JP2006515415A - イオン移動度分光分析を実施する方法 - Google Patents
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Abstract
異なる条件下で2つの連続する分析を実施し、これら2つの分析の結果を比較することからなるイオン移動度分光分析を用いて、1またはそれ以上の種Si、Sj,...,Snからなる気体の分析を実施するための方法であり、該2つの分析における異なる条件とは、イオン移動度分光分析計の反応ゾーン内またはドリフトゾーン内のいずれかの前記種に対応するイオンの滞留時間、あるいは選択的にこれらのイオンの少なくとも1つの濃度、を修正するというものである。
Description
本発明は、イオン移動度分光分析を実施するための差動法(differential method)、特に、マイクロエレクトロニクス産業で利用されるものといったような非常に純粋な気体の中に含まれる不純物をより多く同時に分析することに関する。
イオン移動度分光分析は、同じく分析技術を実施するための機器を表わす略語IMS(この場合 Ion Mobility Spectromer という用語の略)と共に化学分析の分野では一般的に知られている。
IMS技術の利点は、機器のサイズが小さくコストが低いことと合わせて、感度が極めて高いことにある。適切な条件下で動作させることにより、気体混合物中の気相または蒸気相の種をピコグラム(pg、すなわち10-12グラム)量でまたは1兆分の1量(ppt、試料ガスの分子1012個あたりの分析された物質1分子に等しい)濃度で検出することが可能である。気体混合物の大部分を形成する気体を、今後「キャリヤガス」と呼び、混合物自体を「試料ガス」と呼ぶことにする。
この技術の応用分野は、民生部門(特にクリーンルーム内の無機または有機汚染物質または工業排ガス中の有毒種の業界における検出用)および軍事部門(特に、爆発性または神経ガスなどといった毒性物質の存在の検出用)の両方において数多く存在する。例えば、米国特許第5,457,316号、5,955,886号および6,229,143号において、IMS分析方法および機器が開示されている。
IMS機器の一般的な幾何学構造は、添付図面中に示されている。IMS機器は基本的に、一方の端部には、その周りに入口電極ERおよびイオン化部材IMが配置されている試料ガス用の入口ICを有し、かつ反対側の端部には荷電粒子の検出器Dを有する円筒形チャンバCで構成されている。検出器Dは通常接地電位に保たれ、一方入口電極ERは検出器機器のものよりも高い電位(正のモードで作動する機器)または前記検出器電位よりも低い電位(負のモード)に保たれる。明細書の残りの部分においては、正のモードにおけるIMS機器の使用が常に言及されることになり(分析される種に対応するイオンは正のイオンとして表示することになる)、これは、最も一般的な使用条件に対応しているものの、これらの考慮事項はすべて負のモードでの使用のためにもまた有効である。帯電可能な格子GがチャンバCを、この分野で「反応ゾーン」(機器の入口側で、以下RZと称す)および「ドリフトゾーン」(機器の検出器側で、以下DZと称す)と呼ばれる2つのゾーンに分割する。格子Gは一般に、2つの交互になった直線的かつ並列の導電性部材、一般的にはチャンバCの長手方向軸xに対し垂直に配置されている金属ワイヤを含んでいる。前記検出器に向かってイオンを輸送するのに適した電界を入口電極ERと検出器Dとの間に作り出すため各々適切な電圧に設定された一般的に環状の一連の電極Ei(i=1...n)が、2つのゾーンRZとDZとの間の壁に沿って配置されている。「イメージ電荷」、すなわち検出器D上の静電気により誘導された電荷が検出器Dの上に蓄積されるのを避けるため、最後の電極Enと検出器Dとの間に、スクリーン格子SGが配置される。格子Gのワイヤは、以後格子電極と定義づけられて電極Egの中央キャビティ内に挿入されるが、そのEgからは電気的に絶縁されている。その運動中、イオンは、通常イオン運動の方向に対し逆流する気体によって減速される。この気体は、検出器Dが設置されるチャンバCの終りのダクトDCから導入され、反対側にある出口OCから排出される。この分野では「ドリフトガス」と定義づけられる逆流ガスは、キャリヤガスと同じまたは異なるものであり得る超純粋ガスである。
イオン化部材IMは、一般的には63Niからなるベータ放射線源である。作業モードに従い、入口電極ERの電荷と反対の電荷をもつイオンはその上で中和され、一方この電極と同じ正負記号をもつ電荷を伴うイオンは、反発力を受け反応ゾーン内で加速される。第1のイオン化は、一般に微量元素として存在するその他の種のものよりその濃度が数ケタ高いことに起因して、基本的にキャリヤガスのイオンのみを排他的に生成し、キャリヤガスに対応する一次イオン(primary ion)は、該分野で「反応イオン」と呼ばれる。反応ゾーン内では、反応イオンの電荷は、その電子または陽子親和力、そのイオン化電位またはその電気陰性度に応じて、以下のタイプの反応に従って、存在する種(species)の間で分配される。
なお式中、R+は反応イオン、Rは反応イオンの中和に由来する中性分子(すなわちキャリヤガス分子)、Siは分析すべきi番目の種の分子および、Si +はSiに対応するイオンを表わす。イオンSi +は往々にして、1またはそれ以上の中性分子との会合に起因して複合種を発生させるが、表記を容易にするため、一般性を失うことなく、以後は常に単なるイオンについて言及するものとする。
これらのイオンは全て、帯電可能な格子Gに向かって、輸送される。格子部材は、2つの互いに交番する系列にグループ分けされ、ここに1系列の各部材が、最も近い部材として、もう1系列の2つの部材を有するようになっている。格子の2つの部材系列は通常、それぞれ格子電極Egの電位よりも高いおよび低い電位値でバイアスされる。かくして一般にその点におけるチャンバの長手方向軸に沿った電界に比べて大きい横方向の電界が、格子平面に作り出され、そのため、反応ゾーン内に存在するイオンが、格子を構成する2つの系列のうちの1つの系列の部材に向かって加速され中和されることになる。このような条件下で、格子は「閉鎖され」(closed)、イオンがドリフトゾーンに向かって移行するのを防止する。
分析を実施すべきとき、2系列の格子部材は格子電極と同じ電位にされ、かくして横方向電界を打ち消す。これらの条件で、格子は「開放し」(open)、かくしてイオンはドリフトゾーン内へと前進することができるようになる。この格子開放は、一般に数10〜数100マイクロセカンド持続し、この時間中、反応ゾーン内に存在するイオンの一部分はドリフトゾーンに移送される。特に、格子に隣接する反応ゾーン内の円筒形体積(volume)の中に収納されたイオンが格子を横切り、その高さは、
分析を実施すべきとき、2系列の格子部材は格子電極と同じ電位にされ、かくして横方向電界を打ち消す。これらの条件で、格子は「開放し」(open)、かくしてイオンはドリフトゾーン内へと前進することができるようになる。この格子開放は、一般に数10〜数100マイクロセカンド持続し、この時間中、反応ゾーン内に存在するイオンの一部分はドリフトゾーンに移送される。特に、格子に隣接する反応ゾーン内の円筒形体積(volume)の中に収納されたイオンが格子を横切り、その高さは、
という関係式により決定される。
なお式中、Iaは、円筒形体積の高さであり、viはイオンSi +の運動速度であり、taは格子の開放時間である。格子開放時間帯の初期または中央の瞬間は、一般に「ゼロ時間」すなわち分析の開始とされる。
ドリフトゾーンDZ内では、イオンは、軸方向電界の存在に起因する加速と、ドリフトガスとの衝突に起因する減速との合力である運動速度で、検出器Dに向かって輸送される。特に、i番目のイオンの運動速度は、電界に線形的に左右され、温度Tおよび圧力Pという2つの項がドリフトガスの粘性に対し及ぼす効果に従って、温度Tに正比例し、圧力Pに反比例する。電界に起因する加速は同じ電荷をもつイオンに対して同程度まで作用するものの(ただしIMSでは、全てのイオンは一般に単一の電荷を有する)、減速は、イオンに対してその単なるサイズ、形状および質量に従って異なる形で作用し、そのため各イオンは、その他のイオンのものとは一般に異なる特徴的運動速度ひいてはドリフトゾーンの横断時間(この分野では「ドリフト時間」と定義)を有することになる。検出器D上に収集された電荷を記録することにより、試験の開始から経過した時間の関数として、イオン電流ピークを含むスペクトルが得られる。スペクトル中の各ピークの強度は、ピークをひき起こしたイオンSi +により輸送された電荷CSi +の量に比例する。
単一の種(species)Siを含有する試料ガスが分析される較正試験によって、与えられた気体内でかつ与えられた温度および圧力条件でのイオン種Si +の速度およびドリフト時間ならびにその種についての反応Iの効率といったデータを得ることが可能である。理想的な条件下で、かつ較正試験の同じ条件内で作業して、これらのデータを、スペクトル内のピークの位置に基づいて検査中の気体内の種Siの存在を決定し、また異なるピーク間の相対的サイズに基づいてその濃度を決定するために、IMS分析中で利用することができる。
しかしながら実際の分析においては、上述の理論的条件に影響を及ぼす数多くの現象に起因して、状況ははるかに複雑である。
第1の現象は、較正データが利用できず、かつ下記に示すタイプの反応に基づき、イオンSi +またはイオンR+からそれぞれ電荷を減算することにより、上記の分析に干渉する可能性がある、といったような予想外のおよび未知の種Ui(i=1,...,m)の存在の可能性からなる。
その結果、スペクトル中、イオンSi +に関係するピークおよびイオンR+に関係するピーク(この分野で「反応イオンピーク」としてまたは以下で用いるように略字RIPで定義する)は、理論上の条件の場合よりも低い強度を有するか、またさらには消滅する可能性さえあり、その一方で属性をもち得ないピークが存在することになる。
さらに、反応ゾーン内で形成された種は、すでに反応ゾーンまたはドリフトゾーン内にあるその他の中性種と下記のタイプの反応により反応することができ、
各々、各反応について異なる反応速度および平衡定数に従って異なる度合および異なる速度で進行する。これらの反応は、R+イオンとの直接反応によって当初形成された濃度に対しIMS機器の検出器に到達したイオンの濃度の修正をひき起こし、このため、種に対応するイオンは、完全に消滅し、分析中にそれ以上これを検出することはできなくなる。これらの反応に関与する複雑な電荷移動原理の提示については、CRC pressにより1994年に発行されたG. A, Eiceman およびZ, Karpas編集の「イオン移動度分光分析」という著書を参照することができる。
さらに、例えば従来の分析に由来するO2、CO、H2、H2Oなどといった気体が、化学吸着または物理吸着されて、(チャンバの内壁、電極などといった)機器の内部表面上に存在する可能性がある。代替的には、これらの気体が、機器を構成する材料の中に溶解している可能性もある。例えば一般にチャンバを構成している鋼材は、通常水素を含有している。これらの気体は、反応ゾーンとドリフトゾーンとの両方において放出される。分析中、これらは付加的な種Bi(i=1,...,γ)を形成し、これが、I,IIIまたはIV型の反応に入り込む。反応ゾーン内でこれらの反応が起こった場合、試料ガス中に当初存在する種から電荷が除去され、最終スペクトル内にスプリアスピークが現われる。同じ反応は、それがドリフトゾーン内に発生した場合、代わりにスペクトルの歪をもたらす可能性がある。実際、全て同時にドリフトゾーン内に入り同じ位置(格子)から出発する種Siのイオンとは異なり、これらの種に対応するイオンは、ドリフトゾーンの異なる箇所で形成され、従って、形成箇所にしたがって異なる時点で検出器に到達する。その結果、スペクトルピーク間で、基線(baseline)は理論上そうであるべきであるようにゼロではなく、代わりに非ゼロスペクトル「バックグラウンド」が存在し、これは、ピークの領域の決定を複雑にするかまたはさらに低い強度のピークの場合にはその決定を事実上不可能にさえする可能性がある。種Biの存在はまた、その他の欠点も関与してくる。まず第1に、これらはドリフトゾーン内のIIIまたはIV型の反応によって種Si +と反応することができ、かくして検出器まで種Si +により移送される荷電量の望ましくない減衰およびその結果としての機器の感度の低下がひき起こされる。第2に、ドリフトゾーン内の種R+と種Biの相互反応は、RIPの望ましくない減衰をひき起こす可能性があり、その結果、機器の読取り上限閾値が減少する。
従って、本発明の目的は、IMS分析に係る上述の問題を解消するか、あるいは少なくとも最小限にすることである。
前記目的は、請求項1にその主要な特徴が開示されているが、その他の特徴は残りの請求項中に開示されている方法機器を用いて達成される。
本発明による方法のさらなる利点および特徴は、IMS機器のチャンバの長手方向縦断面を示す添付図を参照して、本発明のいくつかの実施形態についての以下の詳細な記述から(これに制限されないが)、当業者には明白となるであろう。
一般に、原則としてIMSスペクトルを解釈し完全に分析し、これにより分析中の気体内の不純物として存在する種の濃度を得ることができるということが認知されている。しかしながら、かかる解釈は、決定が非常に困難であるいくつかの数値パラメータを知る必要があるために、複雑なものである。特に、IMSスペクトルの完全な解釈を行うためには、I型の反応についての速度定数KR-siの全てならびにIII型およびIV型の副反応(side reaction)の速度定数Ksi-sjおよびKsi-ujが分かっていなくてはならない。各種(species)Siについてのこれらの定数値は、適切な較正手順によって得ることができるが、それにはきわめて長くわずらわしい準備試験セットが必要となる。この問題は一般に、分析中に発生する現象についての仮定、例えばIII型、IV型およびV型のまたは種Biでの副反応のエンティティーを無視できるという仮定、を行うことによって対処される。これにより、計算は単純化されるが、これは、分析結果内に誤差をもたらす近似である。
本発明の方法は、2つの試験内の1つのパラメータを変化させて、IMS機器で2つの連続する分析を実施すること、分析の直接的結果として得られた2つのスペクトルから一連のデータ(以下、「一次データ」(primary data)として定義する)を得ること、そして数学的関係式内に2つの分析の一次データを利用し、これにより各々2つの連続する分析のうちの1つに関する2つの式を得ることからなる。2つの式を比較すること(特に、一方を他方で除すこと)により、計算から従来技術の方法においては一般に無視されている未知の値またはパラメータを計算から削除することが可能である。これにより、従来技術の近似の問題の影響を受けない種Si(i=1,...,n)の少なくとも1つの濃度として表わされた、分析の最終結果を導く計算を実施することが可能となる。当然のことながら、本発明の方法においては、意図的に変化させられたもの以外の全ての実験パラメータが、2つの連続する分析において変化せずにとどまっている。
本発明の方法は、その第1の実施形態において、IMS分光分析計の反応ゾーン内のイオン種Si +の滞留時間(residence time)を修正するような実験条件で、2つのIMS試験を実施することからなる。
その実験行動において、発明者らは、イオンSi +によって検出器D上に輸送された電荷の量CSi +を、以下の式で表すことができるということを見極めた。
なお式中、
[Si]は種Siの濃度であり、
tは、試料ガスおよびドリフトガスの流速、反応ゾーン内の電界の大きさ、ドリフトゾーン内の電界の大きさ、反応ゾーンの長さ、ドリフトゾーンの長さ、といった既知の量から計算可能な反応ゾーンRZ内のイオンSi +の滞留時間であり、代替的には、tをイオンSi +の飛行時間といった測定可能な量から導出することができるものであり、
Δは、イオン化部材IMにより直接生成された電荷量CR,Oと、イオンR+により検出器D上に輸送された電荷CRとの間の差であり、Δは反応イオンにより移送された電荷、従って全ての種Si +(i=1,...,n)、Ui +(i=1,...,m)の合計電荷に等しく、従って、RIPを除く、(基線より下の領域からなる)スペクトル内に存在する全てのピークの下で境界づけられた領域を計算することによって、IMS分析から結果として得られるスペクトルにより得ることができるものであり、
KR-siは、イオンR+から種Siへの電荷移動反応(I型の反応)の速度定数(kinetic constant)であり、
ξは、In(CR,O/CR)に等しく、(基線より下の領域からなる)スペクトル内に存在する全てのピークより下方の領域とRIPのみの領域とを知ることにより、IMS分析の結果として得られたスペクトルから得ることができるものであり、
γは関数、すなわち種Siと全ての種Sj +(j=1,...,n;j≠1)、Uj +(j=1,...,m)との間、および種Si +と全ての種Sj(j=1,...n)、Uj(j=1,...,m)との間の反応定数KSi-SjおよびKSi-Uj(III型、IV型またはV型の反応)を考慮する関数である。γはまた、全ての種Sj(j=1,...,n;j≠i)、Uj(j=1,...,m)の濃度、すなわちSiを除くが例えば種UiおよびBiを含む全ての種の濃度、も考慮している。IMS分析は非常に迅速であり、本発明の差動法を実施するのに必要とされる完全な試験セットを実施するのに秒単位の時間しかかからないことから、これらの濃度は本発明による分析の間一定にとどまるという近似を行うことができる。このような条件下で、この関数は固定値をとる。上記式内に見られる項γt内の指数tは、以上で説明したのと同じ意味をもつ。
[Si]は種Siの濃度であり、
tは、試料ガスおよびドリフトガスの流速、反応ゾーン内の電界の大きさ、ドリフトゾーン内の電界の大きさ、反応ゾーンの長さ、ドリフトゾーンの長さ、といった既知の量から計算可能な反応ゾーンRZ内のイオンSi +の滞留時間であり、代替的には、tをイオンSi +の飛行時間といった測定可能な量から導出することができるものであり、
Δは、イオン化部材IMにより直接生成された電荷量CR,Oと、イオンR+により検出器D上に輸送された電荷CRとの間の差であり、Δは反応イオンにより移送された電荷、従って全ての種Si +(i=1,...,n)、Ui +(i=1,...,m)の合計電荷に等しく、従って、RIPを除く、(基線より下の領域からなる)スペクトル内に存在する全てのピークの下で境界づけられた領域を計算することによって、IMS分析から結果として得られるスペクトルにより得ることができるものであり、
KR-siは、イオンR+から種Siへの電荷移動反応(I型の反応)の速度定数(kinetic constant)であり、
ξは、In(CR,O/CR)に等しく、(基線より下の領域からなる)スペクトル内に存在する全てのピークより下方の領域とRIPのみの領域とを知ることにより、IMS分析の結果として得られたスペクトルから得ることができるものであり、
γは関数、すなわち種Siと全ての種Sj +(j=1,...,n;j≠1)、Uj +(j=1,...,m)との間、および種Si +と全ての種Sj(j=1,...n)、Uj(j=1,...,m)との間の反応定数KSi-SjおよびKSi-Uj(III型、IV型またはV型の反応)を考慮する関数である。γはまた、全ての種Sj(j=1,...,n;j≠i)、Uj(j=1,...,m)の濃度、すなわちSiを除くが例えば種UiおよびBiを含む全ての種の濃度、も考慮している。IMS分析は非常に迅速であり、本発明の差動法を実施するのに必要とされる完全な試験セットを実施するのに秒単位の時間しかかからないことから、これらの濃度は本発明による分析の間一定にとどまるという近似を行うことができる。このような条件下で、この関数は固定値をとる。上記式内に見られる項γt内の指数tは、以上で説明したのと同じ意味をもつ。
式VI中、[Si]は、分析の終りで決定されるべきデータであり、従って、オペレータが意のままに修正できるパラメータではない。項Δ、KR-Si、ξおよびγtは、分析されたシステム内に存在する種の固有化学反応性(intrinsic chemical reactivity)特徴を表わし、従って、これもオペレータが制御できるものではない。反対に、分析をするオペレータは、項CSi +およびtを随意に(ある制限内で)修正でき、従って、これらが、本発明の方法の「制御パラメータ」を表わす。
反応ゾーン内の種Si +の滞留時間tは、複数の実践的方法を通して修正可能である。第1の方法は、2つの試験内で前記ゾーン内の電界の値を変化させることである。同様に、これは、機器全体内かまたは選択的にゾーンRZ内のみで電界を2つの試験において変化させることによっても達成可能である。この第2の可能性は、同時係属イタリア特許出願番号第MI2002A001616号の目的であるIMS機器を用いることによって実現可能である。前記イタリア出願で記述されているように、機器は、そのチャンバ内に印加された電界を制御し、特に該チャンバのx軸に沿った不均一な横断形状をもつ電界を得ることを可能にする。不均一な電界の好ましいタイプは、ゾーンRZおよびDZ内の2つの異なる電界の合計からなるものであり、これら2つの電界を、それぞれERZおよびEDZと称するが、これらは好ましくはそれぞれ均一である。
上記式VIを考慮すると、電界ERZが変化すると、項t、Δおよびξの値も変化するが、一方項[Si](i=1,...,n),[Uj](j=1,...,n)、γおよび速度定数KR-Si、KSi-SjおよびKSi-Ujは変化しない。従って、電界ERZの2つの異なる値で2つの試験を実施することにより、種Si +により検出器上に輸送された電荷について2つの値C1Si +およびC2Si +が得られる。式VIを使用することによって、2つの電荷の値を以下のように表わすことができる。
なお上式中、式VIに対して付加された添字1および2は、異なる電界値で実施された2つの分析を表わしている。式VIIをVIIIで除することにより、不変項が約分され以下の式が得られる。
t1、t2、Δ1、Δ2、ξ1およびξ2および比率C1Si +/C2Si +の値は、2つのスペクトルから得ることができ、これらを用いて、式IXからγの値が得られ、これは、反応定数KSi-SjおよびKSi-Ujを知る必要なしに、[Si]を演繹するために式VIの中で利用可能である。
全く同じ効果(すなわち、RZ内でのイオンSi +の滞留時間の修正)は、また試料ガスの流速FCとドリフトガスの流速FDとの間の比を修正するかまたは反応ゾーンの長さを修正することによっても得ることができる。比FC/FDの修正は、試料ガスおよびドリフトガスを補給するガス管路内の流量を制御することによって容易に行うことができる。これは、ニードル弁、質量流量計、または当業者にとって既知の類似の装置を用いて簡単に行うことができる。この方法を使用する際には、2つの試験において一方だけまたは両方の流速を変化させることが可能である。RZの長さの修正は、例えば、機器の軸に沿った異なる箇所で分光分析計のチャンバ内に2つ(またはそれ以上)の格子を配置することによって、および2つの格子のうちの1つだけを選択的に機能させることによって、すなわち異なる試験において2つの格子のうちの1つのみを交互に「開放する」ことによって、得ることができる。2つの格子を具備したIMS機器は、例えば米国特許第5,200,614号によって知られているが、本発明では、2つの格子の存在は、異なる理由で、すなわち、基本的にゼロの電界をもつ機器内のゾーンを作り出すために、異なる形で使用される。効果はERZを変化させて得られる効果と同じであることから、分析方法もまた同じである。すなわち、種Siの濃度を評価すべく後に式VI内で用いられるγの値を得るために、式VII〜VIIIが利用される。
本発明の差動法の第2の実施形態は、ドリフトゾーン内に印加される電界EDZの異なる値で2つの異なる試験を実施すること、およびこれにより得られた結果を比較することからなる。電界EDZの経時変化によって、機器内部の部分から放出される種BiとイオンSi +との間での、ドリフトゾーン内で起こる二次反応に起因する非理想性を、解決することができる。発明者らは、イオンSi +により検出器Dに移送された電荷(以下CA,Si +と表示する)が、電荷量(CSi +と表示する)に関連づけられており(linked)、ここにその電荷量は以下の関係式によって格子Gの開口部にてドリフトゾーンDZ内に入るイオンSi +に実際連結された電荷量である、ということを発見した。
なお上式中λはある関数、すなわち機器内部の部分を構成する材料が放出する異なる付加的な種Bi(i=1,...,γ)とイオンSi +との間の電荷移動定数KSi-Bj、と、これらの種の濃度[Bi](i=1,...,γ)とを考慮する関数である。2つの試験において異なる電界EDZを用い、異なる時間帯においてその2つの試験を実施することにより、以下の2つの関係式を表わすことができる。
これらの関係式中の記号の意味は、式VIIおよびVIIIにおける記号の意味と類似である。
等式XIをXIIで除することにより、以下の式が結果として得られる。
この式に基づき、スペクトル内の時間t1およびt2を測定し、種Si +に関係するピークの領域からC1A,Si +およびC2A,Si +を得ることによって、λが得られる。一旦λが分かれば、そしてC1A,Si +を測定することによって、上記関係式XからCSi +の正確な値を、ひいては上記関係式VIから試料ガス内の種Siの濃度の値を演繹することができる。
その第3の実施形態において、本発明の方法は、CSi +の値を修正するような実験条件下で、2つのIMS試験を実施することからなる。この場合、試料ガスの完全な分析を実施するために種Siの各々について一対の試験が必要とされるが、第1の試験は全ての試験対に共通にできる。CSi +の値は、試料ガスに対して既知の濃度の種Siを添加することによって修正可能である。これらの条件下で、i番目の種により検出器Dに輸送された電荷量は、2つの試験についてそれぞれ以下の式により表現することができる。
なお上式中、xは第2の試験で追加された種Siの既知の濃度を表わす。
この場合、反応ゾーン内のi番目の種の滞留時間は変化せずにとどまり、したがって、式XIVおよびXV内では、このパラメータに対する添字1および2は存在しない。等式XIVをXVで除することによって以下の式が得られる。
この場合もまた、C1Si +、C2Si +、Δ1、Δ2、ξ1およびξ2の値は、2つの試験についてのスペクトルから得られる。項xが分かっていることから、残る唯一の未知量は[Si]であり、従ってこれは先行する式から容易に得ることができる。
かくして、本発明の方法は、機器チャンバ内で起こる全ての反応および全ての関連する速度定数を知る必要性と、I型の一次反応およびIII、IVまたはV型の二次反応の数に等しい数の式を含む行列を解く必要性とを回避しながら、従来技術のIMSスペクトルの解釈に係る問題を解決することを可能にする。複雑な較正手順を通さなければならないであろうこれらのデータの収集は、きわめてわずらわしい方法となったであろう。さらに、較正を実施してもまた、III型の反応、すなわち予想外のまたは未知の種を用いた現実の分析状態で起こる反応、を考慮することは不可能である。特に、既述した第1および第3の実施形態は、III、IVおよびV型の二次反応の存在に起因する該技術の非理想性の問題を解決できるようにし、一方、既述した第2の実施形態は、機器チャンバ内のBj型の種の存在に起因する非理想性の問題を解決できるようにする。
該方法のあらゆる実施形態において、分析の結果を表わすスペクトルは、好ましくはマイクロプロセッサを用いた適切な既知のプログラマブル制御ユニット、例えば適切なインタフェースを備えたコンピュータにより、自動的に処理される。以上で述べたように種Si(i=1,...,n)の濃度を得るためにオペレータが利用できる値C1Si +、C2Si +、C1A,Si +、C2A,Si +、t1、t2、Δ1、Δ2、ξ1およびξ2は、この自動分析の結果として、一次データとして得られる。好ましい変形形態として、スペクトルを分析して一次データを生成する同じユニットが、式VI〜XVIを処理するためにこれらの同じデータを使用し、直接種Siの濃度の値を導出する。
Claims (10)
- イオン移動度分光分析を用いて1またはそれ以上の種Si(i=1,...,n)からなる気体の分析を実施する方法において、
実験パラメータの第1の値のセットをもって第1の試験を実施する段階と、
前記実験パラメータの第2の値のセットをもって第2の試験を実施する段階であって、ここに、イオンSi +(i=1,...,n)を発生させる種の濃度[Si]、反応ゾーン内の前記イオンの滞留時間、またはイオン移動度分光分析計のドリフトゾーン内での前記イオンの滞留時間、の中から選択された1つのパラメータが、前記第1の値のセットの対応する実験パラメータの値と異なることになるように該試験を実施する段階と、
前記分光分析計の検出器までi番目のイオンによって移送させられる電荷Csi +を試験パラメータの関数として表現する関係式の中で、前記2つの試験において得られたデータを利用し、これにより2つの式を得る段階と、
前記2つの式を相互に除算し、これにより計算から不変パラメータを削除し、その除算の結果として、前記の2つの式の各々の中にその後再導入され得る少なくとも1つのパラメータを得、これにより種Si(i=1,...n)のうちの少なくとも1つ種の濃度[Si]を得る段階と、
からなる方法。 - 前記関係式が、
前記第1の試験を実施し、これにより、前記第1の試験の条件内で、得られたスペクトルから項C1Si +、t1、Δ1およびξ1の値を演繹する段階と、
前記第2の試験を実施し、これにより、前記第2の試験の条件内で、得られたスペクトルから項C2Si +、t2、Δ2およびξ2の値を演繹する段階と、
前記値を用いて
前記式のうちの第1の式を第2の式で除して、
後者の式からγの値を得る段階と、
からなる請求項1に記載の方法。 - 機器の反応ゾーン内の電界ERZを変化させることにより、tを変化させる請求項2に記載の方法。
- 試料ガスFCの流速と逆流ガスFDの流速との間の比を変化させることによりtを変化させる請求項2に記載の方法。
- イオン移動度分光分析計の軸に沿って異なる位置に配置された2つの格子をIMS機器に具備し、前記2つの試験の各々において該2つの格子のうちの1つを選択的に機能させることにより前記反応ゾーンの長さを変化させ、tを変化させる請求項2に記載の方法。
- 前記関係式が、
前記第1の試験を実施し、これにより、前記第1の試験の条件内で、得られたスペクトルから項C1Si +、t1、Δ1およびξ1の値を演繹する段階と、
前記第2の試験を実施し、これにより、前記第2の試験の条件内で、得られたスペクトルから項C2Si +、t2、Δ2およびξ2の値を演繹する段階と、
前記値を用いて
前記式のうちの第1の式を第2の式で除して、
後者の式から種Si(i=1,...n)のうちの少なくとも1つの種についての[Si]の値を得る段階と、
からなる請求項1に記載の方法。 - 前記関係式が、
前記第1の試験を実施し、前記第1の試験の条件内で、得られたスペクトルから項C1A,Si +およびt1の値を演繹する段階と、
前記第2の試験を実施し、前記第2の試験の条件内で、得られたスペクトルから項C2A,Si +およびt2の値を演繹する段階と、
前記値を用いて、
前記等式のうちの第1の式を第2の式で除して、
後者の式からγの値を得る段階と、
かくして得られたCSi +の値を
からなる請求項1に記載の方法。 - 項C1Si +、C2Si +、C1A,Si +、C2A,Si +、t1、t2、Δ1、Δ2、ξ1およびξ2の値が、マイクロプロセッサを備えたプログラマブル制御ユニットにより自動で、前記試験の結果得られたスペクトルから得られる請求項2、6または7のいずれか一項に記載の方法。
- 前記プログラマブル制御ユニットが、種Siの濃度の値を直接提供するために前記値を使用する請求項8に記載の方法。
- 前記プログラマブル制御ユニットは、イオン移動度分光分析計との接続のためのインタフェースを備えたコンピュータである請求項8または9に記載の方法。
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