JP2007127573A - 金属センシング用環状高分子材料および金属イオン検出素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】金属イオンを捕捉し、検知しうる機能を有する高分子材料およびそれを用いた素子を提供する。
【解決手段】イミンとベンゼン環とを含む金属センシング用環状高分子材料100であって、イミンに金属イオンが配位(錯形成)することによる高分子材料の酸化還元電位を測定することによって電気化学的に微量の金属イオンを検出することができる。繰り返し単位n=2の場合、高分子材料は構造110に示されるように正方形をなし、記号Zはシス型のイミンを表す。一方繰り返し単位n=3の場合、高分子材料は構造120に示されるように三角形をなし、記号Eは、トランス型のイミンを示す。構造120は、シス型とトランス型とが1:1で混在する。
【選択図】 図1

Description

本発明は、溶液中に存在する微量の金属イオンを検出可能な高分子材料およびそれを用いた素子に関する。
水溶液中の微量の金属イオンを検出する方法には、電気化学反応を利用した技術がある(例えば、特許文献1を参照。)。また、別の検出する方法には、光学的特性の変化を利用した技術がある(例えば、特許文献2を参照。)。
前記特許文献1に記載の方法は、測定溶液中に作用電極と対極とを浸漬するステップ、作用電極と対極との間に電流を流し、電気化学反応による電位−電流曲線を測定して溶液中の金属イオンの種類を特定するステップ、特定された金属イオンの還元電位に作用電極の電位を保持するステップ、作用電極上に形成される金属被膜により発生する作用電極の微小変形量を検出するステップ、および、微小変形量を基に、溶液中の金属イオン濃度を決定するステップを含む。
特許文献1に記載の方法によれば、電気化学反応による電位−電流曲線を測定することにより、溶液中の金属イオンの種類を特定することが可能になる。さらに、電気化学反応によって電極上に形成される金属被膜により電極が変形することを利用し、電極の微小変形量を測定することにより、溶液中の金属イオンの微量定量測定が可能である。
一方、特許文献2に記載の技術は、分析試料を保持する保持体の少なくとも一部に、金属イオンと錯体あるいはイオン対を形成し得る化合物を、吸着あるいは結合させた分析用部材を用いる。このような化合物が、金属イオンと錯体あるいはイオン対を形成することにより、分析試料に含まれる金属イオンを検出することができる。金属イオンを固定した分析用部材に光を照射し、その光の変化を検出することにより、短時間で容易に金属イオンを分析することができる。
特開2005−221299号公報 特開2004−205290号公報
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、電極の微小変形量を測定するために、レーザ光源およびCCDカメラ等を含むレーザ干渉計を用いる必要がある。このような装置は大掛かりであり、コストを要する。また、複数種の金属イオンの存在を検出することはできるものの、それぞれの金属イオン濃度を特定することは困難である。
同様に、特許文献2に記載の技術は、吸収スペクトル、発光スペクトルまたは励起スペクトルを測定するための測定部および検出部を用いる必要があり、装置が大掛かりになり、コストを要する。さらに、一旦測定し、錯体(またはイオン対)が形成された化合物は、所定の処理(例えば、塩酸および蒸留水による洗浄)によって、初期化される必要があり、繰り返し使用するにあたって労力を要する。また、複数種の金属イオンの存在を検出することはできるものの、スペクトルが重なる場合には、定量的に測定できないという欠点がある。
したがって、本発明の目的は、1つ以上の微量の金属イオンを高精度かつ簡便に検出する高分子材料、および、それを用いた検出装置を提供することである。
本発明による金属センシング用環状高分子材料は、イミンとベンゼン環とを含む式(1)、(2)および(3)からなる群から少なくとも1つ選択され、
ここで、R1およびR2は、同一または異なる水素原子、置換基を有するまたは有さないアリール基またはアルキル基であり、nは重合度を表す2以上の整数であり、mは重合度を表す3以上の整数であり、Rは、前記式(1)および(2)において前記イミン同士を直接接続するか、前記式(3)において前記イミンと前記ベンゼン環とを直接接続するか、または、炭素原子および水素原子を含むスペーサであり、これにより上記目的を達成する。
前記スペーサは、アリール基またはアルキル基であり得る。
前記アリール基またはアルキル基は、ジフェニルメタン、ジフェニルエーテルおよびブチル基からなる群から選択され得る。
前記R1およびR2は、フェニル基、メチル基およびピリジル基からなる群から選択され得る。
本発明による金属イオン検出素子は、電極と、前記電極に付与された高分子材料とを含み、前記高分子材料は、イミンとベンゼン環とを含む式(1)、(2)および(3)からなる群から少なくとも1つ選択される金属センシング用環状高分子材料であって、
ここで、R1およびR2は、同一または異なる水素原子、置換基を有するまたは有さないアリール基またはアルキル基であり、nは重合度を表す2以上の整数であり、mは重合度を表す3以上の整数であり、Rは、前記式(1)および(2)において前記イミン同士を直接接続するか、前記式(3)において前記イミンと前記ベンゼン環とを直接接続するか、または、炭素原子および水素原子を含むスペーサであり、これにより上記目的を達成する。
前記スペーサは、アリール基またはアルキル基であり得る。
前記アリール基またはアルキル基は、ジフェニルメタン、ジフェニルエーテルおよびブチル基からなる群から選択され得る。
前記R1およびR2は、フェニル基、メチル基およびピリジル基からなる群から選択され得る。
本発明による高分子材料は、ベンゼン環に直接接続されたイミンに金属イオンが保持される。その際に生じる電荷量の変化、すなわち金属イオンがイミンに配位(錯形成)することによる高分子材料の酸化還元電位を測定することによって電気化学的に微量の金属イオンを検出することができる。
また、本発明による高分子材料は環状であるため、高分子材料に含まれるイミンの数を正確に知ることができる。それにより、イミンに保持された金属イオン量を高精度に見積もることができる。さらに、本発明による高分子材料は環状であるため、繰り返し単位によって特定の対称性を有した分子構造が得られる。このような特定の対称性に応じた金属イオン種を検出することができる。また、繰り返し単位(重合度)あるいは式(1)〜(3)の高分子材料を任意に組み合わせることによって、2以上の金属イオン種を同時に検出することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
(実施の形態1)
本発明による金属センシング用高分子材料は、イミンとベンゼン環とを含む式(1)〜(3)からなる群から少なくとも1つ選択される。
本発明による高分子材料は、式(1)〜(3)に示されるようにベンゼン環に直接接続されたイミンを有する。これにより、対象とする金属イオンが保持され、その際に生じる電荷量の変化、すなわち、金属イオンがイミンに配位することによる高分子材料の酸化還元電位を測定することによって電気化学的に微量の金属イオンが検出され得る。
さらに、本発明による高分子材料は、式(1)〜(3)に示されるように環状構造を有しているため、高分子材料に含まれるイミンの数を特定することができる。特定されたイミンの数に基づいて、高精度に金属イオン量を見積もることができる。ここで、対象とする金属イオンは、任意であるが、高分子材料の酸化還元が起こる前に金属イオン自身が酸化還元されないことが前提である。
式(1)〜(3)において、R1およびR2は、同一または異なる水素原子、置換基を有するまたは有さないアリール基またはアルキル基である。好ましくは、フェニル基、メチル基またはピリジル基であり得る。これらは、イミンの酸化還元機能を安定化させるとともに、イミンの金属イオンへの配位力を高めるので、センシング感度を向上させることができる。
Rは、式(1)および(2)においてはイミン同士を直接接続するか、式(3)においてはイミンとベンゼン環とを直接接続するか、または、炭素原子および水素原子を含むスペーサである。スペーサRは、好ましくは、アリール基またはアルキル基である。これにより、イミンの電気化学的安定性が向上し得る。スペーサRは、より好ましくは、式(4)〜(6)に示されるジフェニルメタン、ジフェニルエーテルおよびブチル基からなる群から選択される。これらは、イミン同士を適切な距離離すことによって、イミンの酸化還元機能を安定化させるので、センシング感度が向上し得る。
式(1)および(2)に示されるnは、重合度(すなわち、繰り返し単位)を示す2以上の整数であり、式(3)に示されるmは、重合度を示す3以上の整数である。後述するように、本発明において、重合度は、高分子材料の環状形状ならびに環状形状中のイミンの異性体(シス型またはトランス型)の決定に関して重要である。
また、材料設計において、高分子材料の金属センシングに対する機能を、重合度を変化させるだけで、操作できることは有利であり得る。また、本発明の高分子材料は、π共役骨格を有しているため、剛直であり高い耐熱性を有する。このため、使用環境耐性を有し、高温下(例えば、500℃)においても使用可能である。
本発明による高分子材料は、例えば、特開2001−158778号公報に記載の方法を改良して製造され得る。
上記公報に記載の方法では、反応後に、直鎖状の高分子材料と環状の高分子材料とが混合して存在するので、目的とする環状の高分子材料のみを単離する必要があった。そこで、本願発明者らは、上記公報の反応終了後に、さらに2種類の原料(ジアミンおよびジケトン)のうちジアミンのみを追加し、2時間加熱還流すると、直鎖状高分子材料のみが消失し、環状の高分子材料のみが得られることを発見した。
この結果、単離プロセスを省略することができるだけでなく、経済的なプロセスによって確実に目的とする環状高分子材料を得ることができる。この特有な現象は、本発明の反応プロセスにおいて知見された新現象であり、一般的な縮重合反応において一方の原料のみを追加しても環状化は進行しない。すなわち、本反応条件を従来技術から推測することは極めて困難である。また、当然のことながら、上記特許文献の高分子材料は、金属の検出(センシング)を意図としておらず、本願発明者らが創意工夫の結果新たに見出した機能であることに留意されたい。
図1は、本発明による高分子材料の模式図である。
高分子材料100は、式(1)においてスペーサRが、ベンゼン環であり、R1および
2がいずれもフェニル基である場合を示す。繰り返し単位n=2の場合、高分子材料1
00は、構造110に示されるように正方形をなす。構造110において、記号Zはシス型のイミンを表す。一方、繰り返し単位n=3の場合、高分子材料100は、構造120に示されるように三角形をなす。構造120において、記号Eは、トランス型のイミンを表す。構造120は、シス型とトランス型とが1:1で混合して存在することが分かる。
このように、繰り返し単位(重合度)によって、高分子材料100は、種々の形状をと
るだけでなく、シス型とトランス型とが混合し得る。このようなシス型とトランス型とが1つの高分子材料中に混合して存在することは、後述するように、金属に対する錯形成能(配位能)が異なるため、複数種の金属センシングにおいて有利であり得る。
図2は、本発明によるさらなる高分子材料の模式図である。
高分子材料200は、式(1)においてスペーサRが、ジフェニルメタンであり、R1
およびR2がいずれもフェニル基である場合を示す。繰り返し単位n=2の場合、高分子
材料200は、構造210に示されるようにひし形をなす。図1の構造110と異なり、シス型とトランス型とが1:1で混合している。このように、同じ式(1)に基づく高分子材料100および200であり、かつ、同じ繰り返し単位n=2であっても、置換基等によりイミンの異性体(シス型またはトランス型)を制御することができることが分かる。このような制御ができることは、材料設計において有利であり得る。
図3は、本発明によるさらなる高分子材料の模式図である。
高分子材料300は、式(3)においてスペーサRが、直接イミンとベンゼン環とを接続する場合を示す。繰り返し単位m=3の場合、高分子材料300は、構造310に示されるように三角形をなし、イミンはいずれもシス型である。一方、繰り返し単位m=6の場合、高分子材料300は、構造320に示されるように矩形をなし、イミンは、シス型とトランス型との混合状態で存在し得る。構造320に示されるように、シス型とトランス型との存在割合は、必ずしも1:1ではない。このように、置換基、繰り返し単位数によって、シス型とトランス型との存在割合を任意に制御できることは、複数種の金属センシングにおいて有利であり得る。
以上、図1〜図3を参照して、本発明による高分子材料の構造を模式的に説明したが、例示に過ぎないことを理解されたい。
本発明による高分子材料は、重合度、スペーサR、R1およびR2の選択によって種々の構造をとり得ることに留意されたい。
上述してきたように、いずれの高分子材料も環状構造を有しているため、直鎖状の高分子材料と比べて、形状および分子量が均一である。したがって、高分子材料内に含まれるイミンの個数を確定することができる。このことは、イミンと錯形成(配位)した金属イオン量(濃度)を定量的に求めることができるため、有利であり得る。
次に、本発明による高分子材料による金属イオンのセンシングメカニズムについて詳述する。
〈1〉〔1種類の金属イオンをセンシングする例〕
図4は、本発明による高分子材料による金属イオンのセンシングの例を示す図である。
図4に示される高分子材料110は、図1を参照して説明した構造110と同一である。高分子材料110は、4つのイミンを有し、いずれのイミンもシス型である。このため、いずれのシス型においても金属イオンに対する錯形成能は同じである。このような高分子材料110を、金属イオンMを含有する溶液に接触させると、金属イオンMは、イミンのシス型と右図に示されるように錯形成し得る。
高分子材料110が、金属イオンMと錯形成すると、高分子材料110の酸化還元電位が変化する。その際の、酸化還元電位を測定することにより、高分子材料110中のイミン量から正確に金属イオン濃度を見積もることができる。
1種類の金属イオンをセンシングする場合は、高分子材料110のように、シス型またはトランス型のいずれか一種類のイミンが存在すればよい。
次に、金属イオン濃度の算出について詳述する。
図5は、本発明による高分子材料による金属イオン濃度算出の一例を示す図である。
簡単のため、1つの高分子材料110を用いた場合の金属イオン濃度の算出について説明する。図5に示されるように、金属イオン濃度と酸化還元電位とは線形の関係にある。
1つの高分子材料110は、上述したように4つのイミンを有する。イミンに金属イオンが配位していない場合には、領域510に示されるように、酸化還元電位は金属イオン濃度に対してフラットな挙動を示す。一方、4つのイミンすべてに金属イオンが配位している(すなわち、イミンが飽和状態にある)場合も、同様に、領域520に示されるように、酸化還元電位は金属イオン濃度に対してフラットな挙動を示す。
したがって、1つの高分子材料110を用いた場合には、領域510と領域520との間において、金属イオン濃度を決定することができる。
測定された高分子材料110の酸化還元電位がaの場合、金属イオン濃度はA、すなわち0と見積もられる。この場合、高分子材料110は、状態530にあり、イミンには金属イオンは配位していない。酸化還元電位がbの場合、金属イオン濃度はBと見積もられる。この場合、高分子材料110は、状態540にあり、すべてのイミンに金属イオンが配位している。
酸化還元電位がcの場合、金属イオン濃度はC(=B/2)と見積もられる。この場合、高分子材料110は、状態550にあり、4つのイミンのうち2つのイミンに金属イオンが配位している。酸化還元電位がdの場合、金属イオン濃度はD(=B/4)と見積もられる。この場合、高分子材料110は、状態560にあり、4つのイミンのうち1つのイミンに金属イオンが配位している。酸化還元電位がeの場合、金属イオン濃度はE(=3×B/4)と見積もられる。この場合、高分子材料110は状態570にあり、4つのイミンのうち3つのイミンに金属イオンが配位している。
このように、イミンに配位できる金属イオンの数が限定されるので、高精度に金属イオン濃度を求めることができる。
〈2〉〔2種類の金属イオンをセンシングする例〕
図6は、本発明による高分子材料による金属イオンのさらなるセンシングの例を示す図である。
図6に示される高分子材料210は、図2を参照して説明した構造210と同一である。
高分子材料210は、4つのイミンを有し、対角線上に位置するイミンがそれぞれシス型およびトランス型である。ここで、シス型のイミンおよびトランス型のイミンは、金属イオンに対する錯形成能が異なり得る。この異なる錯形成能を利用することによって、2種の金属イオンを同時にセンシングすることができる。
このような高分子材料210を、金属イオンM1およびM2を含有する溶液に接触させると、例えば、右図に示されるように、金属イオンM1は、シス型のイミンと錯形成し、金
属イオンM2は、トランス型のイミンと錯形成し得る。
高分子材料210が、金属イオンM1とM2と錯形成すると、酸化還元電位が変化する。
金属イオンと高分子材料210との組み合わせによって、高分子材料210の酸化還元電位が異なる。この場合、高分子材料210は、2つの異なる酸化還元電位を有し得、それぞれの酸化還元電位を測定することにより、高分子材料210中のイミン量から正確にそれぞれの金属イオン濃度を見積もることができる。2種類の金属イオンをセンシングする場合は、高分子材料210のように、シス型およびトランス型を有するイミンが存在すればよい。なお、シス型とトランス型との存在割合は、必ずしも1:1である必要はなく、高分子材料中の存在割合が既知であれば、金属イオン濃度の算出に問題はない。
〈3〉〔2種類の金属イオンをセンシングするさらなる例〕
図7は、本発明による高分子材料による金属イオンのさらなるセンシングの例を示す図である。
図7に示される高分子材料110および310は、それぞれ、図1および図3を参照して説明した構造110および310と同一である。
高分子材料110は、4つのイミンを有し、いずれのイミンもシス型である。同様に、高分子材料310は、3つのイミンを有し、いずれのイミンもシス型である。同じ、シス型のイミンであっても、環の形状(矩形、三角形等)によって金属イオンとの錯形成能が異なり得る。したがって、このような高分子材料110および310を所定の割合で混合すれば、2種の金属イオンをセンシングすることができる。
このような高分子材料110および310の混合物を、金属イオンMAおよびMBを含有する溶液に接触させると、例えば、右図に示されるように、錯形成能に応じて、金属イオンMAは、高分子材料110のイミンと錯形成し、金属イオンMBは、高分子材料310のイミンと錯形成し得る。
混合物が、金属イオンMAとMBと錯形成すると、酸化還元電位が変化する。高分子材料、および、高分子材料と金属イオンとの組み合わせによって酸化還元電位が異なるため、それぞれの酸化還元電位を測定することにより、混合物中のそれぞれの高分子材料110および310のイミン量から正確に金属イオン濃度を見積もることができる。
2種類の金属イオンをセンシングする場合、上記〈2〉で説明したシス型およびトランス型のイミンを含む高分子材料を用いる他に、異なる錯形成能を有する高分子材料を混合してもよい。
この場合の混合割合は、必ずしも1:1である必要はなく、各高分子材料の錯形成能が既知であれば、任意の混合割合であっても算出に問題はない。
なお、上記〈1〉〜〈3〉を任意に組み合わせて用いることで、3種以上の金属イオンをセンシングすることができることは言うまでもない。各高分子材料の金属イオンに対する錯形成能が既知であれば、適宜組み合わせることによって、任意の金属イオンをセンシングできるとともに、センシングされた金属イオン濃度を定量的に算出できる。
また、ユーザの要望に応じて、材料設計できるので有利であり得る。また、金属イオンと錯形成した高分子材料は、所定の電位(還元電位)を印加し、還元することによって、容易に初期状態(すなわち、錯形成前)の高分子材料になり得る。したがって、酸を用いた洗浄等の作業を要することなく、簡便に複数回使用することができるので、有利であり得る。
(実施の形態2)
次に、実施の形態1で説明した本発明による高分子材料を用いた金属イオン検出素子の
例を説明する。
図8は、本発明による高分子材料を用いた金属イオン検出システムを示す図である。
金属イオン検出システム800は、金属イオン検出素子810と、対極830と、参照電極840と、制御部850とを含む。
金属イオン検出素子810は、作用電極として機能する。金属イオン検出素子810は、白金線、金線、炭素棒(カーボン)等の不活性な金属に実施の形態1で説明した高分子材料820がコーティングされている。コーティングは、任意の溶媒に溶解させた本発明の高分子材料を電極にキャストし、溶媒を乾燥除去するだけでよい。
対極830は、例えば、Ptであり、大面積が好ましい。参照電極840は、例えば、銀−塩化銀電極である。金属イオン検出素子810、対極830および参照電極840は、金属イオンを含む溶液860に浸漬している。
制御部850は、ポテンショスタット、ロックインアンプ、発振器およびコンピュータを含む。コンピュータが発振器の動作を制御し、発振器からの信号に基づいてポテンショスタットが、金属イオン検出素子810と参照電極840との間の電圧が所望の電圧になるように動作し得る。その際、所望の電圧の値と電流値とは、ロックインアンプによって制御される。また、コンピュータは、ロックインアンプからの情報に基づいて、金属イオン濃度の算出を行う。
なお、コンピュータは、予め、高分子材料820に種々の金属イオンが配位した際の酸化還元電位に関するデータ(例えば、酸化還元電位、酸化還元電位と濃度との関係)を格納していてもよい。また、制御部850は、コンピュータからの結果を表示できるように表示部を備えていてもよい。
次に、金属イオン検出システム800の動作を説明する。
制御部850は、作用電極810と対極830との間で電圧を挿引掃引する。その際に流れる電流値を検出し、保存する。次いで、得られた電流−電圧のグラフから、酸化還元電位を算出する。得られた酸化還元電位の大きさから、検出された金属イオンおよび金属イオン濃度が特定される。
より詳細には、酸化還元電位は、用いた高分子材料820、高分子材料820と金属イオンとの組み合わせ、および、高分子材料820に配位した金属イオン濃度によって異なり得る。しかしながら、高分子材料820と金属イオンとの組み合わせによって酸化還元電位の範囲が決定されるので、得られた酸化還元電位から金属イオンは容易に特定され得る。
次いで、酸化還元電位と金属イオン濃度との関係(予め既知のデータ)を参照し、金属イオン濃度が特定される。制御部850のコンピュータのメモリが、予め、上記データを保持している場合には、制御部850において自動で処理することができる。
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではないことに留意されたい。
500ml三径フラスコに、1,4−ジベンゾイルベンゼン(1.0g:3.49mmol)と、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(692mg:3.49mmol)と、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(2.35g:21mmol)とを入れ
、クロロベンゼン(200ml)を加えて溶解させた。次いで、クロロベンゼン(5ml)で溶解させた四塩化チタン(994mg:0.57ml)を等圧滴下漏斗を用いて、上記混合物に滴下した。滴下終了後、150℃、3時間、混合物を加熱還流させた。
その後、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(2.35ml:21mmol)を追加し、クロロベンゼン(5ml)で溶解させた四塩化チタン(994mg:0.57ml)を等圧滴下漏斗を用いて、上記反応物に滴下した。滴下終了後、150℃、3時間、混合物を加熱還流させた。
さらに、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(346mg:1.745mmol)と、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(2.35ml:21mmol)とを追加し、クロロベンゼン(5ml)で溶解させた四塩化チタン(994mg:0.57ml)を等圧滴下ろうと漏斗を用いて、上記反応物に滴下した。滴下終了後、150℃、12時間、混合物を加熱還流させた。
反応終了後、反応液を吸引ろ過し、ろ液を濃縮、減圧乾燥させた。その後、シリカゲルクロマトグラフィーによって分離、精製を行った。得られた黄色の粉末を合成品とした。
得られた合成品を重クロロホルムに溶解させ、核磁気共鳴(NMR分光法)を用いて同定した。用いた装置は、FT−NMR装置(JNM−AL(300/BZ)、JEOL、Japan)であった。
同定結果を示す。
1H NMR (300 MHz, CDCl3, TMS) 3.77(s, 4H),
6.53(d, 4H), 6.62(d, 4H), 6.65(d, 4H), 6.88(d, 4H), 7.00(d, 4H), 7.07(d, 4H), 7.18−7.30(m, 6H), 7.42(t, 4H), 7.46−7.50(m, 2H), 7.58(d, 4H), 7.80(d, 4H)
13C NMR (75.45 MHz, CDCl3, TMS) 168.93, 1
67.29, 150.05, 149.09, 148.79, 139.33, 138.94, 138.80, 137.02, 136.20, 136.08, 135.69, 130.92, 129.48, 129.44, 129.37, 129.23, 129.08, 128.94, 128.46, 128.37, 128.29, 127.98, 121.21, 120.71, 40.28
得られた合成品を、フーリエ変換赤外分光光度計(Nicolet Nexus670、Thermo Electron、USA)を用いて、赤外吸収スペクトルを測定した。同定結果を示す。
IR (KBr, cm-1) 1631(C=N), 1610, 1593, 1499, 701
次いで、合成品に液体クロマトグラフ質量分析計LCMS(LCMS−IT−TOF、Shimadzu、Japan)およびレーザイオン飛行時間型質量分析計MALDI TOF−MS(AXIMA−CFR、Shimadzu、Japan)を用いて高分解能質量分析(HRMS)を行った。同定結果を示す。
TOF−Mass 897.41(理論値; 897.39)
LCMS−IT−TOF 897.3908(理論値; 897.3957)
これらの結果から、式(7)で示される所望の環状ポリフェニルアゾメチン(CPA4
−Meと称する)が得られたことが分かった。
得られたCPA4−Meに塩化スズ(II)を配位させてサイクリックボルタンメトリ測
定を行った。測定には、サイクリックボルタモグラム測定装置(CV612B、BAS製、Japan)を用いた。測定用の作用電極としてGCE(グラッシーカーボン)電極を、対極としてPtカウンター電極(BAS製)を、参照電極として有機溶媒用Ag/Ag+/ACN/TBAP(BAS製)を用いた。測定は、アセトニトリル(10ml)にC
PA4−Me(0.25mM)、および、支持電解質としてテトラブチルアンモニウムテ
トラフルオロボレート(0.2M)を溶解させ、この溶液に、アセトニトリルに溶解させた塩化スズ(II)(10mM)を滴定しながら行った。電圧は、0.0Vから−0.7Vの範囲で印加し、電圧の掃引速度は、0.1V/sであった。電圧は、0.0Vから-0
.7V、次いで、0.0Vへと掃引した。結果を図9および図10に示し、詳述する。
実施例1で得られたCPA4−Meに塩化金(III)および塩化鉄(III)を配位させた
場合の紫外・可視吸収スペクトルを測定した。
紫外・可視吸収スペクトルの測定は、UV−VIS−NIRスペクトロメータ(UV3150、Shimadzu、Japan)を用いて、波長範囲250nm〜500nmにおいて、透過モードで測定した。詳細には、アセトニトリルとジクロロメタンとを1:1で混合させた溶媒に、CPA4−Me(10μl)を溶解させた。この溶液に、アセトニ
トリルに溶解させた塩化鉄(III)(4mM)を滴定し、その後、アセトニトリルに溶解
させた塩化金(III)(4mM)を滴定した。測定は、滴定しながら逐次行った。結果を
図11および図12に示し詳述する。
図9は、CPA4−Meのサイクリックボルタモグラムを示す図である。
滴定量の増加、すなわち、塩化スズ(II)の濃度が増加するにしたがって、電流値が増大するとともに、酸化還元電位がプラス側へシフトした。このことから、CPA4−Me
が、スズイオン濃度の変化に応じてスズイオンをセンシング(検出)していることが示された。
図10は、酸化還元電位と塩化スズ(II)の濃度との関係を示す図である。
図9の結果から、酸化還元電位を塩化スズ(II)の濃度に対してプロットした。このことから、CPA4−Meの酸化還元電位は、塩化スズ(II)の濃度に対して線形の関係を
有していることが分かった。なお、塩化スズ(II)の濃度が所定の範囲を超えると、線形関係がなくなった(図示せず)。これは、CPA4−Me中のイミンが飽和したためであ
る。
このように、図9のような結果を種々の金属イオンに対して、および、本発明による種々の高分子材料に対して有していれば、図8の金属イオン検出システム800を用いて、容易に金属イオン濃度を測定することができる。
図11は、CPA4−Meの紫外・可視吸収スペクトルを示す図である。
図11に示されるように、塩化鉄(III)を滴定した後と、塩化金(III)を滴定した後とで、スペクトルの形状に変化が見られた。より詳細には、領域1110に示される等吸収点のシフトが見られた。
図11(A)は、塩化鉄(III)を滴定した直後の領域1110の拡大図であ り、
図11(B)は、塩化金(III)を滴定した直後の領域1110の拡大図である(ただし
、図が複雑になるのを避けるため、塩化鉄(III)を滴定したスペクトルを除去して示す
)。図11(A)および(B)に示されるように、塩化鉄(III)の滴定を完了後塩化金
(III)の滴定を開始すると、等吸収点が低波長側にシフトしているのが分かる。また、
図11(B)に示されるように等吸収点以降の長波長側においてスペクトルの増加も見られた。これらは、錯形成(金属イオンの配位)が2段階で生じていることを示している。
図12は、CPA4−Meと金イオンと鉄イオンとの錯形成モデルを示す図である。
図11を参照して説明した2段階の反応を詳述する。図12に示されるように、塩化鉄(III)を滴定すると、シス型のイミンと鉄イオンとが錯形成する(S1210)。次い
で、塩化金(III)を滴定すると、シス型のイミンと錯形成した鉄イオンは、そのまま維
持され、トランス型のイミンと金イオンとが錯形成する(S1220)。鉄イオンの錯形成定数は、金イオンのそれに比べて、大きいため、シス型のイミンと錯形成しやすい。一方、金イオンは、トランス型のイミンと錯形成しやすい。
また、最初に塩化金(III)を滴定し、その後、塩化鉄(III)を滴定した場合、金イオンは、最初、シス型のイミンと錯形成した。しかしながら、塩化鉄(III)の滴定を開始
すると、金イオンは鉄イオンと置換し、鉄イオンがシス型のイミンと錯形成し、金イオンはトランス型のイミンと錯形成することを確認した。これは、鉄イオンの錯形成定数が、金イオンのそれよりも大きいため、鉄イオンが、優先的に、シス型のイミンと錯形成するためである。
さらに、同時に塩化鉄(III)と塩化金(III)とを滴定した場合も、同様に、シス型のイミンに鉄イオンが、トランス型のイミンに金イオンが配位することを確認した。
図11および図12より、本発明によるCPA4−Meは、2種の異なる金属イオンを
センシングできることが分かった。また、イミンの異性体(シス型またはトランス型)に加えて、金属イオンの錯形成定数の違いを利用して、金属イオンの検出ができることがわかった。
上述してきたように、本発明による高分子材料によれば、金属イオンを検出し、かつ、高精度に金属イオン濃度を算出することができる。また、本発明による高分子材料の設計(複数種の高分子材料の組み合わせ、重合度、スペーサの選択等)によっては、2種以上の金属イオンを同時に検出可能であり、かつ、検出した金属イオンの濃度を別個に算出することができる。また、このような高分子材料は、所定の電位を印加するだけで、初期状態に戻すことができるので、扱いが簡便である。このような高分子材料を電極に付与するだけで、金属イオンセンサとして機能する。
本発明による高分子材料の模式図 本発明によるさらなる高分子材料の模式図 本発明によるさらなる高分子材料の模式図 本発明による高分子材料による金属イオンのセンシングの例を示す図 本発明による高分子材料による金属イオン濃度算出の一例を示す図 本発明による高分子材料による金属イオンのさらなるセンシングの例を示す図 本発明による高分子材料による金属イオンのさらなるセンシングの例を示す図 本発明による高分子材料を用いた金属イオン検出システムを示す図 CPA4−Meのサイクリックボルタモグラムを示す図 酸化還元電位と塩化スズ(II)の濃度との関係を示す図 CPA4−Meの紫外・可視吸収スペクトルを示す図 CPA4−Meと金イオンと鉄イオンとの錯形成モデルを示す図
符号の説明
100、200、300、820 高分子材料
800 金属イオン検出システム
810 金属イオン検出素子
830 対極
840 参照電極
850 制御部
860 溶液

Claims (8)

  1. イミンとベンゼン環とを含む式(1)、(2)および(3)からなる群から少なくとも1つ選択される金属センシング用環状高分子材料であって、
    ここで、R1およびR2は、同一または異なる水素原子、置換基を有するまたは有さないアリール基またはアルキル基であり、nは重合度を表す2以上の整数であり、mは重合度を表す3以上の整数であり、Rは、前記式(1)および(2)において前記イミン同士を直接接続するか、前記式(3)において前記イミンと前記ベンゼン環とを直接接続するか、または、炭素原子および水素原子を含むスペーサである、高分子材料。
  2. 前記スペーサは、アリール基またはアルキル基である、請求項1に記載の高分子材料。
  3. 前記アリール基またはアルキル基は、ジフェニルメタン、ジフェニルエーテルおよびブチル基からなる群から選択される、請求項2に記載の高分子材料。
  4. 前記R1およびR2は、フェニル基、メチル基およびピリジル基からなる群から選択される、請求項1に記載の高分子材料。
  5. 電極と、前記電極に付与された高分子材料とを含む金属イオン検出素子であって、
    前記高分子材料は、
    イミンとベンゼン環とを含む式(1)、(2)および(3)からなる群から少なくとも1つ選択される金属センシング用環状高分子材料であって、
    ここで、R1およびR2は、同一または異なる水素原子、置換基を有するまたは有さないアリール基またはアルキル基であり、nは重合度を表す2以上の整数であり、mは重合度を表す3以上の整数であり、Rは、前記式(1)および(2)において前記イミン同士を直接接続するか、前記式(3)において前記イミンと前記ベンゼン環とを直接接続するか、または、炭素原子および水素原子を含むスペーサである、素子。
  6. 前記スペーサは、アリール基またはアルキル基である、請求項5に記載の素子。
  7. 前記アリール基またはアルキル基は、ジフェニルメタン、ジフェニルエーテルおよびブチル基からなる群から選択される、請求項6に記載の素子。
  8. 前記R1およびR2は、フェニル基、メチル基およびピリジル基からなる群から選択される、請求項5に記載の素子。

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