固定されて該区画内に浮かべられていることを特徴とする請求項8に記載の塩水逆移動式灌漑装置。
  10. 前記導水体と前記イオン交換層又は膜との間に保護膜が配設されてなる請求項1乃至9いずれかに記載の塩水逆移動式灌漑装置。

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN103404332A (zh) * 2013-07-19 2013-11-27 广东联塑科技实业有限公司 一种高效种植甘蔗的灌溉方法
CN105123437A (zh) * 2015-10-26 2015-12-09 扬州大学 智能太阳能节水灌溉装置
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