JP2007189536A - 音響エコーキャンセラ装置、音響エコーキャンセル方法及び通話装置 - Google Patents

音響エコーキャンセラ装置、音響エコーキャンセル方法及び通話装置 Download PDF

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Abstract

【課題】携帯端末のスピーカやエコー経路の非線形特性により生じる残留エコーを少ない演算量で抑圧可能とし、携帯端末等の通話装置にも容易に適用可能にする。
【解決手段】 音響エコーキャンセラ10は、スピーカ2に出力する受話信号を基に擬似エコー信号を生成する適応フィルタ3と、マイクロホン1から入力される送話信号から擬似エコー信号を減算してエコー成分を抑圧する加算部4と、送話信号及び擬似エコー信号を基に残留エコー成分を抑圧する残留エコー抑圧部5とを備える。残留エコー抑圧部5は、送話信号と擬似エコー信号のスペクトルの振幅及び位相を比較し、振幅制約条件及び位相制約条件を満たす場合は抑圧度合いが大きくなるように、残留エコー抑圧係数を算出することで、送話信号に含まれるエコー成分と近似する残留エコー成分を抑圧する一方、送話者音声成分や周囲の雑音情報の信号成分などを抑圧しないようにする。
【選択図】図1

Description

本発明は、ハンズフリー通話装置等で用いられ、エコー成分を抑圧するための音響エコーキャンセラ装置及び音響エコーキャンセル方法、並びにこの音響エコーキャンセラ装置を備える通話装置に関する。
両手が自由な状態(ハンズフリー)で通話が可能な携帯電話端末などのハンズフリー通話装置などでは、使用時の不要なエコー成分を除去するために、音響エコーキャンセラ装置が用いられる。このような音響エコーキャンセラ装置は、通話品質の改善にとって重要である。音響エコーキャンセラ装置では、線形適応フィルタを用いてエコー成分をキャンセルするものが一般的である。
しかし、音響エコー経路やスピーカ特性に非線形の要因が存在するときには、線形適応フィルタでは対応し切れず、音響エコー抑圧性能が劣化することが知られている。特に、携帯電話端末等の携帯端末に用いられるスピーカは小型で安価なものが多く、非線形な特性が強くなるため、線形適応フィルタではエコー成分を完全に抑圧することができず、相当量の残留エコーが残ってしまうという問題点があった。
この問題点に対処するために、従来から、音声スイッチを送話信号経路及び受話信号経路に入れることによって、残留エコーを抑圧する方法が知られている。例えば、特許文献1には、音響エコーキャンセラと音声スイッチとを組合わせる構成が開示されている。この音声スイッチは、送話信号パワーと受話信号パワーとを比較し、受話信号パワーが送話信号パワーより大きい場合に、送話信号を遮断あるいは減衰させるものである。
また、非線形エコーを抑圧する方法としては、例えば、特許文献2に開示された音声処理装置のように、Volterraフィルタと呼ばれる非線形適応フィルタを適用し、更にVolterraフィルタの演算量を軽減するためにサブバンドフィルタを用いるものが提案されている。
しかしながら、このような従来の音響エコーキャンセラ装置には、次のような課題があった。
特許文献1に開示された音声スイッチは、時間領域で受話信号パワーと送話信号パワーに基づいて残留エコーの抑圧を行うため、受話信号と送話信号が同時に存在するとき、伝送すべき送信話者の音声信号の減衰が避けられず、送信話者の音声の音質が劣化するという課題があった。また、携帯電話端末等の携帯端末に用いる場合は、周囲の雑音情報が相手に伝わる必要があるため、送話信号に含まれるエコー成分のみを抑圧することが望まれる。
また、特許文献2に開示されているVolterraフィルタと呼ばれる非線形適応フィルタを利用するものは、非線形エコーに対処する根本的な解決法と考えられるが、演算量が多いため、サブバンドフィルタを用いても携帯端末に搭載可能なフィルタの演算量としてはまだ多すぎるという課題があった。更に、実現性が高いとされる2次Volterraフィルタを用いても、携帯端末に用いられるスピーカの非線形特性を近似することが困難であることを、本願の発明者らのシミュレーションによる検証で確認している。
特開2000−341178号公報 特開2003−273782号公報
上述したように、従来の音響エコーキャンセラ装置では、音声スイッチを用いるものでは受話信号と送話信号が同時に存在するときに送話信号が減衰し、送話信号の音質が劣化することがあった。また、非線形適応フィルタを用いるものでは、演算量が多くなって携帯電話端末等の携帯端末に適用するのが困難であったり、携帯端末に搭載されるスピーカの非線形特性を近似することが困難であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、少ない演算量で非線形エコーを含めて残留エコーを抑圧することができ、携帯端末等の通話装置にも容易に適用可能な音響エコーキャンセラ装置及び音響エコーキャンセル方法、並びにこの音響エコーキャンセラ装置を備える通話装置を提供することを目的とする。
本発明の音響エコーキャンセラ装置は、音出力手段へ出力される受話信号から擬似エコー信号を生成する適応フィルタリング手段と、音入力手段から入力される送話信号から前記擬似エコー信号を減算して前記送話信号に含まれるエコー成分を抑圧するエコー抑圧手段と、前記送話信号及び前記擬似エコー信号に基づいて送話信号における残留エコー成分を抑圧する残留エコー抑圧手段と、を備えるものである。
上記構成により、例えば系が非線形特性を持つことなどにより適応フィルタでは除去しきれずに残留した残留エコー成分について、残留エコー抑圧手段によって抑圧できるため、エコー抑圧性能を改善できる。
また、本発明は、上記の音響エコーキャンセラ装置であって、残留エコー抑圧手段は、前記送話信号と前記擬似エコー信号の振幅及び位相を比較し、前記比較結果が所定条件を満たすように類似している場合に、前記送話信号に含まれる残留エコー成分とみなして抑圧するものとする。
上記構成により、送話信号に含まれる残留エコー成分とそれ以外の信号成分を有効に区別することができ、適応フィルタでは除去しきれない非線形エコーを含む残留エコー成分を少ない演算量で抑圧することが可能となる。このため、携帯端末等の通話装置にも容易に適用可能な音響エコーキャンセラ装置を実現できる。
また、本発明は、上記の音響エコーキャンセラ装置であって、前記残留エコー抑圧手段は、前記送話信号及び前記擬似エコー信号をそれぞれ時間領域から周波数領域へ変換する変換手段と、前記送話信号の送話スペクトルの振幅情報と位相情報を分離する送話スペクトル振幅・位相分離手段と、前記擬似エコー信号の擬似エコースペクトルの振幅情報と位相情報を分離する擬似エコースペクトル振幅・位相分離手段と、前記送話スペクトルと擬似エコースペクトルの振幅情報及び位相情報を比較する比較手段と、前記振幅情報及び位相情報の比較結果を基に前記残留エコー成分を抑圧する残留エコー抑圧係数を算出する抑圧係数算出手段と、前記残留エコー抑圧係数を用いて前記残留エコー成分が抑圧された結果を示す残留エコー抑圧スペクトルを算出する残留エコー抑圧結果算出手段と、前記残留エコー抑圧スペクトルを周波数領域から時間領域へ変換する逆変換手段と、を備えるものとする。
上記構成により、送話信号及び擬似エコー信号を時間領域から周波数領域に変換し、それぞれの振幅情報と位相情報を分離することによって、異なる振幅と位相の特性を持つ送話信号と擬似エコー信号をより容易かつ有効に区別することができる。また、送話スペクトルと擬似エコースペクトルの振幅と位相を比較し、比較結果に基づき、例えば両者の差が所定範囲内にあり類似している場合は抑圧されるように残留エコー抑圧係数を算出し、この残留エコー抑圧係数を用いて残留エコー成分が抑圧された結果を示す残留エコー抑圧スペクトルを算出することで、少ない演算量によって、残留エコー成分が抑圧される一方、送話者が発声する音声信号に相当する送話者音声成分や周囲の雑音情報の信号成分など、エコー以外の信号成分は抑圧されずにそのまま伝送することができる。
また、本発明は、上記の音響エコーキャンセラ装置であって、前記比較手段は、前記送話スペクトルの振幅と前記擬似エコースペクトルの振幅との比が所定の閾値以内かである振幅制約条件と、前記送話スペクトルの位相と前記擬似エコースペクトルの位相との差が所定の閾値以内かである位相制約条件とを判定し、前記抑圧係数算出手段は、前記振幅制約条件及び前記位相制約条件を満たす場合に、前記残留エコー成分を抑圧するような残留エコー抑圧係数を算出するものとする。
上記構成により、送話信号と擬似エコー信号の振幅及び位相を比較する際、振幅制約条件と位相制約条件を設けて判定を行い、振幅制約条件及び位相制約条件を満たす場合は信号が抑圧されるように残留エコー抑圧係数を算出することで、送話信号に含まれるエコー成分と擬似エコー信号は近似した振幅と位相特性を持つため、上記振幅制約条件と位相制約条件を満たすことにより残留エコー成分が抑圧される一方、送話者が発声する音声信号に相当する送話者音声成分や周囲の雑音情報の信号成分など、エコー以外の信号成分は抑圧されずにそのまま伝送することができる。
また、本発明は、上記の音響エコーキャンセラ装置であって、前記抑圧係数算出手段は、前記送話スペクトルの振幅加算値から前記擬似エコースペクトルの振幅加算値を減算した結果と前記送話スペクトルの振幅加算値との比に基づいて残留エコー抑圧係数を算出するものとする。
上記構成により、送話スペクトルの振幅加算値から擬似エコースペクトルの振幅加算値を減算した結果と送話スペクトルの振幅加算値との比に基づいて残留エコー抑圧係数を算出することによって、送話者音声成分が存在するときに残留エコー抑圧の度合いを弱め、それ以外の場合は残留エコー抑圧の度合いを強める機能を持たせることができる。このため、双方向同時通話のときなどにも良好な送話信号の音質と高いエコー抑圧性能を実現することができる。
本発明の音響エコーキャンセル方法は、音出力手段へ出力される受話信号から擬似エコー信号を生成する適応フィルタリングステップと、音入力手段から入力される送話信号から前記擬似エコー信号を減算して前記送話信号に含まれるエコー成分を抑圧するエコー抑圧ステップと、前記送話信号及び前記擬似エコー信号に基づき、これらの送話信号と擬似エコー信号の振幅及び位相を比較し、前記比較結果が所定条件を満たすように類似している場合に、前記送話信号に含まれる残留エコー成分とみなして抑圧する残留エコー抑圧ステップと、を有するものである。
上記手順により、少ない演算量で非線形エコーを含めて残留エコーを抑圧することができ、携帯端末等の通話装置にも容易に適用可能な音響エコーキャンセル方法を提供できる。
また、本発明は、上記いずれかに記載の音響エコーキャンセラ装置を備え、受話用の音出力手段と送話用の音入力手段とを備える通話装置を提供する。
本発明によれば、少ない演算量で非線形エコーを含めて残留エコーを抑圧することができ、携帯端末等の通話装置にも容易に適用可能な音響エコーキャンセラ装置及び音響エコーキャンセル方法、並びにこの音響エコーキャンセラ装置を備える通話装置を提供できる。
図1は、本発明の実施形態に係る音響エコーキャンセラ装置の構成を示すブロック図である。本実施形態に係る音響エコーキャンセラ装置は、音入力手段の一例に相当する送話用のマイクロホン1と、音出力手段の一例に相当する受話用のスピーカ2と、音響エコーキャンセラ10とを備える。
音響エコーキャンセラ10は、受話信号を基に擬似エコー信号を生成する適応フィルタ3と、送話信号から擬似エコー信号を減算してエコー成分を抑圧する加算部4と、送話信号及び擬似エコー信号を基に残留エコー成分を抑圧する残留エコー抑圧部5とを備えて構成される。ここで、適応フィルタ3が適応フィルタリング手段の一例に相当し、加算部4及び適応フィルタ3がエコー抑圧手段の機能を実現する。また、残留エコー抑圧部5が残留エコー抑圧手段の機能を実現する。
マイクロホン1は、送話者が発声する音声や周囲の音などを集音して入力して電気信号に変換し、送話信号として出力する。マイクロホン1から出力される送話信号には、送話者音声成分とともに、スピーカ2から廻り込むエコー成分が含まれる。この送話信号は加算部4及び残留エコー抑圧部5に供給される。一方、受話信号は、スピーカ2に供給されて出力されるとともに、適応フィルタの学習信号として適応フィルタ3に供給される。スピーカ2は、受話信号を音に変換して外部へ放出する。
スピーカ2から出力される受話音は、エコーパス7を経てエコー成分となってマイクロホン1に入力される。この送話信号に含まれるエコー成分を打ち消すために、適応フィルタ3は受話信号に基づいて擬似エコー信号を生成し、この擬似エコー信号が加算部4及び残留エコー抑圧部5に供給される。加算部4では送話信号から擬似エコー信号を減算し、この減算信号が適応フィルタ3にフィードバックされてフィルタの係数調整に用いられる。また、残留エコー抑圧部5は、送話信号及び擬似エコー信号に基づいて後述する演算処理を行うことによって、エコーパス7やスピーカ2の非線形特性を持つ音響特性などにより生じた残留エコー成分を抑圧する。そして、残留エコー抑圧部5の出力を音響エコーキャンセラ10から送信する送話用出力信号とする。
図2は本実施形態の音響エコーキャンセラ装置を搭載した携帯端末の構成を示すブロック図である。図2の例は、携帯端末の一例である携帯電話端末に本実施形態を適用した構成例である。
携帯端末は、アンテナ11、無線通信部12、音声信号処理部13、マイクロフォン1、スピーカ2、制御部14、操作部15、表示部16を備えて構成される。無線通信部12は、無線通信用の高周波回路等を有して構成され、アンテナ11を介して移動体通信網の基地局等と無線通信を行い、通信信号の送受信、変復調などを行う。音声信号処理部13は、上記の音響エコーキャンセラ10を含むもので、信号処理用のアナログ回路やディジタル回路、あるいはプロセッサ等を有して構成され、送話信号や受話信号等の音声信号の入出力に関する各種処理を行う。この音声信号処理部13にはマイクロフォン1及びスピーカ2が接続される。
制御部14は、制御処理やアプリケーション実行用のプロセッサ、メモリ等を有して構成され、装置各部の動作制御、各種アプリケーションの実行などを行う。操作部15は、操作入力用のスイッチあるいはその他の入力デバイスを有して構成され、使用者による操作指示に基づく各種の操作入力を行う。表示部16は、液晶ディスプレイ等の表示デバイスを有して構成され、装置の動作に関する表示や各種情報の表示を行う。
上記のような構成の携帯端末を用いて、使用者は通信相手と通話を行うことができる。携帯端末は、例えば車両等に搭載したり携帯する際にハンズフリーで通話が可能な構成とすることができる。本実施形態の音響エコーキャンセラ装置は、この種の携帯端末に用いてエコー成分を抑圧するのに好適なものである。なお、本実施形態の音響エコーキャンセラ装置は、携帯電話端末に限らず、音を入出力する装置において非線形特性を持つものであれば、種々の装置に適用可能である。
次に、残留エコー抑圧部5の詳細な構成及び動作について説明する。図3は本発明の実施形態における残留エコー抑圧部の構成を示すブロック図である。
残留エコー抑圧部5は、送信側FFT部51と、送話スペクトル振幅・位相分離部52と、受信側FFT部53と、擬似エコースペクトル振幅・位相分離部54と、振幅・位相比較部55と、抑圧係数計算部56と、IFFT部57とを有して構成される。ここで、送信側FFT部51及び受信側FFT部53が変換手段の機能を実現する。また、送話スペクトル振幅・位相分離部52が送話スペクトル振幅・位相分離手段の機能を実現する。また、擬似エコースペクトル振幅・位相分離部54が擬似エコースペクトル振幅・位相分離手段の機能を実現する。また、振幅・位相比較部55が比較手段の機能を実現する。また、抑圧係数計算部56が抑圧係数算出手段及び残留エコー抑圧結果算出手段の機能を実現する。また、IFFT部57が逆変換手段の機能を実現する。
残留エコー抑圧部5において、送信側FFT部51は、所定時間単位(フレーム)に分割されたディジタルデータの送話信号をFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)により周波数領域に変換する。周波数領域に変換された送話スペクトル信号は、送話スペクトル振幅・位相分離部52及び抑圧係数計算部56に供給される。同様に、受信側FFT部53は、所定時間単位(フレーム)に分割されたディジタルデータの擬似エコー信号をFFTにより周波数領域に変換する。周波数領域に変換された擬似エコースペクトル信号は、擬似エコースペクトル振幅・位相分離部54及び抑圧係数計算部56に供給される。送話スペクトル振幅・位相分離部52は、送話スペクトル信号を振幅情報と位相情報に分離し、その結果は振幅・位相比較部55に供給される。一方、擬似エコースペクトル振幅・位相分離部54は、擬似エコースペクトル信号を振幅情報と位相情報に分離し、その結果は振幅・位相比較部55に供給される。
具体的には、FFTにより周波数領域に変換された送話スペクトル信号D(k)は、送話スペクトル振幅・位相分離部52において、式(1)に示す振幅情報|D(k)|と位相情報θD(k)に分離される。
Figure 2007189536
ここで、j=√(−1)は虚数単位で、kは周波数成分を特定する番号である。また、LF はFFT変換長、つまり高速フーリエ変換を行うデータ数であり、例えばLF=256とする。
一方、FFTにより周波数領域に変換された擬似エコースペクトル信号Y(k)は、擬似エコースペクトル振幅・位相分離部54において、式(2)に示す振幅情報|Y(k)|と位相情報θY(k)に分離される。
Figure 2007189536
振幅・位相比較部55は、送話スペクトル振幅・位相分離部52から分離された振幅情報及び位相情報と、擬似エコースペクトル振幅・位相分離部54から分離された振幅情報及び位相情報とをそれぞれ比較し、この比較の結果を抑圧係数計算部56に出力する。
具体的には、振幅・位相比較部55において、まず、送話スペクトル振幅情報と擬似エコースペクトル振幅情報とを比較し、以下の式(3)が成立すれば、振幅制約条件を満たすこととする。
Figure 2007189536
ここで、A>1は振幅比較の閾値である。図4は式(3)を満たす振幅制約条件を示す説明図である。
次に、振幅・位相比較部55において、送話スペクトル位相情報と擬似エコースペクトル位相情報とを比較し、以下の式(4)が成立すれば、位相制約条件を満たすこととする。
Figure 2007189536
ここで、0<Θ<180°は位相比較の閾値である。
そして、上記振幅制約条件と位相制約条件に関する判定結果は、抑圧係数計算部56に出力される。
抑圧係数計算部56は、振幅・位相比較部55から出力された振幅制約条件及び位相制約条件の判定結果に基づいて、残留エコー抑圧係数を計算する。
具体的には、抑圧係数計算部56において、以下の式(5)を用いて残留エコー抑圧係数gC を計算する。
Figure 2007189536
ここで、Gは1より小さい定数である。
実環境下では、送話信号において送話者が発声する送話者音声成分が存在しない場合は抑圧係数を小さくして強めの抑圧を行い、送話者音声成分が存在する場合は抑圧係数を大きくして弱めの抑圧を行った方が、残留エコー成分の低減及び送話信号の音質の向上にとって望ましい。そこで、本実施形態では、例えば、振幅制約条件及び位相制約条件を満たす場合の各フレームごとの抑圧係数Gを以下の式(6)を用いて計算する。
Figure 2007189536
式(6)から分かるように、送話者が発声していなくて送話者音声成分が存在せず、擬似エコー信号のみ存在する場合は、Σ|D(k)|≒Σ|Y(k)|であるので、式(6)において分子部はゼロに近くなり、抑圧係数Gの値が小さくなる。一方、この状態から送話者が発声して送話者音声成分が入った場合は、Σ|D(k)|>Σ|Y(k)|となるので、式(6)の分子部は大きくなり、抑圧係数Gの値も大きくなる。このとき、式(6)の分母部も同様に大きくなり、抑圧係数Gが1以上となることはない。
そして、抑圧係数計算部56は、上記求めた残留エコー抑圧係数gC を用いて、残留エコー抑圧スペクトルE(k)を以下の式(7)を用いて計算する。
Figure 2007189536
残留エコー抑圧部5における、上記振幅制約条件及び位相制約条件の判定から残留エコー抑圧スペクトルの計算までの処理の流れを図5に示す。すなわち、まず振幅制約条件を満たすか否かを判定し(ステップS11)、振幅制約条件を満たす場合は続いて位相制約条件を満たすか否かを判定する(ステップS12)。振幅制約条件と位相制約条件の双方を満たす場合は、残留エコー抑圧係数gC を式(6)で算出される抑圧係数Gとする(ステップS13)。一方、振幅制約条件または位相制約条件のいずれかが満たされない場合は、残留エコー抑圧係数gCを1とする(ステップS14)。次に、式(7)に基づいて残留エコー抑圧スペクトルE(k)を算出する(ステップS15)。そして、周波数成分の番号であるkがFFT変換長LFより大きいかを判断し(ステップS16)、kがLF 以下の場合はkを1増分し(ステップS17)、上記ステップS11〜S16を繰り返す。各周波数成分の残留エコー抑圧スペクトルE(k)の演算を全て完了すると(ステップS16でYes)、処理を終了する。
上記のようにして得られた残留エコー抑圧スペクトル信号は、送話スペクトル信号D(k)中の残留エコー成分が抑圧された信号となる。この残留エコースペクトル信号はIFFT部57に出力される。
IFFT部57は、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:高速逆フーリエ変換)により、残留エコー抑圧スペクトル信号を時間領域に変換し、残留エコー成分が抑圧された送話信号とする。このIFFT部57の出力が残留エコー抑圧部5からの出力信号となり、音響エコーキャンセラ10からの送話用出力信号として、残留エコー成分が抑圧された送話信号が出力される。
上述したように、本実施形態の音響エコーキャンセラ装置によれば、携帯端末のスピーカ等により生じた非線形エコーなど、適応フィルタにより除去しきれない残留エコー成分について、残留エコー抑圧部において更に抑圧することができ、音響エコーキャンセラの性能を改善することができる。
また、本実施形態の残留エコー抑圧部では、送話信号及び擬似エコー信号を時間領域から周波数領域に変換し、それぞれの振幅情報と位相情報を分離することによって、異なる振幅と位相の特性を持つ送話信号と擬似エコー信号をより区別しやすくなる。また、送話スペクトルと擬似エコースペクトルの振幅と位相を比較し、振幅制約条件と位相制約条件を設けて判定を行い、振幅制約条件及び位相制約条件を満たす場合は大きく抑圧されるように残留エコー抑圧係数を算出するようにしている。これにより、送話信号に含まれるエコー成分と擬似エコー信号は近似した振幅と位相特性を持つため、上記振幅制約条件と位相制約条件を満たすことにより残留エコー成分が抑圧される一方、送話者が発声する音声信号に相当する送話者音声成分や周囲の雑音情報の信号成分など、エコー以外の信号成分は抑圧されずにそのまま伝送することができる。
また、送話スペクトルの振幅加算値から擬似エコースペクトルの振幅加算値を減算した結果と送話スペクトルの振幅加算値との比に基づいて残留エコー抑圧係数を計算することによって、送話者音声成分が存在するときに残留エコー抑圧の度合いを弱め、それ以外の場合は残留エコー抑圧の度合いを強める機能を持たせることができる。これにより、双方向同時通話のときにおいても、良好な送話信号の音質と高いエコー抑圧性能を実現することができる。
以上のように、本実施形態によれば、適用フィルタを用いたエコー抑圧手段と残留エコー抑圧手段とを組み合わせる構成とし、残留エコー抑圧手段において、送話信号に含まれるエコー成分と擬似エコー信号の振幅と位相の近似性を利用してエコー以外の信号と区別し、類似している場合はエコー成分であるとして抑圧することで非線形特性による残留エコー成分を抑圧し、送話信号の送話者音声成分を抑圧しないようにする。これにより、携帯端末に用いられるスピーカの非線形の音響特性などに起因する残留エコーを抑圧することができ、エコー抑圧性能を改善することができる。また、送話信号と擬似エコー信号について、周波数領域に変換した送話スペクトルと擬似エコースペクトルの振幅情報と位相情報を利用することによって、送話信号に含まれるエコー成分とそれ以外の信号成分とを有効に区別することができるため、少ない演算量で、かつ送話信号の音質を劣化させることなく、系の非線形特性による残留エコーを抑圧可能な音響エコーキャンセラ装置及び音響エコーキャンセル方法を実現することができる。
本発明は、少ない演算量で非線形エコーを含めて残留エコーを抑圧することができ、携帯端末等の通話装置にも容易に適用可能となる効果を有し、ハンズフリー通話装置等で用いられる音響エコーキャンセラ装置及び音響エコーキャンセル方法、並びにこの音響エコーキャンセラ装置を備える通話装置等に有用である。
本発明の実施形態に係る音響エコーキャンセラ装置の構成を示すブロック図 本実施形態の音響エコーキャンセラ装置を搭載した携帯端末の構成を示すブロック図 本発明の実施形態における残留エコー抑圧部の構成を示すブロック図 残留エコー抑圧部において用いる振幅制約条件を示す説明図 残留エコー抑圧部における処理の流れを示すフローチャート
符号の説明
1 マイクロホン
2 スピーカ
3 適応フィルタ
4 加算部
5 残留エコー抑圧部
10 音響エコーキャンセラ
12 無線通信部
13 音声信号処理部
51 送信側FFT部
52 送話スペクトル振幅・位相分離部
53 受信側FFT部
54 擬似エコースペクトル振幅・位相分離部
55 振幅・位相比較部
56 抑圧係数計算部
57 IFFT部

Claims (7)

  1. 音出力手段へ出力される受話信号から擬似エコー信号を生成する適応フィルタリング手段と、
    音入力手段から入力される送話信号から前記擬似エコー信号を減算して前記送話信号に含まれるエコー成分を抑圧するエコー抑圧手段と、
    前記送話信号及び前記擬似エコー信号に基づいて送話信号における残留エコー成分を抑圧する残留エコー抑圧手段と、
    を備える音響エコーキャンセラ装置。
  2. 請求項1記載の音響エコーキャンセラ装置であって、
    残留エコー抑圧手段は、前記送話信号と前記擬似エコー信号の振幅及び位相を比較し、前記比較結果が所定条件を満たすように類似している場合に、前記送話信号に含まれる残留エコー成分とみなして抑圧する音響エコーキャンセラ装置。
  3. 請求項1記載の音響エコーキャンセラ装置であって、
    前記残留エコー抑圧手段は、
    前記送話信号及び前記擬似エコー信号をそれぞれ時間領域から周波数領域へ変換する変換手段と、
    前記送話信号の送話スペクトルの振幅情報と位相情報を分離する送話スペクトル振幅・位相分離手段と、
    前記擬似エコー信号の擬似エコースペクトルの振幅情報と位相情報を分離する擬似エコースペクトル振幅・位相分離手段と、
    前記送話スペクトルと擬似エコースペクトルの振幅情報及び位相情報を比較する比較手段と、
    前記振幅情報及び位相情報の比較結果を基に前記残留エコー成分を抑圧する残留エコー抑圧係数を算出する抑圧係数算出手段と、
    前記残留エコー抑圧係数を用いて前記残留エコー成分が抑圧された結果を示す残留エコー抑圧スペクトルを算出する残留エコー抑圧結果算出手段と、
    前記残留エコー抑圧スペクトルを周波数領域から時間領域へ変換する逆変換手段と、
    を備える音響エコーキャンセラ装置。
  4. 請求項3記載の音響エコーキャンセラ装置であって、
    前記比較手段は、前記送話スペクトルの振幅と前記擬似エコースペクトルの振幅との比が所定の閾値以内かである振幅制約条件と、前記送話スペクトルの位相と前記擬似エコースペクトルの位相との差が所定の閾値以内かである位相制約条件とを判定し、
    前記抑圧係数算出手段は、前記振幅制約条件及び前記位相制約条件を満たす場合に、前記残留エコー成分を抑圧するような残留エコー抑圧係数を算出する音響エコーキャンセラ装置。
  5. 請求項4記載の音響エコーキャンセラ装置であって、
    前記抑圧係数算出手段は、前記送話スペクトルの振幅加算値から前記擬似エコースペクトルの振幅加算値を減算した結果と前記送話スペクトルの振幅加算値との比に基づいて残留エコー抑圧係数を算出する音響エコーキャンセラ装置。
  6. 音出力手段へ出力される受話信号から擬似エコー信号を生成する適応フィルタリングステップと、
    音入力手段から入力される送話信号から前記擬似エコー信号を減算して前記送話信号に含まれるエコー成分を抑圧するエコー抑圧ステップと、
    前記送話信号及び前記擬似エコー信号に基づき、これらの送話信号と擬似エコー信号の振幅及び位相を比較し、前記比較結果が所定条件を満たすように類似している場合に、前記送話信号に含まれる残留エコー成分とみなして抑圧する残留エコー抑圧ステップと、
    を有する音響エコーキャンセル方法。
  7. 請求項1〜5のいずれかに記載の音響エコーキャンセラ装置を備え、受話用の音出力手段と送話用の音入力手段とを備える通話装置。
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