JP2007159447A - Phc2遺伝子欠損非ヒト哺乳動物 - Google Patents

Phc2遺伝子欠損非ヒト哺乳動物 Download PDF

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協一 磯野
Akihiko Koseki
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Abstract

【課題】クラスII PcG複合体の変異と関連する様々な疾患の病態の解明、及びその疾患の治療・改善手段の開発において有用なモデル系の提供。
【解決手段】染色体上のPhc2遺伝子の機能を欠損させた非ヒト哺乳動物、該動物の免疫異常易発症モデル動物としての使用、及び該動物を利用した被験物質の免疫異常抑制作用又は免疫異常誘発作用の評価方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、染色体上のPhc2遺伝子の機能が欠損した非ヒト哺乳動物とその利用方法に関する。
頭、胸、腹といった多細胞生物の体の各部分のアイデンティティーは、ショウジョウバエなどの無脊椎動物でもマウスやヒトなどの脊椎動物でも、ホメオボックス(Hox)遺伝子群の発現パターンによって決定されることが知られている。Hox遺伝子群の発現は発生初期に種々の転写制御因子の指令を受けて開始するが、その発現パターンはそれら転写制御因子が失われた後もクロマチン構造において記憶され、細胞分裂を経て娘細胞に伝達される。近年では、細胞記憶と呼ばれるこの制御機構にかかわる多くの遺伝子が同定されている。それらの一群としてポリコーム遺伝子群(Polycomb group; PcG)と呼ばれるグループがある。
ポリコーム遺伝子群(PcG)は、最初はキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)においてPolycomb遺伝子(Pc)として同定された。ポリコーム遺伝子群(PcG)は、複数種のタンパク質複合体を形成して機能すると考えられており、ショウジョウバエでは、PcGタンパク質のEsc(Extra Sex Combs)やE(Z)(Enhancer of Zeste)の他にp55、S(Z)12などの結合タンパク質を主に含む複合体Esc-E(Z)、そして、PcGタンパク質であるPc(Polycomb)、Ph(Polyhomeotic)、Psc(Posterior sex comb)、Ring、Scm(Sex comb on midleg)などを主として含む複合体PRC1(Polycomb Repressive Complex 1)が分離されている。哺乳動物でも、ショウジョウバエのPcG遺伝子と構造的及び機能的に関連したPcGホモログが同定されており、それらの哺乳動物のPcG遺伝子産物も複数種のタンパク質複合体を形成することが報告されている。現在では、ショウジョウバエのEsc-E(Z)に対応する複合体はクラスI PcG複合体と呼ばれており、哺乳動物のクラスI PcG複合体はショウジョウバエEscのオルソログであるEed、ショウジョウバエE(Z)のオルソログであるEnx1及びEnx2を含む。一方、ショウジョウバエのPRC1に対応する2つ目の複合体は、クラスII PcG複合体と呼ばれており、哺乳動物のクラスII PcG複合体はショウジョウバエPsc、Pc、Ph、Ring、Scmのホモログを含む。クラスII PcG複合体はショウジョウバエと哺乳動物との間で構造的にも機能的にも進化的によく保存されているが、一方で、多くのPcG遺伝子が分岐して存在しており、哺乳動物では二重又は三重に重複したPcG遺伝子が存在している。これは例えば、哺乳動物のPcGタンパク質として、Rnf110 (Mel18)及びBmi1 [Pscのホモログ];Cbx2 (M33)、Cbx4 (Pc2)及びCbx8 (Pc3) [Pcのホモログ];Phc1 (rae28, mph1又はedr1)、Phc2 (mph2又はedr2)、及びPhc3 [Phのホモログ];Ring1A及びRnf2 (Ring1B) [Ringのホモログ];Scmh1、Scmh2 [Scmのホモログ]などの多数の遺伝子が同定されている通りである。これらのうち、ショウジョウバエのポリホメオティック(polyhomeotic; ph)遺伝子座に対してホモロガスであるとして同定されている哺乳動物の遺伝子は、Phc1、Phc2、及びPhc3の3つである(非特許文献1及び7)。データベースのスクリーニングにより、これら3つのphオルソログの全てが、ヒト、ニワトリ、ゼブラフィッシュ及びフグを含む様々な脊椎動物において進化的に保存され発現されていることが、明らかになってきている(未発表データ)。
ポリコーム遺伝子群(PcG)は、主としてHox遺伝子の安定的な抑制状態の維持にかかわっており、正確な発生において非常に重要な役割を果たす。PcG遺伝子産物から形成される多量体タンパク質複合体は、Hox遺伝子の転写調節を介して胚の前後軸(A-P)決定に寄与している。哺乳動物では、PcG遺伝子がHox遺伝子の発現制御だけでなく造血幹細胞の制御にもかかわっていることや、PcG群による造血系の制御に異常が生じることにより免疫不全や癌の発症に至ることが報告されている。ポリコーム遺伝子群の遺伝子の機能欠損を有する個体の多くは胚性致死となることも知られている(非特許文献1及び2)。さらに、クラスII PcG複合体の構成成分であるいくつかのPcGタンパク質(Mel18、Bmi-1、Ring1A、rae28など)について、それら遺伝子が欠損したマウス胚で、特徴的な中軸骨格系の後方化及び胎児性線維芽細胞の培養における早期老化が観察されること、また、Cdkn2a/p53経路の調節を介したアポトーシスの増加と造血細胞の増殖応答の欠損による重篤な複合免疫不全が生じることも示されている(非特許文献3〜6)。
このように、ポリコーム遺伝子群(PcG)は、様々な脊椎動物において進化的に保存されている重要な遺伝子群であり、ポリコーム遺伝子群の遺伝子機能の欠損は、ヒトなどでも癌や免疫不全などの重大な異常や疾患を引き起こすと考えられる。PcG複合体やそれを形成する個々のPcGタンパク質の機能が十分明らかになっていないことから、PcG遺伝子機能の欠損に関連する異常・疾患の予防又は治療方法を開発する上で、PcG遺伝子欠損動物などのモデル系を利用してPcG複合体の機能解明を進めることは非常に重要である。しかしPcG複合体の機能性には複雑な面も多く、好適なモデル系の構築は容易ではない。そのため、有利に使用できるPcG遺伝子欠損モデル系の開発がなおも求められている。
Levine S.S., A. Weiss, H. Erdjument-Bromage, Z. Shao, P. Tempst, and R.E Kingston. 2002. The core of the polycomb repressive complex is compositionally and functionally conserved in flies and humans. Mol Cell Biol. 22:6070-6078 Jacobs, J. J., and M. van Lohuizen, "Polycomb repression: from cellular memory to cellular proliferation and cancer." Biochim. Biophys. Acta (2002) 1602: p.151-161 Akasaka T., et al., "A role for mel-18, a Polycomb group-related vertebrate gene, during theanteroposterior specification of the axial skeleton." Development (1996) 122: p.1513-1522 del Mar Lorente M., et al., "Loss- and gain-of-function mutations show a polycomb group function for Ring1A in mice." (2000) Development 127: p.5093-5100 Jacobs J.J., et al., "The oncogene and Polycomb-group gene bmi-1 regulates cell proliferation and senescence through the ink4a locus." Nature (1999) 397: p.164-168 van der Lugt N.M., et al., "Posterior transformation, neurological abnormalities, and severe hematopoietic defects in mice with a targeted deletion of the bmi-1 proto-oncogene." Genes Dev. (1994) 8: p.757-769 Gunster M.J., et al., "Identification and characterization of interactions between the vertebrate polycomb-group protein BMI1 and human homologs of polyhomeotic" (1997) Mol Cell Biol. 17: p.2326-2335
本発明は、クラスII PcG複合体の変異と関連する様々な異常や疾患の病態を解明し、その治療・改善手段を開発する上で有用なモデル系を、提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、クラスII PcG複合体の構成成分の1つであるPhc2をコードする遺伝子を欠損させたマウスは、中軸骨格系の後方化を示す一方で、成体での生存能力及び繁殖能力を有し、そのリンパ球の発生能も正常であること、またそのクラスII PcG複合体の機能性が、クラスII PcG複合体の他の構成成分であるPhc1タンパク質とPhc2タンパク質を含むPHオルソログ体の総量に依存することを見出した。さらに本発明者らは、この知見に基づき、Phc2遺伝子を機能欠損させた動物がクラスII PcG複合体の機能解析やその変異によって生ずる異常や疾患の解析において非常に有用なモデル動物であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1] 染色体上のPhc2遺伝子の機能を欠損させた非ヒト哺乳動物。なお本明細書では、この非ヒト哺乳動物を、Phc2遺伝子欠損動物と称することがある。
このPhc2遺伝子欠損動物においては、Phc2遺伝子又はその発現制御領域上における少なくとも一部の配列の欠失、置換及び/又は他の配列の挿入によって欠損させることができる。
また本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、Phc2遺伝子の機能が、両方の染色体上のアレル(すなわち、両アレル)について欠損しているものがより好ましい。
本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、好ましくは、中軸骨格系の後方化を示し、かつリンパ球の発生能が正常であるという特徴を有する。
本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、特にマウスが好ましい。
本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、例えば免疫異常易発症モデル動物として有利に使用できる。
[2] 上記[1]記載の非ヒト哺乳動物において、被験物質の投与条件下と非投与条件下における該動物の表現上の相違を指標として、該被験物質の免疫異常抑制作用又は免疫異常誘発作用を評価する方法。
この方法においては、被験物質の免疫異常抑制作用又は免疫異常誘発作用を、中軸骨格系の後方化レベル、リンパ球の増殖レベル、及び胚性繊維芽細胞の増殖が停止する継代数から選ばれる少なくとも1つを指標として評価することができる。
本発明により、クラスII PcG複合体の機能やその変異によって引き起こされる異常・疾患の解析に有用な、Phc2遺伝子欠損動物が提供される。本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、クラスII PcG複合体における変異の特徴を示す一方、成体での生存能力及び繁殖能力を有し、そのリンパ球の発生能も正常であるため、モデル動物として有利に使用できる。また本発明のPhc2遺伝子欠損動物を用いた被験物質の評価方法は、免疫異常に関する被験物質を広範にスクリーニングする上で有用である。
1.Phc2遺伝子欠損非ヒト哺乳動物
本発明は、染色体上のPhc2遺伝子の機能を欠損させた非ヒト哺乳動物に関する。
本発明にかかる「Phc2遺伝子」とは、主として、ポリコーム遺伝子群(PcG)に属し、ショウジョウバエのポリホメオティック遺伝子(polyhomeotic; ph)のホモログであって、他のPcGタンパク質とともにクラスII PcGタンパク質複合体を形成して機能するPcGタンパク質をコードする内在性の遺伝子を意味する。Phc2は、一般的にMph2、hpc2、edr2などの別名で呼ばれることもある。本発明において「Phc2遺伝子」には、PcGタンパク質をコードするゲノムDNAの他、そのmRNA、cDNAも含むものとする。
Phc2遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列は、ショウジョウバエ、フグ、ニワトリ、マウス、ヒト等の様々な動物において公知である。Phc2遺伝子の塩基配列は、例えばDDBJ、EMBL、GenBank等の公共データベース(国際塩基配列データベースを含む)や各種の商用データベースを通じて容易に入手することができる。例えばPhc2遺伝子のmRNAの配列としては、ショウジョウバエ:GenBankアクセッション番号X63672、ニワトリ:GenBankアクセッション番号CR406147、マウス:GenBankアクセッション番号NM018774、ヒト:GenBankアクセッション番号NM 198040などがある。公共データベース又は商用データベースにPhc2遺伝子の配列が登録されていない非ヒト哺乳動物については、既知のPhc2遺伝子との相同性に基いて、その非ヒト哺乳動物の内在性Phc2遺伝子をクローニングし、塩基配列を決定することができる。例えば、当該動物のゲノムDNAライブラリー又はcDNAライブラリーを作製し、遺伝的に近い種に由来する既知のPhc2遺伝子又はその一部、あるいはPhc2遺伝子中の生物種間で高度に保存された領域をプローブとして用いて、該ライブラリーをスクリーニングすることにより、目的の動物のPhc2遺伝子を同定し、配列を決定することができる。
例えばマウスPhc2遺伝子は、マウス第4染色体上の61.0 cM(D2.2)の位置にマッピングされており、第4染色体のゲノム配列上では塩基番号127059111〜127123190 [bp](127.1 Mb)に及ぶ。マウスPhc2遺伝子の詳細な遺伝子情報は、例えばNCBI(National Center for Biotechnology Information; http://www.ncbi.nlm.nih.gov/からアクセス可能)のデータベースからGene ID: 54383(Locus tag: MGI:1860454)に基づいて、あるいはMGI(Mouse Genome Informatics; http://www.informatics.jax.org/からアクセス可能)のデータベースから「polyhomeotic-like 2」の名称に基づいて、入手できる。このマウスPhc2遺伝子は選択的スプライシングにより2.5 kbおよび3.8 kb mRNAへと転写される。その2.5 kb mRNA(アクセッション番号AB062362 [国際塩基配列データベース] ;cDNA配列として配列番号1に記載)は323アミノ酸(配列番号2)をコードしており、3.8 kb mRNA(アクセッション番号NM 018774 [GenBank]又はAccession No. U81491 [国際塩基配列データベース];cDNA配列として配列番号3に記載)は850アミノ酸(配列番号4)をコードしている。
本発明において、「Phc2遺伝子の機能を欠損させた」とは、染色体上のPhc2遺伝子が破壊され、その機能が正常に発現されないことを意味する。すなわち、Phc2遺伝子産物が全く発現されない場合だけでなく、当該遺伝子産物が発現されてもそれが正常な機能を有しなければ、「Phc2遺伝子の機能を欠損させた」ことになる。こうしたPhc2遺伝子の破壊は、Phc2遺伝子上、またはその転写調節領域やプロモーター領域を含む発現制御領域上の部分配列の欠失、置換、および/または他の配列の挿入等の改変によって生じさせることができる。
なお、前記欠失、置換、または挿入を行う部位や、欠失、置換、または挿入される配列は、Phc2遺伝子の正常な機能が欠損しうる限り、特に限定されない。しかしながら、Phc2遺伝子のコーディング領域の少なくとも一部を欠失させるような変異は、かなり確実にPhc2遺伝子の機能を欠損させることができる。特に、Phc2遺伝子のエキソン2〜7のうち1つ以上のエキソン、好ましくはエキソン2及び3を含む部分を欠失させることが好ましい。このPhc2遺伝子の機能を欠損させる手法については次項で詳細に説明する。
本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、Phc2遺伝子の機能が、一方の染色体上のアレルについて欠損しているもの(ヘテロ接合体)であっても、両方の染色体上のアレルについて欠損しているもの(ホモ接合体)であってもよいが、両方の染色体上のアレル(すなわち、両アレル)について欠損しているものがより好ましい。
本発明にかかる「非ヒト哺乳動物」は、ヒト以外の哺乳動物であれば特に限定されないが、マウス、ラット、モルモット、ウサギ等の齧歯動物が好ましく、特にES細胞が確立し、遺伝子組換えが容易に実施できるマウスが最も好ましい。
2.Phc2遺伝子欠損動物の作製方法
本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、ジーンターゲティング、Cre-loxPシステム、体細胞クローン法等の当業者に公知の技術を利用して作製することができる。
2.1 ジーンターゲティング
ジーンターゲティングは、相同組換えを利用して染色体上の特定遺伝子に変異を導入する手法である(Capeccchi, M.R. Science, 244, 1288-1292, 1989, Thomas, K.R. & Cpeccchi, M.R. Cell, 44, 419-428, 1986)。ジーンターゲティング法の詳細については、すでに様々な文献に記載されている(相澤慎一:ジーンターゲティング−ES細胞を用いた変異マウスの作製, バイオマニュアルシリーズ8, 羊土社 (1995); Hogan, B., Beddington, R., Constantini, F., Lacy, E.: Manipulating the Mouse Embryo, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1994); Joyner, A.L.: Gene Targeting, A Practical Approach Series, IRL Press (1993)等を参照されたい)。
1)ターゲティングベクターの構築
まず、Phc2遺伝子を欠損させるために用いるターゲティングベクターを構築する。ターゲティングベクターの構築に先立って、一般的には、使用する動物のゲノムDNAライブラリーを入手又は調製する。このゲノムDNAライブラリーは、多型等による組換え頻度の低下が起こらないよう、使用するES細胞が由来する動物系統から作製したゲノムDNAライブラリーを用いることが好ましい。用意したゲノムライブラリーについて、Phc2 cDNAまたはその部分配列をプローブとしてスクリーニングを行って、Phc2遺伝子のゲノムDNA配列を含むクローンを得る。さらに、得られたゲノムDNAクローンについて、配列決定、サザンブロット解析、制限酵素消化等を利用して、各エキソンの位置と制限酵素部位を示した制限酵素地図を作成する。制限酵素地図等の情報が既に公表されているゲノムDNAクローンを使用する場合には、その公知の情報を直接利用してもよい。そしてこの制限酵素地図をもとに、Phc2遺伝子に対する変異導入領域等を決定し、ターゲティングベクターを設計する。一般的には、その変異導入領域に対し5'側に位置するゲノム上の領域、及び3'側に位置するゲノム上の領域を相同領域として選択し、その領域に相当するDNA断片を調製して、その5'側領域断片と3'側領域断片の間に外来DNA断片を連結したものをターゲティングベクターとすることが多い。ここで外来DNA断片としては、組み換え体を選択するための適当な選択マーカー遺伝子やレポーター遺伝子を含むものであることが好ましい。そのような選択マーカーとしては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子(pGKneo、pMC1neo等の遺伝子カセット)、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子等の陽性選択マーカー、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV-TK)、ジフテリア毒素Aフラグメント(DT-A)等の陰性選択マーカー等が挙げられるが、これらに限定されない。またレポーター遺伝子としては、緑色蛍光遺伝子(GFP)、β-ガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)、ルシフェラーゼ遺伝子(luc)などが挙げられる。なお、ターゲティングベクターに使用する相同領域の外側には相同組換え体をスクリーニングするための外側プローブ(external probe)を設定することが好ましい。
本発明において、染色体上に導入する変異の種類(欠失、置換、または挿入など)はPhc2遺伝子の正常な機能が損なわれる限り特に限定されない。例えば、欠失または置換される配列は、Phc2遺伝子のイントロン領域であってもエキソン領域であってもよいし、あるいはPhc2遺伝子の発現制御領域であってもよい。特に、Phc2遺伝子のコーディング領域のうち、エキソン2〜7のうちの少なくとも1つのエキソン、例えばエキソン2及び3を欠失させるような変異であれば、確実にPhc2遺伝子の機能を欠損させることができる。
図2にマウスPhc2遺伝子欠損用のターゲティングベクターの一例を示す。このターゲティングベクターは、Phc2遺伝子のエキソン2及び3が、ネオマイシン耐性遺伝子カセットによって置換されるように設計されている。
以上のように設計されたターゲティングベクターは、5'側相同領域、外来DNA断片、3'側相同領域を、この順番で連結することによって構築できる。このようなベクターの構築は、当業者に周知のPCR法やライゲーション法などの遺伝子工学的技術を用いて行うことができる。
2)ES細胞へのターゲティングベクターの導入
次に、構築されたターゲティングベクターを胚性幹細胞(ES細胞)等の全能性を有する細胞に導入する。ES細胞は、マウス、ハムスター、ブタ等では細胞株が樹立されており、特にマウスでは、129系マウス由来のK14株、E14株、D3株、AB-1株、J1株や、R1株、TT2株等、各種細胞株が入手可能である。また、マウスではES細胞に代えて胚性ガン腫細胞(EC細胞)を利用することもできる。
ES細胞は、ターゲティングベクターの導入に先立って、適当な培地で培養しておく。例えば、マウスES細胞であれば、マウス繊維芽細胞等をフィーダー細胞として、これにES細胞用の液体培地(例えば、GIBCO製)を加えて共培養する。
ES細胞へのターゲティングベクターの導入は、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム法等、公知の遺伝子導入法により実施することができる。ターゲティングベクターが導入されたES細胞は、ベクター中に挿入された選択マーカー遺伝子やレポーター遺伝子を発現させることにより容易に選択することができる。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子をマーカーとして導入した細胞であれば、G418を加えたES細胞用培地で培養することにより、一次選択を行うことができる。
ターゲティングベクターが導入されたES細胞では、相同組換えによって、染色体上のPhc2遺伝子の一部が該ベクターで置換され、内因性のPhc2遺伝子が破壊される。所望の相同組換えがなされたか否かは、サザンブロティングやPCR法等を利用した遺伝子型解析によって判定できる。サザンブロッティングによる遺伝子型解析は、変異導入部位の外側に設定した外側プローブを用いて行うことができる。PCR法による遺伝子型解析は、それぞれ野性型と変異型Phc2遺伝子の特異的増幅産物を検出することにより実施できる。こうしてターゲティングベクターが適切に導入されたES細胞は、さらに次の段階に備えて培養しておく。
3)キメラ動物の作製
ターゲティングベクターが導入されたES細胞(組換えES細胞)は、ES細胞が由来する系統とは外見上明らかな相違を有する別な系統由来の初期胚に導入し、キメラ動物として発生させることが好ましい。例えば、マウスであれば、アルビノ毛色を有する129系由来のES細胞に対しては、黒色の毛色を有し、マーカーとして利用できる各種遺伝子座が129系マウスとは異なっているC57BL/6マウス等の初期胚を用いることが望ましい。これにより、キメラマウスはその毛色によって、キメラ率を判断することができる。
ES細胞の初期胚への導入は、アグリゲーション法(Andra, N. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 8424-8428, 1993, Stephen, A.W. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 4582-4585, 1993)、マイクロインジェクション法(Hogan, B. et al. ”Manipulating the Mouse Embryo” Cold Spring Habor Laboratory Press, 1988)などにより行うことができる。
アグリゲーション法では、透明帯を除去した2個の8細胞期胚又は桑実胚の間に、ES細胞塊を挟み込むように挿入して培養し、凝集させてキメラ胚を得る。このキメラ胚を、仮親(偽妊娠動物)の子宮に移植し、発生させれば、キメラ動物を得ることができる。
マイクロインジェクション法は、ES細胞を胚盤胞(ブラストシスト)に直接注入する方法である。すなわち、動物より採取した胚盤胞に、マイクロマニピュレーター等を用いて組換えES細胞を顕微鏡下で直接注入してキメラ胚を作製する。このキメラ胚を、仮親(偽妊娠動物)の子宮に移植し、発生させれば、所望のキメラ動物を得ることができる。
4)Phc2遺伝子欠損動物の作製
仮親から得られたキメラ動物は、さらに同系の野性型動物と交配する。得られる動物の約半分は、Phc2遺伝子の機能を欠損している染色体をヘテロ接合で有するはずである。各個体の遺伝子型は、毛色等の外見上の特徴で一次判定できるほか、前述したサザンブロッティングやPCR法を利用した遺伝子型解析によって決定することができる。こうして、ヘテロ接合のPhc2遺伝子欠損動物が同定されたら、このヘテロ接合性のPhc2遺伝子欠損動物同士を交配して、Phc2遺伝子欠損をホモ接合で有する動物を得ることができる。
本発明のPhc2遺伝子欠損動物には、上記Phc2遺伝子の機能の欠損をヘテロ接合で有する動物と、ホモ接合で有する動物の両方を含むものとする。さらに、上記のようにして作製されたPhc2遺伝子欠損動物の子孫も、染色体上のPhc2遺伝子の機能が欠損している限り、本発明のPhc2遺伝子欠損動物に含まれる。
2.2 Cre-loxPシステムの利用
ジーンターゲティング法にバクテリオファージP1由来のCre-loxPシステムを利用して、部位特異的、時期特異的に標的遺伝子を欠損させる方法(Kuhn R. et al., Science, 269, 1427-1429, 1995)もある。loxP(locus of X-ing-over)配列は34塩基対からなるDNA配列でCre(Causes recombination)組換え酵素の認識配列である。遺伝子上の2つのloxP配列はCre蛋白の存在下で特異的組換えを起こす。すなわち、欠損させたい標的遺伝子をloxPで挟んだものに置換し、さらにCre発現ベクターを組み込めば、部位特異的・時期特異的なCre蛋白の産生により、loxPで挟まれた標的遺伝子を欠失させることができる。
例えば、前項2.1の1)に準じて、欠損させるPhc2遺伝子領域の5'側にloxP遺伝子、3'側にloxP遺伝子で挟んだ選択マーカー遺伝子又はレポーター遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子等)を組み込んだターゲティングベクターを作製し、ES細胞に導入する。ES細胞は選択マーカーなどによる選択の後、サザンブロッティングあるいはPCR法による遺伝子型解析を行って相同組換えを確認する。この相同組換えES細胞に、さらにCre蛋白を特異的プロモーターに連結したCre発現ベクターを導入する。得られたES細胞から、loxP組換えによって選択マーカー遺伝子又はレポーター遺伝子のみが欠失し、Phc2遺伝子領域は欠失していないES細胞クローンを同定する。このES細胞を前項2.1の3)および4)に準じて動物に導入し、Cre-loxP組換え動物を得る。
あるいは、Phc2遺伝子両端にloxP遺伝子を組み込んだターゲティングベクターを導入したloxP導入組換え動物と、Cre発現ベクターを導入したCre発現組換え動物を別個に作製し、両者を交配することによって、Cre-loxP組換え動物を作製してもよい。
こうして得られたCre-loxP組換え動物は、Cre蛋白の発現に応じて、部位特異的、時期特異的にPhc2遺伝子を欠損しうる。したがって、特定時期、特定部位におけるPhc2遺伝子の機能解析に極めて有用である。
2.3 体細胞クローン法
ES細胞が利用できない動物の場合、体細胞クローン法(I. Wilmut et al, Nature, Vol.385, 810-813, 1997、A. E. Schnieke et al, Science, Vol.278, 2130-2133, 1997)を利用してPhc2遺伝子欠損動物を作製することも可能である。体細胞クローンとは、体細胞から取り出した核を、脱核した未受精卵に移植してクローン胚を作製し、このクローン胚を仮親の子宮に移植して発生させたクローンである。この体細胞クローンに遺伝子導入技術を組み合わせれば、所望の組換え動物クローンを得ることができる。すなわち、予めPhc2遺伝子を欠損させる組換え操作を行った体細胞から核を取り出し、これを脱核した未受精卵に移植して、クローン胚を作製する。このクローン胚を仮親(偽妊娠動物)の子宮に移植して、体細胞クローン動物を得れば、この動物はPhc2遺伝子の欠損を有することになる。
3.Phc2遺伝子欠損動物の表現型
本発明のPhc2遺伝子欠損動物において、同腹の野生型動物とは異なる表現型が現れた場合、それはPhc2遺伝子の欠損に起因することが予測される。
哺乳動物クラスII PcG突然変異体に共通の特徴は、Hoxクラスター遺伝子の脱抑制に伴う中軸骨格系の後方化(ホメオティック変異)、及びCdkn2a転写産物の過剰発現に伴う胎児性線維芽細胞の早期老化である(非特許文献5)。本発明のPhc2遺伝子欠損動物でも、後述の実施例に示すように、中軸骨格系の後方化、及び胎児性線維芽細胞の培養における早期老化が確認される。
本明細書において「中軸骨格系の後方化」とは、中軸骨格を構成する各脊椎骨が、野生型においてより後方の体節がもつ特徴を示すことを言う。より具体的には、例えば以下のような特徴のうち少なくとも2つが認められれば「中軸骨格系の後方化」が観察されたものとする:
a) 後頭骨と第1頸椎骨(C1)との間の異所性の骨
b) 第2頸椎骨(C2)の特徴である頸部の歯突起と椎骨C1との融合
c) 第7頸椎骨(C7)における、本来は第1胸椎骨(T1)の特徴である肋骨の形成。
また「胎児性線維芽細胞の早期老化」とは、例えば後述の実施例で示されるような胎児性線維芽細胞の培養実験を行ったときに、分裂を停止する継代数が野生型と比べて2代以上早まるか、又はその増殖速度が20%以上低下していることを意味する。
本発明のPhc2遺伝子欠損動物はまた、リンパ球の発生能が正常であることが好ましい。他のPcG遺伝子欠損を伴わないPhc2遺伝子の単一欠損によって作製されたPhc2遺伝子欠損動物においては、Phc2遺伝子欠損をヘテロ接合として有する場合もホモ接合として有する場合も、リンパ球の増殖・分化には異常が認められない。本発明において「リンパ球の発生能が正常である」とは、少なくとも、リンパ球の増殖・分化が阻害されている様子が観察されないこと、特に、リンパ球前駆細胞の増殖が阻害されていないことを意味する。リンパ球の発生能が正常であることは、例えば、野生型と同程度の造血系細胞量を有していることや、造血系細胞集団に含まれる各造血系細胞(各種リンパ球など)の組成が、野生型と類似していることによって確認することもできる。
本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、そのPhc2遺伝子の欠損が他のPcG遺伝子欠損を伴わない単一遺伝子欠損であれば、Phc2遺伝子欠損をヘテロ接合として有する場合もホモ接合として有する場合も、生存能力及び繁殖能力を有する。本発明において「生存能力」とは、生存して誕生することができ、かつ成体まで成長可能であること(胚性致死ではないこと)を意味する。本発明において「繁殖能力」とは、野生型の同種動物と交配したときに少なくとも胚を生じることができることを意味する。
本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、上述の通り正常なリンパ球発生能を有し、生存能力及び繁殖能力を有する。これは、Phc2遺伝子の機能がある程度は他のPcG遺伝子、特にPhc1遺伝子などの他のポリホメオティック遺伝子の機能によって補償されていることによるものである。そしてPhc2、Phc1などのポリホメオティック遺伝子の機能は、後述の実施例に示されるように、量依存的に胚生存などに影響を及ぼすことが判明した。このことから、本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、野生型では構成的に発現されるPhc2遺伝子の機能を欠損しており、すなわちPhc2遺伝子の基礎発現レベルが低いため、例えば他のPcG遺伝子(特にPhc1遺伝子、Phc3遺伝子、又はRnf110遺伝子)の機能が低下したり欠損したりすることによって、そのリンパ球発生能や胚生存が容易に損なわれてしまう可能性を有している。実際、Phc2遺伝子欠損の他にPhc1遺伝子欠損も有する二重欠損マウスは胚性致死であり、かつPhc1遺伝子欠損をホモ接合で有するマウスの方が胚の生存期間が短いことも示された。
そして、このため本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、例えば他のPcG遺伝子の機能を低下又は欠損させるような要因に曝されることなどにより、リンパ球の発生に異常をきたし易く、免疫異常を発症しやすい。従って本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、免疫異常易発症モデル動物として利用することができる。他のPcG遺伝子欠損動物は多くが胚性致死であることを考えると、生存能力及び繁殖能力を有するPcG遺伝子欠損動物は、モデル動物として非常に有用である。本明細書において「免疫異常易発症モデル動物」とは、アレルギーなどの自己免疫疾患やリンパ球の増殖不全を伴う癌などの免疫異常を発症し易い動物を言う。免疫異常易発症モデル動物は、野生型動物と比較して、例えばリンパ球の発生(すなわち分化・増殖)が阻害され易い。
4.Phc2遺伝子欠損動物を用いた被験物質の評価方法
本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、上述のとおり、種々の免疫異常を発症しやすいことから、免疫異常、特にクラスII PcGタンパク質複合体の機能と関連した免疫異常を誘発する物質や、逆にその免疫異常を抑制する物質などのスクリーニングなどに利用することができる。本発明は、かかるPhc2遺伝子欠損動物を利用した被験物質の評価方法、及びその評価に基づく免疫異常誘発物質又は免疫異常抑制物質のスクリーニング方法も提供する。
例えば、被験物質の投与条件下と非投与条件下でPhc2遺伝子欠損動物を飼育し、その表現上の相違を指標として、該被験物質の免疫異常誘発作用又は免疫異常抑制作用を評価することができる。評価は、例えば、中軸骨格系の後方化レベル、リンパ球の増殖レベル、及び胚性繊維芽細胞の増殖が停止する継代数などを指標として、Phc2遺伝子欠損動物の表現型が野生型に近づいたか野生型から遠ざかったかを判断することによって行うことができる。こうした各指標の検査や測定は、上記に記載した方法を含めて、当該技術分野で公知の方法により実施することができる。
より具体的には、本発明のPhc2遺伝子欠損動物に被験物質を投与することにより、リンパ球の増殖レベルが低下するが、野生型動物に被験物質を投与した場合にはリンパ球の増殖レベルに大きな変化が見られない場合、その被験物質は潜在的に免疫異常誘発作用を有すると判定できる。このような免疫異常誘発作用を有する被験物質は、特に免疫系の障害や低下が見られる個体に対して免疫異常を誘発又は悪化させるリスクのある物質と考えられる。このような評価に基づき、免疫異常誘発リスクを有する被験物質をスクリーニングすることができる。
また例えば、本発明のPhc2遺伝子欠損動物に、リンパ球の増殖阻害を引き起こしうる薬剤とともに被験物質を投与した際に、リンパ球の増殖レベルが維持された場合、その被験物質は潜在的に免疫異常抑制作用を有すると判定できる。このような免疫異常抑制作用を有する被験物質は、免疫異常を有する患者、特にクラスII PcGタンパク質複合体の変異に関連した免疫異常を有する患者に対する、免疫異常の治療又は改善効果を有する薬剤の候補として有用であると評価できる。このような評価に基づき、免疫異常の治療薬又は改善薬の候補薬剤となる被験物質をスクリーニングすることができる。
被験物質は任意の物質であってよい。被験物質としては、例えば、DNAやRNAなどを含む核酸、酵素、抗体、ペプチドなどを含むタンパク質、小分子有機又は無機化合物などが挙げられる。
5.他の実施形態
さらに本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、Phc2タンパク質、又はそれを構成成分とするクラスII PcGタンパク質複合体の、個体レベルでの機能や作用メカニズムの解明に有用である。こうした個体レベルでの機能解明には、恒常的なPhc2遺伝子の発現抑制に加えて、前述したCre-loxPシステム等を利用した、部位特異的、時期特異的なPhc2発現抑制も有用である。
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[実施例1] 免疫沈降(IP)及びイムノブロット解析(IB)による胚形成時期のPhc2とクラスII PcG複合体の他の構成成分との会合の確認
モノクローナル抗体の製造
Phc2遺伝子配列(配列番号1;アクセッション番号AB062362)の、N22(N末端の第1アミノ酸から数えて22番目のアミノ酸)から終止コドンまでに対応するコード配列を有するcDNA部分断片をpGEXベクター(GE Healthcare社)中にサブクローニングして、Phc2/GST融合タンパク質を発現させた。この融合タンパク質を常法により精製し、雌BALB/cマウスに数回注射して免疫し、脾細胞を採取してそれをマウスミエローマ細胞と細胞融合させてハイブリドーマを生成し、これをAtsuta T., et al, Hybridoma (2001) 20: p.43-46に記載された方法に従ってスクリーニングすることにより、抗Phc2モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを得た。得られたハイブリドーマの培養上清を採取し、それを以下で抗Phc2モノクローナル抗体として用いた。
なお、抗Phc1モノクローナル抗体(Phc1遺伝子の完全長cDNA配列:GenBankアクセッション番号NM007905)及び抗Rnf2モノクローナル抗体(Pnf2遺伝子の完全長cDNA配列:GenBankアクセッション番号NM 011277)も常法に従って作製した。
免疫沈降(IP)及びイムノブロット解析(IB)
抗Phc2モノクローナル抗体、抗Phc1モノクローナル抗体、及び抗Rnf2モノクローナル抗体(それぞれ30μl、100μl及び30μlのハイブリドーマの培養上清)、並びに抗Rnf110ポリクローナル抗体(5μg;C-20; Santa Cruz Biotechnology)を、300μlのバッファー[20 mM Hepes (pH 7.8), 20 mM NaCl, 0.2 mM EDTA, 1 mM ジチオトレイトール (DTT)及び0.01% Triton X-100]中、4℃で少なくとも2時間かけて、50%(v/v) Protein G-Sepharose(25μl)にコンジュゲートさせた。
本実施例では、サンプルとして、11.5 日胚(days post coitus; dpc)からの全細胞抽出物を使用することとした。これは、少なくともHox遺伝子発現の脱抑制によって示される限り(非特許文献3及び6を参照)、哺乳動物PcG複合体はこの妊娠日齢において機能性を有すると考えられるからである。そこで、マウス11.5日胚(dpc)を、400μlのIPバッファー[20 mM Hepes (pH 7.8), 10%(v/v)グリセロール, 150 mM NaCl, 0.2 mM EDTA, 1 mM DTT及び2 mM Pefabloc SC (Roche)]中で、10秒間にわたる3回の超音波処理によって破砕した。遠心分離を行った後、上清を50μlの50% (v/v) protein G-Sepharoseを用いて60分かけて清澄化した。次いでその上清を、上記でSepharoseにコンジュゲート化した各抗体とともに4℃で90分にわたりインキュベートした。Sepharoseに結合させたタンパク質を、Pefablocを含まないIPバッファー800μlで5回洗浄し、SDSサンプルバッファー中で煮沸し、9%変性ポリアクリルアミドゲル中で分離し、それをイムノブロット解析に供した。イムノブロット解析では、抗Phc1モノクローナル抗体、抗Phc2モノクローナル抗体、抗Rnf2モノクローナル抗体を用いて検出を行った。
イムノブロット解析の結果を図1に示す。図1中、免疫沈降(IP)に使用した抗体を各レーンの上に、イムノブロット解析(IB)に使用した抗体を各泳動写真パネルの横にそれぞれ記載した。「input」は、免疫沈降を行わない全細胞抽出物サンプルを示す。また「none」は、一次抗体を加えずに免疫沈降を行ったサンプルを示す。
図1に示されているように、イムノブロット解析に用いた抗Phc2モノクローナル抗体により、11.5日胚(dpc)からの抽出物中の約40 kDaのタンパク質が検出された(一番上の泳動写真パネル)。この約40 kDaのタンパク質は、抗Rnf110モノクローナル抗体、抗Rnf2モノクローナル抗体、及び抗Rhc1モノクローナル抗体のそれぞれを用いて免疫沈降させたものであった。すなわち、タンパク質Phc2は、11.5日胚(dpc)抽出物由来のRnf110、Rnf2及びRhc1とともに免疫共沈したと考えられた。
一方、免疫沈降(IP)において一次抗体を加えなかったサンプルでは、抗Phc2モノクローナル抗体を用いてイムノブロット解析(IB)を行っても、Phc2は全く検出されなかった。
また、免疫沈降(IP)において抗Phc2モノクローナル抗体を用いて免疫沈降を行ったサンプルについて、抗Rnf2モノクローナル抗体を用いてイムノブロット解析を行ったところ、Rnf2が検出された(図1の中段の泳動写真パネル)。このことは、Phc2がRnf2とともに免疫沈降したという上記結果を確認するものであった。
さらに、免疫沈降(IP)において抗Phc2モノクローナル抗体を用いて免疫沈降を行い、抗Phc1モノクローナル抗体を用いてイムノブロット解析を行ったところ、Phc1が検出された(図1の下段の泳動写真パネル)。また免疫沈降(IP)において抗Phc1モノクローナル抗体を用いて免疫沈降を行い、抗Phc2モノクローナル抗体を用いてイムノブロット解析を行ったところ、Phc2が検出された(図1の下段の泳動写真パネル)。このように、抗Phc2モノクローナル抗体及びPhc1モノクローナル抗体はいずれも、Phc1及びPhc2を互いに免疫沈降させることができた。
以上の結果は、11.5 日胚(dpc)における、Phc2と、Rnf110、Rnf2及びPhc1との会合を示すものであった。
[実施例2] Phc2遺伝子欠損マウスの作製
以下の動物実験は全て、理化学研究所横浜研究所の「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」に従って行った。
Phc2遺伝子欠損マウス(単一遺伝子欠損マウス)の作製
本実施例ではジーンターゲティング法によりPhc2遺伝子欠損マウスを作製した。まず、マウスのゲノムライブラリー(理化学研究所)を、前述のPhc2 cDNA配列(配列番号1)の部分配列を有するDNA断片をプローブとしてスクリーニングを行い、マウスPhc2ゲノムクローンを複数個同定した。得られたクローンについて制限マップを作製し、次いでその制限マップに基づき、該クローンから切り出した断片を用いて、Phc2ゲノム配列のエキソン2〜3を含むEcoRI-XhoI制限断片をネオマイシン耐性(Neor)遺伝子カセットで置換したターゲティングベクターを作製した。ターゲティングベクターの模式図を図2に示している。図2には、Phc2遺伝子座とそのターゲティングベクター、及びそのターゲティングベクターで破壊したPhc2遺伝子の模式図を示す。ここでPGKneo及びpMC1発現カセットを、それぞれ陰性選択及び陽性選択に用いた。
このターゲティングベクターを、Nagy A., et al., Proc Natl Acad Sci U S A. (1993) 90: p.8424-8428に記載された方法に従って、R1 ES細胞(Dr. Nagy. A. [Samuel Lunenfeld Research Institute, Mt. Sinai Hospital, Tronto, Canada]より供与)中に導入し、5個の相同組換え細胞系を得た。このR1 ES細胞の相同組換え細胞系については、染色体上のPhc2遺伝子のエキソン2及びエキソン3をネオマイシン耐性(Neor)遺伝子カセットで置換することにより、Phc2遺伝子座が不活化されていることを確認した(図2)。この置換では、さらに36 kDaのアイソフォームのHDI領域をコードする開始コドンからE95までのポリペプチドストレッチが欠失していた。
このようにして得た相同組換えが確認されたES細胞(相同組換え細胞系)の細胞塊(ES細胞塊)を、野生型BDF1マウス同士の交配により得られた8細胞期胚と接触させて、そのまま一晩培養した。その結果、ES細胞と8細胞期胚が1つの胚盤胞胚を形成し、すなわちキメラ胚が得られた。作製したキメラ胚を、仮親である偽妊娠マウスの子宮角に移植して、キメラマウスを得た。得られたキメラマウスの雄をさらに野生型C57BL/6マウスの雌と交配してF1マウスを得た。このF1マウスについて、中軸骨格系の後方化などを指標にしてPhc2遺伝子が欠損したマウス(Phc2欠損ヘテロ接合マウス)を選別した。
Phc2+/-マウス(Phc2欠損ヘテロ接合体)は、C57BL/6系マウスに6回戻し交配して遺伝的バックグラウンドの影響を排除してから、得られるヘテロ接合体マウス間の交配によってホモ接合体の作製を行った。誕生時又は離乳時のいずれかに20匹を超える仔マウスについて、遺伝子型決定を行ったところ、メンデル遺伝比率で分離した3つの遺伝子型(野生型Phc2遺伝子ホモ接合体[+/+]、Phc2遺伝子欠損ヘテロ接合体[+/-]、Phc2遺伝子欠損ホモ接合体[-/-])が見出された(図3A)。図3Aの写真は、遺伝子型決定のためのサザン解析(上の写真パネル)及びPCR解析(下の写真パネル)の結果を示す。サザンブロッティングには、ゲノムDNAをEcoRIで消化し、図2に示した3'の外側プローブ(エキソン7に位置するもの)でプローブした。PCR解析には、3つのプライマーp1、p2、p3(図2)の混合物を用いた。なお、Phc2遺伝子欠損ホモ接合マウス(Phc2-/-マウス)は、生存能力(すなわち成体までの成長能力)及び繁殖能力を有していた。
次いで、これらのマウスにおけるPhc2遺伝子の発現確認を行った。11.5日胚(dpc)から常法により全細胞RNAを抽出し、図2に示した上記の3'の外側プローブを用いてノーザンブロット解析を行った。この結果、野生型マウス(野生型Phc2遺伝子ホモ接合体)では2.5 kbのバンドのみが検出されたのに対し、Phc2遺伝子欠損ホモ接合体マウスにおいては3つの異常な転写産物が明らかに示された(図3B、上の写真パネル)。野生型マウスでは、選択的スプライシングを受けて生成される少なくとも2種の転写産物が、2.5 kb及びごく少量の3.8kbの転写産物としてPhc2遺伝子座から生成されるが、それら2種の転写産物においてエキソン2〜7は共有されているがエキソン1又は0は差次的に利用されることが知られている(図3C、上の図;Yamaki M., et al., Gene (2002) 288: p.103-110を参照)。RT-PCR解析により、Phc2遺伝子欠損ホモ接合体では、エキソン2及びエキソン3の領域が欠失した転写産物が発現されることが確認された(図3C、下の写真パネル)。エキソン2及びエキソン3の欠失は、2.5kb転写産物においては開始コドンATGを除去し、また3.8kb転写産物ではフレームシフトを引き起こして終止コドンをより早く出現させる。従ってこれらのエキソン2及び3を欠失したPhc2遺伝子からは、タンパク質が産生されないか、あるいはPhc2タンパク質としての機能をもたないタンパク質断片しか発現されないものと考えられる。実際、11.5日胚(dpc)抽出物を抗Phc2モノクローナル抗体により免疫沈降させて免疫ブロット解析を行ったところ、Phc2遺伝子欠損ホモ接合体では、実施例1で検出されたようなおよそ40kDa又はそれ以下の分子量のシグナルは検出されなかった(図3D)。
二重遺伝子欠損マウスの作製
上記に記載の通り、Phc2+/-マウスをC57BL/6系マウスに戻し交配して、遺伝的バックグラウンドの影響を排除してから、得られたPhc2+/-マウスを、Phc1+/-マウス及びRnf110+/-マウスとそれぞれ交配して、二重ヘテロ接合体を作製した。Phc2+/-;Phc1+/-マウス(Phc2遺伝子とPhc1遺伝子の欠損をいずれもヘテロ接合で有するマウス)、及びPhc2+/-;Rnf110+/-マウス(Phc2遺伝子とRnf110遺伝子の欠損をいずれもヘテロ接合で有するマウス)は、生存能力及び繁殖能力を有していた。また、Phc2-/-;Rnf110+/-マウス(Phc2遺伝子欠損をホモ接合で、Rnf110遺伝子欠損をヘテロ接合で有するマウス)を作製したところ、これは生存能力及び繁殖能力を有していた。
次いで、Phc2/Phc1欠損二重ホモ接合体を作製するために、Phc2+/-;Phc1+/-マウス同士を交配した。また、Phc2/Rnf110欠損二重ホモ接合体を作製するため、Phc2-/-;Rnf110+/-マウス同士を交配し、またPhc2-/-;Rnf110+/-マウスとPhc2+/-;Rnf110+/-マウスを交配した。
[実施例3] 形態学的解析
上記のようにして作製されたマウス及びその交配によって得られたマウスについて、周産期又は妊娠後期のいずれかのマウス胚を採取し、Kessel M., and P. Gruss, Cell, (1991) 67: p.89-104に記載された方法に従って骨格標本を作製した。組織切片のin situハイブリダイゼーション及びホールマウントin situハイブリダイゼーションを、Kessel M., and P. Gruss, Cell, (1991) 67:89-104及びWilkinson D.G, and M.A. Nieto, Methods Enzymol (1993) 225:361-373に記載された方法に従って行った。この結果を図4に示す。
Phc2遺伝子欠損マウス
Phc2遺伝子欠損ホモ接合体(Phc2-/-マウス)の雄とPhc2遺伝子欠損ヘテロ接合体(Phc2+/-マウス)の雌とを交配して得られた18匹の仔マウスを調べた。図4に示される通り、全てのPhc2-/-マウス個体が、中軸骨格系の後方化を示す以下の特徴のうち少なくとも2〜3を示した。
a) 後頭骨と第1頸椎骨(C1)との間の異所性の骨。
b) 第2頸椎骨(C2)の特徴である頸部の歯突起と椎骨C1との融合。これはC1とC2の中間的な形態学的特徴である(図4Aの白抜き矢印)。
c) 第7頸椎骨(C7)における、本来は第1胸椎骨(T1)の特徴である肋骨の形成。
一方、Phc2+/-マウス個体(ヘテロ接合体)では欠失遺伝子の浸透度が比較的低かった(図4A、C)。Phc2変異体のC2の側方画像は、野生型マウスの第3頸椎骨(C3)とよく似ていた。全てのホモ接合体(Phc2-/-マウス)において、異所性肋骨は第7頸椎骨(C7)と結合していた(図4Aの白抜き矢じり印)。67%のPhc2-/-マウスでは、異所性肋骨は不完全であり第1肋骨の中央部分に融合していたが、残りのマウスでは頭側にシフトした胸骨に直接結合した完全な肋骨が形成されていた。野生型マウスにおける第2胸椎骨(T2)において特徴的である突出した棘突起は、全てのPhc2-/-ホモ接合体において第1胸椎骨(T1)と結合していた。その胸郭において、胸椎骨から分離した7番目の肋骨及び13番目の肋骨は喪失しているか浮遊していた(図4A)。同様に、胸腰部及び腰仙部の境界がPhc2-/-ホモ接合体では前方にシフトしていた。頭蓋には有意な変化は見られなかった。
以上の結果から、Phc2遺伝子欠損ホモ接合体及びヘテロ接合体において、中軸骨格系の後方化が確認された。
Phc2/Phc1遺伝子複合欠損マウス
Phc2/Phc1複合欠損ヘテロ接合体マウス(Phc2+/-;Phc1+/-マウス)では、生存能力及び繁殖能力を有し、外観上正常であるが、完全な浸透度を示す中軸骨格系の後方化が認められた。Phc2/Phc1複合ヘテロ接合体マウス同士を交配させて得られた、様々な遺伝子型の組み合わせの胚が得られた。
Phc1ホモ接合体の妊娠期致死率及び周産期致死率から予測された通り、Phc2の遺伝子型には関わりなく、Phc1欠損をホモ接合で有するPhc2/Phc1複合欠損マウスにおいては、生存して誕生したマウスは認められなかった。
またPhc2-/-;Phc1+/-マウスでは、17.5日胚(dpc)は生存していたが、生きて誕生しなかった。一方、Phc2-/-;Phc1+/+マウスは生存能力があった。このことから、Phc2遺伝子はヘテロ接合で欠損してもPhc1遺伝子に欠損がなければ生存できるが、Phc1遺伝子のヘテロ接合性欠損は、周産期におけるPhc2欠損ヘテロ接合体の生存に致死的影響を及ぼすことが示された。Phc2+/+;Phc1-/-マウス胚、Phc2+/-;Phc1-/-マウス胚、Phc2-/-;Phc1+/-マウス胚は、生存して誕生はしなかったが、少なくとも17.5日胚(dpc)までは生存が確認された。一方、Phc2-/-;Phc1-/-胚は、それらのPhc2+/+;Phc1-/-胚、Phc2+/-;Phc1-/-胚、Phc2-/-;Phc1+/-胚よりも早期の妊娠段階で死んでいった。
このことから、Phc1遺伝子とPhc2遺伝子とは、それら遺伝子の発現総量に依存して、胚の生存に相乗的に影響を及ぼすことが示された。
単一遺伝子欠損マウスと複合遺伝子欠損マウスの形態学的比較
単一遺伝子欠損マウスと複合遺伝子欠損マウスの間で中軸骨格系の発達状態を比較した。Phc2欠損マウスにおける中軸骨格系の後方化は、Phc1欠損マウスで観察された後方化と似ているが少し穏やかであった(図4A、B、C)。この両者の差は、頭蓋において最も顕著であった。後頭骨に結合した異所性弓の形成、二次口蓋裂、蝶形骨骨体前部の中央部の骨化欠如、蝶形骨の部分的分離は、もっぱらPhc1欠損マウスに見られたが、脊柱の変化は両方の欠損マウスでかなり類似していた。重要なことに、それぞれの変異による骨格系の欠陥は、もう一方の遺伝子のヘテロ接合性欠損によって悪化したことが示された。Phc2-/-;Phc1+/-マウス胚においては、後頭骨の背部の浮遊状態、二次口蓋裂、前方突起と第5頸椎骨(C5)の結合、胸椎骨から6番目の肋骨の脱離、及び肩甲骨の穴が観察された。このような中軸骨格系の変化は、Phc1単一欠損ヘテロ接合体又はPhc2単一欠損ヘテロ接合体においては全く認められなかった。同様に、Phc2+/-;Phc1-/-マウス胚においても、脊柱及び肩甲骨における骨格系欠陥は、Phc2-/-;Phc1+/-マウス胚において見られる状態と非常によく似ており、前方突起の第5頸椎骨(C5)との結合、不完全な肋骨の第6頸椎骨(C6)への結合、胸椎骨から6番目の肋骨の脱離及び肩甲骨の穴が観察された。これらの複合欠損マウスにおける頭蓋の欠陥は、外後頭骨の明らかなセグメント化、蝶形骨骨体前部の完全な欠失と鼓室小骨の尾側半分の欠失によって示されるように、Phc1単一欠損マウスと比較してやはり悪化した。このように中軸骨格系における後方化(ホメオティック変異)及び頭蓋及び肩甲骨における欠陥は、Phc1欠損とPhc2欠損によって相乗的に増強されることが示された。
Phc2-/-;Phc1-/-胚の大部分は、中期妊娠ステージ前に死亡した。Phc2-/-;Phc1-/-胚は、最大8.5 日胚(dpc)までは通常どおり発生したが、徐々に重度の発育遅延と外観的な異常が明らかになり、交尾後9.5日(dpc)には死滅した。交尾後9.5日(dpc)に、Phc2-/-;Phc1-/-欠損二重ホモ接合体胚は、他の遺伝子型を有する同腹子と、サイズや形態学的特徴の点で外観的に区別できた。Phc2-/-;Phc1-/-マウス胚では、頭蓋領域において第1及び第2の鰓弓がほとんど発達していなかった。体幹及び尾部領域においては、体節中胚葉は不規則にセグメント化しており、Phc2-/-;Phc1-/-二重ホモ接合体では平均して約20体節が形成されており、さらに尾芽が縮小していた。一方、他の遺伝子型を示す同腹子では体節数は25であった。中軸の伸長はPhc2-/-;Phc-/-胚において累積的に影響を受けた。これらの表現型は、Rnf110/Bmi1二重ホモ接合性マウスにおいて観察される表現型(Akasaka T., et al., Development (2001) 128:1587-1597)と大変よく類似していた。
次に、Phc-/-;Phc1-/-胚は早期致死であるため、骨格の発達状態を解析する代わりに9.5 日胚(dpc)におけるHoxクラスター遺伝子の発現を調べた。単一欠損マウスにおけるHoxb4及びHoxb8遺伝子発現の前方境界は、野生型マウスと比較して、ほとんどシフトしなかった(図5A)。Phc-/-;Phc1-/-二重ホモ接合体においてHoxb4発現は頭蓋領域においてわずかにしかし明確に脱抑制されたが、その発現ドメインの転写レベルは変化しなかった(図5A−d)。Hoxb8発現は頭蓋領域において脱抑制されただけでなくその発現ドメインにおいても減少した(図5A−h、h’)。従って、Phc2遺伝子産物が相乗作用して、その発現ドメインの吻側のHoxb4及びHoxb8の発現を抑制し、さらに、その発現ドメインにおいてHoxb8発現を維持することも示される。非常によく似た変化はRnf110/Bmi1二重突然変異体について報告されている(de Graaff W., et al., Proc Natl Acad Sci U S A. (2003) 100:13362-13367)。
Rnf110/Bmi1二重ホモ接合体におけるHoxb6の脱抑制が8.5〜9.5 日胚(dpc)に進行的に起こることが示された(Akasaka T., et al., Development (2001) 128:1587-1597)ことから、8.5 日胚(dpc)におけるHoxb8発現を調べた。その結果、Hoxb8発現は、8.5 日胚(dpc)においてはそれほど変化しなかった(図5B)。従ってPhc1及びPhc2は、Rnf110/Bmi1二重ホモ接合体において観察されるような早期の誘導ではなく、むしろHoxb8の転写状態を維持するために関わっていることが示された。
Phc2-/-;Rnf110+/-マウス同士を交配して作製されたPhc2-/-; Rnf110-/-二重ホモ接合体マウスは、18.5 日胚(dpc)前後の妊娠後期に死亡した。これに対し、大部分のPhc2単一欠損マウスとRnf110単一欠損マウスは成体に成長する(非特許文献3)。Phc2-/-; Rnf110-/-二重ホモ接合体における骨格系欠陥は、Phc2単一欠損マウス及びRnf110単一欠損マウスよりも悪化しており、Phc2+/-;Phc1-/-マウス及びPhc2-/-;Phc1+/-マウスの場合に似ている(図6)。後頭骨は明らかにセグメント化して異所性弓を形成し、一方後頭骨基底突起骨は完全にはセグメント化していなかった。頭蓋底及び肩甲骨の中間部分は軟骨の圧縮を受けなかった。舌骨の上側の角が茎状突起に融合していた。Phc2-/-;Rnf110-/-マウスでは、胸郭全体が、Phc2単一欠損マウス及びRnf110単一欠損マウスと比べ、より完全に前方にシフトしていた。Phc2/Phc1相乗作用とは異なり、それぞれの単一欠損ホモ接合体の骨格系の表現型は別の遺伝子のヘテロ接合性欠損によっては悪化しなかった(J. Shinga and H. Koseki; 未発表)。すなわち、Phc2遺伝子欠損は、Rnf110遺伝子欠損と相乗作用してその個体の生存及び中軸骨格系の前後軸(A-P)決定パターン形成に悪影響を及ぼすが、Phc2遺伝子欠損とPhc1遺伝子欠損の相乗作用による表現型の悪化よりもその程度は低かった。
[実施例4] 胚性繊維芽細胞(MEF)の増殖能の確認
マウス胎児性線維芽細胞(MEF)を、実施例2で得られたPhc2遺伝子欠損ホモ接合体及びヘテロ接合体の13.5〜14.5日胚(dpc)から、頭部及び内蔵を取り除いたマウス胚をハサミで細かく切り刻んで組織塊とし、それをトリプシン処理により単細胞化した後、培養液を加えて2〜3日培養することによって調製した。得られたMEFは、Kamijo T., et al., Cell (1997) 91:649-6593に記載されている3T9プロトコールに従って継代して維持し、3日間隔でその1継代毎の培養細胞数を計数した。さらに継代数5の時点で、そのMEFを直径60 mmのディッシュ1枚当たり1 x 104細胞でプレーティングして培養し、その培養細胞数を1日おきに計数することにより、MEFの増殖能を調べた。なおこの実験は、8個体のPhc2遺伝子欠損ホモ接合マウス及び6個体の野生型マウスの胚から得られたMEFを用いて4回繰り返して行ったが、ほとんど同じ結果がもたらされた。結果を図7に示す。
Phc2-/-マウスのMEFは、M33、Bmi1及びRnf110突然変異体由来のMEFと同様に、増殖不全及び早期老化を示した。野生型マウスとPhc2-/-マウス由来のMEFの間で増殖曲線を比較すると、初期の継代数においてさえ、Phc2-/-由来のMEFは野生型由来のMEFよりもずっとゆっくり増殖した。Phc2-/-由来のMEFは、継代数7(P7)で分裂を停止したが、野生型由来のMEFは継代数15(P15)で分裂を停止した。Phc2-/- MEFの増殖能はP5では失われていることが示された(図7B)。これらの観察結果は、Phc2-/-由来のMEFが野生型由来のMEFよりも早期に老化することを示していた。
[実施例5] 様々な組織におけるPhc2及びPhc1の発現量の測定
様々な組織におけるPhc2及びPhc1の発現量を、以下に従ってRT-PCRで測定し、比較した。
各種組織由来におけるPhc2遺伝子及びPhc1遺伝子の発現量のRT-PCR解析
様々な成体組織由来のマウス全RNAパネルはBD Biosciencesから購入した。第1鎖cDNAは、SuperScript III逆転写酵素(Invitrogen, Carlsbad, CA)及びランダムプライマーを用いて、製造業者のプロトコールに従い、2μgの全RNAから合成した。そのPCR用のフォワードプライマー及びリバースプライマーとしては、マウスPhc2に対して5’-CCTACAAGTTCAAGCGTTCC-3’(配列番号5)及び5’-GTCCCTCATGTGCATGTCAG-3’(配列番号6)、Phc1に対して5’-GACAGGCTAGCTCCCCAAAC-3’(配列番号7)及び5’-GCTAGGGCCTGGCTAGAAGT-3’(配列番号8)、βアクチン遺伝子に対して5’-ATGGATGACGATATCGCT-3’(配列番号9)及び5’-ATGAGGTAGTCTGTCAGGT-3’(配列番号10)を用いた。増幅条件は、Phc2遺伝子及びPhc1遺伝子のいずれについても、95℃にて10秒、60℃にて20秒、72℃にて1分を30サイクルであり、βアクチン遺伝子について95℃にて5秒、54℃にて10秒、72℃にて1分を25サイクルであった。このRT-PCR解析で得られた、様々な組織におけるPhc1及びPhc2遺伝子の発現量の結果を図8Aに示す。
この実験では、Phc2転写産物から383 bpのPCR産物が増幅された。Phc1転写産物からは少なくとも346 bpのPCR産物が増幅され、さらに選択的スプライシングによって生成されたPhc1転写産物から502 bpのPCR産物が増幅された。図8Aに示されるように、Phc2遺伝子及びPhc1遺伝子の発現は調べたほとんど全ての組織で認められたが、その発現レベルは様々であった。発現レベルの組織特異的な変動は、Phc1遺伝子ではPhc2遺伝子と比べて明らかに顕著であった。
異なる発達段階のリンパ球サブ集団におけるPhc2遺伝子及びPhc1遺伝子の発現量のRT-PCR解析
C57/BL6マウス由来の骨髄細胞を、APC標識B220、PE標識抗CD43、及びFITC標識抗IgMで染色した。B220+CD43+IgM-(プロB)、B220+CD43-IgM-(プレB)及びB220dullCD43-IgM+(未成熟B)集団を、VantageTM蛍光活性化セルソーター(BD Biosciences, Mountain View, CA)を用いて単離した。同様に、胸腺細胞を、FITC標識CD4及びPE標識CD8抗体を用いて染色し、CD4-8-, CD4+8+, CD4+8-及びCD4-8+サブ集団を選別した。未成熟及び成熟B細胞を単離するために、脾細胞を、FITC標識B220及びPE標識AA4抗体を用いて染色し、B220+AA4+(未成熟B細胞)とB220+AA4-(成熟B細胞)を選別した。異なる成熟B細胞集団を精製するために、脾細胞をAPC標識B220、FITC標識CD21及びPE標識CD23抗体を用いて染色し、B220+CD21-CD23+(濾胞B細胞; FOB)、B220+CD21+CD23dull(辺縁帯B細胞; MZB)及びB220+CD21-CD23-(新生B細胞; NFB)を選別した。胚中心B細胞を単離するために、100μgの2,4-ジニトロ-フルオロベンゼン(DNP)コンジュゲート化オボアルブミン(OVA)を含むアラム(Alum)を用いてマウスを免疫した。免疫化の12日後、脾細胞をPE標識B220及びFITC標識PNAを用いて染色し、B220+PNA+細胞を高速セルソーター(Aria, BD Biosciences)を用いて選別した。選別した細胞をTrizol試薬(Invitrogen)中に溶解し、製造業者のプロトコールに従って全RNAを抽出した。
得られた各種リンパ球サブ集団に由来する全RNA抽出物について、上記の各種組織由来の全RNAについてのRT-PCR解析と同様の方法に従って、Phc2遺伝子及びPhc1遺伝子の発現量を解析した。結果を図8Bに示す。
上記実験において、骨髄及び胸腺のそれぞれにおいて発達中のB及びTリンパ球、並びにナイーブ脾臓及び免疫化脾臓におけるB細胞サブ集団は、それらの発達段階に従って分画された。Phc2及びPhc1の発現は、それらの全ての画分に認められた。Phc2遺伝子は画分によって発現レベルの変動を示さなかったが、Phc1の発現レベルは非常に変動的であった。
さらに、静止Bリンパ球におけるPhc2及びPhc1の発現が、B細胞受容体(BCR)の架橋、BAFF刺激、CD40ライゲーション、又はLPS刺激によって媒介される様々な誘導シグナルによって調節されるかどうかを調べるために、それらシグナルで活性化したBリンパ球サブ集団についても、同様に全RNAを抽出してRT-PCR法によりPhc2及びPhc1の発現量の解析を行った。抗IgM抗体によるBCR結合は、静止B細胞の生存及び細胞サイクル侵入を誘導することが知られている(Kraus M., et al., Cell (2004) 117: 787-800)。BAFFは、B細胞の生存能力を維持するように機能するが、細胞サイクルのS期侵入は誘導しない(Mackay F. and Browning J.L. Nature Rev Immunol (2002) 2:465-475)。抗CD40によるCD40ライゲーションは、生存、細胞サイクルの進行、及び細胞間相互作用のための様々な接着分子の上方制御を誘導する(Bishop G.A. and Hostager B.S. Cytokine Growth Factor Rev. (2003) 14:297-309)。LPSは、B細胞に対して強力な分裂促進活性を有するT非依存性抗原に当たる(Miyake K. Trends Microbiol. (2004) 12:186-192)。この実験で得られる、α-IgMによるBCRの架橋、BAFF刺激、α-CD40及びLPS刺激によるCD40連結により活性化した場合の静止Bリンパ球におけるPhc2及びPhc1遺伝子の発現量の結果を図8Cに示す。
図8Cに示される通り、Phc2遺伝子はどのシグナルで活性化したBリンパ球でもほぼ一定量で発現されている。これに対し、Phc2遺伝子の発現量は、活性化に使用したシグナルによって変動した。シグナルは1時間以内にPhc1遺伝子発現を大幅に増加させたが、Phc2遺伝子発現には影響を及ぼさなかった。なおBAFFによって誘導されたPhc1発現の上方制御は少なくとも7時間にわたり持続したが、他のシグナルによる誘導は一過性であった。
従って、Phc1発現は様々な誘導性刺激によって調節されているが、Phc2は構成的に発現していることが示された。
本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、クラスII PcG複合体の機能やその変異によって引き起こされる異常・疾患の解析に有用なモデル動物として使用できる。本発明のPhc2遺伝子欠損動物は、特に免疫異常を発症しやすいことから、免疫異常易発症モデル動物として、例えば被験物質の免疫異常抑制作用又は免疫異常誘発作用の評価系として使用できる。本発明のPhc2遺伝子欠損動物を用いた被験物質の評価方法は、例えば、免疫異常疾患に対する治療薬のスクリーニング、あるいは免疫異常を誘発するリスクのある物質の同定のために有利に使用できる。
図1は、胚形成時期の胚由来のPhc2とクラスII PcG複合体の他の構成成分との会合を示した、免疫沈降(IP)及びイムノブロット解析(IB)の結果を示す写真である。免疫沈降(IP)及びイムノブロット解析(IB)に使用した抗体を、それぞれ各レーンの上及び各パネルの横に記載している。 図2は、マウスPhc遺伝子の破壊戦略を模式的に示す図である。Phc2遺伝子座、ターゲティングベクター、及び標的化対立遺伝子を示す。2〜7の黒いボックスはPhc2遺伝子のエキソンを表す。利用する制限部位(EcoRI, E; XhoI, X)の位置、3'側の外部プローブ及びPCRプライマー(p1〜p3)の位置、ネオマイシン耐性(Neor)遺伝子カセット、並びにtk遺伝子カセットが示されている。 図3は、Phc2欠損マウスの作製においてPhc2欠損を確認するための実験結果を示す写真である。図3Aは、遺伝子型決定のためのサザン解析(上のパネル)及びPCR解析(下のパネル)の結果を示す。図3Bは、交尾後11.5 日(dpc)の野生型胚及びホモ接合体胚におけるPhc2発現のノーザン解析の結果を示す。下のパネルは上と同じゲルのエチジウムブロマイド染色結果である。図3Cは、各エキソンを増幅するプライマーを用いたRT-PCR法による、Phc2転写産物の発現解析の結果を示す。選択的スプライシングによって生成される2.5 kb及び3.8 kbの転写産物上に、PCRプライマー、開始コドンATG、終止コドンTAG、各エキソンの位置を示す(上の図)。特異的PCR産物をアスタリスクで示す。エキソン0−4、エキソン1−4のPCR産物として示された、サイズが小さくなったPhc2転写産物(エキソン2及び3を欠損したことによる)の存在に注意されたい。図3Dは、11.5 日胚(dpc)におけるPhc2の免疫沈降及びイムノブロット解析の結果を示す。 図4はPhc2-/-マウス及びPhc2/Phc1複合欠損マウスの表現型の変化を示す図であり、図4Aは、Phc2-/-マウスにおける骨変化及びPhc2/Phc1複合欠損マウスにおける骨変化を示す写真である。最左列から順に、Phc2+/+;Phc1+/+(野生型)マウス、Phc2-/-;Phc1+/+(Phc2遺伝子欠損ホモ接合体)マウス、Phc2-/-;Phc1+/-(Phc2遺伝子欠損をホモ接合で、Phc1遺伝子欠損をヘテロ接合で有する)マウス、Phc2+/+;Phc1-/-(Phc1遺伝子欠損ホモ接合体)マウス、Phc2+/-;Phc1-/-(Phc2遺伝子欠損をヘテロ接合で、Phc1遺伝子欠損をホモ接合で有する)マウス。図4Aは、最上段のパネルが、後頭骨頸領域の側方画像、2段目から7段目のパネルが、頸椎骨C1、C2、C3、C5、C6及びC7それぞれの全体画像、8段目のパネルが胸郭の腹側画像、最下段が肩甲骨の全体画像を示す。後頭骨頸領域の側方画像において、頸椎骨C1及びC2はそれぞれ数字1及び2で示しており、異所性の弓又は骨片をアスタリスクで示している。Phc2+/-;Phc1-/-マウスにおいては、外後頭骨のセグメント化をカギ括弧で示す。頸椎骨C1について、前方結節を矢印で示す。頸椎骨C1及びC2について前結節及び歯突起をそれぞれ黒塗りの矢印及び白抜きの矢印で示す。頸椎骨C5、C6及びC7について、椎骨動脈の前結節及び異所性肋骨を、それぞれ黒塗りの矢じり印及び白抜きの矢じり印で示す。胸郭の腹側画像においては、肋骨が結合している頸椎骨の番号を示している。 図4はPhc2-/-マウス及びPhc2/Phc1複合欠損マウスの表現型の変化を示す図であり、図4Bは、Phc2-/-マウス及びPhc2/Phc1複合欠損マウスにおける頭蓋及び鼓室小骨の腹側画像を示す写真である。頭蓋において、第2口蓋裂が口蓋の内端を黄色の線で示すことによって強調表示している。Phc2+/-;Phc1-/-マウスにおける蝶形骨の中心で軟骨圧縮が起こっていないことに注意すべきである。 図4はPhc2-/-マウス及びPhc2/Phc1複合欠損マウスの表現型の変化を示す図であり、図4Cは、後方化の全体的な模式図を示す。a) 上方後頭骨→C1、異所性の弓又は骨の出現;b) C1→C2、歯突起の第1頸椎骨C1への融合;c) C2→C3;d) C5→C6、第5頸椎骨C5への前結節の結合;e) C6→T1、頸部肋骨の第6頸椎骨C6への結合;f) C7→T1、頸部肋骨の第7頸椎骨C7への結合;g) C7→T2、C7上の突出した棘突起;h) T1→T2、T1上の突出した棘突起;i) T2→T3,T2中の突出した棘突起の欠如;j) T6→T8、胸椎骨からの第6肋骨の脱離;k) T7→T8、胸椎骨から7番目の肋骨の脱離;l) T13→L1、第20頸椎骨からの肋骨欠失;m) L5→S1,第25頸椎骨における仙腸関節の形成;n) L6→S1、第26頸椎骨における仙腸関節の形成;o) S3→Ca1、第29頸椎骨における第1尾椎の出現;p) S4→Ca1、第30頸椎骨における第1尾椎の出現。 図5は、マウス胚におけるHoxb4及びHoxb8遺伝子の発現を示す写真である。図5Aは、野生型マウス、Phc2及びPhc1遺伝子欠損の単一及び二重ホモ接合体マウスの9.5 日胚(dpc)における、Hoxb4遺伝子(a〜d)及びHoxb8遺伝子(e〜h)の発現。それぞれの遺伝子型を上部に示しており、最左列から順に、Phc2+/+;Phc1+/+、Phc2-/-;Phc1+/+、Phc2+/+;Phc1-/-、Phc2-/-;Phc1-/-である。各試料は、同じ持続期間にわたって発色反応に供した。h'で示す試料は、hで示した試料と同じものを、より長く発色反応に供したものである。各写真中、耳胞を点線で示している。欠損二重ホモ接合体において、発現の予定前方境界を黄色の矢印で示す。これらの画像は、いずれも同じ倍率で撮影した。図5Bは、野生型マウス及びPhc2及びPhc1遺伝子欠損二重ホモ接合体マウスの8.5 日胚(dpc)におけるHoxb8遺伝子発現を示す。これらの画像はどちらも同じ倍率で撮影した。 図6は、Phc2及びRnf110の単一欠損マウス、並びにPhc2/Rnf110複合欠損マウスにおける表現型の変化を示す図であり、図6Aは、野生型マウス及びPhc2/Rnf110欠損の単一ホモ接合体及び二重ホモ接合体マウスにおける骨変化を示す写真である。最左列から順に、Phc2+/+;Rnf110+/+、Phc2-/-;Rnf110+/+、Phc2+/+;Rnf110-/-、Phc2-/-;Rnf110-/-である。a)〜d)は後頭骨頸領域の側方画像である。第8頸椎骨と結合した肋骨を黒の矢じりで示す。頸椎骨C1及びC2は数字1及び2で示しており、異所性弓又は骨片はアスタリスクで示している。d)及びh)において、外後頭骨の完全なセグメント化を示す異所性弓をアスタリスクで示す。舌骨と茎状突起とをつなぐ異所性軟骨圧縮を、赤の矢印で示す。後頭骨と蝶形骨の間の軟骨圧縮の欠如を点線で示す。e)〜h)は頭蓋の腹側画像である。i)〜l)は胸郭の腹側画像である。肋骨が結合している頸椎骨の番号を数字で示している。胸椎骨は、Phc2遺伝子欠損単一ホモ接合体(j)及び二重ホモ接合体(l)においてアスタリスクで示しているように、前方へシフトしている。m)〜p)は肩甲骨の全体画像である。図6Bは、後方化の全体的な模式図を示す。a) 上方後頭骨→C1、異所性の弓又は骨の出現;b) C1→C2、歯突起の第1頸椎骨C1への融合;c) C7→T1、頸部肋骨のC7への結合;d) T7→T8、胸椎骨から7番目の肋骨の脱離;e) T13→L1、第20頸椎骨からの肋骨欠失;f) L6→S1、第26頸椎骨における仙腸関節の形成;g) S4→Ca1、第30頸椎骨における第1尾椎の出現; h) より完全な上方後頭骨→C1の後方化、上方後頭骨及び外後頭骨の完全なセグメント化、i) C1→C3、C2よりもむしろC3に似た全体的構造;j) C5→C6、第5頸椎骨C5への前結節の結合;k) C6→T1、頸部肋骨のC6への結合;l) T12→L1、第19頸椎骨からの肋骨欠失;m) L4→S1、第25頸椎骨における仙腸関節の形成;n) S3→Ca1、第29頸椎骨における第1尾椎の出現。 図7は、Phc2-/-マウス及び野生型マウス由来のMEFの増殖曲線を示す図である。図7Aは、3T9プロトコールでの細胞増殖実験における継代毎の細胞数の変化を示す。細胞数は、野生型マウス由来のMEF(直線)及びPhc2-/-マウス由来のMEF(点線)の細胞総数を3日間隔で測定したものである。バーは平均値±標準誤差を表す。図7Bは、継代数5(P5)の培養における細胞増殖能を、野生型マウス由来のMEF(直線)及びPhc2-/-マウス由来のMEF(点線)の細胞数の変化によって示す。 図8は、マウスの成体の各種組織、リンパ球サブ集団、及び様々な細胞外刺激によって誘導されたBリンパ球におけるPhc2及びPhc1遺伝子の発現を示す写真である。図8Aは、様々な成体組織及び交尾後7、11、15、17 日後(dpc)の全胚におけるPhc2及びPhc1遺伝子の発現を、RT-PCR解析した結果を示す。陰性対照として、蒸留水(dH2O)及びマウスゲノムDNA (gDNA)を用いた。β-アクチンを用いてcDNAの量を標準化した。図8Bは、骨髄及び胸腺のそれぞれにおいて発達中のB及びTリンパ球、並びにナイーブ脾臓及び免疫化脾臓中のB細胞サブ集団でのPhc2及びPhc1遺伝子の発現をRT-PCR解析した結果を示す。成熟脾性B細胞は、胚中心Bサブ集団 (GCB)、濾胞性Bサブ集団 (FOB)、辺縁体Bサブ集団 (MZB)及び新たに形成されたB (NFB)サブ集団に分画された。図8Cは、各種刺激によって活性化された静止Bリンパ球における、Phc2及びPhc1遺伝子の発現をRT-PCR解析した結果を示す。
配列番号5〜10の配列は、プライマーである。

Claims (8)

  1. 染色体上のPhc2遺伝子の機能を欠損させた非ヒト哺乳動物。
  2. Phc2遺伝子の機能が、Phc2遺伝子又はその発現制御領域上における少なくとも一部の配列の欠失、置換及び/又は他の配列の挿入によって欠損している、請求項1に記載の非ヒト哺乳動物。
  3. Phc2遺伝子の機能が、染色体上の両アレルで欠損している、請求項1又は2に記載の非ヒト哺乳動物。
  4. 中軸骨格系の後方化を示し、かつリンパ球の発生能が正常である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非ヒト哺乳動物。
  5. マウスである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の非ヒト哺乳動物。
  6. 免疫異常易発症モデル動物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の非ヒト哺乳動物。
  7. 請求項1〜6に記載の非ヒト哺乳動物において、被験物質の投与条件下と非投与条件下における該動物の表現上の相違を指標として、該被験物質の免疫異常抑制作用又は免疫異常誘発作用を評価する方法。
  8. 被験物質の免疫異常抑制作用又は免疫異常誘発作用を、中軸骨格系の後方化レベル、リンパ球の増殖レベル、及び胚性繊維芽細胞の増殖が停止する継代数から選ばれる少なくとも1つを指標として評価する、請求項7に記載の方法。
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