JP2006275566A - アトピー性皮膚炎に対する免疫抑制剤の治療の有効性及びアトピー性皮膚炎の重症度の判定方法 - Google Patents

アトピー性皮膚炎に対する免疫抑制剤の治療の有効性及びアトピー性皮膚炎の重症度の判定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 アトピー性皮膚炎治療における免疫抑制剤の有効性を簡便に判定することができる方法、及びアトピー性皮膚炎治療における免疫抑制剤の有効性及びアトピー性皮膚炎の重症度を簡便に判定することができる方法を提供することを提供すること。
【解決手段】 アトピー性皮膚炎に対する免疫抑制剤の治療の有効性を判定する方法は、ヒトから採取した体液中の抗スーパー抗原抗体を測定することを含む。アトピー性皮膚炎に対する免疫抑制剤の治療の有効性及びアトピー性皮膚炎の重症度を判定する方法は、ヒトから採取した体液中の抗スーパー抗原抗体を測定することを含む。
【選択図】 図2

Description

本発明は、アトピー性皮膚炎に対する免疫抑制剤の治療の有効性及びアトピー性皮膚炎の重症度の判定方法に関する。
アトピー性皮膚炎(以下、「AD」と略すことがある)は、憎悪・寛解を繰り返す、掻痒のある湿疹を主病変とする疾患である。
ADの重症度を診断する方法として、SCORAD(SCORing Atopic Dermatitis)、EASI(Eczema Area and Severity Index)、SASSAD(Six Area、Six Sign Atopic Dermatitis)、TIS score(Three- Item Severity score)といった、クリニカルスコアを算出する方法がある。また、好酸球カチオン蛋白、循環好塩基球、主要塩基性タンパク質、可溶性E- selectin、抗SEB-IgE抗体価、マクロファージ由来のケモカインといったパラメーターとクリニカルスコアが相関していることが報告されており、これらを測定することによりADの重症度を診断することができる。
AD患者は、種々の抗原に対して特異IgE抗体を産生することが知られている。その陽性率は報告により著しく異なっている。このことは、用いた抗原が黄色ブドウ球菌の全菌体成分か、精製細胞壁抗原か、菌培養上清かによって、また、用いた菌株がprotein A産生性か否かによって、あるいは対象とした患者の血清総IgE値によっても陽性率が影響を受けるためである(非特許文献1)。そのためADにおける黄色ブドウ球菌特異IgE抗体の意義については一定の結論が得られていなかった。
一方、近年黄色ブドウ球菌の産生する外毒素であるスーパー抗原に対するAD患者の特異IgE抗体の存在について、Leung (非特許文献2)やTada(非特許文献3)らの報告がある。AD患者から検出される黄色ブドウ球菌の多くがスーパー抗原を産生し、それらの患者ではStaphylococcal enterotoxin A(SEA)、Staphylococcal enterotoxin B (SEB)、あるいはToxic Shock Syndrome Toxin-1 (TSST-1)に対する特異IgE抗体を高率に保有することは知られており、Leungらは57%の患者で、Tadaらは70〜80%の患者にSEAあるいはSEBのいずれか1つ以上に対する特異IgE抗体の存在を報告している。また重症度別では、Hirano(非特許文献4)らはSEA、SEB特異抗体価はADの重症度や活動性に相関することを、Myung(非特許文献5)らも皮疹の中等症、重症の患者では、SEB特異抗体価が高いことを報告している。また、Yoshino(非特許文献6)らはSEBに対する刺激指数(Stimulation Index)が重症度と関連していると報告している。しかし、TSST-1に対する抗体価と重症度との関連の報告は未だない。
黄色ブドウ球菌が産生するスーパー抗原とADに関する数多くの報告から、黄色ブドウ球菌がADの病因といえないまでも増悪因子あるいは遷延化因子になっている可能性が高い。SEA、SEB抗体価の測定はADの増悪因子としての黄色ブドウ球菌に対して、どのような患者のどのような病期や症状において対策を講じるのが望ましいのか、治療を考える上での判断材料として有用と考えられている。
Hiranoらは、SEA、SEBに対する特異IgE抗体価が重症度と相関し、症状に平行して連動すると報告しているが、AD患者の抗スーパー抗原に対する特異IgE抗体価を測定することによって、実際の薬物の治療効果および重症度を判定する方法はこれまでには開発されていない。
一方、ADの治療薬としては、古くからステロイド剤が用いられているが、近年、タクロリムスのような非ステロイド系免疫抑制剤も用いられている。一般に、治療薬は、患者の体質等により、効く症例と効かない症例があるものが多いが、AD治療における免疫抑制剤も効く症例と効かない症例がある。もし、免疫抑制剤による治療の有効性が事前に判定できれば、免疫抑制剤が無効な患者に対しては、免疫抑制剤以外の治療薬をより早期に処方することができ、免疫抑制剤による無用の副作用をもたらすこともなく、高価な免疫抑制剤を投与して無用の出費を強いることもない。
免疫抑制剤の有効性を判定する方法としては、リンパ球幼若化抑制試験が知られている。この方法は、免疫抑制剤の標的細胞であるヒト末梢血リンパ球を用いて、免疫抑制剤に対する感受性を調べる試験法であり、この試験法により測定された感受性と、該免疫抑制剤の治療成績とが相関しているとの報告は数多くある。
これまでADにおいて免疫抑制剤の有効性を判定する方法は知られていなかったが、今回、ADにおいても、この試験法を用いて免疫抑制剤の有効性の判定ができることを見出した。さらに、このリンパ球幼若化抑制試験よりも簡便で短時間で判定できるADにおける免疫抑制剤の有効性の判定方法をも見出したものである。
Abeck D, Ruzicka T: Bacteria and atopic eczema: merely association or etiologic factor? Handbook of atopic eczema (Ruzicka T, Ring J Przybilla B Ed) Springer-Verlag,Berlin, 1991;212-220 Leung DYM, Harbeck R, Bina P et al: Presence of IgE antibodies to staphylococcal exotoxins on the skin of patients with atopic dermatitis. J Clin Invest, 1993; 92:1374-1380. Tada J, Toi Y, Akiyama H, Arata J, Kato H: Presence of specific IgE antibodies to staphylococcal enterotoxins in patients with atopic dermatitis. Eur J Dermatol, 1996; 6:552-554. 平野眞也、加藤佳子、末廣晃宏、加藤則人、安野洋一: アトピー性皮膚炎患者におけるstaphylococcal enterotoxin特異的IgE抗体について、日皮アレルギー誌、1995.3.30 Myung Hyun Sohn, Cheol Hong, Kyung Kim, Gwang Cheon Jang, Kyu-Earn Kim: Effect of staphylococcal enterotoxin B on specific antibody production in children with atopic dermatitis. Allergy and Asthma Proc, 2003; 24:67-71 Yoshino T, Asada H, Sano S, Nakamura T, Itami S, Tamura M, Yoshikawa K: Impaired responses of peripheral blood mononuclear cells to staphylococcal superantigen in patients with severe atopic dermatitis: a role of T cell apoptosis. J Invest Dermatol, 2000;114(2)281-288
本発明の目的は、AD治療における免疫抑制剤の有効性を簡便に判定することができる方法を提供することである。また、本発明の目的は、AD治療における免疫抑制剤の有効性及びADの重症度を簡便に判定することができる方法を提供することである。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、AD患者の体液中の、抗スーパー抗原抗体の抗体価を測定することにより、免疫抑制剤による治療の有効性を判定することができ、また、ADの重症度も判定することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、ヒトから採取した体液中の抗スーパー抗原抗体を測定することを含む、アトピー性皮膚炎に対する免疫抑制剤の治療の有効性を判定する方法を提供する。また、本発明は、ヒトから採取した体液中の抗スーパー抗原抗体を測定することを含む、アトピー性皮膚炎に対する免疫抑制剤の治療の有効性及びアトピー性皮膚炎の重症度を判定する方法を提供する。
本発明により、AD治療における免疫抑制剤の有効性及びADの重症度を簡便に判定することができる方法が提供された。本発明によれば、簡便な操作で、AD治療における免疫抑制剤の有効性を判定することができるので、免疫抑制剤が無効な患者に対しては、免疫抑制剤以外の治療薬をより早期に処方することができ、免疫抑制剤による無用の副作用をもたらすこともなく、高価な免疫抑制剤を投与して無用の出費を強いることもなくなる。また、本発明の方法は、簡便な免疫測定法により行なうことができるので、小規模な病院等でも容易に実施することができる。さらに、本発明によれば、ADの重症度も併せて判定することができるので、免疫抑制剤の投与量や投与期間等の投与計画を的確に立てることが可能になる。
上記の通り、本発明のADに対する免疫抑制剤の治療の有効性を判定する方法は、ヒトから採取した体液中の抗スーパー抗原抗体を測定することを含む。
本発明の方法により、その治療効果を判定する対象となる免疫抑制剤は、ADの治療に用いられる免疫抑制剤であり、好ましくは、リンパ球増殖抑制作用を有する免疫抑制剤である。リンパ球増殖抑制作用を有する免疫抑制剤の具体例として、タクロリムス、シクロスポリン、メチルプレドニゾロン及びプレドニゾロンを挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
本発明の方法において測定する抗スーパー抗原抗体の対応抗原であるスーパー抗原としては、微生物由来のものが好ましく、黄色ブドウ球菌由来のものがさらに好ましく、黄色ブドウ球菌のトキシックショックシンドロームトキシン−1(TSST-1)が特に好ましい。なお、これらのスーパー抗原自体は周知であり、周知の方法により調製できる。例えば、TSST-1の調製方法は、Kawano Y, Ito Y, Yamakawa Y, Yamashino T, Horii T, Hasegawa T., Ohta M., Rapid isolation and identification of staphylococcal exoproteins by reverse phase capillary high performance liquid chromatography-electrospray ionization mass spectrometry. FEMS Microbiol Lett 2000: 189(1):103-8に記載されている。また、TSST-1等のスーパー抗原は市販もされているので、市販品を用いることもできる。なお、本発明の方法において測定する抗スーパー抗原抗体は、IgE抗体であることが好ましい。
本発明の方法に供する体液としては、特に限定されないが、血漿、血清、全血等の血液が好ましい。
体液中の抗スーパー抗原抗体は、免疫測定法により測定することができる。免疫測定法自体は周知であり、周知のいずれの免疫測定法をも採用することができる。すなわち、測定形式で分類すれば、サンドイッチ法、競合法、凝集法などがあり、用いる標識で分類すれば蛍光法、酵素法、放射法、ビオチン法等があるが、これらのいずれをも用いることができる。免疫測定方法に標識抗体を用いる場合、抗体の標識方法自体は周知であり、周知のいずれの方法をも採用することができる。
なお、これらの免疫測定法自体は周知であり、本明細書で説明する必要はないが、簡単に記載すると、例えば、サンドイッチ法では、スーパー抗原を固相に不動化し、体液検体と反応させ、洗浄後、ヒト抗体、好ましくはヒトIgE抗体と抗原抗体反応する抗体を反応させ、洗浄後、固相に結合した該抗体を測定する。該抗体を酵素、蛍光物質、放射性物質、ビオチン等で標識しておくことにより固相に結合した標識抗体を測定することができる。濃度既知の複数の標準試料中について上記方法により測定し、測定された標識量と標準試料中の抗スーパー抗原抗体量の関係に基づき検量線を作成し、未知濃度の被験試料についての測定結果をこの検量線に当てはめることにより、被験試料中の抗スーパー抗原抗体を定量することができる。なお、スーパー抗原と標識抗体を上記の説明と入れ替えてもよい。
免疫抑制剤の有効性の判定は、測定した抗スーパー抗原抗体の抗体価に基づいて行うことができ、該抗体価が低いほど免疫抑制剤による治療が有効である可能性が高い。有効、無効の判定は、例えば、好ましくは複数の健常人及び好ましくは10例以上のAD患者について、特定の免疫測定法により測定した結果と、リンパ球幼若化抑制試験の結果又は治療効果の結果とを対比して免疫抑制剤による治療効果が認められる群の抗体価と認められない群の抗体価の間に閾値を設定し、未知の体液について、該閾値よりも抗体価が高いか低いかにより行うことができる。例えば、下記実施例において採用したサンドイッチELISA法では、抗体価(450 nmにおける吸光度)が、約0.2以上を無効群、0.2未満を有効群と判定することが可能である。
測定した抗体価に基づき、ADの重症度を判定することも可能である。概ね抗体価が高いほど重症度も高い。従って、体液中の抗スーパー抗原抗体量を測定することにより、免疫抑制剤の治療の有効性と共にADの重症度をも判定することができる。例えば、下記実施例において採用したサンドイッチELISA法では、抗体価(450 nmにおける吸光度)が、約0.2以上を重症群、0.2未満を軽症群と判定することが可能である。
本発明による免疫抑制剤の有効性及び/又はアトピー性皮膚炎の重症度の判定方法又は有効性及び重症度の判定方法において、ヒトより採取した細胞の増殖率から抗原に対する応答性を調査する工程をさらに含んでいてもよい。なお、本発明において、抗原とは生体を刺激して免疫反応を誘導する物質をいい、マイトゲンとはポリクローナルにリンパ球分裂増殖を促進するマイトジェネシス活性をもつものをいう。この工程は、好ましくは、リンパ球をスーパー抗原で刺激することを含み、さらに好ましくは刺激指数(stimulation index)の測定である。SIの測定自体は周知であり、下記実施例にも具体的に記載されている。この工程をさらに含むことにより、判定結果の正確性をさらに向上させることができる。
また、本発明の方法は、ヒトより採取した細胞の免疫抑制剤感受性を調査する工程をさらに含んでいてもよい。ヒトより採取した細胞の免疫抑制剤感受性を調査する工程は、マイトゲンで刺激されたリンパ球に免疫抑制剤を添加することを含み、さらに好ましくはリンパ球幼若化抑制試験である。リンパ球幼若化抑制試験自体は周知であり、下記実施例にも具体的に記載されている。この工程をさらに含むことにより、判定結果の正確性をさらに向上させることができる。
本発明の免疫抑制剤の有効性及びADの重症度の判定方法は、アトピー性皮膚炎の重症度をクリニカルインデックスで表すことをさらに含んでいてもよい。皮疹の重症度および範囲においてfaceとbodyで数値化した総和をもってクリニカルスコアとし、クリニカルスコアが高値を示すほどADの重症度が高い。また、本発明の方法は、アトピー性皮膚炎の重症度を刺激指数で表すことをさらに含んでいてもよい。また、皮疹の重症度(皮疹スコア)は、病変の重症度を、重度(高度の腫脹・浮腫・浸潤ないし苔せん化を伴う紅斑、丘疹の多発、高度の鱗層、か皮の付着、小水胞・びらん、多数の掻破痕、痒疹結節などを主体とする)、中等度(中等度までの紅斑、鱗層、少数の丘疹、掻破痕などを主体とする)、軽度(乾燥および軽度の紅斑、鱗層などを主体とする)、軽微(炎症症状に乾燥症状を主体とする)の四段階に分け、それぞれ数値化する。なお、クリニカルスコアの測定は、日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎ガイドライン2004に基づいて算出した。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(1) 抗TSST-1抗体測定用プレートの作製
リン酸緩衝液にTSST-1(トキシンテクノロジー社より市販)が0.5μg/mlとなるよう添加し、これを96穴マイクロプレート(NUNC社製)の各ウェルに100μLずつ添加してTSST-1をプレートに固定化した。4℃で一晩静置後溶液を除去し、プレートへの非特異吸着を防ぐために0.5%の牛血清アルブミン(セロロジカル社製)が添加されたリン酸緩衝液を各ウェルに400μLずつ添加し室温に静置した。2時間後溶液を除去し、これを抗TSST-1抗体測定用プレートとした。
(2) 抗TSST-1-IgE抗体価の測定
Tween20(シグマアルドリッチジャパン)を0.05%と牛血清アルブミンを0.25%含むリン酸緩衝液でヒト血漿を10倍に希釈し、(1)で作製したマイクロプレートの各ウェルに100μLずつ添加して1時間室温で振盪させた。ヒト血漿を除去後、Tween20(商品名)を含むリン酸緩衝液でウェルを3回洗浄し、抗ヒトIgEマウスIgG(シグマ社製)を含む溶液を各ウェルに100μLずつ添加して、30分時間室温で振盪させた。抗ヒトIgEマウスIgG希釈溶液を除去後、Tween20を含むリン酸緩衝液でウェルを3回洗浄し、HRP標識抗マウスIgGウサギIgG(ザイメド社製)を含む溶液を各ウェルに100μLずつ添加して、30分間室温で振盪させた。HRP標識抗マウスIgGウサギIgG希釈溶液を除去後、Tween20を含むリン酸緩衝液でウェルを3回洗浄し、テトラメチルベンジジン(東京化成)を含むクエン酸ナトリウム溶液に過酸化水素水を添加した溶液を各ウェルに100μLずつ添加して振盪させた。15分経過後、1規定の硫酸を各ウェルに100μLずつ添加して反応を停止し、450nmの吸光度を抗TSST-1-IgE抗体価(以下、抗体価と記載する)とした。
健常者15名(男性9名、女性6名で平均年齢は28.2±10.0歳)およびアトピー性皮膚炎と診断された患者20名(男性12名、女性8名で平均年齢は38.1±12.2歳)から採取した血漿について抗体価を測定したところ有意差があった(健常者0.149±0.100、AD患者0.252±0.173、p=0.0024)。統計的解析はMann-Whitney U test検定で行った。
(3) リンパ球幼若化抑制試験による免疫抑制剤感受性の調査
(2)と同じアトピー性皮膚炎患者20名のうち、タクロリムスによる治療を受けている患者14名から採取したヘパリン血10mLをリンパ球分離液(ナカライテスク社)約3mL上に静かに重層し、2000rpmで20分間遠心分離した。リンパ球層を分取した後、10%ウシ胎児血清(バイオサイエンス社)、100mg/Lストレプトマイシン(明治製菓)、および10万単位/LペニシリンG(明治製菓)を含むRPMI1640培地約5mLで2回洗浄後、1×106cells/mLとなるよう培地で希釈し、リンパ球懸濁液とした。このリンパ球懸濁液195μLを、96穴滅菌平底プラスチックプレート(イワキ社)の各ウェルに分注した。各ウェルにマイトゲンとしてコンカナバリンA(ConA)(生化学工業)溶液1μLを最終濃度5μg/mLとなるように加え、さらにタクロリムス(藤沢薬品)のエタノール溶液を4μLずつ、タクロリムスの最終濃度が各々0.001、0.01、0.1、1、10、100ng/mlとなるように各ウェルに添加した。エタノールの最終濃度は2%である。コントロールウェルにはエタノール4μLを加えた。以上のように調製したリンパ球懸濁液を、5%CO2、37℃で72時間培養した後、18.5KBqの[3H]チミジンを各ウェルに添加し、さらに20時間培養した。培養終了後、セルハーベスター(ラボサイエンス社)を用いてリンパ球をガラス繊維フィルター(フタバメディカル社)上にハーベストした。フィルターを充分乾燥させた後、シンチレーター液(オムニフルオル(ドゥポント社)4gをトルエン1Lに溶解させたもの)2mLを加え、液体シンチレーションカウンターでリンパ球に取り込まれた[3H]チミジンの放射能を測定した。各濃度のタクロリムス存在下におけるリンパ球増殖率は次式により算出した。
リンパ球増殖率(%) = (E2-E0 / E1-E0)×100
ここでE0はConA未刺激のリンパ球に取り込まれた[3H]チミジン (dpm)を、E1はConA刺激により増殖したリンパ球に取り込まれた[3H]チミジン (dpm)を、E2は各濃度のタクロリムスにより増殖を抑制されたリンパ球に取り込まれた[3H]チミジン (dpm)を示す。[3H]チミジン (dpm)は3ウェルの平均値を用いた。ここで、片対数グラフの横軸にタクロリムスの濃度を、縦軸に各濃度のタクロリムス存在下におけるリンパ球増殖率(%)をプロットし、グラフ上でリンパ球の増殖を50%抑制するタクロリムス濃度(IC50)を求め、この値を感受性の指標(免疫抑制剤感受性)とした。
(2)と同じアトピー性皮膚炎患者20名のうち、タクロリムスによる治療を受けている患者14名についてタクロリムスのIC50高値群(High)と低値群(Low)とに分けたとき(IC50の中央値0.040より群分けした。Low≦0.040, 8名、High >0.040, 6名)のクリニカルスコアとタクロリムス感受性(IC50)との関連をMann-Whitney U test検定で解析した結果、高値群と低値群とで有意差があった(Low6.9、High8.8、p=0.0258)(図1)。このことから、タクロリムスに対するIC50値が高値を示す、すなわちリンパ球のタクロリムス感受性が低いほど、皮疹の重症度が高いことがわかった。
(4) 免疫抑制剤感受性と抗体価の関連性調査
(2)と同じアトピー性皮膚炎患者のうち、タクロリムスによる治療を受けている患者14名について、タクロリムスのIC50高値群(High)と低値群(Low)とに分けたとき(IC50の中央値0.040より群分けした。Low≦0.040, 8名、High >0.040, 6名)の抗体価とタクロリムス感受性(IC50)との関連をMann-Whitney U test検定で解析した結果、高値群と低値群とで有意差があった(Low0.15±0.06、High0.25±0.06、p=0.0282)(図2)。このことから、タクロリムスに対するIC50値が高値を示す、すなわちリンパ球のタクロリムス感受性が低い群では抗体価が高いことが判明した。
(3)及び(4)より、抗体価を測定することにより、アトピー性皮膚炎に対するタクロリムスの治療効果を予測することが可能であることがわかった。
(5) クリニカルスコアと抗体価の関連性調査
(2)と同じアトピー性皮膚炎患者14名のうち、タクロリムスによる治療を受けている患者14名について、クリニカルスコア高値群(High)と低値群(Low)とに分けたとき(クリニカルスコアの中央値7.5より群分けした。Low≦7.5, 7名、High >7.5, 7名)に抗体価とクリニカルスコアの関連をMann-Whitney U test検定で解析した結果、有意差があった(Low0.132±0.032 High0.259±0.051、p=0.0006)(図3)。これより、抗体価が高値である群ではクリニカルスコアが高値であることがわかった。
(6) リンパ球のマイトゲン及び抗原応答性(SI)の調査
(3)においてリンパ球増殖を刺激する物質としてマイトゲンをConA(最終濃度5μg/mL)と、スーパー抗原であるSEB、TSST-1(各々の最終濃度1ng/mL)(シグマ社)として、(3)におけるヘパリン血を24名の健常者(男性14名、女性10名、平均年齢25.0±5.2歳)と21名のアトピー性皮膚炎患者(男性12名、女性9名、平均年齢37.1±12.3歳)から採取したものに置き換えてリンパ球懸濁液を作製し、これを(3)と同じ方法で培養した後、(3)と同じ方法で[3H]チミジンの放射能を測定した。この結果から、マイトゲン及び各抗原に対するリンパ球の応答性(SI)は次式により算出した。
マイトゲン及び各抗原に対する応答性=(E1-E0)/E0
ここでE0はマイトゲン及び各抗原未刺激のリンパ球に取り込まれた[3H]チミジン (dpm)を、E1はマイトゲン及び各抗原刺激により増殖したリンパ球に取り込まれた[3H]チミジン (dpm)を示す。SIの調査結果を解析したところ、アトピー性皮膚炎患者のTSST-1に対するSIは健常者のそれと比較して顕著に低いことが判明した(ConA:健常者269.6±150.1,AD患者172.6±130.9,p=0.0315、SEB:健常者180.0±117.5,AD患者89.9±137.8,p=0.0101、TSST-1:健常者144.9±98.9,AD患者14.3±18.9,p=0.00001、Mann-Whitney U test検定)。これより、アトピー性皮膚炎患者ではTSST-1に対する応答性が低いことが判明した。
(7) クリニカルスコアとSIの関連性調査
(6)におけるアトピー性皮膚炎患者21名のクリニカルスコアを高値群(High)と低値群(Low)とで分けると(クリニカルスコアの中央値7.0より群分けした。Low≦7.0, 10名、High >7.0, 11名)、両者のTSST-1に対するSIには有意差があった(Low:25.31±22.20、High:4.35±5.08、p=0.0124、Mann-Whitney U test検定)(図4)。これより、クリニカルスコア高値群ではTSST-1に対する応答性が低いことが判明した。
(8) SIと抗体価の関連性調査
(6)におけるアトピー性皮膚炎患者21名についてPearson's correlation coefficientによる解析をおこなったところ、TSST-1に対するSIが低い、つまり重症度が高い患者ほど、抗体価が高いことが分かった(図5)。
(5)〜(8)より、抗体価が高値である群ではクリニカルスコアが高値であり、またTSST-1に対するSIが低いことが判明した。すなわち、TSST-1に対するIgE抗体価を測定することにより、アトピー性皮膚炎患者の重症度診断が可能であることが判明した。
タクロリムス感受性高値群と低値群におけるクリニカルスコアを示す図である。 タクロリムス感受性高値群と低値群における、抗TSST-1 IgE抗体の抗体価を示す図である。 クリニカルスコア高値群と低値群における、抗TSST-1 IgE抗体の抗体価を示す図である。 クリニカルスコア高値群と低値群における、刺激指数を示す図である。 AD患者リンパ球のTSST-1応答性増殖率と抗TSST-1 IgE抗体の抗体価の関係を示す図である。

Claims (14)

  1. ヒトから採取した体液中の抗スーパー抗原抗体を測定することを含む、アトピー性皮膚炎に対する免疫抑制剤の治療の有効性を判定する方法。
  2. ヒトから採取した体液中の抗スーパー抗原抗体を測定することを含む、アトピー性皮膚炎に対する免疫抑制剤の治療の有効性及びアトピー性皮膚炎の重症度を判定する方法。
  3. 前記免疫抑制剤がリンパ球増殖抑制作用を有する免疫抑制剤である請求項1又は2記載の方法。
  4. 前記免疫抑制剤がタクロリムスである請求項3記載の方法。
  5. 前記スーパー抗原抗体が、IgE抗体である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記スーパー抗原が微生物由来である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記微生物が黄色ブドウ球菌である請求項6記載の方法。
  8. 前記スーパー抗原が、トキシックショックシンドロームトキシン−1である請求項7記載の方法。
  9. ヒトより採取した細胞の増殖率から抗原に対する応答性を調査する工程をさらに含む請求項2記載の方法。
  10. ヒトより採取した細胞の増殖率から抗原に対する応答性を調査する工程が、リンパ球をスーパー抗原で刺激することを含む請求項9記載の方法。
  11. ヒトより採取した細胞の免疫抑制剤感受性を調査する工程をさらに含む請求項1ないし10のいずれか1項に記載の方法。
  12. ヒトより採取した細胞の免疫抑制剤感受性を調査する工程が、マイトゲンで刺激されたリンパ球に免疫抑制剤を添加することを含む請求項11記載の方法。
  13. アトピー性皮膚炎の重症度をクリニカルインデックスで表すことをさらに含む請求項2記載の方法。
  14. アトピー性皮膚炎の重症度を刺激指数で表すことをさらに含む請求項2記載の方法。

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