以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明をする。なお、以下、質量%は%と記載する。
まず、本発明を完成するに至った実験について説明する。
本発明者は、C:0.06%、Si:0.7%、Mn:1.4%、P:0.01%以下、S:0.005%、N:0.003%を含有し、残部がFeの溶鋼を、種々の元素を用いて脱酸して鋼塊を製造した。鋼塊を熱間圧延して、厚さ3mmの熱延鋼板とした。この熱延鋼板を冷間圧延して、厚さ1mmの冷延鋼板とした。また、この延鋼板を焼鈍し、スキンパスを施して冷延焼鈍板とした。製造した熱延鋼板、および、冷延焼鈍板を、引張試験、穴拡げ試験、および、疲労試験に供するとともに、鋼板中の介在物の個数密度、形態、および、平均組成を調査した。
まず、Siを添加し、その後にAlで殆ど脱酸することなく、Tiを添加して、約2分程度撹拌し、次いで、CeおよびLaの1種または2種を添加して脱酸した溶鋼から製造した鋼板について、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性を調査した。その結果、Si、Ti、次いで、CeおよびLaの1種または2種で逐次脱酸した溶鋼から製造した鋼板においては、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が顕著に向上していることが確認された。
その理由は、Ceおよび/またはLaの添加による脱酸で生成した、微細で硬質なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、および、ランタンオキシサルファイドの1種または2種以上の上に、MnS、TiS、および、(Mn,Ti)Sの1種または2種以上のMnS系介在物が析出し、圧延時に、このMnS系介在物の変形を抑制することが可能であることから、鋼板中における延伸した粗大なMnS系介在物の量を著しく低減することができるからである。
Tiを添加しているので、併せて、TiN粒子も生成しているが、これが、圧延前の加熱時において鋼板組織の結晶粒の成長を抑制する、いわゆる、ピン止め機能を発揮するので、鋼板組織の結晶粒径が微細なものとなる。
その結果、繰返し変形時や、穴拡げ加工時において、MnS系介在物が、割れ発生の起点や亀裂伝播の経路となり難くなり、また、従来、疲労特性等を劣化させる原因となる粗大なMnS系介在物の発生を極力抑えることが可能となる。そして、鋼板組織の結晶粒径が微細であることが、耐疲労性等の向上につながると考えられる。
なお、Ce酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、および、ランタンオキシサルファイドが微細化する理由は、最初に、Si脱酸で生成したSiO2系介在物を、後で添加したTiが還元分解して、微細なTiオキサイドが生成し、次いで、Ceおよび/またはLaが還元分解して、微細なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、および/または、ランタンオキシサルファイドが生成し、さらに、生成したCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、および/または、ランタンオキシサルファイド自体と溶鋼との界面エネルギーが低いことから、生成後の凝集合が抑制されるということである。
このように、Alで殆ど脱酸せずに、Tiと、Ce、および/または、Laで脱酸する場合、良好な材質特性を得ることができたが、所望の脱酸を実現するためには、Tiと、Ce、および/または、Laの投入量を増加する必要が生じた。
しかし、Tiと、Ce、および/または、Laの投入量を増加して脱酸しても、Al脱酸に比べ、酸素ポテンシャルが高くなるので、溶鋼の成分調整において、目標とする組成に対するばらつきが大きくなり、所望の成分組成を得ることが困難になり、また、酸素ポテンシャルが高いことにより、脱硫反応が進行し難いため、極低S鋼を製造することは困難であるという問題が生じることが分かった。
そこで、本発明者らは、後述の通り、Al脱酸を行って低酸素ポテンシャルとすることで、極低硫まで脱硫処理を行い、かつ、Tiと、Ce、および/または、Laの組成を変化させつつ脱酸を行い、鋼塊を製造した。得られた鋼塊を熱間圧延して、厚さ3mmの熱延鋼板とした。次いで、熱延鋼板を冷間圧延して、厚さ1mmの冷延鋼板とした。また、この冷延鋼板を焼鈍し、スキンパスを施して冷延焼鈍板とした。
製造した熱延鋼板および冷延焼鈍板を、穴拡げ試験および疲労試験に供するとともに、鋼板中の介在物の個数密度、形態、および、平均組成を調査した。
詳細には、Siを添加した後、Alで脱酸し、その後、Tiを添加してから、CeおよびLaの1種または2種を添加して脱酸する実験を行った結果、質量ベースで、所定範囲の(Ce+La)/酸可溶Al、および、(Ce+La)/Sが得られている場合、溶鋼中の酸素ポテンシャルが低下することが分かった。溶鋼中の酸素ポテンシャルを下げることにより、極低S鋼とすることができ、また、生成する介在物も、微細で硬質なMnS系介在物とすることができた。
即ち、Si、Al、Tiと、Ce、および/または、Laによる複合的な脱酸効果により、酸素ポテンシャルを下げることができるとともに、生成する酸化物において、Al2O3濃度を極めて低く抑制することができるため、溶鋼をAlで殆ど脱酸することなく製造した鋼板と同様に、析出する介在物を、微細で硬質なMnS系介在物とすることができ、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性に優れる鋼板が得られることが分かった。
その理由は、以下の通りと考えられる。
即ち、溶鋼にSiを添加した際、SiO2介在物が生成するが、その後、Alを添加することにより、SiO2介在物はSiに還元される。また、Alは、SiO2介在物を還元するとともに、溶鋼中の溶存酸素と反応して、Al2O3系介在物を生成し、一部のAl2O3系介在物は浮上除去され、残りのAl2O3系介在物は溶鋼中に残る。その後、Tiを添加するが、この時点では、溶鋼中の酸素は、Alで既に脱酸されているので、Tiによる脱酸は、少し起こる程度である。
さらに、その後に添加したCeおよび/またはLaにより、Al2O3系介在物は還元分解され、微細なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、および/または、ランタンオキシサルファイドが生成する。このように、Si、Al、Tiと、Ce、および/または、Laの添加による複合脱酸により、若干、Al2O3が残るものの、大部分は、微細で硬質なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイド、および/または、Tiオキサイドが生成すると考えられる。
したがって、Si、Al、Tiと、Ceおよび/またはLaの添加による複合脱酸において、Al脱酸を、上述した脱酸方法に基づいて適切に行うことにより、Al脱酸を殆ど行わない場合と同様に、微細で硬質なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイド、および/または、Tiオキサイドの上に、MnS、TiS、および、(Mn,Ti)Sの1種または2種以上を析出させることができる。
そして、圧延時に、析出したMnS系介在物(MnS、TiS、および/または、(Mn,Ti)S介在物)の変形を抑制することができるので、鋼板中における、延伸した粗大なMnS系介在物の量を著しく低減して、疲労特性等を向上できるという効果を得ることができることに加え、Si、Al、Tiと、Ceおよび/またはLaの添加による複合脱酸で溶鋼の酸素ポテンシャルを下げることにより、極低硫まで脱硫処理することができ、かつ、成分組成のばらつきを小さくすることができることを新たに知見した。さらに、極低硫鋼とすることで、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が飛躍的に向上することも知見した。
以上の実験的検討から得られた知見に基づいて、本発明者らは、以下に説明するように、鋼板の成分組成の検討を行い、本発明を完成させるに至った。
以下、本発明における成分組成の限定理由について説明をする。
C:0.03〜0.20%
Cは、鋼の焼入れ性と強度を制御する最も基本的な元素であり、焼入れ硬化層の硬さおよび深さを高めて疲労強度の向上に有効に寄与する。即ち、Cは、鋼板の強度を確保するために必須の元素であり、高強度鋼板を得るためには、少なくとも0.03%が必要である。好ましくは、0.035%以上である。一方、Cが0.20%を超えると、加工性および溶接性が劣化するので、必要な強度を達成し、必要な加工性および溶接性を確保するため、Cは0.20%以下とする。好ましくは、0.18%以下であり、より好ましくは、0.16%以下である。
Si:0.08〜2.0%
Siは、主要な脱酸元素の一つであり、焼入れ加熱時に、オーステナイトの核生成サイト数を増加させ、オーステナイトの粒成長を抑制するとともに、焼入れ硬化層の粒径を微細化する機能を担う。また、Siは、炭化物の生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制するとともに、ベイナイト組織の生成に対しても有効であるので、伸びを大きく損なうことなく強度を高め、低降伏強度比で穴拡げ性、曲げ加工性を改善するのに重要な元素である。
溶鋼中の溶存酸素濃度を低下させ、一旦、SiO2系介在物を生成させるためには(このSiO2系介在物を、後で添加したAlで還元して、アルミナ系介在物を生成し、その後、さらに、Ceおよび/またはLaで、アルミナ系介在物を還元するため)、Siを0.08%以上添加する必要があるので、Siの下限を0.08%とした。好ましいSiの下限は、0.15%である。
一方、Si濃度が高すぎると、介在物中のSiO2濃度が高くなって、大型介在物が生成し易くなり、Alによる還元が起こり難くなる。また、靭性および延性が極端に悪くなり、表面脱炭や、表面疵が増加して、疲労特性が悪化する。これに加え、過剰のSiは、溶接性や延性に悪影響を及ぼし、成形性を劣化させるので、Siの上限を2.0%とした。好ましいSiの上限は、1.8%である。より好ましいSiの上限は、1.5%である。
Mn:0.5〜3.0%
Mnは、製綱段階での脱酸に有用な元素であり、C、Siとともに、鋼板の高強度化に有効な元素である。この効果を得るためには、0.5%以上含有させる必要がある。好ましくは、1.2%以上である。しかし、3.0%を超えて含有させると、Mnの偏析や固溶強化の増大により、延性が低下する。また、溶接性や母材靭性も劣化するので、Mnの上限を3.0%とする。Mnの好ましい上限は、2.7%、より好ましい上限、2.6%である。
P:0.05%以下
Pは、Fe原子よりも小さく、置換型固溶強化元素として作用するので、強度の向上に有効な元素である。しかし、0.05%を超えると、オーステナイトの粒界に偏析し、粒界強度を低下させて、ねじり疲労強度が低下し、加工性が劣化する原因にもなるので、上限を0.05%とする。なお、固溶強化の必要がなければ、Pを添加する必要はないので、Pの下限値は0%を含むものとする。
S:0.0001〜0.0004%
Sは、不純物として偏析して、MnS系の粗大な延伸介在物を形成して、伸びフランジ性を劣化させるので、極力、低濃度であることが望ましい。本発明においては、前述の複合脱酸により、低酸素ポテンシャルを実現することができるので、Sを0.0004%以下とすることが可能である。Sを0.0004%以下とし、かつ、後述のS濃度と、CeおよびLaの1種または2種の合計量の濃度比を所定の範囲に規定すると、伸びフランジ性、曲げ加工性と疲労特性が飛躍的に向上することを、本発明者らは見出した。
即ち、0.0004%以下の極低硫領域においても、微細なMnS系介在物が多数生成するが、不均質核生成により、偏析部や粒界に生成し易い。微細であるが多数生成するMnS系介在物の組成および形態の制御に、Ceおよび/またはLaが寄与することが判明した。
即ち、本発明では、前述の通り、微細なMnSを、Ce酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイド等の介在物で形態制御するため、S濃度に応じた量のCeおよびLaの1種または2種を添加する。この添加で、材質への悪影響を防止するだけではなく、極限的な材質の向上が可能となる。極限的な材質の向上を得るために、Sは、0.0004%以下とする。下限は、二次精錬を強化して脱硫を行った場合において実現可能な量として、0.0001%とした。
酸可溶Ti:0.008〜0.20%
Tiは、主要な脱酸元素の一つであるとともに、炭化物、窒化物、炭窒化物を形成し、熱間圧延前の充分な加熱により、オーステナイトの核生成サイト数を増加し、オーステナイトの粒成長を抑制するための微細化・高強度化に寄与し、熱間圧延時の動的再結晶に有効に作用して、伸びフランジ性を著しく向上させる機能を担う元素である。
上記機能を確保するには、酸可溶Tiを0.008%以上添加する必要があることを、本発明者らは実験的に知見した。それ故、酸可溶Tiの下限を0.008%とした。好ましい酸可溶Tiの下限は、0.015%である。ちなみに、熱間圧延前の加熱温度は、鋳造時に生成した炭化物、窒化物、炭窒化物を、一旦、固溶するのに充分な温度である必要があるので、1200℃超は必要である。一方、1250℃を超える温度とすることは、コストやスケール生成の点で好ましくないので、1250℃程度が好適である。
一方、酸可溶Tiを0.20%を超えて含有すると、脱酸効果が飽和するのみならず、熱間圧延前に充分な加熱を行っても、粗大な炭化物、窒化物、炭窒化物が生成してしまい、かえって、材質の劣化を招き、含有量に見合う効果が期待できないので、上限を0.20%とする。好ましい酸可溶Tiの上限は、0.16%である。
ちなみに、酸可溶Ti濃度とは、酸に溶解したTiの濃度を測定したもので、溶存Tiは酸に溶解し、Ti酸化物は酸に溶解しないことを利用して分析、定量する。ここで、酸として、例えば、塩酸1、硝酸1、水2の割合(質量比)で混合した混酸を使用することができる。この酸を用いて、酸に可溶なTiと、酸に溶解しないTi酸化物を分別して、酸可溶Ti濃度を測定する。
N:0.0005〜0.01%
Nは、溶鋼の処理中、空気から取り込まれて、鋼中に不可避的に混入する元素である。また、Nは、Al、Ti等と窒化物を形成して母材組織の細粒化を促進する元素であるが、0.01%を超えて含有すると、Al、Ti等と粗大な析出物を生成し、伸びフランジ性、曲げ加工性を劣化させるので、上限を0.01%とする。Nの好ましい上限は、0.006%である。一方、Nを0.0005%未満とすると、コストが高くなるので、工業的に実現可能な観点から、下限を0.0005%とする。Nの好ましい下限は、0.0015%である。
酸可溶Al:0.01%超
酸可溶Alは、一般に、その酸化物がクラスター化して粗大化し、伸びフランジ性、曲げ加工性や疲労特性を劣化させるので、極力抑制することが望ましい。本発明者らは、Al脱酸を行いつつも、Si、Tiと、Ceおよび/またはLaによる複合的な脱酸効果と、前述の通り、Al脱酸で生成した溶鋼中のAl2O3系介在物(一部は浮上して除去される)を還元分解して、Al2O3系酸化物がクラスター化して粗大化しない微細な介在物を形成するのに必要な、酸可溶Al濃度に応じたCeおよび/またはLaの濃度範囲を見出した。これにより、本発明では、通常のAl脱酸を行うことが可能となったため、通常のAl脱酸を行う際の酸可溶Al濃度として、下限を0.01%超とする。
これまで、Alを殆ど添加せず、Ce脱酸および/またはLa脱酸を行った際、酸素ポテンシャルの上昇が不可避であったが、本発明では、複合脱酸効果により、極低Sまで脱硫でき、また、各成分元素の組成のバラツキを抑制することができる。ちなみに、酸可溶Al濃度の上限は、後述の通り、CeおよびLaの1種または2種の合計量との関係で規定される。
酸可溶Al濃度とは、酸に溶解したAlの濃度を測定したもので、溶存Alは酸に溶解し、Al2O3は酸に溶解しないことを利用して分析、定量する。ここで、酸として、例えば、塩酸1、硝酸1、水2の割合(質量比)で混合した混酸を使用することができる。この酸を用いて、酸に可溶なAlと、酸に溶解しないAl2O3を分別して、酸可溶Al濃度を測定する。
CeおよびLaの1種または2種の合計:0.001〜0.01%
CeおよびLaの1種または2種は、Si脱酸で生成したSiO2、逐次的に、Al脱酸で生成したAl2O3を還元し、MnS系介在物の析出サイトとなり易く、かつ、硬質、微細で、圧延時に変形し難いCe酸化物(例えば、Ce2O3、CeO2)、セリュウムオキシサルファイド(例えば、Ce2O2S)、La酸化物(例えば、La2O3、LaO2)、ランタンオキシサルファイド(例えば、La2O2S)、Ce酸化物−La酸化物、および/または、セリュウムオキシサルファイド−ランタンオキシサルファイドを主相(50%以上を目安とする)とする介在物を形成する機能を備える元素である。
上記介在物は、脱酸条件により、MnO、SiO2、TiO2、Ti2O3、または、Al2O3を一部含有する場合もあるが、主相が上記酸化物であれば、MnS系介在物の析出サイトとして十分に機能し、かつ、介在物の微細・硬質化の効果も損なわれることはない。本発明者らは、低酸素ポテンシャルを実現し、このような介在物を得るためには、CeおよびLaの1種または2種を、合計濃度で、「0.001%以上、0.01%以下」含有する必要があることを、実験的に確認した。
CeおよびLaの1種または2種の合計濃度が0.001%未満であると、SiO2およびAl2O3介在物を還元できず、一方、0.01%超では、セリュウムオキシサルファイドや、ランタンオキシサルファイドが多量に生成し、いずれの条件でも、低酸素ポテンシャルを達成できず、さらには、粗大な介在物となり、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性を劣化させる。好ましいCeおよびLaの1種または2種の合計濃度の下限は、0.0020%である。また、好ましいCeおよびLaの1種または2種の合計濃度の上限は、0.0085%である。
CeおよびLaの1種または2種の合計濃度が、0.001%以上0.01%以下の領域において、さらに、質量ベースで、酸可溶Alとの関係で、“(Ce+La)/酸可溶Al:0.1以上”と規定する。これは、酸素ポテンシャルの極小を得るための条件である。
酸可溶Alは、一般に、その酸化物がクラスター化して粗大になり易く、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性を劣化させるので、極力、抑制することが望ましい。これに対して、本発明者らは、Al脱酸を行いつつも、Si、Tiと、Ceおよび/またはLaによる複合的な脱酸効果と、前述の通り、Al脱酸で生成した溶鋼中のAl2O3系介在物(一部は浮上して除去される)を還元分解して、Al2O3系酸化物がクラスター化して粗大化しない微細な介在物を形成し、酸素ポテンシャルを極小とするのに必要な、酸可溶Al濃度に応じたCeおよび/またはLaの濃度範囲を見出した。
それ故、本発明においては、従来のように、実質的にAlを添加しないという制限を設ける必要もなくなり、特に、酸可溶Alの濃度に関して、自由度を高くすることが可能となる。Al脱酸と、Ceおよび/またはLaの添加による脱酸を併用することが可能となり、従来のように、脱酸に必要なCeおよび/またはLaの添加量を必要以上に多くすることもなくなり、成分元素間の組成のバラツキを抑制できるという効果も享受できる。なお、好ましい(Ce+La)/酸可溶Alの好ましい上限は0.8であり、より好ましい上限は0.4である。
次に、本発明者らは、鋼板中に、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドに、MnSが析出した形態の介在物が存在し得る条件として、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにより、MnSが如何に改質されているかをS濃度で捉えることができる点に着目して、上記条件を、質量ベースで、(Ce+La)/Sで規定することを着想した。
具体的には、上記質量比が小さいときは、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドが少なく、MnSが単独で多数析出することになる。上記質量比が大きくなると、MnSに比べ、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドが多くなって、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物が多くなる。
即ち、MnSが、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドで改質される。このことは、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性を向上させるために、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドに、MnSを析出させ、MnSの延伸を防止することである。それ故、上記質量比を、上記効果を奏するか否かを識別するための指標とすることができる。
そこで、MnS系介在物の延伸抑制に有効な成分比を明らかにするため、鋼板の(Ce+La)/Sを変化させて、介在物の形態、並びに、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性を評価した。その結果、本発明においては、極低硫領域で、制御すべきSの量自体が小さいことから、(Ce+La)/Sが5〜25という比較的小さな領域である場合に、伸びフランジ性、曲げ加工性と疲労特性にバラツキがなく、ともに、飛躍的に向上することが判明した。
(Ce+La)/Sが5未満になると、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドにMnSが析出した形態の介在物個数が少な過ぎ、これに対応して、割れ発生の起点となり易いMnS系延伸介在物の個数が多くなり、伸びフランジ性、曲げ加工性と疲労特性が低下する。
一方、(Ce+La)/Sが25超になると、セリュウムオキシサルファイドおよび/またはランタンオキシサルファイドにMnSが析出することにより、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が向上するという効果が飽和してしまい、コスト的に見合わなくなるだけでなく、セリュウムオキシサルファイドおよびランタンオキシサルファイドが生成して、粗大な介在物となるため、逆に、伸びフランジ性、曲げ加工性や疲労特性が劣化する。以上の結果から、(Ce+La)/Sは5〜25とする。
以下、選択元素の限定理由について説明をする。これらの元素は選択元素であるから、添加の有無は任意であり、1種だけ加えてもよく、2種以上加えてもよい。
Nb、Vについて
Nb、Vは、CまたはNと炭化物、窒化物、炭窒化物を形成して、母材組織の細粒化を促進し、靭性の向上に寄与する元素である。
Nb:0.01〜0.10%
上述した複合炭化物、複合窒化物等を得るため、Nbを0.01%以上添加するのが好ましい。しかし、Nbが0.10%を超えると、母材組織の細粒化効果が飽和し、製造コストが高くなるので、上限は0.10%とする。
V:0.01〜0.05%
上述した複合炭化物、複合窒化物等を得るため、Vを0.01%以上添加するのが好ましい。しかし、Vが0.05%を超えると、母材組織の細粒化効果が飽和し、製造コストが高くなるので、上限は0.05%とする。
Cr、Mo、Bについて
Cr、Mo、および、Bは、鋼の焼き入れ性を向上する元素である。
Cr:0.01〜0.6%
Crは、さらに、鋼板の強度を確保するため、必要に応じて添加する。この添加効果を得るためには、0.01%以上添加することが好ましい。しかし、Crの多量添加は、かえって、強度−延性バランスを劣化させるので、上限を0.6%とする。
Mo:0.01〜0.4%
Moは、さらに、鋼板の強度を確保するため、必要に応じて添加する。この添加効果を得るためには、0.01%以上添加することが好ましい。しかし、Moの多量添加は、かえって、強度−延性バランスを劣化させるので、上限を0.4%とする。
B:0.0003〜0.003%
Bは、さらに、粒界を強化し、加工性を向上するため、必要に応じて添加する。この効果を得るためには、0.0003%以上添加することが好ましい。しかし、Bを、0.003%を超えて添加しても、添加効果は飽和し、かえって、鋼の清浄性を損ない、延性を劣化させるので、上限を0.003%とする。
Ca、Zrについて
Ca、Zrは、硫化物の形態制御により、粒界を強化し、加工性の向上に寄与するので、必要に応じて添加する。
Ca:0.0001〜0.004%
Caは、硫化物を球状化する等、脱硫の形態を制御することにより、粒界を強化し、鋼の加工性を向上する元素である。この効果を得るためには、Caを0.0001%以上添加することが好ましい。しかし、Caを多量に添加しても、添加効果は飽和し、かえって、鋼の清浄性を損ない、延性を劣化させるので、上限を0.004%とする。
Zr:0.001〜0.01%
Zrは、硫化物を球状化して、母材の靭性を改善する効果を有する元素である。この効果を得るためには、0.001%以上添加することが好ましい。しかし、Zrの多量添加は、かえって、鋼の清浄性を損ない、延性を劣化させるので、上限を0.01%とする。
次に、本発明の鋼板中における介在物の存在条件について説明する。本発明においては、鋼板中における介在物の存在条件を、種々の観点から規定している。なお、ここで、鋼鈑とは、熱間圧延、または、さらに冷間圧延を経て得た圧延後の鋼板を意味している。
伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性に優れた鋼板を得るためは、割れ発生の起点や、割れ伝播の経路となり易い延伸した粗大なMnS系介在物を、鋼板中で、できるだけ低減することと、偏析部や粒界に不均質核生成したMnS系介在物を、できるだけ低減することが重要である。
本発明者らは、前述の通り、Siを添加した後、Alで脱酸を行い、その後、Ti添加、次いで、CeおよびLaの1種または2種を添加して脱酸した溶鋼から製造した鋼板において、質量ベースで、前記範囲の(Ce+La)/酸可溶Al、および、(Ce+La)/Sが得られている場合、複合脱酸により、急激に、溶鋼中の酸素ポテンシャルが低下して、極低硫まで脱硫できるとともに、生成する介在物のAl2O3濃度が低くなるので、Alで殆ど脱酸することなく製造した鋼板と同様に、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が顕著に向上することを知見した。
また、本発明者らは、Ceおよび/またはLaの添加による脱酸により生成した、若干、Al2O3を含むものの、大部分を占める微細で硬質なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、および/または、ランタンオキシサルファイドの上に、MnSが析出し、このMnSは、圧延時に変形が起こり難いので、鋼板中において、延伸した粗大なMnSが著しく減少することも併せて知見した。
そして、質量ベースで、前記範囲の(Ce+La)/酸可溶Al、および、(Ce+La)/Sが得られている場合、円相当直径2μm以下の微細な介在物個数が急増して、鋼中に分散することが判明した。この微細な介在物は、凝集し難いので、その形状は、殆どが、球状または紡錘状である。また、長径/短径(以下、「延伸割合」と記載する場合がある。)は3以下で、好ましくは2以下である。
本発明者らは、走査型電子顕微鏡(SEM)等による観察で同定が容易な、円相当直径2μm以下の介在物の個数密度に着目した。ちなみに、円相当直径の下限値は、特に規定するものではないが、数字でカウントできる大きさは0.5μm程度以上であるため、0.5μm程度以上の介在物を対象とすることが好適である。ここで、円相当直径とは、断面観察した介在物の長径と短径から、(長径×短径)0.5として求めたものと定義する。
メカニズムの詳細は不明であるが、鋼板中において2μm以下の微細な介在物が15個/mm2以上分散しているのは、Si、Al、Tiと、Ce、および/または、Laの添加による複合脱酸で、溶鋼の酸素ポテンシャルを低下させること、微細で硬質なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイド、および/または、Tiオキサイドが生成すること、MnS系介在物の微細化させること、の相乗効果によるものと考えられる。これにより、フランジの成形時や曲げ加工時等に生じる応力集中を緩和する機構が働き、穴拡げ性、曲げ加工性を、顕著に向上させる効果があると推察され、その結果、繰返し変形時や、穴拡げ加工、曲げ加工時において、これらのMnS系介在物が、割れ発生の起点や亀裂伝播の経路となり難くなり、かえって、微細であるために、応力集中の緩和に寄与し、伸びフランジ性、曲げ加工性、耐疲労特性等の向上に繋がっているものと考えられる。
さらに、本発明者らは、割れ発生の起点や割れ伝播の経路となり易い延伸した粗大なMnS系介在物(MnS、TiS、および、(Mn,Ti)S介在物)を鋼板中で低減できているかを調査した。
本発明者らは、MnS系介在物の円相当直径が1μm未満であれば、延伸したMnSでも、割れ発生起点として無害であり、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性を劣化させないことを実験的に確認した。また、本発明者らは、円相当直径1μm以上の介在物は、走査型電子顕微鏡(SEM)等による観察も容易であることから、鋼板における円相当直径が1μm以上の介在物を対象として、その形態および組成を調査し、延伸したMnSの分布状態を評価した。なお、MnSの円相当直径の上限は、特に規定するものではないが、現実的には、1mm程度のMnSが観察される場合がある。
延伸介在物については、SEMを用いて、ランダムに選んだ円相当直径1μm以上の複数個(例えば、50個程度)の介在物を組成分析するとともに、介在物の長径と短径を、SEM像から測定する。ここで、延伸介在物を、長径/短径(延伸割合)が5以上の介在物と定義して、検出した上記延伸介在物の個数を、調査した全介在物個数(上述の例でいうと50個程度)で除すことにより、上記延伸介在物の個数割合を求めることができる。
延伸介在物の長径/短径(延伸割合)を5以上とした理由は、Ceおよび/またはLaを添加しない比較鋼板中における延伸割合5以上の介在物は、殆ど、MnSであったためである。なお、MnSの延伸割合の上限は、特に規定するものではないが、現実的には、延伸割合50程度のMnSが観察される場合もある。
本発明者らの観察結果から、延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合が20%以下に形態制御された鋼板においては、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が向上することが判明した。即ち、延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合が20%を超えると、割れ発生の起点となり易いMnS系延伸介在物の個数割合が多くなり過ぎ、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が低下する。そこで、本発明においては、延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合は20%以下とする。
伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性は、延伸したMnS系介在物が少ないほど良好であるので、延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合の下限は0%を含む。ここで、円相当直径1μm以上の介在物で、かつ、延伸割合5以上の延伸介在物の個数割合の下限が0%であることの意味は、円相当直径が1μm以上の介在物であるが、延伸割合5以上のものが存在しないということであり、または、延伸割合5以上の延伸介在物であっても、円相当直径が全て1μm未満であるということである。
また、本発明者らの観察結果から、延伸介在物の最大円相当直径も、組織の結晶の平均粒径に比べ、小さいことが確認された。このことも、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が飛躍的に向上した要因の一つと考えられる。
(Ce+La)/Sが5〜25で、延伸割合が5以上の延伸介在物の個数割合が20%以下に形態制御された鋼板においては、この形態に対応して、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドに、MnS系介在物が析出した形態となっている。
本発明の介在物の形態としては、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドに、MnS系介在物が析出していればよく、特に、規定するものではないが、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドを核として、その周囲に、MnS系介在物が析出している場合が多い。
なお、TiNが、微細で硬質なCe酸化物、La酸化物、セリュウムオキシサルファイド、および/または、ランタンオキシサルファイドの上に、MnS系介在物とともに複合析出する場合もある。但し、前述の通り、TiNは、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性には、殆ど影響しないことが、実験的に確認されたので、TiNは、本発明の介在物の対象としない。
CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドにMnS系介在物が析出した介在物は、圧延時に変形が起こり難いので、鋼板中で、延伸していない形状、即ち、球状または紡錘状の介在物となっている。
延伸していない球状介在物は、特に規定するものではないが、鋼鈑中の延伸割合3以下の介在物、好ましくは2以下の介在物である。鋼鈑中の延伸割合を3以下とする根拠は、圧延前の鋳片段階において、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドの上に、MnS系介在物が析出した形態の介在物の延伸割合が3以下であったことである。なお、延伸していない球状介在物が完全に球状であれば、延伸割合は1になるから、延伸割合の下限は1である。
本発明者らは、介在物の個数割合の調査を、延伸介在物の個数割合の調査と同様の方法で実施した。その結果、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドに、MnS系介在物が析出した形態の介在物の個数割合が10%以上の鋼板においては、伸びフランジ性、曲げ加工性と疲労特性が向上していることが判明した。
CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドに、MnS系介在物が析出した形態の介在物の個数割合が10%未満になると、これに対応して、MnSの延伸介在物の個数割合が多くなり過ぎ、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が低下する。このため、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドに、MnS系介在物が析出した形態の介在物の個数割合は10%以上とする。なお、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性は、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物またはオキシサルファイドに、MnS系介在物を多数析出させた方が良好であるので、上記個数割合の上限は100%を含む。
CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドの上に、MnS系介在物が析出した形態の介在物は、圧延時に変形が起こり難いので、該介在物の円相当直径は、特に規定する必要はなく、1μm以上でもよい。上記介在物の円相当直径が、あまり大きすぎると、割れ発生起点となることが懸念されるが、高々50μm程度のものしか生成しないので、実際に問題となることはない。
上記介在物は、圧延時に変形が起こり難いうえ、円相当直径が1μm未満であると、割れ発生の起点とならないので、円相当直径の下限は、特に規定する必要はない。
次に、本発明の鋼板中における介在物の存在条件を、介在物の単位体積当たりの個数で規定することについて説明する。
介在物の粒径分布は、スピード法による電解面のSEM観察で評価した。スピード法による電解面のSEMによる評価は、試料片の表面を研磨した後、スピード法による電解を行い、試料面を、直接、SEM観察することにより、介在物の大きさや、個数密度を評価するものである。
スピード法とは、10%アセチルアセトン−1%テトラメチルアンモニュウムクロライド−メタノールを用いて試料表面を電解し、介在物を抽出する方法である。電解量は、試料表面の面積1cm2当たり1Cである。このように電解した表面のSEM像を画像処理して、円相当直径に対する頻度(個数)分布を求めた。この粒径の頻度分布から、平均円相当直径を算出するとともに、観察した視野の面積と、電解量から求めた深さで、頻度を除して、介在物の単位体積当たりの個数を算出した。
割れ発生の起点となり、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性を劣化させる、円相当直径が1μm以上で、延伸割合が5以上の介在物の個数を評価した。その結果、このような介在物の体積個数密度が、1.0×104個/mm3以下であると、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が向上することが判明した。
円相当直径が1μm以上、かつ、延伸割合が5以上の延伸介在物の体積個数密度が1.0×104個/mm3を超えると、割れ発生の起点となり易いMnS系延伸介在物の個数が多くなり過ぎ、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が低下するので、円相当直径が1μm以上で、かつ、延伸割合が5以上の延伸介在物の体積個数密度は、1.0×104個/mm3以下とする。
なお、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性は、延伸したMnS系介在物が少ないほど良好であるので、円相当直径が1μm以上で、かつ、延伸割合が5以上の延伸介在物の個数の下限は0%を含む。ここで、円相当直径が1μm以上で、かつ、延伸割合が5以上の延伸介在物の個数の下限が0%であることの意味は、前述した意味と同様である。
円相当直径が1μm以上で、かつ、延伸割合が5以上の延伸介在物の体積個数密度が1.0×104個/mm3以下に制御された鋼板では、延伸していないMnS系介在物は、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドの上に、MnS系介在物が析出した形態となっていて、その形状は、ほぼ球状または紡錘状であった。
介在物の形態としては、上記同様に、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドの上に、MnS系介在物が析出していればよく、特に規定するものではないが、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドを核として、その周囲に、MnS系介在物が析出している場合が多い。
紡錘状の介在物は、特に規定するものではないが、延伸割合が3以下の介在物、好ましくは2以下の介在物である。介在物の形状が完全に球状であれば、延伸割合は1になるので、延伸割合の下限は1である。
このように、介在物の個数を調査した結果、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドを核として、その周囲に、MnS系介在物が析出した形態の介在物の体積個数密度を、1.0×103個/mm3以上に析出制御した鋼板においては、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が向上していることが判明した。
CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドの上に、MnS系介在物が析出した形態の介在物の体積個数密度が1.0×103個/mm3未満になると、MnS系の延伸介在物の個数割合が多くなり過ぎ、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が低下するので、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドの上に、MnS系介在物が析出した形態の介在物の体積個数密度は、1.0×103個/mm3以上に規定する。
また、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労強度は、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドを核として、MnS系介在物を多数析出させた方が良好であるので、上記介在物の体積個数密度の上限は、特に規定するものではない。
CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドの上に、MnS系介在物が析出した形態の介在物の円相当直径は、上記と同様に、特に規定するものではない。但し、この円相当直径があまり大きすぎると割れ発生の起点となることが懸念されるので、上限は50μm程度が好ましい。
なお、上記介在物の円相当直径が1μm未満の場合、問題は全くないので、下限は、特に規定する必要はない。
次に、本発明の鋼板中における延伸介在物の存在条件を、円相当直径の上限で規定したことについて説明する。
具体的に、割れ発生の起点となり、伸びフランジ性、曲げ加工性や疲労特性を劣化させる、円相当直径が1μm以上で、かつ、延伸割合が5以上の延伸介在物の平均円相当直径を評価した。その結果、上記延伸介在物の平均円相当直径が10μm以下であると、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が向上することが判明した。
本発明においては、円相当直径が1μm以上で、かつ、延伸割合が5以上の延伸介在物の個数が増加することに伴い、該延伸介在物の平均円相当直径が大きくなることに着目し、延伸介在物の平均円相当直径を指標として採用した。延伸割合が5以上の延伸介在物の個数が増加することに伴い、該延伸介在物の平均円相当直径が大きくなることは、溶鋼中のMnやSの量が増加するにつれて、生成するMnS系介在物の個数が増加するとともに、生成するMnS系介在物が粗大化することによるものと推定される。
円相当直径が1μm以上、かつ、延伸割合が5以上の延伸介在物が、10μmを超えて大きくなると、これに伴い、該延伸介在物の個数割合が20%を超えるので、割れ発生の起点となり易い、粗大なMnS系延伸介在物の個数が多くなり、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が低下する。それ故、円相当直径が1μm以上で、かつ、延伸割合が5以上の延伸介在物の平均円相当直径は、10μm以下とする。
なお、円相当直径が1μm以上で、かつ、延伸割合が5以上の延伸介在物の平均円相当直径を10μm以下とする規定は、円相当直径が1μm以上の介在物が鋼鈑中に存在する場合における規定であることを意味しているので、円相当直径の下限は1μmとなる。
本発明の鋼板中における、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドの上に、MnS系介在物が析出した形態の介在物の存在条件として、MnS系介在物が析出した介在物中におけるCeおよびLaの1種または2種の含有量を規定した。
本発明においては、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性を向上させる上で、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドの上に、MnS系介在物を析出させ、MnS系介在物の延伸を防止することが重要である。
上記介在物の形態としては、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドの上に、MnS系介在物が析出していればよい。通常、上記介在物は、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドを核として、その周囲に、MnS系介在物が析出した球状または紡錘状の介在物となっている。
紡錘状の介在物は、特に規定するものではないが、鋼鈑中の延伸割合が3以下の介在物、好ましくは2以下の介在物とする。介在物の形状が完全に球状であれば、延伸割合は1であるので、延伸割合の下限は1である。
MnS系介在物の延伸抑制に有効な、CeおよびLaの1種または2種の組成を明らかにするため、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドの上に、MnS系介在物が析出した形態の介在物の組成を分析した。
但し、MnS系介在物の円相当直径が1μm以上であれば、観察が容易であるので、便宜的に、円相当直径が1μm以上の介在物を対象として、組成分析を行った。但し、観察が可能であれば、円相当直径が1μm未満の介在物も含めて行ってもよい。
CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドの上に、MnS系介在物が析出した形態の介在物は、延伸していないため、延伸割合は、全て3以下であることが確認された。したがって、円相当直径が1μm以上で、かつ、延伸割合が3以下の介在物を対象に組成分析を実施した。
その結果、円相当直径が1μm以上で、かつ、延伸割合が3以下の介在物中に、平均組成で、CeおよびLaの1種または2種の合計で、0.5〜95%含有させると、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が向上することが判明した。
円相当直径が1μm以上で、かつ、延伸割合が3以下の介在物中におけるCeおよびLaの1種または2種の合計含有量が0.5%未満になると、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドの上に、MnS系介在物が析出した形態の介在物個数が大きく減少し、これに対応して、割れ発生の起点となり易いMnS系延伸介在物の個数が多くなって、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が低下する。
一方、円相当直径が1μm以上、かつ、延伸割合が3以下の介在物中におけるCeおよびLaの1種または2種の合計含有量が95%超になると、セリュウムオキシサルファイド、ランタンオキシサルファイドが多量に生成し、円相当直径が50μm程度以上の粗大な介在物となるので、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性が劣化する。
次に、本発明の鋼板の組織について説明する。
本発明は、鋳片中に、微細なMnS系介在物を析出させ、さらに、該析出物を、圧延時に変形を受けず、割れ発生の起点となり難い微細球状介在物として鋼板中に分散させることにより、伸びフランジ性、曲げ加工性および疲労特性の向上を図るものであり、鋼板のミクロ組織は、特に限定するものではない。
鋼板のミクロ組織は、特に限定するものではないが、ベイニティック・フェライトを主相とする組織にした鋼板、フェライト相を主相とし、マルテンサイト相、または、ベイナイト相を第2相とする複合組織鋼板、そして、フェライト、残留オーステナイト、および、低温変態相(マルテンサイトまたはベイナイト)からなる複合組織鋼板のいずれの組織でもよい。
本発明においては、Ti添加を必須としているので、熱間圧延前において、1250℃程度で充分な加熱を行うことにより、鋳造時に生成した炭化物、窒化物、および/または、炭窒化物を、一旦、鋼中に固溶して、鋼中の酸可溶Tiの量を高めることができる。その後、固溶TiまたはTiの炭窒化物の効果で、結晶粒を微細化して、鋼板の組織の結晶粒径を10μm以下にすることができる。
したがって、いずれの組織であっても、結晶粒径を10μm以下に微細化することができるので、結晶粒径を10μm以下に微細化することは、穴拡げ性、曲げ加工性および疲労特性の向上ため好ましい。平均粒径が10μmを超えると、延性と疲労特性の向上が小さくなる。穴拡げ性、曲げ加工性および疲労特性の向上のためには、8μm以下がより好ましい。ただし、一般に、足回り部品などに必要な、優れた伸びフランジ性を得るには、延性ではやや劣るものの、望ましくは、フェライトまたはベイナイト相が面積比で最大の相であることが好ましい。
次に製造条件について説明する。
本発明では、溶銑予備処理で、脱珪、脱燐、脱硫処理した後、転炉で吹錬して脱炭し、P:0.05%以下に処理された溶鋼中に、C、Si、Mn等の合金を添加して撹拌し、脱酸と成分調整を行う。極低硫化が必要であるので、二次精錬工程で、さらに脱硫処理を行って、成分調整を実施する。場合によっては、二次精錬工程での脱硫処理のみでも可能である。
また、Nについては、石灰窒素、窒化フェロマンガン、窒素ガス等のN源を添加することで、成分調整を行う。N源の添加は、転炉での吹錬中でも、二次精錬処理中でも良い。また、溶鋼中のN濃度が高すぎる場合は、真空脱ガス装置で脱N処理することもできる。
ちなみに、本発明において成分を「調整する」というのは、各成分の合金鉄やN源等を添加したり、脱炭、脱珪、脱燐、脱N等で低減したりして、得られた溶鋼中の成分を所望の値となるように調整することを意味している(以降も、同様である。)。
上記脱酸工程において、Siを添加した後、3分程度してから、Alを添加して、Al脱酸を行う。Al2O3を浮上分離するために、約3分程度の浮上時間を確保することが好ましい。その後、溶鋼にTiを添加し、約2〜3分程度の撹拌時間を置いた後、CeおよびLaの1種または2種を添加して、質量ベースで、(Ce+La)/酸可溶Al:0.1以上で、かつ、(Ce+La)/S:5〜25となるように成分を調整する。
選択元素を添加する場合は、CeおよびLaの1種または2種を添加する前に行い、十分撹拌し、必要に応じて、選択元素の成分を調整した後に、CeおよびLaの1種または2種を添加する。このようにして溶製した溶鋼を連続鋳造して、鋳片を製造する。
連続鋳造は、通常の250mm厚み程度のスラブ連続鋳造だけでなく、ブルームやビレット、さらには、スラブ連続鋳造機の鋳型厚みが通常より薄い、例えば、150mm以下の薄スラブ連続鋳造を用いることも可能である。
次に、高強度鋼板を製造するための熱延条件について説明する。
熱間圧延前のスラブ加熱温度は、鋼中の炭窒化物などを、一旦、固溶させることが必要であるので、1200℃超とすることが重要である。鋼中に炭窒化物を固溶させることにより、熱間圧延後の冷却過程で、延性の向上にとって好ましいフェライト相が得られる。熱間圧延前のスラブ加熱温度が1250℃を超えると、スラブ表面の酸化が著しくなり、特に、粒界が選択的に酸化されることに起因する楔状の表面欠陥が、デスケーリング後に残り、それが、圧延後の表面品位を損ねるので、スラブ加熱温度は、1250℃以下とすることが好ましい。
スラブを上記温度範囲に加熱した後、通常の熱間圧延を行うが、仕上げ圧延完了温度は、鋼板の組織制御を行ううえで重要である。仕上げ圧延完了温度が、Ar3点+30℃未満であると、表層部の結晶粒径が粗大になり易く、疲労特性上、好ましくない。一方、仕上げ圧延完了温度が、Ar3点+200℃超であると、圧延終了後のオーステナイト粒径が粗大になり、冷却中に生成する相の構成および分率が制御し難くなるので、仕上げ圧延完了温度は、Ar3点+200℃以下が好ましい。
仕上げ圧延後の鋼板の平均冷却速度を10〜100℃/秒とし、450〜650℃で巻き取る場合(圧延条件I)と、仕上げ圧延後680℃まで約5℃/秒で空冷して保持し、その後、30℃/秒以上の冷却速度で冷却し、400℃以下で巻き取る場合(圧延条件II)を、目的とする組織構成に応じて選択する。
圧延後の冷却速度と巻取り温度を調整することにより、圧延条件Iでは、ポリゴナル・フェライト、ベイニティック・フェライト、および、ベイナイト相の一つまたは二つ以上の組織と、その分率を持った鋼板を得ることができ、圧延条件IIでは、延性に優れる多量のポリゴナル・フェライト相とマルテンサイト相の複合組織を有するDP鋼板を得ることができる。なお、熱延工程が最終工程で、熱延板として出荷する場合は、圧延条件IIで、マルテンサイト層を含む鋼板とすることが必要である。
上記の平均冷却速度が10℃/秒未満であると、伸びフランジ性、曲げ加工性に好ましくないパーライトが生成し易くなり、好ましくない。一方、組織制御の上で、冷却速度に上限を設ける必要はないが、余りに速い冷却速度は、鋼板の冷却を不均一にする恐れがあり、また、余り速い冷却を可能にする設備の製造には多額の費用が必要となり、鋼板の価格上昇を招くので、冷却速度は100℃/秒以下が好ましい。
また、本発明の高強度鋼板は、熱間圧延し、巻き取った後、酸洗、スキンパス等を施し、冷間圧延し、焼鈍を施して製造する。最終的に、バッチ焼鈍、連続焼鈍などの焼鈍を施して冷延鋼板としても良く、本発明の高強度鋼板の機械特性は何ら変化しない。
さらに、本発明の高強度鋼板は、電気めっき用鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板でもよい。電気めっき、溶融亜鉛めっきを施しても、やはり、本発明の高強度鋼板の機械特性は何ら変化しない。
以下、本発明の実施例について、比較例とともに説明する。
表1、および、表2(表1の続き)に、成分組成を示す鋼を、表3に示す条件で熱間圧延し、厚さ3.2mmの熱延板を得た。その後、厚さ1.4mmまで冷間圧延を行い、冷延焼鈍板を製造した。
表1および表2において、鋼番1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、および、29の鋼は、本発明の範囲内の成分組成で構成したもので、鋼番2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、および、30は、S濃度、(Ce+La)濃度、(Ce+La)/酸可溶Al、および/または、(Ce+La)/Sを、本発明の範囲から逸脱させて構成したものである。
表3において、鋼番1と鋼番2、鋼番3と鋼番4、鋼番5と鋼番6、鋼番7と鋼番8、鋼番9と鋼番10、鋼番11と鋼番12、鋼番13と鋼番14、鋼番15と鋼番16、鋼番17と鋼番18、鋼番19と鋼番20、鋼番21と鋼番22、鋼番23と鋼番24、鋼番25と鋼番26、鋼番27と鋼番28、鋼番29と鋼番30との間で、比較ができるように、互いに、ほぼ同一の成分組成で構成したうえで、S濃度、(Ce+La)濃度、(Ce+La)/酸可溶Al、(Ce+La)/S等を、互いに異ならせている。
表3において、条件Aは、加熱温度を1250℃、仕上圧延完了温度を845℃、仕上げ圧延後の冷却速度を75℃/秒、巻取り温度を450℃とする。条件Bは、加熱温度を1250℃、仕上圧延完了温度を860℃とし、仕上げ圧延後680℃まで約5℃/秒で空冷保持し、その後の冷却速度を30℃/秒以上、巻取り温度を400℃とする。条件Cは、加熱温度を1250℃、仕上圧延完了温度を825℃、仕上げ圧延後の冷却速度を45℃/秒、巻取り温度を450℃とする。
鋼番1と鋼番2には、条件Bを適用し、鋼番3と鋼番4には、条件Aを適用し、鋼番5と鋼番6には、条件Aを適用し、鋼番7と鋼番8には、条件Cを適用し、鋼番9と鋼番10には、条件Bを適用し、鋼番11と鋼番12には、条件Bを適用し、鋼番13と鋼番14には、条件Aを適用し、鋼番15と鋼番16には、条件Bを適用し、鋼番17と鋼番18には、条件Aを適用し、鋼番19と鋼番20には、条件Cを適用し、鋼番21と鋼番22には、条件Bを適用し、鋼番23と鋼番24には、条件Cを適用し、鋼番25と鋼番26には、条件Bを適用し、鋼番27と鋼番28には、条件Aを適用し、鋼番29と鋼番20には、条件Cを適用することで、同一製造条件の下で、成分組成の影響を比較できるようにしている。
鋼板の基本特性の強度(MPa)、延性(%)、伸びフランジ性(λ%)、曲げ加工性として限界曲げ半径(mm)、および、疲労限度比(σW/σB)を調査した。
また、鋼板中の延伸介在物の存在状態を、光学顕微鏡による観察、または、SEMによる観察で調査した。全て、1μm程度以上の介在物を対象とし、2μm以下の介在物の面積個数密度(個/mm2)、延伸割合が5以上の介在物の個数割合(%)、体積個数密度(個/mm3)、平均円相当直径(μm)を調査した。
さらに、鋼板中の延伸していない介在物の存在状態を、光学顕微鏡による観察、または、SEMによる観察で調査した。全て、1μm程度以上の介在物を対象とし、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドに、MnS系介在物が析出した介在物の個数割合(%)および体積個数密度(個/mm3)と、延伸割合3以下の介在物中におけるCeおよびLaの1種または2種の合計の平均含有量(%)を調査した。
1μm程度以上の介在物を対象としたのは、観察が容易であることに加え、1μm程度未満の介在物は、伸びフランジ性、曲げ加工性や疲労特性の劣化に影響しないからである。
調査結果を、鋼と圧延条件の組み合わせ毎に、表4および表5(表4の続き)に示す。
強度と延性は、鋼板から圧延方向と平行に採取したJIS5号試験片の引張試験で求めた。伸びフランジ性は、150mm×150mmの鋼板の中央に開けた直径10mmの打抜き穴を、60°の円錐パンチで押し拡げ、板厚貫通亀裂が生じた時点での穴径D(mm)を測定し、穴拡げ値λ=(D−10)/10で求めたλで評価した。曲げ加工性を表す指標として用いた限界曲げ半径(mm)は、曲げ試験片を採取し、ダイとパンチを備えた型を用いたV曲げ試験で求めた。ダイとして、断面V字形の凹み部、開き角度60°のものを用いた。パンチとして、ダイの凹み部に適合する凸部を有するものを用いた。パンチの先端部の尖り部の曲げ半径を、0.5mm単位で変化させたパンチを用意して、曲げ試験を行い、被試験片の曲げ部に割れが発生する限界小のパンチ先端部の尖りの曲率半径を求め、これを限界曲げ半径として評価した。疲労特性を表す指標として用いた疲労限度比は、JIS Z 2275に準拠した方法で求めた2×106回時間強さ(σW)を鋼板の強度(σB)で除した値(σW/σB)で評価した。
なお、試験片は同規格に規定の1号試験片であり、平行部が25mm、曲率半径Rが100mm、原板(熱延板)の両面を等しく研削した厚さ3.0mmのものを用いた。
介在物は、SEM観察を行い、ランダムに選んだ円相当直径1μm以上の介在物50個について、長径と短径を測定した。さらに、SEMの定量分析機能を用いて、ランダムに選んだ円相当直径1μm以上の介在物50個について、組成分析を実施した。
これらの結果を用いて、延伸割合5以上の介在物の個数割合(%)、延伸割合5以上の介在物の平均円相当直径(μm)、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドに、MnS系介在物が析出した介在物の個数割合(%)、さらに、延伸割合3以下の介在物中におけるCeおよびLaの1種または2種の合計の平均含有量(%)を求めた。なお、介在物の形態別の体積個数密度(個/mm3)は、スピード法により、電解面のSEM評価により算出した。
表4および表5から明らかなように、本発明の方法を適用した鋼番1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、および、29では、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドに、MnS系介在物を析出させることにより、鋼板中において、延伸したMnS系介在物の量を低減することができた。
即ち、(a)鋼鈑中に存在する円相当直径2μm以下の介在物の個数が15個/mm2以上とする、(b)CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドに、MnS系介在物が析出した介在物の個数割合を10%以上とする、(c)該介在物の体積個数密度を1.0×103個/mm3以上とする、または、(d)鋼鈑中に存在する延伸割合3以下の介在物中のCeおよびLaの1種または2種の合計の平均含有量を0.5〜50%とすることにより、(A)円相当直径が1μm以上で延伸割合が5以上の延伸介在物の個数割合を20%以下、(B)該介在物の体積個数密度を1.0×104個/mm3以下、(C)該介在物の平均円相当直径を10μm以下とすることができた。なお、いずれの鋼板の組織においても、平均結晶粒径は、いずれも1〜8μmであり、本発明と比較例において、ほぼ同一の平均結晶粒径であった。
その結果、比較鋼と比べ、本発明の鋼番1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、および、29では、伸びフランジ性、曲げ加工性と疲労特性に優れた鋼板を得ることができた。しかし、比較例(鋼番2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、および、30)では、平均結晶粒径は、いずれも10μm以下であったにもかかわらず、延伸したMnS系介在物と、CeおよびLaの1種または2種からなる酸化物、または、これに、SiおよびTiの1種または2種を含有する酸化物またはオキシサルファイドに、MnS系介在物が析出した介在物の分布状態が、本発明で規定する分布状態と異なるため、鋼板加工時に、延伸したMnS系介在物が割れ発生の起点となり、伸びフランジ性、曲げ加工性と疲労特性が低下した。