JP2006234458A - 濃度測定装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】検知極上におけるアジ化物イオンなどの防腐剤の酸化吸着反応を選択的に抑制し、かつ過酸化水素の酸化は長期間にわたって行うことが可能な長寿命センサ素子を用いた、センサ素子の交換期間が長い(センサの使用寿命が長い)濃度測定装置を提供すること。
【解決手段】対極、参照極、検知極を備え、防腐剤を含む液体媒体中の過酸化水素の前記検知極表面における電気化学的酸化によって生じる電流信号を検出することで標的成分の定量を行う濃度測定装置であって、前記検知極が酸化イリジウムまたは酸化イリジウムを含む酸化物であることを特徴とする濃度測定装置。
【選択図】図1

Description

本発明は、濃度測定装置、より詳しくは酸化イリジウム電極における過酸化水素の電気化学的酸化によって生じる電流信号を検出することによって生体成分などを定量する濃度測定装置に関する。
尿、血液、唾液などの生体液に含まれる成分、例えばグルコースや乳酸の濃度を測定する装置や方法が開発され、医療用途などに使用されている。これらの成分の多くは酸化酵素によって過酸化水素に変換することができるので、酸化酵素と過酸化水素を電気化学的に検出するセンサ素子(過酸化水素検出素子)とを組み合わせて測定する方法が広く知られている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
その測定方法についてグルコース濃度測定装置を例として説明する。過酸化水素検出素子は、図6に示すように、アルミナなどの絶縁性支持体上に形成された検知極9、対極8、参照極7の3つの電極からなる。これらの電極のうち少なくとも検知極9を覆うように形成されたグルコースオキシダーゼを含む酵素膜15を有している。このセンサ素子20をフローセルにセットし、例えば図7に示すような測定システムに装着する。尿や血液などの被検液は採取された後に、pH緩衝作用を有する液体媒体と混合され、またこれによってセンサ素子20まで送られる。この後、被検液中に含まれるグルコースは、酵素膜を透過する際に酸化されて、その結果過酸化水素が生成される。この時、検知極には参照極を基準として過酸化水素の酸化が可能な電位が印加されており、検知極上に到達した過酸化水素が酸化されることで電流が流れる。この酸化電流の大きさから過酸化水素、さらにはグルコースの濃度を知ることが出来る。すなわち、参照極に対して検知極を一定の電位に制御すると、検知極を流れる電流はグルコースから生成する過酸化水素の量に依存し、グルコース濃度が高ければ検知極にはより大きな電流が流れることになる。
このようなセンサ素子の検知極には、白金やカーボンなどの材料が用いられているが、電位窓が広いこと、相対的に安定性が高いこと、暗電流が低いことなどから、白金がもっともよく利用されている。
また、ほかの材料として、酸化イリジウムが検討されている。例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4には、金属のイリジウム、または導電性ダイアモンドなどの基板上に電析させたイリジウム化合物、またはゾル−ゲル法によって形成したイリジウム前駆体などを、水溶液中で所定の電位範囲で電位走査を繰り返すことによってイリジウムを酸化して酸化イリジウム電極を作製し、これを利用してグルコースや過酸化水素を検出する方法が記載されている。
一方、特許文献3では、導電性基体と、該導電性基体表面を被覆する過酸化水素の酸化および/または還元触媒機能を有する酸化還元触媒機能層と、該酸化還元触媒機能層を被覆し、酵素反応により過酸化水素を発生あるいは消費する酵素固定化膜とを備えることを特徴とする酵素センサが開示されており、これによれば、導電性基体としてサファイア基板上にスパッタ蒸着によって形成した酸化イリジウム膜を利用する酵素センサが示されている。最近、高齢化に伴う医療費の高騰、および人々の健康意識の向上に伴い、在宅など非医療機関での自己健康チェックと管理が重要になってきている。その一例はバイオセンサを搭載したトイレ設置型排泄物濃度測定装置を用いて健康をチェックし管理することである(特許文献4参照)。
このような装置においては、バイオセンサのセンサ素子の他に、pH緩衝液や校正液などを消耗品として交換または補充することになっている。緩衝液、校正液(例えばグルコース濃度校正用として緩衝液に所定濃度のグルコースを添加したものなど)、および酵素などの蛋白質が含まれているセンサ素子には雑菌やカビが繁殖しやすい。仮に、緩衝液と校正液に雑菌やカビがあると、その増殖によって液の性能が劣化し、またセンサ素子に含まれる酵素などは餌として食べられてしまうので、その増殖を防ぐためにアジ化ナトリウムなどの防腐剤を添加している。
特開2004−28889号公報
特開2004−233294号公報
特開平1−153952号公報
特開2004−085200号公報
Talanta,Vol.40,p.1911-1915,1993
J.Electroanal.Chem.,Vol.538-539,p.153-164,2002
J.Electroanal.Chem.,Vol.544,p.65-74,2003
Electroanalysis,Vol.16,p.478-490,2004
特にトイレ設置型排泄物濃度測定装置などの在宅健康管理機器においては、消耗品の交換・補充間隔をできるだけ長くすることは、利用者の手間と負担を極力抑える意味においては大変重要である。そのために、長期間にわたって使用することができる長寿命のセンサ素子を開発することが必要とされる。
本発明者らは、長期間の使用においても安定した電流応答を示すグルコースセンサをはじめとしたバイオセンサのセンサ素子を開発するため、センサ素子で使用される検知極材料と、過酸化水素および過酸化水素の定量に対して妨害する因子となる様々な共存物質の電極反応との関係について研究した結果、検知極として白金を用いたセンサ素子の経時安定性には、被検液を採取した後に被検液と混合される液体媒体中に含まれる防腐剤が影響していることを明らかにした。
本発明者らは、このアジ化ナトリウムを添加することで液体媒体中に生じるアジ化物イオン(N )に着目し、その電極反応について研究した結果、アジ化物イオンは白金などの貴金属からなる電極上において、過酸化水素が酸化される電位領域において酸化されて電子を放出し、かつアジ化物イオンが酸化された後の電極上にはNが吸着して、この吸着物が過酸化水素の酸化を妨害することを見出した。
さらに、センサ素子を長期間にわたって使用した場合には、電極上に吸着するNの量が増加するために、過酸化水素の酸化がより起こりにくくなることを明らかにした。その結果、ある濃度の標的成分に対して、酵素膜の機能は維持されていて、同じ濃度の過酸化水素が酵素膜を介して発生していても、電極上では過酸化水素の酸化が進行せず、したがって標的成分濃度に応じた電流応答が得られなくなるという因果関係にあることを明らかにした。
以上のようにセンサ素子の経時安定性を向上させるためには、液体媒体に含まれるアジ化物イオンの電極上での酸化吸着反応を抑制することが必要であることを本発明者らは明らかにした。この酸化吸着反応を抑制するためには、液体媒体からアジ化ナトリウムを除くことが単純な方法であるが、アジ化ナトリウムに替わる安価、安全、かつ抗菌・防カビ機能を有する防腐剤を見つけることは難しい。また、本発明者らは、抗菌・防腐作用を有するもののなかで、例えば塩化ベンザルコニウムも同様に白金検知極に酸化され吸着し、電極の過酸化水素に対する応答性能を低下させることを確認した。一方、特許文献5には、過酸化水素濃度の正確な測定を阻害する要因となるアスコルビン酸や尿酸などの妨害成分に対して、グルコースセンサに具備された過酸化水素選択透過膜がこれら妨害成分の検知極へ透過を防止することで、その影響を抑制できることが示されているが、アジ化物イオンの検知極への透過を抑制できる同様な選択的透過膜は得られていない。また、アジ化物イオンはアスコルビン酸や尿酸に比べてイオンサイズが小さく、また常時センサ膜表面に接しているため、同様な方法で検知極への透過を抑制することは難しい。
特開2004−163386号
従来、このようにアジ化物イオンをはじめとする防腐剤またはそれを構成するイオンが検知極上で酸化吸着されることにより、バイオセンサの経時的な安定性を低下させることに対して、これを抑制できる手段・方法がないという問題があった。
上記のような課題に対して、本発明は、検知極上におけるアジ化物イオンなどの防腐剤の酸化吸着反応を選択的に抑制し、かつ過酸化水素の酸化は長期間にわたって行うことが可能な長寿命センサ素子を用いた、センサ素子の交換期間が長く、維持コストの安い濃度測定装置を提供することを目的とする。
請求項1に記載の本発明は、対極、参照極、検知極を備え、防腐剤を含む液体媒体中の過酸化水素の前記検知極表面における電気化学的酸化によって生じる電流信号を検出することで標的成分の定量を行う濃度測定装置であって、前記検知極が酸化イリジウム、または酸化イリジウムを含む酸化物であることを特徴とする濃度測定装置である。センサ素子の検知極材料は酸化イリジウムまたは酸化イリジウムを含む酸化物とすること、また、センサの作動に必要な液体媒体に防腐剤を添加することによって、雑菌やカビの増殖を抑制しながら、センサ素子が長期間にわたって安定に動作可能になり、消耗品の交換頻度が少ない濃度測定装置を実現できる。これを可能にしたのは、酸化イリジウムまたは酸化イリジウムを含む酸化物からなる検知極においては、過酸化水素を検出する電位範囲内において、防腐剤に由来する成分の酸化による吸着が少ないからである。
請求項2に記載の本発明による濃度測定装置は、使用される防腐剤はアジ化ナトリウムであることを特徴とする。アジ化ナトリウムは安価で抗菌・防カビ性に優れており、少量の添加で必要とされる抗菌・防カビ性が得られる。
請求項3に記載の本発明による濃度測定装置は、検知極、対極、参照極が絶縁性支持体上に形成されたことを特徴とするので、センサ素子をワンチップ化することで、センサ素子の交換を簡単にし、また装置をコンパクト化することが可能となる。
請求項4に記載の本発明による濃度測定装置は、検知極が非晶質の二酸化イリジウムまたは非晶質の二酸化イリジウムを含む酸化物からなることを特徴とする。非晶質の二酸化イリジウム上では、過酸化水素の酸化反応は、白金などの貴金属とほぼ同じ電位域で容易に進行するが、防腐剤であるアジ化物イオンの酸化吸着反応はほとんど進行しないという作用を有する。これによって、アジ化物イオンの酸化吸着反応を選択的に抑制しながら、目的とする過酸化水素の酸化を進行させることが可能となる。アジ化物イオンのような吸着を伴う酸化反応に対する反応過電圧が選択的に高くなるためと考えられる。
請求項5に記載の本発明による濃度測定装置は、前記検知極が、非晶質の二酸化イリジウムと、タンタル、チタン、ニオブ、ジルコニウム、タングステンから選ばれた少なくとも1つ以上の金属の酸化物との混合物からなることを特徴とする。非晶質の二酸化イリジウムと、タンタル、チタン、ニオブ、ジルコニウム、タングステンから選ばれた少なくとも1つ以上の金属の酸化物が混合された構造を有する検知極とすることによって、混合された金属酸化物がバインダーの役割を担うことで、検知極と絶縁性支持体との密着性を向上させることができるとともに、長期間の使用においても、非晶質の二酸化イリジウムが過酸化水素の酸化の際に消耗することを抑制するとともに、絶縁性支持体から剥離・脱落することを抑制して、検知極の劣化を防止することができる。
請求項6に記載の本発明による濃度測定装置は、前記検知極が、非晶質の二酸化イリジウムと酸化タンタルの混合物からなることを特徴とする。酸化タンタルは非晶質の酸化イリジウムの粒子間でバインダーとしての役割を担い、非晶質の酸化イリジウムの消耗や剥離を抑制して、長期間の作動に対して検知極の耐久性を向上させるとともに、酸化タンタルとの混合は酸化イリジウムの非晶質化を促進するという作用も有する。
請求項7に記載の本発明による濃度測定装置は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の濃度測定装置において、少なくとも検知極を覆うように酸化酵素を含む酵素膜が配設されたことを特徴とする。これにより酵素反応によって生じる過酸化水素を効率よく検知極表面に集めることができるので、標的成分を高感度に測定することができる。また、検知極表面を膜で覆うことによって尿や血液などの被検媒体による電極汚染を防ぐことができる。
請求項8に記載の本発明による濃度測定装置は、前記酵素膜と前記検知極との間に、過酸化水素を選択的に透過させる機能を有する選択透過膜が配設されたことを特徴とするので、尿酸やアスコルビン酸などの検知極表面への到着を選択的に制限することによって、これらの共存成分による擬陽性応答を実質的に無くし、尿や血液など共存妨害成分が多く含まれる被検媒体に対しても、標的成分を正確に定量することを保証する。
請求項9に記載の本発明による濃度測定装置は、請求項7または請求項8に記載の濃度測定装置において、酸化酵素はグルコース酸化酵素であることを特徴とする。グルコースを測定するニーズは高く、またグルコース酸化酵素は酸化酵素の中でも安定性がよく室温においても長期間の使用に耐えうるので、長期間例えば一年以上にわたってセンサ素子を交換せずに装置を使用することが可能となる。
以上説明したように、本発明によれば下記の効果を奏する。
アジ化物イオンなどの防腐剤が酸化吸着することによって過酸化水素の酸化が阻害されることを防止することができることから、センサ素子の作動に必要な液体媒体に安価な防腐剤を添加して雑菌やカビの増殖を抑制しながらセンサ素子が長期間にわたって安定に動作可能となり、消耗品の交換頻度が少ない濃度測定装置を提供することができる。例えば、本発明によるトイレ設置型排泄物濃度測定装置はセンサの交換頻度やメンテナンスの手間が低減されることから、利用者にとってより使用しやすく、かつ従来の装置に比べて維持費用が少ない効果がある。
以下図面などを用いて本発明をより詳細に説明する。
図1には本発明の一実施形態であるトイレ設置型尿中成分濃度測定装置を示す。
尿検査装置10は計測本体11と採尿ユニット12とからなり、採尿ユニット12が洋式便器14のリムに装着される。計測本体11にはセンサ素子、およびpH緩衝作用を有する液体媒体と校正液の入った液タンクが内蔵されている。センサ素子の参照極、検知極および対極を含む部分は常時緩衝液に浸している。また液体媒体と校正液には一定濃度の防腐剤、例えば0.05%のアジ化ナトリウムが入っている。採尿ユニット12には採尿アーム13があり、図示しないが、その先端部は採尿口を備えた碗形形状を呈しており、採尿位置にて採尿口が略上方を向くように取付けられている。
使用者が放尿する前に、計測本体11に設けたスタートボタン(図示せず)を押すと、採尿アーム13が移動し、その先端部の採尿口が尿を受ける状態になる。次いで使用者が採尿口に向かって放尿し、一定量の尿が溜まって尿が検知されると自動的に尿が採取される。採取された尿はサンプル搬送システムによって計測本体に搬送され、そこで搬送された尿の一部分、例えば10マイクロリットル分がサンプリングされて液体媒体と混合しながらセンサへ送られて計測が始まり、結果を表示する。
図示しないが、本実施形態の装置本体には上記センサ素子と液タンクの外に、配管とポンプを含む送液と洗浄システム、電位制御および電流検出システム、その他の動作制御システム、信号処理およびデータ記憶システム、結果などを表示するための表示システムを含めるが、これらは本発明を特徴づける構成要件ではないので、詳細説明を省く。ここでは本発明を特徴づける構成要件である検知極と液体媒体を中心に詳細に説明する。
本発明の濃度測定装置は、検知極、対極、参照極を有するセンサ素子を備えている。これらの三電極はそれぞれ分離した形で作成し、電気化学的検出系に取り付けてもよいが、ひとつの絶縁性支持体上に形成されることが好ましい。
ここで、絶縁性支持体には、アルミナ、窒化珪素、酸化タンタルなどのセラミックス、ガラス、石英、ダイアモンドのほか、酸化シリコンを形成したシリコンウェハーや、絶縁性樹脂、耐熱性樹脂などが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。また、その形状は板状、円筒状、棒状のものなどが挙げられるが、特にこれらの形状に限定されるものではない。
検知極、対極、参照極は、参照極に対して検知極を過酸化水素の酸化が可能な電位に保持し、検知極上に到達した過酸化水素が酸化されることによる電流を検出するために用いる。対極上では、検知極を流れる電流に一致する分だけの還元反応が生じる。
ここで、検知極は酸化イリジウムまたは酸化イリジウムを含む酸化物からなる。より好ましくは非晶質の二酸化イリジウムまたは非晶質の二酸化イリジウムを含む酸化物からなる。
これらの検知極は、電析法、電気化学的酸化法、ゾルーゲル法、熱分解法、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、MOCVD法など様々な物理蒸着法、化学蒸着法など、公知の方法によって作成することができる。ここで非晶質の二酸化イリジウムまたは非晶質の二酸化イリジウムを含む酸化物からなる検知極を中心にその作製方法を説明する。例えば熱分解法によって非晶質の二酸化イリジウムを含む検知極を容易に作製できる。すなわち、塩化イリジウム(IrCl)または塩化イリジウム酸(HIrCl)もしくはその水和物を、水またはn−ブタノールなどに溶解し、これをアルミナなどの絶縁性支持体上に所望の形状に塗布した後に、乾燥、熱分解することで作成できる。この時、熱分解時の温度を340℃とすれば、非晶質の二酸化イリジウムからなる検知極を作製できる。また、熱分解温度を380℃とすれば、非晶質と結晶質の二酸化イリジウムが混合された検知極を作製できる。さらに、この方法では、上記の塗布、乾燥、熱分解を繰り返すことで検知極の厚さを制御し、所望の厚さの検知極を作成することができる。
非晶質の二酸化イリジウムの存在は、既存の分析技術によって容易に確認することが可能である。例えば、作製した検知極のX線回折像を測定してIrOの回折ピークが見られない場合か、または結晶質のIrOの回折ピークを生じるべき2θ値付近においてブロードな回折線が見られる場合に、X線光電子分光法(XPS)でイリジウムと酸素の化学状態を確認し、いずれもIrOに相当する状態の電子の結合エネルギーが観察されれば、非晶質の二酸化イリジウムの存在を確認することが可能である。
さらに、酸化イリジウムを熱分解法、ゾル−ゲル法、共沈法などの方法を用いて予め粉末状に作製した後、この粉末にポリマーバインダー、有機溶剤などを混合してペーストとし、これを用いて絶縁性支持体上にスクリーン印刷してから熱処理するような、いわゆるスクリーン印刷法によって非晶質の二酸化イリジウムまたはこれを含む酸化物からなる検知極を作製することも可能である。
検知極のさらに好ましい形態として、非晶質の二酸化イリジウムと、タンタル、チタン、ニオブ、ジルコニウム、タングステンから選ばれた少なくとも1つ以上の金属の酸化物との混合物が例としてあげられる。もっとも好ましくは非晶質の二酸化イリジウムと酸化タンタルからの混合物である。
ここで、検知極を構成する非晶質の二酸化イリジウムと、タンタル、チタン、ニオブ、ジルコニウム、タングステンから選ばれた少なくとも1つ以上の金属の酸化物との配合割合は、モル比で10〜99:90〜1が好ましい。非晶質の二酸化イリジウムが10モル%よりも少なくなると、検知極中の割合が少ないために防腐剤、例えばアジ化物イオンの酸化吸着を抑制しながら過酸化水素を酸化するという機能を十分に発揮することが出来なくなるとともに、検知極の導電性が低くなって検知極の電位制御が困難となるため好ましくなく、非晶質の二酸化イリジウムが99モル%よりも多くなると、混合される金属酸化物の割合が少なくバインダーとしての機能を十分に発揮することが出来なくなるため好ましくない。また、このような理由から、タンタル、チタン、ニオブ、ジルコニウム、タングステンから選ばれた少なくとも1つ以上の金属の酸化物の配合割合は、90モル%〜1モル%が好ましい。
上記の非晶質の二酸化イリジウムとイリジウム以外の金属の酸化物との混合物からなる検知極も、すでに記したような熱分解法、物理蒸着法、化学蒸着法、スクリーン印刷法などによって作製することができる。例えば、金属酸化物が酸化タンタルである検知極を熱分解法で作製する場合には、塩化イリジウム(IrCl)または塩化イリジウム酸(HIrCl)もしくはその水和物とともに、塩化タンタル(TaCl)を塩酸を含むn−ブタノールに溶解し、これをアルミナなどの絶縁性支持体上に所望の形状に塗布した後に、乾燥、熱分解することで作製できる。この時、熱分解時の温度を340℃とするか、または塗布する溶液中のイリジウムとタンタルのモル比を50:50として450℃で熱分解することによって、非晶質の二酸化イリジウムと酸化タンタルの混合物からなる検知極を作製できる。
同様に、上記の塩化タンタルを、塩化チタン、塩化ニオブ、塩化ジルコニウム、塩化タングステンなどに置き換えることによって、それらの金属酸化物と非晶質の二酸化イリジウムが混合された検知極を作製できる。また、複数の金属塩化物を混合することによって、非晶質の二酸化イリジウムと混合される金属酸化物の組成を増やすことができる。尚、上記の方法では金属源として塩化物を挙げているが、特に塩化物だけに限定されるものではない。さらに、熱分解法以外にも、例えば、タンタル、チタン、ニオブ、ジルコニウム、タングステンの各金属酸化物の粉末を予め調製し、これを非晶質の酸化イリジウムの粉末、ポリマーバインダー、有機溶剤などと混合してペーストとし、これを用いて絶縁性支持体上にスクリーン印刷してから熱処理することによって検知極を作製することも可能である。
また、本発明に記載の検知極を絶縁性支持体上に形成する場合には、絶縁性支持体と検知極との密着性を向上させるような中間層を絶縁性支持体と検知極との間に形成しても良い。例えば、絶縁性支持体がアルミナ板である場合には、アルミナと非晶質の二酸化イリジウムを含む酸化物からなる検知極との間の密着性が向上するようなガラスフリット層を介して、検知極を作製するような構造でも良い。
本発明に記載の対極の材料には、白金などの貴金属、その他の金属、導電性セラミックスなど過酸化水素を検知するセンサの電極材料として用いられている様々な材料を用いることができる。また、検知極と同じ材料を用いることができる。
本発明に記載の参照極には、電位を制御して電流を検出するアンペロメトリックセンサに用いられるような参照極、例えば銀−塩化銀電極などの電極系を用いることができる。銀−塩化銀電極の場合には、絶縁性支持体上に銀の薄膜を形成し、これをKCl水溶液中で電解酸化することによって、簡便に銀−塩化銀電極を絶縁性支持体上に形成することが可能であり、これを参照極として使用することができる。また、参照極は、絶縁性支持体上に検知極および/または対極と同じ材料でまず下地層を形成し、その上にさらに上記の方法によって塩化銀を含む銀層を形成するような構造としてもよい。
上記方法、特に絶縁性支持体上に作製した三つの電極からなるものを、センサ素子基体、または単なる基体と呼ぶ。標的成分が過酸化水素の場合、センサ素子基体はそのままセンサ素子として、濃度測定装置に搭載して使用する。また、グルコース酸化酵素などの過酸化水素生成酵素を、例えば固定化酵素カラムの形で作製して別途配置し、被検液が含まれる液体媒体をそのカラムを通してからセンサ素子の検知極表面へ送ることによって、グルコースなどの生体成分を測定することができる。しかし、このような方式では装置が大きく成りがちでコストが高くメンテナンスも複雑になる傾向があるので、尿や血液中の生体成分を測定する場合、より好ましくは酸化酵素を酵素膜の形にして検知極の表面を覆うように形成してセンサ素子を作製することが望ましい。
以下酵素膜について説明する。
本発明に記載の酵素膜は、主に所定の酸化酵素とこれを固定化するための担持体物質からなる。酸化酵素として、各種の過酸化水素生成酵素から必要に応じて適宜選択されてよい。例としてグルコース酸化酵素(グルコースオキシダーゼ)、ヘキソース酸化酵素、ガラクトース酸化酵素、コリン酸化酵素、尿酸酸化酵素、アルコール酸化酵素、乳酸酸化酵素、ビリルビン酸化酵素、コレステロール酸化酵素、アルデヒド酸化酵素などが挙げられる。なかでも、グルコース酸化酵素は安価で安定性がよく、グルコースに対する特異性が高いのでまたグルコース測定のニーズが高いので、もっとも好ましい。担持体の材料として牛血清アルブミン(BSA)などの蛋白質、セルロースやキトサンなどの多糖類およびその誘導体、さらにポリ塩化ビニルなどの合成高分子などを例として挙げられる。BSAは酵素を安定化する作用もあるのでより好ましい。BSAなど常温常圧の環境下で酵素と直接反応または吸着して膜を形成することができない場合、2官能機を持つ架橋剤、例えばグルタルアルデヒドを含ませることができる。
酵素膜の作製法として、別途作製して検知極を含む基体の表面に張り付ける方法、必要な成分を含む原液を調製し同表面に直接塗布して形成する方法に大別することができるが、好ましくは基体表面に直接塗布して形成する方法である。
原液の組成として酸化酵素、BSAなどの担持成分、グルタルアルデヒドなどの架橋剤の他に、リン酸塩などの緩衝液成分を含ませることが、酵素を安定化させる意味で望ましい。原液を調製する溶媒として脱イオン水が望ましいが、必要に応じて他の溶媒、例えばアルコール類やアセトンなどの有機溶媒を少量添加してもよい。
原液を塗布して酵素膜を形成するには、キャスティング法、スピンコート法、引き上げ法、ドロップ法など、各種の公知の方法を用いることができる。センサ寿命を確保するために一定量以上の酵素量を検知極の表面に担持させる必要がある場合には、一般的に高価である酵素を節約するために、酵素膜原液を検知極の表面を中心とした基体表面部位にドロップして乾燥させる方法が好ましい。この方法によれば、酵素膜が検知極及びその近辺部分のみ一定の厚さをもって被覆するので、酵素のロスが無く、酵素使用量を最小限に抑えて安価にセンサ素子を製造することができる。このように作製したセンサ素子の検知極の中心から切り取った断面構造は図3に示すようになる。
尿や血液などの被検液を測定対象とする場合、標的成分に比べて、尿酸やアスコルビン酸などの共存成分が検知極において酸化され無視できないレベルの妨害電流信号を生じることがある。この場合、測定装置の信頼性を確保するために、共存妨害成分の影響を除去する方策が要求される。好ましい方法として酵素膜と検知極との間に、共存妨害成分の検知極表面への透過を阻止するが、過酸化水素の透過を阻止しない、過酸化水素選択透過膜を設ける方法が挙げられる。
過酸化水素選択透過膜には、既知の材料、例えば酢酸セルロースおよびその誘導体、パーフロロスルホン酸を含む陰イオン交換樹脂、BSAなどの材料を用いることができる。これらの材料を、例えば脱イオン水を用いて調製し、必要に応じて架橋剤などを添加したものを原液として、上記酵素膜を作製する方法と同様な方法を用いて簡単に作製することができる。言うまでもなく、過酸化水素選択透過膜の作製は酵素膜の作製に先立って行われる。
過酸化水素選択透過膜を設けたセンサ素子の、検知極の中心から切り取った断面構造は図4に示すようになる。
さらに、酵素膜または過酸化水素選択透過膜の基体表面への付着を強くするために、必要に応じて検知極を含む基体の表面処理を行う。表面処理方法としては汎用されている種々の方法、たとえばシラン化処理、プラズマ処理、電気化学的処理が利用できるが、好ましい例として、シラン化処理が挙げられる。
シラン化処理の方法と手順として、まずシラン化剤を溶媒で適宜調製して一定濃度に希釈したシラン化溶液を作成する。次に基体表面をシラン化溶液に一定時間接触させてから洗浄し、或いは洗浄せずに乾燥する。別の方法として、スピンコーターなどの成膜装置で基体表面にシラン化溶液を塗布してから乾燥する方法を用いても良い。
最後に、酵素膜、過酸化水素選択透過膜またはシラン化処理を行う前に、必要に応じて検知極を含む基体表面の洗浄を行う。洗浄媒体として水や酸を用いることができる。また超音波などの機械を活用することもできる。
なお、洗浄の完了した基体は必要に応じて乾燥させる。乾燥条件は特に限定されないが、好ましい乾燥温度として摂氏20〜80度、乾燥時間として5〜120分が挙げられる。なお、次の工程が水溶液を用いて表面処理を行う工程の場合、乾燥工程を省略することが出来る。
次に本発明の濃度測定装置に使用される液体媒体およびその装置における利用方法について説明する。本発明での液体媒体とは、センサ素子が正常に作動することを可能にする、装置に具備されている液体である。
液体媒体の組成は主に3種類の成分からなる。第1の成分は、pH緩衝作用を有する、いわゆる緩衝液成分である。すでに述べたように、本発明による装置の標的成分濃度に応じた電流応答信号は、酵素反応による過酸化水素の生成反応、および過酸化水素の検知極における酸化反応から生じるが、2つの反応ともpHの影響を受ける。すなわち、安定した応答を出すためには安定したpH環境が必要である。一方、生体液、特に尿はpH変動範囲が大きいので、これらを測定対象とする場合、緩衝液成分が必要となる。また、pHを一定に保持することは酵素活性の安定化にも寄与する。緩衝液の成分と濃度は酵素の特性、検知極との相性など、諸般状況を勘案して適宜決定してよい。
第2の成分は参照極の基準電位を安定に保持するための成分である。例えば銀―塩化銀参照極は基準電位を安定に維持するためにその周辺の塩素イオン濃度を一定に保つ必要がある。この第2の成分として塩化カリウムなどを使用することができる。その濃度は0.01〜0.5mol/lの範囲が好ましい範囲として挙げられる。もちろん、参照極に内部液を内蔵させることができるが、この場合はセンサ素子の構造が複雑になり製造コストも上がるので、本発明による装置においては内部液を有しない参照極の採用が望ましい。
第3の成分は雑菌やカビの繁殖を抑制する防腐剤である。本発明による濃度測定装置は、例えば一般家庭のトイレなど、雑菌やカビが繁殖しやすい環境において、長期間使用できることが要求されるので、雑菌やカビの増殖を抑えるために、液体媒体に防腐剤を添加する必要がある。防腐剤として、センサ素子への影響(検知極における過酸化水素の応答への影響、酵素活性など酵素膜への影響など)および必要とされる抗菌と防カビ性能、さらにコストなどを勘案してその種類と濃度を決めてよい。例としてアジ化ナトリウム、安息香酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、サリチル酸、ほう酸などが挙げられる。中でも、アジ化ナトリウムは安価で少量の添加(例えば液体媒体100gに対して0.02gから0.1gの範囲)で十分の抗菌防カビ性能を有することからもっとも好ましい。
液体媒体はタンクやボトル、液溜用窪みまたは空洞構造などに適宜した貯蔵容器に入れて測定装置に内蔵する、または別途保持する。センサ素子は少なくともその検知極と酵素膜を含む部位が常時液体媒体に接触するように保たれる。その方法として、センサを前記貯蔵容器に配置してもよいが、好ましくは常時液体媒体の入っているセルなどのハウジングに配置することが例としてあげられる。
測定する際、採取された被検液は予め液体媒体で希釈してからセンサ素子に導入して測定する方法、および被検液を希釈しないで直接センサ素子に導入する方法に大別される。前者の例として、一般的によく利用されているフローインジェクション分析法、液体媒体の入った液溜に被検媒体をいれてセンサと接触させる方法が例としてあげられる。例えば図1に示す装置ではフローインジェクション法を利用している。また後者としてセンサ素子をその保持ハウジングから取り出して、被検液に接触させる、または、ハウジングから液体媒体を除いてから被検液をハウジングに導入する方法が例としてあげられる。
図2に示す本発明の第二の実施形態である携帯型濃度測定装置においては、センサ素子は先端部31のところに設定されており、センサ素子を含むモジュール32は、脱着部33を介して装置本体39に接続されている。測定しない時にはセンサモジュールがケースの中に入れており、ケースの先端部には液体媒体が少量入っているハウジングになっている。測定する時はハウジングとなるケースを外して先端部31のセンサ部位に尿をかけて、スイッチ35を押して測定を開始する。なお、この場合、見かけ上検知極は被検液にのみに接触する状態で測定する形になっているが、このような測定方法が採用される装置のセンサ素子においては、その検知極の表面にかならず酵素膜を含む一層以上の膜が設けられているので、センサ素子が巨視的に液体媒体から離れていても、膜内部およびその表面には液体媒体が残っていることから、検知極表面には液体媒体で満たされている状態から測定が開始されるのである。
最後に、本発明の他の実施形態として、医療機関や臨床分析センターに利用される濃度測定装置、環境分析用濃度測定装置、産業用濃度測定装置などが例として挙げられる。
また、上記第一の実施形態の装置も含めて、複数のセンサ素子を搭載して、複数の成分の濃度を同時に測定することもできる。
以下、本発明を実施例、比較例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
手順<1>:セラミック基板またはセンサ素子基体の洗浄方法
ガラス容器に50mlの脱イオン水を加え、続いて白金リード線のパターンが形成されているセラミック製の基板(図5参照、リード線の先端部分に約2mm四方で深さ約5μmの窪みが形成されている。基板1枚で12個のセンサ素子基体を作製できるようになっている。)を完全に液に沈めるように入れて、超音波洗浄装置で5分間洗浄した。セラミック基板を取り出して40℃で5分間乾燥させた。
手順<2>:センサ素子基体表面のシラン化処理方法
別のガラス容器に49.5mlの脱イオン水および0.5mlの3−アミノプロピルトリエトキシシラン(アミノシラン)を加えて混合し、1%のアミノシラン溶液を調製した。続いて、手順<1>の方法で洗浄処理された基体を調製済みのアミノシラン溶液に浸すように入れて、ガラス容器を手で数回ゆっくり振ってから室温で30分間放置した。続いて、基体を取り出して大量の脱イオン水で洗浄した。
手順<3>:過酸化水素選択透過膜原液の調整
牛血清アルブミン(BSA)を17.5mg秤量し、0.9mlの脱イオン水で溶解してBSA溶液を調製した。続いて2.0(v/v)%のグルタルアルデヒド水溶液を0.1ml加えて攪拌した。こうして過酸化水素選択透過膜の原液を調製した。なお、調製はすべて膜形成直前で行われた。
手順<4>:酵素膜原液の調製
グルコースオキシダーゼ(EC1.1.3.4、シグマアルドリッチ製)2290ユニットを、0.7mlのリン酸ナトリウム緩衝溶液(100mM、pH6.0)で溶解し酵素溶液とした。また、BSAを25mg秤量し、1.0mlの脱イオン水で溶解してBSA溶液を調製した。続いて調製されたBSA溶液0.2mlを取り、前記酵素溶液に加えて、均一に混ぜた。混ぜた後の混合液に2.0(v/v)%のグルタルアルデヒド水溶液を0.1ml加えて攪拌した。こうして酵素膜の原液を調製した。なお、調製はすべて膜形成の直前で行われた。
(実施例1)
手順<1>の方法にしたがって洗浄処理したセラミック基板上に以下の方法により検知極、対極、参照極を形成した。まず、ブタノール(n−COH)溶液に6体積%のHClを添加し、さらにイリジウム金属換算で100g/lとなるように塩化イリジウム酸六水和物(HIrCl・6HO)を溶解した塗布液を調製した。次に、この塗布液を上記セラミック基板の窪みのある場所(3×12箇所)に塗布した。塗布液が窪みからはみ出すことを防ぐため、窪み以外の場所はマスクを使用して保護した。これを110℃で10分間乾燥し、次いでマスクを外して340℃に保持した電気炉内で20分間焼成した。これらの塗布、乾燥、焼成を繰り返して、セラミック基板上に酸化イリジウムからなる3つの電極(厚さ約5μm)を作製した。尚、これらの電極はX線回折法による分析において、IrOに相当する回折ピークは見られなかったが、XPSによる分析の結果からIrOであることが判明され、非晶質の二酸化イリジウムからなることを確認した。これら3つの電極のうち、2つの電極をそれぞれ検知極、対極とした。残りの1つの電極(左側)には、この電極上に市販の銀ペースを塗布した後に十分乾燥させてから、2mol/LのKCl水溶液中で電解酸化して塩化銀を形成させ、これを参照極とした。こうして第一実施例のセンサ素子基体を作製した。
続いて手順<1>にしたがって上記作製したセンサ素子基体を洗浄してから、手順<2>にしたがって基体表面をシラン化処理した。次に手順<3>にしたがって調製された過酸化水素選択透過膜の原液20μlを、ピペットで検知極の上にドロップし、35℃の雰囲気中で30分間乾燥して過酸化水素選択透過膜を成膜した。最後に、手順<4>にしたがって調製された酵素膜の原液10μlを、ピペットで検知極上の過酸化水素選択透過膜の上にドロップし、35℃の雰囲気中で30分間乾燥して酵素膜2を成膜した。こうして第1実施例のグルコース測定用センサ素子を製造した。
(実施例2)
実施例1と同じ洗浄したセラミック基板上に以下の方法により検知極、対極、参照極を形成した。ブタノール(n−COH)溶液に6体積%のHClを添加し、さらに塩化イリジウム酸六水和物(HIrCl・6HO)と塩化タンタル(TaCl)がモル比で70:30となるように、かつイリジウムとタンタルの合計が金属換算で100mg/lとなるように溶解した塗布液を調製した。この塗布液をセラミック基板に実施例1と同じ形状で所定箇所に塗布した。これを110℃で10分間乾燥し、次いで340℃に保持した電気炉内で20分間焼成した。これらの塗布、乾燥、焼成を繰り返して、セラミック基板上に3つの電極(厚さ約5μm)を作製した。尚、これらの電極はX線回折法による分析において、IrOに相当する回折ピークは見られなかったが、XPSによる分析の結果からIrOであることが明らかとなった。また、X線回折法では結晶質の酸化タンタル(Ta)に相当する回折ピークは見られなかったが、XPSによる分析の結果から、Taの存在が明らかになった。したがって、セラミック基板上に形成された3つの電極は、いずれも非晶質の二酸化イリジウムと非晶質の酸化タンタルの混合物からなることを確認した。これら3つの電極のうち、2つの電極をそれぞれ検知極、対極とし、残りの1つの電極については、実施例1と同じ方法で銀−塩化銀電極となるようにして、これを参照極に使用した。
上記の検知極、対極、参照極の作製を除いて、実施例1と同じ方法でグルコース測定用センサ素子を作製した。こうして第2実施例のセンサ素子を製造した。
(実施例3)
実施例1と同じ洗浄したセラミック基板上に以下の方法により検知極、対極、参照極を形成した。ブタノール(n−COH)溶液に6体積%のHClを添加し、さらに塩化イリジウム酸六水和物(HIrCl・6HO)と塩化タンタル(TaCl)がモル比で50:50となるように、かつイリジウムとタンタルの合計が金属換算で100mg/lとなるように溶解した塗布液を調製した。この塗布液をセラミック基板に実施例1と同じ形状で所定箇所に塗布した。これを110℃で10分間乾燥し、次いで450℃に保持した電気炉内で20分間焼成した。これらの塗布、乾燥、焼成を繰り返して、セラミック基板上に3つの電極(厚さ約5μm)を作製した。尚、これらの電極はX線回折法による分析において、IrOに相当する回折ピークは見られなかったが、XPSによる分析の結果からIrOであることが明らかとなった。また、X線回折法では結晶質の酸化タンタル(Ta)に相当する回折ピークは見られなかったが、XPSによる分析の結果から、Taの存在が明らかになった。したがって、セラミック基板上に形成された3つの電極は、いずれも非晶質の二酸化イリジウムと非晶質の酸化タンタルの混合物からなることを確認した。これら3つの電極のうち、2つの電極をそれぞれ検知極、対極とし、残りの1つの電極については、実施例1と同じ方法で銀−塩化銀電極となるようにして、これを参照極に使用した。
上記の検知極、対極、参照極の作製を除いて、実施例1と同じ方法でグルコース測定用センサ素子を作製した。こうして第3実施例のセンサ素子を製造した。
(比較例)
実施例1と同じサイズで白金からなる電極をスクリーン印刷法で作成した。3つの電極のうち、2つをそれぞれ検知極、対極とし、残りの電極は実施例1と同じ方法で銀−塩化銀電極となるようにして、これを参照極に使用した。上記の検知極、対極、参照極の作製を除いて、実施例1と同じ方法でグルコース測定用センサ素子を作製した。こうして比較例のセンサ素子を製造した。
実施例1、実施例2、実施例3及び比較例の各センサ素子を1個ずつ切り取ってフローセルに装着し、図6に示すフローインジェクション分析装置で、アスコルビン酸(ASA、100mM)、およびグルコース(GLC、10mM)の溶液に対する応答のピーク電流を測定した。なお、切り取ったセンサ素子はいずれも図5に示す概観を持つ。測定条件を以下に示す。
液体媒体:33mMのリン酸二水素カリウムとリン酸一水素ナトリウム、50mMの塩化カリウム、0.05%のアジ化ナトリウムを含む溶液(pH6.8)
流速:1.0ml/min
サンプル注入量:10μl
チューブ:サンプラーのサンプルインジェクターからセンサまでのチューブ長が120cm、内径が0.8mm
電位印加方式:参照極に対して検知極に0.6Vの定電位を印加した。
得られた結果を、単位濃度当たりの出力(感度)にまとめて表1に示す。
Figure 2006234458
続いてセンサ素子を図1に示すトイレ設置型尿中成分濃度測定装置に準じる評価装置に装着して連続通電測定による耐久試験を行った。この装置は尿中成分濃度測定装置と同様な測定シーケンスを有するが、採尿器の代わりに各種のサンプル溶液を入れたボトムに採尿チューブを差し込んでサンプリングを行う。測定は原則として週5日行い、一日当りの測定は、GLC(11.1mM)とASA(100mM)の各3〜5回で計6〜10回の連続測定であり、所要時間は30〜50分であった。尚、測定していないときはフローセルに液体媒体(組成は上記液体媒体と同様である)を充填し、液が流れていない状態で保持していた。また、試験期間中、検知極には常時参照極に対して0.6Vの電位を印加していた。60日経過した時点の試験結果を表2に示す。
Figure 2006234458
表1から、実施例のセンサ素子では、グルコースおよびアスコルビン酸に対する出力に大差がなく、ASA/GLC選択比(単位濃度当たりのアスコルビン酸とグルコースとの出力電流値の比)3-4%台になっている。これに対して、比較例のセンサでは、グルコースに対する出力電流が実施例に比べて低い一方、アスコルビン酸に対する出力が高めになっていた。その結果、選択比が6%台と高かった。これは、実施例のセンサでは、検知極に酸化イリジウムが用いられているので、グルコースから由来する過酸化水素の検知極表面における酸化反応が液体媒体に存在するアジ化物イオンの影響を受けないが、白金検知極を用いた比較例のセンサでは、グルコースから由来する過酸化水素の検知極表面における酸化反応が液体媒体に存在するアジ化物イオンの影響を受けて低くなった一方、アスコルビン酸の検知極表面における同反応は影響を受けないことに起因する。
また表2から、トイレ設置型尿糖検査装置に準じて60日間使用した後、実施例でのグルコースに対する出力はそれぞれの初期出力に比べて75%から92%のレベルを保つ一方、アスコルビン酸に対する出力はほとんど変化しなかった。その結果、ASA/GLC選択比は4-5%台で初期に比べてほとんど上昇しなかった。これに対して、比較例でのグルコースに対する出力は初期の出力に比べて47%まで低下する一方、アスコルビン酸に対する出力は逆に1.6倍以上に上昇した。その結果、ASA/GLC選択比は20%以上になって初期に比べて大幅に上昇した。
これらの結果に対して以下のように説明することができる。実施例においては酸化イリジウムを含む酸化物からなる検知極を有することでアジ化ナトリウムの影響を受けず、また安定性がよいので、グルコースに対する電流の経時的な低下は小さい。一方、比較例のセンサ素子は、試験期間中、検知極の表面上にアジ化物イオンが累積的に酸化吸着し、その結果、電極の過酸化水素に対する酸化触媒能力が経時的に低下したことにより、グルコースに対する出力が大幅に低下したものと推測された。
一方、検知極の妨害成分であるアスコルビン酸に対する応答性能は、どちらのセンサ素子でも経時的な変化があまりないと考えられるので、実施例と比較例との違いは膜自身の妨害成分に対する透過阻止性能の違いによるものと考えられる。耐久試験後のセンサを外してセンサ膜(過酸化水素選択透過膜と酵素膜を合わせてセンサ膜という)を観察してみたところ、実施例のセンサ膜の所見は耐久試験前とほとんど変わらず、膜が検知極表面に密着していたが、比較例のセンサ膜は検知極表面から剥離し、膜全体が検知極表面を中心としてドーム状に浮き上がっており、センサ膜と検知極との間に液体が入っていた。膜浮きによって過酸化水素選択透過膜が膨張し膜密度が低下した結果、妨害成分に対する透過阻止性能が低下したものと推測された。膜剥離の原因として、白金からなる比較例の検知極とセンサ膜との間に付着力が弱く、使用期間中におけるアジ化物イオンの継続的酸化により生じた窒素ガスよって、膜が表面から剥離したことが考えられる。
これに対して、本発明による酸化イリジウムを使用したセンサ素子の場合、アジ化ナトリウムが反応しないので、窒素ガスが発生しない。さらに、酸化物からなる検知極の表面には容易にシラン処理によってシランカップリング剤を導入でき、その結果、検知極とセンサ膜との間にシランカップリング剤を介して強い共有結合で結ばれているので、膜の基体付着力が比較例のセンサ素子に比べて強い。したがって、長期間使用してもセンサ膜が検知極表面から剥離することがないと推測される。その結果、選択透過膜の劣化が少なく長期間にわたって妨害成分に対する透過阻止性能を保持することができた。
出力および選択比はセンサ素子の使用寿命を決める重要なファクターである。すなわち、装置の測定精度および信頼性を確保するために、予め決められた出力下限と選択比上限で規定された範囲内でセンサ素子を使用することになっている。出力が下限出力値に低下した時、または選択比が上限選択比値に上昇した時、センサが使用寿命に達したと判断される。したがって、本発明の装置に採用されているセンサ素子は、従来に比べて使用寿命が大幅に伸びたことは上記試験結果から理解できる。
本発明は、過酸化水素を測定する方式の濃度測定装置に利用することができ、特に尿、血液、唾液などの生体液からグルコースなどの成分を測定するための携帯用、家庭用、医療用、産業用測定器等に利用可能である。
本発明の一実施形態を示す図である。 本発明の別の実施形態を示す図である。 本発明の濃度測定装置内にある検知極、酵素膜の断面構造を示す図である。 本発明の濃度測定装置内にある検知極、酵素膜、過酸化水素選択透過膜の断面構造を示す図である。 センサ素子の作製に使用されるセラミック基板を示す図である。 センサ素子の概観を示す図である。 センサ素子を評価するための測定システムを示す図である。
符号の説明
1…検知極
2…酵素膜
3…過酸化水素選択透過膜
7…参照極
8…対極
9…検知極
11…尿検査装置
12…採尿ユニット
13…採尿アーム
14…洋式便器
15…酵素膜
20…センサ素子
31…先端部
32…センサ素子モジュール
33…脱着部
35…スイッチ
39…携帯型濃度測定装置本体

Claims (9)

  1. 対極、参照極、検知極を備え、防腐剤を含む液体媒体中の過酸化水素の前記検知極表面における電気化学的酸化によって生じる電流信号を検出することで標的成分の定量を行う濃度測定装置であって、前記検知極が酸化イリジウムまたは酸化イリジウムを含む酸化物であることを特徴とする濃度測定装置。
  2. 前記防腐剤はアジ化ナトリウムであることを特徴とする請求項1に記載の濃度測定装置。
  3. 前記検知極、対極、参照極が絶縁性支持体上に形成されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の濃度測定装置。
  4. 前記検知極が非晶質の二酸化イリジウムまたは非晶質の二酸化イリジウムを含む酸化物からなることを特徴とする請求項3に記載の濃度測定装置。
  5. 前記検知極が、非晶質の二酸化イリジウムと、タンタル、チタン、ニオブ、ジルコニウム、タングステンから選ばれた少なくとも1つ以上の金属の酸化物との混合物からなることを特徴とする請求項4に記載の濃度測定装置。
  6. 前記検知極が、非晶質の二酸化イリジウムと酸化タンタルの混合物からなることを特徴とする請求項5に記載の濃度測定装置。
  7. 前記請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の濃度測定装置であって、少なくとも検知極を覆うように酸化酵素を含む酵素膜が配設されたことを特徴とする濃度測定装置。
  8. 前記酵素膜と前記検知極との間に、過酸化水素を選択的に透過させる機能を有する選択透過膜が配設されたことを特徴とする請求項7に記載の濃度測定装置。
  9. 前記酸化酵素はグルコース酸化酵素であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の濃度測定装置。

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