従来、筐体のカード挿入空間に挿入したカードの最初の押込み操作によってスライダが待機位置から押込位置まで押し込まれ、押込位置に達したスライダがその位置でロックされてカードがカードセット位置に位置決めされるのに対し、2回目のカードの押込み操作によってスライダのロック状態が解除されて、そのスライダと共にカードが後退して排出されるようになっているカードコネクタが知られていた。そのようなコネクタの中で、スライダのロックやロック解除の機能をカム機構によって発揮させるものでは、そのカム機構が図12又は図13に示したように構成されていた。
図12は従来のカードコネクタに採用されていたカム機構10のカム体20を示した概略斜視図、図13はそのカム機構10の要部の縦断側面図である。
カム機構10はカム体20とばね性を備えた線材を曲成することにより形成された係止ピン40とを備えている。カム体20にはループ溝21が形成されていて、そのループ溝21には、往路22と復路23のほか、それらの間に形成された突起状の係止部24や、往路終部22aから係止部24に至る導入路25、係止部24から復路始部23aに至る逃がし路26などが備わっている。そして、ループ溝21は全体として細長いハート形状に形成されていて、上記の導入路25と逃がし路26とがハート形の凹み箇所を形作っている。
このカム機構10において、カム体20は図13の矢印Aで示す付勢力でその矢印Aの方向に弾発付勢されている。これに対し、係止ピン40は、その基部(不図示)が定位置に揺動自在に支持され、先端部の係止端41が上記ループ溝21に常時嵌合されていて、初期位置では、その係止端41が往路22の始部と復路23の終部との合流箇所27に位置している(この状態は図示していない)。また、係止ピン40はそれ自体の弾性又は図示していないばね片の作用によってループ溝21の底面に常時弾圧されている。
そして、係止ピン40の係止端41がループ溝21の合流箇所27に位置している状態からカム体20が付勢力Aに抗して押し込まれると、係止端41がループ溝21の往路22を移動して往路終部22aに達し、その時点で押込み力が解除されると、付勢力Aによりカム体20が押し戻されて係止端41が導入路25を移動して図12のように係止部24に係止される。次に、カム体20が付勢力Aに抗して押し込まれると、係止端41が逃がし路26を移動して復路始部23aに達し、その時点で押込み力が解除されると、付勢力Aによりカム体20が押し戻されて係止端41が復路23を移動して合流箇所27に戻る。
従来のカードコネクタにおいて、カム体20は、カード挿入空間を形成する筐体(不図示)に前後移動自在に取り付けられたスライダ(不図示)に一体に設けられていて、上記付勢力Aがそのスライダに対して加えられている。また、スライダは、カード挿入空間に挿入されてきたカードに押されて待機位置からカードセット位置に対応する押込位置まで押し込まれるようになっている。そして、図13のように係止端41が係止部24に係止することによって、そのスライダが押込位置でロックされる。したがって、1回目のカードのプッシュ操作によってカードがカードセット位置に位置決めされてカード側の電極が筐体側に設けられているコンタクトに接触して両者が電気的接続される。これに対し、スライダがロックされている状態からカードによりスライダが押し込まれると、上記のように係止端41が逃がし路26を移動して係止部24から外れるのでスライダのロック状態が解除され、その後、係止端41が復路23を経由して合流箇所27に戻ることによりカードが排出される。したがって、2回目のカードのプッシュ操作によってスライダのロック状態が解除され、カードセット位置に位置決めされていたカードが排出される。
図12又は図13で判るように、従来のカードコネクタに採用されていたカム機構10では、そのカム体20のループ溝21の逃がし路16と復路23との境に段付面31が備わっている。そして、係止端41が逃がし路26を移動して復路始部23aに達した後では、その段付面31がカム体20の後退時に係止端41と摺動することによりその係止端41を復路23内にとどめ、それによって係止端41が係止部24との係止箇所aに逆行することを阻止している。また、逃がし路26の底面26aが水平面として形成されていて、カードの2回目のプッシュ操作では、上記したばね片の作用によって逃がし路26の水平な底面26aに弾圧されている係止端41が、その底面26a上で滑り、段付面31を乗り越えて復路始部23aに達する。
一方、先行例には、上記したカム機構10と同種のカム機構を採用することによってスライダをロックしたりそのロック状態を解除したりすることが記載されている(たとえば特許文献1参照)。
また、他の先行例には、上記したカム機構10と同種のカム機構を採用することによってスライダをロックしたりそのロック状態を解除したりすることが記載されているほか、カードをカードセット位置に位置決めする手段として、スライダに設けた弾性ロック片をカードの切き欠に直接に係止させるという手段を採用することや、カム機構の係止ピンの係止端を、筐体を形成している金属カバーに切起し形成したばね片部によってカム体側のループ溝の底面に弾圧させるようにすることなどが記載されている(たとえば特許文献2参照)。
特許第3083778号公報
特開2002−134224号公報
図12又は図13で説明したカム機構10において、スライダがその押込位置でロックされている状態、すなわち、係止ピン40の係止端41がカム体20の係止部24に係止している状態では、付勢力Aによって係止部24が係止端31に押し付けられて係止されているために、スライダが後退してカードが排出されるような事態は起こらない。しかしながら、付勢力Aよりも大きい何らかの力、たとえば落下衝撃の反作用などによりスライダに付勢力Aよりも大きい力がその逆方向に加わったときは、カードの2回目のプッシュ操作が行われた場合と同様に、係止端41が逃がし路26を移動して復路始部23aに逃げるという事態が起こり得る。そのため、スライダのロック状態が解除されてカードが不慮に排出されてしまうという事態も起こり得る。特に、逃がし路26の底面26aが水平面であり、しかも、段付面31を境にして逃がし路26の底面26aが高く、復路23の底面が低くなっているために、そのような事態の起こりやすい状況が作り出されているということが云える。そして、スライダのロック状態が解除されることによってカードが不慮に排出されるという事態が起こると、カード側の電極と筐体側のコンタクトとの電気的接続が不慮に遮断されてしまってカード側や機器側の電子部品などに悪影響の及ぶおそれがある。
このような問題点は、上掲の先行例にも同様に存在する。特に、他の先行例として掲げた特許文献2では、カードセット位置のカードに弾性ロック片が係合してカードの不慮の排出がなされなくなっているものではあるけれども、その弾性ロック片がスライダに設けられているものであるため、スライダの押込位置でのロック状態が解除されるとそのスライダと共にカードも排出されてしまうので、この先行例に記載された技術によって上記問題点を解決することはできない。
本発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、カム機構の構成を少しだけ変更するという簡単な対策を講じるだけであるにもかかわらず、落下の衝撃などによるカードの不慮の排出が起こりにくくなるカードコネクタを提供することを目的とする。
本発明に係るカードコネクタは、カード挿入空間を形成する筐体に、カード挿入空間に挿入されてきたカードに押されて待機位置からカードセット位置に対応する押込位置まで押し込まれかつその押込位置でカード排出方向に弾発付勢されるスライダが前後移動自在に取り付けられ、かつ、そのスライダを押込位置でロックする機能と押込位置でロックされたスライダのロック状態を解除する機能とを備えたカム機構を備え、上記カム機構が、上記筐体と上記スライダのうちの一方側部材に取り付けられた係止ピンと、他方側部材に具備されて上記係止ピンの係止端が相対変位自在に嵌合されたループ溝とを備えるカム体とを有し、そのカム体の上記ループ溝が、そのループ溝の往路を経由した上記係止端を係止することによって上記スライダをカードセット位置に対応する押込位置でロックする突起状の係止部と、上記スライダが押込位置から押し込まれたときに上記係止端を上記係止部との係止箇所から上記ループ溝の復路始部へ逃がす逃がし路と、スライダの後退時に上記復路始部へ逃がされた上記係止端に係止してその逆行を阻止することによりその係止端を復路内にとどめる段付面とを備え、上記係止端が上記逃がし路の底面に弾圧されるようになっている。この点は、図12又は図13で説明した従来例と同様である。
本発明では、この構成に以下の構成を付加したことを特徴とする。すなわち、上記スライダが上記カードの挿入方向において細長でかつ上記カード挿入空間の側方においてスライド可能にされており、上記逃がし路の方向が上記スライダの長手方向と交叉する方向にされており、上記逃がし路の底面に、上記係止箇所の平坦な底面と上記段付面との間に位置し、上記係止箇所の平坦な底面に対して傾斜角を持ち、かつ上記係止箇所の底面側から上記段付面の上端側に向って上り勾配となる傾斜面が上記係止箇所の平坦な底面とは別に設けられており、上記係止端が上記筐体に備えられたばね片部によって上記逃がし路の底面に弾圧されており、上記カード挿入空間に挿入されたカードをハーフロックするための弾性片部が上記スライダに備えられており、上記ばね片部及び上記弾性片部が上記スライダの長手方向において細長にされており、上記傾斜面の上り勾配の方向が上記スライダ、上記ばね片部及び上記弾性片部の各長手方向と交叉する方向にされており、上記係止端が上記傾斜面の上り勾配に沿って上記カードの挿入方向及び上記スライダの長手方向と交叉する方向に移動可能にされており、上記係止箇所の平坦な底面に対して傾斜角を持ち上記平坦な底面から上記段付面の上端側に向って上り勾配となる上記傾斜面を有したループ溝が、上記カード挿入空間を形成する上記筐体内であって上記カード挿入空間の側方において上記カードの挿入方向に沿ってスライド可能にされた上記スライダに形成されており、上記スライダが上記カード挿入空間に挿入されたカードに押されて待機位置からカードセット位置に対応する押込位置まで押し込まれてロックされたとき、上記ばね片部によって上記係止端の平坦な底面が上記係止箇所の平坦な底面に対して弾圧され、上記逃がし路の底面に弾圧された上記係止端が上記傾斜面の上り勾配に沿って移動するときに上記傾斜面によって上記係止端に移動抵抗が与えられており、上記スライダが上記カード挿入空間に挿入されたカードに押されて待機位置からカードセット位置に対応する押込位置まで押し込まれてロックされた状態で、上記カードを押圧することにより、カード排出方向に弾発付勢された上記スライダが上記カードによって上記押込位置から弾発力に抗して押し込まれたときに、上記係止端による上記係止箇所の平坦な底面からこの平坦な底面に対して傾斜角を持った上記傾斜面への移動が開始され、かつ上記係止端が上記逃がし路に形成された上記傾斜面の上り勾配に沿って移動可能にされている、という構成が付け加えられている。
このように、上記スライダが上記カードの挿入方向において細長でかつ上記カード挿入空間の側方においてスライド可能にされており、上記逃がし路の方向が上記スライダの長手方向と交叉する方向にされており、上記逃がし路の底面に、上記係止箇所の平坦な底面と上記段付面との間に位置し、上記係止箇所の平坦な底面に対して傾斜角を持ち、かつ上記係止箇所の底面側から上記段付面の上端側に向って上り勾配となる傾斜面が上記係止箇所の平坦な底面とは別に設けられており、上記係止端が上記筐体に備えられたばね片部によって上記逃がし路の底面に弾圧されており、上記カード挿入空間に挿入されたカードをハーフロックするための弾性片部が上記スライダに備えられており、上記ばね片部及び上記弾性片部が上記スライダの長手方向において細長にされており、上記傾斜面の上り勾配の方向が上記スライダ、上記ばね片部及び上記弾性片部の各長手方向と交叉する方向にされており、上記係止端が上記傾斜面の上り勾配に沿って上記カードの挿入方向及び上記スライダの長手方向と交叉する方向に移動可能にされており、上記係止箇所の平坦な底面に対して傾斜角を持ち上記平坦な底面から上記段付面の上端側に向って上り勾配となる上記傾斜面を有したループ溝が、上記カード挿入空間を形成する上記筐体内であって上記カード挿入空間の側方において上記カードの挿入方向に沿ってスライド可能にされた上記スライダに形成されており、上記スライダが上記カード挿入空間に挿入されたカードに押されて待機位置からカードセット位置に対応する押込位置まで押し込まれてロックされたとき、上記ばね片部によって上記係止端の平坦な底面が上記係止箇所の平坦な底面に対して弾圧され、上記逃がし路の底面に弾圧された上記係止端が上記傾斜面の上り勾配に沿って移動するときに上記傾斜面によって上記係止端に移動抵抗が与えられており、上記スライダが上記カード挿入空間に挿入されたカードに押されて待機位置からカードセット位置に対応する押込位置まで押し込まれてロックされた状態で、上記カードを押圧することにより、カード排出方向に弾発付勢された上記スライダが上記カードによって上記押込位置から弾発力に抗して押し込まれたときに、上記係止端による上記係止箇所の平坦な底面からこの平坦な底面に対して傾斜角を持った上記傾斜面への移動が開始され、かつ上記係止端が上記逃がし路に形成された上記傾斜面の上り勾配に沿って移動可能にされているという構成が付け加えられていると、係止部との係止箇所から係止ピンの係止端が逃がし路を移動して復路始部へ移動する際に、上り勾配の傾斜面がその傾斜面に弾圧して摺動する係止端に抵抗(移動抵抗)を与えるため、落下衝撃の反作用などによって係止端が上記係止箇所から復路始部に逃げ出しにくくなる。その結果、落下などに起因して係止端が係止部から外れてスライダのロック状態が解除されるという事態が起こりにくくなり、カードセット位置に位置決めされていたカードが不慮に排出されてしまうという事態も起こりにくくなる。
本発明では、上記ループ溝の溝深さが、上記係止端の上記係止部との係止箇所で上記復路始部と同等の深さに形成されていても、上記係止端の上記係止部との係止箇所で上記復路始部よりも深く形成されていてもよい。このうち、上記係止箇所でのループ溝の溝深さを復路始部と同等の深さに形成したものでは、図12で説明したような係止箇所aでのループ溝の溝深さが復路始部23aよりも浅くなっているものに比べ、係止部24に対する係止端41の掛り幅が大きくなるので、係止端41が係止部24を乗り越えるという事態が起こりにくくなり、その結果、スライダの押込位置でのロック状態の安定性が向上する。また、ループ溝の溝深さを係止箇所aと復路始部23aとで同等の深さに形成すると、係止箇所aが図12又は図13で説明した従来例で最も深い箇所である復路始部23aと同等になるために、ループ溝21の他の箇所の深さも浅くすることが可能になり、そのためにループ溝21の深さを浅くすることによってカム体20をスライダ70と一体成形する場合にそのスライダ70の薄型化を図りやすくなる。これに対し、上記係止箇所でのループ溝の溝深さを復路始部よりも深く形成したものでは、それらが同等の深さになっているものに比べて傾斜面の上り勾配が大きくなるので、係止端が逃がし路を移動して復路始部へ移動する際の傾斜面上での移動抵抗が大きくなる。そのため、落下衝撃の反作用などによって係止端が上記係止箇所から復路始部に逃げ出しにくくなって、落下などに起因して係止端が係止部から外れてスライダのロック状態が解除されるという事態が起こりにくくなり、カードセット位置に位置決めされていたカードが不慮に排出されてしまうという事態も起こりにくくなる。
本発明では、上記段付面の上端縁が、上記復路始部の底面に沿う片側縁とその片側縁の端部から上記係止部の根元に向かう下り勾配の他側縁とに分かれていると共に、上記傾斜面が、上記片側縁に向かう上り勾配の片側傾斜面と上記他側縁に向かう上り勾配の他側傾斜面とに分かれていることが望ましい。また、上記他側傾斜面の底辺が上記逃がし路を横切り、上記片側傾斜面の底辺が、上記係止部に対向して上記逃がし路を形成している段付状の壁面に位置していることが望ましい。これらの発明によると、逃がし路に単一の平坦な上り勾配の傾斜面を形成した場合のその傾斜面よりも、他側傾斜面の上り勾配が大きくなるので、係止端が逃がし路を移動して復路始部へ移動する際の他側傾斜面上での移動抵抗が大きくなり、それだけ落下衝撃の反作用などによって係止端が上記係止箇所から復路始部に逃げ出しにくくなって、落下などに起因して係止端が係止部から外れてスライダのロック状態が解除されるという事態が起こりにくくなり、カードセット位置に位置決めされていたカードが不慮に排出されてしまうという事態も起こりにくくなる。これらの発明の作用については次の実施形態を参照してさらに詳しく説明する。
本発明では、上記筐体が、ボディとこのボディに装着された板金製のカバーとを有し、そのカバーに内向きに切起し形成されたばね片部を上記係止ピンに弾接させることにより上記係止端が上記逃がし路の底面に弾圧されていることが望ましい。これによれば、係止端を逃がし路の底面に弾圧させるための部品が余分に必要なくなる。
本発明によれば、カム機構の構成、具体的にはカム体の逃がし路の底面の形状を少しだけ変更するという簡単な対策を講じるだけであるにもかかわらず、カードの挿入操作性を損なうことなく、落下衝撃などによるカードの不慮の排出が起こりにくくなる、という効果が奏される。
図1は本発明の実施形態に係るカードコネクタの概略斜視図、図2は待機位置のスライダ70にカード100がハーフロックされている状態を筐体50のカバー55を省略して示した一部破断平面図、図3はカード100によってスライダ70が押込位置に押し込まれている状態を筐体50のカバー55を省略して示した一部破断平面図、図4はカード100に1回目のプッシュ操作を行った状態を筐体50のカバー55を省略して示した一部破断平面図、図5はスライダ70の平面図、図6はカム体20の要部の斜視図、図7はカム機構10の要部の平面図、図8は図7のVIII−VIII線に沿う部分の断面図、図9は係止ピン40とボディ51との連結箇所を示した説明図、図10は傾斜面32の形状を示した斜視図、図11は変形例による傾斜面32の形状を示した斜視図である。
このカードコネクタは、図1のように、合成樹脂成形体でなるボディ51とそのボディ51に装着された板金製のカバー55とを備えた筐体50を有し、その筐体50の内部には、ボディ51とカバー55とによって取り囲まれることによって形成されたカード挿入口(スロット)を備えるカード挿入空間が形成されている。図2のように、ボディ51の前端部に多数のコンタクト57が横に並べて配備されていて、それらのコンタクト57がカード挿入空間に挿入されてカードセット位置に達したカード100の電極に弾接して電気的接続が行われるようになっている。さらに、ボディ51には、カード誤挿入を防ぐためにリブ状の突出部50aが備わっていて、図3又は図4のように、カード100が適正姿勢でカード挿入空間に挿入されたときには、カード100に具備されている溝部130に突出部50aが収容されるのに対し、カード100が裏返し姿勢でカード挿入空間に挿入されたときには、カード100の先端に突出部50aが突き当たってカード100の誤挿入が防止されるようになっている。
図2〜図4のように、筐体1の内部にはスライダ70が配備されていて、このスライダ70がコイルばねでなるばね体52により後方へ常時付勢されていて、そのスライダ70の後端がボディ51の後端の凸部53に当たることによってスライダ70が待機位置に位置決めされるようになっている。図5のように、スライダ70は、前端部に内向きの突部71を備えていて、図2のようにこの突部71によって筐体1のカード挿入空間に挿入されてきたカード100の前端コーナ部110を受け止めるようになっている。さらに、スライダ70には、先端に山形係合部75を備えた片持ち状の弾性片部76が一体成形されている。
カム機構10は、図5〜図8で判るように、カム体20とばね性を備えた線材を背低門形に曲成することにより形成された係止ピン40とを備えていて、カム体20が図5のようにスライダ70に一体に成形されているのに対し、図9のように、係止ピン40の後端側の脚部42がボディ51の上記凸部53に具備された支持孔54(図2又は図3参照)に回転自在に嵌合状に支持されている。また、係止ピンの前端部は係止端41として形成されている。
カム体20のループ溝21は図12で説明したものと略同様の形に形成されている。すなわち、図6又は図7のように、往路22と復路23のほか、それらの間に形成された突起状の係止部24や、往路終部22aから係止部24に至る導入路25、係止部24から復路始部23aに至る逃がし路26などが備わっている。そして、ループ溝21は全体として細長いハート形形状に形成されていて、上記の導入路25と逃がし路26とがハート形の凹み箇所を形作っている。そして、係止ピン40の係止端41がループ溝21に嵌合されていて、スライダ70が待機位置に位置しているときには、図2のように係止端41が往路22の始部と復路23の終部との合流箇所27である初期位置に位置している。また、係止ピン40には上記カバー55に内向きに切起し形成されたばね片部56が重ね合わされ、このばね片部56の弾性によって係止ピン40の係止端41が上記ループ溝21の底面に常時弾圧されている。
以上の構成で、図2のようにカード挿入空間に適正姿勢で挿入されたカード100の前端コーナ部110が、ばね体52によって待機位置まで後退させられているスライダ70の山形係合部75を乗り越えてスライダ70の突部71に突き当たると、カード100に備わっている凹入部120に山形係合部75が嵌合する。この状態はカード100のハーフロック状態であり、このハーフロック状態では、カード100の自由な抜出しが凹入部120と山形係合部75との係合によって防止され、カード100にある程度の引抜き力が加えられると、カード100が山形係合部75を乗り越えて引き抜かれる。
図2の状態からカード100に対して1回目のプッシュ操作が行われると、スライダ70と共にカム体20がばね体52の付勢力Aに抗してカード100によって押し込まれるため、係止ピン40の係止端41がループ溝21の合流箇所27から往路22を移動して往路終部22aに達し(このときのスライダ70の位置を図4に示してある)、その時点で押込み力が解除されると、付勢力Aによりスライダ70と共にカム体20が押し戻されて係止端41が導入路25を移動して図7又は図8のように係止部24に係止される(このときのスライダ70の位置を図3に示してある)。次に、カード100に対して2回目のプッシュ操作が行われると、スライダ70と共にカム体20が付勢力Aに抗して押し込まれ、係止端41が逃がし路26を移動して復路始部23aに達し、その時点で押込み力が解除されると、付勢力Aによりカム体20が押し戻されて係止端41が復路23を移動して合流箇所27に戻る。
したがって、プッシュプッシュ操作によってカード100のカードセット位置への挿入とカードセット位置からの排出とが行われ、1回目のプッシュ操作では、スライダ70が待機位置からカードセット位置に対応する押込位置まで押し込まれ、かつ、係止端41が係止部24に係止してスライダ70が押込位置でロックされることにより、スライダ70にハーフロックされているカード100がカードセット位置に位置決めされてカード側の電極がボディ51側に設けられているコンタクトに接触して両者が電気的接続される。これに対し、2回目のプッシュ操作では、係止端41が逃がし路26を移動して係止部24から外れるのでスライダ70のロック状態が解除され、その後、係止端41が復路23を経由して合流箇所27に戻ることによりカードが排出される。
図6〜図8又は図10のように、この実施形態では、カム体20のループ溝21の逃がし路26の底面に、逃がし路26と復路始部23aとの境に位置する段付面31の上端縁に向かう上り勾配を持つ傾斜面32が備わっている。そして、この実施形態では、図10のように、段付面31の上端縁が、水平な復路始部23の底面に平行な片側縁33とその片側縁33の端部から係止部24の根元に向かう下り勾配の他側縁34とに分かれていて、上記傾斜面32が、片側縁32に向かう上り勾配の片側傾斜面32aと他側縁34に向かう上り勾配の他側傾斜面32bとに分かれている。そして、他側傾斜面32bの底辺32b’が逃がし路26を横切り、片側傾斜面32aの底辺32a’が、係止部24に対向して逃がし路26を形成している段付状の壁面35に位置している。
このように、逃がし路26の底面に、段付面31の上端縁に向かう上り勾配を持つ傾斜面32が備わっていると、図8のように係止部24に係止している係止端41が、その係止箇所aから逃がし路26(図6又は図10参照)を移動して復路始部23aへ移動する際に、上り勾配の傾斜面32がばね片部56の付勢によってその傾斜面32に弾圧して摺動する係止端41に移動抵抗を与える。加えて、スライダ70には、ばね体52による付勢力Aが作用しているので、落下衝撃の反作用などによって係止端41が係止箇所aから復路始部23aに逃げ出しにくくなり、落下などに起因して係止端41が係止部24から外れてスライダ70のロック状態が解除されるという事態が起こりにくくなる。したがって、カードセット位置に位置決めされていたカード100が不慮に排出されてしまうという事態も起こりにくくなる。
また、この実施形態では、ループ溝21の溝深さが、係止端41の係止部24との係止箇所aで復路始部23aよりも深く形成されている。この点に関し、ループ溝21の溝深さは、係止端41の係止部24との係止箇所aで復路始部23aと同等の深さに形成することも可能である。しかし、係止箇所aでのループ溝21の溝深さを復路始部23aよりも深く形成しておくと、それらが同等の深さになっているものに比べて片側傾斜面32aや他側傾斜面32aのそれぞれの上り勾配が大きくなるので、係止端41が逃がし路26を移動して復路始部23aへ移動する際のそれらの傾斜面32a,32b上での移動抵抗が大きくなる。そのため、落下衝撃の反作用などによって係止端41が係止箇所aから復路始部23aに逃げ出しにくくなって、落下などに起因して係止端41が係止部24から外れてスライダ70のロック状態が解除されるという事態がきわめて起こりにくくなり、カードセット位置に位置決めされていたカード100が不慮に排出されてしまうという事態もきわめて起こりにくくなる。また、係止箇所aでのループ溝21の溝深さを復路始部23aよりも深く形成したものでは、係止部24に対する係止端41の掛り幅が大きくなるので、係止端41が係止部24を乗り越えるという事態が起こりにくくなり、その結果、スライダの押込位置でのロック状態の安定性も向上する。他方、ループ溝21の溝深さを、係止箇所aと復路始部23aとで同等の深さに形成した場合には、係止箇所aが図12又は図13で説明した従来例で最も深い箇所である復路始部23aと同等であるために、ループ溝21の他の箇所の深さも浅くすることが可能になり、そのためにループ溝21の深さを浅くすることによってカム体20を一体成形したスライダ70の薄型化を図りやすくなる。
さらに、この実施形態では、段付面31の上端縁を、水平な復路始部23の底面に平行な片側縁33とその片側縁33の端部から係止部24の根元に向かう下り勾配の他側縁34とに分け、傾斜面32をそれらに向かう上り勾配の各別の片側傾斜面32aと他側縁34に向かう上り勾配の他側傾斜面32bとに分けている。これに対し、図11に示した変形例のように、段付面31の上端縁に向かう上り勾配の傾斜面32を単一の平坦な面によって形成することも可能である。しかし、傾斜面32を片側傾斜面32aと他側傾斜面32bとに分けている図10の事例では、傾斜面32を単一の平坦な面によって形成した図11の事例に比べて、他側傾斜面32bの上り勾配が図11の傾斜面32よりも大きくなり、そのために、係止端41が逃がし路26を移動して復路始部23aへ移動する際の他側傾斜面上32bでの移動抵抗が大きくなって、落下衝撃の反作用などによってスライダ70がロック解除されにくくなる。
さらに、図10の事例のように段付面31の上端縁のうちの他側端縁34を係止部24の根元に向けて傾斜させたり、図11の事例のように段付面31の上端縁を係止部24の根元に向けて傾斜させたりしておくと、上記した移動抵抗を発生させ得るものであるにもかかわらず、係止端41が逃がし路26から段付面31を乗り越えて復路始部23aに移動する動作が円滑に行われやすくなり、その乗り越え時に異音が発生しにくくなる。
上記した実施形態では、カード挿入空間に挿入されたカード100をハーフロックする山形係合部75を、スライダ70に一体成形した片持ち状の弾性片部76に具備させた事例を示したけれども、スライダに取り付けた別部品としてのばね片の先端部を山形に折り曲げて山形係合部として形成することも可能である。
図1〜図13において、同一又は相応する要素には同一符号を付してある。