以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施形態に限定されるものではない。
[原料]
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(a)〜(c)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(a)〜(c)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることが出来るポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(a) 2.5≦A+B≦3.0
(b) 0≦A≦3.0
(c) 0≦B≦2.9
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れたドープを調製することが出来る。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを調製することが出来る。
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿,パルプ綿のどちらでも良い。パルプ種は、広葉樹を原料とした広葉樹パルプと針葉樹を原料とした針葉樹パルプがあるが、広葉樹パルプに比べて不純物の含有量が少ない針葉樹パルプが好適である。
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステル等が挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等が挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等がより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
本発明において、ドープの溶媒には、セルロースアシレートを溶解することが出来る化合物を用いる。この溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン等)、ハロゲン化炭化水素(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコール等)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)等が挙げられる。なお、本発明においてドープとは、溶媒中にポリマーや添加剤等の固形成分が溶解している溶解度が高いものをいう。
ただし、溶媒としては疎水性のものが好ましく、この疎水性溶媒としては塩化メチレンがもっとも好ましい。なお、上記のハロゲン化炭化水素においては、炭素原子数1〜7のものが好ましく用いられる。また、セルロースアシレートの溶解性や、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、さらには、フイルムの機械強度、光学特性等の観点から、塩化メチレンに炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないしは、数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましい。
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、塩化メチレンを用いない溶媒組成も提案されている。この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いる。なお、これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有していても良いし、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−及び−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も有機溶媒として用いることが出来る。また、有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していても良い。そして、2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合には、その炭素原子数が、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であれば良く、特に限定はされない。
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することが出来る。また、溶媒及び可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レタデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤等の添加剤についても、同じく、特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することが出来る。
[ドープ製造方法]
上記原料を用いて、まずドープを製造する。図1に示すように、ドープ製造設備10は、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、溶媒とTACなどを混合するための溶解タンク12と、TACを供給するためのホッパ13と、添加剤を貯留する添加剤タンク14とを備えている。さらに、後述する膨潤液を加熱するための加熱装置15と、冷却装置16と、濾過装置17と、調製されたドープを濃縮するフラッシュ装置30と、濾過装置31と、溶媒を回収する回収装置32と、回収された溶媒を再生する再生装置33とが備えられている。また、このドープ製造設備10はストックタンク41を介してフイルム製造設備40に接続されている。なおストックタンク41の詳細は後で説明する。
ドープ製造設備10では、ドープ調製工程、ドープ冷却工程、濾過工程、濃縮工程、再生工程が行なわれる。
ドープ調製工程では、各種フイルムの原料を混合してドープを製造する。まず、始めに、バルブ18が開かれて、溶媒が溶媒タンク11から溶解タンク12に送られる。次に、ホッパ13に入れられているTACが、計量されながら溶解タンク12に送り込まれる。また、添加剤溶液は、バルブ19の開閉操作により必要量が添加剤タンク14から溶解タンク12に送り込まれる。
添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、添加剤が常温で液体の場合には、液体の状態で溶解タンク12に送り込むことが可能である。また、添加剤が固体の場合には、ホッパなどを用いて、溶解タンク12に送り込むことも可能である。複数の種類の添加剤を添加する場合には、添加剤タンクの中に複数の種類の添加剤を溶解させておくことも可能である。また、多数の添加剤タンクを用いて、それぞれに添加剤が溶解している溶液を入れて、それぞれ独立した配管により添加剤を溶解タンク12に送り込むこともできる。
溶解タンク12には、溶媒、TAC、添加剤の順番で入れることが好ましいが、この順番に限定する必要はない。例えば、TACを計量しながら溶解タンク12に送り込んだ後に、溶媒を送り込むこともできる。また、添加剤は必ずしも溶解タンク12に予め入れる必要はなく、後の工程でTACと溶媒との混合物に混合させることもできる。
溶解タンク12は、その外面を包み込むジャケット20と、モータ21により回転する第1攪拌機22とを備えている。さらに、溶解タンク12には、モータ23により回転する第2攪拌機24が取り付けられている。溶解タンク12は、ジャケット20の内部に伝熱媒体(図示省略)を流すことにより温度調節されており、溶解タンク12の温度は25℃以上38℃以下の範囲が好ましく、28℃以上37℃以下の範囲がより好ましく、30℃以上36℃以下の範囲が最も好ましい。第1攪拌機22、第2攪拌機24のタイプを適宜選択して使用することにより、TACが溶媒中で膨潤した膨潤液25が調製される。なお、第1攪拌機22はアンカー翼が備えられたものが、第2攪拌機24はディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。
溶解タンク12内で調製された膨潤液25は、ポンプ26により加熱装置15に送られる。加熱装置15は、ジャケット付きの配管を備えており膨潤液25を加熱する。この加熱装置15により、膨潤液25中の固形分を溶解させてドープ27を調製する。加熱装置15内の温度は、40℃以上120℃以下の範囲にすることが好ましく、60℃以上110℃以下の範囲にすることがより好ましく、80℃以上100℃以下の範囲にすることが最も好ましい。この加熱装置15により、膨潤液25の温度、すなわち調製されるドープ27の温度を40℃以上120℃以下の範囲にすることが好ましく、60℃以上110℃以下の範囲にすることがより好ましく、80℃以上100℃以下の範囲にすることが最も好ましい。このような温度範囲にあるドープ27を後述の冷却装置16で冷却すれば、ドープ27中に不純物を析出させることができる。冷却工程の詳細は後で説明する。ここで、ドープ27の温度が−35℃以下もしくは120℃以上となる場合には、膨潤液25内に含まれる各原料が熱ダメージを受けてしまうために好ましくない。なお、加熱装置15には、膨潤液25を加圧する加圧手段が備えられていることが好ましい。この加圧手段により膨潤液25を加圧することにより、溶媒に対するTACの溶解を促進させることが可能である。
ドープ冷却工程では、加熱装置15により加熱されて調製されたドープ27を加熱装置15の下流側に設けた冷却装置16で冷却する。冷却装置16内の温度は、−40℃以上10℃以下の範囲にすることが好ましく、−30℃以上0℃以下の範囲にすることがより好ましく、−20℃以上−10℃以下の範囲にすることが最も好ましい。冷却装置16によりドープ27の温度を−40℃以上10℃以下の範囲にすることが好ましく、−30℃以上0℃以下の範囲にすることがより好ましく、−20℃以上−10℃以下の範囲にすることが最も好ましい。このように加熱したドープ27を冷却させれば、ドープ27中に不純物を析出させることができる。特に、後述の冷却ドラム42(図2参照)の表面温度付近で析出するドープ27内の不純物が析出される。このとき、加熱装置15によって高温に加熱されたドープ27を急激に冷却すれば、ドープ27内には多くの不純物が析出する。より多くの不純物を析出させるためには、前述の加熱装置15と冷却装置16との温度差を80℃以上130℃以下にすることが好ましく、90℃以上120℃以下にすることがより好ましく、100℃以上110℃以下にすることが最も好ましい。ここで析出される不純物にはヘミセルロース等が含まれている。
濾過工程では、不純物を含むドープ27を、フィルタを有する濾過装置17により濾過して不純物及びその他の溶媒には溶解しない不溶解物を含む異物等を除去する。上記のフィルタにおける平均孔径は、1μm以上20μm以下の範囲であることが好ましく、3μm以上15μm以下の範囲であることがより好ましく、5μm以上10μm以下の範囲であることが最も好ましい。また、この濾過装置17における濾過流量は、1L/時以上15L/時以下であることが好ましく、1.5L/時以上10L/時以下であることがより好ましく、2L/時以上5L/時以下であることが最も好ましい。また、この濾過装置17における濾過1次圧は、0.5MPa以上5MPa以下であることが好ましく、1MPa以上4MPa以下であることがより好ましく、1.5MPa以上3MPa以下であることが最も好ましい。さらに、濾過2次圧は、1MPa以上10MPa以下であることが好ましい。
また、濾過工程の後のドープ27には、水酸基を含む貧溶媒を加えることが好ましい。本発明おける貧溶媒とは、ドープ調製用の溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的低く、ポリマーを溶解させないものである。
上述のように、膨潤液25を製造してからドープ27を調製する方法においては、より高い濃度のドープ27を調製する場合には、調製に多くの時間がかかってしまう。調製に要する時間が長くなることは、製造コストの増大を引き起こす要因の一つとなる。そこで、濃縮工程において、前述のドープ調製工程にて所望の濃度よりも低濃度のドープ27を調製した後に、フラッシュ装置30によりその低濃度のドープ27を濃縮して所望の濃度のドープ27にする。
フラッシュ装置30は、バルブ28を介して送られてきたドープ27から溶媒の一部を蒸発させる。この蒸発でドープ27から溶媒分が減少することにより、ドープ27の濃度が高められる。フラッシュ装置30により、ドープ27の濃度を20質量%以上30質量%以下の範囲にすることが好ましく、21質量%以上27質量%以下の範囲にすることがより好ましく、22質量%以上25質量%以下の範囲にすることが最も好ましい。また、ドープ27の温度を、60℃以上110℃以下の範囲にすることが好ましく、75℃以上95℃以下の範囲にすることがより好ましく、80℃以上90℃以下の範囲にすることが最も好ましい。濃縮されたドープは、ポンプ34によりフラッシュ装置30から抜き出される。抜き出されたドープ27は、濾過装置31により濾過されてストックタンク41へと送られる。なお、フラッシュ装置30からドープを抜き出す際に、ドープ27に発生した気泡を抜く泡抜き処理が行われることが好ましい。この泡抜き方法としては、公知の種々の方法があり、例えば超音波照射法が用いられる。濾過工程を経たドープは、濃縮工程もしくはストックタンク41(ドープ貯蔵工程)へと送られる。
再生工程では、フラッシュ装置30内で蒸発した溶媒を再生する。フラッシュ装置30内で蒸発により発生した溶媒ガスは、フラッシュ装置30内にある凝縮器(図示省略)で凝縮し液化させた後に、回収装置32で回収する。回収された溶媒は、再生装置33によりドープ調製用の溶媒として再生させた後に溶媒タンク11へ送り、再びドープ調製工程内で使用する。
なお、本実施形態では、加熱装置15と濾過装置17の間に冷却装置16を設けて、ドープ27を冷却することにより、ドープ27内の不純物を析出させたが、この析出に加えて若しくは代えて、濃縮工程内において、フラッシュ装置30と濾過装置31との間に冷却装置(図示省略)を設けて、ドープ27内の不純物を析出させてもよい。なお、この冷却装置内の温度及びこの冷却装置によって冷却されるドープ27の温度は、冷却装置16及び冷却装置16によって冷却されるドープ27と同様にしてもよく、また変更してもよい。
また、ドープ27には、完成したフイルムを巻き取りロール状で保管したとき、フイルム同士の接着を抑制するためにマット剤である微粒子と所定の溶媒とを混合し分散させた溶液である分散液を加えてもよい。分散液の中には、微粒子や溶媒の他に、所定の添加剤を含ませてもよい。なお、分散液は、ストックタンク41と流延室(図2参照)を接続するラインにインラインで添加して、スタティックミキサでドープと攪拌混合することが好ましいが、必ずしもこの態様に限る必要はない。
[溶液製膜方法]
上記で得られたドープを用いてフイルムを製造する方法を説明する。図2に示すように、本実施形態で用いられるフイルム製造設備40には、ストックタンク41、冷却ドラム42、テンター装置43、耳切装置44、乾燥装置45、冷却装置46、巻取装置47などが備えられている。
ストックタンク41は、その外面を包み込むジャケット50と、モータ51により回転する攪拌機52とを備えている。ストックタンク41は、ジャケット50の内部に伝熱媒体(図示省略)を流すことにより温度調節されており、ストックタンク41の温度は25℃以上38℃以下の範囲が好ましく、28℃以上37℃以下の範囲がより好ましく、30℃以上36℃以下の範囲が最も好ましい。このストックタンク41内において、ドープ27の温度は、25℃以上38℃以下の範囲に保持されること好ましく、28℃以上37℃以下の範囲に保持されることがより好ましく、30℃以上36℃以下の範囲に保持されることが最も好ましい。ストックタンク41は、ポンプ53及び濾過装置54を介して流延ダイ56へと接続している。流延ダイ56は、冷却ドラム42上にドープ27を流延するためのものである。
冷却ドラム42は駆動装置(図示省略)により回転する。冷却ドラム42には、冷却ドラム42の表面温度を上述の好ましい温度に保持するために、冷媒供給装置57が取り付けられている。冷媒供給装置57から所定の温度に調製した冷媒を冷却ドラム42の内部に供給して、循環・通過させることにより、冷却ドラム42の表面温度が調節される。冷却ドラム42の表面温度は、−50℃以上20℃以下の範囲であることが好ましく、−40℃以上10℃以下であることがより好ましく、−30℃以上0℃以下あることが最も好ましい。これにより、流延されるドープ27は冷却ゲル化されて、短時間のうちにゲル状の流延膜58が形成される。冷却ドラム42の表面温度が−50℃以下であると、冷却ドラム42の表面の膨張状態が変化してフイルムに転写する懸念がある。一方で、20℃以上であると、ドープ27のゲル化が進まず生産性の向上が見込めない。
流延膜58のゲル化が促進されて自己支持性を有するものとなった後に、流延膜58を剥取ローラ60で支持しながら冷却ドラム42から剥ぎ取って湿潤フイルム60を形成する。流延膜を剥ぎ取る際に、湿潤フイルム59の残留溶媒量は、固形分基準で100質量%以上200質量%以下の範囲となるようにする。本発明における残留溶媒量は、湿潤フイルム等の中に残留する溶媒量を乾量基準で示したものである。その測定方法は、対象のフイルム等からサンプルを採取し、このサンプルの質量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。なお、湿潤フイルム60は多数のローラ61が設けられた渡り部62へ搬送される。
冷却ドラム42の幅は特に限定されるものではないが、ドープ27が流延される幅の1.1倍〜1.2倍の範囲である。冷却ドラム42は、その表面粗さが0.05μm以下となるように、その表面が研磨されている。材質は、ステンレス製であり、特に十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製である。なお、冷却ドラム42は、表面欠陥がないものが好ましい。
流延ダイ56、冷却ドラム42などは、流延室65内に配置されている。流延室65には、その中の温度を所定の温度に保持するための温調設備66が取り付けられている。流延室65の温度は、−10℃以上57℃以下の範囲であることが好ましい。また、流延室65には蒸発している有機溶媒を凝縮するための凝縮器67が設けられている。凝縮液化した溶媒は、流延室65の外側に設けられた回収装置68により回収される。更に、流延する際に形成される流延ビードの背面部の圧力を調整するために、流延ダイ56には減圧チャンバ69が取り付けられている。
渡り部62には、送風機70が備えられている。渡り部62の下流には、テンタ43が配置されている。テンタ43は、湿潤フイルム60をピンクリップ(図示省略)で把持しつつ乾燥させてフイルム72とする。フイルム72は、耳切装置44に送られて、その両側端部が切り取られる。切断片はクラッシャ73により粉砕される。フイルム72は、耳切装置44の下流側にある乾燥装置45に送られる。
なお、テンタ43の下流には、フイルムの両側端部を把持するための複数のクリップを備えたクリップテンタを設置しても良い。クリップテンタでは、クリップで湿潤フイルム60の両側端部を把持した後、搬送する間に乾燥を促進させる。ここで、対面するクリップ同士の間隔を制御することによりフイルムの幅方向に対して張力を付与し延伸させる。これにより、フイルムの幅方向に対する分子配向が制御され、所望とするレタデーション値を発現させることができる。
乾燥装置45には、多数のローラ75が備えられている。ローラ75は、フイルム72をその下流側にある冷却装置46へと案内する。乾燥装置45内の温度は、50℃以上160℃以下の範囲であることが好ましい。これにより、フイルム72の乾燥が十分に進められる。乾燥装置45における乾燥によりフイルム72から溶媒ガスが発生する。この溶媒ガスは、乾燥装置45の外側に設けられた吸着回収装置76により吸着回収される。
乾燥装置45から出たフイルム72は冷却装置46にて略室温まで冷却される。また、フイルム72のカールの発生や後述の巻取装置47による巻取り不良を抑制する上で、乾燥装置45と冷却装置46との間に、フイルム72に対して所定の湿度及び温度に調整された空気を吹き付ける調湿室(図示省略)を設けてもよい。
冷却装置46の下流には、フイルム72の帯電圧を所定の範囲(例えば−3kV〜+3kV)に調整する強制除電装置80(除電バー)が設けられている。更にその下流には、フイルム72の両側端部にエンボス加工のナーリングを付与するナーリング付与ローラ81が設けられている。ナーリングが付与されたフイルム72は巻取装置47に送られる。巻取装置47には、巻取りの際にフイルム72に対するテンションを制御するプレスローラ83が巻取ローラ82の外周に設けられている。巻取装置47では巻取ローラ82でフイルム72が巻き取られる。
本実施形態(第1実施形態)では、1種類のドープのみを流延したが、これに代えて2種類以上のドープを流延した共流延でも良い。本発明で好適に行われる共流延として第2実施形態を示す。第2実施形態では、3種類のドープを用いて3層構造の流延膜を形成する。そこで、図3に示すように、ドープ27が貯蔵されたストックタンク41からドープ27の流延がなされる流延室65までの間には、支持体層ドープ流路93、中間層ドープ流路94、表層ドープ流路95が設置されている。支持体層ドープとは、支持体である冷却ドラム42上に接触する支持体層を形成するためのものであり、中間層ドープとは、支持体層の上部に存在する中間層を形成するためのものであり、表層ドープは、中間層の上であって、その表面が空気に接触する表層を形成するためのものである。なお、図2と同一部材又は装置には同じ符号を付すと共に、説明は省略する。
ストックタンク41には、ドープ製造設備10で製造されたドープ27が貯蔵されている。このストックタンク41に貯蔵されているドープ27の温度や濃度は第1実施形態のそれらと同様である。ストックタンク41内のドープ27は、支持体層ドープ流路93、中間層ドープ流路94、表層ドープ流路95に送られる。
支持体層ドープ流路93には、ポンプ96が取り付けられており、ポンプ96で流量が調節されながらストックタンク41から支持体層ドープ流路93にドープ27が流される。ポンプ98により流量が調節されながら、支持体層ドープ流路93を流れるドープ27に対し支持体層用添加剤タンク97からドープ調製用の添加剤がインラインで加えられる。添加剤が加えられたドープは、ポンプ96の下流側にあるスタティックミキサ101により攪拌混合される。攪拌混合されたドープは冷却装置102により冷却される。冷却装置102内の温度及び冷却装置102により冷却されたドープの温度は第1実施形態と同様である。
冷却装置102の下流側には濾過装置105が設けられている。濾過装置105によりドープが濾過されてドープ内の不純物が除去される。不純物にはヘミセルロースが含まれる。この濾過装置105における平均孔径、濾過流量、濾過1次圧、濾過2次圧は、本実施形態と同様の範囲にある。濾過装置105を経たドープは、支持体層ドープとして濾過装置105の下流にあるフィードブロック92に送液される。流延ダイ91に取り付けられたフィードブロック92の内部には、支持体層ドープ、中間層ドープ、表層ドープの流路が形成されている。各流路は、所望とする流延膜の構造に応じてその位置が調節されており、ここでドープを適宜合流させて流延ダイ91から共に流延させる。
中間層ドープ流路94、表層ドープ流路95には、ポンプ106,107が取り付けられている。このポンプ106,107により流量が調節されて、ストックタンク41からそれぞれの流路94,95にドープ27が送られる。各流路内94,95を流れるドープ27に対して、中間層用添加剤タンク109、表層用添加剤タンク110からドープ調製用の添加剤がポンプ112,113を介してインラインで加えられる。添加剤が加えられたドープ120,121は、ポンプ106,107の下流側にあるスタティックミキサ123,124により攪拌混合され、中間層ドープ及び表層ドープが得られる。これにより調製された各ドープはスタティックミキサ123,124の下流にあるフィードブロック92に送液される。
支持体層用ドープに入れられる添加剤としては、冷却ドラム42から流延膜125の剥離を容易にする剥離促進剤(クエン酸エステル等)、フイルムをロール状に巻き取った際に接触するフイルム面間での密着を抑制するマット剤(二酸化ケイ素等)などが挙げられる。また、中間層用ドープ及び表層用ドープに入れられる添加剤としては、支持体層用ドープに用いられる添加剤の他に、紫外線吸収剤、可塑剤、レタデーション制御剤などが好適である。
本実施形態では、ストックタンク41と流延ダイ91との間でドープ27内の不純物を析出させることとしたが、その析出に加えて又は代えて、第1実施形態のようにドープ製造設備10において前記不純物を析出させても良い。また、3層の中で冷却ドラム42の表面に直接接触する支持体層ドープにおいて不純物を析出させることとしたが、全てのドープにおいて不純物を析出させても良い。少なくとも支持体に接触する層を形成させるためのドープ中に不純物を析出させこれを除去すれば、支持体の表面に不純物の析出による汚れの発生を抑制することができる。
また、共流延される層の数は3に限定する必要はなく、それ以上でもそれ以下でも良い。2種類以上のドープを用いる場合には、複数のドープを一度合流させた後に同時に流延する方法でも良いし、または複数のドープを逐次に流延する方法でも良い。これらの流延方法は、適宜組み合わせて用いても良い。
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフイルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[0112]段落から[0139]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することが出来る。
[表面処理]
このセルロースアシレートフイルムにおいては、少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。そして、この表面処理は、真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の面が下塗りされていても良い。
さらに、セルロースアシレートフイルムをベースフィルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。機能性層としては、帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層、及び光学補償層のうち、少なくとも1層を設けることが好ましい。そして、この機能性層は、少なくとも一種の界面活性剤を0.1〜1000mg/m2含有することが好ましく、少なくとも一種の滑り剤を0.1〜1000mg/m2含有することが好ましい。また、機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1〜1000mg/m2含有することが好ましく、少なくとも一種の帯電防止剤を1〜1000mg/m2含有することが好ましい。なお、セルロースアシレートフイルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1087]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されており、これらの記載も本発明に適用することが出来る。
本発明により得られるフイルムの用途について説明する。本発明により得られるフイルムは、高レタデーション値を有し、透明性に優れている。そのため、特に、偏光板保護フイルムとして有用である。なお、このフイルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を液晶層に2枚貼ることにより作製した液晶表示装置は、液晶表示能力に優れる等の特長を示す。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることが出来る。特開2005−104148号公報(例えば、[1088]段落から[1265]段落)には、液晶表示装置として、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型、その他の例が詳しく記載されており、この方法も本発明に適用させることが出来る。また、同出願には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフイルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフイルムについての記載や、適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフイルムとして光学補償フイルム用途に関する記載も行なわれている。これは、偏光板保護フイルムと兼用して使用することも出来る。これらの記載も、本発明に適用させることが出来る。また、本発明により得られるフイルムは、写真用支持体としても用いることができる。
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1で使用した原料の質量部は下記の通りである。なお、ドープ調製用の溶媒としては、予め、塩化メチレン(第1溶媒)とメタノール(第2溶媒)とn−ブタノール(第3溶媒)とを混合した混合溶媒を調製後、第1タンク11に貯留したものを用いた。
セルローストリアセテート(置換度2.86、粘度平均重合度306、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 315mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 100質量部
塩化メチレン(第1溶媒) 400質量部
メタノール(第2溶媒) 77質量部
n−ブタノール(第3溶媒) 5質量部
可塑剤A:(トリフェニルフォスフェート) 7.6質量部
可塑剤B:(ジフェニルフォスフェート) 3.5質量部
ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1質量%以下であり、Ca含有量が5ppm、Mg含有量が70ppm、Fe含有量が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンが15ppm含むものであった。なお、これら各金属の含有量は、使用するセルローストリアセテートをサンプルとして、原子吸光法により測定された値である。また、アセトン抽出分は8質量%、重量平均分子量/数平均分子量比は2.7であった。イエローインデックスは6.0であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は160℃、結晶化発熱量は6.4J/gであった。このセルローストリアセテートは、パルプから採取したセルロースを原料としてセルローストリアセテートを合成した。
図1に示すドープ製造設備10により、流延用のドープ27を調製した。まず、第1攪拌機22及び第2攪拌機24を有する4000Lのステンレス製溶解タンク12に、溶媒タンク11から第1〜第3溶媒を混合した混合溶媒を送液した。ホッパ13からTACを溶解タンク12へと送り込み、溶解タンク12全体が2000kgになるように調整した。このとき、溶媒はすべてその含水率が0.5質量%以下のものを使用した。溶解タンク12の内部をディゾルバータイプの攪拌機を備えた第2攪拌機24により攪拌剪断速度が最初は5m/秒(剪断応力5×104×9.8N/m/秒2)の周速で攪拌した。次に、中心軸にアンカー翼を備えた第1攪拌機22により、周速1m/秒(剪断応力1×104×9.8N/m/秒2)の条件下で30分間分散した。なお、分散の開始温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。そして、分散終了後に、高速攪拌を停止させて、第1攪拌機22の周速を0.5m/秒として、さらに100分間攪拌してから、セルローストリアセテートフレークを膨潤させて膨潤液25を得た。なお、膨潤終了までは、窒素ガスで溶解タンクの内部を0.12MPaになるように加圧し、溶解タンクの内部の酸素濃度を2体積%未満として、防爆上で問題のない状態を保った。また、膨潤液25中の水分量は0.3質量%であった。
加熱装置15により膨潤液25内の固形分を完全に溶解させてドープ27を調製した。この時の加熱装置15の温度は100℃で、ドープ27の温度は90℃で、ドープ27の固形分濃度は19質量%であった。この90℃あるドープ27を冷却装置16により冷却した。この時の冷却装置16の温度は−15℃で、冷却されたドープ27の温度は−8℃であった。ドープ27を冷却させることによりドープ27内の不純物が析出した。析出した不純物の中にはヘミセルロースが含まれていた。不純物を含んだドープ27を濾過装置17により濾過して不純物を取り除いた。濾過装置17のフィルタの公称孔径は10μmで、濾過1次圧は3MPaで、2次圧は1.6MPaであった。−8℃のドープ27を濾過した。
濃縮前のドープ27を120℃で常圧に調整されているフラッシュ装置30内でフラッシュさせて、蒸発した溶媒を凝縮器(図示省略)で液化して回収装置32で回収分離した。フラッシュ後、すなわち濃縮後のドープの固形分濃度は、23.0質量%となった。なお、回収された溶媒は、再生装置33により再生される。フラッシュ装置30内のフラッシュタンクには、中心軸にアンカー翼を有しており、周速0.5m/秒で攪拌して脱泡を行った。フラッシュタンク内のドープの温度は25℃であり、タンク内の平均滞留時間は50分であった。このドープを採取して25℃で測定した剪断粘度は、剪断速度10(秒−1)で450(Pa・s)であった。
次に、濃縮後のドープ27に、弱い超音波照射することにより泡抜きを実施した。その後、ポンプ34により1.5MPaに加圧した状態で濾過装置34に送液した。濾過装置34では、最初に公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタを通過させたドープを、同じく10μmの焼結繊維フィルタに通過させた。それぞれの1次圧は1.5MPa、1.2MPaであり、2次圧は1.0MPa、0.8MPaであった。そして、濾過後のドープ27の温度を36℃に調整してから、2000Lのステンレス製のストックタンク41に貯蔵した。ストックタンク41内にて、中心軸にアンカー翼を有する攪拌機を用いて周速0.3m/秒で常時攪拌した。
ストックタンク41内のドープ27は、高精度のギアポンプ53を介して、濾過装置54に送液された。このギアポンプ53は、容積効率99.2%、吐出量の変動率0.5%以下の性能のものを用いた。また、吐出出力は1.5MPaであった。そして、濾過装置54を通過したドープ27を流延ダイ56に送液した。
流延ダイ56は、フイルムの膜厚が80μmとなるように、流延ダイ56の吐出口であるドープ27の流量を調整して流延を行った。このときのドープ27の粘度は、20Pa・sであった。また、流延ダイ56の幅を1700μmとした。流延速度を20m/分とした。流延ダイ56にジャケット(図示省略)を設けて、このジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を36℃とすることにより、ドープの温度を36℃に調整した。
流延ダイ56は、コートハンガータイプのダイを用いた。流延ダイ56には厚み調整ボルト(図示省略)を20mmピッチで設けた。また、流延ダイ56として、ヒートボルトによる自動厚み調整機構(図示省略)を備えているものを使用した。このヒートボルトは、ギアポンプ53の送液量に応じて厚みを調整することができ、また、フイルム製造設備40に設置した赤外線厚み計(図示省略)によりフィードバック制御をして厚みを調整することもできる。
また、流延ダイ56には、減圧チャンバ69を設置した。減圧チャンバ69の減圧度は、流延ビードの前後で、1Pa以上5000Pa以下の圧力差が生じるように調整され、この調整は流延速度に応じてなされる。その際に、流延ビードの長さが20mm以上50mm以下の範囲となるように、流延ビードの両側面の圧力差を設定した。減圧チャンバ69によって、流延ビード背面側の圧力を前面部よりも150Pa低くした。減圧チャンバ69は、流延部周辺のガスの凝縮温度よりも高い温度に設定できる機構を備えたものを用いた。さらに、流延ダイ56には、流延ビードの両縁の乱れを調整するためのエッジ吸引装置(図示省略)を取り付けた。このエッジ吸引装置は、エッジ供給風量が1L/m以上100L/m以下の範囲となるように適宜調整した。減圧チャンバ69には、伝熱媒体によって35℃に調整されたジャケット(図示省略)が取り付けられている。このジャケットによって減圧チャンバ69の内部温度は一定の温度に保持されている。
支持体として幅2.1mのステンレス製の冷却ドラム42を用いた。冷却ドラム42の表面粗さは0.05μm以下となるように、その表面は研磨されている。冷却ドラム42は、十分な耐低温性と耐腐食性と強度とを有するものとした。冷却ドラム42の速度変動は0.05%以下とした。また、1回転の幅方向の蛇行は1.5mm以下に制限するように、冷却ドラム42の両端位置を検出して制御した。冷却ドラム42に冷媒供給装置57を用いて、−30℃の冷却媒体を送液し、循環させることにより、表面温度を−5℃とした。なお、流延ダイ56直下におけるダイリップ先端と冷却ドラム42との上下方向の位置変動は200μm以下とし、冷却ドラム42は、風圧変動抑制装置(図示省略)を有する流延室65内に設置した。
冷却ドラム42は、表面欠陥がないものが好ましく、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm以上30μm以下の範囲のピンホールは1個/m2以下、10μm未満のピンホールは2個/m2以下であるものを用いた。流延室65の温度は、温調設備66を用いて35℃に保持した。流延室65内の溶媒ガスを凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)67を設け、その出口温度は、−10℃に設定した。また、流延室65の内部に送風機(図示省略)を設けて、この送風機から流延膜58に対して40℃、10%RHの乾燥風を風速10m/分で送風した。
流延膜58中の残量溶媒量が乾量基準で150質量%になった時点で、剥取ローラ59で流延膜58を支持しながら冷却ドラム42から湿潤フイルム60として剥ぎ取った。このときの流延膜58の温度は−10℃、流延膜58が冷却ドラム42上で搬送されていた時間は3秒、剥ぎ取りテンションは10×9.8N/mであった。また、剥取不良を抑制するために、冷却ドラム42の速度に対して剥取速度(剥取ローラドロー)は、100.1%以上110%以下の範囲で適切に調整した。なお、冷却ドラム42上での流延膜58の乾燥速度は乾量基準で平均60質量%/分であった。そして、本実施例では、乾燥して発生した溶媒ガスを、−10℃の凝縮器67で凝縮液化した後に、回収装置68で回収した。回収された溶媒は水分除去の調整がなされた後に、ドープ調製用溶媒として再利用した。その際に、溶媒に含まれる水分量は、0.5%以下となるように調整した。
次に、渡り部62に湿潤フイルム60を送り込んでから、ローラ62を介して搬送した後に、テンター装置43に送った。渡り部62では、湿潤フイルム60に対して約100N/幅の張力を付与しながら搬送する間に、送風機70から40℃の乾燥風を湿潤フイルム60に吹き付けて乾燥させた。
テンタ43に送った湿潤フイルム60の両側端部を複数のピンで突き刺し固定した後、テンタ43内の乾燥ゾーンを搬送する間に、乾燥風を供給し乾燥を促進させた。ピンの駆動はチェーン(図示省略)で行い、スプロケットの速度変動は0.5%以下であった。テンタ43の内部を3つの乾燥ゾーンに分けて、各乾燥ゾーンの乾燥風温度を上流側から90℃、100℃、110℃とした。乾燥風のガス組成は−10℃の飽和ガス濃度とした。また、テンタ43内での平均乾燥速度は、乾量基準で120質量%/分であった。そして、テンタ43の出口では、フイルム72の残量溶媒量が7質量%となるように乾燥ゾーンの条件を調整した。
テンタ43では、テンタ43に搬送したときの湿潤フイルム60の幅を100%としたときに、その幅に対して拡幅量を103%とした。剥取ローラ59からテンタ43の入口に至るまでの延伸率(テンター駆動ドロー)を、102%とした。テンタ43の延伸率は、テンター噛込部から10mm以上離れた部分における実質延伸率の差異が10%以下であり、かつ20mm以上離れた任意の2点の延伸率の差異は5%以下であった。テンタ43内で蒸発した溶媒は、−10℃の温度で凝縮液化して回収した。凝縮回収用に凝縮器(図示省略)を設けて、その出口温度を−8℃に設定した。凝縮された溶媒に含まれる水分量を0.5質量%以下に調整して再利用した。そして、テンタ43で乾燥を促進させた湿潤フイルム60をフイルム72として送り出した。
耳切装置44によりフイルム72の耳を切断した。耳切装置44としては、NT型カッターを使用し、フイルム72の両端から50mmの耳を切断した。切断した耳は、カッターブロワ(図示省略)によりクラッシャ73に風送してから、平均80mm2程度のチップに粉砕し、耳サイロ(図示省略)に収納した。この耳サイロには、溶媒濃度計が設けられており、常に耳サイロ内の溶媒濃度をモニタリングしていた。耳サイロ内の溶媒濃度が爆発下限値(LEL)である25体積%を超えると爆発する場合があるが、本実施例では、常に25体積%未満であり、爆発の可能性は全くなかった。そして、このチップは再度ドープ調製用原料としてTACフレークとともにドープ製造の際に原料として利用した。テンター装置43の乾燥雰囲気における酸素濃度は5体積%に保持した。なお、酸素濃度を5体積%に保持するために空気を窒素ガスで置換した。後述する乾燥装置45で高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥装置(図示省略)でフイルム72を予備乾燥した。
次に、両端を切断したフイルム72を乾燥装置45で高温乾燥した。乾燥装置45の内部を4区画に分割して、上流側から120℃、130℃、130℃、130℃の乾燥風を送風機(図示省略)から給気した。このとき、ローラ62によるフイルム72の搬送張力は100N/幅として、最終的に残量溶媒量が0.3質量%になるまで約10分間乾燥した。このとき、ローラ62に対するフイルム72のラップ角度は、90度及び180度とした。また、ローラ62の材質は、アルミニウム製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロムめっきを施し、さらに、ローラ62の表面形状は、フラットなものとブラストによりマット加工したものとを用いた。ローラ62の回転による振れは、全て50μm以下であった。なお、搬送張力が100N/幅でのローラたわみは、0.5mm以下となるように調整した。
乾燥装置45では、乾燥装置45に含まれる溶媒ガスを、吸着回収装置76を用いて回収除去した。吸着回収は、吸着材を活性炭とし、脱着を乾燥窒素により行った。そして、回収した溶媒は、水分量を0.3質量%以下に調整してドープ調製用溶媒として再利用した。乾燥風には溶媒ガスの他に、可塑剤、UV吸収剤、その他の高沸点物が含まれており、これらを冷却機及びプレアドゾーバ(予備吸着材)で冷却除去して、再生循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)は10ppm以下となるように、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうち凝縮法で回収する溶媒量は90質量%であり、残りの大部分は吸着回収により回収した。
乾燥装置45と冷却装置46との間に、第1調湿室と第2調湿室(図示省略)とを設けて、フイルム72を調湿することによりカール等の矯正を行った。第1調湿室において、温度50℃、露点20℃の空気を給気した後に、続けて第2調湿室にフイルムを搬送して、フイルムに対して直接に90℃、湿度70%の空気を当てた。
調湿後のフイルム72を冷却装置に送り込んで30℃以下になるまで冷却した。そして、強制除電装置(除電バー)80により、フイルム72の帯電圧が常時−3kV以上+3kV以下の範囲となるように調整した。続けて、ナーリング付与ローラ81によりフイルム72の両側端部にナーリングの付与を行った。なお、ナーリングは、フイルム72の片側からのエンボス加工とした。このとき、ナーリングを付与する幅は10mmであり、凹凸の高さがフイルム72の平均厚みよりも平均して12μm高くなるようにナーリング付与ローラによる押し圧を調整した。
そして、巻取装置47の内部に設置されている巻取ローラ82(φ169mm)により、巻き始め張力を300N/mとし、巻き終わりを200N/mとなるように調整しながらフイルム72を巻き取って、幅が1340mmであり、ナーリングを付与した内側の幅が1313mmであるフイルム72のロール状製品を得た。巻き取り時のフイルム72の温度は23℃であり、含水量が1.0質量%、残留溶媒量が1質量%であった。巻取装置47の内部は、室内温度28℃、湿度70%に保持するとともに、イオン風除電装置(図示省略)を設けて、フイルムの帯電圧が−1.5kV以上+1.5kV以下の範囲となるように調整した。巻き取り時では、巻きズレの変動幅(オシレート幅)を±5mmとし、巻取ローラに対する巻きズレ周期を400mmとし、巻取ローラに対するプレスローラの押し圧を50N/mに設定した。フイルム製造設備40では、全工程を通して、流延膜58や湿潤フイルム60及びフイルム72の平均乾燥速度を20質量%/分とした。なお、製膜速度は巻取装置により50m/分とした。
実施例1では、濾過装置17内に残る不純物の量はドープ27の量10Lあたり149gであった。ここで、この不純物をGC−MSで分析したところ、ヘミセルロースが含まれていた。また、この不純物が取り除かれたドープ27を用いて製膜したところ、冷却ドラム42上に析出した汚れの量はドープ10Lあたり1gで、冷却ドラム42の上に製造上問題となるような汚れは発生しなかった。なお、上記の汚れ析出量は、10Lのドープを流延した後に、冷却ドラム42上で採取された汚れの量である。