JP2006230202A - L−グルタミン酸の製造法 - Google Patents
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Abstract
【課題】γ−プロテオバクテリアを用いたL−グルタミン酸の製造において、L−グルタミン酸生産性を向上させる新規な技術を提供する。
【解決手段】L−グルタミン酸生産能を有し、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性が上昇するように改変されたγ−プロテオバクテリアを培地に培養し、L−グルタミン酸を培養物中に生成蓄積させ、該培養物よりL−グルタミン酸を採取することにより、L−グルタミン酸を製造する。
【選択図】 図4
【解決手段】L−グルタミン酸生産能を有し、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性が上昇するように改変されたγ−プロテオバクテリアを培地に培養し、L−グルタミン酸を培養物中に生成蓄積させ、該培養物よりL−グルタミン酸を採取することにより、L−グルタミン酸を製造する。
【選択図】 図4
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、発酵工業に関し、詳しくは、L−グルタミン酸の製造法及びそれに用いる細菌に関する。L−グルタミン酸は調味料原料等として広く用いられている。
【0002】
【従来の技術】
従来、L−グルタミン酸は、L−グルタミン酸生産能を有するブレビバクテリウム属やコリネバクテリウム属に属するコリネ型細菌を用いて発酵法により工業生産されている。また、また、近年では、エシェリヒア・コリやパントエア・アナナティス(エンテロバクター・アグロメランス)等の細菌を用いたL−グルタミン酸の製造法も開発されている。
【0003】
また、組換えDNA技術によりL−グルタミン酸の生合成酵素を増強することによって、L−グルタミン酸の生産能を増加させる種々の技術が開示されている。
さらに、酸性条件下でL−グルタミン酸生産能を有する微生物を培養液中に蓄積するL−グルタミン酸を析出させながら発酵を行う方法が開発されている。従来、通常のL−グルタミン酸生産菌は酸性条件下では生育できないため、L−グルタミン酸発酵は中性で行われていたが、酸性条件下でL−グルタミン酸生産能を有する微生物として見い出されたエンテロバクター・アグロメランスを、pHがL−グルタミン酸が析出する条件に調整された液体培地で培養することによって、培地中にL−グルタミン酸を析出させながら生成蓄積させることができる(特許文献1)。
【0004】
ところで、エシェリヒア・コリのキノンオキシドレダクターゼ遺伝子(qor)の塩基配列が公開されている(非特許文献1)。しかし、キノンオキシドレダクターゼと、L−グルタミン酸の生産性及び細菌の耐酸性との関連は知られていない。
【0005】
【特許文献1】
欧州特許出願公開第1078989号明細書
【非特許文献1】
GenBank accession g1790485
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、γ−プロテオバクテリアを用いたL−グルタミン酸の製造において、L−グルタミン酸生産性を向上させる新規な技術を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、コリネ型細菌の耐酸性に関与する遺伝子に関する研究を行う過程で、ORF39と名付けられた遺伝子の遺伝子発現産物がキノンオキシドレダクターゼ活性を有することを見出した。そして、キノンオキシドレダクターゼ活性を上昇させることにより、γ−プロテオバクテリアのL−グルタミン酸生産能を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
【0008】
(1)L−グルタミン酸生産能を有するγ−プロテオバクテリアを培地に培養し、L−グルタミン酸を培養物中に生成蓄積させ、該培養物よりL−グルタミン酸を採取する、L−グルタミン酸の製造法において、前記細菌は、キノンオキシドレダクターゼ活性が上昇するように改変されていることを特徴とする方法。
(2)キノンオキシドレダクターゼをコードする遺伝子のコピー数を高めること、又は前記細菌のキノンオキシドレダクターゼをコードする遺伝子の発現が増強されるように同遺伝子の発現調節配列を改変することにより、細胞内のキノンオキシドレダクターゼ活性が上昇したことを特徴とする(1)に記載の方法。
(3)前記γ−プロテオバクテリアがエシェリヒア属又はパントエア属に属する細菌である(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記細菌は、エシェリヒア属又はパントエア属に属する細菌のキノンオキシドレダクターゼをコードする遺伝子が導入されたことを特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(5)キノンオキシドレダクターゼが、下記(A)又は(B)に示すタンパク質である(4)に記載の方法。
(A)配列番号21に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号21に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を含むアミノ酸配列からなり、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性を有するタンパク質。
(6)キノンオキシドレダクターゼをコードする遺伝子が、下記(a)又は(b)に示すDNAである(4)に記載の方法。
(a)配列番号20の塩基番号304〜1287からなる塩基配列を有するDNA。
(b)配列番号20の塩基番号304〜1287からなる塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(7)前記細菌は、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼを欠損していることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)L−グルタミン酸生産能を有し、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性が上昇するように改変されたγ−プロテオバクテリア。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
<1>本発明のγ−プロテオバクテリア
本発明のγ−プロテオバクテリアは、L−グルタミン酸生産能を有し、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性が上昇するように改変されたγ−プロテオバクテリアである。
【0011】
本発明において、「L−グルタミン生産能」とは、本発明のγ−プロテオバクテリアを培養したときに、培地中にL−グルタミンを蓄積する能力をいう。
本発明に用いるγ−プロテオバクテリアとしては、パントエア属、エシェリヒア属、エンテロバクター属、クレブシエラ属、セラチア属、エルビニア属、サルモネラ属、モルガネラ属など、γ−プロテオバクテリアに属する微生物であって、L−グルタミン酸生産能を有し、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性を上昇させることによってL−グルタミン酸生産能が向上するものであれば、特に限定されない。具体的にはNCBI(National Center for Biotechnology Information)データベースに記載されている分類によりγ−プロテオバクテリアに属するものが利用できる(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/htbin-post/Taxonomy/wgetorg?mode=Tree&id=1236&lvl=3&keep=1&srchmode=1&unlock)。
【0012】
エシェリヒア属細菌としては、エシェリヒア・コリ等が挙げられる。また、パントエア属細菌としては、パントエア・アナナティス(P. ananatis)、パントエア・アグロメランス(P. agglomerans)、パントエア・スチューアルティ(P. stewartii)等が挙げられる。また、エンテロバクター属細菌としては、エンテロバクター・アグロメランス、エンテロバクター・アエロゲネス等が挙げられる。尚、近年、エンテロバクター・アグロメランスは、16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アグロメランス、パントエア・アナナティス、又はパントエア・スチューアルティ等に再分類されているものがある。本発明において、パントエア属細菌にはこのようなエンテロバクター属細菌も含まれる。
【0013】
L−グルタミン酸生産能を有するエシェリヒア属細菌としては、例えば、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(αKGDH)活性が欠損もしくは、低下したエシェリヒア属細菌、及び、L−グルタミン酸分解能が低下したエシェリヒア属細菌等が挙げられる。
【0014】
αKGDH活性が欠損もしくは低下したエシェリヒア属細菌およびその取得方法は、特開平5-244970号公報及び特開平7-203980号公報に記載されている。具体的には次のような株が挙げられる。
【0015】
エシェリヒア・コリW3110sucA::Kmr
エシェリヒア・コリAJ12624(FERM BP-3853)
エシェリヒア・コリAJ12628(FERM BP-3854)
エシェリヒア・コリAJ12949(FERM BP-4881)
エシェリヒア・コリW3110sucA::Kmrは、エシェリヒア・コリW3110のαKGDH遺伝子(以下、「sucA遺伝子」)と略す)が破壊されて得られた株であり、αKGDH完全欠損株である。また、後記実施例に記載されたエシェリヒア・コリMG1655ΔsucA株も、好適な菌株の一つである。
【0016】
また、L−グルタミン酸分解能が低下したエシェリヒア・コリとしては、FERM P-12379株(米国特許第5,393,671号);エシェリヒア・コリAJ13138株(FERM BP-5565)(米国特許第6,110,714号)等が挙げられる。
【0017】
さらに、L−グルタミン酸生産能を有するエシェリヒア属細菌として、L−バリン耐性株、例えば、エシェリヒア・コリB11、エシェリヒア・コリK-12(ATCC10798)、エシェリヒア・コリB(ATCC11303)、エシェリヒア・コリW(ATCC9637)等が挙げられる。
【0018】
L−グルタミン酸生産能を有するパントエア属細菌としては、例えば、パントエア・アナナティスAJ13355株、及び同株から誘導された菌株AJ13356、及びAJ13601等が挙げられる(実施例参照)。AJ13355株は、静岡県磐田市の土壌から、低pHでL−グルタミン酸及び炭素源を含む培地で増殖できる株として分離された株である。同株は、平成10年2月19日に、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現名称、産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所)に、受託番号FERM P-16644として寄託され、平成11年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-6614が付与されている。尚、同株は、分離された当時はエンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)と同定され、エンテロバクター・アグロメランスAJ13355として寄託されたが、近年16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)に再分類されている(後記実施例参照)。
【0019】
また、前記AJ13356、及びAJ13601も、同様にエンテロバクター・アグロメランスとして前記寄託機関に寄託されているが、本明細書ではパントエア・アナナティスと記述する。
【0020】
前記AJ13356株は、αKGDH−E1サブユニット遺伝子(sucA)が破壊された結果、αKGDH活性を欠損している。αKGDH活性が欠損もしくは低下したパントエア属細菌およびその取得方法は、欧州特許公開第1078989号に記載されている。AJ13356株は、平成10年2月19日に、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現名称、産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所)に、受託番号FERM P-16645として寄託され、平成11年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-6615が付与されている。
【0021】
前記AJ13601株は、AJ13355株からの粘液質低生産株の選択、αKGDH遺伝子の破壊、エシェリヒア・コリ由来のgltA、ppc、gdhAの各遺伝子、及びブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のgltA遺伝子の導入、低pHにおける高濃度L−グルタミン酸耐性株の選択、及び増殖度及びL−グルタミン酸生産能が高い株の選択によって、取得された菌株である。前記各遺伝子については後述する。AJ13601株は、平成11年8月18日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現名称、産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所)(郵便番号305-8566 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)に受託番号FERM P-17516として寄託され、平成12年7月6日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-7207が付与されている。
【0022】
また、前記AJ13601株から、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のgltA遺伝子を含むプラスミド(pSTVCB)を脱落させ、エシェリヒア・コリ由来のgltA、ppc、gdhAの各遺伝子を含むプラスミド(RSFCPG)のみを保有する菌株G106S株も、好適な菌株の一つである(実施例参照)。
【0023】
本発明の細菌が持つL−グルタミン生産能は、γ−プロテオバクテリアの野生株の性質として有するものであってもよく、育種によって付与または増強された性質であってもよい。
【0024】
L−グルタミン酸生産能は、例えば、L−グルタミン酸の生合成反応を触媒する酵素の活性を高めることによって、付与又は増強することができる。また、L−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性を低下または欠損させることによっても、L−グルタミン酸生産能を増強することができる。
【0025】
L−グルタミン酸の生合成反応を触媒する酵素としては、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(以下、「GDH」ともいう)、グルタミンシンセターゼ、グルタミン酸シンターゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、アコニット酸ヒドラターゼ、クエン酸シンターゼ(以下、「CS」ともいう)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(以下、「PEPC」ともいう)、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、エノラーゼ、ホスホグリセロムターゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、フルクトースビスリン酸アルドラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼ等が挙げられる。これらの酵素の中では、CS、PEPCおよびGDHのいずれか1種または2種もしくは3種が好ましい。さらに、L−グルタミン酸蓄積微生物においては、CS、PEPCおよびGDHの3種の酵素の活性がともに高められていることが好ましい。特に、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムのCSは、α−ケトグルタル酸、L−グルタミン酸及びNADHによる阻害を受けないため、好ましいものである。
【0026】
CS、PEPCまたはGDH活性を高めることは、後述するキノンオキシドレダクターゼ活性の増強と同様の方法によって、達成することができる。すなわち、例えば、CS、PEPCまたはGDHをコードする遺伝子(以下、おのおのをこの順に「gltA遺伝子」、「ppc遺伝子」、「gdhA遺伝子」と略する)のコピー数が上昇させるか、又は、これらの遺伝子の発現が増強されるように、これらの遺伝子の発現調節配列を改変することによって、CS、PEPCまたはGDH活性を高めることができる。他の酵素の活性も、同様にして高めることができる。
【0027】
gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子の供給源となる生物としては、CS、PEPC及びGDH活性を有する生物ならいかなる生物でも良い。なかでも原核生物である細菌、たとえばパントエア属、エンテロバクター属、クレブシェラ属、エルビニア属、セラチア属、エシェリヒア属、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、バチルス属に属する細菌が好ましい。具体的な例としては、エシェリヒア・コリ、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム等が挙げられる。gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子は、上記のような微生物の染色体DNAより得ることができる。
【0028】
gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子は、おのおのCS、PEPCもしくはGDH活性を欠失した変異株を用いてその栄養要求性を相補するDNA断片を上記微生物の染色体DNAから単離することによって取得できる。またエシェリヒア属のこれら遺伝子、コリネバクテリウム属細菌のこれら遺伝子は既に塩基配列が明らかにされていることから(Biochemistry、第22巻、5243〜5249頁、1983年;J.Biochem.、第95巻、909〜916頁、1984年;Gene、第27巻、193〜199頁、1984年;Microbiology、第140巻、1817〜1828頁、1994年;Mol.Gen.Genet.、第218巻、330〜339頁、1989年;Molecular Microbiology、第6巻、317〜326頁、1992年)それぞれの塩基配列に基づいてプライマーを合成し、染色体DNAを鋳型にしてPCR法により取得することが可能である。尚、エンテロバクター属又はクレブシエラ属細菌等の腸内細菌においては、同種の細菌由来のgltA遺伝子に比べて、コリネ型細菌由来のgltA遺伝子の導入が、L−グルタミン酸生産能の増強に有効であることが知られている(欧州特許出願公開第0999282号)。同公報においては、本願明細書に記載のパントエア・アナナティスの菌株はエンテロバクター・アグロメランスと記載されている。
【0029】
L−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素としては、αKGDH、イソクエン酸リアーゼ、リン酸アセチルトランスフェラーゼ、酢酸キナーゼ、アセトヒドロキシ酸シンターゼ、アセト乳酸シンターゼ、ギ酸アセチルトランスフェラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、1−ピロリンデヒドロゲナーゼ等がある。これらの酵素の中では、αKGDHが好ましい。
【0030】
パントエア属等に属する微生物において、上記のような酵素の活性を低下または欠損させるには、通常の変異処理法によって、あるいは遺伝子工学的手法によって、上記酵素の遺伝子に、細胞中の当該酵素の活性が低下または欠損するような変異を導入すればよい。
【0031】
変異処理法としては、たとえばX線や紫外線を照射する方法、またはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン等の変異剤で処理する方法等がある。遺伝子に変異が導入される部位は、酵素タンパク質をコードするコード領域であってもよく、プロモーター等の発現制御領域であってもよい。
【0032】
また、遺伝子工学的手法には、例えば遺伝子組換え法、形質導入法、細胞融合法等を用いる方法がある。例えば、クローン化された目的遺伝子の内部に薬剤耐性遺伝子を挿入し、機能を失った遺伝子(欠失型遺伝子)を作製する。次いで、この欠失型遺伝子を宿主微生物の細胞に導入し、相同組み換えを利用して染色体上の目的遺伝子を前記欠失型遺伝子に置換する(遺伝子破壊)。
【0033】
細胞中の目的酵素の活性が低下または欠損していること、および活性の低下の程度は、候補株の菌体抽出液または精製画分の酵素活性を測定し、野生株と比較することによって確認することができる。例えば、αKGDH活性は、Reedらの方法(L.J.Reed and B.B.Mukherjee, Methods in Enzymology 1969, 13, p.55-61)に従って測定することができる。
【0034】
また、目的とする酵素によっては、変異株の表現型によって目的変異株を選択することができる。例えば、αKGDH活性が欠損もしくは低下した変異株は、好気的培養条件ではグルコースを含む最少培地、あるいは、酢酸やL−グルタミン酸を唯一の炭素源として含む最少培地で増殖できないか、または増殖速度が著しく低下する。ところが、同一条件でもグルコースを含む最少培地にコハク酸またはリジン、メチオニン、及びジアミノピメリン酸を添加することによって通常の生育が可能となる。これらの現象を指標としてαKGDH活性が欠損もしくは低下した変異株の選抜が可能である。
【0035】
相同組換えを利用したブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムのαKGDH遺伝子欠損株の作製法は、WO95/34672号に詳述されており、他の微生物にも同様の方法を適用することができる。
【0036】
その他、遺伝子のクローニング、DNAの切断、連結、形質転換法等の技術については、Molecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press (1989))等に詳述されている。
【0037】
また、本発明に用いられるγ−プロテオバクテリアの一例であるパントエア・アナナティスは、糖を含有する培地で培養を行うと、菌体外に粘液質を生成するために、操作効率がよくないことがある。したがって、このような粘液質を生成する性質を有するパントエア・アナナティスを用いる場合には、粘液質の生成量が野生株よりも低下した変異株を用いることが好ましい。変異処理法としては、たとえばX線や紫外線を照射する方法、またはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン等の変異剤で処理する方法等がある。また、粘液質の生成量が低下した変異株は、変異処理した菌株を、糖を含む培地、例えば5g/Lのグルコースを含むLB培地プレートに撒き、プレートを約45°傾けて培養したときに、液質が流れ落ちないようになったコロニーを選抜することによって選択することができる。
【0038】
本発明において、L−グルタミン酸生産能の付与又は増強、及び上記の粘液質低生産変異等の好ましい性質の付与は、任意の順序で行うことができる。
【0039】
上記のようなL−グルタミン酸生産菌の育種に用いられる遺伝子として、パントエア・アナナティスのsucA遺伝子の塩基配列及び同遺伝子によってコードされるαKGDH−E1サブユニットのアミノ酸配列を、配列番号11及び配列番号13に示す。
【0040】
また、エシェリヒア・コリ由来のgltA遺伝子、gdhA遺伝子、及びppc遺伝子を含むプラスミドRSFCPG(実施例参照)の塩基配列を配列番号22に示す。配列番号22において、gltA遺伝子、、gdhA遺伝子、及びppc遺伝子のコード領域は、それぞれ塩基番号1770〜487(相補鎖によってコードされる)、2598〜3941、7869〜5218(相補鎖によってコードされる)に相当する。これらの遺伝子によってコードされるCS、GDH及びPEPCのアミノ酸配列を、配列番号23、24、25に示す。さらに、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のgltA遺伝子を含むプラスミドpSTVCB(実施例1参照)の塩基配列及び同遺伝子によってコードされるCSのアミノ酸配列を、配列番号26及び配列番号27に示す。
【0041】
CS、GDH及びPEPCは、野生型の他に、各々の酵素の活性を実質的に損なわないような1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有するものであってもよい。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には2から30個、好ましくは、2から20個、より好ましくは2から10個である。
【0042】
上記のようなCS、GDH及びPEPCと実質的に同一のタンパク質又はペプチドをコードするDNAとしては、配列番号26に示す塩基配列、又は配列番号22に示す塩基配列中のそれぞれのオープンリーディングフレーム(ORF)又はそれらの塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつCS、GDH又はPEPCの活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0043】
プローブとして、配列番号26に示す塩基配列、又は配列番号22の塩基配列中の各ORF又はそれらの一部の配列を用いることもできる。そのようなプローブは、配列番号26又は22の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、配列番号26もしくは22又はそれらの一部の塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとして、300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられる。
【0044】
遺伝子破壊に用いる欠失型sucA遺伝子は、目的とする微生物の染色体DNA上のsucA遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有していればよい。このような相同性は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA同士であれば、相同組換えは起こり得る。
【0045】
本発明のγ−プロテオバクテリアは、上記のようなL−グルタミン酸生産能を有するγ−プロテオバクテリアであって、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性が上昇するように改変されたγ−プロテオバクテリアである。
【0046】
「キノンオキシドレダクターゼ活性(以下、「QOR活性」ともいう)」とは、1,2-NQ(1,2-ナフトキノン(1,2-naphthoquinone))や9,10-PQ(9,10-フェナンスレンキノン(9,10-phenanthrenequinone))などのキノンを還元する活性をいう。QOR活性は、例えば、基質として1,2-NQ又は9,10-PQ、及び補酵素としてNADPHを含む反応系において、NADPHの減少を340nmの吸光度の変化を測定することによって、測定することができる(P.V.Rao C.M.Krishna J.S.Zigler Jr., Jounal of Biological Chemistry, 267(1), pp96-102, 1992)。
【0047】
「細胞内のQOR活性が上昇するように改変された」とは、細胞当たりのQOR活性が非改変株、例えば野生型のγ−プロテオバクテリアのそれよりも高くなったことをいう。例えば、細胞当たりのQOR分子の数が増加した場合や、QOR分子当たりの活性が上昇した場合などが該当する。また、比較対象となる野生型のγ−プロテオバクテリアとしては、例えばエシェリヒア・コリMG1655、及びパントエア・アナナティスが挙げられる。γ−プロテオバクテリアのQOR活性が上昇すると、同細菌のL−グルタミン酸生産能が上昇する。また、酸性条件下での生育が向上する。
【0048】
γ−プロテオバクテリア細胞内のQOR活性の増強は、QORをコードする遺伝子(qor)の発現を増強することによって達成される。同遺伝子の発現量の増強は、qorのコピー数を高めることによって達成される。例えば、qor断片を、該細菌で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型のベクターと連結して組換えDNAを作製し、これをL−グルタミン生産能を有する宿主に導入して形質転換すればよい。また、野生型のγ−プロテオバクテリアに上記組換えDNAを導入して形質転換株を得、その後当該形質転換株にL−グルタミン生産能を付与してもよい。
【0049】
qorは、γ−プロテオバクテリア由来の遺伝子および他の生物由来の遺伝子のいずれも使用することができる。このうち、発現の容易さの観点からは、γ−プロテオバクテリア由来の遺伝子が好ましい。また、宿主細菌は、qorの採取源である細菌と同じ属に属する細菌であることが好ましい。
【0050】
エシェリヒア・コリのqorは、既に配列が明らかにされている(GenBank accession g1790485)ので、その塩基配列に基づいて作製したプライマー、例えば配列番号5及び6に示すプライマーを用いて、エシェリヒア・コリの染色体DNAを鋳型とするPCR法(PCR:polymerase chain reaction; White,T.J. et al., Trends Genet. 5, 185 (1989)参照)によって、qorとその隣接領域を取得することができる。また、パントエア・アナナティスのqorは、例えば配列番号18及び19に示すプライマーを用いて、パントエア・アナナティスの染色体DNAを鋳型とするPCR法によって取得することができる。他の微生物のqorのホモログも、同様にして取得され得る。
【0051】
パントエア・アナナティスのqorの塩基配列の一例を、配列番号20に示す。また、同塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を配列番号21に示す。
染色体DNAは、DNA供与体である細菌から、例えば、斎藤、三浦の方法(H. Saito and K.Miura, Biochem.B iophys. Acta, 72, 619 (1963)、生物工学実験書、日本生物工学会編、97〜98頁、培風館、1992年参照)等により調製することができる。
【0052】
PCR法により増幅されたqorは、γ−プロテオバクテリアの細胞内において自律複製可能なベクターDNAに接続して組換えDNAを調製し、これをγ−プロテオバクテリアに導入する。このようなベクターとしては、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pBR322、pACYC184、pMW219、pSTV28、pTWV228等が挙げられる。
【0053】
qorとγ−プロテオバクテリアで機能するベクターを連結して組換えDNAを調製するには、qorの末端に合うような制限酵素でベクターを切断する。連結はT4 DNAリガーゼ等のリガーゼを用いて行うのが普通である。
【0054】
上記のように調製した組換えDNAをγ−プロテオバクテリアに導入するには、これまでに報告されている形質転換法に従って行えばよい。例えば、エシェリヒア・コリ K−12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel,M.and Higa,A.,J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))があり、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan,C.H.,Wilson,G.A.and Young,F.E., Gene, 1, 153 (1977))がある。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法( Chang,S.and Choen,S.N.,Molec. Gen. Genet., 168, 111 (1979);Bibb,M.J.,Ward,J.M.and Hopwood,O.A.,Nature, 274, 398 (1978);Hinnen,A.,Hicks,J.B.and Fink,G.R.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 1929 (1978))も応用できる。また、エレクトロポレーション法(Miller J.H., “A Short Course in Bacterial Genetics; Handbook”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, U.S.A., p.279, 1992)も利用することができる。
【0055】
qorのコピー数を高めることは、qorをγ−プロテオバクテリアの染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。γ−プロテオバクテリアの染色体DNA上にqorを多コピーで導入するには、染色体DNA上に多コピー存在する配列を標的に利用して相同組換えにより行う。染色体DNA上に多コピー存在する配列としては、レペティティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーテッド・リピートが利用できる。あるいは、特開平2-109985号公報に開示されているように、qorをトランスポゾンに搭載してこれを転移させて染色体DNA上に多コピー導入することも可能である。
【0056】
QOR活性の増強は、上記の遺伝子増幅による以外に、染色体DNA上またはプラスミド上のqorのプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換することによっても達成される。例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター等が強力なプロモーターとして知られている。また、国際公開WO00/18935に開示されているように、qorのプロモーター領域に数塩基の塩基置換を導入し、より強力なものに改変することも可能である。これらのプロモーター置換または改変によりqorの発現が強化され、QOR活性が増強される。これら発現調節配列の改変は、qorのコピー数を高めることと組み合わせてもよい。
【0057】
発現調節配列の置換は、例えば、温度感受性プラスミドを用いた遺伝子置換と同様にして行うことができる。エシェリヒア・コリの温度感受性プラスミドとしては、p48K及びpSFKT2(以上、特開2000-262288号公報参照)、pHSC4(フランス特許公開1992年2667875号公報、特開平5-7491号公報参照)、pMAN997(WO 99/03988号国際公開パンフレット)等が挙げられる。
【0058】
本発明に用いるqorは、コードされるタンパク質のQOR活性が損なわれない限り、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むQORをコードするものであってもよい。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には2から30個、好ましくは、2から20個、より好ましくは2から10個である。
【0059】
上記のようなQORと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むように、qorの塩基配列を改変することによって得られる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている変異処理によっても取得され得る。変異処理としては、変異処理前のDNAをヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、及び変異処理前のDNAを保持する微生物、例えばエシェリヒア属細菌を、紫外線照射またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。
【0060】
上記のような変異を有するDNAを、適当な細胞で発現させ、発現産物の活性を調べることにより、QORと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。また、変異を有するQORをコードするDNAまたはこれを保持する細胞から、例えば報告されているエシェリヒア・コリのqor遺伝子の塩基配列(GenBank accession g1790485)、もしくはパントエア・アナナティスのqor遺伝子の塩基配列(配列番号20に記載の塩基配列のうち塩基番号304〜1287からなる塩基配列)、又はそれら一部を有するプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、QOR活性を有するタンパク質をコードするDNAが得られる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば40%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%、最も好ましくは90%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0061】
プローブとして、前記遺伝子の塩基配列の一部の配列を用いることもできる。そのようなプローブは、前記qor遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、qor遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとして、300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられる。
【0062】
QORと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAとして具体的には、配列番号21に示すアミノ酸配列と、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上の相同性を有し、かつQOR活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。尚、エシェリヒア・コリのqorとパントエア・アナナティスのqorは、アミノ酸レベルで70%の相同性を有している。
【0063】
<2>L−グルタミン酸の製造法
上記のようにして得られるγ−プロテオバクテリアを培地で培養し、該培地中にL−グルタミンを生成蓄積せしめ、該培地からL−グルタミンを採取することにより、L−グルタミンを効率よく製造することができる。
【0064】
本発明のγ−プロテオバクテリアを用いてL−グルタミンを生産するには、炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する通常の培地を用いて常法により行うことができる。合成培地または天然培地のいずれも使用可能である。培地に使用される炭素源および窒素源は培養する菌株の利用可能であるものならばいずれの種類を用いてもよい。
【0065】
炭素源としては、グルコース、グリセロール、フラクトース、スクロース、マルトース、マンノース、ガラクトース、澱粉加水分解物、糖蜜等の糖類が使用され、その他、酢酸、クエン酸等の有機酸、エタノール等のアルコール類も単独あるいは他の炭素源と併用して用いられる。
【0066】
窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、りん酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩または硝酸塩等が使用される。
【0067】
有機微量栄養素としては、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、更にこれらのものを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆たん白分解物等が使用され、生育にアミノ酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には要求される栄養素を補添することが好ましい。
【0068】
無機塩類としてはりん酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等が使用される。
培養は、発酵温度20〜45℃、pHを5〜9に制御し、通気培養を行う。培養中にpHが下がる場合には、炭酸カルシウムを加えるか、アンモニアガス等のアルカリで中和する。かくして10時間〜120時間程度培養することにより、培養液中に著量のL−グルタミンが蓄積される。
【0069】
培養終了後の培養液からL−グルタミンを採取する方法は、公知の回収方法に従って行えばよい。例えば、培養液から菌体を除去した後に、濃縮晶析することによって採取される。
【0070】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0071】
【実施例1】ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムの耐酸性に関与する遺伝子の取得
<1>ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム野生株からの耐酸性変異株の取得
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムの野生株ATCC13869株を、以下の方法で変異剤N−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)を用いて変異処理した。ATCC13869株を、CM2B培地(10g/Lポリペプトン、10g/Lイーストエキストラクト、5g/L NaCl、10μg/Lビオチン、pH7.0)8mlを入れた4ml試験管2本で、660nmにおける吸光度(OD660)が約0.7になるまで振とう培養した。培養後の菌体を、50mM リン酸緩衝液(pH7.0)で2回洗浄後、500μlの50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体懸濁液に、最終濃度が0.5μg/μlとなるようにNTGを添加し、31.5℃で10分間インキュベート後、50mM リン酸緩衝液(pH7.0)3回で洗浄、200μlの50mM リン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体を、8ml CM2B培地に接種し、31.5℃で一晩培養し、変異処理菌体を調製した。
【0072】
上記の変異処理菌体から、耐酸性変異株を濃縮するため、S型ジャーファーメンターを用いて、酸性条件下での連続培養を行った。方法は、以下のとおりである。300mlの培地(60g/Lグルコース、1.4g/L H3PO4、750mg/L MgSO4・7H2O、15mg/L FeSO4・7H2O、1.35g/L(N量として)大豆加水分解物(「豆濃」(mameno)(味の素(株))、450μg/L ビタミンB1-HCl、450μg/Lビオチン、3μg/LビタミンB12、7.5mg/L PABA(パラアミノ安息香酸)、7.5mg/LビタミンC、500mg/L DL-メチオニン、1ml/L 消泡剤AZ-20R(日本油脂社製))に、上記の変異処理菌体を接種して31.5℃で培養した。グルコースが完全消費された後からは、フィード液(上記培地と同じ培地)を添加し、培地の液量が450mlで一定に保たれるように培養液の引き抜きをフィードと同時に行い、6日間の連続培養を行った。pH7.0で培養を開始し、6日間培養を行った。培地のpHは、培養時間の経過とともに自然に徐々に低下し、pH4.9になるまで培養した。
【0073】
上記の連続培養菌体から、耐酸性変異株のスクリーニングを行った。スクリーニングの方法は以下のとおりである。連続培養菌体を、pH5.7(KOHで調整)のMM/MES培地(20g/Lグルコース、10g/L (NH4)2SO4、1g/L KH2PO4、0.4g/L MgSO4・7H2O、10mg/L FeSO4・7H2O、10mg/L MnSO4・4-5H2O、200μg/L ビタミンB1-HCl、50μg/Lビオチン、5mg/Lニコチンアミド、1g/L NaCl、1g/Lカザミノ酸、50mg/L L−トリプトファン、30mg/L L−システイン、100mM MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、20g/L寒天)に、1プレートあたり約104個細胞の菌体密度となるように均一に塗り広げ、31.5℃、6日間の培養の後形成されたコロニーを取得した。野生株はpH5.7ではコロニー形成ができないため、この操作によって取得される株は、酸性下でコロニー形成が可能な耐酸性変異株と考えられる。こうして、耐酸性変異株16-1株及び16-20株を取得した。また、pH5.9の培地を使用したことと、3日間の培養を行ったこと以外は、全て同じ方法によって、耐酸性変異株15-11株を取得した。
【0074】
<2>ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム16-1株、16-20株、及び15-11株に特有の遺伝子の単離
(1)ゲノムライブラリーの作製
上記のようにして取得したブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム16-1株、16-20株、及び15-11株の各菌株から染色体DNAを調製し、制限酵素Sau3AIにより部分分解し、4〜6kbpのDNA断片を精製した。これらのDNA断片を、エシェリヒア・コリとコリネバクテリウム属細菌の双方の菌体内で自律複製可能なプラスミドベクター(pSFK6)のBamHIサイトに挿入した。16-1株では約14000クローン、16-20株では約7000クローン、15-11株では約14000クローンからなるゲノムライブラリーを得た。
【0075】
前記pSFK6は、エシェリヒア・コリ用のベクターpHSG399(S. Takeshita et al : Gene 61,63-74(1987)参照、宝酒造(株)から購入できる)とストレプトコッカス・フェカリスのカナマイシン耐性遺伝子から作製されたプラスミドpK1と、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869より抽出したプラスミドpAM330(米国特許第4,427,773号、特開昭58-67699号公報参照)から構築されたプラスミドである(特開2000-262288号公報、米国特許第6,303,383号)。
【0076】
(2)耐酸性変異株特有の遺伝子の取得
16-1株、16-20株、及び15-11株の各々のゲノムライブラリーを、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869に導入した。プラスミドの導入には、電気パルス法(特開平2-207791)を用いた。形質転換体をpH5.7のMM/MESプレートに蒔き、31.5℃、7〜9日間の培養の後、コロニーを形成したクローンを取得した。各変異株ゲノムライブラリーについて数十万クローンの検索を行った。ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869は、pH5.7以下のMM/MESプレートでのコロニー形成ができないことから、取得されたクローンはプラスミド上の遺伝子によって耐酸性が付与されたものであると考えられる。このようなクローンが4種類(クローン#D5、クローン#F1、クローン#F2、クローン#H87)取得された。
【0077】
【実施例2】ORF39遺伝子産物からのQOR活性の検出
上記各クローン#D5、#F1、#F2、及び#H87が持つプラスミド上のゲノムDNA断片の塩基配列中には、各々オープンリーディングフレーム(ORF)が含まれていた。各ORFについて公知のエシェリヒア・コリのゲノム配列との相同性検索を行ったところ、クローン#F2が持つプラスミドに含まれるORF(以下、「ORF39」という)は、エシェリヒア・コリのqor遺伝子とアミノ酸配列レベルで約30%の相同性が認められた。ORF39及びその隣接領域の塩基配列を配列番号1に示す。ORF39がコードするアミノ酸配列を配列番号2に示す。尚、配列番号1の塩基番号1〜7は、pHSG399に由来する配列である。
【0078】
ORF39がコードするタンパク質がQOR活性を有している可能性について検討を行った。まず、ORF39遺伝子産物の精製を行うため、ヒスチジンタグ(His-tag)を付加したORF39遺伝子産物の発現プラスミドを作製した。
【0079】
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869株のゲノムを鋳型とし、下記オリゴヌクレオチドをプライマーとするPCRにより、ORF39のC’末端に6個のヒスチジン(His×6)をコードするDNA配列を融合させたDNA断片を取得した。PCRは、Pyrobest DNA polymerase(宝酒造社製)を使用し、94℃ 5分の後、98℃ 5秒、65℃ 10秒、72℃ 1分を30サイクル行った。
【0080】
(プライマーCHIC-FW)
ccggaattcgggcaagcacaatgtgcttcgacactc(配列番号3)
(プライマーCHIC-RV)
aaactgcagttagtggtggtggtggtggtggattgccaacacgatttttccggtgctg(配列番号4)
【0081】
増幅産物を、プライマー上に設計しておいたEcoRIサイト(プライマーCHIS-FW)とPstIサイト(プライマーCHIS-RV)で切断し、得られた断片を発現ベクターpTrc99A(Parmacia Biotech社製)のEcoRI-PstIサイトに挿入し、pCHIS145を作製した。なお、プライマーCHIS-RVは、ORF39のC'末端最後のアミノ酸残基にHis×6がイン−フレームで融合されるように設計されており、その後ろには終始コドン及びPstIサイトが設計されている。また、プライマーCHIS-FWにはEcoRIサイトが導入されており、PCR産物(ORF39)をこのEcoRIサイトで切断し、pTrc99AのEcoRI サイトに連結させた場合に、pTrc99A上のtrcプロモーター下流に存在する開始コドンに対してORF39の5'末端がイン−フレームで融合されるように設計されている。こうしてORF39遺伝子産物のC'末端にHis×6が融合されたタンパク質を発現するためのDNA配列が、pTrc99Aのtrcプロモーター下流に連結されたプラスミド(pCHIS145)を作製した。pCHIS145をエシェリヒア・コリJM109株(宝酒造社製)に導入し、JM109/pCHIS145株を得た。
【0082】
次に、His-tagを利用したORF39遺伝子産物の精製を行った。このJM109/pCHIS145株をLB培地(5mM IPTG添加)にOD660=0.10となるように菌体を接種し、OD660=0.7となるまで37℃で振とう培養を行った。ODは、Tokyo Photoelectric社製ANA-7Aを用いて測定した。12mlの培養液から菌体を回収し、0.85M NaClで3回菌体を洗浄した。菌体を600μlの吸着・洗浄液(MagExtractor-His-tag-、東洋紡社製)に懸濁し、5分間の超音波破砕を行った後、遠心分離により上清を分離して粗酵素液を取得した。
【0083】
上記粗酵素液から、MagExtractor-His-tag-(東洋紡社製)を使用して精製ORF39産物(精製酵素)を得た。標準的なプロトコールに従い、SDS-PAGEによって精製産物の確認を行ったところ、目的のタンパク質のサイズと考えられる33.2kDのバンドが検出された。一方、発現ベクターのみを導入したJM109(JM109/pTrc99A)から同様の精製操作を行った場合には、前記バンドは見られないことから、目的の精製酵素が取得されたと考えられた。
【0084】
上記のようにして取得された精製酵素を用いて、QOR活性の測定を行った。QOR(及び真核生物でのホモログであるゼータ−クリスタリン)は、NADPHを補酵素とし、1,2-NQ(1,2-ナフトキノン(1,2-naphthoquinone))や9,10-PQ(9,10-フェナンスレンキノン(9,10-phenanthrenequinone))などのキノンを還元する酵素活性を有することが知られている。そこで、基質として1,2-NQ又は9,10-PQを反応系に添加し、さらに補酵素としてNADPHを反応系に添加し、NADPHの減少を340nmの吸光度の変化を測定することによって、QOR活性を測定することができる(P.V.Rao C.M.Krishna J.S.Zigler Jr., Jounal of Biological Chemistry, 267(1), pp96-102, 1992)。
【0085】
100mM Tris-HCl(pH7.8)、0.2mM EDTA、0.1mM NADPHに、20μM 1,2-NQ、又は25μM 9,10-PQを添加し、更にタンパク質量で0.5μgに相当する精製酵素液を添加した(反応液の液量 1ml)。この反応液の340nmの吸収を、分光光度計U-2000(日立製作所製)を使用し、光路1cmのセルを用い、25℃で1分間スキャンした。1,2-NQ はAldrich社製(34-661-6)、9,10-PQはWAKO社製(160-00831)を使用した。その結果、精製酵素では、基質1,2-NQ 及び9,10-PQに対してQOR活性が認められた。一方、発現ベクターのみを導入したJM109/pTrc99A株から同様の精製操作を行って取得されたサンプルからは、QOR活性が検出されなかった。以上のことから、ここで検出された酵素活性は、精製されたORF39産物由来であるといえる(図1)。
【0086】
また、QOR活性は、阻害剤ジクマロール(dicumarol)の添加により阻害を受けることから、上記で測定された酵素活性が特異的なQOR活性であるかを確認するため、ジクマロールによるQOR活性の阻害実験を行った。0.1mMジクマロール存在下、25℃で5分間、酵素液をインキュベートした後、上記と同様の反応系に添加し、QOR活性の測定を行ったところ、同活性はジクマロールの添加により約20%の阻害を受けることが確認された(図2)。従って、上記反応系で測定される酵素活性は特異的なQOR活性であったことが確認された。なおジクマロールはSIGMA社製(M-1390)を使用した。
【0087】
【実施例3】エシェリヒア・コリのqor遺伝子のクローニング
エシェリヒア・コリW3110株のゲノムDNAを鋳型とし、下記オリゴヌクレオチドをプライマーとするPCRにより、qor遺伝子とその上流約300bp及び下流約200bpを含むDNA断片を取得した。PCRは、Pyrobest DNA polymerase(宝酒造社製)を使用し、94℃ 5分の後、98℃ 5秒、65℃ 10秒、72℃ 90秒を30サイクル行った。
【0088】
(プライマーEcqor-FW)
cgcgaattcagtaaagatatgacggtgtgggc(配列番号5)
(プライマーEcqor-RV)
ccggaattcagcgttatgaccgctggcgttac(配列番号6)
【0089】
取得した約1.5kbのqor遺伝子を含むDNA断片を、両プライマーの5’末端側に設計しておいたEcoRIサイトで切断し、クローニングベクターpHSG299(宝酒造社製)のEcoRIサイトに挿入した。同プラスミドより前記qor遺伝子断片を再びEcoRIサイトで切り出し、クローニングベクターpSTV28(宝酒造社製)のEcoRIサイトにlacZ遺伝子の転写方向に対して順方向となるようにqor遺伝子断片を挿入し、pECQ28Bを得た。
【0090】
【実施例4】エシェリヒア・コリsucA遺伝子破壊株の作製
報告されているsucA遺伝子の塩基配列に基づいてプライマーを合成し、エシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAを鋳型として、sucA遺伝子のN末およびC末断片をPCR法により増幅した。PCRは、Pyrobest DNA Polymerase(宝酒造社製)を用い、添付説明書にしたがって行った。N末端断片増幅用PCR用プライマーにはプライマー7、8を、C末端断片増幅用PCR用プライマーにはプライマー9、10を用いた。プライマー9にはHindIIIサイトが、プライマー10にはXbaIサイトがそれぞれデザインされている。
【0091】
(プライマー7)
cccaagcttctgcccctgacactaagaca(GenBankのaccession No. AE000175の塩基配列の塩基番号10721-10740の配列の5’末にcccおよびHindIIIサイトを付加した配列:配列番号7)
(プライマー8)
cgaggtaacgttcaagacct(GenBankのaccession No. AE000175の塩基配列の塩基番号11501-11520に相補的な配列:配列番号8)
(プライマー9)
aggtcttgaacgttacctcgatccataacgggcagggcgc(GenBankのaccession No. AE000175の塩基配列の12801-12820の配列の5’末にGenBankのaccession No. AE000175の塩基配列の塩基番号10501-11520の配列を付加した配列:配列番号9)
(プライマー10)
gggtctagaccactttgtcagtttcgatt(GenBankのaccession No. AE000175の塩基配列の塩基番号13801-13820に相補的な配列に5’末にgggおよびXbaIサイトを付加した配列:配列番号10)
【0092】
PCR後の増幅DNA断片は、それぞれ、QIAquick PCR Purification Kit(キアゲン社製)にて精製し、精製したN末端DNA断片およびC末端DNA断片、プライマー7、10を用いて、クロスオーバーPCR法(A. J. Link, D. Phillips, G. M. Church, Journal of Bacteriology, 179, 6228-6237 (1997))により、欠損型sucA断片を得た。
【0093】
精製したDNA断片を、HindIII及びXbaIにて切断した後、フェノール/クロロホルム処理、及びエタノール沈殿を行った。同様にHindIII及びXbaIで切断した温度感受性プラスミドpMAN997(WO 99/03988号国際公開パンフレット)と前記DNA断片とをDNA ligation Kit Ver.2(宝酒造社製)を用いて連結した。この連結反応液にて、JM109コンピテント細胞(宝酒造社製)を形質転換し、アンピシリン(シグマ社製)を25μg/mL含むLB寒天プレート(LB+アンピシリンプレート)に塗布した。30℃で1日培養後、生育したコロニーを25μg/mLのアンピシリンを含むLB培地で30℃にて試験管培養し、自動プラスミド抽出機PI-50(クラボウ社製)を用いてプラスミド抽出を行った。得られたプラスミドをHindIII及びXbaIで切断し、アガロースゲル電気泳動を行って、目的断片が挿入されているプラスミドをsucA破壊用プラスミドpMAN_ΔsucAとした。尚、前記pMAN997は、pMAN031(S.Matsuyama and S. Mizushima, J. Bacteriol., 162, 1196 (1985))とpUC19(宝酒造社製)のそれぞれのVspI-HindIII断片を繋ぎ換えたものである。
【0094】
プラスミドpMAN_ΔsucAでエシェリヒア・コリMG1655株をC. T. Chungらの方法により形質転換し、LB+アンピシリンプレートで30℃でコロニーを選択した。選択したクローンを30℃で一晩液体培養した後、培養液を10-3希釈してLB+アンピシリンプレートにまき、42℃でコロニーを選択した。選択したクローンをLB+アンピシリンプレートに塗り広げて30℃で培養した後、プレートの1/8の菌体をLB培地 2 mLに懸濁し、42℃で4〜5時間振とう培養した。10-5希釈した培養液をLBプレートにまき、得られたコロニーのうち数百コロニーをLBプレートとLB+アンピシリンプレートに植菌し、生育を確認することで、アンピシリン感受性株を選択した。アンピシリン感受性株の数株についてコロニーPCRを行い、sucA遺伝子の欠失を確認した。こうしてエシェリヒア・コリMG1655株由来のsucA破壊株MG1655ΔsucA株を得た。
【0095】
【実施例5】エシェリヒア・コリのqor遺伝子増幅株によるL−グルタミン酸生産
<1>エシェリヒア・コリのqor遺伝子増幅株の作製
上記プラスミドpECQ28Bを、エシェリヒア・コリJM109株(宝酒造社製)に導入し、qor遺伝子増幅株JM109/pECQ28B株を取得した。これに対する対照株として、クローニングベクターpSTV28(宝酒造社製)を導入したJM109/pSTV28株を取得した。また、pECQ28Bをエシェリヒア・コリMG1655株由来のsucA遺伝子欠損株に導入し、qor遺伝子増幅株MG1655ΔsucA/pECQ28B株を取得した。これに対する対照株として、クローニングベクターpSTV28(宝酒造社製)を導入したMG1655ΔsucA/ pSTV28株を取得した。
【0096】
<2>エシェリヒア・コリのqor遺伝子増幅株の酸性条件下での生育
上記JM109/pECQ28B株(qor遺伝子増幅株)及びJM109/pSTV28株、並びにそれらの対照株を、LB培地(10g/lトリプトン、5g/lイーストエキストラクト、10g/l NaCl、pH7.0)で37℃、一昼夜培養した。この培養液を、OD(660nm)が約0.1(Tokyo Photoelectric社OD計を使用)となるように新しいLB培地(4ml 試験管)に植え継ぎ、OD(660nm)が0.5付近(Tokyo Photoelectric社OD計を使用)まで培養した。この培養液から1%(v/v)の植菌量でLBG/MES培地(10g/l typtone、5g/l yeast extract、10g/l NaCl、5g/l glucose、100mM MES、pH5.0)、L-tube 4mlに植え継ぎ、小型振とう培養装置(ADVANTEC社製)を使用し、37℃で24時間培養した。このときの生育曲線を図3に示す。qor遺伝子増幅株は対照株に比べ生育が向上していることがわかる。このようにqor遺伝子の増幅によりE.coliの酸性下での生育を向上させることができた。
【0097】
<3>エシェリヒア・コリのqor遺伝子増幅によるL−グルタミン酸生産
上記MG1655ΔsucA/pECQ28B株(qor遺伝子増幅株)、及びMG1655ΔsucA/pSTV28株(対照株)をM9G/MES培地(M9最少培地(Molecular Cloning 3rd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)に最終濃度がグルコース0.4%、イーストエキストラクト 0.01%、MES 100mMとなるようにそれぞれ添加、pH7.0)を用いてOD(660nm)が0.7付近(Tokyo Photoelectric社OD計を使用)になるまで37℃で振とう培養を行い、菌体を調製した。
【0098】
得られた菌体を、新しいM9G/MES培地(成分は上記と同じ、6種類のpHに調整(pH7.5、pH7.0、pH6.8、pH6.5、pH6.0、pH5.5))に10容量%植菌し、L字管にて37℃で24時間の振とう培養を行った後、培地中のL−グルタミン酸濃度およびグルコース濃度を測定した。このときの消費糖に対するL−グルタミン酸の収率を図4に示す。対照株に比べ、qor遺伝子増幅株では、pH5.5からpH7.5の範囲でL−グルタミン酸収率の向上が認められた。このように、qor遺伝子を増幅することにより、pH5.5からpH7.5の範囲において、エシェリヒア・コリのL−グルタミン酸収率を向上させることができた。
【0099】
【実施例6】酸性条件下でL−グルタミン酸生産能を有するパントエア・アナナティスの構築
<1>酸性環境下にてL−グルタミン酸耐性を有する微生物の探索
酸性環境下にてL−グルタミン酸耐性を有する微生物の探索は、以下のようにして行った。1gの土壌、果実、植物体、河川水などの自然界より得られたサンプルおよそ500点を、それぞれ5mLの滅菌水に懸だくし、そのうち200μLを塩酸にてpHを4.0に調製した固体培地20mLに塗布した。同培地の組成は、以下のとおりである。グルコース3g/L、硫酸アンモニウム1g/L、硫酸マグネシウム七水塩0.2g/L、リン酸二水素カリウム0.5g/L、塩化ナトリウム0.2g/L、塩化カルシウム二水塩0.1g/L、硫酸第一鉄七水塩0.01g/L、硫酸マンガン四水塩0.01g/L、硫酸亜鉛二水塩0.72mg/L、硫酸銅五水塩0.64mg/L、塩化コバルト六水塩0.72mg/L、ホウ酸0.4mg/L、モリブデン酸ナトリウム2水塩1.2mg/L、ビオチン50μg/L、パントテン酸カルシウム50μg/L、葉酸50μg/L、イノシトール50μg/L、ナイアシン50μg/L、パラアミノ安息香酸50μg/L、ピリドキシン塩酸塩50μg/L、リボフラビン50μg/L、チアミン塩酸塩50μg/L、シクロヘキシミド50mg/L、寒天20g/L。
【0100】
上記のサンプルを塗布した培地を、28℃、37℃又は50℃にて、2〜4日間培養し、コロニーを形成する菌株を378株取得した。
続いて、上記のようにして得られた菌株を、飽和濃度のL−グルタミン酸を含む液体培地(塩酸にてpH4.0に調整)3mLを注入した長さ16.5cm、径14mmの試験管に植菌し、24時間〜3日間、28℃、37℃又は50℃にて振とう培養を行い、増殖する菌株を選抜した。前記培地の組成は、以下のとおりである。グルコース40g/L、硫酸アンモニウム20g/L、硫酸マグネシウム七水塩0.5g/L、リン酸二水素カリウム2g/L、塩化ナトリウム0.5g/L、塩化カルシウム二水塩0.25g/L、硫酸第一鉄七水塩0.02g/L、硫酸マンガン四水塩0.02g/L、硫酸亜鉛二水塩0.72mg/L、硫酸銅五水塩0.64mg/L、塩化コバルト六水塩0.72mg/L、ホウ酸0.4mg/L、モリブデン酸ナトリウム二水塩1.2mg/L、酵母エキス2g/L。
【0101】
このようにして、酸性環境下にてL−グルタミン酸耐性を有する微生物78株を取得することに成功した。
【0102】
<2>酸性環境下にてL−グルタミン酸耐性を有する微生物からの増殖速度に優れた菌株の選抜
上記のようにして得られた、酸性環境下にてL−グルタミン酸耐性を有する種々の微生物を、M9培地(J. Sambrook, E.F.Fritsh, T.Maniatis “Molecular Cloning”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, U.S.A., 1989)に20g/Lのグルタミン酸と2g/Lのグルコースを加え、pHを塩酸で4.0に調整した培地3mLを注入した長さ16.5cm、径14mmの試験管に植菌し、培地の濁度を経時的に測定することによって、増殖速度の良好な菌株の選抜を行った。その結果、生育が良好な菌株として、静岡県磐田市の土壌より採取されたAJ13355株が得られた。本菌株は、菌学的性質から、エンテロバクター・アグロメランスと判定された。エンテロバクター・アグロメランスは、16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)又はパントエア・アナナティス(P. ananatis)、パントエア・スチューアルティ(P. stewartii)等に再分類されているものがあり、前記AJ13355株は、これらのうち、パントエア・アナナティスに分類されている。
【0103】
<3>パントエア・アナナティスAJ13355株からの粘液質低生産株の取得
パントエア・アナナティスAJ13355株は糖を含有する培地で培養を行うと、菌体外に粘液質を生成するために、操作効率がよくない。そこで、粘液質低生産株の取得を、紫外線照射法(Miller, J.H. et al., "A Short Cource in Bacterial Genetics; Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Laboratory Press, U.S.A., p.150, 1992)により行った。
【0104】
60Wの紫外線ランプから60cm離した位置で、パントエア・アナナティスAJ13355株に紫外線を2分間照射した後、LB培地で終夜培養して変異を固定した。変異処理した菌株を、5g/Lのグルコースと20g/Lの寒天を含むLB培地に、プレート当たり約100個程度のコロニーが出現するように希釈して撒き、プレートを約45°傾けて30℃で終夜培養を行い、粘液質が流れ落ちないようになったコロニーを20個選抜した。
【0105】
選抜された株の中から、5g/Lのグルコースと20g/Lの寒天を含むLB培地で5回継代培養を行っても復帰変異株が出現せず、さらに、LB培地及び5g/Lのグルコースを含むLB培地ならびにM9培地(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press, U.S.A. (1989))に20g/LのL−グルタミン酸と2g/Lのグルコースを加え、pHを塩酸で4.5に調製した培地で親株と同等の生育を示すという条件を満たす菌株として、SC17株を選抜した。
【0106】
<4>パントエア・アナナティスSC17株からのグルタミン酸生産菌の構築
(1)パントエア・アナナティスSC17株からのαKGDH欠損株の作製
パントエア・アナナティスSC17株から、αKGDHを欠損し、さらにL−グルタミン酸生合成系が強化された株を作製した。
【0107】
(i)パントエア・アナナティスAJ13355株のαKGDH遺伝子(以後「sucAB」という)のクローニング
パントエア・アナナティスAJ13355株のsucAB遺伝子は、エシェリヒア・コリのαKGDH−E1サブユニット遺伝子(以後「sucA」という)欠損株の酢酸非資化性を相補するDNA断片を、パントエア・アナナティスAJ13355株染色体DNAより選択することによって、クローニングした。
【0108】
パントエア・アナナティスAJ13355株の染色体DNAは、エシェリヒア・コリにおいて通常染色体DNAを抽出するのに使用されるのと同様の方法(生物工学実験書、日本生物工学会偏、97−98頁、培風館、1992年)で単離した。ベクターとして使用したpTWV228(アンピシリン耐性)は宝酒造社製の市販品を用いた。
【0109】
AJ13355株の染色体DNAをEcoT221で消化したもの、およびpTWV228をPstIで消化したものをT4リガーゼにより連結し、sucA欠損のエシェリヒア・コリ JRG465株(Herbert J.ら Mol.Gen.Genetics 1969,105巻、182頁)を形質転換した。こうして得た形質転換株より、酢酸最少培地にて増殖する株を選択し、これよりプラスミドを抽出してpTWVEK101と命名した。pTWVEK101を持つエシェリヒア・コリ JRG465株は酢酸非資化性という形質の他にコハク酸もしくはL−リジンおよびL−メチオニンの要求性も回復していた。このことよりpTWVEK101にはパントエア・アナナティスのsucA遺伝子が含まれていると考えられる。
【0110】
pTWVEK101のパントエア・アナナティス由来DNA断片の制限酵素地図を図5に示した。図5の斜線にて示した部分の塩基配列を決定した結果を配列番号11に示した。この配列の中には、2つの完全長のORFと、2つのORFの部分配列と思われる塩基配列が見いだされた。これらのORFまたはその部分配列がコードし得るアミノ酸配列を、5’側から順に配列番号12〜15に示す。これらのホモロジー検索をした結果、塩基配列を決定した部分は、サクシネートデヒドロゲナーゼアイロン−スルファープロテイン遺伝子(sdhB)の3’末端側の部分配列、完全長のsucAとαKGDH−E2サブユニット遺伝子(sucB)、サクシニルCoAシンセターゼβサブユニット遺伝子(sucC)の5’末端側の部分配列を含んでいることが明らかとなった。これらの塩基配列から推定されるアミノ酸配列をそれぞれエシェリヒア・コリのもの(Eur.J. Biochem., 141, 351-359 (1984)、Eur.J. Biochem., 141, 361-374 (1984)、Biochemistry, 24, 6245-6252 (1985))と比較したところ、各アミノ酸配列は非常に高い相同性を示した。また、パントエア・アナナティス染色体上でもエシェリヒア・コリと同様に(Eur.J. Biochem., 141, 351-359 (1984)、Eur.J. Biochem., 141, 361-374 (1984)、Biochemistry, 24, 6245-6252 (1985))、sdhB−sucA−sucB−sucCとクラスターを構成していることが判明した。
【0111】
(ii)パントエア・アナナティスSC17株由来のαKGDH欠損株の取得
上記のようにして取得されたパントエア・アナナティスのsucAB遺伝子を用い、相同組換えによりパントエア・アナナティスのαKGDH欠損株の取得を行った。
【0112】
pTWVEK101をSphIで切断してsucAを含む断片を切り出した後、クレノーフラグメント(宝酒造(株))で平滑末端化した断片を、EcoRIで切断しクレノーフラグメントで平滑末端化したpBR322(宝酒造(株))とを、T4 DNAリガーゼ(宝酒造(株))を用いて結合した。得られたプラスミドを、sucAのほぼ中央部分に位置する制限酵素BglII認識部位で同酵素を用いて切断し、クレノーフラグメントで平滑末端化し、再びT4 DNAリガーゼで結合した。以上の操作によって、新たに構築されたプラスミド中のsucAにはフレームシフト変異が導入され、同遺伝子は機能しなくなると考えられた。
【0113】
上記のようにして構築されたプラスミドを制限酵素ApaLIで切断した後、アガロースゲル電気泳動を行い、フレームシフト変異が導入されたsucA及びpBR322由来のテトラサイクリン耐性遺伝子を含むDNA断片を回収した。回収したDNA断片を再びT4 DNAリガーゼで結合し、αKGDH遺伝子破壊用プラスミドを構築した。
【0114】
上記のようにして得られたαKGDH遺伝子破壊用プラスミドを用いて、パントエア・アナナティスSC17株を、エレクトロポレーション法(Miller J.H.,“A Short Course in Bacterial Genetics; Handbook”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, U.S.A., p.279, 1992)によって形質転換し、テトラサイクリン耐性を指標にプラスミドが相同組換えによって染色体上のsucAが変異型に置換された菌株を取得した。取得された株をSC17sucA株と命名した。
【0115】
SC17sucA株がαKGDH活性を欠損していることを確認するために、LB培地で対数増殖期まで培養した同株の菌体を用いて、Reedらの方法(L.J.Reed and B.B.Mukherjee, Methods in Enzymology 1969, 13, p.55-61)に従って酵素活性を測定した。その結果、SC17株からは0.073(ΔABS/min/mgタンパク)のαKGDH活性が検出されたのに対し、SC17sucA株ではαKGDH活性を検出できず、目的通りsucAが欠損していることが確かめられた。
【0116】
(2)パントエア・アナナティスSC17sucA株のL−グルタミン酸生合成系の強化
続いてSC17sucA株に、エシェリヒア・コリ由来のクエン酸シンターゼ遺伝子、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子、およびグルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した。
【0117】
(i)エシェリヒア・コリ由来のgltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子を有するプラスミドの作製
gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子を有するプラスミドの作成の手順を、図6、7に基づいて説明する。
【0118】
エシェリヒア・コリ由来のgdhA遺伝子を有するプラスミドpBRGDH(特開平7−203980号)をHindIII、SphI消化し、T4DNAポリメラーゼ処理で両末端を平滑末端にした後、gdhA遺伝子を有するDNA断片を精製回収した。一方、エシェリヒア・コリ由来のgltA遺伝子およびppc遺伝子を有するプラスミドpMWCP(WO97/08294号)をXbaIで消化後、T4DNAポリメラーゼで両末端を平滑末端にした。これに、上で精製したgdhA遺伝子を有するDNA断片を混合後、T4リガーゼにより連結し、pMWCPに更にgdhA遺伝子を搭載したプラスミドpMWCPGを得た(図6)。
【0119】
同時に、広宿主域プラスミドRSF1010の複製起点を有するプラスミドpVIC40(特開平8−047397号)をNotIで消化し、T4DNAポリメラーゼ処理した後、PstI消化したものと、pBR322をEcoT14I消化し、T4DNAポリメラーゼ処理した後、PstI消化したものとを混合後、T4リガーゼにより連結し、RSF1010の複製起点及びテトラサイクリン耐性遺伝子を有するプラスミドRSF−Tetを得た(図7)。
【0120】
次に、pMWCPGをEcoRI、PstI消化し、gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子を有するDNA断片を精製回収し、RSF−Tetを同様にEcoRI、PstI消化し、RSF1010の複製起点を有するDNA断片を精製回収したものと混合後、T4リガーゼにより連結し、RSF−Tet上にgltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子を搭載したプラスミドRSFCPGを得た(図8)。得られたプラスミドRSFCPGがgltA遺伝子、ppc遺伝子およびgdhA遺伝子を発現していることは、エシェリヒア・コリのgltA遺伝子、ppc遺伝子、あるいはgdhA遺伝子欠損株の栄養要求性の相補と各酵素活性の測定によって確認した。
【0121】
(ii)ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のgltA遺伝子を有するプラスミドの作製
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のgltA遺伝子を有するプラスミドは、以下のようにして構築した。コリネバクテリウム・グルタミカムのgltA遺伝子の塩基配列(Microbiology, 1994, 140, 1817-1828)をもとに、配列番号16及び17に示す塩基配列を有するプライマーDNAを用い、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869の染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、約3kbのgltA遺伝子断片を得た。この断片をSmaI消化したプラスミドpHSG399(宝酒造(株)より購入)に挿入し、プラスミドpHSGCBを得た(図9)。次に、pHSGCBをHindIIIで切断し切り出された約3kbのgltA遺伝子断片をHindIII消化したプラスミドpSTV29(宝酒造(株)より購入)に挿入し、プラスミドpSTVCBを得た(図9)。得られたプラスミドpSTVCBがgltA遺伝子を発現していることは、パントエア・アナナティスAJ13355株中での酵素活性の測定によって確認した。
【0122】
(iii)RSFCPG及びpSTVCBのSC17sucA株への導入
パントエア・アナナティスSC17sucA株を、RSFCPGを用いてエレクトロポレーション法にて形質転換し、テトラサイクリン耐性を示す形質転換体SC17sucA/RSFCPG株を取得した。さらにSC17sucA/RSFCPG株をpSTVCBを用いてエレクトロポレーション法にて形質転換し、クロラムフェニコール耐性を示す形質転換体SC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株を取得した。
【0123】
<4>低pH環境下でL−グルタミン酸に対する耐性が向上した菌株の取得
パントエア・アナナティスSC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株から、低pH環境下で高濃度のL−グルタミン酸に対する耐性が向上した菌株(以下、「低pH下高濃度Glu耐性株」ともいう)の分離を行った。
【0124】
SC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株をLBG培地(トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、NaCl 10g/L、グルコース5g/L)にて30℃一夜培養後、生理食塩水にて洗浄した菌体を適宜希釈して、M9−E培地(グルコース4g/L、Na2HPO4・12H2O 17g/L、KH2PO4 3g/L、NaCl 0.5g/L、NH4Cl 1g/L、10mM MgSO4、10μM CaCl2、L-リジン 50mg/L、L-メチオニン 50mg/L、DL-ジアミノピメリン酸 50mg/L、テトラサイクリン 25mg/L、クロラムフェニコール 25mg/L、L-グルタミン酸 30g/L、アンモニア水にてpH4.5に調整)プレートに塗布した。32℃、2日間培養後出現したコロニーを低pH下高濃度Glu耐性株として取得した。
【0125】
得られた株について、M9−E液体培地での増殖度の測定、及びL−グルタミン酸生産試験培地(グルコース40g/L、硫酸アンモニウム20g/L、硫酸マグネシウム七水塩0.5g/L、リン酸二水素カリウム2g/L、塩化ナトリウム0.5g/L、塩化カルシウム二水塩0.25g/L、硫酸第一鉄七水塩0.02g/L、硫酸マンガン四水塩0.02g/L、硫酸亜鉛二水塩0.72mg/L、硫酸銅五水塩0.64mg/L、塩化コバルト六水塩0.72mg/L、ホウ酸0.4mg/L、モリブデン酸ナトリウム二水塩1.2mg/L、酵母エキス2g/L、 L-リジン塩酸塩200mg/L、L-メチオニン200mg/L、DL-α,ε-ジアミノピメリン酸200mg/L、テトラサイクリン塩酸塩25mg/L、クロラムフェニコール25mg/L)5mlを注入した50ml容大型試験管におけるL−グルタミン酸生産能の検定を実施し、増殖度が最もよく、L−グルタミン酸生産能が親株SC17/RSFCPG+pSTVCB株と変わらなかった株は、AJ13601と命名された。
【0126】
<5>AJ13601からのpSTVCB脱落株の取得
AJ13601株を、LBGM9液体培地で31.5℃終夜振とう培養し、1プレートにつき100〜200コロニーとなるよう適当に希釈し、テトラサイクリン12.5mg/Lを含むLBGM9プレートに塗布した。出現したコロニーについて、テトラサイクリン12.5mg/L、及びクロラムフェニコール25mg/Lを含むLBGM9プレートにレプリカし、クロラムフェニコール感受性となった株を取得し、この菌株をG106Sと命名した。G106S株は、RSFCPGのみを保有し、pSTVCBは脱落している。
【0127】
【実施例7】パントエア・アナナティスからのqor遺伝子のクローニング
前記パントエア・アナナスィスSC17株のゲノムDNAを鋳型とし、下記オリゴヌクレオチドをプライマーとするPCRにより、qor遺伝子とその上流約300bpから下流約200bpまでを含む約1.5kbのDNA断片を取得した。
PCRは、Pyrobest DNA polymerase(宝酒造社製)を使用し、94℃ 5分の後、98℃ 5秒、65℃ 10秒、72℃ 90秒を30サイクル行った。
【0128】
(プライマーEaQ-F)
cggaattcggaaaaaatcagacggtgcgag(配列番号18)
(プライマーEaQ-R)
cggaattcaagagatggccggtactaaatg(配列番号19)
【0129】
取得したDNA断片を、両プライマーに設計しておいたEcoRIサイトを利用してクローニングベクターpSTV28(宝酒造社製)のEcoRIサイトに、lacZ遺伝子の転写方向に対して順方向となるように挿入し、pEAQ28AAを作製した。配列番号20にpSTV28にクローニングした配列を示す。配列番号20において、塩基番号6〜1486はゲノム由来の配列、塩基番号1〜5及び1487〜1495はプライマー由来の配列である。塩基番号304〜1287はqor遺伝子のORFである。また、配列番号21にこのORFによってコードされる予想アミノ酸配列を示した。ここで取得したORFは、エシェリヒア・コリのqor遺伝子とDNA配列で約67%、アミノ酸配列で約70%の高い相同性を有することから、パントエア・アナナティスのqor遺伝子をコードしていると考えられる。
【0130】
【実施例8】パントエア・アナナティスのqor遺伝子増幅株によるL−グルタミン酸生産
<1>パントエア・アナナティスのqor遺伝子増幅株の作製
上記プラスミドpEAQ28AAをパントエア・アナナティスG106S株に導入し、qor遺伝子増幅株G106S/ pEAQ28AA株を取得した。また、対照株としてクローニングベクターpSTV28(宝酒造社製)を導入したG106S/pSTV28株を取得した。
【0131】
<2>パントエア・アナナティスのqor遺伝子増幅株の酸性条件下での生育
上記G106S/pEAQ28AA株(qor遺伝子増幅株)、及びG106S/pSTV28株(対照株)をLBG培地(10g/lトリプトン、5g/lイーストエキストラクト、10g/l NaCl、5g/lグルコース)を用いて、OD(660nm)が0.5付近(Tokyo Photoelectric社OD計を使用)になるまで34℃で振とう培養を行い、菌体を調製した。得られた菌体を2.5g/l (NH4)2SO4、2g/l KH2PO4、20mg/l FeSO4・7H2O、20mg/l MnSO4・4-5H2O、1g/lイーストエキストラクト、18mg/l パントテン酸Ca、4g/lグルコース、0.5g/l MgSO4・7H2O、19.5g/l MES(pH5.0)からなる培地に2容量%となるように植菌し、小型振とう培養装置(ADVANTEC社製)を使用し、L字管(液量4ml)を用いて、34℃で28時間の振とう培養を行った。このときの生育曲線を図10に示す。qor遺伝子増幅株は対照株に比べ生育が向上していることがわかる。このようにqor遺伝子の増幅によりパントエア・アナナティスの酸性下での生育を向上させることができた。
【0132】
<3>パントエア・アナナティスのqor遺伝子増幅によるL−グルタミン酸生産
上記G106S/pEAQ28AA株(qor遺伝子増幅株)、及びG106S/pSTV28株(対照株)をLBG培地(10g/lトリプトン、5g/lイーストエキストラクト、10g/l NaCl、5g/lグルコース)を用いてOD(660nm)が0.5付近(Tokyo Photoelectric社OD計を使用)になるまで34℃で振とう培養を行い、菌体を調製した。得られた菌体を2.5g/l (NH4)2SO4、2g/l KH2PO4、20mg/l FeSO4・7H2O、20mg/l MnSO4・4-5H2O、1g/lイーストエキストラクト、18mg/l パントテン酸Ca、5g/lグルコース、0.5g/l MgSO4・7H2O、19.5g/l MES(pH7.0)からなる培地に2重量%となるように植菌し、L字管にて34℃で17時間の振とう培養を行った。バイオテックアナライザー(サクラ精機)を使用し培地中のL−グルタミン酸濃度およびグルコース濃度を測定した。このときの消費糖に対するグルタミン酸の収率を表1に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
対照株に比べ、qor遺伝子増幅株ではL−グルタミン酸収率の向上がみとめられた。このようにqor遺伝子を増幅することにより、パントエア・アナナティスのグルタミン酸収率を向上させることができた。
【0135】
【発明の効果】
本発明により、γ−プロテオバクテリアのL−グルタミン酸生産能を向上させることができる。
【0136】
〔配列表の説明〕
配列番号1:B. lactofermentum ORF39の塩基配列
配列番号2:ORF39によってコードされるアミノ酸配列
配列番号3:ORF39増幅用プライマーCHIC-FW
配列番号4:ORF39増幅用プライマーCHIC-RV
配列番号5:E. coli qor遺伝子増幅用プライマーEcqor-FW
配列番号6:E. coli qor遺伝子増幅用プライマーEcqor-RV
配列番号7:sucA遺伝子N末端増幅用プライマー7
配列番号8:sucA遺伝子N末端増幅用プライマー8
配列番号9:sucA遺伝子C末端増幅用プライマー9
配列番号10:sucA遺伝子C末端増幅用プライマー10
配列番号11:P. ananatis sucA遺伝子を含むDNA断片の塩基配列
配列番号12:P. ananatis sdhB遺伝子3'末端領域がコードするアミノ酸配列
配列番号13:P. ananatis sucA遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号14:P. ananatis sucB遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号15:P. ananatis sucC遺伝子5'末端領域がコードするアミノ酸配列
配列番号16:B. lactofermentum gltA遺伝子増幅用プライマー
配列番号17:B. lactofermentum gltA遺伝子増幅用プライマー
配列番号18:P. ananatis qor遺伝子増幅用プライマーEaQ-F
配列番号19:P. ananatis qor遺伝子増幅用プライマーEaQ-R
配列番号20:P. ananatis qor遺伝子を含むDNA断片の塩基配列
配列番号21:P. ananatis qor遺伝子によってコードされるアミノ酸配列
配列番号22:E. coli gltA、gdhA、ppcの各遺伝子を含むプラスミドRSFCPGの塩基配列
配列番号23:E. coli gltAによってコードされるCSのアミノ酸配列
配列番号24:E. coli gdhAによってコードされるGDHのアミノ酸配列
配列番号25:E. coli ppcによってコードされるPEPCのアミノ酸配列
配列番号26:B. lactofermentumのgltA遺伝子を含むプラスミドpSTVCBの塩基配列
配列番号27:B. lactofermentumのgltA遺伝子によってコードされるCSのアミノ酸配列
【0137】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 基質として1,2-NQ 及び9,10-PQを用いた場合のORF39遺伝子産物のQOR活性を示す図。
【図2】 ジクマロールの存在下及び非存在下におけるORF39遺伝子産物のQOR活性を示す図
【図3】 酸性条件下(pH5.0)におけるJM109/pECQ28B(qor遺伝子増幅株)、及びJM109/pSTV28株(対照株)の生育曲線。
【図4】 MG1655ΔsucA/pECQ28B株(qor遺伝子増幅株)、及びMG1655ΔsucA/pSTV28株(対照株)の種々のpHにおけるL−グルタミン酸の生産量を示す図。
【図5】 pTWVEK101のパントエア・アナナティス由来DNA断片の制限酵素地図。
【図6】 gltA遺伝子、ppc遺伝子およびgdhA遺伝子を有するプラスミドpMWCPGの構築を示す図。
【図7】 広宿主域プラスミドRSF1010の複製起点とテトラサイクリン耐性遺伝子を含むプラスミドRSF−Tetの構築を示す図である。
【図8】 広宿主域プラスミドRSF1010の複製起点、テトラサイクリン耐性遺伝子、gltA遺伝子、ppc遺伝子およびgdhA遺伝子を有するプラスミドRSFCPGの構築を示す図。
【図9】 gltA遺伝子を有するプラスミドpSTVCBの構築を示す図。
【図10】 酸性条件下(pH5.0)におけるG106S/ pEAQ28AA株(qor増幅株)、及びG106S/pSTV28株(対照株)の生育曲線。
【発明の属する技術分野】
本発明は、発酵工業に関し、詳しくは、L−グルタミン酸の製造法及びそれに用いる細菌に関する。L−グルタミン酸は調味料原料等として広く用いられている。
【0002】
【従来の技術】
従来、L−グルタミン酸は、L−グルタミン酸生産能を有するブレビバクテリウム属やコリネバクテリウム属に属するコリネ型細菌を用いて発酵法により工業生産されている。また、また、近年では、エシェリヒア・コリやパントエア・アナナティス(エンテロバクター・アグロメランス)等の細菌を用いたL−グルタミン酸の製造法も開発されている。
【0003】
また、組換えDNA技術によりL−グルタミン酸の生合成酵素を増強することによって、L−グルタミン酸の生産能を増加させる種々の技術が開示されている。
さらに、酸性条件下でL−グルタミン酸生産能を有する微生物を培養液中に蓄積するL−グルタミン酸を析出させながら発酵を行う方法が開発されている。従来、通常のL−グルタミン酸生産菌は酸性条件下では生育できないため、L−グルタミン酸発酵は中性で行われていたが、酸性条件下でL−グルタミン酸生産能を有する微生物として見い出されたエンテロバクター・アグロメランスを、pHがL−グルタミン酸が析出する条件に調整された液体培地で培養することによって、培地中にL−グルタミン酸を析出させながら生成蓄積させることができる(特許文献1)。
【0004】
ところで、エシェリヒア・コリのキノンオキシドレダクターゼ遺伝子(qor)の塩基配列が公開されている(非特許文献1)。しかし、キノンオキシドレダクターゼと、L−グルタミン酸の生産性及び細菌の耐酸性との関連は知られていない。
【0005】
【特許文献1】
欧州特許出願公開第1078989号明細書
【非特許文献1】
GenBank accession g1790485
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、γ−プロテオバクテリアを用いたL−グルタミン酸の製造において、L−グルタミン酸生産性を向上させる新規な技術を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、コリネ型細菌の耐酸性に関与する遺伝子に関する研究を行う過程で、ORF39と名付けられた遺伝子の遺伝子発現産物がキノンオキシドレダクターゼ活性を有することを見出した。そして、キノンオキシドレダクターゼ活性を上昇させることにより、γ−プロテオバクテリアのL−グルタミン酸生産能を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
【0008】
(1)L−グルタミン酸生産能を有するγ−プロテオバクテリアを培地に培養し、L−グルタミン酸を培養物中に生成蓄積させ、該培養物よりL−グルタミン酸を採取する、L−グルタミン酸の製造法において、前記細菌は、キノンオキシドレダクターゼ活性が上昇するように改変されていることを特徴とする方法。
(2)キノンオキシドレダクターゼをコードする遺伝子のコピー数を高めること、又は前記細菌のキノンオキシドレダクターゼをコードする遺伝子の発現が増強されるように同遺伝子の発現調節配列を改変することにより、細胞内のキノンオキシドレダクターゼ活性が上昇したことを特徴とする(1)に記載の方法。
(3)前記γ−プロテオバクテリアがエシェリヒア属又はパントエア属に属する細菌である(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記細菌は、エシェリヒア属又はパントエア属に属する細菌のキノンオキシドレダクターゼをコードする遺伝子が導入されたことを特徴とする(1)又は(2)に記載の方法。
(5)キノンオキシドレダクターゼが、下記(A)又は(B)に示すタンパク質である(4)に記載の方法。
(A)配列番号21に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号21に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を含むアミノ酸配列からなり、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性を有するタンパク質。
(6)キノンオキシドレダクターゼをコードする遺伝子が、下記(a)又は(b)に示すDNAである(4)に記載の方法。
(a)配列番号20の塩基番号304〜1287からなる塩基配列を有するDNA。
(b)配列番号20の塩基番号304〜1287からなる塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(7)前記細菌は、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼを欠損していることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)L−グルタミン酸生産能を有し、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性が上昇するように改変されたγ−プロテオバクテリア。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
<1>本発明のγ−プロテオバクテリア
本発明のγ−プロテオバクテリアは、L−グルタミン酸生産能を有し、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性が上昇するように改変されたγ−プロテオバクテリアである。
【0011】
本発明において、「L−グルタミン生産能」とは、本発明のγ−プロテオバクテリアを培養したときに、培地中にL−グルタミンを蓄積する能力をいう。
本発明に用いるγ−プロテオバクテリアとしては、パントエア属、エシェリヒア属、エンテロバクター属、クレブシエラ属、セラチア属、エルビニア属、サルモネラ属、モルガネラ属など、γ−プロテオバクテリアに属する微生物であって、L−グルタミン酸生産能を有し、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性を上昇させることによってL−グルタミン酸生産能が向上するものであれば、特に限定されない。具体的にはNCBI(National Center for Biotechnology Information)データベースに記載されている分類によりγ−プロテオバクテリアに属するものが利用できる(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/htbin-post/Taxonomy/wgetorg?mode=Tree&id=1236&lvl=3&keep=1&srchmode=1&unlock)。
【0012】
エシェリヒア属細菌としては、エシェリヒア・コリ等が挙げられる。また、パントエア属細菌としては、パントエア・アナナティス(P. ananatis)、パントエア・アグロメランス(P. agglomerans)、パントエア・スチューアルティ(P. stewartii)等が挙げられる。また、エンテロバクター属細菌としては、エンテロバクター・アグロメランス、エンテロバクター・アエロゲネス等が挙げられる。尚、近年、エンテロバクター・アグロメランスは、16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アグロメランス、パントエア・アナナティス、又はパントエア・スチューアルティ等に再分類されているものがある。本発明において、パントエア属細菌にはこのようなエンテロバクター属細菌も含まれる。
【0013】
L−グルタミン酸生産能を有するエシェリヒア属細菌としては、例えば、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ(αKGDH)活性が欠損もしくは、低下したエシェリヒア属細菌、及び、L−グルタミン酸分解能が低下したエシェリヒア属細菌等が挙げられる。
【0014】
αKGDH活性が欠損もしくは低下したエシェリヒア属細菌およびその取得方法は、特開平5-244970号公報及び特開平7-203980号公報に記載されている。具体的には次のような株が挙げられる。
【0015】
エシェリヒア・コリW3110sucA::Kmr
エシェリヒア・コリAJ12624(FERM BP-3853)
エシェリヒア・コリAJ12628(FERM BP-3854)
エシェリヒア・コリAJ12949(FERM BP-4881)
エシェリヒア・コリW3110sucA::Kmrは、エシェリヒア・コリW3110のαKGDH遺伝子(以下、「sucA遺伝子」)と略す)が破壊されて得られた株であり、αKGDH完全欠損株である。また、後記実施例に記載されたエシェリヒア・コリMG1655ΔsucA株も、好適な菌株の一つである。
【0016】
また、L−グルタミン酸分解能が低下したエシェリヒア・コリとしては、FERM P-12379株(米国特許第5,393,671号);エシェリヒア・コリAJ13138株(FERM BP-5565)(米国特許第6,110,714号)等が挙げられる。
【0017】
さらに、L−グルタミン酸生産能を有するエシェリヒア属細菌として、L−バリン耐性株、例えば、エシェリヒア・コリB11、エシェリヒア・コリK-12(ATCC10798)、エシェリヒア・コリB(ATCC11303)、エシェリヒア・コリW(ATCC9637)等が挙げられる。
【0018】
L−グルタミン酸生産能を有するパントエア属細菌としては、例えば、パントエア・アナナティスAJ13355株、及び同株から誘導された菌株AJ13356、及びAJ13601等が挙げられる(実施例参照)。AJ13355株は、静岡県磐田市の土壌から、低pHでL−グルタミン酸及び炭素源を含む培地で増殖できる株として分離された株である。同株は、平成10年2月19日に、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現名称、産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所)に、受託番号FERM P-16644として寄託され、平成11年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-6614が付与されている。尚、同株は、分離された当時はエンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)と同定され、エンテロバクター・アグロメランスAJ13355として寄託されたが、近年16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)に再分類されている(後記実施例参照)。
【0019】
また、前記AJ13356、及びAJ13601も、同様にエンテロバクター・アグロメランスとして前記寄託機関に寄託されているが、本明細書ではパントエア・アナナティスと記述する。
【0020】
前記AJ13356株は、αKGDH−E1サブユニット遺伝子(sucA)が破壊された結果、αKGDH活性を欠損している。αKGDH活性が欠損もしくは低下したパントエア属細菌およびその取得方法は、欧州特許公開第1078989号に記載されている。AJ13356株は、平成10年2月19日に、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現名称、産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所)に、受託番号FERM P-16645として寄託され、平成11年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-6615が付与されている。
【0021】
前記AJ13601株は、AJ13355株からの粘液質低生産株の選択、αKGDH遺伝子の破壊、エシェリヒア・コリ由来のgltA、ppc、gdhAの各遺伝子、及びブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のgltA遺伝子の導入、低pHにおける高濃度L−グルタミン酸耐性株の選択、及び増殖度及びL−グルタミン酸生産能が高い株の選択によって、取得された菌株である。前記各遺伝子については後述する。AJ13601株は、平成11年8月18日に、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(現名称、産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所)(郵便番号305-8566 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)に受託番号FERM P-17516として寄託され、平成12年7月6日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-7207が付与されている。
【0022】
また、前記AJ13601株から、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のgltA遺伝子を含むプラスミド(pSTVCB)を脱落させ、エシェリヒア・コリ由来のgltA、ppc、gdhAの各遺伝子を含むプラスミド(RSFCPG)のみを保有する菌株G106S株も、好適な菌株の一つである(実施例参照)。
【0023】
本発明の細菌が持つL−グルタミン生産能は、γ−プロテオバクテリアの野生株の性質として有するものであってもよく、育種によって付与または増強された性質であってもよい。
【0024】
L−グルタミン酸生産能は、例えば、L−グルタミン酸の生合成反応を触媒する酵素の活性を高めることによって、付与又は増強することができる。また、L−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性を低下または欠損させることによっても、L−グルタミン酸生産能を増強することができる。
【0025】
L−グルタミン酸の生合成反応を触媒する酵素としては、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(以下、「GDH」ともいう)、グルタミンシンセターゼ、グルタミン酸シンターゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、アコニット酸ヒドラターゼ、クエン酸シンターゼ(以下、「CS」ともいう)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(以下、「PEPC」ともいう)、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、エノラーゼ、ホスホグリセロムターゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、フルクトースビスリン酸アルドラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼ等が挙げられる。これらの酵素の中では、CS、PEPCおよびGDHのいずれか1種または2種もしくは3種が好ましい。さらに、L−グルタミン酸蓄積微生物においては、CS、PEPCおよびGDHの3種の酵素の活性がともに高められていることが好ましい。特に、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムのCSは、α−ケトグルタル酸、L−グルタミン酸及びNADHによる阻害を受けないため、好ましいものである。
【0026】
CS、PEPCまたはGDH活性を高めることは、後述するキノンオキシドレダクターゼ活性の増強と同様の方法によって、達成することができる。すなわち、例えば、CS、PEPCまたはGDHをコードする遺伝子(以下、おのおのをこの順に「gltA遺伝子」、「ppc遺伝子」、「gdhA遺伝子」と略する)のコピー数が上昇させるか、又は、これらの遺伝子の発現が増強されるように、これらの遺伝子の発現調節配列を改変することによって、CS、PEPCまたはGDH活性を高めることができる。他の酵素の活性も、同様にして高めることができる。
【0027】
gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子の供給源となる生物としては、CS、PEPC及びGDH活性を有する生物ならいかなる生物でも良い。なかでも原核生物である細菌、たとえばパントエア属、エンテロバクター属、クレブシェラ属、エルビニア属、セラチア属、エシェリヒア属、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、バチルス属に属する細菌が好ましい。具体的な例としては、エシェリヒア・コリ、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム等が挙げられる。gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子は、上記のような微生物の染色体DNAより得ることができる。
【0028】
gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子は、おのおのCS、PEPCもしくはGDH活性を欠失した変異株を用いてその栄養要求性を相補するDNA断片を上記微生物の染色体DNAから単離することによって取得できる。またエシェリヒア属のこれら遺伝子、コリネバクテリウム属細菌のこれら遺伝子は既に塩基配列が明らかにされていることから(Biochemistry、第22巻、5243〜5249頁、1983年;J.Biochem.、第95巻、909〜916頁、1984年;Gene、第27巻、193〜199頁、1984年;Microbiology、第140巻、1817〜1828頁、1994年;Mol.Gen.Genet.、第218巻、330〜339頁、1989年;Molecular Microbiology、第6巻、317〜326頁、1992年)それぞれの塩基配列に基づいてプライマーを合成し、染色体DNAを鋳型にしてPCR法により取得することが可能である。尚、エンテロバクター属又はクレブシエラ属細菌等の腸内細菌においては、同種の細菌由来のgltA遺伝子に比べて、コリネ型細菌由来のgltA遺伝子の導入が、L−グルタミン酸生産能の増強に有効であることが知られている(欧州特許出願公開第0999282号)。同公報においては、本願明細書に記載のパントエア・アナナティスの菌株はエンテロバクター・アグロメランスと記載されている。
【0029】
L−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素としては、αKGDH、イソクエン酸リアーゼ、リン酸アセチルトランスフェラーゼ、酢酸キナーゼ、アセトヒドロキシ酸シンターゼ、アセト乳酸シンターゼ、ギ酸アセチルトランスフェラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、1−ピロリンデヒドロゲナーゼ等がある。これらの酵素の中では、αKGDHが好ましい。
【0030】
パントエア属等に属する微生物において、上記のような酵素の活性を低下または欠損させるには、通常の変異処理法によって、あるいは遺伝子工学的手法によって、上記酵素の遺伝子に、細胞中の当該酵素の活性が低下または欠損するような変異を導入すればよい。
【0031】
変異処理法としては、たとえばX線や紫外線を照射する方法、またはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン等の変異剤で処理する方法等がある。遺伝子に変異が導入される部位は、酵素タンパク質をコードするコード領域であってもよく、プロモーター等の発現制御領域であってもよい。
【0032】
また、遺伝子工学的手法には、例えば遺伝子組換え法、形質導入法、細胞融合法等を用いる方法がある。例えば、クローン化された目的遺伝子の内部に薬剤耐性遺伝子を挿入し、機能を失った遺伝子(欠失型遺伝子)を作製する。次いで、この欠失型遺伝子を宿主微生物の細胞に導入し、相同組み換えを利用して染色体上の目的遺伝子を前記欠失型遺伝子に置換する(遺伝子破壊)。
【0033】
細胞中の目的酵素の活性が低下または欠損していること、および活性の低下の程度は、候補株の菌体抽出液または精製画分の酵素活性を測定し、野生株と比較することによって確認することができる。例えば、αKGDH活性は、Reedらの方法(L.J.Reed and B.B.Mukherjee, Methods in Enzymology 1969, 13, p.55-61)に従って測定することができる。
【0034】
また、目的とする酵素によっては、変異株の表現型によって目的変異株を選択することができる。例えば、αKGDH活性が欠損もしくは低下した変異株は、好気的培養条件ではグルコースを含む最少培地、あるいは、酢酸やL−グルタミン酸を唯一の炭素源として含む最少培地で増殖できないか、または増殖速度が著しく低下する。ところが、同一条件でもグルコースを含む最少培地にコハク酸またはリジン、メチオニン、及びジアミノピメリン酸を添加することによって通常の生育が可能となる。これらの現象を指標としてαKGDH活性が欠損もしくは低下した変異株の選抜が可能である。
【0035】
相同組換えを利用したブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムのαKGDH遺伝子欠損株の作製法は、WO95/34672号に詳述されており、他の微生物にも同様の方法を適用することができる。
【0036】
その他、遺伝子のクローニング、DNAの切断、連結、形質転換法等の技術については、Molecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press (1989))等に詳述されている。
【0037】
また、本発明に用いられるγ−プロテオバクテリアの一例であるパントエア・アナナティスは、糖を含有する培地で培養を行うと、菌体外に粘液質を生成するために、操作効率がよくないことがある。したがって、このような粘液質を生成する性質を有するパントエア・アナナティスを用いる場合には、粘液質の生成量が野生株よりも低下した変異株を用いることが好ましい。変異処理法としては、たとえばX線や紫外線を照射する方法、またはN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン等の変異剤で処理する方法等がある。また、粘液質の生成量が低下した変異株は、変異処理した菌株を、糖を含む培地、例えば5g/Lのグルコースを含むLB培地プレートに撒き、プレートを約45°傾けて培養したときに、液質が流れ落ちないようになったコロニーを選抜することによって選択することができる。
【0038】
本発明において、L−グルタミン酸生産能の付与又は増強、及び上記の粘液質低生産変異等の好ましい性質の付与は、任意の順序で行うことができる。
【0039】
上記のようなL−グルタミン酸生産菌の育種に用いられる遺伝子として、パントエア・アナナティスのsucA遺伝子の塩基配列及び同遺伝子によってコードされるαKGDH−E1サブユニットのアミノ酸配列を、配列番号11及び配列番号13に示す。
【0040】
また、エシェリヒア・コリ由来のgltA遺伝子、gdhA遺伝子、及びppc遺伝子を含むプラスミドRSFCPG(実施例参照)の塩基配列を配列番号22に示す。配列番号22において、gltA遺伝子、、gdhA遺伝子、及びppc遺伝子のコード領域は、それぞれ塩基番号1770〜487(相補鎖によってコードされる)、2598〜3941、7869〜5218(相補鎖によってコードされる)に相当する。これらの遺伝子によってコードされるCS、GDH及びPEPCのアミノ酸配列を、配列番号23、24、25に示す。さらに、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のgltA遺伝子を含むプラスミドpSTVCB(実施例1参照)の塩基配列及び同遺伝子によってコードされるCSのアミノ酸配列を、配列番号26及び配列番号27に示す。
【0041】
CS、GDH及びPEPCは、野生型の他に、各々の酵素の活性を実質的に損なわないような1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有するものであってもよい。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には2から30個、好ましくは、2から20個、より好ましくは2から10個である。
【0042】
上記のようなCS、GDH及びPEPCと実質的に同一のタンパク質又はペプチドをコードするDNAとしては、配列番号26に示す塩基配列、又は配列番号22に示す塩基配列中のそれぞれのオープンリーディングフレーム(ORF)又はそれらの塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつCS、GDH又はPEPCの活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0043】
プローブとして、配列番号26に示す塩基配列、又は配列番号22の塩基配列中の各ORF又はそれらの一部の配列を用いることもできる。そのようなプローブは、配列番号26又は22の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、配列番号26もしくは22又はそれらの一部の塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとして、300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられる。
【0044】
遺伝子破壊に用いる欠失型sucA遺伝子は、目的とする微生物の染色体DNA上のsucA遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性を有していればよい。このような相同性は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。また、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNA同士であれば、相同組換えは起こり得る。
【0045】
本発明のγ−プロテオバクテリアは、上記のようなL−グルタミン酸生産能を有するγ−プロテオバクテリアであって、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性が上昇するように改変されたγ−プロテオバクテリアである。
【0046】
「キノンオキシドレダクターゼ活性(以下、「QOR活性」ともいう)」とは、1,2-NQ(1,2-ナフトキノン(1,2-naphthoquinone))や9,10-PQ(9,10-フェナンスレンキノン(9,10-phenanthrenequinone))などのキノンを還元する活性をいう。QOR活性は、例えば、基質として1,2-NQ又は9,10-PQ、及び補酵素としてNADPHを含む反応系において、NADPHの減少を340nmの吸光度の変化を測定することによって、測定することができる(P.V.Rao C.M.Krishna J.S.Zigler Jr., Jounal of Biological Chemistry, 267(1), pp96-102, 1992)。
【0047】
「細胞内のQOR活性が上昇するように改変された」とは、細胞当たりのQOR活性が非改変株、例えば野生型のγ−プロテオバクテリアのそれよりも高くなったことをいう。例えば、細胞当たりのQOR分子の数が増加した場合や、QOR分子当たりの活性が上昇した場合などが該当する。また、比較対象となる野生型のγ−プロテオバクテリアとしては、例えばエシェリヒア・コリMG1655、及びパントエア・アナナティスが挙げられる。γ−プロテオバクテリアのQOR活性が上昇すると、同細菌のL−グルタミン酸生産能が上昇する。また、酸性条件下での生育が向上する。
【0048】
γ−プロテオバクテリア細胞内のQOR活性の増強は、QORをコードする遺伝子(qor)の発現を増強することによって達成される。同遺伝子の発現量の増強は、qorのコピー数を高めることによって達成される。例えば、qor断片を、該細菌で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型のベクターと連結して組換えDNAを作製し、これをL−グルタミン生産能を有する宿主に導入して形質転換すればよい。また、野生型のγ−プロテオバクテリアに上記組換えDNAを導入して形質転換株を得、その後当該形質転換株にL−グルタミン生産能を付与してもよい。
【0049】
qorは、γ−プロテオバクテリア由来の遺伝子および他の生物由来の遺伝子のいずれも使用することができる。このうち、発現の容易さの観点からは、γ−プロテオバクテリア由来の遺伝子が好ましい。また、宿主細菌は、qorの採取源である細菌と同じ属に属する細菌であることが好ましい。
【0050】
エシェリヒア・コリのqorは、既に配列が明らかにされている(GenBank accession g1790485)ので、その塩基配列に基づいて作製したプライマー、例えば配列番号5及び6に示すプライマーを用いて、エシェリヒア・コリの染色体DNAを鋳型とするPCR法(PCR:polymerase chain reaction; White,T.J. et al., Trends Genet. 5, 185 (1989)参照)によって、qorとその隣接領域を取得することができる。また、パントエア・アナナティスのqorは、例えば配列番号18及び19に示すプライマーを用いて、パントエア・アナナティスの染色体DNAを鋳型とするPCR法によって取得することができる。他の微生物のqorのホモログも、同様にして取得され得る。
【0051】
パントエア・アナナティスのqorの塩基配列の一例を、配列番号20に示す。また、同塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を配列番号21に示す。
染色体DNAは、DNA供与体である細菌から、例えば、斎藤、三浦の方法(H. Saito and K.Miura, Biochem.B iophys. Acta, 72, 619 (1963)、生物工学実験書、日本生物工学会編、97〜98頁、培風館、1992年参照)等により調製することができる。
【0052】
PCR法により増幅されたqorは、γ−プロテオバクテリアの細胞内において自律複製可能なベクターDNAに接続して組換えDNAを調製し、これをγ−プロテオバクテリアに導入する。このようなベクターとしては、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pBR322、pACYC184、pMW219、pSTV28、pTWV228等が挙げられる。
【0053】
qorとγ−プロテオバクテリアで機能するベクターを連結して組換えDNAを調製するには、qorの末端に合うような制限酵素でベクターを切断する。連結はT4 DNAリガーゼ等のリガーゼを用いて行うのが普通である。
【0054】
上記のように調製した組換えDNAをγ−プロテオバクテリアに導入するには、これまでに報告されている形質転換法に従って行えばよい。例えば、エシェリヒア・コリ K−12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel,M.and Higa,A.,J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))があり、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan,C.H.,Wilson,G.A.and Young,F.E., Gene, 1, 153 (1977))がある。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法( Chang,S.and Choen,S.N.,Molec. Gen. Genet., 168, 111 (1979);Bibb,M.J.,Ward,J.M.and Hopwood,O.A.,Nature, 274, 398 (1978);Hinnen,A.,Hicks,J.B.and Fink,G.R.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 1929 (1978))も応用できる。また、エレクトロポレーション法(Miller J.H., “A Short Course in Bacterial Genetics; Handbook”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, U.S.A., p.279, 1992)も利用することができる。
【0055】
qorのコピー数を高めることは、qorをγ−プロテオバクテリアの染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。γ−プロテオバクテリアの染色体DNA上にqorを多コピーで導入するには、染色体DNA上に多コピー存在する配列を標的に利用して相同組換えにより行う。染色体DNA上に多コピー存在する配列としては、レペティティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーテッド・リピートが利用できる。あるいは、特開平2-109985号公報に開示されているように、qorをトランスポゾンに搭載してこれを転移させて染色体DNA上に多コピー導入することも可能である。
【0056】
QOR活性の増強は、上記の遺伝子増幅による以外に、染色体DNA上またはプラスミド上のqorのプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換することによっても達成される。例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター等が強力なプロモーターとして知られている。また、国際公開WO00/18935に開示されているように、qorのプロモーター領域に数塩基の塩基置換を導入し、より強力なものに改変することも可能である。これらのプロモーター置換または改変によりqorの発現が強化され、QOR活性が増強される。これら発現調節配列の改変は、qorのコピー数を高めることと組み合わせてもよい。
【0057】
発現調節配列の置換は、例えば、温度感受性プラスミドを用いた遺伝子置換と同様にして行うことができる。エシェリヒア・コリの温度感受性プラスミドとしては、p48K及びpSFKT2(以上、特開2000-262288号公報参照)、pHSC4(フランス特許公開1992年2667875号公報、特開平5-7491号公報参照)、pMAN997(WO 99/03988号国際公開パンフレット)等が挙げられる。
【0058】
本発明に用いるqorは、コードされるタンパク質のQOR活性が損なわれない限り、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むQORをコードするものであってもよい。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には2から30個、好ましくは、2から20個、より好ましくは2から10個である。
【0059】
上記のようなQORと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むように、qorの塩基配列を改変することによって得られる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている変異処理によっても取得され得る。変異処理としては、変異処理前のDNAをヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、及び変異処理前のDNAを保持する微生物、例えばエシェリヒア属細菌を、紫外線照射またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。
【0060】
上記のような変異を有するDNAを、適当な細胞で発現させ、発現産物の活性を調べることにより、QORと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。また、変異を有するQORをコードするDNAまたはこれを保持する細胞から、例えば報告されているエシェリヒア・コリのqor遺伝子の塩基配列(GenBank accession g1790485)、もしくはパントエア・アナナティスのqor遺伝子の塩基配列(配列番号20に記載の塩基配列のうち塩基番号304〜1287からなる塩基配列)、又はそれら一部を有するプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、QOR活性を有するタンパク質をコードするDNAが得られる。ここでいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば40%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%、最も好ましくは90%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。
【0061】
プローブとして、前記遺伝子の塩基配列の一部の配列を用いることもできる。そのようなプローブは、前記qor遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、qor遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとして、300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1%SDSが挙げられる。
【0062】
QORと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAとして具体的には、配列番号21に示すアミノ酸配列と、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上の相同性を有し、かつQOR活性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。尚、エシェリヒア・コリのqorとパントエア・アナナティスのqorは、アミノ酸レベルで70%の相同性を有している。
【0063】
<2>L−グルタミン酸の製造法
上記のようにして得られるγ−プロテオバクテリアを培地で培養し、該培地中にL−グルタミンを生成蓄積せしめ、該培地からL−グルタミンを採取することにより、L−グルタミンを効率よく製造することができる。
【0064】
本発明のγ−プロテオバクテリアを用いてL−グルタミンを生産するには、炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する通常の培地を用いて常法により行うことができる。合成培地または天然培地のいずれも使用可能である。培地に使用される炭素源および窒素源は培養する菌株の利用可能であるものならばいずれの種類を用いてもよい。
【0065】
炭素源としては、グルコース、グリセロール、フラクトース、スクロース、マルトース、マンノース、ガラクトース、澱粉加水分解物、糖蜜等の糖類が使用され、その他、酢酸、クエン酸等の有機酸、エタノール等のアルコール類も単独あるいは他の炭素源と併用して用いられる。
【0066】
窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、りん酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩または硝酸塩等が使用される。
【0067】
有機微量栄養素としては、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、更にこれらのものを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆たん白分解物等が使用され、生育にアミノ酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には要求される栄養素を補添することが好ましい。
【0068】
無機塩類としてはりん酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等が使用される。
培養は、発酵温度20〜45℃、pHを5〜9に制御し、通気培養を行う。培養中にpHが下がる場合には、炭酸カルシウムを加えるか、アンモニアガス等のアルカリで中和する。かくして10時間〜120時間程度培養することにより、培養液中に著量のL−グルタミンが蓄積される。
【0069】
培養終了後の培養液からL−グルタミンを採取する方法は、公知の回収方法に従って行えばよい。例えば、培養液から菌体を除去した後に、濃縮晶析することによって採取される。
【0070】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0071】
【実施例1】ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムの耐酸性に関与する遺伝子の取得
<1>ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム野生株からの耐酸性変異株の取得
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムの野生株ATCC13869株を、以下の方法で変異剤N−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)を用いて変異処理した。ATCC13869株を、CM2B培地(10g/Lポリペプトン、10g/Lイーストエキストラクト、5g/L NaCl、10μg/Lビオチン、pH7.0)8mlを入れた4ml試験管2本で、660nmにおける吸光度(OD660)が約0.7になるまで振とう培養した。培養後の菌体を、50mM リン酸緩衝液(pH7.0)で2回洗浄後、500μlの50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体懸濁液に、最終濃度が0.5μg/μlとなるようにNTGを添加し、31.5℃で10分間インキュベート後、50mM リン酸緩衝液(pH7.0)3回で洗浄、200μlの50mM リン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体を、8ml CM2B培地に接種し、31.5℃で一晩培養し、変異処理菌体を調製した。
【0072】
上記の変異処理菌体から、耐酸性変異株を濃縮するため、S型ジャーファーメンターを用いて、酸性条件下での連続培養を行った。方法は、以下のとおりである。300mlの培地(60g/Lグルコース、1.4g/L H3PO4、750mg/L MgSO4・7H2O、15mg/L FeSO4・7H2O、1.35g/L(N量として)大豆加水分解物(「豆濃」(mameno)(味の素(株))、450μg/L ビタミンB1-HCl、450μg/Lビオチン、3μg/LビタミンB12、7.5mg/L PABA(パラアミノ安息香酸)、7.5mg/LビタミンC、500mg/L DL-メチオニン、1ml/L 消泡剤AZ-20R(日本油脂社製))に、上記の変異処理菌体を接種して31.5℃で培養した。グルコースが完全消費された後からは、フィード液(上記培地と同じ培地)を添加し、培地の液量が450mlで一定に保たれるように培養液の引き抜きをフィードと同時に行い、6日間の連続培養を行った。pH7.0で培養を開始し、6日間培養を行った。培地のpHは、培養時間の経過とともに自然に徐々に低下し、pH4.9になるまで培養した。
【0073】
上記の連続培養菌体から、耐酸性変異株のスクリーニングを行った。スクリーニングの方法は以下のとおりである。連続培養菌体を、pH5.7(KOHで調整)のMM/MES培地(20g/Lグルコース、10g/L (NH4)2SO4、1g/L KH2PO4、0.4g/L MgSO4・7H2O、10mg/L FeSO4・7H2O、10mg/L MnSO4・4-5H2O、200μg/L ビタミンB1-HCl、50μg/Lビオチン、5mg/Lニコチンアミド、1g/L NaCl、1g/Lカザミノ酸、50mg/L L−トリプトファン、30mg/L L−システイン、100mM MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)、20g/L寒天)に、1プレートあたり約104個細胞の菌体密度となるように均一に塗り広げ、31.5℃、6日間の培養の後形成されたコロニーを取得した。野生株はpH5.7ではコロニー形成ができないため、この操作によって取得される株は、酸性下でコロニー形成が可能な耐酸性変異株と考えられる。こうして、耐酸性変異株16-1株及び16-20株を取得した。また、pH5.9の培地を使用したことと、3日間の培養を行ったこと以外は、全て同じ方法によって、耐酸性変異株15-11株を取得した。
【0074】
<2>ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム16-1株、16-20株、及び15-11株に特有の遺伝子の単離
(1)ゲノムライブラリーの作製
上記のようにして取得したブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム16-1株、16-20株、及び15-11株の各菌株から染色体DNAを調製し、制限酵素Sau3AIにより部分分解し、4〜6kbpのDNA断片を精製した。これらのDNA断片を、エシェリヒア・コリとコリネバクテリウム属細菌の双方の菌体内で自律複製可能なプラスミドベクター(pSFK6)のBamHIサイトに挿入した。16-1株では約14000クローン、16-20株では約7000クローン、15-11株では約14000クローンからなるゲノムライブラリーを得た。
【0075】
前記pSFK6は、エシェリヒア・コリ用のベクターpHSG399(S. Takeshita et al : Gene 61,63-74(1987)参照、宝酒造(株)から購入できる)とストレプトコッカス・フェカリスのカナマイシン耐性遺伝子から作製されたプラスミドpK1と、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869より抽出したプラスミドpAM330(米国特許第4,427,773号、特開昭58-67699号公報参照)から構築されたプラスミドである(特開2000-262288号公報、米国特許第6,303,383号)。
【0076】
(2)耐酸性変異株特有の遺伝子の取得
16-1株、16-20株、及び15-11株の各々のゲノムライブラリーを、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869に導入した。プラスミドの導入には、電気パルス法(特開平2-207791)を用いた。形質転換体をpH5.7のMM/MESプレートに蒔き、31.5℃、7〜9日間の培養の後、コロニーを形成したクローンを取得した。各変異株ゲノムライブラリーについて数十万クローンの検索を行った。ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869は、pH5.7以下のMM/MESプレートでのコロニー形成ができないことから、取得されたクローンはプラスミド上の遺伝子によって耐酸性が付与されたものであると考えられる。このようなクローンが4種類(クローン#D5、クローン#F1、クローン#F2、クローン#H87)取得された。
【0077】
【実施例2】ORF39遺伝子産物からのQOR活性の検出
上記各クローン#D5、#F1、#F2、及び#H87が持つプラスミド上のゲノムDNA断片の塩基配列中には、各々オープンリーディングフレーム(ORF)が含まれていた。各ORFについて公知のエシェリヒア・コリのゲノム配列との相同性検索を行ったところ、クローン#F2が持つプラスミドに含まれるORF(以下、「ORF39」という)は、エシェリヒア・コリのqor遺伝子とアミノ酸配列レベルで約30%の相同性が認められた。ORF39及びその隣接領域の塩基配列を配列番号1に示す。ORF39がコードするアミノ酸配列を配列番号2に示す。尚、配列番号1の塩基番号1〜7は、pHSG399に由来する配列である。
【0078】
ORF39がコードするタンパク質がQOR活性を有している可能性について検討を行った。まず、ORF39遺伝子産物の精製を行うため、ヒスチジンタグ(His-tag)を付加したORF39遺伝子産物の発現プラスミドを作製した。
【0079】
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムATCC13869株のゲノムを鋳型とし、下記オリゴヌクレオチドをプライマーとするPCRにより、ORF39のC’末端に6個のヒスチジン(His×6)をコードするDNA配列を融合させたDNA断片を取得した。PCRは、Pyrobest DNA polymerase(宝酒造社製)を使用し、94℃ 5分の後、98℃ 5秒、65℃ 10秒、72℃ 1分を30サイクル行った。
【0080】
(プライマーCHIC-FW)
ccggaattcgggcaagcacaatgtgcttcgacactc(配列番号3)
(プライマーCHIC-RV)
aaactgcagttagtggtggtggtggtggtggattgccaacacgatttttccggtgctg(配列番号4)
【0081】
増幅産物を、プライマー上に設計しておいたEcoRIサイト(プライマーCHIS-FW)とPstIサイト(プライマーCHIS-RV)で切断し、得られた断片を発現ベクターpTrc99A(Parmacia Biotech社製)のEcoRI-PstIサイトに挿入し、pCHIS145を作製した。なお、プライマーCHIS-RVは、ORF39のC'末端最後のアミノ酸残基にHis×6がイン−フレームで融合されるように設計されており、その後ろには終始コドン及びPstIサイトが設計されている。また、プライマーCHIS-FWにはEcoRIサイトが導入されており、PCR産物(ORF39)をこのEcoRIサイトで切断し、pTrc99AのEcoRI サイトに連結させた場合に、pTrc99A上のtrcプロモーター下流に存在する開始コドンに対してORF39の5'末端がイン−フレームで融合されるように設計されている。こうしてORF39遺伝子産物のC'末端にHis×6が融合されたタンパク質を発現するためのDNA配列が、pTrc99Aのtrcプロモーター下流に連結されたプラスミド(pCHIS145)を作製した。pCHIS145をエシェリヒア・コリJM109株(宝酒造社製)に導入し、JM109/pCHIS145株を得た。
【0082】
次に、His-tagを利用したORF39遺伝子産物の精製を行った。このJM109/pCHIS145株をLB培地(5mM IPTG添加)にOD660=0.10となるように菌体を接種し、OD660=0.7となるまで37℃で振とう培養を行った。ODは、Tokyo Photoelectric社製ANA-7Aを用いて測定した。12mlの培養液から菌体を回収し、0.85M NaClで3回菌体を洗浄した。菌体を600μlの吸着・洗浄液(MagExtractor-His-tag-、東洋紡社製)に懸濁し、5分間の超音波破砕を行った後、遠心分離により上清を分離して粗酵素液を取得した。
【0083】
上記粗酵素液から、MagExtractor-His-tag-(東洋紡社製)を使用して精製ORF39産物(精製酵素)を得た。標準的なプロトコールに従い、SDS-PAGEによって精製産物の確認を行ったところ、目的のタンパク質のサイズと考えられる33.2kDのバンドが検出された。一方、発現ベクターのみを導入したJM109(JM109/pTrc99A)から同様の精製操作を行った場合には、前記バンドは見られないことから、目的の精製酵素が取得されたと考えられた。
【0084】
上記のようにして取得された精製酵素を用いて、QOR活性の測定を行った。QOR(及び真核生物でのホモログであるゼータ−クリスタリン)は、NADPHを補酵素とし、1,2-NQ(1,2-ナフトキノン(1,2-naphthoquinone))や9,10-PQ(9,10-フェナンスレンキノン(9,10-phenanthrenequinone))などのキノンを還元する酵素活性を有することが知られている。そこで、基質として1,2-NQ又は9,10-PQを反応系に添加し、さらに補酵素としてNADPHを反応系に添加し、NADPHの減少を340nmの吸光度の変化を測定することによって、QOR活性を測定することができる(P.V.Rao C.M.Krishna J.S.Zigler Jr., Jounal of Biological Chemistry, 267(1), pp96-102, 1992)。
【0085】
100mM Tris-HCl(pH7.8)、0.2mM EDTA、0.1mM NADPHに、20μM 1,2-NQ、又は25μM 9,10-PQを添加し、更にタンパク質量で0.5μgに相当する精製酵素液を添加した(反応液の液量 1ml)。この反応液の340nmの吸収を、分光光度計U-2000(日立製作所製)を使用し、光路1cmのセルを用い、25℃で1分間スキャンした。1,2-NQ はAldrich社製(34-661-6)、9,10-PQはWAKO社製(160-00831)を使用した。その結果、精製酵素では、基質1,2-NQ 及び9,10-PQに対してQOR活性が認められた。一方、発現ベクターのみを導入したJM109/pTrc99A株から同様の精製操作を行って取得されたサンプルからは、QOR活性が検出されなかった。以上のことから、ここで検出された酵素活性は、精製されたORF39産物由来であるといえる(図1)。
【0086】
また、QOR活性は、阻害剤ジクマロール(dicumarol)の添加により阻害を受けることから、上記で測定された酵素活性が特異的なQOR活性であるかを確認するため、ジクマロールによるQOR活性の阻害実験を行った。0.1mMジクマロール存在下、25℃で5分間、酵素液をインキュベートした後、上記と同様の反応系に添加し、QOR活性の測定を行ったところ、同活性はジクマロールの添加により約20%の阻害を受けることが確認された(図2)。従って、上記反応系で測定される酵素活性は特異的なQOR活性であったことが確認された。なおジクマロールはSIGMA社製(M-1390)を使用した。
【0087】
【実施例3】エシェリヒア・コリのqor遺伝子のクローニング
エシェリヒア・コリW3110株のゲノムDNAを鋳型とし、下記オリゴヌクレオチドをプライマーとするPCRにより、qor遺伝子とその上流約300bp及び下流約200bpを含むDNA断片を取得した。PCRは、Pyrobest DNA polymerase(宝酒造社製)を使用し、94℃ 5分の後、98℃ 5秒、65℃ 10秒、72℃ 90秒を30サイクル行った。
【0088】
(プライマーEcqor-FW)
cgcgaattcagtaaagatatgacggtgtgggc(配列番号5)
(プライマーEcqor-RV)
ccggaattcagcgttatgaccgctggcgttac(配列番号6)
【0089】
取得した約1.5kbのqor遺伝子を含むDNA断片を、両プライマーの5’末端側に設計しておいたEcoRIサイトで切断し、クローニングベクターpHSG299(宝酒造社製)のEcoRIサイトに挿入した。同プラスミドより前記qor遺伝子断片を再びEcoRIサイトで切り出し、クローニングベクターpSTV28(宝酒造社製)のEcoRIサイトにlacZ遺伝子の転写方向に対して順方向となるようにqor遺伝子断片を挿入し、pECQ28Bを得た。
【0090】
【実施例4】エシェリヒア・コリsucA遺伝子破壊株の作製
報告されているsucA遺伝子の塩基配列に基づいてプライマーを合成し、エシェリヒア・コリMG1655株のゲノムDNAを鋳型として、sucA遺伝子のN末およびC末断片をPCR法により増幅した。PCRは、Pyrobest DNA Polymerase(宝酒造社製)を用い、添付説明書にしたがって行った。N末端断片増幅用PCR用プライマーにはプライマー7、8を、C末端断片増幅用PCR用プライマーにはプライマー9、10を用いた。プライマー9にはHindIIIサイトが、プライマー10にはXbaIサイトがそれぞれデザインされている。
【0091】
(プライマー7)
cccaagcttctgcccctgacactaagaca(GenBankのaccession No. AE000175の塩基配列の塩基番号10721-10740の配列の5’末にcccおよびHindIIIサイトを付加した配列:配列番号7)
(プライマー8)
cgaggtaacgttcaagacct(GenBankのaccession No. AE000175の塩基配列の塩基番号11501-11520に相補的な配列:配列番号8)
(プライマー9)
aggtcttgaacgttacctcgatccataacgggcagggcgc(GenBankのaccession No. AE000175の塩基配列の12801-12820の配列の5’末にGenBankのaccession No. AE000175の塩基配列の塩基番号10501-11520の配列を付加した配列:配列番号9)
(プライマー10)
gggtctagaccactttgtcagtttcgatt(GenBankのaccession No. AE000175の塩基配列の塩基番号13801-13820に相補的な配列に5’末にgggおよびXbaIサイトを付加した配列:配列番号10)
【0092】
PCR後の増幅DNA断片は、それぞれ、QIAquick PCR Purification Kit(キアゲン社製)にて精製し、精製したN末端DNA断片およびC末端DNA断片、プライマー7、10を用いて、クロスオーバーPCR法(A. J. Link, D. Phillips, G. M. Church, Journal of Bacteriology, 179, 6228-6237 (1997))により、欠損型sucA断片を得た。
【0093】
精製したDNA断片を、HindIII及びXbaIにて切断した後、フェノール/クロロホルム処理、及びエタノール沈殿を行った。同様にHindIII及びXbaIで切断した温度感受性プラスミドpMAN997(WO 99/03988号国際公開パンフレット)と前記DNA断片とをDNA ligation Kit Ver.2(宝酒造社製)を用いて連結した。この連結反応液にて、JM109コンピテント細胞(宝酒造社製)を形質転換し、アンピシリン(シグマ社製)を25μg/mL含むLB寒天プレート(LB+アンピシリンプレート)に塗布した。30℃で1日培養後、生育したコロニーを25μg/mLのアンピシリンを含むLB培地で30℃にて試験管培養し、自動プラスミド抽出機PI-50(クラボウ社製)を用いてプラスミド抽出を行った。得られたプラスミドをHindIII及びXbaIで切断し、アガロースゲル電気泳動を行って、目的断片が挿入されているプラスミドをsucA破壊用プラスミドpMAN_ΔsucAとした。尚、前記pMAN997は、pMAN031(S.Matsuyama and S. Mizushima, J. Bacteriol., 162, 1196 (1985))とpUC19(宝酒造社製)のそれぞれのVspI-HindIII断片を繋ぎ換えたものである。
【0094】
プラスミドpMAN_ΔsucAでエシェリヒア・コリMG1655株をC. T. Chungらの方法により形質転換し、LB+アンピシリンプレートで30℃でコロニーを選択した。選択したクローンを30℃で一晩液体培養した後、培養液を10-3希釈してLB+アンピシリンプレートにまき、42℃でコロニーを選択した。選択したクローンをLB+アンピシリンプレートに塗り広げて30℃で培養した後、プレートの1/8の菌体をLB培地 2 mLに懸濁し、42℃で4〜5時間振とう培養した。10-5希釈した培養液をLBプレートにまき、得られたコロニーのうち数百コロニーをLBプレートとLB+アンピシリンプレートに植菌し、生育を確認することで、アンピシリン感受性株を選択した。アンピシリン感受性株の数株についてコロニーPCRを行い、sucA遺伝子の欠失を確認した。こうしてエシェリヒア・コリMG1655株由来のsucA破壊株MG1655ΔsucA株を得た。
【0095】
【実施例5】エシェリヒア・コリのqor遺伝子増幅株によるL−グルタミン酸生産
<1>エシェリヒア・コリのqor遺伝子増幅株の作製
上記プラスミドpECQ28Bを、エシェリヒア・コリJM109株(宝酒造社製)に導入し、qor遺伝子増幅株JM109/pECQ28B株を取得した。これに対する対照株として、クローニングベクターpSTV28(宝酒造社製)を導入したJM109/pSTV28株を取得した。また、pECQ28Bをエシェリヒア・コリMG1655株由来のsucA遺伝子欠損株に導入し、qor遺伝子増幅株MG1655ΔsucA/pECQ28B株を取得した。これに対する対照株として、クローニングベクターpSTV28(宝酒造社製)を導入したMG1655ΔsucA/ pSTV28株を取得した。
【0096】
<2>エシェリヒア・コリのqor遺伝子増幅株の酸性条件下での生育
上記JM109/pECQ28B株(qor遺伝子増幅株)及びJM109/pSTV28株、並びにそれらの対照株を、LB培地(10g/lトリプトン、5g/lイーストエキストラクト、10g/l NaCl、pH7.0)で37℃、一昼夜培養した。この培養液を、OD(660nm)が約0.1(Tokyo Photoelectric社OD計を使用)となるように新しいLB培地(4ml 試験管)に植え継ぎ、OD(660nm)が0.5付近(Tokyo Photoelectric社OD計を使用)まで培養した。この培養液から1%(v/v)の植菌量でLBG/MES培地(10g/l typtone、5g/l yeast extract、10g/l NaCl、5g/l glucose、100mM MES、pH5.0)、L-tube 4mlに植え継ぎ、小型振とう培養装置(ADVANTEC社製)を使用し、37℃で24時間培養した。このときの生育曲線を図3に示す。qor遺伝子増幅株は対照株に比べ生育が向上していることがわかる。このようにqor遺伝子の増幅によりE.coliの酸性下での生育を向上させることができた。
【0097】
<3>エシェリヒア・コリのqor遺伝子増幅によるL−グルタミン酸生産
上記MG1655ΔsucA/pECQ28B株(qor遺伝子増幅株)、及びMG1655ΔsucA/pSTV28株(対照株)をM9G/MES培地(M9最少培地(Molecular Cloning 3rd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY)に最終濃度がグルコース0.4%、イーストエキストラクト 0.01%、MES 100mMとなるようにそれぞれ添加、pH7.0)を用いてOD(660nm)が0.7付近(Tokyo Photoelectric社OD計を使用)になるまで37℃で振とう培養を行い、菌体を調製した。
【0098】
得られた菌体を、新しいM9G/MES培地(成分は上記と同じ、6種類のpHに調整(pH7.5、pH7.0、pH6.8、pH6.5、pH6.0、pH5.5))に10容量%植菌し、L字管にて37℃で24時間の振とう培養を行った後、培地中のL−グルタミン酸濃度およびグルコース濃度を測定した。このときの消費糖に対するL−グルタミン酸の収率を図4に示す。対照株に比べ、qor遺伝子増幅株では、pH5.5からpH7.5の範囲でL−グルタミン酸収率の向上が認められた。このように、qor遺伝子を増幅することにより、pH5.5からpH7.5の範囲において、エシェリヒア・コリのL−グルタミン酸収率を向上させることができた。
【0099】
【実施例6】酸性条件下でL−グルタミン酸生産能を有するパントエア・アナナティスの構築
<1>酸性環境下にてL−グルタミン酸耐性を有する微生物の探索
酸性環境下にてL−グルタミン酸耐性を有する微生物の探索は、以下のようにして行った。1gの土壌、果実、植物体、河川水などの自然界より得られたサンプルおよそ500点を、それぞれ5mLの滅菌水に懸だくし、そのうち200μLを塩酸にてpHを4.0に調製した固体培地20mLに塗布した。同培地の組成は、以下のとおりである。グルコース3g/L、硫酸アンモニウム1g/L、硫酸マグネシウム七水塩0.2g/L、リン酸二水素カリウム0.5g/L、塩化ナトリウム0.2g/L、塩化カルシウム二水塩0.1g/L、硫酸第一鉄七水塩0.01g/L、硫酸マンガン四水塩0.01g/L、硫酸亜鉛二水塩0.72mg/L、硫酸銅五水塩0.64mg/L、塩化コバルト六水塩0.72mg/L、ホウ酸0.4mg/L、モリブデン酸ナトリウム2水塩1.2mg/L、ビオチン50μg/L、パントテン酸カルシウム50μg/L、葉酸50μg/L、イノシトール50μg/L、ナイアシン50μg/L、パラアミノ安息香酸50μg/L、ピリドキシン塩酸塩50μg/L、リボフラビン50μg/L、チアミン塩酸塩50μg/L、シクロヘキシミド50mg/L、寒天20g/L。
【0100】
上記のサンプルを塗布した培地を、28℃、37℃又は50℃にて、2〜4日間培養し、コロニーを形成する菌株を378株取得した。
続いて、上記のようにして得られた菌株を、飽和濃度のL−グルタミン酸を含む液体培地(塩酸にてpH4.0に調整)3mLを注入した長さ16.5cm、径14mmの試験管に植菌し、24時間〜3日間、28℃、37℃又は50℃にて振とう培養を行い、増殖する菌株を選抜した。前記培地の組成は、以下のとおりである。グルコース40g/L、硫酸アンモニウム20g/L、硫酸マグネシウム七水塩0.5g/L、リン酸二水素カリウム2g/L、塩化ナトリウム0.5g/L、塩化カルシウム二水塩0.25g/L、硫酸第一鉄七水塩0.02g/L、硫酸マンガン四水塩0.02g/L、硫酸亜鉛二水塩0.72mg/L、硫酸銅五水塩0.64mg/L、塩化コバルト六水塩0.72mg/L、ホウ酸0.4mg/L、モリブデン酸ナトリウム二水塩1.2mg/L、酵母エキス2g/L。
【0101】
このようにして、酸性環境下にてL−グルタミン酸耐性を有する微生物78株を取得することに成功した。
【0102】
<2>酸性環境下にてL−グルタミン酸耐性を有する微生物からの増殖速度に優れた菌株の選抜
上記のようにして得られた、酸性環境下にてL−グルタミン酸耐性を有する種々の微生物を、M9培地(J. Sambrook, E.F.Fritsh, T.Maniatis “Molecular Cloning”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, U.S.A., 1989)に20g/Lのグルタミン酸と2g/Lのグルコースを加え、pHを塩酸で4.0に調整した培地3mLを注入した長さ16.5cm、径14mmの試験管に植菌し、培地の濁度を経時的に測定することによって、増殖速度の良好な菌株の選抜を行った。その結果、生育が良好な菌株として、静岡県磐田市の土壌より採取されたAJ13355株が得られた。本菌株は、菌学的性質から、エンテロバクター・アグロメランスと判定された。エンテロバクター・アグロメランスは、16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)又はパントエア・アナナティス(P. ananatis)、パントエア・スチューアルティ(P. stewartii)等に再分類されているものがあり、前記AJ13355株は、これらのうち、パントエア・アナナティスに分類されている。
【0103】
<3>パントエア・アナナティスAJ13355株からの粘液質低生産株の取得
パントエア・アナナティスAJ13355株は糖を含有する培地で培養を行うと、菌体外に粘液質を生成するために、操作効率がよくない。そこで、粘液質低生産株の取得を、紫外線照射法(Miller, J.H. et al., "A Short Cource in Bacterial Genetics; Laboratory Manual", Cold Spring Harbor Laboratory Press, U.S.A., p.150, 1992)により行った。
【0104】
60Wの紫外線ランプから60cm離した位置で、パントエア・アナナティスAJ13355株に紫外線を2分間照射した後、LB培地で終夜培養して変異を固定した。変異処理した菌株を、5g/Lのグルコースと20g/Lの寒天を含むLB培地に、プレート当たり約100個程度のコロニーが出現するように希釈して撒き、プレートを約45°傾けて30℃で終夜培養を行い、粘液質が流れ落ちないようになったコロニーを20個選抜した。
【0105】
選抜された株の中から、5g/Lのグルコースと20g/Lの寒天を含むLB培地で5回継代培養を行っても復帰変異株が出現せず、さらに、LB培地及び5g/Lのグルコースを含むLB培地ならびにM9培地(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning, 2nd edition, Cold Spring Harbor press, U.S.A. (1989))に20g/LのL−グルタミン酸と2g/Lのグルコースを加え、pHを塩酸で4.5に調製した培地で親株と同等の生育を示すという条件を満たす菌株として、SC17株を選抜した。
【0106】
<4>パントエア・アナナティスSC17株からのグルタミン酸生産菌の構築
(1)パントエア・アナナティスSC17株からのαKGDH欠損株の作製
パントエア・アナナティスSC17株から、αKGDHを欠損し、さらにL−グルタミン酸生合成系が強化された株を作製した。
【0107】
(i)パントエア・アナナティスAJ13355株のαKGDH遺伝子(以後「sucAB」という)のクローニング
パントエア・アナナティスAJ13355株のsucAB遺伝子は、エシェリヒア・コリのαKGDH−E1サブユニット遺伝子(以後「sucA」という)欠損株の酢酸非資化性を相補するDNA断片を、パントエア・アナナティスAJ13355株染色体DNAより選択することによって、クローニングした。
【0108】
パントエア・アナナティスAJ13355株の染色体DNAは、エシェリヒア・コリにおいて通常染色体DNAを抽出するのに使用されるのと同様の方法(生物工学実験書、日本生物工学会偏、97−98頁、培風館、1992年)で単離した。ベクターとして使用したpTWV228(アンピシリン耐性)は宝酒造社製の市販品を用いた。
【0109】
AJ13355株の染色体DNAをEcoT221で消化したもの、およびpTWV228をPstIで消化したものをT4リガーゼにより連結し、sucA欠損のエシェリヒア・コリ JRG465株(Herbert J.ら Mol.Gen.Genetics 1969,105巻、182頁)を形質転換した。こうして得た形質転換株より、酢酸最少培地にて増殖する株を選択し、これよりプラスミドを抽出してpTWVEK101と命名した。pTWVEK101を持つエシェリヒア・コリ JRG465株は酢酸非資化性という形質の他にコハク酸もしくはL−リジンおよびL−メチオニンの要求性も回復していた。このことよりpTWVEK101にはパントエア・アナナティスのsucA遺伝子が含まれていると考えられる。
【0110】
pTWVEK101のパントエア・アナナティス由来DNA断片の制限酵素地図を図5に示した。図5の斜線にて示した部分の塩基配列を決定した結果を配列番号11に示した。この配列の中には、2つの完全長のORFと、2つのORFの部分配列と思われる塩基配列が見いだされた。これらのORFまたはその部分配列がコードし得るアミノ酸配列を、5’側から順に配列番号12〜15に示す。これらのホモロジー検索をした結果、塩基配列を決定した部分は、サクシネートデヒドロゲナーゼアイロン−スルファープロテイン遺伝子(sdhB)の3’末端側の部分配列、完全長のsucAとαKGDH−E2サブユニット遺伝子(sucB)、サクシニルCoAシンセターゼβサブユニット遺伝子(sucC)の5’末端側の部分配列を含んでいることが明らかとなった。これらの塩基配列から推定されるアミノ酸配列をそれぞれエシェリヒア・コリのもの(Eur.J. Biochem., 141, 351-359 (1984)、Eur.J. Biochem., 141, 361-374 (1984)、Biochemistry, 24, 6245-6252 (1985))と比較したところ、各アミノ酸配列は非常に高い相同性を示した。また、パントエア・アナナティス染色体上でもエシェリヒア・コリと同様に(Eur.J. Biochem., 141, 351-359 (1984)、Eur.J. Biochem., 141, 361-374 (1984)、Biochemistry, 24, 6245-6252 (1985))、sdhB−sucA−sucB−sucCとクラスターを構成していることが判明した。
【0111】
(ii)パントエア・アナナティスSC17株由来のαKGDH欠損株の取得
上記のようにして取得されたパントエア・アナナティスのsucAB遺伝子を用い、相同組換えによりパントエア・アナナティスのαKGDH欠損株の取得を行った。
【0112】
pTWVEK101をSphIで切断してsucAを含む断片を切り出した後、クレノーフラグメント(宝酒造(株))で平滑末端化した断片を、EcoRIで切断しクレノーフラグメントで平滑末端化したpBR322(宝酒造(株))とを、T4 DNAリガーゼ(宝酒造(株))を用いて結合した。得られたプラスミドを、sucAのほぼ中央部分に位置する制限酵素BglII認識部位で同酵素を用いて切断し、クレノーフラグメントで平滑末端化し、再びT4 DNAリガーゼで結合した。以上の操作によって、新たに構築されたプラスミド中のsucAにはフレームシフト変異が導入され、同遺伝子は機能しなくなると考えられた。
【0113】
上記のようにして構築されたプラスミドを制限酵素ApaLIで切断した後、アガロースゲル電気泳動を行い、フレームシフト変異が導入されたsucA及びpBR322由来のテトラサイクリン耐性遺伝子を含むDNA断片を回収した。回収したDNA断片を再びT4 DNAリガーゼで結合し、αKGDH遺伝子破壊用プラスミドを構築した。
【0114】
上記のようにして得られたαKGDH遺伝子破壊用プラスミドを用いて、パントエア・アナナティスSC17株を、エレクトロポレーション法(Miller J.H.,“A Short Course in Bacterial Genetics; Handbook”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, U.S.A., p.279, 1992)によって形質転換し、テトラサイクリン耐性を指標にプラスミドが相同組換えによって染色体上のsucAが変異型に置換された菌株を取得した。取得された株をSC17sucA株と命名した。
【0115】
SC17sucA株がαKGDH活性を欠損していることを確認するために、LB培地で対数増殖期まで培養した同株の菌体を用いて、Reedらの方法(L.J.Reed and B.B.Mukherjee, Methods in Enzymology 1969, 13, p.55-61)に従って酵素活性を測定した。その結果、SC17株からは0.073(ΔABS/min/mgタンパク)のαKGDH活性が検出されたのに対し、SC17sucA株ではαKGDH活性を検出できず、目的通りsucAが欠損していることが確かめられた。
【0116】
(2)パントエア・アナナティスSC17sucA株のL−グルタミン酸生合成系の強化
続いてSC17sucA株に、エシェリヒア・コリ由来のクエン酸シンターゼ遺伝子、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子、およびグルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入した。
【0117】
(i)エシェリヒア・コリ由来のgltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子を有するプラスミドの作製
gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子を有するプラスミドの作成の手順を、図6、7に基づいて説明する。
【0118】
エシェリヒア・コリ由来のgdhA遺伝子を有するプラスミドpBRGDH(特開平7−203980号)をHindIII、SphI消化し、T4DNAポリメラーゼ処理で両末端を平滑末端にした後、gdhA遺伝子を有するDNA断片を精製回収した。一方、エシェリヒア・コリ由来のgltA遺伝子およびppc遺伝子を有するプラスミドpMWCP(WO97/08294号)をXbaIで消化後、T4DNAポリメラーゼで両末端を平滑末端にした。これに、上で精製したgdhA遺伝子を有するDNA断片を混合後、T4リガーゼにより連結し、pMWCPに更にgdhA遺伝子を搭載したプラスミドpMWCPGを得た(図6)。
【0119】
同時に、広宿主域プラスミドRSF1010の複製起点を有するプラスミドpVIC40(特開平8−047397号)をNotIで消化し、T4DNAポリメラーゼ処理した後、PstI消化したものと、pBR322をEcoT14I消化し、T4DNAポリメラーゼ処理した後、PstI消化したものとを混合後、T4リガーゼにより連結し、RSF1010の複製起点及びテトラサイクリン耐性遺伝子を有するプラスミドRSF−Tetを得た(図7)。
【0120】
次に、pMWCPGをEcoRI、PstI消化し、gltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子を有するDNA断片を精製回収し、RSF−Tetを同様にEcoRI、PstI消化し、RSF1010の複製起点を有するDNA断片を精製回収したものと混合後、T4リガーゼにより連結し、RSF−Tet上にgltA遺伝子、ppc遺伝子、およびgdhA遺伝子を搭載したプラスミドRSFCPGを得た(図8)。得られたプラスミドRSFCPGがgltA遺伝子、ppc遺伝子およびgdhA遺伝子を発現していることは、エシェリヒア・コリのgltA遺伝子、ppc遺伝子、あるいはgdhA遺伝子欠損株の栄養要求性の相補と各酵素活性の測定によって確認した。
【0121】
(ii)ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のgltA遺伝子を有するプラスミドの作製
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のgltA遺伝子を有するプラスミドは、以下のようにして構築した。コリネバクテリウム・グルタミカムのgltA遺伝子の塩基配列(Microbiology, 1994, 140, 1817-1828)をもとに、配列番号16及び17に示す塩基配列を有するプライマーDNAを用い、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869の染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、約3kbのgltA遺伝子断片を得た。この断片をSmaI消化したプラスミドpHSG399(宝酒造(株)より購入)に挿入し、プラスミドpHSGCBを得た(図9)。次に、pHSGCBをHindIIIで切断し切り出された約3kbのgltA遺伝子断片をHindIII消化したプラスミドpSTV29(宝酒造(株)より購入)に挿入し、プラスミドpSTVCBを得た(図9)。得られたプラスミドpSTVCBがgltA遺伝子を発現していることは、パントエア・アナナティスAJ13355株中での酵素活性の測定によって確認した。
【0122】
(iii)RSFCPG及びpSTVCBのSC17sucA株への導入
パントエア・アナナティスSC17sucA株を、RSFCPGを用いてエレクトロポレーション法にて形質転換し、テトラサイクリン耐性を示す形質転換体SC17sucA/RSFCPG株を取得した。さらにSC17sucA/RSFCPG株をpSTVCBを用いてエレクトロポレーション法にて形質転換し、クロラムフェニコール耐性を示す形質転換体SC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株を取得した。
【0123】
<4>低pH環境下でL−グルタミン酸に対する耐性が向上した菌株の取得
パントエア・アナナティスSC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株から、低pH環境下で高濃度のL−グルタミン酸に対する耐性が向上した菌株(以下、「低pH下高濃度Glu耐性株」ともいう)の分離を行った。
【0124】
SC17sucA/RSFCPG+pSTVCB株をLBG培地(トリプトン10g/L、酵母エキス5g/L、NaCl 10g/L、グルコース5g/L)にて30℃一夜培養後、生理食塩水にて洗浄した菌体を適宜希釈して、M9−E培地(グルコース4g/L、Na2HPO4・12H2O 17g/L、KH2PO4 3g/L、NaCl 0.5g/L、NH4Cl 1g/L、10mM MgSO4、10μM CaCl2、L-リジン 50mg/L、L-メチオニン 50mg/L、DL-ジアミノピメリン酸 50mg/L、テトラサイクリン 25mg/L、クロラムフェニコール 25mg/L、L-グルタミン酸 30g/L、アンモニア水にてpH4.5に調整)プレートに塗布した。32℃、2日間培養後出現したコロニーを低pH下高濃度Glu耐性株として取得した。
【0125】
得られた株について、M9−E液体培地での増殖度の測定、及びL−グルタミン酸生産試験培地(グルコース40g/L、硫酸アンモニウム20g/L、硫酸マグネシウム七水塩0.5g/L、リン酸二水素カリウム2g/L、塩化ナトリウム0.5g/L、塩化カルシウム二水塩0.25g/L、硫酸第一鉄七水塩0.02g/L、硫酸マンガン四水塩0.02g/L、硫酸亜鉛二水塩0.72mg/L、硫酸銅五水塩0.64mg/L、塩化コバルト六水塩0.72mg/L、ホウ酸0.4mg/L、モリブデン酸ナトリウム二水塩1.2mg/L、酵母エキス2g/L、 L-リジン塩酸塩200mg/L、L-メチオニン200mg/L、DL-α,ε-ジアミノピメリン酸200mg/L、テトラサイクリン塩酸塩25mg/L、クロラムフェニコール25mg/L)5mlを注入した50ml容大型試験管におけるL−グルタミン酸生産能の検定を実施し、増殖度が最もよく、L−グルタミン酸生産能が親株SC17/RSFCPG+pSTVCB株と変わらなかった株は、AJ13601と命名された。
【0126】
<5>AJ13601からのpSTVCB脱落株の取得
AJ13601株を、LBGM9液体培地で31.5℃終夜振とう培養し、1プレートにつき100〜200コロニーとなるよう適当に希釈し、テトラサイクリン12.5mg/Lを含むLBGM9プレートに塗布した。出現したコロニーについて、テトラサイクリン12.5mg/L、及びクロラムフェニコール25mg/Lを含むLBGM9プレートにレプリカし、クロラムフェニコール感受性となった株を取得し、この菌株をG106Sと命名した。G106S株は、RSFCPGのみを保有し、pSTVCBは脱落している。
【0127】
【実施例7】パントエア・アナナティスからのqor遺伝子のクローニング
前記パントエア・アナナスィスSC17株のゲノムDNAを鋳型とし、下記オリゴヌクレオチドをプライマーとするPCRにより、qor遺伝子とその上流約300bpから下流約200bpまでを含む約1.5kbのDNA断片を取得した。
PCRは、Pyrobest DNA polymerase(宝酒造社製)を使用し、94℃ 5分の後、98℃ 5秒、65℃ 10秒、72℃ 90秒を30サイクル行った。
【0128】
(プライマーEaQ-F)
cggaattcggaaaaaatcagacggtgcgag(配列番号18)
(プライマーEaQ-R)
cggaattcaagagatggccggtactaaatg(配列番号19)
【0129】
取得したDNA断片を、両プライマーに設計しておいたEcoRIサイトを利用してクローニングベクターpSTV28(宝酒造社製)のEcoRIサイトに、lacZ遺伝子の転写方向に対して順方向となるように挿入し、pEAQ28AAを作製した。配列番号20にpSTV28にクローニングした配列を示す。配列番号20において、塩基番号6〜1486はゲノム由来の配列、塩基番号1〜5及び1487〜1495はプライマー由来の配列である。塩基番号304〜1287はqor遺伝子のORFである。また、配列番号21にこのORFによってコードされる予想アミノ酸配列を示した。ここで取得したORFは、エシェリヒア・コリのqor遺伝子とDNA配列で約67%、アミノ酸配列で約70%の高い相同性を有することから、パントエア・アナナティスのqor遺伝子をコードしていると考えられる。
【0130】
【実施例8】パントエア・アナナティスのqor遺伝子増幅株によるL−グルタミン酸生産
<1>パントエア・アナナティスのqor遺伝子増幅株の作製
上記プラスミドpEAQ28AAをパントエア・アナナティスG106S株に導入し、qor遺伝子増幅株G106S/ pEAQ28AA株を取得した。また、対照株としてクローニングベクターpSTV28(宝酒造社製)を導入したG106S/pSTV28株を取得した。
【0131】
<2>パントエア・アナナティスのqor遺伝子増幅株の酸性条件下での生育
上記G106S/pEAQ28AA株(qor遺伝子増幅株)、及びG106S/pSTV28株(対照株)をLBG培地(10g/lトリプトン、5g/lイーストエキストラクト、10g/l NaCl、5g/lグルコース)を用いて、OD(660nm)が0.5付近(Tokyo Photoelectric社OD計を使用)になるまで34℃で振とう培養を行い、菌体を調製した。得られた菌体を2.5g/l (NH4)2SO4、2g/l KH2PO4、20mg/l FeSO4・7H2O、20mg/l MnSO4・4-5H2O、1g/lイーストエキストラクト、18mg/l パントテン酸Ca、4g/lグルコース、0.5g/l MgSO4・7H2O、19.5g/l MES(pH5.0)からなる培地に2容量%となるように植菌し、小型振とう培養装置(ADVANTEC社製)を使用し、L字管(液量4ml)を用いて、34℃で28時間の振とう培養を行った。このときの生育曲線を図10に示す。qor遺伝子増幅株は対照株に比べ生育が向上していることがわかる。このようにqor遺伝子の増幅によりパントエア・アナナティスの酸性下での生育を向上させることができた。
【0132】
<3>パントエア・アナナティスのqor遺伝子増幅によるL−グルタミン酸生産
上記G106S/pEAQ28AA株(qor遺伝子増幅株)、及びG106S/pSTV28株(対照株)をLBG培地(10g/lトリプトン、5g/lイーストエキストラクト、10g/l NaCl、5g/lグルコース)を用いてOD(660nm)が0.5付近(Tokyo Photoelectric社OD計を使用)になるまで34℃で振とう培養を行い、菌体を調製した。得られた菌体を2.5g/l (NH4)2SO4、2g/l KH2PO4、20mg/l FeSO4・7H2O、20mg/l MnSO4・4-5H2O、1g/lイーストエキストラクト、18mg/l パントテン酸Ca、5g/lグルコース、0.5g/l MgSO4・7H2O、19.5g/l MES(pH7.0)からなる培地に2重量%となるように植菌し、L字管にて34℃で17時間の振とう培養を行った。バイオテックアナライザー(サクラ精機)を使用し培地中のL−グルタミン酸濃度およびグルコース濃度を測定した。このときの消費糖に対するグルタミン酸の収率を表1に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
対照株に比べ、qor遺伝子増幅株ではL−グルタミン酸収率の向上がみとめられた。このようにqor遺伝子を増幅することにより、パントエア・アナナティスのグルタミン酸収率を向上させることができた。
【0135】
【発明の効果】
本発明により、γ−プロテオバクテリアのL−グルタミン酸生産能を向上させることができる。
【0136】
〔配列表の説明〕
配列番号1:B. lactofermentum ORF39の塩基配列
配列番号2:ORF39によってコードされるアミノ酸配列
配列番号3:ORF39増幅用プライマーCHIC-FW
配列番号4:ORF39増幅用プライマーCHIC-RV
配列番号5:E. coli qor遺伝子増幅用プライマーEcqor-FW
配列番号6:E. coli qor遺伝子増幅用プライマーEcqor-RV
配列番号7:sucA遺伝子N末端増幅用プライマー7
配列番号8:sucA遺伝子N末端増幅用プライマー8
配列番号9:sucA遺伝子C末端増幅用プライマー9
配列番号10:sucA遺伝子C末端増幅用プライマー10
配列番号11:P. ananatis sucA遺伝子を含むDNA断片の塩基配列
配列番号12:P. ananatis sdhB遺伝子3'末端領域がコードするアミノ酸配列
配列番号13:P. ananatis sucA遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号14:P. ananatis sucB遺伝子がコードするアミノ酸配列
配列番号15:P. ananatis sucC遺伝子5'末端領域がコードするアミノ酸配列
配列番号16:B. lactofermentum gltA遺伝子増幅用プライマー
配列番号17:B. lactofermentum gltA遺伝子増幅用プライマー
配列番号18:P. ananatis qor遺伝子増幅用プライマーEaQ-F
配列番号19:P. ananatis qor遺伝子増幅用プライマーEaQ-R
配列番号20:P. ananatis qor遺伝子を含むDNA断片の塩基配列
配列番号21:P. ananatis qor遺伝子によってコードされるアミノ酸配列
配列番号22:E. coli gltA、gdhA、ppcの各遺伝子を含むプラスミドRSFCPGの塩基配列
配列番号23:E. coli gltAによってコードされるCSのアミノ酸配列
配列番号24:E. coli gdhAによってコードされるGDHのアミノ酸配列
配列番号25:E. coli ppcによってコードされるPEPCのアミノ酸配列
配列番号26:B. lactofermentumのgltA遺伝子を含むプラスミドpSTVCBの塩基配列
配列番号27:B. lactofermentumのgltA遺伝子によってコードされるCSのアミノ酸配列
【0137】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 基質として1,2-NQ 及び9,10-PQを用いた場合のORF39遺伝子産物のQOR活性を示す図。
【図2】 ジクマロールの存在下及び非存在下におけるORF39遺伝子産物のQOR活性を示す図
【図3】 酸性条件下(pH5.0)におけるJM109/pECQ28B(qor遺伝子増幅株)、及びJM109/pSTV28株(対照株)の生育曲線。
【図4】 MG1655ΔsucA/pECQ28B株(qor遺伝子増幅株)、及びMG1655ΔsucA/pSTV28株(対照株)の種々のpHにおけるL−グルタミン酸の生産量を示す図。
【図5】 pTWVEK101のパントエア・アナナティス由来DNA断片の制限酵素地図。
【図6】 gltA遺伝子、ppc遺伝子およびgdhA遺伝子を有するプラスミドpMWCPGの構築を示す図。
【図7】 広宿主域プラスミドRSF1010の複製起点とテトラサイクリン耐性遺伝子を含むプラスミドRSF−Tetの構築を示す図である。
【図8】 広宿主域プラスミドRSF1010の複製起点、テトラサイクリン耐性遺伝子、gltA遺伝子、ppc遺伝子およびgdhA遺伝子を有するプラスミドRSFCPGの構築を示す図。
【図9】 gltA遺伝子を有するプラスミドpSTVCBの構築を示す図。
【図10】 酸性条件下(pH5.0)におけるG106S/ pEAQ28AA株(qor増幅株)、及びG106S/pSTV28株(対照株)の生育曲線。
Claims (8)
- L−グルタミン酸生産能を有するγ−プロテオバクテリアを培地に培養し、L−グルタミン酸を培養物中に生成蓄積させ、該培養物よりL−グルタミン酸を採取する、L−グルタミン酸の製造法において、前記細菌は、キノンオキシドレダクターゼ活性が上昇するように改変されていることを特徴とする方法。
- キノンオキシドレダクターゼをコードする遺伝子のコピー数を高めること、又は前記細菌のキノンオキシドレダクターゼをコードする遺伝子の発現が増強されるように同遺伝子の発現調節配列を改変することにより、細胞内のキノンオキシドレダクターゼ活性が上昇したことを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記γ−プロテオバクテリアがエシェリヒア属又はパントエア属に属する細菌である請求項1又は2に記載の方法。
- 前記細菌は、エシェリヒア属又はパントエア属に属する細菌のキノンオキシドレダクターゼをコードする遺伝子が導入されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
- キノンオキシドレダクターゼが、下記(A)又は(B)に示すタンパク質である請求項4に記載の方法。
(A)配列番号21に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質。
(B)配列番号21に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を含むアミノ酸配列からなり、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性を有するタンパク質。 - キノンオキシドレダクターゼをコードする遺伝子が、下記(a)又は(b)に示すDNAである請求項4に記載の方法。
(a)配列番号20の塩基番号304〜1287からなる塩基配列を有するDNA。
(b)配列番号20の塩基番号304〜1287からなる塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。 - 前記細菌は、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼを欠損していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
- L−グルタミン酸生産能を有し、かつ、キノンオキシドレダクターゼ活性が上昇するように改変されたγ−プロテオバクテリア。
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