JP2007209227A - 神経変性疾患治療用物質のスクリーニング方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】プロテアソームの機能阻害を抑制する物質(神経変性疾患治療用物質)をスクリーニングする方法であって、アミロイド線維を形成しうるタンパク質と、プロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞に被験物質を接触させて標識物質のシグナルを検出し、当該検出された標識物質のシグナル強度が、被験物質を接触させなかった対照細胞における標識物質のシグナル強度よりも低下したときは、前記被験物質を、プロテアソームの機能阻害を抑制する物質として選択することを特徴とする、前記方法。
【選択図】なし
Description
Gilon, T., Chomsky, O., and Kulka, R. G. (1998) Degradation signals for ubiquitin system proteolysis in Saccharomyces cerevisiae. The EMBO J. 17, 2759-2766 Bence, N. F., Sampat, R. M., and Kopit, R. R. (2001) Impairment of the ubiquitin-proteasome system by protein aggregation. Science 292, 1552-1555
(1)プロテアソームの機能阻害を抑制する物質をスクリーニングする方法であって、αシヌクレインと、プロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞に被験物質を接触させて標識物質のシグナルを検出し、当該検出された標識物質のシグナル強度が、被験物質を接触させなかった対照細胞における標識物質のシグナル強度よりも低下したときは、前記被験物質を、プロテアソームの機能阻害を抑制する物質として選択することを特徴とする、前記方法。
1.概要
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患と、プロテアソームを代表とする細胞内タンパク質分解系との関連が注目されている。すなわち、神経細胞等の非分裂細胞では、プロテアソームによるタンパク質の品質管理が細胞の恒常性維持に不可欠であり、細胞内タンパク質分解系に何らかの異常が生じ、分解されなかったタンパク質が細胞内で蓄積し、細胞毒性を発揮するという品質管理の破綻が神経変性疾患を引き起こすというメカニズムが考えられている。プロテアソームは、マルチサブユニットの複合体を形成し、核と細胞質に局在して細胞内タンパク質を選択的に分解する際に中心的役割を果たす酵素である。この酵素は、生体内において様々な役割を担っている。例えば、細胞周期、アポトーシス、代謝調節、免疫応答、シグナル伝達、転写制御、品質管理、ストレス応答、DNA修復等において、不要なタンパク質又は機能調節を行っているタンパク質を特定の時期に分解し、種々の機能制御を行う。プロテアソームによるタンパク質分解は、標的タンパク質を分解するための目印となるユビキチンと連動したユビキチン・プロテアソームシステムにより制御されている。プロテアソームは細胞が生存していく上で欠くことのできない酵素であり、細胞内プロテアソーム活性の抑制は最終的に細胞死に至ると考えられる。
細胞内においてプロテアソーム活性を測定する系としては、細胞内で所望のタンパク質の分解を確認できる方法であれば、いかなる実験手法も用いうるが、例えば、蛍光標識タンパク質であるGreen fluorescent protein(GFP)のC末端側にプロテアソームにより分解される配列(プロテアソーム分解シグナル配列という)を結合したGFP-CL1を用いて標識シグナルの強さを測定する系(参考文献(1)、(2))があげられる。
(2) αシヌクレインによるプロテアソーム活性の抑制は、その線維形成能と正相関する。
(3) 線維化できない変異αシヌクレインはプロテアソーム活性を抑制できない。
本発明のスクリーニング方法は、アミロイド線維を形成しうるタンパク質のオリゴマー及び/又はプロトフィブリル化、あるいは線維化を抑制する物質の探索を目的とし、アミロイド線維を形成しうるタンパク質、プロテアソーム分解シグナル及び標識タンパク質を発現する細胞に被験物質を接触させ、対照細胞と比較して、標識シグナルの低下を指標として被験物質を選択するというものである。アミロイド線維を形成しうるタンパク質としては、例えばαシヌクレイン、タウ、ポリグルタミンなどが挙げられる。
プロテアソームは細胞が生存していく上で欠くことのできない酵素であり、細胞内プロテアソーム活性の抑制は最終的に細胞死に至る。すなわちαシヌクレインの強発現自体が細胞にとって好ましくない事態であり、細胞が生存し続けるためにはプロテアソーム活性の抑制を回避しなくてはならない。そこで、本発明のスクリーニング方法により、αシヌクレインによるプロテアソーム活性阻害を回避する化合物、プロテアソーム活性を促進する化合物などの探索が可能になると考えられる。すなわち、プロテアソーム分解シグナルと標識物質との融合物、又はαシヌクレインとプロテアソーム分解シグナルと標識物質とを共発現させた細胞に候補となる種々の化合物(被験物質)を接触させ、未処理の細胞よりも標識シグナルの強さ(例えば蛍光強度)を減少させる物質を選択する。その化合物は、αシヌクレインによるプロテアソーム活性阻害を回避し細胞を保護する作用を有するか、あるいはプロテアソームの機能を促進するものであり、これらの化合物は本発明の神経変性疾患治療剤として使用することができる。ここで、「プロテアソームの機能を促進する物質」には、プロテアソームの機能の阻害を抑制する物質とは無関係の物質も含まれる。従って、本発明の方法において、標識物質とタンパク質分解シグナルとを細胞に発現させて、プロテアソームの機能を促進する物質をスクリーニングすることも可能である。
従って、(i) このようなαシヌクレイン分子のオリゴマーやプロトフィブリルの形成を阻害する物質、及び(ii) シヌクレインの線維化を阻害する物質は、プロテアソーム活性を促進するため、神経変性疾患治療剤の候補として好ましく、また、 (iii) 細胞のプロテアソームの機能を促進する物質も、神経変性疾患治療剤の候補として好ましい。
本発明においてスクリーニングされた物質は、各種神経変性疾患の治療薬として使用することが可能である。神経変性疾患とは、外傷や細菌感染などの明らかな原因がないのに神経細胞が死滅する神経変性(neurodegeneration)という現象がみられる病気を意味し、痴呆を主とするアルツハイマー病、運動障害を主な症状とするパーキンソン病などが挙げられる。これらの疾患の他に、ハンチントン病、トリプレットリピート病、筋萎縮性側索硬化症、レビー小体型痴呆症、多系統萎縮症、クロイツフェルト-ヤコブ病、Gerstmann-Straussler症候群、狂牛病、球脊髄性筋萎縮症、脊髄小脳失調症、歯状核赤血淡蒼球ルイ体萎縮症、FTDP-17、進行性上性麻痺、皮質基底核変性症、Pick病などが挙げられる。本発明では、αシヌクレイン沈着が関連するパーキンソン病、レビー小体型痴呆症及び多系統萎縮症、タウ及びβアミロイド又はその前駆体が関連するアルツハイマー病、ポリグルタミンが関連するハンチントン病及びトリプレットリピート病、並びにプリオンが関連するクロイツフェルト-ヤコブ病及び狂牛病が特に好ましい。
GFP-CL1発現ベクター(pEGFP-CL1)は、pEGFP-C1ベクター(クロンテック)のマルチクローニングサイトのBgl IIサイトに16アミノ酸残基からなるCL1配列(ACKNWFSSLSHFVIHL)(配列番号11)が付加されるように、CL1アミノ酸配列に相当する塩基配列を挿入して作製した。
タウ発現ベクターとして、pSG5-tau3R及び4R(英国MRC研究所、Michel Goedert博士より分与)を用いた。
神経芽細胞SH-SY5Yは、10%仔牛血清を含むDMEM/F12培地を用いて37℃、5%CO2の条件のインキュベーター中で培養した。
カバーガラス上で培養したSH-SY5Y細胞に、pFGFP-C1(0.3 μg)やpEGFP-CL1(0.3 μg)を単独で、あるいはそれらとpcDNA3-αsyn(1μg)を混合して、FuGENE6の存在下で添加した。そのまま2日間培養を行い、細胞は4%パラホルムアルデヒド溶液中で固定した。固定した細胞は、0.2%Triton X-100で処理したのち、5%牛血清アルブミン溶液でブロッキングしたのち、抗αシヌクレイン抗体(1000倍希釈)と37度で1時間反応させた。0.05%Tween 20及び150 mM NaClを含む50 mM Tris-HCl、pH 7.5(TBS-T)で洗浄した。その後、TRITC標識した抗マウス二次抗体)と37℃で1時間反応させた。TBS-Tで洗浄したのち、細胞はTO-PRO-3(インビトロジェン、3000倍希釈)と37℃で40分間反応させて核染色を行った。これをスライドガラス上で封入したのち、共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss)で解析した。
SH-SY5Y細胞に、pFGFP-C1(0.3μg)やpEGFP-CL1(0.3μg)を単独で、あるいはそれらとpcDNA3-αsyn(1μg)やpSG5-tau3Rあるいは4R(1μg)を混合して、FuGENE6の存在下で添加した。そのまま3日間培養を行い、遠心分離(1,800 g、5分、4℃)により細胞を回収した。細胞はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄したのち、100μLの破砕バッファー(50 mM Tris-HCl、 pH 7.5/150 mM NaCl/5 mM エチレンジアミンテトラ酢酸/5 mM エチレングリコールビス (β-アミノエチルエーテル)-N、 N、 N、 N-テトラ酢酸/プロテアーゼ阻害剤カクテル)に懸濁したのち超音波処理を行った。細胞破砕液は超遠心分離(290,000 g、20分、4℃)を行い、上清のトリス可溶性画分を回収した。トリス可溶性画分は、BCA Protein assay kit(PIERCE)を用いてタンパク質定量を行ったのち、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)用サンプルバッファーを加えてSDS-PAGE用の試料とした。一方、沈殿画分は、100μLの1 % Triton X-100(TX)を含む破砕バッファーと共に超音波処理を行い、同じ条件(290,000 g、20分、4℃)で超遠心分離を行った。得られた上清をTX可溶性画分とし、SDSサンプルバッファーを加えて電気泳動用の試料とした。TX処理の沈殿画分は、100μLのSDS-PAGE用サンプルバッファーを加えて超音波処理し、電気泳動用の試料とした。
細胞内に発現させたαシヌクレインがプロテアソーム活性に影響を及ぼすかどうかについて、αシヌクレインとGFP-CL1をSH-SY5Y細胞に共発現させ、イムノブロット及び共焦点レーザー顕微鏡による解析を行った。
αシヌクレインには発症と連鎖する3種類の変異が存在することが報告されているが(参考文献(3)、(4)、(5))、これらはいずれもin vitroにおいて野生型よりも線維化しやすいことが知られている。またαシヌクレインを構成するアミノ酸配列中の第73〜83残基を欠損させた変異体(Δ73-83)はin vitroで線維化しないことが知られている。これらのαシヌクレインの変異効果が細胞内プロテアソーム活性にどのような影響を及ぼすかどうかについて検討した。
実施例4や5と同様に、細胞内に発現させたタウがプロテアソーム活性に影響を及ぼすかどうかについて、イムノブロット法により解析した。
以上の結果より、細胞にαシヌクレインを発現させると、細胞内プロテアソーム活性が阻害されることが明らかとなった。またその阻害効果は、線維化しやすい変異体ほど強く、線維化しない変異体には阻害効果がほとんど見られないことも明らかとなった。以上より、αシヌクレインによるプロテアソーム活性阻害のメカニズムとして、一部のαシヌクレインが細胞内で線維あるいは線維の前段階状態と考えられるオリゴマーあるいはプロトフィブリルを形成し、これらの分子がプロテアソーム活性を抑制している可能性が考えられる。この仮説が正しいとするなら、細胞内でαシヌクレインのオリゴマー化を抑制すればプロテアソーム活性は阻害されないことになる。我々は、in vitroにおいてポリフェノールなどの化合物がαシヌクレインの線維化を抑制することを見出しているが、これらの化合物が、細胞内におけるαシヌクレインによるプロテアソーム活性阻害を回避するかどうかについて調べた。なお、化合物としては、ポルフィリン化合物であるFerric-dehydroporphyrin IX(2D)及びポリフェノールの一種であるPurpurogallin(2L)、Myricetin(C7)の3種類の化合物を使用した。これらの化合物はいずれも、in vitroにおいてαシヌクレインの線維化を阻害する作用を有する。
(1) Gilon, T., Chomsky, O., and Kulka, R. G. (1998) Degradation signals for ubiquitin system proteolysis in Saccharomyces cerevisiae. The EMBO J. 17, 2759-2766
(2) Bence, N. F., Sampat, R. M., and Kopit, R. R. (2001) Impairment of the ubiquitin-proteasome system by protein aggregation. Science 292, 1552-1555
(3) Polymeropoulos, M. H., Lavedan, C., Leroy, E., Ide, S. E., Dehejia, A., Dutra, A., Pike, B., Root, H., Rubenstein, J., Boyer, R., Stenroos, E. S., Chandrasekharappa, S., Athanassiadou, A., Papapetropoulos, T., Johnson, W. G., Lazzarini, A. M., Duvoisin, R. C., Iorio, G. D., Golbe, L. I., and Nussbaum, R. L. (1997) Mutation in the alpha-synuclein gene identified in families with Parkinson's disease. Science 276, 2045-2047
(4) Kruger, R., Kuhn, W., Muller, T., Woitalla, D., Graeber, M., Kosel, S., Przuntek, H., Epplen, J. T., Schols, L.,and Riess. O. (1998) Ala30Pro mutation in the gene encoding alpha-synuclein in Parkinson's disease. Nat. Genet. 18, 106-108
(5) Zarranz, J. J., Alegre, J., Gomez-Esteban, J. C., Lezcano, E., Ros, R., Ampuero, I., Vidal, L., Hoenicka, J., Rodriguez, O., Atares, B., Llorens, V., Gomez Tortosa, E., del Ser, T., Munoz, D. G., and de Yebenes, J. G. (2004) The new mutation, E46K, of alpha-synuclein causes Parkinson and Lewy body dementia. Ann. Neurol. 55, 164-73
Claims (7)
- プロテアソームの機能阻害を抑制する物質をスクリーニングする方法であって、アミロイド線維を形成しうるタンパク質と、プロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞に被験物質を接触させて標識物質のシグナルを検出し、当該検出された標識物質のシグナル強度が、被験物質を接触させなかった対照細胞における標識物質のシグナル強度よりも低下したときは、前記被験物質を、プロテアソームの機能阻害を抑制する物質として選択することを特徴とする、前記方法。
- プロテアソームの機能を促進する物質をスクリーニングする方法であって、アミロイド線維を形成しうるタンパク質と、プロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞、又はプロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞に被験物質を接触させて標識物質のシグナルを検出し、当該検出された標識物質のシグナル強度が、被験物質を接触させなかった対照細胞における標識物質のシグナル強度よりも低下したときは、前記被験物質を、プロテアソームの機能を促進する物質として選択することを特徴とする、前記方法。
- アミロイド線維を形成しうるタンパク質のオリゴマー化、プロトフィブリル化及び線維化からなる群から選ばれる少なくとも1つを抑制する物質をスクリーニングする方法であって、アミロイド線維を形成しうるタンパク質と、プロテアソーム分解シグナルタンパク質と、標識物質とを発現させた細胞に被験物質を接触させて標識物質のシグナルを検出し、当該検出された標識物質のシグナル強度が、被験物質を接触させなかった対照細胞における標識物質のシグナル強度よりも低下したときは、前記被験物質を、アミロイド線維を形成しうるタンパク質のオリゴマー化、プロトフィブリル化及び線維化からなる群から選ばれる少なくとも1つを抑制する物質として選択することを特徴とする、前記方法。
- アミロイド線維を形成しうるタンパク質によるプロテアソームの機能阻害を抑制する物質が、神経変性疾患の治療に使用されるものである請求項1記載の方法。
- プロテアソームの機能を促進する物質が、神経変性疾患の治療に使用されるものである請求項2記載の方法。
- アミロイド線維を形成しうるタンパク質のオリゴマー化、プロトフィブリル化及び線維化からなる群から選ばれる少なくとも1つを抑制する物質が、神経変性疾患の治療に使用されるものである請求項3記載の方法。
- アミロイド線維を形成しうるタンパク質が、αシヌクレイン、タウ、βアミロイド又はその前駆体、ポリグルタミン及びプリオンからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
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