JP2007209227A - 神経変性疾患治療用物質のスクリーニング方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】神経変性疾患治療用物質をスクリーニングする方法の提供。
【解決手段】プロテアソームの機能阻害を抑制する物質(神経変性疾患治療用物質)をスクリーニングする方法であって、アミロイド線維を形成しうるタンパク質と、プロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞に被験物質を接触させて標識物質のシグナルを検出し、当該検出された標識物質のシグナル強度が、被験物質を接触させなかった対照細胞における標識物質のシグナル強度よりも低下したときは、前記被験物質を、プロテアソームの機能阻害を抑制する物質として選択することを特徴とする、前記方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、細胞内プロテアソーム活性を指標にして、神経変性疾患治療用物質をスクリーニングする方法に関する。
アルツハイマー病やパーキンソン病などの多くの神経変性疾患では、神経細胞内にタンパク質性の凝集体が形成される。アルツハイマー病では神経原線維変化、パーキンソン病ではレビー小体と呼ばれる凝集体は、いずれも種々のタンパク質からなる線維性の沈着構造物であり、神経原線維変化の主要構成成分としてタウ、レビー小体の主要構成成分としてαシヌクレインがそれぞれ同定されている。特にパーキンソン病では、αシヌクレインをコードする遺伝子は、家族性疾患家系の遺伝学的解析から原因遺伝子の一つとして見出されている。これらの凝集体の出現部位と神経細胞の脱落部位に相関が見られることから、細胞内に出現する凝集体が細胞障害となり、最終的に神経細胞が死に至り発症につながるというメカニズムが考えられているが、実験的に証明されてはいない。
また、近年では、線維の前段階状態と考えられるオリゴマー及び/又はプロトフィブリルといった分子が細胞毒性の本体であり、線維には毒性はなくむしろ保護的に働くといった報告が相次いでいる。したがって、線維だけでなくこれらの分子についてその構造や生成機構、毒性のメカニズムなどを明らかにすることは重要である。
凝集体の生成メカニズムの一つとして、細胞内タンパク質分解系の異常が挙げられる。すなわち、何らかの原因により細胞内タンパク質分解系に異常が生じ、本来なら分解されるべきタンパク質が分解されず蓄積し、そのような凝集体が形成されたということが考えられる。近年、細胞内タンパク質の品質管理機構が注目されており、その中心的役割を果たすと考えられているものは、ユビキチン-プロテアソーム系の分解機構である。プロテアソームはタンパク質の品質管理だけでなく、様々な生命現象に関与する巨大タンパク質分解複合体である。主にユビキチン化されたタンパク質を分解するが、一部のタンパク質においてはユビキチン非依存的分解が起きることが知られている。
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本発明は、神経変性疾患治療用物質のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するためにパーキンソン病などにおける細胞内αシヌクレインの蓄積にプロテアソームが関与しているのではないかと考え、細胞内αシヌクレインとプロテアソーム活性の関係について鋭意研究を行った。そして、Green fluorescent protein(GFP)にプロテアソーム分解シグナルを付加したGFP-CL1を利用してアッセイ系を構築し、細胞内に発現したαシヌクレインがプロテアソーム活性を抑制することを明らかにし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)プロテアソームの機能阻害を抑制する物質をスクリーニングする方法であって、αシヌクレインと、プロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞に被験物質を接触させて標識物質のシグナルを検出し、当該検出された標識物質のシグナル強度が、被験物質を接触させなかった対照細胞における標識物質のシグナル強度よりも低下したときは、前記被験物質を、プロテアソームの機能阻害を抑制する物質として選択することを特徴とする、前記方法。
(2)プロテアソームの機能を促進する物質をスクリーニングする方法であって、アミロイド線維を形成しうるタンパク質と、プロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞、又はプロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞に被験物質を接触させて標識物質のシグナルを検出し、当該検出された標識物質のシグナル強度が、被験物質を接触させなかった対照細胞における標識物質のシグナル強度よりも低下したときは、前記被験物質を、プロテアソームの機能を促進する物質として選択することを特徴とする、前記方法。
(3)アミロイド線維を形成しうるタンパク質のオリゴマー化、プロトフィブリル化及び線維化からなる群から選ばれる少なくとも1つを抑制する物質をスクリーニングする方法であって、アミロイド線維を形成しうるタンパク質と、プロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞に被験物質を接触させて標識物質のシグナルを検出し、当該検出された標識物質のシグナル強度が、被験物質を接触させなかった対照細胞における標識物質のシグナル強度よりも低下したときは、前記被験物質を、アミロイド線維を形成しうるタンパク質のオリゴマー化、プロトフィブリル化及び線維化からなる群から選ばれる少なくとも1つを抑制する物質として選択することを特徴とする、前記方法。
本発明の方法において、アミロイド線維を形成しうるタンパク質によるプロテアソーム機能阻害を抑制する物質、及びプロテアソームの機能を促進する物質は、神経変性疾患の治療用に使用することができる。また、アミロイド線維を形成しうるタンパク質のオリゴマー化、プロトフィブリル化及び線維化からなる群から選ばれる少なくとも1つを抑制する物質も、神経変性疾患の治療に使用し得るものである。
ここで、アミロイド線維を形成しうるタンパク質としては、例えばαシヌクレイン、タウ、βアミロイド又はその前駆体、ポリグルタミン及びプリオンからなる群から選ばれる少なくとも1つがあげられる。
本発明により、αシヌクレインによるプロテアソーム機能阻害を抑制する物質をスクリーニングする方法、及びαシヌクレインのオリゴマー化及び/又はプロトフィブリル化を抑制する物質をスクリーニングする方法が提供される。本発明のスクリーニングの対象となる物質は、神経変性疾患治療薬として使用することができる。また、本発明の方法は蛍光強度などを指標としてアッセイすることができるため、容易にハイスループット化することが可能である。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.概要
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患と、プロテアソームを代表とする細胞内タンパク質分解系との関連が注目されている。すなわち、神経細胞等の非分裂細胞では、プロテアソームによるタンパク質の品質管理が細胞の恒常性維持に不可欠であり、細胞内タンパク質分解系に何らかの異常が生じ、分解されなかったタンパク質が細胞内で蓄積し、細胞毒性を発揮するという品質管理の破綻が神経変性疾患を引き起こすというメカニズムが考えられている。プロテアソームは、マルチサブユニットの複合体を形成し、核と細胞質に局在して細胞内タンパク質を選択的に分解する際に中心的役割を果たす酵素である。この酵素は、生体内において様々な役割を担っている。例えば、細胞周期、アポトーシス、代謝調節、免疫応答、シグナル伝達、転写制御、品質管理、ストレス応答、DNA修復等において、不要なタンパク質又は機能調節を行っているタンパク質を特定の時期に分解し、種々の機能制御を行う。プロテアソームによるタンパク質分解は、標的タンパク質を分解するための目印となるユビキチンと連動したユビキチン・プロテアソームシステムにより制御されている。プロテアソームは細胞が生存していく上で欠くことのできない酵素であり、細胞内プロテアソーム活性の抑制は最終的に細胞死に至ると考えられる。
本発明者は、神経変性疾患及び細胞死の原因物質のひとつであるアミロイド線維を形成しうるタンパク質のプロテアソーム活性に及ぼす影響について検討した。
細胞内においてプロテアソーム活性を測定する系としては、細胞内で所望のタンパク質の分解を確認できる方法であれば、いかなる実験手法も用いうるが、例えば、蛍光標識タンパク質であるGreen fluorescent protein(GFP)のC末端側にプロテアソームにより分解される配列(プロテアソーム分解シグナル配列という)を結合したGFP-CL1を用いて標識シグナルの強さを測定する系(参考文献(1)、(2))があげられる。
本発明者は、GFPと呼ばれる緑の蛍光を発するタンパク質に16アミノ酸からなるプロテアソーム分解シグナル配列(CL1)を付加したGFP-CL1を利用してアッセイ系を構築した(図1)。この方法の特徴は、生細胞におけるプロテアソーム活性をGFPの蛍光強度として容易にモニターできる点にある。GFPを細胞に発現させると細胞内で緑色の蛍光を発し、細胞が緑色に光る。また、細胞でαシヌクレインを発現させると細胞内プロテアソーム活性が抑制される。
上記GFP-CL1を細胞に発現させると、細胞内のプロテアソーム活性によりGFP-CL1は分解されてしまい、細胞内で緑色の蛍光は発しなくなる。このアッセイ系にプロテアソーム活性を抑制する薬剤を共存させておくと、プロテアソーム活性が抑制されるためGFP-CL1の分解が抑えられ、細胞は緑色に光る。すなわち、このアッセイ系は、プロテアソーム活性があると細胞は光らなくなり、プロテアソーム活性が抑制されると細胞が緑色に光り出すという性質を有する。したがって、このアッセイ系において、GFPの蛍光強度を測定することにより、生きた細胞におけるプロテアソーム活性を調べることができる。
前記GFP-CL1システムを用いて、αシヌクレインとGFP-CL1を細胞に共発現させると、GFP-CL1単独で発現させた場合に比して、細胞の蛍光強度が増大するという結果から、細胞でαシヌクレインが発現したときに細胞内プロテアソーム活性が抑制されることを確認することができる。すなわち、GFP-CL1の蛍光強度をモニターすることにより、αシヌクレインがプロテアソーム活性に及ぼす影響を調べることができる。
以前の報告では、細胞内に蓄積して線維化したポリグルタミンタンパク質が細胞内プロテアソーム活性を阻害した(参考文献(2))が、本発明では、細胞内においてαシヌクレインの線維化は検出されなかった。すなわち、αシヌクレインの場合は線維ではなくむしろ可溶性分子がプロテアソーム活性を阻害して、最終的に細胞にダメージを与えると考えられる。特に、線維化の前段階状態であるオリゴマーやプロトフィブリルといった分子がその役割を果たしている。つまり、αシヌクレインの線維化だけでなく、オリゴマー化やプロトフィブリル化を阻害することにより、プロテアソーム活性を促進することができるのである。このように、αシヌクレインがプロテアソームに作用する分子は、以前の報告とは全く異なる形態の分子であり、本発明のαシヌクレインがプロテアソーム活性の抑制に作用するメカニズムは以前の報告とは全く異なるものである。
上記の通り、GFP-CL1 はプロテアソームにより分解されるため、αシヌクレインの非存在下では細胞は緑色に光らないのに対し、GFP-CL1とαシヌクレインとを細胞に共発現させると、緑色の蛍光強度の増加が認められる。この現象は、αシヌクレインが細胞内でプロテアソーム活性を低下させた結果によるものである。
ところで、シヌクレインの変異体の多くは、in vitroにおいて野生型よりも線維形成が亢進する。このような変異型シヌクレインを上記のようにGFP-CL1とともに共発現させると、野生型よりも強くプロテアソーム活性が抑制される。これに対し、in vitroにおいて線維形成できないdelta変異体をGFP-CL1とともに共発現させても、プロテアソーム活性の抑制は認められない。
以上の事項をまとめると、次のことがいえる。
(1) αシヌクレインは細胞内のプロテアソーム活性を抑制する。
(2) αシヌクレインによるプロテアソーム活性の抑制は、その線維形成能と正相関する。
(3) 線維化できない変異αシヌクレインはプロテアソーム活性を抑制できない。
従って、プロテアソーム活性抑制のメカニズムとして、発現したαシヌクレインが細胞内でコンフォーメーション変化によりオリゴマーあるいはプロトフィブリルの状態になり、これがプロテアソーム活性を抑制すると考えられる。線維形成能が高い変異体ほど細胞内でオリゴマー化及び/又はプロトフィブリル化しやすく、このためプロテアソーム活性の抑制の程度も強いということが考えられる。一方、線維形成しない変異体はこのような構造変化を起こさないためプロテアソーム活性を抑制できない。
以上の観点より、本発明者は、プロテアソーム活性のアッセイ系として用いたGFP-CL1発現系を、アミロイド線維を形成しうるタンパク質(例えばαシヌクレイン、タウ、βアミロイド又はその前駆体、ポリグルタミン、プリオンなど)のオリゴマー化又はプロトフィブリル化、あるいは線維化を検出する系に応用することを考えた。すなわち、本発明は、細胞に上記アミロイド線維を形成しうるタンパク質とGFP-CL1とを発現させた場合において、当該タンパク質のオリゴマー及び/又はプロトフィブリルが存在するときはプロテアソーム活性が抑制されるため細胞は緑の蛍光を発するが、そのような構造物が存在しないときは細胞は蛍光を発しない点を利用して、線維化のみならず、線維化の前段階のオリゴマー化及び/又はプロトフィブリル化を抑制する化合物をスクリーニングするというものである。
この方法を利用すれば、αシヌクレイン等によるプロテアソーム機能阻害を妨げ、細胞を保護する作用を有する化合物のスクリーニングが可能となる。実際、ポリフェノールなどの化合物において、αシヌクレインによるプロテアソーム活性阻害を妨げる効果が確認された。
このように、本発明の方法を用いることにより種々の化合物のハイスループットスクリーニングが可能となり、スクリーニングされた物質は、全く新たな作用機序を有する神経変性疾患治療薬になるといえる。
2.スクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、アミロイド線維を形成しうるタンパク質のオリゴマー及び/又はプロトフィブリル化、あるいは線維化を抑制する物質の探索を目的とし、アミロイド線維を形成しうるタンパク質、プロテアソーム分解シグナル及び標識タンパク質を発現する細胞に被験物質を接触させ、対照細胞と比較して、標識シグナルの低下を指標として被験物質を選択するというものである。アミロイド線維を形成しうるタンパク質としては、例えばαシヌクレイン、タウ、ポリグルタミンなどが挙げられる。
αシヌクレインとは、パーキンソン病の病因物質として同定された細胞質中への蓄積物質であり、αシヌクレインの凝集が細胞死の要因と考えられている。αシヌクレイン遺伝子の塩基配列は公知であり、その配列はGenBank等の公共データベースを通じて容易に入手することができる。αシヌクレイン遺伝子の塩基配列を配列番号1(P37804)、アミノ酸配列を配列番号2(L08850)に示す。
タウとは、微小管結合タンパク質の一種であり、アルツハイマー病に代表されるタウオパチーとよばれる疾患群において、神経原線維変化として神経細胞内に大量に蓄積する。微小管結合部位の繰り返し配列が3回のもの(タウ3R)と4回のもの(タウ4R)が存在する。タウ遺伝子の塩基配列は公知であり、その配列情報はGenBank等の公共データベースを通じて容易に入手することができる。タウ遺伝子の塩基配列を配列番号3(NP005901)、アミノ酸配列を配列番号4(NM 005910.2)に示す。
βアミロイド(Aβ)とは、アルツハイマー病の発症原因に関与する、細胞内外に蓄積するタンパク質として知られている。また、βアミロイドの前駆体タンパク質(Amyloid Precursor Proterin; APP)は、α、β又はγセクレターゼによって切断される前のタンパク質である。βアミロイドは、タウと弱いながらも相互作用をしているものと考えられている。一部のアルツハイマー病の原因遺伝子がβアミロイド前駆体と一致する。βアミロイド遺伝子の塩基配列は公知であり、その配列情報はGenBank等の公共データベースを通じて容易に入手することができる。βアミロイド遺伝子の塩基配列を配列番号5(P5067)、アミノ酸配列を配列番号6(Y00264)に示す。
ポリグルタミンとは、ハンチントン病、トリプレットリピート病において蓄積されるタンパク質で、細胞毒性を発揮すると考えられている。ポリグルタミン遺伝子の塩基配列は公知であり、その配列情報はGenBank等の公共データベースを通じて容易に入手することができる。ポリグルタミン遺伝子の塩基配列を配列番号7(NP002102)、アミノ酸配列を配列番号8(NM 002111.5)に示す。
プリオンは、狂牛病やクロイツフェルト・ヤコブ病で異常蓄積が認められる非常に凝集性の高いタンパク質であり、神経細胞内又は外において線維化して蓄積することが知られている。プリオンタンパク質の高次構造が変化して、ベータシート構造が増加することにより、正常プリオンタンパク質が病原性プリオンタンパク質に転換し、神経細胞死の原因となると考えられている。プリオン遺伝子の塩基配列は公知であり、その配列情報はGenBank等の公共データベースを通じて容易に入手することができる。プリオン遺伝子の塩基配列を配列番号9(NP898902)、アミノ酸配列を配列番号10(NM 183079.1)に示す。
以下、アミロイド線維を形成しうるタンパク質としてαシヌクレインを例示して、説明する。
プロテアソームは細胞が生存していく上で欠くことのできない酵素であり、細胞内プロテアソーム活性の抑制は最終的に細胞死に至る。すなわちαシヌクレインの強発現自体が細胞にとって好ましくない事態であり、細胞が生存し続けるためにはプロテアソーム活性の抑制を回避しなくてはならない。そこで、本発明のスクリーニング方法により、αシヌクレインによるプロテアソーム活性阻害を回避する化合物、プロテアソーム活性を促進する化合物などの探索が可能になると考えられる。すなわち、プロテアソーム分解シグナルと標識物質との融合物、又はαシヌクレインとプロテアソーム分解シグナルと標識物質とを共発現させた細胞に候補となる種々の化合物(被験物質)を接触させ、未処理の細胞よりも標識シグナルの強さ(例えば蛍光強度)を減少させる物質を選択する。その化合物は、αシヌクレインによるプロテアソーム活性阻害を回避し細胞を保護する作用を有するか、あるいはプロテアソームの機能を促進するものであり、これらの化合物は本発明の神経変性疾患治療剤として使用することができる。ここで、「プロテアソームの機能を促進する物質」には、プロテアソームの機能の阻害を抑制する物質とは無関係の物質も含まれる。従って、本発明の方法において、標識物質とタンパク質分解シグナルとを細胞に発現させて、プロテアソームの機能を促進する物質をスクリーニングすることも可能である。
上記したとおり、細胞内でαシヌクレインが発現するとプロテアソーム活性が抑制される。例えば、αシヌクレイン分子のうち、線維化の前段階状態であるオリゴマーやプロトフィブリルといった可溶性分子が存在すると、プロテアソーム活性が阻害される。また、このようなオリゴマー化やプロトフィブリル化に並行して線維化が生じ、プロテアソーム活性が阻害される場合もある。
従って、(i) このようなαシヌクレイン分子のオリゴマーやプロトフィブリルの形成を阻害する物質、及び(ii) シヌクレインの線維化を阻害する物質は、プロテアソーム活性を促進するため、神経変性疾患治療剤の候補として好ましく、また、 (iii) 細胞のプロテアソームの機能を促進する物質も、神経変性疾患治療剤の候補として好ましい。
本発明のスクリーニング方法においては、標識物質にプロテアソーム分解シグナルを作動可能に結合させた発現ベクター及びαシヌクレインの発現ベクターを作製し、これらを細胞内に導入し共発現させる。但し、αシヌクレイン、プロテアソーム分解シグナル及び標識シグナル配列は、一つのベクター内にカセットとして組み込んでもよく、別々のベクターに連結して別個に細胞に導入してもよい。また、プロテアソームの機能を促進する物質をスクリーニングする場合は、標識物質にプロテアソーム分解シグナルを作動可能に結合させた発現ベクター、例えば分解シグナルを融合した標識物質の発現ベクターのみを単独発現させてもよい。
発現ベクターの構築、ベクターの細胞への導入法は周知であり、当分野における通常の技術を用いて行うことができる(例えば、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed. (Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)参照)。標識物質、プロテアソーム分解シグナル、又はαシヌクレインをコードする各遺伝子を連結するベクターは、市販のものを用いることができる。
プロテアソーム分解シグナルとは、プロテアソームにより分解されるタンパク質に存在し、プロテアソームに認識されて、タンパク質分解の引き金となるものをいう。例えば、16アミノ酸残基(ACKNWFSSLSHFVIHL)(配列番号11)からなるCL1配列があげられる。 但し、プロテアソーム分解シグナルは、上記CL1に限定されるものではなく、CL2(SLISLPLPTRVKFSSLLLIRIMKIITMTFPKKLRS)(配列番号12)、CL6(FYYPIWFARVLLVHYQ)(配列番号13)などを使用することも可能である。
標識物質とは、プロテアソームによりプロテアソーム分解シグナルを検出するための検出手段として使用されるものであり、蛍光標識物質、放射標識物質、これらの標識物質で標識された抗体のいずれを使用することもできる。検出操作が容易である点で、オワンクラゲ(Aequorea victorea)由来の緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)が好ましい。蛍光標識物質としては、GFPのほか、GFPを改変した変異体(GFPバリアント)であるEGFP(Enhanced-humanized GFP)又はrsGFP(red-shift GFP)などが挙げられる。また、黄色蛍光タンパク質(yellow fluorescent protein: YFP)、藍色蛍光タンパク質(cyan fluorescent protein: CFP)、青色蛍光タンパク質(blue fluorescent protein: BFP)、ウミシイタケ(Renilla reniformis)由来のGFPを使用することも可能であり、これらをコードする遺伝子を本発明に使用することができる。これらをコードする遺伝子の塩基配列は公知であり、市販品を用いることができ、あるいは、GenBank等の公共データベースを通じて配列情報を容易に入手することができる。
発現ベクターを導入した細胞を、被験物質を接触させるための試験用細胞と、未処理の対照細胞に分け、試験用細胞に被験物質を添加等により接触させて標識シグナルを検出する。ここで「接触」とは、被験物質が発現ベクターを導入した細胞と相互作用するように処理することを意味し、細胞培養系に被験物質を添加すること、被験物質の存在下で細胞を培養することのいずれをも意味するものである。標識物質のシグナルの強さ(シグナル強度)は、蛍光強度、電気泳動におけるバンドの濃さ等の各々の標識タンパク質に適した方法により定量するか、あるいは目視することにより調べることができる。そして、対照よりもシグナル強度を低下させたときの被験物質を、プロテアソームの機能阻害を抑制する物質、あるいはαシヌクレインのオリゴマー化及び/又はプロトフィブリル化を抑制する物質として選択する。
対照細胞では、αシヌクレインによりプロテアソーム活性が抑制されているため、発現した標識タンパク質とプロテアソーム分解シグナルが結合した組換えタンパク質は当該プロテアソーム活性により分解されず、蛍光を発する。これに対し、上記候補物質となりうる被験物質が添加されたときは、αシヌクレインのオリゴマーやプロトフィブリルの形成が阻害されるため、αシヌクレインによるプロテアソーム活性の抑制はもはや起こらず、プロテアソーム活性が正常に発揮されて、発現した組換えタンパク質が分解される。従って、被験物質を接触させた後の細胞から発せられる標識シグナルは、対照細胞から発せられる標識シグナルの強さよりも弱くなる。
本発明においては、抗GFP抗体等の抗標識タンパク質抗体を用いたイムノブロット等のほか、GFP-CL1の蛍光強度の変化によって標識物質を検出することが可能であるので、多検体を短時間で処理することができ、ハイスループットスクリーニングを行うことができる。
本発明のスクリーニングの対象となる候補物質としては、例えば、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物(高分子又は低分子化合物)、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出液、血漿などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。これら候補物質は塩を形成していてもよく、候補物質の塩としては、生理学的に許容される酸(例えば、無機酸や有機酸など)や塩基(例えば、金属酸など)などとの塩が用いられる。
例えば、上記候補物質として、ポリフェノールの一種であるPurpurogallin(2L)、Myricetin(C7)の2種類の化合物があげられる。これらの化合物は、後述の実施例に示すとおり、いずれもin vitroにおいてαシヌクレインの線維化を阻害する作用を有する。上記したスクリーニング方法において、上記化合物を添加しない場合は、αシヌクレイン発現によりプロテアソーム活性が阻害されたままであるためGFP-CL1は分解されず、バンドが出現する(図6レーン2)。2L及びC7を添加すると、GFP-CL1のバンド量は激減する(同レーン4及び5)。これらの化合物は、αシヌクレインによるプロテアソーム活性阻害を回避させ、細胞死が誘導されないように細胞を保護する作用を有するといえる。
本発明のスクリーニング方法により、αシヌクレインによる細胞内プロテアソーム活性阻害を回避し、細胞を保護する化合物の探索を行うことができる。また、上記スクリーニング方法により探索したヒト等の動物にαシヌクレイン、好ましくはαシヌクレインのオリゴマーやプロトフィブリルの発現を阻害するような物質を投与して、プロテアソーム活性を促進することにより、神経変性疾患の治療及び/又は予防をすることができる。このように、本発明のスクリーニング方法は、新たな作用機序を有する新規な神経変性疾患治療薬の開発に寄与できると期待される。
3.スクリーニングされた物質の用途
本発明においてスクリーニングされた物質は、各種神経変性疾患の治療薬として使用することが可能である。神経変性疾患とは、外傷や細菌感染などの明らかな原因がないのに神経細胞が死滅する神経変性(neurodegeneration)という現象がみられる病気を意味し、痴呆を主とするアルツハイマー病、運動障害を主な症状とするパーキンソン病などが挙げられる。これらの疾患の他に、ハンチントン病、トリプレットリピート病、筋萎縮性側索硬化症、レビー小体型痴呆症、多系統萎縮症、クロイツフェルト-ヤコブ病、Gerstmann-Straussler症候群、狂牛病、球脊髄性筋萎縮症、脊髄小脳失調症、歯状核赤血淡蒼球ルイ体萎縮症、FTDP-17、進行性上性麻痺、皮質基底核変性症、Pick病などが挙げられる。本発明では、αシヌクレイン沈着が関連するパーキンソン病、レビー小体型痴呆症及び多系統萎縮症、タウ及びβアミロイド又はその前駆体が関連するアルツハイマー病、ポリグルタミンが関連するハンチントン病及びトリプレットリピート病、並びにプリオンが関連するクロイツフェルト-ヤコブ病及び狂牛病が特に好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(1)GFP-CL1、αシヌクレイン及びタウ発現ベクターの作製
GFP-CL1発現ベクター(pEGFP-CL1)は、pEGFP-C1ベクター(クロンテック)のマルチクローニングサイトのBgl IIサイトに16アミノ酸残基からなるCL1配列(ACKNWFSSLSHFVIHL)(配列番号11)が付加されるように、CL1アミノ酸配列に相当する塩基配列を挿入して作製した。
αシヌクレイン発現ベクター(pcDNA3-αsyn)は、pRK172-αsynベクター(英国MRC研究所、Michel Goedert博士)を鋳型としてPCR法で増幅させたαシヌクレインコード領域をpcDNA3ベクター(インビトロジェン社)のNhe Iサイトに導入して作製した。
タウ発現ベクターとして、pSG5-tau3R及び4R(英国MRC研究所、Michel Goedert博士より分与)を用いた。
(2)SH-SY5Y細胞へのプラスミドの導入
神経芽細胞SH-SY5Yは、10%仔牛血清を含むDMEM/F12培地を用いて37℃、5%CO2の条件のインキュベーター中で培養した。
pEGFP-CL1(0.3 μg)、pcDNA3-αsynベクター(1 μg)、pSG5-tau3Rあるいは4R(1 μg)は、FuGENE6トランスフェクション試薬(ロシュ)を用いてSH-SY5Y細胞に導入した。総プラスミド量の3倍容量のFuGENE6をプラスミドと混合し、15分間室温で静置したのち、細胞液に混合した。2〜3日間培養を行い、細胞ライセートの調製あるいは免疫組織染色などに用いた。
共焦点レーザー顕微鏡による観察
カバーガラス上で培養したSH-SY5Y細胞に、pFGFP-C1(0.3 μg)やpEGFP-CL1(0.3 μg)を単独で、あるいはそれらとpcDNA3-αsyn(1μg)を混合して、FuGENE6の存在下で添加した。そのまま2日間培養を行い、細胞は4%パラホルムアルデヒド溶液中で固定した。固定した細胞は、0.2%Triton X-100で処理したのち、5%牛血清アルブミン溶液でブロッキングしたのち、抗αシヌクレイン抗体(1000倍希釈)と37度で1時間反応させた。0.05%Tween 20及び150 mM NaClを含む50 mM Tris-HCl、pH 7.5(TBS-T)で洗浄した。その後、TRITC標識した抗マウス二次抗体)と37℃で1時間反応させた。TBS-Tで洗浄したのち、細胞はTO-PRO-3(インビトロジェン、3000倍希釈)と37℃で40分間反応させて核染色を行った。これをスライドガラス上で封入したのち、共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss)で解析した。
構築したpEGFP-CL1が細胞内でプロテアソームにより分解されるかどうかを確認するため、発現細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察し、図2に示した。図の緑色はGFPによる蛍光を、青色はTO-PRO-3による核染色像を示している。図2に示したように、GFPのみを発現させた場合では、多くの細胞がGFPによる緑色の蛍光を発した(図2 左)。GFPに分解シグナルをつなげたGFP-CL1を発現させると、蛍光を発する細胞数は著しく減少した。(図2 中央)。一方、この時にプロテアソームの阻害剤であるMG132を処理しておくと、GFP-CL1のみを発現させた場合と比べて蛍光を発する細胞数が増加した(図2 右)。以上より、GFP-CL1を発現させると、細胞内プロテアソーム活性によりGFP-CL1は分解されるため、蛍光が減少することが示された。これは、参考文献(2)で得られた結果と一致していた。またGFPはGFP-CL1と異なり、細胞内プロテアソームにより分解されないか、あるいはされにくいことも判明した。
イムノブロットによる解析
SH-SY5Y細胞に、pFGFP-C1(0.3μg)やpEGFP-CL1(0.3μg)を単独で、あるいはそれらとpcDNA3-αsyn(1μg)やpSG5-tau3Rあるいは4R(1μg)を混合して、FuGENE6の存在下で添加した。そのまま3日間培養を行い、遠心分離(1,800 g、5分、4℃)により細胞を回収した。細胞はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄したのち、100μLの破砕バッファー(50 mM Tris-HCl、 pH 7.5/150 mM NaCl/5 mM エチレンジアミンテトラ酢酸/5 mM エチレングリコールビス (β-アミノエチルエーテル)-N、 N、 N、 N-テトラ酢酸/プロテアーゼ阻害剤カクテル)に懸濁したのち超音波処理を行った。細胞破砕液は超遠心分離(290,000 g、20分、4℃)を行い、上清のトリス可溶性画分を回収した。トリス可溶性画分は、BCA Protein assay kit(PIERCE)を用いてタンパク質定量を行ったのち、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)用サンプルバッファーを加えてSDS-PAGE用の試料とした。一方、沈殿画分は、100μLの1 % Triton X-100(TX)を含む破砕バッファーと共に超音波処理を行い、同じ条件(290,000 g、20分、4℃)で超遠心分離を行った。得られた上清をTX可溶性画分とし、SDSサンプルバッファーを加えて電気泳動用の試料とした。TX処理の沈殿画分は、100μLのSDS-PAGE用サンプルバッファーを加えて超音波処理し、電気泳動用の試料とした。
得られたすべての画分について13.5 %ゲルを用いたトリス・トリシンSDS-PAGEを行った。電気泳動後、ゲルはポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜に転写したのち、3%ゼラチン溶液でブロッキングを行い、抗GFP抗体(MBL社、2,000倍希釈)、抗αシヌクレイン抗体(1,000倍希釈)あるいは抗タウ抗体(1,000倍希釈)と室温で一晩反応させた。反応後のPVDF膜は、トリス-緩衝食塩水(TBS)で洗浄したのち、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識したマウスIg G(10,000倍希釈)と室温で1時間反応させた。反応後、TBSで膜を洗浄したのち、イムノスター試薬(和光純薬工業)で処理し、エックス線フィルム(富士フィルム)に感光させてバンドを検出した。
GFP-CL1のみを発現させた場合は、細胞内のプロテアソーム活性によりGFP-CL1は分解され、バンドが消失する(図3レーン1)。GFP-CL1とαシヌクレインを共発現させると、GFP-CL1の分解が抑えられバンドが出現する(レーン3)。また、GFP-CL1発現細胞にプロテアソーム阻害剤であるMG132を処理すると、プロテアソーム活性が抑制されてGFP-CL1の分解が阻害されるため、バンドが出現する(レーン2)。以上の結果より、細胞内にαシヌクレインを発現させると、プロテアソーム活性が阻害されることが示される。
細胞内αシヌクレインによるプロテアソーム活性の抑制
細胞内に発現させたαシヌクレインがプロテアソーム活性に影響を及ぼすかどうかについて、αシヌクレインとGFP-CL1をSH-SY5Y細胞に共発現させ、イムノブロット及び共焦点レーザー顕微鏡による解析を行った。
GFP-CL1のみを発現させた場合(左パネル)、プロテアソームによりGFP-CL1は分解されてしまうため細胞はほとんど蛍光を発しない。GFP-CL1とαシヌクレインを共発現させた場合(右パネル)、左のGFP-CL1のみを発現させた場合よりも多くの細胞が蛍光を発することが示される。これにより、図3のイムノブロットの結果と同様、細胞にαシヌクレインを発現させるとプロテアソーム活性が阻害されることが分かる。
すなわち、GFP-CL1のみを発現させると、細胞内プロテアソーム活性によりGFP-CL1は分解されてしまうため、GFP-CL1のバンドはほとんど検出されず(図3レーン1)、また、蛍光を発する細胞は少なかった(図4左パネル)。αシヌクレインとGFP-CL1を共発現させた場合では、GFP-CL1のバンドが検出され(図3レーン3)、また、GFP-CL1単独の発現の場合(図4左パネル)よりも蛍光を発する細胞数の顕著な増加が認められた(図4右パネル)。一方、GFP-CL1発現細胞にプロテアソーム阻害剤であるMG132を処理した場合では、GFP-CL1の顕著なバンドが検出された(図3レーン2)。以上の結果は、細胞にαシヌクレインを発現させると、細胞内プロテアソーム活性が阻害されることを示している。
αシヌクレインの変異効果がプロテアソーム活性に及ぼす影響
αシヌクレインには発症と連鎖する3種類の変異が存在することが報告されているが(参考文献(3)、(4)、(5))、これらはいずれもin vitroにおいて野生型よりも線維化しやすいことが知られている。またαシヌクレインを構成するアミノ酸配列中の第73〜83残基を欠損させた変異体(Δ73-83)はin vitroで線維化しないことが知られている。これらのαシヌクレインの変異効果が細胞内プロテアソーム活性にどのような影響を及ぼすかどうかについて検討した。
今回は3種類の変異のうち、30残基目のAlaがProに変異したA30P及び53残基目のAlaがThrに変異したA53Tを使用した。これらの変異体をそれぞれGFP-CL1と共にSH-SY5Y細胞に共発現させ、3日間培養したのち細胞ライセートを調製して、イムノブロットを行った。
結果を図5に示す。図5のレーン1は、GFP-CL1のみを発現させた結果で、プロテアソーム活性によりGFP-CL1は分解されてしまうため、バンドは消失する。野生型のαシヌクレインを共発現させると、プロテアソーム活性が抑制されるため(レーン2)、GFP-CL1のバンドが検出できる。一方、シヌクレインの変異体A30P及びA53Tを発現させると(レーン3、4)、野生型を発現させたレーン2よりもGFP-CL1のバンドが強く検出された。またin vitroで線維化しないデルタ変異体Δ73-83を発現させると、GFP-CL1のバンドはほとんど検出できなかった(レーン5)。
以上の結果より、in vitroで野生型よりも線維化しやすい変異型αシヌクレインは、より強くプロテアソーム活性を阻害するが、in vitroで線維化しない変異体はプロテアソーム活性を抑制できないことが明らかとなった。すなわち、シヌクレインによるプロテアソーム活性の抑制は、その線維化しやすさと関連することが示唆された。
タウによるプロテアソーム活性の抑制
実施例4や5と同様に、細胞内に発現させたタウがプロテアソーム活性に影響を及ぼすかどうかについて、イムノブロット法により解析した。
GFP-CL1のみを発現させてもそのバンドはほとんど検出されないが(図6レーン1)、αシヌクレインとGFP-CL1を共発現させた場合では、前述のようにGFP-CL1のバンドが検出され(図6レーン2)、またΔ73-83を発現させるとGFP-CL1のバンドはほとんど検出されなかった(図6レーン3)。一方、繰り返し配列が3回あるタウ3R及び4回あるタウ4RをGFP-CL1と共に発現させると、いずれの場合もGFP-CL1バンドは顕著に検出でき(図6レーン4と5)、αシヌクレインと同様に細胞内のタウはプロテアソーム活性を抑制することが明らかとなった。
αシヌクレインによるプロテアソーム活性阻害を回避する化合物
以上の結果より、細胞にαシヌクレインを発現させると、細胞内プロテアソーム活性が阻害されることが明らかとなった。またその阻害効果は、線維化しやすい変異体ほど強く、線維化しない変異体には阻害効果がほとんど見られないことも明らかとなった。以上より、αシヌクレインによるプロテアソーム活性阻害のメカニズムとして、一部のαシヌクレインが細胞内で線維あるいは線維の前段階状態と考えられるオリゴマーあるいはプロトフィブリルを形成し、これらの分子がプロテアソーム活性を抑制している可能性が考えられる。この仮説が正しいとするなら、細胞内でαシヌクレインのオリゴマー化を抑制すればプロテアソーム活性は阻害されないことになる。我々は、in vitroにおいてポリフェノールなどの化合物がαシヌクレインの線維化を抑制することを見出しているが、これらの化合物が、細胞内におけるαシヌクレインによるプロテアソーム活性阻害を回避するかどうかについて調べた。なお、化合物としては、ポルフィリン化合物であるFerric-dehydroporphyrin IX(2D)及びポリフェノールの一種であるPurpurogallin(2L)、Myricetin(C7)の3種類の化合物を使用した。これらの化合物はいずれも、in vitroにおいてαシヌクレインの線維化を阻害する作用を有する。
細胞にαシヌクレインとGFP-CL1を共発現させ、2時間後に終濃度で40μMとなるように上記化合物を培地に添加し、そのまま3日間培養を続けた。3日後に細胞ライセートを調製し抗GFP抗体によるイムノブロットを行った。もし化合物がαシヌクレインによるプロテアソーム阻害を抑制するなら、GFP-CL1は分解されるためGFP-CL1のバンドが消失するが、添加した化合物が何の作用も示さないなら、プロテアソーム活性は阻害されたままなのでGFP-CL1は分解されず、GFP-CL1のバンドは出現する(図7)。このようにGFP-CL1のバンドの出現・消失を指標にして、αシヌクレインによるプロテアソーム活性阻害を回避する化合物のスクリーニングを行った。
その結果を図7に示す。化合物を添加しない場合は、αシヌクレイン発現によりプロテアソーム活性が阻害されたままなのでGFP-CL1は分解されず、GFP-CL1のバンドが検出される(図7レーン2)。40μMの2Dを添加した場合はGFP-CL1のバンドが出現した(同レーン3)。すなわち化合物を加えてもプロテアソーム活性は阻害されたままであり、この化合物には細胞を保護する作用はないといえ、この結果より、2Dにはαシヌクレイン発現によるプロテアソーム活性阻害を抑制する効果はないことが示された。一方、2L及びC7を添加すると、未処理のレーン2の場合と比べて、GFP-CL1のバンド量が激減した(同レーン4及び5)。すなわち、化合物を加えたことにより、シヌクレインによるプロテアソーム活性の阻害がなくなったためバンドが消失したと考えられ、これらの化合物には、αシヌクレインによるプロテアソーム活性阻害を回避させ、細胞死が誘導されないように細胞を保護する効果があることが示された。
参考文献
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Green fluorescent proteinを用いたシステムを用いた細胞内のプロテアソーム活性を測定する系の概要を示す図である。 GFPやGFP-CL1を細胞に発現させ、細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察した写真である。 細胞内αシヌクレインがプロテアソーム活性に影響を及ぼすかどうかについて、GFPの抗体でイムノブロットすることにより確認した結果を示す図である。 細胞内に発現したαシヌクレインがプロテアソーム活性を阻害するかどうかについて、細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察した写真である。 αシヌクレインの変異効果がプロテアソーム活性に影響を及ぼすかどうかを調べるために、公知の3つの変異体をGFP-CL1と共発現させ、イムノブロット解析を行った結果を示す図である。 細胞内に発現したタウがプロテアソーム活性を抑制するかどうかについて、イムノブロット解析を行った結果を示す図である。 in vitroでシヌクレインの線維化を抑制したいくつかの化合物について、イムノブロット解析を行った結果を示す図である。

Claims (7)

  1. プロテアソームの機能阻害を抑制する物質をスクリーニングする方法であって、アミロイド線維を形成しうるタンパク質と、プロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞に被験物質を接触させて標識物質のシグナルを検出し、当該検出された標識物質のシグナル強度が、被験物質を接触させなかった対照細胞における標識物質のシグナル強度よりも低下したときは、前記被験物質を、プロテアソームの機能阻害を抑制する物質として選択することを特徴とする、前記方法。
  2. プロテアソームの機能を促進する物質をスクリーニングする方法であって、アミロイド線維を形成しうるタンパク質と、プロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞、又はプロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞に被験物質を接触させて標識物質のシグナルを検出し、当該検出された標識物質のシグナル強度が、被験物質を接触させなかった対照細胞における標識物質のシグナル強度よりも低下したときは、前記被験物質を、プロテアソームの機能を促進する物質として選択することを特徴とする、前記方法。
  3. アミロイド線維を形成しうるタンパク質のオリゴマー化、プロトフィブリル化及び線維化からなる群から選ばれる少なくとも1つを抑制する物質をスクリーニングする方法であって、アミロイド線維を形成しうるタンパク質と、プロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞に被験物質を接触させて標識物質のシグナルを検出し、当該検出された標識物質のシグナル強度が、被験物質を接触させなかった対照細胞における標識物質のシグナル強度よりも低下したときは、前記被験物質を、アミロイド線維を形成しうるタンパク質のオリゴマー化、プロトフィブリル化及び線維化からなる群から選ばれる少なくとも1つを抑制する物質として選択することを特徴とする、前記方法。
  4. アミロイド線維を形成しうるタンパク質によるプロテアソームの機能阻害を抑制する物質が、神経変性疾患の治療に使用されるものである請求項1記載の方法。
  5. プロテアソームの機能を促進する物質が、神経変性疾患の治療に使用されるものである請求項2記載の方法。
  6. アミロイド線維を形成しうるタンパク質のオリゴマー化、プロトフィブリル化及び線維化からなる群から選ばれる少なくとも1つを抑制する物質が、神経変性疾患の治療に使用されるものである請求項3記載の方法。
  7. アミロイド線維を形成しうるタンパク質が、αシヌクレイン、タウ、βアミロイド又はその前駆体、ポリグルタミン及びプリオンからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。

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