以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1には、本発明の第一の実施形態としての制振装置10が示されている。この制振装置10は、制振対象である図示しない振動部材に固定的に装着される。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、図1中の上下方向を言うものとする。また、本実施形態において、図1中の上下方向は、制振装置10の振動部材への装着状態下における鉛直方向とされている。
より詳細には、制振装置10は、ハウジング12を有している。ハウジング12は、金属等の十分な剛性と強度を有する材料で形成されている。特に本実施形態では、成形作業性や製造コスト等を考慮して、例えば、アルミニウム合金等のダイキャストや押出成形された鉄等の金属材等で形成されている。また、ハウジング12は、略矩形ブロック形状とされていると共に、鉛直下向き(図1中、下向き)に開口する凹所14を有しており、全体として、側壁部16a〜dと上底壁部17を有する略矩形箱体形状とされている。なお、本実施形態においては、ハウジング12の内周面が側壁面18a〜dで構成されている。
また、ハウジング12における側壁部16aの下部と側壁部16cの下部の各内壁面が、それぞれ垂直に広がる竪壁面20a,20cとされていると共に、側壁部16bと側壁部16dの内壁面がそれぞれ全面に亘って垂直に広がる竪壁面20b,20dとされている。一方、ハウジング12における側壁部16a,16cの上部の内壁面が、それぞれ四半円状の円弧状湾曲断面を呈して、後述するマス部材28の軸方向と略平行な水平方向で所定の長さで延びるように形成された湾曲壁面22a,22cとされている。要するに、ハウジング12に形成される凹所14は、垂直に広がる竪壁面20a,20cとそれら竪壁面20a,20cにそれぞれ接続される湾曲壁面22aと湾曲壁面22cを有している一方、竪壁面20a,20cと直角に交わるように垂直に広がる竪壁面20b,20dを有しており、凹所14の内壁面がそれら竪壁面20a〜dと湾曲壁面22a,22cの協働によって形成されている。これにより、凹所14は、開口側(図1中、下側)から上方に向かって深さ方向に向かって略一定の長方形断面で延びるように形成されると共に、上底壁面が湾曲面で構成された、全体として略蒲鉾状の凹所とされている。なお、本実施形態において、ハウジング12の上底壁部17は、側壁部16a,16cの上部を利用して形成されており、ハウジング12の内周面のうちの側壁面18aが竪壁面20aと湾曲壁面22aで構成されていると共に、側壁面18cが竪壁面20cと湾曲壁面22cで構成されている一方、側壁面18b,18dがそれぞれ竪壁面20b,20dで構成されている。
また、凹所14の開口を覆うようにばね部材24が配設されている。ばね部材24は、略水平面上で広がる矩形平板形状を有しており、本実施形態では、金属製の板ばねとされている。このようなばね部材24は、その外周縁部の一辺がハウジング12を構成する側壁部16aの下端面に重ね合わされてボルト固定されることにより、ハウジング12に対して片持ち状態で固定されている。これによりハウジング12に形成された凹所14の開口部がばね部材24で覆われており、ハウジング12とばね部材24の協働により、それらハウジング12とばね部材24の対向面間において、凹所14を利用してマス収容空所としての収容領域26が形成されている。
なお、ばね部材24のハウジング12への取付状態下において、ばね部材24の外周縁部でハウジング12に固定されていない部分は、それぞれ、ハウジング12から水平方向で僅かに離隔せしめられている。これにより、ばね部材24の自由端側において、上下方向への変位が許容されている。また、特に本実施形態では、ハウジング12の側壁部16aの下端面が、他の側壁部16b〜dの下端面に比して僅かに下方に位置せしめられており、ばね部材24が側壁部16b〜dよりも鉛直方向で下方に離隔して配設されている。
そして、このようにして形成されたハウジング12の収容領域26に対して、本実施形態では、1個のマス部材28が収容配置されている。このマス部材28は、全体として略一定の円形断面を有する円柱形状とされており、独立マス部材としてのマス金具30と、マス金具30の表面に被着形成される介在ゴム層としての被覆ゴム層32とを有している。
マス金具30は、鉄等の高比重な金属材によって形成されており、本実施形態では、略一定の円形断面で延びる中実円柱形状とされている。なお、マス部材28は、その質量が、制振装置10が装着される振動部材の質量の1%以上とされることが望ましく、より好適には、振動部材の質量の3〜5%とされる。蓋し、マス部材28の質量が振動部材の質量に対して小さ過ぎると有効な制振効果を得ることが難しい場合があり、一方、マス部材28の質量が振動部材の質量に対して大き過ぎると、制振装置10全体の重量化が問題となるおそれがあるからである。
一方、被覆ゴム層32は、薄肉のゴム弾性体で形成されており、本実施形態では、マス金具30の外周面(表面)の全体に亘って略一定の肉厚寸法で形成されて、マス金具30の表面を覆っている。なお、被覆ゴム層32としては、好ましくは、30以上且つ80以下のショアD硬さを有するものが、好適に採用される。
そして、マス部材28は、水平方向に延びるように収容領域26に収容配置されていると共に、ハウジング12及びばね部材24に対して非接着とされており、収容領域26の壁面を構成するそれらハウジング12及びばね部材24に対して、独立的に相対変位可能とされている。更に、収容領域26は、その湾曲壁面22a,22cがマス部材28よりも大きい曲率半径を有する湾曲面で構成されている。それ故、収容領域26がマス部材28よりも大きくされており、収容領域26内でマス部材28の独立変位が許容されている。なお、本実施形態における収容領域26は、一定の断面形状で、マス部材28の中心軸と略平行となる水平方向一方向に延びるように形成されている。
さらに、マス部材28をばね部材24の上面に載置することにより、ハウジング12に対して片持ち状態で固定されているばね部材24が、マス部材28の重量によって弾性的に湾曲変形せしめられる。これにより、ばね部材24の自由端(図1中、左端)が下方に変位せしめられて、ばね部材24が水平面に対して傾斜せしめられており、マス部材28が、重力の作用によってばね部材24の自由端側(図1中、左側)に偏倚して位置せしめられる。従って、静置状態下において、マス部材28は、ハウジング12に形成された凹所14の開口部を覆うばね部材24と、ばね部材24の自由端側に位置するハウジング12の側壁面18cに対して、それぞれ接触させられていると共に、他の側壁面18a,b,d及び湾曲壁面22a,22cから所定距離だけ離隔せしめられている。これにより、静置状態下において、マス部材28は、湾曲壁面22cに対して、鉛直下方に位置せしめられている。なお、マス部材28と側壁面18a,b,d及び湾曲壁面22a,cとの離隔距離は、制振対象振動の振幅等に応じて適宜に設定されることが望ましく、それによって、より有利に後述する制振効果を発現せしめることが出来る。
また、マス部材28の質量がばね部材24に作用せしめられて、ばね部材24が湾曲変形せしめられることにより、静置状態下においてばね部材24に反発力が生ぜしめられる。この反発力は、ばね部材24がハウジング12に対して片持状に固定されていることから、鉛直上向きに対して側壁部16c側に傾斜する方向に作用する。そして、このばね部材24の反発力がマス部材28に作用せしめられることにより、マス部材28とハウジング12の間で摩擦力が作用せしめられている。なお、本実施形態において、ばね部材24の反発方向とは、静置状態下でマス部材28に作用せしめられるばね部材24の反発力の方向を言うものとする。
そして、本実施形態では、ハウジング12の内周面において側壁面18cの上部を構成する湾曲壁面22cが、かかるばね部材24の反発方向に対して傾斜せしめられている。これにより、本実施形態における傾斜当接面が、側壁面18cにおける湾曲壁面22cによって、共通接線を有して連続的に湾曲する湾曲面として構成されている。
このような構造とされた制振装置10は、ハウジング12が、例えば、自動車におけるステアリングコラム等、図示しない振動部材に対してボルト固定等されることにより固定的に装着されて、振動部材と一体的にハウジング12が加振変位せしめられるようにされる。
ここにおいて、本実施形態に従う構造とされた制振装置10を振動部材に対して装着することにより、広い周波数領域で制振効果を有利に発揮することが可能とされている。このような制振効果を示す一例として、図3〜図8には、振動部材に制振装置10を装着した場合における振動の実測例が示されている。なお、図3〜図8においては、破線で示されたグラフが、制振装置10を制振対象たる振動部材に装着していない状態での振動を計測した結果を示していると共に、実線で示されたグラフが、制振装置10を振動部材に装着した状態での振動を計測した結果を示している。かかる実測例において得られた実測結果によれば、振動部材に対して制振装置10を装着することにより、30Hz〜60Hzの広い周波数域の振動に対して、優れた制振効果が発揮されていることが明らかである。
このような広い周波数域での優れた制振効果が発揮される理由としては、複数の制振要因が複合的に作用せしめられていることが考えられる。具体的には、例えば、ハウジング12とマス部材28の摩擦によるエネルギ損失に基づく制振作用や、ばね部材24を含んで構成される副振動系による制振作用(ダイナミックダンパ的な作用等)、更には、マス部材28とハウジング12或いはばね部材24との当接(打当り)に基づく制振作用(インパクトダンパ的な作用等)等が複合的に作用することにより、上述のような広い乃至は複数の周波数域での制振効果が発揮されているものと考えられる。
すなわち、制振装置10が振動部材に装着された状態下で、振動部材において振動が生じると、収容領域26内でマス部材28がハウジング12に対して相対変位せしめられる。例えば、制振装置10に対して、防振すべき主たる振動が図1中の上下方向である鉛直方向で入力されると、マス部材28がハウジング12に対して鉛直上下方向で相対変位せしめられる。また、マス部材28のハウジング12に対する相対変位に応じて、ばね部材24が弾性変形せしめられる。これにより、振動部材にばね部材24を介してマス部材28が弾性支持された状態でマス部材28が振動部材に対して相対変位せしめられることとなり、ばね部材24とマス部材28を含んで振動部材に対する第一の副振動系が構成される。そして、第一の副振動系の共振作用等に基づいて、有効な制振効果が発揮されると考えられる。
さらに、ばね部材24とマス部材28が非接着とされており、独立して相対変位可能とされていることにより、ばね部材24とマス部材28の接触状態が変化せしめられる。即ち、例えば、ばね部材24の自由端(図1中、左端)が鉛直上向きに変位せしめられる場合には、ばね部材24とマス部材28が接触した状態で一体的に変位せしめられて、第一の副振動系が構成される一方、ばね部材24の自由端が上死点(変位の上限)に達して下向きに振動すると、ばね部材24とマス部材28が相互に離隔せしめられて、それぞれ独立して変位せしめられる。これにより、第一の副振動系に比して、マス−バネ系におけるマスの質量が小さい第二の副振動系が、ばね部材24を含んで構成される。かかる第二の副振動系は、マス質量の変化によって第一の副振動系に比して、固有振動数が高周波数とされることから、第一の副振動系の固有振動数よりも高周波数域の振動に対して有効な制振効果が発揮されているものと考えられる。即ち、制振装置10は、第一の副振動系の固有振動数から第二の副振動系の固有振動数に及ぶ幅広い周波数帯域に亘って有効な制振性能を有するのである。
一方、ばね部材24から離隔して変位せしめられるマス部材28は、ハウジング12の内周面に対して打ち当てられる。これにより、マス部材28とハウジング12との当接作用による制振効果が発揮される。特に本実施形態では、傾斜当接面を構成する湾曲壁面22cに対してマス部材28が当接するようになっていることから、上方に向かってマス部材28がハウジング12に複数箇所で当接(打当り)するようになっている。
更にまた、ハウジング12の側壁面18cの上部が湾曲壁面22cで構成されており、ばね部材24の反発力が作用する方向に対して傾斜せしめられた傾斜当接面とされている。これにより、マス部材28がハウジング12に対して鉛直上方に相対変位せしめられると、マス部材28がハウジング12の湾曲壁面22cに当接せしめられるようになっている。ここにおいて、マス部材28が当接せしめられる面がマス部材28の当接方向に対して傾斜していることにより、マス部材28とハウジング12(湾曲壁面22c)の間で滑り摩擦乃至は転がり摩擦が生じると共に、マス部材28を構成する被覆ゴム層32にずれ方向(剪断方向)への、当接状態を保ったままでの弾性変形が生じる。従って、それらの摩擦や変形により、入力される振動エネルギが損失せしめられることとなって、制振効果が発揮されると考えられる。
特に本実施形態では、ばね部材24を片持ち状態でハウジング12に固定して、ばね部材24の自由端が傾斜当接面を有する側壁面18c側(図1中、左側)に位置するようにされている。そして、かかるばね部材24に対してマス部材28を載置することにより、重力を利用してマス部材28をばね部材24の自由端側(図1中、左側)に偏倚位置せしめている。それ故、振動入力時にマス部材28がハウジング12に対して鉛直上方へ相対変位せしめられると、マス部材28が、ハウジング12の湾曲壁面22cに対して、安定して当接せしめられるようになっている。従って、マス部材28とハウジング12の当接による振動エネルギの減衰効果等を有利に得ることが出来て、制振効果をより効果的に発揮することが出来る。なお、本実施形態では、静置状態下においても、重力を利用した位置決め手段とばね部材24の反発力によって、マス部材28がハウジング12の側壁面18cに当接せしめられるようになっており、微小な振幅の振動が入力された場合にも、マス部材28とハウジング12の間での摩擦等による制振効果が発揮されるようになっている。
さらに、マス部材28は、ばね部材24から独立して変位することから、落下中にばね部材24に当接(打ち当たり)せしめられることとなる。かかるマス部材28のばね部材24への当接作用に基づいて、振動部材に対しての制振効果が有効に発揮される。特に本実施形態では、ばね部材24として金属製の板ばねを採用していることから、微小振動の入力時にも、ばね部材24とマス部材28の離隔変位が生じ得て、当接作用に基づく制振効果を有効に得ることが出来ると考えられる。また、マス部材28がばね部材24から離隔し、飛び跳ね変位せしめられて、凹所14の内壁面(竪壁面20a〜dや湾曲壁面22a,22c)に複数箇所で当接することによっても、相殺的な制振効果が発揮されると考えられる。
そして、以上の如き制振効果(制振作用)が複合的に或いは選択的に作用せしめられることによって、本実施形態における制振装置10を振動部材に装着することにより、広い周波数領域に亘って制振効果が効果的に発揮されると共に、微小振幅の振動入力時にも有効な制振効果が発揮されるものと考えられる。また、本実施形態において、上述の如き副振動系を構築することによる制振効果やマス部材28の当接による制振効果、更には、マス部材28とハウジング12の間での摩擦減衰による制振効果等は、それぞれが複数の異なる条件下で発現するようにされている。即ち、相互に異なるマス−バネ系を有する複数の副振動系における共振等による制振効果や、作用力の大きさや作用方向が異なる複数回の打当りによる制振効果、更には、マス部材28とハウジング12との摩擦による減衰と被覆ゴム層32の剪断方向での弾性変形による減衰に基づく制振効果は、それぞれが、離散的に或いは連続的に変化する異なる複数条件下で発現せしめられることとなり、制振装置10で発揮される制振効果が複数の乃至は広い周波数域に及ぶものと考えられる。
さらに、本実施形態では、静置状態下において、マス部材28が、ハウジング12に形成された凹所14の竪壁面20cと湾曲壁面22cの境界において線接触せしめられている。これにより、微小振幅振動の入力時にも、マス部材28が直ちに側壁面18cに形成された湾曲壁面22cに当接せしめられる。従って、特に微小振幅振動の入力時にも、ハウジング12とマス部材28の間での当接が安定して生ぜしめられて、かかる当接(摩擦)に基づく制振効果を有効に発揮せしめることが出来る。
また、本実施形態では、湾曲壁面22cが滑らかな湾曲面で構成されていると共に、竪壁面20aと湾曲壁面22aと湾曲壁面22cと竪壁面20cが滑らかな面で連続的に形成されている。これにより、ハウジング12とマス部材28との離隔距離を調節することによって、例えば、マス部材28が上向きに変位する場合にマス部材28と湾曲壁面22cの間での摩擦や当接、更には被覆ゴム層32の弾性変形が生じると共に、マス部材28が下向きに変位する場合にも、マス部材28と竪壁面20aや湾曲壁面22aとの間で摩擦や当接、更には被覆ゴム層32の弾性変形が生じるようにすることが可能である。これによれば、ハウジング12の内周面とマス部材28との当接による制振効果をより有利に得ることが出来る。特に、本実施形態では、湾曲壁面22a,22cが、全体として半円形断面を有する湾曲面とされており、竪壁面20a,20cと滑らかに接続されている。それ故、マス部材28の変位振幅に応じてハウジング12とマス部材28の離隔距離や湾曲壁面22a,22cの曲率等を適当に調節することで、マス部材28を収容領域26の壁面に沿って回転変位せしめて、収容領域26の内壁面(ハウジング12の内周面)とマス部材28の接触をより広い範囲で有利に得ることも可能である。なお、傾斜当接面が傾斜した平面で構成されている場合にも、入力振動の振幅に応じて傾斜当接面の傾斜角度やハウジング12とマス部材28の離隔距離等を適当に調節することにより、マス部材28のハウジング12に対する上下両方向への相対変位時における摩擦や当接等を有利に確保することが出来る。
さらに、本実施形態では、マス部材28の表面が全面に亘って被覆ゴム層32で覆われていることから、ハウジング12とマス部材28の間での摩擦抵抗が大きくなっており、上述の如き摩擦によるエネルギ損失を増大させて、制振効果がより有利に発揮されるようになっている。また、マス部材28の表面に被覆ゴム層32が被着形成されていることにより、マス部材28がハウジング12やばね部材24に打ち当てられることによって生じる打音が、低減乃至は回避される。
また、上述の如く、本実施形態に係る制振装置10では、マス部材28の飛び跳ね変位によるハウジング12やばね部材24、延いては振動部材に対する打当りによる当接作用だけでなく、ハウジング12とマス部材28の摩擦等によっても制振効果が発揮されていると考えられる。それ故、ハウジング12とマス部材28の離隔距離を高精度に設定することなく、安定して有効な制振効果が発揮される。これにより、ハウジング12の内表面とマス部材28の外表面の少なくとも一方に形成される介在ゴム層(被覆ゴム層32)の成形収縮等によって、ハウジング12とマス部材28の離隔距離を高精度に設定することが困難な場合にも、所期の制振効果を得ることが可能となる。
なお、上述の如き複数の制振効果を有利に得るために、ばね部材24の反発方向に対する傾斜当接面の傾斜角度:αが、5度≦|α|≦85度とされることが望ましい。また、傾斜角度:αは、より好適には、10度≦|α|≦80度とされ、更に好適には、15度≦|α|≦60度とされる。蓋し、ばね部材24の反発方向に対する傾斜当接面の傾斜角度:αの絶対値が大き過ぎると、ハウジング12に対するマス部材28の滑る(ずれる)ような当接を実現することが出来ず、ハウジング12とマス部材28の摩擦や被覆ゴム層32の弾性変形による制振効果を十分に得ることが難しいと共に、マス部材28のハウジングに対する複数箇所での打ち当たりを実現できないおそれもある。一方、傾斜角度:αの絶対値が小さ過ぎると、ハウジング12に対してマス部材28が十分に打ち当てられないおそれがあり、ハウジング12に対するマス部材28の当接作用や摩擦によるエネルギ損失に基づく制振効果等が有効に発揮されないおそれがある。また、傾斜当接面が本実施形態に示されているような湾曲面で構成されている場合においては、傾斜角度:αは、かかる湾曲面に対する接線の水平面に対する傾斜角度の平均によって設定されることが望ましい。
また、図9には、本発明の第二の実施形態としての制振装置34が示されている。なお、以下の説明において、前記第一の実施形態と実質的に同一の部材乃至部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
すなわち、本実施形態に係る制振装置34においては、ばね部材36が、薄肉のゴム弾性体で構成されている。このばね部材36は、薄肉の略矩形平板形状とされており、ハウジング38の下端面に重ね合わされて、側壁部40a〜dの各下端面に加硫接着や後接着等の手段で固着されている。なお、本実施形態におけるばね部材36は、全周に亘ってハウジング38に固着されており、もって、収容領域26が外部から隔離された密閉空間として形成されている。
また、本実施形態では、側壁部40aの下端面が側壁部40cの下端面よりも鉛直下方に位置せしめられていると共に、側壁部40a〜dの各下端面が同一の傾斜平面上に位置せしめられている。これにより、側壁部40a〜dの下端面に接着されるばね部材36が水平面に対して傾斜して配設されており、ばね部材36の上面に載置されるマス部材28には、重力によって水平方向一方向(図9中、左)に向かって付勢力が作用せしめられるようになっている。従って、マス部材28は、かかる付勢力の作用方向に偏倚して位置せしめられるようになっており、静置状態下においてマス部材28がハウジング38の側壁部40cの内周面である側壁面18cに対して当接せしめられている。
このような本実施形態に従う構造とされた制振装置34においても、前記第一の実施形態において示されているのと同様に、広い周波数領域に亘って有利に制振効果が発揮されると共に、微小振幅振動に対しても有効な制振効果が得られる。
以上、本発明の幾つかの実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
例えば、前記第一及び第二の実施形態では、マス部材に介在ゴム層(被覆ゴム層32)が形成されている例を示したが、介在ゴム層は、独立マス部材(マス金具)の外周面とハウジングの内周面の少なくとも何れか一方に設けられていれば良い。即ち、例えば、図10に示されている制振装置42のように、マス部材44を金属製の中実円柱体(マス金具30)で形成すると共に、ハウジング12の内周面に介在ゴム層としての被覆ゴム層46を設けても良い。なお、制振装置42においては、凹所14が被覆ゴム層46の内周側に形成されており、凹所14を構成する竪壁面20a〜d及び湾曲壁面22a,22cが被覆ゴム層46の内周面で構成されている。また、マス部材28の表面に被覆ゴム層32を形成し、且つ、ハウジング12の内周面にも被覆ゴム層46を形成して良いことは言うまでもない。
また、前記第一及び第二の実施形態では、ハウジングの内周面のうちの側壁面の一部を湾曲壁面で構成することにより、ハウジングの側壁面の上部をばね部材の反発方向に対して傾斜した傾斜当接面としている。しかしながら、傾斜当接面としては、側壁部の内側面における少なくとも一部が、ばね部材の反発方向に対して傾斜していれば良く、必ずしも前記実施形態で示したような湾曲形状とされている必要はない。具体的には、例えば、図11に示されているように平面で形成された当接傾斜面を有する制振装置48も採用され得る。即ち、制振装置48は、ハウジング50を含んで構成されており、かかるハウジング50は、全体として略矩形状であって、下方に向かって開口する凹所52が形成されている。凹所52は略矩形状の凹所とされており、もって、ハウジング50がそれぞれ略平面とされて、略垂直方向に広がる側壁部54a〜dと略水平方向に広がる上底壁部56を有する矩形箱体形状とされている。また、側壁部54a〜dの内周面である側壁面58a〜dにおいて、側壁面58cの上部にばね部材24の反発方向に対して傾斜する傾斜平面で構成された傾斜当接面としての当接平面59が形成されている。このような制振装置48によれば、マス部材28の当接平面59に対する打当りをより有利に生ぜしめることが出来る。それ故、前記第一及び第二の実施形態において示されている制振効果に加えて、マス部材28とハウジング50(当接平面59)の当接作用に基づく制振効果をより効果的に得ることが出来る。
さらに、側壁部の内側面においてばね部材の反発方向に対して傾斜した部分(傾斜当接面)は、必ずしも側壁部の内側面の上側部分にのみ設けられている必要はない。即ち、図12に示されている制振装置60のように、ハウジング62の側壁部64a〜dにおいて、ハウジング62に形成される凹所66を構成する側壁部64cの内側面が、全面に亘って単一の傾斜平面で構成された傾斜当接面としての当接平面68とされていても良い。これによれば、マス部材28と当接平面68の当接状態をより有利に実現することが出来て、マス部材28とハウジング62の間での摩擦に起因する制振効果を安定して得ることが出来る。また、特に微小振幅振動の入力時における制振効果を有利に発揮することが可能となり得る。なお、ハウジングにおいて、独立マス部材が重力の作用によって当接せしめられる側壁部の内側面が、全面に亘って滑らかな湾曲面で構成されることによっても、上述の制振装置60と同様の効果を得ることが出来る。また、ハウジングに形成される凹所の内壁面全体が、単一の湾曲面で構成されていても良い。
また、ばね部材としては、前記第一の実施形態において金属製の板ばねを採用する例を示すと共に、前記第二の実施形態においてゴム弾性体を採用する例を示した。しかしながら、ばね部材は、前記第一,第二の実施形態における記載によって何等限定されるものではなく、例えば、合成樹脂材料で形成された板ばね等を採用することも可能である。
また、独立マス部材は、ハウジングとの接触によるエネルギ損失を有効に生ぜしめる等の観点から、円柱形状(円形断面を有するロッド状)とされていることが望ましいが、球状や楕円形断面を有する柱状等、円形断面を有する他の形状とされた独立マス部材を採用しても良い。また、円形断面や楕円形断面等の断面形状で所定長さに亘って延びるように形成されている場合(円形ロッド状等)には、必ずしも一定の断面形状で延びるように形成されている必要はなく、軸方向で断面形状が変化せしめられていても良い。例えば、円形断面で延びるロッド形状を有する独立マス部材において、断面の直径を軸方向で変化させることにより、独立マス部材とハウジングやばね部材との当接面積を調節して、打音の発生を低減すること等も可能である。なお、上述の如き他形状の独立マス部材を採用する場合には、ハウジングの内周面形状、即ち、マス収容空所の形状を独立マス部材の形状に応じて適宜に変更することが望ましい。
また、ハウジングは、必ずしも、振動部材と別体で形成されている必要はなく、振動部材に一体形成されていても良い。更に、ハウジングの外形形状も前記第一及び第二の実施形態に記載の具体的な形状によって何等限定されるものではない。
また、ハウジングに形成される凹所の形状もまた、前記第一及び第二の実施形態に記載された具体的形状によって何等限定されるものではない。具体的には、例えば、楕円断面で延びる上底壁面を有する凹所や球殻形状の内壁面を有する凹所等も採用可能である。なお、凹所の断面形状は、必ずしも一定である必要はなく、断面形状を変化させながら所定長さで延びるように形成されていても良い。
また、一つのハウジングに対して一つの凹所のみが形成されている必要はない。具体的には、例えば、一つのハウジングに対して二つ以上の複数の凹所が形成されて、それら複数の凹所の各開口部をそれぞれ覆うように各別にばね部材が片持状態で配設されると共に、複数の凹所で形成される複数の収容領域にそれぞれ一個ずつの独立マス部材が収容状態で配設されるようにしても良い。また、各凹所毎に、凹所の形状や、収容される独立マス部材の質量や形状、或いは、ばね部材のばね定数等を異ならせることによって、より有利に広い周波数域での制振効果の発揮を図ることも可能である。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
10 制振装置、12 ハウジング、14 凹所、16 側壁部、18 側壁面、22 湾曲壁面、24 ばね部材、26 収容領域、28 マス部材、30 マス金具、32 被覆ゴム層