以下、本発明の一実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の無線タグ通信装置(無線通信装置)を備えた無線タグ通信システムを表すシステム構成図である。
図1において、この無線タグ通信システム100は、上述したように対象物(物品等)に添付(又は同梱等)される少なくとも1つの無線タグTと、この無線タグTとの無線通信によりそれぞれのタグIDを含む無線タグ情報の検出を行う無線通信装置としてのリーダ/ライタ1とから構成されている。
無線タグTは、タグ側アンテナ151とIC回路部150とを備える無線タグ回路素子Toを有しており、この無線タグ回路素子Toを特に図示しない基材などに設けた構成のものである(無線タグ回路素子Toについては後に詳述する)。
リーダ/ライタ1は、本体制御部2と、アンテナ3(送信アンテナ手段、受信アンテナ手段)とを有している。本体制御部2は、CPU4と、例えばRAMやROM等からなるメモリ6と、操作者からの指示や情報が入力される操作部(操作手段)7と、各種情報やメッセージを表示する表示部8と、アンテナ3を介し無線タグTとの無線通信の制御を行うRF通信制御部9とを備えている。
図2は、上記リーダ/ライタ1におけるCPU4、RF通信制御部9、及びアンテナ3の概略構成を表す機能ブロック図である。
図2において、アンテナユニット3は、この例では、3つの送信アンテナ(アンテナ素子)21A,21B,21Cと、1つの受信アンテナ(アンテナ素子)20とから構成されている。
RF通信制御部9は、上記アンテナ3を介し上記無線タグ回路素子ToのIC回路部150の情報(タグIDを含む無線タグ情報)へアクセスするものであり、またリーダ/ライタ1のCPU4は無線タグ回路素子ToのIC回路部150から読み出された信号を処理して情報を読み出すとともに無線タグ回路素子ToのIC回路部150へアクセスするための応答要求コマンド(詳しくは後述する)を生成するものである。
すなわち、RF通信制御部9は、アンテナ3を介し無線タグ回路素子Toに対して信号を送信する送信部212と、アンテナ3により受信された無線タグ回路素子Toからの応答波を入力する受信部213と、送信アンテナ21A,21B,21Cにそれぞれ係わる位相制御ユニット203A,203B,203Cとを備えている。
送信部212は、CPU4の制御により所定の周波数の信号を発生させるPLL(Phase Locked Loop)回路300を備えている。そして、上記発生される搬送波は、例えばUHF帯、マイクロ波帯、あるいは短波帯の周波数を用いており、上記PLL回路300の出力は、位相制御ユニット203A〜Cを介しアンテナ3に伝達されて無線タグ回路素子ToのIC回路部150に供給される。なお、無線タグ情報は上記のように変調した信号に限られず、単なる搬送波のみの場合もある。
受信部213は、アンテナ3で受信された無線タグ回路素子Toからの応答波と上記発生させられた搬送波とを乗算して復調する受信第1乗算回路218(復調手段)と、その受信第1乗算回路218の出力から必要な帯域の信号のみを取り出すための第1バンドパスフィルタ219と、この第1バンドパスフィルタ219の出力を増幅する受信第1アンプ221と、この受信第1アンプ221の出力をさらに増幅してデジタル信号に変換する第1リミッタ220と、上記アンテナ3で受信された無線タグ回路素子Toからの応答波と上記発生された後に移相器227により位相を90°遅らせた搬送波とを乗算して復調する受信第2乗算回路222(復調手段)と、その受信第2乗算回路222の出力から必要な帯域の信号のみを取り出すための第2バンドパスフィルタ223と、この第2バンドパスフィルタ223の出力を増幅する受信第2アンプ225と、この受信第2アンプ225の出力をさらに増幅してデジタル信号に変換する第2リミッタ224とを備えている。そして、上記第1リミッタ220から出力される信号「RXS−I」及び第2リミッタ224から出力される信号「RXS−Q」は、上記CPU4に入力されて処理される。
また、受信第1アンプ221及び受信第2アンプ225の出力は、強度検出手段としてのRSSI(Received Signal Strength Indicator)回路226にも入力され、それらの信号の強度を示す信号「RSSI」がCPU4に入力されるようになっている。このようにして、リーダ/ライタ1では、アンテナ3で受信した信号を送信搬送波を用いて復調するホモダイン検波(この例では特にI−Q直交復調)によって無線タグ回路素子Toからの応答波の復調が行われる。
位相制御ユニット203A,203B,203Cは、CPU4からの位相制御信号・振幅制御信号に基づき動作制御される移相器206A,206B,206C及び可変ゲインアンプ(増幅率可変アンプ、搬送波変調手段)208A,208B,208Cを備えている。
図3は、図2に示した送信部212の要部詳細構成を表す機能ブロック図である。図3において、送信部212に備えられた上記PLL回路300は、基準波を発生させる基準発振器301と、印加される制御電圧に応じた周波数で発振し通信対象である無線タグ回路素子Toへアクセスするための搬送波を発生するVCO(Voltage Controlled Oscillator)305と、このVCO305の発振出力と上記基準発振器301からの基準信号とを位相比較するための分周器・位相比較器302と、この分周器・位相比較器302の出力を平滑化するループフィルタ304と、分周器・位相比較器302からループフィルタ304への出力伝達を遮断可能なスイッチ303とを備えている。
分周器・位相比較器302は、上記の位相比較結果に応じてVCO305への制御電圧を出力し(なおこの位相比較に基づく制御電圧は、CPU4からの設定制御信号に基づき制御可能である。後述の図12のステップS250参照)、これによってPLL回路300全体によるPLL制御が実行されるようになっている。
スイッチ303は、CPU4からの制御信号に基づき(後述の図12のフロー参照)、アンテナ3による送信信号の送信後で当該送信に対応した無線タグ回路素子Toからの返答信号のアンテナ3による受信時に、PLL回路300によるPLL制御の実行を停止可能となっている。これによって、アンテナ3による無線タグ回路素子Toからの返答信号の受信時に、PLL回路300によるPLL制御の実行が停止される(詳細は後述)。
また、送信部212はさらに、上記ループフィルタ304と略同一の構成を備え、分周器・位相比較器302からの出力が入力されるフィルタ回路310(検出用フィルタ)と、フィルタ回路310の出力をデジタル変換してCPU4に入力するA/D変換器322とを有している。
CPU4では、このA/D変換器322からの入力信号に基づき、VCO305の動作状態(この例では出力周波数の変動)に対応して(これを補正するように)送信アンテナ21A,21B,21Cのメインローブの指向性を制御するための、位相制御信号・振幅制御信号を(後述の位相テーブルに基づき)生成し、D/A変換器351,352,353へ出力する。D/A変換器351,352,353では、その位相制御信号・振幅制御信号に応じた「TX_ASK」「TX_PWR」信号等の信号を位相制御ユニット203A,203B,203Cへ出力する。
このようにして位相制御ユニット203A,203B,203Cに入力された信号に応じ、移相器206A,206B,206Cは、送信アンテナ21A,21B,21Cにおける送信電波信号の位相を可変に設定する。また、可変ゲインアンプ208A,208B,208Cは、移相器206A,206B,206Cから発生させられた搬送波を変調(この例では上記「TX_ASK」信号に基づく振幅変調)するとともにその変調波を増幅(この例では上記「TX_PWR」信号によって増幅率を決定される増幅)し上記送信アンテナ21A,21B,21Cに出力する。
一方、CPU4はまた、上記A/D変換器322からの入力信号に基づき、VCO305の出力周波数が所定範囲内(例えば法令に準拠するように定められた下限値から上限値までの範囲内)にあるかどうかを検出・判定し、これに対応して、位相制御ユニット203A,203B,203Cの移相器206A〜Cを制御するための位相制御信号を上記D/A変換器351,352,353を介し位相制御ユニット203A,203B,203Cへ出力する(詳細は後述)。これにより、上記フィルタ回路310、A/D変換器322を介し、CPU4で、上記のようにしてスイッチ303がPLL制御の実行を停止したときPLL回路300からの出力周波数が所定の範囲外となったことを検出する(周波数検出手段。後述のステップS230参照)とともに、フィルタ回路310の出力電圧が上記上限電圧より大きくなるか上記下限電圧より小さくなったときには、前述の位相テーブルに基づく上記位相制御信号を変化させる(切り替える)ことで、指向性制御を良好に実行するようになっている(詳細は後述)。
図4は、上記ループフィルタ304の具体的構成の一例を表す回路図である。図4において、この例では、ループフィルタ304は、VCO305に対し並列に接続されたコンデンサC1,C2を備えている。このコンデンサC1,C2は、その放電時定数がアンテナ3による受信時間以上となるように設定されている。この時定数について、以下に説明する。
一般に、放電に掛かる時間の長さを示す定数として、放電時定数τが用いられる。容量Cのコンデンサ(図4の例ではコンデンサC1,C2)と抵抗値Rの抵抗(図4の例では抵抗R1,R2,R3)のみで作られる単純な回路については、放電時定数τを容量と抵抗値の積として計算することができ、図5に示すように、この値は放電開始時の電圧の0.37倍となることが知られている。本実施形態においては、図4に示すように構成することで、スイッチ303が遮断されたときに、ループフィルタ304とVCO305で形成される回路の放電時定数を長くし、これによって周波数の変動をなだらかにすることが可能である。
図6は、図4の構成において上記スイッチ303が遮断されたときの等価回路を表す回路図である。分周器・位相比較器302の出力が遮断されOFFされると、ループフィルタ304及びVCO305で構成される回路への電力供給がなくなる。この結果、ループフィルタ304のコンデンサC1,C2にチャージされていた電荷がループフィルタ内の抵抗R2,R3と、VCO305の入力端子抵抗R0で消費し、放電される。したがって、抵抗R2,R3の抵抗値を相対的に小さくしコンデンサC1,C2の容量を相対的に大きくすることで、放電時定数を大きくし、放電時間が、予めわかっている(あるいは想定されている)アンテナ3の受信時間以上となるようにループフィルタ304を設計することができる。
図7は、上記無線タグTに備えられた無線タグ回路素子Toの機能的構成の一例を表すブロック図である。
図7において、無線タグ回路素子Toは、上記リーダ/ライタ1側の上記アンテナ3と短波帯(例えば13.56MHz)、UHF帯、マイクロ波帯等の高周波を用いて非接触で信号の送受信を行うタグ側アンテナ151と、このタグ側アンテナ151に接続された上記IC回路部150とを有している。
IC回路部150は、タグ側アンテナ151により受信された搬送波を整流する整流部152と、この整流部152により整流された搬送波のエネルギを蓄積し駆動電源とするための電源部153と、上記タグ側アンテナ151により受信された搬送波からクロック信号を抽出して制御部157に供給するクロック抽出部154と、無線タグTのタグIDなどの所定の情報信号を記憶し得る情報記憶部として機能するメモリ部155と、上記タグ側アンテナ151に接続されて信号の変調及び復調を行う変復調部156と、上記整流部152、クロック抽出部154、及び変復調部156等を介して上記無線タグ回路素子Toの作動を制御するための制御部157とを備えている。
変復調部156は、タグ側アンテナ151により受信された上記リーダ/ライタ1のアンテナ3からの通信信号の復調を行うと共に、上記制御部157からの返信信号に基づき、アンテナ151が受信した搬送波を変調し、アンテナ151より反射波として再送信する。
制御部157は、リーダ/ライタ1と通信を行うことにより上記メモリ部155に上記所定の情報を記憶する制御や、上記タグ側アンテナ151により受信された質問波(応答要求コマンド)を上記変復調部156において上記メモリ部155に記憶された情報信号に基づいて変調したうえで応答波(応答信号)とし、上記タグ側アンテナ151から応答波を返信する制御等の基本的な制御を実行する。
クロック抽出部154は受信した信号からクロック成分を抽出して制御部157にクロックを抽出するものであり、受信した信号のクロック成分の速度に対応したクロックを制御部157に供給する。
上記構成の無線タグ回路素子Toを備えた無線タグTに対し、本実施形態におけるリーダ/ライタ1ではその位置検出を行う。すなわち、リーダ/ライタ1のアンテナユニット3では、1つの送信アンテナ21A,21B,21Cそれぞれから3つの問いかけ信号がアンテナユニット3より伝搬していくとき、各送信電波に位相差をつけてやると、その位相差が行路長の差に等しくなるような斜めの角度で伝搬していくことを利用し、無線タグTの存在位置検出を行う。
図8は、上記CPU4が実行する制御手順の一例を表すフローチャートである。図8において、まずステップS110で、サーチ時において送信アンテナ21A,21B,21Cの(送信)指向性(=メインローブの方向)を単一方向に保持しつつその方向を変化させるとき(詳細は後述)におけるある基準位置(例えばリーダ/ライタ1の真左側方向を0°)からの指向性方向の角度(以下適宜、指向角という)θの初期値をθ=θSTARTに設定する。なお、このθSTARTの値は、予め本体制御部2のメモリ6内に固定的に記憶されていてもよいし、書き換え可能に記憶されていてもよいし、サーチの都度操作部7から入力するようにしてもよい。
次に、ステップS120に移り、前述のように上記フィルタ回路310で電圧変換されA/D変換器322を介し入力される位相差モニタ電圧(VCO305の制御電圧に対応)とに応じ、分周器・位相比較器302における周波数設定値(上記設定制御信号で制御する)を決定する。そして、この周波数設定値と、上記指向角θとに基づき、予めメモリ6に相関の形で格納されていた位相テーブルを参照してアンテナ21A,21B,21Cに係る位相を決定し、これに対応した上記位相制御信号(具体的には移相器206A,206B,206Cの制御電圧)をD/A変換器351,352,353を介して位相制御ユニット203A,203B,203Cに出力する。この手順を、図9を用いてさらに詳細に説明する。
図9は、一例として、指向角45°の場合における位相決定の手順を表した図である。図9において、送信アンテナ21A,21B,21Cの行路長の差l[m]は、アンテナ間隔をd[m]とすると、
l=d×sin45°
=d×(1/√2)
で表される。
送信波の波長をλ[m]とすると、移相器206A,206B,206Cのそれぞれの間には、次式で表される位相差φを与えればよいこととなる。
φ=2π×(d/√2)×(1/λ)
なお、上記45°以外の指向角θの角度についても、上記同様にして、指向角θの値に基づき、移相器206A,206B,206Cのそれぞれの間に、対応する位相差φを与えればよい。
ここで、移相器206A,206B,206Cへ上記位相差φを与えるための制御信号(制御電圧)は、例えばテーブルの形であらかじめメモリ6(記憶手段)に相関として格納されている。
図10は、このテーブルの一例を表す図である。図10において、この例では、上記指向角θの例として、θ=0°と、θ=10°との場合をそれぞれ示している。そして、波長λの値は送信波の周波数(すなわちVCOの出力周波数)の値によって変わってくることから、予め(例えば所定周波数間隔で)設定された複数種類の周波数f1,f2,・・,fxのそれぞれについて、当該指向角θを与えるための位相差φを実現するための移相器206A,206B,206Cへの制御電圧(それぞれ「ANT1移相器制御電圧」「ANT2移相器制御電圧」「ANT3移相器制御電圧」で表す)が格納保持されている。なお、図には、対応関係の明確化のために、各周波数f1,f2,・・,fxにそれぞれ対応するVCOの出力電圧(制御電圧)も併せて示している。
なお、このテーブルに設定された指向角θ、周波数f1,f2,・・、位相差φの相関は、離散的に測定した(あるいは算出した)多数の値をそのまま用いてもよいし、あるいは複数点の各値を元に、その間の中間値については予め求められた所定の関係式(例えば直線補間等の近似式)に基づき算出するようにしてもよい。
図8に戻り、以上のようにしてメモリ6に格納されたテーブルを用いて上記ステップS120が終了すると、ステップS130へ移る。
ステップS130では、上記のように送信アンテナ21A,21B,21Cの位相を設定した(言いかえれば指向角θを設定した)条件のもと、送信アンテナ21よりサーチ対象無線タグTに対する呼びかけ信号であるScroll ID信号を出力させる。詳細にはサーチ対象の無線タグTのタグID(例えば予め操作部7における設定入力され又はメモリ6に記憶されている)に応じた「TX_ASK」信号を生成してD/A変換器351,352,353を介し位相制御ユニット203A,203B,203Cへ出力し、可変ゲインアンプ208A,208B,208Cで対応する上記振幅変調が行われアクセス情報としての「Scroll ID」信号となる。またCPU4は「TX_PWR」信号を生成してD/A変換器351,352,353を介し位相制御ユニット203A,203B,203Cへ出力し、可変ゲインアンプ208A,208B,208Cでその「TX_PWR」信号に基づく増幅率で信号増幅が行われ、最終的に送信アンテナ21A,21B,21Cを介し送信され、サーチ対象である無線タグTの無線タグ回路素子Toからの返信を促す。
その後、ステップS200で、上述の「TX_ASK」信号をOFFにして「TX_PWR」信号のみを位相制御ユニット203A〜Cの可変ゲインアンプ208A〜Cに出力する。このようにして可変ゲインアンプ208A〜Cによる変調を停止し位相制御ユニット203A〜Cより無変調波を出力させてアンテナ3を介し送信する(=Reply Window)ことで、上記「Scroll ID」信号に対応してサーチ対象の無線タグTの無線タグ回路素子Toから送信された返答信号(=リプライ信号;タグIDを含む無線タグ情報)を受信アンテナ20より受信し、受信部213を介し取り込む。このとき、PLL回路300によるPLL制御をOFFにし、VCO305発振周波数の変動によりA/D変換器322を介し入力される電圧(=位相差モニタ電圧、VCO305の制御電圧言い換えれば発振周波数に対応)が上記所定の範囲外へ逸脱したら適宜上記分周器・位相比較器302における周波数設定の切り替え(変化)を行う(詳細は後述の図12参照)。
なお、CPU4には、このときのRSSI回路226からの受信信号強度信号「RSSI」も入力され、その値がステップS150でメモリ6内のRAM等の適宜の記憶手段(あるいはCPU4外の外部記憶手段でもよいし、また不揮発性のものでもよい)に記憶される。
そしてステップS160で、θが、予め指向角θを順次変化させるときの最終値として設定されたθEND(例えば指向角θ変化範囲)に等しくなったかどうかを判定する。最初はθ=θSTARTであるから判定が満たされず、ステップS170で予め定められたθSTEPだけ加え、ステップS120に戻り、同様の手順を繰り返す。
こうしてステップS120〜ステップS170を繰り返してθの値にθSTEPを小刻みに加え、全送信アンテナ21A,21B,21Cによって生じる指向性を単一方向に保持しつつその指向角θを徐々に変化させながら、信号送信及び受信を繰り返しその都度受信信号を記憶していく。そしてθ=θENDになったらステップS160の判定が満たされ、ステップS180に移る。
ステップS180では、(サーチ不成功の場合を除き)上記繰り返しの間にステップS150で記憶した信号強度に基づき、無線タグTの存在する方向を決定する(例えば最も信号強度が大きかった指向角方向とする)。その後、ステップS190で、同様に上記信号強度に基づき、リーダ/ライタ1と無線タグTとの間の距離を決定(同定)する。これは、図11にその一例を示すように、前述した返答信号の信号強度「RSSI」が小さいほど無線タグ回路素子Toまでの距離が遠い傾向となるという特性を利用して行う。そして上記ステップS180及びステップS190の結果に基づく位置情報をステップS195で表示部8へ出力し、このフローを終了する。なお、受信部213のRSSI回路226及び図8のステップS190が、無線タグTまでの距離を検知する距離検知手段を構成するが、距離検知手段として、送信出力を可変しながら(例えば徐々に増大させながら)通信を行い、はじめて通信が成功したときの出力値から距離を求める手法でもよい。またステップS180が、無線タグTまでの方向を検知する方向検知手段を構成する。
なお、前述のステップS120〜ステップS170の繰り返しの間に、サーチ対象の無線タグTからの返答信号(タグID)が得られなかった場合(あるいは十分な大きさの返答信号が得られなかった場合)は、サーチ不成功(あるいはサーチ不能)とみなされ、ステップS180、ステップS190での方向・距離の計算は行われず(あるいは行われてもエラー演算となり)、例えば対応するエラー表示が表示部8において行われる。
図12は、上記ステップS200のリプライ信号受信処理の詳細手順を表すフローチャートである。
図12において、まずステップS210において、上記「Scroll ID」信号に後続する、リプライ信号を受信するための変調されない搬送波(=Reply Window)の送信状態になったかどうかを判定する。Reply Windowが開始されていれば判定が満たされ、ステップS220へ移る。
ステップS220では、PLL回路300のスイッチ303に制御信号を出力し、遮断状態(OFF)とする。これにより、分周器・位相比較器302からループフィルタ304への出力電圧が遮断され、PLL回路300におけるPLL制御がOFF状態となる。これにより、ループフィルタ304のコンデンサにチャージされていた電荷がループフィルタ内の抵抗とコンデンサを介してグランドへと放電される。
このとき分周器・位相比較器302によって出力されるVCO305の出力に対応したパルス信号がフィルタ回路310で平滑化され、その出力電圧が前述のステップS120で設定した周波数に対応する範囲内にある場合にはステップS230の判定が満たされて後述のステップS240へ移る。一方、ステップS230において、VCO305の出力に対応したフィルタ回路310の出力電圧が前述のステップS120で設定した範囲内にない場合(=周波数検出手段としての機能)は、ステップS230の判定が満たされず、VCO305の出力周波数が大きく変動したとみなされ、ステップS250へ移る。
ステップS250では、先にステップS120で設定した周波数を、比較的近い別の値に再設定して対応する設定制御信号を分周器・位相比較器302へ出力するとともに、前述のテーブルを参照してその再設定した周波数に対応した移相器206A〜Cの制御電圧に切り替え、ステップS230へ戻り、同様の手順を繰り返す。このようにして、フィルタ回路310の出力電圧が設定周波数に対応した範囲内となりステップS230の判定が満たされるまで、周波数の設定値の変更及びこれに対応した移相器206A〜Cへの制御電圧の切り替えを行う。
以上のようにしてステップS230の判定が満たされたら、ステップS240に移り、上記Reply Windowの送信が完了したかどうかを判定する。Reply Windowが完了するまではこの判定が満たされず、ステップS230に戻って同様の手順を繰り返す。
Reply Windowの送信が完了していれば判定が満たされ、リプライ信号の受信が完了されているとみなしてステップS260に移り、PLL回路300のスイッチ303に制御信号を出力し、導通状態(ON)に復帰させ、このルーチンを終了する。
以上において、CPU4よりD/A変換器351,352を介して位相制御ユニット203A〜Cの移相器206A〜Cへ出力される上記制御電圧が、各請求項記載の、送信側移相器への第1位相制御信号に相当し、CPU4の実行する制御フローのステップS110〜ステップS130、ステップS150〜ステップS170が、VCOの発振出力の周波数情報と、送信アンテナ手段の複数のアンテナ素子によるメインローブの方向との所定の相関に基づき、送信側移相器への第1位相制御信号を制御する第1制御手段を構成する。また、これらの手順と、上記移相器206A〜C及びD/A変換器351,352,353が、送信アンテナ手段の複数のアンテナ素子による指向性を一つの方向のみ強くなるように保持しつつ、その方向を順次変化させる送信方向切替手段を構成するとともに、方向切替手段をも構成し、VCOの動作状態に基づき、送信アンテナ手段の指向性を制御する指向性制御手段をも構成する。
また、スイッチ303がPLL回路の位相比較器からループフィルタへの出力伝達を遮断するスイッチ手段を構成し、これと、CPU4が実行する図12に示すフローのステップS220とが、受信アンテナ手段による返答信号の受信時に、PLL回路によるPLL制御の実行を停止可能なPLL停止制御手段を構成する。
以上説明したように、本実施形態のリーダライタ1においては、PLL回路300のVCO305から出力された搬送波が位相制御ユニット203A〜Cの可変ゲインアンプ208A〜Cで変調され、送信アンテナ21A,21B,21Cより無線タグ回路素子Toへ送信され、これに対応した無線タグ回路素子Toからの返答信号が受信アンテナ20で受信されることで、無線タグ回路素子Toとの情報送受信が行われる。またこのとき、CPU4の実行する図8の制御フローのステップS110〜ステップS130、ステップS150〜ステップS170等においてD/A変換器351〜353を介し移相器206A〜Cへ位相制御信号を出力し、送信アンテナ21A〜Cの指向性を制御することで、通信対象の無線タグ回路素子Toとの通信における利得が最も大きい方向に送信アンテナ21A〜Cのメインローブの方向を制御することができる。
ここで、一般に、PLL回路300のVCO305は、その出力側に接続されたアンプの出力強度が変化するとそれに伴って当該VCO305の出力周波数も変化する性質がある。このような外乱のため、可変ゲインアンプ217で出力強度の変化を伴うASK変調等の振幅変調を行うと、アンテナ3からの送信の際のVCO305の出力周波数の変化に伴い、アンテナ3から送信される信号の周波数が変化する。本実施形態のように、複数のアンテナ素子における位相差を制御しメインローブの向きを所望の方向に向けることによって位相制御を行う場合、上記のように周波数が変化するとこれに伴って送信波の波長が変化し、結果として任意の方向にメインローブを向けるときの位相差の値が異なってくる(図9参照)。
そこで本実施形態においては、CPU4が実行する図12のフローのステップS230及びステップS250において、VCO305の動作状態に基づき送信アンテナ21A〜Cの指向性が制御される。具体的には、VCO305の制御電圧がそのときの設定周波数に対応した値の範囲を逸脱すると、VCO305の発振周波数が大きく変動したとみなして分周器・位相比較器302への設定周波数を再設定し、さらに図10の位相テーブルにおける相関に基づき送信アンテナ21A〜Cによるメインローブ方向を各方向に向けるための制御電圧を変化させ、移相器206A〜Cへ出力する。このようにして、上記のようにVCO305の出力周波数が変化した場合であってもこれに対応して適宜修正した位相差を用いて送信アンテナ21A〜Cの指向性制御を行うことができる。この結果、上記の弊害を回避し、良好な指向性制御を行って高精度の通信を行うことができる。
このとき特に、本実施形態では、図8の制御フローのステップS110〜ステップS130、ステップS150〜ステップS170で、送信アンテナ21A〜Cによって合成される指向性を一つの方向のみ強くなるようにしつつ順次方向を変化させ、各方向時における各アンテナ素子の信号強度と位相差に応じ所定の演算処理を行う(いわゆるフェイズドアレイアンテナ制御による手法)。これにより、通信対象の無線タグ回路素子Toとの通信における利得が最も大きい方向に送信アンテナ21A〜Cの指向性を制御することができる。
一方、上記のようにしてVCO305の出力周波数が変化すると、PLL制御により分周器・位相比較器302の位相比較結果が変化する。この変化時の偏差に対応して制御電圧が変化し、これに応じてVCO305の出力周波数が所定の周波数に制御される。このように外乱の発生に対してPLL制御で復帰する場合、特に受信アンテナ20での受信の際に大きな雑音となるおそれがある。また周波数が一定である場合でも、位相が変動する位相雑音が存在するおそれもあり、この場合も受信雑音となるおそれがある。これらの位相雑音は、感度を制限する要因となっているが、本実施形態では、受信アンテナ20で無線タグ回路素子Toの返答信号の受信を行う際には、スイッチ303によってPLL回路300によるPLL制御の実行を停止する。これにより、上記弊害を回避し、雑音のない精度の高い返答信号を取得することができる。特に、スイッチ300を用いることにより、受信アンテナ20による返答信号の受信時には分周器・位相比較器302からループフィルタ304への出力伝達を遮断でき、これによってPLL制御による周波数制御機能を確実に停止して、VCO出力周波数の急変による雑音発生を確実に防止することができる。
またこのとき、出力周波数の安定化を図るPLL制御が停止すると、PLL回路300のVCO305からの搬送波周波数は徐々に変化していき、そのままでは当初の周波数から大きく逸脱してしまう可能性がある。そこで本実施形態においては、周波数検出手段としての図12のステップS230でPLL回路300の出力周波数の検出を行うとともに、その検出結果にも応じた(設定周波数の修正・再設定をした)CPU4からの位相制御信号を用いて送信アンテナ21A〜Cの指向性制御を行う。これにより、上記のように搬送波周波数が当初より大きく逸脱することによって、指向性が大きく変化してしまうことを防止することができる。またこの周波数検出において、ループフィルタ304と略同一構成のフィルタ回路310の出力電圧を用いることにより、VCO出力の変動を電圧レベルに変換して検知し、これに応じた指向性制御を行うことができる。
なお、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で、種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を説明する。
(1)フィルタ回路を用いない場合
上記実施形態ではスイッチ303を用いつつ、フィルタ回路310の出力をA/D変換してCPU4に入力し周波数検出を行ったが、フィルタ回路310を用いないようにすることもできる。
図13はそのような変形例のRF通信制御部9に備えられた送信部212Aの要部詳細構成を表す機能ブロック図であり、上記図3に相当する図である。図3と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略又は簡略化する。
図13において、この変形例の送信部212Aでは、分周器・位相比較器302からの出力を、ダイオード344と抵抗340を備えたプルアップ回路341と、ダイオード345と抵抗342を備えたプルダウン回路342へ導入する。すなわち、分周器・位相比較器302の出力端子では、高周波信号の分周信号と、基準発振器301からの基準周波数信号の分周信号とを比較し、高周波信号の位相が遅れている時には「High」出力、位相が進んでいる時に「Low」出力となり、位相差が無い時にはハイインピーダンス状態「Z」となる。そこで、分周器・位相比較器302からの出力信号をプルアップ回路341でプルアップした信号(P1)と、プルダウン回路343でプルダウンした信号(P2)とをCPU4へ入力し、図14に示すように、CPU4でP1信号とP2信号との論理積(AND)を計算することでHighパルスの幅を、否定論理和(NOR)を計算することでLowパルスの幅を検出することができる(パルス幅検出手段)。したがって、これら2つの計算結果から、基準発振器301からの基準周波数信号に対する位相のズレが算出でき、この結果に基づきVCO305の出力周波数をモニタ(検出)することができる。そして、上記AND計算もしくはNOR計算の結果発生するパルス幅が一定値以上になった場合に、出力周波数が上記分周器・位相比較器302での設定周波数に対応する所定の電圧範囲内から逸脱したことが検出・判定される(=周波数検出手段)。
本変形例によれば、VCO出力の変動を分周器・位相比較器302のパルス幅の形で検知し、これに応じた指向性制御を行うことで、上記実施形態とほぼ同様の効果を得る。
(2)スイッチ手段を用いない場合
上記実施形態及び(1)の変形例では、PLL停止制御手段の一部として、分周器・位相比較器302からループフィルタ304への出力伝達を遮断可能なスイッチ303を設けたが、必ずしもこれを設けなくてもよい。
図15は、そのような変形例のRF通信制御部9に備えられた送信部212Bの要部詳細構成を表す機能ブロック図であり、上記図3及び図13に相当する図である。図3等と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略又は簡略化する。
図15において、この変形例の送信部212Bでは、スイッチ303及びフィルタ回路310が省略されている。そして、ループフィルタ304からの出力(VCO305の制御端子の電圧)がVCO305の出力電圧にほぼ比例するとみなして直接上記A/D変換器332を介してCPU4へ入力され、これによって出力周波数が、上記分周器・位相比較器302での設定周波数に対応する所定の電圧範囲内から逸脱したことが検出・判定される(周波数検出手段)。
また、CPU4から分周器・位相比較器302へは、上記周波数設定のための設定制御信号に加え、PLL制御のON・OFFを直接制御するための制御信号(PLLON・OFF切替制御信号)が出力されるようになっている(後述の図16のステップS220A、ステップS260A参照)。
図16は、この変形例のCPU4が実行する制御手順の一例を表すフローチャートであり、上記実施形態の図12に相当する図である。図12と同等の手順には同一の符号を付し、説明を省略又は簡略化する。
図16において、このフローでは、図12のステップS220及びステップS260に代え、新たにステップS220A及びステップS260Aを設けている。ステップS220Aでは、前述したようにPLL制御をOFFするための制御信号(PLLOFF切替制御信号)が分周器・位相比較器302へと出力される(=PLL停止制御手段)。これにより、分周器・位相比較器302が停止(休止)状態となり、分周器・位相比較器302からループフィルタ304への出力端子がハイインピーダンス状態となる。この結果、上記実施形態において分周器・位相比較器302とループフィルタ304との間に設けたスイッチ303を遮断するのと同様の効果を得ることができる。ステップS260Aでは、上記とは逆にPLL制御をONに復帰させるための制御信号(PLLON切替制御信号)が分周器・位相比較器302へと出力される。その他は図12とほぼ同様である。
本変形例によっても、上記実施形態と同様の効果を得る。
(3)キャンセル回路を備える場合
図17は、本変形例のRF通信制御部9に備えられた送信部212C及びキャンセル回路370の要部詳細構成を表す機能ブロック図であり、上記実施形態の図3に相当する図である。図3と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略又は簡略化する。
図17において、この変形例では、受信部213での信号受信時に、送信部213Cからの送信信号に基づき生じうる不要波(回り込み信号)を相殺するためのキャンセル信号(相殺波)を発生する上記キャンセル回路(相殺波発生手段)370が備えられている。
キャンセル回路370は、上記送信部212CのPLL回路300から分配されて供給された搬送波に基づき上記相殺波であるキャンセル信号を生成するためにその振幅及び位相をそれぞれ制御するキャンセル信号振幅調整部としての増幅器372及び可変抵抗373と、キャンセル信号位相調整部としての移相器371(相殺用移相器)とを備えている。
受信部213は、上記キャンセル回路370の増幅器372、可変抵抗373、及び移相器371により生成されたキャンセル信号と受信アンテナ20で受信した信号とを合波器(図示せず)で合波し、前述の受信第1乗算回路218及び受信第2乗算回路222はその合波信号と上記送信部212Cで発生させられた搬送波とを掛け合わせ、ホモダイン検波を行う。
また、RSSI回路(Received Signal Strength Indicator;信号強度検出手段)226には、受信第1アンプ221及び受信第2アンプ225の出力以外に、上記合波信号も入力され、それらの信号の強度(受信信号強度)を示す信号「RSSI」がCPU4に入力される。CPU4は、上記RSSI回路226からの上記RSSI信号(上記合波器203からの出力信号に対応)に基づき所定の演算を行い、その演算処理結果に応じ、キャンセル回路370の上記可変抵抗373及び移相器371へ振幅制御信号及び位相制御信号(第2位相制御信号)を、D/A変換器362,361を介しそれぞれ出力する。
図18は、本変形例でメモリ6にテーブルの形で記憶した相関を表す図であり、上記実施形態の図10に相当する図である。図18において、図10と同様、上記指向角θの例として、θ=0°と、θ=10°との場合をそれぞれ示している。そして、予め(例えば所定周波数間隔で)設定された複数種類の周波数f1,f2,・・,fxのそれぞれについて、当該指向角θを与えるための位相差φを実現するための移相器206A,206B,206Cへの制御電圧「ANT1移相器制御電圧」「ANT2移相器制御電圧」「ANT3移相器制御電圧」で表す)と、そのときに最適な相殺波を発生するための可変抵抗373への振幅制御信号(「Cancel_ATT制御電圧」で表す)及び移相器371への位相制御信号(「Cancel移相器制御電圧」で表す)が格納保持されている。
図19は、本変形例のCPU4が実行する制御手順の一例を表すフローチャートであり、上記実施形態の図8に相当する図である。図8と同等の手順には同一の符号を付し、説明を省略する。図19では、図8のフローのS120及びステップS200に代えてステップS120A及びステップS200Aを設けている。
ステップS120Aでは、前述と同様、上記フィルタ回路310で電圧変換されA/D変換器322を介し入力される位相差モニタ電圧に応じ、分周器・位相比較器302における周波数設定値を決定する。そして、この周波数設定値と、上記指向角θとに基づき、メモリ6のテーブルを参照してアンテナ21A,21B,21Cに係る位相を決定して対応した位相制御信号(制御電圧)をD/A変換器351,352,353を介し位相制御ユニット203A,203B,203Cに出力する。また同様に上記周波数設定値と上記指向角θとに基づき、メモリ6のテーブルを参照して上記可変抵抗373で発生させるべき抵抗値及び移相器371に係る位相を決定し、これに対応した振幅制御信号(制御電圧)及び位相制御信号(制御電圧)を、D/A変換器362,361を介して可変抵抗373及び移相器371にそれぞれ出力する(第2制御手段)。
図20は、上記ステップS200Aの詳細手順を表すフローチャートであり、上記図12に相当する図である。図12と同等の手順には同一の符号を付している。図20では、図12に示したステップS250に代え、ステップS250Aを設けている。このステップS250Aでは、先にステップS120で設定した周波数を、比較的近い別の値に再設定して対応する設定制御信号を分周器・位相比較器302へ出力するとともに、前述のテーブルを参照してその再設定した周波数に対応した移相器206A〜C、可変抵抗373、移相器371の制御電圧に切り替え、ステップS230へ戻り、同様の手順を繰り返す。このようにして、フィルタ回路310の出力電圧が設定周波数に対応した範囲内となりステップS230の判定が満たされるまで、周波数の設定値の変更及びこれに対応した移相器206A〜C、可変抵抗373、移相器371への制御電圧の切り替えを行う。
以上において、CPU4の実行する図19の制御フローのステップS110、ステップS120A〜ステップS130、ステップS150〜ステップS170が、VCOの発振出力の周波数情報と、送信アンテナ手段の複数のアンテナ素子によるメインローブの方向との所定の相関に基づき、送信側移相器への第1位相制御信号を制御する第1制御手段を構成し、また、これらの手順と、上記移相器206A〜C及びD/A変換器351,352,353が、送信アンテナ手段の複数のアンテナ素子による指向性を一つの方向のみ強くなるように保持しつつ、その方向を順次変化させる送信方向切替手段を構成するとともに、方向切替手段をも構成し、VCOの動作状態に基づき、送信アンテナ手段の指向性を制御する指向性制御手段をも構成する。
本変形例においては、上記実施形態と同様の効果に加え、さらに以下の効果を得る。すなわち、PLL回路300のVCO305から出力された搬送波が可変ゲインアンプ208A〜Cで変調され、送信アンテナ21A〜Cより無線タグ回路素子Toへ送信され、これに対応した無線タグ回路素子Toからの返答信号が受信アンテナ20で受信されるとき、送信信号に基づく不要波成分による受信アンテナ20側への回り込みが発生しうる。この不要波成分は、キャンセル回路370を用いてその移相器371で位相を調整した相殺波により相殺することができる。そして本変形例においては、VCO305の発振周波数が変化するごとにステップS250A、ステップS120Aで移相器371への位相制御信号を切り替え、これを移相器371へ出力することで、上記周波数変化にも追従し確実な不要波の相殺を行うことができる。
なお本変形例においても、上記(2)の変形例と同様に、スイッチ手段を用いることなくPLL停止制御を行うようにしてもよい。
(4)周波数ずれを算出して現在の周波数を推測する場合
上記実施形態においては、フィルタ回路310で検出しA/D変換器322を介し入力した位相差モニタ電圧信号により、現在のVCO305の出力周波数を検出しこれに応じて指向性制御を行ったが、これに限られない。すなわち、上記位相差モニタ電圧信号により、現在のVCO305の出力周波数の初期設定値からのずれを算出し、このずれに基づき初期設定値を補正して現在周波数を推測して用いるようにしてもよい。
図21は、本変形例でメモリ6にテーブルの形で記憶した相関を表す図であり、上記実施形態の図10に相当する図である。図21において、図10と同様、上記指向角θの例として、θ=0°と、θ=10°との場合をそれぞれ示している。そして、予め(例えば所定周波数間隔で)設定された複数種類の周波数f1,f2,・・,fxのそれぞれについて、当該指向角θを与えるための位相差φを実現するための移相器206A,206B,206Cへの制御電圧「ANT1移相器制御電圧」「ANT2移相器制御電圧」「ANT3移相器制御電圧」で表す)が格納保持されている。また本変形例では、これらとは別に、フィルタ回路310で検出されA/D変換器322を介し入力される位相差モニタ電圧信号の値(この例では幅をもたせた所定範囲ごとに区分されている)と、それら各値に対応する周波数初期設定値からのずれ値との相関も、格納保持されている。
図22は、本変形例のCPU4が実行する制御手順の一例を表すフローチャートであり、上記実施形態の図8に相当する図である。図8と同等の手順には同一の符号を付し、説明を省略する。図22では、図8のフローのS120とステップS130との間に新たにステップS125を設け、またステップS200に代えてステップS200Bを設けている。
ステップS120で、前述のようにして位相差モニタ電圧に応じ、分周器・位相比較器302における周波数設定値を決定し、この周波数設定値と、上記指向角θとに基づき、メモリ6のテーブルを参照して位相制御信号を位相制御ユニット203A,203B,203Cに出力した後、ステップS125に移る。ステップS125では、前述の周波数ずれ値を置き換え可能に順次格納する周波数ずれ保持レジスタに、初期値として0を設定する。このステップS125が終了したら、前述と同様のステップS130に移る。
図23は、上記ステップS200Bの詳細手順を表すフローチャートであり、上記図12に相当する図である。図12と同等の手順には同一の符号を付している。図23では、図12に示したステップS230に代えステップS230Aを設け、ステップS220とステップS230Aとの間に新たにステップS235を設け、さらにステップS230AとステップS250との間にステップS245を新たに設けている。
ステップS220で、前述したようにPLL回路300のスイッチ303が遮断状態(OFF)となって、このときのVCO305の出力に対応した電圧がフィルタ回路310に入力され、その出力電圧が位相差モニタ電圧としてCPU4へ入力され、ステップS235では、その位相差モニタ電圧に基づき、上記図21のテーブルを参照して現在の周波数がステップS120で設定した周波数よりどれだけずれているか(指標値。図21では「−2a」「−a」「0」「a」「2a」で表している)を算出する。
その後ステップS230Aに移り、上記ステップS235で導出した現在の周波数ずれ値が、この時点でのレジスタへの格納値(最初は上記ステップS125で設定した「0」)と一致しているかどうかを判定する(=周波数検出手段)。
一致していれば判定が満たされ、前述と同様のステップS240以降に移る。一致していなければ、ステップS245に移り、上記ステップS235で導出した現在の周波数ずれ値を、新たにレジスタへ格納し更新する。
その後、上記ステップS250へ移り、前述と同様、先にステップS120で設定した周波数を、比較的近い別の値に再設定して対応する設定制御信号を分周器・位相比較器302へ出力するとともに、前述のテーブルを参照してその再設定した周波数に対応した移相器206A〜Cの制御電圧に切り替え、ステップS235へ戻り、同様の手順を繰り返す。このようにして、フィルタ回路310の出力電圧に基づき算出される周波数ずれ量がレジスタ内に格納されている値と一致しステップS230Aの判定が満たされるまで、周波数の設定値の変更及びこれに対応した移相器206A〜Cへの制御電圧の切り替えを行う。
以上において、CPU4の実行する図22の制御フローのステップS110、ステップS120、ステップS125、ステップS130、ステップS150〜ステップS170が、VCOの発振出力の周波数情報と、送信アンテナ手段の複数のアンテナ素子によるメインローブの方向との所定の相関に基づき、送信側移相器への第1位相制御信号を制御する第1制御手段を構成し、また、これらの手順と、上記移相器206A〜C及びD/A変換器351,352,353が、送信アンテナ手段の複数のアンテナ素子による指向性を一つの方向のみ強くなるように保持しつつ、その方向を順次変化させる送信方向切替手段を構成するとともに、方向切替手段をも構成し、VCOの動作状態に基づき、送信アンテナ手段の指向性を制御する指向性制御手段をも構成する。
本変形例においても、上記実施形態と同様の効果を得る。
なお本変形例においても、上記(2)の変形例と同様に、スイッチ手段を用いることなくPLL停止制御を行うようにしてもよい。また、上記(3)の変形例と同様、キャンセル回路を設けて不要波を低減するようにしてもよい。
(5)受信側も指向性制御を行う場合
以上においては、指向性制御(特にフェイズドアレイアンテナ制御)を送信アンテナ側にのみ行ったが、これに限られず、受信アンテナ側にのみ(この場合は送信アンテナは上記受信アンテナ20のように1素子構成でよい)、あるいは送信アンテナ・受信アンテナの双方について行ってもよい。
図24は送信アンテナ・受信アンテナの両方に指向性制御を行う変形例のRF通信制御部9に備えられた送信部212D等の要部詳細構成を表す機能ブロック図であり、上記図3や(1)の変形例の図15に相当する図である。図15と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略又は簡略化する。
図24において、本変形例では、送信アンテナ21A,21B,21Cに代えて送受兼用のアンテナ21A′,21B′,21C′とする(=送信アンテナ手段、受信アンテナ手段)ともに、位相制御ユニット203A,203B,203Cの可変ゲインアンプ208A,208B,208Cとアンテナ21A′,21B′,21Cとの間に、送受分離器22A,22B,22Cを設けている。そして、送受分離器22A,22B,22Cと上記受信部213との間に、受信側の位相制御ユニットを構成する(送信側の上記移相器206A,206,206Cと同等の機能を備えた)移相器204A,204B,204Cを設けている。
送受分離器22A,22B,22Cは例えばサーキュレーダ等から構成され、送信側の位相制御ユニット203A〜203Cの可変ゲインアンプ208A〜C、又は、受信側の移相器204A〜Cと、アンテナ21A′〜C′とを、一方向的に接続する(可変ゲインアンプ208A〜Cからの信号をアンテナ21A′〜21C′に伝送すると同時に、アンテナ21A′〜21C′で受信した信号を移相器204A〜Cにそれぞれ伝送する)。
受信側の移相器204A〜Cは、CPUI4からD/A変換器361,362,363を介し位相制御信号を入力し、これに応じてアンテナ21A′〜21C′における受信電波信号の位相を可変に設定し、(詳細な説明は省略するが)送信側と同様の指向性制御(この例では特にフェイズドアレイアンテナ制御等)を行う(受信方向切替手段)。受信部213は、アンテナ21A′〜21C′で受信され上記受信側位相器204A〜Cを経て図示しない加算器で合算された無線タグ回路素子Toからの反射波と上記送信部212で発生させられた搬送波とを乗算して前述の復調(特にホモダイン検波)を行う。
本変形例によっても、上記実施形態と同様の効果を得る。また、送信時にも受信時にも、いわゆるフェイズドアレイアンテナ制御による手法による通信を実行し、通信対象である無線タグ回路素子Toとの通信における利得が最も大きい方向にアンテナ21A′〜C′の指向性を制御することができる。
なお、以上で用いた「Scroll ID」信号等は、EPC globalが策定した仕様に準拠しているものとする。EPC globalは、流通コードの国際機関である国際EAN協会と、米国の流通コード機関であるUniformed Code Council(UCC)が共同で設立した非営利法人である。なお、他の規格に準拠した信号でも、同様の機能を果たすものであればよい。
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。