JP2007104969A - ショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体を産生するための核酸及びその利用 - Google Patents

ショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体を産生するための核酸及びその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、ショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体を産生するための核酸及びその利用を提供する。
【解決手段】本発明の、shRNA前駆体を産生するための核酸は、以下の成分;1)RNAポリメラーゼII系プロモーター;並びに、2)以下のi)−iii)からなるshRNA前駆体コード領域、i)Drosha認識部位を含むDrosha認識第一領域;ii)shRNA形成領域;及びiii)Drosha認識部位を含むDrosha認識第二領域、を含み、ここにおいて、2−ii)のshRNA形成領域は、a)RNA干渉の標的となる標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列をコードするセンス鎖領域、b)塩基特異的RNaseで切断されるループ配列をコードするループ領域、及びc)標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列と相補的なアンチセンス配列をコードするアンチセンス領域、からなるものである。
【選択図】図1

Description

本発明は、ショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体を産生するための核酸、特に、RNAポリメラーゼII転写系プロモーター(以下、polII系プロモーターと呼ぶ)を利用した転写合成によりshRNA前駆体を産生することができる核酸、並びに当該核酸の利用に関する。当該核酸されたshRNA前駆体は、RNaseによって切断され、shRNA、さらに、RNA干渉(RNA interference:RNAi)を引き起こすことが可能なポリヌクレオチド(以下、「siRNA」と呼ぶことがある)へと加工される。
RNA干渉
細胞、組織又は個体内の標的遺伝子の発現抑制方法のひとつとして、これらに二本鎖RNA(double−stranded RNA:dsRNA)を導入し、標的遺伝子の所定塩基配列に相同なmRNAの分解を促進する方法がある。かかる方法では、結果的に、mRNAの鋳型となる前記標的遺伝子の発現を抑制することができる。このようなdsRNAによる発現抑制は、「RNA干渉(RNA interference:RNAi)」と呼ばれる。
Fire等は、標的遺伝子と相同なRNA及びそれと相補的なRNAからなる50塩基以上のdsRNAを線虫の細胞にトランスフェクト(導入)すると、標的遺伝子の発現抑制(すなわちRNA干渉)が生じることを報告している(例えば、非特許文献1、特許文献1参照。)。また、Tuschl等は、Fire等の提唱した長鎖のdsRNAがインターフェロン応答を生じるため哺乳動物細胞に導入困難である点に鑑み、21〜23塩基数のdsRNAを哺乳動物細胞にトランスフェクトし、それにより、インターフェロン応答を生じさせることなくRNA干渉を起こすことを報告している(例えば、特許文献2、非特許文献2、非特許文献3参照)。
RNA干渉を起こすこの短いdsRNAは、short interference RNA(以下、siRNAと表記する)と呼ばれる。詳細には、siRNAは、21−23塩基対からなる小さな二本鎖RNAである。RNAiの引き金分子となる二本鎖RNA(dsRNA)が長い場合、このRNAはまずsiRNAへとDicerによって変換され、siRNA自身もRNAiをひきおこすことができる。RNAiの過程において二本鎖siRNAが一本鎖へと変換される。その後、RISC(RNA−induced silencing complex)というタンパク質に取り込まれ、配列特異的に標的RNAを認識する役割を果たす。標的mRNAは、RISC中のヌクレアーゼによって切断・分解される。
siRNAによるRNA干渉は、遺伝子機能の同定や、有用物質生産に適した細胞株のスクリーニング等、種々の用途に利用可能である。特に、siRNAは、哺乳動物細胞への導入が可能であることから、遺伝子機能解析、創薬開発等において有用性が高い。
miRNAによる翻訳抑制機構
近年は、siRNAと類似する作用機序を有するものとして、miRNA(microRNA)による遺伝子発現抑制機構が注目されている。miRNAは、機能性non−coding RNAの中に見出される分子群で、約21−23塩基からなり、時空間特異的に生体内に発現し、翻訳抑制などを行うとされている。
miRNAの作用機構は、おおまかに核内プロセシング(ステップ1)、細胞質内プロセシング(ステップ2)、RISCへの取り込み(ステップ3)、標的mRNAの認識と翻訳抑制(ステップ4)の4つのステップに分けることができる。詳細には、始めに転写される塩基数十−数百のpri−miRNAは、塩基対のミスマッチを含む複数(時としては単数)のヘアピン構造からなる。pri−miRNAはDroshaにより3’末端が2塩基突出した約70−80塩基のヘアピン構造状pre−miRNAへと変換され(ステップ1)、さらにDicerによりmiRNA二本鎖へと切断され、さらに成熟型miRNAへと変換される(ステップ2)。成熟型miRNAを取り込んだRISCは(ステップ3)、miRNAをガイド分子として、標的mRNAへと導かれ作用する。miRNA−RISCは、標的mRANの翻訳を配列特異的に阻害する機能や、siRNA様の標的mRNAの切断・分解による遺伝子サイレンシングを引き起こす機能を有すると考えられてる。
なお、miRNA−RISCとsiRNA−RISCと遺伝子発現(転写、翻訳を含む)抑制機能の相違点は明確に区別されていない。本願の特許請求の範囲及び明細書において、「RNA干渉(RNAi)」と記載した場合には、特に明記しない限り、標的mRANの配列特異的な翻訳阻害と、標的mRNAの切断・分解による遺伝子発現抑制阻害(狭義のRNAi)の双方を含む、広い意味で用いられる。また、本願の特許請求の範囲及び明細書において、「siRNA」とは、特に明記しない限りmiRNAを含む、広い意味で使用される。
miRNAは、本願出願時の2005年において、ヒトで200−300種類程度知られている。ショウジョウバエでも100種類以上知られている。さらに、マウス、植物などからも新たなmiRNAの存在が報告されている。
siRNAの作製方法
siRNAの作製には、化学合成による方法及び酵素合成による方法がある。例えば、酵素合成によるsiRNA作製方法では、鋳型の塩基配列からRNAポリメラーゼを用いてsiRNAを転写合成する(例えば、特許文献3参照。)。図15は、RNAポリメラーゼを用いたsiRNAの作製方法の一例を説明するための図である。
図15に示すように、RNAポリメラーゼを用いる従来のsiRNA作製方法500では、短鎖のRNAの転写合成に適したRNAポリメラーゼIII系(以下、「polIII系」と呼ぶ)が用いられる。polIII系によるsiRNAの転写合成系では、転写制御配列であるpolIII系のプロモーター(以下、「polIII系プロモーター」と呼ぶ)領域501と、shRNA形成領域502と、を含むポリヌクレオチドが鋳型として用いられる。shRNA形成領域502は、センス鎖領域503と、ループ領域504と、アンチセンス鎖領域505と、ポリTを含む終了シグナル領域とが5’から3’方向にこの順で配置されて構成される。
polIII系プロモーター領域501に含まれるpolIII系プロモーターとしては、例えば、U6プロモーター、H1プロモーター、T7プロモーター等が用いられる。これらのプロモーターは、短鎖のRNAを効率良く転写でき、polII系プロモーターを用いる場合に比べて転写量が多い。センス鎖領域503は、RNA干渉の対象となる標的遺伝子の所定塩基配列と相同な配列(以下、「センス配列」と呼ぶ)を含んでおり、また、アンチセンス鎖領域505は、センス配列と相補的な配列(以下、「アンチセンス配列」と呼ぶ)を含んでいる。ループ領域504は、センス鎖領域503とアンチセンス鎖領域505との間に介在する所定塩基配列である。終了シグナル領域は、転写終了のシグナルを付与する配列を有し、ここでは4塩基数以上のTを含んで構成される。
かかるポリヌクレオチドを鋳型とする転写合成では、polIII系プロモーター領域501の下流(3’側)に配置されたセンス鎖領域503の5’方向から3’ 方向に向かって転写が行われる。図中の丸印は、shRNA形成領域502における転写開始位置を示している。転写は、さらにループ504領域、アンチセンス鎖領域505、及び終了シグナル領域(詳細には、当該領域の2つめのT)に至るまで連続して行われ、これら領域の5’方向から3’ 方向に向かって進む。このような転写により、鋳型のポリヌクレオチドの塩基配列(センス配列)に相同な塩基配列を含むセンス鎖領域503aと、ループ領域504aと、当該塩基配列に相補的な塩基配列(アンチセンス配列)を含むアンチセンス鎖領域505aとを含む、一本鎖のRNA506(shRNA前駆体)が合成される。
この一本鎖のRNA506は、ループ領域504aがループ構造を形成し、当該ループ領域504aを介して、センス鎖領域503aとアンチセンス鎖領域505aとが相補結合して二本鎖を形成する。それにより、ヘアピン構造を有するショートヘアピン型RNA(short hairpin RNA)507が形成される。
このようにして得られたshRNA507は、RNaseIII系の塩基特異的RNA切断酵素であるDicer508によってセンス鎖領域503aおよびアンチセンス鎖領域505aの所定部位で切断され、それにより、ループ領域504aが除去される。その結果、センス鎖領域503aとアンチセンス鎖領域505aとで二本鎖が形成されてなるsiRNA509が得られる。
shRNA507が中間体として形成される上記のsiRNA509の合成では、例えば、鋳型のポリヌクレオチドを導入したプラスミドベクターを哺乳動物細胞にトランスフェクトし、核内における転写合成によってshRNA及びsiRNAを形成する。このようにして核内で得られたsiRNA509は、核から細胞質に移動し、細胞質内でRNA干渉を引き起こす。
RNAポリメラーゼIII及びpolIII系プロモーターを用いる上記の酵素合成では、polIII系プロモーターの特性に鑑み、polIII系プロモーター領域501に続くセンス鎖領域503の転写開始位置の塩基配列が特定される。具体的には、センス鎖領域503の5’側末端の塩基配列がA又はGに限定される。それゆえ、合成により取得されるsiRNA509の塩基配列は、かかるプロモーター特性により塩基配列の制限を受ける。すなわち、この場合には、鋳型ポリヌクレオチドのセンス鎖領域503の5’側末端がA又はGとなり、よって、転写合成により取得されるsiRNA509のセンス鎖503aの5’側末端は、必ずA又はGに限定される。
ここで、siRNA509によるRNA干渉では、siRNA509の塩基配列、特に、5’及び3’末端の塩基配列がRNA干渉効果に大きな影響を及ぼす。したがって、上記のようなプロモーター特性による塩基配列の制限は、siRNA509の配列設計に制約を与える。その結果、RNA干渉効果の高いsiRNA509の設計が自由にできず、また、かかる制約によりRNA干渉効果が低減するおそれがある。さらに、かかる制約は、RNA干渉効果だけでなく、例えば、転写合成系へ薬剤による転写調節システムを適用する場合等において制約を与えるおそれがある。
また、polIII系プロモーターによる転写合成の別の制約として、鋳型ポリヌクレオチドの塩基配列中に4塩基以上の連続するTが存在すると、当該領域で転写が終了する。したがって、センス鎖領域503、ループ領域504及びアンチセンス鎖領域505は、このようなTの連続配列を含まないという制約を受け、siRNAの配列設計の自由度がさらに狭まる。
一方、U6やH1等のpolIII系プロモーターは、構成型呼ばれる、全ての組織で活性な非特異的なプロモーターである。それゆえ、組織特異的な遺伝子改変体の作製への適用は困難である。polIII系プロモーターを含む発現ベクターを用いて特定の組織における遺伝子発現を抑制しようとすると、当該特定の組織に発現ベクターを直接導入(トランスフェクション)するか、あるいは、発現ベクターを体外で細胞に導入した後に十分な抑制効果が得られた細胞を当該特定の組織に移植する等の必要がある。しかしながら、これらの方法では、導入効率が低く、また、方法を適用可能な組織や細胞の種類が限定されるという制約を受ける。さらに、発現ベクター導入に伴う遺伝子発現抑制によって胎生致死が引き起こされる場合があり、目的とする成体が得られないことがある。これらの点から、polIII系プロモーターでは、遺伝子改変体の実現は困難である。
特表2002−516062 特表2003−529374 特開2004−261002号公報 Fire A.ら,1998年,Nature 391, p.p.806−811 Tuschl T.ら,1999年,Genes Dev. 13, p.p.3191−3197 Elbashir,S.ら,2001年,Nature 411,p.p.494−498 実験医学 Vol.22 No.17(増刊) 2004 別冊 実験医学 ザ・プロトコールシリーズ 「ジーンターデティングの最新技術」(2000年、羊土社)コンディショナルターゲティング法p.115−120
本発明は、ショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体を産生するための核酸を提供することを目的とする。本発明の核酸は、以下の成分;
1)RNAポリメラーゼII系プロモーター;並びに
2)以下のi)−iii)からなるshRNA前駆体コード領域
i)Drosha認識部位を含むDrosha認識第一領域;
ii)shRNA形成領域;及び
iii)Drosha認識部位を含むDrosha認識第二領域
を含み、
ここにおいて、2−ii)のshRNA形成領域は、a)RNA干渉の標的となる標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列をコードするセンス鎖領域、b)塩基特異的RNaseで切断されるループ配列をコードするループ領域、及びc)標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列と相補的なアンチセンス配列をコードするアンチセンス領域、からなる。
本発明の核酸において、好ましくは、2)shRNA前駆体コード領域は、ヒトのpri−mRNA構造をコードする。好ましくは、2)shRNA前駆体コード領域の合計塩基数が、100塩基ないし400塩基である。
本発明の一態様において、2−ii−a)のセンス鎖領域がコードするセンス配列は、前記標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(1)〜(4)の規則:
(1)3’末端の塩基が、アデニン、チミン又はウラシルである;
(2)5’末端の塩基が、グアニン又はシトシンである;
(3)3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミン及びウラシルからなる群より選ばれる一種又は二種以上の塩基がリッチである;そして
(4)塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数である
に従う規定配列と、相同な塩基配列である。
本発明の一態様において、前記標的遺伝子の前記規定配列は、さらに下記(5)の規則:
(5)被検体の全遺伝子配列のうち、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の同一性を有する配列が含まれない
に従う配列である。
本発明の核酸はまた、一態様において、コンディショナルターゲティング法に適用される塩基配列をさらに含む。好ましくは、前記コンディショナルターゲティング法に適用される塩基配列は、Cre−loxPシステムに利用されるloxP及び/又は誘導型プロモーターである。
本発明はまた、本発明の核酸を含む、発現ベクターを提供することを目的とする。
本発明はさらに、shRNA前駆体の産生方法を提供することを目的とする。本発明の方法は、本発明の核酸を鋳型として、RNAポリメラーゼIIを用いて転写を行う工程を含む。本発明は、当該当該方法により産生されたshRNA前駆体も提供する。
本発明はさらにまた、新規なshRNA前駆体を提供することを目的とする。本発明のshRNA前駆体は、以下のi)−iii)
i)Drosha認識部位を含むDrosha認識第一領域;
ii)shRNA形成領域;及び
iii)Drosha認識部位を含むDrosha認識第二領域
を含む、ショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体であって、
ここにおいて、ii)のshRNA形成領域は、a)RNA干渉の標的となる標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列を有するセンス鎖領域、b)塩基特異的RNaseで切断されるループ配列を有するループ領域、及びc)標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列と相補的なアンチセンス配列を有するアンチセンス領域、からなる。
本発明のshRNA前駆体は、一態様において、ii−a)のセンス配列と、ii−c)のアンチセンス配列とが、ii−b)のループ配列を介して、分子内二本鎖を形成している
本発明はまた、本発明の発現ベクター又はshRNA前駆体を含む、医薬組成物を提供することを目的とする。
本発明はさらに、遺伝子発現抑制方法を提供することを目的とする。本発明の方法は、本発明の発現ベクター又はshRNA前駆体を発現を抑制しようとする標的遺伝子の発現系に導入し、当該標的遺伝子の発現を抑制する、ことを含む。遺伝子発現抑制は、好ましくはコンディショナルターゲッティング法によって調節される。
本発明はさらにまた、本発明の発現ベクター又はshRNA前駆体を含む、標的遺伝子の発現抑制方法に使用するためのキットを提供することを目的とする。
本発明はまた、本発明の発現ベクター又はshRNA前駆体が導入された、形質転換体を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を進め、本発明を想到した。よって、本発明は、RNA干渉効果が高いRNA干渉ポリヌクレオチド(siRNA)を高効率で産生するための方法、及び当該方法に使用するための核酸を提供する。また、本発明は、遺伝子発現抑制を容易に適宜所望に制御することが可能なRNA干渉ポリヌクレオチドを提供する。
本発明は、非限定的に以下の態様を含む。
[1]
ショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体を産生するための核酸であって、
以下の成分;
1)RNAポリメラーゼII系プロモーター;並びに
2)以下のi)−iii)からなるshRNA前駆体コード領域
i)Drosha認識部位を含むDrosha認識第一領域;
ii)shRNA形成領域;及び
iii)Drosha認識部位を含むDrosha認識第二領域
を含み、
ここにおいて、2−ii)のshRNA形成領域は、a)RNA干渉の標的となる標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列をコードするセンス鎖領域、b)塩基特異的RNaseで切断されるループ配列をコードするループ領域、及びc)標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列と相補的なアンチセンス配列をコードするアンチセンス領域、からなる
前記核酸。
[2]
2)shRNA前駆体コード領域が、ヒトのpri−mRNA構造をコードする、態様1の核酸。
[3]
天然に存在するヌクレオチド及び/又は天然に存在しないヌクレオチドから構成される、態様1又は2の核酸。
[4]
2)shRNA前駆体コード領域の合計塩基数が、100塩基ないし400塩基である、態様1ないし3のいずれか1つの核酸。
[5]
2−ii−a)のセンス鎖領域がコードするセンス配列は、前記標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(1)〜(4)の規則:
(1)3’末端の塩基が、アデニン、チミン又はウラシルである;
(2)5’末端の塩基が、グアニン又はシトシンである;
(3)3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミン及びウラシルからなる群より選ばれる一種又は二種以上の塩基がリッチである;そして
(4)塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数である
に従う規定配列と、相同な塩基配列である、態様11〜4のいずれか1つの核酸。
[6]
前記規則(4)において、塩基数が13〜28である、態様5の核酸。
[7]
前記標的遺伝子の前記規定配列が、さらに下記(5)の規則:
(5)被検体の全遺伝子配列のうち、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の同一性を有する配列が含まれない
に従う配列である、態様5又は6の核酸。
[8]
2−ii−b)のループ領域によってコードされるループ配列の、3’末端がグアニンであり5’末端がシトシンであるか、又は、前記ループ配列の3’末端がシトシンであり5’末端がグアニンである、態様1ないし7のいずれか1つの核酸。
[9]
2−ii−b)のループ領域によってコードされるループ配列の塩基数が、約3〜30塩基である、態様1ないし8のいずれか1つの核酸。
[10]
2−ii)−c)のアンチセンス鎖領域は、コードするアンチセンス配列の3’末端にオーバーハング配列を与える塩基配列を含む、態様1ないし9のいずれか1つの核酸。
[11]
コンディショナルターゲティング法に適用される塩基配列をさらに含む、態様1ないし10のいずれか1つの核酸。
[12]
前記コンディショナルターゲティング法に適用される塩基配列が、Cre−loxPシステムに利用されるloxP及び/又は誘導型プロモーターである、態様11の核酸。
[13]
以下のIないしIVのいずれかの構造を有する、態様12の核酸:
I) RNAポリメラーゼII系プロモーター − loxP − 発現が制御される任意配列領域 − loxP − shRNA前駆体コード領域;
II) RNAポリメラーゼII系プロモーター − loxP − shRNA前駆体コード領域− loxP − 発現が制御される任意配列領域;
III) 逆位の発現が制御される任意配列領域 − loxP − 逆位RNAポリメラーゼII系プロモーター − 逆位loxP − shRNA前駆体コード領域;又は
IV) shRNA前駆体コード領域 − 逆位loxP − RNAポリメラーゼII系プロモーター − loxP −逆位の発現が制御される任意配列領域。
[14]
発現が制御される任意配列領域が、標識配列領域又は第二のshRNA前駆体コード領域である、態様13の核酸。
[15]
二本鎖である、態様1ないし14のいずれか1つの核酸。
[16]
態様1ないし15のいずれか1つの核酸を含む、発現ベクター。
[17]
態様1ないし15のいずれか1つの核酸を鋳型として、RNAポリメラーゼIIを用いて転写を行う工程を含む、shRNA前駆体の産生方法。
[18]
前記転写をインビボで行う、態様17のshRNA前駆体の産生方法。
[19]
態様17又は18の方法により産生された、shRNA前駆体。
[20]
以下のi)−iii)
i)Drosha認識部位を含むDrosha認識第一領域;
ii)shRNA形成領域;及び
iii)Drosha認識部位を含むDrosha認識第二領域
を含む、ショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体であって、
ここにおいて、ii)のshRNA形成領域は、a)RNA干渉の標的となる標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列を有するセンス鎖領域、b)塩基特異的RNaseで切断されるループ配列を有するループ領域、及びc)標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列と相補的なアンチセンス配列を有するアンチセンス領域、からなる
shRNA前駆体。
[21]
ii−a)のセンス配列と、ii−c)のアンチセンス配列とが、ii−b)のループ配列を介して、分子内二本鎖を形成している、態様20のshRNA前駆体。
[22]
ヒトのpri−mRNA構造を構成している、態様20又は21のshRNA前駆体。
[23]
天然に存在するヌクレオチド及び/又は天然に存在しないヌクレオチドから構成される、態様20ないし22のいずれか1つのshRNA前駆体。
[24]
合計塩基数が、100塩基ないし400塩基である、態様20ないし23のいずれか1つのshRNA前駆体。
[25]
ii−a)のセンス配列は、前記標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(1)〜(4)の規則:
(1)3’末端の塩基が、アデニン、チミン又はウラシルである;
(2)5’末端の塩基が、グアニン又はシトシンである;
(3)3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミン及びウラシルからなる群より選ばれる一種又は二種以上の塩基がリッチである;そして
(4)塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数である
に従う規定配列と、相同な塩基配列である、態様20ないし24のいずれか1つのshRNA前駆体。
[26]
前記規則(4)において、塩基数が13〜28である、態様25のshRNA前駆体。
[27]
前記標的遺伝子の前記規定配列が、さらに下記(5)の規則:
(5)被検体の全遺伝子配列のうち、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の同一性を有する配列が含まれない
に従う配列である、態様25又は26のshRNA前駆体。
[28]
ii−b)のループ配列の、3’末端がグアニンであり5’末端がシトシンであるか、又は、前記ループ配列の3’末端がシトシンであり5’末端がグアニンである、態様20ないし27のいずれか1つのshRNA前駆体。
[29]
ii−b)のループ配列の塩基数が、約3〜30塩基である、態様20ないし28のいずれか1つのshRNA前駆体。
[30]
態様16の発現ベクター、又は、態様20ないし29のいずれか1つのshRNA前駆体を含む、医薬組成物。
[31]
態様16の発現ベクター、又は、態様20ないし29のいずれか1つのshRNA前駆体を、発現を抑制しようとする標的遺伝子の発現系に導入し、当該標的遺伝子の発現を抑制する、遺伝子発現抑制方法。
[32]
遺伝子発現抑制が、コンディショナルターゲッティング法によって調節される、態様31の遺伝子発現抑制方法。
[33]
態様16の発現ベクター、又は、態様20ないし29のいずれか1つのshRNA前駆体を含む、標的遺伝子の発現抑制方法に使用するためのキット。
[34]
態様16の発現ベクター、又は、態様20ないし29のいずれか1つのshRNA前駆体が導入された、形質転換体。
[35]
細胞、組織、器官、及び個体からなる群から選択される、態様34の形質転換体。
1.ショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体を産生するための核酸
よって、本発明はショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体を産生するための核酸を提供する。本発明の核酸は、以下の成分;
1)RNAポリメラーゼII系プロモーター;並びに
2)以下のi)−iii)からなるshRNA前駆体コード領域
i)Drosha認識部位を含むDrosha認識第一領域;
ii)shRNA形成領域;及び
iii)Drosha認識部位を含むDrosha認識第二領域
を含み、
ここにおいて、2−ii)のshRNA形成領域は、a)RNA干渉の標的となる標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列をコードするセンス鎖領域、b)塩基特異的RNaseで切断されるループ配列をコードするループ領域、及びc)標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列と相補的なアンチセンス配列をコードするアンチセンス領域、からなる
ものである(態様1)。
本発明において、「ショートヘアピン型RNA(shRNA)」とは、5’から3’に向かって、センス鎖領域−ループ領域−センス鎖と相補性を有する領域からなるアンチセンス鎖領域、を含む構造を有する、好ましくは長さ約50ないし70マー程度のRNAで、センス鎖領域とアンチセンス鎖領域が塩基対を形成して、ヘアピン構造を形成しているもの若しくはヘアピン構造を形成しうるものを意味する。
「shRNA前駆体」とは、RNAヌクレアーゼによって切断される付加的な配列(例:Drosha認識第一領域及び同第二領域)を含む、shRNAが形成される前の前駆体を意味する。
本明細書において「核酸」とは、一般に、1より多くのヌクレオチドが、5’→3’の方向に結合した核酸鎖の分子を意味する。本発明の核酸は、一本鎖又は二本鎖のRNA又はDNAを含む。二本鎖は、DNA/DNA、RNA/RNA、又はDNA/RNAであってもよい。また、DNAには、RNAを鋳型として逆転写してなるcDNAも含まれる。好ましくは二本鎖(態様15)、より好ましくは二本鎖DNAである。
本発明の核酸は、shRNAを産生するための核酸であって、1)RNAポリメラーゼII系プロモーター;並びに2)以下のi)−iii)からなるshRNA前駆体コード領域を含む。
RNAポリメラーゼII系プロモーター
RNAポリメラーゼII転写系プロモーター(polII系プロモーター)領域は、一般に用いられる通常のpolII系プロモーターであれば特に限定されず、公知のものを使用可能である。かかるpolII系プロモーターは、RNAポリメラーゼIIによって認識可能であり、かつ、好ましくは組織や細胞に特異的なプロモーターである。polII系プロモーターは、誘導性プロモーターであっても、恒常性プロモーターであってもよい。好ましくは、誘導性プロモーターである。例えば、polII系プロモーターとして、当業者に周知のCMVプロモーター、TREプロモーターが用いられる。これらのプロモーターは、市販のベクターやキット(例えば、Invitrogen社の「T−REx(登録商標)システム」や、BD Biosciences Clontech社の「Tetシステム発現ベクター)に用いられているものを利用できる。
polII系プロモーターは、従来使用されていたpolIII系プロモーターのような転写開始のための塩基配列上の制約を必要としない。したがって、polII系プロモーターに続く領域(好ましくは、Drosha認識第一領域)の5’側末端の塩基配列は、A、T、G、Cのいずれであってもよい。また、polII系プロモーターでは、本発明の核酸中のshRNA前駆体コード領域中に4塩基以上の連続したTが存在してもRNAポリメラーゼIIによる転写合成が停止しない。このように、polIII系プロモーターではプロモーター特性に起因した塩基配列上の制約がないため、任意の塩基配列を有するshRNAを産生が可能である。
なお、本発明の核酸はpolII系プロモーター以外に、エンハンサー等の他の発現制御要素を含んでもよい。
shRNA前駆体コード領域
本発明の核酸中の、shRNA前駆体コード領域は、以下の
i)Drosha認識部位を含むDrosha認識第一領域;
ii)shRNA形成領域;及び
iii)Drosha認識部位を含むDrosha認識第二領域
からなる。
shRNA前駆体コード領域は、polII系プロモーターが機能可能なように、polII系プロモーターに連結されている。「機能可能なように」とは、polII系プロモーターがshRNA前駆体コード領域の転写を促進しうる態様で、両者が連結されていることを意味する。例えば、polII系プロモーターの3’の直後にshRNA前駆体コード領域の5’が連結されていてもよく、あるいは、両者の間に数〜数十塩基程度の介在配列が適宜存在してもよい。介在配列の塩基配列は特に限定されない。
Droshaは、ヒト、マウス、ショウジョウバエ、線虫、イネ科植物等において公知の核内内在性酵素である。Dicerと同様、二本鎖RNA(dsRNA)結合ドメインとRNaseIIIドメインを有し、ヘアピン型構造を有するRNAを切断するRNase活性を奏する。Droshaは、クラスIIのRNaseIIIに属し、RIIIaとRIIIbの2箇所のRNaseIIIドメインを有する。いかなる理論にも拘束されるわけではないが、両ドメインがDrosha分子内において二量体を形成することによって、2箇所の触媒部位を与え、標的RNAを2箇所で切断すると考えられている。具体的には、RIIIaが3’側でRIIIbが5’側で切断する。
本発明の核酸において、shRNA前駆体コード領域中のi)Drosha認識部位を含むDrosha認識第一領域、及び、iii)Drosha認識部位を含むDrosha認識第二領域は、後述する本発明の核酸を鋳型として得られた転写産物であるshRNA前駆体に、2箇所のDrosha認識部位を付与する。このようなDroshaの認識部位が付与されたshRNA前駆体では、Droshaの作用により、両認識部位間に介在するshRNA形成領域が切り出される。
Droshaは、ループ構造を有するRNAを認識・切断するが、その認識は標的RNAのループの構造と大きさが影響すると考えられている。ループ部の長さは、好ましくは10マー以上、より好ましくは30マー程度である。そして、Drosha認識領域の長さは、第一領域及び第二領域を合わせて、好ましくは約30マーないし約300マー、より好ましくは、約100マーないし約240マー、さらに好ましくは約200マーないし約230マーである。
Droshaは、Dicerよりも基質特異性が高いが、認識配列は具体的に特定されていない。本発明のDrosha認識第一領域及び第二領域の塩基配列や塩基数は、同一であっても異なっていてもよく任意に選択可能である。標的RNAの2箇所の切断部位における5’端/3’端の組み合わせの例は、u/g、c/u、g/u、g/cである。よって、切断部位の5’端/3’端におけるaは好ましくない。
また、Droshaは生体内においてDGCR8と呼ばれるタンパク質と複合体を形成して標的RNAに作用することが知られている。DGCR8タンパク質によって、標的タンパク質への作用位置が決められると考えられている。
Drosha認識第一領域及び第二領域の塩基配列は、本明細書の記載及び当該技術分野の技術常識に基づいて、例えば、ヒトのpri−miRNAの構造を考慮して、適切な配列を適宜選択することが可能である。例えば、miR187、miR23a、miR30a、miR287、miR332、miR145、miR243等の構造を考慮してDrosha認識第一領域及び第二領域の塩基配列を選択してもよい。後述の実施例では、miR187様構造を選択して以下の配列を採用した。
Drosha認識第一領域
catcgggatgcacagcaagtcggattcccc
aagcagaagctgggcagcccacctggaaga
ggaggccaggcaggtgctgcaggtcgggct
caccatgacacagtgtgaccctcca
(図7の枠内の配列において、BamH1下流(左端から9塩基目)からセンス鎖領域までの配列に相当;115マー)
Drosha認識第二領域
gagggacgcaggtccgcagcagagcctgct
ccgcttgtcctgagggactcgacacagggg
actgcacagagaccatgggaaagtccaggc
tctggtggg
(図7の枠内の配列において、アンチセンス鎖領域からXbaIまでの配列に相当;99マー)
上記配列を選択したより具体的な理由は、通常用いられる市販のベクターやプロモーターへの適用が容易であること、また、後述する図7の発現ベクターで詳述するように制限酵素サイトとshRNA形成領域との相対配置が適切であることなどによる。
Droshaの認識配列は上記に限定されないことは、当業者によって容易に理解されよう。即ち、RNA干渉、miRNAの生成・作用機構の研究は日々進歩しており、当業者は技術常識に基づいて適宜適切なDrosha認識配列を選択することが可能である。
本発明の核酸の2)shRNA前駆体コード領域において、2−ii)のshRNA形成領域は、a)RNA干渉の標的となる標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列をコードするセンス鎖領域、b)塩基特異的RNaseで切断されるループ配列をコードするループ領域、及びc)標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列と相補的なアンチセンス配列をコードするアンチセンス領域、からなる。
「RNA干渉の標的となる標的遺伝子」は特に限定されず、本発明の核酸を含む発現ベクター又は当該発現ベクターから産生されるshRNA前駆体若しくはshRNAを導入する、細胞、組織、あるいは個体(以下、これらを総称して「被導入体」と呼ぶ)において、mRNA、ウィルスRNA及び任意にタンパク質を産出するように翻訳され得るものであれば、如何なる遺伝子であってもよい。具体的には、被導入体の内在性の遺伝子であっても外来性の遺伝子であってもよい。外来性のものとしては、例えば、被導入体に感染可能なウィルス、バクテリア、真菌または原生動物のような病原体由来の遺伝子等が挙げられる。また、標的遺伝子の機能は、既知及び未知のいずれであってもよく、また、他生物の細胞内では機能が既知であるが被導入体内では未知であってもよい。さらに、染色体上に存在する遺伝子でも、染色体外の遺伝子でもよい。
「標的遺伝子」は一つのコード領域から構成されてもよく、あるいは複数のコード領域に渡って構成されてもよい。「標的遺伝子」には、遺伝子自体のみならず転写産物も包含され、また、これらの特定の部分配列であってもよい。「転写産物」は、転写後のスプライシングにより取得される、遺伝子自体には存在しない塩基配列を有してもよい。
標的遺伝子の一例としては、その発現量の変化(増減)又は欠如が疾病の原因となる遺伝子が挙げられる。例えば、白血病、大腸癌、脳腫瘍、肝癌、胃癌、肺癌、膀胱癌、卵巣癌、直腸癌、乳癌、腎臓癌、膵臓癌、口腔癌、甲状腺癌、グリオーマ、メラノーマ、皮膚癌、前立腺癌等に関与する遺伝子や、眼疾患、具体的には緑内障、加齢黄斑変性症等に関与する遺伝子や、アレルギー疾患、具体的には喘息・気道過敏症、アトピー等に関与する遺伝子や、関節リュウマチ等のリュウマチ疾患に関与する遺伝子や、骨粗鬆症等の骨疾患に関与する遺伝子や、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋ジストロフィー等の神経疾患に関与する遺伝子が挙げられる。また、感染症等に関与するウィルスの遺伝子を標的遺伝子としてもよい。
また、例えば、遺伝子オントロジー(Gene Ontology)に定義された属性等で示される各種生物学的機能を有する種々の遺伝子を標的遺伝子としてもよい。遺伝子オントロジーについては、例えば、Gene Ontology Consortium、“Gene Ontology Consortium ホームページ”、[online]、1999年、Gene Ontology Consortium、 [平成16年10月25日検索]、インターネット<URL:http://www.geneontology.org/>を参照されたい。
遺伝子オントロジーには、例えば、「signal transducter activity (GO:0004871)」「receptor activity (GO:0004872)」のような遺伝子の属性が定義されており、さらに「receptor activityという属性は、signal transducter activityという属性を受け継ぐ」というような属性間の継承関係が定義されている。属性の定義および属性間の継承関係は、ジーン・オントロジー・コンソシアム:Gene Ontology Consortium(http://www.geneontology.org/)より入手可能である。また、ヒトやマウスの各遺伝子と、Gene Ontologyの属性との対応関係は、キャンサー・ゲノム・アナトミー・プロジェクト:Cancer genome Anatomy project(http://cgap.nci.nih.gov/)等各種データベースより入手可能である。遺伝子のGene Ontologyとの対応データから、例えばヒトZYX遺伝子(NM_003461)はreceptor activityを持つことがわかり、さらに属性間の継承関係を用いて、ZYX遺伝子は同時にsignal transducter activityをもつことを導くことができる。
遺伝子オントロジーでは、遺伝子の属性(annotation)について、各属性の定義や属性間の継承関係の定義がされている。この遺伝子のオントロジーにおける属性間の継承関係は、非循環有向グラフ(DAG)を形成する。遺伝子オントロジーでは、「遺伝子の機能(molecular function)」、「生物学的現象(biological process)」、「細胞内局在(cellular component)」により遺伝子を分類・整理している。そして、各分類方法において、属性間の継承関係が定義されている。遺伝子オントロジーにおける属性のID番号がわかれば、当業者は当該番号から各属性の内容を把握することが可能である。
本発明におけるRNA干渉の標的遺伝子としては、例えば、その発現量の変化(増減)又は欠如が、キナーゼやその活性に関連する遺伝子、Gタンパク質共役レセプター(GPCR)やそれに関連する遺伝子、フォスファターゼやその活性に関連する遺伝子、イオンチャンネルに関連する遺伝子、レセプターに関連する遺伝子、アポトーシスに関連する遺伝子、細胞周期に関連する遺伝子、シグナル伝達系に関連する遺伝子、転写制御に関連する遺伝子等を選択することが可能である。
2)−ii)−a)のセンス鎖領域のセンス配列において、「RNA干渉の標的となる標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列」とは、標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と実質的に同一な配列を意味する。ここで、「実質的に同一」とは、標的遺伝子の配列と50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の同一性を有することを意味する。RNA干渉を生じさせるという機能を失わない範囲であれば、塩基配列の一部に欠失、置換、挿入などの変異を含んでもよい。また、アンチセンス鎖領域のアンチセンス配列について、「センス配列と相補的」とは、センス配列との間でAとT(又はU)、GとCの対を形成して結合し得る配列である。
なお、許容される変異の程度としての相同性を算出する場合、同一の検索アルゴリズム用いて算出された数値どうしを比較することが望ましい。検索アルゴリズムは特に限定されないが、局所的な配列の検索に適したものが好適であり、より具体的にはBLAST、ssearchなどを好適に用いることができる。
より詳細には、核酸(ポリヌクレオチド)の同一性パーセントは、視覚的検査および数学的計算によって決定することが可能である。あるいは、2つの核酸配列のパーセント同一性は、目視検査と数学的計算により決定可能であるか、またはより好ましくは、この比較はコンピュータ・プログラムを使用して配列情報を比較することによってなされる。代表的な、好ましいコンピュータ・プログラムは、遺伝学コンピュータ・グループ(GCG;ウィスコンシン州マジソン)のウィスコンシン・パッケージ、バージョン10.0プログラム「GAP」である(Devereuxら、1984、Nucl.Acids Res.12:387)。この「GAP」プログラムの使用により、2つの核酸配列の比較の他に、2つのアミノ酸配列の比較、核酸配列とアミノ酸配列との比較を行うことができる。ここで、「GAP」プログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)ヌクレオチドについての(同一物について1、および非同一物について0の値を含む)一元(unary)比較マトリックスのGCG実行と、SchwartzおよびDayhoff監修「ポリペプチドの配列および構造のアトラス(Atlas of Polypeptide SequenceおよびStructure)」国立バイオ医学研究財団、353−358頁、1979により記載されるような、GribskovおよびBurgess,Nucl.Acids Res.14:6745,1986の加重アミノ酸比較マトリックス;または他の比較可能な比較マトリックス;(2)アミノ酸の各ギャップについて30のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の1のペナルティ;またはヌクレオチド配列の各ギャップについて50のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の3のペナルティ;(3)エンドギャップへのノーペナルティ:および(4)長いギャップへは最大ペナルティなし、が含まれる。当業者により使用される他の配列比較プログラムでは、例えば、国立医学ライブラリーのウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/bls.htmlにより使用が利用可能なBLASTNプログラム、バージョン2.2.7、またはUW−BLAST2.0アルゴリズムが使用可能である。UW−BLAST2.0についての標準的なデフォルトパラメーターの設定は、以下のインターネットサイト:http://blast.wustl.eduに記載されている。さらに、BLASTアルゴリズムは、BLOSUM62アミノ酸スコア付けマトリックスを使用し、使用可能である選択パラメーターは以下の通りである:(A)低い組成複雑性を有するクエリー配列のセグメント(WoottonおよびFederhenのSEGプログラム(Computers and Chemistry,1993)により決定され;WoottonおよびFederhen,1996「配列データベースにおける組成編重領域の解析(Analysis of compositionally biased regions in sequence databases)」Methods Enzymol.266:544−71も参照されたい)、または、短周期性の内部リピートからなるセグメント(ClaverieおよびStates(Computers and Chemistry,1993)のXNUプログラムにより決定される)をマスクするためのフィルターを含むこと、および(B)データベース配列に対する適合を報告するための統計学的有意性の閾値、またはE−スコア(KarlinおよびAltschul,1990)の統計学的モデルにしたがって、単に偶然により見出される適合の期待確率;ある適合に起因する統計学的有意差がE−スコア閾値より大きい場合、この適合は報告されない);好ましいE−スコア閾値の数値は0.5であるか、または好ましさが増える順に、0.25、0.1、0.05、0.01、0.001、0.0001、1e−5、1e−10、1e−15、1e−20、1e−25、1e−30、1e−40、1e−50、1e−75、または1e−100である。
「RNA干渉の標的となる標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列」として、標的遺伝子配列(又はその一部)にストリンジェントな条件下、例えば、中程度または高程度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることが可能であり、そして、好ましくは、RNA干渉を生じさせる活性を有するポリヌクレオチドを含む。
「ストリンジェントな条件下」とは、中程度または高程度にストリンジェントな条件においてハイブリダイズすることを意味する。具体的には、中程度にストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者によって、容易に決定することが可能である。基本的な条件は、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第3版,第6−7章,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001に示され、そしてニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約40−50℃での、約50%ホルムアミド、2×SSC−6×SSC(または約42℃での約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60℃、0.5×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。好ましくは中程度にストリンジェントな条件は、約50℃、6×SSCのハイブリダイゼーション条件を含む。高ストリンジェントな条件もまた、例えばDNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することが可能である。一般に、こうした条件は、中程度にストリンジェントな条件よりも高い温度および/または低い塩濃度でのハイブリダイゼーション(例えば、約65℃、6×SSCないし0.2×SSC、好ましくは6×SSC、より好ましくは2×SSC、最も好ましくは0.2×SSCのハイブリダイゼーション)および/または洗浄を含み、例えば上記のようなハイブリダイゼーション条件、およびおよそ68℃、0.2×SSC、0.1% SDSの洗浄を伴うと定義される。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の緩衝液では、SSC(1×SSCは、0.15M NaClおよび15mM クエン酸ナトリウムである)にSSPE(1×SSPEは、0.15M NaCl、10mM NaHPO、および1.25mM EDTA、pH7.4である)を代用することが可能であり、洗浄はハイブリダイゼーションが完了した後で15分間行う。
当業者に知られていて、以下にさらに記載したように、ハイブリダイゼーション反応と二本鎖の安定性を支配する基本原理を適用することによって望ましい度合いのストリンジェンシーを達成するためには、洗浄温度と洗浄塩濃度を必要に応じて調整することが可能であると理解すべきである(例えば、Sambrookら、2001を参照されたい)。核酸を未知配列の標的核酸へハイブリダイズさせる場合、ハイブリッドの長さはハイブリダイズする核酸のそれであると仮定される。既知配列の核酸をハイブリダイズさせる場合、ハイブリッドの長さは核酸の配列を並列し、最適な配列相補性をもつ単数または複数の領域を同定することによって決定可能である。50塩基対未満の長さであることが予測されるハイブリッドのハイブリダイゼーション温度は、ハイブリッドの融解温度(T)より5−25℃低くなければならず、Tは、以下の等式により決定される。長さ18塩基対未満のハイブリッドに関して、T(℃)=2(A+T塩基数)+4(G+C塩基数)。18塩基対を超える長さのハイブリッドに関しては、T=81.5℃+16.6(log10[Na])+41(モル分率[G+C])−0.63(%ホルムアミド)−500/nであり、ここで、Nはハイブリッド中の塩基数であり、そして[Na]は、ハイブリダイゼーション緩衝液中のナトリウムイオン濃度である(1×SSCの[Na]=0.165M)。
2−ii−b)のループ領域の塩基配列は、核から細胞質へshRNAの移送を効率良く行うことができ、かつ、核内及び細胞質内におけるshRNAの安定性を実現する塩基配列であることが好ましい。shRNAの核から細胞質への移送にはexportin5が関与することから、当該酵素の作用に適した塩基配列構成が好ましいと推定される。限定されるわけではないが、このようなループ領域は、例えば、ヒトのpre−miRNA、具体的にはmiR30a等のループ配列と同様の塩基配列により実現される。また、ループ領域は、後述するように、塩基特異的RNaseであるDicerにより切断除去可能な塩基配列を有する必要がある。
DicerがG及びCに特異的であることから、センス鎖領域とループ領域との切断部、及び、ループ領域とアンチセンス鎖領域との切断部は、G又はCである。よって、本発明の一態様において、好ましくは、ループ領域によってコードされるループ配列の、3’末端がグアニンであり5’末端がシトシンであるか、又は、前記ループ配列の3’末端がシトシンであり5’末端がグアニンである(態様8)。
ループ領域によってコードされるループ配列の塩基数は、非限定的に、例えば約3〜30塩基であることが好ましい(態様9)。より好ましくは10〜20、さらに好ましくは13〜17塩基数程度である。
さらに、本発明のshRNA前駆体は、好ましくは、Drosha認識第二領域の3’側に、終了シグナル領域を有する。終了シグナル領域は、転写の停止を指示する配列(すなわち、ポリAシグナル)を規定する、好ましくは4塩基数以上のポリA配列から構成される。
2)のshRNA前駆体コード領域は、その一態様において好ましくは、ヒトのpri−mRNA構造をコードする(態様2)。Droshaは、核内でpri−miRNAに作用してこれを切断し、pre−miRNAの形成に関与する酵素として見出されたRNase酵素である。本明細書において、pri−mRNAとは、タンパク質をコードする遺伝子間にコードされているmiRNA遺伝子の転写産物を意味する。これは、いくつかのmiRNAをタンデムに含んでいるものもあれば、1つしかもたないものも含む。
本発明の一態様において、本発明の核酸は、天然に存在するヌクレオチド及び/又は天然に存在しないヌクレオチドから構成されてよい(態様3)。即ち、本発明の核酸は、天然に存在するヌクレオチドから構成されるものに限定されず、天然には存在しない構成であってもよい。例えば、本発明にかかる核酸は、天然に存在するヌクレオチドを化学修飾した構成であってもよく、また、天然に存在するものの一部が付加、欠失、置換及び/又は変化により改変された構成であってもよい。
本発明において、shRNA前駆体コード領域の合計塩基数は、Droshaが機能しやすい長さを考慮すると、好ましくは100ないし1000塩基程度である。当業者は、本願明細書の記載及び背景技術、又は将来の技術の進歩等に伴い、さらに、shRNA前駆体コード領域の合計塩基数が上記範囲外の場合にも、本願発明を実施することが可能である。より好ましくは、100ないし400塩基程度である。
shRNA前駆体コード領域の合計塩基数は、さらにより好ましくは、例えば、生体内におけるDroshaとヒトpri−miRNAの態様を考慮すると、250塩基ないし350塩基程度である。最も好ましくは、約270−300塩基数程度であり、そのうち、shRNA形成領域7が約70塩基数程度である。例えば、本明細書において後述する実施例では、shRNA前駆体コード領域の合計塩基数が約270塩基で(図7)、効率よくRNAiが観察された。
限定されるわけではないが、本発明の第5の態様において、2−ii−a)のセンス鎖領域がコードするセンス配列は、前記標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(1)〜(4)の規則:
(1)3’末端の塩基が、アデニン、チミン又はウラシルである;
(2)5’末端の塩基が、グアニン又はシトシンである;
(3)3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミン及びウラシルからなる群より選ばれる一種又は二種以上の塩基がリッチである;そして
(4)塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数である
に従う規定配列と、相同な塩基配列である(態様5)。
上記(1)−(4)の条件を満たす規定配列と相同な塩基配列を選択することにより、高いRNA効果のshRNAを作製することが可能となる。
ここで、上記規則において、標的遺伝子の規定配列がDNAの配列であればTが、RNAの配列であればUが対応する。また、(3)における「リッチ」とは、特定の塩基が現れる頻度が高いことを意味しており、割合を概略的に示すと、3’末端側の5〜10塩基、好ましくは7塩基の配列中にA、T及び/又はUが少なくとも40%以上、より好ましくは50%以上含まれることを意味する。
また、(4)について、生物の種類等の条件により、塩基数があまりに大きすぎると当該規定配列に対応したsiRNAが細胞毒性を生じることが知られている。かかる点を考慮しなければ、規定配列の鎖長はオープンリーディングフレーム(ORF)の全長までのいずれの長さ(例えば、19〜500塩基数の範囲内)であってもよいが、哺乳類動物由来の細胞においては、30塩基数以上の鎖長を有するsiRNAを導入するとインターフェロン応答が生じることが知られている。
そこで、規定配列の塩基数の上限は、RNA干渉を生じさせようとする生物の種類などにより異なるが、いずれの種にせよ30以下、好ましくは28以下である。哺乳動物の塩基数にあっては、好ましくは24以下、より好ましくは22以下、さらに好ましくは20以下である。また、下限はRNA干渉を生じさせるsiRNAを取得可能な限りにおいて特に制限されるものではないが、好ましくは13以上、より好ましくは15以上、さらにより好ましくは18以上、より好ましくは20以上である。
よって、前記規則(4)において、標的遺伝子の規定配列は塩基数が13〜28であることが好ましい(態様6)。
標的遺伝子の規定配列は、かかる上限及び下限をふまえた塩基数であることが特に好ましく、ここでは、例えば19塩基である。この19塩基中、(3)の規定に鑑み、規定配列の3’末端側の7塩基のうち好ましくは少なくとも3塩基以上、より好ましくは4塩基以上、特に好ましくは5塩基以上が、A、T及び/又はUである。
上記のような規定配列の塩基数に鑑み、センス鎖領域のセンス配列の塩基数は、哺乳類動物由来の被導入体を用いる場合、13〜28、好ましくは15〜23、さらに好ましくは19〜21塩基数である。また、センス配列と相補的なアンチセンス鎖領域のアンチセンス配列の塩基数についてもセンス配列と同様である。
センス鎖領域は、センス配列の3’末端にさらにオーバーハング配列を与える塩基配列(オーバーハング部)を含んでもよい。また、アンチセンス鎖領域は、センス配列と相補的なアンチセンス配列の3’末端にさらにオーバーハング配列を与える塩基配列(オーバーハング部)を含んでもよい(態様10)。オーバーハング部は、センス配列及び/アンチセンス配列の3’末端にさらに1〜5塩基、好ましくは1〜3塩基、さらに好ましくは2塩基配置されて構成される。本発明の実施例1では、センス配列及びアンチセンス配列の3’末端に、2塩基からなるオーバーハング部がそれぞれ設けられている。オーバーハング部を構成する塩基配列については特には限定しない。
さらに、限定されるわけではないが、センス鎖領域及びアンチセンス鎖領域は、Droshaに次いでDicerがこれらの領域に作用する部位(即ち、Dicerによる切断部位)が本来の設計・予定された位置から仮にずれて作用した場合においても、上記規則を満たす標的遺伝子に対して高いRNA干渉効果を奏するように配列設計されることが好ましい。それにより、RNA干渉効果の高いものの取得率が向上する。例えば、センス鎖領域において、本来の切断部位に位置する塩基に隣接する前後1塩基が、当該本来の切断部位の塩基と同一であることが好ましい。
なお、上記(1)〜(4)等の規則は、Ui−Teiらによるガイドライン(Ui−Tei,K.,Naito,Y.,Takahashi,F.,Haraguchi,T.,Ohki−Hamazaki,H.,Juni,A.,Ueda,R.,Saigo,K.の「Guidelines for the selection of highly effective siRNA sequences for mammalian and chick RNA interference」,Nucleic Acids Research,2004,Vol.32,No.3,936−948)に基づくものである。
本発明の核酸中のセンス鎖領域のセンス配列は、上記(1)−(4)の規則の他、さらに下記(5)の規則に従う標的遺伝子の規定配列に相同な塩基配列を有することが好ましい。即ち好ましくは、前記標的遺伝子の前記規定配列は、さらに下記(5)の規則:
(5)被検体の全遺伝子配列のうち、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の同一性を有する配列が含まれない
に従う配列である(態様7)。
詳細には、標的遺伝子と関係のない遺伝子におけるRNA干渉を抑制するために、標的遺伝子の上記(1)−(4)に従う規定配列は、これと同一又は類似の配列が他の遺伝子に含まれていない塩基配列であることが好ましい。当該規定配列又はその相補配列と同一/類似配列を有する塩基配列を除外することにより、標的遺伝子のみに特異的にRNA干渉を生じさせることが可能となる。当該規定配列又はその相補配列と同一/類似の配列を検索する方法としては、一般的なホモロジー検索を行うソフトウェア等を用いた方法が挙げられる。
例えば、BLAST等を利用して標的遺伝子の規定配列と同一又は類似の配列を他の遺伝子について検索し、当該他の遺伝子に塩基配列のミスマッチ数が小さい類似配列が存在するという検索結果が得られた場合には、このような標的遺伝子の規定配列は除外する。それにより、標的遺伝子に対する特異性の高い配列を選別することができる。具体的に、標的遺伝子の規定配列の塩基数が19である場合には、他の遺伝子にミスマッチが2塩基以下、より好ましくは3塩基以下、さらに好ましくは4塩基以下の類似配列が存在する配列を規定配列から除外することが好ましい。類似性判断の閾値となるミスマッチ数の値の増加に伴って、特異性が高くなる。また、標的遺伝子の規定配列のみならずこれと相補的な配列の両方についても検索を行うことにより、さらに特異性の高い配列が得られる。
ここで、塩基配列の類似性を判断する基準となるミスマッチ数は、塩基配列の塩基数によっても異なるため、一概に規定することは難しい。そこで、この場合には、塩基配列のミスマッチ数を相同性で規定し、(5)の規定に従う配列であるか検索することにより類似性を判断して塩基配列を選別する。
ここでは90%以上の同一性と規定したが、かかる相同性は適宜設定されるものであり、当業者は、所望により規定配列と85%以上、80%以上、75%以上のように適宜設定することが可能である。ここで規定配列との同一性を低く設定するほど標的配列と類似する他の遺伝子が存在しないこととなる。
さらに、センス鎖領域のセンス配列は、上記(1)−(4)あるいは(1)−(5)の規則の他、さらに下記(6)の規則に従う標的遺伝子の規定配列に相同な塩基配列を有することが好ましい。
(6)10塩基以上G又はCが連続する配列を含まない。
かかる(6)について、10塩基以上G及び/又はCが連続するというのは、例えば、G又はCの一方のみが連続する場合と、G及びCが混在する配列となっている場合の双方を含む。
標的遺伝子の規定配列は、上記のような塩基配列上の規則だけでなく、これ以外の点に鑑みて適宜選択されてもよい。例えば、上記(1)〜(4)等の規則を満たす規定配列を標的遺伝子から複数選択した後、さらに、当該選択された規定配列の中から、別の条件を付加して配列の選択を行ってもよい。
本発明のpolII系プロモーターを備えた核酸では、前述のように、polIII系プロモーターを用いる従来技術の場合のような、転写開始配列に関する制約がない。よって、polII系プロモーター領域に連結するDrosha認識第一領域の塩基配列を、任意に選択可能な所望配列とすることができる。また、Drosha認識第一に連結するセンス鎖領域は、Drosha認識第一領域の3’末端にかかる塩基配列の制約がないため、転写開始の塩基配列が制約を受けない。したがって、かかる構成では、センス鎖領域のセンス配列について、前述の特に(1)及び(2)の規則に従う塩基配列を高効率で実現することが可能である。さらに、polII系プロモーターを用いる本発明では、polIII系プロモーターを用いる従来技術の場合のような転写終了の塩基配列に関する制約(すなわち、ポリT配列を含まないという制約)がない。よって、途中で終了することなく最後まで転写が行われる。
本発明の核酸の実施態様1
本発明の説明のために、本発明の実施態様の1つを、図1を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々態様で実施し得る。
図1に示すように、本発明のsiRNAの作製方法100では、本発明の核酸101が、shRNA前駆体コード領域1と、その上流(5’側)に配設されたpolII系プロモーター領域2とから構成される。
shRNA前駆体コード領域1は、Drosha認識第一領域3Aと、shRNA形成領域7と、Drosha認識第二領域3Bと、終了シグナル領域8とを含み、これらの領域3A、7、3B、8が、5’から3’方向にこの順で配置されている。Drosha認識領域3A、3Bの塩基配列は、例えば、ヒトのpri−miRNAの構造を考慮して適切な配列が選択される。
shRNA形成領域7中は、センス鎖領域4と、ループ領域5と、アンチセンス鎖領域6とが、5’から3’方向にこの順で配置されて構成される。センス鎖領域4は、RNA干渉の標的遺伝子と相同な配列(センス配列)を含んでおり、また、アンチセンス鎖領域6は、センス鎖領域4のセンス配列と相補的な配列(アンチセンス配列)を含んでいる。センス配列に相補的なアンチセンス配列とは、具体的には、センス配列と逆方向反復配列である。
かかる構成を有する本発明の核酸101は、RNA干渉効果を示すshRNAの転写合成において鋳型となり、当該鋳型を用いてshRNA14が作製される。shRNA14はさらに、Dicerによって切断されて実際にRNA干渉効果を示すsiRNAとなる。
Drosha認識領域3A、3Bは、shRNA前駆体10の切断に関与するDrosha11の認識部位を、転写産物として取得されるshRNA前駆体10に付与する。このようなDrosha11の認識部位が付与されたshRNA前駆体10では、Drosha11の作用により、両認識部位間に介在するshRNA形成領域7が切り出される。
Drosha11は、核内に内在する酵素であって、Dicer13と同様、dsRNA結合ドメインとRNaseIII活性をもつ。Drosha11は、生体内において核内でpri−miRNAに作用してこれを切断し、複数のpre−miRNAの形成に関与する。Drosha11によって切り出されたpre−miRNAは、ループ領域を介して二本鎖RNAを形成し、約70塩基数程度のヘアピン型構造を形成する。
本発明では、Drosha11のこのようなヘアピン型切り出し作用をshRNA12の作製に利用している。生体内におけるDrosha11とヒトpri−miRNAとの相関に鑑み、Drosha認識領域3Aの5’末端からDrosha認識領域3Bの3’末端までの距離は、約300塩基数程度であることが好ましい。
終了シグナル領域8は、転写の停止を指示する配列(すなわち、ポリAシグナル)を規定する4塩基数以上のポリA配列から構成される。以上のような各領域2、3A,3B、4〜6、8から構成される本発明の核酸101では、Drosha認識第一領域3Aの5’末端からDrosha認識第二領域3Bの3’末端に至るまでのshRNAコード領域の全塩基数が約300塩基数程度であり、そのうち、shRNA形成領域7が約70塩基数程度である。
本発明の核酸からのshRNA、siRNAの産生の実施態様
次いで、本発明の核酸からのshRNA、siRNAの産生の実施態様を説明する。
具体的には、本発明の核酸101を鋳型し、shRNA12が転写合成される。shRNA12の転写合成では、RNAポリメラーゼIIが、polII系プロモーター領域2の下流に配置されたDrosha認識第一領域3Aを5’方向から3’ 方向に向かって転写し、さらに、センス鎖領域4、ループ領域5、アンチセンス鎖領域6、Drosha認識第二領域3B、及び終了シグナル領域8に至るまで、5’方向から3’ 方向に向かって連続転写する。図中の丸印は、転写合成の開始位置を示している。
この転写合成により、本発明の核酸101のshRNA前駆体コード量領域に相同な塩基配列を有するshRNA前駆体10が合成される。このshRNA前駆体10は、Drosha認識第一領域3Aの転写産物3a(以下、「Drosha認識領域3a」と呼ぶ)と、センス鎖領域4の転写産物4a(以下、「センス鎖領域4a」と呼ぶ)と、ループ領域5の転写産物5a(以下、「ループ領域5a」と呼ぶ)と、アンチセンス鎖領域6の転写産物6a(以下、「アンチセンス鎖領域6a」と呼ぶ)と、Drosha認識領域3Bの転写産物3b(以下、「Drosha認識領域3b」と呼ぶ)、そして、終了シグナル領域8の転写産物8a(以下、「終了シグナル領域8a」と呼ぶ)とが連続して一本鎖RNAを形成するものである。
転写合成されたshRNA前駆体10は、アンチセンス鎖領域6aのアンチセンス配列がセンス鎖領域4aのセンス配列と逆方向反復配列を有することから、自己相補性を有する。それゆえ、shRNA前駆体10において、ループ領域5aがループ形状を形成し、当該ループ領域5aを介してセンス鎖領域4aとアンチセンス鎖領域6aとが相補結合し、Drosha認識領域3a、3b及び終了シグナル領域8aも含んで二本鎖を形成する。その結果、shRNA前駆体10がヘアピン構造を形成する。
続いて、Drosha11が、shRNA前駆体10の各領域3a、3b領域を認識し、領域3aの3’末端と領域3bの5’末端に作用して両者の間に介在するshRNA形成領域7に対応したセンス鎖領域4a、ループ領域5a及びアンチセンス領域6aを切り出す。それにより、センス鎖領域4a、ループ領域5a、及びアンチセンス鎖領域6aから構成されるshRNA12が形成される。
このようにして得られたshRNA12は、さらに、RNaseIII系の塩基特異的RNA切断酵素であるDicer13により、センス鎖領域4aおよびアンチセンス鎖領域6aの所定部位で切断され、ループ領域5aが除去される。その結果、センス鎖4aとアンチセンス鎖6aとから構成される二本鎖のsiRNA14が得られる。ここでは、19塩基数のセンス配列の3’末端に2塩基のオーバーハング部が付加された21塩基数のセンス鎖4aと、19塩基数のアンチセンス配列の3’末端に2塩基のオーバーハング部が付加された21塩基数のアンチセンス鎖6aとから構成される23塩基数の二本鎖siRNA14が得られる。
なお、ここでは詳細な説明を省略するが、本発明にかかるsiRNAの作製方法は、上記のように取得されたsiRNA14にさらに種々の処理を施す工程を含んでもよい。例えば、siRNA14に化学修飾を施す工程を含んでもよい。
以上のように、本発明の核酸101では、従来のようなプロモーター特性に起因する塩基配列の制約を受けない。そのため、塩基配列の設計の自由度が高く、所望の塩基配列を実現することが可能となる。したがって、上記のような塩基配列設計ガイドラインに従ってRNA干渉効果の高いshRNA12(そして、siRNA14)を高効率で合成することが可能となる。例えば、本発明にかかる核酸101を利用すれば、polIII系プロモーターを用いた従来の系では塩基配列上の制約により実現不可であったshRNA12の構成を実現することが可能となる。したがって、polIII系プロモーターを用いた従来技術の系に比べて、RNA干渉効果の高いものを幅広くかつ高効率で取得することが可能となる。
また、上記のようにshRNA12の塩基配列設計の自由度が高くなることに伴い、本発明にかかる核酸101では、前述の(5)の規則、すなわちミスマッチ数が高い(例えば3以上の)条件を付与した場合でも、当該条件を従来の系で適用する場合に比べて、設計可能な塩基配列の範囲が広くなる。したがって、本発明によれば、標的遺伝子に対するRNA干渉効果が高く、かつ、標的遺伝子以外の遺伝子に対してはRNA干渉効果を示さない(すなわち、off−target効果の低い)shRNA12(siRNA14)を取得することが可能となる。
さらに、本発明にかかる核酸101を用いたsiRNA12の作製方法100では、生体に内在するDrosha11を用いて、既存の生体反応であるpre−miRNAの生成系と同様の系によりshRNA12が得られる。このため、容易かつ効率的な合成系を、副作用等の影響を受けることなく実現することが可能となる。また、前述のように、polII系プロモーターは細胞や組織に特異的プロモーターであるので、細胞・組織等特異的な遺伝子発現抑制を実現することができる。
ここで、Drosha11を利用する本発明の特徴的構成の利点について、さらに詳細に説明する。組織特異的なプロモーターであるpolII系プロモーターは、前述のように、polIII系プロモーターでは実現不可である組織特異的な遺伝子発現抑制の実現に適しているが、本発明のようにDrosha11を利用しない構成とすると、以下のような問題が生じる。
すなわち、Drosha認識領域3a、3bを含まない長鎖のshRNA前駆体10をpolII系プロモーターにより転写合成すると、当該長鎖のshRAN前駆体10が速やかに細胞質に移送され、PKRキナーゼと2’,5’オリゴアデニンシンセターゼとを活性化する。それにより、非特異的にタンパク質合成が抑制され、結果として非特異的な発現抑制が生じるおそれがある。これに対して、本発明のようにDrosha認識領域3a、3bをshRNA前駆体10に付与すると、shRAN前駆体10が核内でDrosha11により切断されて所定塩基数に分解されるので、細胞質に移送された際に前述のような非特異的反応を引き起こすことがない。したがって、所望の特異的反応のみを実現することが可能となる。
なお、本発明にかかる核酸101の構成は、図1の上記の構成に限定されるものではなく、これ以外であってもよい。例えば、図1ではshRNA形成領域7が5’から3’方向に向かってセンス鎖領域4とループ領域5とアンチセンス鎖領域6とをこの順で有するが、これ以外に、5’から3’方向に向かってアンチセンス鎖領域7、ループ領域6及びセンス鎖領域5をこの順で有する構成であってもよい。
また、上記においては、RNA干渉の対象とする標的遺伝子の規定配列が(1)〜(4)の規則を基幹とするいわゆるUi−Teiガイドラインに従った塩基配列である場合について説明したが、本発明は、これ以外の塩基配列設計ガイドラインを適用した場合にも適用可能である。
また、図1においてはDicer11によりループ領域5が切断される場合を例示したが、Dicer11以外のRNaseによりループ領域5が除去される構成であってもよい。例えば、塩基特異的RNaseとして、RNaseT1等のG特異的RNase、RNaseU2等のA及びG特異的RNase、RNaseCL3等のC特異的RNase、RNaseAやRNaseI等のC及びU特異的RNase、RNasePhyM等のA及びU特異的RNaseを用いることも可能である。これらのRNaseを用いる場合には、RNaseの特性に対応するよう、ループ領域5の塩基配列、特に、切断部位の塩基配列を適宜設計する。
本発明の核酸の実施態様2
本発明の核酸の別の実施態様を図2に基づいて説明する。
図2は、図1の実施形態の変型を示す図である。図1においては、核酸101がshRNA形成領域7(図1参照)を一つ含み、当該shRNA形成領域7から一つのshRNA12が形成される場合を例示したが、図2に示すように、本発明の実施形態の変型例として、核酸102は、複数のshRNA形成領域7を含み、これらのshRAN形成領域7から複数のshRNA12が同時に形成される構成を有する。かかる変型の構成の核酸102を用いるshRNAの作製方法200では、単一の核酸102から複数のshRNA12を効率よく合成することが可能となる。
図1及び図2に示すshRNAの作製方法100、200は、インビボ及びインビトロのいずれにおいても適用可能であるが、生体内に本来的に備わったRNAポリメラーゼII、Drosha11及びDicer13を用いることから、インビボでの実施に特に適する。
2.RNA干渉のオンオフ制御可能な核酸
本発明は、その側面の1つにおいてRNA干渉のオンオフの制御が可能な核酸を提供する。
「RNA干渉がオン」とは、siRNAが標的遺伝子に対してRNA干渉を生じさせる状態であり、一方、「RNA干渉がオフ」とは、RNA干渉を生じさせない状態である。また、RNA干渉のオンオフ制御とは、所定の条件下でRNA干渉がオフからオンになることであり、このような制御は、いわゆるコンディショナルターゲティング法の適用により実現される。
よって、本発明は1つの側面において、コンディショナルターゲティング法に適用される塩基配列をさらに含む(態様11)。コンディショナルターゲティング法の利用により、時期特異的及び/又は組織特異的に、RNA干渉のオンオフを制御することが可能となる。時期特異的及び/又は組織特異的に遺伝子の発現を制御するコンディショナルターゲティング法として、例えば、A)リコンビネースタンパク質/リコンビネース標的配列システムを利用した遺伝子組換え誘導型の方法、B)転写合成のオンオフ制御可能な誘導型プロモーターを利用した方法(例:テトラサイクリンアクティベーターなどを用いた遺伝子発現制御型の方法)、並びにA)及びB)を組み合わせた方法などが知られている(例えば、別冊 実験医学 ザ・プロトコールシリーズ 「ジーンターデティングの最新技術」(2000年、羊土社)コンディショナルターゲティング法p.115−120;Sambrookら,Molecular Cloning:A LABORATORY MANUAL,第3版,COLD SPRING HARBOR LABORATORY PRESS,2001年,4.82−4.85)。
A)のリコンビネースタンパク質/リコンビネース標的配列システムを利用した、遺伝子組換え誘導型の方法は、特定のリコンビネースタンパク質がリコンビネース標的配列を認識し、その部分でDNAの組換えを起こすことを利用するものである。リコンビネース標的配列は特定のリコンビネースが存在しない限り組換えを起こさない。リコンビネースタンパク質を時期特異的及び/又は組織特異的に投与することによって、RNA干渉のオンオフを時期特異的及び/又は組織特異的に制御することができる。あるいは、リコンビネースタンパク質を時期特異的及び/又は組織特異的発現させた非ヒト遺伝子改変哺乳動物と、リコンビネース標的配列が導入された同種の非ヒト遺伝子改変哺乳動物とを掛け合わせ、リコンビネースによる組換えを時期特異的及び/又は組織特異的に生じさせ、RNA干渉を時期特異的及び/又は組織特異的に制御することを可能にする。あるいは、必要に応じ、Creを恒常的に発現させて恒常的に組換えを生じさせる態様も含まれる。
限定されるわけではないが、バクテリオファージP1由来のCreリコンビネースタンパク質とCreタンパク質によって認識される34塩基対のloxP配列を利用したCre/loxPシステムが好ましい。この場合、Creタンパク質によって認識されるloxP配列を、コンディショナルターゲティング法に適用される塩基配列として本発明の核酸に含ませる。その他、酵母由来のFLP/FRTシステム(Jung,S.et al.,Science,265,p.103−、1994)(哺乳動物細胞、ショウジョウバエ(Drosophila)でも相同組換えを生じる)、Zygosaccharomyces rouxiiのpSR1リコンビネース(酵母S.cerevisiaeで機能しうる)等も知られている。
B)の転写合成のオンオフ制御可能な誘導型プロモーターを利用した方法は、転写合成のオンオフ制御可能な誘導型プロモーターを利用して、遺伝子発現の調節を正確、可逆的、そして好ましくは定量的に行う方法である。このような誘導型プロモーターには、例えば、テトラサイクリン(Tc)オペレーターが含まれる。
Tcオペレーターを利用したシステムには、Tet−OffシステムとTet−Onシステムの2種類が存在する。Tet−Offシステムでは、テトラサイクリン(Tc)又はテトラサイクリン誘導体ドキシサクリン(Dox)が除去されると遺伝子発現(本発明の場合にはshRNA前駆体の発現)がオンになる、一方、Tet−OnシステムではDoxの添加による発現がonになる。これらのシステムは、大腸菌テトラサイクリン耐性オペロンから得られた2種類の調節性因子、Tetリプレッサータンパク質(TetR)とTetオペレーターDNA配列(tetO)に基づくシステムである。
本システムで重要な成分の1つはTetRを基盤とする調節タンパク質である。これは、Tet−OffシステムではTetRのアミノ酸残基1−207と単純ヘルペスウイルスVP16活性化ドメイン(AD)のC末端の127アミノ酸残基の融合体である。VP16ドメインにより、TetRが転写リプレッサーから転写活性化因子に転換され、その結果できるハイブリッドタンパク質はテトラサイクリン制御トランス活性化因子(tTA)となる。Tet−OnシステムはTet−Offシステムと類似しているが、調節タンパク質はTetRのアミノ酸残基4つを改変して作成された”逆(reverse)”Tetリプレッサー(rTetR)となっており、その結果生じるタンパク質はrtTA(逆tTA)である。
tTA及びrtTAは、tetOを含むテトラサイクリン応答エレメント(TRE)に結合することによって、最小プロモーターを活性化し下流の遺伝子の転写を促進する。例えばTRE2は、tetOを含む42bp配列がそのまま7回反復したもので、最小のプロモーター(本発明のpolII系プロモーター)のすぐ上流に位置している。Tet−Offシステムでは、Tc又はDox非存在下でtTAがTREと結合して転写を活性化する。Tet−Onシステムでは、Dox存在下でrtTAがTREと結合して転写を活性化する。Tet−Offシステム及びTet−Onシステムは、例えば、BDTM Biosciences ClontechのBDTM Tet−OffおよびBDTM Tet−On Gene Expression Systemsを利用することが可能である。
好ましくは、本発明の核酸に含まれるコンディショナルターゲティング法に適用される塩基配列は、Cre−loxPシステムに利用されるloxP及び/又は誘導型プロモーター(例えば、Tetシステムに利用可能なTRE)である(態様12)。
本発明の、RNA干渉のオンオフ制御可能な核酸には、以下のようなIないしIVのいずれかの構造を有する核酸が含まれる(態様13)。
I) RNAポリメラーゼII系プロモーター − loxP − 発現が制御される任意配列領域 − loxP − shRNA前駆体コード領域;
II) RNAポリメラーゼII系プロモーター − loxP − shRNA前駆体コード領域− loxP − 発現が制御される任意配列領域;
III) 逆位の発現が制御される任意配列領域 − loxP − 逆位RNAポリメラーゼII系プロモーター − 逆位loxP − shRNA前駆体コード領域;又は
IV) shRNA前駆体コード領域 − 逆位loxP − RNAポリメラーゼII系プロモーター − loxP −逆位の発現が制御される任意配列領域。
発現が制御される任意配列領域は、コンディショナルターゲティング法によって、発現が制御される任意の配列の領域である。当該領域は、コンディショナルターゲティング法によってshRNA前駆体コード領域の転写がONの場合にその転写がOFFであり、逆にshRNA前駆体コード領域の転写がOFFの場合にその転写がONというように、shRNA前駆体と逆の態様で発現が制御される。
任意配列領域は特に限定されないが、例えば、標識配列領域又は第二のshRNA前駆体コード領域である(態様14)。標識配列領域を採用した場合、標識配列の転写・発現により検出が可能な場合にはRNA干渉が生じておらず、検出がされない場合には、RNA干渉が生じていると判断される。また、第二のshRNA前駆体コード領域を採用した場合は、第一と第二のshRNA前駆体の一方のみを選択的に制御して発現させることが可能である。
標識配列は公知の任意の配列を採用可能である。例えば、GFP(緑色蛍光タンパク質)、GFPの変異体であるEGFP(enhanced green fluorescent protein)、YFP、YFPの変異体であるEYFP、EYFPのさらなる変異体であるVenus等の蛍光タンパク質をコードする配列を利用可能である。蛍光タンパク質以外にも、発光タンパク質、生成酵素、分解酵素等をコードする配列であってもよく、また、耐性遺伝子等の配列を利用し得る。例えば、これらの配列にかかる発現産物が検出されるか否かによって、RNA干渉が生じているか否かを判断することができる。具体的に、蛍光タンパク質や発光タンパク質をコードする配列を用いた場合には、蛍光または発光を検出することによりRNA干渉が生じているか否かを判断することができる。また、生成酵素や分解酵素等(例えば、β―ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ等)をコードする配列を用いた場合には、当該酵素が触媒する反応によって生じる産物を検出することによりRNA干渉が生じているか否かを判断することができる。また、耐性遺伝子(例えば、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等)の配列を用いた場合には、当該耐性遺伝子が導入された細胞等の耐性を分析することによりRNA干渉が生じているか否かを判断することができる。
「逆位の発現が制御される任意配列領域」、「逆位RNAポリメラーゼII系プロモーター」、「逆位loxP」における「逆位」とは、核酸中において、「shRNA前駆体コード領域」の5’→3’の向きに対して、「発現が制御される任意配列領域」、「RNAポリメラーゼII系プロモーター」、「loxP」の各配列が、逆向き、即ち3’→5’の向きに配置されていることを意味する。
RNA干渉のオンオフ制御可能な核酸の実施態様
以下においては、RNA干渉のオンオフを制御するシステムとして、既存のCre−loxPシステムを用いる場合を例示する。Cre−loxPシステムの概要を説明すると、Creは、バクテリオファージP1由来の38KDタンパクでリコンビナーゼの一種であり、34塩基数の所定塩基配列であるloxPサイトを認識して特異的にこの部位でDNAのリコンビネーションを生じさせる。ここで、loxPサイトの方向性は中心の8塩基の配列によって決まり、2つのloxPサイトの方向性が同じであれば、loxP間に配置されたヌクレオチドの欠損が生じ、当該方向性が逆であれば逆位が生じる。
Creオンとは、Creの存在下においてRNA干渉がオン状態となる系であり、一方、Creオフとは、Creの存在下においてRNA干渉がオフとなる(言い換えれば、Creの非存在下においてRNA干渉がオンとなる)系である。
以下においては、まず、loxP間でヌクレオチドの欠損が生じるいわゆる欠損型の系について説明し、次に、loxP間でヌクレオチドの逆位が生じるいわゆる逆位型の系について説明する。
i)実施態様I(図3)
図3A及び図3Bは、Cre−loxPシステムを用いた本発明にかかる核酸の構成及びRNA干渉のオンオフ制御動作の一態様を示す図である。図3A及び図3Bに示すように、ここでは、方向性が同じ2つのloxPサイト30が、本発明の核酸103内に配置されるとともに、当該2つのloxPサイト30の間に、任意配列領域31と終了シグナル領域8とが配置されている。したがって、この場合は、shRNA前駆体コード領域1がloxPサイト30間に挟まれず、一対のloxPサイト30の下流(3’側)にshRNA前駆体コード領域1が配置された構成となる。任意配列領域31は、RNA干渉の標的となる標的遺伝子以外の遺伝子をコードする領域であって、shRNA12(図1参照)の形成に寄与しない領域であり、任意の塩基配列を有する。
かかる構成の核酸103では、欠損型のCreオン制御系が実現される。具体的に、核酸103では、図3Aに示すように、Creの非存在下において図中の丸印を転写開始位置として任意配列領域31及び終了シグナル領域8の転写が行われ転写産物32が合成される。この場合、転写合成は終了シグナル領域8で止まるため、当該領域8の下流に配置されたshRNA前駆体コード領域1の転写合成は行われない。したがって、核酸103では、Cre非存在下においてRNA干渉がオフとなり、RNA干渉効果が奏されない。
一方、図3Bに示すように、Creの存在下では、2つのloxP30間に配置された任意配列領域31及び終了シグナル領域8が欠損するため、図中の丸印を転写開始位置としてshRNA前駆体コード領域1の転写が行われ、shRNA前駆体10が合成される。したがって、核酸103では、Cre存在下においてRNA干渉がオンとなり標的遺伝子の発現抑制が実現される。
ii)実施態様II(図4)
図4A及び図4Bは、Cre−loxPシステムを用いた本発明にかかる核酸の構成及びRNA干渉のオンオフ制御動作の他の態様を示す図である。図4A及び図4Bに示すように、ここでは、方向性が同じ2つのloxPサイト30が核酸104内に配置され、当該2つのloxPサイト30の間に、shRNA12(図1参照)の形成に寄与するshRNA前駆体コード領域1が狭まれて配置されている。
かかる構成の核酸104では、欠損型のCreオフ制御系が実現される。具体的に、核酸104では、図4Aに示すように、Creの非存在下において、図1の場合と同様にしてshRNA前駆体コード領域1の転写が行われる。それにより、shRNA前駆体10が合成される。したがって、核酸104では、Cre非存在下においてRNA干渉がオンとなり標的遺伝子の発現抑制が実現される。
一方、図4Bに示すように、Creの存在下では、2つのloxP30間に配置されたshRNA前駆体コード領域1が欠損するため、当該領域1の転写は行われず、代わりに、図中の丸印を転写開始位置として、任意配列領域31及び終了シグナル領域8の転写が行われて転写産物32が合成される。したがって、核酸104では、Creの存在下においてRNA干渉がオフとなり、標的遺伝子の発現抑制が実現されない。
iii)実施態様III(図5)
図5A及び図5Bは、Cre−loxPシステムを用いた本発明にかかる核酸の構成及びRNA干渉のオンオフ制御動作のさらに他の態様を示す図である。図5A及び図5Bに示すように、核酸105では、方向性が異なる2つのloxPサイト50間にpolII系プロモーター領域2が挟まれ、さらにこの2つのloxPサイト50が、任意配列領域51及び終了シグナル領域8からなる領域と、shRNA前駆体コード領域1とで挟まれた構成となっている。polII系プロモーター領域2は、図中の矢印尖端方向に転写を行う。また、任意配列領域51は前述の任意配列31と同様の構成である。
かかる構成の核酸105では、逆位型のCreオン制御系が実現される。具体的に、核酸105では、図5Aに示すように、Creの非存在下において図中の丸印を転写開始位置として任意配列領域51及び終了シグナル領域8の転写が行われ、転写産物52が合成される。この場合、転写方向と反対方向に配置されたshRNA前駆体コード領域1の転写合成は行われない。したがって、核酸105では、Cre非存在下においてRNA干渉がオフとなり、標的遺伝子の発現抑制が実現されない。
一方、図5Bに示すように、Creの存在下では、逆位が生じてpolII系プロモーター領域2の転写方向が図5Aの場合と逆になるため、図中の丸印を転写開始位置として図1の場合と同様にshRNA前駆体コード領域1の転写が行われる。それにより、shRNA前駆体10が合成される。したがって、核酸105では、Creの存在下においてRNA干渉がオンとなり標的遺伝子の発現抑制が実現される。
iv)実施態様IV(図6)
図6A及び図6Bは、Cre−loxPシステムを用いた本発明にかかる核酸の構成及びRNA干渉のオンオフ制御動作のさらに他の態様を示す図である。図6A及び図6Bに示すように、核酸106では、任意配列領域51及び終了シグナル領域8からなる領域とshRNA前駆体コード領域1との位置関係が図5A及び図5Bの場合と逆になっている。
かかる構成の核酸106では、逆位型のCreオフ制御系が実現される。具体的に、核酸106では、図6Aに示すように、Creの非存在下において、図中の丸印を転写開始位置として図1の場合と同様にしてshRNA前駆体コード領域1の転写が行われる。それにより、shRNA前駆体10が合成される。したがって、核酸106では、Cre非存在下においてRNA干渉がオンとなり標的遺伝子の発現抑制が実現される。
一方、図6Bに示すように、Creの存在下では、逆位が生じてpolII系プロモーター領域2の転写方向が図6Aの場合と逆となるため、図中の丸印を転写開始位置として任意配列領域31及び終了シグナル領域8の転写が行われて転写産物52が合成される。したがって、核酸106では、Creの存在下においてRNA干渉がオフとなり、標的遺伝子の発現抑制が実現されない。
以上のように、本発明にかかる核酸103〜106では、Creの存在・非存在、言い換えればCreの導入により、容易に適宜RNA干渉をオンオフ制御可能な系が実現できる。このような系を利用し、例えば、ある細胞に特異的、あるいは、ある時期に特異的にCreを導入することにより、細胞特異的あるいは時期特異的にRNA干渉を生じさせることが可能となる。
上記の制御系において、Creは、細胞等の被導入体に直接導入してもよく、あるいは、被導入体に内在するCre遺伝子の発現をプロモーターにより制御して細胞特異的、時期特異的にCre遺伝子を発現する構成としてもよい。また、上記実施の形態におけるCreの非存在とは、Creが存在しない場合のみならず、所定濃度未満で存在する場合も含む。
上記においては、Creの導入によってshRNA前駆体コード領域1及び任意配列領域31、51のいずれを転写するかが選択され、当該選択に則してshRNA前駆体10及び任意の転写物32、53のいずれか一方が得られる構成を例示したが、本発明は、これ以外の構成にも適用可能である。
例えば、異なる標的遺伝子に対してそれぞれRNA干渉効果を奏する複数のshRNA12(図1参照)のうちいずれのshRNA12を転写合成するかをCreにより制御可能な構成、具体的には、異なるshRNA12を与える複数のshRNA前駆体コード領域1を含み、各shRNA前駆体コード領域1はloxPサイト30、50との配置関係によって転写合成が制御される構成であってもよい。このような構成では、Creによる欠損型あるいは逆位型の制御により、Cre存在下において1つのshRNA前駆体コード領域1は転写されるが第二のshRNA前駆体コード領域1は転写されず、よって、前記一のshRNA前駆体コード領域1に対応するshRNA12(図1参照)のみを選択的に合成することが可能となる。したがって、かかる構成では、Creの導入によりRNA干渉の標的を切り換え可能な系を実現することが可能となる。
なお、上記においては、Cre−loxPシステムを用いてRNA干渉のオンオフを制御する場合を説明したが、本発明では、Cre−loxPシステム以外のシステムを利用したコンディショナルターゲティング法を適用してRNA干渉のオンオフ制御を行ってもよい。また、Cre−loxPシステム等の制御システムと、他のRNA干渉制御システムとを組み合わせた構成であってもよい。例えば、Cre−loxPシステムと、転写合成のオンオフ制御可能な誘導型プロモーターとを組み合わせた構成であってもよい。かかるプロモーターとして、特定の条件下でのみ転写合成を誘導することができるプロモーター、具体的にはTRE2等のTet誘導プロモーター等を用いてもよい。このような制御システムの組み合わせにより、Cre−loxPシステムのみによりRNA干渉のオンオフ制御を行う場合よりも、より正確に良好な制御を行うことが可能となる。
3.shRNA前駆体の産生方法
本発明はまた、shRNA前駆体の産生方法を提供する。本発明の産生方法は、本発明の核酸を鋳型として、RNAポリメラーゼIIを用いて転写を行う工程を含む(態様17)。転写はインビボで行っても、インビトロで行ってもよい。好ましくはインビボで転写を行う(態様18)。
本発明はさらに、本発明の核酸を含む発現ベクターを提供する(態様16)。本発明の発現ベクターは、shRNA前駆体の産生方法のために、及び/又はshRNA発現による遺伝子発現抑制のために使用することができる。
本発明のshRNA前駆体の産生方法に使用される核酸は、「1.ショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体を産生するための核酸」であり、そのうち特に、「2.RNA干渉のオンオフ制御可能な核酸」で記載した核酸であってもよい。
本発明の核酸を含む核酸発現ベクターは、被導入体である細胞、組織、個体に導入(トランスフェクト)される。被導入体及び導入方法については詳細を後述するが、かかる被導入体は、標的遺伝子の発現系を備えたものである。「標的遺伝子の発現系」とは、標的遺伝子が発現している体系のことであり、具体的には、少なくとも標的遺伝子のmRNAが形成される反応系を備える系である。標的遺伝子の発現系としては、インビトロ、インビボのいずれであってもよい。また、培養細胞、培養組織等を発現系としてもよく、無細胞系の発現系であってもよい。
核酸発現ベクターが導入されると、被導入体では、図1を参照して前述したように、shRNAの転写合成が行われる。このように被導入体内で転写合成されたshRNAは、好ましくは、さらにsiRNAに加工され、被導入体内においてRNA干渉を引き起こし、それにより、標的遺伝子の発現が抑制される。
本明細書において、「ベクター」とは、結合した別の核酸を運搬することが可能な核酸分子であり、RNAベクター及びDNAベクターのいずれであってもよい。また、ベクターは、宿主細胞の染色体DNAに統合することのできるベクターであってもよく、あるいは、染色体外での複製が可能なベクターであってもよい。
本発明の核酸を導入する被導入体は、標的遺伝子がその内部でRNAに転写、又はタンパク質に翻訳され得るものであればいかなるもの(すなわちいかなる細胞、組織、個体)であってもよい。被導入体となる細胞としては、生殖系列細胞、体性細胞、分化全能細胞、多分化能細胞、分割細胞、非分割細胞、実質組織細胞、上皮細胞、不滅化細胞、又は形質転換細胞等のいずれのものであってもよい。例えば、幹細胞のような未分化細胞、器官又は組織由来の細胞やその分化細胞等が挙げられる。
分化細胞としては、例えば、脂肪細胞、繊維芽細胞、筋細胞、心筋細胞、内皮細胞、神経細胞、グリア、血液細胞、巨核球、リンパ球、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、マスト細胞、白血球、顆粒球、ケラチン生成細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、肝細胞及び内分泌腺又は外分泌腺の細胞等が挙げられる。このような細胞の具体例としては、CHO細胞、ショウジョウバエS2細胞、ヒトHeLa細胞等が挙げられる。
被導入体となる組織としては、単一細胞胚又は構成性細胞、又は多重細胞胚、胎児組織等が挙げられる。また、個体としては、植物、動物、原生動物、ウィルス、バクテリア又は真菌種に属するもの等が挙げられる。植物は単子葉植物、双子葉植物又は裸子植物であってもよい。動物は、脊椎動物または無脊椎動物であってもよい。脊椎動物の具体例としては、魚類や、ウシ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ハムスター、マウス、ラット、サル及びヒトを含む哺乳動物が挙げられる。無脊椎動物の具体例としては、線虫類や、キイロショウジョウバエ(Drosophila)等の昆虫が挙げられる。
また、宿主細胞としての大腸菌、酵母又は昆虫細胞は、具体的には、大腸菌(DH5α、M15、JM109、BL21等)、酵母(INVSc1(サッカロマイセス属)、GS115、KM71(以上ピキア属)など)、昆虫細胞(Sf21、BmN4、カイコ幼虫等)などが例示される。
本発明にかかる核酸発現ベクターは、その内部に、polII系プロモーターを備えた核酸を有する。なお、核酸発現ベクターにおいて、polII系プロモーターは、もとのベクター構成に初めから備わっていてもよく、また、もとのベクター構成には初めから備わってはいないが後から挿入されたものであってもよい。
一般に発現べクターは、プロモーターの他に、少なくとも、開始コドン、所望の挿入配列、およびターミネーター領域を連続的かつ環状に適当な複製可能単位に連結することによって調製することができる。またこの際、所望により制限酵素での消化やT4 DNAリガーゼを用いるライゲーション等の常法により適当なDNAフラグメント(例えば、リンカー、他の制限酵素部位など)を用いることができる。
宿主細胞として細菌、特に大腸菌を用いる場合、一般に発現べクターは、少なくとも、プロモーター/オペレーター領域、開始コドン、所望のタンパク質をコードする遺伝子、終止コドン、ターミネーターおよび複製可能単位から構成される。宿主細胞として酵母、植物細胞、動物細胞または昆虫細胞を用いる場合、一般に発現べクターは、少なくとも、プロモーター、関始コドン、所望の挿入配列、終止コドン、ターミネーターを合んでいることが好ましい。またシグナルペブチドをコードするDNA、エンハンサー配列、所望の遺伝子の5’側および3’側の非翻訳領域、選択マーカー領域または複製可能単位などを適宜含んでいてもよい。
複製可能単位とは、宿主細胞中でその全DNA配列を複製することができる能力をもつDNAを意味し、天然のプラスミド、人工的に修飾されたプラスミド(天然のプラスミドから調製されたプラスミド)および合成プラスミド等が含まれる。好適なプラスミドとしては、E.coliではブラスミドpQE30、pET又はpCAL若しくはそれらの人工的修飾物(pQE30、pET又はpCALを適当な制限酵素で処理して得られるDNAフラグメント)が、酵母ではプラスミドpYES2若しくはpPIC9Kが、また昆虫細胞ではプラスミドpBacPAK8/9等があげられる。
本発明のべクタ−の好適な開始コドンとしては、メチオニンコドン(ATG)が例示される。また、終止コドンとしては、常用の終止コドン(例えば、TAG、TGA、TAAなど)が例示される。また、エンハンサー配列、ターミネーター配列については、例えば、それぞれSV40に由来するもの等、当業者において通常使用されるものを用いることができる。
選択マーカーとしては、通常使用されるものを常法により用いることができる。例えばテトラサイクリン、アンピシリン、またはカナマイシンもしくはネオマイシン、ハイグロマイシンまたはスペクチノマイシン等の抗生物質耐性遺伝子などが例示される。
本発明による発現べクターの宿主細胞への導入(形質転換又は形質移入とも称される)は、従来公知の方法を用いて行うことができる。細菌(E. coli, Bacillus subtilis等)の場合、例えばCohenらの方法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)]、プロトプラスト法[Mol. Gen. Genet., 168, 111 (1979)]やコンピテント法[J. Mol. Biol., 56, 209 (1971)]によって、Saccharomyces cerevisiaeの場合は、例えばHinnenらの方法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 1927 (1978)]やリチウム法[J. B. Bacteriol., 153, 163 (1983)]によってそれぞれ形質転換することができる。植物細胞の場合は、例えばリーフディスク法[Science, 227, 129 (1985)]、エレクトロポレ−ション法[Nature, 319, 791 (1986)]によって、動物細胞の場合は、例えばGrahamの方法[Virology, 52, 456 (1973)]、昆虫細胞の場合は、例えばSummerらの方法[Mol. Cell Biol., 3, 2156−2165 (1983)]によってそれぞれ形質転換することができる。
核酸発現ベクターは、プラスミドやその他の従来のベクターを用いて、既知の方法により作製することができる。例えば、TRE2やCMV等のpolII系プロモーターを備えたプラスミド等を用いることができる。また、核酸発現ベクターは、アンピシリン等の薬剤耐性マーカーや、蛍光タンパク質等の標識タンパク質等を適宜含んでもよい。例えば、標識タンパク質を含むものでは、被導入体への核酸の導入や、被導入体内における標的遺伝子の発現阻害の確認を行うことが可能となる。そして、このような確認方法を利用すれば、RNA干渉効果が高い細胞等を一次スクリーニングすることができ効率のよい解析を行うことが可能となる。
図7は、核酸発現ベクターの一構成例を示す模式図である。図7に示すように、核酸発現ベクターは、polII系プロモーターであるTRE2を備えたプラスミドDNAで構成され、当該プラスミドの適切な位置、この場合はBamH1/XbaIクローニングサイト(すなわち、マルチクローニングサイト(MCS))に、核酸のshRNA前駆体コード領域1が挿入された構成を有する。このような核酸発現ベクターでは、所定の位置に適宜イントロンが挟みこまれており、核酸発現ベクターそのものが鋳型とならないように設計されている。
かかる構成の核酸発現ベクターは、非限定的に、例えば、以下の方法により作製される。まず、polII系プロモーターを備えたベクターを用意し、当該ベクターのマルチクローニングサイト(MCS)に、pri−miRNAであるmiR187を転写産物として与える塩基配列(すなわち、miR187と相同な配列であり、以下「miR187塩基配列」と呼ぶ)を挿入する。
続いて、DraIIIとPshA1とを制限酵素として用いてmiR187塩基配列の所定領域を切断し、当該領域の塩基配列を除去する。そして、除去した塩基配列に代わって、図1の核酸101のshRNA形成領域7(図1参照)を含む塩基配列(以下、「挿入配列」と呼ぶ)を挿入する。それにより、miR187塩基配列由来のDrosha認識領域3A、3B(図1参照)と、挿入配列由来のshRNA形成領域7(図1参照)とを備えた核酸発現ベクターが得られる。
上記のような核酸発現ベクターの作製方法では、挿入配列、特に、当該挿入配列中のshRNA形成領域の塩基配列を適切に設計することにより、所望の塩基配列を有する種々のshRNAを作製することが可能となる。なお、ここではmiR187構成を用いて核酸発現ベクターを作製する場合について説明したが、本発明にかかる核酸発現ベクターは、miR187以外のpri−miRNA構成を与えるmiR塩基配列を含んで作製されてもよい。miR187塩基配列を用いると、miR187塩基配列中の二つの制限酵素サイトがshRNA形成領域の近傍に存在するので、制限酵素サイト間の距離(塩基数)を小さくすることができる。その結果、挿入配列の塩基数を低減できるので好ましい。
核酸発現ベクターの被導入体への導入方法は、特に限定されず、既知の導入方法を用いることが可能である。被導入体の全体又は局所的に当該ベクターが導入される。プラスミドベクターを宿主細胞に導入する方法としては、一般に、Sambrook,J.ら,Molecular Cloning, A Laboratory Manual(2nd edition),Cold Spring Harbor Laboratory,1.74(1989)に記載のリン酸カルシウム法または塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法、エレクトロインジェクション法、PEGなどの化学的な処理による方法、遺伝子銃などを用いる方法などが挙げられる。植物細胞の場合は、例えばリーフディスク法[Science,227,129(1985)]、エレクトロポレ−ション法[Nature,319,791(1986)]、アグロバクテリウムを用いる方法(Horsch et al., Science,227, 129(1985)、Hiei et al., Plant J.,6, 271−282(1994))、エレクトロポレーション法、PEG法、マイクロインジェクション法、微小物衝突法などが知られている。
例えば、被導入体が植物の場合には、植物体の体腔または間質細胞等への注入または噴霧等が挙げられる。また、動物個体の場合には、経口、局所(皮下、筋肉内及び静脈内投与を含む)非経口、経腔、経直腸、経鼻、経眼、腹膜内投与等によって全身的に導入する方法が用いられる。経口導入のための方法には、例えば、埋め込み長期放出製剤等として投与、核酸発現ベクターが導入された被導入体を摂取させる等の方法が挙げられる。
また、適切なデリバリーシステムと併用してRNA干渉の対象となる被導入体の所望部位に核酸発現ベクターを到達させてもよい。特に、本発明の核酸発現ベクターを遺伝子治療や疾患予防等に利用する場合には、リポソーム等を使用するドラッグ・デリバリー・システムを適宜用いて被導入体の目的部位に当該ベクターを到達させてもよい。
導入する核酸発現ベクターの量は、当該ベクターの構成や、標的遺伝子の種類、RNA干渉の条件等に応じて適宜決定するが、細胞あたり少なくとも1コピー導入されるに十分量を導入することが好ましい。例えば、ヒトHeLa培養細胞に導入する場合、1×10細胞/mlに対し、0.1〜1000ng/ml、好ましくは0.5〜800ng/ml、さらに好ましくは5〜500ng/mlの核酸発現ベクターを導入する。また、かかる導入は一回で行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。
また、遺伝子発現抑制方法の場合には、その目的に応じて、同一の被導入体に対し、同時又は時期をずらして複数種類の核酸発現ベクターを導入してもよい。ここで、複数種類の核酸発現ベクターとは、それぞれ異なる標的遺伝子に対してRNA干渉効果を奏するもののことである。
4.shRNA前駆体
本発明はさらに、本発明の方法によって産生されたshRNA前駆体を提供する(態様19)。
本発明のshRNA前駆体は、好ましくは
以下のi)−iii)
i)Drosha認識部位を含むDrosha認識第一領域;
ii)shRNA形成領域;及び
iii)Drosha認識部位を含むDrosha認識第二領域
を含み、
ここにおいて、ii)のshRNA形成領域は、a)RNA干渉の標的となる標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列を有するセンス鎖領域、b)塩基特異的RNaseで切断されるループ配列を有するループ領域、及びc)標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列と相補的なアンチセンス配列を有するアンチセンス領域、からなる(態様20)。
「Drosha認識第一領域」、「shRNA形成領域」、「Drosha認識第二領域」等の用語の意味は、「1.ショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体を産生するための核酸」において前述した通りである。
本発明のshRNA前駆体は、ii−a)のセンス配列と、ii−c)のアンチセンス配列とが、ii−b)のループ配列を介して、分子内二本鎖を形成することができる(態様21)。本発明のshRNA前駆体は、好ましくはDroshaによって認識・切断されてshRNAを形成する。shRNAはさらに好ましくはDicerによって認識・切断されたsiRNAを産生し、RNA干渉を生じうる。
本発明のshRNA前駆体は、好ましくは、一態様において以下のいずれかの要件を満たす。
i)ヒトのpri−mRNA構造を構成している(態様22)。
ii)天然に存在するヌクレオチド及び/又は天然に存在しないヌクレオチドから構成される(態様23)。
iii)合計塩基数が、100塩基ないし400塩基である(態様24)。
iv) ii−a)のセンス配列は、前記標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(1)〜(4)の規則:
(1)3’末端の塩基が、アデニン、チミン又はウラシルである;
(2)5’末端の塩基が、グアニン又はシトシンである;
(3)3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミン及びウラシルからなる群より選ばれる一種又は二種以上の塩基がリッチである;そして
(4)塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数である
に従う規定配列と、相同な塩基配列である(態様25)。
v)態様25の規則(4)において、塩基数が13〜28である(態様26)。
vi)態様25又は26において、前記標的遺伝子の前記規定配列が、さらに下記(5)の規則:
(5)被検体の全遺伝子配列のうち、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の同一性を有する配列が含まれない
に従う配列である(態様27)。
vii)ii−b)のループ配列の、3’末端がグアニンであり5’末端がシトシンであるか、又は、前記ループ配列の3’末端がシトシンであり5’末端がグアニンである(態様28)。
viii)ii−b)のループ配列の塩基数が、約3〜30塩基である、態様20ないし28のいずれか1つのshRNA前駆体(態様29)。
5.遺伝子発現抑制方法
本発明はまた、標的遺伝子の発現を抑制する、遺伝子発現抑制方法を提供する。本発明の遺伝子発現抑制方法は、本発明の発現ベクター、又は、本発明のshRNA前駆体を、発現を抑制しようとする標的遺伝子の発現系に導入し、当該標的遺伝子の発現を抑制することを含む(態様31)。
本発明の遺伝子発現抑制方法において、好ましくは、遺伝子発現抑制がコンディショナルターゲッティング法によって調節される(態様32)。本態様のためには、「2.RNA干渉のオンオフ制御可能な核酸」で前述した核酸を利用することができる。
標的遺伝子の発現抑制とは、その発現を完全に抑制(阻害)することだけでなく、例えば、mRNA若しくはタンパク質の発現量を実質的に減少させる場合も含む。mRNA若しくはタンパク質の発現量が実質的に減少していれば、その変化の幅の大小にかかわらず、発現抑制が実現されている。遺伝子発現抑制の効果の判断は、遺伝子発現抑制の利用目的にもよるが、例えば、当該発現量が約80%以下、好ましくは約50%以下となる場合を発現抑制が生じたと判断してもよい。特に、判断の基準を約20%以下とすれば、確実性及び効果に優れた遺伝子発現抑制が実現できる。
標的遺伝子の発現抑制の程度は、例えば、標的遺伝子のmRNAの蓄積量又は標的遺伝子によってコードされるタンパク質の発現量(産出量)を、核酸発現ベクターを導入した場合と導入しない場合とで比較することにより測定できる。mRNAの発現量の解析方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、定量的リバーストランスフェレースPCR、あるいはin situ ハイブリダイゼーション等が挙げられる。また、タンパク質の発現量の解析方法としては、標的遺伝子がコードするタンパク質を抗原とする抗体によるウェスタンブロッティング法や、標的遺伝子がコードするタンパク質が有する酵素活性を測定する方法等が挙げられる。
本発明の遺伝子発現抑制方法は、本発明の発現ベクターを前述した方法によって発現を抑制しようとする標的遺伝子の発現系に導入してもよい。あるいは、発現ベクターの代わりに本発明のshRNA前駆体を、発現を抑制しようとする標的遺伝子の発現系に直接導入してもよい。
本発明の遺伝子発現抑制方法は、被導入体内における標的遺伝子の機能の解析や同定、あるいは、被導入体への特定性質の付与に利用することができる。
例えば、標的遺伝子の機能の解析を行う場合には、本発明の核酸発現ベクター又は核酸の導入による標的遺伝子の発現抑制の結果として生じる表現型の変化を解析する。それにより、標的遺伝子の機能を同定することが可能となる。変化を解析すべき表現型は、特には制限されないが、例えば、被導入体の形態、内部物質量、被導入体が分泌する物質量、被導入体内物質の動態、非導入体間接着、被導入体の運動、あるいは被導入体の寿命等の生命体行動が挙げられる。標的遺伝子の機能が、他の被導入体において既知の場合には、その機能に連関する表現型について解析することが好ましい。
被導入体の形態の変化を解析する場合には、顕微鏡又は肉眼で変化を検出して解析を行ってもよい。また、被導入体の内部物質量の変化を解析する場合には、前述のように標的遺伝子に対応するmRNAやタンパク質の物質量の変化を解析してもよい。本発明の核酸発現ベクター又は核酸を導入した場合のみ現れる表現型の変化は、標的遺伝子の発現抑制の結果生じているものである。したがって、当該変化に基づき、表現型に関わる機能を標的遺伝子の機能として同定することができる。
一方、本発明の核酸発現ベクター又はshRNA前駆体を用いた標的遺伝子の発現抑制により細胞等に特定の性質を付与する場合、特定の性質とは、標的遺伝子の発現抑制の結果として被導入体に現れる性質をさす。被導入体に付与する性質としては、例えば、細胞内生産の阻害、細胞外分泌の阻害、細胞やDNAに対する障害の修復機能の阻害、特定の疾患に対する耐性機能の阻害等が挙げられる。
例えば、特定のタンパク質の発現量の上昇が特定の疾患の原因となる場合において、標的遺伝子が当該タンパク質をコードする遺伝子であると、標的遺伝子の発現抑制によって、特定の疾患に対する耐性機能が付与される。具体例としては、標的遺伝子が、癌化/腫瘍化表現型の保持に必要である遺伝子であり、被導入体が、癌性細胞又は腫瘍組織等である場合であり、かかる場合には、本発明の核酸発現ベクター又は核酸を、標的遺伝子が関連する疾患(ここでは癌)の治療又は予防に利用することができる。この場合、標的遺伝子の発現抑制に付随した被導入体の形質変化として、増殖能の亢進や、細胞接着能の低下、あるいは運動(転移)能の亢進等が生じる。
6.医薬組成物等
本発明はまた、本発明の発現ベクター又はshRNA前駆体を含む、医薬組成物を提供する(態様30)。発現ベクターからの転写産物であるshRNA前駆体あるいは、直接投与されたhRNA前駆体から得られる、shRNA,続くsiRNAによるRNA干渉によって、標的遺伝子の発現が抑制される。本発明の医薬組成物はこのような標的遺伝子の発現が関与する疾患の治療及び/又は予防に有効である。
本発明の発現ベクター及び/又はshRNA前駆体を、医薬組成物の有効成分として用いる場合に、これらを単独で用いてもよく、あるいは、薬学的に許容され得る担体と配合して用いてもよい。この場合における当該担体に対する割合は、1〜90重量%の間で適宜選択され得る。例えば、発現ベクター及び/又はshRNA前駆体は、生理学的に許容されるバッファーや生理食塩水等の溶液中に存在、又はミセル構造を形成して存在してもよい。このような医薬組成物は、従来の投与形態等を利用して投与することができ、また、その投与量は、症状、年齢、体重等によって適宜選択することができる。
さらに、医薬組成物としての利用以外に、発現ベクター及び/又はshRNA前駆体を、医薬部外品やヘルスケア製品の有効成分として利用してもよい。医薬部外品としては、例えば、薬用化粧品類、養毛剤、除毛剤、染毛剤、パーマネントウェーブ溶剤、浴用剤、口中清涼剤、腋臭防止剤(例えば、制汗剤等)、てんか粉類(例えば、ベビーパウダー等)等が挙げられる。薬用化粧品の具体例としては、クリーム、乳液、ハンドクリーム、化粧用油、化粧水、薬用石鹸、シャンプー、リンス、日焼け止め剤、髭剃り用剤、パック等が挙げられる。
また、ヘルスケア製品としては、例えば、健康の維持や増進を目的として摂取する食品(飲料も含む)や、美容目的のために摂取する食品(飲料も含む)等が挙げられる。このような食品は、特定保健用食品であってもよく、栄養機能食品であってもよい。医薬部外品やヘルスケア製品に利用される場合、発現ベクター及び/又はshRNA前駆体は、上記の医薬組成物に利用する場合と同様の態様の中から適切な態様で利用され得る。
生体リズムを調整する遺伝子を標的遺伝子とする場合には、標的遺伝子の発現抑制により付与される性質として、例えば、細胞固有の慨日リズムの消失等が挙げられる。また、環境変異原によるDNA損傷の修復等に関与する遺伝子を標的遺伝子とする場合には、標的遺伝子の発現抑制により付与される性質として、変異原に対する感受性等が挙げられる。
なお、上記においては、本発明にかかるshRNA前駆体を、ベクターを用いて被導入体に導入する場合について説明したが、ベクターを用いる方法以外の方法によりshRNA前駆体を被導入体に導入してもよい。例えば、本発明にかかるshRNA前駆体を被導入体に導入する方法として、被導入体が細胞あるいは組織の場合、カルシウムフォスフェート法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、ウィルス感染、核酸溶液への浸漬、あるいは形質転換法等の従来の方法を適切に用いた方法が挙げられる。
また、核酸をベクターによらずに胚に導入する方法として、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション法、あるいはウィルス感染等の従来の方法を適切に用いて導入を行ってもよい。被導入体が植物の場合には、植物体の体腔または間質細胞等への注入または噴霧等による方法であってもよく、また、動物個体の場合には、経口、局所(皮下、筋肉内及び静脈内投与を含む)非経口、経腔、経直腸、経鼻、経眼、腹膜内投与等によって全身的に導入してもよい。
7.shRNA前駆体が導入された遺伝子改変体
本発明はさらにまた、本発明の発現ベクター又はshRNA前駆体が導入された形質転換体を提供する(態様34)。本発明の形質転換体は、好ましくは、細胞、組織、器官、及び個体からなる群から選択される(態様35)。
本発明にかかる発現ベクター又はshRNA前駆体は、前述のように、特定の細胞や組織においてRNA干渉効果を奏し遺伝子発現抑制を生じさせる。それゆえ、これらを細胞、組織、器官、個体等に導入して培養することにより、遺伝子改変された細胞、組織、器官、個体等が得られる。以下においては、このような細胞、組織、個体を総称して「遺伝子改変体」と呼ぶ。
遺伝子改変体は、例えば、目的の遺伝子を被導入体で発現させる非ヒトのトランスジェニク動物(具体的には、トランスジェニックマウス等)や、所定の遺伝子(すなわち標的遺伝子)を人為的に破壊し遺伝子機能を欠損させた非ヒトのノックアウト動物(具体的には、ノックアウトマウス等)を含む。
病態モデルによる治療効果や治療法の評価は医薬品を開発していく上で重要なプロセスであり、当該プロセスでは個体レベルで解析が行われる。個体レベルの解析は、ヒトを使っての研究が困難であるため、マウス、ラット、サル等のモデル動物を用いて行われる。特に、マウスのゲノム解読が行われたことに伴い、ヒトのモデルとしてのマウスの重要性が高く、遺伝子改変マウス(特にトランスジェニックマウス)の有用性は高い。
病態モデルとなる遺伝子改変体において、標的遺伝子は、その発現量の変化(増減)又は欠如が疾病の原因となる遺伝子である。かかる遺伝子の一例としては、白血病、大腸癌、脳腫瘍、肝癌、胃癌、肺癌、膀胱癌、卵巣癌、直腸癌、乳癌、腎臓癌、すい臓癌、口腔癌、甲状腺癌、グリオーマ、メラノーマ、皮膚癌、前立腺癌等に関与する遺伝子や、眼疾患、具体的には緑内障、加齢黄斑変性症等に関与する遺伝子や、アレルギー疾患、具体的には喘息・気道過敏症、アトピー等に関与する遺伝子や、関節リュウマチ等のリュウマチ疾患に関与する遺伝子や、骨粗しょう症等の骨疾患に関与する遺伝子や、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋ジストロフィ等の神経疾患に関与する遺伝子が挙げられる。
一般的に、哺乳動物個体でのRNAiによる遺伝子発現抑制が可能であることは、siRNA若しくはshRNA自体、あるいはこれらを発現する核酸発現ベクターを、例えばマウス等の哺乳動物個体へ直接注射することによって確認されている。さらに、個体で長期間の遺伝子発現抑制を行うには、染色体に二本鎖RNAを発現するDNA構築物を挿入する必要がある。その方法としては、受精核前核への顕微注入による方法、レンチウイルスによる方法、ES細胞を利用する方法等が確立されている。当業者は、これらの公知の方法を利用して、RNAiを誘起するDNA構築物が生殖系列に組み込まれた遺伝子改変動物(トランスジェニック動物)を作製することが可能である。
本発明にかかる発現ベクター又はshRNA前駆体は、前述のように、細胞・組織特異的に遺伝子発現を抑制するものである。したがって、このような標的遺伝子の発現系を備えたヒト由来の培養細胞に導入することにより、上記の疾患についてヒト型の疾病モデル細胞を取得することができる。また、マウスに導入することにより、上記の疾患にかかる病態モデルとなるトランスジェニックマウスを取得することができる。そして、得られた疾病モデル細胞やトランスジェニックマウスを利用すれば、上記疾病の治療や予防に関する医薬組成物のスクリーニングや評価等を行うことが可能である。
特に、上述のRNA干渉のオンオフ制御が可能な核酸を含む発現ベクターが導入された遺伝子改変体は、以下の点に鑑み、より有用性が高い。すなわち、例えば、Cre−loxPシステムを適用した核酸が導入されたトランスジェニックマウスでは、遺伝子破壊を行うと胎生致死を引き起こす遺伝子を標的遺伝子とする場合、従来では胎生致死が生じるので成体を取得することが困難であったが、本発明を適用すれば遺伝子破壊の時期を調節することが可能となるので、生体まで生育させてから当該遺伝子を破壊することができる。それゆえ、目的とする標的遺伝が破壊されたトランスジェニックマウスの作製が実現可能となる。
以上のように、本発明によれば、研究目的に合致した最適設計の実験用遺伝子改変体を取得することが可能となり、目的とする遺伝子の機能の解明や開発中の薬剤等の治療効果の評価等において十分な根拠に基づく適正なデータを提供することが可能となる。したがって、特に、創薬分野等における研究開発において有用である。
8.標的遺伝子の発現抑制方法に使用するためのキット
本発明はさらに、標的遺伝子の発現抑制方法に使用するためのキットを提供する。本発明のキットは、本発明の発現ベクター及び/又はshRNA前駆体を含む。
本発明の発現ベクター及び/又はshRNA前駆体の他に、本発明のキットは、必要に応じ、所望の酵素、バッファー等の試薬類、発現ベクター及び/又はshRNA前駆体導入のための試薬類等を含む。なお、かかるキットは、発現ベクター及び/又はshRNA前駆体を含めば上記全てを含む必要はなく、また、これ以外のものを含んでもよい。試薬類等の組み合わせや量等は、目的とするRNA干渉に応じて適宜決定される。
本発明により、RNA干渉効果が高いsiRNAを高効率で産生することが可能となる。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
(実施例1)
実施例1では、本発明の核酸を鋳型として利用した、本発明のshRNA前駆体から産生されるsiRNAを用いたホタルルシフェラーゼの活性抑制効果を検討した。
具体的には、図1の100に示すsiRNA作製方法100に従って、本発明の核酸101を鋳型にした転写によって得られたshRNA前駆体10からsiRNA14を産生し、RNA干渉を生じさせた。また、比較のため、化学合成により作製した二本鎖siRNAを用いて同様にRNA干渉効果を検討した。さらに、図15に示すpolIII系プロモーターを用いた従来の方法によりsiRNA509を作製して同様にRNA干渉効果を検討した。以下に詳細を説明する。
1.RNA干渉効果を測定するための標的遺伝子
RNA干渉効果を測定するための標的遺伝子として、ホタル(Photinus pyralis,P.pyralis)のluciferase遺伝子(P.pyralis luc遺伝子:accession number:U47296)を用いた。また、当該標的遺伝子を含む発現ベクターとして、pGL3−Controlベクター(Promega社製)を用いた。P.pyralis luc遺伝子断片はこのベクター中でSV40のプロモーターとポリAシグナルで挟まれた構成になっている。また、内部コントロール遺伝子としてウミシイタケ(Renilla reniformis,R.reniformis)のluc遺伝子を用い、当該遺伝子を含む発現ベクターとしてpRL−SV40(Promega社製)を用いた。
2.細胞培養
本実施例では、ヒトHeLa細胞を用いた。ヒトHeLa細胞の培地としては、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM:Gibco BRL社製)に、非慟化10%牛胎児血清(FBS:三菱化学社製)及び抗生物質としてペニシリン(明治製菓社製)10U単位/ml、ストレプトマイシン(明治製菓社製)50μg/mlを添加して調製した培地を用いた。培養条件は、37℃、5%COとした。
3.RNA干渉ポリヌクレオチド
以下の実施例1、比較例1、比較例2の方法により、図10に示すFL774、FL309、FL428、FL658、及びFL14の各塩基配列を有するsiRNAを作製した。
(3−1)本発明の方法によるsiRNAの作製(実施例1)
実施例のshRNAは、図1に示すように、本発明の核酸101を用いてsiRNAの作製方法100に従って作製した。
具体的には、TRE2プロモーターをCMVプロモーターに置換したpTRE2ベクターをベクター本体として用い、図7に示すように、かかるベクターのマルチクローニングサイト(MCS)にmiR187塩基配列を挿入した。さらに、miR187塩基配列の所定領域を制限酵素DraIIIとPshA1とで切断して除去し、当該塩基配列に代わり、shRNA形成領域7を含む挿入配列を導入した。
実施例1では、先ず、挿入配列の異なる複数の核酸発現ベクターを作製した。各核酸発現ベクターの挿入配列に含まれるshRNA形成領域7は、図10に示すセンス鎖及びアンチセンス鎖からなるsiRNA14(図1参照)を合成可能な構成を有し、ループ領域5は、全ベクター共通でmiR30aのループを与える構成を有する。当該構成は、図7の枠内に示すように、所定の塩基配列とともに核酸発現ベクターのマルチクローニングサイト(MCS)に挿入される。FL309、FL428、FL658,FL14の塩基配列を挿入配列に含む場合についても、上記のFL774の場合と同様にしてそれぞれ核酸発現ベクターを作製した。なお、774、309、428、658,14の各数値は、標的遺伝子であるluc遺伝子(FL)における対応する標的配列の位置を示しており、アンチセンス配列の3´末端に対応する、ルシフェラーゼのコード領域内のヌクレオチドの位置を示す。
(3−2)化学合成によるsiRNAの作製(比較例1)
上記実施例の方法により作製されたsiRNAとの比較のため、図10に示すFL774、FL309、FL428、FL658、FL14の構成を有する二本鎖siRNAを、化学合成により作製した。
siRNAの合成は、プロリゴ・ジャパン株式会社に委託した。合成方法として、ここでは、図10に示す塩基配列を有するセンス鎖とアンチセンス鎖とを、10mMのTris−HCl(pH7.5)、20mMのNaCl反応溶液中、90℃で3分間加熱した。そして、37℃で1時間インキュベートし、その後、室温になるまで放置して会合させ二本鎖siRNAを形成した。このようにして形成した二本鎖siRNAは、TBE緩衝液中で2%アガロースゲルを用いる電気泳動に供し、それによりセンス鎖とアンチセンス鎖との会合の確認を行った。
(3−3)polIII系プロモーターを用いたsiRNAの作製(比較例2)
上記実施例のshRNAとの比較のため、polIII系プロモーターを用いた図15に示す従来の方法により、比較例のsiRNA509(図15参照)を作製した。
図9は、比較例における核酸発現ベクターの構成を示す図である。図9に示すように、ここでは、polIII系プロモーターとしてH1プロモーターを備えたpSilencer 3.0−H1(Ambion社製)を用い、当該ベクターのBamHI/HindIIIクローニングサイトに、shRNA前駆体コード領域502を含む塩基配列を挿入した。
比較例2のshRNA前駆体コード領域502は、図10に示すFL774、FL309、FL428、FL658、FL14の各siRNAを合成可能な構成を有し、ループ領域503としてmiR23のループを与える構成を有する。例えば、FL774を転写産物として与える図7の核酸発現ベクターは、クローニングサイトに、図8に示す挿入配列が挿入されて構成される。
4.RNA干渉効果の測定
1×10細胞/mlの濃度でヒトHeLa細胞を含む細胞懸濁液1mlを、トランスフェクトの24時間前に1.5cm径ウェルの24穴プレートに植付けた。そして、各ウェルについて、luc遺伝子の発現ベクターである前述のpGL3−Controlベクター1μgと、内部コントロール遺伝子であるウミシイタケのluc遺伝子の発現ベクターである前述のpRL−SV400.1μgと、(3−1)記載の本発明の核酸発現ベクター500ngとを添加し、それにより、ヒトHeLa細胞にこれらベクターを導入した。
細胞導入には、Lipofectamine2000を使用した。導入後、72時間培養し、その後、細胞を回収した。回収した細胞は、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega社製)を用いて、二種類のルシフェラーゼ(P.pyralis luc及びR.reniformis luc)のタンパクの発現量(言い換えれば、ルシフェラーゼ活性)を測定した。発光量の測定はLumat LB9507 luminometer(EG&G Berthold社製)を用いて行った。
また、比較のため、(3−1)記載の本発明の核酸発現ベクターの代わりに、(3−2)記載のsiRNA(比較例1)、及び(3−3)記載の核酸発現ベクター(比較例2)をそれぞれ用いて上記と同様の操作を行い、これら比較例におけるRNA干渉効果の測定を行った。
比較例1の場合は、50nMの(3−2)記載の各siRNAを導入し、その後、24時間培養してから細胞を回収した。また、比較例2の場合は、(3−3)記載の核酸発現ベクターを、(3−1)記載の核酸発現ベクターの場合と同様に、500ng/mlの濃度で導入し、その後、72時間培養してから細胞を回収した。
5.結果
実施例1、比較例1及び比較例2の各方法で作成されたsiRNAにつき、FL774、FL309、FL428、FL658、FL14の各RNA干渉効果を図11に示した。図11から明らかなように、実施例のsiRNAでは、FL774、FL309、FL428、658に対してRNA干渉効果が有効に奏されるが、FL14では奏されないことが示された。また、比較例1のsiRNAでは、本発明の実施例1のsiRNAと同様に、FL774、FL309、FL428、FL658に対してRNA効果が有効に奏されるが、FL14では奏されないことが示された。また、比較例2のsiRNAでは、FL774に対してはRNA効果が有効に奏されるが、FL309、FL428、FL658、FL14に対しては奏されないことが示された。
上記結果を考察すると、実施例1の本発明の方法で作製されたsiRNAがFL14に対してRNA干渉効果を奏さないのは、FL14がRNA干渉の標的とする標的遺伝子の規定配列が本願の請求の範囲及び明細書に記載の(2)の規則を満たさないことに起因すると考えられる。また、比較例1のsiRNAがFL14に対してRNA干渉効果を奏さないのもこれと同じ理由によると考えられる。実施例1の方法で作成されたsiRNAと比較例1の方法で化学合成されたsiRNAが、同様のsiRNA干渉効果を示すことは、本発明のshRNA前駆体を産生するための核酸、及び当該核酸を利用したshRNA前駆体の産生方法が有効に機能して、shRNA前駆体が産生されたこと、そして、shRNA前駆体から、shRNA次いでsiRNAが産生されたことを意味する。
一方、比較例2の方法で作製されるsiRNAがFL309に対してRNA干渉効果を奏さないのは、H1プロモーターの特性、具体的には転写開始配列上の制限(すなわち転写開始配列がA又はGであることが必要)に起因すると考えられる。また、FL428に対してRNA干渉効果を奏さないのは、H1プロモーターの特性、具体的には転写開始配列上の制限(すなわち転写開始配列がA又はGであることが必要)と転写終了配列上の制限(すなわち配列途中に4塩基以上のTを含まないことが必要)に起因すると考えられる。また、FL658に対してRNA干渉効果を奏さないのは、H1プロモーターの特性、具体的には転写終了配列上の制限に起因すると考えられる。即ち、これらの場合には、挿入配列の塩基配列がH1プロモーターの特性に合致しないため、転写が実質的に行われない、あるいはRNA干渉が観察されるほど十分なsiRNAが産生されるほど十分には転写が行われない、ことを意味する。また、FL14に対してRNA干渉効果を奏さないのは、H1プロモーターの特性、具体的には転写開始配列上及び転写終了配列上の制限に起因するとともに、実施例及び比較例1の方法で作成されたsiRNAと同様の理由に、RNA干渉の標的とする標的遺伝子の規定配列が本願の請求の範囲及び明細書に記載の(2)の規則を満たさないことに起因すると考えられる。
(実施例2)
実施例2においては、本発明のsiRNAの塩基配列について検討を行った。
1.核酸発現ベクターの作製
実施例2では、図7に示す核酸発現ベクターのマルチクローニングサイトMCSのmiR187塩基配列に、図12A〜図12Eに示す各塩基配列を転写産物に与える塩基配列を挿入し、pTRE2−FL774−30aL1、pTRE2−FL774−30aL2、pTRE2−FL774−30aM1、pTRE2−FL774−30aM1*、pTRE2−FL774−30aM2をそれぞれ作製した。このようにして作製した各核酸発現ベクターでは、shRNA形成領域7(図7参照)から、図10に示すFL774のセンス配列及びアンチセンス配列とmiR30aのループ配列とを有するshRNAが得られる。図12A〜図12Eにおいて、図中に印をつけた部分は、塩基配列の異なる部分である。
また、対照として、図12Fに示す塩基配列を転写産物に与える塩基配列を挿入した核酸発現ベクターを作製した。なお、実施例2及び対照の核酸発現ベクターの作製では、ベクター本体として用いたpTRE2ベクターのTRE2プロモーターをCMVに置換せずにそのまま利用した。
2.RNA干渉効果の測定
実施例の核酸発現ベクターpTRE2−FL774−30aL1、pTRE2−FL774−30aL2、pTRE2−FL774−30aM1、pTRE2−FL774−30aM1*、pTRE2−FL774−30aM2と、Controlの核酸発現ベクターとを用いて、実施例1と同様の方法によりRNA干渉効果の測定を行った。ここでは、実施例及び対照の核酸発現ベクターの導入濃度を5ng/ml、50ng/ml及び150ng/mlとし、それぞれの場合について、導入後に72時間培養した細胞のRNAを抽出してRNA干渉効果を測定した。
3.結果
図13は、RNA干渉効果の測定結果を示す図である。図13に示すように、核酸発現ベクターpTRE2−FL774−30aL1、pTRE2−FL774−30aL2、pTRE2−FL774−30aM1、pTRE2−FL774−30aM1*、pTRE2−FL774−30aM2は、RNA干渉効果を奏することが明らかとなった。
(実施例3)
実施例3においては、Tet offシステムを導入した本発明にかかる核酸発現ベクターのRNA干渉オンオフ制御について検討した。
ここでは、TRE2プロモーターを備えた図7に示すpTRE2ベクターを用い、FL774のsiRNAを合成可能な構成とmiR30aのループを与える構成とを有する核酸発現ベクターを作製した。
図14は、核酸発現ベクターの濃度が5、50、500ng/mlの各場合におけるドキシサイクリン(Doxycycline)濃度とRNA干渉効果との関係を示す図である。図14に示すように、核酸発現ベクターの濃度が50、500ng/mlの場合には、ドキシサイクリンの濃度が0.1ng/ml以下となるとRNA干渉効果が有効に奏される。したがって、ドキシサイクリン濃度0.1ng/mlより高いとRNA干渉がオフとなるいわゆるTet offシステムが実現されることが示された。核酸発現ベクターの濃度が5ng/mlの場合には、作製されるshRNAが低濃度となるため、50、500ng/mlの場合のような顕著なRNA干渉効果は得られなかった。この場合においても、Doxycyclineの非存在下(濃度0.0ng/ml)の場合にRNA干渉効果が有効に奏されること、言い換えれば、発現ベクターの濃度が5ng/mlの場合においてもTet offシステムが実現されることが示された。
(実施例4)
実施例4においては、上記実施例3のTet offシステムの代わりにCre−loxPシステムを導入して、RNA干渉オンオフ制御を行う場合を検討した。
具体的には、実施例4では、実施例3と同様のpTRE2ベクターを使用し、1)図3Aに示すように、loxPサイト30に挟まれたEGFP(enhanced green fluorescent protein)コード領域31がpolII系プロモーター領域2とshRNA前駆体コード領域1との間に配置された構成を有するベクター、および、2)図4Aに示すようにloxPサイト30に挟まれたshRNA前駆体コード領域1がpolII系プロモーター領域2とEGFPコード領域31との間に配置された構成を有するベクター、をそれぞれ作製した。各ベクターをそれぞれ細胞に導入した。そして、上記1)のベクターが導入された細胞、および上記2)のベクターが導入された細胞の各々について、Cre非存在/存在の各場合におけるベクター導入から3日後の蛍光発光を蛍光顕微鏡で観察するとともに、実施例3と同様にしてRNA干渉効果を調べた。ここでは、「Cre存在」の場合のCre濃度を0.1μg/mlとした。
以下、図16A、16B、17A,17Bを参照して実施例4の結果を述べる。なお、各図において、左側の図は、通常状態で観察した細胞表面を示しており、右側の図は、蛍光発光可能な状態で観察した細胞表面を示している。当該右側の図において、白く現れている部分が蛍光発光した部分である。
図16Aは、loxPサイト30間にEGFPコード領域31が配置された上記1)のベクター(図3A参照)を導入した細胞のCre非存在下における蛍光発光を示す図である。図16Aに示すように、この場合は、EGFPコード領域31(図3A参照)が欠損しないため、EGFPが転写合成されて発現し、蛍光が観察される。一方、shRNA前駆体コード領域1(図3A参照)の転写は行われないため、FL774が形成されず、よって、RNA干渉効果は奏されなかった(データ示さず)。
図16Bは、1)のベクターを導入した細胞のCre存在下における蛍光発光を示す図である。図16Bに示すように、この場合は、EGFPコード領域31(図3A参照)が欠損するため(図3B参照)、EGFPが発現せず、よって、蛍光が観察されない。一方、当該欠損によりshRNA前駆体コード領域1(図3B参照)の転写が行われるため、この場合にはFL774が形成されて実施例3と同様のRNA干渉効果が奏された(データ示さず)。
以上のように、図16Aおよび図16Bに示す結果から、1)のベクターによれば、Cre非存在下でRNA干渉がオフとなりCre存在下でオンとなる、いわゆるCre−Onシステムが実現されることが示された。
図17Aは、loxPサイト30間にshRNA前駆体コード領域1が配置された上記2)のベクター(図4A参照)を導入した細胞のCre非存在下における蛍光発光を示す図である。図17Aに示すように、この場合は、shRNA前駆体コード領域1(図4A参照)が欠損しないため、EGFPコード領域31(図4A参照)は転写されずEGFPが発現せず、よって、蛍光は観察されない。一方、shRNA前駆体コード領域1(図4A参照)では転写が行われてFL774が形成されるため、実施例3と同様のRNA干渉効果が奏された(データは示さず)。
図17Bは、上記2)のベクターを導入した細胞のCre存在下における蛍光発光を示す図である。図17Bに示すように、この場合は、shRNA前駆体コード領域1(図4A参照)が欠損するため(図4B参照)、EGFPコード領域31(図4B参照)の転写が行われてEGFPが発現し蛍光が観察される。一方、当該欠損によりshRNA前駆体コード領域1(図3B参照)の転写が行われずFL774が形成されないため、この場合にはRNA干渉効果が奏されなかった(データは示さず)。
以上のように、図17Aおよび図17Bに示す結果から、2)のベクターによれば、Cre存在下でRNA干渉がオフとなりCre非存在下でオンとなる、いわゆるCre−Offシステムが実現されることが示された。
さらに、図5Aおよび図6Aに示す逆位型構成を有するベクターをそれぞれ作製し、上記と同様の方法により蛍光発光およびRNA干渉効果を調べた。
図5Aに示す構成のベクターを導入した細胞では、Cre存在下において、図5Aに示すようにEGFPコード領域51の転写が行われてEGFPが発現し蛍光が観察されるが、shRNA前駆体コード領域1の転写が行われないためFL774は形成されず、よって、RNA干渉効果は奏されなかった(データは示さず)。一方、Cre非存在下では、図5Bに示すように、polIIプロモーターの逆位が生じるため、EGFPコード領域51の転写は行われずEGFPが発現しないので蛍光は観察されないが、shRNA前駆体コード領域1の転写が行われてFL774が形成されるのでRNA干渉効果が奏された(データは示さず)。以上のように、図5Aに示す構成のベクターによれば、Cre非存在下でRNA干渉がオフとなりCre存在下でオンとなる、いわゆるCre−Onシステムが実現されることが示された。
また、図6Aに示す構成のベクターを導入した細胞では、Cre非存在下において、図6Aに示すようにEGFPコード領域51の転写が行われないためEGFPは発現せず蛍光が観察されないが、shRNA前駆体コード領域1の転写は行われるのでFL774が形成されRNA干渉効果が奏された(データは示さず)。一方、Cre非存在下では、図6Bに示すようにpolIIプロモーターの逆位が生じるため、EGFPコード領域51の転写が行われてEGFPが発現し蛍光が観察されるが、shRNA前駆体コード領域1の転写は行われずFL774が形成しないのでRNA干渉効果は奏されなかった(データは示さず)。以上のように、図6Aに示す構成のベクターによれば、Cre存在下でRNA干渉がオフとなりCre非存在下でオンとなる、いわゆるCre−Offシステムが実現されることが示された。
本発明は、遺伝子解析、創薬ターゲットの探索、創薬、遺伝子治療/予防、生物種間の差の研究等のRNA干渉を利用する様々な試験、研究、開発、製造等において有用に利用される。特に、本発明によれば、トランスジェニック動物の作製が可能となることから、その有用性は高い。
図1は、本発明のショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体を産生するための核酸の構造、並びに、当該核酸を利用した本発明のshRNA及びsiRNAの作製方法の一例を、模式的に示す図である。 図2は、本発明の核酸を利用した本発明のshRNA及びsiRNAの作製方法の、他の例を模式的に示す図である。 図3は、Cre−loxシステムによりRNA干渉のオンオフ制御可能な、本発明の核酸の構成例を模式的に示す図である。 図4は、Cre−loxシステムによりRNA干渉のオンオフ制御可能な、本発明の核酸の構成例を模式的に示す図である。 図5は、Cre−loxシステムによりRNA干渉のオンオフ制御可能な、本発明の核酸の構成例を模式的に示す図である。 図6は、Cre−loxシステムによりRNA干渉のオンオフ制御可能な、本発明の核酸の構成例を模式的に示す図である。 図7は、本発明のshRNA発現ベクターの構成を説明するための図である。図7はさらに、発現ベクターに挿入されるmiR187塩基配列を示す。miR187塩基配列は、FL774(センス鎖領域+アンチセンス領域)+miR30aからなるsh形成領域を含む。本明細書において、例えば、「FL774(センス鎖領域+アンチセンス領域)+miR30aの塩基配列」は、文意により、「FL774(センス鎖領域+アンチセンス領域)+miR30a」を含むshRNA前駆体若しくはshRNA中のRNA配列、又はこれらRNAを産生するための鋳型DNA中のDNA配列、のいずれか又は双方を意味する。 図8は、実施例1中の比較例2において、発現ベクターに挿入される、FL774−miR23を産生するためのDNA塩基配列を示す。FL774−miR23塩基配列は、FL774(センス鎖領域+アンチセンス領域)+miR23からなるshRNA形成領域を含む。 図9は、実施例1中の比較例2において使用した、従来のpolIII系プロモーターを備えるshRNA発現ベクターの構成を説明するための図である。 図10は、実施例1において、実施例1及び比較例2で発現ベクターのクローニングサイトに挿入された、あるいは、比較例1で化学合成された、センス鎖及びアンチセンス鎖の塩基配列を示す。 図11は、実施例1及び比較例1、2におけるRNA干渉効果測定結果を示す図である。濃い黒色バー、白いバー、及び薄い黒色バーは各々、実施例1、比較例1及び比較例2を示す。 図12は、実施例2のshRNA前駆体の塩基配列を説明するための図である。 図13は、実施例2におけるRNA干渉効果の測定結果を示す図である。白いバー、濃い黒色バー及び薄い黒色バーは各々、発現ベクターを5ng、50ng及び150ng使用した場合の結果である。 図14は、実施例3におけるRNA干渉効果の測定結果を示す図である。白いバー、濃い黒色バー及び薄い黒色バーは各々、発現ベクターを5ng、50ng及び500ng使用した場合の結果である。 図15は、polIII系プロモーターを含む、従来のshRNA及びsiRNAの作製方法を、当該方法に使用するための核酸の構造とともに記載する。 実施例4において、図3A及び3Bの核酸を利用して、Cre−loxPシステムに基づくRNA干渉オンオフ制御を行った、結果を示す。各図において、左側の図は、通常状態で観察した細胞表面を示しており、右側の図は、蛍光発光可能な状態で観察した細胞表面を示している。当該右側の図において、白く現れている部分が蛍光発光した部分である。 実施例4において、図4A及び4Bの核酸を利用して、Cre−loxPシステムに基づくRNA干渉オンオフ制御を行った、結果を示す。各図において、左側の図は、通常状態で観察した細胞表面を示しており、右側の図は、蛍光発光可能な状態で観察した細胞表面を示している。当該右側の図において、白く現れている部分が蛍光発光した部分である。
符号の説明
1 shRNA前駆体コード領域
2 polII系プロモーター
3A,3B Drosha認識領域
4,4a センス鎖領域
5,5a ループ領域
6,6a アンチセンス鎖領域
7 shRNA形成領域
8 終了シグナル領域
10 shRNA前駆体
11 Drosha
12 shRNA
13 Dicer
14 siRNA
30,50 loxPサイト
100,200 siRNA作製方法
101〜106 本発明のshRNA前駆体を産生するための核酸

Claims (35)

  1. ショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体を産生するための核酸であって、
    以下の成分;
    1)RNAポリメラーゼII系プロモーター;並びに
    2)以下のi)−iii)からなるshRNA前駆体コード領域
    i)Drosha認識部位を含むDrosha認識第一領域;
    ii)shRNA形成領域;及び
    iii)Drosha認識部位を含むDrosha認識第二領域
    を含み、
    ここにおいて、2−ii)のshRNA形成領域は、a)RNA干渉の標的となる標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列をコードするセンス鎖領域、b)塩基特異的RNaseで切断されるループ配列をコードするループ領域、及びc)標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列と相補的なアンチセンス配列をコードするアンチセンス領域、からなる
    前記核酸。
  2. 2)shRNA前駆体コード領域が、ヒトのpri−mRNA構造をコードする、請求項1に記載の核酸。
  3. 天然に存在するヌクレオチド及び/又は天然に存在しないヌクレオチドから構成される、請求項1又は2記載の核酸。
  4. 2)shRNA前駆体コード領域の合計塩基数が、100塩基ないし400塩基である、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の核酸。
  5. 2−ii−a)のセンス鎖領域がコードするセンス配列は、前記標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(1)〜(4)の規則:
    (1)3’末端の塩基が、アデニン、チミン又はウラシルである;
    (2)5’末端の塩基が、グアニン又はシトシンである;
    (3)3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミン及びウラシルからなる群より選ばれる一種又は二種以上の塩基がリッチである;そして
    (4)塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数である
    に従う規定配列と、相同な塩基配列である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の核酸。
  6. 前記規則(4)において、塩基数が13〜28である、請求項5記載の核酸。
  7. 前記標的遺伝子の前記規定配列が、さらに下記(5)の規則:
    (5)被検体の全遺伝子配列のうち、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の同一性を有する配列が含まれない
    に従う配列である、請求項5又は6記載の核酸。
  8. 2−ii−b)のループ領域によってコードされるループ配列の、3’末端がグアニンであり5’末端がシトシンであるか、又は、前記ループ配列の3’末端がシトシンであり5’末端がグアニンである、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の核酸。
  9. 2−ii−b)のループ領域によってコードされるループ配列の塩基数が、約3〜30塩基である、請求項1ないし8のいずれか1つに記載の核酸。
  10. 2−ii)−c)のアンチセンス鎖領域は、コードするアンチセンス配列の3’末端にオーバーハング配列を与える塩基配列を含む、請求項1ないし9のいずれか1つに記載の核酸。
  11. コンディショナルターゲティング法に適用される塩基配列をさらに含む、請求項1ないし10のいずれか1つに記載の核酸。
  12. 前記コンディショナルターゲティング法に適用される塩基配列が、Cre−loxPシステムに利用されるloxP及び/又は誘導型プロモーターである、請求項11に記載の核酸。
  13. 以下のIないしIVのいずれかの構造を有する、請求項12に記載の核酸:
    I) RNAポリメラーゼII系プロモーター − loxP − 発現が制御される任意配列領域 − loxP − shRNA前駆体コード領域;
    II) RNAポリメラーゼII系プロモーター − loxP − shRNA前駆体コード領域− loxP − 発現が制御される任意配列領域;
    III) 逆位の発現が制御される任意配列領域 − loxP − 逆位RNAポリメラーゼII系プロモーター − 逆位loxP − shRNA前駆体コード領域;又は
    IV) shRNA前駆体コード領域 − 逆位loxP − RNAポリメラーゼII系プロモーター − loxP −逆位の発現が制御される任意配列領域。
  14. 発現が制御される任意配列領域が、標識配列領域又は第二のshRNA前駆体コード領域である、請求項13に記載の核酸。
  15. 二本鎖である、請求項1ないし14のいずれか1項に記載の核酸。
  16. 請求項1ないし15のいずれか1つに記載の核酸を含む、発現ベクター。
  17. 請求項1ないし15のいずれか1つに記載の核酸を鋳型として、RNAポリメラーゼIIを用いて転写を行う工程を含む、shRNA前駆体の産生方法。
  18. 前記転写をインビボで行う、請求項17記載のshRNA前駆体の産生方法。
  19. 請求項17又は18記載の方法により産生された、shRNA前駆体。
  20. 以下のi)−iii)
    i)Drosha認識部位を含むDrosha認識第一領域;
    ii)shRNA形成領域;及び
    iii)Drosha認識部位を含むDrosha認識第二領域
    を含む、ショートヘアピン型RNA(shRNA)前駆体であって、
    ここにおいて、ii)のshRNA形成領域は、a)RNA干渉の標的となる標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列を有するセンス鎖領域、b)塩基特異的RNaseで切断されるループ配列を有するループ領域、及びc)標的遺伝子の少なくとも一部の塩基配列と相同な塩基配列であるセンス配列と相補的なアンチセンス配列を有するアンチセンス領域、からなる
    shRNA前駆体。
  21. ii−a)のセンス配列と、ii−c)のアンチセンス配列とが、ii−b)のループ配列を介して、分子内二本鎖を形成している、請求項20に記載のshRNA前駆体。
  22. ヒトのpri−mRNA構造を構成している、請求項20又は21に記載のshRNA前駆体。
  23. 天然に存在するヌクレオチド及び/又は天然に存在しないヌクレオチドから構成される、請求項20ないし22のいずれか1つに記載のshRNA前駆体。
  24. 合計塩基数が、100塩基ないし400塩基である、請求項20ないし23のいずれか1つに記載のshRNA前駆体。
  25. ii−a)のセンス配列は、前記標的遺伝子の塩基配列中に含まれる、下記(1)〜(4)の規則:
    (1)3’末端の塩基が、アデニン、チミン又はウラシルである;
    (2)5’末端の塩基が、グアニン又はシトシンである;
    (3)3’末端の7塩基の配列において、アデニン、チミン及びウラシルからなる群より選ばれる一種又は二種以上の塩基がリッチである;そして
    (4)塩基数が、細胞毒性を生じさせずにRNA干渉を生じさせ得る数である
    に従う規定配列と、相同な塩基配列である、請求項20ないし24のいずれか1つに記載のshRNA前駆体。
  26. 前記規則(4)において、塩基数が13〜28である、請求項25記載のshRNA前駆体。
  27. 前記標的遺伝子の前記規定配列が、さらに下記(5)の規則:
    (5)被検体の全遺伝子配列のうち、前記標的遺伝子以外の他の遺伝子の塩基配列中に、当該規定配列と90%以上の同一性を有する配列が含まれない
    に従う配列である、請求項25又は26記載のshRNA前駆体。
  28. ii−b)のループ配列の、3’末端がグアニンであり5’末端がシトシンであるか、又は、前記ループ配列の3’末端がシトシンであり5’末端がグアニンである、請求項20ないし27のいずれか1つに記載のshRNA前駆体。
  29. ii−b)のループ配列の塩基数が、約3〜30塩基である、請求項20ないし28のいずれか1つに記載のshRNA前駆体。
  30. 請求項16に記載の発現ベクター、又は、請求項20ないし29のいずれか1つに記載のshRNA前駆体を含む、医薬組成物。
  31. 請求項16に記載の発現ベクター、又は、請求項20ないし29のいずれか1つに記載のshRNA前駆体を、発現を抑制しようとする標的遺伝子の発現系に導入し、当該標的遺伝子の発現を抑制する、遺伝子発現抑制方法。
  32. 遺伝子発現抑制が、コンディショナルターゲッティング法によって調節される、請求項31に記載の遺伝子発現抑制方法。
  33. 請求項16に記載の発現ベクター、又は、請求項20ないし29のいずれか1つに記載のshRNA前駆体を含む、標的遺伝子の発現抑制方法に使用するためのキット。
  34. 請求項16に記載の発現ベクター、又は、請求項20ないし29のいずれか1つに記載のshRNA前駆体が導入された、形質転換体。
  35. 細胞、組織、器官、及び個体からなる群から選択される、請求項34に記載の形質転換体。
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