従来、この種の原稿読取装置としては、次に示すように構成したものが一般に用いられている。この原稿読取装置は、図23に示すように、プラテンガラス101上に載置された図示しない原稿の画像を、光源102及び反射板103によって照明し、当該原稿からの反射光像を、フルレートミラー104及びハーフレートミラー105、106を介して、結像レンズ107によって、CCD(Charge Coupled Device) センサ等からなる画像読取素子108上に縮小結像し、この画像読取素子としてのCCDセンサ108によって原稿の画像を読み取るように構成されている。上記原稿読取装置の光学系は、フルレートミラー104、及びハーフレートミラー105,106によって折り返される光路を、光軸に沿って直線状に表わせば、図24に示すように、物体空間にある原稿109の画像を、結像レンズ107によって、像空間にあるCCDセンサ108上に結像する縮小光学系として、表現することができる。なお、図23中、110は原稿を抑えるプラテンカバーを示すものである。
ところで、近年、かかる原稿読取装置には、オフィス等で扱われるドキュメントの多様化等に伴い、高解像度化や高画質化などが要求されてきている。また、複写機に用いられる原稿読取装置には、それらに加えて、高速読取、広幅(A3サイズ対応)、本の綴じ代部における原稿浮きへの対応が要求されてきている。これらの原稿読取装置に求められる諸要求を物理的、光学的にとらえると、高いナイキスト周波数(量子化の限界周波数)、高いMTF(Modulation TransferFunction )特性、センサの高感度、広い画角、深い焦点深度が求められることになる。これらの諸要求を満足する原稿読取装置を設計するためには、センサの特性、及び原稿読取装置の共役長を決定した後、結像光学系のスペックに関わるものとしては、MTFの高さと焦点深度が挙げられる。
ここで、MTFとは、当業者に良く知られているように、物体(被写体)の強度分布の空間周波数スペクトルをO(μ,ν)、像の強度分布の空間周波数スペクトルをI(μ,ν)とすれば、I(μ,ν)=O(μ,ν)H(μ,ν)の関係が成り立ち、H(μ,ν)は一般に複素数で、その絶対値がMTF(Modulation Transfer Function)であり、位相がPTF(Phase Transfer Function )である(理化学辞典参照)。したがって、MTFの値が高いということは、取りも直さず、物体(被写体)である原稿の画像を、広い空間周波数にわたって、高い伝達率で、像として受光するCCDセンサ108上に結像することができることを意味する。
さらに、カラー複写機やカラースキャナー等の場合は、上記の条件に加えて、結像レンズの色収差も問題となる。色収差には、光軸方向のずれである軸上色収差と、CCDセンサの長手方向へのずれである倍率色収差があり、結像光学系の評価上、それぞれ異なる悪影響を及ぼす。具体的に説明すると、単レンズの場合、図25に示すように、結像光学系におけるB(ブルー),G(グリーン),R(レッド)の各色の焦点を、G(グリーン)の光を基準とした場合、波長の短いB(ブルー)の光は手前に、波長の長いR(レッド)の光は遠方に、デフォーカス方向にずらす。複数枚レンズを組み合わせて補正をしても、軸上色収差はわずかに残存し、図26に示すように、B(ブルー),G(グリーン),R(レッド)の各色MTFのピークがデフォーカス方向にずれるため、各色のバランスをとる必要性から、結果的にMTFの値を相対的に低い色に合わせざるを得ず、MTFを劣化させて、画質の悪化を引き起こす。これに対して、倍率色収差は、各色の結像位置をCCDセンサの長手方向にずらすため、図27に示すように、原稿に対応するCCDセンサの画素で受光する光が、色によって受光量に差が生じ、結果的にCCDセンサの出力が色によって異なり、色ずれを発生させる。
上述したMTF特性については、色収差以外にも、単色での収差がこれを劣化させるので、そのメカニズムは非常に複雑である。また、MTFに関しての評価項目としては、CCDセンサ面でのMTFの高さ、原稿が浮いた場合の許容範囲(焦点深度)、各画角におけるカラーバランス(ΔMTF)がある。ここで、各画角におけるカラーバランス(ΔMTF)とは、各画角において、BGRのうち、MTFの値が最大の色と最小の色とのMTF値の差である。
上記MTFの評価項目のうち、ΔMTFの増大と倍率色収差の増大は、物理的(光学的)挙動が異なるものの、CCDセンサからの出力という観点から見ると似通った結果をもたらす。すなわち、CCDセンサの長手方向に沿った同じ位置に位置する3色の画素から出力されるべき信号値が、色によって変化してしまい、その結果、それらを合成した色情報も本来の値から変化してしまうという現象が起こる。色情報が変化するということは、カラー複写機の出力画像の原稿に対する色再現性を悪化させるということである。カラー複写機の場合には、原稿読取装置によって、B(ブルー),G(グリーン),R(レッド)の3色で読み込んだ原稿の情報を、トナーの原色であるY(イエロー),M(マゼンタ),C(サイアン),K(ブラック)に変換するというステップがあるが、読み込んだ大元のBGRの画像データが不特定量だけずれていると、YMCKに変換する際に色ずれを補正することは困難である。
また、倍率色収差固有の不具合として、同一色領域のエッジの色付きがある。写真のように輪郭がはっきりしない事の多いイメージ画像を複写して出力する場合、多少の色ずれは気にならないことが多い。しかしながら、ビジネス文書等のように文字や図形の組み合わせで構成された原稿の場合には、倍率色収差によって文字や図形の主走査方向のエッジ部分だけが異なる色になると非常に目立ち、ユーザーに悪い印象を与えることになる。倍率色収差がある場合には、図27に示すように、例えば、K(ブラック)の画像のエッジ部分を、CCDセンサの注目画素で読み取ると、本来、原稿の色はK(ブラック)であるから、B(ブルー),G(グリーン),R(レッド)の出力値は、すべて等しく、しかも略ゼロに近い値となるはずであるが、CCDセンサの注目画素の出力は、倍率色収差によって、B(ブルー)の出力値が最も高く、次にG(グリーン)の出力値が中間的な値で、R(レッド)の出力値が最も低くなる。そのため、上記CCDセンサの注目画素で読み取られたK(ブラック)の画像のエッジ部分は、例えば、グリーンが混じったブルーのような色として、読み取られてしまうことになる。
これに対して各画角におけるカラーバランス(ΔMTF)の場合は、各画角におけるMTFの値が最大の色と最小の色とのMTF値の差であるため、全体的に色の違いが出るものの、エッジ部分だけが異なる色になることはない。この点においては、ΔMTFよりも倍率色収差の方が、原稿読取装置で読み取られる原稿の画質に及ぼす悪影響は大きいといえる。
さらに、デジタルカラー複写機の場合には、原稿がテキストであるのか、写真のようなイメージであるのかによって、画像処理を異ならせるのが一般的である。原稿がテキストの場合は、テキストとバックグラウンドでコントラストがはっきりしていた方が読みやすい。そのため、テキスト原稿の場合は、テキストのエッジ部分を強調させるような画像処理が行なわれる。一方、イメージ原稿の場合は、上記テキスト原稿と対照的に、色の変化がなだらかである方が見た目の印象が良くなる。そのため、イメージ原稿の場合は、色が徐々に変化していくような画像処理が行なわれる。このように原稿がテキストかイメージかによって画像処理の仕方を変えるため、複写機の画像処理部には、T/I(テキスト/イメージ)分離処理機能が組み込まれていることが多い。
また、読み込んだ色が黒又は灰色であった場合には、Y,M,Cのトナーを重ねて黒や灰色を表現するよりも、K(ブラック)1色のトナーで表現する方が美しい出力が得られる。そのため、カラー複写機には、上記T/I分離処理機能に加えて、黒色判定処理機能を有したものも多い。その際、特に黒文字をイメージ情報から分離させる場合に、上記収差によってCCDセンサからの出力が黒からずれていると、大きな問題が発生する。T/I分離処理エラーと黒色判定エラーが同時に起こると、原稿の黒文字部分が色付いて、なおかつぼけて出力されてしまい、原稿とかけ離れた出力である印象をユーザに与えてしまう。
そこで、従来の原稿読取装置と組み合わせて使用される画像処理装置では、CIE表色系において、L* a* b* の色空間で、K(ブラック)と判定される色味c* (=√(a*2+b*2))のスレッショールドレベルを、比較的高い値に設定することにより、L* a* b* の色空間において若干広い領域の色を黒と判定するようにしているのが実情である。そのため、CIE表色系において、本来黒以外の色であるにも関わらず、本来の色として再現される領域が狭くなっており、カラーの再現性が低下せざるを得なかった。
特に近年では、パーソナルコンピュータやプレゼンテーション資料作成ツールの発達・普及により、高精細な文字情報を含むフルカラー原稿が溢れはじめており、こうした原稿のコピーをとる頻度も高くなっている。そのため、上記従来の原稿読取装置では、結像光学系における色収差やΔMTFに起因する不具合が頻発しているものと推測される。
そこで、上述した種々の不具合を解消するための対策としては、画像処理以外に、原稿読取装置の結像レンズの設計において、収差がなるべく小さくなるように、レンズの材質やレンズパラメータを決定し、特性のバランスを取るのが一般的である。本発明者らの検討によれば、上述したT/I分離処理と黒色判定処理を良好に行うためには、倍率色収差による画素の色ずれを、0.1画素以内に抑え、かつ、ΔMTFを約20%以内におさえることが必要であるとのシミュレーション結果が出ている。しかし、レンズ設計を行うとき、倍率色収差を補正しようとすると、BGRの各色において結像倍率を合わせるために、像面湾曲がかえって大きくなり、MTFが悪化することになる。そのため、色収差対策に有効な異常分散ガラスを使用したとしても、レンズ単体での特性改善には、限界がある。また、異常分散ガラスを使用した場合には、通常の硝材に比べて、3倍から5倍のコスト高になるばかりか、複数の波長の屈折率やアッベ数を調節するために、有害物質として削減の対称となっている鉛や砒素を使用せざるを得ず、安全上の点からも好ましくない。
また、一般的に、レンズの設計段階において、収差を小さくしようとするときは、口径を小さくするか、画角を小さくするのだが、画角に関しては、原稿サイズと、複写機のスペースからの制約条件で、あまり変えることができない。そこで、結像レンズの口径を小さくして(レンズを暗くして)収差を低減させるという方法がよく採られる。しかし、CCDセンサのS/Nの関係上、高速かつ高解像度の読み取りを維持しつつ、レンズを暗くすると、必要な光量を確保するために、原稿を照明するランプの光量を上げなくてはならず、消費電力の増大を招く結果となる。
通常、オフィスのコンセントから取ることができる電力は、1.5kVAであるが、電子写真複写機の場合には、トナー像の定着に熱を用いる関係上、この熱を発生させるヒーター部分が非常に大きな電力を必要とする。現状400dpiの読取においても、カラー電子写真複写機の電力は1.5kVAぎりぎりの値である。このため、原稿読取部分に充てられる電力は極力減らすことが望ましい。
さらにここで、複写スピードを維持しつつ600dpiへ高解像度化を行うと、センサ一画素の面積が約2/3(400/600)に減り、相対的なセンサ受光量は、半分以下(22 /32 =4/9)となる。また、データ量が増える関係上、CCDセンサの画素出力を転送するビデオレートも上がり、これによっても電力は増える傾向にいくため、このうえレンズを暗くして、ランプの電力を増やすことは現状不可能である。むしろ、半分以下となった受光量を補うために、レンズは、従来のものよりも、明るくしなくてはならない。
これに対し、近年メモリのコストが下がってきたことにより、メモリを使用して、読み込んだ情報を一時記憶し、複写出力側(いわゆるプリンター側)と非同期にする事により、読み込みスピードを遅くするか、あるいはフルカラーの読み込みも1回のスキャンで行うことで、1回の読み込みスピードを遅くするなどの手法が考えられている。
しかしながら、メモリを使用して、読み込んだ情報を一時記憶し、複写出力側(いわゆるプリンター側)と非同期にする事により、読み込みスピードを遅くしたりすると、カラー複写機において白黒のコピーを取る時間も、カラーと同様のシーケンスを採用する関係上、遅くなる傾向になるが、カラー複写機において白黒のコピーを取る場合でも、白黒専用機と同程度のコピー速度を達成する必要がある。そのため、あくまでも理想としては、原稿読取装置の読み込みスピードは速くしたい。
また、レンズをなるべく明るく設計したい理由は、他にもある。白黒複写機において、最近の傾向では、従来、原稿照明用ランプとして採用されていたハロゲンランプに代わって、消費電力の低いキセノンランプを、用いるようになってきている。当然、フルカラー複写機においても、省エネルギーの観点から今後追従するため、キセノンランプ使用を考慮した設計にする必要がある。ところが現状、キセノンランプが出力可能な光量には上限があるため、暗いレンズではSN比の悪いデータしか読み込めない。
また、倍率色収差対策としては、CCDセンサの出力を電気的に重心補正する技術も公知であるが、これに関しては、電気信号としてのMTFの劣化を招くことになり、文字再現に影響を与えてしまう。これではせっかく解像度を上げても、画質は向上せず、カタログスペックでは400dpiから600dpiに上がって高画質になったように見えて、実は何も高画質ではない状況が発生する可能性が十分ある。
さらに、レンズでカバーしきれない結像特性を、電気回路や他の光学素子で補正することは、これらを用いることでレンズのコストが下がらない限り、確実にコストアップにつながる。
そこで、原稿を照明するランプの光量アップ等に伴う消費電力の増大を招くことなく、原稿読取装置の光学系を改良する技術としては、結像特性が高いことを特徴としたレンズの特許が数多く出願されており、また、そのうちのいくつかは、すでに権利化されている。例えば、特許第2729039号公報には、4群6枚のダブルガウスタイプレンズで、Fナンバーが4.5の読取レンズが開示されている。
しかしながら、通常の設計方法では、F4.5の明るさを確保しつつ、倍率色収差による画素の色ずれを0.1画素以内に抑え、かつ、ΔMTFを20%以内に抑えることは、もはや設計限界に来ており、上記特許第2729039号公報に開示された技術でも、これを達成することはできない。
そこで、この問題を解決するために、本発明者は、特開平11−191830号公報において、倍率色収差を従来の半分以下に設計し、これに伴って増加する収差については、主に原稿端の副走査方向のMTFに影響する部分にこれを集中させ、これにより劣化した副走査方向のMTFについては、副走査方向にレンズ瞳を絞る遮光部材(サジタルストッパー)を用いて改善する、という技術を既に開示している。
以下に、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
実施の形態1
図1はこの発明の実施の形態1に係る原稿読取装置を示す概略図である。
この原稿読取装置は、図1に示すように、上面が開口した原稿読取装置本体1を備えており、当該原稿読取装置本体1の上面開口部には、図示しない原稿を載置するためのプラテンガラス2が取り付けられている。このプラテンガラス2上には、読み取るべき画像を下向きにした状態で、所定の位置に原稿(図示せず)が載置される。上記原稿読取装置本体1の上部には、原稿をプラテンガラス2上に押圧するためのプラテンカバー3が、開閉自在に設けられている。
また、上記原稿読取装置本体1の内部には、プラテンガラス2上に載置された図示しない原稿の画像を、照明する照射手段としてのランプ4と、ランプ4から照射された光を効率よく原稿面に集光するリフレクタ5と、原稿からの反射光像を水平方向に反射するフルレートミラー6と、このフルレートミラー6からの反射光像を折り返すように反射する2枚のハーフレートミラー7、8と、これら2枚のハーフレートミラー7、8からの反射光像を縮小結像する結像レンズ9と、遮光手段としてのサジタルストッパー11と、結像レンズ9によって結像された光像を電気信号に変換するCCD(Charge Coupled Device) イメージセンサ等からなる光電変換手段としてのラインイメージセンサ12とが設けられている。上記結像レンズ9としては、例えば、ダブルガウスタイプのレンズが用いられる。また、上記CCDイメージセンサ12として、カラー画像を読み取るためには、カラー画像をB(ブルー),G(グリーン),R(レッド)の3色で読み取るカラーCCDイメージセンサが用いられる。
上記ランプ4及びリフレクタ5と、フルレートミラー6とは、図示しないフルレートキャリッジに搭載されており、このフルレートキャリッジは、副走査方向に沿って所定の速度Vで移動するように構成されている。また、上記2枚のハーフレートミラー7、8は、図示しないハーフレートキャリッジに搭載されており、このハーフレートキャリッジは、同じく副走査方向に沿って、フルレートキャリッジの半分の速度1/2・Vで移動するように構成されている。その結果、上記プラテンガラス2上に載置された原稿は、所定の速度で移動するランプ4、リフレクタ5及びフルレートミラー6と、2枚のハーフレートミラー7、8によって、光路長を変化させずに、結像レンズ9を介してCCDイメージセンサ12上に、その全面の画像が走査露光されるようになっている。
そして、上記原稿読取装置では、図1に示すように、プラテンガラス2上に載置された原稿の画像が、ランプ4から照射されかつリフレクタ5によって集光された光によって照明され、当該原稿からの反射光像は、フルレートミラー6とハーフレートミラー7、8を介して、結像レンズ9によって、CCDイメージセンサ12上に縮小結像される。その際、上記結像レンズ9によってCCDイメージセンサ12上に縮小結像される原稿からの反射光像は、その一部がサジタルストッパー11で遮光される。このとき、CCDイメージセンサ12は、各々の画素ごとに入射光の強さに応じて光電変換を行い、これによって原稿画像に対応した画像信号(RGB信号)が得られる。
上記原稿読取装置の光学系は、フルレートミラー6、及びハーフレートミラー7、8によって折り返される光路を、光軸axに沿って直線状に表わせば、図2に示すように、物体空間にある原稿13の画像を、結像レンズ9によって、像空間にあるCCDイメージセンサ12上に結像する縮小光学系として、表現することができる。
ところで、上記の如く構成される原稿読取装置には、高解像度化や高画質化などの要求に加えて、高速読取、広幅(A3サイズ対応)、本の綴じ代部における原稿浮きへの対応が要求されているが、これらの要求を物理的、光学的にとらえると、高いナイキスト周波数(量子化の限界周波数)、高いMTF(Modulation Transfer Function)特性、センサの高感度、広い画角、深い焦点深度が求められることになる。そこで、これらの諸要求を満足する原稿読取装置を設計するためには、CCDイメージセンサ12の特性、及び原稿読取装置の共役長を決定した後、結像光学系のスペックに関わるものとしては、MTFの高さと焦点深度が挙げられる。
次に、上記結像光学系のMTFと焦点深度とを決定する主たる構成要素である結像レンズ9の基本的な特性について、図3を参照しつつ説明する。
先ず、結像レンズ9では、光軸axから離れた位置、つまり原稿端近傍の画像を結像する際に、光軸axを中心とする同心円の接線方向(タンジェンシャル方向)のラインペア情報と、同心円の動径方向(ラジアル方向)のラインペア情報とでは、レンズの解像度を表すMTF(Modulation Transfer Function)特性が異なったものとなる。ラインイメージセンサ12を使用した原稿読取装置に、このようなレンズ9を用いる場合、接線方向の解像度(MTF)がラインイメージセンサ12の主走査方向(センサ長手方向)の解像度に対応し、動径方向の解像度がラインイメージセンサ12の副走査方向(センサ短手方向)の解像度に対応する。結像レンズ9の特性上、動径方向の解像度は、接線方向の解像度に比べて低くなりがちである。したがって、ラインイメージセンサ12においては、光軸axから離れた位置の画像の、副走査方向の解像度が低くなることが多い。
光軸外の物点から発した光が結像レンズ9に入射する場合、その入射瞳のメリジオナル面を通過した光線は、結像レンズ9の軸対称性により、レンズ9を出射した後もメリジオナル面から外れることはない。そのため、メリジオナル面を通過する光線に関しては、副走査方向の解像度を低下させることはない。
このことから、結像レンズ9から出射される光線を、メリジオナル面に直交するサジタル方向に絞っていくと、それにつれて幾何学的な収差は減少し結像状態が良くなる。また、それとともにサジタル方向の結像光束の広がりを制限することで、像空間における光束が細くなるので、理想像面から外れた位置での点像の広がりが小さくなり、ラジアル方向の結像状態の焦点深度を増すことができる。
そこで、この実施の形態1では、図1に示すように、原稿端近傍からの反射光が結像レンズ9を出射した後の副走査方向の射出瞳径が小さくなるように反射光の一部を遮光するものとして、副走査方向に対応する結像レンズ9のサジタル方向に光束を絞るサジタルストッパー11が設けられている。
しかも、この実施の形態1に係る原稿読取装置では、遮光手段としてのサジタルストッパー11が、前記結像レンズ9の外部に配置され、かつ当該結像レンズ9と一定の距離を保ったまま移動可能であるように構成されている。なお、図1においては、原稿からの反射光の光路中において、結像レンズ9とセンサ(光電変換手段)12との間にサジタルストッパー11を配置しているが、これ以外にも、結像レンズ9の手前にサジタルストッパー11を配置するように構成してもよい。
更に説明すると、この実施の形態1に係る原稿読取装置では、図1に示すように、結像レンズ9の射出側の外部、つまり、当該結像レンズ9とCCDイメージセンサ12との間に、遮光手段としてのサジタルストッパー11が配設されている。上記サジタルストッパー11は、図4乃至図6に示すように、金属等からなる黒色の矩形状の薄板であって、その中央には、やはり矩形状の開口部11aが形成されている。このサジタルストッパー11は、開口部11aの中心が原稿からの反射光の光軸axに合致し、開口部11aの長辺が主走査方向、短辺が副走査方向に合致するように配置されている。即ち、上記開口部11aの長辺は、結像レンズ9に対する原稿からの反射光のメリジオナル面と平行に配置され、短辺は、サジタル面と平行に配置されている。メリジオナル面は、光学系において、軸外の物点と光軸とを結ぶ平面であり、サジタル面はメリジオナル面に垂直な平面である。なお、図7は、従来の遮光板を採用した場合に、レンズ正面からセンサを覗き込んだ時のレンズ瞳の形状を示したものである。
また、上記サジタルストッパー11は、図8に示すように、結像レンズ9が取り付けられたレンズプレート10に、当該結像レンズ9と一定の距離を隔てて、ネジ止め等の手段によって取り付けられている。上記レンズプレート10は、原稿読取装置本体1の図示しないガイドレール等に、複数のネジ穴15a〜15cを介して、光軸方向及び光軸方向と直交する方向、並びに光軸方向に対する傾斜角度が調整可能に取り付けられている。したがって、上記サジタルストッパー11は、結像レンズ9が取り付けられたレンズプレート10に取り付けられているため、原稿読取装置の調整時に、当該結像レンズ9の位置を調整するため、レンズプレート10を移動させると、前記結像レンズ9と一定の距離を保ったまま移動可能となるように構成されている。
サジタルストッパー11の開口部11aの短辺は、図6に示すように、結像レンズ9自体の射出瞳で制限される出射光束Eの範囲よりも小さく設定され、これによって結像レンズ9における原稿端近傍の副走査方向の射出瞳径がサジタルストッパー11で小さくされる構成となっている。即ち、ある物点OP1 から結像レンズ9を介して開口部11aよりも上または下に向かった光線は、サジタルストッパ−11で遮られ、CCDイメージセンサ12には入射しない。これにより、結像レンズ9の射出瞳径は、サジタル方向においてのみサジタルストッパ−11で絞られる。このサジタルストッパー11による遮光作用は、開口部11aが矩形をなしていることから、その長手方向(主走査方向)の全体にわたって一様である。つまり、光軸ax上の物点OP2 からの光はサジタルストッパー11により部分的に遮られ、開口部11aを通過した光だけが像点IP2 に結像し、光軸axから離れた物点OP1 からの光もサジタルストッパー11で部分的に遮られ、開口部11aを通過した光だけが像点IP1 に結像する。なお、図6(a)において、斜線を付した部分は、サジタルストッパー11の上下の部分によりカットされる光束の部分を示している。
このようにサジタルストッパー11は、副走査方向の解像度に影響を与える、メリジオナル面から離れた光線をカットするので、主走査方向端部(原稿端近傍)での副走査方向の解像度を良好にしてレンズ9の結像性能を改善する。しかも、光量のカットが一方向(サジタル方向)のみであるため、レンズ9の結像性能を改善するための光量ロスが少なくて済む。
ちなみに、この場合は、主走査方向の全域で副走査方向の光束が一様に絞られるため、光量も一定の比率で減少する。その際、端の画角のMTFを改善するにあたり、サジタルストッパー11が最も効果を発揮するのは、副走査方向の光量を20〜25%程度、特に25%程度カットするときであり、これに対応してサジタルストッパー11の開口部11aの開口幅も設定されている。つまり、サジタルストッパー11は、メリジオナル面から離れたサジタル方向の光線をカットすることにより、副走査方向の解像度を向上させるものであるが、このサジタルストッパー11によってあまりサジタル方向の光線をカットし過ぎると、光学系が暗くなり、CCDイメージセンサ12に入射する光量が減少することになる。このCCDイメージセンサ12の入射光量の減少を抑えるためには、レンズ内の絞り径を、その分広く設定することも考えられるが、レンズ内の絞り径を広く設定すると、主走査方向の収差の影響が大きくなり、好ましくない。そこで、サジタルストッパ−11を用いることによる副走査方向の解像度の向上と、主走査方向の収差の低下との両者を考慮すると、サジタルストッパ−11が最も効果を発揮するのは、経験的に、副走査方向の光量を20〜25%程度、特に25%程度カットする場合であることがわかっている。
そのため、サジタルストッパ−11を用いることによって、副走査方向の光量が25%程度減少することを考慮して、F4.5程度の明るさを、照明電力をアップさせずに結像光学系全体で確保するためには、レンズ単体としてF4程度で設計する必要がある。これは、必要光量がF値の比の二乗に比例することによるもので、現状の照明電力を仮に100WとしてF4程度の明るさのレンズを採用すると、100W×(4/4.5)2 ÷0.75≒105Wとなり、照明電力の増加は極わずかで済むためである。
こうしたサジタルストッパー11による副走査方向の解像度(MTF)の改善に関しては、主走査方向での画角が大きくなればなるほど、その効果も大きくなることが分かっている。これは、一般に結像レンズ9の入射瞳が原稿端近傍の画角ではレンズの端寄りになることで、特にサジタル方向に広がった光束が副走査方向の収差を増大させることに起因する。一方、結像レンズ9の設計段階において従来では、原稿端近傍より内側の画角での解像度(MTF)を犠牲にして、原稿端近傍の画角での解像度を持ち上げることにより、全体のバランスをとるようにしている。
これに対して、この実施の形態の場合は、従来のように結像レンズ単体でバランス良く解像度をコントロールするのではなく、結像レンズ9の特性を決めるパラメータ設計の段階で、端の画角での副走査方向の解像度を意図的に低くなるように設計する。レンズ設計に関しては、関連メーカー各社から光学シミュレーションソフトが市販されているので、その光学シミュレーションソフトの自動設計プログラムで、ラジアル方向の端の画角での重み、つまり原稿端近傍の画角における原稿読取波長域の解像度を故意に低く設定することにより、原稿端近傍の画角における原稿読取波長域の副走査方向の解像度が、原稿端近傍より内側の画角における原稿読取波長域の最低解像度よりも低い解像度特性を有する結像レンズ9を採用する。
さらに詳述すると、一般に可視光域にあたる青、緑、赤の各波長域では、空間周波数(本/mm)に対するMTFの特性が、それぞれの波長域で異なったものとなる。特に、文字認識を良好に行ううえでは、5本/mm付近の空間周波数でのMTFの良否が重要なファクターとなる。これに対して、この実施の形態では、原稿端近傍の画角における5本/mm付近の空間周波数での原稿読取波長域の副走査方向MTFが、最良像面において原稿端近傍より内側の画角における原稿読取波長域の最低MTFよりも低い解像度特性をもつ結像レンズ9をあえて採用している。これにより、レンズパラメータ設計の自由度が高まるため、軸上色収差や倍率色収差、さらには像面湾曲や非点収差、歪曲収差等を従来よりも低く抑えることができる。
ただし、このような結像レンズ9を用いて原稿読取装置の光学系を構成すると、当然のことながら、主走査方向の原稿端近傍において副走査方向のMTFが悪化する。しかしながら、上述したサジタルストッパー11による解像度(副走査方向のMTF)のアップ分を予め見込んだうえで、原稿端近傍の画角における原稿読取波長域の副走査方向解像度を意図的に低く設定しておけば、上述のようなパラメータ設計による解像度の低下を相殺することができる。つまり、この発明に係る原稿読取装置は、従来のように結像レンズ9を出来るだけバランス良く設計したうえで、遮光板(サジタルストッパー)を補助的に利用するのではなく、原稿読取装置の光学系を構成するうえでサジタルストッパー11を必須な要素と位置づけ、これを利用することを前提に結像レンズ9の特性を決めることにより、結像光学系全体の特性を最適化するものである。
これにより、従来のように結像レンズ単体でMTFバランスをとる場合に比較して、レンズ設計の自由度が増加する分、端の画角以外、つまり原稿端近傍よりも内側の画角におけるMTFの特性を向上させることができる。ここで、可視光域での副走査方向のMTF周波数特性の一例を図9(a)、(b)のグラフに示す。なお、グラフの実線カーブは端の画角でのMTF特性、破線カーブはそれよりも内側の画角でのMTF特性を示し、今回行ったシミュレーションでは、青、緑、赤の各波長域について、いずれも図示のような特性カーブを示した。
即ち、図9(a)に示すサジタルストッパー無しでのレンズのMTF周波数特性では、概ね5〜15本/mmの空間周波数で端の画角でのMTFが、それよりも内側の画角でのMTFよりも低い特性を示している。これに対して、図9(b)に示すサジタルストッパー有りでのレンズのMTF周波数特性では、上述した5〜15本/mmの空間周波数でのMTFがサジタルストッパー11の遮光効果により持ち上げられ、双方の画角で一様に良好なMTF特性が得られている。
この場合、原稿端近傍よりも内側の画角におけるMTFの特性は、レンズ設計段階でこれを犠牲にすることなく、従来よりも高いレベルに設定されている。そして、原稿端近傍の画角におけるMTFについては、サジタルストッパー11の遮光作用により、内側の画角におけるMTFと同等レベルまで持ち上げている。したがって、結像光学系全体の特性としては、従来よりも収差が低減されてベストの状態が達成される。
また、結像レンズ9の特性を設定するにあたり、原稿端近傍の画角における副走査方向の解像度とそれよりも内側の画角における最低解像度との差分を、サジタルストッパー11による解像度のアップ分相当に設定しておけば、図9(a)に示すサジタルストッパー無し状態での所定周波数のMTFの差、例えば文字情報を読み取る際の解像度に大きく影響を与える5本/mm付近のMTFの差(ΔMTF)が、図9(b)に示すサジタルストッパー有り状態でほぼ0(ゼロ)になる。これにより、原稿に記された文字情報を好適に読み取ることができるとともに、結像光学系全体のMTFのバラツキも抑えられるため、これに起因した読取画質の低下を未然に防止することができる。
なお、画像読取波長域としては、青、緑、赤の可視光波長域だけに限らず、それよりも広い紫外、赤外光を加えた5つの波長域を含むものであってもよい。そして、原稿端近傍の画角における画像読取波長域の副走査方向の解像度が、原稿端近傍より内側の画角における画像読取波長域の最低解像度よりも低い、という条件を満たす結像レンズ9の特性としては、紫外、赤、緑、青、赤外の各波長域のうち、少なくともいずれか2つ以上の波長域で上記条件を満たすものであればよい。
以上の構成において、この実施の形態に係る原稿読取装置では、次のようにして、サジタルストッパーを用いることによる組み立て工数の増加やコスト増加を回避することができ、しかも、読取り画質を更に改善することが可能となっている。
すなわち、この実施の形態に係る原稿読取装置では、図1に示すように、プラテンガラス2上に載置された原稿の画像を、ランプ4及びリフレクタ5によって照明しつつ、当該原稿からの反射光像を、フルレートミラー6及びハーフレートミラー7、8を介して、結像レンズ9によってCCDイメージセンサ12上に縮小結像しつつ、当該フルレートミラー6及びハーフレートミラー7、8を副走査方向に移動させることにより、原稿の全面の画像をCCDイメージセンサ12上に走査露光し、当該CCDイメージセンサ12で原稿の画像を電気信号に変換して、読み取るようになっている。
その際、上記原稿の画像は、図2に示すように、結像レンズ9によってCCDイメージセンサ12上に縮小結像されるのであるが、結像レンズ9のCCDイメージセンサ12側には、サジタルストッパー11が配設されているので、当該CCDイメージセンサ12上への結像特性は、結像レンズ9の種々の収差及びサジタルストッパーの遮光特性によって決定される。
ところで、この実施の形態では、原稿端近傍の画角における原稿読取波長域の副走査方向MTFが、最良像面において原稿端近傍より内側の画角における原稿読取波長域の最低MTFよりも低い解像度特性をもつ結像レンズ9をあえて採用するように構成されている。これにより、レンズパラメータ設計の自由度が高まるため、軸上色収差や倍率色収差、さらには像面湾曲や非点収差、歪曲収差等を従来よりも低く抑えることができる。その結果、原稿端近傍よりも内側の画角におけるMTFの特性は、レンズ設計段階でこれを犠牲にすることなく、従来よりも高いレベルに設定することができる。
そして、原稿端近傍の画角におけるMTFについては、サジタルストッパー11の遮光作用により、内側の画角におけるMTFと同等レベルまで持ち上げることができる。したがって、結像光学系全体の特性としては、従来よりも収差が低減されてベストの状態が達成でき、読取り画質を大幅に向上させることが可能となる。
また、この実施の形態では、サジタルストッパー11が、図8に示すように、結像レンズ9が取り付けられたレンズプレート10に、当該結像レンズ9と一定の距離を隔てて、ネジ止め等の手段によって取り付けられている。そのため、原稿読取装置の調整時に、結像レンズ9の位置を調整してピント等を合わせる際、レンズプレート10を移動させると、サジタルストッパー11を前記結像レンズ9と一定の距離を保ったまま移動することができる。したがって、原稿読取装置の調整時に、結像レンズ9とサジタルストッパー11を別個に移動させ、位置を調整する必要がないので、サジタルストッパーを用いることによる組み立て工数の増加や、組み立て工数の増加に伴う製造コストの増加を回避することができる。
さらに、この実施の形態では、サジタルストッパー11が、結像レンズ9の射出側の外部に設けることにより、当該結像レンズ9によって縮小結像される光束を、サジタルストッパー11によって副走査方向に絞るため、サジタルストッパー11自体も小型化することが可能となる。
実施の形態2
図10はこの発明の実施の形態2を示すものであり、前記実施の形態1と同一の部分には同一の符号を付して説明すると、この実施の形態2では、結像レンズを保持する保持部材を備え、遮光部材は、当該保持部材と一体的に構成されたものである。
また、この実施の形態2では、前記遮光部材と結像レンズとの距離が、可能な限り短く設定されている。
図10(a)は、この実施の形態2のレンズアッセイ20(レンズ9とレンズ保持部材10)を上から見た状態を示し、図10(b)は横から見た状態を示す。さらに、レンズ保持部材10を上から見た状態を図11(a)に示し、レンズ保持部材10を光軸方向に見た状態を図11(b)に示す。
レンズ保持部材としてのレンズプレート10をL字型に形成して、当該レンズプレート10の垂直板部10aがサジタルストッパー11としての機能を果たし、この垂直板部10aに開口部11aを設け、サジタルストッパー11に押し当てた状態で結像レンズ9を固定する方が望ましい。その結果、上記サジタルストッパー11と結像レンズ9との距離が、可能な限り短く設定されている。
このように、サジタルストッパー11と結像レンズ9との距離を、可能な限り短く設定する、できればサジタルストッパーと結像レンズを支持するレンズ鏡筒との間に隙間を設けないように構成することにより、結像レンズとサジタルストッパーとの隙間から入射した迷光が、結像レンズの射出側の表面で反射され、光学系に悪影響を及ぼすのを確実に防止することができる。
その他の構成及び作用は、前記実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
実施の形態3
図12はこの発明の実施の形態3を示すものであり、前記実施の形態1と同一の部分には同一の符号を付して説明すると、この実施の形態3では、結像レンズが、4群以上のレンズを組合せたガウスタイプのレンズからなり、d線における屈折率及び分散が、以下の3種類の特性を有する材料を含むように構成したものである。
1.屈折率 1.658 分散 50.9
2.屈折率 1.639 分散 55.5
3.屈折率 1.648 分散 33.8
また、この実施の形態3では、前記結像レンズが、riを第i面の曲率半径、diを第i面と(i+1)面の間隔、niを第iレンズのd線における屈折率、νiを第iレンズのd線におけるアッベ数として、
r1 32.40 d1 5.82 n1 1.658 ν1 50.9
r2 80.80 d2 0.15
r3 25.11 d3 5.55 n2 1.639 ν2 55.5
r4 70.70 d4 2.85 n3 1.648 ν3 33.8
r5 16.96 d5 21.77
r6 -16.27 d6 0.90 n4 1.603 ν4 38.0
r7 -220.00 d7 6.72 n5 1.639 ν5 55.5
r8 -22.87 d8 0.51
r9 -172.4 d9 4.92 n6 1.658 ν6 50.9
r10 -38.80
を満足するように構成したものである。
ところで、図1に示す原稿読取装置において、光学系の構成部材の中で最も重要な構成要素は、結像レンズ9である。この結像レンズ9を設計する際には、前記実施の形態1で述べたように、原稿端近傍の画角における原稿読取波長域の副走査方向MTFが、最良像面において原稿端近傍より内側の画角における原稿読取波長域の最低MTFよりも低い解像度特性をもつ結像レンズ9をあえて採用するように構成することにより、レンズパラメータ設計の自由度が高まるため、軸上色収差や倍率色収差、さらには像面湾曲や非点収差、歪曲収差等を従来よりも低く抑えることができる。
しかし、これに加えて、上記結像レンズ9を設計する際に、当該結像レンズ9の直径をあまり大きくせずに、明るさを確保することも重要な要素となる。
この点、従来技術のなかには、複写機、スキャナー等に用いられる様々な特性のレンズが提示されている。また、特に結像特性の高いことを特徴としたレンズとして、例えば特開平9−113802号公報には、4群6枚構成のガウスタイプで、F値(No.) が4.5の読取レンズが開示されている。しかしながら、この公報に開示された読取レンズは、耐水性、耐青ヤケ性、耐潜傷性等の点で非常に扱いにくく、レンズ単体としてのコストも高いという難点がある。
これに対して、上記実施の形態1で述べたサジタルストッパーの有効活用により、倍率色収差とMTF特性を同時に改善するものについて、例えばF4.5程度の明るさを確保しようとすると、サジタルストッパーによる遮光分を補うために、レンズ径を大きくしてレンズ単体でのF値を小さく(明るく)する必要がある。そうすると、レンズ径が大きくなることでのサイズアップやコストアップが懸念される。ただし、サジタルストッパーとの組み合わせでレンズ構成を考えた場合、光学系としての明るさをF4.5相当に確保したうえで、上述のレンズ取り扱い上の難点や、レンズ径の拡大に伴うサイズアップ、コストアップを回避できるケースがある。以下に、具体的な例を挙げて説明する。
先ず、この実施の形態3に係る結像レンズの全体的な構成を図12に示す。図示のように、レンズ全体では、物体側から像側(図12において左側から右側)に向かって順に、第1群、第2群、第3群、第4群のレンズ群が配置されている。第1群を構成する第1レンズ31は、物体側(図の左側)に凸面を向けた正メニスカスレンズである。第2群は、第2レンズ32と第3レンズ33を貼り合わせた接合レンズで構成されている。このうち、第2レンズ32は、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズであり、第3レンズ33は、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズである。
第3群は、第4レンズ34と第5レンズ35を貼り合わせた接合レンズで構成されている。このうち、第4レンズ34は物体側に凹面を向けた負メニスカスレンズであり、第5レンズ35は、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズである。第4群を構成する第6レンズ36は、物体側に凹面を向けた正メニスカスレンズである。また、第3レンズ33(第2群)と第4レンズ34(第3群)との間には絞り37が配置され、この絞り37を挟んで、第1,第2群が前段のレンズ群、第3,第4群が後段のレンズ群を構成している。これにより、レンズ全体としては、4群6枚構成のガウスタイプレンズとなっている。
ここで、この実施の形態3で採用したレンズ(4群6枚構成のガウスタイプ)の具体的な特性値について述べる。先ず、riを第i面の曲率半径、diを第i面と(i+1)面の間隔、niを第iレンズのd線における屈折率、νiを第iレンズのd線におけるアッベ数とすると、以下に示す数値条件を満足するレンズを採用している。
r1 32.40 d1 5.82 n1 1.658 ν1 50.9
r2 80.80 d2 0.15
r3 25.11 d3 5.55 n2 1.639 ν2 55.5
r4 70.70 d4 2.85 n3 1.648 ν3 33.8
r5 16.96 d5 21.77
r6 -16.27 d6 0.90 n4 1.603 ν4 38.0
r7 -220.00 d7 6.72 n5 1.639 ν5 55.5
r8 -22.87 d8 0.51
r9 -172.4 d9 4.92 n6 1.658 ν6 50.9
r10 -38.80
また、この結像レンズ9と組み合わせるサジタルストッパー11としては、第6レンズ36の第10面上に、例えば副走査方向に9.6mmの開口部11aを持つ矩形型のものを採用している。このサジタルストッパ−11は、原稿とラインセンサ12間のどこに配置しても良いが、サジタルストッパ−11の開口幅は、レンズ瞳に対する遮光の比から適宜再計算する必要がある。
ちなみに、ここで採用したサジタルストッパー11の形状とレンズ瞳に対する遮光状態は図6(b)のようになる。ここで、どの程度光量が減るかについては、瞳の中の光量分布が均一であると仮定して、サジタルストッパー11で遮光される面積と瞳全体の面積の比から求め、その求めた結果から、光学系全体としての明るさをF4.5相当に確保している。例えば、レンズのF値を4.0とするならば、サジタルストッパー11の遮光による光量減少分がF0.5相当となるように開口幅を設定することで、光学系全体の明るさをF4.5相当とする。
次に、レンズ径について図13を用いて説明する。図13において、光軸と被写体面の交点を原点(0,0)とし、被写体像高をYob、レンズ第1面の曲率半径をr、被写体とレンズ第1面の距離をZ1、被写体からレンズに入射する最大光線高さでの、レンズ第1面との交点座標をp(z2,h)、レンズ鏡筒の肉厚をx、レンズ鏡筒がレンズ第1面よりも被写体側に突出する長さをm、レンズ径をφとすると、z2=r−√(r2 −h2 )+Z1tanθ=(Yob−h)/z2x=φ/2−h−(z2−Z1+m)tanθで表されるため、φ/2=x+h+(z2−Z1+m)tanθ=x+Yob−(Z1−m)(Yob−h)/z2となる。
ここで、Yobはxに対して十分に大きく、Z1もmに対して十分大きいので、x=m=0,Z1/z2=kとすると、φ/2=Yob(1−k)+k・hとなり、簡単な比の計算になる。このことから、φを小さくするためには、k→1で、かつh→0、つまりレンズ第1面の曲率半径を大きくし、レンズ長を短くすればよいことになる。
この点を考慮すると、前群の焦点距離が長い、即ち第1面の曲率を緩くしやすい4群以上の構成のガウスタイプレンズを用いてレンズの小径化を行うことが、本発明の効果をより一層高めることにつながる。そして、サジタルストッパー11との組み合わせで特性とコストのバランスが最良のものとして、4群6枚構成のガウスタイプレンズが挙げられる。
通常、4群6枚構成のガウスタイプレンズは、絞りを挟んで両側に小さい曲率半径の凹面が存在し、これによってペッツバール(Petzval )和を補正(小さく)している。ここで、ペッツバール(Petzval)和とは、共軸球面光学系で、像面のまがりを補正するための必要条件を与えるパラメータの和をいい、この和の値が0(ゼロ)に等しければ、像面のまがりを補正することが可能となるものである。そのため、これまでは大きな画角でのサジタル方向の収差補正が困難とされ、高屈折率の硝材を使用することで収差補正がしやすくなると言われてきた。実際、レンズ自動設計において、レンズ素材となる光学ガラスの屈折率範囲を高いところまで許容し、変数として使用すると、特に第1、第5、第6レンズの屈折率は高い方に変化していく傾向にある。
しかしながら、この傾向は、レンズ単体で主走査方向(メリジオナル方向)、副走査方向(サジタル方向)の収差を同時に改善して、いわゆるエラーファンクションを下げていくというレンズ自動設計のアルゴリズムに起因するもので、エリア画像を同時に読み込む必要のあるカメラレンズに適した設計手法である。これに対して、カラー画像読取装置のようにラインセンサでRGBの情報を別々にかつ1次元で読み取る構成のものに上記設計手段を適用しても、結像光学系の性能向上が必ずしも実現されない。
即ち、ラインセンサを用いたカラー画像読取装置では、白色光を結像させたときのエラーファンクションの低さ、あるいはMTFの高さよりはむしろ、同強度のRGBの光を別々に結像させたときのMTFの均一性や倍率色収差、そして各画角に対する均一性の方が、後工程で色情報を合成する必要性から重要となる。また、あまりナイキスト周波数でのMTFが高すぎると、モアレの要因にもなる。
そこで、この実施の形態3では、サジタルストッパー11を導入することにより、レンズ単体でのサジタルフレア補正の負担を軽減している。このサジタルストッパー11は、ガウスタイプレンズの設計において、その短所を補うと同時に、その長所を最大限に引き出し得る最適な手段となる。
また一般的に、硝材の屈折率が高くなると分散も大きくなるため、結像系の色補正を考慮すると、第1、第2、第5、第6レンズには、それぞれd線における屈折率が1.603〜1.658、アッベ数が50以上である光学ガラスを用いることが、この実施の形態3に係る結像光学系において、色補正とMTF特性のバランス、さらにはコスト的にも好適であると言える。つまり、この実施の形態3に係る結像光学系においては、レンズの屈折率が最も高いものでも、1.658程度であり、アッベ数も50以上であるので、レンズを構成する光学ガラスのコストを下げることができる。
図14はこの実施の形態3に係る結像レンズとサジタルストッパーを組み合わせたときの各種収差図を示すものである。
この図14(a)は球面収差を、図14(b)は非点収差を、図14(c)は歪曲収差を、それぞれ示しているが、これらの図から明らかように、各種収差が大変小さな値に抑えられており、主走査方向及び副走査方向ともに、倍率色収差や軸上色収差等が小さく、読取り画質が大幅に向上していることがわかる。
また、図15乃至図17に、上述した数値構成のレンズ単体(サジタルストッパー無し)のR(レッド),G(グリーン),B(ブルー)のMTF対周波数特性シミュレーション結果を示す。なお、図15はRのMTF対周波数特性、図16はGのMTF対周波数特性、図17はBのMTF対周波数特性をそれぞれ示している。また、各々の特性図において、(1) のラインは光軸上での主走査方向の特性カーブ、(2) のラインは同副走査方向の特性カーブ、(3) のラインは画角−13.67°での主走査方向の特性カーブ、(4) のラインは同副走査方向の特性カーブ、(5) のラインは画角−19.07°での主走査方向の特性カーブ、(6) のラインは同副走査方向の特性カーブをそれぞれ示している。
図15乃至図17においては、特にR,BのMTF対周波数特性で、原稿端近傍の画角(−19.07°)における副走査方向のMTFが低くなっていることが分かる。この部分の特性を意図的に低く抑えることで、レンズ設計におけるパラメータの自由度を増大させ、主走査方向のMTFと倍率色収差の特性向上に注力している。ここで、本実施形態のCCDセンサは、長手方向の一辺が9.33μmの画素を使用している。
次に、図18乃至図20に、上述した数値構成のレンズとサジタルストッパーを組み合わせた状態(サジタルストッパー有り)での、MTF対周波数特性シミュレーション結果を示す。図から明らかなように、先の図15乃至図17で見られた、レンズ単体での副走査方向のMTFの低さは、サジタルストッパーによる解像度の改善効果によって完全に補正されていることが分かる。
次に、原稿面上での空間周波数7.87ラインペア/mmにおけるMTFの対画角特性を図21に示す。なお、図21においては、画角の決定因子となる物体高を横軸にとり、縦軸にMTFをとっている。図示のように、B,G,Rの3色に関しては、物体高の変化(画角の大小)にかかわらず、それぞれのMTFが非常に良く揃っていることが分かる。この場合、反射光の副走査方向における最高解像度と最低解像度との差、すなわちΔMTFが20%以内に収まっている。これにより、読取解像度のムラが減少し、高画質化が達成できる。このΔMTFは、20%以内に収めれば十分な高画質化が達成できる。
さらに、倍率色収差の対画角特性を図22に示す。この図22では、本実施形態3に係るレンズの対画角特性を実線で示し、従来レンズの対画角特性を破線で示している。図示のように、従来レンズでは倍率色収差が0.933μmを超えているが、本実施形態3に係るレンズでは倍率色収差が0.933μm以内に収まっていることが分かる。すなわちこれは、G色の波長における結像の重心と、他の読取色の波長における結像の重心とのずれが画素の10%以下となるようレンズが設計されていることを示している。これにより、CCDセンサで読み取った画像データから無彩色判定を行うときのエラーが低減する。
以上のことから、本実施形態に係る特性のレンズとサジタルストッパーとの組み合わせにより、倍率色収差を1μm以内で、なおかつMTFの差(ΔMTF)が少ない結像光学系が実現されたことになる。これにより、CCDセンサ出力を用いた画像処理において、黒文字判定スレッシュレベル(CIEL* a* b* 色空間でのc* )を従来の2/3以下の値にし、色再現可能範囲を広げて、なおかつ、黒文字誤判定の発生率を低減することが可能となる。また、カラー複写機の読取光学系に省エネタイプのキセノンランプを用いる場合でも、メモリを使用することにより、ハロゲンランプを用いる場合と同等のプロセススピードを維持することが可能となる。
また上記レンズ構成において、第1、第2、第5、第6レンズに、それぞれd線における屈折率が1.603〜1.658で、アッベ数が50以上の光学ガラスを用いることにより、コストにも、取り扱い上もきわめて有利になる。
さらに、第1、第6レンズの曲率半径(r1,r10)を±30mm以上としてその曲率を緩くし、これに伴う収差の悪化分をサジタルストッパーで改善して光学系全体の結像性能を高めているため、特性の向上とレンズ径の縮小を同時に実現することができる。したがって、このレンズ径の縮小分と、レンズ単体でのF値を小さくする(F4.5→F4.0)ときのレンズ径の拡大分との相殺により、実質的にサイズアップを回避することができる。
これに加えて、第1、第2、第5、第6レンズに、それぞれ同一の素材(硝材)の光学ガラスを用いることにより、硝材の共通化によるコストダウンも期待できる。
その他の構成及び作用は、前記実施の形態1と同様であるので、その説明を省略する。
このように、上記実施の形態1乃至3によれば、カラー原稿読取光学系において、F4.5相当の明るさを確保し、倍率色収差を補正し、各色での画素ずれを10%(0.93μm)以内に抑え、また、それに加えて、サジタルストッパー導入とそれにあったパラメータ設計を行うことにより、原稿面上で7.81lp/mm周波数でのΔMTFを20%以内に抑えることができた。
これにより、CCDセンサ後段の画像処理における、黒文字判定スレッシュレベル(CIEL* a* b* 色空間でのc* )を従来の2/3以下の値にし、色再現可能領域を広げて、なおかつ、黒文字誤判定が発生しなくなった。
また、カラー複写機の読取光学系にキセノンランプを用いてもメモリを使用すれば、プロセススピードを従来と同じレベルにすることが可能になる。
さらに、収差の改善作用をレンズ、サジタルストッパーに分散させることにより、結像光学系全体としての設計が楽になる。このため、使用できる硝材の選択幅も広がり、有害物質として削減の対称となっている鉛・砒素を含有せず、かつ低コストで扱いやすい硝材を使用することが可能になるとともに、新規光学系の設計に要する工数も削減することができた。
1:原稿読取装置本体、2:プラテンガラス、3:プラテンカバー、4:ランプ(照射手段)、5:リフレクタ、6:フルレートミラー、7、8:ハーフレートミラー、9:結像レンズ、10:レンズ保持部材、11:サジタルストッパー(遮光部材)、12:CCDイメージセンサ(光電変換手段)。