JP2007006830A - 細胞内の顆粒状構造物の測定方法 - Google Patents

細胞内の顆粒状構造物の測定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】真核生物細胞内で生ずる細胞内分子の挙動によって生成する顆粒状構造物の発生状態を、少量の画像情報から画像解析装置を使用して定量的に計測することで、細胞に与えられる物理的あるいは化学的な作用の程度を高速に評価する方法の提供。
【解決手段】細胞核の顆粒状構造物だけを細胞ごとに抽出して解析するよりも、取得した画像内の適当な大きさまたは凝集度の全ての顆粒状構造を解析しても細胞表面受容体の活性状態を明瞭かつ迅速に測定できることが判明し、本発明を完成するに至った。すなわち、以下の工程によって顆粒状構造物の凝集度などの性状を定量的に測定することを特徴とする方法を提供する:前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、前記顆粒状構造物をその大きさによって分類することと、前記分類した顆粒状構造物のうちの所望の大きさの顆粒状構造物の凝集度などの性状を定量的に算出すること。
【選択図】図1

Description

本発明は、細胞内の顆粒状構造物の測定方法に関する。より詳細には、本発明は、真核生物細胞内で生ずる細胞内分子を含む顆粒状構造物の発生状態を、画像解析装置を使用して定量的に計測する方法に関する。
細胞外環境からの物理的・化学的刺激に伴って、あるいは細胞の自律的な細胞内反応に伴って、細胞内の特定の構造の分子が特定の場所に集中的に集合あるいは発生する現象は、生命現象において頻繁にみられることが明らかになってきた。現在の医学・薬学・農学を含む生物学関連の研究の成果から、この現象を伴う分子の挙動は生命現象において重要な働きを担っていることが明らかになってきており、また、この現象に関する研究成果は、電離放射線の生体への影響を評価する指標として、医薬・農薬の化合物デザインするための基本情報として、またそれら化合物の効果や毒性を評価する指標と利用されるなど、応用分野でも重要である。
従来、顆粒状の構造物の発生を定量的に計測するには、顕微鏡下で細胞検体を直接目視し、顆粒の数を計測する方法、フイルムあるいは電子的に画像を取得し、その画像から目視で顆粒の数を計測する方法(非特許文献1)、あるいはフイルムあるいは電子的に取得した画像にたいしてある種の画像解析ソフトウエアを流用する方法(非特許文献2)がとられてきた。
非特許文献1に開示された方法では、培養細胞に電離放射線を照射すると、DNAの切断が生じその近傍にヒストン分子のリン酸化という分子構造変化が局部的に発生する。その分子の構造変化を蛍光免疫染色で可視化すると、顆粒状の構造物が観察されるようになる。その際に細胞核の構造も可視化し両者の画像を同一画面上(フイルムなど)に取得する。この後、目視にて細胞核上に位置する顆粒状の構造物を数え、電離放射線が引き起こす細胞内の反応を定量的に評価する指標として用いた。
非特許文献2に開示された方法では、非特許文献1と同様に、培養細胞に電離放射線の照射を行い、蛍光免疫染色を行って取得した画像に染色体in situ hybridizationの画像解析用ソフトウエア(ISIS、カールツアイス社製)を流用して顆粒状構造物の形成状態を定量化した。
さらに、非特許文献3には、細胞表面受容体の活性化につづいて凝集することが知られているある種の細胞内タンパクにあらかじめ蛍光タンパク(GFP)で融合した分子を細胞内で発現させる。細胞外から薬剤を投与し細胞表面受容体を活性化させGFP融合タンパクの凝集によって生じた顆粒状の蛍光シグナルを、顕微鏡と画像解析を組み合わせたシステム(アマシャムバイオサイエンス社(現GEヘルスケア社)製)を使ってその数を網羅的に統計解析することによって薬剤の効果を示す指標とする。
このように、従来の目視による方法では、測定者の恣意・熟練度・疲労度などによる測定結果の誤りが生じやすいこと、
従来の画像解析ソフトウエアの流用では、解析パラメータの自由度が制限されていることや、従来の方法では、形成された顆粒状の構造物を網羅的に計測していたので、多くの時間と手間を要し、多量の検体を計測するうえでの現実的な制限を加える要因になっていることなどの問題があった。
さらに、細胞核を専用の蛍光波長で取得する一方、GFPの画像を別の波長で取得しており、合計2つの独立した波長の画像ファイルが必要とされる。
また、本発明者は、以前に顕微鏡と画像解析装置を組み合わせた装置によって取得した画像を、顆粒状構造物をその大きさによって分類して解析することにより、顆粒状構造物の生成状況をより正確に、かつ定量的に測定できることを見出した(特願2004-253316)。この方法では、同定可能な顆粒状構造物は、認識可能な細胞核あるいは細胞質輪郭の範囲内およびその近傍に限定されてしまう。その結果、この範囲に入らない画像中の一部の顆粒状構造物は同定されないまま解析の対象外として排除されてしまう。このため、細胞に与えられる物理的あるいは化学的な作用を評価するに堪え得る統計的に頑健な値を得るために十分な数の顆粒状構造物を同定するためは、数多くの細胞核あるいは細胞質輪郭を認識できるよう多量の画像を取得しなければならず、画像取得により多くの時間がかかり、取得した画像の電子情報の量も膨大なものとなってしまう。
さらに、従来の画像解析法では、計測対象となる顆粒状構造物の画像とは別個に、追加の波長チャンネルなどを使用して、細胞核あるいは細胞質輪郭の認識のための画像を取得し、その画像を解析・保存する必要が生じる。この追加の画像のための画像電子データの取得の時間、処理、転送、保存のための時間がかかり、解析作業の時間を著しく延長させてしまい、あるいは電子情報の量を膨大なものにしてしまうもう一つの要因となってしまう。
K. Rothkamm and M. Lobrich et al.、Evidence for a lack of DNA double-strand break repair in human cells exposed to very low x-ray doses、"Proc. Natl. Acad. Sci. USA"、(USA)、2003年、Vol. 100、p.5057-5062 Rothkamm et al.、Pathways of DNA Double-Stranded Break Repair during the Mammalian Cell Cycle、"Mol. Cell. Biol."、2003年、 Vol. 23、p. 5706-5715 R. H. Oakley et al.、The cellular distribution of fluorescently labeled arrestins provides a robust, sensitive and univeersal assay for screening G protein-coupled receptors、"Assay Drug Dev Technol"、2002年、Vol. 1、p.21-30
本発明は、真核生物細胞内で生ずる細胞内分子を含む顆粒状構造物の発生状態を、画像解析装置を使用して定量的に計測する方法を提供することを目的とする。より詳細には、本発明は、真核生物細胞内で生ずる細胞内分子の挙動によって生成する顆粒状構造物の発生状態を、少量の画像情報から画像解析装置を使用して定量的に計測することで、細胞に与えられる物理的あるいは化学的な作用の程度を高速に評価する方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべくさらに鋭意研究の結果、取得する画像を減少させるためには、一画像から取得する顆粒状構造物の取得点を増大させることが必要であり、そのために核だけでなく細胞全体の顆粒状構造物を取得することに想到した。また、上記顕微鏡と画像解析装置を組み合わせた装置によって取得する画像数を減少させても、取得する顆粒数を増加することによって統計的に頑健な値を得ることができること見いだし、本発明を完成するに至った。特に、細胞核の顆粒状構造物だけを細胞ごとに抽出して解析するよりも、取得した画像内の適当な大きさまたは凝集度の全ての顆粒状構造を解析しても細胞表面受容体の活性状態を明瞭かつ迅速に測定できることが判明した。本発明は、細胞核という限定された領域ではなく、取得した画像内の全細胞の顆粒状構造物を測定することにより、取得画像数を減少し、効率よく解析を行う方法を提供する。
すなわち、本発明は、細胞内の顆粒状構造物を測定する方法であって、以下の工程によって顆粒状構造物の性状を測定することを特徴とする方法を提供する:
前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、
前記顆粒状構造物をその大きさによって分類することと、
前記分類した顆粒状構造物のうちの所望の大きさの顆粒状構造物の性状を算出すること。
また、本発明は、上記方法であって、前記細胞に存在する顆粒状構造物の認識は、該顆粒状構造物に含まれる分子を蛍光標識することによって認識されることを特徴とする方法を提供する。
また、本発明は、細胞に対する刺激の影響を測定するための方法であって、
細胞に対して所望の刺激を与えることと、
上記方法によって、前記刺激によって前記細胞内に凝集することが知られている分子を含む顆粒状構造物の性状を測定することと、
を含むことを特徴とする方法を提供する。
また、本発明は、細胞の受容体の機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
細胞に対して試験物質を接触させることと、
上記方法によって、前記接触させた細胞における前記受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の性状を測定することと、
を含むことを特徴とする方法。
また、本発明は、細胞の受容体とそのリガンドの相互作用による機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
細胞に対して試験物質を接触させることと、
前記物質を接触させた細胞に、前記受容体に対するリガンドを投与することと、
請求項2に記載の方法によって、前記接触させた細胞における前記受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の性状を測定することと、
を含むことを特徴とする方法を提供する。
また、本発明は、細胞の受容体の機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
細胞に対して試験物質を接触させることと、
前記物質を接触させた細胞に、前記受容体に対するリガンドを投与することと、
以下の工程によって細胞内の受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の凝集度を測定することとを特徴とする方法を提供する:
前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、および、
前記顆粒状構造物をその凝集度によって分類すること。
また、本発明は、細胞の受容体とそのリガンドの相互作用による機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
細胞に対して試験物質を接触させることと、
前記物質を接触させた細胞に、前記受容体に対するリガンドを投与する工程と、
以下の工程によって細胞内の受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の凝集度を測定することとを特徴とする方法を提供する:
前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、および、
前記顆粒状構造物をその凝集度によって分類すること。
また、本発明は、上記方法であって、
前記核を含む領域は、前記細胞に存在する顆粒状構造物の認識は、該顆粒状構造物に含まれる受容体またはこれに結合する分子を蛍光標識することによって認識されることを特徴とする方法を提供する。
まず、本発明の方法の概要を、本発明者による従来の細胞内の核領域の顆粒状構造物を測定する方法と対比しながら説明する(図1)。
本発明者による従来の細胞内の核領域の顆粒状構造物を測定する方法では、細胞内に生じた顆粒状構造物のうち、核領域に存在する顆粒状構造物のみを計数していた。
一方、本発明の細胞内の顆粒状構造物を測定する方法は、顆粒状構造物をその大きさによって分類し、細胞あたりの特定の大きさの顆粒状構造物の数量を測定することを特徴とする。
本発明によって測定される細胞内の顆粒状構造物は、細胞内に形成されるどのような顆粒状構造物であってもよい。たとえば、細胞外環境からの物理的・化学的刺激に伴って、または細胞の自律的な細胞内反応に伴って細胞内の特定の分子が特定の場所に集中的に集合もしくは発生する現象が、生命現象において頻繁にみられるが、このような顆粒状構造物が含まれる。より具体的には、培養細胞に電離放射線を照射するとDNAの切断が生じ、その近傍にヒストン分子のリン酸化による分子構造変化が局部的に発生する。この分子の構造変化を可視化すると、顆粒状の構造物が観察される。また、細胞表面受容体がエンドサイトーシスによって取り込まれる際に凝集して顆粒状構造物となることが知られている。たとえば、該受容体に対するリガンドによって活性化すると、これにつづいてある種の細胞内タンパク質の凝集を生じることが知られている。このような凝集されたタンパク質も、顆粒状構造物に含まれる。
本発明の方法を使用する細胞は、いずれの細胞を使用してもよい。たとえば、培養細胞を使用することができ、末梢静脈血等の血液、臓器、および組織などに由来する細胞を使用してもよい。また、細胞は、いずれの種に由来するものであってもよく、ヒト、ヒト以外の動物及び植物、並びにウイルス、細菌、バクテリア、酵母およびマイコプラズマ等の微生物であってもよい。
本発明において、顆粒状構造物の性状の測定は、以下の工程によって行う:
細胞に存在する顆粒状構造物を認識する工程、
顆粒状構造物をその大きさによって分類する工程、
分類した顆粒状構造物のうちの所望の大きさの顆粒状構造物の細胞あたりの数量を算出する工程。
上記それぞれの工程は、細胞の画像取得と画像解析が可能な装置を使用して行うことができる。たとえば、蛍光顕微鏡と画像解析ソフトウエアを組み合わせたシステムを使用して行うことができる。
上記システムを使用して顆粒状構造物の測定を行うための解析アルゴリズムの例を、図1を参照して、従来の細胞内の核を含む領域の顆粒状構造物のみの数量を計測していた方法と対比して説明する。
本発明の方法では、細胞に存在する全ての顆粒状構造物を認識する。顆粒状構造物は、たとえば顆粒状構造物を構成する分子を蛍光性色素や生物(ないし化学)発光性色素で標識しておき、標識からの生物(化学)発光/蛍光を検出することによって行うことができる。標識は、当業者に既知のいずれの方法を使用してもよく、たとえば、顆粒状構造物を構成する分子を認識する抗体等のバインダーを用いて標識することができる。この場合、抗体の標識は、FITCなどの蛍光物質やルシフェラーゼなどの生物発光を直接的に抗体に結合させてもよく、または標識された2次抗体を使用して間接的に標識してもよい。あるいは、生物発光融合タンパク質やGFP融合タンパク質などの発光性あるいは蛍光性タンパクをあらかじめ結合させた任意の分子を細胞内に発現させ、その生物発光/蛍光による発光を検出してもよい。
蛍光標識した細胞に適当な励起光を照射すると、固有の蛍光を生ずる(図2a右)。たとえば、GFPによって標識した場合には、アルゴンイオンレーザー(488nm)で励起し、515〜545nmの蛍光を検出する。検出された蛍光の画像を取得し、一定の蛍光強度閾値を設定することによりって画像上に地図等高線様の線を描き、任意の分子の局部的な凝集を顆粒状構造物として認識する(図2c左)。このとき閾値は、細胞核の位置と形態を反映するように設定する(構造物輪郭)。これら認識した顆粒状構造物を個々に独立した事象と見なし(図2c右)、それらの性状(真円度、凝集度、蛍光強度、面積など)を画像解析装置を用いて自動的に計測し、統計的に解析する。たとえば、図2cでは、構造物輪郭で囲まれた部分を顆粒状構造物として認識している。また、発光性の物質で標識した場合には、励起光を照射する必要はない。
次いで、存在する構造物輪郭の面積によって分類する。図2cでは、顆粒状構造部の認識後(図2c左)、分類の結果を四角でマークしてある(図2c右)。また、該面積、すなわち顆粒状構造物の大きさは、当業者であれば、種々の実験および経験に基づいて、所望の大きさを決定することができる。たとえば、アッセイ系ごとに本発明の方法によって種々の大きさの顆粒状構造物の細胞あたりの数量を算出し、所望の細胞状態を反映する大きさの顆粒状構造物を選択してもよい。このように、細胞内の顆粒状構造物の大きさによって分類することにより、従来の方法のように顆粒状構造物の大きさを分類せずに解析する方法と比べて、顆粒状構造物の生成と細胞状態との相関をより反映することができ、より正確に細胞状態を測定することができる。
最後に、顆粒状構造物の大きさによって分類されたデータが得られる。得られたデータから、分類した顆粒状構造物のうちの所望の大きさの顆粒状構造物について、特定の性状を計測する。
本発明の方法によれば、従来の細胞内の核の顆粒状構造物のみの数量を計測する場合と比べて、一画像から得られる顆粒状構造物の数を増やすことができるため、細胞内の核の顆粒状構造物を計数するよりも少ない数の画像に基づいて解析を行うことができる。
一方、従来の細胞内の核を含む領域の顆粒状構造物のみの数量を計測していた方法(図2b)では、細胞内の核を含む領域を認識する工程(図2b左)、細胞に存在する顆粒状構造物を認識する工程(図2b中央)、顆粒状構造物をその大きさによって分類する工程(図2b左)、分類した顆粒状構造物のうちの所望の大きさの顆粒状構造物の細胞あたりの数量を算出する工程によって細胞あたりの顆粒状構造物の数量を測定していた。
上記図2b右と2c右の比較で明らかなように、同一面積の画像から、本提案の方法では従来法の約4倍の顆粒状構造物を解析対象とすることができ、統計的により頑健な検定を行うには著しく有利である。言い換えると、同じ検出力の検定を行うには、この例では1/4の画素数のデータで済ませられることになる。さらにまた、本提案の方法で必要とする画像は顆粒状構造物の画像のみであり、細胞核の画像を必要としないため、画像電子データは従来法の半分の量で済む。
次に、本発明の方法によれば、測定される細胞内の顆粒状構造物の数量に基づいて、細胞における種々の生命現象を解析することができる。たとえば、上記方法を使用して、細胞に対する刺激の影響、すなわち細胞が一定の刺激によって受ける影響を測定することができる。この場合、あらかじめ所定の刺激により細胞内に凝集することが知られている分子を含む顆粒状構造物の性状を測定することにより、細胞に対する刺激の影響を測定することができる。
たとえば、リン酸化をはじめ、細胞の活性化状態に相関して細胞内分子が構造変化する(すなわち、顆粒状に凝集する)ことが知られているが、この顆粒に含まれる部位を認識する抗体を用いて、該分子を介した活性化状態を測定することができる。
まず、細胞に対して所望の刺激を与える。これにより、細胞には、当該刺激により凝集されることが予想されるタンパク質などを含む顆粒状構造物が形成されることとなる。次いで、あらかじめ標識した、上記タンパク質などに対する抗体を該タンパク質などと結合させて、抗原抗体反応を生じさせる。これにより、標識抗体を介して、タンパク質などの分子の局部的な構造変化を顆粒状の画像として認識することができる。また、あらかじめGFP融合タンパク質などの発光性あるいは蛍光性タンパク質との融合タンパク質を細胞内に発現させ、その発光/蛍光を検出してもよい。
上述のとおり、本発明の方法に従って、所定の刺激によって細胞内に凝集することが知られている分子を含む顆粒状構造物の性状を測定することにより、細胞に対する該刺激の影響を測定することができる。たとえば、該刺激の強度などを定量的に測定することができる。
さらに、上記方法を利用することにより、細胞の受容体の機能を調節する物質をスクリーニングすることができる。Gタンパク質共役型受容体(G-protein coupled receptor, GPCR)などのある種の受容体は、そのリガンドの結合などにより活性化されると、引き続いて脱感作の機構による不活性化とリサイクルのプロセスが生じることが知られている。この脱感作機構は、多くのGPCRに共通のものでありアレスチンと活性化状態のGPCRが結合して細胞内へ局在移行する(エンドサイトーシス)する過程が含まれる。この脱感作の過程は、アレスチンを介して可視的に観察/測定することができ、GPCRの活性化によりGPCRと共に細胞内で顆粒状に凝集することと考えられている。
従って、本発明の方法を使用してアレスチンの凝集状態を測定することにより、GPCRの機能を調節する物質をスクリーニングすることができる。まず、細胞に対して試験物質を接触させる。次いで、本発明の方法によってアレスチンを含む顆粒状構造物の性状を測定する。試験物質の接触により、アレスチンを含む顆粒状構造の凝集度が増加した場合は、該試験物質は、GPCRを介した細胞機能のアゴニストであると考えられる。このように、本発明の方法を利用して、試験物質がGCPRを介して細胞を活性化するか否かをスクリーニングすることができる。
さらに、上記方法を利用して、細胞の受容体とそのリガンドの相互作用による機能を調節する物質をスクリーニングすることができる。たとえば、GCPRとそのリガンドの相互作用に影響を与える物質をスクリーニングするには、まず細胞に対して試験物質を接触させる。次いで、該試験物質を接触させた細胞にリガンドを投与する。次いで、本発明の方法によってアレスチンを含む顆粒状構造の凝集度を測定する。試験物質の接触により、アレスチンを含む顆粒状構造の凝集度が減少した場合は、該試験物質は、GPCR/リガンドを介した細胞機能のアンタゴニストであると考えられる。このように、試験物質がGCPRとそのリガンドの相互作用に影響を与えるか否かを精度よく測定することができる。各細胞ごとに最大輝度の構造物を測定する方法は、測定を簡易にし、スループットの向上につながるので自動化に適している。
上記方法は、いずれの測定装置および解析ソフトを使用して、画像を取得し個々の細胞核の位置および形状を認識してもよいが、たとえば、CompuCyte社、Cambridge, MA, USA)の主力製品である顕微鏡ベースのサイトメータ(Laser Scanning Cytometer, LSC(登録商標))シリーズ(2,3)を基本として設計されたイメージングサイトメータiCyte(商標)を使用して画像を取得し、また上記アルゴリズムに基づいて個々の細胞の位置と形状を認識させることができる。
上記のような装置を使用することにより、取得した細胞内分子に由来する顆粒状の画像中の個々の顆粒についての選択を行うことができる。また、取得した細胞内分子に由来する個々の顆粒をその性状(総輝度・面積・最大輝度・真円度)などを基準として分類することができる。また、取得した細胞内分子に由来する個々の顆粒について、その性状および細胞の画像との関連の複合的な基準を組み合わせによって分類することができる。
さらに、分類された顆粒状について、その総数などを、細胞内での生化学的挙動を定量的に示す指標として用いることが出来る。
[実施例1]
本発明の方法に使用するアルゴリズムによる解析の有効性
薬剤の活性評価に使用される測定系の安定性と検出精度を表現する指標としてZ’ (Zプライム)値がしばしば使用される。この指標は、Journal of Biomolecular Screening Vol. 4 67-73 (1999)の論文で発表されたもので、次の式で計算される。ここでMaxとMinは、それぞれ、最大の反応が生じた状態と反応を起こしていない状態の計測値のことであり、それぞれについて複数(2 > N)の測定を行いそれらの平均と標準偏差から、Z’値が算出される。Z’ > 0.5が実用的に望ましい値であるとされている。
Z’ = 1 - (3 x Maxの標準偏差 + 3 x Minの標準偏差) / (Maxの平均 − Minの平均)
解析方法1は、従来の方法での計測およびZ’値の計算結果であり、細胞核内の顆粒状構造物にのみ注目して、その数を計測している。1つの検体につき1,500ミクロン x 1152ミクロンの画像取得領域をスキャニングした。Z’値は、> 0.5で良好であったが、電子ファイルサイズは、4.96ギガバイト、計測時間は、約2時間であった。
解析方法2は、解析方法1と同じ画像解析方法であるが、画像取得領域を500ミクロン x 384ミクロンに縮小した。電子ファイルサイズは、1.1ギガバイト、計測時間は、約25分に縮小出来たものの、Z’値は、0.5を大きく下回ってしまった。
解析方法3は、本発明の方法による画像解析方法を応用した結果で、画像取得領域は、500ミクロン x 384ミクロンのままであるが、Z’値は、0.5以上の値を得ることが可能であった。しかも、計測時間は、約20分、画像ファイルサイズは、0.6ギガバイトに縮小することが出来た。したがって、細胞全体の顆粒状構造物に注目して、その数を計測することにより、画像取得領域を狭くしても、Z’値は> 0.5で良好な結果を得ることができ、これにより画像ファイルサイズおよび計測時間を減少することが証明された。
Figure 2007006830
[実施例2]
本発明の方法に使用するアルゴリズムによる解析
骨肉芽腫細胞株であるU2OS細胞に、GFPで標識したアレスチン(アレスチンGFP)およびアドレナリン受容体を強制発現させた細胞において、本発明の方法に使用するアルゴリズムに基づいて解析を行った。アドレナリン受容体を化合物で活性化させると、これと連動してアレスチンGFPが顆粒状の構造物を細胞質内に形成する。顕微鏡と画像解析を組み合わせたシステム」には、CompuCyte社製のiCyteを使用した。
図2の画像を得るために以下の操作を行った。
ヒト骨肉腫細胞株U2OSにアドレナリン受容体遺伝子およびアレスチンGFP遺伝子を人為的に導入して発現させた細胞を使用した。98マイクロウェルプレートに1×104細胞の濃度で細胞を播種し、細胞がプレート底面に十分接着してから無血清の培地に交換し、一晩飢餓状態においた。アドレナリン受容体のリガンドであるイソプロテレノールを段階稀釈的に添加し、数分間保温することでアドレナリン受容体を活性化させ、アレスチンGFPの凝集を発生させた。パラホルムアルデヒドを添加することによって細胞を固定した。iCyteに搭載されたアルゴンイオンレーザ(488nm)でアレスチンGFPを励起し、その分子の分布画像を取得した(図2c左)。
一定の蛍光強度閾値(たとえば2000ピクセル値)に設定し、この画像に対して輪郭線を描き、顆粒状構造物の輪郭を抽出し、それを面積のパラメータによって分類し、適切と思われる面積範囲を選択した(図2c右)。
[実施例3]
本発明を使用して解析を行った結果を図3に示す。顕微鏡と画像解析を組み合わせたシステム」には、CompuCyte社製のiCyteを使用した。骨肉芽腫細胞株であるU2OS細胞に、GFPで標識したアレスチン(アレスチンGFP)およびアドレナリン受容体を強制発現させた細胞を使用した。アドレナリン受容体をイソプロテレノールで活性化させると、これと連動してアレスチンGFPが顆粒状の構造物を細胞質内に形成する。
図1同様に、以下の操作により図3の画像を得た。
パラホルムアルデヒドを添加することによって細胞を固定し、DRAQ5を添加して細胞核DNAを染色した。iCyteに搭載されたアルゴンイオンレーザ(488nm)でアレスチンGFPを励起し、緑色の蛍光をPMTで取得した。
図3左は、受容体が非活性な状態、図3右は、強く活性化している状態である。上記解析アルゴリズムをこれらの画像に適用したものが図3下段に示してある。四角のマークされた蛍光顆粒の最大輝度の平均を算出した。これをアドレナリン受容体の活性化状態の指標とみなした。
[実施例4]
図4は、上記の解析を化合物濃度希釈系列に適用し、解析結果を用量反応曲線グラフとして表示したものである。横軸に薬剤濃度、縦軸にアドレナリン受容体の活性化状態の指標となる蛍光最大輝度の平均を示している。
図4グラフを得るために以下の操作を行った。
iCyteで算出され、面積パラメータで分類された蛍光顆粒の最大輝度の平均値(Average Max Pixel値)を縦軸に、イソプレプレノール濃度の対数を横軸にしたグラフを作製し、シグモイド非直線回帰式を計算によりあてはめ、その式に従った回帰線をグラフ上に描いた。さらに、この回帰式から50%有効量(EC50値)を算出した。回帰式の計算、EC50値、およびグラフの作製には、統計計算用ソフトウエアであるグラフパッド・プリズム(米国グラフパッド・ソフトウエア社)を使用した。
横軸に薬剤濃度、縦軸にアドレナリン受容体の活性化状態の指標を示している。このグラフからは薬剤どうしの効果を客観的かつ定量的に相互比較するために頻繁に用いられる50%有効量(EC50値)が求められた。
図4は、細胞核の輪郭を上記実施例と同じ方法で認識し、その範囲に存在するGFPシグナルに由来する最大輝度の値を細胞核輪郭ごとに求めた図である。幅広いイソプロテレノール濃度範囲に適用したものを用量反応曲線グラフとして表示した。CompuCyte社製のiCyteを使用して、認識した各々の輪郭の中から、凝集度の指標として任意の蛍光波長の一番高い輝度のピクセル値を選択した。
iCyteで算出された平均MaxPixel値を縦軸に、イソプレテノール濃度の対数を横軸にしたグラフを作製し、図3Aのグラフを作製した方法と同様にシグモイド非直線回帰式を計算によりあてはめ、その式に従った回帰線をグラフ上に描いた。さらに、この回帰式から50%有効量(EC50値)を算出した。
本発明の方法と従来の方法によって顆粒状構造物の測定を行うための解析手順を比較した模式図。 本発明の方法と従来の方法によって顆粒状構造物の測定を行った解析を比較した模式図。 本発明を使用して解析を行った結果を示す顕微鏡写真。 本発明の解析を幅広い化合物濃度範囲に適用した用量反応曲線グラフ。

Claims (8)

  1. 細胞内の顆粒状構造物を測定する方法であって、以下の工程によって顆粒状構造物の性状を測定することを特徴とする方法:
    前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、
    前記顆粒状構造物をその大きさによって分類することと、
    前記分類した顆粒状構造物のうちの所望の大きさの顆粒状構造物の性状を統計的に算出すること。
  2. 請求項1に記載の方法であって、前記細胞に存在する顆粒状構造物の認識は、該顆粒状構造物に含まれる分子を蛍光標識することによって認識されることを特徴とする方法。
  3. 細胞に対する刺激の影響を測定するための方法であって、
    細胞に対して所望の刺激を与えることと、
    請求項1または2に記載の方法によって、前記刺激によって前記細胞内に凝集することが知られている分子を含む顆粒状構造物の性状を測定することと、
    を含むことを特徴とする方法。
  4. 細胞の受容体の機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
    細胞に対して試験物質を接触させることと、
    請求項2に記載の方法によって、前記接触させた細胞における前記受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の性状を測定することと、
    を含むことを特徴とする方法。
  5. 細胞の受容体とそのリガンドの相互作用による機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
    細胞に対して試験物質を接触させることと、
    前記物質を接触させた細胞に、前記受容体に対するリガンドを投与することと、
    請求項2に記載の方法によって、前記接触させた細胞における前記受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の性状を測定することと、
    を含むことを特徴とする方法。
  6. 細胞の受容体の機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
    細胞に対して試験物質を接触させることと、
    前記物質を接触させた細胞に、前記受容体に対するリガンドを投与することと、
    以下の工程によって細胞内の受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の凝集度を測定することとを特徴とする方法:
    前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、および、
    前記顆粒状構造物をその凝集度によって分類すること。
  7. 細胞の受容体とそのリガンドの相互作用による機能を調節する物質をスクリーニングするための方法であって、
    細胞に対して試験物質を接触させることと、
    前記物質を接触させた細胞に、前記受容体に対するリガンドを投与する工程と、
    以下の工程によって細胞内の受容体またはこれに結合する分子を含む顆粒状構造物の凝集度を測定することとを特徴とする方法:
    前記細胞に存在する顆粒状構造物を認識することと、および、
    前記顆粒状構造物をその凝集度によって分類すること。
  8. 請求項6または7に記載の方法であって、
    前記核を含む領域は、前記細胞に存在する顆粒状構造物の認識は、該顆粒状構造物に含まれる受容体またはこれに結合する分子を蛍光標識することによって認識されることを特徴とする方法。
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