JP2007312792A - キメラ動物およびその作製法 - Google Patents

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一磨 富塚
Hitoshi Yoshida
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Kazunori Hanaoka
和則 花岡
Mitsuo Oshimura
光雄 押村
Isao Ishida
功 石田
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Abstract

【課題】ヒト染色体またはその断片、該染色体またはその断片を含むキメラ非ヒト動物、該染色体またはその断片あるいは該動物の作製法を提供すること。
【解決手段】非ヒト動物においてヒト遺伝子を発現することを可能にする、かつ塩基長が1Mb以上である、単離されたヒト染色体またはその断片であって、該染色体またはその断片が、ヒト2番染色体断片、ヒト4番染色体断片、およびヒト22番染色体もしくは、その断片からなる群から選択されるものである、ヒト染色体またはその断片、ならびに、該ヒト染色体またはその断片を含む非ヒト動物。
【選択図】なし

Description

本発明は、ヒト染色体またはその断片、該染色体またはその断片を含むキメラ非ヒト動物、該染色体またはその断片あるいは該動物の作製法、およびそれらの利用法に関する。本発明のキメラ非ヒト動物を用いれば、これまで不可能であった1Mb(百万塩基対)以上の外来巨大DNA断片を動物個体で保持発現させることが可能になる。従って、これを利用することにより、
・生物学的に活性な物質をコードする遺伝子の全長、例えば、ヒト抗体遺伝子全長を保持し、発現する動物個体の作製が可能になる。この動物から得られる生物学的に活性な物質、例えば、ヒト型抗体は医薬品としての利用価値がある。
・ヒト巨大遺伝子(組織適合性抗原、ジストロフィン等)の動物個体における機能解析が可能になる。
・ヒト優性遺伝病及び染色体異常症のモデル動物作製に利用できる。
外来遺伝子を動物個体において発現させる技術、すなわちトランスジェニック動物作製技術は、その遺伝子の生体内機能に関する情報を得るために有用なばかりでなく、遺伝子発現を制御するDNA配列の同定(例えば、非特許文献1)、ヒト疾患モデル動物の開発(非特許文献2)、さらには家畜の育種(例えば、非特許文献3)、それを用いた有用物質の生産に利用されてきた(例えば、非特許文献4)。遺伝子導入の対象としてはこれまでマウスが最も多く用いられてきた。実験動物として詳細に研究され、胚操作技術も確立されているマウスはこの目的に最も適した哺乳動物であるといえる。
マウス個体への外来遺伝子導入法は大きく分けて2つ知られている。1つは受精卵前核にDNAを注入する方法(非特許文献5)であり、もう一つは分化全能性を保持した胚幹細胞(以下ES細胞、という)にDNAを導入し、キメラマウスを作製する方法(非特許文献6)である。後者の場合、キメラマウスにおいては、ES細胞の貢献した細胞、組織においてのみ、ES細胞由来の生殖細胞を経て得られる子孫においてはすべての細胞、組織で導入遺伝子が保持される。これらの技術を利用して現在までに数多くのトランスジェニックマウスが作製されてきた。
しかし、現状では導入可能なDNAの大きさに限界があり、それがこの技術の利用範囲を大きく制限している。その限界はクローン化可能なDNAの大きさに依存し、これまで最も大きなDNA断片を導入した例の一つは、酵母人工染色体(YAC)にクローニングされた約670kbのDNA断片である(非特許文献7)。この実験は、YACを保持する酵母とマウスES細胞を融合することにより行なわれた。YACにおいては、約2Mbまでの外来DNAをクローニングできるとされているが(非特許文献8)、出芽酵母細胞中では、相同DNA配列同士の組換え頻度が高いことが知られており、反復配列を多く有するヒトDNA断片を完全な形で安定に保持することが困難な場合がある。事実、ヒトゲノムDNAを含むYACライブラリーでは、その20〜40%が何らかの組換えを起こしている(非特許文献9)。
もう1つの方法として、ヒト培養細胞から得られる中期染色体を顕微切断し、その断片(10Mb以上と推定される)をマウス受精卵に注入することが試みられた(非特許文献10)。この結果得られたマウス個体においてヒト特異的DNA配列(Alu 配列)が検出されたが、ヒト遺伝子発現については確認されていない。また、ここで用いられた染色体調製法では染色体をスライドグラスに固定する際、酢酸メタノールを使用するために、DNA自体が小さく断片化してしまうことが避けられず、注入したDNAが一続きのDNAとして存在している可能性は低い。
いずれにせよ、現在まで1Mb以上の一続きの外来DNA断片をマウス個体へ導入、発現させた例はないといえる。
マウスに導入することが望まれる、有用かつ興味深いヒト遺伝子:抗体(例えば、非特許文献11)、T細胞受容体(非特許文献12)、組織適合性抗原(非特許文献13)、ジストロフィン(非特許文献8)等は、そのコード領域自体が1Mbを越える大きさを持つことが知られている。とりわけ、ヒト型抗体の医薬品としての重要性から、ヒトの免疫グロブリン重鎖(〜1.5Mb、非特許文献11)、軽鎖κ(〜3Mb、非特許文献14)、軽鎖λ(〜1.5Mb、非特許文献15)の遺伝子全長を保持し、発現するようなマウスの作製が望まれているがそれは現状の技術では不可能である(非特許文献16)。
また、ヒトの優性遺伝疾患、先天異常を引き起こす染色体異常症(ダウン症等)の原因遺伝子の多くはクローン化されておらず、染色体上の大まかな位置情報のみ利用可能である。例えば、中期染色体をギムザ染色することによって得られるGバンドは、通常数Mb〜10Mb以上の大きさを有している。従って、ある原因遺伝子が特定のGバンド上に存在することが明らかとなっても、これらの異常形質をマウスに導入するためには、原因遺伝子周辺の染色体断片(数Mb以上)を導入することが必要であるが、これも現状の技術では不可能である。
ここに従来技術の限界である1Mbを越える外来DNAをマウス個体に導入し、発現させる技術の開発が望まれている。
動物培養細胞においては、従来技術により上述の限界を越える大きさのDNAを導入することが可能である。これは主に、染色体(ヒトの場合約50〜300Mbの大きさを持つ)を媒体として行なわれる。細胞への染色体移入法はいくつか報告されているが(例えば、非特許文献17)、その中でも望みの染色体を1本だけ導入する方法として最適と考えられているのがミクロセル法である(非特許文献18)。ミクロセルと呼ばれる構造体は1本〜数本の染色体が核膜、形質膜に包まれたものである。ある種の細胞において紡垂体形成を阻害する薬剤により誘導されるミクロセルを分離し、受容細胞と融合することにより、少数(多くの場合は1本)の染色体を導入することが可能である。この方法により得られた、ヒト染色体を1本だけ保持するモノクロモソーム雑種細胞のライブラリーは既知遺伝子のマッピングや、未知の癌抑制遺伝子、細胞老化遺伝子等の存在する染色体を特定するために利用されてきた(例えば、非特許文献19)。さらに、ミクロセルにガンマ線を照射することにより、染色体を断片化しその一部を導入することも可能である(非特許文献20)。すなわち、ミクロセル法は、1Mb以上のDNAを動物培養細胞に導入する方法として適していると考えられる。
培養細胞からマウス個体を作り出すことができないかという期待は、分化全能性を安定に保持するES細胞の発見(非特許文献21)により確実に現実のものとなった。このES細胞には外来遺伝子、種々の突然変異、さらには、標的遺伝子組換えによる変異が導入可能となり、マウス個体レベルの遺伝的改変が自在に行なえるようになった(例えば、非特許文献22)。一方、巨大DNAの導入という意味では前述のYACベクターにクローニング可能な外来DNA断片の大きさが限界と考えられてきた。その大きさを越えるDNAを培養細胞に導入可能な染色体移入という従来技術がマウス個体レベルへの遺伝子導入に利用されたことはなく、またその達成は困難であると考えられてきた(非特許文献23)。
理由としては、以下のようなものが挙げられる。
・受容細胞を正常核型のマウスES細胞としてこれにヒト染色体導入を行なう場合、それは染色体異常そのものを導入することである。これまで、顕微鏡によって識別可能な染色体レベルの大きな遺伝子異常はマウスの発生にとって多くの場合致死的であると考えられてきた(非特許文献24; 非特許文献25)。
・我々が得ることのできるヒト染色体は通常、有限増殖の正常繊維芽細胞、あるいは癌細胞等の分化した体細胞のものであり、そのような体細胞由来の染色体が未分化なES細胞に導入された場合、ES細胞を分化させたり(非特許文献26)、老化させてしまうのではないか(非特許文献27)と考えられた。
・体細胞由来の染色体が初期胚に導入された場合、胚発生過程で生殖細胞由来のそれと同様に正しく機能し、多様な組織、細胞における特異的遺伝子発現を担うことができるかという問題についての研究は非常に少ない。この2者における大きな違いの一つは染色体DNAのメチル化状態と想像される。これは細胞の分化に伴って変化し、組織特異的な遺伝子発現における重要な役割が示唆されている(非特許文献28)。例えば、抗体遺伝子の活性化に不可欠な部位特異的DNA組換え反応について、メチル化した基質をB細胞に導入した場合、メチル化の状態は複製後も保持され、組換え反応を阻害するという報告がある(非特許文献29)。また、株化された細胞中では生体内と比較して、de novoのメチル化が起こりやすいとされている(非特許文献30)。よってこれまでの研究から、繊維芽細胞や、ヒト−マウス雑種細胞のおそらく高度にメチル化されているであろう抗体遺伝子がマウスのB細胞で正常に発現すると想像することは容易ではなかった。
ここで、関連するものとしてIllmenseeらの2つの報告(非特許文献31; 非特許文献32)に注目しなければならない。1つはヒト肉腫細胞とマウスEC細胞、もう1つはラット肝癌細胞とマウスEC細胞の全細胞融合により得られた融合株からキメラマウスを作製したという報告である。これらの報告においてはその実験結果に数多くの疑問点が指摘され、その信憑性は低いと考えられている(非特許文献33)。また、1日も早い追試が望まれていたにも関わらず、報告から17年を経た現在までこの実験を再現できたという報告は存在しない。従って、これらの報告によっては、マウス個体において外来染色体を保持させ、該染色体上の遺伝子を発現させ得たということはできないと考えられてきた。
こうした状況において、染色体断片ほどの巨大DNAをマウスをはじめとする動物個体に導入し、発現させることは困難とされ、実際この問題について検討がなされたことは上記のIllmenseeらの報告以来ない。
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従って、本発明は、外来染色体またはその断片を保持し、該染色体またはその断片上の遺伝子を発現するキメラ非ヒト動物およびその子孫、並びに前記のキメラ非ヒト動物の作製法を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記のキメラ非ヒト動物およびその子孫に由来する組織および細胞を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、前記のキメラ非ヒト動物およびその子孫に由来する細胞とミエローマ細胞との融合により作製されたハイブリドーマを提供することも目的とする。
さらにまた、本発明は、非ヒト動物の個体、組織または細胞を用いて、外来染色体またはその断片上の遺伝子の発現産物である生物学的に活性な物質を製造する方法を提供することを目的とする。
本発明者は前記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、ヒト正常繊維芽細胞由来染色体あるいはその部分断片をミクロセル法によりマウスES細胞に導入し、それを安定に保持する株を得ることに成功した。さらにこのES細胞株から、その正常組織においてヒト染色体を保持し、ヒト抗体重鎖遺伝子を含む複数のヒト遺伝子を発現するキメラマウスを得た。本発明者らは、この一連の方法により、これまで不可能であった巨大DNA断片の個体における保持、及び該DNA 断片上の遺伝子の発現を可能にした。
本発明の要旨は以下の通りである。
1.単一または複数の外来染色体あるいはその断片を含むミクロセルを作製し、該ミクロセルとの融合により、分化多能性を保持する細胞へ前記単一または複数の外来染色体あるいはその断片を移入させることを特徴とする、キメラ非ヒト動物の作製法。
2.単一または複数の外来染色体あるいはその断片を含むミクロセルを作製し、該ミクロセルとの融合により、分化多能性を保持する細胞へ前記単一または複数の外来染色体あるいはその断片を移入させることを特徴とする、単一または複数の外来染色体あるいはその断片を含む分化多能性を保持する細胞の作製法。
3.前記1の方法により作製することができ、単一または複数の外来染色体あるいはその断片を保持し、該染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現するキメラ非ヒト動物、および前記の単一または複数の外来染色体あるいはその断片を保持し、該染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現するその子孫。
4.前記2の方法により作製することができ、単一または複数の外来染色体あるいはその断片を含む分化多能性を保持する細胞。
5.キメラ非ヒト動物を作製するための前記4の分化多能性を保持する細胞の使用。
6.前記3のキメラ非ヒト動物またはその子孫の交配により得られる、単一または複数の外来染色体あるいはその断片を保持し、該染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現する非ヒト動物およびその子孫。
7.前記3のキメラ非ヒト動物もしくはその子孫または前記6の非ヒト動物もしくはその子孫に由来する組織。
8.前記3のキメラ非ヒト動物もしくはその子孫または前記6の非ヒト動物もしくはその子孫に由来する細胞。
9.前記8の細胞とミエローマ細胞との融合により作製されたハイブリドーマ。
10. 前記3のキメラ非ヒト動物もしくはその子孫または前記6の非ヒト動物もしくはその子孫を、前記の染色体あるいはその断片上の遺伝子と同じあるいは相同の遺伝子が欠損している系統の非ヒト動物と交配させることにより作製された非ヒト動物およびその子孫。
11. 前記3のキメラ非ヒト動物もしくはその子孫または前記6の非ヒト動物もしくはその子孫の個体、組織または細胞において、単一または複数の外来染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現させ、その産物としての生物学的に活性な物質を回収することを特徴とする、生物学的に活性な物質の製造法。
12. 前記3のキメラ非ヒト動物もしくはその子孫または前記6の非ヒト動物もしくはその子孫を、前記の染色体あるいはその断片上の遺伝子と同じあるいは相同の遺伝子が欠損している系統の非ヒト動物と交配させ、誕生した子動物の個体、組織または細胞において、前記の単一または複数の外来染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現させ、その産物としての生物学的に活性な物質を回収することを特徴とする、生物学的に活性な物質の製造法。
さらに具体的には、本発明は、以下の態様及び実施形態を包含する。
(1) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片を含むミクロセルを作製し、該ミクロセルとの融合により、分化多能性を保持する細胞へ前記単一または複数の外来染色体あるいはその断片を移入させることを特徴とする、キメラ非ヒト動物の作製法。
(2) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片を含むミクロセルを作製し、該ミクロセルとの融合により、分化多能性を保持する細胞へ前記単一または複数の外来染色体あるいはその断片を移入させることを特徴とする、単一または複数の外来染色体あるいはその断片を含む分化多能性を保持する細胞の作製方法。
(3) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片が670kbを越える大きさを有するものである上記(1)または(2)に記載の方法。
(4) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片の大きさが1Mb(百万塩基対)以上である上記(3)記載の方法。
(5) 外来染色体あるいはその断片が抗体をコードする領域を含むものである上記(1)または(2)に記載の方法。
(6) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片を含むミクロセルが、単一または複数の外来染色体あるいはその断片を含む細胞とミクロセル形成能の高い細胞とを融合させて作製されたハイブリッド細胞から誘導されたものである上記(1)または(2)に記載の方法。
(7) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片を含むミクロセルが、前記ハイブリッド細胞から誘導されたミクロセルをさらにミクロセル形成能の高い細胞と融合させて作製された細胞から誘導されたものである上記(6)記載の方法。
(8) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片を含む細胞がヒト正常2倍体細胞である上記(6)記載の方法。
(9) ミクロセル形成能の高い細胞がマウスA9細胞である上記(6)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10) 分化多能性を保持する細胞がES細胞である上記(1)または(2)に記載の方法。
(11) 外来染色体あるいはその断片が目的の遺伝子を含むものであり、分化多能性を保持する細胞がその外来染色体あるいはその断片上の該目的の遺伝子と同じあるいは相同の遺伝子が破壊されているものである上記(1)または(2)に記載の方法。
(12) その外来染色体あるいはその断片上の前記の目的の遺伝子と同じあるいは相同の遺伝子が破壊されている分化多能性を保持する細胞に、該目的の遺伝子と同じあるいは相同の遺伝子を含む外来染色体あるいはその断片を移入した後、該細胞と前記目的の遺伝子と同じあるいは相同の遺伝子が欠損している系統の非ヒト動物の胚とのキメラを作製する上記(1)記載の方法。
(13) 前記目的の遺伝子と同じあるいは相同の遺伝子が欠損している系統の非ヒト動物が標的遺伝子相同組み換え法により作製されたものである上記(12)記載の方法。
(14) キメラ非ヒト動物が、単一または複数の外来染色体あるいはその断片を保持し、該外来染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現し、該外来染色体あるいはその断片を子孫に伝達可能なものである上記(1)記載の方法。
(15) キメラ非ヒト動物が哺乳動物である上記(1)記載の方法。
(16) 哺乳動物がマウスである上記(15)記載の方法。
(17) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片を含む分化多能性を保持する細胞。
(18) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片が670kbを越える大きさを有するものである上記(17)記載の細胞。
(19) キメラ非ヒト動物を作製するための上記(17)または(18)に記載の細胞の使用。
(20) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片を保持し、該外来染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現するキメラ非ヒト動物、または、前記の単一もしくは複数の外来染色体あるいはその断片を保持し、該外来染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現するその子孫。
(21) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片が670kbを越える大きさを有するものである上記(20)記載のキメラ非ヒト動物またはその子孫。
(22) 上記(20)記載のキメラ非ヒト動物またはその子孫の交配により得られる単一または複数の外来染色体あるいはその断片を保持し、該外来染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現する非ヒト動物、または、単一もしくは複数の外来染色体あるいはその断片を保持し、該外来染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現するその子孫。
(23) 上記(20)記載のキメラ非ヒト動物もしくはその子孫または上記(22)記載の非ヒト動物もしくはその子孫に由来する組織。
(24) 上記(20)記載のキメラ非ヒト動物もしくはその子孫または上記(22)記載の非ヒト動物もしくはその子孫に由来する細胞。
(25) B細胞である上記(24)記載の細胞。
(26) 上記(24)記載の細胞とミエローマ細胞との融合により作製されたハイブリドーマ。
(27) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片を保持し、該外来染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現する上記(20)記載のキメラ非ヒト動物もしくはその子孫または上記(22)記載の非ヒト動物もしくはその子孫を、該遺伝子と同じあるいは相同の遺伝子が欠損している系統の非ヒト動物と交配させることにより作製された非ヒト動物、または、前記の単一もしくは複数の外来染色体あるいはその断片を保持し、該外来染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現するその子孫。
(28) 上記(20)記載のキメラ非ヒト動物もしくはその子孫または上記(22)記載の非ヒト動物もしくはその子孫の個体、組織または細胞において、単一または複数の外来染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現させ、その産物としての生物学的に活性な物質を回収することを特徴とする、生物学的に活性な物質の製造法。
(29) キメラ非ヒト動物の細胞がB細胞である上記(28)記載の方法。
(30) B細胞がミエローマ細胞と融合して、不死化されている上記(29)記載の方法。
(31) 生物学的に活性な物質が抗体である上記(28)〜(30)のいずれかに記載の方法。
(32) 抗体が哺乳動物の抗体である上記(31)記載の方法。
(33) 哺乳動物の抗体がヒト抗体である上記(32)記載の方法。
(34) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片を保持し、該外来染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現する上記(20)記載のキメラ非ヒト動物もしくはその子孫または上記(22)記載の非ヒト動物もしくはその子孫を、該遺伝子と同じあるいは相同の遺伝子が欠損している系統の非ヒト動物と交配させ、誕生した子動物の個体、組織または細胞において、前記の単一または複数の外来染色体あるいはその断片上の遺伝子を発現させ、その産物としての生物学的に活性な物質を回収することを特徴とする、生物学的に活性な物質の製造法。
(35) 大きさが670kbを越えるヒト抗体遺伝子の少なくとも一つを保持し、発現する非ヒト動物。
(36) 大きさが1Mb以上のヒト抗体遺伝子の少なくとも一つを保持し、発現する請求項35記載の非ヒト動物。
(37) ヒト抗体遺伝子が、ヒト重鎖遺伝子、ヒト軽鎖κ遺伝子、ヒト軽鎖λ遺伝子およびそれらの組み合わせから成る群より選択される上記(35)記載の非ヒト動物。
(38) そのヒト抗体遺伝子と同じあるいは相同の非ヒト動物抗体遺伝子が欠損している上記(35)〜(37)のいずれかに記載の非ヒト動物。
(39) そのヒト抗体遺伝子と同じあるいは相同の非ヒト動物抗体遺伝子の欠損が、遺伝子相同組換えによる該非ヒト動物抗体遺伝子の破壊によるものである上記(38)記載の非ヒト動物。
(40) 上記(35)〜(39)のいずれかに記載の非ヒト動物の脾臓細胞とミエローマ細胞との融合により得られるハイブリドーマ。
(41) ヒト抗体の少なくとも一つのクラスまたはサブクラスを発現する非ヒト動物。
(42) ヒト抗体のクラスまたはサブクラスが、IgM、IgG、IgE、IgA、IgDおよびそれらのサブクラス、ならびにそれらの組み合わせから選択される上記(41)記載の非ヒト動物。
(43) 総塩基長が670kbを越える単一または複数の外来DNAを保持し、該外来DNA上の遺伝子を発現する非ヒト動物、または、前記の単一または複数の外来DNAを保持し、該DNA上の遺伝子を発現するその子孫。
(44) 総塩基長が1Mb以上の単一または複数の外来DNAを保持し、該外来DNA上の遺伝子を発現する上記(43)記載の非ヒト動物またはその子孫。
(45) 単一または複数の外来染色体あるいはその断片を含むミクロセルを作製し、該ミクロセルとの融合により、前記単一または複数の外来染色体あるいはその断片を胚盤胞に由来する培養細胞へ移入し、該細胞の核を除核した未受精卵に移植することを特徴とする、トランスジェニック非ヒト動物の作製法。
(46) 非ヒト動物においてヒト遺伝子を発現することを可能にする、かつ塩基長が1Mb以上である、単離されたヒト染色体またはその断片であって、該染色体またはその断片が、ヒト2番染色体断片、ヒト4番染色体断片、ヒト14番染色体断片、およびヒト22番染色体もしくはその断片からなる群から選択されるものである、前記ヒト染色体またはその断片。
(47) 前記ヒト遺伝子がヒト抗体遺伝子である、上記(46)に記載のヒト染色体またはその断片。
(48) 前記ヒト抗体遺伝子がヒト重鎖遺伝子、ヒト軽鎖κ遺伝子またはヒト軽鎖λ遺伝子である、上記(47)に記載のヒト染色体またはその断片。
(49) 前記ヒト2番染色体断片が、2番染色体の多型性および遺伝子マーカーvk1−2、vk3−2およびCkを含む、上記(46)〜(48)のいずれかに記載のヒト染色体またはその断片。
(50) 前記ヒト2番染色体断片が、2番染色体の多型性および遺伝子マーカーS207、S177、vk1−2、vk3−2、Ck、S156およびS159を含む、上記(46)〜(48)のいずれかに記載のヒト染色体またはその断片。
(51) 前記ヒト4番染色体断片が、4番染色体の多型性および遺伝子マーカーF11およびD4S426を含む、上記(46)に記載のヒト染色体またはその断片。
(52) 前記ヒト4番染色体断片が、4番染色体の多型性および遺伝子マーカーIL−2、D4S422、FABP2、D4S413、F11およびD4S426を含む、上記(46)に記載のヒト染色体またはその断片。
(53) 前記ヒト4番染色体断片が、4番染色体の多型性および遺伝子マーカーD4S412、HD、D4S418、KIT、D4S395、IL−2、D4S422、FABP2、D4S413、F11およびD4S426を含む、上記(46)に記載のヒト染色体またはその断片。
(54) 前記ヒト14番染色体断片が、14番染色体の多型性および遺伝子マーカーD14S72、NP、TCRA、MYH6、D14S75、D14S66、D14S78、IGA2、IGG1、IGMおよびIGVH3を含む、上記(46)〜(48)のいずれかに記載のヒト染色体またはその断片。
(55) 前記ヒト14番染色体断片が、14番染色体の多型性および遺伝子マーカーD14S72、NP、TCRA、MYH6、D14S75、D14S66、D14S43、D14S65、D14S51、D14S78、IGA2、IGG1、IGMおよびIGVH3を含む、上記(46)〜(48)のいずれかに記載のヒト染色体またはその断片。
(56) 前記ヒト14番染色体断片が、14番染色体の多型性および遺伝子マーカーD14S75、D14S81、PCI、D14S62、D14S65、D14S51、D14S78、IGA2、IGG1、IGMおよびIGVH3を含む、上記(46)〜(48)のいずれかに記載のヒト染色体またはその断片。
(57) 前記ヒト14番染色体断片が、14番染色体の多型性および遺伝子マーカーD14S72、NP、TCRA、MYH6、D14S75、D14S66、D14S43、D14S67、D14S81、PCI、D14S62、D14S65、D14S51、D14S78、IGA2、IGG1、IGMおよびIGVH3を含む、上記(46)〜(48)のいずれかに記載のヒト染色体またはその断片。
(58) 前記ヒト22番染色体もしくはその断片が、22番染色体の多型性および遺伝子マーカーD22S315、D22S275、D22S278、Igλ、D22S272、PVALB、MB、DIA1、ARSAおよびD22S274を含む、上記(46)〜(48)のいずれかに記載のヒト染色体またはその断片。
(59) 上記(49)〜(58)のいずれかに記載のヒト染色体またはその断片を含む非ヒト動物。
本発明により、単一または複数の外来染色体またはその断片を保持し、該染色体またはその断片上の遺伝子を発現するキメラ非ヒト動物が提供された。本発明のキメラ非ヒト動物を利用して、生物学的に活性な物質を製造することができる。
本発明により、単一または複数の外来染色体またはその断片を保持し、該染色体またはその断片上の遺伝子を発現する分化多能性を持つ細胞が提供された。該細胞を利用して、骨髄移植等による遺伝病治療を行うことができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
ヒト染色体またはその断片を保持し、該染色体またはその断片上の遺伝子を発現するマウス個体は、
(1)標識されたヒト染色体またはその断片を保持する染色体供与細胞の作製
(2)分化多能性を保持するマウス細胞へのミクロセル法によるヒト染色体またはその断片の移入
(3)上記マウス細胞を用いたキメラマウスの作製
(4)キメラマウスにおけるヒト染色体保持及び、ヒト遺伝子発現確認
の過程を経ることにより得ることができる。なお、ここでは、ヒト染色体またはその断片を保持し、該染色体またはその断片上の遺伝子を発現する非ヒト動物として、マウスを例にとった(以下、このマウスを「ヒト染色体導入マウス」と称する。)。
ここでヒト染色体とは、ヒト細胞由来の天然のDNAと蛋白質の複合体のことを指す。正常なヒト染色体は23種(雄は24種)46本存在し、それぞれ約50〜300Mbの長さのDNAを含むとされるが、本発明においては独立染色体として安定に複製、分配が可能な部分断片、およびマウス染色体上に転座し、安定に保持されている部分断片も含まれる。そのDNAの大きさは通常1Mb以上だが、それ以下の場合もある。本発明の特徴は大腸菌、酵母等でのクローニングあるいは細胞からのDNA抽出処理等を行なわず、染色体そのものを媒体としてマウス個体でヒト遺伝子を保持、発現させることにある。
また、ヒト染色体導入マウスとは、その正常体細胞の全てまたは一部において、単一あるいは複数のヒト染色体あるいはその断片を保持するものを指す。さらには、その正常体細胞の全てまたは一部において、ヒト染色体上の単一あるいは複数のヒト遺伝子を発現しているものを指す。
(1)標識されたヒト染色体またはその断片を保持する染色体供与細胞の作製
染色体供与細胞としては、1)受容細胞で選別可能なマーカーで標識されたヒト染色体を保持し、2)それ以外のヒト染色体を含まない、3)ミクロセル形成能が高い細胞、が望ましい。
ヒト染色体提供の材料としては、ヒト由来のあらゆる細胞株、癌細胞、初代培養細胞を用いることが出来るが、染色体の欠失、増幅等の異常の可能性が低く、また培養が容易な点を考慮すると正常繊維芽細胞が適している。
まず1)について、ヒト細胞は薬剤(G418, ピューロマイシン,ハイグロマイシン, ブラストサイジン)耐性等のマーカー遺伝子を発現するベクターにより形質転換することができる。ここで用いるマーカー発現制御のためのプロモーターとしては、ヒト細胞のみならず、マウスES細胞のような受容細胞で効率よく働くものが望ましい。この目的にはSV40エンハンサーと単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼプロモーターの連結したもの(Katohら, Cell Struct.Funct., 12:575, 1987)、マウスPGK-1プロモーター(Sorianoら, Cell, 64:693, 1991)等を用いることが出来る。エレクトロポレーション(石田ら, 細胞工学実験操作入門, 講談社, 1992)等による形質転換を実施し、選択することにより、導入されたマーカー遺伝子が、23種46本あるヒト染色体上にランダムに挿入されたようなヒト細胞形質転換体のライブラリーを得ることが出来る。
3)については、多くのヒト正常細胞がミクロセル形成能が非常に低いので、上記の形質転換体をミクロセル形成能の高い細胞例えば、マウスA9細胞(Oshimura,M.,Environ. Health Perspect., 93:57, 1991)と全細胞融合することにより、形成能を付与することが出来る。マウス−ヒト雑種細胞では、ヒト染色体が選択的に消失することが知られているが、ここで得られた融合株は、先述のマーカーで選択することにより、マーキングされたヒト染色体を安定に保持することが出来る。
さらに、2)の条件を満たすために、この細胞融合株からミクロセルを取得し、マウスA9細胞と再度融合することが望ましい。この場合も、ヒト染色体上のマーカーで選択することにより、得られるミクロセル融合株の多くは、1)、2)、3)の条件を満たしたものであると考えられる。マーキングされたヒト染色体の同定は、最終段階で得られるマウス−ヒトモノクロモソーム雑種細胞において、PCR(ポリメラーゼチェインリアクション、Saikiら, Science, 239:487, 1988)、サザンブロット解析(Ausubelら, Current protocols in molecular biology, John Wiley & Sons, Inc., 1994)、FISH(フルオレッセンスインサイチューハイブリダイゼーション、Lawrenceら, Cell, 52:51, 1988)解析等により調べることが出来る。ある特定の染色体導入を望む場合には、多くのヒト細胞形質転換体クローンについて、それぞれ上記の過程を繰り返して、目的染色体がマーキングされたものを探す。あるいは、ヒト細胞形質転換体クローンの混合物について上記の過程を実施し、得られる多数のマウス−ヒトモノクロモソーム雑種細胞についてヒト染色体の同定を行なうことが可能である。
さらに、導入を望む染色体上のDNA配列を標的とした相同組換え(Thomas ら, Cell, 51:503, 1987)により、特定の部位にマーカー遺伝子を挿入することも可能である。
マウス−ヒト雑種細胞から調製したミクロセルにガンマ線照射することにより、マーキングされたヒト染色体を断片化してマウスA9細胞に導入することも出来る。また、ミクロセルにガンマ線照射しない場合でも、ある割合で部分断片化したヒト染色体が移入されることがある。これらの場合、得られるミクロセル融合株は、マーキングされたヒト染色体の部分断片を保持している。これらは、受容細胞に染色体部分断片を導入したい場合に用いることができる。
(2)分化多能性を保持するマウス細胞へのヒト染色体またはその断片の移入
これまでに、種々の系統のマウス由来の胚性癌腫細胞(EC細胞、Hanaokaら, Differentiation, 48:83, 1991)、胚性幹細胞(ES細胞、Evansら, Nature, 292:154, 1981)、胚性生殖細胞(EG細胞、Matsuiら, Cell, 70:841, 1992)がマウス初期胚に注入あるいは共培養することによりその正常体細胞に寄与する、すなわちキメラマウス作製可能であることが報告されている。ES、EG細胞はその能力が特に高く、多くの場合生殖細胞にも寄与し、その細胞由来の子孫を作ることができる。EC細胞は主に生殖細胞癌から、ES細胞は胚盤胞の内部細胞塊から、EG細胞は発生初期に出現する始原生殖細胞から得られる。本発明におけるヒト染色体移入の受容細胞としてはこれらの細胞株及びその変異株、さらにはマウス個体において全て、あるいは一部の正常体細胞に分化可能なあらゆる未分化細胞を用いることができる。
受容細胞へのヒト染色体移入の材料としては(1)で得られたヒト染色体供与細胞から調製されるミクロセルあるいはガンマ線照射したミクロセルを用いることができる。受容細胞への移入は<清水素行, 細胞工学ハンドブック, 羊土社, 1992> 等に記された方法で受容細胞とミクロセルを融合することにより行なう。
ミクロセル供与細胞においてはあるヒト染色体またはその断片が受容細胞において選別可能なマーカーを保持している。この中から、(1)と同様PCR、サザンブロット解析、FISH解析等により、導入を目的とする遺伝子あるいは染色体あるいはその断片を保持する株を選択すれば、あらゆるヒト染色体、あるいはその断片を導入することが可能である。また、異なる選択マーカーを保持する複数の染色体、あるいはその断片を逐次導入することにより、これらを同時に保持する受容細胞を得ることもできる。さらに、すでにあるヒト染色体を導入した細胞株の中から、導入染色体数が増加したものを選抜することも可能である。これは通常、培養液中に添加する選択薬剤の濃度を高めることにより達成される。
ヒト染色体上のマーカー(G418耐性等)により選抜された受容細胞が、供与細胞の保持していたヒト染色体の全部あるいは一部を保持していることは、以下のようにして確認される。選抜された受容細胞から抽出したゲノムDNAを用い、プローブとしてヒト特異的繰り返し配列(L1、 Alu等、Korenbergら, Cell, 53:391, 1988)、ヒト遺伝子等を用いたサザン解析により検出される。また、ヒト遺伝子特異的プライマーによるPCR法、及びヒト染色体特異的プローブ(Lichterら, Human Genetics, 80:224, 1988)を用いたフルオレッセンスインサイチューハイブリダイゼーション(FISH)等の染色体解析により確認することができる。
(3)ヒト染色体導入ES細胞からのキメラマウス作製
(2)で得られたES細胞株からのキメラマウス作製は、<相沢慎一, バイオマニュアルシリーズ8ジーンターゲティング, 羊土社, 1995>等に記された方法で行なう。効率的なキメラマウス作製を行なうための宿主胚の発生時期、系統等の選択については、それぞれのES細胞株についてすでに検討された条件を用いることが望ましい。例えば、CBA×C57BL/6 F1由来のTT2細胞(野生色、Yagiら, Analytical Biochemistry, 214:70, 1993)についてはBalb/c(白色、日本クレア社)あるいはICR(白色、日本クレア社)由来の8細胞期胚を宿主胚として用いるのが望ましい。
(4)キメラマウスにおけるヒト染色体の保持及びヒト遺伝子発現
ES細胞株を注入した胚から誕生したマウスにおけるES細胞の貢献率は、その毛色によりおおまかに判定することができる。但し、毛色に全く貢献が見られないからといって他の組織で貢献がないとは断定できない。より詳細な、キメラマウス各組織におけるヒト染色体の保持は各組織より抽出されたゲノムDNAを用いたサザン解析、PCR等によって確認することができる。
導入ヒト染色体上の遺伝子発現は以下のようにして確認される。ヒト染色体由来mRNAの発現は各組織由来RNAを用いたRT-PCR法(Kawasakiら, P.N.A.S., 85:5698, 1988)、ノーザンブロット法(Ausubelら, 前記)により検出される。蛋白質レベルの発現は、マウスの相同蛋白質との交差反応性を最小にした抗ヒト蛋白質抗体による酵素免疫測定法(ELISA、富山・安東, 単クローン抗体実験マニュアル, 講談社サイエンティフィク, 1987; 石川, 超高感度酵素免疫測定法, 学会出版センター, 1993)、ウエスタンブロット法(Ausubelら, 前記)あるいは、電気泳動度の違いを利用したアイソザイム分析(Koi ら,Jpn. J. Cancer Res., 80:413, 1989)等により検出される。さらに、キメラマウス細胞中でのヒト染色体の保持及び該染色体上の遺伝子の発現が、キメラマウス由来初代培養細胞での薬剤耐性マーカー遺伝子発現による耐性細胞の出現より確認できる。
例えば、ヒト免疫グロブリン重鎖の存在するヒト14番染色体を保持するES細胞から作製されたキメラマウスについて、キメラマウス血清中のヒトIgM、IgG、IgA等をマウス抗体との交差反応性を最小にした抗ヒトIg抗体による酵素免疫測定法により検出することができる。また、このキメラマウスをヒト由来抗原(例えばヒト血清アルブミン)により免疫し、その脾臓細胞とマウスミエローマを融合することにより得られる、ハイブリドーマ(安東・千葉, 単クローン抗体実験操作入門, 講談社サイエンティフィク, 1991)をELISAによりスクリーニングすることにより、ヒト免疫グロブリン重鎖を産生するハイブリドーマを得ることができる。
以上、マウスを例にとり、ヒト染色体またはその断片を保持し、該染色体またはその断片上の遺伝子を発現するキメラ非ヒト動物の作製法を説明したが、本発明において、キメラ非ヒト動物へ移入される染色体またはその断片は、ヒト由来のものに限られず、広く外来染色体またはその断片を移入し、該染色体またはその断片上の遺伝子を発現させることが可能である。ここで、「外来染色体」とは、分化多能性を保持する細胞へ移入され、キメラ非ヒト動物において、該染色体またはその断片上の遺伝子が発現することを特徴とするものであり、その由来ととする生物種は特に限定されるものではない。また、本発明の方法により、キメラマウスのみならず、他のキメラ動物、例えば、ラット、ブタ等の哺乳類その他のキメラ動物も作製することができる。マウス以外の動物種におけるES細胞あるいはES様細胞の樹立はラット(Iannacconeら, Dev. Biol., 163, 288-, 1994)、ブタ(Wheeler ら, Reprod. Fertil. Dev., 6, 563-, 1994)、ウシ(Simsら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91, 6143-6147, 1994)において報告され、さらにメダカ、ニワトリ等でも試みられている(トランスジェニック動物, 蛋白質核酸酵素, 1995年10月号増刊, 共立出版)。また、ヒツジにおいてはES様細胞(ED細胞)さらにはそれを10代以上継代して得られる上皮様細胞由来の核を移植された未受精卵が正常に発生することが知られている(Campbellら, Nature, 380, 64-, 1996)。これらESあるいはES様細胞を受容細胞とした外来染色体移入によってマウスの場合と同様に外来染色体あるいはその断片を保持し、該染色体またはその断片上の遺伝子を発現するキメラ非ヒト動物が作製可能である。
また、本発明において、外来染色体あるいはその断片が移入される、分化多能性を保持する細胞は、前述のES細胞、EC細胞、EG細胞に限られるものではない。例えば、骨髄幹細胞に外来染色体あるいはその断片を移入することが可能であり、該骨髄幹細胞の生体への移植により、遺伝病等の治療を行うことが可能である。
キメラ非ヒト動物において、外来染色体を保持するES細胞がその生殖細胞に分化した場合、生殖により得られる子孫にも導入染色体または断片が認められ、その子孫は導入された染色体または断片上の遺伝子を発現する。
上記のようにして得られるキメラ非ヒト動物またはその子孫を利用して、外来染色体またはその断片上の遺伝子を発現させ、その産物を回収することにより、生物学的に活性な物質を製造することができる。具体的には、キメラ非ヒト動物またはその子孫の個体を外来染色体またはその断片上の遺伝子を発現しうる条件下で飼育し、その後発現産物を動物の血液、腹水などから回収することができる。あるいはまた、キメラ非ヒト動物またはその子孫の組織、細胞あるいはそれを不死化したもの(例えば、ミエローマ細胞との融合により不死化したハイブリドーマ)などを外来染色体またはその断片上の遺伝子を発現しうる条件下で培養し、その後発現産物を培養物から回収することができる。さらには、これらキメラ非ヒト動物またはその子孫の組織、細胞、あるいはそれを不死化したものから抽出した外来染色体あるいはその断片、または外来染色体またはその断片を構成するDNA、さらにはまた、キメラ非ヒト動物またはその子孫の組織、細胞、あるいはそれを不死化したものに保持された外来染色体あるいはその断片に由来するcDNAを動物細胞あるいは昆虫細胞(例えば、CHO細胞、BHK細胞、肝ガン細胞、ミエローマ細胞、SF9細胞等)に導入し、該細胞を外来染色体またはその断片上の遺伝子を発現しうる条件下で培養し、その後発現産物(例えば、特定の抗原特異的な抗体蛋白質等)を培養物から回収することができる。発現産物は遠心分離などの公知の方法に従って回収することができ、さらに、硫安分画、分配クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、分取薄層クロマトグラフィーなどの公知の方法に従って精製することができる。生物学的に活性な物質は、外来染色体上にコードされているあらゆる物質を含み、例えば、抗体、特にヒト抗体などを挙げることができる。例えば、得られたキメラ動物の脾細胞あるいはそのハイブリドーマなどの不死化細胞から該染色体上のヒト抗体遺伝子をクローニングし、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)やミエローマ細胞に導入してヒト抗体を生産することができる(Lynette ら, Biotechnology, 10, 1121-, 1992; Bebbingtonら, Biotechnology, 10, 169-, 1992)。
本発明により得られるヒト2番、14番、22番染色体(断片)を保持するキメラマウス及びその子孫は、ヒト抗体重鎖(14番染色体上)、軽鎖κ(2番染色体上)、軽鎖λ(22番染色体上)それぞれの遺伝子の機能的配列の大部分を保持し得る。すなわち、酵母人工染色体等を用いてヒト抗体遺伝子の一部を導入した既知のトランスジェニックマウス(Greenら, Nature Genetics, 7, 13-, 1994, Lonbergら, Nature, 368, 856-, 1994等)と比較して、ヒトにおいて観察されるものにより近い、非常に多様なヒト抗体レパートリーを発現することが可能である。また、本発明により得られる2番+14番、22番+14番等の染色体(断片)を同時に保持するキメラマウス及びその子孫、並びに、それらを交配することにより得られる2番+14番+22番等の染色体(断片)を同時に保持するマウス及びその子孫は、重鎖、軽鎖の両者がヒト由来である完全なヒト抗体を産生することが可能である。これらのマウスはヒト由来抗原に対してそれを異物とみなして免疫反応を起こし、抗原特異的ヒト抗体を産生することができる。この性質は治療用のヒトモノクローナル抗体、あるいはヒトポリクローナル抗体を得るために非常に有用である(Greenら、前記、Lonbergら、前記)。一方、特定の抗原に対して親和性の高いヒト抗体を得る効率を上げるためには、マウス抗体を産生せず、ヒト抗体のみを産生するマウスを作成することが望まれる(Greenら、前記、Lonbergら、前記)。本発明において、これは典型的には既知の手法を用いて以下の方法AあるいはBにより達成される。
方法A:マウス抗体欠損ES細胞およびマウス抗体欠損キメラ宿主胚を用いる方法。
方法B:ヒト染色体導入キメラマウスよりヒト染色体を保持する子孫を得てマウス抗体遺伝子を欠損するマウス系統との交配を行う方法。
以下にA, Bそれぞれの方法の典型的な例について以下に具体的に記す。
方法Aの具体的手順
1.マウスES細胞に2コピー存在するマウス抗体重鎖遺伝子の一方を標的遺伝子相同組み換え法(Joynerら, Gene Targeting, 1993, IRL PRESS)を用いて破壊する。遺伝子破壊箇所には後に部位特異的組換えにより除去可能な配列、例えばloxP配列(Creレコンビナーゼにより組み換え、Sauerら、前記、他にFLPレコンビナーゼ-FRT配列を用いたO'Gormanら, Science, 251, 1351-, 1991の例がある)にはさまれたG418耐性遺伝子等のマーカー遺伝子を挿入する。
2.一方の抗体重鎖遺伝子が破壊された上記薬剤耐性マウスES細胞を高濃度の薬剤存在下で培養し、高濃度薬剤耐性となった株を選抜する。これらの株をスクリーニングすることにより両方の抗体重鎖遺伝子が破壊された株が得られる(相沢慎一、前記)。
3.2.で得られた両方の抗体重鎖遺伝子が破壊されたマウスES細胞に1.で薬剤耐性遺伝子の両側に挿入した組換え配列の間で部位特異的組み換え反応を起こす酵素遺伝子、例えばCreレコンビナーゼ遺伝子(Sauerら、前記)を一時的に導入し、loxP配列の間で組み換え反応が起こって両方の抗体重鎖遺伝子に挿入された薬剤耐性遺伝子が除去された薬剤感受性株を選抜する(高津聖志ら、実験医学別冊、免疫研究の基礎技術、p255-、1995、羊土社)。
4.マウス抗体軽鎖κ遺伝子について上記1〜3の過程を繰り返し、最終的に抗体重鎖及びκ鎖を完全に欠損した薬剤感受性株を取得する。
5.4の株(抗体重鎖、κ鎖欠損マウスES細胞)を受容細胞としたミクロセル融合により、薬剤耐性マーカー(例えばG418耐性遺伝子)でマーキングされたヒト抗体重鎖遺伝子を含むヒト14番染色体(断片)を導入する。
6.5で得られた株を受容細胞としたミクロセル融合により、5とは異なる薬剤耐性マーカー(例えばピューロマイシン耐性遺伝子)でマーキングされたヒト抗体軽鎖遺伝子を含むヒト2番染色体(断片)あるいは22番染色体(断片)またはその両者を導入する。
7.自らの抗体を産生することができないマウス系統(例えばRAG-2ノックアウトマウス、Shinkaiら, Cell, 68, 855-, 1992、膜型μ鎖ノックアウトマウス、Kitamuraら, Nature, 350, 423-,1991)から得た胚を宿主胚として6で得られたES細胞とのキメラマウスを作成する。
8.得られるキメラマウスにおいてほとんどの機能的なBリンパ球はES細胞に由来する(高津聖志ら、実験医学別冊、免疫研究の基礎技術、p234-、羊土社、1995)。このBリンパ球においてはマウス重鎖、κ鎖が欠損しているため、主として導入染色体上の機能的なヒト抗体遺伝子よりヒトの抗体のみが産生される。
方法Bの具体的手順
1.ヒト抗体重鎖、軽鎖κまたは軽鎖λを含むヒト染色体あるいはその断片を保持するキメラマウスからそれらを安定に保持する継代可能な子孫を得る。
2.1.で得られたヒト抗体重鎖または軽鎖を発現するマウス系統あるいはそれらの交配により得られたヒト抗体重鎖および軽鎖の両者を発現するマウス系統と自らの抗体遺伝子が欠損しているマウス系統(例えば膜型μ鎖ノックアウトマウス、前記、軽鎖κノックアウトマウス、Chenら, EMBO J., 3, 821-, 1993)との交配により、マウス抗体重鎖、及び軽鎖κの欠損についてホモ接合体であり、なおかつヒト抗体重鎖(14番)+軽鎖κ(2番)、抗体重鎖(14番)+軽鎖λ(22番)あるいはヒト抗体重鎖(14番)+軽鎖κ(2番)+軽鎖λ(22番)を含むヒト染色体を保持するマウス系統を得る。このマウス系統においてはマウス抗体重鎖、軽鎖κ遺伝子が欠損しているため、主として導入染色体上の機能的なヒト抗体遺伝子よりヒトの抗体のみが産生される。
なお、上記のAおよびBの方法は、ヒト抗体のみならず、外来染色体上に存在するあらゆる遺伝子の産物を効率的に得るために、用いることができる。
以下に実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでない。
(実施例1)G418耐性標識されたヒト染色体(断片)を保持する染色体供与細胞の作製
G418耐性遺伝子を含むプラスミドpSTneoB(Katohら、Cell Struct. Funct., 12:575, 1987; Japanese Collection of Research Biologicals (JCRB), Deposit Number: VE039)を制限酵素SalI(宝酒造)で線状化し、ヒト正常繊維芽細胞HFL-1(RIKEN Cell Bankより入手、RCB0251)へ導入した。HFL-1細胞をトリプシン処理し、5x106個/mlとなるようにダルベッコのリン酸バッファー(PBS)に懸濁してから10μgDNA存在下でジーンパルサー(バイオラッド)を用いてエレクトロポレーションを行なった(石田ら, 細胞工学実験操作入門, 講談社, 1992)。25μFの容量で1000Vの電圧を4mm長のエレクトロポレーションセル(165-2088、バイオラッド )を用いて室温で印加した。エレクトロポレーションした細胞を15%牛胎児血清(FBS)を添加したイーグルF12培地(以下F12、という)を含む100mm組織培養用プラスチックシャーレ(コーニング)3〜6枚に播種した。1日後に200μg/mlのG418(GENETICIN,シグマ)を含む15%FBSを添加したF12培地と置き換えた。2〜3週間後に生じたコロニー100個程度を一つの集団として52グループにそれぞれまとめ、100 mmシャーレに再び播種し培養した。
マウスA9細胞(Oshimura, Environ.Health Perspect.,93:57, 1991, JCRB0211)を10%牛胎児血清(FBS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(以下DMEM、という)中、 100 mm シャーレで培養した。52グループのG418耐性HFL-1 細胞を15%牛胎児血清(FBS) と200μg/mlのG418を添加したF12中で、それぞれ100mmシャーレで培養した。マウスA9細胞とHFL-1 細胞をトリプシン処理後それぞれ四分の一から半分量ずつ混合し、100mmシャーレに播種し10%牛胎児血清(FBS)を添加したDMEMと15%牛胎児血清(FBS)を添加したF12との等量混合物中で半日から一日培養した。細胞融合は(清水ら, 細胞工学ハンドブック, 羊土社, p.127-, 1992)に記述されている方法に従った。DMEMで細胞表面を2回洗った後、2ml のPEG(1:1.4)溶液で1分間処理し、さらに、2mlのPEG(1:3)溶液に換え1分間処理した。PEG溶液を吸い取り、無血清培地(DMEM)で3回洗った後、通常の培地(10%FBS、DMEM)で1日間培養した。細胞をトリプシン処理により分散し、ウワバイン(1x10-5M,シグマ)およびG418(800μg/ml)を含む二重選択培地(10%FBS、DMEM)に懸濁し、100mmシャーレ3枚に播種した。約3週間培養した後、生じたコロニーをトリプシン処理により細胞を分散しG418(800μg/ml)を含む選択培地(10%FBS、DMEM)で培養した。
トリプシン処理により細胞を分散し2グループを一つにまとめて、6本の25cm2遠心用フラスコ(コースター、3025)にて細胞密度が70〜80%飽和程度まで培養した。コルセミド(0.05μg/ml, デメコルシン, 和光純薬)を含む培養液(20%FBS、DMEM)に交換し、2日間培養しミクロセルを形成させた。培養液を除去し、予め保温(37℃)しておいたサイトカラシンB(10μg/ml, シグマ)溶液を遠心用フラスコに満たし、アクリル製遠心容器に遠心用フラスコを挿入し、34℃、8000rpm ,1時間の遠心を行なった。ミクロセルを無血清培地に懸濁し、フィルターで濾過し精製した。マウスA9細胞を80%飽和の状態まで培養した25cm2 フラスコに精製した微小核を加えPEG溶液で融合させた。G418を含む選択培地で培養しコロニーを単離した。各クローンが保持するヒト染色体(2番、4番、14番、22番)は以下の通り同定した。上記以外のすべての実験操作及び試薬等は〈清水ら、細胞工学ハンドブック、羊土社、p.127-〉に従った。
(1)PCR解析
単離した細胞を培養し、細胞からPuregene DNA Isolation kit(Gentra System社)を用いてゲノムDNAを抽出し、このゲノムDNAを鋳型とし、ヒト染色体特異的なプライマーを用いてPCR法で2、4、14、22番ヒト染色体を保持するクローンを選抜した。PCR増幅は約0.1μgのゲノムDNAを使用し(Innisら, PCR実験マニュアル, HBJ出版局, 1991, サーマルサイクラーはGeneAmp 9600, Perkin-Elmer社を使用)に従い行なった。TaqポリメラーゼはPerkin-Elmer社製を用い、反応条件は、94℃5分を1サイクル行なった後、変性94℃15秒、アニーリング54〜57℃15秒(プライマーにより適宜変更)、伸長72℃20秒を35サイクル行なった。プライマーは各染色体上に存在する遺伝子(O'Brien, Genetic Maps,6th edition, Book 5, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1993)及び多型性マーカー(Polymorphic STS Primer Pair, BIOS 社; Weissenbach ら, Nature 359:794, 1992; Walterら, Nature Genetics,7:22, 1994 等)を用いた。遺伝子プライマーはGenBank、EMBL等のデータベースより入手した塩基配列をもとに作製した。多型性プライマーの名称及び、遺伝子プライマーの配列はそれぞれの染色体について以下の実施例で示した(2番:実施例1、4番:実施例6、14番:実施例9、22番:実施例2)。2番染色体の同定には以下に示す遺伝子マーカー及び多型性マーカー(Polymorphic STS Primer Pair, BIOS社: D2S207, D2S177, D2S156, D2S159 BIOS社)を用いた。
Cκ(immunoglobulin kappa constant):5'-TGGAAGGTGGATAACGCCCT (配列番号1), 5'-TCATTCTCCTCCAACATTAGCA (配列番号2)
FABP1(fatty acid binding protein-1 liver):5'-GCAATCGGTCTGCCGGAAGA(配列番号3), 5'-TTGGATCACTTTGGACCCAG (配列番号4)
Vk3-2 (immunoglobulin kappa variable):5'-CTCTCCTGCAGGGCCAGTCA (配列番号5), 5'-TGCTGATGGTGAGAGTGAACTC (配列番号6)
Vk1-2 (immunoglobulin kappa variable):5'-AGTCAGGGCATTAGCAGTGC (配列番号7), 5'-GCTGCTGATGGTGAGAGTGA(配列番号8)
(2)フルオレッセンスインサイチューハイブリダイゼーション(FISH)
FISH解析は(松原ら, FISH実験プロトコール, 秀潤社, 1994)に記された方法に従い、ヒト2番、4番、14番、22番染色体特異的プローブ(CHROMOSOME PAINTING SYSTEM, Cambio社)を用いて行なった。
例えば、2番染色体を保持するクローンは26グループ(745クローン)中10グループに1個以上のクローンを得た。このうち用いた2番染色体特異的なプライマーすべてに陽性であったのは5クローンだった。これらのクローンをFISH解析した。FISH解析は(松原ら, FISH実験プロトコール、秀潤社、1994)に記された方法に従い、ヒト2番染色体特異的プローブ(CHROMOSOME PAINTING SYSTEM,CANBIO社)を用いて行なった。すべてのプライマーに陽性な細胞ではヒト2番染色体がほぼ完全な形で観察され、1部のプライマーのみ陽性なクローンのうちいくつかのクローンではヒト2番染色体よりも小さな独立染色体が観察され、あるいはヒト2番染色体以外の染色体と融合しているような形の染色体を持つ細胞も観察された(第1図)。第1図において、横列がクローン名、縦列はPCRに使用したプライマーを示す。黒丸は陽性を、×は陰性を示した。また、FISHにより観察されたヒト2番染色体の存在形態を最下行に示した。記載のないものは実施していない。
同様にして、ヒト4番、14番、22番染色体を保持するA9細胞を得た。
(実施例2)マウスES細胞へのミクロセル法によるヒト22番染色体導入
染色体供与細胞として、(実施例1)で得られたヒト22番染色体を保持するマウスA9細胞株(以下A9/#22、という)を用いた。染色体受容細胞としてはマウスES細胞株E14(Martin L. Hooperより入手、Hooperら, Nature, 326 :292, 1987)を用いた。E14の培養法は<相沢慎一, バイオマニュアルシリーズ 8, ジーンターゲティング, 羊土社, 1995>に記された方法に従い、栄養細胞としては、マイトマイシンC(シグマ)処理したG418耐性STO細胞株(大阪大学、近藤寿人教授より入手)を用いた。まず清水ら(細胞工学ハンドブック、羊土社、1992)の報告した方法に従い、約108個のA9/#22からミクロセルを調製した。得られたミクロセルは全量を5mlのDMEMに懸濁した。約107個のE14をトリプシンで分散させた後、DMEMで3回洗浄し、5mlのDMEMに懸濁した後、ミクロセルとあわせ、1250rpm、10分間遠心して上清を除いた。沈殿をタッピングによりよくほぐし、1:1.4PEG溶液(5g PEG1000,<和光純薬>, 1ml DMSO<シグマ>を6mlDMEMに溶解)0.5mlを加えて室温で1分30秒静置した後、10mlのDMEMをゆっくりと加えた。直ちに1250rpm、10分間遠心して上清を除き、沈殿を30mlのES細胞用培地に懸濁し、あらかじめ栄養細胞をまいた直径100mmの組織培養用プラスチックシャーレ(コーニング)3枚に播種した。24時間後に300μg/mlのG418(GENETICIN,シグマ)を加えた培地と交換し、その後毎日培地交換を行なった。1週間〜10日後には薬剤耐性コロニーが出現する。その出現頻度はE14細胞107個あたり0〜5個であった。そのコロニーをピックアップし増殖させ、5×106個あたり1mlの保存用培地(ES細胞用培地+10%DMSO<シグマ>)に懸濁し、-80℃にて凍結保存した。同時に各薬剤耐性株について106〜107個の細胞からゲノムDNAをPuregene DNA Isolation Kit(Gentra System社)により調製した。
ヒト22番染色体の断片化はミクロセルにガンマ線照射することにより行なった(Koiら, Science, 260:361, 1993)。約108個のA9/#22より取得したミクロセルを5mlのDMEMに懸濁し、ガンマセル40(カナダ原子力公社製)により、氷上で60Gyのガンマ線を照射した(1.2Gy/分×50分)。ガンマ線照射したミクロセルは未照射ミクロセルと同様に融合、薬剤耐性株選抜を行なった結果、薬剤耐性株の出現頻度はE14細胞107個あたり1〜7個であった。薬剤耐性株については未照射の場合と同様にして凍結保存、DNA取得を行なった。未照射ミクロセル薬剤耐性株E14/#22-9 、E14/#22-10、ガンマ線照射ミクロセル薬剤耐性株E14/#22-14、E14/#22-25における導入染色体の保持は以下の(1)〜(3)により確認した。
(1)PCR解析(第2図)
薬剤耐性株ゲノムDNAを鋳型としてヒト22番染色体上に存在する遺伝子(Genetic Maps, 前記)及び多型性マーカー(Polymorphic STS Primer Pair, BIOS社:D22S315, D22S275, D22S278, D22S272, D22S274; Nature 359:794, 1992)の存在をPCR法により検出した。GenBank、EMBL等のデータベースより入手した塩基配列をもとに作製した遺伝子プライマーオリゴヌクレオチドの配列を記す。
PVALB(parvalbumin):5'-TGGTGGCTGAAAGCTAAGAA (配列番号9), 5'-CCAGAAGAATGGTGTCATTA(配列番号10)
MB(myoglobin):5'-TCCAGGTTCTGCAGAGCAAG (配列番号11), 5'-TGTAGTTGGAGGCCATGTCC(配列番号12)
DIA1(cytochrome b-5 reductase):5'-CCCCACCCATGATCCAGTAC (配列番号13),5'-GCCCTCAGAAGACGAAGCAG(配列番号14)
Igλ(immunoglobulin lambda):5'-GAGAGTTGCAGAAGGGGTGACT (配列番号15),5'-GGAGACCACCAAACCCTCCAAA (配列番号16)
ARSA(arylsulfatase A):5'-GGCTATGGGGACCTGGGCTG (配列番号17), 5'-CAGAGACACAGGCACGTAGAAG(配列番号18)
約0.1μgのゲノムDNAを鋳型として上記の10種のプライマーについてPCR増幅(Innisら,前記)を行なった。その結果、未照射の2株は全てのプライマー、ガンマ線照射した2株については一部のプライマーについて期待される長さの増幅産物が検出された。以上の結果を第2図に示す。第2図において、左側にヒト22番染色体のGバンド像に基づく模式的な染色体地図、また、位置が明らかになっているいくつかのマーカーについてはどのバンドに位置するかを示した(O'Brien, GENETIC MAPS, 6th edition, BOOK 5等)。遺伝子及び多型性マーカーの並び方は、現在までに入手出来る情報(Science, HUMAN GENETIC MAP, 1994, Nature Genetics, 7:22, 1994, Nature 359:794, 1992等)を基に、大まかな位置関係を示したもので、順序は必ずしも正確ではない。4種のG418耐性E14細胞株について、PCRにより期待される増幅産物が検出されたマーカーは黒四角で、検出されなかったマーカーを白四角で示した。下側にはFISH解析による観察結果を示した。A9/#22は、染色体供与細胞である。
(2)サザンブロット解析
サザンブロット解析はヒト特異的な繰り返し配列であるL1配列(ハプロイドゲノム当たり104〜105コピー存在、RIKEN DNA Bankより入手、Nucleic acids research,13;7813, 1985, pUK19A由来1.4kb EcoRI-BamHI 断片)をプローブとして、制限酵素(BglII、宝酒造製)処理を行なった約2μgのゲノムDNAに対して<Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc.,1994>に記された方法に従い行なった。その結果、各薬剤耐性株DNAにおいてヒトL1配列とハイブリダイズするバンドが多数検出された。未照射の2株についてはそのパターン及び、各バンドの濃度から推定できるヒト染色体DNAのマウスゲノムDNAに対する量比はA9/#22のそれと同等であった。ガンマ線照射株の全体のシグナル強度はA9/#22と比較した場合、PCR解析で示された欠失の程度と相関していた。
(3)フルオレッセンスインサイチューハイブリダイゼーション(FISH)
FISH解析は(松原ら, FISH実験プロトコール, 秀潤社, 1994)に記された方法に従い、ヒト22番染色体特異的プローブ(CHROMOSOME PAINTING SYSTEM, Cambio社)を用いて行なった。その結果、観察した分裂像のほとんどにおいて、E14/#22-9 はマウス染色体に転座した形で、他の3株は独立した染色体としてヒト22番染色体が検出された。
以上の実験により、得られたG418耐性株E14/#22-9 、E14/#22-10はヒト22番染色体の全てあるいは大部分を、E14/#22-14、E14/#22-25はその部分断片を保持することが確かめられた。
(実施例3)ヒト22番染色体を保持するES細胞からのキメラマウス作製
一般的なマウス胚取得、培養、ES細胞の胚への注入、仮親子宮への移植等の手技については、<相沢慎一, バイオマニュアルシリーズ8,ジーンターゲティング, 羊土社, 1995>に記された方法に従った。(実施例2)で得られ、ヒト22番染色体を保持していることが確認されたG418耐性ES細胞株E14/#22-9を凍結ストックより立ち上げ、C57BL/6×C3H F1雌マウス(日本クレア社)をC3H雄マウス(日本クレア社)と交配することにより取得した胚盤胞期胚に胚あたり10〜15個注入した。偽妊娠処理後2.5日の仮親ICRマウス(日本クレア社)の子宮に片側の子宮あたり約10個のES細胞注入胚を移植した。その結果を(第1表)に示す。
Figure 2007312792
計166個の注入胚を移植した結果29匹の子マウスが誕生した。キメラ個体は、毛色において宿主胚由来の野生色(濃茶)の中にE14細胞由来の薄灰色が認められるかどうかにより判定される。誕生した29匹のうち毛色に明らかに薄灰色の部分のある、すなわち、E14細胞の貢献の認められる個体は16匹であった。また、最高の貢献率はK22-22における約40%であった。
この結果より、ヒト22番染色体を保持するマウスES細胞株E14/#22-9はキメラ形成能、すなわちマウス個体の正常組織に分化する能力を保持していることが確認された。
(実施例4)ヒト22番染色体を保持するES細胞由来キメラマウス各組織におけるヒト染色体DNAの保持確認
(実施例3)の毛色による判定に加えて、尻尾より調製したゲノムDNAを鋳型としたPCR解析により、導入染色体の保持を確認した。誕生後3週以上を経たキメラマウスから<勝木元也, 発生工学実験マニュアル, 講談社サイエンティフィク, 1987> に記された方法に従い尻尾を取得し、Puregene DNA Isolation Kitを用いてゲノムDNAを抽出した。このゲノムDNAを鋳型として(実施例2)で使用した多型性プライマーのうちPVALB、D22S278を用いて増幅産物の確認を行なった。毛色に貢献の見られた個体のうち10匹について解析を行った結果、全ての個体において少なくともいずれかのプライマーによる増幅産物が確認された。
サザン解析は(実施例2)と同様に、ヒトL1配列をプローブとして用い、6個体のキメラマウス、1個体の非キメラマウスの2μgの尻尾ゲノムDNAに対して行なった。その結果、全てのキメラ個体において多数のヒトL1配列の存在が認められ、そのパターンはE14/#22-9と類似していた。マウスゲノムに対する量比は最も多いもので10%程度であった(第3図)。第3図において、各レーンとも、BglII消化した2μgのゲノムDNAを使用した。32P標識ヒトL1配列をプローブとし、シグナルはイメージアナライザーBAS2000(富士写真フイルム社)により検出した。右より、キメラマウス(K22-6,7,8,9,10,11,12 : 9は非キメラ)の尻尾由来ゲノムDNAおよびコントロールDNA(C: Cは、E14/#22-9 と E14ゲノムDNAを 1:9の重量比で混合したもの) のレーンである。左側にDNA分子量、右側に各キメラ個体のキメラ率を示した(- : 0%、+ : 〜10%、++ : 10〜30%)。
さらに、毛色に5%程度の貢献の見られたキメラ個体(K22-7)について脳、肝臓、筋肉、心臓、脾臓、胸腺、卵巣、腎臓からISOGEN(ニッポンジーン社)によりゲノムDNAを取得し、それぞれの組織について、(実施例2)で使用した遺伝子プライマーのうちMB、DIA1を用いてPCR解析を行なった。その結果2つのプライマーとも全ての組織において期待される増幅産物が確認された。DIA1プライマーによる結果を(第4図)に示す。PCR産物は2%アガロースゲルにて電気泳動した後、臭化エチジウム染色して検出した。第4図の各レーンは左からB:脳、L:肝臓、SM:骨格筋、H:心臓、Sp:脾臓、Th:胸腺、Ov:卵巣、K:腎臓、nc:非キメラマウス尻尾DNA(陰性コントロール)、pc:ヒト繊維芽細胞(HFL-1)DNA(陽性コントロール)を示す。
これらの結果より、E14/#22-9はマウス個体において種々の正常組織に貢献し、かつヒト22番染色体を保持していることが確かめられた。
(実施例5)ヒト22番染色体を保持するES細胞由来キメラマウスにおけるヒト遺伝子の発現
ヒト遺伝子発現確認のための試料としては、毛色に5%程度の貢献の見られた個体(K22-7)の尻尾を液体窒素にて凍結後粉砕したものを用いた。これは皮膚、骨、筋肉、血液等の組織の混合したものである。これよりISOGEN(ニッポンジーン)を使用して総RNAを抽出し、RT-PCR法により、ヒト-ミオグロビン(MB)、ヒト-チトクローム b5 レダクターゼ(DIA1)のmRNAの検出を行なった。RT-PCRは<Innisら, PCR実験マニュアル, HBJ出版局, 1991>に記された方法に従って行なった。逆転写反応用プライマーは、ランダムへキサマーオリゴヌクレオチド(終濃度100pmol、宝酒造製)を、逆転写酵素はBRL社製(スーパースクリプト)を使用した。cDNAを鋳型とした増幅に用いたプライマーを記す。
MB:5'-TTAAGGGTCACCCAGAGACT (配列番号19), 5'-TGTAGTTGGAGGCCATGTCC (配列番号20)
DIA1:5'-CAAAAAGTCCAACCCTATCA (配列番号21), 5'-GCCCTCAGAAGACGAAGCAG (配列番号22)
その結果、両遺伝子のmRNAに特異的な増幅産物が検出された(第5図)。RT-PCR産物は2%アガロースゲルにて電気泳動した後、臭化エチジウム染色して検出した。第5図において、M はマーカー(HindIII消化λDNA+HaeIII消化φX174DNA,宝酒造)、MBはヒトミオグロビン、DIA1はヒトチトクロームb5レダクターセ、WTは野生型C3Hマウスを示す。
さらに同じ個体(K22-7) について、脳、心臓、胸腺、肝臓、脾臓、腎臓、卵巣、骨格筋からISOGENを使用して総RNAを抽出し、上記の2種のプライマーにより各臓器のRT-PCRを行った。その結果、DIA1は全ての臓器で、MBは心臓と骨格筋のみで期待される増幅産物が確認された (第6図) 。ミオグロビンは筋細胞特異的に発現することが知られており(Bassel-Dubyら, MCB, 12:5024, 1992) 、この結果は導入したヒト染色体上の遺伝子がマウス個体で正常な組織特異的発現制御を受け得ることを示している。PCR産物は2%アガロースゲルにて電気泳動した後、臭化エチジウム染色して検出した。第6図において、各レーンは左からB:脳、H:心臓、Th:胸腺、L:肝臓、Sp: 脾臓、K:腎臓、Ov: 卵巣、SM: 骨格筋、M:マーカー(上記)を示す。MBの結果において観察される下方のバンドは非特異的産物と考えられる。
すなわち、導入されたヒト22番染色体はキメラマウスの正常組織において機能し得ることが確かめられた。
(実施例6)ヒト4番染色体またはその部分断片のES細胞への導入
染色体供与細胞として、(実施例1)で得られたヒト4番染色体を保持するマウスA9細胞株(以下A9/#4、という)を用いた。染色体受容細胞としてはマウスES細胞株E14(実施例2と同様)を用いた。ミクロセル融合実験およびG418耐性株の選択は(実施例2)と同様に行なった。薬剤耐性株の出現頻度はE14細胞107個あたり1〜2個であった。薬剤耐性株の凍結保存、ゲノムDNA取得は(実施例2)と同様に行なった。薬剤耐性株E14/#4-4、E14/#4-7、E14#4-11におけるヒト4番染色体またはその断片の保持は以下の(1)〜(3)により確認した。
(1)PCR解析(第7図)
薬剤耐性株ゲノムDNAを鋳型としてヒト4番染色体上に存在する遺伝子(O'Brien, Genetic Maps,6th edition, Book 5, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1993)及び多型性マーカー(Polymorphic STS Primer Pair BIOS社:D4S395, D4S412, D4S422, D4S413, D4S418, D4S426, F11; Nature 359:794, 1992 )の存在をPCR法により検出した。GenBank、EMBL等のデータベースより入手した塩基配列をもとに作製した遺伝子プライマーオリゴヌクレオチドの配列を記す。
HD(huntington disease):5'-TCGTTCCTGTCGAGGATGAA (配列番号23), 5'-TCACTCCGAAGCTGCCTTTC (配列番号24)
IL-2(interleukin-2):5'-ATGTACAGGATGCAACTCCTG (配列番号25), 5'-TCATCTGTAAATCCAGCAGT (配列番号26)
KIT(c-kit):5'-GATCCCATCGCAGCTACCGC (配列番号27), 5'-TTCGCCGAGTAGTCGCACGG (配列番号28)
FABP2(fatty acid binding protein 2, intestinal):5'-GATGAACTAGTCCAGGTGAGTT (配列番号29), 5'-CCTTTTGGCTTCTACTCCTTCA (配列番号30)
上記の11種のプライマーについてPCR増幅を行なった結果、3株共に、全て、あるいは一部のプライマーについて期待される増幅産物が確認された。E14/#4-4、E14/#4-7株のように一部領域に欠失がみられるものもあった。以上の結果を第7図に示す。第7図において、左側にヒト4番染色体のGバンド像に基づく模式的な染色体地図、また、位置が明らかになっているいくつかのマーカーについてはどのバンドに位置するかを示した(実施例2参照)。遺伝子及び多型性マーカーの並び方は、現在までに入手出来る情報(実施例2参照)を基に、大まかな位置関係を示したもので、順序は必ずしも正確ではない。3種のG418耐性E14細胞株について、PCRにより期待される増幅産物が検出されたマーカーは黒四角で、検出されなかったマーカーを白四角で示した。下側にはFISH解析による観察結果を示した。A9/#4は染色体供与細胞を示す。
(2)サザンブロット解析(第8図)
サザンブロット解析は(実施例2)と同様に、E14/#4-4、E14/#4-7より取得したゲノムDNAについてヒトL1配列をプローブとして行なった。その結果、両株DNAにおいてヒトL1配列とハイブリダイズするバンドが多数検出された。A9/#4と比較して、全体のシグナル強度はPCR解析で示された欠失の程度と相関していた。第8図において、各レーンとも、BglII消化した2μgのゲノムDNAを使用した。32P標識ヒトL1配列をプローブとし、シグナルはイメージアナライザーBAS2000(富士写真フイルム社)により検出した。第8図において、各レーンは、左から、1:A9/#4(染色体供与細胞)、2:A9/#4+A9(1:2)、3:A9/#4+A9(1:9)、4:A9、5:E14/#4-7、6:E14/#4-4を示す。2、3は2種のDNAを括弧内に示した比率で混合したものである。左側にDNA分子量を示した。
(3)フルオレッセンスインサイチューハイブリダイゼーション(FISH)
FISH解析は(実施例2)と同様に、ヒト4番染色体特異的プローブ(CHROMOSOME PAINTING SYSTEM, Cambio社)を用いて行なった。その結果、3株すべてのほとんどの分裂像において、ヒト4番染色体あるいはその部分断片が検出された。E14/#4-4はマウス染色体に転座した形で、他の2株は独立した染色体として存在していた。観察されるヒト染色体の相対的な大きさは、PCR解析の結果から推測されるそれと一致していた。
以上の実験により、得られたG418耐性株はヒト4番染色体の全てあるいはその部分断片を保持することが明かとなった。
(実施例7)ヒト4番染色体部分断片を保持するES細胞からのキメラマウス作製
ヒト4番染色体部分断片を保持していることが確認されたG418耐性ES細胞株E14/#4-4、E14/#4-7を凍結ストックより立ち上げ、(実施例3)と同様にして取得した胚盤胞期胚に胚あたり10〜15個注入した。偽妊娠処理後2.5日の仮親ICRマウス(日本クレア社)の子宮に片側の子宮あたり約10個のES細胞注入胚を移植した。
その結果を(第2表)に示す。
Figure 2007312792
計240個の注入胚を移植した結果13匹の子マウスが誕生した。キメラ個体は、毛色において宿主胚由来の野生色(濃茶)の中にE14細胞由来の薄灰色が認められるかどうかにより判定される。誕生した13匹のうち毛色に明らかに薄灰色の部分のある、すなわち、E14細胞の貢献の認められる個体は7匹であった。また、最高の貢献率はE14/#4-7由来の1個体において約15%であった。
この結果より、ヒト4番染色体部分断片を保持するマウスES細胞株E14/#4-4、E14/#4-7はキメラ形成能を保持している、すなわちマウス個体の正常組織に分化する能力を保持していることが確認された。
(実施例8)ヒト4番染色体部分断片を保持するES細胞由来キメラマウスにおけるヒト染色体DNAの保持及び、G418耐性遺伝子の発現確認
(1)PCR解析
(実施例7)で得られたキメラマウスのうちE14/#4-7由来の1個体(K#4-7-1:キメラ率約5%)、E14/#4-4由来の1個体(K#4-4-41:キメラ率約5%)について(実施例4)と同様に尻尾よりゲノムDNAを調製した。それを鋳型とし、(実施例6)で示した4番染色体解析用プライマーのうちE14/#4-7、E14/#4-4で検出された多型性マーカーF11についてPCR解析を行なった。その結果、2個体とも期待される増幅産物が検出された。
(2)サザン解析(第9図)
サザン解析は(実施例2)と同様、E14/#4-7由来の1個体(K#4-7-1:キメラ率約5%)についてヒトL1配列をプローブとして用い、2μgの尻尾由来ゲノムDNAに対して行なった。その結果、多数のヒトL1配列の存在が認められ、そのパターンはE14/#4-7と類似していた。マウスゲノムに対する量比はE14/#4-7の約10%程度であった。第9図において、各レーンとも、BglII消化した2μgの尻尾由来ゲノムDNAを使用した。32P標識ヒトL1配列をプローブとし、シグナルはイメージアナライザーBAS2000(富士写真フイルム社)により検出した。左側にDNA分子量を示した。各レーンは左から1:K#4-7-1、2:ブランク、3:E14/#4-7を示す。
(3)尻尾由来繊維芽細胞のG418耐性試験
キメラマウスのうち、E14/#4-7由来の1個体(K#4-7-1:キメラ率約5%)、E14/#4-4由来の1個体(K#4-4-41:キメラ率約5%)について尻尾から以下のように繊維芽細胞を調製した。DNA調製(実施例4)と同様にキメラマウスの尻尾を5mm〜10mm切断し、PBS/1mM EDTAで数回洗浄した後、メスで切れ込みをいれて表皮を除去し、内部の組織をメスで細かく切り刻む。組織細片を5mlのPBS/1mM EDTAをいれたチューブに移し、30分〜1時間室温静置する。その後、1mlのPBS/EDTAを残して上清を取り除き、1mlの0.25%トリプシン/PBSを加え、5〜10分間室温でタッピングあるいはピペッティングしながら組織をよくほぐす。1000rpm,10分間遠心し、沈殿を2mlのDMEM(10%FCS)に懸濁し、35mmシャーレに播種する。7〜10日の培養後、トリプシン処理により細胞をシャーレからはがし、シャーレあたり約104個の細胞を35mmシャーレ2枚に播種し、うち1枚に終濃度400μg/mlのG418を加え、5〜7日間培養し、それぞれのシャーレの生細胞を観察する。この条件で、野生型ICRマウス由来の繊維芽細胞は、G418存在下でほぼ100%死滅する。この結果、2個体共G418耐性の繊維芽細胞の存在が認められた。
これらの結果より、E14/#4-7、E14/#4-4はマウス個体において種々の正常組織に貢献し、かつヒト4番染色体部分断片を保持していることが確認された。
(実施例9)マウスES細胞へのヒト14番染色体またはその断片の導入
染色体供与細胞として、(実施例1)で得られたヒト14番染色体を保持するマウスA9細胞株(以下A9/#14、という)を用いた。染色体受容細胞としてはマウスES細胞株TT2(ライフテックオリエンタル社より購入、Yagiら,Analytical Biochem., 214:70, 1993)を用いた。TT2の培養法は<相沢慎一, バイオマニュアルシリーズ 8, ジーンターゲティング, 羊土社, 1995>に記された方法に従い、栄養細胞はマイトマイシンC(シグマ)処理したG418耐性初代培養細胞(ライフテックオリエンタル社より購入)を用いた。ミクロセル融合実験およびG418耐性株の選択は(実施例2)と同様に行なった。薬剤耐性株の出現頻度はTT2細胞107個あたり3〜6個であった。薬剤耐性株の凍結保存、ゲノムDNA取得は(実施例2)と同様に行なった。
ヒト14番染色体の断片化はミクロセルにガンマ線照射することにより行なった(Koiら, Science, 260:361, 1993)。約108個のA9/#14より取得したミクロセルを5mlのDMEMに懸濁し、ガンマセル40(前記)により、氷上で30Gyのガンマ線を照射した(1.2Gy/分×25分)。ガンマ線照射したミクロセルを未照射ミクロセルと同様に融合、薬剤耐性株選抜を行なった結果、薬剤耐性株の出現頻度はTT2細胞107個あたり3個であった。薬剤耐性株については(実施例2)と同様にして凍結保存、DNA取得を行なった。
ガンマ線未照射ミクロセル移入によるG418耐性株1-4、1-5、ガンマ線(30Gy)照射ミクロセル移入によるG418耐性株3-1、3-2計4株におけるヒト14番染色体または部分断片の保持は以下の(1)、(2)により確認した。
(1)PCR解析(第10図)
薬剤耐性株ゲノムDNAを鋳型としてヒト14番染色体上に存在する遺伝子(O'Brien, Genetic Maps,6th edition, Book 5, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1993 )及び多型性マーカー(Polymorphic STS Primer Pair BIOS社:D14S43, D14S51, D14S62, D14S65, D14S66, D14S67, D14S72, D14S75, D14S78, D14S81, PCI ;Nature 359:794, 1992; Nature Genetics, 7:22, 1994)の存在をPCR法により検出した。GenBank、EMBL等のデータベースより入手した塩基配列をもとに作製した遺伝子プライマーオリゴヌクレオチドの配列を記す。
NP(nucleoside phosphorylase):5'-ATAGAGGGTACCCACTCTGG (配列番号31), 5'-AACCAGGTAGGTTGATATGG (配列番号32)
TCRA(T-cell receptor alpha):5'-AAGTTCCTGTGATGTCAAGC (配列番号33), 5'-TCATGAGCAGATTAAACCCG (配列番号34)
MYH6(myosin heavy chain cardiac):5'-TGTGAAGGAGGACCAGGTGT (配列番号35), 5'-TGTAGGGGTTGACAGTGACA (配列番号36)
IGA2(immunoglobulin alpha-2 constant):5'-CTGAGAGATGCCTCTGGTGC (配列番号37), 5'-GGCGGTTAGTGGGGTCTTCA (配列番号38)
IGG1(immunoglobulin gamma-1 constant):5'-GGTGTCGTGGAACTCAGGCG (配列番号39), 5'-CTGGTGCAGGACGGTGAGGA (配列番号40)
IGM(immunoglobulin mu constant):5'-GCATCCTGACCGTGTCCGAA (配列番号41), 5'-GGGTCAGTAGCAGGTGCCAG (配列番号42)
IGVH3(immunoglobulin heavy variable-3 ):5'-AGTGAGATAAGCAGTGGATG (配列番号43), 5'-GTTGTGCTACTCCCATCACT (配列番号44)
薬剤耐性株4株のゲノムDNAを鋳型として、上記の18種のプライマーについて(実施例2)同様にPCR増幅を行なった結果、全て、あるいは一部のプライマーについて期待される増幅産物が確認された。ガンマ線照射したミクロセルを用いて得られた薬剤耐性株3-1、3-2は、14番染色体の一部領域を欠失している傾向が認められた。また、未照射ミクロセルを用いた場合でも1-4株のごとく欠失がみられるものもあった。以上の結果を第10図に示す。第10図において、左側にヒト14番染色体のGバンド像に基づく模式的な染色体地図、また、位置が明らかになっているいくつかのマーカーについてはどのバンドに位置するかを示した(実施例2参照)。遺伝子及び多型性マーカーの並び方は、現在までに入手出来る情報(実施例2参照)を基に、大まかな位置関係を示したもので、順序は必ずしも正確ではない。4種のG418耐性TT2細胞株について、PCRにより期待される増幅産物が検出されたマーカーは黒四角で、検出されなかったマーカーを白四角で示した。A9/#14は染色体供与細胞である。右端には実施例11(1)の結果が示されている。
(2)フルオレッセンスインサイチューハイブリダイゼーション(FISH)
FISH解析は(松原ら, FISH実験プロトコール、秀潤社、1994)に記された方法に従い、ヒト14番染色体特異的プローブ(CHROMOSOME PAINTING SYSTEM, Cambio社)を用いて行なった。その結果、4株すべてについてほとんどの分裂像に、ヒト14番染色体あるいはその部分断片が、独立した染色体として観察された。観察されるヒト染色体の相対的な大きさは、PCR解析の結果から推測されるそれと一致していた。
以上の実験により、得られたG418耐性株1-4、1-5、3-1、3-2はヒト14番染色体の全てあるいはその部分断片を保持することが確かめられた。
(実施例10)ヒト14番染色体断片を保持するES細胞からのキメラマウス作製
(実施例9)で得られ、ヒト14番染色体を保持していることが確認されたG418耐性ES細胞株4株(1-4、3-1、3-2、1-5)を凍結ストックより立ち上げ、 ICRあるいはMCH(ICR)(日本クレア社)雄雌マウスの交配により得られた8細胞期胚に胚あたり8〜10個注入した。ES培地(実施例9)で一晩培養して胚盤胞に発生させた後、偽妊娠処理後2.5日の仮親ICRマウス(日本クレア社)の子宮に片側の子宮あたり約10個のインジェクション胚を移植した。その結果を(第3表)に示す。
Figure 2007312792
計494個の注入胚を移植した結果、64匹の子マウスが誕生した。キメラ個体は、毛色において宿主胚(ICR)由来の白色の中にTT2細胞由来の野生色(濃茶)が認められるかどうかにより判定される。誕生した64匹のうち毛色に明らかに野生色の部分のある、すなわち、ES細胞の貢献の認められる個体は8匹であった。また、最高の貢献率は1-4由来の1個体における約80%であった。
この結果より、ヒト14番染色体またはその断片を保持するG418耐性ES細胞株(1-4、1-5、3-1、3-2)はキメラ形成能を保持している、すなわちマウス個体の正常組織に分化する能力を保持していることが確認された。
(実施例11)ヒト14番染色体断片を保持するES細胞由来キメラマウスにおけるヒト14番染色体断片の保持確認
(実施例10)で得られたキメラマウスにおけるヒト14番染色体部分断片の保持は以下の(1)〜(3)により確認した。
(1)各種組織由来DNAを用いたPCR解析
キメラマウスのうち3-1由来の1個体(K3-1-1:キメラ率約25%)について(実施例4)と同様に尻尾よりゲノムDNAを調製した。それを鋳型とし、(実施例9)で示した14番染色体解析用プライマーのうち3-1で検出された14種全てについてPCR解析を行なった。その結果、14種すべてについて期待される増幅産物が検出された(第10図)。
さらに、同じ個体(K3-1-1)について脳、腎臓、脾臓、心臓、肝臓、胸腺からPuregene DNA Isolation KitによりゲノムDNAを取得し、それぞれの組織について、IGMプライマー(実施例9)を用いたPCR解析を行なった。その結果全ての組織において期待される増幅産物が確認された(第11図)。PCR産物は2%アガロースゲルにて電気泳動した後、臭化エチジウム染色して検出した。第11図において、各レーンは左からB:脳、K:腎臓、Sp:脾臓、H:心臓、L:肝臓、Th:胸腺、pc:ヒト繊維芽細胞(HFL-1)DNA (陽性コントロール) 、nc:非キメラマウス尻尾DNA (陰性コントロール) 、M:マーカー(HindIII消化λDNA+HaeIII消化φX174DNA,宝酒造)を示す。
(2)尻尾由来繊維芽細胞のG418耐性試験
キメラマウスのうち、3-2由来の2個体(K3-2-1:キメラ率約25%,K3-2-3:キメラ率約50%)、1-4由来の1個体(K1-4-1:キメラ率約80%)について尻尾から以下のように繊維芽細胞を調製した。DNA調製(実施例4)と同様に3〜6週令のキメラマウスの尻尾を5mm〜10mm切断し、PBS/1mM EDTAで数回洗浄した後、メスで切れ込みをいれて表皮を除去し、内部の組織をメスで細かく切り刻む。組織細片を5mlのPBS/1mM EDTAをいれたチューブに移し、30分〜1時間室温静置する。その後、1mlのPBS/EDTAを残して上清を取り除き、1mlの0.25%トリプシン/PBSを加え、5〜10分間室温でタッピングあるいはピペッティングしながら組織をよくほぐす。1000rpm,10分間遠心し、沈殿を2mlのDMEM(10%FCS)に懸濁し、35mmシャーレに播種する。7〜10日の培養後、トリプシン処理により細胞をシャーレからはがし、シャーレあたり約104個の細胞を35mmシャーレ4枚に播種し、うち2枚に400μg/mlのG418を加え、5〜7日間培養し、それぞれのシャーレの生胞数をカウントする。この条件で、野生型ICRマウス由来の繊維芽細胞は、G418存在下でほぼ100%死滅する。非選択培地での生細胞数に対する選択培地での生細胞数の割合は、G418耐性繊維芽細胞の増殖速度が2つの条件で同等であると仮定すれば、G418耐性ES細胞株由来繊維芽細胞の繊維芽細胞集団における貢献率を反映していると考えられる。この結果、(第12図)に示した通り、3個体共G418耐性の繊維芽細胞の存在が認められた。第12図において、耐性率はそれぞれの個体について2組の選択/非選択35mmシャーレから得られた値を平均した。ICR は野生型ICRマウスを示す。
(3)尻尾由来G418耐性繊維芽細胞のFISH解析
(実施例2)と同様な方法で、上記(2)で得られたG418耐性繊維芽細胞(K3-2-3,K1-4-1由来)のFISH解析を行なった。プローブはHFL-1細胞(実施例1)より抽出したヒト全DNAをFITC標識した(松原ら, FISH実験プロトコール, 秀潤社, 1994)ものを用いた。その結果、2個体共、ほとんどの分裂像に独立したヒト染色部分断片が観察された。
これらの結果より、ヒト14番染色体部分断片を保持したTT2細胞株はマウス個体において種々の正常組織に貢献し、かつヒト14番染色体部分断片を保持していることが確かめられた。
(実施例12)ヒト2番染色体部分断片のES細胞への導入
染色体供与細胞として、(実施例1)で得られたヒト2番染色体部分断片を保持するマウスA9細胞W23(以下A9/#2 W23、という)を用いた。染色体受容細胞としてはマウスES細胞株TT2(実施例9)を用いた。ミクロセル融合実験およびG418耐性株の選択は(実施例2)と同様に行なった。薬剤耐性株の出現頻度はTT2細胞107個あたり1〜3個であった。薬剤耐性株の凍結保存、ゲノムDNA取得は(実施例2)と同様に行なった。薬剤耐性株5-1、5-2、5-3におけるヒト2番染色体部分断片の保持は以下の(1)、(2)により確認した。
(1)PCR解析
薬剤耐性株ゲノムDNAを鋳型としてヒト2番染色体上に存在する遺伝子(Genetic Maps,前記)のうち、染色体供与細胞A9/#2 W23において検出されたCκ、FABP1の存在をPCR法により検出した。
各プライマーについてPCR増幅を行なった結果、3株共に、両方のプライマーについて期待される増幅産物が確認された。
(2)フルオレッセンスin situハイブリダイゼーション(FISH)
FISH解析は(実施例2)と同様な方法で、ヒト2番染色体特異的プローブ(CHROMOSOME PAINTING SYSTEM, Cambio社)を用いて行なった。その結果、3株すべてのほとんどの分裂像において、ヒト2番染色体部分断片が独立した染色体として検出された。その大きさはA9/#2 W23で観察されたものと同等であった。
以上の実験により、得られたG418耐性株はヒト2番染色体部分断片を保持することが確かめられた。
(実施例13)ヒト2番染色体断片を保持するES細胞からのキメラマウス作製
(実施例12)で得られ、ヒト2番染色体部分断片を保持していることが確認されたG418耐性ES細胞株5-1を凍結ストックより立ち上げ、 ICRあるいはMCH(ICR)(日本クレア社)雄雌マウスの交配により得られた8細胞期胚に胚あたり10〜12個注入した。ES培地(実施例9)で一晩培養して胚盤胞に発生させた後、偽妊娠処理後2.5日の仮親ICRマウス(日本クレア社)の子宮に片側の子宮あたり約10個のインジェクション胚を移植した。
キメラ作製の結果を(第4表)に示す。
Figure 2007312792
計264個の注入胚を移植した結果、51匹の子マウスが誕生した。キメラ個体は、毛色において宿主胚(ICR)由来の白色の中にTT2細胞由来の野生色(濃茶)が認められるかどうかにより判定される。誕生した51匹のうち毛色に明らかに野生色の部分のある、すなわち、ES細胞の貢献の認められる個体は18匹であった。また、最高の貢献率は約80%であった。
この結果より、ヒト2番染色体部分断片を保持するG418耐性ES細胞(5-1)はキメラ形成能を保持している、すなわちマウス個体の正常組織に分化する能力を保持していることが確認された。
(実施例14)ヒト14番染色体断片導入キメラマウス血清におけるヒト抗体重鎖の検出
血清中のヒト抗体濃度をエンザイムリンクドイムノソルベントアッセイ(ELISA)を用いて測定した。ELISA は以下に記載されている方法に従った。富山・安東、単クローン抗体実験マニュアル、講談社、1987; 安東・千葉、単クローン抗体実験操作入門、講談社、1991; 石川、超高感度酵素免疫測定法、学会出版センター、1993; Ed Harlow and David Lane, Antibodies A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988; A. Doyle and J.B. Griffiths, Cell & Tissue Culture: Laboratory Procedures, John Wiley & Sons Ltd., 1996 。これらの文献に記載の方法を参考にして、測定系によっては反応時間や温度を4 ℃で終夜行うなどの改良を行った。測定しようとするヒト免疫グロブリンに対する抗体あるいは抗原を、0.5 から10μg/ml程度に(100から5000倍) に希釈し、ELISA プレートを4 ℃で一晩コーティングした。血清試料の測定では、ブロッキング、試料および標識抗体の希釈に5%マウス血清 (シグマ、M5905)を添加したPBSを、ハイブリドーマ培養上清の測定には1%牛胎児血清を添加したPBSを用いた。20倍にキメラマウス血清を希釈する場合にはPBSを用いて希釈した。コーティングしたプレートを洗浄した後、ブロッキングを1時間以上行った。プレートを洗浄後、試料を加え30分以上インキュベートした。プレート洗浄後100 から5000倍に希釈した酵素標識抗ヒト免疫グロブリン抗体を加えて、1時間以上インキュベートした後、プレートを洗浄し基質液を加えて発色させた。また測定系によって、基本的には同じ操作で、ビオチン標識した抗体を用い、プレート洗浄後これにアビジン−酵素複合体を加えてインキュベートした後洗浄し基質液を加えた。マイクロプレートリーダー(バイオテック、EL312e) で吸光度を測定した。
生後29日から35日のキメラマウス(実施例10、K3-1-2, K3-2-2, K3-2-3)より採血しELISAで解析した。50mMの炭酸−炭酸水素バッファーpH9.6で希釈した抗ヒトIgMマウスモノクローナル抗体(シグマ,I6385)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、マウス血清(シグマ、M5905)を加えたPBSで希釈した血清試料を加えた。次いでペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgMヤギ抗体(Tago,2392)を加えてインキュベートした後、ABTS基質(Kirkegaard & Perry Laboratories Inc., 506200)の添加により酵素活性を405nmの吸光度で評価した。精製されたヒトIgM抗体(オルガノン・テクニカ, 6001-1590 )またはヒトIgG抗体 (シグマ, I4506)を標準とした。標準はマウス血清を添加したPBSで段階的に希釈した。またヒトIgG測定には抗ヒトIgGヤギ抗体(シグマ, I3382)をプレートに固定し、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgGヤギ抗体(シグマ, A0170)で検出した。その結果を(第5表)に示す。ヒトIgMとIgGは共に検出された。
また生後27日、34日、41日の3回にわたりヒト14番染色体断片を保持したキメラマウス(実施例10、K3-1-1, K3-2-1)に、PBSに溶解したヒト血清アルブミン(HSA,シグマ,A3782)2mlをアジュバント(MPL+TDM Emulsion, RIBI Immunochem Reseach Inc.)と混合しその0.25mg/ml を0.2 mlを免疫した。このキメラマウス血清も同様にELISAによって解析した。その結果を(第13図、第14図)に示す。結果は、HSAで免疫したキメラマウス血清中のヒト抗体濃度は免疫後上昇し、個体K3-1-1ではヒトIgM18μg/mlとIgG2.6μg/mlが免疫後17日目の血清中に検出された。ヒト染色体を導入していないマウスの血清ではヒト抗体の力価は有意ではなかった。
Figure 2007312792
(実施例15)ヒト14番染色体導入キメラマウスからのヒト抗体重鎖産生ハイブリドーマ取得
(実施例14)においてヒトアルブミンで免疫したキメラマウス(K3-1-1, 実施例14) から生後44日目に脾臓を取り出し、ミエローマ細胞と細胞融合し、ハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマの作製法は〈安東、単クローン抗体実験操作入門、講談社サイエンティフィク, 1991〉に記された方法に従い、ミエローマ細胞としては、P3X63-Ag.8.653(大日本製薬より購入、05-565)を使用した。96穴プレート10枚にまき込み、1週間培養後培養上清をELISA法で解析した。ELISA法は抗ヒトIgMマウスモノクローナル抗体(シグマ、I6385)をプレートに固定化して実施例14と同様に行ない、陽性のクローンを6個得た。またHSAを抗原とし50mMの炭酸−炭酸水素バッファーpH9.6で濃度5μg/mlの溶液とし、ELISAプレートの全ウエルに100μlづつ分注した。ペルオキシダーゼで標識した抗ヒトIgA+IgG+IgMヤギ抗体(Kirkegaard & Perry Laboratories Inc., 04-10-17)を用いて検出した。プレート10枚中陽性のクローンを1つ確認した。このクローンは6個のヒトIgM陽性クローンのうちの1つであった。このクローン(H4B7)をさらに培養し、培養上清を希釈しHSAを抗原として上述のようにペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgMヤギ抗体(Tago,2392)を用いてELISAを行なったところ、培養上清の希釈率の増加にともなって吸光度の減少が認められた。一方ヒトIgM(オルガノン・テクニカ, 6001-1590)を培地によって2μg/mlに希釈した試料では希釈率によらず吸光度は低かった。これはハイブリドーマH4B7が生産する抗体がHSAに特異性のある抗体であることを示唆するものである(第15図)。第15図において、横軸は培養上清試料の希釈率を縦軸は405nmにおける吸光度を示した。
(実施例16)G418耐性マーキングされたヒト2番染色体断片のピューロマイシン耐性による再マーキング
G418耐性で標識されたヒト2番染色体断片を保持するA9細胞(W23)( 実施例1、第1図参照) を100mmシャーレでG418(800μg/ml)を含む選択培地(10%FBS、DMEM)で培養した。ピューロマイシン耐性遺伝子を含むプラスミドpPGKPuro(WHITEHEAD INSTITUTE,Dr.Peter W.Lairdから分与)をトランスフェクション前に制限酵素SalI(宝酒造)で線状化した。細胞をトリプシン処理し、5x106 個/mlとなるようにダルベッコのリン酸バッファー(PBS)に懸濁してから10μgDNA存在下でジーンパルサー(バイオラッド)を用いてエレクトロポレーション(実施例1参照)を行なった。25μFの容量で1000Vの電圧を4mm長のエレクトロポレーションセル (実施例1) を用いて室温で印加した。エレクトロポレーションした細胞を100mmシャーレ3〜6枚に播種した。1日後に10μg/mlのピューロマイシン(シグマ,P-7255)およびG418(800μg/ml)を含む二重選択培地と置き換えた。2〜3週間後に生じたコロニー200個程度を一つの集団としてまとめた。この細胞を3つの集団についてそれぞれ25cm2フラスコ2〜3本中で培養し、ミクロセルを形成させ25cm2フラスコで培養したマウスA9細胞と実施例1と同様に融合した。100mmシャーレ2枚に移しG418とピューロマイシンを含む上記の二重選択培地で培養し、3つの集団のうち1つの集団から2つの二重薬剤耐性クローンが得られた。このクローンではヒト2番染色体断片にピューロマイシン耐性マーカーが導入された可能性が高い。
(実施例17)ヒト染色体導入ES細胞における導入ヒト染色体倍加
G418耐性遺伝子でマーキングされたヒト14番染色体断片を保持するES細胞株(E14/#14-36)を、高濃度のG418を添加した培地中で培養することにより、ヒト染色体が倍化したES細胞のクローンを取得した(バイオマニュアルシリーズ8、ジーンターゲティング、羊土社、1995)。G418耐性マウス初代細胞(ライフテックオリエンタルより購入)をマイトマイシン処理することなく100mmシャーレに播種し栄養細胞とした。この100mmシャーレにE14/#14-36を播種し、半日後G418濃度16mg/mlの培地と交換した。1〜2日毎に培地交換し1週間後にG418濃度を10mg/mlとして培養を続け、生じたコロニーの中から15個を取り出し培養し、染色体をヒト14番特異的プローブ(実施例9参照)を用いてFISH解析した。結果として8クローンでヒト14番染色体断片が倍化していた。
(実施例18)ヒト2番染色体部分断片及び14番染色体部分断片を同時に保持するマウスES細胞株の取得
(実施例16)において取得した二重薬剤耐性クローンのうちPG1をミクロセル供与細胞、野性型A9細胞を受容細胞としたミクロセル移入実験により、PG1が保持するヒト2番染色体部分断片がさらにピューロマイシン耐性遺伝子によりマーキングされていることを確認した。ミクロセル取得及びA9細胞との融合は(実施例1)と同様に行なった。その結果、ミクロセル融合10日後に計59個のG418耐性コロニーが出現した。これらのコロニーについて8μg/mlのピューロマイシンを含む培地に交換後、さらに3日間培養したところ、45個(76%)のコロニーが生存した。ミクロセル法においては、1つの受容細胞に、多くの場合1本あるいは少数の染色体のみが移入されることから、両耐性遺伝子が高率に同時に移入されることは、すなわち、PG1が保持するG418耐性標識されたヒト2番染色体部分断片がピューロマイシン耐性遺伝子によりマーキングされていることを示している。さらに、ヒト2番染色体部分断片上の各マーカー遺伝子検出のため、A9/#2 W23(G418耐性のみ:実施例16)についてはpSTneoB(実施例1)、PG1についてはpPGKPuro(実施例16)をプローブとしたFISH解析を行なった(松原ら, FISH実験プロトコール, 秀潤社, 1994)。その結果、A9/#2 W23では(実施例12)で確認されたヒト2番染色体部分断片のそれぞれの姉妹染色分体上に1個づつ、計2個のシグナルが観察された。これは、ヒト2番染色体部分断片上の1箇所にpSTneoBが挿入されていることを示す。また、PG1では同等の大きさの染色体断片上に計4個のシグナルが観察された。pSTneoBとpPGKPuroはベクター部分で相同の配列を持つので、pPGKPuroプローブではpSTneoBも検出される。すなわち、PG1で観察された4個のシグナルのうち、2個はpSTneoB、一方の2個はpPGKPuro由来のシグナルと考えられる。この結果より、PG1が保持するヒト2番染色体部分断片は、G418耐性、ピューロマイシン耐性両者によりマーキングされていることが確認された。
ヒト2番染色体部分断片、14番染色体部分断片を同時に保持するマウスES細胞取得のため、染色体供与細胞としてこのPG1細胞株を用いた。染色体受容細胞としてはすでにヒト14番染色体部分断片を保持しているG418耐性TT2細胞株1-4(実施例9)を用いた。ミクロセル融合実験およびピューロマイシン耐性株の選択は0.75μg/mlのピューロマイシン濃度で他は(実施例9)のG418耐性株選択の場合と同様に行なった。この結果出現したピューロマイシン耐性株の出現頻度は1-4細胞107個あたり3〜7個であった。これらのピューロマイシン耐性株は300μg/mlのG418存在下でも増殖することからG418耐性も同時に保持していることが確認された。二重薬剤耐性株の凍結保存、ゲノムDNA取得は(実施例2)と同様に行なった。ヒト2番染色体部分断片及び、ヒト14番染色体部分断片の保持は二重薬剤耐性株PG5、PG15、PG16については以下の(1)により、PG15についてはさらに(2)により確認した。
(1)PCR解析
二重薬剤耐性株ゲノムDNAを鋳型としてヒト2番、14番染色体上に存在する遺伝子(Genetic Maps,前記)のうち、2番染色体については(実施例12;A9/#2 W23)、14番染色体については(実施例9;TT2/#14 1-4)で存在が確認されている各プライマーについてPCR増幅を行なった結果、3株共に、全てのプライマーについて期待される増幅産物が確認された。
(2)フルオレッセンスin situハイブリダイゼーション(FISH)
FISH解析は(実施例11)と同様に、ヒト染色体断片が確認された。大きい方は(実施例9;TT2/#14 1-4)でヒト14番染色体特異的プローブにより確認された部分断片と、小さい方は(実施例12;TT2/#2 5-1)でヒト2番染色体特異的プローブにより確認された部分断片と同等の大きさであった。(第16図)にその結果を示す。図中輝度の低い染色体はマウス由来のもの、FITCの蛍光により輝度の高い大小2つの染色体断片(矢印にて指示)はヒト由来のものであり、それぞれヒト14番、2番染色体部分断片と考えられる。
以上の実験により、得られた二重耐性ES細胞株はヒト2番染色体部分断片、14番染色体部分断片を同時に保持することが確かめられた。
(実施例19)ヒト2番染色体部分断片及び14番染色体部分断片を同時に保持するマウスES細胞株からのキメラマウス作製
(実施例18)で得られ、ヒト2番染色体部分断片及び14番染色体部分断片を保持していることが確認されたG418、ピューロマイシン二重耐性TT2細胞株PG5、PG15、PG16を凍結ストックより立ち上げ、 ICRまたはMCH(ICR)(日本クレア社)雄雌マウスの交配により得られた8細胞期胚に胚あたり10〜12個注入した。ES細胞用培地(実施例9)で一晩培養して胚盤胞に発生させた後、偽妊娠処理後2.5日の仮親ICRマウス(日本クレア社)の子宮に片側の子宮あたり約10個のインジェクション胚を移植した。
キメラ作製の結果を(第6表)に示す。
Figure 2007312792
計551個の注入胚を移植した結果、73匹の子マウスが誕生した。キメラ個体は、毛色において宿主胚(ICR)由来の白色の中にTT2細胞由来の野生色(濃茶)が認められるかどうかにより判定される。誕生した73匹のうち毛色に明らかに野生色の部分のある、すなわち、ES細胞の貢献の認められる個体は23匹であった。
この結果より、ヒト2番染色体部分断片及び14番染色体部分断片を保持するES細胞株(PG5、PG15、PG16)はキメラ形成能を保持している、すなわちマウス個体の正常組織に分化する能力を保持していることが確認された。
(実施例20)ヒト2番染色体部分断片及び14番染色体部分断片を同時に保持するES細胞由来キメラマウス血清におけるヒト抗体の検出
(実施例19)で作製したキメラマウスのうち、KPG-15(9週齢;PG5由来、キメラ率10%)、KPG-18(5週齢;PG5由来、キメラ率10%)の2匹に対して、PBSに溶解したヒト血清アルブミン(HSA、シグマ、A3782)とアジュバント(MPL+TDM Emulsion、RIBI Immunochem Reseach Inc.)とを混合して0.25mg/mlのHSA溶液を調整し0.2mlを免疫した。免疫直前、及び8日後のキメラマウスより採血し、血清中のヒト抗体μ鎖およびヒト抗体κ鎖をELISA法を用いて検出した (実施例14参照)。50mMの炭酸ー炭酸水素バッファーpH9.6で希釈した抗ヒト抗体κ鎖ヤギ抗体(VECTOR LABORATORIES,INC.、AI-3060)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、血清試料を加え、次いでビオチン標識抗ヒト抗体κ鎖ヤギ抗体(VECTOR LABORATORIES,INC.、BA-3060)を加えてインキュベートしさらにビオチン化ワサビペルオキシダーゼとアビジンDHの複合体(VECTOR LABORATORIES,INC.、Vectastain ABCキットPK4000)を加えてインキュベートした後、ペルオキシダーゼ基質として3,3',5,5'-テトラメチルベンチジン(TMBZ、住友ベークライト、ML-1120T)の添加により酵素活性を450nmの吸光度で評価した。精製されたκ鎖を持つ濃度既知のヒトIgG(シグマ、I-3889)を標準としマウス血清を添加したPBSで段階的に希釈した。μ鎖については50mMの炭酸−炭酸水素バッファーpH9.6で希釈した抗ヒトμ鎖マウスモノクローナル抗体(シグマ、I-6385)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、血清試料を加え、次いでペルオキシダーゼ標識抗ヒトμ鎖マウス抗体(The Binding Site Limited、 MP008)を加えてインキュベートした後、TMBZ(住友ベークライト、ML-1120T)の添加により酵素活性を450nmの吸光度で評価した。精製されたμ鎖を持つ濃度既知のヒトIgM(オルガノン・テクニカ、6001-1590)を標準としマウス血清(シグマ、M5905)を添加したPBSで段階的に希釈した。その結果、2個体とも免疫前においてヒト抗体μ鎖、κ鎖両者が検出され、その血清中濃度は、免疫後上昇した(第7表、第8表)。
Figure 2007312792
Figure 2007312792
この結果より、ヒト2番染色体部分断片及び14番染色体部分断片を保持するES細胞由来キメラマウスにおいてヒト抗体重鎖、軽鎖遺伝子は機能することが確認された。
(実施例21)ヒト14番染色体断片導入キメラマウス血清における抗HSAヒト抗体
γ鎖の検出
(実施例10)と同様にして作製したヒト14番染色体断片を保持したキメラマウス(K9、K11;共にTT2細胞株3-2由来、キメラ率はそれぞれ50%、30%)に対して、生後79日、93日、107日、133日の4回(K9)、または生後74日、88日、111日(K11)の3回にわたり(実施例20)と同様にHSAを免疫した。このキメラマウス血清中のヒト血清アルブミンに対するヒトγ鎖を含む抗体をELISA法によって検出した (実施例14参照) 。50mMの炭酸ー炭酸水素バッファーpH9.6で希釈したHSA(シグマ、A 3782)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、試料を加え、次いでペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgGマウス抗体(ファーミンジェン、08007E)を加えてインキュベートした後、ペルオキシダーゼ基質としてOーフェニレンジアミン(OPD、住友ベークライト、ML-1130O)の添加により酵素活性を490nmの吸光度で評価した。HSAで免疫したキメラマウス血清中の抗HSAヒトIgGの力価は免疫後上昇した。対照ICRマウスでは、HSA免疫後の抗HSAヒトIgGの力価はバックグランドレベルであった。結果を(第17図)に示した。第17図において横軸はキメラマウスにHSAを免疫してからの日数を、縦軸は490nmにおける吸光度を示した。この結果より、ヒト14番染色体部分断片を保持するキメラマウスにおいて、HSA抗原刺激に対して抗原特異的ヒトIgGの抗体価上昇が起こることが確認された。
(実施例22)ヒト22番染色体断片導入キメラマウス血清におけるヒト抗体λ鎖の検出
9ヶ月齢のキメラマウス(実施例3、K22-7;キメラ率10%)より採血し、血清中のヒト抗体λ鎖をELISA法を用いて検出した (実施例14参照) 。50mMの炭酸−炭酸水素バッファーpH9.6で希釈した抗ヒト抗体λ鎖ヤギ抗体(VECTOR LABORATORIES,INC.、AI-3070)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、血清試料を加え、次いでビオチン標識抗ヒト抗体λ鎖ヤギ抗体(VECTOR LABORATORIES,INC.、BA-3070)を加えてインキュベートしさらにビオチン化ワサビペルオキシダーゼとアビジンDHとの複合体(VECTOR LABORATORIES,INC.、Vectastain ABCキットPK4000)を加えてインキュベートした後、ペルオキシダーゼ基質としてTMBZ(住友ベークライト、ML-1120T)の添加により酵素活性を450nmの吸光度で評価した。精製されたλ鎖を持つ濃度既知のヒトIgG(シグマ、I-4014)を標準としマウス血清を添加したPBSで段階的に希釈した。180ng/mlのヒトIgGに相当する濃度のヒト抗体λ鎖がキメラマウス中に検出された。この結果より、ヒト22番染色体を保持するキメラマウスにおいてヒト抗体λ鎖遺伝子が機能することが確認された。
(実施例23)ヒト2番染色体断片導入キメラマウス血清におけるヒト抗体κ鎖の検出
5週齢のキメラマウス(実施例13、K2-8、キメラ率は70%)および9週齢のキメラマウス(実施例13、K2-3、K2-4、 K2-12、キメラ率はそれぞれ50%、20%、80%)より採血し、血清中のヒト抗体κ鎖をELISA法を用いて検出した (実施例14)。50mMの炭酸ー炭酸水素バッファーpH9.6で希釈した抗ヒト抗体κ鎖ヤギ抗体(VECTOR LABORATORIES,INC.、AI-3060)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、血清試料を加え、次いでビオチン標識抗ヒト抗体κ鎖ヤギ抗体(VECTOR LABORATORIES,INC.、BA-3060)を加えてインキュベートしさらにビオチン化ワサビペルオキシダーゼとアビジンDHの複合体(VECTOR LABORATORIES,INC.、Vectastain ABCキット)を加えてインキュベートした後、TMBZ(住友ベークライト、ML-1120T)の添加により酵素活性を450nmの吸光度で評価した。精製されたκ鎖を持つ濃度既知のヒトIgG(シグマ、I-3889)を標準としマウス血清を添加したPBSで段階的に希釈した。結果を(第9表)に示した。
Figure 2007312792
またヒト2番染色体断片を保持したキメラマウス(実施例13、K2-3、およびK2-4)に生後66日、80日、102日の3回にわたり(実施例20)と同様にHSAを免疫した。またキメラマウス(K2-12)に生後63日、77日、91日、116日の4回にわたり、このキメラマウス血清中のHSAに対するヒト抗体κ鎖をELISA法によって検出した (実施例14参照)。50mMの炭酸ー炭酸水素バッファーpH9.6で希釈したHSA(シグマ、A 3782)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、試料を加え、次いでビオチン標識抗ヒト抗体κ鎖ヤギ抗体(VECTOR LABORATORIES,INC.、BA-3060)を加えてインキュベートしさらにビオチン化ワサビペルオキシダーゼとアビジンDHの複合体(VECTOR LABORATORIES,INC.、Vectastain ABCキット)を加えてインキュベートした後、ペルオキシダーゼ基質としてOPD(住友ベークライト、ML-1130O)の添加により酵素活性を490nmの吸光度で評価した。HSAで免疫したキメラマウス血清中の抗HSAヒトκ鎖の力価は免疫後上昇した。一方対照ICRマウスでは、HSA免疫後の抗HSAヒト抗体κ鎖の力価はバックグランドレベルであった。結果を(第18図)に示した。第18図において横軸はキメラマウスにHSAを初めて免疫してからの日数を、縦軸は490nmにおける吸光度を示した。これらの結果より、ヒト2番染色体部分断片を保持するキメラマウスにおいてヒト抗体κ鎖遺伝子が機能し、さらにはHSA抗原刺激に対して抗原特異的ヒトIgκの抗体価上昇が起こることが確認された。
(実施例24)ヒト14番染色体導入キメラマウスからのヒト抗体重鎖(μ鎖もしくはγ鎖)産生ハイブリドーマ取得
(実施例21)においてHSAで免疫したキメラマウスK9から生後136日目に脾臓を取り出し、ミエローマ細胞と細胞融合し、ハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマの作製法は〈安東・千葉、単クローン抗体実験操作入門、講談社サイエンティフィク, 1991〉に記された方法に従い、ミエローマ細胞としては、Sp-2/O-Ag14(大日本製薬、05-554)を使用した。培養液にORIGEN Hybridoma Cloning Factor(HCF、ボクスイ・ブラウン)を10%添加し96穴プレート8枚にまき込み、3日後に培養液中にG418を1mg/ml添加した。1〜3週間培養後の培養上清をELISA法で解析した (実施例14参照)。μ鎖は50mMの炭酸ー炭酸水素バッファーpH9.6で希釈した抗ヒトμ鎖マウスモノクローナル抗体(シグマ、I-6385)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、PBSで希釈した試料を加え、次いでペルオキシダーゼ標識抗ヒトμ鎖マウス抗体(The Binding Site Limited、MP008)を加えてインキュベートした後、基質として2,2ーアジノジー(3ーエチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS、Kirkegaard&Perry Laboratories Inc.、04-10-17)を用いて検出し7個の陽性ウェルを得た。γ鎖については抗ヒトγ鎖マウスモノクローナル抗体(シグマ、I-6260)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、PBSで希釈した試料を加え、次いでペルオキシダーゼ標識抗ヒトγ鎖マウス抗体(ファーミンジェン、 08007E)を加えてインキュベートした後、ABTS(Kirkegaard & Perry Laboratories Inc.、04-10-17)を用いて検出し2個のヒト抗体γ鎖陽性ウェルを得た。
(実施例25)ヒト2 番染色体導入キメラマウスからのヒト抗体軽鎖産生ハイブリドーマ取得
(実施例23)においてHSAで免疫したキメラマウスK2-3から生後105日目に脾臓を取り出し、ミエローマ細胞と細胞融合し、ハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマの作製法は〈安東・千葉、単クローン抗体実験操作入門、講談社サイエンティフィク, 1991〉に記された方法に従い、ミエローマ細胞としては、P3X63Ag8.653(大日本製薬、05-565)を使用した。培養液にHCF(ボクスイ・ブラウン)を10%添加し96穴プレート10枚にまき込み、3日後培養液中にG418を1mg/ml添加し、1〜3週間培養しコロニーが出現したウェルの培養上清をELISA法で解析した。ELISA法は(実施例23)と同様に行ない、ヒト抗体κ鎖陽性のクローンを2個得た。
(実施例26)G418耐性マーキングされたヒト22番染色体のピューロマイシン耐性による再マーキング
G418耐性で標識されたヒト22番染色体を保持するA9細胞(A9/#22γ2;実施例1で取得)について、(実施例16)と同様な方法でヒト22番染色体のピューロマイシン耐性による再マーキングを行った。γ2細胞にpPGKPuroをエレクトロポレーションして得られた二重薬剤耐性株コロニー200個程度を一つの集団とし、3つの集団(P1、P2、P3)を供与細胞として野生型マウスA9細胞へのミクロセル移入を行なった。その結果、P1より6個、P2より1個、P3より3個の二重薬剤耐性クローンが得られた。取得した二重薬剤耐性クローンのうちP3由来の6-1をミクロセル供与細胞、野性型A9細胞を受容細胞としたミクロセル移入実験により、ヒト22番染色体がさらにピューロマイシン耐性遺伝子によりマーキングされていることを確認した(実施例18) 。ミクロセル取得及びA9細胞との融合は(実施例1)と同様に行なった。その結果、ミクロセル移入11日後に28個のG418耐性コロニーが出現した。これらのコロニーについて8μg/mlのピューロマイシンを含む培地に交換した後、さらに3日間培養したところ、21個(75%)のコロニーが生存した。ミクロセル法においては、1つの供与細胞に、多くの場合1本あるいは少数の染色体のみが移入されることから、両耐性遺伝子が高率に同時に移入されることは、すなわち、6-1が保持するG418耐性標識されたヒト22番染色体がさらにピューロマイシン耐性遺伝子によりマーキングされていることを示している。
(実施例27)ヒト抗体重鎖を産生するハイブリドーマからのヒト抗体重鎖可変領域cDNAの取得及び塩基配列決定
(実施例15)において取得されたヒト抗体重鎖(IgM)を産生するハイブリドーマのうち、H4B7(HSA特異的)及びH8F9(非特異的)より、ISOGEN(ニッポンジーン)を使用して、総RNAを取得した。cDNAの合成は、Ready-To-Go T-primed 1st strandキット(Pharmacia社)を用い各々5μgの総RNAを使用した。得られたcDNAについて下記に示したプライマー(Larrickら, BIO/TECHNOLOGY, 7, 934-, 1989、Wordら, Int. Immunol., 1, 296-, 1989を参考に作製)によりPCRを行ない、ヒト抗体重鎖可変領域を増幅した。
CM1(ヒトIgM定常領域):5'-TTGTATTTCCAGGAGAAAGTG(配列番号45)
CM2(同上):5'-GGAGACGAGGGGGAAAAGGG(配列番号46)
HS1(ヒト重鎖可変領域):5'-ATGGACTGGACCTGGAGG(AG)TC(CT)TCT(GT)C(配列番号47)(8種の混合物)
HS2(同上):5'-ATGGAG(CT)TTGGGCTGA(GC)CTGG(GC)TTT(CT)T(配列番号48)(16種の混合物)
HS3(同上):5'-ATG(AG)A(AC)(AC)(AT)ACT(GT)TG(GT)(AT)(GCT)C(AT)(CT)(GC)CT(CT)CTG(配列番号49)(6144種の混合物)
*( )はその位置の塩基が( )内のいずれかからなる混合物であることを示す。
H4B7、H8F9共に、1回目のPCRはHS1×CM1、HS2×CM1、HS3×CM1の3種のプライマーの組み合わせについて行い(94℃ 1分、50℃ 2分、72℃ 3分、40サイクル、パーキンエルマー社、サーマルサイクラー140使用)、そのPCR産物をそれぞれHS1×CM2、HS2×CM2、HS3×CM2のプライマーで再度増幅した(温度条件は前記同様、30サイクル)。増幅産物は1.5%アガロース電気泳動後、臭化エチジウム染色することにより検出した。その結果、H4B7についてはHS3×CM2のプライマーで約490bpの増幅産物が確認された。また、H8F9については、HS3×CM2プライマーで微かなバンドが同様の位置に確認されたのでこのプライマーで再度増幅した(温度条件は前記同様、30サイクル)。その結果、増幅産物は非常に強いシグナルとして検出された。これらのPCR産物は、石田ら(遺伝子発現実験マニュアル、講談社サイエンティフィク、1995)の方法に従い、pBlueScriptII SK+(Stratagene社)ベクターのSmaI部位にクローニングした。増幅産物の挿入されたプラスミドのうち#2、#3、#4(H4B7)、#11、#13、#14(H8F9)について、自動蛍光シーケンサー(Applyed Bio System社)により、増幅産物の塩基配列を決定した。得られた塩基配列及び予想されるアミノ酸配列をすでに報告されているヒト抗体VH領域(Marksら、Eur. J. Immunol. 21, 985-, 1991)、JH領域(Ravetchら, Cell, 27, 583-, 1981)の配列と比較した結果、H4B7、H8F9共に、VH4ファミリー、JH2の組み合わせからなることが判明した。この結果は、ヒト14番染色体部分断片を保持するキメラマウスにおいて、完全な機能的ヒト抗体重鎖蛋白質が産生されていることを示している。
(実施例28)ヒト抗体κ鎖を発現するキメラマウス脾臓からのヒト抗体κ鎖cDNAの取得と塩基配列決定
(実施例13)において取得され、(実施例23)においてヒト抗体κ鎖を発現することが確認されたキメラマウスK2-8の脾臓より(実施例5)と同様な方法で合成したcDNAについて、下記のプライマー(Larrickら, BIO/TECHNOLOGY, 7, 934-, 1989、Whitehurstら, Nucleic Acids Res., 20, 4929-, 1992 を参考に作製)によりPCRを行ない、ヒトκ鎖可変領域を増幅した。陰性コントロールとしてK2-8より取得した肝臓由来cDNA及び、(実施例10)のTT2/#14 3-2由来キメラマウスK3-2-2より取得した脾臓由来cDNAを用いた。
KC2(ヒトIgκ鎖定常領域):5'-CAGAGGCAGTTCCAGATTTC(配列番号50)
KC3(同上):5'-TGGGATAGAAGTTATTCAGC(配列番号51)
KVMIX(ヒトIgκ鎖可変領域): 5'-ATGGACATG(AG)(AG)(AG)(AGT)(CT)CC(ACT)(ACG)G(CT)(GT)CA(CG)CTT(配列番号52)(3456種の混合物)
*( )はその位置の塩基が( )内のいずれかからなる混合物であることを示す。
PCRはKVMIX×KC2、KVMIX×KC3プライマーの組み合わせで94℃15秒、55℃15秒、72℃20秒、40サイクル(パーキンエルマー社、サーマルサイクラー9600使用)の条件で行なった。増幅産物は1.5%アガロース電気泳動後、臭化エチジウム染色することにより検出した。その結果、両者の組み合わせ共に、期待される約420bps(KC2)、約450bps(KC3)の長さの増幅産物が検出された。一方、2種の陰性コントロールでは特異的増幅産物は検出されなかった。これらの増幅産物は、石田ら(遺伝子発現実験マニュアル、講談社サイエンティフィク、1995)の方法に従い、pBlueScriptII SK+(Stratagene社)ベクターのSmaIあるいはEcoRV部位にクローニングした。増幅産物の挿入されたプラスミドのうちKVMIX×KC2由来のVK-#1クローン1種類について、自動蛍光シーケンサー(Applyed Bio System社)により、増幅産物の塩基配列を決定した。得られた塩基配列はヒトIgκ鎖の開始コドンから定常領域に至るまで終始コドンを含まないので、クローニングされた増幅産物は機能的ヒトIgκ鎖可変領域をコードしていると考えられる。また、すでに報告されているヒト抗体Vκ領域(Kleinら, Eur. J. Immunol., 23, 3248-, 1993)、Jκ領域(Whitehurstら, 前記)の塩基配列と比較した結果、Vκ3ファミリー、Jκ4の組み合わせからなることが判明した。この結果は、ヒト2番染色体部分断片を保持するキメラマウスにおいて、完全な機能的ヒト抗体κ鎖蛋白質が産生されていることを示している。
(実施例29)ヒト14番染色体断片を保持するキメラマウスの血清中のヒト抗体γ鎖サブクラスおよびμ鎖の検出、および定量
(実施例10)の生後11週齢のキメラマウス(K15AおよびK16A;1-4由来、キメラ率70、50%)より採血し、血清中のヒト抗体γ鎖サブクラス濃度を(実施例14)に従いELISA法を用いて検出した。
[ヒトIgG1の測定]抗ヒトIgG抗体(シグマ、I-6260)をPBSで希釈し、96穴マイクロタイタープレートをコーティングした。血清試料を加え、次いでペルオキシダーゼ標識した抗ヒトIgG1抗体(ファーミンジェン、08027E)を加えてインキュベートした後、TMBZ(住友ベークライト、ML-1120T)の添加により酵素活性を450nmの吸光度で評価した。精製された濃度既知のヒトIgG1(シグマ、I-3889)を標準としマウス血清を添加したPBSで段階的に希釈した。
[ヒトIgG2の測定]抗ヒトIgG2抗体(シグマ、I-9513)をPBSで希釈し、96穴マイクロタイタープレートをコーティングした。血清試料を加え、次いでペルオキシダーゼ標識した抗ヒトIgG抗体(シグマ、A-0170)を加えてインキュベートした後、TMBZ(住友ベークライト、ML-1120T)の添加により酵素活性を450nmの吸光度で評価した。精製された濃度既知のヒトIgG2(シグマ、I-4139)を標準としマウス血清を添加したPBSで段階的に希釈した。
[ヒトIgG3の測定]抗ヒトIgG3抗体(シグマ、I-7260)を100mMグリシン塩酸バッファーpH2.5で希釈し5分間室温で放置した後、100mMリン酸バッファーpH7.0で10倍に希釈し、96穴マイクロタイタープレートをコーティングした。血清試料を加え、次いでペルオキシダーゼ標識した抗ヒトIgG抗体(ファーミンジェン、08007E)を加えてインキュベートした後、TMBZ(住友ベークライト、ML-1120T)の添加により酵素活性を450nmの吸光度で評価した。精製された濃度既知のヒトIgG3(シグマ、I-4389)を標準としマウス血清を添加したPBSで段階的に希釈した。
[ヒトIgG4の測定]抗ヒトIgG4抗体(シグマ、I-7635)を100mMグリシン塩酸バッファーpH2.5で希釈し5分間室温で放置した後、100mMリン酸バッファーpH7.0で10倍に希釈し、96穴マイクロタイタープレートをコーティングした。血清試料を加え、次いでペルオキシダーゼ標識した抗ヒトIgG抗体(ファーミンジェン、08007E)を加えてインキュベートした後、TMBZ(住友ベークライト、ML-1120T)の添加により酵素活性を450nmの吸光度で評価した。精製された濃度既知のヒトIgG4(シグマ、I-4639)を標準としマウス血清を添加したPBSで段階的に希釈した。
[ヒトIgMの測定]μ鎖についてはPBSで希釈した抗ヒトμ鎖マウスモノクローナル抗体(シグマ、I-6385)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、血清試料を加え、次いでペルオキシダーゼ標識抗ヒトμ鎖マウス抗体(The Binding Site Limited、MP008)を加えてインキュベートした後、ペルオキシダーゼ基質としてTMBZ(住友ベークライト、ML-1120T)の添加により酵素活性を450nmの吸光度で評価し、精製されたμ鎖を持つ濃度既知のヒトIgM(オルガノン・テクニカ、6001-1590)を標準としマウス血清(シグマ、M5905)を添加したPBSで段階的に希釈した。
結果を表10に示す。キメラマウスK15AとK16Aの2個体でIgG1,IgG2,IgG3,IgG4のすべてのサブクラスおよびIgMが検出された。
Figure 2007312792
(実施例30)ヒト22番染色体を保持するマウスES細胞株(TT2)の取得
ヒト22番染色体を保持するマウスES細胞(TT2)取得のため、染色体供与細胞として(実施例26)で取得した6-1(A9/#22, G418, ピューロマイシン耐性)細胞株を用いた。染色体受容細胞としては野生型TT2細胞株(実施例9)を用いた。ミクロセル融合実験およびピューロマイシン耐性株の選択は0.75μg/mlのピューロマイシン濃度で他は(実施例9)のG418耐性株選択の場合と同様に行なった。この結果出現したピューロマイシン耐性株の出現頻度はTT2細胞107個あたり1〜2個であった。ピューロマイシン耐性株の凍結保存、ゲノムDNA取得は(実施例2)と同様に行なった。ヒト22番染色体の保持はピューロマイシン耐性株PG22-1について以下の(1)、(2)により確認した。
(1)PCR解析
ピューロマイシン耐性株ゲノムDNAを鋳型としてヒト22番染色体上に存在する遺伝子(Genetic Maps,前記)のうち、(実施例2;A9/#22)で存在が確認されている10種のプライマーについてPCR増幅を行なった結果、(実施例2;A9/#22)に存在した全てのマーカーが検出された。
(2)サザンブロット解析(実施例2)で示した方法に従い、ヒトL1配列をプローブとして用い、陰性コントロール野生型TT2、染色体供与細胞6-1、ピューロマイシン耐性TT2細胞株PG22-1由来のゲノムDNAについて行った。その結果を(第19図)に示す。図中左側にDNA分子量を示した。PG22-1におけるバンドパターンは6-1のそれと一致し、シグナル強度も同程度であることから、6-1細胞株中の22番染色体は確かにPG22-1に移入されたことが確認された。
以上の実験によりピューロマイシン耐性TT2細胞株PG22-1はヒト22番染色体の全てあるいは大部分を保持することが確認された。
(実施例31)ヒト22番染色体を保持するマウスES細胞株(TT2)からのキメラマウス作製
(実施例30)で得られ、ヒト22番染色体を保持していることが確認されたピューロマイシン耐性TT2細胞株PG22-1を凍結ストックより立ち上げ、 ICRまたはMCH(ICR)(日本クレア社)雄雌マウスの交配により得られた8細胞期胚に胚あたり10〜12個注入した。ES細胞用培地(実施例9)で一晩培養して胚盤胞に発生させた後、偽妊娠処理後2.5日の仮親ICRマウス(日本クレア社)の子宮に片側の子宮あたり約10個のインジェクション胚を移植した。
キメラ作製の結果を(第11表)に示す。計266個の注入胚を移植した結果、36匹の子マウスが誕生した。キメラ個体は、毛色において宿主胚(ICR)由来の白色の中にTT2細胞由来の野生色(濃茶)が認められるかどうかにより判定される。誕生した36匹のうち毛色に明らかに野生色の部分のある、すなわち、ES細胞の貢献の認められる個体は8匹であった。
この結果より、ヒト22番染色体を保持するES細胞株(TT2由来、PG22-1)はキメラ形成能を保持している、すなわちマウス個体の正常組織に分化する能力を保持していることが確認された。
Figure 2007312792
(実施例32)ヒト22番染色体を保持するキメラマウスの血清中のヒト抗体λ鎖の検出、および定量
(実施例31)のキメラマウスKPG22-1〜3の血清中のヒト抗体濃度を(実施例14)に従いELISA法を用いて定量した。生後2ヶ月のキメラマウスより採血し、血清中のヒト抗体λ鎖をELISA法を用いて検出した。PBSで希釈した抗ヒト免疫グロブリンλ鎖抗体(VECTOR LABORATORIES,INC.、IA-3070)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、血清試料を加え、次いでビオチン標識した抗ヒト免疫グロブリンλ鎖抗体(VECTOR LABORATORIES,INC.、BA-3070)を加えてインキュベートしさらにビオチン化ワサビペルオキシダーゼとアビジンDHの複合体(VECTOR LABORATORIES,INC.、Vectastain ABCキット)を加えてインキュベートした後、TMBZ(住友ベークライト,ML-1120T)の添加により酵素活性を450nmの吸光度で評価し、精製されたλ鎖を持つ濃度既知のヒトIgM(大日本製薬、U13200)を標準としマウス血清を添加したPBSで段階的に希釈した。結果を第12表に示す
。この結果より22番染色体を保持するキメラマウスにおいてヒト抗体λ鎖遺伝子が機能することが確認された。
Figure 2007312792
(実施例33)ヒト22番染色体導入キメラマウス血清における抗ヒトHSAヒト体λ鎖の検出
キメラマウス(実施例31、KPG22-3)に生後79日、94日、110日の3回にわたり(実施例20)と同様にHSAを免疫した。血清中のヒト抗体λ鎖を(実施例14)に従いELISA法を用いて検出した。50mMの炭酸ー炭酸水素バッファーpH9.6で5μg/mlに希釈したHSA(シグマ、A 3782)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、血清試料を加え、次いでビオチン標識した抗ヒト免疫グロブリンλ鎖抗体(VECTOR LABORATORIES,INC.、BA-3070)を加えてインキュベートしさらにビオチン化ワサビペルオキシダーゼとアビジンDHの複合体(VECTOR LABORATORIES,INC.、Vectastain ABCキット)を加えてインキュベートした後、TMBZ(住友ベークライト、ML-1120T)の添加により酵素活性を450nmの吸光度で評価した。HSAで免疫したキメラマウス血清中の抗HSAヒトλ鎖の力価は免疫後上昇した。一方対照としたICRマウスでは、HSA免疫後の抗HSAヒト抗体λ鎖の力価はバックグランドレベルであった。結果を(第20図)に示す。第20図において横軸はキメラマウスに初めてHSAを免疫してからの日数を、縦軸は450nmにおける吸光度を示した。
これらの結果より、ヒト22番染色体を保持するキメラマウスにおいてヒト抗体λ鎖遺伝子が機能し、さらにはHSA抗原刺激に対して抗原特異的ヒトIgλの抗体価上昇が起こることが確認された。
(実施例34)ヒト22番染色体導入キメラマウスからのヒト抗体軽鎖産生ハイブリドーマ取得
(実施例25)と同様に(実施例33)においてヒトアルブミンで免疫したキメラマウスKPG22-3から生後113日目に脾臓を取り出し、ミエローマ細胞と細胞融合し、ハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマの作製法は〈安東・千葉、単クローン抗体実験操作入門、講談社サイエンティフィク, 1991〉に記された方法に従い、ミエローマ細胞としては、SP-2/O-Ag14(大日本製薬、05-554) を使用した。培養液にHCF(エア・ブラウン)を10%添加し96穴プレート5枚にまき込み、1〜3週間培養しコロニーが出現したウェルの培養上清をELISA法で解析した。ELISA法は(実施例33)と同様に行ない、ヒト抗体λ鎖陽性のクローンを4個得た。
(実施例35)ヒト22番染色体部分断片及び、14番染色体部分断片を同時に保持するマウスES細胞株の取得
ヒト22番染色体、14番染色体部分断片を同時に保持するマウスES細胞取得のため、染色体供与細胞として(実施例26)で取得した6-1(A9/#22, G418,ピューロマイシン耐性)細胞株を用いた。染色体受容細胞としてはすでにヒト14番染色体部分断片を保持しているG418耐性TT2細胞株1-4(実施例9)を用いた。ミクロセル融合実験およびピューロマイシン耐性株の選択は0.75μg/mlのピューロマイシン濃度で他は(実施例9)のG418耐性株選択の場合と同様に行なった。この結果出現したピューロマイシン耐性株の出現頻度は1-4細胞107個あたり1〜2個であった。これらのピューロマイシン耐性株は300μg/mlのG418存在下でも増殖することからG418耐性も同時に保持していることが確認された。二重薬剤耐性株の凍結保存、ゲノムDNA取得は(実施例2)と同様に行なった。ヒト22番染色体及び、ヒト14番染色体部分断片の保持は二重薬剤耐性株PG22-5について以下のPCR解析により確認した。二重薬剤耐性株ゲノムDNAを鋳型としてヒト22番、14番染色体上に存在する遺伝子(Genetic Maps,前記)のうち、22番染色体については(実施例2;A9/#22)、14番染色体については(実施例9;TT2/#14 1-4)で存在が確認されている各プライマーについてPCR増幅を行なった結果、22番染色体については10種のうち3種のマーカー(D22S275, D22S315, Igλ)、14番染色体についてはTT2/#14 1-4に存在した全てのマーカーが検出された。以上の実験により、得られた二重耐性TT2細胞株はヒト22番染色体部分断片、14番染色体部分断片を同時に保持することが確かめられた。
(実施例36)ヒト22番染色体部分断片及び、14番染色体部分断片を同時に保持するマウスES細胞株からのキメラマウス作製
(実施例35)で得られ、ヒト22番染色体部分断片及び14番染色体部分断片を保持していることが確認されたG418、ピューロマイシン二重耐性TT2細胞株PG22-5を凍結ストックより立ち上げ、 ICRまたはMCH(ICR)(日本クレア社)雄雌マウスの交配により得られた8細胞期胚に胚あたり10〜12個注入した。ES細胞用培地(実施例9)で一晩培養して胚盤胞に発生させた後、偽妊娠処理後2.5日の仮親ICRマウス(日本クレア社)の子宮に片側の子宮あたり約10個のインジェクション胚を移植した。
キメラ作製の結果を(第13表)に示す。計302個の注入胚を移植した結果、16匹の子マウスが誕生した。キメラ個体は、毛色において宿主胚(ICR)由来の白色の中にTT2細胞由来の野生色(濃茶)が認められるかどうかにより判定される。誕生した16匹のうち毛色に明らかに野生色の部分のある、すなわち、ES細胞の貢献の認められる個体は5匹であった。
この結果より、ヒト22番染色体部分断片及び14番染色体部分断片を保持するES細胞株(PG22-5)はキメラ形成能を保持している、すなわちマウス個体の正常組織に分化する能力を保持していることが確認された。
Figure 2007312792
(実施例37)ヒト22番染色体部分断片及び、14番染色体部分断片を同時に保持するES細胞由来キメラマウス血清中のヒト抗体λ鎖およびヒト抗体μ鎖の検出・定量
(実施例36)のキメラマウス(KPG22-9、10、および12)に対して、HSAを免疫した。KPG22-9とKPG22-10には生後11週齢で免疫し、その2週間後に採血した。KPG22-12には生後7週齢と9週齢の2度免疫し、2度目の免疫の2週間後に採血した。
血清中のヒト抗体μ鎖およびヒト抗体λ鎖さらにヒトλ鎖かつヒトμ鎖を有する抗体を(実施例14)に従いELISA法を用いて検出した。
完全ヒト抗体の検出にはPBSで希釈した抗ヒト免疫グロブリンλ鎖抗体(Kirkegaard & Perry Laboratories Inc.、01-10-11)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、血清試料を加え、次いでペルオキシダーゼ標識抗ヒト免疫グロブリンμ鎖抗体(The Binding Site Limited、 MP008)を加えてインキュベートした後、ペルオキシダーゼ基質としてTMBZ(住友ベークライト、ML-1120T)の添加により酵素活性を450nmの吸光度で評価し、精製されたλ鎖を持つ濃度既知のヒトIgM(大日本製薬、U13200)をマウス血清を添加したPBSで段階的に希釈したものと比較し血清中のヒト抗体濃度を求めた。ヒト抗体μ鎖およびヒト抗体λ鎖をELISA法を用いて(実施例29)および(実施例32)と同様に検出・定量した。結果を第14表に示す。キメラマウスではλ鎖とμ鎖がともに検出された。ヒト抗体μ鎖かつλ鎖を持つ抗体も検出された。この結果より、ヒト22番染色体部分断片及び14番染色体部分断片を保持するES細胞由来キメラマウスにおいてヒト抗体λ鎖遺伝子とヒト抗体μ鎖遺伝子は同時に機能し、一部のB細胞では重鎖と軽鎖がともにヒトである完全抗体が産生されることが確認された。
また対照として測定したヒト14番染色体のみを保持する(実施例10)のキメラマウス(K9)、ヒト22番染色体のみを保持する(実施例31)のキメラマウス(KPG22-2)の血清中のヒト抗体λ鎖かつμ鎖を持つ抗体濃度はバックグランドレベルであり、ここでの検出系はヒトλ鎖かつμ鎖を持つ完全抗体のみを検出していることが確認された。
Figure 2007312792
(実施例38)ヒト2番染色体部分断片及び、14番染色体部分断片を同時に保持するES細胞由来キメラマウス血清におけるヒト抗体の検出(ヒトκ鎖かつヒトμ鎖を有する抗体)
(実施例19)で作製したキメラマウスKPG-15(TT2ES クローンPG5由来、キメラ率10%)に対して、生後2から3ヶ月齢の間に、PBSに溶解したヒト血清アルブミン(HSA、シグマ、A3782)とアジュバント(MPL+TDM Emulsion, RIBI Immunochem Reseach Inc.)とを混合して0.25mg/mlのHSA溶液を調整し0.2mlを3回免疫し、採血した。また生後6週齢の(実施例19)のキメラマウスKPG-26(TT2ES クローンPG6由来、キメラ率40%)から採血した。血清中の完全ヒト抗体濃度を(実施例14)に従いELISA法で検出した。PBSで希釈した抗ヒト免疫グロブリンκ鎖抗体(Kirkegaard & Perry Laboratories Inc.、01-10-10)を96穴マイクロタイタープレートにコーティングし、マウス血清(シグマ、M5905)を加えたPBSで希釈した血清試料を加え、次いでペルオキシダーゼ標識抗ヒト免疫グロブリンμ鎖抗体(The Binding Site Limited、 MP008)を加えてインキュベートした後、ペルオキシダーゼ基質としてTMBZ(住友ベークライト、ML-1120T)の添加により酵素活性を450nmの吸光度で評価し、精製されたκ鎖を持つ濃度既知のヒトIgM(オルガノン・テクニカ、6001-1590)を標準としマウス血清を添加したPBSで段階的に希釈した。κ鎖、μ鎖については(実施例20)と同様にして濃度を求めた。結果を第15表に示す。ヒト抗体μ鎖かつκ鎖を持つ抗体が検出された。また対照としたヒト14番染色体のみを保持する(実施例10)のキメラマウス(K9)、ヒト2番染色体のみを保持する(実施例13)のキメラマウス(K2-9)血清中のヒト抗体でκ鎖かつμ鎖を持つ抗体濃度は0.002mg/ml以下でバックグランドレベルであった。この結果より、ヒト2番染色体部分断片及び14番染色体部分断片を保持するES細胞由来キメラマウスにおいてヒト抗体κ鎖遺伝子とヒト抗体μ鎖遺伝子は同時に機能し、一部のB細胞では重鎖と軽鎖がともにヒトである完全抗体が産生されることが確認された。
Figure 2007312792
(実施例39)ヒト2番染色体部分断片を保持するマウスES細胞株(TT2F, XO)の取得
ヒト2番染色体部分断片を保持するマウスES細胞(XO)取得のため、染色体供与細胞として(実施例16)で取得したPG1細胞株を用いた。染色体受容細胞としては(39, XO)の染色体構成を持ち、キメラマウスにおいて効率よく卵細胞に分化することが報告されている(相沢慎一、バイオマニュアルシリーズ8,ジーンターゲティング, 羊土社, 1995)TT2F細胞株(ライフテックオリエンタル社より購入)を用いた。ミクロセル融合実験およびピューロマイシン耐性株の選択は0.75μg/mlのピューロマイシン濃度で他は(実施例9)のG418耐性株選択の場合と同様に行なった。この結果出現したピューロマイシン耐性株の出現頻度はTT2F細胞107個あたり5個であった。これらのピューロマイシン耐性株の凍結保存、ゲノムDNA取得は(実施例2)と同様に行なった。ヒト2番染色体部分断片の保持は薬剤耐性株P-20, P-21について以下のPCR解析により確認した。薬剤耐性株ゲノムDNAを鋳型としてヒト2番染色体上に存在する遺伝子(Genetic Maps,前記)のうち、(実施例1;A9/#2 w23)で存在が確認されているプライマーCκ、FABP1、Vκ1-2の3種についてPCR増幅を行なった結果、2株共に、3種全てのプライマーについて期待される増幅産物が確認された。
以上の実験により、得られたピューロマイシン耐性ES細胞株(TT2F, XO)はヒト2番染色体部分断片を保持することが確かめられた。
(実施例40)ヒト2番染色体部分断片を保持するマウスES細胞株(TT2F, XO)からのキメラマウス作製
(実施例39)で得られ、ヒト2番染色体部分断片を保持していることが確認されたピューロマイシン耐性TT2F細胞株P-21を凍結ストックより立ち上げ、 ICRまたはMCH(ICR)(日本クレア社)雄雌マウスの交配により得られた8細胞期胚に胚あたり10〜12個注入した。ES細胞用培地(実施例9)で一晩培養して胚盤胞に発生させた後、偽妊娠処理後2.5日の仮親ICRマウス(日本クレア社)の子宮に片側の子宮あたり約10個のインジェクション胚を移植した。
計141個の注入胚を移植した結果、20匹の子マウスが誕生した。キメラ個体は、毛色において宿主胚(ICR)由来の白色の中にTT2細胞由来の野生色(濃茶)が認められるかどうかにより判定される。キメラ作製の結果を(第16表)に示す。誕生した20匹のうち毛色に明らかに野生色の部分のある、すなわち、ES細胞の貢献の認められる個体は9匹であった。うち4個体は毛色が完全に野生色の(ES細胞に由来する)キメラマウスであった。
この結果より、ヒト2番染色体部分断片を保持するES細胞株(P-21)はキメラ形成能を保持している、すなわちマウス個体の正常組織に分化する能力を保持していることが確認された。
Figure 2007312792
(実施例41)ヒト2番染色体部分断片を保持するTT2F由来キメラマウスの血清中のヒト抗体κ鎖の検出、および定量
(実施例40)の生後約1ヶ月齢のキメラマウス(P-21由来、キメラ率100%、K2-1F〜4F)より採血し血清中のヒト抗体κ鎖濃度を(実施例20)と同様にELISA法を用いて定量した。
結果を第17表に示す。使用するES細胞をTT2Fとしてもヒト抗体κ鎖遺伝子がキメラマウス中で機能することが確認された。
Figure 2007312792
(実施例42)ヒト2番染色体部分断片を保持するマウスES細胞(TT2F, XO)由来キメラマウスの子孫におけるヒト染色体保持の検出
(実施例40)で得られた雌キメラマウスのうちK2-1F, K2-4F(共に毛色のキメラ率100%)について雄ICRマウスとの交配によりES細胞由来の子孫が誕生するかを検討した。この交配においてICR雄マウス(アルビノ、劣性)由来精子により受精したキメラマウス中のTT2F細胞(野生色:優性)由来の卵子からは野生色、ICR由来卵子からは白色の子マウスが誕生する。それぞれ1回の交配によって得られた生存可能な子マウス(K2-1F:10匹、K2-4F:5匹)のすべてがES細胞由来の毛色である野生色を示した。これらの子マウスの尻尾より調製したゲノムDNAについてヒト染色体断片の保持をPCR法により検討した。P-21(実施例39)で存在が確認されている3種のプライマーについてPCR増幅を行なった結果、10匹中4匹(K2-1F)、5匹中2匹(K2-4F)においてP-21で検出された3種のマーカーの存在が確認された。15匹の子マウスのPCRの結果を(第21図)に示す。図中右側にマーカー(φX174, HaeIII断片, ニッポンジーン)および主なバンドのDNA分子量を、左側にそれぞれのプライマーによって期待される増幅産物の長さを矢印で示した。右側に陽性コントロールとして親キメラK2-1F、K2-4Fの尻尾由来DNAを用いた結果も示す。これらの結果は、ヒト2番染色体部分断片を保持するTT2F細胞株P-21がキメラマウス中で機能的な卵子に分化し、その卵子由来の子孫にヒト2番染色体部分断片が伝達されたことを示している。
(実施例43)ヒト2番染色体部分断片を保持するマウスES細胞(TT2, XY)由来キメラマウスの子孫におけるヒト染色体保持の検出
(実施例13)で得られたキメラマウスのうちK2-18(雄、キメラ率70%)とK2-19(雌、キメラ率60%)及び同腹の非キメラ雌を混合して交配し、ES細胞由来の子孫が誕生するかを検討した。TT2細胞は(40, XY)の染色体構成を持つので雄キメラK2-18において機能的な精子に分化している可能性がある。その場合キメラマウス中のTT2細胞(野生色、優性)由来精子により受精したICR(白色:劣性)由来の卵子からは野生色の子マウスが誕生する。交配によって得られた生存可能な子マウス計110匹のうち10匹がES細胞由来の毛色である野生色を示した。これらの野生色子マウス10匹のうち7匹の尻尾より調製したゲノムDNAについてヒト染色体断片の保持をPCR法により検討した。5-1株(TT2/#2fg.,実施例12)で存在が確認されている2種のプライマー(Cκ、FABP1)及び、(実施例1)で示したVκ1-2 プライマーについてPCR増幅を行なった結果、7匹中2匹において3種のマーカー全ての存在が確認された。この結果は、ヒト2番染色体部分断片を保持するTT2細胞株5-1がキメラマウス中で機能的な精子に分化し、その精子由来の子孫にヒト2番染色体部分断片が伝達されたことを示している。
(実施例44)キメラマウス子孫の血清中のヒト抗体κ鎖の検出、および定量
(実施例42)のキメラマウス子孫K2-1F-1〜10およびK2-4F-1〜5の血清中のヒト抗体κ鎖濃度をELISA法を用いて定量した。生後約4〜6週齢のマウスより採血し、血清中のヒト抗体κ鎖を(実施例20)と同様にELISA法を用いて検出した。結果を(実施例42)で得られた染色体保持の結果と共に第18表に示す。キメラマウスから生まれた子孫においてもヒト抗体κ鎖遺伝子が機能することが確認された。
Figure 2007312792
(実施例45)ヒト14番染色体部分断片導入キメラマウス脾臓細胞の解析
フローサイトメトリーによる解析は下記の文献に記載の方法に従った。日本生化学会編、新生化学実験講座12分子免疫学I−免疫細胞・サイトカイン−1989、東京化学同人;東京大学医科学研究所 制癌研究部編、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール、1991、秀潤社;A. Doyle and J.B.Griffiths, “Cell & Tissue Culture: Laboratory Procedures", published by John Wiley & Sons Ltd., 1996。(実施例19)の生後6ヶ月齢のキメラマウス(KPG06;PG16由来、キメラ率30%)から脾臓をとりだし、塩化アンモニウム水溶液で処理した後ラット血清を1%含むPBS中で、フルオレッセインイソチオシアネート(FITC)標識抗マウスCD45R(B220)抗体(ファーミンジェン、01124A)で細胞を染色した。洗浄後5%マウス血清を含むPBS中でビオチン標識抗ヒトIgM 抗体(ファーミンジェン、08072D)または対照としてビオチン標識抗ヒトλ鎖抗体(ファーミンジェン、08152D)と反応させた後、ストレプトアビジンフィコエリスリン(ファーミンジェン、13025D)で染色し、フローサイトメトリー(ベクトンデッキンソン、FACSort)で解析した。また対照としてヒト染色体を保持しないICRマウスも同様に解析した。第22図に結果を示す。図中横軸はヒトIgM 、縦軸はCD45R(B220) を示す。B細胞マーカーCD45R陽性(FITC)でかつヒトIgM陽性(PE)である細胞集団が4%増加しており、これによってキメラマウスではヒト抗体μ鎖を細胞表面に発現している細胞の存在が確認された。
(実施例46)ヒト抗体重鎖、κ鎖、λ鎖をそれぞれ発現するキメラマウス脾臓由来cDNAからのヒト抗体遺伝子可変領域クローニングと塩基配列決定
(実施例29)、(実施例23)、(実施例32)においてヒト抗体重鎖、κ鎖、λ鎖をそれぞれ発現することが確認されたキメラマウスK15A(1-4株由来、実施例10に示した方法で作製)、K2-8(実施例13で作製)、KPG22-2(実施例31で作製)の脾臓由来RNAより(実施例5)と同様な方法で合成したcDNAについて、下記のプライマーによりPCRを行ない、それぞれのヒト抗体遺伝子可変領域を増幅した。陰性コントロールとして非キメラマウスICRより取得した脾臓由来cDNAを用いた。参考文献の記載のないプライマーはGenbank等のデータベースより入手した塩基配列をもとに作製した。
K15A(重鎖)
定常領域用:HIGMEX1-2:5'-CCAAGCTTCAGGAGAAAGTGATGGAGTC (配列番号53)
HIGMEX1-1:5'-CCAAGCTTAGGCAGCCAACGGCCACGCT(VH3BACKの2ndPCRに使用) (配列番号54)
可変領域用:VH1/5BACK(59℃, 35cycles, Marksら, Eur. J. Immnol., 21, 985-, 1991), VH4BACK(59℃, 35cycles, Marksら, 前記), VH3BACK(1stPCR:59℃, 35cycles, 2ndPCR:59℃, 35cycles, Marksら, 前記)
K2-8(軽鎖κ)
定常領域用:KC2H:5'-CCAAGCTTCAGAGGCAGTTCCAGATTTC (配列番号55)
可変領域用:Vk1/4BACK(55℃,40cycles, Marksら, Eur. J. Immnol., 21, 985-, 1991), Vk2BACK(55℃, 40cycles, Marksら, 前記), Vk3BACK (55℃, 40cycles, Marksら, 前記)
KPG22-2(軽鎖λ)
定常領域用:CλMIX(以下の3種のプライマーを等モル比で混合したもの)
IGL1-CR:5'-GGGAATTCGGGTAGAAGTCACTGATCAG (配列番号56)
IGL2-CR :5'-GGGAATTCGGGTAGAAGTCACTTATGAG (配列番号57)
IGL7-CR :5'-GGGAATTCGGGTAGAAGTCACTTACGAG (配列番号58)
可変領域用:Vλ1LEA1(55℃, 40cycles, Williamsら, Eur. J. Immunol., 23, 1456-, 1993), Vλ2MIX(55℃, 40cycles,前記のWilliamsらの報告にあるVλ2LEA1, Vλ2JLEADを等モル比で混合したもの), Vλ3MIX(55℃, 40 cycles,前記のWilliamsらの報告にあるVλ3LEA1, Vλ3JLEAD, Vλ3BACK4を等モル比で混合したもの)
それぞれ定常領域用×可変領域用(重鎖3種、κ鎖3種、λ鎖3種)の組み合わせで94℃15秒、それぞれの可変領域プライマーに示したアニーリング温度15秒、72℃20秒、それぞれの可変領域プライマーに示したサイクル数(パーキンエルマー社、サーマルサイクラー9600使用)の条件で行なった。VH3BACKにおける2ndPCRは1stPCRの増幅産物を(HIGMEX1-1×VH3BACK)のプライマーの組み合わせで再度増幅した。全ての増幅産物は1.5%アガロース電気泳動後、臭化エチジウム染色することにより検出した。その結果、全て組み合わせにおいて、期待される長さ(重鎖:470bp付近、軽鎖κ:400bp付近、軽鎖λ:510bp付近)の増幅産物が検出された。一方、陰性コントロールでは全てにおいて同じ位置に特異的増幅産物は検出されなかった。これらの増幅産物は、アガロースゲルよりprep.A.gene(バイオラッド)により抽出した後、制限酵素処理(重鎖:HindIII-PstI、軽鎖κ:HindIII-PvuII、軽鎖λ:HindIII-EcoRI)し、pUC119(宝酒造)ベクターのHindIII, PstI 部位(重鎖)、HindIII, HincII部位(κ鎖)、HindIII, EcoRI部位(λ鎖)にクローニングした。増幅産物の挿入されたプラスミドのうち以下のもの(右側に示したクローン数)について、自動蛍光シーケンサー(Applyed Bio System社)により、増幅産物の塩基配列を決定した。
・HIGMEX1-2×VH1/5BACK:10クローン、
・HIGMEX1-2×VH4BACK:8クローン、
・HIGMEX1-2(2nd PCR, HIGMEX1-1)×VH3BACK:5クローン
・KC2H×Vκ1/4BACK:6クローン、
・KC2H×Vκ2BACK:7クローン、
・KC2H×Vκ3BACK :4 クローン、
・CλMIX×Vλ1LEA1:5クローン、
・CλMIX×Vλ2MIX:6クローン、
・CλMIX×Vλ3MIX:5クローン
得られた塩基配列をDNASIS(Hitachi Software Engneering) により解析した結果、全てがヒト由来配列であり、κ鎖、λ鎖の全て、重鎖の計23種中21種が開始コドンから定常領域に至るまで終始コドンを含まない機能的配列であった。決定された配列からお互いに同一なものを除くと重鎖17種、κ鎖11種、λ鎖12種のそれぞれ異なる可変領域配列が同定された。
(実施例47)ヒト抗体重鎖、κ鎖、λ鎖をそれぞれ発現するキメラマウス脾臓由来cDNAからのヒト抗体遺伝子可変領域塩基配列の解析
(実施例46)において決定された塩基配列(重鎖17クローン、κ鎖11クローン、λ鎖12クローン)について以下の点について解析を行った。
1.各可変領域配列において使用されている既知の生殖系列V遺伝子断片を特定
2.各可変領域配列において使用されている既知の生殖系列J遺伝子断片を特定
3.重鎖可変領域において使用されている既知の生殖系列D断片を特定
4.1、2、3の結果をもとにした重鎖可変領域におけるN領域の付加の同定
5.各可変領域塩基配列から導かれるアミノ酸配列の決定
その結果を(第19表)に示す。1、2についてはGenbankに登録されている生殖系列V及びJ断片とのホモロジー検索をDNASISにより行い特定した。VH断片は(Cookら, Nature gentics, 7, 162-, 1994)、Vκ断片は(Kleinら, Eur. J. Immunol, 23, 3248-, 1993)、Vλ断片は(Williamsら, 前記)の表記法に従い、各V断片ファミリー名と共に表中に記した。3については(Ichiharaら, The EMBO J., 7, 13, 4141-, 1988)の報告に記された生殖系列D断片とのホモロジー検索をDNASISにより行い、連続して8bp以上一致することを指標として決定し表中に記した。DN*については(Greenら, Nature Genetics, 7, 13-, 1994)で報告された新しいDNファミリー断片と考えられる。4については1(V)、2(J)、3(D)の結果をもとに、いずれの生殖系列断片にも見いだされない塩基配列をN領域とみなした。その結果、D領域の特定された13種中11種にN領域が観察され、その平均の長さは8.7bpであった。5については各塩基配列をDNASISを使用して1文字表記のアミノ酸配列に変換した。表中にはCDR3領域のみ示した。表中右側に各可変領域のクローニングに使用したプライマー名及び各クローン名を記した。
Figure 2007312792
(実施例48)TT2(またはTT2F)ES細胞の抗体遺伝子(重鎖、軽鎖κ)ノックアウト用のターゲッティングベクターの作製
マウス抗体遺伝子(重鎖、軽鎖κ)が破壊されたTT2(またはTT2F)細胞へG418耐性遺伝子でマーキングされたヒト14番染色体断片(実施例9)およびピューロマイシン耐性遺伝子でマーキングされたヒト2番(実施例18)または22番染色体(実施例35)を導入することが可能となる。このようなヒト14番+2番またはヒト14番+22番染色体を導入したマウス抗体遺伝子(重鎖、軽鎖κ)遺伝子破壊TT2(またはTT2F)ES細胞を用いて、(重鎖+κ鎖:実施例19、重鎖+λ鎖:実施例36)の方法によって作成されたキメラマウスでは、主に重鎖と軽鎖がヒト由来の抗体が産生されることが期待される。以下に示す第23図〜第27図における制限酵素の略称等は、以下のとおりである。
制限酵素:Kp: KpnI、B: BamHI、RI: EcoRI 、RV: EcoRV 、N: NotI 、SII: ScaII、Sca: ScaI 、Sfi: SfiI 、Sm: SmaI、X: XhoI 、SI: SalI、dKp: deletion of KpnI 、(X): ラムダベクター由来のXhoI切断部位。
点線部分:pBluescript SKII(+) プラスミドDNA
Figure 2007312792
1.G418耐性遺伝子の両側にLoxP配列を入れたLoxP-pstNEOプラスミドの作製
TT2(またはTT2F)細胞の抗体遺伝子をノックアウトした後、G418耐性遺伝子を除去するためにG418耐性遺伝子(実施例1)の両端にCreリコンビネース(Sauerら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 5166-, 1988 )の認識配列であるLoxP配列(Sauerら、前記)を同じ向きに入れる必要がある。pSTneoBプラスミドDNA(実施例1)より制限酵素XhoIでpstNEO遺伝子を切り出し、アガロースゲル電気泳動によりDNA断片を精製したのちT4DNAポリメラーゼ(Takara社製Blunting endキット)により両端を平滑化した。LoxP配列が入ったプラスミドDNA pBS246(Plasmid pBS246, loxP2 Cassette Vector, U.S. Patent 4959317)は、GIBCO BRL社より購入した。このプラスミドのEcoRI及びSpeI切断部位へXhoIリンカーDNAを挿入することによってXhoI認識配列に変更したものを使用した。この改変pBS246のEcoRV切断部位へ上記pstNEO DNA断片を挿入してプラスミドLoxP-pstNEOを得た(第23図)。
2.C57BL/6由来抗体重鎖Cμ(IgM定常領域)、軽鎖Jκ-Cκ(Igκ連結領域および定常領域)を含むゲノムDNAクローンの単離
TT2(またはTT2F)細胞は、C57BL/6マウスとCBAマウスのF1マウス由来であることから、C57BL/6マウス由来のゲノムDNAクローンを用いて抗体遺伝子ノックアウト用ベクターを作製することにした。ゲノムDNAライブラリーは、Clontech社adult C57BL/6N male liver由来ラムダDNAライブラリーを使用した。スクリーニングのためにプローブとしては、以下の合成DNA配列(60 mer)を用いた。
重鎖Cμプローブ:5'-ACC TTC ATC GTC CTC TTC CTC CTG AGC CTC TTC TAC AGC ACC ACC GTC ACC CTG TTC AAG-3'(配列番号59)
軽鎖κプローブ:5'-TGA TGC TGC ACC AAC TGT ATC CAT CTT CCC ACC ATC CAG TGA GCA GTT AAC ATC TGG AGG-3'(配列番号60)
単離されたラムダクローンを解析して、重鎖Cμまたは軽鎖Jκ-Cκを含むDNA断片をpBluescript SKII(+) プラスミド(Stratagene社)ヘサブクローニングした(重鎖Cμ:第24図;軽鎖Jκ-Cκ:第25図)。これらのDNA断片を用いて、以下のようにTT2(またはTT2F)ES細胞中のマウス抗体遺伝子破壊のためのターゲッティングベクターを作製した。
3.マウス抗体重鎖遺伝子破壊用ベクタープラスミドの作製
2で調製したマウス抗体重鎖定常領域を含むゲノムDNAのCμをコードする領域の内で、第2〜第4エクソンが含まれるDNA断片(BamHI〜XhoI)を1で作製したLoxP-pstNEO遺伝子と置き換えた(第26図)。pstNEOの転写方向は、抗体遺伝子の転写方向とは逆向きとなっている。このプラスミドDNAは、大腸菌JM109を用いて増幅し、セシウムクロライド平衡遠心により精製した(細胞工学実験操作入門、1992年講談社刊)。精製したプラスミドDNAは、制限酵素SacIIにより、一箇所切断してTT2(またはTT2F) ES細胞へのトランスフェクションに使用した。形質転換体TT2(またはTT2F)ES細胞の中から抗体重鎖部分がターゲッティングベクターと相同組換えが起こったクローンを検出するための形質転換体ゲノムDNAサザンブロット用のプローブとして、Cμの上流に存在するスイッチ領域のDNA断片(約500塩基対)を用いた。このDNA断片は以下の条件で129マウスゲノムDNAをPCR増幅して得た。
センスプライマー:5'-CTG GGG TGA GCC GGA TGT TTT G-3'(配列番号61)
アンチセンスプライマー:5'-CCA ACC CAG CTC AGC CCA GTT C-3'(配列番号62)
テンプレートDNA:EcoRI消化129マウスゲノムDNA 1μg
反応バッファー、デオキシヌクレオチドミックス、TaqDNAポリメラーゼは、Takara社製のものを使用。
反応条件:94℃,3分,1回 → 94℃, 1分;55℃,2分;72℃,2分;3回 → 94℃, 45秒;55℃, 1分;72℃, 1分;36回
増幅されたDNAがGenbankのデータベースにあるとおり、制限酵素HindIIIで一箇所切断されえることを確認して、pBluescriptプラスミドのEcoRV切断部位へサブクローニングした。このプラスミドDNA(S8)を制限酵素BamHIとXhoIで切断して、アガロースゲル電気泳動でPCR断片(約550塩基対)を精製したものをプローブとした。ターゲッティングベクターで形質転換したTT2(またはTT2F)ES細胞のゲノムDNAを制限酵素EcoRIとXhoIで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後サザンブロットを行ない、上記プローブで検出する。
4.マウス抗体遺伝子軽鎖k破壊用ベクターの作製
2で調製したマウス抗体軽鎖κJ領域および定常領域を含むゲノムDNAのJ領域(J1〜J5)が含まれるDNA断片(EcoRI〜SacII)を1で作製したLoxP-pstNEO遺伝子と置き換えた(第27図)。pstNEOの転写方向は、抗体遺伝子の転写方向と同じ向きとなっている。このプラスミドDNAは、大腸菌JM109を用いて増幅し、セシウムクロライド平衡遠心により精製した。精製したプラスミドDNAは、制限酵素KpnIにより、一箇所切断してTT2(またはTT2F) ES細胞へのトランスフェクションに使用した。形質転換体TT2(またはTT2F)ES細胞の中から抗体重鎖部分がターゲッティングベクターと相同組換えが起こったクローンを検出するための形質転換体ゲノムDNAサザンブロット用のプローブとして、軽鎖Jκ-CκゲノムDNA(第25図参照)の3'端のDNA断片(XhoI〜EcoRI;約1.4k塩基対)を用いた。ターゲッティングベクターで形質転換したTT2(またはTT2F)ES細胞のゲノムDNAを制限酵素EcoRIとNotIで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後サザンブロットを行ない、上記プローブで検出する。
(実施例49)マウスES細胞抗体重鎖遺伝子破壊株の取得
抗体重鎖遺伝子相同組換え体取得の為、(実施例48)-3で作成した抗体重鎖ターゲッティングベクターを制限酵素SacII(宝酒造)で線状化し、(相沢慎一、バイオマニュアルシリーズ8,ジーンターゲティング, 羊土社, 1995)の方法に従いマウスES細胞TT2Fへ導入した。TT2F細胞をトリプシン処理し、2.5x107個/mlとなるようにHBSに懸濁してから5μgDNAを加え、ジーンパルサー(バイオラッド、抵抗器ユニット接続せず)を用いてエレクトロポレーションを行なった。960μFの容量で250Vの電圧を4mm長のエレクトロポレーションセルを用いて室温で印加した。エレクトロポレーションした細胞を20mlのES培地に懸濁し、あらかじめフィーダー細胞をまいた100mm組織培養用プラスチックシャーレ(コーニング)2枚に播種した。同様に10, 15μgDNAを用いた実験も行った。1日後に300μg/mlのG418(GENETICIN,シグマ)を含む培地と置き換えた。7〜9日後に生じたコロニー計176個をピックアップし、それぞれを12穴プレートでコンフルーエントになるまで増殖させ、その4/5を0.2mlの保存用培地(ES培地+10%DMSO<シグマ>)に懸濁し、-80℃にて凍結保存した。残りの1/5は12穴ゼラチンコートプレートに播種し、2日間培養して(実施例2)に示した方法でゲノムDNAを取得した。これらのG418耐性TT2F細胞ゲノムDNAを制限酵素EcoRIとXhoI(宝酒造)で消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後サザンブロットを行ない、(実施例48)-3に示したプローブで相同組換え体を検出した。その結果176株中3株が相同組換え体であるという結果を得た。野生型TT2F細胞及び相同組換え体#131、#141のサザンブロット解析の結果を(第28図)左側3レーンに示す。野生型TT2F細胞ではEcoRI、XhoI消化により2本のバンド(a、b)が検出される。相同組換え体においては、これらのいずれかのバンドが消失し、新たに下部にバンド(c)が現われることが予想される。図中#131, #141においてaのバンドが消失し、新たにcのバンドが出現している。図中左側にはDNAの大きさを示した。すなわちこれらのクローンは抗体重鎖遺伝子の片方のアレルが相同組換えにより破壊されたものである。
(実施例50)抗体重鎖相同組換え体ES細胞からのキメラマウス作成
(実施例49)で得られた抗体重鎖相同組換え体TT2F細胞株#131を凍結ストックより立ち上げ、 ICRまたはMCH(ICR)(日本クレア社)雄雌マウスの交配により得られた8細胞期胚に胚あたり10〜12個注入した。ES細胞用培地(実施例9)で一晩培養して胚盤胞に発生させた後、偽妊娠処理後2.5日の仮親ICRマウス(日本クレア社)の子宮に片側の子宮あたり約10個のインジェクション胚を移植した。計94個の注入胚を移植した結果、22匹の子マウスが誕生した。キメラ個体は、毛色において宿主胚(ICR)由来の白色の中にTT2F細胞由来の野生色(濃茶)が認められるかどうかにより判定される。誕生した22匹のうち毛色に明らかに野生色の部分のある、すなわち、ES細胞の貢献の認められる個体は18匹であった。うち16個体は毛色の80%以上が野生色の(ES細胞に由来する)雌キメラマウスであった。この結果より、抗体重鎖相同組換え体ES細胞株#131はキメラ形成能を保持していることが確認された。得られたキメラマウスのうち多くの個体は非常に高い貢献率を示す雌であるので、ES細胞が機能的な生殖細胞(卵子)に分化している可能性が高い。キメラマウスのうち100%の貢献率を示す雌キメラ2個体をMCH(ICR)雄マウスと交配した結果、生まれた子マウスはすべて野性色を示した。これらの子マウスは#131由来であり (実施例42参照)、2匹に1匹の割合で破壊された抗体重鎖アレルが伝達していると考えられる。
(実施例51)抗体重鎖相同組換え体からの2重破壊株の取得
片側アレルがG418耐性遺伝子の挿入により破壊されたES細胞株において、培養液中のG418濃度を上げて培養することにより得られる高濃度G418耐性株をスクリーニングすれば両側アレル共に破壊された株を取得することが可能なことが報告されている(相沢慎一ら、バイオマニュアルシリーズ8,ジーンターゲティング, 羊土社, 1995)。これに基づき、我々はTT2F抗体重鎖相同組換え体#131, #141について両側アレルの破壊株取得の為、以下の実験を行った。まず、#131, #141両株について致死G418濃度検定のため35mmシャーレ各10枚(この実施例においては栄養細胞はマイトマイシン処理をしていないG418耐性初代培養細胞を使用した。実施例9参照)に1枚あたり約100個の細胞を播種し、0, 0.5, 1, 2, 3, 5, 8, 10, 15, 20 mg/ml のG418(GENETICIN、シグマ)をそれぞれ含むES培地中で10日間培養した。その結果3mg/mlの濃度までは明らかなコロニーが認められたが、5mg/mlではコロニー形成は認められなかった。この結果をもとに最小致死濃度を5mg/mlと決定し、4, 5, 6, 7, 8mg/mlの各濃度で高濃度G418耐性株の選抜を行った。#131, #141それぞれについて100mmシャーレ計10枚に1枚当たり約106個の細胞を播種し、上記の各濃度のG418を含むES培地(5段階、各濃度シャーレ2枚づつ)により培養した。培養開始12日後に7mg, 8mg/mlのシャーレにおいて明らかなコロニー(#131:12株、#141:10株)をピックアップし、(実施例49)と同様に凍結保存、DNA取得を行った。これらの高濃度G418耐性株ゲノムDNAを制限酵素EcoRIとXhoI(宝酒造)で消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後サザンブロットを行ない、(実施例48)-3に示したプローブで両側アレルの破壊された株を検出した。その結果#131株由来の1株(#131-3)が両側アレル破壊株であるという結果を得た。#131由来の6株についてのサザンブロット解析の結果を(第28図)に示す。野生型TT2F細胞ではEcoRI、XhoI消化により2本の野生型バンド(a、b)が検出される。片側アレル相同組換え体(#131, #141)においては、上部のバンドaが消失し、新たにバンドcが現われる(実施例49)。さらに両側アレルが破壊されることにより、もう一方の野生型バンドbが消失し、破壊型バンドcのみとなることが予想される。図中3(#131-3)のクローンにおいてこのバンドパターンが観察された。すなわちこのクローンは抗体重鎖遺伝子の両方のアレルが破壊されたものである。
(実施例52)抗体重鎖欠損ホモ接合体TT2F細胞株からのG418耐性マーカー遺伝子の除去
(実施例51)で取得された抗体重鎖両側アレル破壊株(高濃度G418耐性株#131-3)のG418耐性マーカー遺伝子を以下の手順により除去した。G418耐性マーカー遺伝子の両側に挿入したloxP配列(実施例48-1)の間で部位特異的組換えを起こすCreレコンビナーゼ遺伝子を含む発現ベクターpBS185(BRL)を(相沢慎一、バイオマニュアルシリーズ8,ジーンターゲティング, 羊土社, 1995、及び高津聖志ら、実験医学別冊、免疫研究の基礎技術、p255-、1995、羊土社)の方法に従い#131-3株へ導入した。#131-3細胞をトリプシン処理し、2.5x107個/mlとなるようにHBSに懸濁してから30μgのpBS185DNAを加え、ジーンパルサー(バイオラッド、抵抗器ユニット接続せず)を用いてエレクトロポレーションを行なった。960μFの容量で250Vの電圧を4mm長のエレクトロポレーションセル(実施例1)を用いて印加した。エレクトロポレーションした細胞を5mlのES培地に懸濁し、あらかじめフィーダー細胞をまいた60mm組織培養用プラスチックシャーレ(コーニング)1枚に播種した。2日後に細胞をトリプシン処理し、フィーダー細胞をまいた100mmシャーレ3枚にそれぞれシャーレ1枚当たり100、200、300細胞となるように再度播種した。ジーンパルサーの設定(抵抗器ユニット接続、抵抗値無限大)のみ変更した条件でも同様に行った。7日後に生じたコロニー計96個をピックアップし、トリプシン処理した後2つに分け、フィーダー細胞をまいた48穴プレート及びゼラチンコート処理のみを行った48穴プレート2枚にそれぞれ播種した。後者は300μ/mlのG418(GENETICIN、シグマ)を含む培地で3日間培養し、その生存率でG418耐性を判定した。その結果6クローンがG418存在下で死滅した。これらのG418感受性株を35mmシャーレでコンフルーエントになるまで増殖させ、その4/5を0.5mlの保存用培地(ES培地+10%DMSO<シグマ>)に懸濁し、-80℃にて凍結保存した。残りの1/5は12穴ゼラチンコートプレートに播種し、2日間培養して(実施例2)に示した方法でゲノムDNAを取得した。これらのG418感受性TT2F細胞株ゲノムDNAを制限酵素EcoRI(宝酒造)で消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後サザンブロットを行ない、G418耐性遺伝子を含むpSTneoB由来3.2kb XhoI断片 (プローブA)でG418耐性遺伝子の除去を確認した。その結果、#131-3において観察される、プローブAとハイブリダイズするバンドが、感受性株においては全く検出されなかった。これらの結果より、取得されたG418感受性株において確かにG418耐性マーカー遺伝子が除去されていることが確認された。さらに上記と同様な方法でpBS185DNAをEcoRI消化したプローブBを用いてサザン解析を行った結果、これらG418感受性株にプローブBとハイブリダイズする特異的なバンドは検出されなかったことから、Creレコンビナーゼを含むpBS185は感受性株染色体に挿入されていないと考えられる。すなわち、これらの感受性株は実施例48-4に示した抗体軽鎖ノックアウトベクター (G418耐性遺伝子の両側にloxP配列が存在する) による形質転換を行うことができる。
(実施例53)抗体重鎖欠損ES細胞株へのヒト14番染色体(抗体重鎖)の導入
(実施例52)で得られた、内在性の抗体重鎖を欠損するマウスES細胞株(TT2F由来、G418感受性)に(実施例9)で示した通りにG418耐性遺伝子によりマーキングされたヒト14番染色体(抗体重鎖遺伝子を含む)をミクロセル法により導入する。得られるG418耐性株においてPCR解析等(実施例9)によりヒト抗体重鎖遺伝子を含むヒト14番染色体(断片)の保持が確認される。
(実施例54)ヒト14番染色体(断片)を保持する抗体重鎖欠損ES細胞株へのヒト2番染色体断片あるいは22番染色体の導入
(実施例53)で得られた、ヒト14番染色体断片を保持する抗体重鎖欠損マウスES細胞株(G418耐性)に(実施例18、35)で示した通りにピューロマイシン耐性遺伝子によりマーキングされたヒト2番染色体断片(抗体軽鎖κ遺伝子を含む)あるいはヒト22番染色体(抗体軽鎖λ遺伝子を含む)をミクロセル法により導入する。得られるピューロマイシン、G418二重薬剤耐性株においてPCR解析等(実施例18、35)によりヒト14番染色体(断片)及び2番染色体断片あるいは22番染色体(断片)の保持が確認される。
(実施例55)ヒト抗体重鎖遺伝子を含む14番染色体(断片)を保持する内在性抗体重鎖欠損マウスES細胞からのキメラマウス作成
(実施例53)で取得されるヒト抗体重鎖遺伝子を含む14番染色体(断片)を保持する内在性抗体重鎖遺伝子欠損マウスES細胞株からのキメラマウス作成は(実施例10)で示した方法により行う。ここで得られるキメラマウスにおいては、ES細胞株由来のB細胞で産生されるヒト抗体重鎖が(実施例14)で示した方法により検出される。また、このES細胞由来のB細胞において機能的な抗体重鎖遺伝子は導入染色体上のヒト由来のもののみであるので、ES細胞株由来B細胞の多くはヒト抗体重鎖を産生する。
(実施例56)ヒト14番+2番、14番+22番染色体(断片)を保持する内在性抗体重鎖欠損マウスES細胞からのキメラマウス作成
(実施例54)で取得されるヒト14番+2番、14番+22番染色体(断片)を保持する内在性抗体重鎖遺伝子欠損マウスES細胞株からのキメラマウス作成は(実施例19、36)等で示した方法により行う。ここで得られるキメラマウスにおいては、ES細胞株由来のB細胞でヒト抗体重鎖及び軽鎖κあるいは軽鎖λが(実施例14、23、32)で示した方法により検出される。また、(実施例55)と同様にこのES細胞由来のB細胞において機能的な抗体重鎖遺伝子は導入染色体上のヒト由来のもののみであるので、ES細胞由来B細胞の多くはヒト抗体重鎖を産生する。さらに、(実施例37、38)で示したように重鎖、軽鎖が共にヒト由来である完全なヒト抗体分子が検出される。
(実施例57)ヒト14番+2番、14番+22番染色体(断片)を保持する内在性抗体重鎖欠損マウスES細胞由来キメラマウスからのヒト抗体産生ハイブリドーマ取得
(実施例15、25、34)と同様に(実施例56)で作成されるキメラマウスに目的とする抗原で免疫し、脾臓を取り出し、ミエローマ細胞と細胞融合し、ハイブリドーマを作成する。1〜3週間培養し培養上清をELISA法で解析する。ELISA法は(実施例14、15、21、24、25、33、34、37、38)に示した方法で行ない、ヒト抗体陽性及びヒト抗体陽性かつ免疫した抗原特異的クローンを得る。
(実施例58)抗体重鎖欠損ホモ接合体マウスES細胞からの抗体軽鎖遺伝子破壊株の取得
(実施例52)で取得した抗体重鎖欠損ホモ接合体TT2F細胞株(G418感受性)においてさらに抗体軽鎖遺伝子を破壊した相同組換え体を以下の手順で取得する。(実施例48-4)で作成した抗体軽鎖ターゲッティングベクターを制限酵素KpnI(宝酒造)で線状化し、(相沢慎一、バイオマニュアルシリーズ8,ジーンターゲティング, 羊土社, 1995)の方法に従い上記TT2F細胞株(G418感受性)へ導入する。7〜9日後に生じたコロニーをピックアップし、(実施例49)に示した方法で凍結保存、ゲノムDNAを取得する。G418耐性株ゲノムDNAを制限酵素EcoRIとNotI(宝酒造)で消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後サザンブロット解析を行ない、(実施例48-4)に示したプローブで相同組換え体を検出する。
(実施例59)抗体軽鎖相同組換え体からの2重破壊株の取得
(実施例58)で得られたTT2F抗体軽鎖相同組換え体(かつ抗体重鎖欠損ホモ接合体)について軽鎖両側アレルの破壊株を以下の手順により取得する。(実施例51)と同様な方法で高濃度G418耐性株を取得し、凍結保存、DNA取得を行なう。高濃度G418耐性株ゲノムDNAを制限酵素EcoRIとNotI(宝酒造)で消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後サザンブロットを行ない、(実施例48-4)に示したプローブで両側アレルの破壊された株を検出する。
(実施例60)抗体軽鎖欠損ホモ接合体(かつ抗体重鎖欠損ホモ接合体)TT2F細胞株からのG418耐性マーカー遺伝子の除去
(実施例59)で取得された抗体軽鎖両側アレル破壊株(高濃度G418耐性株)のG418耐性マーカー遺伝子を(実施例52)で示した手順により除去する。G418耐性マーカー遺伝子の両側に挿入したloxP配列(実施例48-1)の間で部位特異的組換えを起こすCreレコンビナーゼ遺伝子を含む発現ベクターpBS185(BRL)を(実施例52)の方法に従い上記の株へ導入する。(実施例52)と同様に得られるG418感受性株を35mmシャーレでコンフルーエントになるまで増殖させ、その4/5を0.5mlの保存用培地(ES培地+10%DMSO<シグマ>)に懸濁し、-80℃にて凍結保存する。残りの1/5は12穴ゼラチンコートプレートに播種し、2日間培養して(実施例2)に示した方法でゲノムDNAを取得する。これらのG418感受性TT2F細胞ゲノムDNAを制限酵素EcoRI(宝酒造)で消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後サザンブロットを行ない、G418耐性遺伝子を含むpSTneoB由来3.2kbXhoI断片をプローブとし、G418耐性遺伝子の除去を確認する。
(実施例61)抗体重鎖、軽鎖欠損ES細胞株へのヒト14番染色体(抗体重鎖)の導入
(実施例60)で得られた、内在性の抗体重鎖及び軽鎖の両者を欠損するマウスES細胞株(TT2F由来、G418感受性)に(実施例9)で示した通りにG418耐性遺伝子によりマーキングされたヒト14番染色体(ヒト抗体重鎖遺伝子を含む)をミクロセル法により導入する。得られるG418耐性株においてPCR解析等(実施例9)によりヒト抗体重鎖遺伝子を含むヒト14番染色体(断片)の保持が確認される。
(実施例62)抗体重鎖、軽鎖欠損かつヒト14番染色体(抗体重鎖)を保持するES細胞株へのヒト2番染色体(軽鎖κ)の導入
(実施例61)で得られた、内在性抗体重鎖及び軽鎖欠損かつヒト14番染色体を保持するマウスES細胞株(TT2F由来、G418耐性)に(実施例18)で示した通りにピューロマイシン耐性遺伝子でマーキングされたヒト2番染色体(ヒト抗体軽鎖κ遺伝子を含む)部分断片をミクロセル法により導入する。得られるピューロマイシン、G418二重薬剤耐性株においてPCR解析等(実施例18)によりヒト14番染色体(断片)及び2番染色体断片の保持が確認される。
(実施例63)抗体重鎖、軽鎖欠損かつヒト14番染色体(抗体重鎖)を保持するES細胞株へのヒト22番染色体(軽鎖λ)の導入
(実施例61)で得られた、内在性抗体重鎖及び軽鎖欠損かつヒト14番染色体を保持するマウスES細胞株(TT2F由来、G418耐性)に(実施例35)で示した通りにピューロマイシン耐性遺伝子でマーキングされたヒト22番染色体(ヒト抗体軽鎖λ遺伝子を含む)をミクロセル法により導入する。得られるピューロマイシン、G418二重耐性株においてPCR解析等(実施例35)によりヒト14番染色体(断片)及び22番染色体(断片)の保持が確認される。
(実施例64)ヒト2番(抗体軽鎖κ)、14番(抗体重鎖)、22番(抗体λ鎖)染色体あるいはその部分断片を同時に保持する内在性抗体重鎖、軽鎖欠損マウスES細胞の取得
3種のヒト染色体を同時に保持するマウスES細胞を得るために、ヒト2番あるいは22番染色体をブラストサイジン耐性(Izumiら、Exp. Cell. Res., 197, 229, 1991)、ハイグロマイシン耐性(Windら、Cell, 82, 321-, 1995)等のマーカー遺伝子の挿入によりマーキングする。これは(実施例16、26)に示した方法により行う。(実施例62)で得られた、内在性抗体重鎖及び軽鎖欠損でありかつヒト14番染色体(断片)及び2番染色体部分断片を保持するマウスES細胞株(TT2F由来、G418耐性、ピューロマイシン耐性)に(実施例9)で示した方法と同様にブラストサイジン耐性あるいはハイグロマイシン耐性等でマーキングされたヒト22番染色体(ヒト抗体軽鎖λ遺伝子を含む)を導入する。ES細胞培養用のフィーダー細胞はそれぞれの選択マーカーに適したものを使用する。ハイグロマイシン耐性マーカーを使用する場合は、そのマーカーを保持し、発現するトランスジェニックマウス系統より得た初代培養繊維芽細胞(Johnsonら、Nucleic Acids Research, vol. 23, No. 7, 1273-, 1995)を使用する。得られるG418、ピューロマイシン、ハイグロマイシン(あるいはブラストサイジン)三重耐性株は上記3種のヒト染色体(断片)を保持していることがPCR解析等(実施例9、18、35)により確認される。(実施例63)で得られた内在性抗体重鎖及び軽鎖欠損でありかつヒト14番染色体(断片)及び22番染色体部分断片を保持するマウスES細胞株(TT2F由来、G418耐性、ピューロマイシン耐性)へのハイグロマイシンあるいはブラストサイジン耐性遺伝子でマーキングされたヒト2番染色体断片の導入も同様に行う。
(実施例65)ヒト抗体遺伝子 (重鎖+軽鎖)を含む染色体(断片)を保持する内在性抗体重鎖、軽鎖遺伝子欠損マウスES細胞からのキメラマウス作成
(実施例61、62、63、64)で取得されるヒト抗体遺伝子を含む染色体(断片)を保持する内在性抗体重鎖、軽鎖遺伝子欠損マウスES細胞株からのキメラマウス作成は(実施例10)等で示した方法により行う。ここで得られるキメラマウスにおいては、宿主胚由来のB細胞で産生されるマウス抗体とES細胞株由来のB細胞で主に産生されるヒト抗体が(実施例14、23、32)で示した方法により検出される。また、このES細胞由来のB細胞において機能的な抗体重鎖及び軽鎖κ遺伝子は導入染色体上のヒト由来のもののみであるので、ES細胞由来のB細胞の多くはヒト抗体重鎖及び軽鎖κを産生する( Lonbergら, Nature, 368, 856-, 1994)。さらに、(実施例37、38)で示した方法により重鎖、軽鎖が共にヒト由来である完全なヒト抗体分子が検出される。
(実施例66)ヒト抗体遺伝子(重鎖+軽鎖)を含む染色体(断片)を保持する内在性抗体重鎖、軽鎖遺伝子欠損マウスES細胞由来キメラマウスからのヒト抗体産生ハイブリドーマ取得
(実施例25)と同様に(実施例65)で得られるキメラマウスに目的とする抗原で免疫し、脾臓を取り出し、ミエローマ細胞と細胞融合し、ハイブリドーマを作成する。1〜3週間培養し培養上清をELISA法で解析する。ELISA法は(実施例14、15、21、22、23、24、25、33、34、37、38)に示した方法で行ない、ヒト抗体陽性及びヒト抗体陽性かつ免疫した抗原特異的クローンを得る。
(実施例67)重鎖遺伝子欠損宿主胚とのキメラマウス作成
(実施例49)で作成した内在性抗体重鎖片側アレル欠損TT2F細胞株由来キメラマウスの子孫のうち野性色を示すものについてサザン解析あるいはPCR(実施例49)等により欠損アレルを保持する個体を選抜する(期待される確率は1/2である)。これらの抗体重鎖欠損ヘテロ接合体の雌雄個体の交配により生まれる子マウスについてサザン解析(実施例49参照)、リンパ球表面でのμ鎖発現(Kitamuraら, Nature, 350, 423-,1991)等の解析を行い、両側アレルが欠損し、自身の機能的な抗体をほとんど産生できない抗体重鎖欠損ホモ接合体を得ることができる(期待される確率は1/4である、膜型μ鎖欠損マウスにおける結果:Kitamuraら, Nature, 350, 423-,1991参照)。清浄な環境で飼育したホモ接合体雌雄個体の交配により得られる胚をキメラマウス作成の際の宿主として利用できる。この場合キメラマウスにおいて機能的なB細胞はほとんど注入したES細胞に由来する。RAG-2欠損マウス(Shinkaiら, Cell, 68, 855-, 1992)等、機能的なB細胞を自ら作ることができない他のマウス系統もこの目的に同様に利用できる。このシステムにおいて(実施例62、63、64)で得られる内在性抗体重鎖及び軽鎖欠損かつヒト14番+2番あるいは14番+22番あるいは14番+2番+22番染色体(断片)を保持するマウスES細胞株を使用し(実施例10)等に示した方法でキメラマウスを作成する。得られるキメラマウスではES細胞由来のB細胞において機能的なヒト抗体重鎖(14番染色体上)、軽鎖κ(2番染色体上)、軽鎖λ(22番染色体上)遺伝子より主にヒト重鎖及びヒト軽鎖からなる抗体を生産する。
(実施例68)ヒト14番染色体(断片)導入ES細胞由来キメラマウス子孫におけるヒト染色体の保持
(実施例9)と同様な方法及び、(実施例9)のマウスES細胞をTT2F(39、XO、実施例39)に置き換えた方法を利用して得られるヒト14番染色体(断片)を保持するキメラマウスと野生型ICRマウス(アルビノ、日本クレア社)を混合して交配する。誕生する野生色の子マウスの尻尾より調製したゲノムDNAについてヒト14番染色体断片の保持をPCR法により検討する(実施例9、42、43参照)。ヒト14番染色体(断片)を保持するマウスES細胞株は(実施例42)及び(実施例43)で示した通りにキメラマウス中で機能的な卵子あるいは精子に分化し、それ由来の子孫にヒト14番染色体(断片)が伝達可能である。すなわちヒト抗体重鎖遺伝子を含む14番染色体(断片)を保持する継代可能なマウス系統を確立することができる。本実施例及び以下の実施例69〜74において、ヒト14番染色体(断片)はヒト抗体重鎖遺伝子、ヒト2番染色体(断片)はヒト抗体κ鎖遺伝子を、ヒト22番染色体(断片)はヒト抗体λ鎖遺伝子を、それぞれ含むものを指す。
(実施例69)ヒト22番染色体(断片)導入ES細胞由来キメラマウス子孫におけるヒト染色体の保持
(実施例30)と同様な方法及び、(実施例30)のマウスES細胞をTT2F(39、XO)に置き換えた方法を利用して得られるヒト22番染色体(断片)を保持するキメラマウスとICRマウスを混合して交配する。誕生する野生色の子マウスの尻尾より調製したゲノムDNAについてヒト22番染色体断片の保持をPCR法により検討する(実施例30、42、43参照)。ヒト22番染色体あるいはその部分断片を保持するマウスES細胞株は(実施例42)及び(実施例43)で示した通りにキメラマウス中で機能的な卵子あるいは精子に分化し、それ由来の子孫にヒト22番染色体(断片)が伝達可能である。すなわちヒト抗体軽鎖λ遺伝子を含む22番染色体(断片)を保持する継代可能なマウス系統を確立することができる。
(実施例70)ヒト2番染色体断片及び14番染色体(断片)を同時に保持するマウス個体の交配による作成
(実施例42)あるいは(実施例43)で得られたヒト2番染色体断片を保持するマウス系統と(実施例68)で得られるヒト14番染色体(断片)を保持するマウス系統を交配することにより生まれる子マウスの尻尾より調製したゲノムDNAをPCR法等(実施例9、42、43)により解析して、ヒト2番染色体部分断片及びヒト14番染色体(断片)を同時に保持する個体を得る。
(実施例71)ヒト22番染色体(断片)及び14番染色体(断片)を同時に保持するマウス個体の交配による作成
(実施例69)で得られるヒト22番染色体(断片)を保持するマウス系統と(実施例68)で得られるヒト14番染色体(断片)を保持するマウス系統を交配することにより生まれる子マウスの尻尾より調製したゲノムDNAをPCR法等(実施例30、42、43)により解析して、ヒト22番染色体(断片)及びヒト14番染色体(断片)を同時に保持する個体を得る。
(実施例72)ヒト2番染色体断片、14番染色体(断片)及び22番染色体(断片)を同時に保持するマウス個体の交配による作成
(実施例71)で得られるヒト22番染色体(断片)及びヒト14番染色体(断片)を保持するマウス系統を(実施例42、43)で得られたヒト2番染色体断片を保持するマウス系統と交配することにより生まれる子マウスの尻尾より調製したゲノムDNAをPCR法等(実施例9、30、42、43)により解析して、ヒト22番染色体(断片)及びヒト14番染色体(断片)及びヒト2番染色体部分断片の3種のヒト染色体を同時に保持する個体を得る。あるいは(実施例70)で得られるヒト2番染色体(断片)及びヒト14番染色体(断片)を保持するマウス系統と(実施例69)で得られるヒト22番染色体断片を保持するマウス系統と交配することによっても同様に3種のヒト染色体を同時に保持するマウス個体を得る。
(実施例73)完全なヒト抗体を主として産生するマウス系統の交配による作成
ヒト2番+14番(実施例70)、14番+22番(実施例71)、2番+14番+22番(実施例72)染色体を保持するマウス系統を内在性抗体重鎖 (実施例67; Kitamuraら, Nature, 350, 423-, 1991)、軽鎖κ (Zouら, EMBO J., 12, 811-, 1993; Chen ら, EMBO J., 12, 821-, 1993)遺伝子を欠損しているマウス系統と交配を繰り返し、ヒト2番+14番、14番+22番、または2番+14番+22番染色体を保持するマウスをPCR解析等(実施例9、30、42、43)により選抜し、主に完全なヒトを産生するマウス系統を確立する(Greenら, Nature Genetics, 7, 13-, 1994, Lonbergら, Nature, 368, 856-, 1994)。
(実施例74)交配により得られるヒト抗体遺伝子を含むヒト染色体を保持するマウス系統からのヒト抗体産生ハイブリドーマ取得
(実施例25)と同様に(実施例42、43、68、69、70、71、72、73)で得られるヒト抗体遺伝子を含むヒト染色体を保持するマウス個体に目的とする抗原で免疫し、脾臓を取り出し、ミエローマ細胞と細胞融合し、ハイブリドーマを作成する。1〜3週間培養し培養上清をELISA法で解析する。ELISA法は(実施例14、15、21、22、25、33、34、37、38)に示した方法で行ない、ヒト抗体陽性及びヒト抗体陽性かつ免疫した抗原特異的クローンを得る。
(実施例75) マウス抗体重鎖両側アレル破壊TT2F細胞株由来キメラマウスの血清中のマウスIgMの検出および定量
(実施例51)で取得されたマウス抗体重鎖両側アレル破壊TT2F細胞株(#131-3)より(実施例40)に示した方法で誕生した子マウスのうちキメラ率がそれぞれ0%、50% 、99% の3個体について血清中のマウスIgMの検出および定量を行った。生後約2週齢のキメラマウスより採血し血清中のマウスIgM濃度を (実施例14) のELISA 法を用いて定量した。PBSで希釈した抗マウスIgM抗体(Kirkegaard & Perry Laboratories Inc., 01-18-03)を固定し、次いで5%FBSを添加したPBSで希釈した血清試料を加えた。ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgM抗体(Kirkegaard & Perry Laboratories Inc., 074-1803)を加え、TMBZを基質とし、450 nmの吸光度を測定した。精製されたマウスIgM(ファーミンジェン、03081D) を標準とし段階的にFBS添加のPBSで希釈した。結果を第20表に示す。マウス抗体重鎖の両側アレルが破壊されたTT2F細胞由来のキメラマウスのうち、キメラ率が99% のものはマウスIgM濃度が低く、ES細胞のマウス重鎖遺伝子がほとんど機能しないことが確認された。
Figure 2007312792
第1図は、ヒト2番染色体(断片)を保持するA9細胞の解析(PCR解析)の結果が示されている。 第2図は、E14耐性株においてヒト22番染色体(断片)が保持されていることが示されている(PCR解析)。 第3図は、22番染色体導入ES細胞由来キメラマウスにおいてヒトL1配列が保持されていることを示す電気泳動写真である(サザン解析)。 第4図は、ヒト22番染色体導入キメラマウス臓器におけるヒト染色体の保持の様子を示す電気泳動写真である(PCR解析)。 第5図は、ヒト22番染色体導入キメラマウスにおけるヒト遺伝子発現(RT-PCR)の結果を示す電気泳動写真である。 第6図は、ヒト22番染色体導入キメラマウス臓器におけるヒト遺伝子発現(RT-PCR)の結果を示す電気泳動写真である。 第7図は、E14耐性株においてヒト4番染色体(断片)が保持されていることが示されている(PCR解析)。 第8図は、ヒト4番染色体導入E14細胞株におけるヒトL1配列の検出(サザン解析)の結果を示す電気泳動写真である。 第9図は、ヒト4番染色体導入ES細胞由来キメラマウスにおいてヒトL1配列が保持されていることを示す電気泳動写真である(サザン解析)。 第10図は、TT2耐性株においてヒト14番染色体(断片)が保持されていることが示されている(PCR解析)。 第11図は、ヒト14番染色体導入ES細胞由来キメラマウス臓器におけるヒト染色体の保持の様子を示す電気泳動写真である(PCR解析)。 第12図は、尻尾由来繊維芽細胞G418耐性テストの結果が示されている。 第13図は、ヒト血清アルブミン免疫キメラマウス血清中のヒト抗体IgM濃度(ELISA)が示されている。 第14図は、ヒト血清アルブミン免疫キメラマウス血清中のヒト抗体IgG濃度(ELISA)が示されている。 第15図は、ヒトIgM産生ハイブリドーマクローンH4B7の解析(ELISA)の結果が示されている。 第16図は、ヒト2番染色体部分断片及び14番染色体部分断片を保持するマウスES細胞株(TT2細胞株PG15)のFISH解析の結果を示す染色体の形態の写真である。 第17図は、ヒト血清アルブミン免疫キメラマウス血清中の抗ヒト血清アルブミンヒトIgG抗体価の増加が示されている。 第18図は、ヒト血清アルブミン免疫キメラマウス血清中の抗ヒト血清アルブミンヒトIgκ抗体価の増加が示されている。 第19図は、ヒト22番染色体導入TT2細胞株におけるヒトL1配列の検出(サザン解析)の結果を示す電気泳動写真である。 第20図は、ヒト血清アルブミン免疫キメラマウス血清中の抗ヒト血清アルブミンヒトIgλ抗体価の増加が示されている。 第21図は、ヒト2番染色体部分断片導入キメラマウスの子孫においてヒト2番染色体部分断片が保持されていることが示されている(PCR解析)。 第22図は、ヒト14番染色体導入キメラマウス脾臓において細胞表面にヒトμ鎖が発現している細胞の存在を示している(フローサイトメトリー解析)。 第23図は、LoxP-pstNEOプラスミドDNAの構造を示している。 第24図は、マウス抗体重鎖CμのゲノムDNAの構造を示している。 第25図は、マウス抗体軽鎖κのゲノムDNAの構造を示している。 第26図は、マウス抗体重鎖ターゲッティングベクター及び、サザンブロット用プローブの構造と相同組換え体で検出されるべきDNA断片について示している。 第27図は、マウス抗体軽鎖κターゲッティングベクター及び、サザンブロット用プローブの構造と相同組換え体で検出されるべきDNA断片について示している。 第28図は、マウス抗体重鎖相同組換え体及び相同組換え体由来高濃度G418耐性株のサザン解析の結果を示す電気泳動写真である。
配列番号1〜62 人工配列の説明:合成DNA

Claims (10)

  1. 非ヒト動物においてヒト遺伝子を発現することを可能にする、かつ塩基長が1Mb以上である、単離されたヒト染色体またはその断片であって、該染色体またはその断片が、ヒト2番染色体断片、ヒト4番染色体断片、およびヒト22番染色体もしくはその断片からなる群から選択されるものである、前記ヒト染色体またはその断片。
  2. 前記ヒト遺伝子がヒト抗体遺伝子である、請求項1に記載のヒト染色体またはその断片。
  3. 前記ヒト抗体遺伝子がヒト軽鎖κ遺伝子またはヒト軽鎖λ遺伝子である、請求項2に記載のヒト染色体またはその断片。
  4. 前記ヒト2番染色体断片が、2番染色体の多型性および遺伝子マーカーvk1−2、vk3−2およびCkを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒト染色体またはその断片。
  5. 前記ヒト2番染色体断片が、2番染色体の多型性および遺伝子マーカーS207、S177、vk1−2、vk3−2、Ck、S156およびS159を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒト染色体またはその断片。
  6. 前記ヒト4番染色体断片が、4番染色体の多型性および遺伝子マーカーF11およびD4S426を含む、請求項1に記載のヒト染色体またはその断片。
  7. 前記ヒト4番染色体断片が、4番染色体の多型性および遺伝子マーカーIL−2、D4S422、FABP2、D4S413、F11およびD4S426を含む、請求項1に記載のヒト染色体またはその断片。
  8. 前記ヒト4番染色体断片が、4番染色体の多型性および遺伝子マーカーD4S412、HD、D4S418、KIT、D4S395、IL−2、D4S422、FABP2、D4S413、F11およびD4S426を含む、請求項1に記載のヒト染色体またはその断片。
  9. 前記ヒト22番染色体もしくはその断片が、22番染色体の多型性および遺伝子マーカーD22S315、D22S275、D22S278、Igλ、D22S272、PVALB、MB、DIA1、ARSAおよびD22S274を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒト染色体またはその断片。
  10. 請求項4〜9のいずれか1項に記載のヒト染色体またはその断片を含む非ヒト動物。
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