JP2007146280A - 伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼板 - Google Patents

伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼板 Download PDF

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Abstract

【課題】伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板を提供する。
【解決手段】C:0.03〜0.10質量%、Si:0.08〜1.5質量%、Mn:1.0〜3.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.002〜0.02質量%、N:0.0005〜0.01質量%、酸可溶Al:0.01質量%以下、酸可溶Ti:0.008質量%未満、CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04質量%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、その鋼板中に存在する円相当直径1μm以上の介在物で、かつ、長径/短径が5以上の延伸介在物の個数割合が20%以下である。
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車用足回り部材の素材として好適な、伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板に関するものである。
自動車の安全性向上と環境保全につながる燃費向上の観点から自動車用熱延鋼板の高強度軽量化に対する要求が高まっている。自動車用部品の中でも特に足回り系と呼ばれるフレーム類やアーム類等の重量は、車体全体の重量に占める割合が高いため、こうした部位に用いられる素材を高強度化することによって薄肉化することにより、その軽量化を実現することが可能となる。また、この足回り系に使用される材料は、走行中の振動に対する耐久性の観点から高い疲労特性が要求される。
しかし、高強度化、耐疲労性に伴って穴拡げ性は延性と同様に低下する傾向を示し、複雑な形状をしている自動車の足回り系等への高強度鋼板の適用にあたっては、その穴拡げ性が重要な検討課題となる。
このため、機械的強度特性と、疲労特性と穴拡げ性(加工性)を両立させることを目的とした幾つかの鋼板が提案されている。例えば、特許文献1にはフェライト相とマルテンサイト相の複合組織鋼板中に微細なCuの析出または固溶体を分散させた鋼板(一般にDP鋼板という。)が提案されている。この特許文献1に示す開示技術においては、固溶しているCuもしくはCu単独で構成される粒子サイズが2nm以下のCu析出物が疲労特性向上に非常に有効であり、かつ加工性も損なわないことを見出して、各種成分の組成比を限定している。
こうしたDP鋼板は、強度と延性のバランスや疲労特性には優れるものの、穴拡げ試験で評価される伸びフランジ性は依然として劣ることが知られている。その理由の一つは、DP鋼板は軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相の複合体であるため、穴拡げ加工時に両相の境界部が変形に追随できず破断の起点になり易いからであると考えられる。
これに対して疲労特性のみならず、最近のホイールや足廻り部材の材料に要求される厳しい伸びフランジ性の要求を満たした高強度熱延鋼板が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この特許文献2の開示技術においては、できるだけ低C化することにより主相をベイナイト組織とするとともに、固溶強化または析出強化したフェライト組織を適切な体積比率で含有させ、これらフェライトとベイナイトの硬度差を小さくし、更に粗大な炭化物の生成を回避すること等を要旨としている。
特開平11−199973号公報 特開2001−200331号公報
ところで、上記特許文献2に開示されている様な、鋼板組織をベイナイト相主体とし、粗大な炭化物の生成を抑制した高強度熱延鋼板は、確かに優れた伸びフランジ性を示すものの、Cuを含有したDP鋼板に比べてその疲労特性は必ずしも優れているとは言えない。また、粗大な炭化物の生成を抑制しただけでは厳しい穴拡げ加工を行った場合に亀裂の発生を防止することができない。本発明者らの研究によれば、これらの原因は、鋼板中のMnSを主体とする延伸した硫化物系介在物の存在にあることが分かった。繰り返し変形を受けると表層またはその近傍に存在する延伸した粗大なMnS系介在物の周辺に内部欠陥が発生し、亀裂として伝播することによって疲労特性を劣化させると共に、やはり延伸した粗大なMnS系介在物は穴拡げ加工時の割れ発生の起点となり易いためである。
このため、鋼中のMnS系介在物をできる限り延伸させず微細球状化することが望ましい。
しかしながら、Mnは、CやSiとともに材料の高強度化に有効に寄与する元素であるところ、高強度鋼板では強度確保のためMnの濃度を高く設定するのが一般的であり、さらに二次精錬工程で脱Sの重処理を実施しなければS濃度も50ppm以上は含まれてしまう。このため、鋳片中にはMnSが存在するのが通常である。鋳片が熱間圧延および冷間圧延されると、MnSは変形し易いため、延伸したMnS系介在物となり、これが疲労特性と伸びフランジ性(穴拡げ加工性)を低下させる原因となる。しかし、MnSの析出・変形制御の視点にたって伸びフランジ性と疲労特性に優れる熱延鋼板を提案した例は見られない。
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、鋳片中に微細なMnSとして析出させ、さらに圧延時に変形を受けず、割れ発生の起点となり難い微細球状介在物として鋼板中に分散させることにより、伸びフランジ性と疲労特性を向上させた伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼板を提供することにある。
上述の如き問題点を解決するために、本発明者は、鋳片中に微細なMnSとして析出させ、さらに圧延時に変形を受けず、割れ発生の起点となり難い微細球状介在物として鋼板中に分散させる方法、および疲労特性を劣化させない添加元素の解明を中心に鋭意研究を進めた。その結果、Ce、Laの添加による脱酸により生成した微細で硬質なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイド上にMnSが析出し、圧延時にもこの析出したMnSの変形が起こり難いため、鋼板中には延伸した粗大なMnSが著しく減少し、繰り返し変形時や穴拡げ加工時において、これらのMnS系介在物が割れ発生の起点や亀裂伝播の経路となり難くなり、これが上述の如き耐疲労性等の向上につながることを解明した。
本発に係る伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼板の要旨は、以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.03〜0.10%、Si:0.08〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.002%以上、N:0.0005〜0.01%、酸可溶Al:0.01%以下、酸可溶Ti:0.008%未満、CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、その鋼板中に存在する円相当直径1μm以上の介在物で、かつ、長径/短径が5以上の延伸介在物の個数割合が20%以下であることを特徴とする。
(2)質量%で、C:0.03〜0.10%、Si:0.08〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.002%以上、N:0.0005〜0.01%、酸可溶Al:0.01%以下、酸可溶Ti:0.008%未満、CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、その鋼板中にはCeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した介在物を個数割合で10%以上含むことを特徴とする。
(3)質量%で、C:0.03〜0.10%、Si:0.08〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.002%以上、N:0.0005〜0.01%、酸可溶Al:0.01%以下、酸可溶Ti:0.008%未満、CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、その鋼板中に存在する円相当直径1μm以上の介在物で、かつ、長径/短径が5以上の延伸介在物の体積個数密度が1.0×10個/mm以下であることを特徴とする。
(4)質量%で、C:0.03〜0.10%、Si:0.08〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.002%以上、N:0.0005〜0.01%、酸可溶Al:0.01%以下、酸可溶Ti:0.008%未満、CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、その鋼板中にはCeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した介在物の体積個数密度が1.0×10個/mm以上であることを特徴とする。
(5)質量%で、C:0.03〜0.10%、Si:0.08〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.002%以上、N:0.0005〜0.01%、酸可溶Al:0.01%以下、酸可溶Ti:0.008%未満、CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、その鋼板中に存在する円相当直径1μm以上の介在物で、かつ、長径/短径5以上の延伸介在物の平均円相当直径が10μm以下であることを特徴とする伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼板。
(6)質量%で、C:0.03〜0.10%、Si:0.08〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.002%以上、N:0.0005〜0.01%、酸可溶Al:0.01%以下、酸可溶Ti:0.008%未満、CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、その鋼板中にはCeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した介在物が存在し、該介在物中に平均組成でCeもしくはLaの1種または2種の合計を0.5〜50質量%含有することを特徴とする伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼鈑。
本発明の方法によれば、鋳片中に微細なMnSとして析出させ、さらに圧延時に変形を受けず、割れ発生の起点となり難い微細球状介在物として鋼板中に分散させることにより、伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度熱延鋼板を得ることができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態として、伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼板について、詳細に説明をする。以下、組成における質量%は、単に%と記載する。
先ず、本発明を完成するに至った実験について説明する。
本発明者は、C:0.07%、Si:0.2%、Mn:1.2%、P:0.01%以下、S:0.005%、N:0.003%を含有し残部がFeである溶鋼に対して様々な元素を用いて脱酸を行い、鋼塊を製造した。得られた鋼塊を熱間圧延して3mmの熱延鋼板とした。これら製造した熱延鋼板を穴拡げ試験および疲労試験に供すると共に、鋼板中の介在物個数密度、形態および平均組成を調査した。
その結果、Alで殆ど脱酸することなく、Siを添加した後、少なくともCe、Laを添加して脱酸した鋼板が最も伸びフランジ性と疲労特性に優れることが分かった。その理由は、Ce、Laの添加による脱酸により生成した微細で硬質なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイド上にMnSが析出し、圧延時にもこの析出したMnSの変形が起こり難いため、鋼板中には延伸した粗大なMnSが著しく減少する。その結果、繰り返し変形時や穴拡げ加工時において、これらのMnS系介在物が割れ発生の起点や亀裂伝播の経路となり難くなり、これが上述の如き耐疲労性等の向上につながるためである。
なお、Ce酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイドおよびランタンオキシサルファイドが微細化する理由は、最初にSi脱酸で生成したSiO系介在物を後から添加したCe、Laが還元分解して微細なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイドおよびランタンオキシサルファイドを形成すること、さらに生成したCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイドおよびランタンオキシサルファイド自体と溶鋼との界面エネルギーが低いため生成後の凝集合体も抑制されるためである。
これら実験的検討から得られた知見に基づいて、本発明者は、以下に説明するように、鋼板の化学成分条件の検討を行い、本発明を完成させるに至った。
以下、本発明において化学成分を限定した理由について説明をする。
C:0.03〜0.10%
Cは、鋼の焼き入れ性と強度を制御する最も基本的な元素であり、焼入れ硬化層の硬さおよび深さを高めて疲労強度の向上に対して有効に寄与する。即ち、このCは、鋼板の強度を確保するために必須の元素であり、高強度鋼板を得るためには少なくとも0.03%が必要である。しかし、このCが過剰に含まれると、従来のようにTi炭化物生成によりCを固定したり、冷却条件を駆使しても、セメンタイト相が生成されてしまう。このセメンタイト相は、鋼板の加工硬化を誘起し、伸びフランジ特性の向上に好ましくない。このため、本発明においては、加工性を向上させる観点から、Cの濃度を0.10%以下とする。
Si:0.08〜1.5%
Siは本発明のようにAlやTiを極力添加しない溶鋼において主要な脱酸元素となるため、本発明において極めて重要である。また、Siは、焼入れ加熱時にオーステナイトの核生成サイト数を増加させ、オーステナイトの粒成長を抑制するとともに、焼入れ硬化層の粒径を微細化させる機能を担う。このSiは、炭化物生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制する。さらに、このSiは、ベイナイト組織の生成に対しても有効であり、材料全体の強度確保の観点において重要な役割を担う。溶鋼中の溶存酸素濃度を低下させ、一旦SiO系介在物を生成させるためには(このSiO系介在物を後から添加するCe、Laで還元することにより介在物を微細化させるため)、Siを0.08%以上添加する必要がある。このため、本発明においては、Siの下限を0.08%とした。これに対して、Siの濃度が高すぎると、介在物中のSiO2濃度が高くなって大型介在物が生成し易くなり、また靭延性が極端に悪くなり、表面脱炭や表面疵が増加するため疲労特性が却って悪くなる。これに加えて、Siを過剰に添加すると溶接性や延性に悪影響を及ぼす。このため、本発明においては、Siの上限を1.5%とした。
Mn:1.0〜3.0%
Mnは、製綱段階での脱酸に有用な元素であり、C、Siとともに鋼板の高強度化に有効な元素である。このような効果を得るためには、このMnを1.0%以上は含有させる必要がある。しかしながら、Mnを、3.0%を超えて含有させるとMnの偏析や固溶強化の増大により延性が低下する。また、溶接性や母材靭性も劣化するのでこのMnの上限を3.0%とする。
P:0.05%以下
PはFe原子よりも小さな置換型固溶強化元素として作用する点において有効であるが、オーステナイトの粒界に偏析し、粒界強度を低下させることにより、ねじり疲労強度を低下させ、加工性の劣化が懸念されるので0.05%以下とする。また固溶強化の必要がなければPを添加する必要はなく、Pの下限値は0%を含むものとする。
S:0.002%以上
Sは、不純物として偏析して、SはMnSの粗大な延伸介在物を形成して伸びフランジ性を劣化させるため、極力低濃度であることが望ましい。従来は、伸びフランジ性確保すべく、Sの濃度を0.002%未満まで極低硫化させる必要があった。しかし、本発明では微細で硬質なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイド上にMnSを析出させ、圧延時にも変形が起こり難く、介在物の延伸を防止しているため、Sの濃度の上限値は特に規定しない。
また、S濃度を従来並の0.002%未満に低減するためには、二次精錬で脱硫処理を相当強化する必要があり、その濃度を実現させるための脱硫処理コストが高くなり過ぎること、且つMnSを形態制御した効果が発現し難くなるためS濃度の下限値は0.002%とする。
N:0.0005〜0.01%
Nは、溶鋼処理中に空気中の窒素が取り込まれることから、鋼中に不可避的に混入する元素である。Nは、Al、Ti等と窒化物を形成して母材組織の細粒化を促進する。しかしながら、このNを添加し過ぎると、微量Alや微量Tiであっても粗大な析出物を生成し、伸びフランジ性を劣化させる。このため、本発明においては、Nの濃度の上限を0.01%とする。一方、Nの濃度を0.0005%未満とするにはコストが高くなるので0.0005%を下限とする。
酸可溶Al:0.01%以下
酸可溶Alはその酸化物がクラスター化して粗大になり易く、伸びフランジ性や疲労特性を劣化させるため極力抑制することが望ましい。しかしながら、予備的な脱酸材として0.01%までは用いることが許容される。これは、酸可溶Al濃度が0.01%超になると、介在物中のAl含有率が50%を超え、介在物のクラスター化が起こるためである。クラスター化防止の観点から酸可溶Al濃度は低い方が良く、下限値は0%を含む。また、酸可溶Al濃度とは、酸に溶解したAlの濃度を測定したもので、溶存Alは酸に溶解し、Alは酸に溶解しないことを利用した分析方法である。ここで、酸とは、例えば塩酸1、硝酸1、水2の割合(質量比)で混合した混酸が例示できる。この様な酸を用いて、酸に可溶なAlと、酸に溶解しないAlとに分別でき、酸可溶Al濃度が測定できる。
酸可溶Ti:0.008%未満
酸可溶Tiもその酸化物がクラスター化して粗大になり易いこと、鋼中のNと結びついて粗大なTiNの介在物を生成し易いことから、酸可溶Tiは0.008%未満とし、下限値は0%を含む。また、酸可溶Ti濃度とは、酸に溶解したTiの濃度を測定したもので、溶存Tiは酸に溶解し、Ti酸化物は酸に溶解しないことを利用した分析方法である。ここで、酸とは、例えば塩酸1、硝酸1、水2の割合(質量比)で混合した混酸が例示できる。この様な酸を用いて、酸に可溶なTiと、酸に溶解しないTi酸化物とに分別でき、酸可溶Ti濃度が測定できる。
CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%
Ce、LaはSi脱酸により生成したSiO2を還元し、MnSの析出サイトとなり易く、且つ硬質、微細で圧延時に変形し難いCe酸化物(例えば、Ce、CeO)、セリュウムオキシサルファイド(例えば、CeS)、La酸化物(例えば、La、LaO)、ランタンオキシサルファイド(例えば、LaS)、Ce酸化物−La酸化物、或いはセリュウムオキシサルファイド−ランタンオキシサルファイドを主相(50%以上を目安とする。)とする介在物を形成する効果を有している。
ここで、上記介在物中には、脱酸条件によりMnO、SiO2、或いはAlを一部含有する場合もあるが、主相が上記酸化物であればMnSの析出サイトとして十分機能し、且つ介在物の微細・硬質化の効果も損なわれることはない。このような介在物を得るためには、CeもしくはLaの1種または2種の合計濃度を0.0005%以上0.04%以下にする必要がある。CeもしくはLaの1種または2種の合計濃度が0.0005%未満ではSiO2介在物を還元できず、0.04%超ではセリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイドが多量に生成し、粗大な介在物となり伸びフランジ性や疲労特性を劣化させる。
次に、本発明の鋼板中における介在物の存在条件について説明する。尚、鋼鈑とは、熱間圧延、或いはさらに冷間圧延を経て得られた圧延後の板を意味している。
伸びフランジ性と疲労特性に優れた鋼板を得るためは、割れ発生の起点や割れ伝播の経路となり易い延伸した粗大なMnS系介在物を鋼板中でできるだけ低減することが重要である。本発明者は、円相当径1μm未満のMnS系介在物は割れ発生起点としては無害であり、伸びフランジ性や疲労特性を劣化させないことを実験的に知見しており、また、円相当直径1μm以上の介在物は走査型電子顕微鏡(SEM)等による観察も容易であることから、鋼板における円相当直径が1μm以上の介在物を対象として、その形態および組成を調査し、MnS系介在物の分布状態を評価した。ここで、円相当直径とは、断面観察した介在物の長軽と短径から、(長径×短径)0.5として求めたものと定義する。
なお、MnS系介在物の円相当直径の上限は特に規定するものではないが、現実的には1mm程度のMnS系介在物が観察される場合がある。
延伸介在物の個数割合は、SEMを用いてランダムに選んだ円相当直径1μm以上の複数個(例えば50個程度)の介在物を組成分析すると共に、介在物の長径と短径をSEM像から測定する。ここで延伸介在物を、長径/短径(延伸割合)が5以上の介在物とするとき、検出した上記延伸介在物の個数を、調査した全介在物個数(上述の例でいうと50個程度)で除すことにより、上記延伸介在物の個数割合を求めることができる。
なお、介在物の延伸割合を5以上とした理由は、Ce、Laを添加しない比較鋼板中の延伸割合5以上の介在物は、殆どMnS系介在物であったためである。尚、MnS系介在物の延伸割合の上限は特に規定するものではないが、現実的には延伸割合50程度のMnS系介在物が観察される場合もある。
その結果、延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合が20%以下に形態制御された鋼板では、伸びフランジ性と疲労特性が向上することが判明した。即ち、延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合が20%を超えると、割れ発生の起点となり易いMnS系延伸介在物の個数割合が多くなり過ぎ、伸びフランジ性と疲労特性が低下するため、本発明においては、延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合は20%以下とする。また、伸びフランジ性や疲労特性は延伸したMnS系介在物が少ないほど良好であるため、その延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合の下限値は0%を含む。
ここで、円相当直径1μm以上の介在物で、かつ、延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合の下限値が0%の意味するところは、円相当直径が1μm以上の介在物であるが延伸割合5以上のものが存在しない場合、又は延伸割合5以上の延伸介在物であっても、円相当直径がすべて1μm未満という場合である。
また、延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合が20%以下に形態制御された鋼板では、これに対応して、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態となっている。この介在物の形態としては、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出していれば良く、特に規定するものではないが、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドを核としてその周囲にMnSが析出している場合が多い。
また、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した介在物は、圧延時にも変形が起こり難いため、鋼板中でも延伸していない形状、すなわち、ほぼ球状介在物となっている。
ここで、延伸していないと判断される球状介在物とは、特に規定するものではないが、鋼鈑中の延伸割合3以下の介在物、好ましくは2以下の介在物である。これは、圧延前の鋳片段階においてCeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物における延伸割合が3以下であったためである。また、延伸していないと判断される球状介在物は、完全に球状であれば、延伸割合が1になるため、延伸割合の下限は1である。
このような介在物の個数割合の調査を延伸介在物の個数割合調査と同様の方法で実施した。その結果、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物の個数割合が10%以上に析出制御された鋼板では、伸びフランジ性と疲労特性が向上することが判明した。CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物の個数割合が10%未満になると、これに対応して、MnS系の延伸介在物の個数割合が多くなり過ぎ、伸びフランジ性と疲労特性が低下する。このため、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物の個数割合は10%以上とする。また、伸びフランジ性や疲労特性は、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSを多数析出させた方が良好であるため、その個数割合の上限値は100%を含む。
なお、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物は、圧延時にも変形が起こり難いため、その円相当直径は特に規定するものではなく、1μm以上でも良い。但し、あまり大きすぎると割れ発生起点となることが懸念されるため、上限は50μm程度が好ましい。
一方、この介在物は、圧延時にも変形が起こり難い上に、円相当直径が1μm未満の場合は、割れ発生起点とならないことから、円相当直径の下限は特に規定するものではない。
次に、上記で述べた本発明の鋼板中における介在物の存在条件として、介在物の単位体積当たりの個数密度で規定することとした。
介在物の粒径分布は、スピード法による電解面のSEM評価で実施した。スピード法による電解面のSEM評価とは、試料片の表面を研磨後、スピード法による電解を行い、試料面を直接SEM観察することにより介在物の大きさや個数密度を評価するものである。なお、スピード法とは、10%アセチルアセトン−1%テトラメチルアンモニュウムクロライド−メタノールを用いて試料表面を電解し、介在物を抽出する方法であるが、電解量としては試料表面の面積1cm当たり1Cを電解した。このようにして電解した表面のSEM像を画像処理して、円相当直径に対する頻度(個数)分布を求めた。この粒径の頻度分布から平均円相当直径を算出すると共に、観察した視野の面積と、電解量から求めた深さで頻度を除すことにより介在物の体積当たりの個数密度も算出した。
割れ発生の起点となり伸びフランジ性や疲労特性を劣化させる円相当直径1μm以上、延伸割合5以上の介在物の体積個数密度を評価した結果、1.0×10個/mm以下であると伸びフランジ性と疲労特性が向上することが判明した。円相当直径1μm以上、かつ、延伸割合5以上の延伸介在物の体積個数密度が1.0×10個/mmを超えると、割れ発生の起点となり易いMnS系延伸介在物の個数密度が多くなり過ぎ、伸びフランジ性と疲労特性が低下するため、円相当直径1μm以上、かつ、延伸割合5以上の延伸介在物の体積個数密度を1.0×10個/mm以下とする。また、伸びフランジ性や疲労特性は延伸したMnS系介在物が少ないほど良好であるため、円相当直径1μm以上、かつ、延伸割合5以上の延伸介在物の体積個数密度の下限値は0%を含む。
ここで、円相当直径1μm以上、かつ、延伸割合5以上の延伸介在物の体積個数密度の下限値が0%の意味するところは、上記と同様である。
また、直径1μm以上、かつ、延伸率5以上の延伸介在物の体積個数密度を1.0×10個/mm以下に形態制御された鋼板では、これに対応して、延伸していないMnS系介在物はCeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態となり、その形状はほぼ球状介在物となっていた。
この介在物の形態としては、上記と同様に、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出していれば良く、特に規定するものではないが、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドを核としてその周囲にMnSが析出している場合が多い。
また、球状介在物とは、特に規定するものではないが、鋼鈑中の延伸割合3以下の介在物、好ましくは2以下の介在物とする。ここで、完全に球状であれば、延伸割合が1になるため、延伸割合の下限は1である。
このような介在物の体積個数密度を調査した結果、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドを核としてその周囲にMnSが析出した形態の介在物の体積個数密度が1.0×10個/mm以上に析出制御された鋼板では、伸びフランジ性と疲労特性が向上することが判明した。CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物の体積個数密度が1.0×10個/mm未満になると、これに対応して、MnS系の延伸介在物の個数割合が多くなり過ぎ、伸びフランジ性と疲労特性が低下するため、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物の体積個数密度は1.0×10個/mm以上に規定する。また、伸びフランジ性や疲労強度は、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドを核としてMnSを多数析出させた方が良好であるため、その体積個数密度の上限値は特に規定するものではない。
なお、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物の円相当直径は、上記と同様に、特に規定するものではなく、1μm以上でも良い。但し、この円相当直径があまり大きすぎると割れ発生起点となることが懸念されるため、上限は50μm程度が好ましい。
一方、この介在物の円相当直径が1μm未満の場合は、全く問題はないため、下限は特に規定するものではない。
次に、上記で述べた本発明の鋼板中における延伸介在物の存在条件として、円相当直径の上限値で規定した。具体的には、割れ発生の起点となり伸びフランジ性や疲労特性を劣化させる円相当直径1μm以上、かつ、延伸割合5以上の介在物の平均円相当直径を評価した結果、この延伸介在物の平均円相当直径が10μm以下であると、伸びフランジ性と疲労特性が向上することが分かった。これは、円相当直径1μm以上、かつ、延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合が増加するにつれて、この延伸介在物の平均円相当直径が大きくなることに着目し、延伸介在物の平均円相当直径を指標として規定したものである。これは、溶鋼中のMnやSの量が増加するにつれて、生成するMnSの個数が増加するとともに、生成するMnSの大きさも粗大化するものと推定される。
そこで、円相当直径1μm以上、かつ、延伸割合5以上の延伸介在物が10μmを超えて大きくなると、これに応じて、この延伸介在物の個数割合が20%を超えるため、割れ発生の起点となり易い粗大なMnS系延伸介在物の個数割合が多くなり過ぎ、伸びフランジ性と疲労特性が低下するため、円相当直径1μm以上、かつ、延伸割合5以上の延伸介在物の平均円相当直径を10μm以下とする。
なお、円相当直径1μm以上、かつ、延伸割合5以上の延伸介在物の平均円相当直径を10μm以下という規定は、円相当直径1μm以上の介在物が鋼鈑中に存在する場合であることを意味しているため、円相当直径の下限値は1μmとなる。
一方で、上記で述べた本発明の鋼板中における、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物の存在条件として、MnSが析出した介在物中のCeもしくはLaの平均組成の含有量で規定した。
具体的には、上述したように、伸びフランジ性と疲労特性を向上させる上で、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSを析出させ、MnSの延伸を防止することが重要である。
この介在物の形態としては、上記と同様に、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出していれば良く、特に規定するものではないが、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドを核としてその周囲にMnSが析出している場合が多い。
また、球状介在物とは、特に規定するものではないが、鋼鈑中の延伸割合3以下の介在物、好ましくは2以下の介在物とする。ここで、完全に球状であれば、延伸割合が1であるため、延伸割合の下限は1である。
そこで、MnS系介在物の延伸抑制に有効な組成を明らかにするため、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物の組成分析を実施した。
但し、この介在物の円相当直径が1μm以上であれば観察が容易なことから、便宜的に、円相当直径1μm以上を対象とした。但し、観察が可能であれば、円相当直径が1μm未満の介在物も含めても良い。
また、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物は、延伸していないため、延伸割合はすべて3以下の介在物となっていることが確認された。従って、円相当直径1μm以上、かつ、延伸割合3以下の介在物を対象に組成分析を実施した。
その結果、円相当直径1μm以上、かつ、延伸割合3以下の介在物中に平均組成でCeもしくはLaの1種または2種の合計を0.5〜50%含有させると、伸びフランジ性と疲労特性が向上することが判明した。円相当直径1μm以上、かつ、延伸割合3以下の介在物中におけるCeもしくはLaの1種または2種の合計の平均含有率が0.5質量%未満になると、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物個数割合が大きく減少するため、これに対応して、割れ発生の起点となり易いMnS系延伸介在物の個数割合が多くなり過ぎ、伸びフランジ性と疲労特性が低下する。
一方、円相当直径1μm以上、かつ、延伸割合3以下の介在物中におけるCeもしくはLaの1種または2種の合計の平均含有率が50%超になると、セリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイドが多量に生成し、円相当直径が50μm程度以上の粗大な介在物となるため、伸びフランジ性や疲労特性を劣化させる。
次に、鋼板の組織について説明する。
本発明では、伸びフランジ性と疲労特性をMnS系介在物制御により向上させるものであり、鋼板のミクロ組織は特に限定するものではないが、優れた伸びフランジ性を得るためにはベイニティック・フェライトを主相とする組織にすることが好ましい。鋼板中のベイニティック・フェライト相の面積率は、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは100%である。また、残部はベイナイト相またはポリゴナル・フェライト相を20%以上含有することができ、マルテンサイト相が含まれることは極力避けることが望ましい。
次に製造条件を説明する。
本発明では転炉で吹錬して脱炭し、或いは更に真空脱ガス装置を用いて脱炭し、C濃度を0.03〜0.1%にした溶鋼中に、Si、Mn、P等の合金を添加して、脱酸と成分調整を行うと共に、AlやTiは添加しないか、或いは酸素調整を必要とする場合には酸可溶Alや酸可溶Tiが僅かに残る程度の少量のAlやTiを添加し、その後CeもしくはLaの1種または2種を添加して成分調整を行う。このようにして溶製された溶鋼を連続鋳造して鋳片を製造する。
連続鋳造については、通常の250mm厚み程度のスラブ連続鋳造に適用されるだけでなく、ブルームやビレット、さらにはスラブ連続鋳造機の鋳型厚みが通常より薄い、例えば150mm以下の薄スラブ連続鋳造に対して十分に適用可能である。
高強度熱延鋼板を製造するための熱延条件について述べる。
熱延前のスラブの加熱温度は鋼中の炭窒化物などを固溶させるため1150℃以上とすることが好ましい。これらを固溶させておくことにより、圧延後の冷却過程でポリゴナル・フェライトの生成が抑制され、伸びフランジ性にとって好ましいベイニティック・フェライト相を主体とする組織が得られる。一方、熱延前のスラブの加熱温度が1250℃を超えるとスラブ表面の酸化が著しくなり、特に粒界が選択的に酸化されることに起因する楔状の表面欠陥がデスケーリング後に残り、それが圧延後の表面品位を損ねるので上限を1250℃とすることが好ましい。
上記の温度範囲に加熱された後に、通常の熱間圧延を行うが、その工程の中で仕上げ圧延完了温度は鋼板の組織制御を行う場合に重要である。仕上げ圧延完了温度が、Ar3点+30℃未満では表層部の結晶粒径が粗大になり易く、疲労特性上好ましくない。一方、Ar3点+200℃超では伸びフランジ性にとって好ましくないポリゴナル・フェライト相が生成し易くなるので、上限をAr3点+200℃とすることが好ましい。
また、仕上げ圧延後の鋼板の平均の冷却速度を40℃/秒以上とし、300〜500℃の範囲まで冷却することが、ポリゴナル・フェライト相の生成を抑制し、ベイニティック・フェライト相を主体とする組織を得るために有効である。
上記の平均の冷却速度が40℃/秒未満ではポリゴナル・フェライト相が生成しやすくなり好ましくない。一方、組織制御の上では冷却速度に上限を設ける必要はないが、余りに速い冷却速度は鋼板の冷却を不均一にするおそれがあり、またそうした冷却を可能にするような設備の製造には多額の費用が必要となり、そのことで鋼板の価格上昇を招くと考えられる。このような観点から、冷却速度の上限は100℃/秒とするのが好ましい。
また、冷却停止温度が300℃より低くなると伸びフランジ性に好ましくないマルテンサイト相が生成するので、下限を300℃とする。従って、熱延コイルの巻き取り温度は伸びフランジ性を極端に悪化させるマルテンサイト相の生成を抑制するため300℃以上とすることが好ましい。
一方、500℃超ではポリゴナル・フェライト相の生成が抑制できず、またCuを含有している鋼ではフェライト相中にCuが局材的に析出して疲労特性向上効果を低下させるおそれがあるので巻き取り温度を500℃以下とすることが好ましい。従って、500℃以下で巻き取ることにより、その後の冷却過程で炭窒化物が析出し、フェライト相中の固溶C、N量を減少させ、伸びフランジ性の向上をもたらす。
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明する。
表1に化学成分を示すスラブを表2に示す条件にて熱間圧延し、厚さ3.2mmの熱延板を得た。
Figure 2007146280
Figure 2007146280
この表1においては、鋼番号(以下、鋼番という。)1、3、5、7については、本発明に係る高強度鋼板の範囲内の組成で構成し、鋼番2、4、6、8については、本発明に係る高強度鋼板の範囲から逸脱させた比較鋼として構成している。鋼番2、4、6においては、酸可溶Alを0.01%超含有させたスラブとし、また、鋼番8においては、CeもしくはLaの1種または2種の合計を0.0005未満まで低減させたスラブとして構成したものである。
ちなみに、この表1において、鋼番1と鋼番2、鋼板3と鋼番4、鋼番5と鋼番6、鋼番7と鋼番8、との間でそれぞれ比較をすることができるように、互いにほぼ同一組成で構成した上で、酸可溶Al等を互いに異ならせている。
また、この表2においては、条件Aとして、加熱温度を1250℃、仕上圧延完了温度を845℃、仕上げ圧延後の冷却速度を75℃/秒、巻き取り温度を450℃とし、条件Bとして、加熱温度を1200℃、仕上圧延完了温度を825℃、仕上げ圧延後の冷却速度を45℃/秒、巻き取り温度を450℃としている。
鋼番1と鋼番2に対しては、条件Aを、また、鋼番3と鋼番4に対しては、条件Bを、鋼番5と鋼番6に対しては、条件Aを、更に鋼番7と鋼番8に対しては、条件Bを適用するようにすることで、同一製造条件下で化学組成の影響を比較できるようにしている。
このようにして得られた鋼板の基本特性として、強度、延性、伸びフランジ性、疲労限度比を調べた。
また、鋼板中の延伸介在物の存在状態として、すべて1μm以上の介在物を対象として、延伸割合5以上の介在物については個数割合、体積個数密度、平均円相当直径を調べた。
さらに、鋼板中の延伸していない介在物の存在状態として、すべて1μm以上の介在物を対象として、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した介在物の個数割合および体積個数密度と、延伸割合3以下の介在物中におけるCeもしくはLaの1種または2種の合計の含有量の平均値を調べた。
なお、1μm以上の介在物を対象としたのは、観察が容易であることに加えて、1μm未満の介在物は伸びフランジ性や疲労特性の劣化に影響しないためである。
その結果を鋼と圧延条件の組み合わせ毎に表3に示す。
Figure 2007146280
強度と延性は、圧延方向と平行に採取したJIS5号試験片の引張試験により求めた。伸びフランジ性は、150mm×150mmの鋼板の中央に開けた直径10mmの打ち抜き穴を60°の円錐パンチで押し広げ、板厚貫通亀裂が生じた時点での穴径D(mm)を測定し、穴拡げ値λ=(D−10)/10で求めたλで評価した。また、疲労特性を表す指標として用いた疲労限度比は、JIS Z 2275に準拠した方法で求めた2×10回時間強さ(σW)を鋼板の強度(σB)で除した値(σW/σB)で評価した。
なお、試験片は同規格に規定の1号試験片であり、平行部が25mm、曲率半径Rが100mm、原板(熱延板)の両面を等しく研削した厚さ3.0mmのものを用いた。
さらに、介在物はSEM観察を行い、ランダムに選んだ円相当直径1μm以上の介在物50個について長径と短径を測定した。さらに、SEMの定量分析機能を用いて、ランダムに選んだ円相当直径1μm以上の介在物50個について組成分析を実施した。それらの結果を用いて、延伸割合5以上の介在物の個数割合、延伸割合5以上の介在物の平均円相当直径、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した介在物の個数割合、さらに延伸割合3以下の介在物中におけるCeもしくはLaの1種または2種の合計の平均値を求めた。また、介在物の形態別体積個数密度は、スピード法により電解面のSEM評価により算出した。
表3から明らかなように、本発明の方法を適用した鋼番1、3、5、7では、CeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSを析出させることにより、延伸したMnS系介在物を鋼板中で低減することができた。即ち、鋼鈑中にCeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した介在物の個数割合を10%以上、その介在物の体積個数密度を1.0×103個/mm3以上、鋼鈑中に存在する延伸割合3以下の介在物中のCeもしくはLaの1種または2種の合計の平均含有率を0.5%〜50%とすることにより、円相当直径1μm以上で延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合を20%以下、その介在物の体積個数密度を1.0×104個/mm3以下、その介在物の平均円相当直径を10μm以下とすることができた。その結果、比較鋼と比べて、本発明鋼としての鋼番1、3、5、7では、伸びフランジ性と疲労特性に優れた鋼板を得ることができた。しかし、比較鋼(鋼番2、4、6、8)では、延伸したMnS系介在物とCeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSを析出させた介在物の分布状態が本発明で規定する分布状態と異なるため、鋼板加工時に延伸したMnS系介在物が割れ発生の起点となり、伸びフランジ性と疲労特性が低下していた。

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.03〜0.10%、
    Si:0.08〜1.5%、
    Mn:1.0〜3.0%、
    P:0.05%以下、
    S:0.002%以上、
    N:0.0005〜0.01%、
    酸可溶Al:0.01%以下、
    酸可溶Ti:0.008%未満、
    CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%を含有し、
    残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、
    その鋼板中に存在する円相当直径1μm以上の介在物で、かつ、長径/短径が5以上の延伸介在物の個数割合が20%以下であることを特徴とする伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼板。
  2. 質量%で、
    C:0.03〜0.10%、
    Si:0.08〜1.5%、
    Mn:1.0〜3.0%、
    P:0.05%以下、
    S:0.002%以上、
    N:0.0005〜0.01%、
    酸可溶Al:0.01%以下、
    酸可溶Ti:0.008%未満、
    CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%を含有し、
    残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、
    その鋼板中にはCeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した介在物を個数割合で10%以上含むことを特徴とする伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼板。
  3. 質量%で、
    C:0.03〜0.10%、
    Si:0.08〜1.5%、
    Mn:1.0〜3.0%、
    P:0.05%以下、
    S:0.002%以上、
    N:0.0005〜0.01%、
    酸可溶Al:0.01%以下、
    酸可溶Ti:0.008%未満、
    CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%を含有し、
    残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、
    その鋼板中に存在する円相当直径1μm以上の介在物で、かつ、長径/短径が5以上の延伸介在物の体積個数密度が1.0×10個/mm以下であることを特徴とする伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼板。
  4. 質量%で、
    C:0.03〜0.10%、
    Si:0.08〜1.5%、
    Mn:1.0〜3.0%、
    P:0.05%以下、
    S:0.002%以上、
    N:0.0005〜0.01%、
    酸可溶Al:0.01%以下、
    酸可溶Ti:0.008%未満、
    CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%を含有し、
    残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、
    その鋼板中にはCeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した介在物の体積個数密度が1.0×10個/mm以上であることを特徴とする伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼板。
  5. 質量%で、
    C:0.03〜0.10%、
    Si:0.08〜1.5%、
    Mn:1.0〜3.0%、
    P:0.05%以下、
    S:0.002%以上、
    N:0.0005〜0.01%、
    酸可溶Al:0.01%以下、
    酸可溶Ti:0.008%未満、
    CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%を含有し、
    残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、
    その鋼板中に存在する円相当直径1μm以上の介在物で、かつ、長径/短径5以上の延伸介在物の平均円相当直径が10μm以下であることを特徴とする伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼板。
  6. 質量%で、
    C:0.03〜0.10%、
    Si:0.08〜1.5%、
    Mn:1.0〜3.0%、
    P:0.05%以下、
    S:0.002%以上、
    N:0.0005〜0.01%、
    酸可溶Al:0.01%以下、
    酸可溶Ti:0.008%未満、
    CeもしくはLaの1種または2種の合計:0.0005〜0.04%を含有し、
    残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼板であり、
    その鋼板中にはCeもしくはLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した介在物が存在し、該介在物中に平均組成でCeもしくはLaの1種または2種の合計を0.5〜50質量%含有することを特徴とする伸びフランジ性と疲労特性に優れた高強度鋼鈑。
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