関連出願
本願は、2003年8月15日に出願された、米国仮特許出願60/414,550の優先権を主張する、また、米国特許出願第10/047,710号(2002年1月15日に出願され、2001年2月15日に出願された米国仮特許出願第60/269,133号の優先権を主張する。)の一部継続出願である。これらの先行出願の全ての内容は、参照により、本明細書中に完全に組み込まれる。
政府の利益についての記載
本願の主題は、米国メリーランド州ベセスダの国立衛生研究所(NIH)からの研究助成金(Grant Numbers AI 16790−21、ES 04050−16、AI 45541、CA09432及びN01−CM97567による支援を受けた。合衆国政府は、本発明に対して一定の権利を有し得る。
発明の分野
本発明は、微生物によって分泌される細胞毒性因子、細胞毒性因子の阻害剤並びに細胞成長アレスト(cellular growth arrest)を引き起こすことにおける及びネクローシス及びアポトーシスによる細胞死の調節におけるそれらの使用に関する。本発明は、このような細胞毒性因子を作出し、単離し、同定する方法、並びに細胞死を調節し、及び細胞成長アレストを引き起こす上で有用な、実質的に純粋な細胞毒性因子を取り込む組成物にも関する。本発明は、アポトーシス関連症状を治療する方法にも関する。より具体的には、本発明は、癌細胞におけるアポトーシス又は細胞成長アレストを誘導する方法における、実質的に純粋な細胞毒性因子の使用、及び感染又は病原体によって誘導される他の症状を治療するための細胞毒性因子の阻害剤の使用に関する。
背景
感染性疾患は、数多くの環境因子によって起こり得る。あらゆる感染性疾患の根底に存在するのは、原因となる感染因子である。感染性因子は、典型的には、病原性微生物、例えば、病原性細菌である。防御機構に打ち勝って疾病を引き起こす、病原性微生物の程度又は能力は、その毒性に関連する。病原性微生物と非病原性微生物の両方が、細胞毒性因子を発現することが知られており、微生物は、細胞毒性因子によって、宿主の免疫系から自己を防衛し、貪食細胞(例えば、マクロファージ及び肥満細胞)による身体からの微生物の排除を防ぐことができる。病原性微生物が生き残ると、微生物が宿主の組織に侵入し、増殖して、重い病徴を引き起こし得る。病原性細菌は、例えば、結核、コレラ、百日咳、ペストなどの、様々な衰弱性疾患又は致死的疾患の根本的原因として同定されてきた。このような重い感染症を治療するために、感染性因子を死滅させる薬物、又は感染性因子が宿主の免疫系に対して自己を防御できなくするように細胞毒性因子を不活化する薬物(例えば、抗生物質)が投与される。しかしながら、病原性細菌は、一般に、抗生物質に対する耐性を生じ、このような微生物による感染の伝播を防ぐためには、改良された薬剤が必要とされる。
癌は、限りなく増殖し得る悪性腫瘍である。癌は、主として、ヒトの体内に見られる様々な種類の細胞の病原性の複製(正常な制御コントロールの喪失)である。疾患の最初の治療は、多くの場合、手術、放射線治療又はこれらの治療の組み合わせであるが、局所的に、再発性及び転移性疾患が頻繁に起こる。一部の癌に対しては化学療法治療を使用することができるが、これらは、長期の退行を誘導することはめったにない。このため、多くの場合、それらは、治癒効果がない。一般に、腫瘍及びそれらの転移は、多剤耐性の発生として知られる現象において、化学療法に対して耐性を生じる。多くのケースで、腫瘍は、化学療法剤の一部のクラスに対して、本来的に耐性を有する。さらに、このような治療は、非癌細胞を脅かし、ヒトの身体に対してストレスを与え、数多くの副作用を生じる。従って、癌細胞の伝播を抑制するための改良された薬剤が必要とされている。
多くの癌は、患者が病原性細菌に感染したときに退行することが知られている。しかしながら、細菌感染がヒトの癌の退行を引き起こす機序についてはほとんど知られていない。
要約
本発明は、ネクローシス若しくはアポトーシスによる細胞死を刺激し、又は細胞成長アレストを引き起こす細胞毒性因子に関する。一つの側面では、実質的に純粋な細胞毒性因子が特定され、単離された。実質的に純粋な細胞毒性因子は、病原性微生物に曝露された増殖培地のカラムクロマトグラフィー分画によって得られる。好ましくは、このような細胞毒性因子の産生及び分泌は、哺乳類タンパク質の存在下で病原性生物を増殖させる間に刺激される。
本発明の別の側面では、病毒性(virulent)及び非病毒性(avirulent)微生物を描出する手段として、哺乳類タンパク質に対する受容体を同定することによって、疾患の治療に対する特異性を向上させることができる。
本発明の別の側面は、細胞死耐性又は感受性に関連した症状を治療する方法であって、必要に応じて薬学的担体中に取り込まれた、細胞毒性因子、細胞毒性因子の阻害剤又はそれらのバリアント若しくは誘導体を投与する工程を含む方法に関する。
細胞毒性因子又はそのバリアント若しくは誘導体は、異常な細胞増殖に関連する症状の予防又は治療において使用するために、薬学的組成物中に取り込ませることができる。例えば、細胞毒性因子は癌を治療するために使用することができる。
細胞毒性因子の阻害剤又はそのバリアント若しくは誘導体は、食細胞による細胞死を抑制し、これにより、宿主免疫系が侵入する病原体を撲滅できるようにすることによって、細菌感染を治療するために使用することができる。
本発明の別の実施形態では、細胞毒性因子及びそれらの分泌機構の成分を、感染性因子に対するワクチンの候補として使用することができる。
本発明は、細胞毒性因子の分泌をコントロールする工程を含む、細胞死を調節する方法にも関する。一実施形態において、細胞毒性因子は、ヒト癌細胞の宿主に対する抗がん剤として使用することができる。細胞毒性因子は、スクリーニングを通じて、又は阻害剤の合理的な設計を通じて、薬物開発に対する標的として使用することもできる。
本発明は、アズリン、プラストシアニン、ラスチシアニン、シュードアズリン若しくはシトクロムc551などの細胞毒性因子、又はこのような細胞毒性因子の変異体などを使用することを含む、細胞死を調節する方法にも関する。
本発明のこれら及びその他の側面、利点及び機能は、以下の図面及び好ましい実施形態の詳細な説明によって明らかとなるであろう。
実施形態の詳細な説明
定義
本明細書の記載おいて、「細胞毒性因子」という用語は、病原性又は非病原性微生物によって分泌される因子であって、ネクローシス若しくはアポトーシスによる細胞死を刺激する、又は細胞成長アレストを引き起こす因子を表す。細胞毒性因子の例には、アズリン、プラストシアニン、ラスチシアニン、シュードアズリン又はシトクロムc551が含まれる。「ATP依存性」という用語は、「細胞毒性因子」という用語を修飾するために使用される場合、アデノシン5’−三リン酸(ATP)の存在下で、細胞死又は細胞成長アレストを引き起こすように作用する細胞毒性因子を表す。「ATP非依存性」という用語は、「細胞毒性因子」という用語を修飾するために使用される場合、ATPの不存在下で、細胞死又は細胞成長アレストを引き起こすように作用する細胞毒性因子を表す。
本明細書の記載において、「治療」という用語には、治療されている症状(condition)又は症候(symptoms)の進行又は重症度を抑え、低下させ、停止させ又は逆転させることが含まれる。このため、「治療」という用語には、医学的、治療的及び/又は予防的投与が適宜含まれる。
本明細書において使用される「細胞死に対する耐性に関連する症状」という用語は、適切な熟練した医師又は臨床家によって測定されたときに、同種の健康な細胞と比べた場合、細胞寿命が少なくとも延長する傾向があることを特徴とする疾患(disease)、状態(state)又は病気(ailment)を表す。本明細書において使用される「細胞死に対する感受性に関連する症状」という用語は、適切な熟練した医師又は臨床家によって測定されたときに、同種の健康な細胞と比べた場合、少なくとも未成熟な細胞死(premature cell death)の傾向があることを特徴とする疾患、状態又は病気を表す。
本明細書において使用される「機能的p53腫瘍抑制遺伝子を有する」という用語は、不活化されておらず、変異されておらず、喪失されておらず、又は産生下にないp53腫瘍抑制遺伝子を有する細胞を表す。
本明細書において使用される「p53腫瘍抑制遺伝子の欠損」という用語は、不活化され、変異され、喪失され、又は産生下にあるp53腫瘍抑制遺伝子を有する細胞を表す。例えば、このような欠損は、p53遺伝子内の遺伝的異常の結果として、又はウイルスと細胞の癌遺伝子との相互作用の結果として起こり得る。
本明細書において、「細胞毒性因子」という用語を修飾するために使用される場合、「実質的に純粋な」という用語は、例えば、活性な阻害的化合物を実質的に含まず、又は活性な阻害的化合物が混在しない形態で、分泌された増殖培地から単離された細胞毒性因子を表す。「実質的に純粋な」という用語は、単離された画分の少なくとも約75重量%の量の因子、すなわち少なくとも「75%実質的に純粋」な因子を表す。より好ましくは、「実質的に純粋な」という用語は、少なくとも約85重量%の化合物、活性化合物、すなわち少なくとも「85%実質的に純粋」であることを表す。実質的に純粋な細胞毒性因子は、一又は複数の他の実質的に純粋な化合物又は単離された細胞毒性因子と組み合わせて使用することができる。
本明細書において使用される、細胞毒性因子の「バリアント又は誘導体」という用語は、細胞毒性因子又は細胞毒性因子をコードする遺伝子の化学的修飾又は操作によって得られる化合物(compound)又は物質(substance)を表す。細胞毒性因子のバリアント又は誘導体は、細胞毒性因子の化学的修飾によって、又は細胞毒性因子をコードする遺伝子の操作によって、例えば、細胞毒性因子の基本的な組成又は特性を変化させるが、その毒性は変化させないことによって、取得することができる。同様に、細胞毒性因子の阻害剤の「バリアント又は誘導体」には、阻害剤の化学的構造に対する化学的修飾又は阻害剤をコードする遺伝子の操作が含まれ得る。
「パーセント(%)」アミノ酸配列同一性という用語は、2つの配列のアラインメントを行ったときに、候補配列中のアミノ酸残基と同一である、細胞毒性因子中のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。%アミノ酸同一性を決定するためには、配列のアラインメントを行い、必要であれば、最大%配列同一性を達成するためにギャップを導入する;保存的置換は配列同一性の一部と考えない。パーセント同一性を決定するためのアミノ酸配列のアラインメントの手順は、当業者に周知である。BLAST、BLAST2、ALIGN2又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような、多くの場合、公に頒布されているコンピュータソフトウェアを使用して、ペプチド配列のアラインメントが行われる。
アミノ酸配列のアラインメントを行う場合、あるアミノ酸配列Bへの、あるアミノ酸配列Bとの又はあるアミノ酸配列Bに対する、あるアミノ酸配列Aの%アミノ酸配列同一性(あるアミノ酸配列Bへの、あるアミノ酸配列Bとの又はあるアミノ酸配列Bに対する%アミノ酸配列同一性を有し、又は含む、あるアミノ酸配列Aという表現で表すこともできる。)は、以下のようにして計算することができる。
%アミノ酸配列同一性=X/Y×100
(Xは、配列アラインメントプログラム又はアルゴリズムのA及びBのアラインメントによって、合致するとしてスコアが付与されたアミノ酸残基数であり、
Yは、B中のアミノ酸残基の総数である。)
アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくなければ、Bに対するAの%アミノ酸配列同一性は、Aに対するBの%アミノ酸配列同一性と等しくないであろう。
「治療的有効量」とは、治療されている患者の既存の症候の発生を抑え、又は緩和するのに有効な量である。治療的有効量の決定は、当業者の能力の範疇にある。
総論
本発明は、病原性又は非病原性微生物によって分泌される細胞毒性因子であって、ネクローシス若しくはアポトーシスによる細胞死を刺激し、又は細胞成長アレストを引き起こす細胞毒性因子を提供する。病原性微生物がヒト又は動物組織に侵入した場合、食細胞が宿主免疫系における第一陣の防御である。典型的には、食細胞は、身体に侵入している外来病原体を見つけ出し、破壊する。しかしながら、微生物病原体によって分泌される細胞毒性因子は、食細胞に細胞死を刺激することができる。このため、食細胞は、それらの防御的免疫機能を発揮することができなくなる。
本発明者らは、多くの病原性細菌が、ネクローシスによる食細胞死を引き起こすATP依存性の細胞毒性因子(例えば、ATPを使用する酵素)を分泌することを、以前に報告した。[Zaborina O. et al., Infect. Immun. 67:5231−5242(1999); Melnikov A. et al., Mol. Microbiol. 36:1481−1493(2000);and Punj V. et al., Infect. Immun. 68:4930−4937(2000)](その内容は、参照により、あらゆる目的のために組み込まれる。)。ATPを使用する酵素は、ATP、アデノシン5’−二リン酸(ADP)、アデノシン5’−一リン酸(AMP)又はアデノシンなどの、様々なエネルギー関連ヌクレオチド誘導体に対して作用し、それらを様々な産物へと変換し、次いで、プリン受容体(purinergic receptors)の活性化を通じて、この産物がマクロファージ及びマスト細胞などの食細胞の死を調節することができる。
本発明の一側面は、ATP非依存性の細胞毒性因子、例えば、酸化還元タンパク質が、病原性微生物の幾つかの種によっても分泌され、このような因子がアポトーシスによる食細胞性細胞死を引き起こすという発見に関する。[Zaborina O. et al., Microbiology 146:2521−2530(2000)](その内容は、参照により、あらゆる目的のために組み込まれる。)。
本発明の別の側面は、ATP非依存性細胞毒性因子は、癌細胞にアポトーシス又は細胞成長アレストを誘導するという驚くべき発見に関する。このような細胞毒性因子は、細胞死に対する耐性に関連した症状を治療するために使用することができる。このような症状には、例えば、ヒト悪性黒色腫、白血病、乳癌、卵巣癌、肺癌、間葉系の癌、大腸癌及び気道・消化器の癌(例えば、胃癌、食道癌、喉頭癌及び口腔癌)が含まれ得る。
一般に、癌細胞は、アポトーシスによる死を受けない。細胞アポトーシスによる細胞死に対するこのような耐性は、p53腫瘍抑制タンパク質をコードする遺伝子中の不活化変異によって引き起こすことができる。哺乳類の細胞アポトーシスには、p53タンパク質の存在が必要であることが知られている。しかしながら、50%のヒト癌では、p53腫瘍抑制タンパク質をコードする遺伝子中の不活化変異が存在する。
p53が哺乳類細胞中の酸化還元タンパク質の発現を制御することも知られているが、哺乳類酸化還元タンパク質は癌細胞のアポトーシス又は成長アレストに直接関わっていない。癌細胞におけるアポトーシスの誘導又は腫瘍サイズの縮小において、微生物のATP非依存性細胞毒性因子が役割を果たしていることは示されていない。
本発明の別の側面は、微生物によって分泌される細胞毒性因子の同定及び特性決定法に関する。このような方法は、細胞死の適切な阻害剤又は刺激物質を発見するための手段を与えることができる。阻害剤及び刺激物質は、医薬として開発し、細胞死に対する耐性又は感受性を特徴とする症状を治療するために使用することができる。
本発明の別の側面は、性質決定され、単離された細胞毒性因子並びにこのような細胞毒性因子の阻害剤に関する。細胞毒性因子は、細胞死に関連する症状を予防又は治療するために、本発明の方法に従って、活性化し、又は不活化することができる。細胞毒性因子の阻害剤は、細胞死の感受性に関連した症状を治療するために使用することができる。
細胞毒性因子の分泌
本発明の一側面において、本発明の細胞毒性因子は、数多くの様々な病原性微生物(細菌及び原虫を含む)によって分泌される。細胞毒性因子を与えるのに適した病原性細菌の例には、シュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonas aeruginosam)(P. aeruginosa)、ブルクホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)(B. cepacia)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholera)(V. cholera)及びミコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)(M. bovis)が含まれるが、これらに限定されない。さらに、細胞毒性因子は、リーシュマニア・アマゾネンシス(Leishmania amazonensis)及びマレー糸状虫などの病原体によって分泌される。
P.アエルギノサ(日和見病原体)、B.セパシア(嚢胞性繊維症及び慢性肉芽腫病に罹患している患者に致死的な感染症を引き起こす)、V.コレラ(コレラを引き起こす腸の病原体)、及び結核を引き起こすM.チュバキュロシス又はM.ボビスなどの、ミコバクテリアの遅増殖性病毒性群が、ATPを利用する酵素を分泌することが見出された。
ATPを使用する酵素を分泌する他に、本発明者らは、P.アエルギノサがATP非依存性細胞毒性因子を分泌することを見出した。これらは、2つの酸化還元タンパク質、アズリン及びシトクロム551として同定された。B.セパシアも、酸化還元タンパク質を分泌することが示された。M.ボビスは、食細胞に対して高いATP非依存性細胞毒性を有する細胞毒性因子を分泌できることも示された。
哺乳類タンパク質の存在下での、細胞毒性因子の分泌の刺激
本発明の別の側面において、細胞毒性因子の産生及び分泌は、哺乳類タンパク質の存在下で病原性生物を増殖させる間に刺激される。例えば、P.アエルギノサ、M.ボビス及びB.セパシアなどの病原性微生物による細胞毒性因子の分泌は、κ−カゼイン、ウシ血清アルブミン、オボアルブミン又はα2−マクログロブリンなどの哺乳類タンパク質の存在によって刺激される。病原性微生物は、哺乳類宿主環境の指標として、ある種の哺乳類タンパク質の存在を感知することによって、細胞毒性因子に対する分泌機構を始動させて、宿主の防御に対抗し、打ち負かすと推定されているが、本明細書では、これに依拠するものではない。
本発明者らは、B.セパシアの複数の臨床的(病毒性)単離株が、アデニル酸キナーゼ又は5’−ヌクレオチダーゼなどのATPを使用する酵素を大量に分泌するが、複数の環境的(非病毒性)単離株はこれらの酵素を少量分泌するにすぎないことを突き止めた。B.セパシア株38などの臨床的単離株では、細胞毒性因子の分泌レベルは、増殖培地中のα2−マクログロブリンの存在下で大幅に増大する。臨床的単離株から分泌された産物は、環境的単離株から分泌された産物より、マクロファージ及びマスト細胞に対して細胞毒性のレベルが高い。α2−マクログロブリンの存在下で細胞毒性因子の分泌の増大を示す臨床的単離株は、それらの表面上にα2−マクログロブリンに対する受容体が存在することも示す。
本発明の一実施形態において、ATP非依存性細胞毒性因子の産生及び分泌は、哺乳類タンパク質の存在下で微生物を増殖させる間に刺激される。細胞毒性因子の分泌の増加は、哺乳類タンパク質を含有する増殖培地中で微生物を増殖させることによって得ることができる。適切な増殖培地は、例えば、Lブロス、栄養素ブロス、トリプチカーゼ大豆ブロス及びトリプトン−酵母抽出物ブロス(Difco Laboratories, Maryland, U. S. A.)である。典型的には、加圧滅菌された無菌の増殖培地約500mLから1000mLに、約104から106個の細胞/mLを接種する。次いで、接種された培地を、微生物を増殖させるのに適した条件下で、典型的には、30℃から37℃で、回転式振盪機上においてインキュベートする。増殖培地の選択、インキュベーション条件、並びに細菌及び他の微生物の培養を成功させるその他の因子は、当業者にとって自明であろう。本発明者らは、増殖培地中の細胞毒性因子の最大濃度が、後期指数増殖期及び早期定常増殖期に起こることを観察した。
本発明の別の実施形態では、哺乳類タンパク質に対する受容体を同定することによって、微生物の病毒性及び非病毒性株を描出(delineating)する手段が与えられる。例えば、α2−マクログロブリンに対する受容体は主に臨床的単離株中に存在するが、環境的単離株(environmental isolates)中には存在しないことは、前者が宿主の防御に対する武器として細胞毒性因子を分泌する能力を有していることと相関するのみならず、臨床的病毒性株と環境的非病毒性株を描出することも可能とする。このように、生物の病毒性株を同定した後、それらの抗生物質感受性又は他の臨床的用途について検査することができる。
ATP非依存性細胞毒性因子の精製
本発明の別の側面において、実質的に純粋なATP非依存性細胞毒性因子は、分泌する微生物の増殖培地のカラムクロマトグラフィー分画によって得られる。細菌細胞は、分画の前に、増殖培地から取り除かれることが好ましい。これは、最初に遠心を行い、続いて、増殖培地をろ過することによって達成することができる。適切なフィルターは、典型的には、約0.5μm以下、好ましくは約0.2μm以下の孔径である。しかしながら、他の病原体除去法が当業者に周知であろう。
分画されていない増殖培地は、高いATP非依存性細胞毒性活性を有しておらず、このため、カラムクロマトグラフィー分画が、アポトーシス誘導活性又は細胞成長アレスト活性を増強するために必要である。分画は、ATP依存性細胞毒性因子を除去する。分画は、分画されていない増殖培地中に存在し得るATP非依存性細胞毒性因子の阻害剤も除去すると示唆されているが、本明細書ではこれに依拠しない。
細胞毒性因子を精製する上で有用なクロマトグラフィー技術は、当業者に公知であろう。これらには、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー及びゲルろ過クロマトグラフィーが含まれる。細菌の増殖培地の分画において有用なクロマトグラフィーカラムには、例えば、以下のものが含まれる。Hydroxyapatite;Superdex 75又は200;Superose 6又は12;SephacrylS ;Sephadex G又はSephadex LH;Mono Q又はMono S;Q−Sepharose;DEAE Sepharose又はCM Sepharose;Sepharose XL;ATP−Sepharose;Hi Trap Blue;Blue Sepharose;DNA Cellulose又はSepharose 2B、4B又は6B(Amersham Pharmacia Biotech AB, Uppsala, Sweden又はBiorad Laboratories, Hercules, California, U.S.A.から入手可能)。
ATPを使用する酵素は、カラムクロマトグラフィー分画によって、ヒドロキシアパタイト及びATP−アガロースカラムのフロースルー又は溶出された画分として単離され得る。このような分画の間に、ATPアーゼ又はアデニル酸キナーゼなどのATPを使用する酵素は、カラム上に吸着され、取り除くか、又はさらに精製することができる。(例えば、Markaryan et al., J.Bacteriol., 183,pp 3345− 3352,2001を参照)。
本発明の一実施形態において、ATP非依存性細胞毒性因子は、Q−セファロースカラムのフロースルー画分(QSFT)として単離される。Q−セファロースは、第四級アンモニウム強陰イオン交換体である。このようなカラムは、スウェーデン、ウプサラのAmersham Pharmacia Biotech ABから購入することができる。上清(SUP)或いはヒドロキシアパタイトカラムのフロースルー画分(HAFT)又はATPアガロースカラムのフロースルー画分(AAFT)などの他のカラム画分は、通常、高いATP非依存性細胞毒性を示さない。
ATP非依存性細胞毒性因子の性質決定
本発明のさらなる側面において、分画された増殖培地は、ATP非依存性細胞毒性因子の存在を決定するために検査される。細胞死の程度は、「Zaborina et al., Infection and Immunity, 67, 5231−5242 (1999) and Zaborina et al., Microbiology, 146,2521−2530 (2000)」(その内容は、参照により、あらゆる目的のために組み込まれる。)に記載されているように、細胞内酵素である乳酸脱水素酵素(LDH)の放出によって測定することができる。
ATP非依存性細胞毒性因子がアポトーシスを誘導する能力は、MITOSENSORTM APOLERTTM Mitochondrial Membrane Sensor kit(Clontech Laboratories, Inc., Palo Alto, California, U.S.A.)を用いて、mitosensor ApoAlert共焦点顕微鏡によって観察することができる。このアッセイでは、健康な非アポトーシス細胞は赤の蛍光を発するのに対して、アポトーシスによって死滅した細胞は緑の蛍光を発する。赤及び緑の組み合わせは、アポトーシスによって死滅しつつある細胞を表す黄色の蛍光を発する細胞を与える。「Zaborina et al., Microbiology, 146,2521−2530 (2000)」を参照されたい(その内容は、参照により、あらゆる目的のために組み込まれる。)。
アポトーシスは、アスパラギン酸残基を切断するシステインプロテアーゼであるカスパーゼとして知られる酵素のカスケードの活性化を介して媒介される。このため、アポトーシスは、2つの重要なカスパーゼ活性、すなわちカスパーゼ−9とカスパーゼ−3の活性を測定することによって検出することもでき、カスパーゼ9とカスパーゼ−3の活性は、「Zou et al., J. Biol. Chem. , 274:11549−11556 (1999)」(その内容は、参照により、あらゆる目的のために組み込まれる)に記載されている方法を用いて、サイトゾルのタンパク質Apaf−1とともにミトコンドリアから放出されるシトクロムcのオリゴマー化によって、アポトーシスの間に活性化されることが知られている。
アポトーシスは、例えば、APOLERT DNA断片化キット(Clontech Laboratories, Inc., Palo Alto, California, U.S.A.)を用いて、アポトーシスによって誘導された核DNAの断片化を検出することによって観察することもできる。このアッセイは、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(Tdt)媒介性dUTPニック末端標識(TUNEL)に基づいており、本アッセイでは、Tdtは、アポトーシスが起こっている細胞中の断片化されたDNAの遊離3’ヒドロキシ末端にフルオレセインーdUTPの取り込みを触媒する。断片化された核DNA中へのフルオレセインーdUTPの取り込みは、共焦点顕微鏡によって検出される緑色蛍光を生成する。
本発明の一実施形態において、分画された増殖培地は、このような画分がアポトーシス又は細胞成長アレストを誘導する能力を決定するために検査される。このような方法は、ATP非依存性細胞毒性因子の同定及び性質決定において有用である。
ATP非依存性細胞毒性因子の同定
別の側面において、本発明は、ATP非依存性アポトーシスを惹起する細胞毒性を示す、又は細胞成長アレストを引き起こす、性質決定された細胞毒性因子を提供する。本発明者らは、P.アエルギノサ及びB.セパシアのQSFTには、2つのタンパク質、アズリン及びシトクロムc551が濃縮されていることを見出した。これらの2つのタンパク質の同定は、SDS−PAGE上でのそれらの分離とそれらのN末端アミノ酸配列の同定に基づいている。これに対して、M.ボビスのQSFT画分のSDS−PAGE分析は、M.ボビスを増殖するために使用された7H9培地の構成成分であるウシ血清アルブミン(BSA)の濃い65kDaバンドと45kDa分子量より大きな数個のバンドを示すが、シトクロムc551及びアズリンに特徴的なバンドは示さない。(例9参照)
アズリン及び/又はシトクロムc551及びQSFT画分は、アポトーシスによって惹起される、食細胞に対する細胞毒性を示す。単離されると、シトクロムc551は細胞成長アレストを引き起こす。抗アズリン及び抗シトクロムc551抗体の混合物で処理された、精製アズリン/シトクロムc551混合物又はB.セパシアのQSFT画分は、マクロファージ細胞毒性の大幅な減少を示す。これに対して、M.ボビスのQSFT画分は、抗アズリン/抗シトクロムc551抗体で前処理されたときに、細胞毒性がほとんど減少しないので、M.ボビスのQSFT画分は、アズリン又はシトクロムc551以外の細胞毒性因子を含有することが確認される。このように、異なる病原体は異なるアポトーシス誘導性の又は細胞成長をアレストする細胞毒性因子を分泌し、それら全てが薬物開発の優れた目標となるであろう。
ATP非依存性細胞毒性因子
I.クプレドキシン化合物
これらの小さな青い銅タンパク質(クプレドキシン)は、細菌の酸化還元鎖、光合成又は未知の機能に関与する電子伝達タンパク質(10から20kDa)である。銅イオンは、専らタンパク質マトリックスによって結合される。銅周囲の2個のヒスチジンと1個のシステイナート リガンドへの特殊な歪んだ三方晶平面配置が、金属部位の極めて奇妙(peculiar)な電子特性と強烈な青色を与える。多数のクプレドキシンが、中解像度から高解像度で結晶学的に性質決定されている。
アズリン
アズリンは、植物及びある種の細菌中での電子伝達に関与しているクプレドキシンファミリーに属する128アミノ酸残基の銅含有タンパク質である。アズリンには、P.アエルギノサ(PA)から得られるアズリン(配列番号1)、A.キシロソキシダンス(A.xylosoxidans)及びA.デニトリフィカンス(A.denitrificans)から得られるアズリンが含まれる(Murphy, L. M. et al., J. Mol.Biol., vol. 315, pp 859−71 (2002))。その内容は、参照により、あらゆる目的のために組み込まれる。アズリン間の配列相同性は60から90%の間で変動するが、これらの分子間の構造的相同性は高い。全てのアズリンは、ギリシャキー(Greek key)・モチーフを有する特徴的なβ−サンドイッチを有しており、タンパク質の同じ領域に一つの銅原子が常に位置している。さらに、アズリンは、銅部位の周囲にある実質的に中性の疎水性パッチを有する(Murphy et al.)。
プラストシアニン
プラストシアニンは、分子当たり一分子の銅を含有する真核細胞植物の可溶性タンパク質であり、酸化された形態では青色である。プラストシアニンは葉緑体中に存在し、葉緑体中で電子担体として機能する。極性プラストシアニンの構造が1978年に決定されて以来、藻類(Scenedesmus、Enteromorpha、Chlamydomonas)及び植物(サヤインゲン(French bean))のプラストシアニンの構造は、結晶学的方法又はNMR法の何れかによって決定され、極性構造が1.33Åの解像度まで精密化された。配列番号2は、フォルミジウム・ラミノサム(Phormidium laminosum)から得られるプラストシアニンのアミノ酸配列を示している。
藻類及び維管束植物のプラストシアニン間には、配列の多様性が存在するにもかかわらず(例えば、クラミドモナス(Chlamydomonas)とポプラタンパク質の間の配列同一性は62%)、三次元構造は保存されている(例えば、クラミドモナス(Chlamydomonas)とポプラ−タンパク質の間には、Cアルファ位中の0.76Å rmsの乖離)。構造的な特徴には、8重鎖逆平行βバレルの一方の末端に存在する歪んだ四面体の銅結合部位、強い負のパッチ及び平坦な疎水性表面が含まれる。銅部位は、その電子伝達機能のために最適化されており、負の疎水性パッチは、生理的な反応対の認識に関与していることが提案されている。化学的修飾、架橋、部位特異的突然変異誘発実験によって、負の疎水性パッチがシトクロムfとの結合相互作用において重要であることが確認され、プラストシアニンにおける機能的に重要な2つの電子伝達路のモデルの正しさが明らかとなった。電子伝達路の候補の一つは比較的短く(約4Å)、溶媒に露出された銅リガンドHis−87を疎水性パッチ中に含むが、もう一つは、これより長く(約12から15Å)、ほぼ保存された残基Tyr−83を負のパッチ中に含んでいる(Redinbo et al., J. Bioenerg. Biomembr. , vol. 26(1), pp49−66 (1994)。その内容は、参照により、あらゆる目的のために組み込まれる。
ラスチシアニン
ラスチシアニンは、チオバチラス(thiobacillus)から得られる、青銅を含有する一本鎖ポリペプチドである。チオバチラス・フェロオキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)から得られる、極めて安定で酸化力が極めて強いクプレドキシン ラスチシアニンの酸化型のX線結晶構造(配列番号3)が多波長異常回折によって決定され、1.9Åの解像度まで精密化された。ラスチシアニンは、6重鎖及び7重鎖βシートから構成される、中核βサンドイッチ折り畳みから構成されている。他のクプレドキシンと同様、銅イオンは、歪んだ四面体に配置された、4つの保存された残基(His85、Cys138、His143、Met148)のクラスターによって配位されている。Walter, R. L. etal., J. Mol. Biol., vol. 263,pp−730−51 (1996)(その内容は、参照により、あらゆる目的のために組み込まれる)。
シュードアズリン
シュードアズリンは、青銅を含有する一本鎖ポリペプチドのファミリーである。アクロモバクター・シクロクラステス(Achrorraobacter cycloclastes)から得られるシュードアズリンのアミノ酸配列は、配列番号4に示されている。シュードアズリンのX線構造解析は、シュードアズリンがアズリンと類似の構造を有するが、これらのタンパク質間には低い配列相同性が存在することを示している。シュードアズリンとアズリンの全体的な構造の間には、2つの主要な差が存在する。アズリンと比べて、シュードアズリンには、2つのαヘリックスからなるカルボキシ末端伸長が存在する。中央ペプチド領域では、アズリンは、短いαヘリックスを含有するフラップを形成する伸長されたループを含有するが、シュードアズリン中では短縮されたループを含有する。銅原子部位における唯一の主要な差は、MET側鎖のコンフォメーションとMet−S銅結合の長さであり、Met−S銅結合の長さはアズリンよりシュードアズリンでは著しく短い。
II シトクロムC551
P.アエルギノサ(P.aerugiosa)のシトクロムC551(Pa−C551)は、82アミノ酸残基の単量体酸化還元タンパク質であり(配列番号5)、亜硝酸還元酵素の生理的な電子供与体として、異化脱窒に関与している。Pa−C551の機能的特性は、広く調べられてきた。非生理的小無機酸化還元反応物質との及びその他の巨大分子(青銅タンパク質、真核生物のシトクロムc及び生理的なパートナー亜硝酸還元酵素など)との反応は、タンパク質−タンパク質電子伝達に対する検査を与えてきた。
細菌のクラスIシトクロムのメンバーであるPc−C551の三次元構造は、His−Met連結を有する単一の低スピンヘムおよび典型的なポリペプチド折り畳みを示すが、ヘムのピロール環II及びIIIの縁は露出された状態に保たれている(Cutruzzola et al., J. Inorgan. Chem., vol 88, pp 353−61 (2002)、参照により、あらゆる目的のために、その内容は本明細書に組み込まれる。)哺乳動物のクラスIシトクロム中に存在している20残基のωループが欠如していることにより、プロピオナート13のレベルで、ヘムの縁をさらに露出させる。Pa−C551の表面上に存在する帯電した残基の分布は、極めて異方性が高い;すなわち、一方の側は酸性残基が豊富であるのに対して、他方は、ヘムの隙間の周囲に存在する疎水性パッチの境界に位置する陽性側鎖(主にリジン)の環を示す。このパッチは、残基Gly11、Va113、Ala14、Met22、Val23、Pro58,Ile59、Pro60、Pro62、Pro63及びAla65を含む。異方性の電荷分布は、電子伝達複合体の形成に重要である巨大な双極子モーメントをもたらす。
Pa−C551に対して上記された電荷分布は、他の電子伝達タンパク質及びそれらの電子受容体についても報告されている。さらに、疎水性又は帯電パッチ内の残基を部位特異的突然変異誘発によって修飾することにより、異なるタンパク質について、結合及び電子伝達に対して表面の相補性(complementarity)が重要であることが示された。例として、P.アエルギノサのアズリンの電子伝達特性に疎水性パッチが関連していることは、残基Met44及びMet64を正及び負に帯電したアミノ酸に変化させた変異体に対して実施された研究から得られる(Cutruzzola et al.)。
ATP非依存性細胞毒性因子による、癌細胞におけるアポトーシス又は成長アレストの誘導
本発明は、癌細胞にアポトーシスによる細胞死又は細胞成長アレストを誘導するためにATP非依存性細胞毒性因子を使用する方法を提供する。クプレドキシン化合物及びシトクロムC551などのATP非依存性細胞毒性因子は、細胞死の異常な失敗に関連する症状を治療するために使用することができる。癌細胞には、アポトーシスが起こらない傾向があることが周知である。本発明の一側面によれば、癌細胞アポトーシス又は細胞成長アレストを誘導させるのに十分な量で、細胞毒性因子又は細胞毒性因子分泌を刺激する活性因子を投与することが、腫瘍サイズをインビボで縮小させ、腫瘍の増殖を遅らせる上で有益であろう。例えば、アズリンとシトクロムC551を、公知の悪性黒色腫抗癌剤[5−(3,3’−N,N’−ジメチル トリアゼン−1−イル)−イミダゾール−4−カルボキシアミド](DTIC)と比較する検査によって、アズリンとシトクロムC551の混合物がヌードマウスにおいて、インビボで腫瘍の退行を促進する強力な非毒性組成物を与えることが示されている。
本発明の一実施形態では、アズリンのようなクプレドキシン化合物での処理が、アポトーシスによる細胞死を癌細胞に誘導する方法が提供される。理論に拘泥するものではないが、クプレドキシン化合物の細胞毒性活性は、腫瘍抑制タンパク質p53と複合体を形成し、p53を安定化させるクプレドキシンの能力に由来すると考えられている。p53は、「腫瘍抑制」遺伝子として作用し、変異によるp53の産生低下又は不活化は腫瘍の発育を引き起こし得る。
細胞内でのp53の半減期は、一般に、数分にすぎない。p53の安定化は、アポトーシスの強力な誘導物質である反応性酸素種(ROS)の著しい生成を可能とする。アズリンは、p53と複合体を形成して、これを安定化し、その細胞内レベルを増大させることにより、カスパーゼ−3及びカスパーゼ−9依存性のミトコンドリア経路を介して、アポトーシスを誘導する。Yamada, T. et al., Infec. Immun., vol. 70, pp 7054−62(2002)、参照により、あらゆる目的のために、その内容は本明細書に組み込まれる。
アズリンの酸化還元活性は、その細胞毒性活性にとって不可欠ではない。代わりに、複合体形成中の反応性酸素種の産生は、アポトーシスに対する誘導因子である。Goto, M. et al., Mol. Microbiol. , 47, pp549−59(2003) (その内容は、参照により、あらゆる目的のために本明細書に組み込まれる)。例えば、配列番号1のアミノ酸配列を有するが、銅原子を含有しないアポアズリンは、アズリンと比べて、酸化還元活性がずっと低いが、著しい細胞毒性活性を示す。
p53との複合体形成の重要性は、2つの変異体アズリンC112D(配列番号6)と二重変異体M44KM64E(配列番号7)の細胞毒性活性の差によって示される。Cys−112残基への銅の結合は、酸化還元活性にとって重要である。銅を配位できないC112D変異体は、アズリンの約0.01%の酸化還元活性を有するが、著しい細胞毒性を示す。これに比べて、M44KM64E変異体はアズリンの約2%の酸化還元活性を有するが、細胞毒性をほとんど示さない。
アズリン分子は、生理的なパートナーであるシトクロムC551と亜硝酸船還元酵素の相互作用部位である疎水性パッチを含有する。(Cutruzzola et al.)。疎水性パッチが帯電していないC112D変異体は、p53と複合体を形成することができ、その細胞内レベルを上昇させることができる。しかしながら、電気双極子が疎水性パッチ中に作られている二重変異体M44KM64Eは、このような安定な複合体を形成することができない。このように、シトクロムC551及び亜硝酸塩還元酵素との相互作用部位も、p53との複合体形成にとって重要である。
グリセロール勾配遠心及びグルタチオンS−転移酵素(GST)プルダウン法は、クプレドキシン化合物のp53との相互作用を示すために使用されてきた。Yamada et al.(2002)、その内容は、参照により、あらゆる目的のために、本明細書に組み込まれる。p53は、オリゴマー複合体を形成することが知られており、GST−p53融合タンパク質は、5、10、15、20又は25%のグリセロールなどの様々なグリセロール画分で沈降するが、アズリンは5%グリセロールで沈降する。アズリンをGST−p53融合タンパク質と予めインキュベーションした後、グリセロール勾配中で遠心することによって、全てのグリセロール画分中にアズリンが存在することが実証され、アズリンがp53と会合することを示している。C112D変異体は、同様の会合を示したが、M44KM64Eは示さなかった。Yamada et al. (2002)。
GST−p53融合タンパク質をM44KM64E変異体アズリンとプレインキュベートすることによって、p53のオリゴマー化が変化し、GST−p53のほとんどは、変異アズリンタンパク質が存在する5から10%グリセロールに見出されることになる。このことは、アズリンの疎水性パッチがp53相互作用にも関与していることを示唆している。アズリンの疎水性の喪失は、細胞毒性の喪失をもたらすのみならず、オリゴマー化も妨害する。M44KM64E変異体はアポトーシスの誘導をほとんど示さないが、細胞周期の進行の著しい阻害を示す。このように、p53−クプレドキシン複合体の性質の変化は、p53の特異性をアポトーシスから細胞成長アレストへとシフトさせることができる。
アズリンの作用は、機能的p53腫瘍抑制遺伝子を有する腫瘍細胞に依存する。しかしながら、細胞毒性因子は、p53腫瘍抑制遺伝子欠損を有する細胞の増殖に遅延を引き起こすこともできる。例えば、シトクロムC551は、p53に対して作用しないが、腫瘍抑制タンパク質p16のレベルを有意に増大する。C551は、マクロファージ上での細胞周期の進行を阻害し、アズリンの効果も増強させる。さらに、細胞毒性因子の組み合わせ(アズリンとC551など(又はM44KM64E))は、アポトーシスと成長アレストの両方を誘導することによって、腫瘍進行をより効果的に阻害することができる。
シトクロムC551の作用様式は細胞内のp53の状態に依存しないので、p53腫瘍抑制遺伝子を欠損するヒト癌の50%において、癌を退行させる方法を提供する。さらに、C551の他に、他のシトクロム、例えば、藍藻類のシトクロムfも、細胞毒性を示す。
感染性疾患の治療における細胞毒性因子
本発明の別の側面において、細胞毒性因子の性質決定は、例えば感染性疾患において、細胞死を阻害する新しい物質を同定するのに有用であり得る。例えば、ATPを使用する細胞毒性因子の分泌若しくは活性の阻害、又はATPの産生の阻害は、疾患を引き起こす病原体による細胞毒性活性を軽減又は除去することができる。
従って、細胞毒性因子の分泌又は活性を阻害する化合物を適切に投与することは、抗感染薬を開発するための有用なツールとなる。細胞死を誘導する細胞毒性因子の活性を阻害するのに有用な活性因子の例には、細胞毒性因子に対する抗体及びATPを利用する酵素の活性化を妨げるATPの類縁体が含まれ得る。細胞毒性因子及び細胞毒性因子分泌又は発現を阻害又は刺激するための活性因子の例には、ATPを使用する酵素、酸化還元タンパク質、ATP産生の活性化因子、ATP産生の阻害剤、酸化還元タンパク質の活性化因子及び酸化還元タンパク質の阻害剤が含まれるが、これらに限定されるものではない。
細胞毒性因子を含む薬学的組成物
細胞毒性因子を含む薬学的組成物は、任意の慣用の様式で、例えば、慣用の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、乳化、カプセル化、封入又は凍結乾燥プロセスによって製造することができる。実質的に純粋な細胞毒性因子又は他の因子は、本分野で周知の薬学的に許容される担体と容易に組合せることができる。このような担体によって、調製物が錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などとして調合されることが可能となる。適切な賦形剤には、例えば、充填剤及びセルロース調製物も含まれ得る。他の賦形剤には、例えば、着香剤、着色剤、脱粘着剤、濃縮剤及び他の許容される添加剤、佐剤又は結合剤が含まれ得る。
本発明の組成物は、細胞死に関連する症状の治療又はその予防において使用することができる。実質的に純粋な細胞毒性因子は、細胞死に関連する症状を予防又は治療するのに十分な量で投与することができる。典型的には、宿主生物は、ヒト又は動物などの、哺乳動物である。
細胞毒性因子を含む組成物の投与
本発明の組成物は、任意の適切な経路によって、例えば、経口、口内、吸入、舌下、直腸、膣内、経尿道、鼻内、局所、経皮、すなわち経皮的に、又は非経口投与(静脈内、筋肉内、皮下及び冠動脈内を含む。)によって、投与することができる。前記組成物及びその薬学的調合物は、その意図される目的を達成するために有効な任意の量で投与することができる。より具体的には、前記組成物は、治療的に有効な量で投与される。
様々な実施形態において、前記細胞毒性因子組成物は、担体及び賦形剤(緩衝液、炭水化物、マニトール、タンパク質、ポリペプチド又はグリシンなどのアミノ酸、抗酸化剤、静菌剤、キレート剤、懸濁剤、濃縮剤及び/又は防腐剤を含むが、これらに限定されない。)、水、油、生理的食塩水溶液、水性デキストロース及びグリセロール溶液、生理的条件を近似するのに必要とされる、薬学的に許容される他の補助物質(緩衝材、張度調整剤、湿潤剤など)を含む。当業者に公知である任意の適切な担体を、本発明の組成物を投与するために使用することができるが、担体の種類は投与の様式に応じて変わるであろうことが自明であろう。化合物は、周知の技術を用いてリポソーム内に封入することもできる。生物分解性の細粒も、本発明の薬学的組成物用の担体として使用することができる。適切な生物分解性の細粒は、例えば、米国特許第4,897,268号;第5,075,109号;第5,928,647号;第5,811,128号;第5,820,883号;第5,853,763号;第5,814,344号及び第5,942,252号に開示されている。
本発明の組成物は、周知の慣用滅菌技術によって滅菌しえる、又は滅菌ろ過しえる。得られた水溶液は、使用するためにそのまま梱包しえる、又は凍結乾燥しえる、凍結乾燥された調製物は、投与の前に、無菌溶液と混合される。
本発明の細胞毒性因子組成物は、注射(例えば、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内など)、吸入、局所投与、坐薬、経皮パッチの使用又は口腔などの、様々な方法で投与することができる。
注射によって投与する場合には、細胞毒性因子は、水溶液中に調合することができ、好ましくは、生理的に適合性のある緩衝液(Hanks溶液、Ringerの溶液又は生理食塩水緩衝液)中に調合することができる。前記溶液は、懸濁剤、安定化剤及び/又は分散剤などの調合剤を含有し得る。あるいは、前記細胞毒性因子組成物は、適切なビヒクル(例えば、発熱物質を含まない無菌水)によって、使用前に再生するための粉末形態とすることができる。
吸入によって投与する場合、細胞毒性因子は、適切な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、二酸化炭素又は他の適切な気体)を使用して、加圧パック又は噴霧器からのエアロゾルスプレイの形態で送達することができる。加圧エアロゾルの場合には、投薬単位は、定量された量を送達するためのバルブを与えることによって決定することができる。例えば、吸入器(inhaler or insufflator)で使用するためのゼラチンのカプセル及び薬包(cartridges)は、タンパク質の粉末混合と適切な粉末基剤(ラクトース又はデンプンなど)を含有するように調合し得る。
局所投与する場合には、細胞毒性因子組成物は、本分野で周知であるように、溶液、ゲル、軟膏、クリーム、懸濁液などとして調合することができる。幾つかの実施形態では、投与は、経皮パッチによって行われる。坐薬によって投与する場合(例えば、直腸又は膣)、細胞毒性因子組成物は、慣用の坐薬基剤を含有する組成物中に調合することもできる。
経口投与される場合、細胞毒性因子組成物は、細胞毒性因子を本分野で周知の薬学的に許容される担体と組み合わせることによって容易に調合することができる。マニトール、ラクトース、ステアリン酸マグネシウムなどの固体担体を使用することができ、このような担体は、治療すべき患者による経口摂取のために、錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などとしてケモタキシン(chemotaxin)を調合することを可能とする。例えば、粉末、カプセル及び錠剤などの経口固体製剤の場合、適切な賦形剤には、糖、セルロース調製物などの充填剤、造粒剤及び結合剤が含まれる。
細胞毒性因子をコードする核酸分子をベクター中に挿入することができ、遺伝子治療用ベクターとして使用することができる。遺伝子治療用ベクターは、例えば、静脈内注射、局所投与(Nabel et al., US Patent No. 5,328, 470 1994. USA)又は定位注射(Chen et al., Proc Natl Acad Sci USA, vol. 91, pp 3054−7 (1994))によって、患者に送達することができる。遺伝子治療用ベクターの薬学的調製物は、許容される希釈剤を含むことができ、又は遺伝子送達ビヒクルがその中に埋め込まれた徐放マトリックスを含むことができる。あるいは、組み換え細胞から、完全な遺伝子送達用ベクター(例えば、レトロウイルスベクター)を無傷で製造することができる場合、薬学的調製物は、遺伝子送達系を産生する一又は複数の細胞を含むことができる。
本分野で周知であるように、他の便利な担体には、細菌莢膜の多糖、デキストラン又は遺伝子操作されたベクターのような多価担体も含まれる。さらに、細胞毒性因子分子を含む徐放製剤は長期にわたって、細胞毒性因子の放出を可能とし、徐放製剤がなければ、治療的効果を惹起し、又は増強する前に、細胞毒性因子が患者の系から除去され、及び/又は、例えばプロテアーゼ及び単純な加水分解によって分解される。
正確な調合、投与の経路及び投薬量は、患者の状態に照らして、担当医によって決定される。投薬量及び間隔は、治療効果を維持するのに十分である、活性な細胞毒性因子の血漿レベルを与えるために、個別的に調節することができる。一般に、所望の細胞毒性因子は、意図される投与経路及び標準的な薬学的慣行に関して選択された薬学的担体との混合物として投与される。本発明に従って使用される薬学的組成物は、細胞毒性因子、細胞毒性因子の分泌を阻害又は刺激するための活性因子又はそれらの混合物の、治療的に使用可能な調製物への加工を促進する賦形剤及び補助剤を含む一又は複数の生理的に許容される担体を用いて、慣用の様式で調合される。
一側面において、ポリペプチドがインシチュで生成されるように、細胞毒性因子はDNAとして送達される。一実施形態において、例えば、「Ulmer et al., Science, vol. 259, pp−1745−49 (1993) and reviewed by Cohen, Science, vol. 259, pp−1691−92 (1993)」に記載されているように、DNAは、「裸」である。裸のDNAの取り込みは、細胞中に効率的に輸送される担体(例えば、生物分解性ビーズ)上にDNAをコートすることによって増加し得る。このような方法では、DNAは、核酸発現系、細菌及びウイルス発現系など、当業者に公知である任意の様々な送達系内に存在し得る。DNAをこのような発現系中に取り込む技術は、当業者に周知である。例えば、 W090/11092、W093/24640、WO 93/17706及び米国特許第5,736,524号を参照されたい。
生物から生物へと遺伝物質をシャトルするために使用されるベクターは、2つの一般的なクラスに分けることができる。クローニングベクターは、適切な宿主細胞中での増殖に必須でない領域で、その中に外来DNAを挿入できる領域を有する複製プラスミド又はファージである。外来DNAは、ベクターの成分であるかのように、複製され、増殖する。発現ベクター(プラスミド、酵母又は動物ウイルスゲノムなど)は、外来遺伝物質を宿主細胞又は組織中に導入して、細胞毒性因子のDNAなどの外来DNAを転写及び翻訳するために使用される。発現ベクターでは、導入されたDNAは、挿入されたDNAを宿主細胞に転写させるシグナルを与えるプロモーターなどの要素に作用可能に連結されている。特異的な因子に応答して遺伝子転写をコントロールする誘導性プロモーターのような、幾つかのプロモーターは非常に有用である。細胞毒性因子のポリペプチドを誘導性プロモーターに作用可能に連結することによって、細胞毒性因子ポリペプチド又は断片の発現をコントロールすることが可能である。古典的な誘導性プロモーターの例には、α−インターフェロン、熱ショック、重金属イオン及びグルココルチコイドなど(Kaufman, Methods Enzymol., vol., 185, pp. 487−511(1990))のステロイド及びテトラサイクリンに応答性であるものが含まれる。他の望ましい誘導性プロモーターには、構築物がその中に導入されている細胞にとって内在性でないが、誘導因子が外在的に供給されたときに、その細胞中で応答するものが含まれる。一般に、有用な発現ベクターは、多くの場合プラスミドである。しかしながら、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)のような、他の形態の発現ベクターも想定される。
ベクターの選択は、使用されている生物又は細胞及びベクターの所望される運命によって規定される。一般的に、ベクターは、シグナル配列、複製起点、マーカー遺伝子、エンハンサー要素、プロモーター及び転写終結配列を含む。
細胞毒性因子を含むキット
一側面において、本発明は、(1)細胞毒性因子を含む、生物学的に活性な組成物;(2)薬学的に許容される佐剤又は賦形剤、(3)注射器などの、投与手段;(4)投与用の指示書のうち一以上をパッケージ又は容器中に含有するキットを提供する。成分(1)−(4)のうち2以上が同一容器中に見られる実施形態も想定される。
キットが供給されるときには、組成物の異なる成分を別個の容器中に梱包し、使用直前に混合することができる。成分をこのように別個に梱包することによって、活性成分の機能を喪失させずに、長期保存を可能とし得る。
キットに含まれる試薬は、異なる成分の寿命が保存され、容器の材料によって吸着又は変化されないように、任意の順序で容器中に供給することができる。例えば、密封されたガラスアンプルは、凍結乾燥された細胞毒性ポリペプチド若しくはポリヌクレオチド、又は中性の非反応性気体(窒素など)下で梱包された緩衝液を含有し得る。アンプルは、ガラス、有機ポリマー(ポリカーボネート、ポリスチレンなど)、セラミック、金属又は類似の試薬を収納するために典型的に使用される任意の他の材料など、任意の適切な材料からなり得る。適切な容器の他の例には、アンプルと類似の物質から製作され得る単純な瓶、アルミニウム又は合金などの金属箔で覆われた内側を含んでもよい包装材料が含まれる。他の容器には、試験管、バイアル、フラスコ、瓶、注射器などが含まれる。容器は、皮下注射針によって貫くことができるストッパーを有する瓶のように、無菌のアクセスポートを有し得る。他の容器は、除去すると、成分を混合させることができる、容易に除去可能な膜によって分割された2つの区画を有し得る。除去可能な膜は、ガラス、プラスチック、ゴムなどであり得る
キットは、指示書とともに供給することができる。指示は、紙又はその他の基材上に印刷することができ、及び/又は、フロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープなどの、電気的に読み取り可能な媒体として供給することができる。詳細な説明は、キットに物理的に付随していなくてもよく、これに代えて、キットの製造者又は販売者によって指定されたインターネットのホームページにユーザを誘導してもよく、又は電子メールとして供給してもよい。
細胞毒性因子の分泌の刺激及び阻害
細胞毒性因子の同定と性質決定は、細胞毒性因子の分泌を刺激する方法の開発をもたらすこともできる。病原性生物は、哺乳類タンパク質の存在下で、大量の細胞毒性因子を分泌することが示されている。この原理(principle)は、所望の細胞毒性因子の産生を刺激し、又は所望でない細胞毒性因子の産生を阻害する新しい方法を提供するために、ヒトの身体において修飾することができる。このような方法は、細胞のアポトーシスを阻害若しくは刺激し、又は細胞成長アレストを引き起こすのに有用である。細胞毒性因子の理解とその性質決定及び開発によっても、薬物開発及び細胞毒性因子の活性又は分泌の調節に適した活性因子又は化合物のスクリーニングが可能となる。さらに、細胞内での細胞毒性因子分泌に関連する分泌機構を理解することによって、細胞毒性因子の有用な阻害剤又は刺激物質の設計を開発及び同定する新しい道筋が得られる。哺乳類タンパク質に対する受容体の存在の把握及び同定も、病毒性微生物と非病毒性微生物を識別するための手段として使用することが可能であり、これによって、疾患の治療において特異性が与えられる。
細胞毒性因子の修飾
細胞毒性因子は、ATPを使用する酵素又は酸化還元活性を欠くが、毒性を保持するバリアントを産生するように、化学的に修飾し、又は遺伝的に改変することもできる。細胞毒性因子の変異及び/又は末端切断(truncations)は、同様に機能的活性を示す様々な組成の細胞毒性因子を与えることができる。特に、高い有効性と低い抗原性を有する末端切断された誘導体を、元の細胞毒性因子から製造することができる。このような修飾又は改変された細胞毒性因子も、本発明の範囲に含まれる。
細胞毒性因子の様々な誘導体は、標準的な技術によって合成し得る。誘導体とは、直接的に、又は修飾若しくは部分的置換の何れかによって、本来の化合物から形成されたアミノ酸配列である。類縁体(Analogs)とは、元の化合物と類似しているが同一ではない構造を有し、幾つかの成分(components)又は側鎖に関して構造が異なっているアミノ酸配列である。類縁体は、合成することができ、又は異なる進化起源から得ることができる。
誘導体及び類縁体は、完全長であることができ、又は、誘導体若しくは類縁体が修飾されたアミノ酸を含有していれば完全長以外であることができる。細胞毒性因子の誘導体又は類縁体には、同一サイズのアミノ酸配列にわたって、又は相同性アルゴリズムによってアラインメントが行われた整列した配列と比較したときに、少なくとも約65%、70%、75%、85%、90%、95%、98%又は99%同一性を示す、細胞毒性因子と実質的に相同である領域を含む分子が含まれるが、これらに限定されるものではない。
細胞毒性因子の天然に存在する対立遺伝子バリアントに加えて、細胞毒性活性を著しく変化させないアミノ酸配列の変化をコードされた細胞毒性因子に招く、細胞毒性因子中への変異によって変化を導入することができる。「非必須」アミノ酸残基とは、生物活性を変化させずに、細胞毒性因子の野生型配列から変化させることができる残基であるのに対して、「必須」アミノ酸残基は、このような生物学的活性に対して必要とされる。例えば、本発明の細胞毒性因子間で保存されているアミノ酸残基は、変化させるのが特に好ましくないと予想される。保存的置換を行うことができるアミノ酸は、本分野において周知である。
有用な保存的置換は、表1、「好ましい置換」に示されている。あるクラスのアミノ酸が同じ種類の別のアミノ酸と置き換えられる保存的置換は、該置換が化合物の生物活性を実質的に変化させない限り、本発明の範囲に属する。
ポリペプチド骨格の構造(βシート又はαヘリックス高次構造など)、(2)電荷、(3)疎水性又は(4)標的部位の側鎖の大きさに影響を与える非保存的置換は、細胞毒性因子の機能を修飾し得る。残基は、表2に表記されているように一般的な側鎖特性に基づいて、グループに分けられる。非保存的な置換は、これらのクラスの一つを別のクラスのメンバーに交換することを伴う。置換は、保存的置換部位、又は、より好ましくは、保存されていない部位中に導入することができる。
バリアントポリペプチドは、オリゴヌクレオチドによって媒介される(部位特異的)突然変異導入、アラニンスキャニング、及びPCR変異導入など、本分野で公知の方法を用いて作製することができる。細胞毒性因子バリアントのDNAを作製するために、部位特異的突然変異導入(Carter, Biochem J., vol.237, pp 1−7(1986);Zoller and Smith, Methods Enzymol., vol. 154, pp 329−50(1987))、カセット突然変異導入、制限選択突然変異導入(Wells et al., Gene, vol. 34,pp 315−23(1985))又は他の公知の技術を、クローニングされたDNAに対して実施することができる。
C112D及びM44KM64E細胞毒性因子変異体の細胞毒性活性は上記されている。さらに、例19は、例18に記載されているように部位特異的変異導入によって調製された多数のキメラアズリン変異体の細胞毒性活性を示す。本発明は、銅原子がその中に存在しないアポアズリンのような、細胞毒性因子も使用することができる。アポアズリンとC112D変異体は何れも、有意な細胞毒性活性を示すのに対して、M44KM64E変異体は有意な細胞毒性活性を示さない。しかしながら、M44KM64E変異体は、細胞周期の進行の著しい阻害を引き起こさない。
本発明の一実施形態は、p53と複合体を形成して、p53を安定化し、これにより、アポトーシスを誘導する能力を保持する被変異細胞毒性因子を使用する。別の実施形態では、本発明は、p53と相互作用し、細胞成長アレストを引き起こす能力を有する、M44KM64E変異体のような被変異細胞毒性因子を使用する。
以下の具体的な例を参照することによって、本発明のさらに完全な理解を得ることができる。例は、例示の目的のためにのみ記載されており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。状況が適切であることを示唆し、又は適切となり得る場合には、均等物の形態の変化及び置換が想定される。例では具体的な用語が使用されているが、このような用語は説明を意図するものであって、限定のためのものではない。本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、以下に記載されている本発明の修飾及び変形を行うことができ、従って、このような限定は、添付の特許請求の範囲に示されているように課されるにすぎない。
例
[例1]
哺乳類タンパク質による細胞毒性因子の分泌の刺激
α2−マクログロブリン(1mg/mL)を加えた、又は加えない、プロテオースペプトン−酵母抽出物(PPY;proteose peptone−yeast extract)ブロス中で、B.セパシアの臨床及び環境単離株(それぞれ5つ)を増殖させた。振盪機上、34℃で10時間増殖させた後、各培養から得た増殖培地の一部を遠心し、0.22μmのmilliporeフィルタに上清を通してろ過し、完全な細胞と破片を除去した。次いで、「Melnikov A. et al., Mol. Microbiol., 36:1481−1493(2000)」に記載されているとおりに、ろ過された上清のアデニル酸キナーゼ活性を調べた。アデニル酸キナーゼは、[γ−32P]ATPから末端のリン酸をAMPへ転移させて、ADPを与える。次いで、薄層クロマトグラフィーによって、この反応の産物を検出した。B.セパシア細胞をPPYブロス中で増殖した場合、アデニル酸キナーゼの分泌は最小であった。しかしながら、臨床単離株からの分泌は、α2−マクログロブリンの存在下で刺激されたが、環境単離株では刺激されなかった。
抗α2マクログロブリン抗体を用いた免疫蛍光顕微鏡によって、臨床単離株が、α2−マクログロブリンを結合する受容体を有するのに対して、環境単離株はこのような受容体を欠如することが示された。PPYブロス中、1mg/mLのα2−マクログロブリンの不存在下又は存在下で、B.セパシアの臨床及び環境単離株を1時間増殖した。リン酸緩衝生理的食塩水で洗浄することによって、余分なα2−マクログロブリンを除去した。α2−マクログロブリンをウサギに注射することによって得られたフルオレセインイソチオシアネート(FITC)抱合α2−マクログロブリン抗体とともに、細胞を2時間インキュベートした。リン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、FITC抱合抗体で処理された細胞を16%パラホルムアルデヒド中で固定し、ポリ−L−リジンで被覆されたスライド上でコートし、共焦点顕微鏡によって調べた。α2−マクログロブリンの存在下で細胞毒性因子の分泌の増大を示した臨床単離株のみが蛍光を発し(緑色蛍光を発する細胞)、α2−マクログロブリンに対する受容体が存在することが実証された。
[例2]
B.セパシア増殖培地由来のろ過された上清又はカラムクロマトグラフィー画分による、ATP依存性のマクロファージの死滅
B.セパシアの臨床株(株38−コレクション番号95828、D.G.Allison、University of Manchester Institute of Science and Technology、Manchester、UK)を、振盪機上、34℃、TBブロス(10gのBacto tryptone、3gのBactoウシ抽出物/1Lの水)中で、1.3のOD550nmになるまで増殖させた。次いで、この増殖培地を遠心し、0.22μmのmilliporeフィルターを通して上清をろ過し、完全な細胞と破片を除去した。マクロファージ細胞をJ774細胞株から単離し、「Zaborina O. et al., Infect. Immun. 67: 5231−5242 (1999)」によって記載されているとおりに、RPMI培地1640(GIBRO−BRL、Grand Island, N.Y.)中で増殖させた。ろ過された増殖培地を、ヒドロキシアパタイト、ATP−アガロース及びQ−セファロースカラムに、順に添加した。ヒドロキシアパタイトカラム(HAFT)からのフロースルー画分を、ATP−アガロースカラム(AAFT)上で分画した。次いで、Q−セファロースカラム(QSFT)上で、AAFT画分を分画した。
96ウェルプレート中のウェルに106個のマクロファージを添加し、付着させるために、CO2インキュベータ中で、2時間インキュベートした。上記カラムの各々から得た上清又はフロースルー画分由来の2μgのタンパク質を前記ウェルに添加し、1.0mM ATPの存在下又は不存在下にて、プレートを4時間インキュベートした。次いで、マクロファージ細胞死の程度を、「ZaborinaO. et al., Infect. Immun. , 67: 5231−5242 (1999)」に記載されているように、細胞内酵素である乳酸脱水素酵素(LDH)の放出によって測定した。ろ過された上清(SUP)並びにHAFT、AAFT及びQSFTカラム画分による、1.0mM ATPの存在下及び不存在下での、マクロファージの死滅の程度は、図1に示されている。全てのアッセイは三つ組みで実施、エラーバーが示されている。
[例3]
B.セパシア増殖培地由来のろ過された上清又はカラムクロマトグラフィー画分による、ATP非依存性マクロファージの死滅
B.セパシア増殖培地の上清(SUP)及びカラムクロマトグラフィー画分(HAFT、AAFT及びQSFT)は、例2のとおりであった。マクロファージの単離は、例2のとおりであった。マクロファージ細胞死の程度は、例2のとおり、LDHの放出によって決定され、図2に示されている。QSFT画分のみが、マクロファージに対する高いATP非依存性細胞毒性を示す。
[例4]
P.アエルギノサ細胞毒性因子による、マクロファージにおけるアポトーシスの誘導
1.2のOD550nmになるまで、37℃で、12時間、Lブロス中にて、P.アエルギノサを増殖した。次いで、この増殖培地を遠心し、0.22μmのフィルターを通して上清をろ過した。上清(SUP)及びカラムクロマトグラフィー画分(HAFT、AAFT及びQSFT)は、例2のとおりに集めた。マクロファージの単離は、例2のとおりに行った。上清又は前記フロースルー画分のうち1つから得た2μgのタンパク質を、200μLのRPMI培地中に存在する1×105個のマクロファージに添加し、この混合物を一晩インキュベートした。SUP又はHAFT、AAFT若しくはQSFT画分との一晩のインキュベーションによって処理されていない、又は処理されたマクロファージにおけるアポトーシスの誘導は、「Zaborina O. et al., Microbiology 146: 2521−2530 (2000)」に記載されているように、ApoAlert Mitochondria Membrane Sensorキット(Clontech Laboratories, Inc., Palo Alto, California, U.S.A.)を使用し、共焦点顕微鏡によって測定した。
このアッセイでは、健康な非アポトーシス細胞は赤の蛍光を発するのに対して、アポトーシスによって死滅した細胞は緑の蛍光を発する。赤及び緑の組み合わせは、黄色の蛍光を発する細胞を与え、このことは細胞がアポトーシスによって死滅しつつあることを示す。非処理マクロファージ又はSUP、HAFT若しくはAAFT画分で一晩処理されたマクロファージは、主に赤い蛍光を発し、アポトーシスによる細胞死がないことを示す。QSFT画分で一晩処理されたマクロファージの多くは緑の蛍光を発し、マクロファージの多くがアポトーシスで死滅したことを示す。時間経過研究は、アポトーシスが約6時間の時点で始まり(赤と緑の蛍光が組み合わさって、細胞が黄色になることによって示される。)、12から16時間に完了した。
[例5]
B.セパシア細胞毒性因子による、マスト細胞におけるアポトーシスの誘導
マスト細胞は、「Melnikov A. et al., Mol. Microbiol. 36:1481−1493 (2000)」によって記載されている方法により単離した。B.セパシアの分画された増殖培地は、例2のとおりに調製した。B.セパシア細胞毒性因子によるマスト細胞におけるアポトーシスの誘導は、例4に記載されているとおり、共焦点顕微鏡を用いて測定された。
非処理マスト細胞又はB.セパシア増殖培地のSUP、HAFT若しくはAAFT画分で一晩処理されたマスト細胞は、主に赤い蛍光を発し、アポトーシスによる細胞死がないことを示す。B.セパシア増殖培地のQSFT画分で一晩処理されたマスト細胞の多くは緑の蛍光を発し、マスト細胞の多くがアポトーシスで死滅したことを示す。
[例6]
B.セパシア及びM.ボビスのQSFT画分による、マクロファージにおけるアポトーシスの誘導
マクロファージの単離は、例2のとおりに行った。B.セパシア及びM.ボビスの細胞毒性因子によるマクロファージにおけるアポトーシスの誘導は、例4の方法を用いて測定された。B.セパシアとM.ボビスのQSFT画分でマクロファージを処理すると、マクロファージのアポトーシスの誘導が観察された。
[例7]
B.セパシアのQSFT画分で処理されたマクロファージのサイトゾル抽出物中のカスパーゼ活性(カスパーゼ−3及びカスパーゼ−9)の測定
マクロファージの単離は、例2のとおりに行った。例2に記載されている方法を用いて、B.セパシアのQSFT画分でマクロファージを一晩処理する。マクロファージサイトゾルの抽出物の調製及びカスパーゼアッセイは、「ZaborinaO.et al., Microbiology 146:2521−2530 (2000)」に記載されているとおりに行った。
簡潔に述べると、カスパーゼ−3活性の測定は、基質として、Ac−DEVD−pNA(N−アセチル−Asp−Glu−Val−Asp−p−NO2−アニリン)を用いて行った。誘導されていないマクロファージのサイトゾル抽出物;B.セパシアQSFT画分とともに一晩インキュベートされたマクロファージのサイトゾル抽出物(10μgのタンパク質);並びにB.セパシア QSFT画分(10μgのタンパク質)及び添加された阻害剤(DEVD−CHO)とともに一晩インキュベートされたマクロファージのサイトゾル抽出物とともに、37℃で15、30、45、60、75及び90分インキュベートした後、カスパーゼ−3基質(200μm)からのpNA(p−ニトロアニリン)の放出を、405nmで分光学的に測定した(図3A)。10μgのマクロファージのサイトゾルタンパク質を各ケースで使用した。
カスパーゼ−9アッセイでは、誘導されていないマクロファージのサイトゾル抽出物;B.セパシアのQSFT画分とともに一晩インキュベートされたマクロファージのサイトゾル抽出物(10μgのタンパク質);並びに阻害剤(LEHD−CHO)を加えたB.セパシア QSFT画分(10μgのタンパク質)とともに一晩インキュベートされたマクロファージのサイトゾル抽出物とともに、15、30、45、60、75及び90分インキュベートした後、カスパーゼ−9の基質である200μM Ac−LEHD−pNA(N−アセチル−Leu−Glu−His−Asp−p−NO2−アニリン)からのpNAの放出を測定した。10μgのマクロファージのサイトゾルタンパク質を各ケースで使用した。
DEVD−CHO及びLEHD−CHOは、それぞれ、カスパーゼ3及びカスパーゼ9活性を遮断し、Biomol Research Laboratories, Plymouth Meeting, PA, U.S.Aから購入できる。B.セパシア QSFT画分でマクロファージを一晩処理すると、カスパーゼ−9及びカスパーゼ−3の活性は何れも増加した(図3A及びB)。これらの活性は、非処理マクロファージ又は阻害剤が存在する場合には、極めて低く留まり、QSFT画分によるアポトーシスの誘導には、カスパーゼの活性化が関与していることを示す。
[例8]
M.ボビス又はB.セパシア QSFT画分で処理されたマクロファージにおける核DNA断片化を測定するためのTUNELアッセイ
分画されたB.セパシア増殖培地は、例2に記載された方法を用いて得られた。2%グリセロール、0.02% TWEEN(登録商標) 80及びADC(アルブミン/デキストロース/クエン酸塩)(Difco Laboratories, Maryland, U.S.A.から購入可能)を補充したMiddlebrook 7H9ブロス(Difco Laboratories, Maryland, U.S.A.)中で、M.ボビスのBCGを増殖させた。収穫前に、この細菌を振盪機上、32℃で数日間増殖させた。分画されたM.ボビスの増殖培地は、例2に記載された方法を用いて得た。マクロファージの単離は、例2のとおりに行った。SUP又はHAFT、AAFT若しくはQSFT画分との一晩のインキュベーションによって処理されていない、又は処理されたマクロファージにおけるアポトーシスの誘導は、ApoAlert DNA断片化キット(Clontech Laboratories, Inc., Palo Alto, California, U.S.A.)で、アポトーシスによって誘導された核DNAの断片化を検出することによって、共焦点顕微鏡を使用して測定した。このアッセイは、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(Tdt)媒介性dUTPニック末端標識(TUNEL)に基づいており、本アッセイでは、Tdtは、アポトーシスが起こっている細胞中の断片化されたDNAの遊離3’ヒドロキシ末端にフルオレセインーdUTPの取り込みを触媒する。断片化された核DNA中へのフルオレセインーdUTPの取り込みは、共焦点顕微鏡によって検出される緑色蛍光を生成する。
M.ボビス又はB.セパシア QSFT画分の何れかで処理されたマクロファージは、赤い細胞質の背景中に黄色−緑色の核を示したので、核のDNAが断片化されたことを示している。非処理マクロファージ又は他のカラム画分で処理されたマクロファージでは、断片化はほとんど又は全く観察されなかった。
[例9]
P.アエルギノサ、B.セパシア及びM.ボビスから得た増殖培地の上清並びにAAFT、HAFT及びQSFT画分中のタンパク質のSDS−PAGE分析
SDS−PAGEの分離によって、前記タンパク質がP.アエルギノサ、B.セパシア及びM.ボビスの上清並びにAAFT、HAFT及びQSFT画分中に存在することを示した。粘液性P.アエルギノサ株8821から得たQSFT培地画分は、N末端分析によりアズリンに対応する18kDaのバンドとシトクロムc551に対応する9kDaのバンドという2つのバンドの存在を示した。B.セパシアQSFT画分は、75kDa、20kDa及び8kDaという3つの主要なバンドの存在を示した。エドマン分解によって決定された、20kDバンドの10アミノ酸のN末端アミノ酸配列(AHHSDVIQGN)は、P.アエルギノサのアズリンのN末端10アミノ酸配列と80%の配列相同性を示したが、8kDaバンドの10アミノ酸のN末端アミノ酸配列(EDPEVLFKNK)は、P.アエルギノサのシトクロムc551のアミノ酸配列と100%一致した。このように、P.アエルギノサ及びB.セパシアの高い細胞毒性活性を有するQSFT画分は、アズリン及びシトクロムc551タイプの酸化還元タンパク質の濃縮を示す。これに対して、M.ボビスのQSFT画分は、M.ボビスを増殖するために使用された7H9培地の構成成分であるウシ血清アルブミン(BSA)の濃い65kDaバンドと45kDaの分子量より大きな数個のバンドを示したが、8kDa又は22kDaのシトクロムc551及びアズリンタイプのタンパク質は示さなかった。
[例10]
アズリン/シトクロムc551で処理されたマクロファージにおける細胞死
精製されたアズリン及びシトクロムc551(Sigma Chemicals, St. Louis U.S.A.)を、例2のように調製したマクロファージに添加し、この混合物を2時間インキュベートした。アズリン及びシトクロムc551濃度は、図4のとおりであった。数字は、μgタンパク質を表す。マクロファージの細胞死は、例2の方法を用いて、細胞内酵素である乳酸脱水素酵素(LDH)の放出によって測定した。アズリン及びシトクロムc551ともに、マクロファージ細胞死を引き起こした。アズリン及びシトクロムc551の組み合わせは、より大規模なマクロファージの細胞死を引き起こした。緩衝液コントロール(緩衝液)が右に示されている。(図4)。
[例11]
アズリン/シトクロムc551で処理されたマクロファージにおけるアポトーシスの誘導
マクロファージの単離は、例2のとおりに行った。アズリン/シトクロムc551(50/25μg)でマクロファージを4及び6時間処理した後、例4のように、ApoAlert Mitochondria Membrane Sensorキットを用いて、共焦点顕微鏡によって調べ、アポトーシスの程度を決定した。アズリン/シトクロムc551混合物の存在下で、インキュベーション時間を増加させると、マクロファージは、アポトーシスのレベルが増加した。処理を行わなかった(リン酸緩衝生理食塩水で6時間処理)コントロールマクロファージは、アポトーシスを示さなかった。
[例12]
抗アズリン及び抗シトクロムc551抗体で前処理した後のマクロファージにおけるB.セパシア又はM.ボビス由来のアズリン/シトクロムc551混合物又はQSFT画分の細胞毒性
マクロファージの単離は、例2のとおりに行った。ウサギ中で調製された抗アズリン抗体及び抗シトクロムc551抗体の混合物の存在下及び不存在下において、精製されたアズリン/シトクロムc551混合物(50/25g)又はB.セパシア若しくはM.ボビスのQSFT画分でマクロファージを処理した。1:1の比で抗体を混合し、マクロファージの処理のために、混合された抗体(1、2、3又は4mg)を使用した。
マクロファージ細胞死の程度は、例2のように、LDHの放出によって測定した。図5は、抗アズリン抗体及び抗シトクロムc551抗体が存在するときに、アズリン/シトクロムc551混合物(A+C)又はB.セパシア由来のQSFT画分(Bc−QSFT)で処理されたマクロファージに対する細胞毒性の減少を示している。この減少は、M.ボビスからのQSFT画分(Mb−QSFT)では観察されなかった。
このように、抗アズリン及び抗シトクロムc551抗体の混合物で、アズリン/シトクロムc551混合物又はB.セパシアのQSFT画分を処理した後、マクロファージの細胞毒性をアッセイすると、細胞毒性は大幅に減少した。これに対して、アズリン及びシトクロムc551バンドを欠如することがSDS−PAGEゲルによって予め示されている(例9)M.ボビスのQSFT画分を、抗アズリン/抗シトクロムc551抗体で前処理した後、細胞毒性についてアッセイすると、細胞毒性の減少はほとんど観察されなかった。
[例13]
共焦点顕微鏡によって測定された、B.セパシアのQSFT画分及びアズリン/シトクロムc551による腫瘍細胞株へのアポトーシスの誘導
H460肺癌、PA−1卵巣癌、NCF乳癌、HT−29大腸癌及びHT−1080白血病細胞株を、米国菌培養収集所(Manassas,VA,U.S.A.)から入手した。MDD7及びMN1乳癌細胞株は、Andrei Gudkov, PH. D., Cleveland Clinic Foundation(Cleveland,OH、U.S.A.)から入手した。UISO−BCA−9乳癌並びにUISO−MEL−1、MEL−2、MEL−6及びMEL−29悪性黒色腫細胞株を成育し、「Rauth, S et al., In vitro Cellular and Developmental Biology, 30a (2): 79−84 (1994) and Rauth, S et al., Anticancer Research, 14(6):2457−2463(1994)」に記載されているとおりに維持した。約1×105個の各細胞種を0.15mm厚のdTC3皿(Biotech, Butler, PA, U.S.A.)中、B.セパシアのQSFT画分(5μgタンパク質)又はアズリン/シトクロムc551混合物(50/25μg)の存在下で一晩培養した。続いて、例4のように、細胞を共焦点顕微鏡によって調べて、アポトーシスの程度を決定した。B.セパシアのQSFT画分及びアズリン/シトクロムc551混合物は何れも、一晩のインキュベーション後、H460肺癌、HT−29大腸癌、HT−1080白血病、PA−1卵巣癌、MDD7、NCF及びMN1乳癌、並びにUSIO−MEL−1、MEL−2、MEL−6及びMEL−29悪性黒色腫細胞に大規模なアポトーシスを誘導した。それぞれのケースで、細胞毒性因子で処理しなかった(リン酸緩衝生理食塩水を添加)細胞は、大規模なアポトーシスを示さなかった。
[例14]
TUNELアッセイによって測定された、M.ボビスのQSFT画分によるUSIO−Mel−6悪性黒色腫細胞株へのアポトーシスの誘導。
USIO−Mel−6悪性黒色腫細胞を、「Rauth, S etal., Anticancer Research, 14(6): 2457−2463 (1994)」に記載されているとおりに調製した。M.ボビスのQSFT画分は、例8と同様に調製した。M.ボビスのQSFT画分(5μgタンパク質)で処理した悪性黒色腫細胞及び非処理コントロール細胞を12時間インキュベートした。TUNELアッセイを用いて、アポトーシスの誘導を測定し、例8と同様に、アポトーシスによって誘導された核DNAの断片化を検出した。M.ボビスのQSFT画分で処理された悪性黒色腫細胞は、赤い細胞質の背景中に黄色−緑色の核を示したので、核のDNAが断片化されたことを示している。非処理悪性黒色腫細胞では、断片化はほとんど又は全く観察されなかった。
[例15]
アズリン/シトクロムc551で処理した後の、ノードマウスにおける悪性黒色腫細胞(USIO−Mel−2)の増殖の減少
ヌードマウス( Frederick Cancer Research and Development Center, Frederick, Maryland U.S.A.から入手)に、約106個のUSIO−Mel−2細胞を皮下注射した。約3週後に、小さな腫瘍が発生した。次いで、このマウスに、公知の抗悪性黒色腫薬DTIC[5−(3,3’−N,N−ジメチルトリアゼン−1−イル)−イミダゾール−4−カルボキサミド](7.5μg)(「Ahlmais et al., Cancer 63:224−7 (1989)」を参照。)を週に1回、4週間腹腔内注射するか、又は高用量(150μgのアズリン/75μgのシトクロムc551)、低用量(10μgのアズリン/5μgのシトクロムc551)のアズリン/シトクロムc551混合物若しくはコントロール(クエン酸緩衝液)を週3回、4週間腹腔内注射した。コントロール、DTIC処理、並びに高用量および低用量のアズリン/シトクロムc551処理マウス中の腫瘍容積を、間隔を置いて測定した。
コントロール、DTIC処理及びアズリン/シトクロムc551処理ヌードマウス中の腫瘍サイズの増加は図6に示されており、このようなマウスにおける体重増加/減少のデータは図7に示されている。高用量の150μgアズリン/75μgシトクロムc551の注射後、DTICと比較して、増殖の遅延と腫瘍サイズの縮小がもたらされた。図7は、DTIC又はアズリン/シトクロムc551混合物の何れかを注射しても、マウスの体重増加には影響を及ぼさないことを示している。全てのマウスは、実験期間中に体重が増加した。
[例16]
悪性黒色腫細胞(Mel−6)を注射した後の腫瘍サイズに対する、ヌードマウスへのアズリン及びM.ボビスのQSFT画分の後注射の影響
3匹のヌードマウス(Frederick Cancer Research and Development Center, Frederick, Maryland U.S.A.から入手)に、約106個のUSIO−Mel−6細胞を皮下注射した。約3週後に、小さな腫瘍が発生した。次いで、一匹のマウスに、リン酸緩衝生理的食塩水(コントロール)を腹腔内注射し、一匹のマウスにM.ボビスのQSFT画分(5μgタンパク質)を注射し、一匹のマウスにM.ボビスのQSFT画分(5μgタンパク質)及びアズリン(50μg)の混合物を注射した。M.ボビスのQSFT画分は、例8と同様に調製した。コントロール、M.ボビスのQSTF画分処理したマウス及びM.ボビスのQSFT画分/アズリンで処理したマウス中の腫瘍のサイズ(腫瘍容積)を、30日の期間にわたって測定した。これらのデータを図8に示す。処理が施されたマウスは何れも、コントロールマウスに比べて腫瘍増殖の減少を示した。
[例17]
アズリンは、ヒト乳癌細胞のアポトーシス及び退行を誘導する
ヒト乳癌細胞株MCF−7(p53+/+)及びMDA−MB−157(p53−/−)は、「Department of Surgical Oncology, University of Illinois at Chicago (UIC), Chicago」の菌株培養収集所から取得した。正常な乳細胞(MCF−10F)及び皮膚細胞も同所から取得した。HBL100細胞は、「Dr. Nita J. Mahile, Department of Biochemistry and Molecular Biology, Mayo Clinics, Rochester,MN」からいただいた。Eagleの塩、10% FBS、ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したMEM培地又はMacoyの5A培地中の何れかで、細胞を増殖させた。細胞を、6%のCO2中、37℃で増殖させた。
シュードモナス・アエルギノサの、アズリンをコードする遺伝子を増幅し、pUCl9中にクローニングした。「Yamada, T. et al., Infect. Immun., vol. 70, pp 7054−62 (2002)」(その内容は、参照により、あらゆる目的のため、本明細書に組み込まれる。)に記載されているように、E.コリのJM109からアズリンを精製した。
Yamada et al.,(2002)に記載されているように、MTTアッセイを用いて、細胞株に対するアズリンの細胞毒性を測定した。図9は、様々な濃度のアズリンで72時間処理したMCF−7及びMDA−MB−157細胞に対するアズリンの細胞毒性を示している。72時間の処理後、28.5μM(400μg/ml)の濃度のアズリンは、72時間以内に、MCF−7細胞中に50%の細胞死を誘導した。同じ実験条件下で、MDA−MB−157細胞は、50%の細胞死を与えるために、57μM(800μg/mL)を必要とした。
アズリンが正常な細胞に同様の細胞死を誘導するかどうかを調べるために、2つの乳房上皮細胞株を検査した(HBL 100及びMCF−10F)。57μM(800μg/mL)のアズリンとともに72時間インキュベートした後、20%のMCF−10F細胞と18%のHBL 100細胞は生存していなかった。細胞の生存性は、細胞力価96水性タンパク質分解アッセイ(Eilon, G. F. et al., Cancer Chemother. Pharmacol., vol. 45, pp 183−91 (2001))、Promega (Madison, WI)のキットを使用。)によって決定した。
[例18]
アズリンによる処理は、乳癌腫瘍細胞を注入したヌードマウスにおいて腫瘍サイズを減少させる
エストラジオールを前処理した雌のヌードマウス(Frederick Cancer Research and Development Center, Frederick, Maryland U.S.A.から入手)の右最下部の乳腺脂肪体中に、例17と同様に取得した約50万個のMCF−7細胞を注射した。各10匹のマウスからなる2つのグループに、マウスを無作為に振り分けた。処理グループには、1mLの通常の生理的食塩水中のアズリン1mgを28日間、毎日腹腔内に与え、コントロールグループには、1mLの生理的食塩水を28日間、毎日与えた。
この処理は、MCF−7の接種から3日後に始まった。実験の間、マウスを毎日調べ、3軸(3-axis)の腫瘍容積と体重を週2回測定した。第29日目に、動物を屠殺し、詳細な剖検を行った。全ての腫瘍及び内臓を、組織学的検査及び免疫細胞学的検査のために保存した。
1mgのアズリンを28日間毎日処理されたマウス中の腫瘍容積は、コントロールグループ中の動物より、増加の速度がかなり遅かった。データの一変量解析によって、これら2つのグループ(アズリン処理 対 コントロール)における腫瘍の増殖速度の差は有意であることが示された。例えば、処理の開始から22日後、処理マウス中の平均腫瘍容積は、コントロールマウスの平均腫瘍容積の22%に過ぎず(すなわち、それぞれ、0.0267cm3及び0.1240cm3、P=0.0179、Kruska−Wallis検定)、腫瘍増殖が78%阻害されることを示している。
29日目の実験終了時において、アズリン処理グループ中の平均腫瘍容積は、コントロールグループの平均腫瘍容積の15%に過ぎなかった。これは、2つのグループに対する、cm3で表された平均腫瘍容積の経時的変動のグラフを示す図10によってさらに図示されている。
多変量解析アプローチでは、非線形混合効果モデルをデータにフィットさせた。被検対象特異的な混合効果である係数を用い、腫瘍増殖に対してフィッティングされた1つのモデルは、時間に対して指数関数的であり、コントロールグループの場合、フィッティングされたモデルは腫瘍容積=exp{−4.23+0.06*時間}であったのに対して、処理グループの場合、腫瘍容積=exp{−4.23+0.03*時間}であった。この差は、統計的に有意であった(P=0.0456)。処理の期間中(28日)、処理された動物は、体重減少及び/又は一般的に観察される他の毒性兆候によって明らかとなる毒性の兆候を一切示さなかった。
腫瘍中のアポトーシスの程度は、例8のように、TUNEL染色によって推測した。アズリン処理されたグループは、アポトーシス細胞がほとんど見られなかったコントロールに比べて、アポトーシスの数値の顕著な増加を示した。
[例19]
アズリン変異体の調製
微生物及びプラスミド
「Kukimoto et al., FEBS Lett, vol. 394, pp87−90 (1996)」(その内容は、参照により、あらゆる目的のために、本明細書に組み込まれる。)に記載されている方法に従って、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、アズリン遺伝子(野生型アズリン)を増幅した。P.アエルギノサ株PA01由来のゲノムDNAをテンプレートDNAとして使用して、PCRを行った。使用したフォワード及びリバースプライマーは、5’−GCCCAAGCTTACCTAGGAGGCTGC TCCATGCTA−3’(配列番号8)及び5’−TGAGCCCCTGCAGGCGCCCATGAAAAAGCCCGGC−3’(配列番号9)であり、追加して導入されたHindIII及びPstIの制限部位には下線が付されている。
545bpの増幅されたDNA断片をHindII及びPstIで消化し、アズリン遺伝子がlacプロモーターの下流に配置されて発現プラスミドpUC19−azuAを与えるように、pUC19の対応する部位中に挿入した。アズリン遺伝子を発現するための宿主株として、E.コリ JM109を使用した。50μg/mLのアンピシリン、0.1mM IPTG及び0.5mM CuSO4を含有する2YT培地中、37℃で16時間、この組み換えE.コリ株を培養し、アズリンを産生させた。
アズリン遺伝子の部位特異的突然変異導入
QuickChange部位特異的突然変異導入キット(Stratagene, La Lolla, CA)を用いて、アズリン遺伝子の部位特異的突然変異導入を行った。各変異のために、オリゴヌクレオチドの単一セットを以下のように設計した。C112Dに対して:5’−CAGTACATGTTCTTCGACACCTTCCCGGGCCAC−3’(配列番号:10)及び5’−TGGCCCGGGAAGGTGTCGAAGAACATGTACTGC−3’(配列番号:11);M44Kに対して:5’−CCTGCCGAAGAACGTCAAGGGCCACAACTGGG−3’(配列番号:12)及び5’−CCCAGTTGTGGCCCTTGACGTTCTTCGGCAGG−3’(配列番号:13);M64Eに対して:5’−GGTCACCGACGGCGAGGCTTCCGGCCTGG−3’(配列番号:14)及び5’−CCAGGCCGGAAGCCTCGCCGTCGGTGACC−3’(配列番号:15)。変異は、DNA配列を決定することによって確認した。
アズリンのキメラ変異体
T細胞エピトープに対する候補と推定されるアズリンのアミノ酸残基を、GENETYXソフトウェア(Software Development, Tokyo)によって探索した。抗原性エピトープの7つの候補EP1からEP7が、以下のように見出された。EP1、I20TVDKS25(配列番号16);EP2,V49LSTAA54(配列番号:17);EP3,G58VVT61(配列番号:18);EP4,G63HASG66(配列番号:19);EP5,R79VIAH83(配列番号:20);EP6,K85LIG88(配列番号:21);及びEP7,M121KGTLT126(配列番号:22)であった。
T細胞エピトープ(EP)部位の候補の周囲にあるアミノ酸を比較するために、様々な微生物から得たアズリンのアミノ酸配列をGenBankから取得し、GENETYXソフトウェアによってアラインメントを行った(図11(a))。1から7の番号が付されているEP部位は、配列の上部の棒で示されている。PA、シュードモナス・アエルギノサPAO1(配列番号23);AF、アルカリゲネス・ファエカリス(配列番号24);AX、アクロモバクター・キシロソキシダンスssp.デニトリフィカンスI(配列番号25);BB、ボルデテラ・ブロンキセプティカ(配列番号26);MJ、メチロモナス sp.J(配列番号27);NM、ナイセリア・メニンギティディスZ2491(配列番号28);PF、シュードモナス・フルオレセン(配列番号29);PC、シュードモナス・クロロラフィス(配列番号30);XE、キシレラ・ファスティディオサ 9a5c(配列番号31)。
抗原性エピトープが変化したキメラアズリンを得るため、P.アエルギノサの抗原性エピトープ候補に位置するアミノ酸を、他の微生物アズリンのアミノ酸と置換する設計を行った。部位特異的変異導入及び以下のオリゴヌクレオチドを用いたアズリン遺伝子中のBstEII制限断片の置換によって、キメラ変異体を累積的(cumulatively)に構築した。EP1内のT21Q変異、5’−CAACACCAATGCCATCcagGTCGACAAGAGCTGCAAGC−3’(配列番号:32)及び5’−AGCTCTTGTCGACctgGATGGCATTGGTGTTGAACTGC−3’(配列番号:33);EP7内のT126K変異に対して、5’−GAAGGGCACCCTGAagCTGAAGTGATGCGCG−3’(配列番号:34)及び5’−GCGCATCACTTCAGctTCAGGGT GCCCTTCATC−3’(配列番号:35);EP2内のT52K/A53S変異、5’−AACTGGGTACTGAGCAagtCCGCCGACATGCAGGGC−3’(配列番号:36)及び5’−CTGCATGTCGGCGGactTGCTCAGTACCCAGTTGTG3’(配列番号:37);EP3内のG58P/V591変異に対して、5’−CCGCCGACATGCAGccCaTGGTCACC GACGGCATGGC−3’(配列番号:38)及び5’−GCCATGCCGTCGGTGACCAtGggCTGCATGTCGGCGG−3’(配列番号:39);EP3内のM591/V60A変異に対して、5’−CATGCAGCCCATcGcCACCGACGGCATGGC−3’(配列番号:40)及び5’−CATGCCGTCGGTGgCgATGGG CTGCATGTCG−3’(配列番号:41);EP4、EP5及びEP6内のS66A/G67A/H83F/K85P/L861変異に対して、5’−GTCACCGACGGCATGGCTgCCGcCCTGGACAAGGATTACCTGAAGCCCGACGACAGCCGTGTCATCGCCttCACccGaTcATCGGCTCGGGCGAGAAGGACTCG−3’(配列番号:42)及び5’GTCACCGAGTCCTTCTCGCCCGAGCCGATgAtCggGGTGaaGGCGATGACACGGCTGTCGTCGGGCTTCAGGTAATCCTTGTCCAGGgCGGcAGCCATGCCGTCG−3’(配列番号:43)。BstEII部位には下線が付されており、野生型アズリン遺伝子から得たBstEIIを置換するために使用した。オリゴヌクレオチド中の小文字は、変異原性ヌクレオチド(mutagenic nucleotides)を示している。
図11(b)は、上記方法を用いて調製された野生型アズリン及びキメラ変異アズリンを示している。S1(配列番号45)、S2(配列番号46)、S3(配列番号47)、S4(配列番号50)及びS6(配列番号51)を、部位特異的変異導入によって、累積的に、この順序で構築した。WtS5(配列番号52)及びS3S5(配列番号48)は、野生型アズリン(wtS5)及びS3アズリン(S3S5)の野生型(配列番号44)BstEII断片を、それぞれ、変異原性BstEII断片で置換することによって構築した。WtS5S4S6(配列番号53)及びS3S5S4S6(配列番号49)は、それぞれ野生型S5遺伝子及びS3S5遺伝子をテンプレートDNAとして使用する部位特異的変異導入を2回行うことによって構築した。変異の導入は、DNA配列を決定することによって確認した。置換されたアミノ酸は太字で示されている。遺伝子は、上記野生型アズリンについて記載したように、E.コリ中で発現した。S3S5S4S6の発現は観察されなかった。
Q−Sepharose FFカラム及びSuperdex 75カラム(Amersham Pharmacia Biotech AB, Uppsala, Sweden)を使用し、Kukimotoら(1996)によって記載された方法に従って、組み換えE.コリ細胞の周辺質画分(periplasmic fractions)から野生型アズリン及び変異アズリンを精製した。アポアズリンを調製するために、0.2チオ尿素、0.25M NaCl及び1mM EDTAを含有する0.1M MES緩衝液pH 6.0で野生型アズリンを16時間処理した。放出された銅は、「van Pouderroyen. et al., Biochemistry, vol.35:1397−1407 (1996)」によって記載されている方法に従って、透析により除去した。
[例20]
アズリン及び変異体アズリンの細胞毒性活性
野生型アズリン、アポアズリン、C112D及びM44KM64E変異体並びに例19で調製されたキメラ変異体を、マクロファージ細胞毒性アッセイで使用した。マクロファージの単離は、例2のとおりに行った。
10% FBSを含有する200μLのRPMI−1640培地中、37℃、5%CO2を加えた、96ウェルの培養プレート中に、ウェル当たり約1×105個の細胞を播種した。一晩増殖した後、この細胞を同じ培地で洗浄し、次いで、アズリン又は変異体アズリンを含有する新しい培地に置き換えた。24時間の処理後、10μLの5mg/mL MTT[3−(4 5−ジメチルチアゾール−2−イル−2,5−ジフェニル テトラゾリウムブロミド)]溶液を培養液に添加し、37℃で2.5時間インキュベートした。イソプロパノール中の40mM HClを添加することによって、MTT反応を終結させた。形成されたMTTホルマザンは、「Mosmann, J. Immunol. Methods 65:55−63(1983)」によって記載されている方法に従って、分光学的に測定した。
アズリン及び変異体アズリンの細胞毒性は、図12(a)及び12(b)に示されている。図12(b)には、野生型アズリンの電子伝達効率のパーセントとして表された、変異体の相対電子伝達効率も示されている。ここで、酸化されたアズリンと還元されたシトクロムC551間の電子伝達効率は、「Cutruzzola et al., Journal of Inorganic Biochemistry 88 ;353−361,2002」によって記載されているとおりに、レーザーフラッシュ光分解によって測定した。
[例21]
アズリン及び変異体アズリンのアポトーシス活性
野生型アズリン又はアズリン変異体によって誘導されたアポトーシスの割合を決定するために、ApoAlertミトコンドリア膜センサーキット(Clontech Laboratories, Inc., Palo Alto, California, U.S.A.)を用いたフローサイトメトリー(Becton Dickinson, Inc., Franklin Lakes, NJ)によって、ミトコンドリアの電位の変化を測定した。マクロファージの単離は、例2のとおりに行った。
10% FBSを含有する2mLのRPMI−1640培地中、37℃、5%CO2を加え、6ウェルの培養プレート中に、ウェル当たり約1×106個の細胞を播種した。一晩増殖した後、この細胞を同じ培地で洗浄し、次いで、アズリン又は変異アズリンを含有する新しい培地に置き換えた。16時間の処理後、細胞をMitoSensor色素で染色し、製造業者のマニュアルに従って、FL−1フィルタを用いたフローサイトメトリーによって分析した。
図13は、アズリン、アポアズリン並びにC112D及びM44KM64E変異体の、マクロファージ細胞に対するアポトーシス活性を示す。アポトーシスの割合(%)は、コントロール集団から緑色蛍光を発するアポトーシス集団へとシフトした細胞集団の割合として表される。
[例22]
ラストシアニン、アポ−ラストシアニン及びシュードアズリンの細胞毒性活性
野生型アズリンは、例19と同様に調製した。チオバチラス・フェロオキシダンス(Thiobacillus ferrooxidans)のラスチシアニン、アクロモバクター・シクロクラステス(Achromobacter cycloclastes)のシュードアズリンを、アズリンについて記載されているように (Yamada et al. 2002; Goto et al. 2003)、それらの遺伝子の過剰発現及びカラムクロマトグラフィー分画によって調製した。 アポラスチシアニンは、例18に記載されている方法を用いて調製した。UISO−Mel−2細胞は、例13と同様に取得した。
10% FBSを含有する200μLのMEM培地中、37℃で、5%CO2を加えた、96ウェルの培養プレート中に、ウェル当たり約5×103個の細胞を播種した。一晩の増殖後、細胞を同じ培地で洗浄し、次いで、これを、緩衝液(PBS pH 7.4又はTris−HCI pH 5.0)、ラスチシアニンを含有するTris−HCl pH5.0中の未精製試料又はPBS pH7.4中のアポラスチシアニンと交換した。24時間後、例19に記載されているように、MTTアッセイを行った。野生型アズリン、ラスチシアニン、アポ−ラスチシアニン及びシュードアズリンの細胞毒性は、図14に示されている。
[例23]
プラストシアニンの細胞毒性活性
例18と同様に、野生型アズリンを調製した。フォロミジウム・ラミノサム(Phormidium laminosum)から得たプラストシアニンは、その遺伝子の過剰発現及びアズリンについて記載したカラムクロマトグラフィー分画によって調製された。マクロファージの単離は、例2のとおりに行った。
10% FBSを含有する200μLのRPMI−1640培地中、37℃、5%CO2を加えた、96ウェルの培養プレート中に、ウェル当たり約1×105個の細胞を播種した。一晩増殖した後、この細胞を同じ培地で洗浄し、次いで、アズリン又は変異体アズリンを含有する新しい培地に置き換えた。24時間の処理後、10μLの5mg/mL MTT[3−(4 5−ジメチルチアゾール−2−イル−2,5−ジフェニル テトラゾリウムブロミド)]溶液を培養液に添加し、37℃で2.5時間インキュベートした。イソプロパノール中の40mM HClを添加することによって、MTT反応を終結させた。形成されたMTTホルマザンは、「Mosmann, J. Immunol. Methods 65:55−63(1983)」によって記載された方法に従って、分光学的に測定した。野生型アズリン及びプラストシアニンの細胞毒性は、図15に示されている。
ろ過された増殖培地上清(SUP)、又はB.セパシア増殖培地から得られた、ヒドロキシアパタイトフロースルー(HAFT)、ATP−アガロースフロースルー(AAFT)及びQ−セファロースフロースルー(QSFT)カラムクロマトグラフィー画分の不存在下又は存在下での、1.0mM ATPのマクロファージ死滅効果を示す図である。マクロファージ細胞死の程度は、細胞内酵素である乳酸脱水素酵素(LDH)の放出によって測定される。各画分から得た2μgのタンパク質をアッセイで使用した。全てのアッセイは三つ組みで実施され、エラーバーが示されている。
B.セパシアの、ろ過された増殖培地上清(SUP)及びカラムクロマトグラフィー画分(HAFT、AAFT及びQSFT)の、ATP不存在下における、マクロファージ細胞死に対する効果を示す図。マクロファージ細胞死の程度は、細胞内酵素である乳酸脱水素酵素(LDH)の放出によって測定される。全てのアッセイは三つ組みで実施、エラーバーが示されている。
B.セパシア QSFT画分で処理されたJ774マクロファージのサイトゾル抽出液中のカスパーゼ活性(図3A−カスパーゼ−3;図3B−カスパーゼ−9)を示すグラフ。B.セパシア QSFT画分(10μgタンパク質)とともに一晩インキュベートされたマクロファージ及び非処理マクロファージから、サイトゾル抽出物を調製した。カスパーゼ−3活性の測定用基質は、Ac− DEVD−pNA (N−アセチル−Asp−Glu−Val−Asp−p−NO2−アニリン)であった。カスパーゼ−9活性に対する基質は、Ac−LEHD−pNA (N−アセチル−Leu−Glu−His−Asp−p−NO2−アニリン)であった。表記の時間にわたって、37℃で、抽出物を基質とともにインキュベートした。各ケースで、10μgのマクロファージのサイトゾルタンパク質を使用した。pNA(p−ニトロアニリン)の放出を405nmで分光学的に測定した。
アズリン(Az)、シトクロムc551(CytC551)及びこれらの組み合わせの存在下にあるマクロファージにおける%乳酸脱水素酵素(LDH)放出として測定された細胞毒性を示す図。数字は、μgタンパク質を表す。緩衝液コントロール(緩衝液)が右に示されている。
B.セパシア(A)及びM.ボビス(B)QSFT画分の細胞毒性における、抗アズリン及び抗シトクロムc551抗体の及び免疫前血清の存在下での効果を示す図。A、アズリン(50μg);C.シトクロムc551(25μg);ab、抗アズリン及び抗シトクロムc551抗体の組み合わせ;P、免疫前血清。2μgのQSFT画分を各アッセイで使用した。ab及びPの後の数字は、抗体又は免疫前タンパク質のμgを表している。示されている結果は、三つ組みの実験の平均±標準偏差である。
悪性黒色腫腫瘍細胞(UISO−Mel−2)の誘導後の腫瘍サイズに対する、ヌードマウスへのアズリン/シトクロムc551の注射後の効果を示すグラフ。約106個のUISO−Mel−2細胞をヌードマウスに皮下注射した後、クエン酸緩衝液(コントロール)、公知の抗悪性黒色腫薬物DTIC(7.5μg)の何れかを週に一回、又は高用量(150gアズリン/75μgのシトクロムC551)又は低用量(10μgのアズリン/5μgシトクロムC551)のアズリン/シトクロムC551混合物を週に三回、4週にわたって腹腔内注射した。様々な時点で、コントロール(緩衝液処理)、DTIC処理並びに高用量及び低用量のアズリン/シトクロムC551処理されたマウスの腫瘍のサイズ(腫瘍容積)を決定し、グラフにプロットした。
図6の下に記載された実験中のマウスの体重増加又は減少を示すグラフ。上記実験の間、マウスを秤量し、グラム体重を記した。
アズリン(AZ)の存在下又は不存在下で、M.ボビスGSFT画分で処理されたヌードマウス中のMel−6腫瘍の退行を示すグラフ。約106個のUISO−Mel−6細胞をヌードマウスの皮下に注射した。約1週後に、小さな腫瘍が発生した。次いで、リン酸緩衝生理的食塩水(コントロール)、M.ボビスのQSFT画分又はM.ボビスのQSFT画分とアズリンの混合物をマウスに腹腔内注射した
様々な濃度のアズリンで72時間処理したMCF−7(黒塗り四角)及びMDA−MB−157(白抜き四角)細胞に対するアズリンの細胞毒性を示すグラフ。
アズリン(黒塗り四角)で処理されたヌードマウス及びコントロール動物(白抜き四角)におけるMCF−7腫瘍の退行を示すグラフ。
図11(a)及び(b)。図11(a)は、P.アエルギノサのアズリンと他の細菌のアズリンのアミノ酸配列のアラインメントを示す表である。アミノ酸配列のアラインメントは、Genetyxソフトウェアによって行う。図11(b)は、野生型アズリン(wtアズリン)及びキメラ変異体アズリンを示す表である。
図12(a)及び12(b)。図12(a)は、野生型及び酸化還元変異アズリンの、マクロファージ細胞に対する細胞毒性を示すグラフである。野生型アズリン(黒塗り丸)、アポアズリン(白抜き丸)、M44KM64E(黒塗り三角)、C112D(白抜き三角)。図12(b)は、野生型及びキメラ変異アズリンの、マクロファージ細胞に対する細胞毒性を示すグラフである。野生型アズリン(黒塗り丸)、S1(白抜き丸)、S2(黒塗り三角)、S3(黒塗り四角)、S4(白抜き三角)、S6(白抜き四角)、wtS5(黒塗り逆三角)、wtS5S4S6(黒塗りひし形)、S3S5(白抜き逆三角)。図12(b)は、野生型アズリンの電子伝達効率のパーセントとして表された、変異体の相対電子伝達効率も示している。パーセント細胞毒性を計算するために、非処理生細胞の数を100%とし、アズリン処理された試料中に存在する生細胞の数を測定した。
図13は、アズリン、アポアズリン及びアズリン変異体の、マクロファージ細胞に対するアポトーシス活性を示すグラフである。野生型アズリン(黒塗り丸)、アポアズリン(白抜き丸)、M44KM64E(黒塗り三角)、C112D(白抜き三角)。
図14は、野生型アズリン(wt azu黒塗り三角)、ラスチシアニン(未精製 黒塗り丸)、アポラスチシアニン(apo−rus 白抜き丸)及びシュードアズリン(Paz 白抜き四角)の細胞毒性を示すグラフである。
図15は、野生型アズリン(黒塗り丸)及びプラストシアニン(黒塗り四角)の細胞毒性を示すグラフである。