JP2007297882A - コンクリート補強ネットおよびコンクリート構造体 - Google Patents
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Abstract
【課題】コンクリートの落下や、トンネル内の覆工コンクリートのはく落を防止する目的で、コンクリート内に設置する補強筋であり、鉄筋ではなく塩害等による腐食が起きない化学系繊維のネットに置き換えたコンクリート内に設置する補強筋において、RC構造のコンクリート構造体においてせん断補強効果を有する化学系繊維のコンクリート補強ネットを提供する。
【解決手段】複数本の糸状の化学繊維を縒って線状の化学繊維束とし、該化学繊維束を格子状に組むことから成る化学系繊維ネットであって、該化学繊維束の線径が1.5mm〜5mmであり、格子間隔が20mm〜40mmであり、RC構造のコンクリート構造体のせん断補強筋として用いることを特徴とするコンクリート補強ネット。
【選択図】図1
【解決手段】複数本の糸状の化学繊維を縒って線状の化学繊維束とし、該化学繊維束を格子状に組むことから成る化学系繊維ネットであって、該化学繊維束の線径が1.5mm〜5mmであり、格子間隔が20mm〜40mmであり、RC構造のコンクリート構造体のせん断補強筋として用いることを特徴とするコンクリート補強ネット。
【選択図】図1
Description
本発明は、コンクリート内に設置する補強筋を、鉄筋のように塩害等による腐食が起きない化学系繊維のネットに置き換える技術に関し、詳しくは、RC構造のコンクリート構造体においてせん断補強効果を有するコンクリート補強ネットおよびコンクリート補強ネットを用いたコンクリート構造体を提供する技術に関する。
従来から、コンクリート製高架橋床板のかぶりコンクリートの落下や、トンネル内の覆工コンクリートのはく落を防止する目的で、コンクリート製造時に埋設する補強筋として、鉄筋ではなく、塩害等により腐食しない化学繊維系やグラスファイバー系のネットやシートを用いる技術が知られている。
また、特許文献1には、RC(Reinforced−Concrete)梁において、せん断補強筋であるスターラップの代替として、ポリエチレン製の無結ネットを用いる技術が開示されている。ここでは、せん断補強筋としてポリエチレン製無結ネットを用いるが、実施例においてネットを主筋に2重に巻きつけている。また、主筋として、PC(Prestressed−Concrete)棒鋼を用いており、荷重がかかったときの引張耐力を向上させた特殊構造の梁を用いている。
また、発明者による既研究では、RC梁において、化学系繊維ネットである漁網をスターラップの替わりとして用いた場合、じん性能力が確保できることを確認している(非特許文献1参照)。
発明者の既研究である非特許文献1では、RC梁において、スターラップの替わりにネット一本(繊維数本の集合体)の破断強度が約6Nである格子間隔25mmのポリエチレン製ネットを主筋と圧縮鉄筋に巻きつけた製品を作製した。また、巻きつけは一重と二重にて作製した。また、ポリエチレン製ネットよりも伸縮を復元する力の強いテトロンラッセル製のネットを用いたRC梁を、ポリエチレン製ネットと同様の方法により作製した。ただし、テトロンラッセル製ネットは、格子間隔が13mmであった。しかしながら、載荷試験を行った結果、いずれのRC梁においても、曲げひび割れが斜めひび割れに進展するのが早く、曲げ降伏した後にせん断破壊するという破壊モードは実現できなかった。
特許文献1に記載の実施例においては、PC棒鋼を主筋としたRC梁において、スターラップの替わりに糸径が1.2mmであり網目寸法40×40mmの高強力・高弾性率ポリエチレン製無結ネットを主筋に2重にまきつけた製品を作製し、載荷試験を行っている。その結果、”せん断ひび割れがかなり進んだ状態でも、無結ネットによりせん断耐力が保持されている”と記載されているが、せん断破壊後に曲げ破壊に移行できるせん断耐力を保持できていたか否かについては記載されていない。
本発明は、ポリエチレン、ポリエステル等の化学系繊維ネットを、RC構造のコンクリート構造体にてせん断補強筋として使用できるように、ネットの格子間隔、糸径等の最適条件を検討し、せん断補強筋としてのコンクリート補強ネットおよびそれらを用いたコンクリート構造体を提供することを目的とする。
第1の観点では、本発明は、複数本の糸状の化学繊維を縒って線状の化学繊維束とし、該化学繊維束を格子状に組むことから成る化学系繊維ネットであって、該化学繊維束の線径が1.5mm〜5mmであり、格子間隔が20mm〜40mmであり、RC構造のコンクリート構造体のせん断補強筋として用いることを特徴とするコンクリート補強ネットを提供する。
上記第1の観点によるコンクリート補強ネットは、糸状に成形された化学繊維を複数本縒って線形が1.5mm〜5mmとなるロープ状の化学繊維束を作製し、その化学繊維束を格子間隔が20mm〜40mmとなる網状に組むことにより作製される。ここで、格子間隔とは、格子形状がひし形になる場合を想定して、格子の一辺の長さとする。このコンクリート補強ネットをRC梁であれば、スターラップの代替またはスターラップとの併用をするせん断補強筋として用いることにより、RC梁における鉄筋の量の減量、鉄筋の腐食によるじん性能力の低下を防ぐことができる。また、スターラップの代替となる場合、スターラップの径よりもコンクリート補強ネットの径は細いため、かぶりコンクリートの厚みを減少させることができる。
上記第1の観点によるコンクリート補強ネットは、糸状に成形された化学繊維を複数本縒って線形が1.5mm〜5mmとなるロープ状の化学繊維束を作製し、その化学繊維束を格子間隔が20mm〜40mmとなる網状に組むことにより作製される。ここで、格子間隔とは、格子形状がひし形になる場合を想定して、格子の一辺の長さとする。このコンクリート補強ネットをRC梁であれば、スターラップの代替またはスターラップとの併用をするせん断補強筋として用いることにより、RC梁における鉄筋の量の減量、鉄筋の腐食によるじん性能力の低下を防ぐことができる。また、スターラップの代替となる場合、スターラップの径よりもコンクリート補強ネットの径は細いため、かぶりコンクリートの厚みを減少させることができる。
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点によるコンクリート補強ネットにおいて、化学繊維の材質がポリエチレンであり、化学繊維束の線径が3mm〜5mmであり、格子間隔が35mm〜40mmであることを特徴とするコンクリート補強ネットを提供する。
上記第2の観点によるコンクリート補強ネットでは、化学繊維の材質がポリエチレンである場合、化学繊維束の線径を3mm〜5mmとすることにより、化学繊維束自体の引張り強度を確保する。また、格子間隔を35mm〜40mmとすることにより、3mm〜5mmの線径と、比較的太い線径であっても、格子間隔が狭過ぎることによるコンクリートの充填効率の低下を防ぐことができ、かつ、格子間隔が広すぎることによるネットの引張り強度の低下を防ぐことができる。
上記第2の観点によるコンクリート補強ネットでは、化学繊維の材質がポリエチレンである場合、化学繊維束の線径を3mm〜5mmとすることにより、化学繊維束自体の引張り強度を確保する。また、格子間隔を35mm〜40mmとすることにより、3mm〜5mmの線径と、比較的太い線径であっても、格子間隔が狭過ぎることによるコンクリートの充填効率の低下を防ぐことができ、かつ、格子間隔が広すぎることによるネットの引張り強度の低下を防ぐことができる。
第3の観点では、本発明は、前記第2の観点によるコンクリート補強ネットにおいて、化学繊維束の線径が3.4mmであり、格子間隔が37mmであることを特徴とするコンクリート補強ネットを提供する。
第4の観点では、本発明は、前記第2の観点によるコンクリート補強ネットにおいて、化学繊維束の線径が4.0mmであり、格子間隔が37.5mmであることを特徴とするコンクリート補強ネットを提供する。
第5の観点では、本発明は、前記第1の観点によるコンクリート補強ネットにおいて、化学繊維の材質がポリエステルであり、化学繊維束の線径が1.5mm〜3mmであり、格子間隔が20mm〜30mmであることを特徴とするコンクリート補強ネットを提供する。
上記第5の観点によるコンクリート補強ネットでは、化学繊維の材質がポリエステルである場合、化学繊維束の線径を1.5mm〜3mmとすることにより、化学繊維束自体の引張り強度を確保する。また、格子間隔を20mm〜30mmとすることにより、格子間隔が狭過ぎることによるコンクリートの充填効率の低下と格子間隔が広すぎることによるネットの引張り強度の低下を防ぐことができる。
上記第5の観点によるコンクリート補強ネットでは、化学繊維の材質がポリエステルである場合、化学繊維束の線径を1.5mm〜3mmとすることにより、化学繊維束自体の引張り強度を確保する。また、格子間隔を20mm〜30mmとすることにより、格子間隔が狭過ぎることによるコンクリートの充填効率の低下と格子間隔が広すぎることによるネットの引張り強度の低下を防ぐことができる。
第6の観点では、本発明は、前記第5の観点によるコンクリート補強ネットにおいて、化学繊維束の線径が2.0mmであり、格子間隔が25.0mmであることを特徴とするコンクリート補強ネットを提供する。
第7の観点では、本発明は、前記第1〜6のいずれかの観点によるコンクリート補強ネットにおいて、作製に漁網の製法を用いることを特徴とするコンクリート補強ネットを提供する。
上記第7の観点によるコンクリート補強ネットでは、ネットの作製に漁網を作製する際の製法を用いる。例えば、引張り強度向上のための樹脂コーティング等の特殊な工程を含めないことも可能である。
上記第7の観点によるコンクリート補強ネットでは、ネットの作製に漁網を作製する際の製法を用いる。例えば、引張り強度向上のための樹脂コーティング等の特殊な工程を含めないことも可能である。
第8の観点では、本発明は、前記第1〜7のいずれかの観点によるコンクリート補強ネットにおいて、格子状に組む部分が有結であることを特徴とするコンクリート補強ネットを提供する。
上記第8の観点によるコンクリート補強ネットでは、化学繊維束が格子状に組まれる部分が結び目のない無結ではなく、結び目のある有結である。有結にすることにより、ネットのコンクリートとの接面を増大し、ネットとコンクリートの密着を良くし、コンクリート構造体のじん性能力を向上させる。
上記第8の観点によるコンクリート補強ネットでは、化学繊維束が格子状に組まれる部分が結び目のない無結ではなく、結び目のある有結である。有結にすることにより、ネットのコンクリートとの接面を増大し、ネットとコンクリートの密着を良くし、コンクリート構造体のじん性能力を向上させる。
第9の観点では、本発明は、前記第1〜8のいずれかの観点によるコンクリート補強ネットがせん断補強筋であることを特徴とするRC構造のコンクリート構造体を提供する。
上記第9の観点によるRC構造のコンクリート構造体では、上記のいずれかのコンクリート補強ネットをせん断補強筋とするRC構造のコンクリート構造体である。例えば、コンクリート補強ネットは、主筋を内接する形で1重に巻きつけることができる。
上記第9の観点によるRC構造のコンクリート構造体では、上記のいずれかのコンクリート補強ネットをせん断補強筋とするRC構造のコンクリート構造体である。例えば、コンクリート補強ネットは、主筋を内接する形で1重に巻きつけることができる。
第10の観点では、本発明は、前記第9の観点によるRC構造のコンクリート構造体において、RC梁であることを特徴とするRC構造のコンクリート構造体を提供する。
第11の観点では、本発明は、前記第9の観点によるRC構造のコンクリート構造体において、RC柱であることを特徴とするRC構造のコンクリート構造体を提供する。
本発明によれば、ネットの線径と格子間隔を適宜選択することにより、せん断破壊先行型から、曲げ降伏後のせん断破壊型へ破壊形式を移行させることができるせん断補強効果を有するせん断補強筋としてのコンクリート補強ネットを提供できる。
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
(試験体および使用した化学系繊維ネット)
本実験での試験体の形状寸法およびネットの定着状況の写真を図1に示す。本実験では、主筋のみでスターラップを配置しないもの、スターラップを配置したもの、スターラップの代わりにネットを配置したもの(以後、無補強試験体、スターラップ試験体、ネット試験体と称す)の3種類の試験体を作製した。試験体は、高さ200mm、幅100mm、長さ1800mmのRC梁を作製した。RC梁には軸方向鉄筋として、引張側にSD295A−D13(降伏点351N/mm2、弾性係数2.04×105kN/mm2)をそれぞれ2本ずつ配置した。また、せん断補強用鉄筋としてSD295A−D6を、せん断スパン区間内はピッチ150mmで配置した。
また、使用するネットはスターラップを配置した範囲と同様の位置に配置し、しっかり定着させるために圧縮軸方向鉄筋SD295A−D6を2本配置した。ネットは、せん断スパン毎に1枚ものとし、4本の圧縮鉄筋でネットの上端を固定した。
本実験での試験体の形状寸法およびネットの定着状況の写真を図1に示す。本実験では、主筋のみでスターラップを配置しないもの、スターラップを配置したもの、スターラップの代わりにネットを配置したもの(以後、無補強試験体、スターラップ試験体、ネット試験体と称す)の3種類の試験体を作製した。試験体は、高さ200mm、幅100mm、長さ1800mmのRC梁を作製した。RC梁には軸方向鉄筋として、引張側にSD295A−D13(降伏点351N/mm2、弾性係数2.04×105kN/mm2)をそれぞれ2本ずつ配置した。また、せん断補強用鉄筋としてSD295A−D6を、せん断スパン区間内はピッチ150mmで配置した。
また、使用するネットはスターラップを配置した範囲と同様の位置に配置し、しっかり定着させるために圧縮軸方向鉄筋SD295A−D6を2本配置した。ネットは、せん断スパン毎に1枚ものとし、4本の圧縮鉄筋でネットの上端を固定した。
本実験で使用した化学系繊維ネットの一覧を表1に示す。使用したネットは、素材がポリエチレン、ポリエステル、ナイロンの3種類であり、それぞれ格子間隔と径が異なる全9種類である。表中の名称は、[素材名―格子間隔×径]と表記をし、ポリエチレン:PE、ポリエステル:pe、ナイロン:Nとした。使用したネットの一例として、概観の写真を図8に示す。
コンクリートの示方配合を表2に示す。コンクリートの設計基準強度は21N/mm2を目標とし、2軸強制練りミキサを用い製造した。セメントは早強ポルトランドセメントを使用した。粗骨材は最大寸法20mm、細骨材は最大寸法5mmのものを使用した。混和剤はAE剤ポゾリスNo.303Aを使用した。
(載荷試験)
試験体は、コンクリートを型枠内に打ち込み、24時間後に脱型し、その後湿布養生を行った。所定の強度に達した時点で養生終了とし、直ちに載荷試験を行った。
載荷試験方法は、載荷点間300mm、支点間1500mmの2点集中載荷とした。載荷方式は、荷重制御とし、所定の荷重に達した時点で引張鉄筋および試験体側面の引張鉄筋位置および圧縮鉄筋位置のひずみ、試験体中央部のたわみの計測を行うと共に、いったん荷重を保持し、曲げおよび斜めひび割れの発生状況等の追跡を行った。最大荷重に至った後は、試験体が破壊するまで載荷を行った。
試験体は、コンクリートを型枠内に打ち込み、24時間後に脱型し、その後湿布養生を行った。所定の強度に達した時点で養生終了とし、直ちに載荷試験を行った。
載荷試験方法は、載荷点間300mm、支点間1500mmの2点集中載荷とした。載荷方式は、荷重制御とし、所定の荷重に達した時点で引張鉄筋および試験体側面の引張鉄筋位置および圧縮鉄筋位置のひずみ、試験体中央部のたわみの計測を行うと共に、いったん荷重を保持し、曲げおよび斜めひび割れの発生状況等の追跡を行った。最大荷重に至った後は、試験体が破壊するまで載荷を行った。
(実験結果〜破壊状況)
破壊後の各試験体側面のひび割れ状況を図2に示す。図中の破線は、ひび割れ幅が最も発達し弱点となった部分を示す。曲げひび割れ発生荷重および斜めひび割れ発生荷重は、各試験体とも10kNおよび35kN程度でほとんど差は見られなかった。
各試験体について同様な破壊となった。曲げひび割れの進展とともに、せん断スパンに発生した曲げひび割れが斜めひび割れとなって進展した。斜めひび割れ発生後、等曲げモーメント区間内の曲げひび割れはあまり進展せず、斜めひび割れが載荷点に向かって伸び、圧縮側コンクリートが圧壊する前に斜めひび割れが卓越して破壊するせん断破壊であった。しかしながら、最大荷重に至った後は脆性的な破壊とはならず、比較的緩やかに荷重は低下する結果となった。また、いずれの試験体についても最大荷重時にはネットは緊張していたものの破断は見られず、荷重が低下した後、荷重軟化域で数箇所破断するものも見られた。
破壊後の各試験体側面のひび割れ状況を図2に示す。図中の破線は、ひび割れ幅が最も発達し弱点となった部分を示す。曲げひび割れ発生荷重および斜めひび割れ発生荷重は、各試験体とも10kNおよび35kN程度でほとんど差は見られなかった。
各試験体について同様な破壊となった。曲げひび割れの進展とともに、せん断スパンに発生した曲げひび割れが斜めひび割れとなって進展した。斜めひび割れ発生後、等曲げモーメント区間内の曲げひび割れはあまり進展せず、斜めひび割れが載荷点に向かって伸び、圧縮側コンクリートが圧壊する前に斜めひび割れが卓越して破壊するせん断破壊であった。しかしながら、最大荷重に至った後は脆性的な破壊とはならず、比較的緩やかに荷重は低下する結果となった。また、いずれの試験体についても最大荷重時にはネットは緊張していたものの破断は見られず、荷重が低下した後、荷重軟化域で数箇所破断するものも見られた。
(実験結果〜最大荷重、主筋のひずみおよびたわみ)
各試験体の最大荷重および最大荷重時の主筋のひずみを図3に示す。図中の棒グラフが最大荷重、点が最大荷重時のひずみを表す。いずれのネット試験体も、スターラップ試験体ほどの荷重の増加は見られないものの、無補強試験体に比べ最大荷重が増加していることがわかる。このことから、ネットを挿入することで斜めひび割れ時のせん断耐力以上のせん断耐力を確保することができたと考えられる。また、主筋の降伏ひずみは材料試験値から1721μである。よって、後述する3体以外の6体の試験体は主筋が降伏すると同時にせん断破壊したと考えられる。PE−37.0×3.4、PE−37.5×4.0、pe−25.0×2.0の3種類については主筋が十分降伏するまで荷重を保持することができた。この3体の試験体はいずれも、曲げひび割れが十分に発達した後に斜めひび割れが発達し破壊した。よって、せん断破壊先行型から曲げ降伏後のせん断破壊型へと破壊形式を移行させることができるネットが存在することが明らかになった。
各試験体の最大荷重および最大荷重時の主筋のひずみを図3に示す。図中の棒グラフが最大荷重、点が最大荷重時のひずみを表す。いずれのネット試験体も、スターラップ試験体ほどの荷重の増加は見られないものの、無補強試験体に比べ最大荷重が増加していることがわかる。このことから、ネットを挿入することで斜めひび割れ時のせん断耐力以上のせん断耐力を確保することができたと考えられる。また、主筋の降伏ひずみは材料試験値から1721μである。よって、後述する3体以外の6体の試験体は主筋が降伏すると同時にせん断破壊したと考えられる。PE−37.0×3.4、PE−37.5×4.0、pe−25.0×2.0の3種類については主筋が十分降伏するまで荷重を保持することができた。この3体の試験体はいずれも、曲げひび割れが十分に発達した後に斜めひび割れが発達し破壊した。よって、せん断破壊先行型から曲げ降伏後のせん断破壊型へと破壊形式を移行させることができるネットが存在することが明らかになった。
次に、試験体中央部のたわみと荷重の関係を図4に示す。主筋が十分に降伏したし倦怠の凡例を四角で囲って示す。最大荷重と同様に、ネット試験体のいずれについても、スターラップ試験体ほどの変形能力は見られないものの、無補強試験体以上の変形能力を持っていることがわかる。ネット試験体のうち、主筋を十分に降伏させることができた3体の試験体は、他の6体の試験体よりも大きな変形能力を有した。しかしながら、主筋が十分降伏していないPE−30.0×2.8試験体は、先の3体の試験体とほぼ同程度の変形能力を有していた。N−43.0×4.6は使用したネットの中で径が一番太いため、大きなせん断補強効果を得られると考えていたが、期待したほどの効果は得られなかった。ネットを配置することによるせん断補強効果は、ネットの格子間隔と径による影響の他に、より効果的に力を負担するネットの最適形状があると考えられる。
(実験結果〜せん断補強効果の評価)
また、ネットを配置することで得られたせん断補強効果を検討するため、最大荷重時における実験値のコンクリートの圧縮縁ひずみと主筋の引張ひずみで求めた中立軸xから算出した応力中心間距離(d−0.4x)と、主筋のひずみと弾性係数から求めた鉄筋の引張力Tの積を、せん断スパン長aで除して求められる曲げ荷重を算出し、実験で得られた最大荷重と比較した結果を表3に示す。無補強試験体では、最大荷重が曲げ荷重を下回っておりせん断破壊であることが明らかである。一方、スターラップ試験体は、曲げ荷重が最大荷重を下回っている。引張鉄筋がひずみ硬化域に達し引張力が降伏荷重になったためと考えられる。ネット試験体の最大荷重は、いずれも曲げ荷重前後の値となっておりそれほど大きな差はない。また、最大荷重が曲げ荷重を下回っているものについても、無補強試験体ほどの差はない。上回っている試験体についてもスターラップ試験体ほどの増加は見られない。主筋は降伏はしているものの、ひずみ硬化域に達する前にせん断破壊したものと考えられるが、ネットを配置することで、せん断補強効果が得られる。
また、ネットを配置することで得られたせん断補強効果を検討するため、最大荷重時における実験値のコンクリートの圧縮縁ひずみと主筋の引張ひずみで求めた中立軸xから算出した応力中心間距離(d−0.4x)と、主筋のひずみと弾性係数から求めた鉄筋の引張力Tの積を、せん断スパン長aで除して求められる曲げ荷重を算出し、実験で得られた最大荷重と比較した結果を表3に示す。無補強試験体では、最大荷重が曲げ荷重を下回っておりせん断破壊であることが明らかである。一方、スターラップ試験体は、曲げ荷重が最大荷重を下回っている。引張鉄筋がひずみ硬化域に達し引張力が降伏荷重になったためと考えられる。ネット試験体の最大荷重は、いずれも曲げ荷重前後の値となっておりそれほど大きな差はない。また、最大荷重が曲げ荷重を下回っているものについても、無補強試験体ほどの差はない。上回っている試験体についてもスターラップ試験体ほどの増加は見られない。主筋は降伏はしているものの、ひずみ硬化域に達する前にせん断破壊したものと考えられるが、ネットを配置することで、せん断補強効果が得られる。
(実験結果〜ネット単体の引張試験)
ネット試験体は、主筋が十分に降伏した試験体とその他の試験体で明確な差が見られない。径が太く強いと思われるN−43.0×4.6よりも径の細いPE−37.0×3.4の方が高い効果を発揮していることから、せん断補強効果に与える影響は径の太さよりも格子間隔の方が強いと考えられる。すなわち、ひび割れ面に存在するネットの格子数が影響していると考えられる。
そこで、ネット自体の強さを測定し、ひび割れ面におけるネットの耐力を算出することで、せん断補強効果の定量化を試みた。
ネットの引張試験を行うにあたり、この材料における試験方法が存在しないため、『連続繊維シートの引張試験方法(案)(JSCE−E 541−2000 土木学会コンクリート委員会編:コンクリートライブラリー101 連続繊維シートを用いたコンクリート構造物の補修補強指針、pp55〜66、2000.7)』を参考にした。図5に引張試験に使用した供試体の形状寸法を示す。十分な長さに切り出したネットを、鋼製のタブで挟み込むように接着樹脂により固定する。所定の期間養生し、定着部を試験機で掴み引張試験を行い、ネットが破断する時の最大荷重を測定する。
ネット試験体は、主筋が十分に降伏した試験体とその他の試験体で明確な差が見られない。径が太く強いと思われるN−43.0×4.6よりも径の細いPE−37.0×3.4の方が高い効果を発揮していることから、せん断補強効果に与える影響は径の太さよりも格子間隔の方が強いと考えられる。すなわち、ひび割れ面に存在するネットの格子数が影響していると考えられる。
そこで、ネット自体の強さを測定し、ひび割れ面におけるネットの耐力を算出することで、せん断補強効果の定量化を試みた。
ネットの引張試験を行うにあたり、この材料における試験方法が存在しないため、『連続繊維シートの引張試験方法(案)(JSCE−E 541−2000 土木学会コンクリート委員会編:コンクリートライブラリー101 連続繊維シートを用いたコンクリート構造物の補修補強指針、pp55〜66、2000.7)』を参考にした。図5に引張試験に使用した供試体の形状寸法を示す。十分な長さに切り出したネットを、鋼製のタブで挟み込むように接着樹脂により固定する。所定の期間養生し、定着部を試験機で掴み引張試験を行い、ネットが破断する時の最大荷重を測定する。
まず、ネットの引張荷重と格子数との関係を調べるため、図9の写真に示す引張方向と直交する方向に、格子数1〜3個とした供試体について引張試験を行った。ネットはPE−37.0×3.4を使用した。
図6に試験結果を示す。格子数が増加するとともに引張耐力も比例的に増加している。この結果を踏まえて、ひび割れ面に存在するネットの格子数を求め、ネット保有せん断耐力として算出することとした。図10の写真にひび割れ面におけるネットの格子位置の一例を示す。ネット格子数は、図2に示す載荷点から支点の間に形成された破線のせん断ひび割れにおいて、目視で確認できる領域内で数えたものである。他の8種類のネットについても同様に引張試験を行い検討した。ただし、引張試験を行ったネットの格子数は3つの場合のみとした。
表4にせん断耐力の検討結果を示す。ネット保有せん断耐力とは、ネットの引張耐力と格子数の積から算出したせん断耐力を意味し、実せん断耐力とは、実験により得られた最大荷重から求めたコンクリートの斜めひび割れ発生時せん断耐力(17.7kN)を差し引いた耐力、つまり実際にせん断補強材として作用したせん断耐力を意味する。スターラップ試験体では、せん断耐力が約22kN期待でき、最大荷重時に約7kN負担していることから、せん断耐力が曲げ耐力を上回り、せん断破壊先行型から曲げ破壊型へと破壊形式を移行するのに、7kN程度の荷重の負担が必要だと考えられる。ネットをせん断補強材としてRC梁に適用することで、破壊形式をせん断から曲げへ移行するためには、ネット保有せん断耐力が7kNを上回っている必要がある。
図6に試験結果を示す。格子数が増加するとともに引張耐力も比例的に増加している。この結果を踏まえて、ひび割れ面に存在するネットの格子数を求め、ネット保有せん断耐力として算出することとした。図10の写真にひび割れ面におけるネットの格子位置の一例を示す。ネット格子数は、図2に示す載荷点から支点の間に形成された破線のせん断ひび割れにおいて、目視で確認できる領域内で数えたものである。他の8種類のネットについても同様に引張試験を行い検討した。ただし、引張試験を行ったネットの格子数は3つの場合のみとした。
表4にせん断耐力の検討結果を示す。ネット保有せん断耐力とは、ネットの引張耐力と格子数の積から算出したせん断耐力を意味し、実せん断耐力とは、実験により得られた最大荷重から求めたコンクリートの斜めひび割れ発生時せん断耐力(17.7kN)を差し引いた耐力、つまり実際にせん断補強材として作用したせん断耐力を意味する。スターラップ試験体では、せん断耐力が約22kN期待でき、最大荷重時に約7kN負担していることから、せん断耐力が曲げ耐力を上回り、せん断破壊先行型から曲げ破壊型へと破壊形式を移行するのに、7kN程度の荷重の負担が必要だと考えられる。ネットをせん断補強材としてRC梁に適用することで、破壊形式をせん断から曲げへ移行するためには、ネット保有せん断耐力が7kNを上回っている必要がある。
ネット試験体について、引張試験の結果、ネット保有せん断耐力が7kNを上回っているものは4種類あり、N−43.0×4.6が最も大きい値を示したが、RC梁中における荷重の負担は小さく、逆にPE−30.0×2.8のようにネット保有せん断耐力は小さいが、RC梁中における荷重の負担は大きいものが存在した。主筋が十分に降伏した3体のネット試験体では、8kN程度の荷重の負担はみられないが、せん断破壊先行型から曲げ降伏後のせん断破壊型へ移行するだけのせん断補強効果を発揮している。他の6体のネット試験体でも、同程度の荷重を負担しているものも見受けられるが、破壊形式を移行するだけのせん断補強効果は得られていない。破壊形式の移行は、RC梁の諸元や載荷条件によっても異なる。しかしながら、本実施例から、ネットによるせん断補強効果は、ネットが保有する耐力の大きさのみに依存するのではなく、ひび割れ面でのせん断伝達能力等のネットの引張耐力以外の効果によって、せん断補強効果を大きくさせる最適形状があるものと考えられる。
図7に実せん断耐力とネット保有せん断耐力の関係を示す。スターラップ試験体の実せん断耐力とスターラップの降伏せん断耐力も合わせて示す。せん断破壊、曲げ引張破壊に関係なく、実せん断耐力とネット保有せん断耐力にはある程度の相関係が認められる。図中の近似曲線は、9体のネット試験体の実験値から求めた。N系のデータを無視すると、11.6kN以上のネット保有せん断耐力を有するネットを用いれば、ネット試験体は、スターラップ試験体と同等に、完全な曲げ引張破壊型に移行させることができると考えられる。
実施例1と同じく、表1、表2および図1の条件で、9種類の供試体を作製した。実施例1と異なり、ネットの剥落防止の検討を行う際に、鉄筋に通電し、鉄筋を腐食させた。腐食方法として、作製した供試体のポリ容器に設置し、電解溶液に5%塩化ナトリウム水溶液を入れた。そして、主筋とつながったコードを陽極に、供試体底面に設置した鋼棒を陰極につないで直流電流を流した。通電方式は35日間の連続通電とした。電流密度は、コンクリート表面に対して1A/m2とした。鉄筋が腐食し、さびが発生すると、さびの膨張率でひび割れが発生した。
実施例1と同条件にて載荷試験を行った。既往の研究の梁と、本実験の梁を比較したひび割れ状況を図11に示す。図中の破線は曲げひび割れとせん断ひび割れで、線は載荷によるひび割れである。既往の研究の梁は腐食しないで載荷した健全梁に対して、実験の梁は電食を行った後に載荷した腐食梁である。健全梁のネット供試体のみ、せん断破壊となった。
また、電食後の供試体から、主筋およびスターラップを取り出し腐食率を算出した。解体し取り出した鉄筋は、100mm間隔に切断し、JCI−SCI「コンクリート中の鋼材の腐食評価方法」に準拠し、腐食量を測定した。算出された2体の供試体の鉄筋腐食率を表5に示す。ネット供試体は、スターラップ供試体より腐食量が少なかった。これは、スターラップ供試体はスターラップまで腐食し、膨張圧が増加し、電解液が浸透したためと考えられる。
それぞれ供試体の破壊モードから、せん断荷重、曲げ荷重を比較検討した。スターラップを配置した供試体のせん断荷重、設計曲げ荷重、実験最大荷重を図12に、同様にネットを配置した供試体を図13に示す。スターラップ供試体は、せん断荷重が曲げ荷重を上回り、載荷した供試体の破壊状況と一致した。ネット供試体は、ネットのせん断力を算出することが困難であったため、せん断破壊した健全梁の実験最大荷重を、せん断荷重と仮定した。また、ネットは腐食による影響を受けないため、腐食梁も同じ荷重をせん断荷重と仮定した。腐食梁はせん断荷重が曲げ荷重を上回り、載荷した供試体の破壊状況と一致した。健全梁は載荷した供試体の破壊状況と一致はしなかったが約1kNの差であったため、せん断破壊と曲げ引張破壊の境界であったと考えられる。また、健全梁と腐食梁を比較すると、鉄筋の腐食による公称断面積の減少により曲げ荷重が低下した。この曲げ荷重の変化によりネットのせん断力の存在が確認された。
また、ひび割れ量が少なく載荷による剥落は起きなかったため、ハンマーで叩き強制的にコンクリート片を取り除いた。ネットとコンクリートの付着はよく、くり返しハンマーで叩いたが完全にコンクリート片を取り除くことは困難であった。スターラップを配置した供試体は、同様に叩くと大きなコンクリート片として取り除くことができた。つまり,鉄筋が腐食したスターラップ供試体は,鉄筋とコンクリートの付着がなくなり,かぶりコンクリートの剥落が容易に生じた。これに対し,腐食しないネット供試体は,コンクリートとネットの付着力が維持され,経年劣化に対して非常に強いことが明らかになった。
また、ひび割れ量が少なく載荷による剥落は起きなかったため、ハンマーで叩き強制的にコンクリート片を取り除いた。ネットとコンクリートの付着はよく、くり返しハンマーで叩いたが完全にコンクリート片を取り除くことは困難であった。スターラップを配置した供試体は、同様に叩くと大きなコンクリート片として取り除くことができた。つまり,鉄筋が腐食したスターラップ供試体は,鉄筋とコンクリートの付着がなくなり,かぶりコンクリートの剥落が容易に生じた。これに対し,腐食しないネット供試体は,コンクリートとネットの付着力が維持され,経年劣化に対して非常に強いことが明らかになった。
1…ネット試験体
2…無補強試験体
3…スターラップ試験体
4…引張鉄筋
5…圧縮鉄筋
6…スターラップ
7…化学系繊維ネット
8…載荷点
9…支点
2…無補強試験体
3…スターラップ試験体
4…引張鉄筋
5…圧縮鉄筋
6…スターラップ
7…化学系繊維ネット
8…載荷点
9…支点
Claims (11)
- 複数本の糸状の化学繊維を縒って線状の化学繊維束とし、該化学繊維束を格子状に組むことから成る化学系繊維ネットであって、該化学繊維束の線径が1.5mm〜5mmであり、格子間隔が20mm〜40mmであり、RC構造のコンクリート構造体の腐食しないせん断補強筋として用いることを特徴とするコンクリート補強ネット。
- 請求項1に記載のコンクリート補強ネットにおいて、化学繊維の材質がポリエチレンであり、化学繊維束の線径が3mm〜5mmであり、格子間隔が35mm〜40mmであることを特徴とするコンクリート補強ネット。
- 請求項2に記載のコンクリート補強ネットにおいて、化学繊維束の線径が3.4mmであり、格子間隔が37mmであることを特徴とするコンクリート補強ネット。
- 請求項2に記載のコンクリート補強ネットにおいて、化学繊維束の線径が4.0mmであり、格子間隔が37.5mmであることを特徴とするコンクリート補強ネット。
- 請求項1に記載のコンクリート補強ネットにおいて、化学繊維の材質がポリエステルであり、化学繊維束の線径が1.5mm〜3mmであり、格子間隔が20mm〜30mmであることを特徴とするコンクリート補強ネット。
- 請求項5に記載のコンクリート補強ネットにおいて、化学繊維束の線径が2.0mmであり、格子間隔が25.0mmであることを特徴とするコンクリート補強ネット。
- 請求項1〜6のいずれかに記載のコンクリート補強ネットにおいて、作製に漁網の製法を用いることを特徴とするコンクリート補強ネット。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のコンクリート補強ネットにおいて、格子状に組む部分が有結であることを特徴とするコンクリート補強ネット。
- 請求項1〜8のいずれかに記載のコンクリート補強ネットが腐食しないせん断補強筋であることを特徴とするRC構造のコンクリート構造体。
- 請求項9に記載のRC構造のコンクリート構造体において、RC梁であることを特徴とするRC構造のコンクリート構造体。
- 請求項9に記載のRC構造のコンクリート構造体において、RC柱であることを特徴とするRC構造のコンクリート構造体。
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