JP2006290722A - 耐爆裂性に優れたコンクリート - Google Patents

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宜之 三井
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Abstract

【課題】 火薬などの爆発物の爆発から建造物の大規模な破壊を抑制するのみならず、爆発衝撃によるコンクリート破片の飛散を抑制することにより、建造物内部の人的被害を抑制できるコンクリートを提供すること。
【解決手段】 構成物質の一つとして繊維を含有する繊維強化コンクリートであり、該コンクリートの28日養生後の圧縮強度が50N/mm2以上で、かつ曲げ引張強度が6 N/mm2以上であり、圧縮強度/曲げ引張強度の強度比が15以下であることを特徴とする耐爆裂性に優れたコンクリートであり、前記繊維の物性が、引張強度1.9GPa以上、引張弾性率40GPa以上であり、かつ前記繊維のコンクリート中の体積含有率が1m3当たり4.0〜8.0%であることが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、火薬の爆破などによるコンクリート部材の破壊を防ぐことを目的とし、たとえば公共の構造物を狙ったテロ行為による爆破やロケット弾などから、構造物の崩壊を防ぎ、更には内部の人命を救うことを目的とする耐爆裂性に優れたコンクリートを提供するものである。
近年、国家間や宗教、民族間などの対立により、地球上の各地で紛争が起こっている。そして攻撃の一つとして、爆弾など火薬を使用した爆破による構造物の破壊などの手段が取られている。その攻撃は、軍隊にとどまらず民間を対象にしたものも少なくない。爆発物がコンクリート近傍で爆発すると、そのエネルギーにより爆発側の表面とその裏側のコンクリート部が部分的に剥離する。その時に飛び散る破片のスピードは速く、人を損傷しかねない脅威を有している。また、最悪の場合、剥離部の体積が大きいと主筋を拘束する力が失われるので、構造物の破壊にまで及ぶ恐れもある。
今までに提案された耐爆裂性コンクリートまたはモルタルに関する特許を調べてみると、高強度コンクリートが火災などにより水蒸気爆発する問題を解決する方策が多数提案されている。(例えば特許文献1,2,3参照) しかし、これらの提案は火災によりコンクリート内部に存在する水分が水蒸気となり体積が膨張しやがては爆発し構造物が破壊することから防止する手段であって、火薬の爆発から構造物の破壊を防ぐ手法の提案ではなく、実施例にも火薬爆破による性能については明記されていない。
特開2002-193654 特開2002-326857 特開2004-026631
また他の目的では、地震による急激な衝撃に対して、構造物の破壊を防ぐ耐爆裂性能を付与する提案がなされている。(例えば特許文献4,5参照) この提案に対しても、地震による構造物の破壊を防止する手段であって、火薬の爆発から構造物の破壊を防ぐ手法の提案ではなく、実施例にも火薬爆破による性能については明記されていない。
特開2000-192671 特開平11-036516
衝撃、衝突または発射体に対する防護性能に関する提案もなされている。(特許文献6参照)
しかしこの提案の実施例では弾丸を供試体に撃ち込み、その貫通深さを評価しており、火薬の爆発に関する構造物の破壊といった観点での提案ではなく、またその効果も明確に示されていない。
特表平10-512842
コンクリートの火薬爆発に対する耐爆裂性能に関する知財的な提案はされていないが、防衛庁などで様々な実験が実施されており、その結果に関する報告書も多数発表されている。(非特許文献1,2) これらの文献において、コンクリート板厚T(cm)と爆薬の火薬量W(g)、爆破試験後の爆薬設置側の剥離深さCd(cm)、爆薬設置側と裏側の剥離深さSd(cm)の関係式が示されている。
(Cd+Sd)/T<-0.51×{T/(W)^(1/3)}+2.1 (2.1≦T/(W)^(1/3)≦3.6)…(1)
Sd/T=0 (T/(W)^(1/3)≧3.6)…(2)
(Cd+Sd)/T=1.0 (T/(W)^(1/3)<2.1)…(3)
ここで、(2)式は、爆薬設置側と裏側の剥離深さが"0"、すなわち全く損傷がないことを示し、(3)式は、逆に貫通孔ができるような大きな損傷を示す。
構造工学論文集 46A pp1787-1797, 2000 コンクリート工学論文集 第14巻第1号 2003
本発明は、火薬などを使った爆発から構造物の大規模な破壊を抑制し、且つ爆破衝撃によるコンクリート破片の飛散を抑制することにより、構造物内部にいる人の損傷を防げるようなコンクリートに関する提案である。
すなわち、
(1) 構成物質の一つとして繊維が使用されているコンクリートであり、前記コンクリートの28日養生後の圧縮強度が50N/mm2以上であり、且つ、曲げ強度が6.0 N/mm2以上であり、圧縮強度に対する曲げ引張強度の比率が15以下になることを特徴とする耐爆裂性に優れたコンクリート。
(2) 板厚T(cm)のコンクリート板における耐爆裂に関する性能について、板上もしくは近辺に爆薬量W(g)の火薬を設置し爆破した時に、爆破設置側もしくは近接側に生じる剥離部分の剥離深さCd(cm)と爆破設置側もしくは近接側の裏面に生じる剥離部分の剥離深さSd(cm)との関係において、(Cd+Sd)/T<-a×{T/(W)^(1/3)}+b(但しa、bは任意の数)を満足するT/(W)^(1/3)の範囲が、0.5≦T/(W)^(1/3)≦2.5であることを特徴とする耐爆裂性能に優れたコンクリート板。
(3) コンクリートの構成物質として使用される繊維の物性が、引張強度が1.9GPa以上、引張弾性率が40GPa以上であり、その繊維の体積含有率が1m3当たり4.0%以上8.0%以下であることを特徴とする(1)記載の耐爆裂性に優れたコンクリート。
(4) コンクリートの構成物質として使用される繊維の物性が、引張強度が2.5GPa以上、引張弾性率が70GPa以上であり、その繊維の体積含有率が1m3当たり2.0%以上8.0%以下であることを特徴とする(1)記載の耐爆裂性に優れたコンクリート。
(5) コンクリート自体が2層構造になっており、一方が(3)記載のコンクリートであり、他方が(4)記載のコンクリートであることを特徴とする耐爆裂性に優れたコンクリート。
(6) コンクリートの曲げタフネスが25kN・mm以上であることを特徴とする(1)〜(4)に記載の耐爆裂性に優れたコンクリート。
(7) コンクリートに火薬100gを直接接触させ爆破させた時に、剥離深さが元の厚さの1/2以上が残っていることを特徴とする(1)〜(5)記載の耐爆裂性に優れたコンクリート。
(8) 繊維が平均重合分子量100万以上、繊維密度が0.95〜0.98g/cm3の超高分子量ポリエチレン繊維であることを特徴とする(1)〜(6)記載の耐爆裂性に優れたコンクリート。
(9) (1)〜(8)記載の耐爆裂コンクリートからなる構造物。
本発明は、高強度繊維を混入したコンクリートからなる構造物とすることで、火薬を使った爆発に対し、構造物の破壊を抑制する効果がある。詳しく説明すると、構造物近くで爆発物が爆発すると、そのエネルギーで構造物の一部が剥離する。通常爆発側の裏側の剥離の方が大きくなり、構造物内部にいる人を損傷する危険性が高い。そういった危険性を本発明のコンクリートは低減する効果があり、人命の救助や構造物の崩壊を防ぐ部材として利用できる。
コンクリート板の近接で爆薬が爆発した場合、コンクリートの両面に損傷が発生する現象に対し、損傷を受ける程度の大きさは、コンクリート板の厚さと火薬量に依存する。本発明は、従来のコンクリートに対し、損傷を受け難いもしくは損傷の程度が小さいコンクリート板を提案するものである。詳しく説明すると、従来の実験より、コンクリート板厚T(cm)と爆薬の火薬量W(g)、爆破試験後の爆薬設置側の剥離深さCd(cm)、爆薬設置側と裏側の剥離深さSd(cm)の間には、
(Cd+Sd)/T<-0.51×{T/(W)^(1/3)}+2.1
で示される関係式が得られているが、本発明のコンクリート板は、この条件式を満たす板厚と火薬量との関係式が0.5≦T/(W)^(1/3)≦2.5の範囲内にあることである。従来の鉄筋コンクリート板は、2.1≦T/(W)^(1/3)≦3.6の範囲であり、本発明のコンクリートは、従来のコンクリートに比べて、同じ板厚の場合、より多くの火薬量が必要であることを示す。換言すれば、同じ程度の損傷を与えるには、より多くの火薬量を必要とするか、従来の板厚より薄い板厚とすることができる様な、高性能な耐爆裂性能を有する耐爆裂コンクリートを提案するものである。本発明品は、構造物の崩壊を防ぐ部材として利用できたり、構造物の壁の厚さを薄くして重量を軽減できたりする効果が得られる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の特徴は、高強力繊維をコンクリート中に混入し、爆破によるコンクリートの剥離体積を低減できることが判り、本提案にいたった。本発明のコンクリートに必要な性質として、圧縮強度が高く且つ引張強度も高い点が挙げられる。本来コンクリートは圧縮性能に優れるが引張性能は強度、破壊歪みとも、かなり低くなる。
本発明のコンクリートに要求される性能として、28日養生後の圧縮強度が50N/mm2以上であり、且つ、曲げ引張強度が6 N/mm2以上であることが必要である。火薬が爆発した時、火薬が接する部分に過大な圧力が生じると考えられる。この圧力に抵抗し破壊しない程度の強度が必要である。よって本発明に必要とする圧縮強度は少なくとも50N/mm2以上、好ましくは60N/mm2以上である必要がある。また、この圧力はコンクリート内部を通って裏面(火薬を設置した側と反対側)に達すると考えられる。そして裏面では、引張作用が生じると考えられる。よってこの引張力に抵抗し破壊しない程度の強度が必要となり、本発明に必要とする曲げ引張強度が少なくとも6.0 N/mm2以上、好ましくは8.0N/mm2以上であることが必要である。このように火薬の爆発に対して破壊しないコンクリートであるためには、圧縮強度と引張強度の両方が必要であり、そのバランスに優れていることが肝要である。具体的には圧縮強度に対する曲げ引張強度の比率が少なくとも15以下、好ましくは10 以下であることが望ましい。この比率が15を上回ると、火薬の設置面もしくはその裏面の破壊が大きくなり、構造物の崩壊を招くことにつながる可能性が考えられる。
本発明に使用する繊維は、引張強度が1.9GPa以上、引張弾性率が40GPa以上の物性を有することが必要である。コンクリートが剥離するのは、剥離する部分と基材との界面に急激な引張もしくはせん断力発生するものと考えられる。コンクリートは引張強度が非常に低いので、繊維などでその引張に対する抵抗力を増大させる必要がある。この時使用する繊維の引張強度が低ければ、繊維は容易に切断してしまい、コンクリートが剥がれるのを防ぐことができない。よって、引張強度が1.5GPa以上、好ましくは2.5GPa以上の繊維を使用することが不可欠である。また引張弾性率においては、コンクリートの許容限界歪みが極端に小さいのに対し、使用する繊維の弾性率が低ければ、許容限界歪み域内で繊維がコンクリートの変形を抑制する効果が発揮できず、コンクリート構造物の剥離や崩壊を防ぐことはできなくなる。逆に繊維の弾性率が高ければ、繊維がコンクリートの変形を抑制する効果が発揮され、剥離体積が低減できる。故に繊維に必要とされる引張弾性率は40GPa以上、好ましくは70GPa以上である。
また、繊維を混入する体積も、重要な項目の一つである。コンクリート内部に均一に繊維が存在し、且つどの断面にも繊維が存在することが必要である。爆発による剥離を抑制するのに必要な繊維の体積量は、引張強度が1.9GPa以上、引張弾性率が40GPa以上の場合少なくとも1m3当たり4.0%以上必要である。しかし繊維の引張強度が2.5GPa以上、引張弾性率が70GPa以上になると、1m3当たり2.0%でも効果を得ることができる。繊維を混入する上限としては、繊維量を多くし過ぎるとダマや凝集が生じ、作業性が悪くなるなど、混入した分の効果が得られなくなるので、1m3当たり8.0%以下、好ましくは6.0%以下であることが好ましい。
繊維の形状については、特に規定するものではないがコンクリート基材と繊維との付着力が高いことが肝要である。本発明に使用した繊維は、上記に示す高強度繊維の単繊維を複数本束ね、その束を固定する為に熱融着糸を巻付けて、熱処理し繊維を固定したものを使用している。このような形状の繊維を使用することにより、熱融着糸で覆われていない部分から、コンクリートペーストが高強力繊維束内に入り込み、強固な結合力を生み出すことが可能となった。本発明に使用した繊維の高強力繊維の太さは、300dtex以上20000dtex以下であることが好ましい。300dtex以下では繊維の値段が高くなり経済面で問題が生じ、20000dtex以上では熱融着糸を巻付ける際に加工上の問題があると考えられる。また、熱融着糸の太さは、100dtex以上2000dtex以下であることが好ましい。更に高強力繊維に熱融着糸を巻付ける回数は、50回/m以上500回/m以下が好ましい。巻付け回数が50回/m以下になると、高強力繊維束の形状を保持することが困難となり、500回/m以上になると高強力繊維の露出部分が少なくなり、コンクリートとの付着力が得られ難くなる。
特に本特許に有効な線材の形態として、先に示した高強度繊維の単繊維を複数本束ね、その束を固定する為に熱融着糸を巻付けて、熱処理し繊維を固定したものは、既に提案されている。(特許文献7参照) しかし、本発明において線材が粉体との攪拌やコンクリートペースト中での練混において、形態を保持し、且つセメントペーストが線材内に流入し易い様な、高強力繊維束の太さと熱融着糸の太さ及びその巻付け回数の最適値を見出した。具体的に説明すると、高強力繊維と熱融着繊維の繊度比率は、3:1〜5:1であり、巻付け回数は、隣り合う熱融着糸の糸間隔が3mm以上、10mm以下の範囲に入る条件を満たす線材が最適である。高強力繊維と熱融着糸の繊度比率が、3:1より小さくなると、高強力繊維の含有率が少なくなり補強効果が低減する。また5:1より大きくなると、熱融着糸が練混中に骨材と擦れ、熱融着糸が切断され線材の形状が保持できなくなる可能性がある。また、巻付け回数においては、細骨材やセメント、高炉スラグ微粉末など粒径の小さい材料が、熱融着糸の糸間を通り抜け、高強力繊維束内に入り込める程度の糸間隔が必要である。隣り合う熱融着糸の糸間隔が3mm未満になると、細骨材が高強力繊維束内に入り込み難くなり、10mmを超えると線材の形状保持が困難となり、好ましくない。
繊維の断面積については、10,000μm2以上、好ましくは50,000μm2以上であることが好ましい。10,000μm2未満になると、練り混ぜ中に繊維がファイバーボール状になる危険性が高くなり、こうなると繊維の効果は殆ど発揮できなくなるばかりか、作業性にも悪影響を与えると考えられる。また上限は1cm2以下が好ましい、1cm2以上になると、繊維の存在が局所的になる為、安定した性能が得られ難くなると考えられる。そして長さについては、最大骨材径の1.0〜3.0倍の長さのものを用いることが好ましい。
コンクリート近傍で爆発があった場合、爆発のあった表面の剥離体積に対し、その裏側の剥離体積の方が大きくなる傾向が高い。よって、構造物を2層構造とし、外側の爆発に接する面に使用するコンクリート部材よりも裏面に使用するコンクリート部材の方が曲げ強度の高いコンクリートを使用する方法が挙げられる。これは、先にも述べたように裏面の剥離体積の方が大きくなることを考慮しており、また内部にいる人命を護る効果も兼ね備えている。2層構造の製造方法としては、1層目のコンクリートペーストを流し込んだ後、直ぐに2層目のコンクリートペーストを流し込み、一体として養生する方法や、1層目が半硬化状態の時に2層目を流し込み、養生する方法などが挙げられる。
このような耐爆裂性に優れたコンクリートの性能を具体的に説明すると、本発明により作製された構造物の表面に100gの火薬を直接接触するように設置し爆破させた場合、剥離されるコンクリートの深さが、元にあった構造物の厚さの1/2以下に抑えるような特性を示す。また、剥離する面積についても、火薬設置面側で径が150mm以下、その裏面側では100mm以下であり、剥離体積については、火薬設置面側では150cm3以下、その裏面側では300cm3以下であることが好ましい。
耐爆設計では、構造物の壁厚(板厚)方向の損傷を評価することが重要であり、接触爆発を受ける鉄筋コンクリート板の損傷に関する研究結の結果、実用的な損傷寸法の算出式は、参考文献1や2に示されている(1)式から(3)式のいずれかで示される。今回の発明は、(2)式が成立するT/(W)^(1/3)の範囲が、1.0以上2.5以下である。これは、従来のコンクリートで得られている2.1以上3.6以下に比べて、板厚Tを一定とすると、薬量Wが大きな値で(2)式が成立することを示しており、またWを一定とすると、Tが小さい値で(2)式が成立することを示している。よって、同じ板厚なら本発明のコンクリートの方が、貫通に必要な火薬量が増大することを示し、また、同じ火薬量なら薄い板厚で同等の性能を保持できることを示しており、本発明品が耐爆性能に優れていることを示している。このような違いは、後に示す実施例と比較例から導き出されたものである。
コンクリートに使用するセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸ポルトランドセメントなど使用することができるが、上記セメントに限定されず、様々なセメントを使用することが可能である。また、コンクリートペーストの流動性を高め、コンクリート強度を得る為、フライアッシュやシリカ、高炉スラグ微粉末などを使用することも可能である。
剥離体積を小さくする為、繊維の混入量を多くした方が好ましいが、コンクリートペーストの流動性が低下する問題がある。ペーストの流動性を確保する為、AE減水剤などを添加することも可能である。
本発明に使用される繊維の種類としては、上記引張強度と引張弾性率の値を満たせば、種類は問わない。この値を満たす繊維としては、有機繊維では、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ビニロン繊維、無機繊維ではカーボン繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、金属繊維ではスチール繊維、ステンレス繊維などが挙げられる。その中で最も適しているのは、超高分子量ポリエチレン繊維である。この繊維は、アルカリ中でも安定であり、錆などの腐食もなく、強度や弾性率の値も高く、比重が小さいので軽量な構造物にすることができる。しかし、耐熱性は低いので、構造物を高圧釜にて高温で養生する場合などは、PBO繊維やアラミド繊維など耐熱性に優れた繊維を使用することが好ましい。
本発明に使用されるコンクリートの特徴として、曲げタフネスが25kN・mm以上、好ましくは40N・mmであることが望ましい。コンクリート構造物が爆破した場合、火薬のある面よりも、その後面部分の剥離体積の方が大きい。剥離の大きい後面では、曲げや引張の作用が生じていると予想される。よって、剥離体積を小さくするには、曲げ耐力が高く、また破壊後の靭性が大きい方が、大変形に追随する能力が高くなるので、剥離体積も小さくできると考えられる。
本発明のコンクリート構造物を製造する方法は、特に限定する必要はなく、生コンをミキサー車で現場に運搬し、現場でミキサー車に繊維を混入し、数分攪拌した後に打設しても良いし、二次製品として工場で作製したコンクリートを現場で組み上げても良い。
本発明が使用されるコンクリート構造物としては、マンションやビルなどの構造物、倉庫などのコンテナ状のもの、道路や滑走路、港湾の岸壁や防波堤、一般に製造される二次製品などが挙げられるが、特に限定するものではなく、テロなど火薬爆破による脅威が想定されるような構造物に使用することができる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(有機繊維の物性測定について)
強度、弾性率についてはマルチフィラメント状の有機繊維を、(株)オリエンテック製5tテンシロンを使用し、引張強度と引張弾性率を求めた。また、樹脂加工後のチップの引張強度と引張弾性率についても、(株)オリエンテック製5tテンシロンを使用して求めた。
(供試体の作製について)
供試体の配合については、表1に示す通り、普通のポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末、骨材を入れ空練30秒、水を加え90秒、更に繊維を加え3分間練混ぜしコンクリート供試体を作製した。供試体のサイズは、縦、横とも60cm、厚さが10cmとし、その中に縦横に異形鉄筋SD295A(D10)を12cm間隔で5本を厚さ方向に5cmのところに配置した。(図1に示す) 養生については、打設後14日間は湿布養生を行い、その後14日間は気中養生を行った。
(爆破試験について)
火薬などの爆発により、構造物は爆発荷重を受けるが、この爆発荷重を受ける構造物の局所的損傷を考えた場合、爆発源は大きく分けて3つに分類される。すなわち、構造物のごく至近距離で爆発する場合(近接爆発)、構造物表面で爆発する場合(接触爆発)および構造部材内部で爆発する場合である。これらの中で、接触爆発は構造物の損傷評価を行う上で他の場合の基準として用いられる。爆破作業の手順は、供試体上の中心に100g〜300gの火薬を設置し、供試体は2種類の角材を用い、地面から14.5cmの高さに固定し(図2に示す)、爆破を行った。この時使用した火薬は、ペンスリット(PETN)65%、パラフィン系35%から成るSEPを使用した。この火薬の物性は、密度は1.3g/cm3、爆速6900m/secであった。爆破後に剥離した部分の評価については、径と深さと体積の3項目とした。径については、供試体に対し、縦方向と横方向、両バイアス方向の4方向で径を計測し、その平均値を平均径として表した。深さについては、最深部をノギスで、計測した。剥離体積は、剥離した痕跡に水を流し込み、流し込まれた体積を調べた。なお、火薬を設置した側の剥離体積部分を「クレータ」と称し、その裏側の剥離体積部分を「スポール」と称した。これらの結果を表2にまとめた。
(圧縮試験、曲げ試験について)
爆破試験を実施した同じ配合で、スランプ試験、圧縮試験、曲げ試験を実施した。スランプ試験は、JISA1101に基づき試験を実施した。圧縮強度試験はφ100mm×200mmの円柱供試体を作成し、JISA1108に基づき実施した。曲げ試験は、断面が10×10cm長さが40cmの角柱供試体をスパン30cmの中央3点曲げ試験を実施した。曲げタフネスについては、原点からスパンの1/150までの変位量の間の面積を曲げタフネスとして求めた。これらの結果を表2にまとめた。
繊維の混入量や繊維の種類などを変えて、コンクリートの圧縮強度と曲げ強度、曲げタフネスの違う供試体を作製した。コンクリートの各物性とコンクリート剥離部分の大きさとの関係について実施例1〜6、比較例1〜5に示す爆破実験を行った。
(実施例1)
高分子量ポリエチレン繊維(商品名ダイニーマ;東洋紡績社製)2640dtexにPP/PEの熱融着糸(商品名パイレン;三菱化学社製)760dtexを230t/mでカバリングし、その後120℃の条件で熱セットしてヤーンを得た。ヤーンの引張強度は1.9GPa、引張弾性率が43GPaであった。そのヤーンを3cmにカットした。繊維混入率2.0vol%にして、表1に示す配合で供試体を作成した。爆破に使用した火薬量は100gとし、爆破試験を実施した。
(実施例2)
超高分子量ポリエチレン繊維(商品名ダイニーマ;東洋紡績社製)1320dtexにエポキシ樹脂を含浸硬化し、ヤーンを得た。更にヤーンにエンボス加工を行い凹凸を付けた。ヤーンの引張強度は2.3GPa、引張弾性率が48GPaであった。樹脂付着量は120wt%であった。そのヤーンを3cmにカットした。繊維混入率4.0vol%にして、表1に示す配合で供試体を作成した。爆破に使用した火薬量は100gとし、爆破試験を実施した。
(実施例3)
PBO繊維(商品名ザイロン;東洋紡績社製)1110dtexにPP/PEの熱融着糸(商品名パイレン;三菱化学社製)760dtexを150t/mでカバリングし、その後120℃の条件で熱セットしてヤーンを得た。ヤーンの引張強度は2.6GPa、引張弾性率が85GPaであった。そのヤーンを3cmにカットした。繊維混入率2.0vol%にして、表1に示す配合で供試体を作成した。爆破に使用した火薬量は100gとし、爆破試験を実施した。
(実施例4)
実施例1と同じ配合のコンクリートペーストを50mm厚に打設し、直ぐに実施例3と同じ配合のコンクリートペーストを、その上から厚さ50mmで打設し、表1に示す配合で供試体を作成した。火薬は実施例1側に設置し、爆破試験を行った。爆破に使用した火薬量は100gとし、爆破試験を実施した。
(実施例5)
実施例1で得られたカット糸を用い、繊維混入率4.0vol%にして、表1に示す配合で供試体を作成した。爆破に使用した火薬量は100gとし、爆破試験を実施した。
(実施例6)
高分子量ポリエチレン繊維(商品名ダイニーマ;東洋紡績社製)1320dtexにPP/PEの熱融着糸(商品名パイレン;三菱化学社製)190dtexを150t/mでカバリングし、その後120℃の条件で熱セットしてヤーンを得た。ヤーンの引張強度は2.0GPa、引張弾性率が46GPaであった。そのヤーンを3cmにカットした。繊維混入率6.0vol%にして、表1に示す配合で供試体を作成した。爆破に使用した火薬量は100gとし、爆破試験を実施した。
(比較例1)
繊維を混入しない普通コンクリート(呼び強度30N/mm2、指定スランプ18cm)で表1に示す配合で供試体を作成した。爆破に使用した火薬量は100gとし、爆破試験を実施した。
(比較例2)
実施例1で使用した3cmのカット糸を、繊維混入率1.0vol%にして、表1に示す配合で供試体を作成した。爆破に使用した火薬量は100gとし、爆破試験を実施した。
(比較例3)
実施例2で使用した3cmのカット糸を、繊維混入率1.0vol%にして、表1に示す配合で供試体を作成した。爆破に使用した火薬量は100gとし、爆破試験を実施した。
(比較例4)
ポリビニルアルコール繊維(繊維径0.15mm、長さ30mm)の繊維を、2.0vol%添加して表1に示す配合で供試体を作成した。この繊維の物性は、カタログ値で引張強度が1.8GPa、引張弾性率が44GPaであった。爆破に使用した火薬量は100gとし、爆破試験を実施した。
(比較例5)
ネット状のポリプロピレン繊維(長さ55mm)の繊維を、1.5vol%添加して表1に示す配合で供試体を作成した。この繊維の物性は、カタログ値で引張強度が0.6GPa、引張弾性率が3.5GPaであった。爆破に使用した火薬量は100gとし、爆破試験を実施した。
実施例1〜6、比較例1〜5の評価結果を表2に示す。
次に、繊維混入量と火薬量を変えて、火薬量とコンクリートの剥離深さとの関係について実施例7〜12、比較例6,7に示す爆破実験を行った。
(実施例7)
実施例1に示す繊維を使用し、繊維混入率3.0vol%にして、表1に示す配合でコンクリートペーストを得た。規定の型枠に流し込み28日間養生し供試体を作製した。爆破に使用した火薬量は100gとし、爆破試験を実施した。
(実施例8)
実施例1で使用した繊維を、繊維混入率3.0vol%にして、表1に示す配合でコンクリートペーストを得た。規定の型枠に流し込み28日間養生し供試体を作製した。爆破に使用した火薬量は200gとし、爆破試験を実施した。
(実施例9)
実施例1で使用した繊維を、繊維混入率4.0vol%にして、表1に示す配合でコンクリートペーストを得た。規定の型枠に流し込み28日間養生し供試体を作製した。爆破に使用した火薬量は200gとし、爆破試験を実施した。
(実施例10)
実施例1で使用した繊維を、繊維混入率4.0vol%にして、表1に示す配合でコンクリートペーストを得た。規定の型枠に流し込み28日間養生し供試体を作製した。爆破に使用した火薬量は300gとし、爆破試験を実施した。
(実施例11)
実施例3で使用した繊維を使用し、繊維混入率2.0vol%にして、表1に示す配合でコンクリートペーストを得た。規定の型枠に流し込み28日間養生し供試体を作製した。爆破に使用した火薬量は200gとし、爆破試験を実施した。
(実施例12)
実施例3で使用した繊維を使用し、繊維混入率2.0vol%にして、表1に示す配合でコンクリートペーストを得た。規定の型枠に流し込み28日間養生し供試体を作製した。爆破に使用した火薬量は300gとし、爆破試験を実施した。
(比較例6)
比較例1のコンクリートを用い、爆破に使用した火薬量は200gとし、爆破試験を実施した。
実施例7〜12、比較例6の評価結果を表3に示す。
防衛庁などで様々な実験が実施され導き出された爆破されたコンクリートから剥離したコンクリート剥離深さと火薬量との関係式に対し、今回実施例と比較例で得られた結果を同じグラフ上にプロットしたものを図4に示す。
実施例1〜6、比較例1〜5により明らかな様に、本発明のコンクリートは、曲げ強度、曲げタフネスが高く、更に耐爆裂性能においても、火薬の爆発に対し剥離体積を小さくでき、特に裏面の剥離体積が小さくする効果があることがわかった。特に実施例5、6といった繊維を多く混入した供試体については、スポール側の剥離はなく、供試体の中心からひびが複数本放射線状に入るだけであった。
実施例7〜12、比較例6,7そして、図4より明らかな様に本発明のコンクリートは、{T/(W)^(1/3)}の取る範囲が、0.5から2.5の範囲内で、(Cd+Sd)/T<-a×{T/(W)^(1/3)}+b(但しaは0を除く任意の数、bは任意の数)を満たしており、繊維を混入しないコンクリートに比べて、耐爆性能が向上していることが明確である。
本発明は、テロなど火薬を用いてコンクリート構造物などを爆破するといった仕業に対し、剥離体積を小さく抑える効果があり、このことにより、コンクリート構造物の崩壊を防ぐとともに、構造物内部にいる人間の損傷を最小限に抑える効果がある。
供試体の寸法を示す図 爆破試験の状態を示す図 爆破試験後の供試体とクレータ、スポールの各寸法の図 コンクリート剥離深さと火薬量との関係式

Claims (9)

  1. 構成物質の一つとして繊維が使用されているコンクリートであり、前記コンクリートの28日養生後の圧縮強度が50N/mm2以上であり、且つ、曲げ強度が6 N/mm2以上であり、圧縮強度に対する曲げ強度の比率が15以下になることを特徴とする耐爆裂性に優れたコンクリート。
  2. 板厚T(cm)のコンクリート板における耐爆裂に関する性能について、板上もしくは近辺に爆薬量W(g)の火薬を設置し爆破した時に、爆破設置側もしくは近接側に生じる剥離部分の剥離深さCd(cm)と爆破設置側もしくは近接側の裏面に生じる剥離部分の剥離深さSd(cm)との関係において、(Cd+Sd)/T<-a×{T/(W)^(1/3)}+b(但しaは0を除く任意の数、bは任意の数)を満足するT/(W)^(1/3)の範囲が、0.5≦T/(W)^(1/3)≦2.5であることを特徴とする耐爆裂性能に優れたコンクリート板。
  3. コンクリートの構成物質として使用される繊維の物性が、引張強度が1.9GPa以上、引張弾性率が40GPa以上であり、その繊維の体積含有率が1m3当たり3.0%以上8.0%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の耐爆裂性に優れたコンクリート。
  4. コンクリートの構成物質として使用される繊維の物性が、引張強度が2.5GPa以上、引張弾性率が70GPa以上であり、その繊維の体積含有率が1m3当たり2.0%以上8.0%以下であることを特徴とする請求項1〜3記載の耐爆裂性に優れたコンクリート。
  5. コンクリート自体が2層構造になっており、一方が請求項3記載のコンクリートであり、他方が請求項4記載のコンクリートであることを特徴とする耐爆裂性に優れたコンクリート。
  6. コンクリートの曲げタフネスが25kN・mm以上であることを特徴とする請求項1〜5に記載の耐爆裂性に優れたコンクリート。
  7. コンクリートに火薬100gを直接接触させ爆破させた時に、剥離深さが元の厚さの1/2以上が残っていることを特徴とする請求項1〜6記載の耐爆裂性に優れたコンクリート。
  8. 繊維が平均重合分子量100万以上、繊維密度が0.95〜0.98g/cm3の超高分子量ポリエチレン繊維であることを特徴とする請求項1〜7記載の耐爆裂性に優れたコンクリート。
  9. 請求項1〜8記載の耐爆裂コンクリートからなる構造物。
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