本発明は、少なくともイコサペント酸エチルエステル(以下EPA−Eと略記する)を含有することを特徴とする脳卒中の発症および/または再発を予防する為の組成物に関する。
脳卒中は、脳出血、脳梗塞などに代表される脳血管障害により、急激に意識障害、神経症状が出現する病態と定義され、厚生労働省発表による平成16年の日本人の死因順位別死亡数では第3位に位置している。幸いにして死亡に至らなかった場合においても、その後遺症は、患者の日常生活の質(QOL)に重大な影響を与えることが多く、また、一度発症すると再発し易いということもあり、社会問題の一つになっている。
脳卒中は、高血圧との関連が古くから知られており、発症または再発を予防するために、種々の降圧薬による血圧管理が提唱、実践され、その結果として、脳出血型の脳卒中による死亡数は確かに減少した。
しかしながら、食生活の欧米化により糖尿病、高脂血症や高血圧症などのいわゆる生活習慣病患者が増加するにつれ、日本人における脳卒中の病型も変化し、現在では、日本の脳卒中病型の内訳は、脳梗塞約80%、脳出血約15%、くも膜下出血約5%となっている。
食生活の欧米化に伴って、脳梗塞が増加するようになってからは、生活習慣病の中でも、特に高脂血症が注目され、コレステロール、とりわけ、悪玉コレステロールとも呼ばれる低比重リポ蛋白−コレステロール(LDL−C)を改善することにより、動脈硬化性疾患、すなわち、心筋梗塞や脳梗塞などを予防することが提唱されてきた。
このような背景の中で、強力な血中コレステロール低下作用を有する3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害剤(HMG−CoA RI)、いわゆるスタチン製剤による各種の臨床試験(例えば、KLIS、PATE、J−LIT、等)が本邦においても実施され、脳梗塞発症予防におけるスタチンの一応の有効性が示唆された。しかしながら、脳卒中の二次予防、すなわち、再発予防に関しては、今なお満足な結果が得られていないのが現状である。
高脂血症の改善作用を有する別の化合物の一例として、多価不飽和脂肪酸が知られている。多価不飽和脂肪酸は、分子内に複数の炭素−炭素二重結合を有する脂肪酸と定義され、二重結合の位置により、ω−3系、ω−6系などに分類される。ω−3系の多価不飽和脂肪酸としてはα−リノレン酸、イコサペント酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが、ω−6系の多価不飽和脂肪酸としてはリノール酸、γ−リノレン酸、アラキドン酸などが知られている。多価不飽和脂肪酸は、天然物由来の成分であり、抗動脈硬化作用、血小板凝集抑制作用、血中脂質低下作用、抗炎症作用、抗癌作用、中枢作用など、多彩な作用を示し、安全性も高いことから各種食品に配合されたり、健康食品あるいは医薬品として市販されている。
ω−3系多価不飽和脂肪酸であるEPAのエチルエステル(EPA−E)およびDHAのエチルエステル(DHA−E)の混合物を3.5年間服用することにより、心筋梗塞既往患者の死亡率が減少したとの報告がある(特許文献1参照)。しかしながら、当該文献には、EPA−EおよびDHA−Eが、脳卒中の発症および/または再発を予防することを開示または示唆する記載はない。
また、EPAおよびDHAを含有する魚油を服用することにより、脳に血液を供給する動脈のアテローム性動脈硬化の症状を示す患者の脳損傷を予防することに関する示唆がある(特許文献2参照)。しかしながら、当該文献は、頚動脈血管内膜切除術施行患者の頚動脈プラークについて組織学的に検討したものであり、脳損傷および/または脳卒中の予防効果について具体的に示したものではない。
近年、動物実験の結果や、小規模の臨床所見から、生活習慣病の改善効果を有する各種薬剤が、ヒトにおける動脈硬化性疾患を予防し得るものか確認することを目的として、多くの大規模臨床試験が計画され、実践されている。しかしながら、必ずしも期待通りの結果が得られていないのが現状であり、とりわけ、脳卒中の二次予防については、暗中模索状態が続いている。
高純度EPA−EはエパデールおよびエパデールS(持田製薬社製)の商品名で高脂血症治療薬として日本で市販されており、1回600mg、1日3回食直後、(ただし、トリグリセリド(TG)の異常を呈する場合には、その程度により、1回900mg、1日3回まで増量して)経口投与することにより、血清T−Cho濃度を3〜6%、血清TGを14〜20%減少させる(非特許文献1参照)こと、およびこれら作用から高脂血症患者の心血管イベントに対する効果が期待され、大規模臨床試験を実施した結果、スタチンとの併用により心イベント抑制効果を有することが2005年のアメリカ心臓病学会年会において発表された(非特許文献2および3参照)。しかしながら、当該文献には、EPA−Eが、脳卒中の発症および/または再発を予防することを開示または示唆する記載はない。
国際公開第00/48592号パンフレット(特表2002−537252号公報)
国際公開第03/92673号パンフレット(特表2005−529903号公報)
医薬品インタビューフォーム EPA製剤エパデールカプセル300、2002年7月および2004年2月改訂、2004年12月発行第21版、p21−22
Medical Tribune、2005年11月17日発行、特別企画第3部、p75−76
Circulation、112巻、21号、p3362−3363(2005)
本発明の目的は、脳卒中は依然として主要な死亡原因であり、HMG−CoA RIによる治療を行なっても予防できない脳卒中が多数存在し問題となっている状況において、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物を提供することにある。
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、EPA−Eが脳卒中の発症および/または再発の予防、特に脳卒中発症後6ヶ月を経過した後の患者における脳卒中再発の予防作用を有することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、
(1)少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物である。
具体的に、
(2)少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、高脂血症患者の脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物である。
(3)少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、脳卒中既往患者の脳卒中再発を予防するための組成物である。
(4)少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、脳卒中発症後6ヶ月を経過した後の患者の脳卒中再発を予防するための組成物である。
(5)全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E含量比が96.5質量%以上である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の組成物である。
(6)EPA−E1.8g/日〜2.7g/日で経口投与することを特徴とする上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の組成物である。
(7)HMG−CoA RIと併用することを特徴とする(1)ないし(6)のいずれかに記載の組成物である。
(8)投与開始から3年経過以降の脳卒中再発予防効果に優れる(1)ないし(7)のいずれかに記載の組成物である。
(9)血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とする(1)ないし(8)のいずれかに記載の組成物である。
(10)上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の組成物を投与する、脳卒中の発症および/または再発を予防する方法である。
(11)上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の組成物を製造するためのEPA−Eの使用である。
上記のような少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、本発明の組成物は、脳卒中の発症および/または再発の予防に有用である。特に、高脂血症患者でHMG−CoA RIによる治療を行なったにもかかわらず発症および/または再発する脳卒中、あるいは特に脳卒中発症後6ヶ月を経過した後の患者における脳卒中の再発の予防効果が期待される。
また、本発明の組成物はHMG−CoA RIと併用することによりその効果は相乗的に増強され、脳卒中の発症および/または再発、特に脳卒中発症後6ヶ月を経過した後の患者における脳卒中の再発の予防効果をさらに高めることが期待でき、臨床上有用である。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の第一の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物である。あるいは、本発明の第一の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物である。
脳卒中、すなわち、脳血管障害により急激に意識障害、神経症状が出現する病態の発症および/または再発予防であればすべて含まれるが、特に脳出血(高血圧性脳内出血、等)、脳梗塞、一過性脳虚血発作、くも膜下出血、脳血栓(アテローム血栓性脳梗塞、等)、脳塞栓(心原性脳塞栓症、等)、ラクナ梗塞などの発症および/または再発予防が例示される。投与対象は、脳卒中の発症の予防が必要なヒトはすべて含まれるが、特に高脂血症患者が例示される。
本発明の効果が得られれば全脂肪酸中のEPA−E含量比および投与量は特に問わないが、EPA−Eは高純度のもの、例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、90質量%以上のものが更に好ましく、96.5質量%以上のものが更に好ましい。1日投与量はEPA−Eとして、0.3〜6g/日、好ましくは0.9〜3.6g/日、更に好ましくは1.8〜2.7g/日が例示される。他に含有されるに好ましい脂肪酸としてはω−3系長鎖不飽和脂肪酸、特に、DHA−Eが挙げられる。本発明の効果が得られればEPA−E/DHA−Eの組成比、全脂肪酸中のEPA−EおよびDHA−E(以下、EPA−E+DHA−E)の含量比およびEPA−E+DHA−Eの投与量は特に問わないが、好ましい組成比として、EPA−E/DHA−Eは、0.8以上であることが好ましく、更に好ましくは、1.0以上、より好ましくは、1.2以上である。EPA−E+DHA−Eは高純度のもの、例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E+DHA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、80質量%以上のものが更に好ましく、90質量%以上のものが更に好ましい。1日投与量はEPA−E+DHA−Eとして、0.3〜10g/日、好ましくは0.5〜6g/日、更に好ましくは1〜4g/日が例示される。他の長鎖飽和脂肪酸含量は少ないことが好ましく、長鎖不飽和脂肪酸でもω−6系、特にアラキドン酸含量は少ないことが望まれ、2質量%未満が好ましく、1質量%未満が更に好ましい。
本発明の第二の態様は、少なくともEPA−Eを含有することを特徴とする高脂血症患者の脳卒中の発症および/または再発予防の為の組成物である。あるいは、本発明の第二の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを含有することを特徴とする高脂血症患者の脳卒中の発症および/または再発予防の為の組成物である。
本発明の第三の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、脳卒中既往患者の脳卒中再発を予防するための組成物である。あるいは、本発明の第三の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する、脳卒中既往患者の脳卒中再発を予防するための組成物である。
本発明の第二および第三の態様、また、後述する第四〜第十四の態様における、脳卒中の種類、全脂肪酸中のEPA−E含量比、全脂肪酸中のEPA−E+DHA−E含量比、EPA−E/DHA−E組成比、1日投与量、および他の長鎖脂肪酸含有比、等の好ましい態様は上記の第一の態様と同様である。
本発明の第四の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、脳卒中発症後6ヶ月を経過した後の患者の脳卒中再発を予防するための組成物である。あるいは、本発明の第四の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する、脳卒中発症後6ヶ月を経過した後の患者の脳卒中再発を予防するための組成物である。本態様における脳卒中の種類、全脂肪酸中のEPA−E含量比、全脂肪酸中のEPA−E+DHA−E含量比、EPA−E/DHA−E組成比、1日投与量、および他の長鎖脂肪酸含有比、等の好ましい態様は、上記の第一の態様と同様である。投与対象は直近の脳卒中発症後6ヶ月以上経過した患者であり、脳卒中急性期を過ぎた患者が対象である。
本発明の第五の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、投与開始から3年経過以降の脳卒中の再発予防効果に優れる組成物である。具体的には、少なくともEPA−Eを有効成分として含有し、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物を、3年以上継続して投与することにより、EPA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で15%以上、同4年および5年経過時で30%以上、脳卒中の発症率が低下する。特に、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とする場合には、少なくともEPA−Eを有効成分として含有し、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物を、3年以上継続して投与することにより、EPA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で20%以上、同4年および5年経過時で40%以上、脳卒中の発症率が低下する。あるいは、本発明の第五の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する、投与開始から3年経過以降の脳卒中の再発予防効果に優れる組成物である。具体的には、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有し、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物を、3年以上継続して投与することにより、EPA−Eおよび/またはDHA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で15%以上、同4年および5年経過時で30%以上、脳卒中の発症率が低下する。特に、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とする場合には、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有し、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物を、3年以上継続して投与することにより、EPA−Eおよび/またはDHA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で20%以上、同4年および5年経過時で40%以上、脳卒中の発症率が低下する。
本発明の第六の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有し、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物を、HMG−CoA RIとの併用により、3年以上継続して投与することにより、EPA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で15%以上、同4年および5年経過時で30%以上、脳卒中の発症率が低下する効果を有する組成物である。特に、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とする場合には、少なくともEPA−Eを有効成分として含有し、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物を、HMG−CoA RIとの併用により、3年以上継続して投与することにより、EPA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で20%以上、同4年および5年経過時で40%以上、脳卒中の発症率が低下する効果を有する組成物である。あるいは、本発明の第六の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有し、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物を、HMG−CoA RIとの併用により、3年以上継続して投与することにより、EPA−Eおよび/またはDHA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で15%以上、同4年および5年経過時で30%以上、脳卒中の発症率が低下する効果を有する組成物である。特に、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とする場合には、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有し、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物を、HMG−CoA RIとの併用により、3年以上継続して投与することにより、EPA−Eおよび/またはDHA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で20%以上、同4年および5年経過時で40%以上、脳卒中の発症率が低下する効果を有する組成物である。
本発明の第七の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する組成物を、3年以上継続して投与することを特徴とする、脳卒中の発症および/または再発を予防する方法である。あるいは、本発明の第七の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する組成物を、3年以上継続して投与することを特徴とする、脳卒中の発症および/または再発を予防する方法である。
本発明の第八の態様は、血清TG/HDL−C比が1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3.75以上の患者を対象とする、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物である。あるいは、本発明の第八の態様は、血清TG/HDL−C比が1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3.75以上の患者を対象とする、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物である。
本発明の第九の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有することを特徴とする、高脂血症患者の脳卒中の再発予防の為の組成物である。あるいは、本発明の第九の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有することを特徴とする、高脂血症患者の脳卒中の再発予防の為の組成物である。本発明の第九の態様における、脳卒中の種類、全脂肪酸中のEPA−E含量比、全脂肪酸中のEPA−E+DHA−E含量比、EPA−E/DHA−E組成比、1日投与量、および他の長鎖脂肪酸含有比、等の好ましい態様は上記の第一の態様と同様である。
本発明の第十の態様は、HMG−CoA RIと併用することを特徴とする、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発予防の為の組成物であり、別の言い方をすると、HMG−CoA RIが必要とされている患者における、HMG−CoA RIと併用するための、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発予防の為の組成物である。あるいは、本発明の第十の態様は、HMG−CoA RIと併用することを特徴とする、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発予防の為の組成物であり、別の言い方をすると、HMG−CoA RIが必要とされている患者における、HMG−CoA RIと併用するための、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発予防の為の組成物である。
HMG−CoA RIは、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害作用を有する物はすべて含まれるが、医薬投与可能なものが好ましい。具体的には、プラバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチンおよびこれらの塩、誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチンあるいはロスバスタチンが更に好ましく、プラバスタチンあるいはシンバスタチンが更に好ましい。塩としては、医薬投与可能なものであればすべて含まれるが、特にナトリウム塩あるいはカルシウム塩、例えば、プラバスタチンナトリウム、フルバスタチンナトリウム、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチンカルシウム、ピタバスタチンカルシウムおよびロスバスタチンカルシウムが好ましい。本明細書においては、特に断らない限り、例えば「プラバスタチン」にはプラバスタチンの塩の態様も含まれる。
本発明の第十一の態様は、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とし、HMG−CoA RIと併用するための、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物であり、別の言い方をすると、HMG−CoA RIが必要とされている患者のうち、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とし、HMG−CoA RIと併用するための、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発予防の為の組成物である。あるいは、本発明の第十一の態様は、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とし、HMG−CoA RIと併用するための、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物であり、別の言い方をすると、HMG−CoA RIが必要とされている患者のうち、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とし、HMG−CoA RIと併用するための、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発予防の為の組成物である。HMG−CoA RIが必要とされている患者は、多くの場合、高脂血症に罹患している。
本発明の第七〜第十一の態様の組成物は、好ましくは、脳卒中既往のある患者のための組成物であり、特に好ましくは、脳卒中発症後6ケ月を経過した後の患者、すなわち、脳卒中急性期を経過した後の患者のための組成物である。
本発明の第十二の態様は、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者に対し、当該血清TG/HDL−C比が3.75未満、より好ましくは、1未満になるまで、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する組成物を投与することによる、脳卒中の発症および/または再発を予防する方法である。あるいは、本発明の第十二の態様は、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者に対し、当該血清TG/HDL−C比が3.75未満、より好ましくは、1未満になるまで、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する組成物を投与することによる、脳卒中の発症および/または再発を予防する方法である。
本発明の第十三の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する組成物を投与することを特徴とする、脳卒中の発症および/または再発を予防する方法である。あるいは、本発明の第十三の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する組成物を投与することを特徴とする、脳卒中の発症および/または再発を予防する方法である。
本発明の第十四の態様は、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物を製造するためのEPA−Eの使用である。あるいは、本発明の第十四の態様は、脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物を製造するためのEPA−Eおよび/またはDHA−Eの使用である。
本発明の効果が得られれば全脂肪酸中のEPA−E含量比および投与量は特に問わないが、EPA−Eは高純度のもの、例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、90質量%以上のものが更に好ましく、96.5質量%以上のものが更に好ましい。1日投与量はEPA−Eとして、0.3〜6g/日、好ましくは0.9〜3.6g/日、更に好ましくは1.8〜2.7g/日が例示される。他に含有されるに好ましい脂肪酸としてはω−3系長鎖不飽和脂肪酸、特に、DHA−Eが挙げられる。本発明の効果が得られればEPA−E/DHA−Eの組成比、全脂肪酸中のEPA−E+DHA−Eの含量比およびEPA−E+DHA−Eの投与量は特に問わないが、好ましい組成比として、EPA−E/DHA−Eは、0.8以上であることが好ましく、更に好ましくは、1.0以上、より好ましくは、1.2以上である。EPA−E+DHA−Eは高純度のもの、例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E+DHA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、80質量%以上のものが更に好ましく、90質量%以上のものが更に好ましい。1日投与量はEPA−E+DHA−Eとして、0.3〜10g/日、好ましくは0.5〜6g/日、更に好ましくは1〜4g/日が例示される。他の長鎖飽和脂肪酸含量は少ないことが好ましく、長鎖不飽和脂肪酸でもω−6系、特にアラキドン酸含量は少ないことが望まれ、2質量%未満が好ましく、1質量%未満が更に好ましい。
本発明の組成物は、EPA−Eおよび/またはDHA−Eを含有し、健常人あるいは高脂血症、糖尿病、高血圧等の脳卒中の危険因子を有するヒトに対して経口投与することにより脳卒中の発症および/または再発を予防する効果を有している。特に、高脂血症患者でHMG−CoA RIによる治療を行なったにもかかわらず発症および/または再発する脳卒中の予防効果を有している。また、本発明の組成物はHMG−CoA RIとの併用効果を有し、併用することでさらに脳卒中の発症および/または再発を予防することが可能である。
本発明の組成物は、脳卒中の発症および/または再発を予防する為に通常用いられる薬剤、例えば、アスピリン、チクロピジン、クロピドグレル(clopidogrel)、シロスタゾールなどの抗血小板薬;ワルファリン、ヘパリン、キシメラガトラン(ximelagatran)などの抗凝固薬;アンジオテンシンII受容体拮抗薬(カンデサルタン、ロサルタン、等)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、カルシウムチャネル拮抗薬(アムロジピン、シルニジピン、等)、α1遮断薬などの高血圧治療薬;αグルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース、アカルボース、等)、ビグアナイド系薬剤、チアゾリジンジオン系薬剤(ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、リボグリタゾン、等)、速効型インスリン分泌促進剤(ミチグリニド、ナテグリニド、等)などの糖尿病用薬または耐糖能異常改善薬;上述のHMG−CoA RI、フィブラート系薬剤、スクアレン合成酵素阻害剤(TAK−475等)、コレステロール吸収阻害剤(エゼチミブ等)などの抗高脂血症薬、などから選ばれる少なくとも1つと適宜組み合わせて用いることができる。なお、本発明の組成物は、利便性を高めるために、上記HMG−CoA RIおよび/またはその他の少なくとも1種の薬剤とともに1つの包装体に包装されて使用することもできる。
本発明の組成物は魚油あるいは魚油の濃縮物に比べ、飽和脂肪酸やアラキドン酸等の脳卒中に対して好ましくない不純物が少なく、栄養過多やビタミンA過剰摂取の問題もなく作用効果を発揮することが可能である。また、エステル体のため主にトリグリセリド体である魚油等に比べて酸化安定性が高く、通常の酸化防止剤添加により十分安定な組成物を得ることが可能である。従って、EPA−Eを用いることで、初めて臨床上実用可能な脳卒中の発症および/または再発の予防用の組成物が得られた。
本明細書において、「イコサペント酸」の語は、全−シス−5,8,11,14,17−イコサペント酸(all-cis-5,8,11,14,17-icosapentaenoic acid)である。
本明細書において、「脳卒中」の語は、脳血管障害により急激に意識障害、神経症状が出現する病態と定義され、脳出血(高血圧性脳内出血、等)、脳梗塞、一過性脳虚血発作、くも膜下出血、脳血栓(アテローム血栓性脳梗塞、等)、脳塞栓(心原性脳塞栓症、等)、ラクナ梗塞などを含む。
本明細書において、「高脂血症患者」の語は、血清T−Cho濃度増加、血清LDL−Cho濃度増加、血清HDL−Cho濃度低下あるいは血清TGが増加した患者である。狭義には、高コレステロール血症(血清T−Cho濃度が約220mg/dL以上、更に狭義には250mg/dL以上)、高LDL−Cho血症(血清LDL−Cho濃度が140mg/dL以上)、低HDL−Cho血症(血清HDL−Cho濃度が40mg/dL未満)あるいは高TG血症(血清TGが150mg/dL以上)のいずれか1つを満たす患者を指す。各脂質の血清中濃度は、通常、空腹時に採血された検体を用いて、公知の方法により測定、算出することができる。血清TG/HDL−C比は、血清トリグリセリド(TG)濃度を血清HDL−コレステロール(HDL−C)で除した値である。
TG/HDL−C比は、健常人を対象としたMaruyamaらの報告(J. Atheroscler. Thromb.,10,186−191(2003))において、LDLの粒子径と逆相関することが知られており、TG/HDL−C比が1の時、LDLの粒径が25.5nmとなる相関関係が確認されている。LDLの中で、粒径25.5nm以下のものは、別名、超悪玉コレステロールと呼ばれるsdLDL(small, dense LDL)であり、強力な動脈硬化促進性を有することから、近年、TG/HDL−C比は、動脈硬化性疾患の予後を判断する指標の一つとして注目されている。上述の相関関係から、TG/HDL−C比が1以上でsdLDLが出現し、動脈硬化性疾患のリスクが高まると考えられるが、本願においては、TGの基準値である150mg/dLと、HDL−Cの基準値である40mg/dLから、血清TG/HDL−C比のカットオフ値を3.75に設定した。血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者群は、血中sdLDL濃度が高く、脳卒中の発症リスクが高いと想定される。TG高値、HDL−C低値とも、それぞれ、動脈硬化性疾患のリスクファクターと考えられている。また、TGが400mg/dL以上の場合、高カイロミクロン血症が疑われるが、高カイロミクロン血症は、動脈硬化促進性ではないと考えられている。この観点から、実施例における、登録時のTG/HDL−C比の値に基づく解析結果については、登録時のTGが400以上の症例を解析対象から除外している。
本明細書において、「EPA−EとHMG−CoA RIとの併用」の語は、EPA−EとHMG−CoA RIとを同時に投与する態様と、別々に投与する態様が含まれる。同時に投与される場合、配合剤とすることも2剤とすることもできる。別々に投与される場合、EPA−EをHMG−CoA RIより先に投与することも後に投与することもできる。また、EPA−EとHMG−CoA RIの投与量および投与比率は任意に設定することができる。
本明細書において、「EPA−Eおよび/またはDHA−EとHMG−CoA RIとの併用」の語は、EPA−Eおよび/またはDHA−EとHMG−CoA RIとを同時に投与する態様と、別々に投与する態様が含まれる。同時に投与される場合、配合剤とすることも2剤とすることもできる。別々に投与される場合、EPA−Eおよび/またはDHA−EをHMG−CoA RIより先に投与することも後に投与することもできる。また、EPA−Eおよび/またはDHA−EとHMG−CoA RIの投与量および投与比率は任意に設定することができる。
本発明の組成物は、単独投与で脳卒中の発症および/または再発予防作用を有し、特にHMG−CoA RI単独投与では予防できない脳卒中の発症および/または再発の予防効果が期待される。また、EPA−Eは、血清T−Cho濃度および血清TG低下作用のほかに、アラキドン酸カスケード阻害に基づく血小板凝集抑制作用等のHMG−CoA RIとは異なる薬理作用を有しており、HMG−CoA RIとの併用投与で上記効果を発揮させることもできる。
EPA−EおよびDHA−Eは高度に不飽和であるため、抗酸化剤たとえばブチレート化ヒドロキシトルエン、ブレチート化ヒドロキシアニソール、プロピルガレート、没食子酸、医薬として許容されうるキノンおよびα−トコフェロールを有効量含有させることが望ましい。
製剤の剤形としては、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、経口用液体製剤、シロップ剤、ゼリー剤の形で、経口で患者に投与されるが、とりわけカプセルたとえば、軟質カプセルやマイクロカプセルに封入しての経口投与が好ましい。
なお、高純度EPA−E含有軟カプセル剤であるエパデールおよびエパデールSは副作用の発現が少ない安全な閉塞性動脈硬化症および高脂血症治療薬として既に日本で市販されており、全脂肪酸中のEPA−E含量比は96.5質量%以上である。また、EPA−Eを約46質量%およびDHA−Eを約38質量%含有する軟質カプセル剤(オマコール、Omacor(ロスプロダクツ、Ross Products))が高TG血症治療薬として既にアメリカ等で市販されている。これらを入手して使用することもできる。
本発明の脳卒中の発症および/または再発を予防するための組成物の投与量および投与期間は対象となる作用を現すのに十分な量および期間とされるが、その剤形、投与方法、1日当たりの投与回数、症状の程度、体重、年齢等によって適宜増減することができる。経口投与する場合はEPA−Eとして0.3〜6g/日、好ましくは0.9〜3.6g/日、更に好ましくは1.8〜2.7g/日を3回に分けて投与するが、必要に応じて全量を1回あるいは数回に分けて投与してもよい。投与時間は食中ないし食後が好ましく、食直後(30分以内)投与が更に好ましい。上記投与量を経口投与する場合、投与期間は1年以上、好ましくは2年以上、更に好ましくは3年以上、とりわけ好ましくは5年以上であるが、脳卒中の発症および/または再発の危険度が高い状態が続いている間は投与を継続することが望ましい。場合により1日〜3ヵ月程度、好ましくは1週間〜1ヵ月程度の休薬期間を設けることもできる。
HMG−CoA RIの投与量はその薬剤の用法・用量の範囲内が好ましいが、その種類、剤形、投与方法、1日当たりの投与回数、症状の程度、体重、性別、年齢等によって適宜増減することができる。経口投与する場合は0.05〜200mg/日、好ましくは0.1〜100mg/日を2〜3回に分けて投与するが、必要に応じて全量を1回あるいは数回に分けて投与してもよい。また、EPA−Eの投与量に応じて減量することも可能である。
なお、プラバスタチンナトリウム(メバロチンTM錠・細粒(三共))、シンバスタチン(リポバスTM錠(萬有製薬))、フルバスタチンナトリウム(ローコールTM錠(ノバルティスファーマおよび田辺製薬))、アトルバスタチンカルシウム水和物(リピトールTM錠(アステラス製薬およびファイザー製薬))、ピタバスタチンカルシウム(リバロTM錠(興和および三共))、およびロスバスタチンカルシウム(クレストールTM錠(アストラゼネカおよび塩野義製薬))は高脂血症治療薬として既に日本で市販されており、また、ロバスタチン(メバコールTM錠(メルク))は高脂血症治療薬として既にアメリカで市販されており、これらの薬剤から少なくとも1つを入手してそれぞれの用法に従って適宜組み合わせて投与することができる。
それぞれの、好ましい一日用量は、プラバスタチンナトリウムでは5〜60mg、好ましくは10〜20mg、シンバスタチンでは2.5〜60mg、好ましくは5〜20mg、フルバスタチンナトリウムでは10〜180mg、好ましくは20〜60mg、アトルバスタチンカルシウム水和物では5〜120mg、好ましくは10〜40mg、ピタバスタチンカルシウムでは0.5〜12mg、好ましくは1〜4mg、ロスバスタチンカルシウムでは1.25〜60mg、好ましくは2.5〜20mg、ロバスタチンでは5〜160mg、好ましくは10〜80mg、セリバスタチンナトリウムでは0.075〜0.9mg、好ましくは0.15〜0.3mgがそれぞれ例示されるが、これらに限定されない。
以下に、本発明組成物の効果を実施例をもって示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1(EPA−Eの長期脳卒中発症予防作用)
試験方法
本試験は、2005年のアメリカ心臓病学会年会において発表された高純度EPA製剤に関する大規模臨床試験であるJELIS(Japan EPA Lipid Intervention Study)で得られた結果の一部を解析して得られたものである。なお、当該学会ではEPAが冠動脈イベントの抑制効果を有することについて発表されたが、EPAの脳卒中に対する効果については開示も示唆もされていない(JELISの概要についてはMedical Tribune、2005年11月17日発行、特別企画第3部、p75−76、および、Circulation、112巻、21号、p3362−3363(2005)参照)。
すなわち、JELIS試験の対象患者(血清T−Cho濃度が250mg/dL以上である男性は40〜75歳、女性は閉経後〜75歳の高脂血症患者;脳卒中発症後急性期の患者を対象外とするために脳卒中発症後6ケ月以内の患者は試験対象から除外)18,645例(EPA−E群(9,326例)と対照群(9,319例))のうち、脳卒中(脳血栓、脳塞栓、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作)既往を有するEPA−E群485名、対照群457名、について、投与開始から5年間の脳卒中再発の有無を観察し、解析した。さらに、登録時の血清TG/HDL−C比が確認できた症例(ただし、TG値が400mg/dL以上の症例を除く)について、登録時の血清TG/HDL−C比の値で3群に分けた結果についても同様に解析した。EPA−E群は、エパデール(持田製薬)を、通常、成人1回600mgを1日3回毎食直後に経口投与した。ただし、血清TGの異常を呈する場合は、その程度により1回900mg、1日3回まで増量できることとした。また、両群ともベース薬(基礎治療)として、プラバスタチンナトリウム(メバロチンTM錠・細粒(三共))、シンバスタチン(リポバスTM錠(萬有製薬))あるいはアトルバスタチンカルシウム水和物(リピトールTM錠(アステラス製薬およびファイザー製薬))を使用し、それぞれ定められた用法・用量の範囲で経口投与した。
結果
観察期間5年における脳卒中発症(再発)例数、発症率(%)およびEPA−E群の対照群に対するオッズ比の集計結果を表1に示す。オッズ比はEPA−E群の発症率/対照群の発症率の計算式で、脳卒中の発症率の抑制率は{(対照群の脳卒中の発症率−EPA−E群の脳卒中の発症率)/対照群の脳卒中の発症率}×100の計算式でそれぞれ算出した。
EPA−E投与により、脳卒中既往を有する患者の5年間に渡る脳卒中発症率は6.8%と対照群の脳卒中の発症率の10.5%に比べて低値を示した。オッズ比は0.648であり、脳卒中の発症率はEPA−E投与により対照群に比べて約35%減少した。すなわち、EPA−E投与による脳卒中の発症および/または再発予防効果が確認された。
また、群間での背景(喫煙、糖尿病、等)の偏りを考慮して統計解析した上記データについて、脳卒中の発症率を縦軸に、試験開始後の時間経過を横軸にとり作成したグラフを図1に、投与開始から1〜5年経過時の脳卒中の発症率およびEPA−E投与群における抑制率を表2に示す。
EPA−E投与により、脳卒中発症率が減少していることが認められるが、特に、投与開始から3年経過以降において、脳卒中発症率の減少が著しいことが確認された。
また、発症した脳卒中の種類別に、対照群とEPA−E投与群の発症例数を確認したところ、脳血栓および梗塞系の合計について、表3に示す結果となった。また、出血系の合計についても、EPA−E投与群で、発症例、発症率とも低値であった。
同様に、登録時の血清TG/HDL−C比が確認できた症例(ただし、TG値が400mg/dL以上の症例を除く)について、登録時の血清TG/HDL−C比の値で3群に分けたそれぞれの群について、観察期間5年における脳卒中発症(再発)例数、発症率(%)およびEPA−E群の対照群に対するオッズ比の集計結果を表4に示す。
オッズ比はEPA−E群の発症率/対照群の発症率の計算式で、脳卒中の発症率の抑制率は{(対照群の脳卒中の発症率−EPA−E群の脳卒中の発症率)/対照群の脳卒中の発症率}×100の計算式でそれぞれ算出した。
表4の結果から、登録時の血清TG/HDL−C比が高いほど、脳卒中の発症率が高い傾向にあることが確認された。EPA−E投与により、脳卒中の既往を有する5年間に渡る脳卒中発症率は対照群の発症率に比べて低値を示した。すなわち、血清TG/HDL−C比が1未満の群では、対照群、EPA−E群とも脳卒中の発症は認められなかったが、登録時の血清TG/HDL−C比が1以上3.75未満の群では、EPA−E群の脳卒中発症率は5.74%と対照群の脳卒中の発症率の9.0%に比べて低く、登録時の血清TG/HDL−C比が3.75以上の群においても、EPA−E群の脳卒中発症率は7.4%と対照群の脳卒中の発症率の14.3%に比べて低値を示した。オッズ比は、それぞれ0.640および0.519であり、脳卒中の発症率はEPA−E投与により対照群に比べてそれぞれ約36%、約48%減少した。すなわち、EPA−E投与による脳卒中の発症および/または再発予防効果が確認され、よりリスクの高いと想定される群において、EPA−Eの効果がより高いという結果となった。
また、登録時の血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者の脳卒中の発症率を縦軸に、試験開始後の時間経過を横軸にとり作成したグラフを図2に、投与開始から1〜5年経過時の脳卒中の発症率およびEPA−E投与群における抑制率を表5に示す。
EPA−E投与により、脳卒中発症率が減少していることが認められるが、特に、投与開始から3年経過以降において、脳卒中発症率の減少が著しいことが確認された。また、表2に示した、全症例での経時的な結果と比較して、TG/HDL−C比が3.75以上の患者については、超悪玉コレステロールと呼ばれるsdLDL濃度がより高いと想定され、その結果として、脳卒中の発症リスクがより高いと想定される群に関する解析にも関わらず、1〜5年後のすべての計測点において、より高い抑制率が観察された。
以上より、脳卒中既往患者においてEPA−E投与による著明な脳卒中発症予防効果が確認された。
図1は、EPA−E群と対照群について、脳卒中の発症率を縦軸に、試験開始後の時間経過を横軸にとり作成したグラフである。
図2は、登録時の血清TG/HDL−C比が3.75以上、かつ、登録時の血清TG値が400mg/dL未満の患者を対象として、EPA−E群と対照群について、脳卒中の発症率を縦軸に、試験開始後の時間経過を横軸にとり作成したグラフである。
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、EPA−Eが脳卒中の発症および/または再発の予防、特に脳卒中発症後6ヶ月を経過した後の患者における脳卒中再発の予防作用を有することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、
(1)イコサペント酸エチルエステルを有効成分として含有する脳卒中既往患者の脳卒中再発予防用組成物であって、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害剤と併用することを特徴とする、脳卒中既往患者の脳卒中再発予防用組成物。
(2)脳卒中発症後6ヶ月を経過した後の患者を対象とする上記(1)に記載の組成物。
(3)全脂肪酸およびその誘導体中のイコサペント酸エチルエステル含量比が96.5質量%以上である上記(1)または(2)のいずれかに記載の組成物。
(4)イコサペント酸エチルエステルがイコサペント酸エチルエステル1.8g/日〜2.7g/日であり、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害剤がプラバスタチンナトリウム10mg/日〜20mg/日、シンバスタチン5mg/日〜20mg/日またはアトルバスタチンカルシウム水和物10mg/日〜40mg/日である、経口投与することを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)3年以上継続して投与するための上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とする上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の組成物。
以下に、本発明組成物の効果を実施例をもって示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1(EPA−Eの長期脳卒中発症予防作用)
試験方法
本試験は、2005年のアメリカ心臓病学会年会において発表された高純度EPA製剤に関する大規模臨床試験であるJELIS(Japan EPA Lipid Intervention Study)で得られた結果の一部を解析して得られたものである。なお、当該学会ではEPAが冠動脈イベントの抑制効果を有することについて発表されたが、EPAの脳卒中に対する効果については開示も示唆もされていない(JELISの概要についてはMedical Tribune、2005年11月17日発行、特別企画第3部、p75−76、および、Circulation、112巻、21号、p3362−3363(2005)参照)。
すなわち、JELIS試験の対象患者(血清T−Cho濃度が250mg/dL以上である男性は40〜75歳、女性は閉経後〜75歳の高脂血症患者;脳卒中発症後急性期の患者を対象外とするために脳卒中発症後6ケ月以内の患者は試験対象から除外)18,645例(EPA−E群(9,326例)と対照群(9,319例))のうち、脳卒中(脳血栓、脳塞栓、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作)既往を有するEPA−E群485名、対照群457名、について、投与開始から5年間の脳卒中再発の有無を観察し、解析した。さらに、登録時の血清TG/HDL−C比が確認できた症例(ただし、TG値が400mg/dL以上の症例を除く)について、登録時の血清TG/HDL−C比の値で3群に分けた結果についても同様に解析した。EPA−E群は、エパデール(持田製薬)を、通常、成人1回600mgを1日3回毎食直後に経口投与した。ただし、血清TGの異常を呈する場合は、その程度により1回900mg、1日3回まで増量できることとした。また、両群ともベース薬(基礎治療)として、プラバスタチンナトリウム(メバロチンTM錠・細粒(三共))、シンバスタチン(リポバスTM錠(萬有製薬))あるいはアトルバスタチンカルシウム水和物(リピトールTM錠(アステラス製薬およびファイザー製薬))を使用し、それぞれ定められた用法・用量の範囲、すなわち、プラバスタチンナトリウム10mg/日〜20mg/日、シンバスタチン5mg/日〜20mg/日またはアトルバスタチンカルシウム水和物10mg/日〜40mg/日で経口投与した。
本発明は、少なくともイコサペント酸エチルエステル(以下EPA−Eと略記する)を含有することを特徴とする脳卒中の再発を予防する為の組成物に関する。
脳卒中は、脳出血、脳梗塞などに代表される脳血管障害により、急激に意識障害、神経症状が出現する病態と定義され、厚生労働省発表による平成16年の日本人の死因順位別死亡数では第3位に位置している。幸いにして死亡に至らなかった場合においても、その後遺症は、患者の日常生活の質(QOL)に重大な影響を与えることが多く、また、一度発症すると再発し易いということもあり、社会問題の一つになっている。
脳卒中は、高血圧との関連が古くから知られており、発症または再発を予防するために、種々の降圧薬による血圧管理が提唱、実践され、その結果として、脳出血型の脳卒中による死亡数は確かに減少した。
しかしながら、食生活の欧米化により糖尿病、高脂血症や高血圧症などのいわゆる生活習慣病患者が増加するにつれ、日本人における脳卒中の病型も変化し、現在では、日本の脳卒中病型の内訳は、脳梗塞約80%、脳出血約15%、くも膜下出血約5%となっている。
食生活の欧米化に伴って、脳梗塞が増加するようになってからは、生活習慣病の中でも、特に高脂血症が注目され、コレステロール、とりわけ、悪玉コレステロールとも呼ばれる低比重リポ蛋白−コレステロール(LDL−C)を改善することにより、動脈硬化性疾患、すなわち、心筋梗塞や脳梗塞などを予防することが提唱されてきた。
このような背景の中で、強力な血中コレステロール低下作用を有する3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害剤(HMG−CoA RI)、いわゆるスタチン製剤による各種の臨床試験(例えば、KLIS、PATE、J−LIT、等)が本邦においても実施され、脳梗塞発症予防におけるスタチンの一応の有効性が示唆された。しかしながら、脳卒中の二次予防、すなわち、再発予防に関しては、今なお満足な結果が得られていないのが現状である。
高脂血症の改善作用を有する別の化合物の一例として、多価不飽和脂肪酸が知られている。多価不飽和脂肪酸は、分子内に複数の炭素−炭素二重結合を有する脂肪酸と定義され、二重結合の位置により、ω−3系、ω−6系などに分類される。ω−3系の多価不飽和脂肪酸としてはα−リノレン酸、イコサペント酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが、ω−6系の多価不飽和脂肪酸としてはリノール酸、γ−リノレン酸、アラキドン酸などが知られている。多価不飽和脂肪酸は、天然物由来の成分であり、抗動脈硬化作用、血小板凝集抑制作用、血中脂質低下作用、抗炎症作用、抗癌作用、中枢作用など、多彩な作用を示し、安全性も高いことから各種食品に配合されたり、健康食品あるいは医薬品として市販されている。
ω−3系多価不飽和脂肪酸であるEPAのエチルエステル(EPA−E)およびDHAのエチルエステル(DHA−E)の混合物を3.5年間服用することにより、心筋梗塞既往患者の死亡率が減少したとの報告がある(特許文献1参照)。しかしながら、当該文献には、EPA−EおよびDHA−Eが、脳卒中の再発を予防することを開示または示唆する記載はない。
また、EPAおよびDHAを含有する魚油を服用することにより、脳に血液を供給する動脈のアテローム性動脈硬化の症状を示す患者の脳損傷を予防することに関する示唆がある(特許文献2参照)。しかしながら、当該文献は、頚動脈血管内膜切除術施行患者の頚動脈プラークについて組織学的に検討したものであり、脳損傷および/または脳卒中の予防効果について具体的に示したものではない。
近年、動物実験の結果や、小規模の臨床所見から、生活習慣病の改善効果を有する各種薬剤が、ヒトにおける動脈硬化性疾患を予防し得るものか確認することを目的として、多くの大規模臨床試験が計画され、実践されている。しかしながら、必ずしも期待通りの結果が得られていないのが現状であり、とりわけ、脳卒中の二次予防については、暗中模索状態が続いている。
高純度EPA−EはエパデールおよびエパデールS(持田製薬社製)の商品名で高脂血症治療薬として日本で市販されており、1回600mg、1日3回食直後、(ただし、トリグリセリド(TG)の異常を呈する場合には、その程度により、1回900mg、1日3回まで増量して)経口投与することにより、血清T−Cho濃度を3〜6%、血清TGを14〜20%減少させる(非特許文献1参照)こと、およびこれら作用から高脂血症患者の心血管イベントに対する効果が期待され、大規模臨床試験を実施した結果、スタチンとの併用により心イベント抑制効果を有することが2005年のアメリカ心臓病学会年会において発表された(非特許文献2および3参照)。しかしながら、当該文献には、EPA−Eが、脳卒中の再発を予防することを開示または示唆する記載はない。
国際公開第00/48592号パンフレット(特表2002−537252号公報)
国際公開第03/92673号パンフレット(特表2005−529903号公報)
医薬品インタビューフォーム EPA製剤エパデールカプセル300、2002年7月および2004年2月改訂、2004年12月発行第21版、p21−22
Medical Tribune、2005年11月17日発行、特別企画第3部、p75−76
Circulation、112巻、21号、p3362−3363(2005)
本発明の目的は、脳卒中は依然として主要な死亡原因であり、HMG−CoA RIによる治療を行なっても予防できない脳卒中が多数存在し問題となっている状況において、脳卒中の再発を予防するための組成物を提供することにある。
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行ったところ、EPA−EがHMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発の予防、特に脳卒中発症後6ヶ月を経過した後の患者における脳卒中再発の予防作用を有することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、
(1)イコサペント酸エチルエステルを有効成分として含有する脳卒中既往患者の脳卒中再発予防用組成物であって、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害剤を投与される脳卒中既往患者の脳卒中再発予防用組成物。
(2)脳卒中発症後6ヶ月を経過した後の患者を対象とする上記(1)に記載の組成物。
(3)全脂肪酸およびその誘導体中のイコサペント酸エチルエステル含量比が96.5質量%以上である上記(1)または(2)のいずれかに記載の組成物。
(4)イコサペント酸エチルエステル1.8g/日〜2.7g/日で経口投与することを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)3年以上継続して投与するための上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とする上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の組成物。
上記のような少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、本発明の組成物は、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発の予防に有用である。特に、高脂血症患者でHMG−CoA RIによる治療を行なったにもかかわらず再発する脳卒中、あるいは特に脳卒中発症後6ヶ月を経過した後の患者における脳卒中の再発の予防効果が期待される。
また、本発明の組成物はHMG−CoA RIと併用することによりその効果は相乗的に増強され、脳卒中の再発、特に脳卒中発症後6ヶ月を経過した後の患者における脳卒中の再発の予防効果をさらに高めることが期待でき、臨床上有用である。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の第一の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防するための組成物である。あるいは、本発明の第一の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防するための組成物である。
脳卒中、すなわち、脳血管障害により急激に意識障害、神経症状が出現する病態の再発予防であればすべて含まれるが、特に脳出血(高血圧性脳内出血、等)、脳梗塞、一過性脳虚血発作、くも膜下出血、脳血栓(アテローム血栓性脳梗塞、等)、脳塞栓(心原性脳塞栓症、等)、ラクナ梗塞などの再発予防が例示される。投与対象は、脳卒中の発症の予防が必要なヒトはすべて含まれるが、特に高脂血症患者が例示される。
本発明の効果が得られれば全脂肪酸中のEPA−E含量比および投与量は特に問わないが、EPA−Eは高純度のもの、例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、90質量%以上のものが更に好ましく、96.5質量%以上のものが更に好ましい。1日投与量はEPA−Eとして、0.3〜6g/日、好ましくは0.9〜3.6g/日、更に好ましくは1.8〜2.7g/日が例示される。他に含有されるに好ましい脂肪酸としてはω−3系長鎖不飽和脂肪酸、特に、DHA−Eが挙げられる。本発明の効果が得られればEPA−E/DHA−Eの組成比、全脂肪酸中のEPA−EおよびDHA−E(以下、EPA−E+DHA−E)の含量比およびEPA−E+DHA−Eの投与量は特に問わないが、好ましい組成比として、EPA−E/DHA−Eは、0.8以上であることが好ましく、更に好ましくは、1.0以上、より好ましくは、1.2以上である。EPA−E+DHA−Eは高純度のもの、例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E+DHA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、80質量%以上のものが更に好ましく、90質量%以上のものが更に好ましい。1日投与量はEPA−E+DHA−Eとして、0.3〜10g/日、好ましくは0.5〜6g/日、更に好ましくは1〜4g/日が例示される。他の長鎖飽和脂肪酸含量は少ないことが好ましく、長鎖不飽和脂肪酸でもω−6系、特にアラキドン酸含量は少ないことが望まれ、2質量%未満が好ましく、1質量%未満が更に好ましい。
本発明の第二の態様は、少なくともEPA−Eを含有することを特徴とするHMG−CoA RIが投与される脳卒中既往の高脂血症患者の脳卒中の再発予防の為の組成物である。あるいは、本発明の第二の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを含有することを特徴とするHMG−CoA RIが投与される脳卒中既往の高脂血症患者の脳卒中の再発予防の為の組成物である。
本発明の第三の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中再発を予防するための組成物である。あるいは、本発明の第三の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中再発を予防するための組成物である。
本発明の第二および第三の態様、また、後述する第四〜第十四の態様における、脳卒中の種類、全脂肪酸中のEPA−E含量比、全脂肪酸中のEPA−E+DHA−E含量比、EPA−E/DHA−E組成比、1日投与量、および他の長鎖脂肪酸含有比、等の好ましい態様は上記の第一の態様と同様である。
本発明の第四の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、脳卒中発症後6ヶ月を経過した後のHMG−CoA RIが投与される患者の脳卒中再発を予防するための組成物である。あるいは、本発明の第四の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する、脳卒中発症後6ヶ月を経過した後のHMG−CoA RIが投与される患者の脳卒中再発を予防するための組成物である。本態様における脳卒中の種類、全脂肪酸中のEPA−E含量比、全脂肪酸中のEPA−E+DHA−E含量比、EPA−E/DHA−E組成比、1日投与量、および他の長鎖脂肪酸含有比、等の好ましい態様は、上記の第一の態様と同様である。投与対象は直近の脳卒中発症後6ヶ月以上経過した患者であり、脳卒中急性期を過ぎた患者が対象である。
本発明の第五の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の投与開始から3年経過以降の脳卒中の再発予防効果に優れる組成物である。具体的には、少なくともEPA−Eを有効成分として含有し、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防するための組成物を、3年以上継続して投与することにより、EPA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で15%以上、同4年および5年経過時で30%以上、脳卒中の発症率が低下する。特に、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とする場合には、少なくともEPA−Eを有効成分として含有し、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防するための組成物を、3年以上継続して投与することにより、EPA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で20%以上、同4年および5年経過時で40%以上、脳卒中の発症率が低下する。あるいは、本発明の第五の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の投与開始から3年経過以降の脳卒中の再発予防効果に優れる組成物である。具体的には、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有し、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防するための組成物を、3年以上継続して投与することにより、EPA−Eおよび/またはDHA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で15%以上、同4年および5年経過時で30%以上、脳卒中の発症率が低下する。特に、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とする場合には、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有し、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防するための組成物を、3年以上継続して投与することにより、EPA−Eおよび/またはDHA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で20%以上、同4年および5年経過時で40%以上、脳卒中の発症率が低下する。
本発明の第六の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有し、脳卒中の再発を予防するための組成物を、HMG−CoA RIとの併用により、3年以上継続して投与することにより、EPA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で15%以上、同4年および5年経過時で30%以上、脳卒中の発症率が低下する効果を有する組成物である。特に、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とする場合には、少なくともEPA−Eを有効成分として含有し、脳卒中の再発を予防するための組成物を、HMG−CoA RIとの併用により、3年以上継続して投与することにより、EPA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で20%以上、同4年および5年経過時で40%以上、脳卒中の発症率が低下する効果を有する組成物である。あるいは、本発明の第六の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有し、脳卒中の再発を予防するための組成物を、HMG−CoA RIとの併用により、3年以上継続して投与することにより、EPA−Eおよび/またはDHA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で15%以上、同4年および5年経過時で30%以上、脳卒中の発症率が低下する効果を有する組成物である。特に、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とする場合には、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有し、脳卒中の再発を予防するための組成物を、HMG−CoA RIとの併用により、3年以上継続して投与することにより、EPA−Eおよび/またはDHA−E非投与の対照群に比し、投与開始から3年経過時で20%以上、同4年および5年経過時で40%以上、脳卒中の発症率が低下する効果を有する組成物である。
本発明の第七の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する組成物を、3年以上継続して投与することを特徴とする、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防する方法である。あるいは、本発明の第七の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する組成物を、3年以上継続して投与することを特徴とする、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防する方法である。
本発明の第八の態様は、血清TG/HDL−C比が1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3.75以上の患者を対象とする、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防するための組成物である。あるいは、本発明の第八の態様は、血清TG/HDL−C比が1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3.75以上の患者を対象とする、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防するための組成物である。
本発明の第九の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有することを特徴とする、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往の高脂血症患者の脳卒中の再発予防の為の組成物である。あるいは、本発明の第九の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有することを特徴とする、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往の高脂血症患者の脳卒中の再発予防の為の組成物である。本発明の第九の態様における、脳卒中の種類、全脂肪酸中のEPA−E含量比、全脂肪酸中のEPA−E+DHA−E含量比、EPA−E/DHA−E組成比、1日投与量、および他の長鎖脂肪酸含有比、等の好ましい態様は上記の第一の態様と同様である。
本発明の第十の態様は、HMG−CoA RIと併用することを特徴とする、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発予防の為の組成物であり、別の言い方をすると、HMG−CoA RIが必要とされている患者における、HMG−CoA RIと併用するための、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発予防の為の組成物である。あるいは、本発明の第十の態様は、HMG−CoA RIと併用することを特徴とする、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発予防の為の組成物であり、別の言い方をすると、HMG−CoA RIが必要とされている患者における、HMG−CoA RIと併用するための、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発予防の為の組成物である。
HMG−CoA RIは、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害作用を有する物はすべて含まれるが、医薬投与可能なものが好ましい。具体的には、プラバスタチン、シンバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチン、セリバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチンおよびこれらの塩、誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチンあるいはロスバスタチンが更に好ましく、プラバスタチンあるいはシンバスタチンが更に好ましい。塩としては、医薬投与可能なものであればすべて含まれるが、特にナトリウム塩あるいはカルシウム塩、例えば、プラバスタチンナトリウム、フルバスタチンナトリウム、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチンカルシウム、ピタバスタチンカルシウムおよびロスバスタチンカルシウムが好ましい。本明細書においては、特に断らない限り、例えば「プラバスタチン」にはプラバスタチンの塩の態様も含まれる。
本発明の第十一の態様は、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とし、HMG−CoA RIと併用するための、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発を予防するための組成物であり、別の言い方をすると、HMG−CoA RIが必要とされている患者のうち、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とし、HMG−CoA RIと併用するための、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発予防の為の組成物である。あるいは、本発明の第十一の態様は、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とし、HMG−CoA RIと併用するための、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発を予防するための組成物であり、別の言い方をすると、HMG−CoA RIが必要とされている患者のうち、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者を対象とし、HMG−CoA RIと併用するための、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する脳卒中の再発予防の為の組成物である。HMG−CoA RIが必要とされている患者は、多くの場合、高脂血症に罹患している。
本発明の第七〜第十一の態様の組成物は、好ましくは、脳卒中既往のある患者のための組成物であり、特に好ましくは、脳卒中発症後6ケ月を経過した後の患者、すなわち、脳卒中急性期を経過した後の患者のための組成物である。
本発明の第十二の態様は、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者に対し、当該血清TG/HDL−C比が3.75未満、より好ましくは、1未満になるまで、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する組成物を投与することによる、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防する方法である。あるいは、本発明の第十二の態様は、血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者に対し、当該血清TG/HDL−C比が3.75未満、より好ましくは、1未満になるまで、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する組成物を投与することによる、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防する方法である。
本発明の第十三の態様は、少なくともEPA−Eを有効成分として含有する組成物を投与することを特徴とする、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防する方法である。あるいは、本発明の第十三の態様は、少なくともEPA−Eおよび/またはDHA−Eを有効成分として含有する組成物を投与することを特徴とする、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防する方法である。
本発明の第十四の態様は、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防するための組成物を製造するためのEPA−Eの使用である。あるいは、本発明の第十四の態様は、HMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防するための組成物を製造するためのEPA−Eおよび/またはDHA−Eの使用である。
本発明の効果が得られれば全脂肪酸中のEPA−E含量比および投与量は特に問わないが、EPA−Eは高純度のもの、例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、90質量%以上のものが更に好ましく、96.5質量%以上のものが更に好ましい。1日投与量はEPA−Eとして、0.3〜6g/日、好ましくは0.9〜3.6g/日、更に好ましくは1.8〜2.7g/日が例示される。他に含有されるに好ましい脂肪酸としてはω−3系長鎖不飽和脂肪酸、特に、DHA−Eが挙げられる。本発明の効果が得られればEPA−E/DHA−Eの組成比、全脂肪酸中のEPA−E+DHA−Eの含量比およびEPA−E+DHA−Eの投与量は特に問わないが、好ましい組成比として、EPA−E/DHA−Eは、0.8以上であることが好ましく、更に好ましくは、1.0以上、より好ましくは、1.2以上である。EPA−E+DHA−Eは高純度のもの、例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E+DHA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、80質量%以上のものが更に好ましく、90質量%以上のものが更に好ましい。1日投与量はEPA−E+DHA−Eとして、0.3〜10g/日、好ましくは0.5〜6g/日、更に好ましくは1〜4g/日が例示される。他の長鎖飽和脂肪酸含量は少ないことが好ましく、長鎖不飽和脂肪酸でもω−6系、特にアラキドン酸含量は少ないことが望まれ、2質量%未満が好ましく、1質量%未満が更に好ましい。
本発明の組成物は、EPA−Eおよび/またはDHA−Eを含有し、健常人あるいは高脂血症、糖尿病、高血圧等の脳卒中の危険因子を有するヒトに対して経口投与することによりHMG−CoA RIが投与される脳卒中既往患者の脳卒中の再発を予防する効果を有している。特に、高脂血症患者でHMG−CoA RIによる治療を行なったにもかかわらず再発する脳卒中の予防効果を有している。また、本発明の組成物はHMG−CoA RIとの併用効果を有し、併用することでさらに脳卒中の再発を予防することが可能である。
本発明の組成物は、脳卒中の発症および/または再発を予防する為に通常用いられる薬剤、例えば、アスピリン、チクロピジン、クロピドグレル(clopidogrel)、シロスタゾールなどの抗血小板薬;ワルファリン、ヘパリン、キシメラガトラン(ximelagatran)などの抗凝固薬;アンジオテンシンII受容体拮抗薬(カンデサルタン、ロサルタン、等)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、カルシウムチャネル拮抗薬(アムロジピン、シルニジピン、等)、α1遮断薬などの高血圧治療薬;αグルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース、アカルボース、等)、ビグアナイド系薬剤、チアゾリジンジオン系薬剤(ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、リボグリタゾン、等)、速効型インスリン分泌促進剤(ミチグリニド、ナテグリニド、等)などの糖尿病用薬または耐糖能異常改善薬;上述のHMG−CoA RI、フィブラート系薬剤、スクアレン合成酵素阻害剤(TAK−475等)、コレステロール吸収阻害剤(エゼチミブ等)などの抗高脂血症薬、などから選ばれる少なくとも1つと適宜組み合わせて用いることができる。なお、本発明の組成物は、利便性を高めるために、上記HMG−CoA RIおよび/またはその他の少なくとも1種の薬剤とともに1つの包装体に包装されて使用することもできる。
本発明の組成物は魚油あるいは魚油の濃縮物に比べ、飽和脂肪酸やアラキドン酸等の脳卒中に対して好ましくない不純物が少なく、栄養過多やビタミンA過剰摂取の問題もなく作用効果を発揮することが可能である。また、エステル体のため主にトリグリセリド体である魚油等に比べて酸化安定性が高く、通常の酸化防止剤添加により十分安定な組成物を得ることが可能である。従って、EPA−Eを用いることで、初めて臨床上実用可能な脳卒中の再発の予防用の組成物が得られた。
本明細書において、「イコサペント酸」の語は、全−シス−5,8,11,14,17−イコサペント酸(all-cis-5,8,11,14,17-icosapentaenoic acid)である。
本明細書において、「脳卒中」の語は、脳血管障害により急激に意識障害、神経症状が出現する病態と定義され、脳出血(高血圧性脳内出血、等)、脳梗塞、一過性脳虚血発作、くも膜下出血、脳血栓(アテローム血栓性脳梗塞、等)、脳塞栓(心原性脳塞栓症、等)、ラクナ梗塞などを含む。
本明細書において、「高脂血症患者」の語は、血清T−Cho濃度増加、血清LDL−Cho濃度増加、血清HDL−Cho濃度低下あるいは血清TGが増加した患者である。狭義には、高コレステロール血症(血清T−Cho濃度が約220mg/dL以上、更に狭義には250mg/dL以上)、高LDL−Cho血症(血清LDL−Cho濃度が140mg/dL以上)、低HDL−Cho血症(血清HDL−Cho濃度が40mg/dL未満)あるいは高TG血症(血清TGが150mg/dL以上)のいずれか1つを満たす患者を指す。各脂質の血清中濃度は、通常、空腹時に採血された検体を用いて、公知の方法により測定、算出することができる。血清TG/HDL−C比は、血清トリグリセリド(TG)濃度を血清HDL−コレステロール(HDL−C)で除した値である。
TG/HDL−C比は、健常人を対象としたMaruyamaらの報告(J. Atheroscler. Thromb.,10,186−191(2003))において、LDLの粒子径と逆相関することが知られており、TG/HDL−C比が1の時、LDLの粒径が25.5nmとなる相関関係が確認されている。LDLの中で、粒径25.5nm以下のものは、別名、超悪玉コレステロールと呼ばれるsdLDL(small, dense LDL)であり、強力な動脈硬化促進性を有することから、近年、TG/HDL−C比は、動脈硬化性疾患の予後を判断する指標の一つとして注目されている。上述の相関関係から、TG/HDL−C比が1以上でsdLDLが出現し、動脈硬化性疾患のリスクが高まると考えられるが、本願においては、TGの基準値である150mg/dLと、HDL−Cの基準値である40mg/dLから、血清TG/HDL−C比のカットオフ値を3.75に設定した。血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者群は、血中sdLDL濃度が高く、脳卒中の発症リスクが高いと想定される。TG高値、HDL−C低値とも、それぞれ、動脈硬化性疾患のリスクファクターと考えられている。また、TGが400mg/dL以上の場合、高カイロミクロン血症が疑われるが、高カイロミクロン血症は、動脈硬化促進性ではないと考えられている。この観点から、実施例における、登録時のTG/HDL−C比の値に基づく解析結果については、登録時のTGが400以上の症例を解析対象から除外している。
本明細書において、「EPA−EとHMG−CoA RIとの併用」の語は、EPA−EとHMG−CoA RIとを同時に投与する態様と、別々に投与する態様が含まれる。同時に投与される場合、配合剤とすることも2剤とすることもできる。別々に投与される場合、EPA−EをHMG−CoA RIより先に投与することも後に投与することもできる。また、EPA−EとHMG−CoA RIの投与量および投与比率は任意に設定することができる。
本明細書において、「EPA−Eおよび/またはDHA−EとHMG−CoA RIとの併用」の語は、EPA−Eおよび/またはDHA−EとHMG−CoA RIとを同時に投与する態様と、別々に投与する態様が含まれる。同時に投与される場合、配合剤とすることも2剤とすることもできる。別々に投与される場合、EPA−Eおよび/またはDHA−EをHMG−CoA RIより先に投与することも後に投与することもできる。また、EPA−Eおよび/またはDHA−EとHMG−CoA RIの投与量および投与比率は任意に設定することができる。
本発明の組成物は、HMG−CoA RI単独投与では予防できない脳卒中の再発の予防効果が期待される。また、EPA−Eは、血清T−Cho濃度および血清TG低下作用のほかに、アラキドン酸カスケード阻害に基づく血小板凝集抑制作用等のHMG−CoA RIとは異なる薬理作用を有しており、HMG−CoA RIとの併用投与で上記効果を発揮させることもできる。
EPA−EおよびDHA−Eは高度に不飽和であるため、抗酸化剤たとえばブチレート化ヒドロキシトルエン、ブレチート化ヒドロキシアニソール、プロピルガレート、没食子酸、医薬として許容されうるキノンおよびα−トコフェロールを有効量含有させることが望ましい。
製剤の剤形としては、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、経口用液体製剤、シロップ剤、ゼリー剤の形で、経口で患者に投与されるが、とりわけカプセルたとえば、軟質カプセルやマイクロカプセルに封入しての経口投与が好ましい。
なお、高純度EPA−E含有軟カプセル剤であるエパデールおよびエパデールSは副作用の発現が少ない安全な閉塞性動脈硬化症および高脂血症治療薬として既に日本で市販されており、全脂肪酸中のEPA−E含量比は96.5質量%以上である。また、EPA−Eを約46質量%およびDHA−Eを約38質量%含有する軟質カプセル剤(オマコール、Omacor(ロスプロダクツ、Ross Products))が高TG血症治療薬として既にアメリカ等で市販されている。これらを入手して使用することもできる。
本発明の脳卒中の再発を予防するための組成物の投与量および投与期間は対象となる作用を現すのに十分な量および期間とされるが、その剤形、投与方法、1日当たりの投与回数、症状の程度、体重、年齢等によって適宜増減することができる。経口投与する場合はEPA−Eとして0.3〜6g/日、好ましくは0.9〜3.6g/日、更に好ましくは1.8〜2.7g/日を3回に分けて投与するが、必要に応じて全量を1回あるいは数回に分けて投与してもよい。投与時間は食中ないし食後が好ましく、食直後(30分以内)投与が更に好ましい。上記投与量を経口投与する場合、投与期間は1年以上、好ましくは2年以上、更に好ましくは3年以上、とりわけ好ましくは5年以上であるが、脳卒中の再発の危険度が高い状態が続いている間は投与を継続することが望ましい。場合により1日〜3ヵ月程度、好ましくは1週間〜1ヵ月程度の休薬期間を設けることもできる。
HMG−CoA RIの投与量はその薬剤の用法・用量の範囲内が好ましいが、その種類、剤形、投与方法、1日当たりの投与回数、症状の程度、体重、性別、年齢等によって適宜増減することができる。経口投与する場合は0.05〜200mg/日、好ましくは0.1〜100mg/日を2〜3回に分けて投与するが、必要に応じて全量を1回あるいは数回に分けて投与してもよい。また、EPA−Eの投与量に応じて減量することも可能である。
なお、プラバスタチンナトリウム(メバロチンTM錠・細粒(三共))、シンバスタチン(リポバスTM錠(萬有製薬))、フルバスタチンナトリウム(ローコールTM錠(ノバルティスファーマおよび田辺製薬))、アトルバスタチンカルシウム水和物(リピトールTM錠(アステラス製薬およびファイザー製薬))、ピタバスタチンカルシウム(リバロTM錠(興和および三共))、およびロスバスタチンカルシウム(クレストールTM錠(アストラゼネカおよび塩野義製薬))は高脂血症治療薬として既に日本で市販されており、また、ロバスタチン(メバコールTM錠(メルク))は高脂血症治療薬として既にアメリカで市販されており、これらの薬剤から少なくとも1つを入手してそれぞれの用法に従って適宜組み合わせて投与することができる。
それぞれの、好ましい一日用量は、プラバスタチンナトリウムでは5〜60mg、好ましくは10〜20mg、シンバスタチンでは2.5〜60mg、好ましくは5〜20mg、フルバスタチンナトリウムでは10〜180mg、好ましくは20〜60mg、アトルバスタチンカルシウム水和物では5〜120mg、好ましくは10〜40mg、ピタバスタチンカルシウムでは0.5〜12mg、好ましくは1〜4mg、ロスバスタチンカルシウムでは1.25〜60mg、好ましくは2.5〜20mg、ロバスタチンでは5〜160mg、好ましくは10〜80mg、セリバスタチンナトリウムでは0.075〜0.9mg、好ましくは0.15〜0.3mgがそれぞれ例示されるが、これらに限定されない。
以下に、本発明組成物の効果を実施例をもって示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1(EPA−Eの長期脳卒中発症予防作用)
試験方法
本試験は、2005年のアメリカ心臓病学会年会において発表された高純度EPA製剤に関する大規模臨床試験であるJELIS(Japan EPA Lipid Intervention Study)で得られた結果の一部を解析して得られたものである。なお、当該学会ではEPAが冠動脈イベントの抑制効果を有することについて発表されたが、EPAの脳卒中に対する効果については開示も示唆もされていない(JELISの概要についてはMedical Tribune、2005年11月17日発行、特別企画第3部、p75−76、および、Circulation、112巻、21号、p3362−3363(2005)参照)。
すなわち、JELIS試験の対象患者(血清T−Cho濃度が250mg/dL以上である男性は40〜75歳、女性は閉経後〜75歳の高脂血症患者;脳卒中発症後急性期の患者を対象外とするために脳卒中発症後6ケ月以内の患者は試験対象から除外)18,645例(EPA−E群(9,326例)と対照群(9,319例))のうち、脳卒中(脳血栓、脳塞栓、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作)既往を有するEPA−E群485名、対照群457名、について、投与開始から5年間の脳卒中再発の有無を観察し、解析した。さらに、登録時の血清TG/HDL−C比が確認できた症例(ただし、TG値が400mg/dL以上の症例を除く)について、登録時の血清TG/HDL−C比の値で3群に分けた結果についても同様に解析した。EPA−E群は、エパデール(持田製薬)を、通常、成人1回600mgを1日3回毎食直後に経口投与した。ただし、血清TGの異常を呈する場合は、その程度により1回900mg、1日3回まで増量できることとした。また、両群ともベース薬(基礎治療)として、プラバスタチンナトリウム(メバロチンTM錠・細粒(三共))、シンバスタチン(リポバスTM錠(萬有製薬))あるいはアトルバスタチンカルシウム水和物(リピトールTM錠(アステラス製薬およびファイザー製薬))を使用し、それぞれ定められた用法・用量の範囲で経口投与した。
結果
観察期間5年における脳卒中発症(再発)例数、発症率(%)およびEPA−E群の対照群に対するオッズ比の集計結果を表1に示す。オッズ比はEPA−E群の発症率/対照群の発症率の計算式で、脳卒中の発症率の抑制率は{(対照群の脳卒中の発症率−EPA−E群の脳卒中の発症率)/対照群の脳卒中の発症率}×100の計算式でそれぞれ算出した。
EPA−E投与により、脳卒中既往を有する患者の5年間に渡る脳卒中発症率は6.8%と対照群の脳卒中の発症率の10.5%に比べて低値を示した。オッズ比は0.648であり、脳卒中の発症率はEPA−E投与により対照群に比べて約35%減少した。すなわち、EPA−E投与による脳卒中の再発予防効果が確認された。
また、群間での背景(喫煙、糖尿病、等)の偏りを考慮して統計解析した上記データについて、脳卒中の発症率を縦軸に、試験開始後の時間経過を横軸にとり作成したグラフを図1に、投与開始から1〜5年経過時の脳卒中の発症率およびEPA−E投与群における抑制率を表2に示す。
EPA−E投与により、脳卒中発症率が減少していることが認められるが、特に、投与開始から3年経過以降において、脳卒中発症率の減少が著しいことが確認された。
また、発症した脳卒中の種類別に、対照群とEPA−E投与群の発症例数を確認したところ、脳血栓および梗塞系の合計について、表3に示す結果となった。また、出血系の合計についても、EPA−E投与群で、発症例、発症率とも低値であった。
同様に、登録時の血清TG/HDL−C比が確認できた症例(ただし、TG値が400mg/dL以上の症例を除く)について、登録時の血清TG/HDL−C比の値で3群に分けたそれぞれの群について、観察期間5年における脳卒中発症(再発)例数、発症率(%)およびEPA−E群の対照群に対するオッズ比の集計結果を表4に示す。
オッズ比はEPA−E群の発症率/対照群の発症率の計算式で、脳卒中の発症率の抑制率は{(対照群の脳卒中の発症率−EPA−E群の脳卒中の発症率)/対照群の脳卒中の発症率}×100の計算式でそれぞれ算出した。
表4の結果から、登録時の血清TG/HDL−C比が高いほど、脳卒中の発症率が高い傾向にあることが確認された。EPA−E投与により、脳卒中の既往を有する5年間に渡る脳卒中発症率は対照群の発症率に比べて低値を示した。すなわち、血清TG/HDL−C比が1未満の群では、対照群、EPA−E群とも脳卒中の発症は認められなかったが、登録時の血清TG/HDL−C比が1以上3.75未満の群では、EPA−E群の脳卒中発症率は5.74%と対照群の脳卒中の発症率の9.0%に比べて低く、登録時の血清TG/HDL−C比が3.75以上の群においても、EPA−E群の脳卒中発症率は7.4%と対照群の脳卒中の発症率の14.3%に比べて低値を示した。オッズ比は、それぞれ0.640および0.519であり、脳卒中の発症率はEPA−E投与により対照群に比べてそれぞれ約36%、約48%減少した。すなわち、EPA−E投与による脳卒中の再発予防効果が確認され、よりリスクの高いと想定される群において、EPA−Eの効果がより高いという結果となった。
また、登録時の血清TG/HDL−C比が3.75以上の患者の脳卒中の発症率を縦軸に、試験開始後の時間経過を横軸にとり作成したグラフを図2に、投与開始から1〜5年経過時の脳卒中の発症率およびEPA−E投与群における抑制率を表5に示す。
EPA−E投与により、脳卒中発症率が減少していることが認められるが、特に、投与開始から3年経過以降において、脳卒中発症率の減少が著しいことが確認された。また、表2に示した、全症例での経時的な結果と比較して、TG/HDL−C比が3.75以上の患者については、超悪玉コレステロールと呼ばれるsdLDL濃度がより高いと想定され、その結果として、脳卒中の発症リスクがより高いと想定される群に関する解析にも関わらず、1〜5年後のすべての計測点において、より高い抑制率が観察された。
以上より、脳卒中既往患者においてEPA−E投与による著明な脳卒中発症予防効果が確認された。
図1は、EPA−E群と対照群について、脳卒中の発症率を縦軸に、試験開始後の時間経過を横軸にとり作成したグラフである。
図2は、登録時の血清TG/HDL−C比が3.75以上、かつ、登録時の血清TG値が400mg/dL未満の患者を対象として、EPA−E群と対照群について、脳卒中の発症率を縦軸に、試験開始後の時間経過を横軸にとり作成したグラフである。