JP2006213846A - 機能性高分子材料の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ガラス状態の結晶性高分子を出発原料として、その結晶相内に、機能性の低分子を簡単に、効率良く、かつ秩序よく導入する機能性材料の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス状態の結晶性高分子の結晶化を誘起することにより、その結晶相内に、機能性の低分子を導入する機能性高分子材料の製造方法であり、該高分子に、機能性の低分子を含む可塑剤含有溶液もしくは蒸気を接触させ、機能性低分子を該高分子に導入し、可塑剤を除去するものである。
【選択図】なし

Description

本発明は、ガラス状態の結晶性高分子の結晶化を誘起し、その結晶相(キャビティ)内に、機能性の低分子を導入することを特徴とする機能性高分子材料の製造方法に関するものである。
結晶性高分子の結晶相内に、機能性の低分子を秩序よく導入することができれば、新たな機能が発現することが期待される。
従来、結晶性高分子の結晶組織内に機能性の低分子を導入することにより、高分子材料を機能化することは行われていない。
シンジオタクチックポリスチレンの分子キャビティーを利用した気体分離法が検討されているが、この方法では大きい分子をシンジオタクチックポリスチレン結晶組織内に取り込むことはできない(例えば、非特許文献1〜3)。
また、大きな分子、即ち、炭素数8以上の直鎖状アルカン、例えば、n−ノナン、n−デカン等は、シンジオタクチックポリスチレンの分子キャビティーに取り込むことができないという報告もある(例えば、非特許文献4)。
高分子の結晶相内は、秩序のある空間が規則正しく並んでいる。
従って、結晶性高分子の結晶相内に機能性の低分子を導入することができれば、高分子の結晶領域の配向を通じて、機能性の低分子を高度に配向させることが可能になる。
即ち、結晶性高分子の非晶領域では、機能性の低分子が会合する可能性があるが、結晶性高分子の結晶相内に機能性の低分子を導入することができれば、運動性が強く抑制された高分子の結晶格子内に低分子が拘束されることによる個室化効果が生じ、機能性の低分子を孤立した状態で活用することができる。
また、結晶性高分子の温度、圧力等による固相転移を利用することで、必要に応じて結晶性高分子の結晶相内に蓄えた分子を放出することも可能になる。
機能性の低分子が極性の低分子の場合、結晶性高分子の結晶相内に取り込まれた極性の低分子は電場により配向を変えることができるため、これを利用した情報記録媒体としての用途が期待される。
しかしながら、結晶性高分子と包接化合物(低分子複合体結晶)を形成することが原理的に可能な機能性の低分子を、高分子結晶領域内に導入する際の障害は、高分子の非晶領域を透過する低分子の拡散が非常に遅いため、実用的な時間内で包接化合物を得ることができなかった。
本発明者らは、結晶性高分子の結晶相内に、可塑剤を用いて機能性の低分子を導入する機能性高分子材料の製造方法(特願2004−301535号明細書)を特許出願したが、この方法は、概して多量に溶媒を使用し、時間のかかる煩雑な工程を含むものであった。
また、上記出願には、ガラス状態の結晶性高分子の結晶化を誘起し、その結晶相内に、機能性の低分子を導入する方法及び異方性の大きな機能性の低分子の配向状態を作ることについては記載されていない。
Y.Tsujita et.al.,Polym.Sci.Polym.Phys.,41,269(2003) Y.Tsujita et.al.,Polym.J.,35,465(2003) Y.Tsujita et.al.,J.Appl.Polym.Sci.,89,2882(2003) Guera et.al.,Macromol.Symp.138,131(1999)
本発明は、上記観点からなされたもので、ガラス状態の高分子を出発原料として、その結晶組織内に機能性の低分子を簡単に、効率良く、かつ秩序よく導入する機能性高分子材料の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、このような状況下で、機能性の低分子と、高分子の運動性を増大させる可塑剤(可塑剤効果の高い分子)を含む溶液又はその蒸気を、ガラス状態の結晶性高分子に接触させることにより、結晶化が誘起されて結晶領域が発生し、この結晶領域に、該機能性の低分子を簡単に、効率良く、かつ秩序よく導入することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
即ち、本発明は、
1.ガラス状態の結晶性高分子の結晶化を誘起し、その結晶相内に、機能性の低分子を導入することを特徴とする機能性高分子材料の製造方法、
2.ガラス状態の結晶性高分子が延伸処理したものである上記1に記載の機能性高分子材料の製造方法、
3.ガラス状態の結晶性高分子に、機能性の低分子を含む可塑剤含有溶液又はその蒸気を接触させて、前記機能性の低分子を導入する上記1又は2に記載の機能性高分子材料の製造方法、
4.ガラス状態の結晶性高分子が、フィルムである上記1〜3のいずれかに記載の機能性高分子材料の製造方法、
5.ガラス状態の結晶性高分子が、主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体である上記1〜4のいずれかに記載の機能性高分子材料の製造方法、
6.機能性の低分子が、単環式芳香族化合物、多環式芳香族化合物、炭素数3〜12の鎖状炭化水素、脂環式炭化水素、脂肪族ケトン、脂肪族スルホキシド、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪族エステル、ハロゲン化アルキルの中から選ばれた少なくとも一種である上記1〜5にいずれかに記載の機能性高分子材料の製造方法、
7.可塑剤が、脂肪族ケトン、脂肪族スルホキシド、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪族エステル、ベンゼン誘導体、低級アルカン、ハロゲン化アルキル、超臨界二酸化炭素の中から選ばれた少なくとも一種である上記3〜6のいずれかに記載の機能性高分子材料の製造方法
を提供するものである。
本発明によれば、ガラス状態の結晶性高分子の結晶化を誘起することにより、その結晶相内に、機能性の低分子を導入することができ、得られる機能性の低分子が導入された高分子材料は、例えば、光関連材料、情報記録媒体、発振子等としての機能を発現する。
また、延伸したガラス状態の結晶性高分子を用いることにより、異方性の大きな機能性分子の配向状態を作ることができる。
本発明におけるガラス状態の結晶性高分子は、結晶性高分子をガラス状態としたものであればよく、特に制限はない。
機能性の低分子の配向を制御する必要がある場合、ガラス状態の結晶性高分子は、延伸処理されたものが好ましい。
また、本発明における結晶性高分子には、特に制限はないが、主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体が好ましい。
前記シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体におけるシンジオタクチック構造とは、立体化学構造がシンジオタクチック構造、即ち、炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(13C―NMR法)により定量される。
13C−NMR法により測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば、2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドによって示すことができるが、本発明のシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体とは、通常、ラセミダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、若しくはラセミペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体等及びこれらの混合物、又はこれらを主成分とする共重合体を意味する。
ポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソピルスチレン)、ポリ(ターシャリープチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)等が挙げられ、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)等が挙げられる。
また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)等が挙げられ、ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メチキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)等が挙げられる。
特に、好ましいシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−タ−シャリーブチルスチレン)、ポリ(p−クロロスチレン)、ポリ(m−クロロスチレン)、ポリ(p−フルオロスチレン)、水素化ポリスチレン及びこれらの構造単位を含む共重合体が挙げられる。
このようなシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体は、例えば、不活性炭化水素溶媒中又は溶媒の不存在下に、チタン化合物及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(上記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができる(特開昭62−18770号公報)。
また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については、特開平1−46912号公報、これらの水素化重合体については特開平1−178505号公報記載の方法等により製造することできる。
尚、これらの主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体は、一種のみを単独で、又は、二種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明における主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体は、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))について、制限はない。
本発明における機能性の低分子としては、通常、分子量300以下の化合物が挙げられ、具体的には、単環式芳香族化合物、多環式芳香族化合物、炭素数3〜12の鎖状炭化水素、脂環式炭化水素、脂肪族ケトン、脂肪族スルホキシド、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪族エステル、ハロゲン化アルキル、有機金属化合物、有機ラジカル分子、無機化合物、前記無機化合物の誘導体等が挙げられる。
単環式芳香族化合物としては、メシチレン、スチレン、p−ニトロアニリン等が挙げられる。
多環式芳香族化合物としては、ナフタレン、アズレン、フルオレン、アントラセン、ピレン、アゾベンゼン、ナフトキノン等が挙げられる。
炭素数3〜12の鎖状炭化水素としては、3−メチル−へキサン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン等が挙げられる。
脂環式炭化水素としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、デカリン等が挙げられる。
脂肪族ケトンとしては、ジエチルケトン、エチルメチルケトン等が挙げられる。
脂肪族スルホキシドとしては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
脂肪族アルコールとしては、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。
脂肪族エーテルとしては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
脂肪族エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられる。
ハロゲン化アルキルとしては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等が挙げられる。
有機金属化合物としては、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム、フェロセン、脂肪酸金属塩、クラウンエーテル−アルカリイオン錯体等が挙げられる。
有機ラジカル分子としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシ)などのニトロキシドラジカル系有機化合物、p−NPNN(パラ−ニトロフェニルニトロニルニトロキサイド)などのニトロニトロキサイドラジカル系有機化合物、TTTA(1,3,5−トリチア−2,4,6−トリアザペンタレニル)などのSNラジカル系有機化合物等が挙げられる。
無機化合物としては、環状シリカ、ヨウ素、ヨウ化銀、シラン化合物等が挙げられる。
前記無機化合物の誘導体としては、前記環状シリカが側鎖として炭素骨格を有する化合物、前記シラン化合物が側鎖として炭素骨格を有するもの等が挙げられる。
本発明における可塑剤としては、脂肪族ケトン、脂肪族スルホキシド、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪族エステル、ベンゼン誘導体、低級脂肪族アルカン、ハロゲン化アルキル、超臨界二酸化炭素等が挙げられる。
脂肪族ケトンとしては、アセトン、ジエチルケトン、エチルメチルケトン等が挙げられる。
脂肪族スルホキシドとしては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール等が挙げられる。
脂肪族エーテルとしては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
脂肪族エステルとしては、酢酸エチル等が挙げられる。
ベンゼン誘導体としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
低級脂肪族アルカンとしては、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等が挙げられる。
ハロゲン化アルキルとしては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等が挙げられる。
可塑剤は、対象とするガラス状態の結晶性高分子の非晶領域への浸透力が高く、かつ高分子鎖の運動性を増大させる可塑効果を有する化合物である。
本発明においては、ガラス状態の結晶性高分子中に導入しようとする機能性の低分子に比べて、より可塑効果を有する可塑剤を用いることにより、機能性の低分子の導入を容易にするものである。
通常、このような可塑剤は機能性の低分子よりも、より小型であるため、ガラス状態の結晶性高分子の非晶及び結晶領域での安定性(拘束され易さ)は機能性の低分子よりも低い。
従って、最終的に機能性の低分子が優先的に結晶性高分子の結晶領域中に導入されることになる。
本発明は、ガラス状態の結晶性高分子の結晶化を誘起することにより、その結晶相内に、機能性の低分子を導入する機能性高分子材料(包接化合物)の製造方法である。
機能性の低分子を導入する方法としては、(a)ガラス状態の結晶性高分子に、機能性の低分子を含む可塑剤含有溶液又はその蒸気を接触させることにより、該結晶性高分子の結晶相内に、機能性の低分子を1工程で導入する方法が挙げられる。
また、(b)ガラス状態の結晶性高分子を可塑剤に接触させて、可塑剤が結晶相に導入された状態とした後、機能性の低分子を含む可塑剤含有溶液又はその蒸気を接触させることにより、該結晶性高分子の結晶相内に、機能性の低分子を導入する方法が挙げられる。
機能性の低分子を含む可塑剤含有溶液を、ガラス状態の結晶性高分子に接触させる方法については、特に制限はないが、例えば、前記溶液にガラス状態の結晶性高分子を浸漬する方法などを用いることができる。
又、ガラス状態の結晶性高分子を製膜して用いると、フィルム状として得ることもできる。
前記(b)の方法において、ガラス状態の結晶性高分子を可塑剤蒸気で処理する条件としては、特に制限はないが、0.1〜100気圧、0〜80℃が好ましい。
また、ガラス状態の結晶性高分子を、通常10〜80℃で、0.1〜5時間、可塑剤に浸漬後、余剰の可塑剤を減圧又は常圧下で除去することにより、該結晶性高分子の結晶相内に可塑剤が導入されたガラス状態の結晶性高分子を得ることができる。
可塑剤の除去温度としては、通常20〜80℃である。
可塑剤の使用量としては、通常、ガラス状態の結晶性高分子1質量部に対し、5〜100質量部、好ましくは、10〜30質量部である。
可塑剤が導入された結晶性高分子は、余剰の可塑剤を除去することにより、例えば、粉末として得ることができる。
又、ガラス状態の結晶性高分子を製膜して用いると、フィルム状として得ることもできる。
次に、上記可塑剤が目的の機能性の低分子でない場合について述べる。
この場合、可塑剤が導入された結晶性高分子を、通常20〜80℃で、0.5〜24時間、機能性の低分子と該可塑剤同一又は異なる可塑剤を含む溶液に浸漬した後、余剰の可塑剤を減圧又は常圧下で除去することにより、該結晶性高分子の結晶相内に機能性の低分子が導入された結晶性高分子を得ることができる。
可塑剤の除去温度としては、通常20〜80℃である。
可塑剤が導入された結晶性高分子の使用量としては、可塑剤1質量部に対し、0.05〜50質量部、好ましくは0.1〜5質量部である。
また、可塑剤の使用量としては、通常、機能性の低分子1質量部に対し、0.05〜100質量部、好ましくは0.2〜10質量部である。
機能性の低分子が導入された結晶性高分子は、可塑剤を除去することにより、例えば、粉末として得ることができる。
又、ガラス状態の結晶性高分子を製膜して用いると、フィルム状として得ることもできる。
ガラス状態の結晶性高分子を延伸処理し、高度に高分子鎖が配向した状態にした後、機能性の低分子を導入すると、その配向状態は機能性の低分子を包接した高分子結晶領域に引き継がれる。
この結果、異方性の大きな配向状態で機能性の低分子がガラス状態の結晶性高分子中に導入される。
延伸条件としては、制限はないが、通常、20〜100℃で1.5〜5倍延伸することが好ましい。
次に、本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
シンジオタクチックポリスチレン(SPS)〔ラセミダイアッド:99%、Mw197,000、Mw/Mn=1.98〕を融解後、氷水で急冷固化してガラス状フィルムを作製した。
このSPSのガラス状フィルムを、50質量%のn−デカンのクロロホルム溶液5mlに25℃で、10分間浸漬後、乾燥し、SPSフィルムを得た。
得られたSPSのフィルムについて、赤外スペクトル測定を行った(図1参照)。
図1から明らかなように、SPSのガラスは、極めて早い速度でn−デカンの包接錯体結晶への変化が確認された。
即ち、包接錯体結晶相(δ相)に特有のTTGG連鎖に由来する1277cm-1の強度が著しく増大し、n−デカン特有のメチル基逆対称伸縮振動に由来する2960cm-1付近の強度も増大した。
また、クロロホルムの赤外吸収スペクトルの増大は小さく、クロロホルムはSPSに吸収されず、包接されるのは殆どがn−デカンである。
実施例2
SPSのガラスをガラス転移点以下の温度100℃で延伸して、配向ガラスフィルムを作製した。
このSPSの配向ガラスフィルムを常圧下、25℃のトルエン蒸気に暴露して、トルエンを包接した高配向状態の包接錯体結晶相(δ相)を含むSPSフィルムを得た。
次に、このSPSフィルムを、2質量%のアズレン(青色の色素)アセトン溶液5mlに、25℃で10時間浸漬し、トルエンをゲスト交換してアズレン分子を結晶領域に挿入したSPSフィルムを得た。
得られたSPSのフィルムについて、偏光赤外スペクトル及び偏光可視紫外スペクトル測定を行った。
図2から明らかなように、明瞭な偏光赤外スペクトルが観測され、各バンドの偏光特性を解析したところ、結晶におけるSPSポリマー鎖はほぼ延伸軸方向に揃って並んでいることが分かった。
また、アズレン分子に由来する赤外バンドの偏光特性を調べたところ、図3に示すような配向状態であることが分かった。
即ち、結晶におけるアズレン分子は、延伸方向にほぼ垂直な方向に揃って並んでいることが分かった。
更に、図4から明らかなように、アズレン分子が延伸方向に垂直な方向にほぼ揃って並んでいることを反映して、偏光可視紫外吸収スペクトルからも、延伸方向軸に垂直な方向での強い吸収が観測された。
以上より、SPSの配向ガラスフィルムからの包接錯体結晶相の作製により、機能性の低分子(色素分子)を配向させたフィルムを形成できることが示された。
本発明によれば、ガラス状態の結晶性高分子の結晶化を誘起することにより、その結晶相内に、機能性の低分子を容易に導入、配向することができ、得られた高分子材料は、その分子特性の異方性を活用した種々の用途が挙げられる。例えば、光の吸収・発光、分極の異方性を利用したフィルター、発光素子などの光関連材料、機能性の低分子(極性分子)の電場配向を利用した情報記録媒体、極性分子の分極を固定した高分子エレクトレット(発振子)等である。
実施例1のフィルムの赤外吸収バンドの時間変化を示す図である。 実施例2のフィルムの偏光赤外スペクトルを示す図である。 実施例2のフィルムにおけるアズレン分子の配向状態を示す図である。 実施例3のフィルムの偏光可視紫外吸収スペクトルを示す図である。

Claims (7)

  1. ガラス状態の結晶性高分子の結晶化を誘起し、その結晶相内に、機能性の低分子を導入することを特徴とする機能性高分子材料の製造方法。
  2. ガラス状態の結晶性高分子が延伸処理したものである請求項1に記載の機能性高分子材料の製造方法。
  3. ガラス状態の結晶性高分子に、機能性の低分子を含む可塑剤含有溶液又はその蒸気を接触させて、前記機能性の低分子を導入する請求項1又は2に記載の機能性高分子材料の製造方法。
  4. ガラス状態の結晶性高分子が、フィルムである請求項1〜3のいずれかに記載の機能性高分子材料の製造方法。
  5. ガラス状態の結晶性高分子が、主としてシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の機能性高分子材料の製造方法。
  6. 機能性の低分子が、単環式芳香族化合物、多環式芳香族化合物、炭素数3〜12の鎖状炭化水素、脂環式炭化水素、脂肪族ケトン、脂肪族スルホキシド、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪族エステル、ハロゲン化アルキルの中から選ばれた少なくとも一種である請求項1〜5にいずれかに記載の機能性高分子材料の製造方法。
  7. 可塑剤が、脂肪族ケトン、脂肪族スルホキシド、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪族エステル、ベンゼン誘導体、低級アルカン、ハロゲン化アルキル、超臨界二酸化炭素の中から選ばれた少なくとも一種である請求項3〜6のいずれかに記載の機能性高分子材料の製造方法。

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