しかしながら、上述のマンガン浴槽法には以下の欠点があった。即ち、硫酸マンガン溶液中にRI中性子源を配置するので、RI中性子源に硫酸マンガン溶液が付着し、測定後にRI中性子源を洗浄する必要がある。また、55Mnの中性子吸収反応によって生成される56Mnは半減期2.58時間でβ崩壊する放射性物質であり、半減期は比較的短いものの、大量の放射化溶液が作られことになり、放射線汚染への注意やその管理が必要になる。また、55Mnの放射化と56Mnからのγ線の計数という二段階の工程が必要となり、液体の放射性物質を移動する必要があるとともに、測定のための手間がかかる。さらに、55Mnと硫酸マンガン溶液の他の物質への中性子吸収率は中性子源のエネルギー分布に依存し、またその予測精度は核計算に用いられる核データの精度に大きく依存することになる。
また、原子炉炉心管理システム等によって管理している核燃料の組成や燃焼度が実際に正確であるか否かを確証したいとの要請がある。
本発明は、中性子放出体を汚染することなく中性子放出率の測定が可能な中性子放出体の中性子放出率測定方法およびこれを利用した核燃料の中性子特性確証方法を提供することを目的とする。また、本発明は、放射線管理の容易な中性子放出体の中性子放出率測定方法およびこれを利用した核燃料の中性子特性確証方法を提供することを目的とする。また、本発明は、液体の放射性物質を移動することなく簡単に中性子放出率を測定することができる中性子放出体の中性子放出率測定方法およびこれを利用した核燃料の中性子特性確証方法を提供することを目的とする。また、本発明は、放出される中性子のエネルギースペクトルの評価を不要にできる中性子放出体の中性子放出率測定方法およびこれを利用した核燃料の中性子特性確証方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、核燃料の組成や燃焼度が管理上のものと一致しているか否かを実際に確証することができる核燃料の中性子特性確証方法を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するために請求項1記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法は、中性子放出体から放出された中性子を吸収するのに十分な厚さの水素含有物質中に中性子放出体を配置し、水素含有物質中で中性子の吸収反応を生じさせ、発生するγ線のうち、水素との反応で生じる2.2MeVの特性γ線を、中性子放出体から放出された中性子に影響を与えない位置に配置したγ線検出器によって計数し、この計数率と、中性子放出体から放出された中性子が2.2MeVの特性γ線を生じさせてγ線検出器に計数される検出効率の絶対値とに基づいて中性子放出体の中性子放出率を求めるものである。
したがって、中性子放出体から放出された中性子は周囲の水素含有物質に吸収される。このとき、中性子の吸収反応の殆どは水素含有物質中の水素との間で生じ、その結果、2.2MeVの特性γ線が発生する。この2.2MeVの特性γ線をγ線検出器によって計数する。γ線検出器は、中性子放出体から放出された中性子に影響を与えない位置、即ち放出された中性子が到達しない位置、換言すると、放出された中性子の遮蔽に必要な厚さよりも外側の位置に配置されているので、水素の中性子吸収反応に対してγ線検出器が影響を与えることがない。
ここで、中性子放出体から放出された中性子が水素と反応して2.2MeVの特性γ線を発生させ、更にこの特性γ線がγ線検出器によって計数される確率は、測定の検出効率の絶対値として求めることができる。この検出効率の絶対値とγ線検出器の計数率に基づいて中性子放出体から放出された中性子の単位時間当たりの数、即ち中性子放出体の中性子放出率が求められる。
なお、本願発明者らは、今回、中性子放出体から放出された中性子の殆どが水素含有物質中の水素に吸収されることを新たに知見しており、水素との吸収反応によって生じる2.2MeVの特性γ線の計数率に基づいて中性子放出体の中性子放出率を高精度に求めることは可能である。連続エネルギーモンテカルロ法を用いた数値解析では、中性子放出体から放出された中性子のうち、99%以上の中性子が水素含有物質、具体的には、例えば水又は炭化水素物質中の水素に吸収され、2.2MeVの特性γ線が発生することを確認した。
この場合、請求項2記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法のように、中性子放出体から放出された中性子が水素と反応して2.2MeVの特性γ線を発生させて当該特性γ線がγ線検出器に到達する確率と、γ線検出器の固有検出効率とに基づいて、検出効率の絶対値を求めるようにしても良い。
また、請求項3記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法のように、中性子放出体から放出された中性子の水素含有物質への相対吸収率分布、即ち水素含有物質中の水素の中性子の相対吸収率分布と、中性子吸収箇所とγ線検出器との間に存在する物質中での2.2MeVの特性γ線の減衰率とに基づいてγ線検出器に到達する確率を求めるようにしても良い。
また、請求項4記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法は、連続エネルギーモンテカルロ法計算コードを使用して相対吸収率分布を求めるものである。したがって、相対吸収率分布を計算によって高精度に求めることができる。連続エネルギーモンテカルロ法計算コードとしては、例えばMCNPコード(米国、ロスアラモス国立研究所)、MVPコード(日本、日本原子力研究所)等の使用が可能である。
また、請求項5記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法は、相対吸収率分布として、水素の中性子の相対吸収率分布に類似した核反応率を代用するものである。水素の中性子の相対吸収率分布の直接測定は困難であるが、他の元素の中性子との核反応率のなかには、直接測定が容易で、しかも水素の中性子の相対吸収率分布に類似したものがある。水素の中性子の相対吸収率分布の代わりに直接測定が容易な核反応率を用いることで、測定によって相対吸収率分布を求めることができる。
この場合、請求項6記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法のように、水素の中性子の吸収率分布に類似した核反応率は、6Liの中性子の吸収率分布、10Bの中性子の吸収率分布、63Cuの中性子の吸収率分布、3Heの中性子の吸収率分布のいずれかであることが好ましい。
また、請求項7記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法は、γ線検出器を移動させて複数箇所で特性γ線の測定を行って相対吸収率分布を求めるものである。水素の中性子吸収反応で発生する2.2MeVの特性γ線をγ線検出器を走査させながら測定することで、相対吸収率分布を求めることができる。相対吸収率分布を求める手法としては、例えばフィルタ付逆投影法等のアンフォールディング手法の使用が可能である。
また、請求項8記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法は、連続エネルギーモンテカルロ法計算コードを使用して前述のγ線検出器に到達する確率を求めるものである。したがって、放出された中性子が2.2MeVの特性γ線を発生させ、それがγ線検出器に到達する確率を計算によって高精度に求めることができる。連続エネルギーモンテカルロ法計算コードとしては、例えばMCNPコード、MVPコード等の使用が可能である。
また、請求項9記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法のように、水素含有物質は水又は炭化水素物質であることが好ましい。
また、請求項10記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法は、中性子放出体を中性子源、核燃料、放射性廃棄物のいずれかとしている。測定の精度上、中性子放出体内部で生じる中性子連鎖反応に起因して放出される中性子や中性子放出体内部で吸収される中性子を無視できる場合、その中性子放出体を中性子源と考える。一方、測定の精度上、中性子放出体内部で生じる中性子連鎖反応に起因して放出される中性子や中性子放出体内部で吸収される中性子を無視できない場合、その中性子放出体を核燃料や放射性廃棄物と考える。中性子放出体が中性子源である場合の中性子放出率は中性子強度である。また、中性子放出体が核燃料や放射性廃棄物である場合の中性子放出率は、放出中性子が全て外部の水素含有物質に吸収されるとみなして良いことから、中性子放出体の外部での中性子の吸収率である。
さらに、請求項11記載の核燃料の中性子特性確証方法は、中性子放出体は核燃料であり、請求項1から9のいずれか1つに記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法を使用して核燃料の中性子放出率を測定すると共に、管理上予測される核燃料の燃焼度及び当該燃焼度に基づく組成に基づいて核燃料の中性子放出率を算出し、この算出値と中性子放出率の測定値との比較によって核燃料の実際の燃焼度と当該燃焼度に基づく組成とのうち少なくとも一方を確証するものである。
核燃料は十分な厚さの水素含有物質中に配置されており、核燃料から放出された中性子は水素含有物質中の水素によって全て吸収されるとみなすことができるので、測定値である核燃料の中性子放出率は、水素含有物質中での中性子の吸収率(核燃料の外部での中性子の吸収率)とみなすことができる。水素含有物質中での中性子の吸収率は、核燃料の燃焼度及び組成に基づいて核計算により高い精度で求めることができる。
核燃料の組成、即ち235U、238U、239Pu、核分裂生成物等の割合は原子炉炉心管理システム等によって管理されている。管理上の組成に基づいて水素含有物質中での中性子の吸収率を算出し、この算出値を中性子放出率とみなして、実際の中性子放出率の測定値と比較することで、核燃料の管理上の組成を確証することができる。
同様に、核燃料の燃焼度も原子炉炉心管理システム等によって管理されており、管理上の燃焼度に基づいて水素含有物質中での中性子の吸収率を算出し、この算出値を中性子放出率とみなして、実際の中性子放出率の測定値と比較することで、核燃料の管理上の燃焼度を確証することができる。
請求項1記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法では、中性子放出体から放出された中性子を吸収するのに十分な厚さの水素含有物質中に中性子放出体を配置し、水素含有物質中で中性子の吸収反応を生じさせ、発生するγ線のうち、水素との反応で生じる2.2MeVの特性γ線を、中性子放出体から放出された中性子に影響を与えない位置に配置したγ線検出器によって計数し、この計数率と、中性子放出体から放出された中性子が2.2MeVの特性γ線を生じさせてγ線検出器に計数される検出効率の絶対値とに基づいて中性子放出体の中性子放出率を求めるので、放出された中性子に対して影響を与えることなく、当該中性子を検出することができ、中性子放出体の中性子放出率を高精度に求めることができる。即ち、中性子場に中性子検出器を配置して中性子を検出する方法では、中性子検出器に中性子を反応させる必要があることから、必ず中性子場に影響を与えてしまい、中性子検出器が無い状態の中性子場について測定を行なうことはできない。これに対し、本発明ではγ線検出器を中性子放出体から十分離れた位置に配置しており、放出中性子に影響を与えない状態で測定を行なうことができ、中性子放出体の中性子放出率を高精度に求めることができる。
また、中性子を吸収した水素からは即発的に2.2MeVの特性γ線が放出されるので、中性子放出体の中性子放出率をリアルタイムに測定することができる。
また、本発明では、マンガン浴槽法のように測定対象の中性子放出体を汚すことがなく、測定後の中性子放出体の洗浄が不要である。
また、中性子を吸収した水素原子は即発的に2.2MeVの特性γ線を発生させて安定化するため、中性子放出体を囲む水素含有物質の放射化は実用上問題にならない程度の低レベルのものに抑えられ、放射線汚染への注意やその管理が容易である。
さらに、本発明では中性子放出体から放出される中性子のエネルギースペクトルの評価を行なう必要がない。即ち、マンガン浴槽法では水素、硫黄、マンガンへの中性子吸収率比が中性子源から放出された中性子のエネルギースペクトルに依存するので、マンガンへの中性子吸収率から全中性子吸収率を求める際、中性子源から放出される中性子のエネルギースペクトルの評価が必要である。これに対し、本願発明では、中性子放出体から放出される中性子の吸収に水素含有物質を使用しており、放出中性子の99%以上が水素含有物質中の水素に吸収されることから、放出中性子は水素含有物質中の水素に吸収されるとみなすことができる。このため、放出中性子のエネルギースペクトルの評価を行なう必要がなく、中性子放出体の中性子放出率を求めるのが容易である。
また、マンガン浴槽法のように液体の放射性物質を移動することがなく、中性子放出率の測定が簡単である。
この場合、請求項2記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法のように、中性子放出体から放出された中性子が水素と反応して2.2MeVの特性γ線を発生させて当該特性γ線がγ線検出器に到達する確率と、γ線検出器の固有検出効率とに基づいて、検出効率の絶対値を求めるようにしても良い。
また、請求項3記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法のように、中性子放出体から放出された中性子の水素含有物質への相対吸収率分布、即ち水素含有物質中の水素の中性子の相対吸収率分布と、中性子吸収箇所とγ線検出器との間に存在する物質中での2.2MeVの特性γ線の減衰率とに基づいてγ線検出器に到達する確率を求めるようにしても良い。
また、請求項4記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法では、連続エネルギーモンテカルロ法計算コードを使用して相対吸収率分布を求めるようにしているので、相対吸収率分布を計算によって高精度に求めることができる。
また、請求項5記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法では、相対吸収率分布として、水素の中性子の相対吸収率分布に類似した核反応率を代用するので、水素の中性子の相対吸収率分布の代わりに直接測定が容易な核反応率を用いることで、測定によって相対吸収率分布を求めることができる。
この場合、請求項6記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法のように、水素の中性子の吸収率分布に類似した核反応率は、6Liの中性子の吸収率分布、10Bの中性子の吸収率分布、63Cuの中性子の吸収率分布、3Heの中性子の吸収率分布のいずれかであることが好ましい。
また、請求項7記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法のように、γ線検出器を移動させて複数箇所で特性γ線の測定を行って相対吸収率分布を求めるようにしても良い。
また、請求項8記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法では、連続エネルギーモンテカルロ法計算コードを使用して前述のγ線検出器に到達する確率を求めるようにしているので、放出された中性子が2.2MeVの特性γ線を発生させ、それがγ線検出器に到達する確率を計算によって高精度に求めることができる。
また、請求項9記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法のように、水素含有物質は水又は炭化水素物質であることが好ましい。
また、請求項10記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法では、中性子放出体が中性子源、核燃料、放射性廃棄物のいずれかである。なお、測定の精度上、中性子放出体内部で生じる中性子連鎖反応に起因して放出される中性子や中性子放出体内部で吸収される中性子を無視できる中性子源では、測定した中性子放出率は中性子強度である。また、中性子放出体が核燃料や放射性廃棄物である場合の中性子放出率は、放出中性子が全て外部の水素含有物質に吸収されるとみなして良いことから、中性子放出体の外部での中性子の吸収率である。
さらに、請求項11記載の核燃料の中性子特性確証方法では、中性子放出体は核燃料であり、請求項1から9のいずれか1つに記載の中性子放出体の中性子放出率測定方法を使用して核燃料の中性子放出率を測定すると共に、管理上予測される核燃料の燃焼度及び当該燃焼度に基づく組成に基づいて核燃料の中性子放出率を算出し、この算出値と中性子放出率の測定値との比較によって核燃料の実際の燃焼度と当該燃焼度に基づく組成とのうち少なくとも一方を確証するので、管理上の核燃料組成が実際の核燃料の組成と一致しているか否か、管理上の核燃料燃焼度が実際の核燃料の燃焼度と一致しているか否かを確認することができる。例えば、核燃料が原子炉に装荷する前のものの場合には核燃料の組成の確証に使用することができ、使用済み燃料の場合には核燃料の燃焼度と組成の両方、又は燃焼度と組成のいずれか一方の確証に使用することができる。
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
図1に本発明の中性子放出体の中性子放出率測定方法の概念を示す。この中性子放出率測定方法は、中性子放出体1から放出された中性子2を吸収するのに十分な厚さの水素含有物質3中に中性子放出体1を配置し、水素含有物質3中で中性子2の吸収反応を生じさせ、発生するγ線のうち、水素との反応で生じる2.2MeVの特性γ線4を、中性子放出体1から放出された中性子2に影響を与えない位置に配置したγ線検出器5によって計数し、この計数率と、中性子放出体1から放出された中性子2が2.2MeVの特性γ線4を生じさせてγ線検出器5に計数される検出効率の絶対値とに基づいて中性子放出体1の中性子放出率を求めるものである。なお、図中、中性子2と特性γ線4を飛程で示している。
本実施形態では、中性子放出体1から放出された中性子2が水素と反応して2.2MeVの特性γ線4を発生させて当該特性γ線4がγ線検出器5に到達する確率と、γ線検出器5の固有検出効率とに基づいて、検出効率の絶対値を求めている。また、中性子放出体1から放出された中性子2の水素含有物質3への相対吸収率分布と、中性子吸収箇所(図1中、符号2で示す実線と符号4で示す点線との交点)とγ線検出器5との間に存在する物質中での2.2MeVの特性γ線4の減衰率とに基づいてγ線検出器5に到達する確率を求めている。本実施形態では、水素含有物質3中に中性子放出体1とγ線検出器5を配置しており、中性子放出体1とγ線検出器5との間に存在する物質は水素含有物質3である。
測定対象物である中性子放出体1は、例えばRI(ラジオアイソトープ)等の中性子源、加速器中性子源の中性子生成ターゲット、核燃料、放射性廃棄物等の中性子2を放出するものである。ここで、測定の精度上、中性子放出体1の内部で生じる中性子連鎖反応に起因して放出される中性子や中性子放出体1の内部で吸収される中性子を無視できる場合の当該中性子放出体1(例えばRI、加速器中性子源の中性子生成ターゲット等)を中性子源とし、無視できない場合の中性子放出体1(例えば核燃料、放射性廃棄物等)を核燃料として説明する。なお、ここでの中性子源はRI、加速器中性子源の中性子生成ターゲットに限るものではなく、測定の精度上、内部で生じる中性子連鎖反応に起因して放出される中性子や内部で吸収される中性子を無視できる中性子放出体1であれば含まれる。また、ここでの核燃料は原子炉に装荷する核燃料、放射性廃棄物等に限るものではなく、測定の精度上、内部で生じる中性子連鎖反応に起因して放出される中性子や内部で吸収される中性子を無視できない中性子放出体1であれば含まれる。即ち、中性子放出体1が核燃料や放射性廃棄物等であっても、測定の精度上、内部で生じる中性子連鎖反応に起因して放出される中性子や内部で吸収される中性子を無視できる場合には当該核燃料や放射性廃棄物等を中性子源に含めても良い。また、中性子放出体1がRI、加速器中性子源の中性子生成ターゲット等であっても、測定の精度上、内部で生じる中性子連鎖反応に起因して放出される中性子や内部で吸収される中性子を無視できない場合には当該RI、加速器中性子源の中性子生成ターゲット等を核燃料に含めても良い。
水素含有物質3は、例えば水、炭化水素物質等であることが好ましい。ただし、これらに限るものではなく、例えば、アルコール等の水素を含むものであれば使用可能である。また、水としては、例えば自然界に普通に存在する水、換言すると僅かな割合でD2Oを含んでいる水でも良く、D2Oを含まない軽水でも良い。また、炭化水素物質としては、例えばポリエチレン、ポリスチレン等の使用が可能である。
即ち、水素含有物質3として、中性子吸収率が小さな元素と水素との化合物の使用が可能である。中性子吸収率が小さな元素としては、例えば酸素、炭素等があるが、これらに限るものではない。水素と酸素の化合物としては、例えば水がある。水素と炭素の化合物としては、例えば炭化水素物質がある。水素と酸素と炭素の化合物としては、例えばエタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類等がある。また、水素含有物質3として水素のみからなるもの、即ち水素ガス、液体水素を使用しても良い。
中性子放出体1は、放出された中性子2(以下、放出中性子2という)を吸収するのに十分な厚さの水素含有物質3中に配置されている。図中、二点鎖線で示す球8は、放出中性子2を吸収するのに十分な厚さを半径とする球を概念的に示したものである。
ここで、十分な厚さとは、放出中性子2を漏洩させない厚さ、即ち放出中性子2を遮蔽するのに十分な厚さを意味する。また、中性子2を完全に漏らさない厚さは勿論のこと、多少の中性子漏洩が生じてもその漏洩数が測定結果に重大な影響を与えない程度の厚さを含む。即ち、測定に要求される精度を満たすことができる程度に中性子2の漏洩数を抑えることが可能な厚さを意味する。また、中性子放出体1から放出された中性子2のうち、例えば99%の中性子2を吸収することができる厚さを十分な厚さとしても良い。十分な厚さは、水の場合は例えば30cm、炭化水素物質としてポリエチレンの場合は35cmであり、より好ましくは、水の場合は例えば60cm、炭化水素物質としてポリエチレンの場合は例えば70cmである。なお、中性子放出体1が加速器の末端の中性子生成ターゲットである場合には、その中性子生成ターゲットを水素含有物質3中に配置する。本実施形態では、プール内に水を貯めておき、この水中に中性子放出体1を沈めることで中性子放出体1を十分な厚さの水中に配置している。
γ線検出器5は、例えば2.2MeVのγ線の検出が可能なγ線検出器である。γ線検出器5は、放出中性子2に影響を与えない位置、即ち放出中性子2が到達することがない位置、換言すると、少なくとも前記十分な厚さ離れた位置に配置されている。本実施形態では、プール内にγ線検出器5を沈めている。ただし、プールの外にγ線検出器5を配置しても良い。
まず最初に、中性子放出体1が中性子源である場合について説明する。中性子源の場合、内部で生じる中性子連鎖反応に起因して放出される中性子2や内部で吸収される中性子2を考慮しなくて良いので、測定対象の中性子放出率は中性子強度である。
中性子放出体1の中性子強度をS(s−1)とする。十分な厚さの水素含有物質3中に中性子放出体1が配置された場合、放出中性子2の増倍を考えなくて良い条件となり、放出中性子2の殆ど全て(99%以上)を周囲の水素含有物質3によって吸収させることができることから、水素含有物質3における中性子2の全吸収率と中性子放出体1の中性子強度Sとがつり合う。
いま、方向がΩ、エネルギーがEの中性子2が位置rにある単位面積を通過する数、即ち中性子束をφ(Ω,E,r)、単位距離当たりの中性子2の水素への吸収率をΣa,H(E,r)、単位距離当たりの中性子2の酸素(水素含有物質3が水の場合)あるいは炭素(水素含有物質3が炭化水素の場合)への吸収率をΣa,OorC(E,r)とすると、全吸収率は数式1の右辺に一致する。
水素含有物質3中で生じる放出中性子2の吸収反応のうち、99%以上が水素との間で生じる。このため、数式1から数式2が導き出される。そして、このφ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)が水素による中性子相対吸収率分布(中性子2の相対吸収率分布)、即ち2.2MeVのγ線発生率分布となる。
中性子放出体1から十分に離れ、放出中性子2の中性子連鎖反応に影響しない位置rdにγ線検出器5を配置することを考える。水素含有物質3中での2.2MeVの特性γ線4の減衰率をτとすると、γ線検出器5の表面(検出面)の2.2MeVの特性γ線4のγ線束ψは、数式3となる。ここで、θはγ線検出器5の検出面の法線とベクトルrd−rのなす角度である。また、ベクトルrd−rは、中性子2の水素による吸収位置、即ち2.2MeVの特性γ線発生位置rとγ線検出器5の中心rdを結ぶベクトルである。
2.2MeVの特性γ線4に対するγ線検出器5の固有光電効率(固有検出効率)をε、γ線検出器5の検出面の面積をsとすると、γ線検出器5で測定される計数率Dは数式4で表される。なお、減衰率τは一般的に知られている値であり、水に対しては0.043cm−1、炭化水素物質であるポリエチレンに対しては0.044cm−1程度である。また、γ線検出器5の固有光電効率ε、検出面の面積sとしては当該γ線検出器5のカタログ値を使用してもよいし、強度が既知の標準γ線源や中性子源を用いて校正してもよい。
計数率Dが測定によって得られ、φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)の情報があれば数式2から強度Sを求めることができる。即ち、水素の中性子2の相対吸収率分布φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)の情報があれば、面積s、固有光電効率ε、角度θ、減衰率τ、ベクトルrd−rの大きさに基づいて、2.2MeVの特性γ線の検出効率の絶対値X1を求めることができ、この検出効率の絶対値X1と計数率Dとによって2.2MeVガンマ線の発生率、即ち水素への中性子吸収率の絶対値(=D/X1)を求めることができる。そして、水素への中性子吸収率の絶対値と強度Sの関係を示す数式2より強度Sを求めることが出来る。なお、絶対値X1は数式5によって求めることができる。
〈数5〉
X1=sε∫dΩdEdr3[φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)cosθexp(-τ|r-rd|)/{4π|r-rd|2}]
/∫dΩdEdr3[φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)]
ここで、exp(-τ|r-rd|)/{4π|r-rd|2}は、φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)という相対空間分布を持つガンマ線発生源から発生した特性γ線4がγ線検出器5に到達する確率Pであり、面積s、角度θによる補正を行なうのが好ましいものの到達確率Pと固有光電効率εとに基づいて検出効率の絶対値X1を求めることができる。
また、中性子放出体1から放出された中性子2の水素含有物質3への相対吸収率分布、より正確には、当該相対吸収率分布とみなすことができる中性子放出体1から放出された中性子2の水素への相対吸収率分布φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)と、減衰率τとに基づいて到達確率Pを求めることができる。なお、到達確率Pは、2.2MeVの特性γ線発生位置rとγ線検出器5の中心rdとの距離|r−rd|によって変化する。
相対吸収率分布φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)を得る方法として、例えば以下の3つの方法がある。ただし、これらに限るものではない。
1番目の方法は、連続エネルギーモンテカルロ法計算コードを使用して相対吸収率分布を求めるものである。中性子2の密度に関する支配方程式はボルツマン方程式、あるいは中性子輸送法方程式と呼ばれおり、この支配方程式を解くことで水素の中性子2の相対吸収率分布φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)を求めることができることが知られている。この方程式の解法を最も近似なく計算できる方法として連続エネルギーモンテカルロ法がある。連続エネルギーモンテカルロ法に基づく中性子輸送方程式を解くコードとしては、例えば米国のロスアラモス国立研究所の開発したMCNPコード、日本の日本原子力研究所が開発したMVPコードの使用が可能である。本実施形態では、例えばMCNPコードのMCNP−5を使用して水素の中性子2の相対吸収率分布φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)を求めている。
2番目の方法は、相対吸収率分布として、水素の中性子2の相対吸収率分布に類似した核反応率を代用するものである。中性子放出体1から放出された中性子2が周囲の水素含有物質3中で吸収される場合の相対吸収率分布は、固定した検出器の使用では直接測定することは困難である。
つまり、中性子2が何らかの原子核に吸収されると、中性子2が一つ多い原子核に変換される。この新しい原子核は、励起状態になっており、何らかの放射線を出しやすい状況になっている。10B等は、α粒子をすぐに放出して中性子2と陽子がそれぞれ2個ずつ少ない原子核になる(α崩壊)。235U等は、核分裂をおこして核分裂片などを放出する。63Cu等は、しばらく〜数時間の間励起状態でいて、その後γ線を放出する。1H等は、中性子吸収と同時にγ線を発生する。
10Bや235Uなど荷電粒子を出す反応では、荷電粒子による物質の電離作用などを利用して電離電荷を計測することで、10Bや235Uなどの中性子吸収反応を捉えることができる。これは一般的な放射線検出器の仕組みとして使われる性質である。10Bや235Uのかたまりのなかで検出器として使えるようにした10Bや235Uを動かせば中性子2の相対吸収率分布は測定可能である。
また、63Cu等は、例えば線状にして中性子場(中性子2の降り注ぐ場)に配置して放射化させる。線状の63Cuを放射化させた後に中性子場から離して細かく区切り、各区切り毎に発生するγ線を計測することで63Cuの中性子の相対吸収率分布を知ることができる(放射化法)。
しかしながら、1Hなどの中性子吸収の場合には荷電粒子を発生してはいないので、その場で電離電荷を生成しない。γ線の発生によって二次的に電離電荷を生成することはあるが、電離電荷の生成地点と中性子吸収地点とが異なっており、これでは分布を測ることができない。また、中性子2の吸収によって発生するγ線は即発的に発生するので、63Cu等で利用可能な放射化法は利用できない。ここで、中性子吸収によって即発的に発生するγ線を測定することも考えられるが、この場合には、1台のγ線検出器5をある位置に固定してγ線を測定する方法では、γ線の発生率分布が判らず、従ってγ線の検出効率が求まらないため、折角測ったγ線数から中性子2の吸収反応数を割り出せないことになる。
このため、本願発明者らが鋭意研究を行なった結果、水素の中性子2の相対吸収率分布に類似した核反応率を示す元素があることを見いだし、水素の中性子2の相対吸収率分布として当該類似の核反応率を代用するという発明を創作したものである。即ち、図8に示すように、ある元素の中性子2の相対吸収率分布は、水素の中性子2の相対吸収率分布に極めて近い形状を取るため、これらの元素の反応を利用し、これらの元素の中性子2の相対吸収率分布を計測することで、水素の中性子相対吸収率分布を求めるものである。
類似の核反応率としては、例えば6Liの中性子2の相対吸収率分布、10Bの中性子2の相対吸収率分布、63Cuの中性子2の相対吸収率分布、3Heの中性子の吸収率分布がある。特に、6Liの中性子2の相対吸収率分布と10Bの中性子2の相対吸収率分布は、水素の中性子2の相対吸収率分布に極めてよく似ているので、代用に適している。ただし、これらの中性子2の相対吸収率分布に限るものではなく、例えば類似の程度が低くても測定に要求される精度を満たすことができるものであれば代用可能である。
6Liの中性子2の相対吸収率分布、10Bの中性子2の相対吸収率分布、63Cuの中性子2の相対吸収率分布、3Heの中性子の吸収率分布の測定は、例えば、以下のようにして行なわれる。
6Liの中性子2の相対吸収率分布の測定には、例えばLiガラスファイバーシンチレータ中性子検出器を用いる。6Liを水素含有物質3中に配置し、水素含有物質3が例えば水である場合には同検出器を水中で走査する、あるいは水素含有物質3が例えば炭化水素の固体ブロックである場合には炭化水素の固体ブロックに間隙を設けて、その間隙中を走査させて中性子を検出する。このように検出器を走査させることで、走査した位置での中性子計数率を得ることで6Liの中性子2の相対吸収率分布を直接測定することができる。
また、10Bの中性子2の相対吸収率分布の測定は、例えばフッ化ホウ素ガスを内包した小型の比例計数管を用いる。10Bを例えば水素含有物質3としての水中に配置し、同小型比例計数管を水中で移動させて、移動途中の各位置で中性子を測定する。このように比例計数管を移動させながら複数位置で測定を行なうことで、10Bの中性子2の相対吸収率分布を直接測定することができる。
また、63Cuの中性子2の相対吸収率分布の測定は、例えば細い銅線を水中、あるいは炭化水素の固体ブロックに間隙を設けてその間隙に配置し、放射化反応をおこさせて64Cuを生成させる。一定時間後この銅線を取り出し、銅線を切断し、各切断片から発生する崩壊γ線を測定することで、銅線の切断片の放射化率を得る。そして、銅線の切断片と放射化反応を生じさせた場との位置関係を対応させることで、63Cuの中性子2の相対吸収率分布を直接測定することができる。
また、3Heの中性子2の相対吸収率分布の測定は、例えば3Heガスを内包した小型の比例計数管を用いる。3Heを例えば水素含有物質3としての水中に配置し、同小型比例計数管を、水中で移動させて、移動途中の各位置で中性子を測定する。このように比例計数管を移動させながら複数位置で測定を行なうことで、3Heの中性子2の相対吸収率分布を直接測定することができる。
また、3番目の方法は、γ線検出器5を移動させて複数箇所で特性γ線4の測定を行って水素の中性子2の相対吸収率分布を求めるものである。例えば、図2に示すように、コリメータ10を取り付けたγ線検出器5を放出中性子2に影響を与えない位置で走査し、様々な位置、角度から特性γ線を測定することにより中性子の相対吸収率分布を測定する。この手法としては、既に周知の手法である例えばγ線SPECTでX線発生率分布を測定に用いられるフィルタ付逆投影法等のアンフォールディング法の使用が可能である。これによりγ線SPECTでX線発生率分布を測定するのと同じ原理を使用して特性γ線4の発生率分布、即ち中性子2の相対吸収率分布を測定することができる。
なお、γ線検出器5を移動させることで複数箇所で特性γ線4の測定を行なう代わりに、移動しないγ線検出器5を複数台使用することで複数箇所で特性γ線4の測定を行なうようにしても良い。
このように、中性子放出体1を水素含有物質3中に沈めて放出中性子2を水素含有物質3中の水素に吸収させ、発生した2.2MeVの特性γ線4をγ線検出器5で測定して計数率Dを求めると共に、上述の数式5から2.2MeVの特性γ線の検出効率の絶対値X1を求め、これらから2.2MeVガンマ線の発生率、即ち水素への中性子吸収率の絶対値(=D/X1)を求めることが出来る。中性子放出体1の強度Sは数式2の関係から求めることが出来る。即ち中性子放出体1が中性子源である場合の中性子放出率を求めることができる。
このような中性子放出体1の強度Sの測定には、例えばコンピュータの使用が可能である。コンピュータを使用した測定装置の概念を図3に示す。γ線検出器5によって測定された計数率Dはコンピュータ12に入力される。また、コンピュータ12には検出効率の絶対値X1も入力される。コンピュータ12は入力された計数率Dと検出効率の絶対値X1に基づいて強度Sを算出し、その結果を出力する。なお、検出効率の絶対値X1を入力する代わりに、到達確率P、固有光電効率ε、面積s、角度θを入力し、コンピュータ12によって検出効率の絶対値X1を計算して強度Sを算出しても良い。また、到達確率Pを入力する代わりに、相対吸収率分布φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)、減衰率τを入力し、コンピュータ12によって到達確率Pを計算し、検出効率の絶対値X1を計算して強度Sを算出しても良い。コンピュータ12は上述の原理によって中性子放出体1の強度Sを算出するプログラム等が記憶されており、コンピュータ12を構成する演算装置や記憶装置等のハードウエア資源との協働によって入力に基づいて強度Sを算出して出力する。計算に必要なデータ類は例えばデータベース化されて記憶装置に記憶されている。また、コンピュータ12に通信機能を持たせ、他のコンピュータと通信を行ないながら上述の計算を行なうようにしても良い。例えば連続エネルギーモンテカルロ法計算コードによる核計算サービスを提供するサーバや、計算に必要なデータ類を記憶したデータベース等と通信を行なうようにしても良い。
次に、中性子放出体1が核燃料である場合について説明する。核燃料の場合、内部で生じる中性子連鎖反応に起因して放出される中性子2や内部で吸収される中性子2を考慮する必要があり、測定対象の中性子放出率は核燃料の外部での中性子2の吸収率Avoutである。
いま、核燃料の内部の領域をVin、核燃料の外部の領域をVout、位置rでの放射性崩壊による中性子発生率(燃焼度で決まる組成に一意の関数)をS0(r)、核燃料の中性子吸収核分裂あたりの中性子発生数をν、核燃料の巨視的核分裂断面積をΣf(E,r)、核燃料の巨視的中性子吸収断面積をΣa(E,r)とすると、核燃料の放射性崩壊による中性子強度Sは数式6、核燃料の内部で生じた中性子連鎖反応に起因した中性発生率Schainは数式7、核燃料の内部での中性子の吸収率Avinは数式8、核燃料の外部での中性子の吸収率Avoutは数式9となる。
また、これらの関係は、数式10となる。
中性子強度S、中性発生率Schain、中性子2の吸収率Avin、中性子2の吸収率Avoutはいずれも燃焼度の関数である燃料組成で決まる関数である。燃焼度もしくは組成についての情報が全くない場合には、従来、中性子強度S、中性発生率Schain、中性子2の吸収率Avin、中性子2の吸収率Avoutのいずれも絶対値で得ることはできなかった。本発明では、核燃料の外部での中性子2の吸収率Avoutを測定することができる。
中性子放出体1から放出された中性子2の殆どが水素含有物質3中の水素に吸収されることから、数式9から数式11が導き出される。
上述の方法で相対吸収率分布φΣH,a、即ち相対吸収率分布φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)を求め、計数率Dが測定によって得られれば、中性子放出体1の核燃料の外部での中性子の吸収率Avoutを求めることができる。
即ち、測定によって得られる計数率Dは数式12となり、吸収率Avoutを求める際の検出効率の絶対値X2は数式13となる。ここで、Σa,O(E,r)は、単位距離当たりの中性子2の酸素への吸収率である。
即ち、γ線検出器5の計数率をD、中性子放出体1から放出された中性子2が2.2MeVの特性γ線4を生じさせてγ線検出器5に計数される検出効率の絶対値をX2とすると、計数率Dと検出効率の絶対値X2とに基づいて特性γ線の発生率、すなわち中性子放出体1の核燃料の外部での中性子の吸収率Avout(=D/X2)、即ち中性子放出率を求めることができる。
ここで、exp(-τ|r-rd|)/{4π|r-rd|2}は、φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)という相対空間分布を持つガンマ線発生源から発生した当該特性γ線4がγ線検出器5に到達する確率Pであり、面積s、角度θによる補正を行なうのが好ましいものの到達確率Pと固有光電効率εとに基づいて検出効率の絶対値X2を求めることができる。
また、中性子放出体1から放出された中性子2の水素含有物質3への相対吸収率分布、より正確には、当該相対吸収率分布とみなすことができる中性子放出体1から放出された中性子2の水素への相対吸収率分布φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)と、減衰率τとに基づいて到達確率Pを求めることができる。なお、到達確率Pは、2.2MeVの特性γ線発生位置rとγ線検出器5の中心rdとの距離|r−rd|によって変化する。
このように、中性子放出体1を水素含有物質3中に沈めて放出中性子2を水素含有物質3中の水素に吸収させ、発生した2.2MeVの特性γ線4をγ線検出器5で測定して計数率Dを求めると共に、上述の数式から検出効率の絶対値X2を求め、これらから中性子放出体1の外部での中性子の吸収率Avout(=D/X2)、即ち中性子放出体1が核燃料である場合の中性子放出率を求めることができる。
このような中性子放出体1の外部での中性子の吸収率Avoutの測定には、例えばコンピュータの使用が可能である。コンピュータを使用した測定装置の概念を図4に示す。γ線検出器5によって測定された計数率Dはコンピュータ12に入力される。
コンピュータ12にデータとして到達確率P、固有光電効率ε、面積s、角度θを入力し、コンピュータ12によって検出効率の絶対値X2を計算して吸収率Avoutを算出しても良い。
また、データとして到達確率Pを入力する代わりに、相対吸収率分布φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)、減衰率τを入力し、コンピュータ12によって到達確率Pを計算し、検出効率の絶対値X2を計算して吸収率Avoutを算出しても良い。
また、データとして検出効率の絶対値X2を入力しても良い。即ち、核燃料の組成が空間分布も含めて既知の場合には、燃料組成に基づいて検出効率の絶対値X2を算出することができるので、算出した絶対値X2をコンピュータ12に直接入力しても良い。コンピュータ12は入力された計数率Dと検出効率の絶対値X2に基づいて吸収率Avoutを算出し、その結果を出力する。なお、核燃料の組成が空間分布も含めて既知の場合の検出効率の絶対値X2の算出には、例えば連続エネルギーモンテカルロ法計算コードの使用が可能である。
コンピュータ12には上述の原理によって吸収率Avoutを算出するプログラム等が記憶されており、コンピュータ12を構成する演算装置や記憶装置等のハードウエア資源との協働によって入力に基づいて吸収率Avoutを算出して出力する。計算に必要なデータ類は例えばデータベース化されて記憶装置に記憶されている。また、コンピュータ12に通信機能を持たせ、他のコンピュータと通信を行ないながら上述の計算を行なうようにしても良い。例えば連続エネルギーモンテカルロ法計算コードによる核計算サービスを提供するサーバや、計算に必要なデータ類を記憶したデータベース等と通信を行なうようにしても良い。
本発明では、中性子放出体1から放出された中性子2に影響を与えない位置にγ線検出器5を配置しているので、γ線検出器5が放出中性子2に対して影響を与えることがない。このため、中性子放出体1の中性子放出率を高精度に求めることができる。即ち、中性子場に中性子検出器を配置して中性子2を検出する方法では、中性子検出器に中性子2を反応させる必要があることから、必ず中性子場に影響を与えてしまい、中性子検出器が無い状態の中性子場について測定を行なうことはできない。これに対し、本発明ではγ線検出器5を中性子放出体1から十分離れた位置に配置しており、放出中性子2に影響を与えない状態で測定を行なうことができるので、中性子放出体1の中性子放出率を高精度に求めることができる。
また、中性子2を吸収した水素からは即発的に2.2MeVの特性γ線4が放出されるので、中性子放出体1の中性子放出率をリアルタイムに測定することができる。
また、本発明では、マンガン浴槽法のように測定対象の中性子放出体1を汚すことがなく、測定後の中性子放出体1の洗浄が不要である。
また、中性子2を吸収した水素原子は即発的に2.2MeVの特性γ線4を発生させて安定化するため、中性子放出体1を囲む水素含有物質3の放射化は実用上問題にならない程度の低レベルのものに抑えられ、放射線汚染への注意やその管理が容易である。
さらに、本発明では中性子放出体1から放出される中性子2のエネルギースペクトルの評価を行なう必要がない。即ち、マンガン浴槽法では水素、硫黄、マンガンへの中性子吸収率比が中性子源から放出された中性子のエネルギースペクトルに依存するので、マンガンへの中性子吸収率から全中性子吸収率を求める際、中性子源から放出される中性子のエネルギースペクトルの評価が必要である。これに対し、本発明では、中性子放出体1から放出される中性子2の吸収に水素含有物質3を使用しており、放出中性子2の99%以上が水素含有物質3中の水素に吸収されることから、放出中性子2は水素含有物質3中の水素に吸収されるとみなすことができる。このため、放出中性子2のエネルギースペクトルの評価を行なう必要がなく、中性子放出体1の中性子放出率を求めるのが容易である。
また、マンガン浴槽法のように液体の放射性物質を移動することがなく、中性子放出率の測定が簡単である。
次に、核燃料の中性子特性確証方法について説明する。
この核燃料の中性子特性確証方法は、上述の中性子放出体1の中性子放出率測定方法を使用して、中性子放出体1である核燃料の中性子放出率を測定すると共に、管理上予測される核燃料の燃焼度及び当該燃焼度によって決まる組成に基づいて核燃料の中性子放出率を算出し、この算出値と中性子放出率の測定値との比較によって核燃料の実際の燃焼度と当該燃焼度に基づく組成とのうち少なくとも一方を確証するものである。
この方法は、核燃料の燃焼度で決まる組成に対し定まる核燃料の外部での中性子の吸収率、即ち核燃料の中性子放出率を測定し、その結果に基づいて核燃料の管理上の燃焼度又は組成を確証するものである。
核燃料についての中性子2の発生数は、核燃料の燃焼度で決まる組成に対し定まる放射性崩壊による中性子2の発生率(中性子強度S)と、やはり燃焼度で決まる組成に対し定まる連鎖反応による中性子2の発生率Schainの和である。発生した中性子2のうち、核燃料から周囲の水素含有物質3への中性子漏洩率(核燃料の外部での中性子の吸収率Avout)はやはり燃焼度で決まる組成に対し定まる上記中性子強度Sと中性子2の発生率Schainとによってきまる。このため、水素含有物質3への中性子漏洩数、即ち吸収率Avout、換言すると中性子放出率は、燃料組成又は燃焼度についての情報を強く裏付ける証拠になる。したがって、核燃料の燃焼度や組成に基づいて中性子放出率を求めることができる。
対象となる核燃料は、例えば使用済み燃料のように固体状態のものに限るものではなく、気体状態、溶液状態のものでも良い。また、固体状態としてはペレット状態に限るものではなく、粉状態、その他の状態でも良い。また、使用前の核燃料でも良く、使用済み核燃料でも良い。様々な状態の核燃料あるいは核燃料が収容された容器の周りにどれだけの数の中性子2が単位時間当たりに漏洩しているか、という率(中性子放出率)を上述の方法によって測定することができる。
なお、核燃料の外部での中性子2の吸収率Avout即ち中性子放出率は、核燃料の燃焼度や組成に基づいて、既に周知となっている核計算により高い精度で求めることができる。
核燃料の組成は、例えば原子炉炉心管理システム等によって管理されている。管理上の組成に基づいて核燃料の外部での中性子の吸収率Avout(中性子放出率)を算出し、この算出値を、実際の中性子放出率の測定値と比較することで、核燃料の管理上の組成を確証することができる。
同様に、核燃料の燃焼度も原子炉炉心管理システム等によって管理されており、管理上の燃焼度に基づいて核燃料の外部での中性子の吸収率Avout(中性子放出率)を算出し、この算出値を、実際の中性子放出率の測定値と比較することで、核燃料の管理上の燃焼度を確証することができる。
例えば、確証の対象となる核燃料が使用済燃料集合体の場合には、使用済み燃料の燃焼度の確証に適用できる。軽水炉で使用されている燃料集合体は、炉心で使用した後、原子炉に隣接する軽水プールの中で保管される。軽水炉で使われた燃料がどれだけエネルギーを放出したかを示す量である燃焼度は原子炉炉心管理システムで燃料集合体一体毎に評価されている。
燃焼度が決定されると、燃料集合体の中性子放出率は一意に決まる。上述の方法で燃料集合体の中性子放出率を測定し、炉心管理システムで管理されている燃焼度に基づく中性子放出率と比較することで、その炉心管理システムによる燃焼度評価値の正確性を検証することができる。即ち、測定値と炉心管理システムに基づく算出値とが一致している又は相違するが許容範囲内である場合には、その炉心管理システムによる燃焼度評価値が正確であると評価できる。一方、測定値と炉心管理システムに基づく算出値とが相違しており且つその相違が許容範囲を超えている場合には、その炉心管理システムによる燃焼度評価値が正確でないと評価できる。
なお、燃焼度から中性子放出率が一意に決まる点は、以下の通りである。即ち、炉心管理システムで管理されている燃焼度(平均燃焼度)に基づいて既に周知となっている核種組成計算を実施すると、核燃料の組成が得られる。この計算には、例えばORIGENコード(公開計算コード)を使用できる。ORIGENコードは原子炉中での中性子核反応による核分裂核種数の減少、核分裂生成核種数の増加、それらの核種数がさらに放射性崩壊あるいは中性子核反応によって変化していく状況をシミュレートできる計算コードである。算出した核燃料の組成を基に、使用済み燃料のどの位置(中性子発生位置)からどれだけの中性子が毎時発生しているか(強度)のデータを計算する。この計算にも、例えばORIGENコードを使用できる。さらに、燃料集合体を燃料プールに沈めた体系に対し、上述の計算で求めた組成の情報、中性子発生位置、強度の情報を入力として、連続エネルギーモンテカルロ法などの中性子輸送計算を実施すれば、燃料集合体を囲む水での中性子吸収率、すなわち中性子放出率を求めることができる。この計算にはMCNPコードやMVPコード等の利用が可能である。
また、使用済み燃料の組成の確証にも適用できる。使用済み燃料の組成は原子炉炉心管理システムで燃料集合体一体毎に評価されている。燃料の組成が決定されると、燃料集合体の中性子放出率も一意に決まる点は、上述の通りである。上述の方法で燃料集合体の中性子放出率を測定し、炉心管理システムで管理されている組成に基づく中性子放出率と比較することで、その炉心管理システムによる組成の評価の正確性を検証することができる。即ち、測定値と炉心管理システムに基づく算出値とが一致している又は相違するが許容範囲内である場合には、その炉心管理システムによる組成と実際の使用済み燃料の組成との間に齟齬がないと評価できる。一方、測定値と炉心管理システムに基づく算出値とが相違しており且つその相違が許容範囲を超えている場合には、その炉心管理システムによる組成と実際の使用済み燃料の組成との間に齟齬があると評価できる。このように齟齬の有無の確認手段として有効である。
また、確証の対象となる核燃料が、製造されたMOX燃料集合体、即ち使用前のMOX燃料集合体である場合には、例えば以下のように適用できる。つまり、製造されたMOX燃料集合体が例えば電力会社に納入される際、その燃料集合体の組成に関するスペックが報告される。このMOX燃料集合体を水素含有物質3中に沈めた場合、水素含有物質3中に漏れ出す中性子2の単位時間当たりの数(中性子放出率)は、本来、MOX燃料集合体の組成に対して一意に決まるので、スペック上の組成に基づいて算出した中性子放出率と、実際に測定した値とを比較するとことで、スペックの正確性を検証することができる。即ち、測定値とスペックに基づく算出値とが一致している又は相違するが許容範囲内である場合には、そのスペックによる組成と実際のMOX燃料集合体の組成との間に齟齬がないと評価できる。一方、測定値とスペックに基づく算出値とが相違しており且つその相違が許容範囲を超えている場合には、そのスペックによる組成と実際の使用済み燃料の組成との間に齟齬があると評価できる。このように齟齬の有無の確認手段として有効である。
その他、核燃料に限らず、放射性廃棄物等の中性子2を放出するものについて、その中性子放出体1の中性子放出率を同定することで、放射性物質の組成情報の確度を評価できる。
評価は、例えばコンピュータを使用して行なわれる。その装置の概念を図5に示す。γ線検出器5によって測定された計数率Dはコンピュータ12に入力される。また、コンピュータ12には検出効率の絶対値X2も入力される。コンピュータ12は入力された計数率Dと検出効率の絶対値X2に基づいて吸収率Avout(以下、測定値14という)を算出する。さらに、コンピュータ12には、管理上の燃焼度及び組成比13が入力される。コンピュータ12は入力された管理上の燃焼度及び組成比13に基づいて吸収率Avout(以下、算出値15という)を算出し、この算出値15を測定値14と比較して評価し、評価結果を出力する。なお、検出効率の絶対値X2を入力する代わりに、到達確率P、固有光電効率ε、面積s、角度θを入力し、コンピュータ12によって検出効率の絶対値X2を計算して吸収率Avoutを算出しても良い。また、到達確率Pを入力する代わりに、相対吸収率分布φ(Ω,E,r)Σa,H(E,r)、減衰率τを入力し、コンピュータ12によって到達確率Pを計算し、検出効率の絶対値X2を計算して吸収率Avoutを算出しても良い。さらに、管理上の燃焼度及び組成比13を入力する代わりに、管理上の燃焼度及び組成比13に基づいて予め算出した吸収率Avoutを入力し、この吸収率Avoutを測定値14と比較して評価するようにしても良い。コンピュータ12は上述の原理によって吸収率Avoutを算出するプログラム、管理上の燃焼度及び組成比13に基づいて吸収率Avoutを算出するプログラム、吸収率Avoutの測定値14と算出値15とに基づきて評価を行なうプログラム等が記憶されており、コンピュータ12を構成する演算装置や記憶装置等のハードウエア資源との協働によって入力に基づいてこれらの計算を行なう。計算に必要なデータ類は例えばデータベース化されて記憶装置に記憶されている。また、コンピュータ12に通信機能を持たせ、他のコンピュータと通信を行ないながら上述の計算を行なうようにしても良い。例えば連続エネルギーモンテカルロ法計算コードによる核計算サービスを提供するサーバ、ORIGENコードによる核計算サービスを提供するサーバ、計算に必要なデータ類を記憶したデータベース等と通信を行なうようにしても良い。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
例えば、上述の説明では、水素含有物質3は水であり、水中に中性子放出体1を配置していたが、水に代えて炭化水素物質中に配置しても良い。中性子放出体1を炭化水素物質中に配置する例を図6に示す。例えば中心部分6aが中空の球状容器6内に炭化水素物質を充填し、中心部分6aの中空部分に中性子放出体1を納めている。球状容器6の半径から中心部分6aの半径を差し引いた厚さは、水素含有物質3が放出中性子2を吸収するのに十分な厚さ以上の厚さになっている。
なお、この場合の中性子吸収箇所とγ線検出器5との間に存在する物質は、球状容器6内の炭化水素物質3と、球状容器6の外に存在する空気であり、場合によっては球状容器6の中心部分6a内に存在する空気も含まれる。これら空気、炭化水素物質3の厚さの割合に応じて減衰率τが決定される。
水素含有物質3が炭化水素物質である場合も水素含有物質3が水である場合と同様に、中性子放出体1から放出される中性子2を球状容器6内の水素含有物質3中の水素に吸収させ、発生した2.2MeVの特性γ線4をγ線検出器5で測定して計数率Dを求めると共に、上述の数式から検出効率の絶対値X1又はX2を求め、これらから中性子放出体1の中性子放出率を求めることができる。
また、例えば核燃料や放射性廃棄物等のように中性子放出体1自体がγ線を発生させるものである場合には、例えば図7に示すように遮蔽体7を設け、中性子放出体1から放出されたγ線9がγ線検出器5に直接入射するのを防止するようにしても良い。γ線検出器5からのγ線9の直接入射を防止することで、2.2MeVの特性γ線特性γ線4についての測定精度をより高精度にすることができる。
また、到達確率Pを連続エネルギーモンテカルロ法計算コードを使用して求めるようにしても良い。即ち、MCNPコードやMVPコードを使用して、中性子放出体1から放出された中性子一個に対して、中性子2の飛行→吸収反応→2.2MeVの特性γ線の発生→γ線検出器5への到達数を計算し、到達確率Pを求めても良い。そして、算出した到達確率Pとγ線検出器の固有検出効率εとに基づいて検出効率の絶対値X1,X2(=P×ε)を求めても良い。
さらに、上述の核燃料の中性子特性確証方法では、管理上予測される核燃料の燃焼度及び組成に基づいて核燃料の外部での中性子2の吸収率Avoutを算出し、この算出値を中性子放出率とみなして、実際に測定した中性子放出率の測定値と比較していたが、必ずしもこの方法に限るものではない。例えば、実際に測定した中性子放出率の測定値を吸収率Avoutとみなし、管理上予測される核燃料の燃焼度及び組成に基づいて算出した吸収率Avoutの算出値と比較することで、核燃料の燃焼度又は組成を確証するようにしても良い。