JP2007000892A - 熱間鍛造金型用肉盛溶接材料及びその溶接材料を用いた熱間鍛造用金型 - Google Patents
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Abstract
【課題】 従来のNi基合金やCo基合金の熱間鍛造金型用肉盛材料と比較して同等かより優れる高温耐摩耗性を有する新規な肉盛材料の提供。
【解決手段】 Feを主成分とし、粉末を原料とする肉盛溶接材料であって、肉盛溶接後において、質量%で、Ti:1.2〜26.0%、B:0.5〜12.0%、Cr:28.0%以下とTiとCrを除く4A族元素、5A族元素、6A族元素を合計で10%以下含有し、4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeを含むグループから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物が体積率で3〜50%分散されており、分散させた上記ホウ化物又は/及びその複合化物のうち体積率で50%以上がTiB2であることを特徴とする高温耐摩耗性に優れた熱間鍛造金型用肉盛溶接材料。
【選択図】 なし
【解決手段】 Feを主成分とし、粉末を原料とする肉盛溶接材料であって、肉盛溶接後において、質量%で、Ti:1.2〜26.0%、B:0.5〜12.0%、Cr:28.0%以下とTiとCrを除く4A族元素、5A族元素、6A族元素を合計で10%以下含有し、4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeを含むグループから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物が体積率で3〜50%分散されており、分散させた上記ホウ化物又は/及びその複合化物のうち体積率で50%以上がTiB2であることを特徴とする高温耐摩耗性に優れた熱間鍛造金型用肉盛溶接材料。
【選択図】 なし
Description
本発明は、過酷な条件で使用される熱間鍛造用金型の寿命を大幅に向上することのできる溶接材料及びそれを用いた熱間鍛造用金型に関するものであり、具体的には工具鋼からなる金型表面に肉盛溶接することによって、表面に靭性、耐ヒートチェック性および高温耐摩耗性の優れた肉盛溶接層を設けることにより、寿命の改善を可能とする金型の肉盛溶接材料及びその溶接材料を用いた熱間鍛造用金型に関する。
熱間鍛造は、1000〜1300℃程度に加熱された被加工材を鍛造型上にて機械力または油圧力の加圧手段によって成形する技術であり、高温に加熱することにより冷間で加工する場合に比べ変形抵抗が低下し、比較的大きな部品であっても高い生産性での部品製造が可能となることから、クランクシャフト、コンロッド等のエンジン部品等多くの機能部品に採用されている。
しかし、熱間鍛造は高温に加熱された被加工材に繰返し加工を加え、一つの金型を使って多数の部品を連続的に製造することを特徴としていること、被加工材は高温に加熱されているため、冷間に比べ変形抵抗は低下しているものの、かなりの高荷重が高温状態にて負荷されること等から、鍛造型には過酷な機械的応力と熱的応力を受け、寿命が比較的短いという問題がある。従って、鍛造型の寿命を改善するためには、以下の特性が特に優れていることが要求される。
(1)繰返し高温の被加工材と接触することに伴う熱負荷に耐えられる耐ヒートチェック性
(2)繰返し衝撃荷重を受けることに耐えられる耐衝撃性(靭性)
(3)繰返し高温で高面圧の負荷がされる条件下での高温耐摩耗性
(2)繰返し衝撃荷重を受けることに耐えられる耐衝撃性(靭性)
(3)繰返し高温で高面圧の負荷がされる条件下での高温耐摩耗性
このような熱間加工時の型に使用される工具鋼としては、JISでSKD61、SKT4などが規格化されており、現在も使用されている。しかしながら、熱間鍛造のような過酷な条件の元で使用した場合、期待する寿命を得られない場合が多いことから、前記した型の表面に母材型材料に比較して高温耐摩耗性、耐ヒートチェック性等耐熱性に優れた材料を、特に摩耗量が多いと予想される箇所について肉盛溶接することにより、型寿命を向上するという方法が一般的に行われている。この肉盛溶接用材料としては、Ni基の合金やCo基の合金が多く用いられている。また、最近では、Cr、Mo、W、V等の元素を適量添加することによって前記性能を改善した鉄合金も使用されている(特許文献1、非特許文献1参照)。
特許文献1に記載の発明は、従来肉盛用溶接材料として用いられてきたCo基合金で問題となっていた肉盛性を改善することを目的に開発されたCo基合金について記載されている。また、この特許の出願時に既に用いられていたCo基合金についても記載されている。
また、非特許文献1は、ドイツにおいて熱間用金型材に使用されている肉盛溶接材料について記載されたものであり、Ni基合金やCr、Mo、W、V等を適量添加した鉄合金を適用した例が記載されている。
しかし、現在まで使用されている前記肉盛溶接材料には以下の問題がある。
前記した通り、熱間鍛造時には、型の寿命向上と型コストの低減を図るため、型表面の摩耗が大きくなると予想される箇所に肉盛溶接を行うことによる型寿命改善の試みが行われてきた。しかし、最高で1300℃程度まで加熱された被加工材と高い面圧が負荷された状態で繰返し連続して接触することとなるため、その使用環境は極めて厳しいものとなる。その結果、従来から最も高温耐摩耗性が優れていると言われているNi基やCo基の肉盛材料を用いた場合であっても、その寿命の限界は摩耗量が限界値を超えることにより生じており、摩耗量が限界値に達する度に、型を交換し再度肉盛溶接する等の作業が必要となる。
前記した通り、熱間鍛造時には、型の寿命向上と型コストの低減を図るため、型表面の摩耗が大きくなると予想される箇所に肉盛溶接を行うことによる型寿命改善の試みが行われてきた。しかし、最高で1300℃程度まで加熱された被加工材と高い面圧が負荷された状態で繰返し連続して接触することとなるため、その使用環境は極めて厳しいものとなる。その結果、従来から最も高温耐摩耗性が優れていると言われているNi基やCo基の肉盛材料を用いた場合であっても、その寿命の限界は摩耗量が限界値を超えることにより生じており、摩耗量が限界値に達する度に、型を交換し再度肉盛溶接する等の作業が必要となる。
また、前記したCr、Mo、W、V等を適量添加したFe合金からなる肉盛材料においては、Ni基、Co基の肉盛材料と比較して安価であるという利点はあるものの、高温耐摩耗性の点では、Ni基、Co基の肉盛材料に比べて劣るため、型寿命が短くなり、Co基、Ni基の溶接材料を用いた場合に比較して、型交換、型の補修回数が増加してしまうという問題がある。
このような、型交換、型の補修は、新たな型の補修コストが必要になるという問題だけでなく、型交換時には生産を一時中止しなければならないことから、鍛造品の生産性を大きく低下させるものとなるため、その改善が強く要望されていた。また、Ni基合金、Co基合金は非常に高価であるため、これらの肉盛材料に比べさらに寿命を向上させることにより、鍛造品製造に必要な型コストを低減できる新しい肉盛材料の開発が強く望まれていた。
本発明は、これらの課題を解決するために検討された結果見出されたものであり、従来最も耐摩耗性が優れていると言われていたCo基、Ni基の肉盛材料と比較してさらに優れた高温耐摩耗性を有し、金型の寿命を改善して、型交換、型の補修回数の低減を可能とすることにより、鍛造品のトータル製造コストの低減を可能とする新規な肉盛溶接材料を提案することを目的とする。
本発明の請求項1に記載の発明は、Feを主成分とし、金属粉末を原料とする肉盛溶接材料であって、肉盛溶接後において、質量%で、Ti:1.2〜26.0%、B:0.5〜12.0%、Cr:28.0%以下とTiとCrを除く4A族元素、5A族元素、6A族元素を合計で10%以下含有し、4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeを含むグループから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物(以下、ホウ化物、その複合化物の両方を含めて「ホウ化物」と記載する。)が体積率で3〜50%分散されており、分散させた上記ホウ化物のうち体積率で50%以上がTiB2であることを特徴とする高温耐摩耗性に優れた熱間鍛造金型用肉盛溶接材料である。
本発明のポイントは、Feを主成分とし、粉末を原料とする肉盛溶接材料であって、肉盛溶接後の溶接金属中に4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeを含むグループから選択される1種以上の元素を含むホウ化物を体積率で3〜50%分散したことにあり、分散させたホウ化物のうち50%以上をTiB2とした点にある。
以下、本発明の完成に到ったポイントについて説明する。
Crは、耐熱性を改善する元素として良く知られており、その添加によって高温での変形抵抗を改善する効果を有する元素である。また、Crは、後述するようにホウ化物生成元素でもある。そこで本発明では、Feを主成分とするとともに、さらにCrを28.0%以下含有させることとした。これによりCrを含有しない場合に比較して耐熱性の優れた溶接材料とすることが可能になるとともに、一部のCrがホウ化物を形成した場合でも耐摩耗性向上に寄与することが期待できる。
Crは、耐熱性を改善する元素として良く知られており、その添加によって高温での変形抵抗を改善する効果を有する元素である。また、Crは、後述するようにホウ化物生成元素でもある。そこで本発明では、Feを主成分とするとともに、さらにCrを28.0%以下含有させることとした。これによりCrを含有しない場合に比較して耐熱性の優れた溶接材料とすることが可能になるとともに、一部のCrがホウ化物を形成した場合でも耐摩耗性向上に寄与することが期待できる。
そして、最も大きなポイントは、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W等の4A族元素、5A族元素、6A族元素のホウ化物を、上記Fe及びCrを含む溶接材料中に分散させたことである。これらのホウ化物は、硬度がHV2000〜3000程度とFe基の合金で達成可能な硬度に比較して著しく硬く、かつ融点も2000℃以上と極めて高いため、熱間鍛造用の型として使用した際に予想される型表面の最高温度である700℃程度では、ほとんど硬度低下せず高い硬さを維持できるため、マトリックス中に適当量分散させることによって、高温耐摩耗性を大きく改善することができることを見出したものである。なお、分散させるホウ化物の中にFeを含めたのは、当然の如くFeを主とする粉末を原料として製造するため、若干量のFeを含むホウ化物の生成が防止できない場合があるからである。
また、前記したホウ化物の中でも本発明では、TiB2を50%以上の量となるよう分散させることを特徴としている。これは、前記ホウ化物の中でもTiB2は硬度が約HV3000と最も高いという特徴を有していること、融点も3000℃を超える極めて高温であるという特徴を有しているため、他の4A族、5A族、6A族元素のホウ化物と比較して耐摩耗性向上効果が優れていることを考慮してこのような選択をしたものである。
以上説明したように、本発明の溶接材料は、Tiホウ化物を主とするホウ化物を分散させたことにより、高温耐摩耗性を改善したことを特徴とするものであるが、熱間鍛造用金型の肉盛材料として、優れた材料であるためには、前記した通り高温耐摩耗性のみが優れているだけでは不十分であり、繰返し連続して衝撃的な荷重が負荷されても割れが生じることのない優れた耐衝撃性と、繰返し高温の被加工材に接触し、温度変化の極めて大きい環境で使用されても割れの生じることのない耐ヒートチェック性の両方が優れていることも必要不可欠となる。本発明者等は、鋭意検討を行った結果、全ての特性を満足させるために使用する原料粉末の成分及びホウ化物の分散条件(ホウ化物の種類、割合、体積率等)を見出し、本発明を完成させたものである。
なお、本発明を実際に適用する際には、あらかじめ分散させるべきホウ化物の種類及び体積率及びその他の添加する各成分の割合等を決定した上で、それに合わせた原料粉末を準備する。原料としては、ホウ化物を製造するための原料とそれ以外の原料に分けられる。
まず、ホウ化物の原料についてであるが、既にホウ化物となっている市販の粉末を用いても良いし、4A族元素、5A族元素、6A族元素を含むフェロアロイ粉末とフェロボロン粉末を混合し、後述の焼結工程や、溶接後の冷却過程の反応によってホウ化物を生成させるようにしても良い。また、ホウ化物以外の原料としては、各元素を含むフェロアロイ粉末や目的とする成分に近い成分からなる粉末(Fe−Crを主体とするのであれば、ステンレス鋼粉末が使用可)、純鉄等の金属粉末等何れを使用しても良い。粉末の粒度は特に限定しないが、溶接時の反応によってホウ化物を生成させる場合においては、粒度が大きい場合、反応が十分でなくなる場合があるので、数μm程度のものを用いることが望ましい。もし、適当な大きさに比べ大粒の粉末を使用する場合においては、ボールミル、振動ミル、アトライタ等の各種粉砕機で所望の粒度まで粉砕、調整して用いることが望ましい。
原料となる粉末が準備できたら、これを1箇所にまとめ、粉末ができるだけ均一となるように良く混合する。この際、混合が十分でなく不均一となっている場合には、溶接後の性能が位置によって不均一となる可能性があるので、注意が必要である。なお、混合方法は特に制約はなく、V型混合機、ボールミル、振動ミル等が利用できる。
粉末が生成できたら、この粉末を使ってすぐに粉体プラズマ溶接等によって金型表面に肉盛溶接しても良いが、粉体プラズマ溶接の場合、金型表面が複雑な形状を有している場合に、部分的に溶接しにくい箇所が生じる場合がある。そのような場合には、線状あるいは棒状の溶接材料(以下、溶接棒と記す。)を製造してから溶接した方が、溶接棒の向きを溶接すべき箇所に自由に調整できるため、効率的に作業可能となる。溶接棒を製造する場合には、上記工程で得られた粉末を焼結し、その後必要に応じて適当な寸法まで圧延、引抜等の加工を行って、狙いとする寸法形状に加工すれば良い。
焼結工程では、雰囲気は、大気中であれば減圧して行ったり、不活性ガス、還元性ガスからなる雰囲気とする等の方法で、焼結中に雰囲気ガスが原料粉末と反応して酸化物が製造することを防止し、万が一酸化物が生成する場合であっても、その生成量が使用上問題となるレベル以下に抑えられるような条件で行うことが必要である。これは、本発明ではTi等酸素と非常に結合しやすい原料を多く含んでいるため、これらの原料が焼結工程中に酸化され酸化物が生成すると、本来目的としている効果が得られなくなってしまうからである。特に本発明ではホウ化物を分散させることにより優れた耐摩耗性を得ることを特徴としているので、ホウ化物となることを狙いとして添加した原料粉末が酸化することのないようにする必要がある。
また、本発明では、焼結した溶接棒をそのまま構造部品として使用することはなく、高強度は全く要求されない。そして、その後の溶接作業に支障がない程度の強度を有していれば良いので、焼結後の溶接棒に高い緻密性は要求されない。従って、勿論加圧しながら焼結することを否定するものではないが、溶接棒が狙いとする寸法形状で製造できれば、加圧を行わない焼結法で製造することも可能である。
また、焼結時の温度は、焼結後に高強度を得ることが要求されないことから、粉末同士が結合し、結合した形状を維持することができるのに十分な温度であれば良く、高強度を得るためのみを目的として、温度を高く設定することは必要ではない。但し、焼結時の反応によって、ホウ化物を生成させようとする場合には、1100〜1300℃程度の高温で0.5〜4時間程度加熱し、加熱中にホウ化物の生成反応が起きるようにする必要がある。
以上の焼結工程によって製造した溶接材料を圧延、鍛伸、引抜き等の方法によって溶接作業がしやすい寸法に加工することにより溶接棒を製造し、それを利用して母型となる型表面に肉盛溶接することにより、型表面に高温での耐摩耗性に優れた肉盛層を生成することができる。また、焼結することなく粉末を利用し、粉体プラズマ溶接等を行った場合であっても、同様に型表面に肉盛層が形成される。
この肉盛層中には、硬度が非常に高く、かつ熱間鍛造中に型表面において到達する最高温度である700℃程度では、ほとんど軟化することのないTiB2を主体とするホウ化物が多量に分散した状態となっている(溶接し、再凝固した際も、本発明で指定した成分範囲内の原料であれば、自動的にTiB2を主とするホウ化物が分散した状態を得ることができる。)ので、高温で厳しい加工である熱間鍛造を繰返し継続して行っても、従来の型材や肉盛溶接材に比較して表面の摩耗を著しく小さく抑えることができるため、型寿命を大幅に改善することができ、型の交換回数も少なくすることができるため、鍛造部品の生産性を向上することができる。
なお、溶接は、焼結材からなる溶接棒を用いた場合には、TIG溶接、アーク溶接等により行うことができる。但し、溶接時には、大気との接触を防止できる条件で行って、前記した焼結時と同様に、酸化物の生成を防止できるようにすることが必要である。
なお、肉盛溶接は、実際の鍛造において特に型への負担が大きく、摩耗が大きくなる部位に限定して行っても良いし、母型は比較的安価な材料を用い、型表面のうち、鍛造時に被加工材と接触する部位全面を肉盛溶接し、全面について耐摩耗性の向上を図るようにしても良い。
また、肉盛溶接の際は、肉盛溶接する母型を300〜500℃程度に予熱後、後熱するまでの間200℃以下に低下しない条件下で溶接し、溶接後も400〜500℃程度で後熱後徐冷することが、溶接後の欠陥生成防止のために重要である。
次に請求項1の肉盛溶接材料の各条件を限定した理由について説明する。
Ti:1.2〜26.0%、B:0.5〜12.0%
本発明では、分散させるホウ化物の50%以上をTiB2としているので、Tiは、TiB2の分散量を確保するための必須元素である。そして、体積率で3%以上のホウ化物を分散させるためには、Tiは少なくとも1.2%以上含有させる必要がある。また、本発明ではホウ化物の分散量の上限を50%(上限の限定理由は後述)としているので、Ti量の上限は、体積率50%とするのに必要な量とすべきであるので、上限を26.0%とした。Bの範囲を0.5〜12.0%とした理由も全く同様である。
Ti:1.2〜26.0%、B:0.5〜12.0%
本発明では、分散させるホウ化物の50%以上をTiB2としているので、Tiは、TiB2の分散量を確保するための必須元素である。そして、体積率で3%以上のホウ化物を分散させるためには、Tiは少なくとも1.2%以上含有させる必要がある。また、本発明ではホウ化物の分散量の上限を50%(上限の限定理由は後述)としているので、Ti量の上限は、体積率50%とするのに必要な量とすべきであるので、上限を26.0%とした。Bの範囲を0.5〜12.0%とした理由も全く同様である。
Cr:28.0%以下
本発明は、高温環境で使用されるため、耐熱性に優れている必要があり、Crは前記した通り本発明にとって不可欠となる耐熱性を改善するために必要となる元素である。従って、本発明では、主とする成分をFe及びCrとすることにより、必要な耐熱性を確保することとした。なお、下限を限定していないのは、実際に要求される耐熱性のレベルが鍛造される部品によって異なるため、要求される耐熱性に合わせて添加量を調整できるようにするためである。但し、1200℃以上の高温に加熱され、高い耐熱性が要求される場合には、最低でも6.0%以上含有させることが望ましい。しかしながら、添加量が多くなると熱間加工性、被削性が低下するので、上限を28.0%とした。
本発明は、高温環境で使用されるため、耐熱性に優れている必要があり、Crは前記した通り本発明にとって不可欠となる耐熱性を改善するために必要となる元素である。従って、本発明では、主とする成分をFe及びCrとすることにより、必要な耐熱性を確保することとした。なお、下限を限定していないのは、実際に要求される耐熱性のレベルが鍛造される部品によって異なるため、要求される耐熱性に合わせて添加量を調整できるようにするためである。但し、1200℃以上の高温に加熱され、高い耐熱性が要求される場合には、最低でも6.0%以上含有させることが望ましい。しかしながら、添加量が多くなると熱間加工性、被削性が低下するので、上限を28.0%とした。
特にCrを多量に添加すると、他成分の含有率によっても影響されるが、室温から1000℃以上の高温までフェライト単相の組織を維持可能となり、熱間鍛造型の表面に肉盛溶接後、実際の鍛造を行うことによって高温環境に晒された場合であっても、型として使用中に溶接材料が相変態することがないため、変態歪により生じる変態応力の発生を心配する必要がなく、格段に耐ヒートチェック性が向上するという大きな利点を有する(請求項4)。なお、高温までフェライト単相の組織を得るには、前記した通りCr量は少なくとも6.0%以上添加し、かつ分散させているTi等のホウ化物を除くマトリックス相部分のみにおけるCr量が少なくとも10%以上となるように添加することが望ましい。従って、Tiホウ化物の分散量が少ない場合には、溶接材料全体に対するマトリックス相の部分の比率が増加するため、確実にフェライト単相の組織を得るためには、その分Crの添加量を多くする必要がある。
以上説明した通り、耐ヒートチェック性を改善するには、室温から熱間鍛造用金型として使用した際に上昇する最高温度まで相変態が起きないことが重要なポイントとなるが、そのための手段としては、前記した通り、組織をフェライト単相とする場合だけでなく、オーステナイト単相とすることによっても達成される。但し、その場合には、Cr等のフェライト生成元素の添加量を少量とし、オーステナイト生成元素を添加するか、あるいは、耐食性をある程度確保したい場合には、Crを必要とする耐食性を得るのに十分な量添加しても、オーステナイト単相が達成できる程度にMn、Ni等のオーステナイト生成元素を多量に添加する必要がある。Mn、Niの添加理由については後述する。
生成させるホウ化物をFe以外では4A族、5A族、6A族元素に限定(Feを含めたのは、前記した通り)したのは、前記した通りこれらの元素のホウ化物が、極めて高い硬度を有し、かつ融点も高いため、熱間鍛造で上昇する温度レベルでは、ほとんど軟化することがなく、耐摩耗性向上に大きな効果を得ることができるからである。本発明は、その中でもTiB2を分散させるホウ化物の主体とし、これを分散させるホウ化物の50%以上としている。これは、前記した通り、TiB2が他のホウ化物に比較して硬度、融点共に高いため、Ti以外の4A族元素、5A族元素、6A族元素のホウ化物を分散させる場合に比較して高温での耐摩耗性向上効果が高いという理由によるものである。
ここで、分散させるホウ化物の体積率を3〜50%としたのは、3%未満では、耐摩耗性向上効果が十分に得られず、本発明の目的を達成することが難しくなるためであり、50%を超えると耐摩耗性については非常に優れた特性が得られるが、熱間加工性が低下して、粉末を焼結して加工する場合には、その加工が難しくなるとともに、被削性、靭性が著しく低下し、肉盛溶接後の表面形状の修正加工が困難になるだけでなく、鍛造中に割れが発生しやすくなり、寿命向上効果が小さくなるためである。
本発明では、主として分散させるホウ化物をTiB2としているが、他のホウ化物もFe基の合金に比較して非常に高い硬度と融点であるという特徴を有している。従って、TiB2以外のホウ化物が混在していたとしても、TiB2が50%以上確保されている限り、優れた高温耐摩耗性を得ることができる。但し、Ti以外のホウ化物生成元素をTiの添加量に比較して多量に含有した場合には、分散させるホウ化物の50%以上をTiB2とすることができなくなるので、Ti、Crを除く4A族元素、5A族元素、6A族元素の合計を10%以下とした。特にその中でもMoを4.0%以下、Vを2.0%以下含有させることが望ましい。以下、その理由を記載する。
Mo:4.0%以下
Moは、固溶強化及び焼入性に効果があり、必要に応じ適量添加できる元素である。しかし、その必要となる量は、実際の使用環境によって変化するため、下限値は特に限定しない。但し、多量に含有させても得られる効果が飽和し、コスト高となるだけであるので、上限を4.0%とすることが望ましい。
Moは、固溶強化及び焼入性に効果があり、必要に応じ適量添加できる元素である。しかし、その必要となる量は、実際の使用環境によって変化するため、下限値は特に限定しない。但し、多量に含有させても得られる効果が飽和し、コスト高となるだけであるので、上限を4.0%とすることが望ましい。
V:2.0%以下
Vは、Tiと同様にCと結合しやすい元素であり、炭化物の析出に伴う析出硬化によって、強度を高める効果のある元素であり、Cuと同様に強度を高めたい場合に添加できる元素である。しかし、多量に含有させても効果が飽和し、コスト高となるので、上限は1.0%とすることが望ましい。
Vは、Tiと同様にCと結合しやすい元素であり、炭化物の析出に伴う析出硬化によって、強度を高める効果のある元素であり、Cuと同様に強度を高めたい場合に添加できる元素である。しかし、多量に含有させても効果が飽和し、コスト高となるので、上限は1.0%とすることが望ましい。
また、本発明の溶接材料では、Cの添加を必須としていない。これは、本発明で主のホウ化物として使用するTiがCと非常に結合しやすい元素であるため、Cが存在すると、本来TiB2として分散させるために添加したTiの一部が、焼結時の加熱時の反応や、肉盛溶接時の凝固過程において、一部のTiがその添加の狙いとは異なってCと結合してTiCとなり、Tiが本来の狙いの目的とした効果を得られにくくなるためである。従って、TiB2の分散による高温耐摩耗性向上効果を優先しようとすると、通常の鋼で行うことが可能なCの固溶強化による強度向上を図ることができない。そこで、そのような場合の強度不足を補う必要がある場合には、質量%で3.5%以下のCuを添加し、析出強化によってマトリックスを強化する(請求項2)。下限を特に指定していないのは、使用環境やマトリックス中のC含有率によって必要なCu量が変化するため、できるだけ自由に変更可能とするためであり、上限を3.5%としたのは、多量に添加すると、強度向上効果が飽和するとともに、熱間加工性が低下するため、原料粉末を焼結した後に加工するのが難しくなるためである。
なお、Cuの析出強化による強度向上効果を十分に得るためには、熱処理が必要となるが、前記したように溶接欠陥を防止するためには肉盛溶接後に400〜500℃程度で後熱を行う必要があるため、それによってCuの析出硬化処理を兼ねることができる。
また、本発明の溶接材料には、以上説明したTi、B、Cr、Cu、Mo、V及びTi、Cr、Mo、Vを除く4A族元素、5A族元素、6A族元素以外の元素の含有を許容しないわけではなく、他に質量%で、C:0.50%以下、Mn:30.0%以下、S:0.100%以下、Ni:20.0%以下及び他の製造上不可避の不純物元素を含有しても良い(請求項3)。なぜなら、本発明では安価な溶接材料の製造を可能にするために、ステンレス鋼粉末等、市販の安価な粉末の利用を許容している。これらの粉末には、C、Mnを含有するのは勿論であるが、P、S、Al、O等も含有しているため、不純物元素の含有を許容しないと安価に製造することが難しくなるためである。また、C、Mn、S、Niが上記上限値の範囲内であって、他の元素が、不純物レベル程度の含有であれば、前記した本発明の効果を大きく損ねることはないことを、実験により確認したものである。以下、C、Mn、S、Niの範囲を限定した理由について説明する。
C:0.50%以下
Cは、前記した通り、Tiと非常に結合しやすいため、その一部がTiCとなって溶接材料中に存在し、本来ホウ化物としてマトリックス相中に分散させるために添加したTiの一部がホウ化物として分散できないことになる。従って、Tiをホウ化物としてより有効に分散させたい場合には、Cはできるだけ低く抑えるのが良く、0.20%以下程度とするのが望ましい。
Cは、前記した通り、Tiと非常に結合しやすいため、その一部がTiCとなって溶接材料中に存在し、本来ホウ化物としてマトリックス相中に分散させるために添加したTiの一部がホウ化物として分散できないことになる。従って、Tiをホウ化物としてより有効に分散させたい場合には、Cはできるだけ低く抑えるのが良く、0.20%以下程度とするのが望ましい。
しかしながら、CはNと同様に侵入型元素として鋼中に固溶して素地の強化に有効な元素であり、前記デメリットを考慮しても、少量のCを添加して固溶強化を図った方が良い場合がある。また、TiCが存在すると、溶接時の凝固過程において、TiB2が細長く六角柱状に成長するのを抑制し、かつTiB2、TiCのそれぞれが同位置に互いに微細に分散したTi炭ホウ化物(EPMAで同じ位置からTi、B、Cの3元素全てが検出される。)を形成し、このTi炭ホウ化物が生成した効果によって被削性が改善される。特に、ホウ化物を分散させた本発明の溶接材料は、ホウ化物の分散量を多くするほど耐摩耗性が改善される一方で、機械加工性については低下する傾向がある。そこで、ホウ化物の分散量を多くする場合には、Cは意図的に添加してTiB2の微細分散を図り、機械加工性を改善しておく必要がある。
但し、Cの添加量を多くすると、TiCの量が増加し、狙いとするTiB2を分散させるために必要なTi量が増加するとともに、耐ヒートチェック性、靭性、熱間加工性が低下するため、上限を0.50%とした。
Mn:30.0%以下
Mnは固溶強化によって肉盛材料の強度向上に寄与する元素であり、必要に応じ適量添加することができる。しかしながら、Mnは強力なオーステナイト形成元素であるため、多量に添加すると、肉盛材料の組織が完全オーステナイト(室温から熱間鍛造用金型として使用中に上昇する最高温度までの全温度範囲内においてオーステナイト単相組織となる。)となり、結果としてCrの限定理由の箇所で記載したフェライト単相組織を得ることが難しくなる。従って、組織をフェライト単相としたい場合には、Mnの多量添加は望ましくなく、上限を2.0%程度に抑制する必要がある。
Mnは固溶強化によって肉盛材料の強度向上に寄与する元素であり、必要に応じ適量添加することができる。しかしながら、Mnは強力なオーステナイト形成元素であるため、多量に添加すると、肉盛材料の組織が完全オーステナイト(室温から熱間鍛造用金型として使用中に上昇する最高温度までの全温度範囲内においてオーステナイト単相組織となる。)となり、結果としてCrの限定理由の箇所で記載したフェライト単相組織を得ることが難しくなる。従って、組織をフェライト単相としたい場合には、Mnの多量添加は望ましくなく、上限を2.0%程度に抑制する必要がある。
但し、前記した通り、ヒートチェック性の改善は、熱間鍛造用金型として使用中の温度変化によって組織変態を生じなくすることが重要であり、この温度範囲をオーステナイト単相とすることによっても達成可能である。従って、組織をオーステナイト単相とすることによって耐ヒートチェック性の改善を図ろうとする場合には、比較的安価な元素であるMnを多量に使用することが、コスト面からも有利である。そこで、請求項5に記載の通り、Mnと後述のNiを多量添加することによって、肉盛溶接後の組織をオーステナイト単相として、耐ヒートチェック性の改善を図ることとした。
しかしながら、Mnは熱間加工性を大きく低下させる元素であるため、準備した粉末を焼結し、かつ必要な加工を行って溶接棒を製造しようとする場合には、極端な多量添加は望ましくなく、8.0%以下程度に抑制するのが望ましい。粉末の状態のままで溶接材料として使用する場合には、そのような問題はないため、8%を超える多量添加も可能である。但し、本発明は、高融点、高硬度のTiB2を分散させることが特徴の発明であり、Mnのみの添加で成立する発明ではないため、上限を30.0%とした。
S:0.100%以下
Sは、被削性向上に効果のある元素であるが、添加量が多くなりすぎると、耐ヒートチェック性、熱間加工性が著しく低下するため、上限を0.100%とした。
Sは、被削性向上に効果のある元素であるが、添加量が多くなりすぎると、耐ヒートチェック性、熱間加工性が著しく低下するため、上限を0.100%とした。
Ni:20.0%以下
Niは、少量の添加によって、靭性及び耐食性向上に効果のある元素である。従って、組織をオーステナイトとしない場合は、特に添加せず不純物としての含有とするか、少量の添加とすることが望ましい場合もある。しかしながら、Niは強力なオーステナイト形成元素であるため、前記した通り、Mnとともに多量に添加することによって、肉盛溶接材料の組織を、室温から高温まで変態の生じないオーステナイト単相の組織とすることが可能であり、耐ヒートチェック性の向上に効果のある元素である。従って、オーステナイト単相の組織を得たい場合には、Mnとともに、ある程度多量に添加する必要がある。但し、NiはMnに比較して高価な元素であるため、その添加は必要最小限とすることが望ましい。必要な添加量はMn、Cr等他元素の添加量によって変化するため、特に限定していない。一方、上限については、Mnの限定理由の箇所で説明したのと同様に、本発明はTiB2等のホウ化物を分散させることにより成立する発明であり、Niのみの添加では成立しないので、上限を20.0%とした。
Niは、少量の添加によって、靭性及び耐食性向上に効果のある元素である。従って、組織をオーステナイトとしない場合は、特に添加せず不純物としての含有とするか、少量の添加とすることが望ましい場合もある。しかしながら、Niは強力なオーステナイト形成元素であるため、前記した通り、Mnとともに多量に添加することによって、肉盛溶接材料の組織を、室温から高温まで変態の生じないオーステナイト単相の組織とすることが可能であり、耐ヒートチェック性の向上に効果のある元素である。従って、オーステナイト単相の組織を得たい場合には、Mnとともに、ある程度多量に添加する必要がある。但し、NiはMnに比較して高価な元素であるため、その添加は必要最小限とすることが望ましい。必要な添加量はMn、Cr等他元素の添加量によって変化するため、特に限定していない。一方、上限については、Mnの限定理由の箇所で説明したのと同様に、本発明はTiB2等のホウ化物を分散させることにより成立する発明であり、Niのみの添加では成立しないので、上限を20.0%とした。
また、その他の元素として、特にSiは、ステンレス鋼粉末等市販の粉末には、必ず少量は含有しており、これらの粉末を使用する限り、少量のSiの含有は避けることができない。特にSiは、多量に含有すると、熱間加工性が低下するという悪影響がある。従って、粉末をそのまま用いて肉盛溶接する場合には、熱間加工性が大きな問題となることはないが、粉末から焼結材を製造してそれを熱間加工して使用する場合には、Si量を2.0%以下とすることが望ましい。なお、Siはマトリックス相の軟化抵抗を向上する効果があるため、肉盛溶接後に金型として使用中の硬度低下を抑制するために、2%以下の範囲内で意図的に添加することも可能である。
次に請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の肉盛溶接材料が、金型表面に肉盛溶接されていることを特徴とする熱間鍛造用金型である。
既に詳細に説明したように、本発明の溶接材料は、硬度、融点が共に非常に高いTiB2を主体とするホウ化物を体積率で3〜50%分散させている。このホウ化物は、極めて高硬度であるため、高温で厳しい加工を行う金型として用いた場合においても、摩耗量を極めて小さいレベルに抑えることができ、寿命の優れた熱間鍛造用金型の提供が可能になる。
次に、本発明により得られる効果を実施例により明らかにする。表1に実施例として用いた供試材の化学成分を示す。このうち、No.1〜9は、本発明で規定した成分範囲及びホウ化物の条件を満足するものであり、No.10〜15は、一部の条件が本発明の条件を満足しない比較例である。また、No.16、17は、従来から肉盛用として用いられていたNi基合金及びステライト系Co基合金であり、No.18は、従来型材であるSKD61である。
以上の溶接材料のうち、ホウ化物を分散させたことを特徴とする溶接材料であるNo. 1〜15については、原料粉末として、市販のステンレス鋼粉末、添加したい元素を含有した各種フェロアロイ粉末、フェロボロン粉末を準備し、それぞれを適当な割合で混合することにより、溶接材料の元となる粉末を準備した。また、表1のうち、TiB2の元となる添加量を多く必要とするNo.2、3、11の溶接材料の製造に際しては、前記原料に加えて市販のTiB2粉末も使用して、原料粉末を準備した。そして、それぞれの供試材となる原料粉末を準備した後、その各粉末が、元素含有率のバラツキ、ホウ化物粉末の割合の不均一といったことがないよう、ほぼ均一となるまでV型混合機を使用して良く混合し、この均一となった粉末を用いて、後述の実験を行った。
また、No.1、3、5、6、11、13〜15の溶接材料については、この得られた粉末をφ15の寸法からなる金型中に投入し、150MPaの圧力を負荷して成形し、得られた成形体を1100℃に加熱し、Tiが焼結処理中に酸素と反応することのないよう真空焼結し、できた焼結材をφ5まで鍛伸して溶接棒を製造し、後述の実験を行った。
また、Ni基合金、Co基合金については、市販の肉盛溶接用の溶接棒を購入することによって、同様の実験を行った。
そしてこれらの溶接棒又は粉末を使用して、No.18合金(SKD61)の板厚40mmの鉄板上に深さ25mm、幅25mmの溝加工したものを準備し、その溝部分に前記した合金をTIG溶接(粉末については粉体プラズマ溶接)によって肉盛溶接し、その肉盛合金の部分を利用して後述の試験を行った。なお、肉盛溶接の際には、溶接欠陥が生じないようにするため、溶接前に400℃×2hrの予熱を行い溶接前後で250℃以下にならないよう保持し、その後500℃×5hrの後熱処理を行った後、徐冷した。この処理により、Cuが添加されているものは、析出硬化により強度を改善できる。
また、従来型材であるNo.18合金は、熱処理済の鉄板(1030℃×30分焼入れ、580℃×90分焼もどし)から切り出して、試験片を作製した。
試験は、耐摩耗性、耐衝撃性(靭性)、耐ヒートチェック性のそれぞれについて行った。また、ホウ化物を分散させたNo.1〜15合金を用い、焼結材を用いた場合については、既に説明した通り、化学成分、ホウ化物の分散状態によっては熱間加工性が問題となる場合があるので、その評価についても行った。以下、それぞれの試験方法について説明する。
耐摩耗性は、前記した供試材から図1に示す形状の試験片を準備し、この試験片を固定した状態で、SCM415(圧延まま材)で作製した外径φ20、内径φ10の円筒型試験片を前記固定試験片に30MPaの圧力を負荷した状態で、所定の回転数(全すべり距離288m)分だけ回転させ、回転終了後に前記固定試験片の回転試験片との間の接触部分の摩耗量を断面積で換算した。この試験を回転試験片の周囲に配置した高周波コイルで回転試験片を700℃に加熱した状態で実施することにより、高温耐摩耗性を評価した。ここで、試験は回転試験片を加熱して行ったが、本発明の肉盛溶接材料からなる固定試験片の表面についてもクロメル−アルメル熱電対にて温度を確認したところ、摩擦表面及びその近傍では、ほぼ同じ温度まで上昇していることが確認された。このような条件で測定した摩耗量を表2に示す。なお、表2に示した値は、従来型材であるNo.18合金(SKD61)の摩耗量を100とした場合の比で示したものである。
次に耐ヒートチェック性の試験は、前記したSKD61に肉盛した部分から直径10mm、中央の加熱部分のみ直径6mmの寸法からなる試験片を準備し、800℃まで4秒間で加熱後4秒間水冷という8秒間の加熱冷却を1サイクルとした試験を3000、4000、5000サイクルまで行うことにより評価し、試験終了まで直径6mmの部分が破断しなかった場合を○、そうでない場合を×として、表2に示した。また、最後まで破断しなかった試験片については、試験終了後に割れの進展状況を調べ、割れの進展が径の1/4以下であるものについては、◎で表2に表示した。
高温靭性についてはJISのUノッチ試験片(深さ2mm)を用いて、700℃の温度で実施して評価した。
熱間加工性については、ホウ化物を分散させた溶接材料のうち、焼結し溶接棒を作製したものについてのみ評価した。具体的には、前記したφ15の成形体(真空焼結品)を使用し、それから平行部寸法がφ8×50mmの試験片を作製し、1100℃まで100秒で昇温し、60秒間温度保持した後に50mm/秒の速度で引っ張って破断させ、破断部の絞り率を測定することにより評価した。また、比較のため、従来型材であるNo.18についても同一形状の試験片を作製して、同様の試験を行った。そして、絞り率が85%以上の場合を◎、75〜85%未満のものを○、70〜75%未満のものを△、70%未満のものを×とし、表2に示した。
表2から明らかなように、比較例であるNo.10〜15の溶接材料は、一部の条件が本発明の条件を満足しないことにより、一部の要求特性が劣るものである。そして、No.10〜12は、ホウ化物の分散に関する条件が、本発明の条件を満足せず、No.13〜15高温強度については特に示していないが、従来型材に比べ明らかに優れているとは言えないものの、使用上問題のない強度を得られることは確認することができた。
具体的には、No.10は、分散させているホウ化物が少ないため、耐摩耗性向上効果が十分でないものであり、No.11は逆にホウ化物の分散量が多すぎるため、耐摩耗性は非常に優れているが、高温靭性、熱間加工性が低下したものであり、No.12は、TiB2の比率が45%と低いため、ホウ化物が同等の体積率からなるNo.1、6〜8に比較して、耐摩耗性が低下したものである。また、No.13は、C含有率が高いため、耐ヒートチェック性、高温靭性が低下するとともに、熱間加工性も劣るものであり、No.14は、S含有率が高いため、耐ヒートチェック性、高温靭性、熱間加工性が共に低下したものであり、No.15はCu量が多いため、高温靭性、熱間加工性が劣るものである。さらに、従来型材であるSKD61は、耐摩耗性、耐ヒートチェック性が共に大幅に劣るものである。
これに対し、本発明の肉盛材料は、従来最も肉盛材料として適した材料であると言われていたNi基、Co基合金と比較して、耐ヒートチェック性については、Ni基合金に比べ優れた特性を示すことが確認され、高温耐摩耗性についてもNi基合金との比較では、少量のホウ化物の分散のみで、より優れた特性を確保することができ、さらに増量することによってNi基合金の耐摩耗性をはるかに上回る特性を示すことが確認でき、Co基合金との比較では、15%程度のホウ化物の分散によって、ほぼ同等の耐摩耗性を確保でき、20%以上のホウ化物を分散させた場合には、Co基合金を上回る耐摩耗性を確保可能であることが確認できた。
さらに、耐ヒートチェック性については、従来型材に比較して明らかに優れた性能を得ることが確認できた。特にCrの多量添加により、高温までマトリックス相がフェライト単相組織又はオーステナイト単相組織となるように成分設計されたNo.1、2、4、5、7〜9については、5000サイクルまで破断しないだけでなく、4000サイクルまで耐ヒートチェック性試験後の亀裂の進展が非常に軽微なものに留まっており、4000サイクルで大きな亀裂が生じて破断が生じた従来型材に比較して大幅に性能を向上できることを確認できた。
また、本発明は、従来型材に比較して、高温靭性については、若干劣る数値となっているものがあるが、極端な差異はなく、使用上問題のない範囲であると考えられる。
さらに、本実施例では同一成分からなる原料から、粉末をそのまま粉体プラズマ溶接により肉盛を行った場合と、粉末を焼結し、その後加工して溶接棒を製造し、TIG溶接にて肉盛溶接を行った場合で比較を行ったが、どちらもほぼ同レベルの耐摩耗性、耐ヒートチェック性、高温靭性の結果が得られることが確認できた。
以上の実験により、主としてFe及びCrを含有し、かつTiB2を主体とするホウ化物を微細分散させた溶接材料が、Ni基、Co基の肉盛溶接材料を用いた場合と比較して、ほぼ同等か、より優れた高温耐摩耗性を得られることが確認できたので、実際に鍛造部品の一つであるフランジヨークの金型に対し、前記表1のNo.1に相当する合金を肉盛溶接して、実鍛造部品を製造し、肉盛した金型の使用後における摩耗状況と割れの発生状況について調査した。その結果、前記実施例とほぼ同様の効果が得られることが確認できた。
以上説明したように、融点、硬度ともに、Fe合金よりはるかに高いという特徴を有する4A族、5A族、6A族元素のホウ化物(TiB2が主体)をFe及びCrを主として含んでいる合金中に微細分散させることによって、Fe合金でありながら、Co基合金よりも優れた高温耐摩耗性を得られ、かつ耐ヒートチェック性、高温靭性についても問題のない特性を得ることが可能になった。本発明は、この合金を肉盛材料として、熱間鍛造用金型に適用することを特徴とし、それにより金型の寿命を大幅に改善することが可能になるという顕著な効果を有しているので、産業上極めて有益なものである。
Claims (6)
- Feを主成分とし、粉末を原料とする肉盛溶接材料であって、肉盛溶接後において、質量%で、Ti:1.2〜26.0%、B:0.5〜12.0%、Cr:28.0%以下とTiとCrを除く4A族元素、5A族元素、6A族元素を合計で10%以下含有し、4A族元素、5A族元素、6A族元素及びFeを含むグループから選択される1種以上の元素を含むホウ化物又は/及びその複合化物が体積率で3〜50%分散されており、分散させた上記ホウ化物又は/及びその複合化物のうち体積率で50%以上がTiB2であることを特徴とする高温耐摩耗性に優れた熱間鍛造金型用肉盛溶接材料。
- 質量%で3.5%以下のCuを含有することを特徴とする請求項1記載の高温耐摩耗性に優れた熱間鍛造金型用肉盛溶接材料。
- 質量%で、C:0.50%以下、Mn:30.0%以下、S:0.100%以下、Ni:20.0%以下及び製造上の不可避不純物を含有することを特徴とする請求項1、2のいずれか1項に記載の高温耐摩耗性に優れた熱間鍛造金型用肉盛溶接材料。
- 質量%で、Cr含有率が6.0〜28.0%であって、室温から鍛造温度域の範囲においてフェライト単相の組織を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高温耐摩耗性に優れた熱間鍛造金型用肉盛溶接材料。
- オーステナイト形成元素であるMn、Niを含有することにより、室温から鍛造温度域の範囲においてオーステナイト単相の組織を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高温耐摩耗性に優れた熱間鍛造金型用肉盛溶接材料。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の肉盛溶接材料が、金型表面に肉盛溶接されていることを特徴とする熱間鍛造用金型。
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