JP2007297293A - 生物農薬及びそれを用いた害虫防除方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】農作物害虫であるコナジラミ類、アブラムシ類、アザミウマ類、ハモグリバエ類、ハダニ類、鱗翅目害虫の卵と幼虫、及びカイガラムシ類を含む複数の害虫の天敵昆虫であるクロヒョウタンカスミカメ(Pilophorus typicus (Distant))を主成分として含有する生物農薬を用いて、当該複数の害虫を効率的に防除し、農作物の被害を未然に防止する。
【選択図】図1
Description
本発明に係る生物農薬は、日本各地に在来的に生息するクロヒョウタンカスミカメを使用するので、生態系にも何ら悪影響を及ぼさない。本発明は、環境にやさしい天敵昆虫を用いた生物農薬及び害虫防除方法を提供することができる。
これらの害虫はいずれも微小な大きさで、増殖率が高く、農作物に与える被害が著しく大きい。これらの害虫を防除するために化学農薬の散布が常時行われているのが現状であるが、いずれも化学農薬に対する抵抗性が発達し、防除効果の低下が問題となっている。
例えば、オンシツコナジラミやタバココナジラミなどのコナジラミ類;ミカンキイロアザミウマやミナミキイロアザミウマのようなアザミウマ類;モモアカアブラムシ、ワタアブラムシ及びジャガイモヒゲナガアブラムシのようなアブラムシ類;トマトハモグリバエ、マメハモグリバエなどのハモグリバエ類;ナスコナカイガラムシ、クワシロカイガラムシ、ウメシロカイガラムシ及びクワコナカイガラムシなどのカイガラムシ類等;の害虫の中には化学殺虫剤に対する抵抗性を獲得したものがある。これらの害虫は防除することが難しく、農作物の安定生産にとって最大の障害となっている。
わが国では他に適当な防除法がないために、防虫ネットを張ってこれらの害虫の侵入を抑制し、さらに、化学殺虫剤に依存した防除が継続して行われているが、被害を完全に食い止めることができないままになっている。
このため、化学農薬及び殺虫剤に代わる生物農薬、具体的には天敵昆虫を用いた生物農薬に大きな期待が集まっている。
しかしながら、害虫であるカイガラムシ類に対しては、未だ実用化されている天敵昆虫はない。また、上述のように害虫1種に対して天敵1種を用いるという防除方法が一般的であり、1種類の天敵によって多数の害虫を防除する実用的な方法はこれまで提案されていなかった。
また、アザミウマの天敵として利用されているタイリクヒメハナカメムシは休眠性があるため、いずれの個体でも利用できるというものではなく、冬期短日で休眠性を有しない個体群を選抜し天敵として利用する必要がある(非特許文献1、2及び3)。
採集方法として、各地にピーマンを栽培し、その株内部に発光式黄色粘着トラップを設置し、このトラップに捕獲された天敵の中からクロヒョウタンカスミカメの有無を確認した後、花に徘徊する雌雄を捕獲して増殖させた。
この結果、調査したいずれの地域からもクロヒョウタンカスミカメは採取され、形態的な差は殆どなかった。寒地で採取したものは休眠性を有する個体も認められたが、暖地で採取した個体の休眠性は認められなかった。また、いずれの個体も、年3〜4回の発生で、卵から成虫までは26〜30日(16L,8D:25℃(温度25℃、16時間光照射・8時間暗黒下条件))を要した。このため、人為的に放飼する天敵昆虫としてクロヒョウタンカスミカメが有効であることが判明した。
すなわち、クロヒョウタンカスミカメの卵から成虫までの期間は25℃の条件下で28日程度であり、クロヒョウタンカスミカメの幼虫は害虫の捕食能力も高いため、成虫のみの放飼にこだわる必要がない。このため成虫の平均寿命期間45日とあわせて、幼虫期間16日を加えると実に61日以上の捕食活動期間を持つ著しく有望な天敵であり、この間に大量の害虫の捕食を行い、高い防除効果が期待できるものである。また、卵放飼を行ったとしても、孵化直後から葉上で捕食活動に入るため、十分に害虫防除効果が期待できる。
本発明の生物農薬に含有されるクロヒョウタンカスミカメは、本種1種のみを放すだけで複数種の害虫を捕食する。従って、従来のように、害虫の種類ごとに複数の天敵昆虫を放飼する必要がないため、防除時間と労力を著しく簡潔かつ省力化できる。
クロヒョウタンカスミカメの選好性(嗜好性)は、コナジラミ類、鱗翅目害虫の卵と幼虫、ハダニ類、アブラムシ類、カイガラムシ類、アザミウマ類、ハモグリバエ類の順である。このため、作物圃場における重要害虫の順に食べ尽くしていくため、複数の害虫防除が著しく効率的に行われる。
すなわち、本発明の防除方法に基づき、人工増殖させたアザミウマ類、アブラムシ類、スジコナマダラメイガ卵、コナカイガラムシ類、コナジラミ類、ハモグリバエ類、及びハダニ類などを餌として、クロヒョウタンカスミカメを増殖させ、害虫の大発生前から農作物圃場内やその周辺に放飼することが可能になり、害虫の防除効果を著しく高めるという効果を発揮する。
クロヒョウタンカスミカメの餌として、人工増殖させるアブラムシ類のうち、好ましくは麦類に増殖させたムギクビレアブラムシを利用することができる。
本発明の上記方法に基づき、天敵昆虫であるクロヒョウタンカスミカメを増殖させると、害虫の捕食性を効果的に高めることが可能である。
例えば、人工増殖させる餌がアブラムシ類であれば、ムギクビレアブラムシをその1種として使用し、その餌として麦類またはソルゴーなどを使用することができる。また、スジコナマダラメイガでは、小麦粉などの穀物を餌として人工増殖したスジコナマダラメイガを産卵させて使用することができる。また、コナジラミ類では、インゲンマメ等の豆類の葉に産卵させ孵化幼虫としてこれを餌として用いることができる。このように複数の人工増殖可能な餌が存在することから天敵昆虫クロヒョウタンカスミカメは容易に飼育することができ、従って、天敵昆虫として製剤化して供給することを容易ならしめるという効果を発揮する。
例えば、クロヒョウタンカスミカメの卵の形で作物栽培圃場へ放飼を行う場合、産卵させた植物を温度が22.5℃〜25℃の暖かい部屋に置いて孵化に近づけた後、孵化直前または孵化直後に作物体上又はその周囲に配置することにより、天敵昆虫の放飼時期の調節が可能であり、また、圃場が広い場合でも均一に天敵昆虫を放飼することができる。
すなわち、産卵させた植物の産卵部位のみを切り取って又は株をそのまま配置する方法により、広範囲に天敵昆虫を放飼することが可能となり、害虫防除効果を安定させることが可能となる。また、天敵昆虫を放飼した場合に餌がない状態であっても、株の周囲に餌昆虫を給餌することにより、天敵昆虫の増殖が可能であり、さらに安定した防除効果を発揮させることができる。
本発明で使用する捕食性昆虫であるクロヒョウタンカスミカメは、複数の地域のクロヒョウタンカスミカメから採取した群より選抜された多食性かつ休眠性を有しない優良系統であるため、放飼したときに害虫の捕食量が多いという利点を有する。また、寒くなり日長が短くなっても休眠しないため継続して使用することができ、年間のいつでも利用可能な高い防除効果を発揮することができる。
まず、スジコナマダラメイガの卵を餌としてクロヒョウタンカスミカメ10頭を増殖させ、これにオンシツコナジラミ幼虫、タバココナジラミ幼虫、ミカンキイロアザミウマ幼虫、並びにアブラム成虫及び幼虫を餌として捕食させた。
この結果、1日当たりの捕食数は、オンシツコナジラミ蛹を、雌は最大30頭、雄は最大20頭捕食した。タバココナジラミ蛹についてもほぼ同様であった。ミカンキイロアザミウマ幼虫5頭、アブラム成虫11頭を捕食した。
また、捕食する餌の嗜好(好み)を調べるため、同時にこれらの害虫を10頭ずつ捕食させると、タバココナジラミ、オンシツコナジラミ、アブラムシ及びミカンキイロアザミウマの順に捕食した。
例えば、クロヒョウタンカスミカメの餌として使用するアブラムシが、ムギクビレアブラムシの場合には、大麦上でムギクビレアブラムシを飼育する。スジコナマダラメイガを餌とする場合は、小麦粉など穀物類を餌として人工増殖したスジコナマダラメイガを交尾させて産卵用紙面に産卵させて集めて餌とする。コナジラミ類の場合はインゲンマメ等の豆類の葉に産卵させて孵化幼虫とし、餌とする。
増殖させたこれらの餌昆虫は、クロヒョウタンカスミカメの飼育容器内に放し、これによってクロヒョウタンカスミカメを増殖させることができる。
例えば、これらの産卵可能植物のなかからセダムを選定し、クロヒョウタンカスミカメに産卵させ孵化させ、幼虫に餌昆虫または餌の卵を給餌して育て、世代を繰り返すことにより増殖させることができる。また、同時に砂糖を餌として給餌することにより産卵数と産卵能力を高めることもできる。
上記のようにして飼育したクロヒョウタンカスミカメは休眠性がなかった。飼育条件は、温度25℃、16時間光照射・8時間暗黒下条件(16L,8D:25℃)で、121±52卵で、雌雄の比は1:1であった。また、餌をスジコナマダラメイガ卵とした場合、クロヒョウタンカスミカメの産卵数は平均120卵程度だったが、シルバーリーフコナジラミを餌とした場合では産卵数は60卵程度に減少した。また、アブラムシ類、コナカイガラムシ幼虫及びハダニ類を餌とした場合も産卵数は60〜80卵程度とやや少なかった。
飼育したクロヒョウタンカスミカメは、卵期間が12日程度、幼虫期間が16日程度、成虫期間が平均45日であり、最大83日の生息が認められる個体もいた。幼虫期間のコナジラミ捕食数は100〜110頭/頭、成虫期間のコナジラミ幼虫捕食頭数は200〜350頭/頭で、合計450頭/頭程度を捕食した。
また、産卵植物による産卵数には差が認められ、多肉植物セダムでは120個/雌1頭であったが、カランコエでは121個/雌1頭程度とやや多かった。また、雄雌各1頭当たり、クズでは102個、イチゴでは64個、ツツジでは24個、ナスでは95個、キュウリ85個、及びピーマンでは99個程度であった。
生育温度は、発育ゼロ点が12℃、最高温度30℃、22〜25℃で捕食活動が活発であった。
本発明によれば、1種類の天敵で複数の害虫の発生を抑制するため、省力化した防除方法を提供することができる。また、生物農薬の放飼時期についても、育苗期の苗への放飼をも可能とするため、害虫防除を著しく簡便にするという効果を発揮する。さらには、薬剤抵抗性の発達した化学農薬は、長期間使用しないと効果が回復することがある。生物農薬を使用することによって抵抗性の発達した化学農薬を使用する必要がない期間が長くなるため、感受性の回復という観点からも有益である。尚、クロヒョウタンカスミカメは化学農薬の影響を受けやすく、化学殺菌剤を散布した圃場での使用はむしろ効果が低下するという現象を生ずる。
クロヒョウタンカスミカメの飼育方法については複数の方法がある。ここではコナジラミを餌とした場合の飼育方法を一例として述べる。25℃の恒温室においてインゲンマメを栽培し、コナジラミの成虫100頭を放し増殖させる。次々にインゲンマメを入れ替えてコナジラミの幼虫を増やす。25℃の室温に置いた別の飼育箱にカランコエ10株と砂糖粒5gとクロヒョウタンカスミカメ100頭を放し、コナジラミ幼虫が発生したインゲンマメ葉を数葉、毎日入れて餌として与える。14日後にカランコエ葉上にクロヒョウタンカスミカメ幼虫が見られるようになるので、これを採取して別の飼育箱に移し成虫になるまで同様にして育成する。ハモグリバエを餌とした場合もほぼ同様である。
また、この間にコナジラミ幼虫、アザミウマ幼虫を給餌すると、圃場に放飼したときに直ちに害虫の捕食活動に入るようにできる。また、ピーマンやナスなどの植物への産卵数も多くなり害虫防除効果を高めることが可能になる。
これらの増殖させたクロヒョウタンカスミカメの幼虫、成虫又は卵を採取して、コナジラミ類、アブラムシ類、アザミウマ類、ハモグリバエ類、ハダニ類、鱗翅目害虫の卵と幼虫、及びカイガラムシ類を含む複数の害虫の初発生の低密度期を狙い、農作物栽培圃場に放す。放す方法は、これらの害虫の生息位置又はそれに近い位置が好ましい。また、育苗後期の本圃移植直前に各々の株に放飼して定植すると、すべての株にも定着させることが可能である。
また、クロヒョウタンカスミカメ成虫には飛翔能力があるため、圃場の片隅に放したとしても、施設栽培であれば7日程度で圃場全体に広がり定着することができる。あるいは、最初から満遍なく定着させようとするならば、卵または幼虫を害虫近接に又は各々の作物株に放すことが望ましい。放す頭数は害虫の発生量、または季節により異なるため、定数はないが、目安として株当たり5頭を放すことが望ましい。これにより害虫の著しい増加を抑制することができる。
(実施例1) クロヒョウタンカスミカメの産卵、生育及び寿命
クロヒョウタンカスミカメに、スジコナマダラメイガ卵及び砂糖を餌として与え、25℃で管理・飼育し、産卵数、産卵期間及び雌雄比などを調べた。また、0℃から35℃までの間で管理・飼育し、卵期間、成虫までの成育速度などについても雌雄について調べた。
実施例1により、優良系統のクロヒョウタンカスミカメの基本的生態が明らかになった。そこで、クロヒョウタンカスミカメの、コナジラミ類幼虫、アザミウマ類幼虫、アブラムシ類、及びカイガラムシ類幼虫に対する捕食能力を調べた。
25℃の容器内にクロヒョウタンカスミカメ成虫または幼虫を1頭ずつ入れて飼育し、シルバーリーフコナジラミ、ミカンキイロアザミウマ幼虫、モモアカアブラムシ、ナスコナカイガラムシ幼虫を給餌し、捕食総数(頭)と成虫寿命(日)を調べた。結果を表2に示す。
表2の通り、クロヒョウタンカスミカメは、シルバーリーフコナジラミ、ミカンキイロアザミウマ幼虫、モモアカアブラムシ及びナスコナカイガラムシ幼虫を、成虫で各々380、180、120及び120頭、また、幼虫で250、140、91及び56頭、捕食または食い殺した。この結果から、クロヒョウタンカスミカメは、コナジラミ類幼虫、アザミウマ類幼虫、アブラムシ類、及びカイガラムシ類幼虫に対して著しく捕食能力が高いことが判明し、これらを含む複数の害虫の同時防除に、最も有力な捕食性天敵昆虫であることが証明された。
シルバーリーフコナジラミを餌として飼育したクロヒョウタンカスミカメの1世代の20.0、22.5、25.0、27.5及び30.0℃での発育所要日数を雌雄別に調べた。
結果を表3に示す。表3の通り、シルバーリーフコナジラミを餌として飼育したクロヒョウタンカスミカメの1世代の所要日数は20.0、22.5、25.0、27.5及び30.0℃で、雌では各々45、33、28、22及び20日だった。同様に雄では、46、34、28、22及び20日だった。
この結果から、クロヒョウタンカスミカメは、他の天敵に比較し著しく寿命が長く、捕食量も多いため天敵として有力に働くことが確認された。
高知県の9月定植のピーマン栽培施設において、定植14日後に施設内にクロヒョウタンカスミカメ成虫500頭及び幼虫1000頭を放飼した。ピーマン1株当たりのクロヒョウタンカスミカメの生息頭数を調べるとともに、ピーマンでの産卵部位を確認した(天敵区)。
定植後から、黄色粘着板によるコナジラミ類誘殺数の推移、花房中のアザミウマ生息数、葉当たりのアブラムシ寄生数、及びナスコナカイガラムシの寄生株数を1ヶ月間隔で調べた。対照として、クロヒョウタンカスミカメを放飼しない慣行栽培における同害虫の発生消長も調べた(慣行区)。
また、別の害虫であるアザミウマ類については、花房中のヒラズハナアザミウマ及びミカンキイロアザミウマは、天敵放飼区で発生が少なく、慣行区では多かった。一方、アブラムシ類は、天敵放飼区で発生がやや少なかったが、慣行区との差は小さかった。ナスコナカイガラムシでは、慣行区に比べて天敵放飼区で寄生株が著しく少なく、天敵クロヒョウタンカスミカメによる害虫防除の高い効果が認められた。
このようにクロヒョウタンカスミカメの複数害虫への高い防除効果が認められた。なお、天敵放飼区では、農薬の散布は行わなかった。一方、慣行区では毎週防除のために殺虫剤の散布を行った。
高知県の9月定植のナス栽培施設において、定植15日後に施設内にクロヒョウタンカスミカメ成虫1000頭及び幼虫1000頭を放飼した。ナス1株当たりのクロヒョウタンカスミカメの生息頭数を調べるとともに、ナスでの産卵部位を確認した(天敵区)。
定植後から黄色粘着板によるコナジラミ類誘殺数の推移、花房中のアザミウマ生息数、葉当たりのアブラムシ寄生数、及びナスコナカイガラムシの寄生株数を1ヶ月間隔で調べた。クロヒョウタンカスミカメを放飼しない慣行栽培における同害虫の発生消長も調べた(慣行区)。
害虫であるシルバーリーフコナジラミの発生について、慣行栽培では粘着板への誘殺数は漸増し、3月以降は著しく多数発生した。これに対して、天敵クロヒョウタンカスミカメを放飼した区では発生が少なく推移し、増加が極めて顕著に抑制された。
また、花房中のミナミキイロアザミウマは、天敵区で発生が著しく少なく、慣行区では多かった。アブラムシ類は天敵放飼区で少なかったが、慣行区では一部にコロニー状に発生が認められた。ナスコナカイガラムシは慣行区に比べて天敵放飼区で寄生株が著しく少なく、天敵クロヒョウタンカスミカメによる害虫の高い防除効果が認められた。
実施例4のピーマンと同様に、本実施例のナスでもクロヒョウタンカスミカメの複数害虫への高い防除効果が認められた。なお、天敵放飼区では、農薬の散布は殺菌剤のみの散布であった。慣行区では毎週殺虫剤の散布を行った。
圃場における観察でも、クロヒョウタンカスミカメが、シルバーリーフコナジラミ幼虫を捕食する行動が頻繁に観察された。これらの結果から、クロヒョウタンカスミカメは、コナジラミ類、アザミウマ類、アブラムシ類、及びカイガラムシ類を餌として利用し、天敵昆虫として有効に使用できることが判明した。
高知県にある面積2000m2のピーマン栽培圃場を供試圃場にして試験を行った。
ピーマン圃場の中央にクロヒョウタンカスミカメ成虫10000頭を放飼し、毎日、放飼した中央部からの分散程度を同列方向は10株間隔で、畝間は1畝毎に移動を調べた。対照として、無放飼区におけるクロヒョウタンカスミカメの生息も調べた。
無放飼区でもクロヒョウタンカスミカメ成虫が若干株上に認められたものの、表6の通り、放飼区では毎日のように分布が拡大していることがわかった。
中央に放飼したクロヒョウタンカスミカメは1日後には列方向で10株目に、3日後には50株目に、5日後には80株目に移動した。しかし、畝をまたいで移動する速度は遅く、7畝間を移動するのに7日間を要した。11日後にはほぼ圃場全体に広がっていた。この広がりが比較的早い原因は、活動が活発であり、餌昆虫の探索能力が高いためと考えられた。
このことから、クロヒョウタンカスミカメの施設への放飼により、圃場全体に定着を図ることが可能であることが確認された。
クロヒョウタンカスミカメの優良系統を選抜する目的で次の試験を行った。
インゲンマメ葉にオンシツコナジラミの成虫100頭を接種し、25℃で14日間放置したところ、幼虫が多数現れた。この幼虫を数えて300頭に調整した後、各地(地点A〜F)より採集したクロヒョウタンカスミカメの雄成虫と雌成虫各5頭を、セダム1株を入れた飼育ケージ内に放した。クロヒョウタンカスミカメを放してから5日後に、インゲン葉上に残ったオンシツコナジラミの死亡幼虫数(具体的には体液吸汁殻)を調べ、クロヒョウタンカスミカメによる捕食数を調べた。また、その後に孵化したクロヒョウタンカスミカメの次世代の幼虫数を数えた。
表7の結果に基づき、最も優良系統である地点A(高知県)より採集した系統をクロヒョウタンカスミカメの人工増殖用系統とした。
一方、地点C(北海道)で採集したクロヒョウタンカスミカメには、12℃、短日条件で休眠性が認められた。
実施例1により、優良系統のクロヒョウタンカスミカメの基本的生態が明らかになった。そこで、クロヒョウタンカスミカメの幼虫に最初の10日間スジコナマダラメイガの卵を給餌した。この後コナジラミ類幼虫、アザミウマ類幼虫、アブラムシ類及びカイガラムシ類幼虫を同時に与え、各々の害虫に対する捕食能力を調べた(害虫給餌区)。比較のため、スジコナマダラメイガの卵のみを給餌し、その他の餌を与えなかったものについても同様に捕食能力を調べた(単食区)。
すなわち、害虫給餌区では、25℃の容器内にクロヒョウタンカスミカメ幼虫を10頭ずつ入れ、スジコナマダラメイガ卵で飼育し、10日後にシルバーリーフコナジラミ、ミカンキイロアザミウマ幼虫、モモアカアブラムシ及びナスコナカイガラムシ幼虫を給餌し、捕食させた。その後、スジコナマダラメイガ卵の給餌を止めて各々の害虫のみの給餌とした。
Claims (10)
- 農作物害虫であるコナジラミ類、アブラムシ類、アザミウマ類、ハモグリバエ類、ハダニ類、鱗翅目害虫の卵と幼虫、及びカイガラムシ類を含む複数の害虫の天敵昆虫であるクロヒョウタンカスミカメ(Pilophorus typicus (Distant))を主成分として含有する、コナジラミ類、アブラムシ類、アザミウマ類、ハモグリバエ類、ハダニ類、鱗翅目害虫の卵と幼虫、及びカイガラムシ類を含む複数の害虫を防除するための生物農薬。
- 当該生物農薬の主成分であるクロヒョウタンカスミカメは、クロヒョウタンカスミカメの卵、幼虫又は成虫であることを特徴とする請求項1に記載の生物農薬。
- 請求項1又は2に記載の生物農薬を用いることを特徴とする、農作物害虫であるコナジラミ類、アブラムシ類、アザミウマ類、ハモグリバエ類、ハダニ類、鱗翅目害虫の卵と幼虫、及びカイガラムシ類を含む複数の害虫の防除方法。
- 請求項1に記載の農作物害虫の生息する場所及びその周辺に、当該生物農薬に主成分として含まれるクロヒョウタンカスミカメを放つことを特徴とする、請求項3に記載の害虫防除方法。
- 人工増殖させたアブラムシ類、アザミウマ類、スジコナマダラメイガ卵、コナカイガラムシ類、コナジラミ類、ハモグリバエ類、及びハダニ類を餌として、当該生物農薬に主成分として含まれるクロヒョウタンカスミカメを増殖させ、複数のクロヒョウタンカスミカメ個体を放つことを特徴とする、請求項3又は4に記載の害虫防除方法。
- クロヒョウタンカスミカメの人工餌として、飼育前半はスジコナマダラメイガ卵を給餌して育成し、放飼を開始する直前にアブラムシ類、アザミウマ類、コナカイガラムシ類、コナジラミ類、ハモグリバエ類、及びハダニ類を用いてクロヒョウタンカスミカメを育成し、害虫に対する捕食性を高めることを特徴とする、請求項5に記載の害虫防除方法。
- クロヒョウタンカスミカメの人工餌として人工増殖させたアブラムシ類が、麦類に増殖させたムギクビレアブラムシである、請求項5又は6に記載の害虫防除方法。
- 人工増殖のための産卵植物として、セダム及びカランコエを含むベンケイソウ科植物;キクを含むキク科植物;トマト、ピーマン及びナスを含むナス科植物;又はインゲンを含むマメ科植物を用いて、クロヒョウタンカスミカメに産卵させ増殖させることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1項に記載の害虫防除方法。
- 請求項2における生物農薬の主成分がクロヒョウタンカスミカメの卵であって、当該卵を産卵させた植物を孵化直前まで温室内で管理した後、害虫を防除しようとする作物体に配置し、生物農薬の定着と害虫の捕食性を高めることを特徴とする、請求項3に記載の生物防除方法。
- 当該生物農薬に含まれる昆虫捕食性天敵であるカスミカメムシ類は、多数のクロヒョウタンカスミカメから選抜された多食性、かつ休眠性を有しない優良系統であることを特徴とする、請求項1〜9に記載の生物農薬及びそれを用いた害虫防除方法。
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