ここ数十年において、無線および超大規模集積回路(VLSI)が進化したことで、消費者向けのアプリケーションに無線通信が大幅に使用されるようになってきた。移動無線装置のような携帯デバイスは、現在、無難なコスト、サイズおよび消費電力で生産されている。消費者市場における移動電話通信は、警察や救助活動のサービスから派生した電話システムから始まり、70年代や80年代に改良および最適化されたアナログ技術が基本となっている。
それらのアナログ電話システムの例には、ノルディックモバイル電話(NMT)やトータル・アクセス通信システム(TACS)がある。実際のところ、移動電話の利用は、デジタル技術を基礎とした移動電話システムの導入に伴い90年代に開始された。これらのデジタル技術を基礎とした移動電話システムには、GSM、D−AMPS、およびPDCなどがある。一般的に、アナログシステムは、第1世代と呼ばれるのに対し、デジタルシステムは、第2世代と呼ばれる。
現在、第3世代システムが、開発され続けているところである。この第3世代のシステムは、2つの異なる開発経路に区別されうる。一方の開発経路では、前世代とは異なる技術に基づいた完全に新たなシステムを検討するものである。例えば、デジタル方式ではあるが、ヨーロッパ、アジアおよびアメリカで開発されているUMTSのような第3世代システムは、広帯域の送信技術を基礎としている。一方、ほとんどの第2世代システムは、狭帯域の送信技術を基礎としている。他方の開発経路では、現行の第2世代システムにおける高速データ通信(以下では、高速通信と同意義で使用される。)を検討するものである。この例としては、GSMやD−AMPSに適用されるEDGEモードがある。後者において、第2世代システムは、高速通信モードを使用することで、第3世代のシステムへと更新される。
さらに高速のデータ通信のような専用の機能を追加することによって、現行のシステムを更新するといった一般的な傾向は、興味深いものである。なぜなら、制御や移動性をサポートするようなシステムの基本機能については、依然として、既存のシステムオペレーションを基礎として使用でき、専用のモードだけが新しい機能を使用すればよいからである。また、現行の携帯デバイスとの互換性も、保証されている。
専用の高速リンクを確立するための現状の解決方法における制限は、送信機および受信機の両方が高速データ通信をサポートする能力を有しなければならないことである。一見すると、多くのアプリケーションにおいて、高速データ通信が要望されているが、これがすべてというわけではない。すなわち、データ転送速度のさらなる向上は、一方の方向においてのみ要望されている。例えば、ラップトップがBluetooth(登録商標)のような短距離の無線リンクを介してプリンタにファイルをダウンロードする場合、データ転送速度の向上は、ラップトップからプリンタへの方向にのみ必要とされている。プリンタからラップトップへのリターン(応答)チャネルは、ベーシックデータリンク制御(DLC)メッセージおよび信号制御に関する他のリンクをサポートすることだけが要求されるにすぎない。したがって、リターンチャネルは、容易に既存の無線リンクによってサポートされうる。プリンタのような情報受信装置は、高速通信で受信を行うための進化した受信機を備えることが望ましい。一方、プリンタのような情報受信装置は、単純なタイプの送信機を備えれば十分であろう。単純なタイプの送信機は、プリンタから見た送信方向において、低速のデータ通信(以下では、低速通信と同意義で使用される。)のみをサポートすればよい。一方、上述したような例は、典型的な情報送信装置にも当てはまる。
以下では、デジタルカメラを例として説明する。ユーザは、カメラから写真を高速で取り出すことを望んでいるが、カメラへ写真を高速で伝送することは望んでいない。したがって、カメラは、高速データ通信をサポートするための進化した送信機を備えることが望ましい。一方、受信機は、かなり単純であることが望ましい。高速通信を行う無線送信機の複雑さは、高速通信を行う無線受信機の複雑さとは非常に異なる。そのため、速度条件が非対称となっていることを考慮することで、高速モードを追加することの利点がさらに増大しよう。
したがって、速度条件に非対称性が存在する場合に、コストを低減するとともに、高速モードをサポートしうるシステムのための技術が必要とされている。
以下では、図1から図8を参照して説明する。なお、本明細書において、本発明の本質を説明するために記載される様々な実施形態は、図示されている形態のみではない。すなわち、記載されている様々な実施形態は、本発明の範囲を限定するものではない。当業者は、本発明の本質が非対称的なデュアルモード無線通信におけるいくつかの適切に変形されたシステムに実装されてもよいということを理解するであろう。
無線通信装置は、大西洋を横断する最初の無線メッセージを送るために前世紀の変わり目に使用されていたマルコーニ製の無線通信装置と比較して大幅に改良されている。しかしながら、シリコン集積回路の出現に伴って、サイズ、消費電力および価格が格段に低減されてきたにも関わらず、基本的な無線トランシーバの機構は、それほど変化していない。図1は、対称的な使用方法における既存のシングルモードのトランシーバ100を示す図である。情報は、入出力インタフェースを介してホストシステム(例えば、セルラー方式の電話、PDAまたはいくつかの他の電子装置)によって提供される。多くの現行のシステムにおいて、上記情報は、既にデジタルフォーマット化されている。
MAC、DLC制御部102は、無線インタフェースを介して伝送するために上記情報を加工する。例えば、追加制御情報は、誤り制御ビットの形式で付加される。追加制御情報は、媒体アクセス制御(MAC)方式の型によって決められてもよい。また、規定時間内の適切なタイミングで、そのデータは、無線チャネル上に送信されるように準備される。ベースバンド制御装置104は、上記情報をパケット化し、デジタルビットは、RF送信に適した符号にマッピングされる(さらに、誤り制御情報が付加されてもよい。)。その後、このベースバンド信号は、無線送信部106に提供される。そこで、ベースバンド信号は、適切に加工されて適切なRF周波数(例えば、0.5GHzから5GHzの間の範囲で)に変換される。さらに、ベースバンド信号は、電力増幅器(PA)107によって増幅され、アンテナ108によって送信される。
リターン(応答)パスにおいて、RF信号は、アンテナ108によって取り込まれる。取り込まれたRF信号は、低雑音増幅器(LNA)110によって増幅され、低周波に変換され、無線受信部112でフィルタリングされる。ベースバンド制御装置114は、時間的な調節および周波数同期がなされた状態で適用される。そこで、信号が取り出されて、ビットにマッピングされる。誤り訂正符号や同等な技術のみならず他の復号技術が適用されてもよい。その後、受信パケットのペイロードは、MAC/DLC制御装置102に提供される。MAC/DLC制御装置102では、DLCプロトコルによるチェックおよび処理がさらに適用される。最後に、受信情報は、入出力インタフェースに提供され、ホストシステムに提供される。
今日、多くのシステムは、例えば、高速データ通信を改良するために追加のモードなど、特定の機能が適用されている。一例として、GSMを基本とするセルラー方式の携帯電話には、パケット交換通信や高速データ通信のために追加されたEDGEモードが含まれる。他の例としては、Bluetoothがあり、高速通信モードが開発されている。GSMまたはBluetoothにおけるトランシーバにおいて、基本の無線装置は、基本的なエア・インタフェースのみをサポートしているため、追加の回路構成は、高速通信モードをサポートしなければならない。例えば、GSMにおいて、基本的なGSMのエア・インタフェースは、GMSKを使用する。GMSKは、クラスCの送信機および制限付の受信機を実現可能な、定包絡の非線形変調方式である。一方、EDGEは、より進化した無線送信機および無線受信機を必要とする線形の8値PSK変調を使用する。同様に、基本的なBluetoothのエア・インタフェースは、1MHz帯域で定包絡の非線形変調方式であるGFSK変調を採用しており、これにより、クラスCの送信機および制限付の受信機を実現している。開発中の高速通信モードは、より線形な送信機および受信機を必要とする4MHz帯域のPSK変調を使用する。
図2は、対称的な使用方法における既存のデュアルモードトランシーバを示す図である。回路202は、既存のエア・インタフェースをサポートしている。なお、回路202は、送信側でベースバンド送信部1および無線送信部1を含み、受信側でベースバンド受信部1および無線受信部1を含む。また、回路204は、高速データ通信をサポートする。なお、回路204は、送信側でベースバンド送信部2および無線送信部2を含み、受信側でベースバンド受信部2および無線受信部2を含む。どの通信モードが使用されるかに依存して、物理(PHY)制御装置は、回路202または回路204を選択する。
実際に、多くのアプリケーションは、トラフィック動作が非常に非対称的となっている。図3aは、一例として、デジタルカメラ302での非対称的な適用例を示す図である。デジタルカメラ302への入力は、ユーザによって撮影された写真である。また、ユーザは、撮影した写真をディスク記憶装置、PC304またはカラープリンタなどの他の媒体に取り込むために転送することを望むであろう。これは、デジタルカメラ302と上述した他の媒体との間で無線リンクを介して実現される。しかしながら、主要なデータの流れは、常にデジタルカメラ302から外部の媒体への方向となり、他の方向となることはない。
図3bは、他の例として、プリンタ308での非対称的な適用例を示す図である。ユーザは、印刷するために、ラップトップ、PDA308、セルラー電話装置およびデジタルカメラ302のような携帯デバイスからプリンタ306へ無線通信によりデータを転送しうる。もちろん、プリンタ306から携帯デバイスへのデータ送信はない。そのため、基本的に、プリンタは、受信機のみを必要とする。しかし、不図示の情報受信装置における他の例では、セルラーネットワークを介してインターネットを閲覧するためのディスプレイを有するブラウザ装置がある。これらの主要なトラフィック(データ通信)は、ネットワークからブラウザへの通信であり、逆方向の通信はない。
これらの例は、トラフィックを処理するために送信機または受信機のみを必要とする多くのアプリケーションが存在することを示している。しかしながら、機能をサポートするためには、常に、双方向の接続が必要とされる。初期接続の確立の際に、当該接続における両端の装置は、チャネル、認証、暗号化や他の管理機能に関する情報を交換できることが必要とされる。また、データ通信において、自動再送プロトコルは、受信側で破棄されたメッセージを再送するためによく使用される。それらのサポート機能の全てが極めて高速なデータ通信に必要とされるわけではないが、何れかのユニットに結合された送信機または受信機は必要とされる。しかしながら、接続が確立されるとすぐに、高速通信リンクは、データの流れを速度アップさせるために一方向おいて採用されるようにしてもよい。リターン方向の制御情報は、(低速な)ベーシックリンク上で伝送されてもよい。
図4は、非対称な接続400を行うデュアルモードを表す図である。制御リンク(Link_1 control)402は、ユニットA406およびユニットB404の間で制御情報の交換を行うための双方向リンクである。トラフィックリンク(Link_2 traffic)408は、ユニットA406からユニットB404へのユーザ情報を伝送するための単方向リンクである。この場合、ユニットA406およびユニットB404は、制御リンク402用の送信機および受信機の両方を必要とする。しかしながら、トラフィックリンク408用については、ユニットA406は、送信機のみを必要とし、ユニットB404は、受信機のみを必要とする。本実施形態によるユニットA406におけるデュアルモードトランシーバの機構の一例を図5aに示す。
図5aは、本実施形態による非対称的な使用における進化した送信機を備えるデュアルモードトランシーバ500を示すブロック図である。図5に示すように、高速通信信号を処理するための進歩した受信回路である高速通信用の受信機「チェーン(chain)」は、存在しない(すなわち、高速通信用および低速通信用の両方の受信機を含んで構成されていない。)。例えば、Bluetoothやその高速通信モードの場合に、受信部は、基本的なBluetoothの受信機502のみを含む。受信機502は、制限付の非同期式に基づいている。高速通信モードをサポートするために、送信部のみが、より進化したシグナリング方式をサポートするように変更されることが必要とされる。図5aのトランシーバ500に示すように、ベーシック(基本的)な送信機504は、進化した送信機506によって機能が拡張される。
一方、図5bは、本実施形態による非対称的な使用における進化した受信機を備えるデュアルモードトランシーバ550を示すブロック図である。ここで、トランシーバ550には、リンク1のためのベーシックな送信機552のみが含まれる。ベーシックな受信機554および進化した受信機556の両方は、情報受信装置に実装されることとなる。Bluetoothの高速通信版向けの進化した受信機556は、線形であってもよく、この場合、等化処理技術や、他の進化した信号処理技術を使用することになろう。要するに、通常の使用方法に対応して、トランシーバに進化したエア・インタフェースの送信部または受信部を実装することで、デュアルモードトランシーバ500、550の両方の実装においてコストを削減できるのである。
通信プロトコルは、通常、OSI階層モデルに従って構成される。本発明において、OSI階層モデルの下位層のみが考慮される(すなわち、アプリケーション層およびプレゼンテーション層については、言及しない。)図6は、ユニットAおよびユニットBのプロトコルスタックを示す図である。ユニットAおよびユニットBは、既存のデュアルモード無線機能をトランシーバに備えており、これは、リンク1およびリンク2上で双方向通信を実行することが想定されている。一方のユニットにおける各層は、他方のユニットの層にそれぞれ対応している。点線は、リンク1でサポートされるプロトコルを示し、実線は、リンク2でサポートされるプロトコルを示す。
図7は、本実施形態におけるユニットAからユニットBの方向のみで高速通信リンクを使用する当該ユニットAおよび当該ユニットBのプロトコルスタックを示す図である。詳細には、リンク2に対するリターンリンクは、リンク1の物理層1(PHY_1)およびMAC層1(MAC_1)の両方を適用する。この意味は、リンク2のトラフィックに関するいずれの制御情報(例えば、パケット認証情報)もリンク1によって伝送されるということである。また、リンク2にマッピングされている通信媒体上では、リターンリンクが全く見えないということを意味する。一例として、従来のBluetoothにおける高速通信モードは、1MHzのチャネル帯域幅で周波数ホッピング方式を使用する。チャネルは、2.4GHzのISMバンドにおいて約80MHzの範囲をホップする。従来文献(従来文献は、J.C.Haartsenによる「不規則な周波数ホッピングにおける資源管理」を名称とする1999/8/30に出願の米国特許6,519,460号公報)によれば、4MHzの固定チャネルを使用する高速通信モードが開示されている。この4MHzは、動的なチャネル選択アルゴリズムによって、2.4GHzのISMバンドにおける80MHz帯域内のいずれかに位置づけられている。図7における実施形態において、ユニットAからユニットBへのトラフィックは、4MHz幅の広帯域チャネル上で伝送される。しかしながら、再送処理に関する対応の応答確認情報(Ack)およびフロー制御情報は、周波数ホッピングチャネル上で伝送される。4MHzチャネルへのアクセスおよびFHチャネルへのアクセスは、完全に分離されている。したがって、ユニットBにおいて、広帯域での受信のためのMAC2の機構と、リターンリンクにおける狭帯域での送信のためのMAC1の機構とは、完全に分離されている。これは、フォワードの流れとリターンの流れとが、DLC層のレベルで分割されていることを意味する。同様に、ユニットAにおいて、広帯域送信のためのMAC2の機構と、リターンにおける狭帯域受信のためのMAC1の機構とは、完全に分割されている。
図8は、本発明に係る他の実施形態による非対称的な使用法における進化した受信機を有するデュアルモードのトランシーバで低速モードと高速モードをサポートするOSI階層モデルを示す図である。本実施形態は、高速でのフォワード方向の送信と、ベーシックな速度でのリターン方向の送信との両方で、MACプロトコルを使用するものである。しかしながら、物理層は、フォワードリンクとリターンリンクとで異なる。これは、リターンリンクは、フォワードリンクと同一の媒体および同一の接続技術を適用することを意味している。しかし、パケット化方式およびRF変調方式については、高速通信およびベーシック速度の通信おける各物理層に対応するものが使用される。Bluetoothおよびその高速通信モードにおいて、これは、リターンリンクがフォワードリンクと同一の固定RF周波数を使用することを意味する。しかし、これは、リターンリンクが既存の狭帯域変調およびパケットを使用することも意味する。本実施形態において、送信および受信の流れは、MAC層で分割する。
分散されたMACプロトコルが使用された場合、送信機および受信機両方の実施形態は、必要以上の複雑さをもたらすこととなる。なぜなら、高速通信チャネルを利用している他のユニットの高速通信用受信機が、リターンリンクにおける狭帯域の送信信号を復号できないからである。これは、ユニットBが高速通信チャネルに対して低速通信チャネルで応答するという事実を、高速通信チャネルを介して他のユーザに通知することによって解消される。各ユニットは、リターンチャネルで受信できるようにするためにベーシックモードへ切り替えることができる。或いは、各ユニットは、リターンメッセージが通信媒体を占有する継続時間を考慮に入れてもよい。
上述したように、本発明は、非対称なデュアルモードトランシーバに係る。本トランシーバは、ベーシックな(基本)速度または低速の通信で送信および受信を実行できるが、高速通信に関しては、受信のみまたは送信のみを実行できる。高速通信チャネル上で送信される情報に関連するフィードバック情報または制御情報は、低速通信チャネルによって伝送される。本発明は、受信のみを行うアプリケーションにおいて複雑な送信機を省き、コストを低減しうる。一方、本発明は、送信のみを行うアプリケーションにおいて、複雑な受信機を省くことでコストを低減しうる。
以上説明したように、本発明における無線装置は、リターンリンクの情報を既存の受信機で受信する一方で、わずかな追加実装コストで、高速通信での情報送信を可能としうる。