JP2007203549A - 圧電インクジェットヘッドの調整方法およびインクジェットプリンタ - Google Patents
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Abstract
【課題】圧電インクジェットヘッド1のノズル3からの、インク滴の吐出状態のばらつきを、簡便に調整して、各ノズル3からのインク滴の吐出状態を均一に保つ圧電インクジェットヘッド1の調整方法と、前記調整方法によって調整することで、常に、画質の良好な画像を印刷できるインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】圧電インクジェットヘッド1の圧電変形領域8に、パルス幅T2を連続的に変化させながら、駆動電圧パルスを印加して、ノズル3から、連続的に、インク滴を吐出させて、一定速度で搬送中の用紙24の表面にドット25を形成させ、その形成位置を計測した結果から、インク滴の吐出速度V1が最速となる、駆動電圧パルスのパルス幅T2の最適値T2-1を求め、対応する圧電変形領域8に印加する駆動電圧パルスのパルス幅T2を、個別に、前記最適値T2-1に調整する。
【選択図】図5
【解決手段】圧電インクジェットヘッド1の圧電変形領域8に、パルス幅T2を連続的に変化させながら、駆動電圧パルスを印加して、ノズル3から、連続的に、インク滴を吐出させて、一定速度で搬送中の用紙24の表面にドット25を形成させ、その形成位置を計測した結果から、インク滴の吐出速度V1が最速となる、駆動電圧パルスのパルス幅T2の最適値T2-1を求め、対応する圧電変形領域8に印加する駆動電圧パルスのパルス幅T2を、個別に、前記最適値T2-1に調整する。
【選択図】図5
Description
本発明は、圧電インクジェットヘッドの調整方法と、前記調整方法が実施される圧電インクジェットヘッドを備えたインクジェットプリンタに関するものである。
オンデマンド型のインクジェットプリンタとしては、圧電セラミックの電歪特性を利用した圧電インクジェットヘッドを組み込んだものが、広く普及している。また、圧電インクジェットヘッドとしては、インクが充てんされる加圧室と、前記加圧室に連通し、加圧室内のインクを、インク滴として吐出させるノズルとを有する液滴吐出部を、複数個、配列した基板と、前記基板の、個々の加圧室に対応して配設され、個別に、駆動電圧パルスが印加されることによって、個別に変形して、個々の加圧室の容積を増減させることで、ノズルからインク滴を吐出させるための複数の圧電変形領域を備え、前記基板に積層された圧電アクチュエータとを有するものが、一般的に用いられる。
また、前記オンデマンド型のインクジェットプリンタとしては、圧電インクジェットヘッドを、用紙の搬送方向と交差する幅方向に、往復動可能に配設した、いわゆるシリアル型のものが一般的である。シリアル型のインクジェットプリンタにおいては、用紙の搬送を停止した状態で、圧電インクジェットヘッドを、前記幅方向に移動させながら、任意のノズルからインク滴を吐出させて、前記搬送方向の、一定幅の領域を印刷する操作と、用紙を、前記搬送方向に、前記領域の幅以内の所定のピッチで搬送する操作とを、交互に繰り返すことで、用紙の全面に、画像を印刷している。
シリアル型のインクジェットプリンタの印刷速度を高めるためには、前記印刷手順から明らかなように、圧電インクジェットヘッドの、用紙の幅方向への移動速度と、用紙の搬送速度とを向上すればよい。しかし、両速度は、共に、形成画像の画質によって制限され、特に、写真等の高画質の画像を形成するためには、用紙の表面に、微小なドットを、高密度で印刷する必要があり、そのためには、圧電インクジェットヘッドを、幅方向に、できるだけゆっくり移動させる必要があって、その間、用紙の搬送を停止させていなければならない上、用紙を搬送するピッチも、できるだけ小さくしなければならないため、従来の、シリアル型のインクジェットプリンタにおいては、印刷速度を向上できる範囲に、自ずと限界があった。
そこで、近時、より高速で、現状と同等、あるいはそれ以上の、高画質の画像を印刷可能とするために、液滴吐出部と、個々の液滴吐出部に対応する圧電変形領域とを、用紙の印刷領域の、幅方向の寸法以上の範囲に亘って、複数個、配列させた圧電インクジェットヘッドを用いた、ライン型のインクジェットプリンタが開発された(例えば、特許文献1、2参照)。
ライン型のインクジェットプリンタにおいては、圧電インクジェットヘッドを、用紙に対して、幅方向に固定した状態で、前記圧電インクジェットヘッドに対して、用紙を、幅方向と交差する搬送方向に搬送しながら、印刷が行われる。つまり、ライン型のインクジェットプリンタによれば、従来の、シリアル型のインクジェットプリンタにおいて、圧電インクジェットヘッドを幅方向に移動させながら印刷していた、一定幅の領域の画像を、一度に印刷できるため、前記一定幅の領域ごとの、用紙の搬送を停止している時間を、これまでよりさらに短縮して、印刷速度を、これまでに比べて高めることができる。しかも、形成される画像を、圧電インクジェットヘッドに配列する液滴吐出部の間隔を小さくすることで、現状と同等、あるいはそれ以上に、高画質化することもできる。
前記ライン型のインクジェットプリンタにおいては、形成画像の高画質化に伴うドットピッチの高精細化に対応するために、圧電インクジェットヘッドを、現状よりさらに微細化し、しかも、できるだけ少ない工程で、生産性よく製造することが求められる。そして、この要求に対応するために、圧電アクチュエータを構成する圧電セラミック層を、基板の、複数の加圧室を覆う大きさに、一体に形成すると共に、前記圧電セラミック層を挟む一対の電極のうちの少なくとも一方を、加圧室ごとに、分離させて形成することで、圧電変形領域を、基板の、個々の加圧室に対応して配設させるのが一般的である。
図1は、圧電インクジェットヘッド1を含む、ライン型のインクジェットプリンタの一例の、ブロック図である。圧電インクジェットヘッド1は断面図で示している。また、図7は、前記圧電インクジェットヘッド1の一例の、要部を拡大した断面図である。図1、図7を参照して、この例のインクジェットプリンタにおいて、圧電インクジェットヘッド1は、インクが充てんされる加圧室2と、前記加圧室2に連通し、加圧室2内のインクを、インク滴として吐出させるためのノズル3とを有する複数の液滴吐出部4を、面方向に配列させて形成した基板5と、前記基板5の複数の加圧室2を覆う大きさを有する圧電セラミック層6を含み、前記基板5上に積層された、板状の圧電アクチュエータ7とを備えている。
圧電アクチュエータ7は、個々の加圧室2に対応して配設され、個別に電圧が印加されることによって、個別に、厚み方向に撓み変形する複数の圧電変形領域8と、前記圧電変形領域8を囲んで配設され、前記基板5に固定されることで変形が防止された拘束領域9とに区画されている。また、図の例の圧電アクチュエータ7は、圧電セラミック層6の、両図において上面に、加圧室2ごとに個別に形成されて、圧電変形領域8を区画する個別電極10と、前記圧電セラミック層6の下面に、順に積層された、共に、複数の加圧室2を覆う大きさを有する、共通電極11と振動板12とを備えた、いわゆるユニモルフ型の構成を有している。各個別電極10と、共通電極11とは、それぞれ別個に、駆動回路13に接続されており、駆動回路13は、制御手段14に接続されている。また、用紙を所定の搬送方向に搬送するための搬送手段17も、制御手段14に接続されている。
圧電セラミック層6は、例えば、PZT等の圧電材料によって形成されていると共に、層の厚み方向に、あらかじめ分極されて、いわゆる横振動モードの圧電変形特性が付与されており、制御手段14からの制御信号によって、駆動回路13が駆動されて、任意の個別電極10と、共通電極11との間に、前記分極方向と同方向の電圧が印加されると、両電極10、11間に挟まれた、圧電変形領域8に対応する活性領域15が、図7に横向きの白矢印で示すように、層の面方向に収縮される。
しかし、圧電セラミック層6の下面は、共通電極11を介して振動板12に固定されているため、活性領域15が収縮すると、それに伴って、圧電アクチュエータ7の圧電変形領域8が、図7に下向きの白矢印で示すように、加圧室2の方向に突出するように撓み変形して、加圧室2内に充てんされたインクを振動させ、この振動によって加圧されたインクが、ノズル3を通して、インク滴として吐出される。
特許文献3に記載されているように、圧電インクジェットヘッドにおいては、いわゆる引き打ち式の駆動方法が、広く一般に採用される。図6は、図1の圧電インクジェットヘッド1を、一般的な引き打ち式の駆動方法によって駆動させる際に、圧電アクチュエータ7の圧電変形領域8に印加される駆動電圧VPの駆動電圧波形(太線の一点鎖線で示す)の一例と、この駆動電圧波形が印加された際の、ノズル3内における、インクの体積速度の変化〔太線の実線で示す、(+)がノズル3の先端側、つまりインク滴の吐出側、(−)が加圧室2側〕との関係を簡略化して示すグラフである。
図1、図7、図6を参照して、まず、図6中のt1より左側の、ノズル3からインク滴を吐出させない待機時には、駆動電圧VPをVHに維持(VP=VH)して、活性領域15を面方向に収縮させ続けることによって、圧電変形領域8を、加圧室2の方向に突出するように撓み変形させて、前記加圧室2の容積を減少させた状態を維持しており、この間、インクは静止状態、すなわち、ノズル3におけるインクの体積速度は0を維持し、前記ノズル3内に、インクの表面張力によって形成されるインクメニスカスは静止している。
ノズル3からインク滴を吐出させて、用紙の表面にドットを形成するには、まず、その直前のt1の時点で、圧電変形領域8に印加していた駆動電圧VPを放電(VP=0)して、活性領域15の面方向の収縮を解除させることによって、圧電変形領域8の撓み変形を解除する。そうすると、加圧室2の容積が一定量だけ増加するため、ノズル3内のインクメニスカスは、その容積の増加分だけ、前記加圧室2の方向に引き込まれる。その際の、ノズル3内でのインクの体積速度は、図6のt1とt2との間の部分に示すように、一旦、(−)側に大きくなった後、徐々に小さくなって、やがて0に近づく。これは、太線の実線で示す、インクの体積速度の固有振動周期T1の、ほぼ半周期分に相当する。
次に、ノズル3でのインクの体積速度が限りなく0に近づいたt2の時点で、駆動電圧VPを、再びVHまで充電(VP=VH)して、活性領域15を面方向に収縮させることによって、圧電変形領域8を撓み変形させる。そうすると、ノズル3内のインクは、インクメニスカスが加圧室2の側に最も大きく引き込まれた状態(t2の時点の、体積速度が0の状態)から、逆に、ノズル3の先端方向へ戻ろうとしているところに、圧電変形領域8を撓み変形させて、加圧室2の容積を減少させることによって、前記加圧室2から押し出されたインクの圧力が加わることになるため、ノズル3の先端側の方向へ加速されて、前記ノズル3の外方へ大きく突出する。その際の、ノズル3内でのインクの体積速度は、図6のt2とt3との間の部分に示すように、一旦、(+)側に大きくなった後、徐々に小さくなって、やがて0に近づく。ノズル3の外方へ突出したインクが略円柱状に見えることから、この突出状態のインクを、一般に、インク柱と称する。
次に、ノズル3の外方に突出したインクの体積速度が限りなく0に近づいた時点(図6のt3の時点)で、駆動電圧VPを、再び、放電(VP=0)して、活性領域15の面方向の収縮を解除させることによって、圧電変形領域8の撓み変形を解除する。そうすると、インクが、ノズル3の外方に最も大きく突出した状態(t3の時点の、体積速度が0の状態)から、逆に、加圧室2の方向へ戻ろうとしているところに、圧電変形領域8の撓み変形を解除して、加圧室2の容積を再び増加させたことによる、マイナスの圧力が加わることによって、ノズル3の外方へ伸びきったインク柱が切り離されて、1滴目のインク滴が生成される。
インク柱が切り離されたノズル3内のインクは、再び、加圧室2の方向に引き込まれる。その際の、ノズル3内でのインクの体積速度は、図6のt3とt4との間の部分に示すように、一旦、(−)側に大きくなった後、徐々に小さくなって、やがて0に近づく。これは、先に説明したように、インクの体積速度の固有振動周期T1の、ほぼ半周期分に相当する。
次に、ノズル3でのインクの体積速度が限りなく0に近づいたt4の時点で、駆動電圧VPを、再びVHまで充電(VP=VH)して、活性領域15を面方向に収縮させることによって、圧電変形領域8を撓み変形させる。そうすると、先の、t2からt3の間でのインクの挙動と同じメカニズムによって、インクが、再び、ノズル3の外方へ大きく突出して、インク柱が形成される。その際の、ノズル3内でのインクの体積速度は、図6のt4とt5との間の部分に示すように、一旦、(+)側に大きくなった後、徐々に小さくなって、やがて0に近づく。
そして、ノズル3でのインクの体積速度が0になった時点(図6のt5の時点)以降、インクの振動の速度が加圧室2の側に向かうことによって、ノズル3の外方へ伸びきったインク柱が切り離されて、2滴目のインク滴が生成される。生成された1滴目および2滴目のインク滴は、それぞれ、ノズル3の先端に対向させて配設した用紙の表面まで飛翔して、1つのドットを形成する。
前記一連の動作は、図6に太線の一点鎖線で示すように、パルス幅T2が固有振動周期T1の約1/2倍であるパルスを2回、含む駆動電圧波形を有する駆動電圧VPを、圧電変形領域8に印加していることに相当する。1つのドットを、1滴のみのインク滴で形成する場合は、前記パルスを、1回のみとすればよい。また、1つのドットを、3滴以上のインク滴で形成する場合は、パルスを、インク滴の数に応じた回数、発生させればよい。前記一連の動作を、搬送手段17による用紙の搬送と交互に行うことで、用紙の表面に、所定の画像を印刷することができる。
前記圧電インクジェットヘッド1を用いて、インク滴の吐出を繰り返すと、装置各部の劣化に伴って、ノズル3から吐出されるインク滴の容量や吐出速度等が変化し、しかも、前記変化の度合いが、個々のノズル3ごとに異なるため、各ノズル3間でのばらつきの度合いが、徐々に大きくなって、形成画像の画質が、徐々に劣化するという問題がある。
その原因としては、
(1) 圧電変形領域8が駆動される回数、および、引き打ち式の駆動方法では、前記圧電変形領域8が撓み変形された待機状態を維持する時間の長さが、個々の圧電変形領域8ごとに異なるため、圧電セラミック層6の、劣化の度合いが、各圧電変形領域8ごとに異なること、
(2) 液滴吐出部4のノズル3からの、インク滴の吐出を促進するため、基板5の、ノズル3が開口された表面には、通常、撥水膜を形成する等して撥水処理が施されるが、前記撥水膜の撥水性能が劣化する度合いが、ノズル3からインク滴が吐出される回数に応じて、個々のノズル3ごとに異なること、
等が考えられる。
その原因としては、
(1) 圧電変形領域8が駆動される回数、および、引き打ち式の駆動方法では、前記圧電変形領域8が撓み変形された待機状態を維持する時間の長さが、個々の圧電変形領域8ごとに異なるため、圧電セラミック層6の、劣化の度合いが、各圧電変形領域8ごとに異なること、
(2) 液滴吐出部4のノズル3からの、インク滴の吐出を促進するため、基板5の、ノズル3が開口された表面には、通常、撥水膜を形成する等して撥水処理が施されるが、前記撥水膜の撥水性能が劣化する度合いが、ノズル3からインク滴が吐出される回数に応じて、個々のノズル3ごとに異なること、
等が考えられる。
また、前記(1)の、圧電セラミック層6の劣化は、前記圧電セラミック層6のうち、圧電変形領域8に対応する活性領域15の周囲を囲む、非活性領域16のクリープ変形に起因する。例えば、引き打ち式の駆動方法によって、図1、図7に示したユニモルフ型の圧電アクチュエータ7を有する圧電インクジェットヘッド1を駆動させる際には、先に説明したように、ノズル3からインク滴を吐出させない待機時に、圧電セラミック層6の活性領域15を、面方向に収縮させた状態を維持し続ける必要があり、圧電セラミック層6の、活性領域15を囲む非活性領域16(圧電アクチュエータ7の拘束領域9に対応する)が、待機時に、前記活性領域15の面方向の収縮によって、図7に黒矢印で示す方向に、長時間に亘って、引張応力を受けて伸び続けることになる。
そして、非活性領域16は、引張応力を受けて伸びている時間が長くなるほど、その内部で、応力を緩和するようにドメインが回転することによって、徐々にクリープ変形して行き、それに伴って、活性領域15が、収縮を解除しても、クリープ変形した非活性領域16からの圧縮応力を受けて、もとの静止状態まで伸びきることができなくなる度合いが大きくなる。そのため、圧電アクチュエータ7の圧電変形領域8における、図7に下向きの白矢印で示した方向に撓み変形した状態と、この撓み変形を解除した静止状態との間での、厚み方向の変位量が徐々に小さくなって行く結果、インク滴の吐出性能が低下するという問題を生じる。
前記ばらつきの問題は、製造直後の圧電インクジェットヘッド1においても生じる。その原因としては、加工精度に基づく、加圧室2の容積のばらつきや、ノズル3の開口径のばらつき、圧電セラミック層6等の各層の厚みムラ、前記撥水膜の厚みムラ等が挙げられる。そこで、特許文献4においては、ノズルからのインク滴の吐出状態を、検出器を用いて検出し、その結果に基づいて、個々の圧電変形領域に印加する駆動電圧値を補正したり、ヘッドの高さや向きを補正したりする調整方法が提案されている。
特開2000−79685号公報(請求項1、段落[0015]〜[0016]、図3、図4)
特開2005−74763号公報(請求項1、段落[0002]〜[0003])
特開平2−192947号公報(第3頁左上欄第19行〜同頁右上欄第6行、第3頁右上欄第14行〜同頁左下欄第2行、第16図(b))
特開2004−148180号公報(請求項1〜4、第0008欄〜第0011欄)
ところが、特許文献4に記載された調整方法は、前記特許文献2の第0012欄に記載された、有機ELパネル等の製造工場において使用される、用途が特化された大掛かりな製造装置に組み込まれる圧電インクジェットヘッドに対する微調整の方法であり、前記調整方法を、汎用のインクジェットプリンタに適用することは困難である。
例えば、特許文献4では、インク滴の吐出状態を検出するための検出器として、CCDカメラや電子式重量計等を用いているが、前記検出器や、その駆動のための回路、検出データを処理するための回路等を組み込むことは、今後、益々、小型化や、低価格化に伴う構造の簡略化が求められるであろう、汎用のインクジェットプリンタにおいては、これらの要求に逆行することであり、実質的に不可能である。
例えば、特許文献4では、インク滴の吐出状態を検出するための検出器として、CCDカメラや電子式重量計等を用いているが、前記検出器や、その駆動のための回路、検出データを処理するための回路等を組み込むことは、今後、益々、小型化や、低価格化に伴う構造の簡略化が求められるであろう、汎用のインクジェットプリンタにおいては、これらの要求に逆行することであり、実質的に不可能である。
また、圧電変形領域に印加する駆動電圧値を補正するためには、個々の圧電変形領域に対応する駆動回路を構成する抵抗等の部品を交換したり、回路中に、あらかじめ、可変抵抗や可変電圧器等を組み込んでおき、前記可変抵抗の抵抗値や、可変電圧器の電圧値等を微調整したりすることが考えられる。しかし、先に説明したように、ライン型のインクジェットプリンタの高画質化による、圧電インクジェットヘッド上のノズル数の増加に伴って、個々のノズルに対応する圧電変形領域を駆動するための駆動回路の回路数が増加し、それに伴って、前記駆動回路が、高集積化される傾向にあるため、前記のような従来の調整方法で、圧電変形領域に印加する駆動電圧値を補正することも、実質的に不可能である。
また、圧電インクジェットヘッドには、インクジェットプリンタの小型化、低電力化に伴って、ノズル数の増加と相反する要求である、これまでよりもさらに小型化することが求められることから、前記圧電インクジェットヘッドに、ヘッドの高さや向きを調整するための装置等を組み込むことも、やはり、実質的に不可能である。
本発明の目的は、圧電インクジェットヘッドの、個々のノズルからの、インク滴の吐出状態の、製造時の加工精度や、使用時の劣化の違い等によるばらつきを、前記圧電インクジェットヘッドの駆動の任意の時点で、より簡便に調整して、前記ばらつきをなくして、各ノズルからのインク滴の吐出状態を均一に保つことができる、圧電インクジェットヘッドの調整方法を提供することにある。また、本発明の目的は、前記調整方法によって調整することで、より安価に、画質の良好な画像を印刷することができるインクジェットプリンタを提供することにある。
本発明の目的は、圧電インクジェットヘッドの、個々のノズルからの、インク滴の吐出状態の、製造時の加工精度や、使用時の劣化の違い等によるばらつきを、前記圧電インクジェットヘッドの駆動の任意の時点で、より簡便に調整して、前記ばらつきをなくして、各ノズルからのインク滴の吐出状態を均一に保つことができる、圧電インクジェットヘッドの調整方法を提供することにある。また、本発明の目的は、前記調整方法によって調整することで、より安価に、画質の良好な画像を印刷することができるインクジェットプリンタを提供することにある。
前記課題を解決するため、発明者は、圧電インクジェットヘッドの使用時における、前記各部の劣化や、圧電インクジェットヘッドの、製造時の加工精度に基づく、前記各部のばらつき、ムラ等によって、ノズルから吐出されるインク滴の容量や吐出速度等が変化する原因について、検討を行った。その結果、前記劣化やばらつき、ムラ等が生じると、個々の液滴吐出部における、インクの、振動の固有振動周期が変化して、前記固有振動周期と、先に説明した駆動時に、圧電変形領域に印加される駆動電圧パルスのパルス幅との間にずれを生じることが、ノズルから吐出されるインク滴の容量や吐出速度等が変化する主な原因であることを見出した。
より具体的には、先に説明した(1)の、圧電セラミック層のうち非活性領域のクリープ変形が発生すると、前記非活性領域で囲まれた活性領域を含む、圧電アクチュエータの圧電変形領域のコンプライアンス(=軟らかさ)が低下し、それに伴って、対応する液滴吐出部における、インクの、振動の固有振動周期が短くなる傾向がある。また、(2)の、撥水膜の撥水性能の劣化によって、前記撥水膜の、見かけ上の膜厚が小さくなると、ノズルにおける流路抵抗が小さくなるため、それに伴って、対応する液滴吐出部における、インクの、振動の固有振動周期が短くなる傾向がある。
そこで、発明者は、さらに検討を行った結果、任意の圧電変形領域に、パルス幅を連続的に変化させながら、駆動電圧パルスを印加することで、対応する液滴吐出部のノズルから、連続的に、インク滴を吐出させて、一定速度で搬送中の用紙の表面にドットを形成させた後、前記表面上の、ドットの形成位置を計測した結果から、インク滴の吐出速度が最速となる、駆動電圧パルスのパルス幅の最適値を求め、対応する圧電変形領域に印加する駆動電圧パルスのパルス幅を、個別に、前記最適値に調整するようにすると、簡便に、ノズルから吐出されるインク滴の容量や吐出速度等を調整して、各ノズルからのインク滴の吐出状態を均一に保つことができることを見出した。
すなわち、インク滴の吐出速度の測定は、用紙の表面に、実際に形成したドットの位置のずれを測定するだけでよいため、CCDカメラ等の検出器や、その付帯回路等を、インクジェットプリンタに組み込む必要がない上、パルス幅の調整は、純粋に、駆動回路に入力する制御信号の操作のみによって行うことができるため、圧電インクジェットヘッドの駆動回路に手を加えたり、ヘッドの高さや向きを調整したりする必要もなく、簡便に、ノズルから吐出されるインク滴の容量や吐出速度等を調整して、各ノズルからのインク滴の吐出状態を均一に保つことができるのである。
したがって、本発明の圧電インクジェットの調整方法は、
(A) インクが充てんされる加圧室と、前記加圧室に連通し、加圧室内のインクを、インク滴として吐出させて、用紙の表面にドットを形成するためのノズルとを有する液滴吐出部を、前記用紙の印刷領域の、幅方向の寸法以上の範囲に亘って、複数個、配列させて形成した基板と、
(B) 前記基板の、個々の加圧室に対応して配設され、個別に、駆動電圧パルスが印加されることによって、個別に変形して、任意の加圧室の容積を増減させることで、前記加圧室に連通したノズルから、インク滴を吐出させるための、複数の圧電変形領域を有し、前記基板に積層された圧電アクチュエータと、
を備え、用紙に対して、幅方向に固定された状態で使用される圧電インクジェットヘッドの、任意の圧電変形領域に、パルス幅を連続的に変化させながら、駆動電圧パルスを印加することで、対応する液滴吐出部のノズルから、連続的に、インク滴を吐出させて、一定速度で搬送中の用紙の表面にドットを形成させた後、前記表面上の、ドットの形成位置を計測した結果から、インク滴の吐出速度が最速となる、駆動電圧パルスのパルス幅の最適値を求め、対応する圧電変形領域に印加する駆動電圧パルスのパルス幅を、個別に、前記最適値に調整することを特徴とするものである。
(A) インクが充てんされる加圧室と、前記加圧室に連通し、加圧室内のインクを、インク滴として吐出させて、用紙の表面にドットを形成するためのノズルとを有する液滴吐出部を、前記用紙の印刷領域の、幅方向の寸法以上の範囲に亘って、複数個、配列させて形成した基板と、
(B) 前記基板の、個々の加圧室に対応して配設され、個別に、駆動電圧パルスが印加されることによって、個別に変形して、任意の加圧室の容積を増減させることで、前記加圧室に連通したノズルから、インク滴を吐出させるための、複数の圧電変形領域を有し、前記基板に積層された圧電アクチュエータと、
を備え、用紙に対して、幅方向に固定された状態で使用される圧電インクジェットヘッドの、任意の圧電変形領域に、パルス幅を連続的に変化させながら、駆動電圧パルスを印加することで、対応する液滴吐出部のノズルから、連続的に、インク滴を吐出させて、一定速度で搬送中の用紙の表面にドットを形成させた後、前記表面上の、ドットの形成位置を計測した結果から、インク滴の吐出速度が最速となる、駆動電圧パルスのパルス幅の最適値を求め、対応する圧電変形領域に印加する駆動電圧パルスのパルス幅を、個別に、前記最適値に調整することを特徴とするものである。
また、本発明のインクジェットプリンタは、
(A) インクが充てんされる加圧室と、前記加圧室に連通し、加圧室内のインクを、インク滴として吐出させて、用紙の表面にドットを形成するためのノズルとを有する液滴吐出部を、前記用紙の印刷領域の、幅方向の寸法以上の範囲に亘って、複数個、配列させて形成した基板と、
(B) 前記基板の、個々の加圧室に対応して配設され、個別に、駆動電圧パルスが印加されることによって、個別に変形して、任意の加圧室の容積を増減させることで、前記加圧室に連通したノズルから、インク滴を吐出させるための、複数の圧電変形領域を有し、前記基板に積層された圧電アクチュエータと、
を備え、用紙に対して、幅方向に固定された状態で使用される圧電インクジェットヘッドと、
(C) 前記圧電アクチュエータの複数の圧電変形領域に、個別に、駆動電圧パルスを印加して駆動させる制御手段と、
(D) 前記用紙を、前記幅方向と交差する搬送方向に、一定速度で搬送する搬送手段と、
を備えると共に、制御手段は、圧電アクチュエータの、個々の圧電変形領域に駆動電圧パルスを印加した回数を計数するカウンタと、前記カウンタによって計数した回数が、所定値になった時点以降の、任意の時点で、請求項1または2記載の調整方法を実施する調整部とを含むことを特徴とするものである。
(A) インクが充てんされる加圧室と、前記加圧室に連通し、加圧室内のインクを、インク滴として吐出させて、用紙の表面にドットを形成するためのノズルとを有する液滴吐出部を、前記用紙の印刷領域の、幅方向の寸法以上の範囲に亘って、複数個、配列させて形成した基板と、
(B) 前記基板の、個々の加圧室に対応して配設され、個別に、駆動電圧パルスが印加されることによって、個別に変形して、任意の加圧室の容積を増減させることで、前記加圧室に連通したノズルから、インク滴を吐出させるための、複数の圧電変形領域を有し、前記基板に積層された圧電アクチュエータと、
を備え、用紙に対して、幅方向に固定された状態で使用される圧電インクジェットヘッドと、
(C) 前記圧電アクチュエータの複数の圧電変形領域に、個別に、駆動電圧パルスを印加して駆動させる制御手段と、
(D) 前記用紙を、前記幅方向と交差する搬送方向に、一定速度で搬送する搬送手段と、
を備えると共に、制御手段は、圧電アクチュエータの、個々の圧電変形領域に駆動電圧パルスを印加した回数を計数するカウンタと、前記カウンタによって計数した回数が、所定値になった時点以降の、任意の時点で、請求項1または2記載の調整方法を実施する調整部とを含むことを特徴とするものである。
本発明によれば、圧電インクジェットヘッドの、個々のノズルからの、インク滴の吐出状態の、製造時の加工精度や、使用時の劣化の違い等によるばらつきを、前記圧電インクジェットヘッドの駆動の任意の時点で、より簡便に調整して、前記ばらつきをなくして、各ノズルからのインク滴の吐出状態を均一に保つことができる、圧電インクジェットヘッドの調整方法と、前記調整方法によって調整することで、常に、画質の良好な画像を印刷することができるインクジェットプリンタとを提供することができる。
図1は、圧電インクジェットヘッド1を含む、ライン型のインクジェットプリンタの一例の、ブロック図である。圧電インクジェットヘッド1は断面図で示している。また、図2は、前記圧電インクジェットヘッド1の一例のうち、圧電アクチュエータ7を積層する前の基板5と、その一部分を拡大して示す平面図である。
図1、図2を参照して、この例のインクジェットプリンタにおいて、圧電インクジェットヘッド1は、インクが充てんされる加圧室2と、前記加圧室2に連通し、加圧室2内のインクを、インク滴として吐出させるためのノズル3とを有する複数の液滴吐出部4を、面方向に配列させて形成した基板5と、前記基板5の複数の加圧室2を覆う大きさを有する圧電セラミック層6を含み、前記基板5上に積層された、板状の圧電アクチュエータ7とを備えている。
図1、図2を参照して、この例のインクジェットプリンタにおいて、圧電インクジェットヘッド1は、インクが充てんされる加圧室2と、前記加圧室2に連通し、加圧室2内のインクを、インク滴として吐出させるためのノズル3とを有する複数の液滴吐出部4を、面方向に配列させて形成した基板5と、前記基板5の複数の加圧室2を覆う大きさを有する圧電セラミック層6を含み、前記基板5上に積層された、板状の圧電アクチュエータ7とを備えている。
圧電アクチュエータ7は、個々の加圧室2に対応して配設され、個別に電圧が印加されることによって、個別に、厚み方向に撓み変形する複数の圧電変形領域8と、前記圧電変形領域8を囲んで配設され、前記基板5に固定されることで変形が防止された拘束領域9とに区画されている。また、図の例の圧電アクチュエータ7は、圧電セラミック層6の、両図において上面に、加圧室2ごとに個別に形成されて、圧電変形領域8を区画する個別電極10と、前記圧電セラミック層6の下面に、順に積層された、共に、複数の加圧室2を覆う大きさを有する、共通電極11と振動板12とを備えた、いわゆるユニモルフ型の構成を有している。各個別電極10と、共通電極11とは、それぞれ別個に、駆動回路13に接続されており、駆動回路13は、制御手段14に接続されている。また、用紙を所定の搬送方向に搬送するための搬送手段17も、制御手段14に接続されている。
圧電セラミック層6は、例えば、PZT等の圧電材料によって形成されていると共に、層の厚み方向に、あらかじめ分極されて、いわゆる横振動モードの圧電変形特性が付与されており、制御手段14からの制御信号によって、駆動回路13が駆動されて、任意の個別電極10と、共通電極11との間に、前記分極方向と同方向の電圧が印加されると、両電極10、11間に挟まれた、圧電変形領域8に対応する活性領域15が、層の面方向に収縮される。しかし、圧電セラミック層6の下面は、共通電極11を介して振動板12に固定されているため、活性領域15が収縮すると、それに伴って、圧電アクチュエータ7の圧電変形領域8が、加圧室2の方向に突出するように撓み変形して、加圧室2内に充てんされたインクを振動させ、この振動によって加圧されたインクが、ノズル3を通して、インク滴として吐出される。
図2を参照して、基板5は、ステンレス鋼等の、耐食性に優れた材料によって、長尺の矩形状に形成されている。各加圧室2は、いずれも、基板5の面方向の平面形状が、四隅を丸くした菱形に形成されており、前記菱形の、1つの角の近傍に、ノズル3が形成されている。複数個の加圧室2は、図の例では、4つの、台形状のブロック18に分けて形成されている。各ブロック18は、隣り合うもの同士が、台形の上底と下底とを交互に入れ替えた状態で配列されている。
前記各ブロック18は、この例では、加圧室2を34個、基板5の幅方向に配列した1列目から、加圧室2を49個、同方向に配列した16列目まで、1列ごとに、加圧室2の数を1個ずつ増加させた16列の、計664個の加圧室2で構成されている。各列の加圧室2は、1つの列の、隣り合う2つの加圧室2の間に、隣の列の1つの加圧室2が位置するように、それぞれ、半ピッチずつずらして形成されていると共に、隣り合うブロック18間で、形成ピッチを一致させて形成されており、それによって、前記基板5の、幅方向の範囲W1=4.25in(≒108mm)中での、前記幅方向の解像度600dpiを実現している。
本発明では、先に説明したように、加圧室2を含む液滴吐出部4が、用紙の印刷領域の、幅方向の寸法以上の範囲に亘って、複数個、配列されている必要がある。そのため、図2の基板5を含む圧電インクジェットヘッド1を、例えば、幅210mmのA4縦用紙に印刷するためのインクジェットプリンタに使用する場合には、前記圧電インクジェットヘッド1が、前記A4縦用紙の幅方向に、2台、前記範囲W1が互いに連続するように配列される。それ以上の幅の用紙に印刷するためのインクジェットプリンタの場合は、前記圧電インクジェットヘッド1を、用紙の幅に合わせて、3台以上、配列すればよい。これにより、1種類の圧電インクジェットヘッド1を用いて、サイズの異なる任意の用紙に印刷するためのインクジェットプリンタに対応することができる。また、1台の圧電インクジェットヘッド1に形成する液滴吐出部4と圧電変形領域8の数を制限することで、不良率を下げて、前記圧電インクジェットヘッド1の歩留まりを向上することもできる。
図の例の圧電インクジェットヘッド1は、従来同様に、図6に示した引き打ち式の駆動方法等によって駆動させることができる。すなわち、図1、図7、図6を参照して、まず、図6中のt1より左側の、ノズル3からインク滴を吐出させない待機時には、駆動電圧VPをVHに維持(VP=VH)して、活性領域15を面方向に収縮させ続けることによって、圧電変形領域8を、加圧室2の方向に突出するように撓み変形させて、前記加圧室2の容積を減少させた状態を維持しており、この間、インクは静止状態、すなわち、ノズル3におけるインクの体積速度は0を維持し、前記ノズル3内に、インクの表面張力によって形成されるインクメニスカスは静止している。
ノズル3からインク滴を吐出させて、用紙の表面にドットを形成するには、まず、その直前のt1の時点で、圧電変形領域8に印加していた駆動電圧VPを放電(VP=0)して、活性領域15の面方向の収縮を解除させることによって、圧電変形領域8の撓み変形を解除する。そうすると、加圧室2の容積が一定量だけ増加するため、ノズル3内のインクメニスカスは、その容積の増加分だけ、前記加圧室2の方向に引き込まれる。その際の、ノズル3内でのインクの体積速度は、図6のt1とt2との間の部分に示すように、一旦、(−)側に大きくなった後、徐々に小さくなって、やがて0に近づく。これは、太線の実線で示す、インクの体積速度の固有振動周期T1の、ほぼ半周期分に相当する。
次に、ノズル3でのインクの体積速度が限りなく0に近づいたt2の時点で、駆動電圧VPを、再びVHまで充電(VP=VH)して、活性領域15を面方向に収縮させることによって、圧電変形領域8を撓み変形させる。そうすると、ノズル3内のインクは、インクメニスカスが加圧室2の側に最も大きく引き込まれた状態(t2の時点の、体積速度が0の状態)から、逆に、ノズル3の先端方向へ戻ろうとしているところに、圧電変形領域8を撓み変形させて、加圧室2の容積を減少させることによって、前記加圧室2から押し出されたインクの圧力が加わることになるため、ノズル3の先端側の方向へ加速されて、前記ノズル3の外方へ大きく突出する。その際の、ノズル3内でのインクの体積速度は、図6のt2とt3との間の部分に示すように、一旦、(+)側に大きくなった後、徐々に小さくなって、やがて0に近づく。ノズル3の外方へ突出したインクが略円柱状に見えることから、この突出状態のインクを、一般に、インク柱と称する。
次に、ノズル3の外方に突出したインクの体積速度が限りなく0に近づいた時点(図6のt3の時点)で、駆動電圧VPを、再び、放電(VP=0)して、活性領域15の面方向の収縮を解除させることによって、圧電変形領域8の撓み変形を解除する。そうすると、インクが、ノズル3の外方に最も大きく突出した状態(t3の時点の、体積速度が0の状態)から、逆に、加圧室2の方向へ戻ろうとしているところに、圧電変形領域8の撓み変形を解除して、加圧室2の容積を再び増加させたことによる、マイナスの圧力が加わることによって、ノズル3の外方へ伸びきったインク柱が切り離されて、1滴目のインク滴が生成される。
インク柱が切り離されたノズル3内のインクは、再び、加圧室2の方向に引き込まれる。その際の、ノズル3内でのインクの体積速度は、図6のt3とt4との間の部分に示すように、一旦、(−)側に大きくなった後、徐々に小さくなって、やがて0に近づく。これは、先に説明したように、インクの体積速度の固有振動周期T1の、ほぼ半周期分に相当する。
次に、ノズル3でのインクの体積速度が限りなく0に近づいたt4の時点で、駆動電圧VPを、再びVHまで充電(VP=VH)して、活性領域15を面方向に収縮させることによって、圧電変形領域8を撓み変形させる。そうすると、先の、t2からt3の間でのインクの挙動と同じメカニズムによって、インクが、再び、ノズル3の外方へ大きく突出して、インク柱が形成される。その際の、ノズル3内でのインクの体積速度は、図6のt4とt5との間の部分に示すように、一旦、(+)側に大きくなった後、徐々に小さくなって、やがて0に近づく。
そして、ノズル3でのインクの体積速度が0になった時点(図6のt5の時点)以降、インクの振動の速度が加圧室2の側に向かうことによって、ノズル3の外方へ伸びきったインク柱が切り離されて、2滴目のインク滴が生成される。生成された1滴目および2滴目のインク滴は、それぞれ、ノズル3の先端に対向させて配設した用紙の表面まで飛翔して、1つのドットを形成する。
前記一連の動作は、図6に太線の一点鎖線で示すように、パルス幅T2が固有振動周期T1の約1/2倍であるパルスを2回、含む駆動電圧波形を有する駆動電圧VPを、圧電変形領域8に印加していることに相当する。1つのドットを、1滴のみのインク滴で形成する場合は、前記パルスを、1回のみとすればよい。また、1つのドットを、3滴以上のインク滴で形成する場合は、パルスを、インク滴の数に応じた回数、発生させればよい。前記一連の動作を、搬送手段17による用紙の搬送と交互に行うことで、用紙の表面に、所定の画像を印刷することができる。
図3は、制御手段14の内部構成を示すブロック図である。図3を参照して、制御手段14は、通常の画像形成のための画像形成制御部19と、圧電アクチュエータ7の、個々の圧電変形領域8に駆動電圧パルスを印加した回数を計数するカウンタ20と、前記カウンタによって計数した回数が、所定値になった時点以降の、任意の時点で、本発明の調整方法を実施するため、画像形成制御部19に組み込まれた調整部21とを備えている。
画像形成制御部19の出力は、ドライバ22を介して、駆動回路13に入力される。また、制御手段14には、図示しないパーソナルコンピュータ(PC)等を接続して、形成画像のデータ信号や、駆動電圧パルスのパルス幅を最適値に調整するためのデータ信号等を受信したり、前記PC等に、カウンタによって計数した、圧電アクチュエータ7の、個々の圧電変形領域8に駆動電圧パルスを印加した回数が所定値になったことを知らせるデータ信号等を送信したりするためのI/Oポート23が設けられている。
制御手段14は、カウンタ20によって計数した、圧電アクチュエータ7の、個々の圧電変形領域8に駆動電圧パルスを印加した回数が、所定値になった時点で、I/Oポート23を通して、接続されたPC等に、その旨を伝えるデータ信号を送信して、前記PC等に接続されたモニタや、インクジェットプリンタに設けたパイロットランプ等によって、調整が必要である旨の表示をすると共に、調整モードに入るか否かを問う。
そして、調整モードに入ることが選択されると、制御手段14は、調整部21を起動させて、あらかじめ、登録されていた、圧電変形領域8の駆動回数と、劣化に伴う、液滴吐出部4における、インクの、振動の固有振動周期の変化との関係を示す検量線から、最適値に近いであろうと予測される駆動電圧パルスのパルス幅を導き出し、その前後の所定の範囲内で、パルス幅を連続的に変化させながら、圧電変形領域8に、駆動電圧パルスを印加することで、対応する液滴吐出部4のノズル3から、連続的に、インク滴を吐出させて、搬送手段17によって一定速度で搬送中の用紙の表面にドットを形成させる。
そして、形成されたドットの、前記表面上の形成位置の、基準位置からのずれを計測する。図4は、ドット25の形成位置の、基準位置からのずれを計測するために、用紙24の表面に、前記ドット25を形成した状態の一例を示す平面図である。図中に実線の矢印で示す方向に、用紙24を、一定の搬送速度S1で搬送しながら、連続的に、圧電変形領域8を駆動させて、ノズル3からインク滴を吐出させると、前記用紙24の表面に、圧電変形領域8の駆動間隔と、前記搬送速度S1とから導き出される一定間隔をあけて、ドット25が連続的に形成される。
図において左側の3つのドット25′は、ドットの形成位置のずれを計測する基準として、紙面に形成されたものである。前記ドット25′は、例えば、基板5上に形成した加圧室2の各ブロック18に対応する、圧電変形領域8のグループごとに、通常はインクの吐出に使用しない計測用の圧電変形領域8を、各グループ内の、各列ごとに1つずつ設けておき、同じ列の計測用の圧電変形領域8を、調整する圧電変形領域8と同時に駆動させることで、用紙24の表面に形成される。
図において中央と右側の、それぞれ3つずつのドット25は、調整する圧電変形領域8に印加する駆動電圧パルスのパルス幅を変化させながら用紙24の表面に形成されたものである。これらのドット25と、先に説明した基準のドット25′との、用紙24の搬送方向のずれD1を測定する(図中、一点鎖線の直線が、基準位置である)。その際、例えば、ドット25、25′を形成した用紙24をスキャナで読み込む等してデータ化し、画像処理して、ずれD1を数値化してもよい。
測定したずれD1から、調整する圧電変形領域8に対応するノズル3から吐出されるインク滴の吐出速度を求めることができる。すなわち、調整する圧電変形領域8に対応するノズル3から吐出されて、ドット25を形成したインク滴の吐出速度V1(m/s)は、前記ずれD1(μm)と、計測用の圧電変形領域8に対応するノズル3から吐出されて、ドット25′を形成したインク滴の吐出速度V0(m/s)と、ノズル3の先端から用紙24の表面までの距離H1(mm)と、用紙24の搬送速度S1(mm/s)とから、下記式(1)によって求めることができる。
前記式(1)によって求めたインク滴の吐出速度V1と、駆動電圧パルスのパルス幅との関係をプロットすると、図5に実線で示すような曲線が得られ、この曲線から、インク滴の吐出速度V1が最大となるパルス幅の最適値T2-1を導き出すことができる。
そこで、導き出した最適値T2-1を、PCにインプットすると、そのデータが、I/Oポート23を通して、制御手段14に入力される。データが入力された制御手段14は、該当する圧電変形領域8に印加する駆動電圧パルスのパルス幅を、前記最適値T2-1に調整して、以後は、この最適値で、圧電変形領域8を駆動する。
そこで、導き出した最適値T2-1を、PCにインプットすると、そのデータが、I/Oポート23を通して、制御手段14に入力される。データが入力された制御手段14は、該当する圧電変形領域8に印加する駆動電圧パルスのパルス幅を、前記最適値T2-1に調整して、以後は、この最適値で、圧電変形領域8を駆動する。
以上、一連の操作は、圧電インクジェットヘッド1の使用初期に、そのときの最適なパルス幅の初期値T2-0(図中のA点、一点鎖線の曲線の頂点)で駆動させていた圧電変形領域8が、駆動を繰り返すことで、圧電セラミック層6の劣化や、対応するノズル3が開口された表面の撥水膜の撥水性能の劣化等によって、同じパルス幅T2-0では、前記ノズル3から吐出されるインク滴の吐出速度V1がB点(A点から垂下させた破線と、実線の曲線との交点)まで低下したのを、駆動電圧のパルス幅を新たな最適値T2-1に調整することで、図中のC点(実線の曲線の頂点)まで回復させたことに相当する。
そのため、前記調整を、個々の圧電変形領域8ごとに実施することによって、圧電インクジェットヘッドの、個々のノズルからの、インク滴の吐出状態のばらつきをなくして、各ノズルからのインク滴の吐出状態を均一に保つことが可能となる。なお、前記調整は、圧電インクジェットヘッドの製造時に実施してもよい。その際には、加工精度等によるばらつきを、より簡便に調整して、前記ばらつきをなくして、各ノズルからのインク滴の吐出状態を、初期の状態から、均一に保つことができる。
なお、調整は、1つずつの圧電変形領域8ごとに、個別に行ってもよいが、圧電インクジェットヘッド1は、多数の圧電変形領域8を有することから、操作が煩雑になるおそれがある。そのため、例えば、前記グループ単位の、あるいはグループ内の列単位の、圧電変形領域8について、一度に、まとめて調整を行うのが好ましい。
また、インク滴の吐出速度と、前記インク滴の大きさ、すなわち、インク滴によって形成されるドットの面積もしくはトッドの径との間には相関関係があるので、あらかじめ、インク滴の吐出速度と、ドットの面積または径との関係を登録しておき、基準となるドット25′の面積または径と、調整対象の圧電変形領域8を駆動させて形成されたドット25の面積または径とを、先に説明した画像処理等を行うことで数値化して比較して、インク滴の吐出速度を求め、その結果を元にして、駆動電圧のパルス幅の調整を行うようにしてもよい。また、ドットの面積または径と、先に説明したずれとを、共に計測して、その結果を元に、駆動電圧のパルス幅の調整を行うようにすると、より精度よく、パルス幅を最適に調整することができるため、各ノズル3からの、インク滴の吐出状態を、より正確に、均一に保つことができる。
また、インク滴の吐出速度と、前記インク滴の大きさ、すなわち、インク滴によって形成されるドットの面積もしくはトッドの径との間には相関関係があるので、あらかじめ、インク滴の吐出速度と、ドットの面積または径との関係を登録しておき、基準となるドット25′の面積または径と、調整対象の圧電変形領域8を駆動させて形成されたドット25の面積または径とを、先に説明した画像処理等を行うことで数値化して比較して、インク滴の吐出速度を求め、その結果を元にして、駆動電圧のパルス幅の調整を行うようにしてもよい。また、ドットの面積または径と、先に説明したずれとを、共に計測して、その結果を元に、駆動電圧のパルス幅の調整を行うようにすると、より精度よく、パルス幅を最適に調整することができるため、各ノズル3からの、インク滴の吐出状態を、より正確に、均一に保つことができる。
なお、圧電インクジェットヘッド1上のほぼ全てのノズル3からの、インク滴の吐出速度が変化している場合に限っては、図5中のA点と同じインク滴の吐出速度V1に回復させるために、駆動電圧VPを調整してもよい。
1 圧電インクジェットヘッド
2 加圧室
3 ノズル
4 液滴吐出部
5 基板
6 圧電セラミック層
7 圧電アクチュエータ
8 圧電変形領域
9 拘束領域
10 個別電極
11 共通電極
12 振動板
13 駆動回路
14 制御手段
15 活性領域
16 非活性領域
17 搬送手段
18 ブロック
19 画像形成制御部
20 カウンタ
21 調整部
22 ドライバ
23 I/Oポート
24 用紙
25 ドット
S1 搬送速度
T1 固有振動周期
T2 パルス幅
T2-0 初期値
T2-1 最適値
V0 吐出速度
V1 吐出速度
VP 駆動電圧
2 加圧室
3 ノズル
4 液滴吐出部
5 基板
6 圧電セラミック層
7 圧電アクチュエータ
8 圧電変形領域
9 拘束領域
10 個別電極
11 共通電極
12 振動板
13 駆動回路
14 制御手段
15 活性領域
16 非活性領域
17 搬送手段
18 ブロック
19 画像形成制御部
20 カウンタ
21 調整部
22 ドライバ
23 I/Oポート
24 用紙
25 ドット
S1 搬送速度
T1 固有振動周期
T2 パルス幅
T2-0 初期値
T2-1 最適値
V0 吐出速度
V1 吐出速度
VP 駆動電圧
Claims (3)
- (A) インクが充てんされる加圧室と、前記加圧室に連通し、加圧室内のインクを、インク滴として吐出させて、用紙の表面にドットを形成するためのノズルとを有する液滴吐出部を、前記用紙の印刷領域の、幅方向の寸法以上の範囲に亘って、複数個、配列させて形成した基板と、
(B) 前記基板の、個々の加圧室に対応して配設され、個別に、駆動電圧パルスが印加されることによって、個別に変形して、任意の加圧室の容積を増減させることで、前記加圧室に連通したノズルから、インク滴を吐出させるための、複数の圧電変形領域を有し、前記基板に積層された圧電アクチュエータと、
を備え、用紙に対して、幅方向に固定された状態で使用される圧電インクジェットヘッドの、任意の圧電変形領域に、パルス幅を連続的に変化させながら、駆動電圧パルスを印加することで、対応する液滴吐出部のノズルから、連続的に、インク滴を吐出させて、一定速度で搬送中の用紙の表面にドットを形成させた後、前記表面上の、ドットの形成位置を計測した結果から、インク滴の吐出速度が最速となる、駆動電圧パルスのパルス幅の最適値を求め、対応する圧電変形領域に印加する駆動電圧パルスのパルス幅を、個別に、前記最適値に調整することを特徴とする圧電インクジェットヘッドの調整方法。 - 圧電インクジェットヘッドの、個々の圧電変形領域に、駆動電圧パルスが印加された回数を計数して、前記回数が所定値になった時点以降の、任意の時点で、前記調整方法を実施する請求項1記載の圧電インクジェットヘッドの調整方法。
- (A) インクが充てんされる加圧室と、前記加圧室に連通し、加圧室内のインクを、インク滴として吐出させて、用紙の表面にドットを形成するためのノズルとを有する液滴吐出部を、前記用紙の印刷領域の、幅方向の寸法以上の範囲に亘って、複数個、配列させて形成した基板と、
(B) 前記基板の、個々の加圧室に対応して配設され、個別に、駆動電圧パルスが印加されることによって、個別に変形して、任意の加圧室の容積を増減させることで、前記加圧室に連通したノズルから、インク滴を吐出させるための、複数の圧電変形領域を有し、前記基板に積層された圧電アクチュエータと、
を備え、用紙に対して、幅方向に固定された状態で使用される圧電インクジェットヘッドと、
(C) 前記圧電アクチュエータの複数の圧電変形領域に、個別に、駆動電圧パルスを印加して駆動させる制御手段と、
(D) 前記用紙を、前記幅方向と交差する搬送方向に、一定速度で搬送する搬送手段と、
を備えると共に、制御手段は、圧電アクチュエータの、個々の圧電変形領域に駆動電圧パルスを印加した回数を計数するカウンタと、前記カウンタによって計数した回数が、所定値になった時点以降の、任意の時点で、請求項1または2記載の調整方法を実施する調整部とを含むことを特徴とするインクジェットプリンタ。
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2006
- 2006-01-31 JP JP2006023766A patent/JP2007203549A/ja active Pending
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