JP2007016275A - すべり軸受用アルミニウム合金及びすべり軸受 - Google Patents

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Toru Desaki
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保明 後藤
Shinji Kato
愼治 加藤
Kazusane Otake
和実 大竹
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Abstract

【課題】 アルミニウム合金の耐焼付き性と耐疲労性を両立させ、高温・高面圧にさらされる軸受の性能を向上させる。
【解決手段】 TiC:0.5-5%、Sn:2-20%、Cu:0.1-3%、Mg,Cr,Zr,Mn,V,Ni,Feからなる群から選択される少なくとも1種:総量で2%以下(ゼロを含む)を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、TiCが、平均粒子径0.5μm以下の粒子と、平均粒子径1-6μmの粒子とから構成される。
【選択図】 図1

Description

本発明は、アルミニウム合金に関するものであり、さらに詳しく述べるならばすべり軸受に適したアルミニウム合金、及び、高速かつ高面圧下で摺動される内燃機関用軸受において、高温強度、疲労強度及び耐焼付き性に優れたすべり軸受に関するものである。
内燃機関の運転条件は、高速、高面圧下への推移が著しいなか、すべり軸受は、高温下での疲労強度を確保するために高温強度は高くなければならない。ところが、アルミニウム合金の高温強度を高めるとなじみ性が低下するので、高温強度及びなじみ性と関連する耐焼付き性を同時に確保することは容易ではない。
従来材のAl系軸受合金において、高温下での強度を向上させるためには添加元素による固溶強化や析出強化を利用していたが、高温下での強度を確保した合金では、運転初期のなじみ性が不十分となる。
そこで、例えば、本出願人の1名が出願した特許文献1(特開2000-119791)で提案しているAl-Cu系合金は、微細なTiC粒子を分散させることにより、高温域での耐疲労性を向上させたものである。すなわち、Alマトリックスに微細に分散されたTiCによる分散強化を利用し、高温域での耐疲労性と低温域でのなじみ性を両立させている。TiC粒子は平均粒径が5μm以下に制限されており、実施例では平均粒径が1μmである。実施例で使用されている平均1μmの粒径をもったTiC粒子は平均寸法の頻度が最も多い粒径分布を呈していると考えられる。
本出願人の両名が出願した特許文献2(特開2002-309333号公報)はAl-Sn-Cu系合金のマトリックスにTiC粒子を分散させる技術である。
特許文献3(特公平3−22458号公報)は、コンプレッサ摺動部品、エンジン摺動部品用アルミニウム合金として、マトリックスを分散強化する硬質非金属粒子は平均粒径1μm以下の微細粒子とし、一方耐摩耗性に寄与する硬質非金属粒子は5〜100μmの粗大粒子としている。具体的には、平均粒径1μm以下の硬質非金属粒子からなる一次強化粒子がAlマトリクス中に分散されている;この複合マトリクスの400℃における引張強さは10kg f/mm2以上である;平均粒径5〜100μmの硬質非金属粒子からなる二次強化粒子が容積比(Vf)において2〜20%の含有量にて分散されている。
この特許文献3では、アルミニウム粉末と微細粒子を予備混合し、メカニカルアロイング処理を行って、予め両者の粉末の間に強い結合を生ぜしめ、400℃における引張強さが10kg f/mm2以上の一次粒子分散強化複合粉末とする。次に、この粉末に粗粒粉末(二次強化粒子)を混合し、圧粉容器に充填し、脱ガス、熱間圧粉、熱間加工(押出、鍛造、圧延など)を施して複合材料を得る。 上記した10kg f/mm2以上の引張強さは、メカニカルアロイング工程中で混入するO,C量との関係で一次強化粒子の量を調整することにより得られている。すなわち、混入するO,Cはそれぞれ微細酸化物、炭化物となって分散強化に寄与するが、脆性ももたらすために、一次強化粒子の量を多くすることにより、脆化をもたらさずに分散強化を図っている。
特開2000-119791号公報 特開2002-309333号公報 特公平3−22458号公報 特開2002-61652号公報 特開2004-263727号公報 DE 32 49 133C2 特開平6-17165号公報 FRICTION AND WEAR OF MATERIALS, Second Edition, ERNEST RABINOWICZ, 1995年、John Wiley & Sons, Inc.発行、157頁 FRICTION AND WEAR OF MATERIALS, Second Edition, ERNEST RABINOWICZ, 1995年、John Wiley & Sons, Inc発行、166頁
すべり軸受用アルミニウム合金に要求される性質のうちなじみ性及び耐摩耗性について説明する。
なじみ性
軸受表面が相手軸表面の凹凸になじんで流体潤滑状況を作り出す作用である。
それぞれの特許文献においてなじみ性がどのように実現されているかを述べる。
特許文献1(特開2000-119791号公報)において耐疲労性を向上させるために添加されている微細なTiCはなじみ性を低下させる傾向がある。特許文献1では、TiCは他の硬質物より硬度が低い;微細なTiCによる分散強化を利用することで他の強化成分量の添加量を抑えることが可能となるなどの理由から、なじみ性が比較的良好であると考察している。実際、なじみ運転時間を長くとることができるならば、上記の考察のとおりであるが、最近の内燃機関ではTiCはやはりなじみ性を不良にしていることは否めない。
特許文献2(特開2002-309333号公報)において添加されているSnはなじみ性を良好にする。
特許文献3で添加されもしくは不純物として存在するAl2O3,SiCなどの硬質粒子は硬度が高いためになじみ性を著しく不良にする。
耐摩耗性
摩耗には凝着摩耗とアブレーシブ摩耗がある。後者のアブレーシブ摩耗対策としては従来からアルミニウム合金にSiなどの硬質粒子が添加されてきたが、特許文献1〜3で提案されている硬質粒子もアブレーシブ摩耗を少なくすることに有効である。
次に、凝着摩耗は軸受が相手軸に凝着することにより起こる摩耗である。
凝着摩耗により軸受が摩耗する摩耗体積VはV=(kLx)/(3p)で表される(非特許文献1、FRICTION AND WEAR OF MATERIALS, Second Edition, ERNEST RABINOWICZ, 1995年、John Wiley & Sons, Inc発行(以下FRICTIONという)157頁)。ここで、それぞれの変数の意味は次のとおりである:k-凝着片生成確率; L-荷重; x-摺動距離;p-摩耗されている金属の硬さである。
凝着摩耗において、軸受と相手材の間で、軸受材料が相手材に移着し、移着した材料が軸受に再び移着する現象があることは知られている(非特許文献2:前掲FRICTION 第166頁)。前記の摩耗体積V式はこのような現象が起こった場合でもあてはまる式であると説明されている(非特許文献2)。
上記のkは同種材料では高くなる傾向があるが、本発明が適用される相手材FeとAlとの摺動についてはAlの組成、組織によりkがどのように影響されるか不明である。
分散強化が耐凝着性を向上するか否かについては、特許文献3は一切説明していず、また、非特許文献1,2で提示された摩耗体積V式の右辺の変数pは、分散強化によりアルミニウム合金を硬化すると、増加すると考えられる。
しかしながら、本発明者らがAl-TiC系複合材料について実験を行ったところでは、分散強化は、添加硬質粒子が凝着物を削り取る作用による耐焼付き性向上に関係していることが分かった。なお、軸受と軸との間で凝着粒子が移動することは非特許文献2で説明されているところであるが、この過程を硬質粒子で制御することには言及されていない。
また、特許文献1のアルミニウム合金軸受は高周速かつ高面圧の試験条件下では耐焼付き性が十分ではないことが分かった。
特許文献3(特公平3−22458号公報)では、不活性ガス中でメカニカルアロイによって微細硬質粒子をAl粉末に分散させて複合粉末を得、その後、粗大硬質粒子を混合して、熱間圧粉後、熱間押出し、熱間鍛造もしくは熱間圧延などを施している。これらの一連の工程で製造されたAl-硬質粒子系複合材料にはO,Cが雰囲気ガスもしくは有機焼付防止剤から混入し、最終的酸素含有量は0.9〜1.0wt%、C含有量は1.5〜1.6wt%となる(第2表)。特許文献3の方法は、一次強化及び不純物混入防止の観点から製造条件が厳選されているので、生産効率が悪く、製造コストが高いという難点がある。
したがって、本発明は、耐焼付き性及び耐疲労性が両立したすべり軸受用アルミニウム合金及びすべり軸受を提供することを目的とする。
本発明は、質量百分率で、TiC:0.5-5%、Sn:2-20%、Cu:0.1-3%、残部が実質的にAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、前記TiCが、平均粒子径0.5μm以下の粒子と、平均粒子径1-6μmの粒子とから構成されることを特徴とするすべり軸受用アルミニウム合金、及びこのアルミニウム合金を裏金に接着したすべり軸受を提供するものである。以下、本発明を詳しく説明する。
先ず、本発明の合金組成を説明する。
Snはなじみ性を付与する元素であり、2%未満ではその効果が十分ではなく、一方20%を超えると合金の静的強度や疲労強度が低下するために、その含有量は2~20%の範囲とする。好ましい含有量は4~8%である。
Cuは高温強度を付与する元素であり、0.1%未満ではその効果が十分ではなく、一方3%
を超えると硬度が高くなりすぎてしまい、なじみ性が低下して焼付きが起こりやすくなるために、その含有量は0.1~3%の範囲とする。好ましい含有量は0.5〜2%である。
必要により添加されるMg,Cr,Zr,Mn,V,Ni,Feからなる群から選択される少なくとも1種
は特許文献1の段落番号0011で説明されているように固溶体強化元素である。この含有量(2種類以上添加の場合は合計量)が2%を超えると合金が硬化しすぎるか、もしくは粗大析出物が発生する。
TiCに関しては、平均粒子径0.5μm以下のTiC粒子を添加することにより合金を強化し、高温域での強度低下を防止する。また、平均粒子径1-6μm、好ましくは1~5μmのTiCを添加することで相手軸の凝着物を除去することで耐焼付き性が向上する。したがって、本発明のAl合金に添加されたTiCは、別々の平均粒径をもつ二つのグループ、一つは微粒子群、他は粗粒子群に、分けられる。微粒子群では0.5μm以下に最大個数頻度があり、粗粒子群では1~6μmの範囲内に最大個数頻度がある。
微粒子TiCは特許文献1の段落番号0010で説明されているように、分散強化により高温強度と疲労強度を向上する。
微粒子TiCのみを分散したAl合金と微粒子と粗粒子双方のTiCを分散したAl合金(TiCの含有量は同一)とを比較すると、強度などは両者ともほとんど同じであるが、後者の方が耐焼付き性は明らかに良好であり、また、焼付き面における凝着Alの量は後者の方が少ない;相手軸表面に付着したAl量は後者の方が少ないという結果が得られた。
TiCの含有量が0.5%未満であると、耐疲労性及び耐焼付き性向上の効果がなく、一方5%を超えるとなじみ性が著しく低下する。
本発明に係るアルミニウム合金は、次に述べる鋳造―圧延法により製造することができる。まず、Al-Sn, Al-CuなどのAl合金及び純Alなどの金属原料の少なくとも1種(以下「Al母合金」と言う)と、TiCを分散させた厚粉成形体(以下「TiC母合金」と言う)とを、全体の組成が上記した複合合金組成になるように用意し、Al母合金を溶解して得た溶湯にTiC母合金を添加するなどの方法でこれらを接触させて溶製したTiC分散アルミニウム合金鋳塊を圧延する。但し、TiC母合金は粗粒子TiC含有母合金と微粒子TiC含有母合金を別々に用意するか、あるいは粗粒子TiCと微粒子TiCとを一つの母合金に同時に分散することが必要である。上述の方法によりAl(合金)溶湯にTiCを均一に分散させることができ、さらに圧延によりTiCがAl合金中にさらに均一に分散せしめられる。TiCを添加する圧粉成形体としては、Al, Al合金, Cu, Cu合金などの任意の材料を選択することができる。
添加の方法としては、TiC粉末とこれらの材料を粉末冶金法により混合、圧粉する方法や特許文献7(特開平6-17165号)にて開示された方法によることができる。鋳造は連続鋳造もしくは鋳塊鋳造により任意の厚さに行う。
上記した鋳造―圧延法においてAl母合金を一部溶融させ、溶融したAl合金をTiC母合金に含浸させ、その他は同じ処理を行う含浸―圧延法によっても本発明のアルミニウム合金を製造することができる。すなわち、Al合金がTiC母合金の圧粉成形体の空孔に浸入して所定の組成が得られる。
鋳造―圧延もしくは含浸―圧延法における圧延は冷間圧延で行い、圧延による圧下率(厚さ減少率)は1パス当たり20〜50%であり、また鋳塊から製品までの合計圧下率は95〜99%が好ましい。圧延板の調質状態は固溶体化処理(T4)が好ましいが、特に限定はされない。
本発明に係るすべり軸受の形態は、特許文献1の段落番号0015、0016に記載されたすべての形態、すなわちソリッド形態、バイメタル形態、オーバレイ付き形態、中間層形態をとることができる。但し、中間層は片当り時のなじみ性向上させ、耐疲労性向上、耐焼付き性向上に効果があることを付け加える。
オーバレイとしては樹脂と固体潤滑剤を含む樹脂系オーバレイを使用することができる。そのなかでも、特許文献4、特開2002-61652号公報の請求項1で本共同願人が提案した25℃での引張強さが70〜110MPa、伸びが7〜20%であり、しかも200℃での引張強さが15MPa以上、伸びが20%以上である軟質かつ高温で伸びの良い熱硬化樹脂を70〜30vol%と固体潤滑剤を30〜70vol%(ここで、両者の合計を100vol%とする)の割合で含有しており、樹脂コーティング層のビッカース硬さHvが20以下であるオーバレイ(以下「高温高延性オーバレイ」という)が好ましい。 なお、上記熱硬化性樹脂の引張強度及び伸びはASTM D-1708に準じて測定した値である。
特許文献4はその出願以前公知の樹脂系オーバレイの特性のうち、特に固体潤滑剤の保持力を向上するものであるが、高温高延性オーバレイと本発明のすべり軸受用アルミニウム合金とを組合わせると、運転初期のなじみ性は高温高強度オーバレイの固体潤滑剤により高められ、かつ軸受−軸間の摩擦係数を低く、安定させることができ、運転初期以降は本発明の粗粒TiCによりなじみ性を発揮することができるので、流体潤滑が一層促進され、内燃機関のエネルギーロスが低減される。以下高温高延性オーバレイの特徴を説明する。
高温高延性オーバレイに用いることができる望ましい熱硬化性樹脂は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、これらの樹脂のジイソシアネート変性、BPDA変性、スルホン変性樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。なかでも、ポリアミドイミド樹脂が好ましい。
高温高延性オーバレイに用いられるポリアミドイミド樹脂は、未硬化時の分子量を数平均で2000万以上にし、末端架橋点を少なくするとともに、硬化を早めるためにエボキシ基を含むポリマーを添加することにより得ることができる。
高温高延性オーバレイに用いられる固体潤滑剤としては、二硫化モリブテン(MoS2)、グラファイト、BN(窒化硼素)、二硫化タングステン(WS2)、PTFE(ポリテトラフルオルエチレン)、フッ素系樹脂、Pb等を、1種単独であるいは2種以上を組合わせて用いることができる。グラファイトは天然、人造グラファイトのいずれでもよいが、人造グラファイトが耐摩耗性の観点がら好ましい。これらの固体潤滑剤は、摩擦係数を低く、かつ安定にする作用と共に、なじみ性を有する。これらの作用を十分に発揮させるために、固体潤滑剤の平均粒径は15μm以下、特に0.2〜10μmであることが好ましい。なかでも、二硫化モリブデン、グラファイト、窒化硼素、二硫化タングステンが好ましい。
高温高延性オーバレイは、熱硬化性樹脂を30〜70vol%、好ましくは50〜70vol%、固体潤滑剤を30〜70vol%、好ましくは、30〜50vol%の割合(ここで、両者の合計を100vol%とする)の組成を有すると、軟質かつ高温で伸び良い熱硬化性樹脂を含む樹脂コーテイング層中に、固体潤滑剤が強固の保持され、充分な耐焼付性となじみ性が得られるとともに、耐久性、耐熱性も十分に発揮される。
高温高延性オーバレイは、さらに摩擦調整剤及び/又は極圧剤を含有することが好ましい。極圧剤としては、ZnS, Ag2S, CuS, FeS, FeS2, Sb3S2, PbS, Bi2S3, CdS等の硫黄含有金属化合物;チラウム類、モルフォリン・ジサルファイド、ジチオ酸塩、スルフィド類、スルフォキサイド類、スルホン酸類、チオホスフィネート類、チオカーボネート類、ジチオカーボメート類、アルキルチオカルバモイル類、硫化オレフィン等の硫黄含有化合物;塩素化炭化水素等のハロゲン系化合物;ジチオリン酸亜鉛などのチオリン酸塩;チオカルバミン酸塩等の有機金属系化合物;ジチオリン酸モリブテン、ジチオカルビミン酸モリブテン等の有機モリブテン化合物などを挙げることができる。また、極圧剤の平均粒径は好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下である。極圧剤を添加する場合は、上記固体潤滑剤の容積割合30〜70vol%のうち、0.5〜10vol%、特に1〜5vol%を極圧剤で置き換えることが好ましい。
極圧剤を添加することにより、特に一時的に固体接触が起こるような不十分な潤滑条件下や片当たり等の場合においても、十分な耐摩耗性や耐焼付性が得られる。その作用機構は定かではないが、一時的な固体接触により、その時の摩擦熱やせん断応力から樹脂コーテイング層が破断されやすい状況下において、樹脂コーテイング層に分散された極圧剤が効果的に作用するものと推定される。即ち、固体潤滑剤とその皮膜中に含まれた極圧剤により油が強固に保持され、かつ境界潤滑下において被膜が破断しにくいため、円滑な摺動面となり、耐焼付性及び耐摩耗性が保持されるものと推定される。
摩耗調整剤としては、CrO2, Fe3O4, PbO, ZnO, CdO, Al2O3, SiO2, SnO2などの酸化物や、SiC, Si3N4などの化合物等を挙げることができる。摩擦調整剤を添加する場合は、上記固体潤滑剤30〜70vol%のうち、0.3〜10vol%、特に0.5〜5vol%を摩擦調整剤で置き換えることが好ましい。摩擦調整剤を添加することにより、耐摩耗性が向上する。特に極圧剤と併用することにより、摩擦調整剤による耐摩耗性向上と、極圧剤による油の保持とが相乗的に作用して、耐摩耗性が格段と向上する。摩擦調整剤と極圧剤を併用してもよく、その場合の添加量は、両者の合計量が上記固体潤滑剤30〜70vol%のうち、0.3〜10vol%、特に0.5〜5vol%で置き換える量であることが好ましい。
本発明では、樹脂コーテイング層を形成するにあたり、上記成分が溶解、分散した塗布液を調整する。その際、適量の有機溶剤(希釈剤)を用いることができる。有機溶剤は、粘度を調整して混合を容易とするものであり、使用する熱硬化性樹脂が溶解可能なものであれば特に制限なく用いられる。例えば、熱硬化性樹脂がポリアミドイミド樹脂であれば、キシレン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエンなどを上記各成分の合計量100質量部に対して100〜300質量部用いることができる。
本発明では、上記の熱硬化性樹脂及び固体潤滑剤、更に必要の応じて摩擦調整剤及び/又は極圧剤を含有する塗布液を軸受合金層表面に塗布し、被膜(樹脂コーテイング層)を形成することにより、耐摩耗性及び摺動特性に優れたすべり軸受を得ることができる。
高温高延性オーバレイのビッカース硬さHvは、20以下であることが好ましく、より好ましくは5〜17である(明石製作所製、超軽荷重微小硬度計HVK-1、荷重5gにて測定)。高温高延性オーバレイの硬さをこのように低くすることにより、急激に荷重が加わり、局部的に固体接触が起こりそうになったとき、塑性変形で固体接触を防いで油膜厚さを確保し、耐摩耗性が向上する。ビッカース硬さHvが20を超えると、変形しにくくなり、固体接触を起こし、急激にコーテイング層が破壊し、焼付きにいたり、好ましくない。
特許文献5は本共同出願人が特許文献4の技術を改良することを目的として、樹脂のガラス転移点を150〜250℃にすることを提案したものである。本発明においては特許文献5のオーバレイ(以下「ガラス転移点調整オーバレイ」という)を使用することができる。
ガラス点移転調整オーバレイに用いることができる望ましい樹脂としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびこれらの樹脂のジイソシアネート変性、BPDA変性、スルホン変性樹脂のような熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。なかでも、ポリアミドイミド樹脂が好ましく用いられる。
ガラス転移点調整オーバレイに用いられる樹脂のガラス転移温度は、150〜250℃であるが、好ましくは180〜220℃である。ガラス転移温度は、示差熱分析装置によって測定され得る。ガラス転移温度を上記範囲に設定することにより、高温による樹脂コーティング層の熱劣化を防ぎ、耐熱性も向上する。
ガラス転移点調整オーバレイに用いられる樹脂の25℃での伸びは、5%〜60%であるのが好ましく、より好ましくは10%〜50%、特に好ましくは20%〜30%である。この樹脂の200℃での伸びは好ましくは20%〜120%、より好ましくは50%〜110%、特に好ましくは60%〜90%である。
樹脂の伸びを上記範囲に設定することにより、樹脂コーティング層における軸受接触時の破断を防ぎ、かつ初期なじみ性も向上する。尚、ガラス転移点調整オーバレイに用いられる樹脂の引張り強度については特に制限されないが、低いほうが好ましく、特に200℃といった高温において低い方が好ましい。記伸びは、ASTMD-1708によって測定される。
上記ガラス転移温度及び伸びに関する上記条件を満たすポリアミドイミド樹脂は、未硬化時の分子量を数平均で2万以上にし、末端架橋点を少なくするとともに、硬化を早めるためにエポキシ基を含むポリマーを添加することにより得ることができる。
ガラス転移点調整オーバレイにおいて用いられる固体潤滑剤は、二硫化モリブデン(MoS2)、黒鉛(グラファイト)、BN(窒化硼素)、二硫化タングステン(WS2)、PTFE(ポリテトラフルオルエチレン)、フッ素系樹脂、Pb等を,1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
グラファイトは天然、人造グラファイトのいずれでもよいが、人造グラファイトが耐摩耗性の観点から好ましい。
これらの固体潤滑剤は、摩擦係数を低く、かつ安定にする作用と共に、なじみ性を有する。これらの作用を十分に発揮させるために、固体潤滑剤の平均粒径は15μm以下、特に0.2〜10μmであることが好ましい、なかでも、二硫化モリブデン、ニ硫化タングステン、黒鉛(グラファイト)、窒化硼素、が好ましい。
ガラス転移点調整オーバレイ中の固体潤滑剤の含有量は30〜70vol%であるのが好ましく、より好ましくは30〜50vol%である。
また、樹脂の含有量は30〜70vol%であるのが好ましく、より好ましくは50〜70vol%である。尚、固体潤滑剤及び熱硬化性樹脂の合計を100 vol%とする。
この配合割合とすることで、軟質かつ高温で伸びの良い樹脂を含む樹脂のコーティング層中において、固体潤滑剤が強固に保持され、より優れた耐焼付き性となじみ性が得られる。
ガラス転移点調整オーバレイは、さらに摩擦調整剤及び/又は極圧剤を含有することが好ましい。極圧剤としては、ZnS, Ag2S, FeS, FeS2, Sb3S2, PbS, Bi2S3, CdS等の硫黄含有金属化合物;チラウム類、モルフォリン・ジサルファイド、ジチオ酸塩、スルフィド類、スルフォキサイド類、スルホン酸類、チオフォスフィネート類、チオカーボネート類、ジチオカーボメート類、アルキルチオカルバモイル類、硫化オレフィン等の硫黄含有化合物;チオカルバミン酸塩等の有機金属系化合物;ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルビミン酸モリブデン等の有機モリブデン化合物などを挙げることができる。また、極圧剤の平均粒径は好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下である。極圧剤を添加する場合は、上記固体潤滑剤の容積割合30〜70vol%のうち、0.5〜10vol%、特に1〜5vol%を抑圧剤で置き換えることが好ましい。
極圧剤を添加することにより、特に一時的に固体接触が起こるような不十分な潤滑条件下や片当たり等の場合においても、十分な耐摩耗性や耐焼付き性が得られる。その作用機構は定かではないが、一時的な固体接触により、その時の摩擦熱やせん断応力から樹脂コーティング層が破断されやすい状況下において、樹脂コーティング層に分散された極圧剤が硬化的に作用するものと推定される。即ち、固体潤滑剤とその皮膜中に含まれた極圧剤により油が強固に保持され、かつ境界潤滑被膜が破断しにくいため、円滑な摺動面となり、耐焼付き性及び耐摩耗性が保持されるものと推定される。
摩擦調整剤としては、CrO2, Fe3O4, PbO, ZnO, CdO, Al2O3, SiO2, SnO2などの酸化物や、SiC, Si3N4などの化合物等を挙げることができる。摩擦調整剤を添加する場合は、上記固体潤滑剤30〜70vol%のうち、0.3〜10vol%、特に0.5〜5vol%を摩擦調整剤で置き換えることが好ましい。摩擦調整剤を添加することにより、耐摩耗性が向上する。特に極圧剤と併用することにより、摩擦調整剤による耐摩耗性向上と、極圧剤による油の保持とが相乗的に作用して、耐摩耗性が格段と向上する。摩擦調整剤と極圧剤を併用してもよく、その場合の添加量は、両者の合計量が上記固体潤滑剤30〜70vol%のうち、0.3〜10vol%、特に0.5〜5vol%で置き換える量であることが好ましい。
尚、ガラス転移点調整オーバレイには、更にその他の添加剤を含有していてもよい。
本発明では、樹脂コーティング層を形成するにあたり、上記成分が溶解、分散した塗布液を調製する。その際、適量の有機溶剤(希釈剤)を用いることができる。有機溶剤は、粘度を調整して、混合を容易とするものであり、使用する樹脂が溶解可能なものであれば特に制限なく用いられる。
例えば樹脂がポリアミドイミド樹脂であれば、キシレン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエンなどを上記各成分の合計量100質量部に対して100〜300質量部用いることができる。
以下、高温高強度オーバレイ又はガラス転移点調整オーバレイ形成前に行う軸受合金層の前処理を説明する。先ず、アルミニウム軸受合金をすべり軸受形状のライニングに加工した後、苛性ソーダなどのアルカリ処理液中において脱脂処理をし、続いて水洗及び湯洗を行い表面に付着したアルカリを除去する。例えば、被膜の密着性を高くする必要があるとき、脱脂後アルカリエッチングと酸洗との組合わせ等の化学的処理によりライニングの表面を粗面化する、ショットブラストなどの機械的処理によりライニング表面を粗面化する、ボーリング加工等によりライニング表面に凹凸を形成する等の方法をとることができる。更に密着性を高める必要があるときは、ライニング表面に厚み0.1〜5μmのリン酸亜鉛又はリン酸亜鉛カルシウム化成処理を施してもよい。ボーリングなどの下地処理と化成処理を組み合わせると、極めて密着性が高い樹脂コーティング層が得られる。
湯洗後温風乾燥し、適当な希釈剤で希釈した上記塗布液をスプレーでライニング上に塗布し、150〜300℃で乾燥・焼結する。成膜後の表面粗さが粗いときはバフ等による平滑化処理を行う。
尚、上述した前処理後を行う高温高強度オーバレイ又はガラス転移点調整オーバレイは、樹脂コーティング層のスプレー法の他に、ロール転写、タンブリング法、浸漬法、はけ塗り法、印刷法などの方法により形成することができる。樹脂コーティング層の厚みは、1〜50μmであることが好ましい。アルミニウム系軸受合金等にコーティングする場合、硬化温度が230℃を越えると、アルミニウム系軸受合金中のSnの溶融により軸受性能が劣化する可能性がある。その場合、230℃以下の硬化温度で樹脂の引っ張り硬度、伸びが最大を示す樹脂の使用が望ましい。
作用
ところで、従来技術におけるアルミニウム合金中の粒子の作用についての知見を整理すると次のようになる。
先ず、特許文献6(DE 32 49 133C2)において、Al系軸受に添加されたSiなどの比較的角が尖った塊状硬質粒子が鋳鉄製相手軸の表面を研摩して、なじみ面を作ることが発表され。
特許文献1においては、微粒子TiCによる分散強化は耐疲労性を良好にしている。
特許文献3においては、微細粒子はAl合金のマトリックスを強化し、粗大粒子は耐摩耗性を向上することが発表されている。ここでいう耐摩耗性はAl合金が相手材により摩耗される摩耗に対する抵抗性である。
非特許文献1,2には凝着物質を積極的に軸受の硬質物で削り取ることは説明していない。
本発明の作用に関しては、特許文献1に説明されているようにTiC分散アルミニウム合金のなじみ性は、他の硬質物と比較すると良好ではあるが、やはり優れているとはいえないので、TiC分散アルミニウム合金のアブレーシブ摩耗進行は緩慢であり、なじみ面が完全に形成される以前に凝着摩耗が起こり易い傾向がある。これに対して、微粒子TiCと粗粒子TiCが混在して本発明のアルミニウム合金においては、後者が相手材に凝着した凝着物を除去する作用をもち、これにより凝着摩耗を抑え、この結果優れた耐焼付き性が得られる。
続いて、本願発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
特許文献1の実施例1と同じ製造方法により表1に組成を示すアルミニウム合金を製造した。但し粗粒子TiCと微粒子TiCはそれぞれ次の方法で製造した。
粗粒子TiCの製法:(i)Ti粉末(住友シチック製、−352メッシュ)、黒鉛粉末(AESAR製、−325メッシュ)、および0.5gの純Al粉末(東洋アルミニウム製、−100メッシュ)を8:2:5の割合で秤量混合する。
(ii)得られた混合粉末を金型圧縮法にて、面圧50トンでφ11.3mm×5mmの円柱状に成形する。
(iii)(ii)によって得られた圧粉成形体を、純Al溶湯(温度;715℃)中に35秒浸漬した後、取り出して赤熱しないように凝固させ含浸体とする。
(iv)上記含浸体を真空雰囲気中にて15℃/分の加熱速度で1000℃まで加熱した後、加熱を停止して同雰囲気中で室温まで自然冷却してペレット(Al−50TiC)を得る。
(v)得られたTiC粒子は粒子径:0.2〜0.6μmの範囲であることが電子顕微鏡による断面観察にて確認された。
微粒子TiCの製法:(i)Ti粉末(住友シチック製、−352メッシュ)、黒鉛粉末(AESAR製、−325メッシュ)、および純Al粉末(東洋アルミニウム製、100−メッシュ)を8:2:5の割合で秤量混合する。
(ii)得られた混合粉末を金型圧縮法にて、面圧50トンでφ11.3mm×5mmの円柱状に成形する。
(iii)粗粒子のTiCを製造するためには、微粒子TiCの製造工程におけるAl含浸工程をなくした。
(iv)上記成形体を真空雰囲気中にて15℃/分の加熱速度で1000℃まで加熱した後、加熱を停止して同雰囲気中で室温まで自然冷却してペレット(Al−67TiC)を得る。
(v)得られたTiC粒子は粒子径:2〜6μmの範囲であることが電子顕微鏡断面観察にて確認された。
上記方法で得られたTiC分散Al合金と、表1に示されたSn,Cu,Mgなどを含有するアルミニウム合金とを混合して溶解した後鋳造と圧延を行い、得られた板材につき耐疲労性試を次の方法で行った。
イ)疲労試験機:回転荷重試験機
ロ)回転数1:2000rpm
ハ)試験温度(軸受背面温度):160 〜183℃
ニ)面圧:29MPa
ホ)相手材:S55C焼入材
ヘ)潤滑油:5W-30SH
耐焼付き性試験は次の方法で行った。
SA301X 焼付き試験条件
Al合金圧延板と軟鋼板とを圧接した後軸受を作成し下記条件の焼付き試験を行った。
・焼付き試験条件
イ)試験機 ジャーナル型焼付試験機
ロ)回転数 1300r/min
ハ)試験温度 140℃
ニ)荷重 ステップアップ 10MPa/45min
ホ)相手軸 S55C焼入れ材
ヘ)潤滑油 エンジンオイル 5W-30 SL
試験の結果を表1に示す。


表中、*印は比較例である。
合金No.1はSn量が多いために、脆く耐疲労性がすぐれない。No.4はCu量が多いために硬度が高くなり、なじみ性がすぐれず焼付きに至っている。No.14は粗粒子TiCの平均粒径が大きいために耐疲労性及び耐焼付き性ともに不良であり 、No.23はSn量が少ないためになじみ性がすぐれず耐焼付き性が不良であり焼付きに至っている。
これに対して、本発明実施例の合金は耐疲労性及び耐焼付き性ともに良好である。
図1は合金No.18の電子顕微鏡組織(SEM)写真であり、微粒子TiCと粗粒子TiCが分散していることを示す。
以上説明したように、本発明によると、アルミニウム合金の耐焼付き性と耐疲労性を両立させることができるので、高温・高面圧にさらされる軸受の性能を向上させることができる。
合金No.18の電子顕微鏡組織(SEM)写真である。

Claims (5)

  1. 質量百分率で、TiC:0.5-5%、Sn:2-20%、Cu:0.1-3%、残部が実質的にAl及び不可避的不純物からなる組成を有し、前記TiCが、平均粒子径0.5μm以下の粒子と、平均粒子径1-6μmの粒子とから構成されることを特徴とするすべり軸受用アルミニウム合金。
  2. 更にMg,Cr,Zr,Mn,V,Ni,及びFeからなる群から選択される少なくとも1種を総量で 0.05〜2% 含有することを特徴とする請求項1記載のすべり軸受用アルミニウム合金。
  3. 圧延材であることを特徴とする請求項1又は2記載のすべり軸受用アルミニウム合金。
  4. 裏金に、直接もしくは中間層を介して請求項1から3までの何れか1項記載のアルミニウム合金を接着したことを特徴とするすべり軸受。
  5. 前記軸受用アルミニウム合金に樹脂と固体潤滑剤とを含むコーティング層を施したことを特徴とする請求項3又は4記載のすべり軸受。
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