JP2007180249A - アクチュエータ装置の製造方法及び液体噴射装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】振動板の割れ等の不良を防止して耐久性及び信頼性を向上したアクチュエータの製造方法を提供すること。
【解決手段】基板10の一方面に振動板50を形成する工程と、該振動板50上に下電極60、圧電体層70及び上電極80からなる圧電素子300を形成する工程とを具備し、前記振動板50を形成する工程が、前記基板300の一方面側にジルコニウム層を形成すると共に該ジルコニウム層を190℃/sec以上の昇温レートで所定の温度まで加熱して熱酸化することにより酸化ジルコニウム層からなる絶縁体膜55を形成する工程を少なくとも有する製造方法。
【選択図】図2
【解決手段】基板10の一方面に振動板50を形成する工程と、該振動板50上に下電極60、圧電体層70及び上電極80からなる圧電素子300を形成する工程とを具備し、前記振動板50を形成する工程が、前記基板300の一方面側にジルコニウム層を形成すると共に該ジルコニウム層を190℃/sec以上の昇温レートで所定の温度まで加熱して熱酸化することにより酸化ジルコニウム層からなる絶縁体膜55を形成する工程を少なくとも有する製造方法。
【選択図】図2
Description
本発明は、圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板上に圧電体層を有する圧電素子を形成して、圧電素子の変位により振動板を変形させるアクチュエータ装置の製造方法及びアクチュエータ装置を用いて液滴を吐出させる液体噴射装置に関する。
電圧を印加することにより変位する圧電素子を具備するアクチュエータ装置は、例えば、液滴を噴射する液体噴射装置に搭載される液体噴射ヘッドの液体吐出手段として用いられる。このような液体噴射装置としては、例えば、ノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドを具備するインクジェット式記録装置が知られている。
インクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードのアクチュエータ装置を搭載したものと、たわみ振動モードのアクチュエータ装置を搭載したものの2種類が実用化されている。そして、たわみ振動モードのアクチュエータ装置を使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電体膜を形成し、この圧電体層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けることによって各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものがある。
このような圧電素子を構成する圧電材料層の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が用いられる。この場合、圧電材料層を焼成する際に、圧電材料層の鉛成分が、シリコン(Si)からなる流路形成基板の表面に設けられて振動板を構成する酸化シリコン(SiO2)膜に拡散してしまう。そして、この鉛成分の拡散によって酸化シリコンの融点が降下し、圧電材料層の焼成時の熱により溶融してしまうという問題がある。このような問題を解決するために、例えば、酸化シリコン膜上に振動板を構成し、所定の厚みを有する酸化ジルコニウム膜を設け、この酸化ジルコニウム膜上に圧電材料層を設けることで、圧電材料層から酸化シリコン膜への鉛成分の拡散を防止したものがある。(例えば、特許文献1参照)。
この酸化ジルコニウム膜は、例えば、スパッタ法によりジルコニウム膜を形成後、このジルコニウム膜を熱酸化することによって形成される。このため、ジルコニウム膜を熱酸化する際に発生する応力によって酸化ジルコニウム膜にクラックが発生する等の不良が発生するという問題がある。また、流路形成基板と酸化ジルコニウム膜との応力に差が大きいと、例えば、流路形成基板に圧力発生室を形成した後などに、流路形成基板等が変形することによりジルコニウム膜が剥がれてしまう等の問題も発生する。
本発明は、このような事情に鑑み、振動板の割れ等の不良を防止して耐久性及び信頼性を向上した液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、基板の一方面に振動板を形成する工程と、該振動板上に下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を形成する工程とを具備し、前記振動板を形成する工程が、前記基板の一方面側にジルコニウム層を形成すると共に該ジルコニウム層を190℃/sec以上の昇温レートで所定の温度まで加熱して熱酸化することにより酸化ジルコニウム層からなる絶縁体膜を形成する工程を少なくとも有することを特徴とするアクチュエータ装置の製造方法にある。
かかる第1の態様では、所定の昇温レート以上で加熱することによって振動板を構成する絶縁体膜の密着力が向上される。また、同一ウェハ内での絶縁体膜の密着力のばらつきも抑えることができ、圧電素子の変位特性を均一化したアクチュエータ装置を製造することができる。
かかる第1の態様では、所定の昇温レート以上で加熱することによって振動板を構成する絶縁体膜の密着力が向上される。また、同一ウェハ内での絶縁体膜の密着力のばらつきも抑えることができ、圧電素子の変位特性を均一化したアクチュエータ装置を製造することができる。
本発明の第2の態様は、前記ジルコニウム層を熱酸化する際に、当該ジルコニウム層をRTA法によって加熱することを特徴とする第1の態様のアクチュエータ装置の製造方法にある。
かかる第2の態様では、RTA法を用いることで、ジルコニウム層を所望の昇温レートで加熱することができる。
かかる第2の態様では、RTA法を用いることで、ジルコニウム層を所望の昇温レートで加熱することができる。
本発明の第3の態様は、前記ジルコニウム層を熱酸化する際の温度を800℃以上1000℃以下とすることを特徴とする第1又は2の態様のアクチュエータ装置の製造方法にある。
かかる第3の態様では、ジルコニウム層を良好に熱酸化することができ、絶縁体膜の密着力をより確実に向上させることができる。
かかる第3の態様では、ジルコニウム層を良好に熱酸化することができ、絶縁体膜の密着力をより確実に向上させることができる。
本発明の第4の態様は、前記振動板を形成する工程では、前記絶縁体膜を形成する工程後、前記ジルコニウム層を熱酸化する際の最高温度以下の温度で前記絶縁体膜をアニール処理して当該絶縁体膜の応力を調整する工程を有することを特徴とする第1〜3の何れかの態様のアクチュエータ装置の製造方法にある。
かかる第4の態様では、絶縁体膜を所定温度でアニール処理することで、同一ウェハ内での絶縁体膜の密着力のばらつきをさらに確実に抑えることができ、圧電素子の変位特性を均一化したアクチュエータ装置を製造することができる。
かかる第4の態様では、絶縁体膜を所定温度でアニール処理することで、同一ウェハ内での絶縁体膜の密着力のばらつきをさらに確実に抑えることができ、圧電素子の変位特性を均一化したアクチュエータ装置を製造することができる。
本発明の第5の態様は、前記絶縁体膜をアニール処理する際の温度を800℃以上900℃以下とすることを特徴とする第4の態様のアクチュエータ装置の製造方法にある。
かかる第5の態様では、密着力を低下させることなく絶縁体膜の応力を調整することができる。
かかる第5の態様では、密着力を低下させることなく絶縁体膜の応力を調整することができる。
本発明の第6の態様は、前記絶縁体膜をアニール処理する時間を0.5時間以上2時間以下の範囲で調整することを特徴とする第5の態様のアクチュエータ装置の製造方法にある。
かかる第6の態様では、密着力を低下させることなく絶縁体膜の応力を確実に調整することができる。
かかる第6の態様では、密着力を低下させることなく絶縁体膜の応力を確実に調整することができる。
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様の製造方法によって製造されたアクチュエータ装置を液体吐出手段とする液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる第7の態様では、振動板の耐久性を向上すると共に、圧電素子の駆動による振動板の変位量を向上することができ、液滴の吐出特性を向上した液体噴射装置を実現することができる。
かかる第7の態様では、振動板の耐久性を向上すると共に、圧電素子の駆動による振動板の変位量を向上することができ、液滴の吐出特性を向上した液体噴射装置を実現することができる。
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。なお、連通部13は、後述する保護基板のリザーバ部と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。なお、連通部13は、後述する保護基板のリザーバ部と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.01〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又は不錆鋼などからなる。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、厚さが例えば約1.0μmの二酸化シリコン(SiO2)からなる弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.4μmの酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55が形成されている。また、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1.0μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用するが、弾性膜50、絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみを残して下電極膜60を振動板としても良い。
また、このような各圧電素子300の上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90がそれぞれ接続され、このリード電極90を介して各圧電素子300に選択的に電圧が印加されるようになっている。
さらに、流路形成基板10上の圧電素子300側の面には、圧電素子300に対向する領域にその運動を阻害しない程度の空間を確保可能な圧電素子保持部31を有する保護基板30が接合されている。圧電素子300は、この圧電素子保持部31内に形成されているため、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。なお、保護基板30の圧電素子保持部31は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間であればよく、圧電素子保持部31は密封されていても、密封されていなくてもよい。
また、保護基板30には、流路形成基板10の連通部13に対応する領域にリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の並設方向に沿って設けられており、上述したように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
また、保護基板30の圧電素子保持部31とリザーバ部32との間の領域には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられ、この貫通孔33内に下電極膜60の一部及びリード電極90の先端部が露出され、これら下電極膜60及びリード電極90には、図示しないが、駆動ICから延設される接続配線の一端が接続される。
なお、保護基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動ICからの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
ここで、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図5を参照して説明する。なお、図3〜図5は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。まず、図3(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜51を形成する。なお、本実施形態では、流路形成基板用ウェハ110として、膜厚が約625μmと比較的厚く剛性の高いシリコンウェハを用いている。
次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。具体的には、弾性膜50上に、例えば、DCスパッタ法により所定厚さ、本実施形態では、約0.3μmのジルコニウム層を形成する。そして、ジルコニウム層が形成された流路形成基板用ウェハ110を所定の昇温レートで所定の温度まで加熱してジルコニウム層を熱酸化することにより、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。
このようにジルコニウム層を熱酸化する際の昇温レートは190℃/sec以上と比較的速くすることが好ましい。また、このように比較的速い昇温レートでジルコニウム層を加熱する方法は、特に限定されないが、RTA(Rapid Thermal Annealing)法を用いることが好ましい。例えば、本実施形態では、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置を用いて、絶縁体膜55を形成している。なお、RTA装置としては、流路形成基板10の両面に赤外線ランプが設けられたものを用いるのが好ましい。また、ジルコニウム層を熱酸化する際の温度は、800℃以上1000℃以下とすることが好ましく、本実施形態では、約900℃とした。
このようにジルコニウム層を比較的速い昇温レートで加熱して熱酸化することで、絶縁体膜55を緻密な膜に形成することができ、絶縁体膜55にクラックが発生するのを防止できる。また、絶縁体膜55の弾性膜50との密着性が向上するため、圧電素子300の駆動によって繰り返し変形した場合でも、絶縁体膜55の剥がれを防止することができる。
また、本発明の製造方法では、このように形成した絶縁体膜55を所定温度でさらにアニール処理し、絶縁体膜55の応力を調整するようにした。具体的には、上述したジルコニウム層を熱酸化する際の最高温度以下、本実施形態では、900℃以下の温度で絶縁体膜55をアニール処理し、その際の温度及び時間等の条件を変えることによって絶縁体膜55の応力を調整している。例えば、本実施形態では、加熱温度850℃、加熱時間1hの条件で絶縁体膜55をアニール処理することにより、絶縁体膜55の応力を調整した。熱酸化後の絶縁体膜55の応力が1.7×108Pa程度の圧縮応力であったのに対し、アニール処理した結果、絶縁体膜55の応力は2.94×108Pa程度の引張応力となった。
このように、絶縁体膜55をアニール処理して応力の調整を行うことで、後述する工程で形成される圧電素子を構成する各層を含む膜全体の応力バランスがとれるため、応力に起因する膜の剥がれや、クラックの発生を防止することができる。また、アニール処理時の加熱温度を、ジルコニウム層を熱酸化する際の最高温度以下とすることで、絶縁体膜55の密着力も維持することができる。なお、アニール処理時の加熱温度は、上記最高温度以下であれば特に限定されないが、できるだけ高温とするのが好ましい。絶縁体膜の応力は、上述したようにアニール処理時の加熱温度、加熱時間等の条件によって決まる。このため、加熱温度を高くすることで、比較的短時間で応力の調整(アニール処理)を終わらせて製造効率を向上することができるからである。
ここで、昇温レートの違い及びアニール処理の有無による絶縁体膜の密着力について調べた。具体的には、弾性膜50上にジルコニウム層を形成し、ジルコニウム層を加熱温度900℃、加熱時間5secで且つ昇温レートを190℃/secで熱酸化して実施例1の絶縁体膜(酸化ジルコニウム層)を形成した。また、昇温レートを150℃/secとした以外、実施例1と同じ条件で熱酸化して比較例1の絶縁体膜を形成した。
また、実施例1及び比較例1と同じ条件で熱酸化したそれぞれの絶縁体膜を加熱温度850℃、加熱時間1hの条件でアニール処理して実施例2及び比較例2の絶縁体膜を形成した。
そして、これら実施例1及び2、比較例1及び2のそれぞれの絶縁体膜についてスクラッチ試験を行った。なお、スクラッチ試験は、図6に示すように、流路形成基板用ウェハ110の中心を基準点P0として、オリフラ面110aに対して垂直方向のy軸上の3ヶ所、具体的には、流路形成基板用ウェハ110の基準点P0と、y軸上の中心点からプラス方向に60mm離れた位置P1と、y軸上の中心点からマイナス方向に60mm離れた位置P2とでそれぞれ行った。その結果を図7に示す。図7に示すように、昇温レートを150℃/secとした比較例1の絶縁体膜は、330mN程度の密着力であったのに対し、昇温レートを190℃/secとした実施例1の絶縁体膜では、410mN程度とさらに大きな密着力を得ることができた。このように絶縁体膜の弾性膜に対する密着力は、ジルコニウム層を熱酸化する際の昇温レートを早くするに連れて大きくなり、少なくとも昇温レートを190℃/sec以上とすることで十分な密着力を得ることができる。
また、昇温レートを150℃/secとし且つアニール処理を施した比較例2の絶縁体膜では、350mN程度の密着力となっており、アニール処理を施していない比較例1の絶縁体膜よりも密着力が上がったものの、アニール処理を施した比較例2の絶縁体膜よりも、昇温レートを190℃/secとし且つアニール処理を施していない実施例1の絶縁体膜の方が高い密着力(410mN程度)を得ることができた。
さらに、昇温レートを190℃/secとし且つアニール処理を施した実施例2の絶縁体膜は、425mN程度の密着力となっており、アニール処理を施していない実施例1の絶縁体膜の密着力(410mN程度)よりもさらに高い密着力を得ることができた。勿論、実施例1の絶縁体膜のように、アニール処理を施さなくても190℃/secの昇温レートとすることで、410mNと十分に高い密着力を得ることができている。
また、図7に示すように、実施例1のアニール処理を施していない絶縁体膜では、密着力のばらつきに最大24mN程度の差が生じているのに対し、実施例2のアニール処理を施した絶縁体膜では、密着力のばらつきに最大10mN程度の差が生じていた。このため、熱酸化により絶縁体膜を形成後、絶縁体膜をさらにアニール処理することで、流路形成基板用ウェハの面内方向における絶縁体膜の密着力のばらつきを防止することができるが、アニール処理を施さなくても昇温レートを190℃/secと比較的速くすることで密着力のばらつきを1割未満と十分抑えることができている。
なお、このような絶縁体膜55を形成した後は、図3(c)に示すように、例えば、白金とイリジウムとを絶縁体膜55上に積層することにより下電極膜60を形成後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。次いで、図3(d)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80とを流路形成基板用ウェハ110の全面に形成する。ここで、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を形成している。
また、圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料に、ニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等を用いてもよい。その組成は、圧電素子の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO3(PT)、PbZrO3(PZ)、Pb(ZrxTi1−x)O3(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PIN−PT)、Pb(Sc1/2Ta1/2)O3−PbTiO3(PST−PT)、Pb(Sc1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PSN−PT)、BiScO3−PbTiO3(BS−PT)、BiYbO3−PbTiO3(BY−PT)等が挙げられる。また、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法等を用いてもよい。
ここで、本発明では、上述したように、絶縁体膜55をアニール処理することにより応力の調整を行っている。例えば、圧電体層70を形成する際に、その焼成温度の条件を変更することで、応力を調整することはできる。しかしながら、焼成温度等の条件を変更すると、圧電体層70の物性が変わってしまい、所望の特性が得られない虞があるため好ましくない。
次いで、図4(a)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。次に、リード電極90を形成する。具体的には、図4(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなる金属層91を形成する。その後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して金属層91を各圧電素子300毎にパターニングすることでリード電極90が形成される。
次に、図4(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の圧電素子300側に、シリコンウェハであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハ130を接合する。なお、この保護基板用ウェハ130は、例えば、400μm程度の厚さを有するため、保護基板用ウェハ130を接合することによって流路形成基板用ウェハ110の剛性は著しく向上することになる。
次いで、図4(d)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらに弗化硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みにする。例えば、本実施形態では、約70μm厚になるように流路形成基板用ウェハ110をエッチング加工した。次いで、図5(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなるマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、このマスク膜52を介して流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチングすることにより、図5(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110に圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。
その後は、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
以上説明したように、本発明では、弾性膜50上に形成される酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する際に、ジルコニウム層を昇温レート190℃/sec以上で熱酸化後、さらに所定の条件でアニール処理するようにした。これにより、絶縁体膜55の密着力を向上することができると共に、絶縁体膜55の応力を調整することができる。したがって、振動板の耐久性が向上すると共に、圧電素子300の駆動による振動板の変位量を向上することができ、インク吐出特性を向上したインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
なお、上述した製造方法によって製造されたインクジェット式記録ヘッドは、その後、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図8は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図8に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。また、上述した実施形態においては、アクチュエータ装置を液体吐出手段として具備し液体噴射装置に搭載される液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを例示したが、本発明は、広くアクチュエータ装置の全般を対象としたものである。したがって、勿論、本発明は、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。また、本発明は、液体噴射ヘッドに搭載されるアクチュエータ装置だけでなく、あらゆる装置に搭載されるアクチュエータ装置に適用できる。なお、アクチュエータ装置が搭載される他の装置としては、上述した液体噴射ヘッドの他に、例えば、センサー等が挙げられる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。また、上述した実施形態においては、アクチュエータ装置を液体吐出手段として具備し液体噴射装置に搭載される液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを例示したが、本発明は、広くアクチュエータ装置の全般を対象としたものである。したがって、勿論、本発明は、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。また、本発明は、液体噴射ヘッドに搭載されるアクチュエータ装置だけでなく、あらゆる装置に搭載されるアクチュエータ装置に適用できる。なお、アクチュエータ装置が搭載される他の装置としては、上述した液体噴射ヘッドの他に、例えば、センサー等が挙げられる。
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 圧電素子保持部、 32 リザーバ部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、100 リザーバ、 110 流路形成基板用ウェハ、 300 圧電素子
Claims (7)
- 基板の一方面に振動板を形成する工程と、該振動板上に下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を形成する工程とを具備し、前記振動板を形成する工程が、前記基板の一方面側にジルコニウム層を形成すると共に該ジルコニウム層を190℃/sec以上の昇温レートで所定の温度まで加熱して熱酸化することにより酸化ジルコニウム層からなる絶縁体膜を形成する工程を少なくとも有することを特徴とするアクチュエータ装置の製造方法。
- 前記ジルコニウム層を熱酸化する際に、当該ジルコニウム層をRTA法によって加熱することを特徴とする請求項1記載のアクチュエータ装置の製造方法。
- 前記ジルコニウム層を熱酸化する際の温度を800℃以上1000℃以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のアクチュエータ装置の製造方法。
- 前記振動板を形成する工程では、前記絶縁体膜を形成する工程後、前記ジルコニウム層を熱酸化する際の最高温度以下の温度で前記絶縁体膜をアニール処理して当該絶縁体膜の応力を調整する工程を有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のアクチュエータ装置の製造方法。
- 前記絶縁体膜をアニール処理する際の温度を800℃以上900℃以下とすることを特徴とする請求項4記載のアクチュエータ装置の製造方法。
- 前記絶縁体膜をアニール処理する時間を0.5時間以上2時間以下の範囲で調整することを特徴とする請求項5記載のアクチュエータ装置の製造方法。
- 請求項1〜6の何れかに記載の製造方法によって製造されたアクチュエータ装置を液体吐出手段とする液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2005376594A JP2007180249A (ja) | 2005-12-27 | 2005-12-27 | アクチュエータ装置の製造方法及び液体噴射装置 |
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Publications (1)
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JP2007180249A true JP2007180249A (ja) | 2007-07-12 |
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Country Status (1)
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JP (1) | JP2007180249A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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US9085146B2 (en) | 2012-10-24 | 2015-07-21 | Seiko Epson Corporation | Liquid ejecting head, liquid ejecting apparatus and piezoelectric element |
-
2005
- 2005-12-27 JP JP2005376594A patent/JP2007180249A/ja active Pending
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