JP2006211902A - アミノ酸選択的標識化蛋白質合成方法 - Google Patents
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- G01N33/6848—Methods of protein analysis involving mass spectrometry
Abstract
【課題】小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で、アミノ酸選択的に標識された目的蛋白質を合成する方法を提供する。
【解決手段】目的蛋白質を、コムギ胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系において、アラニン、アスパラギン酸、あるいはグルタミン酸を安定同位体によって標識する場合には、アラニンがアスパラギン酸およびグルタミン酸に代謝される反応、アスパラギン酸がグルタミン酸に代謝される反応、あるいはグルタミン酸が、アスパラギン酸および/またはグルタミンに代謝される反応を阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件下で、該目的蛋白質の翻訳反応を行う。
【選択図】なし
【解決手段】目的蛋白質を、コムギ胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系において、アラニン、アスパラギン酸、あるいはグルタミン酸を安定同位体によって標識する場合には、アラニンがアスパラギン酸およびグルタミン酸に代謝される反応、アスパラギン酸がグルタミン酸に代謝される反応、あるいはグルタミン酸が、アスパラギン酸および/またはグルタミンに代謝される反応を阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件下で、該目的蛋白質の翻訳反応を行う。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系でアミノ酸選択的に標識された目的蛋白質を合成する方法に関する。具体的には、アラニン、アスパラギン酸、あるいはグルタミン酸選択的標識化タンパク質の合成方法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
蛋白質中の窒素原子を安定同位体でNMR観測可能な15Nで標識し,1H・15N HSQC(heteronuclear single quantum coherence)スペクトルを観測することは、蛋白質のフォールディング検定(例えば非特許文献1参照)、立体構造決定および、リガンドスクリーニングなどに広く用いられている。
【0003】
通常、1H・15N HSQCを測定するための蛋白質の調製に関しては、大腸菌、酵母、培養細胞などの生合成系、あるいは大腸菌、コムギ胚芽由来の無細胞合成系を用いて、栄養または基質となるアミノ酸を15N標識したものを用いて、目的蛋白質の標識を行い、しかる後に目的の蛋白質を必要があれば精製し、NMR測定試料とする。上記1H・15N HSQCについては、一般的に、目的タンパク質内の全てあるいはほとんど全てのアミノ酸の少なくとも主鎖のアミド窒素を15N標識したものを用いる。
【0004】
一方、アミノ酸選択的標識法とは、目的タンパク質に含まれるアミノ酸のうち1種類あるいは、数種類のアミノ酸だけを15N、13CあるいはD、又はそれらの組み合わせを用いて目的蛋白質を合成することにより標識し、NMR測定に用いる方法である。この標識法を用いると、蛋白質全体の情報から、望みのアミノ酸の情報だけを抽出して観測することができる。上記したように全ての主鎖のアミド窒素を15N標識した蛋白質の1H・15N HSQCを測定すると、プロリン以外のすべてのアミノ酸残基に対応するシグナルが得られるが、例えばアラニンだけを15N標識した蛋白質を作成して1H・15N HSQCを測定すると、アラニン残基由来のHSQCシグナルだけを観測することができ、HSQCシグナルのアミノ酸タイプ分けが可能になる。また、他の標識法と組み合わせることにより、特定の残基のシグナルを帰属することが可能になる。
【0005】
このように、アミノ酸選択的標識法は、NMR測定にいろいろ用いられているが、この方法を確実に行うためには、必要条件が存在する。この標識法は、生細胞あるいは無細胞蛋白質合成系を用いて目的蛋白質を大量合成する際に、基質のアミノ酸の1種類あるいは数種類を標識アミノ酸に置き換えることによって行うが、その蛋白質合成系において、アミノ酸代謝酵素の活性があると、標識アミノ酸が他のアミノ酸に変えられてしまい、狙った通りの標識法ができない。よって、これを回避するためには、アミノ酸代謝酵素を持たない蛋白質合成系か、アミノ酸代謝酵素の活性を抑えるかのどちらかが必要となる。しかし、生細胞系において、全てのアミノ酸代謝酵素を含まないようにしたり、活性を完全に抑えることは事実上不可能である。そこで、種々の無細胞タンパク質合成系に用いられる細胞抽出液中の残存アミノ酸代謝酵素の解析が試みられてきた。例えば、大腸菌生細胞を用いて、15Nのアミノ酸選択的な標識の方法は非特許文献2等に記載のとおりである。
【0006】
本発明者らは、先に、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系により標識化タンパク質を合成し、得られた蛋白質を精製せずにNMR測定を行う方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。この方法では、無細胞合成系のうち、小麦胚芽抽出液を用いることになるが、小麦胚芽抽出液中ではどのようなアミノ酸代謝酵素の活性が残存しているかについてはわかっていなかったため、該抽出液をアミノ酸選択的標識法に用いることはできなかった。
【0007】
【非特許文献1】
Montelione, G. T., et al., Nature Struct. Biol., 7 ,Suppl, 982-985(2000)
【非特許文献2】
Muchmore, D. C., et al, Methods in Enzymology 177, 44-73(1990)
【特許文献1】
特願2003-032381 明細書
【0008】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明は、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で、アミノ酸選択的に標識された目的蛋白質を合成する方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、小麦胚芽抽出液を含む無細胞蛋白質合成系においては、アラニンがアスパラギン酸およびグルタミン酸に代謝され、アスパラギン酸がグルタミン酸に代謝され、さらにグルタミン酸がアスパラギン酸またはグルタミンに代謝されることを見出し、さらにこれらのアミノ酸の代謝阻害剤を該合成系に添加することにより、上記のアミノ酸の代謝が阻害され、アミノ酸選択的に標識が可能になることを見出した。本発明はこられの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0010】
即ち、本発明によれば、
(1)目的蛋白質を、コムギ胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系においてアラニンがアスパラギン酸およびグルタミン酸に代謝されるのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件下で、アラニンが安定同位体により標識された基質を用いて合成することを特徴とする目的蛋白質中のアラニン選択的標識方法、
(2)目的蛋白質を、コムギ胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系においてアスパラギン酸がグルタミン酸に代謝されるのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件下で、アスパラギン酸が安定同位体により標識された基質を用いて合成することを特徴とする目的蛋白質のアスパラギン酸選択的標識方法、
(3)目的蛋白質を、コムギ胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系においてグルタミン酸が、アスパラギン酸および/またはグルタミンに代謝されるのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件下で、グルタミン酸が安定同位体により標識された基質を用いて合成することを特徴とする目的蛋白質のグルタミン酸選択的標識方法、
(4)アラニンがアスパラギン酸および/またはグルタミン酸に変化するのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件が、トランスアミナーゼ阻害剤の蛋白質合成を阻害しない濃度範囲での存在であることを特徴とする上記(1)に記載の方法、
(5)アスパラギン酸がグルタミン酸に変化するのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件が、トランスアミナーゼを阻害剤の蛋白質合成を阻害しない濃度範囲での存在であることを特徴とする上記(2)に記載の方法、
(6)グルタミン酸が、アスパラギン酸および/またはグルタミンに変化するのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件が、トランスアミナーゼ阻害剤およびグルタミン合成酵素阻害剤の蛋白質合成を阻害しない濃度範囲での存在であることを特徴とする上記(3)に記載の方法、
(7)トランスアミナーゼ阻害剤が、アミノオキシ酢酸で、蛋白質合成を阻害しない濃度範囲が0.01〜10mMである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法、
(8)グルタミン合成酵素阻害剤が、L−メチオニンサルフォキシイミンで、蛋白質合成を阻害しない濃度範囲が、0.01〜20mMであることを特徴とする上記(3)または(6)に記載の方法、
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法で合成した標識化目的蛋白質をNMR測定することを特徴とするタンパク質のNMR解析方法、
が提供される。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(1)目的蛋白質および翻訳鋳型
本発明の方法に用いられる目的蛋白質は、本発明の方法によりその一部のアミノ酸が選択的に標識されて、小麦胚芽抽出液を含む無細胞蛋白質合成系において合成され得るものであれば如何なるものであってもよい。具体的には例えば、ポリペプチド、糖蛋白質これらの誘導体、共有結合体および複合体等が挙げられる。ポリペプチドは10以上1000以下のアミノ酸残基からなるものが好ましく用いられる。また、糖蛋白質としては分子量1000以上10万以下のものが好ましい。具体的には、天然に存在する蛋白質、またはその一部、さらに人工的に産生されたポリペプチド、および天然に存在する蛋白質のN末端またはC末端に1以上のアミノ酸残基が付加されている蛋白質等が含まれるが、これらに限らず、この場合、これらの蛋白質またはポリペプチドのアミノ酸残基において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい。
【0012】
このような蛋白質を、小麦胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系で合成する場合、まず鋳型となるDNAを調製し、これをRNAに転写して該合成系に供する。鋳型となるDNAは、該蛋白質をコードする配列が、適当な発現制御領域の制御下となるように連結されている構造が含まれるものが挙げられる。また、その下流に転写終了のための配列、および非翻訳領域等が連結しているものも好ましく用いられる。発現制御領域とは、プロモーター、エンハンサー等が含まれる。
【0013】
小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系に適したプロモーターとしては、転写にSP6 RNA合成酵素を用いる場合には、SP6プロモーター等が挙げられる。また、該プロモーター配列と、目的蛋白質をコードする塩基配列の間に、翻訳活性を増強する塩基配列を挿入することが好ましい。翻訳活性を増強する塩基配列として具体的には、真核生物においては、5’−キャップ構造(Shatkin,Cell,9,645−(1976))、コザック配列(Kozak,Nucleic Acid. Res.,12,857(1984))等が挙げられる。さらに、RNAウィルスの5’−非翻訳リーダー配列等にも翻訳活性増強活性があることが見出されており(特許第2814433号公報)、これらの配列を用いて蛋白質合成を効率良く行う方法が開発されている(特開平10−146197号公報)。また、ランダム配列について、そのポリソーム形成への「影響を指標として翻訳エンハンス配列を選択する方法によって得られた配列も挙げられる(特願2001−396941号公報)。このような構造を有するDNAを以下、翻訳鋳型DNAと称することがある。
【0014】
翻訳鋳型DNAの調製方法としては、それ自体既知の通常用いられる方法が挙げられる。具体的には、例えば、プラスミドベクターを用いて行う方法やポリメラーゼチェインリアクション法を用いる方法等が挙げられ、詳細は、Sawasaki,T.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,99(23),14652−(2002)に記載されている。かくして得られた翻訳鋳型DNAは、これを通常用いられる方法により転写され、必要に応じて精製することにより、本発明の方法に用いられる目的蛋白質の鋳型となるmRNAが取得される。
【0015】
(2)小麦胚芽抽出液
本発明の方法では、小麦胚芽抽出液を用いる無細胞タンパク質合成系において、目的蛋白質を合成する。小麦胚芽抽出液としては、適当な基質等を添加することにより翻訳反応が行えるものであれば特に制限はない。具体的には、例えば、コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系の場合、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、97:559-564(2000)、特開2000-236896号公報、特開2002-125693号公報、特開2002-204689号公報などに従って調製された小麦胚芽抽出液およびその無細胞タンパク質合成系を用いることができる。
【0016】
本発明で用いるコムギ胚芽抽出液として好ましくは、コムギ種子中の胚芽を胚乳を除去するように分離して、該胚芽から抽出して精製したものを用いることができる。このようなコムギ胚芽抽出液は、コムギ種子から以下のようにして調製したものか、あるいは市販のものを用いることができる。市販の細胞抽出液としては、コムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM(TOYOBO社製)等が挙げられる。
【0017】
コムギ胚芽抽出液の作製法としては、例えばJohnston、F.B.etal.、Nature、179、160−161(1957)、あるいはErickson、A.H.et al.、(1996)Meth.In Enzymol.、96、38−50等に記載の方法を用いることができるが、以下にさらに詳細に説明する。
【0018】
本発明で用いるコムギ胚芽抽出液の製造においては、先ず、コムギの胚芽以外の成分、特に胚乳をほぼ完全に除去することが好ましい。このような胚芽の調製方法としては、通常、まず、コムギ種子に機械的な力を加えることにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得、該混合物から、胚乳破砕物、種皮破砕物等を取り除いて粗胚芽画分(胚芽を主成分とし、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物)を得る。コムギ種子に加える力は、コムギ種子から胚芽を分離することができる程度の強さであればよい。具体的には、公知の粉砕装置を用いて、植物種子を粉砕することにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得る。
【0019】
コムギ種子の粉砕は、通常公知の粉砕装置を用いて行うことができるが、ピンミル、ハンマーミル等の被粉砕物に対して衝撃力を加えるタイプの粉砕装置を用いることが好ましい。粉砕の程度は、例えばコムギ種子の場合は、通常、最大長さ4mm以下、好ましくは最大長さ2mm以下の大きさに粉砕する。また、粉砕は乾式で行うのが好ましい。
【0020】
次いで、得られたコムギ種子粉砕物から、通常公知の分級装置、例えば、篩を用いて粗胚芽画分を取得する。例えば、コムギ種子の場合、通常、メッシュサイズ0.5mm〜2.0mm、好ましくは0.7mm〜1.4mmの粗胚芽画分を取得する。さらに、必要に応じて、得られた粗胚芽画分に含まれる種皮、胚乳、ゴミ等を風力、静電気力を利用して除去してもよい。
【0021】
また、胚芽と種皮、胚乳の比重の違いを利用する方法、例えば重液選別により、粗胚芽画分を得ることもできる。より多くの胚芽を含有する粗胚芽画分を得るために、上記の方法を複数組み合わせてもよい。さらに、得られた粗胚芽画分から、例えば目視や色彩選別機等を用いて胚芽を選別する。
このようにして得られた胚芽画分は、胚乳成分が付着している場合があるため、通常胚芽純化のために更に洗浄処理することが好ましい。洗浄処理としては、通常10℃以下、好ましくは4℃以下に冷却した水又は水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させ、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することが好ましい。また、通常10℃以下、好ましくは4℃以下で、界面活性剤を含有する水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させて、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することがより好ましい。界面活性剤としては、非イオン性のものが好ましく、非イオン性界面活性剤であるかぎりは、広く利用ができる。具体的には、例えば、好適なものとして、ポリオキシエチレン誘導体であるブリッジ(Brij)、トリトン(Triton)、ノニデット(Nonidet)P40、ツイーン(Tween)等が例示される。なかでも、ノニデット(Nonidet)P40が最適である。これらの非イオン性界面活性剤は、例えば0.5%の濃度で使用することができる。水又は水溶液による洗浄処理及び界面活性剤による洗浄処理は、どちらか一方でもよいし、両方実施してもよい。また、これらの洗浄処理は、超音波処理との組み合わせで実施してもよい。
【0022】
本発明においては、上記のようにコムギ種子を粉砕して得られた粉砕物からコムギ胚芽を選別した後洗浄して得られた無傷(発芽能を有する)の胚芽を抽出溶媒の存在下に細分化した後、得られるコムギ胚芽抽液を分離し、更に精製することにより無細胞蛋白質合成用コムギ胚芽抽出液を得ることができる。
抽出溶媒としては、緩衝液、カリウムイオン、マグネシウムイオン及び/又はチオール基の酸化防止剤を含む水溶液を用いることができる。また、必要に応じて、カルシウムイオン、L型アミノ酸等をさらに添加してもよい。例えば、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、L型アミノ酸及び/又はジチオスレイトールを含む溶液や、Pattersonらの方法を一部改変した溶液(HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、塩化カルシウム、L型アミノ酸及び/又はジチオスレイトールを含む溶液)を抽出溶媒として使用することができる。抽出溶媒中の各成分の組成・濃度はそれ自体既知であり、無細胞蛋白質合成用のコムギ胚芽抽出液の製造法に用いられるものを採用すればよい。
【0023】
胚芽と抽出に必要な量の抽出溶媒とを混合し、抽出溶媒の存在下に胚芽を細分化する。抽出溶媒の量は、洗浄前の胚芽1gに対して、通常0.1ミリリットル以上、好ましくは0.5ミリリットル以上、より好ましくは1ミリリットル以上である。抽出溶媒量の上限は特に限定されないが、通常、洗浄前の胚芽1gに対して、10ミリリットル以下、好ましくは5ミリリットル以下である。また、細分化しようとする胚芽は従来のように凍結させたものを用いてもよいし、凍結させていないものを用いてもよいが、凍結させていないものを用いるのがより好ましい。
【0024】
細分化の方法としては、摩砕、圧砕、衝撃、切断等、粉砕方法として従来公知の方法を採用することができるが、特に衝撃または切断により胚芽を細分化することが好ましい。ここで、「衝撃または切断により細分化する」とは、植物胚芽の細胞核、ミトコンドリア、葉緑体等の細胞小器官(オルガネラ)、細胞膜や細胞壁等の破壊を、従来の摩砕又は圧砕と比べて最小限に止めうる条件で植物胚芽を破壊することを意味する。
【0025】
細分化する際に用いることのできる装置や方法としては、上記条件を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、ワーリングブレンダーのような高速回転する刃状物を有する装置を用いることが好ましい。刃状物の回転数は、通常1000rpm以上、好ましくは5000rpm以上であり、また、通常30000rpm以下、好ましくは25000rpm以下である。刃状物の回転時間は、通常5秒以上、好ましくは10秒以上である。回転時間の上限は特に限定されないが、通常10分以下、好ましくは5分以下である。細分化する際の温度は、好ましくは10℃以下で操作が可能な範囲内、特に好ましくは4℃程度が適当である。
【0026】
このように衝撃または切断により胚芽を細分化することにより、胚芽の細胞核や細胞壁を全て破壊してしまうのではなく、少なくともその一部は破壊されることなく残る。即ち、胚芽の細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁が必要以上に破壊されることがないため、それらに含まれるDNAや脂質等の不純物の混入が少なく、細胞質に局在する蛋白質合成に必要なRNAやリボソーム等を高純度で効率的に胚芽から抽出することができる。
【0027】
このような方法によれば、従来の植物胚芽を粉砕する工程と粉砕された植物胚芽と抽出溶媒とを混合してコムギ胚芽抽出液を得る工程とを同時に一つの工程として行うことができるため効率的にコムギ胚芽抽出液を得ることができる。上記の方法を、以下、「ブレンダー法」と称することがある。
次いで、遠心分離等によりコムギ胚芽抽出液を回収し、ゲルろ過等により精製することによりコムギ胚芽抽出液を得ることができる。ゲルろ過としては、例えば予め溶液(HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、ジチオスレイトール又はL型アミノ酸を含む溶媒)で平衡化しておいたゲルろ過装置を用いて行うことができる。ゲルろ過溶液中の各成分の組成・濃度はそれ自体既知であり、無細胞タンパク合成用のコムギ胚芽抽出液の製造法に用いられるものを採用すればよい。
【0028】
ゲルろ過後の胚芽抽出物含有液には、微生物、特に糸状菌(カビ)などの胞子が混入していることがあり、これら微生物を排除しておくことが好ましい。特に長期(1日以上)の無細胞蛋白質合成反応中に微生物の繁殖が見られることがあるので、これを阻止することは重要である。微生物の排除手段は特に限定されないが、ろ過滅菌フィルターを用いるのが好ましい。フィルターのポアサイズとしては、混入の可能性のある微生物が除去可能なものであれば特に制限はないが、通常0.1〜1マイクロメーター、好ましくは0.2〜0.5マイクロメーターが適当である。ちなみに、小さな部類の枯草菌の胞子のサイズは0.5μmx1μmであることから、0.20マイクロメーターのフィルター(例えばSartorius製のMinisartTM等)を用いるのが胞子の除去にも有効である。ろ過に際して、まずポアサイズの大きめのフィルターでろ過し、次に混入の可能性のある微生物が除去可能であるポアサイズのフィルターを用いてろ過するのが好ましい。
【0029】
このようにして得られた細胞抽出液は、原料細胞自身が含有する又は保持する蛋白質合成機能を抑制する物質(トリチン、チオニン、リボヌクレアーゼ等の、mRNA、tRNA、翻訳蛋白質因子やリボソーム等に作用してその機能を抑制する物質)を含む胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されている。ここで、胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されているとは、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳部分を取り除いたコムギ胚芽抽出液のことであり、また、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度とは、リボソームの脱アデニン化率が7%未満、好ましくは1%以下になっていることをいう。
【0030】
このような細胞抽出液は、上記のごとく低分子の蛋白質合成阻害物質(以下、これを「低分子合成阻害物質」と称することがある)を含有しているため、細胞抽出液の構成成分から、これら低分子合成阻害物質を分子量の違いにより分画排除する。排除されるべき物質(低分子阻害物質)の分子量は、細胞抽出液中に含まれる蛋白質合成に必要な因子よりも小さいものであればよい。具体的には、分子量50,000〜14,000以下、好ましくは14,000以下のものが挙げられる。
【0031】
低分子合成阻害物質の細胞抽出液からの排除方法としては、それ自体既知の通常用いられる方法が用いられるが、具体的には透析膜を介した透析による方法、ゲルろ過法、あるいは限外ろ過法等が挙げられる。このうち、透析による方法(透析法)が、透析内液に対しての物質の供給のし易さ等の点において好ましい。以下、透析法を用いる場合を例に詳細に説明する。
【0032】
透析に用いる透析膜としては、50,000〜12,000の排除分子量を有するものが挙げられる、具体的には排除分子量12,000〜14,000の再生セルロース膜(Viskase Sales、Chicago製)や、排除分子量50,000のスペクトラ/ポア6(SPECTRUM LABOTRATORIES INC.,CA,USA製)等が好ましく用いられる。このような透析膜中に適当な量の上記細胞抽出液を入れ常法を用いて透析を行う。透析を行う時間は、30分〜24時間程度が好ましい。
【0033】
低分子合成阻害物質の排除を行う際、細胞抽出液に不溶性成分が生成される場合には、これを阻害する(以下、これを「細胞抽出液の安定化」と称することがある)ことにより、最終的に得られる細胞抽出液(以下、これを「処理後細胞抽出液」と称することがある)の蛋白質合成活性が高まる。細胞抽出液の安定化の具体的な方法としては、上記(1)に記載した低分子阻害物質の排除を行う際に、少なくとも高エネルギーリン酸化合物、例えばATPまたはGTP等を含む溶液中で行う方法が挙げられる。高エネルギーリン酸化合物としては、ATPが好ましく用いられる。また、好ましくは、ATPとGTP、さらに好ましくはATP、GTP、及び20種類のアミノ酸を含む溶液中で行う。
【0034】
これらの成分(以下、これを「安定化成分」と称することがある)を含む溶液中で低分子阻害物質の排除を行う場合は、細胞抽出液に予め安定化成分を添加し、インキュベートした後、これを低分子阻害物質の排除工程に供してもよい。低分子合成阻害物質の排除に透析法を用いる場合は、細胞抽出液だけでなく透析外液にも安定化成分を添加して透析を行い低分子阻害物質の排除を行うこともできる。透析外液にも安定化成分を添加しておけば、透析中に安定化成分が分解されても常に新しい安定化成分が供給されるのでより好ましい。このことは、ゲルろ過法や限外ろ過法を用いる場合にも適用でき、それぞれの担体を安定化成分を含むろ過用緩衝液により平衡化した後に、安定化成分を含む細胞抽出液を供し、さらに上記緩衝液を添加しながらろ過を行うことにより同様の効果を得ることができる。
【0035】
安定化成分の添加量、及び安定化処理時間としては、細胞抽出液の種類や調製方法により適宜選択することができる。これらの選択の方法としては、試験的に量及び種類をふった安定化成分を細胞抽出液に添加し、適当な時間の後に低分子阻害物質の排除工程を行い、取得された処理後細胞抽出液を遠心分離等の方法で可溶化成分と不溶化成分に分離し、そのうちの不溶性成分が少ないものを選択する方法が挙げられる。さらには、取得された処理後細胞抽出液を用いて無細胞蛋白質合成を行い、蛋白質合成活性の高いものを選択する方法も好ましい。また、上記の選択方法において、細胞抽出液と透析法を用いる場合、適当な安定化成分を透析外液にも添加し、これらを用いて透析を適当時間行った後、得られた細胞抽出液中の不溶性成分量や、得られた細胞抽出液の蛋白質合成活性等により選択する方法も挙げられる。
【0036】
このようにして選択された細胞抽出液の安定化条件の例として、具体的には、上述のブレンダー法を用いて調製したコムギ胚芽抽出液で、透析法により低分子阻害物質の排除工程を行う場合においては、そのコムギ胚芽抽出液、及び透析外液中に、ATPとしては100μM〜0.5mM、GTPは25μM〜1mM、20種類のアミノ酸としてはそれぞれ25μM〜5mM添加して30分〜1時間以上の透析を行う方法等が挙げられる。透析を行う場合の温度は、蛋白質合成活性が失われず、かつ透析が可能な温度であれば如何なるものであってもよい。具体的には、最低温度としては、溶液が凍結しない温度で、通常−10℃、好ましくは−5℃、最高温度としては透析に用いられる溶液に悪影響を与えない温度の限界である40℃、好ましくは38℃である。
【0037】
細胞抽出液への安定化成分の添加方法は、特に制限はなく、低分子阻害物質の排除工程の前に添加しこれを適当時間インキュベートして安定化を行った後、低分子合成阻害物質の排除工程を行ってもよいし、安定化成分を添加した細胞抽出液、及び/または安定化成分を添加した該排除工程に用いるための緩衝液を用いて低分子合成阻害物質の排除工程を行ってもよい。
【0038】
本発明で用いるコムギ胚芽抽出液としては、DNA含有量および/または総脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸)含有量が低いものが好ましく、例えば、(a)260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90の時のDNA含有量が230μg/ml以下であるもの、あるいは(b)260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90の時の総脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸)含有量の合計量が0.03g/100g以下であるものが好ましく、さらに上記(a)及び(b)の両方の条件を満たすものが特に好ましい。
【0039】
(3)無細胞タンパク質合成反応
本発明の方法は、上記小麦胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系において、目的のアミノ酸が選択的に標識されるような条件下で目的蛋白質を翻訳することにより、特定のアミノ酸が選択的に安定同位体によって標識された目的蛋白質を合成する方法である。ここで、小麦胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系においては、実施例1で下述するとおり、該抽出液中に含まれるアミノ酸代謝酵素によって、アラニンがアスパラギン酸およびグルタミン酸に代謝され、アスパラギン酸がグルタミン酸に代謝され、さらにグルタミン酸がアスパラギン酸またはグルタミンに代謝される。
【0040】
そこで、上記のアミノ酸を選択的に標識する場合には、該アミノ酸代謝酵素の活性を阻害して、かつ鋳型RNAの蛋白質への翻訳を阻害しない条件下で、好ましくは上記アミノ酸のみが標識された基質を用いて小麦胚芽抽出液を含む無細胞蛋白質合成系において目的蛋白質を合成する。このような条件の検討方法としては、まず該アミノ酸代謝酵素阻害候補として選択された物質が該蛋白質合成系における蛋白質合成能を阻害しない濃度を決定する。例えば、適当な蛋白質の鋳型RNAを、標識されていない基質を用いて翻訳し、翻訳後取得された蛋白質を、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動などで分離し、定量する。あるいは、活性測定法が分かっている酵素蛋白質などや、蛍光を持つような蛋白質を翻訳して、該蛋白質の酵素活性あるいは蛍光量を指標として定量しても良い。この定量によって、該蛋白質合成系に存在するアミノ酸代謝酵素阻害剤が、合成される蛋白質の量を減少させない濃度範囲を決定する。さらに、目的のアミノ酸の代謝を阻害する物質を、上記で決定された鋳型RNAの蛋白質への翻訳を阻害しない濃度範囲で加え、例えば、アミノ酸配列がわかっている蛋白質の鋳型RNAを、好ましくは目的のアミノ酸のみが安定同位体で標識された基質を用いて該無細胞タンパク質合成系において翻訳し、翻訳後取得された蛋白質を後述するNMR測定し、投入した基質の標識が他のアミノ酸について観察されないかを確認することにより選択する。該合成反応に存在する候補物質の濃度によって目的のアミノ酸の代謝の阻害度が変化する場合には、充分にアミノ酸の代謝が阻害される濃度を測定する。この選択方法は、アミノ酸代謝酵素の阻害剤としてすでに知られているものを用いることによって換えることもできる。
【0041】
かくして選択される具体的な条件としては、アラニン選択的に標識化された蛋白質を合成する場合、およびアスパラギン酸選択的に標識化された蛋白質を合成する場合には、下述の無細胞タンパク質合成方法の翻訳反応液に、トランスアミナーゼ阻害剤を、蛋白質合成活性を阻害しない濃度範囲で存在させること等が挙げられる。ここで、トランスアミナーゼは、上記小麦胚芽抽出液中に残存し、アラニンをアスパラギン酸およびグルタミン酸に代謝する活性、および/またはアスパラギン酸をグルタミン酸に代謝する活性を有するものである。このようなトランスアミナーゼの活性阻害剤としては、該合成系において、トランスアミナーゼ活性を阻害する濃度範囲と目的蛋白質合成を阻害しない濃度範囲が重複するものが好ましく用いられる。具体的には、例えば、アミノオキシ酢酸等があげられ、その濃度としては0.01〜10mMの範囲が好ましい。
【0042】
また、グルタミン酸選択的に標識化された蛋白質を合成する場合の条件としては、下述の無細胞タンパク質合成方法の翻訳反応液に、トランスアミナーゼ阻害剤およびグルタミン合成酵素阻害剤を、蛋白質合成活性を阻害しない濃度範囲で存在させること等が挙げられる。ここで、トランスアミナーゼは、上記小麦胚芽抽出液中に残存し、グルタミン酸をアスパラギン酸に代謝する活性を有するものであり、グルタミン合成酵素とは、上記小麦胚芽抽出液中に残存し、グルタミン酸に代謝する活性を有するものである。このようなトランスアミナーゼの活性阻害剤としては、該合成系において、トランスアミナーゼ活性を阻害する濃度範囲と目的蛋白質合成を阻害しない濃度範囲が重複するものが好ましく用いられる。具体的には、トランスアミナーゼとしては、例えば、アミノオキシ酢酸等があげられ、その濃度としては0.01〜10mMの範囲が好ましい。また、グルタミン合成酵素としては、例えば、L−メチオニンサルフォキシイミンが挙げられ、その濃度としては0.01〜20mMの範囲が好ましく用いられる。
【0043】
このような条件下で行われる無細胞タンパク質合成方法とは、上記小麦胚芽抽出液に鋳型RNAや基質、エネルギー源等を添加し、さらに上記の必要なアミノ酸代謝活性を阻害する物質を添加して、目的蛋白質が合成される方法であれば特に制限はない。合成反応溶液の組成としては、上記細胞抽出液、鋳型RNA、基質となるアミノ酸、15N、13C、2H等の安定同位体で標識された特定のアミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、ATP再生系、核酸分解酵素阻害剤、tRNA、還元剤、ポリエチレングリコール、3’,5’−cAMP、葉酸塩、抗菌剤等が含まれる。これらは目的タンパク質によって適宜選択して調製される。
【0044】
基質となるアミノ酸は、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸で、このうち1種類が安定同位体で標識されているものが用いられる。特に本発明の合成方法においては、アラニン、アスパラギン酸、あるいはグルタミン酸が安定同位体で標識されているものを用いる。基質の濃度としては、0.05〜0.4mMの範囲が適当である。またエネルギー源としては、ATP、またはGTPが挙げられ、ATPは1.0〜1.5 mM、GTPは0.2〜0.3 mM添加することが好ましい。各種イオン、及びその適当な反応溶液中の濃度としては、60〜120mMの酢酸カリウム、1〜10mMの酢酸マグネシウム等が挙げられる。緩衝液としては、15〜35mMのHepes−KOH、あるいは10〜50mMのTris−酢酸等が用いられる。またATP再生系としては、ホスホエノールピルベートとピルビン酸キナーゼの組み合わせ、または12〜20mMのクレアチンリン酸(クレアチンホスフェート)と0.2〜1.6μg/μlのクレアチンキナーゼの組み合わせが挙げられる。核酸分解酵素阻害剤としては、反応溶液1μlあたり0.3〜3.0 Uのリボヌクレアーゼインヒビターや、0.3〜3Uのヌクレアーゼインヒビター等が挙げられる。
【0045】
このうち、リボヌクレアーゼインヒビターの具体例としては、ヒト胎盤由来のRNase inhibitor(TOYOBO社製等)等が用いられる。tRNAは、Moniter, R., et al., Biochim. Biophys. Acta., 43, 1 (1960)等に記載の方法により取得することができるし、市販のものを用いることもできる。還元剤としては、0.1〜3.0 mMのジチオスレイトール等が挙げられる。抗菌剤としては、0.001〜0.01%のアジ化ナトリウム、又は0.1〜0.2 mg/mlのアンピシリン等が挙げられる。核酸安定化剤としては、0.3〜0.5 mMスペルミジン等が用いられる。
【0046】
培養温度は10〜40℃、好ましくは15〜30℃、さらに好ましくは20〜26℃で行われる。反応時間はタンパク質合成が行われる限り特に制限はないが、本発明のように、翻訳反応で消費される物質を供給する系を用いると24〜75時間反応が持続する。
蛋白質合成のためのシステムあるいは装置としては、バッチ法(Pratt,J.M.et al.,Transcription and Tranlation,Hames,179-209,B.D.&Higgins,S.J.,eds,IRL Press,Oxford(1984))のように、該細胞抽出液に無細胞タンパク質合成に必要なエネルギー源やアミノ酸、あるいはtRNAを添加して行う方法や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞タンパク質合成システム(Spirin,A.S.et al.,Science,242,1162-1164(1988))、透析法(木川等、第21回日本分子生物学会、WID6)、あるいは重層法(Sawasaki, T., et al., FEBS Let. ,514, 102-105(2002))等が挙げられる。また、合成反応系に、鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する方法(特開2000−333673公報:以下これを「不連続ゲルろ過法」と称することがある)等を用いることができる。
【0047】
(4)目的タンパク質の回収および精製
かくして合成された特定のアミノ酸が安定同位体で標識された目的タンパク質は、これを反応溶液から回収し、必要であれば適当な方法により精製することにより取得することができる。しかし、目的蛋白質をNMR測定に用いる場合には、精製は必ずしも必要なく、それ自体公知の方法により適当な濃度に濃縮して、かつ緩衝液をNMR測定用に交換することで十分なことが多い。濃縮方法としては、例えば、限外濾過濃縮装置を用いる方法が挙げられる。また、緩衝液の交換は、市販のスピンカラムを用いる方法等が好ましく用いられる。
【0048】
(5)NMR測定
かくして合成された特定のアミノ酸が15N、13CあるいはD、又はそれらの安定同位体で標識された目的蛋白質をNMR測定に用いると、蛋白質全体の情報から、望みのアミノ酸の情報だけを抽出して観測することができる。ここで用いられるNMR測定法としては、NMRに用いられ得る方法であれば溶液、固体にかかわらず如何なる方法も用いることができる。具体的には、同種核多次元NMR測定法または異種核多次元NMR測定法のいずれでもよく、例えば溶液同種核多次元NMR測定法としては、COSY、TOCSY、NOESY、ROESY[Cavanagh, W.J. et al., Protein NMR Spectroscopy, Principles and Practice, Academic Press (1996)]等が挙げられ、異種核多次元NMR測定法としては、HSQC、HMQC、CH-COSY、CBCANH、CBCA(CO)NH、HNCO、HN(CA)CO、HNHA、H(CACO)NH、HCACO、15N-edited NOESY-HSQC、13C-edited NOESY-HSQC、13C/15N-edited HMQC-NOESY-HMQC、13C /13C-edited HMQC-NOESY-HMQC、15N/15N-edited HSQC-NOESY-HSQC [Cavanagh, W.J., et al., Protein NMR Spectroscopy. Principles and Practice, Academic Press(1996)]、HN(CO)CACB、HN(CA)CB、HN(COCA)CB [Yamazaki, T., et al., J. Am. Chem. Soc., 116 (1994) 11655-11666]、H(CCO)NH、C(CO)NH [Grzesiek, S., et al., J. Magn. Reson., B 101 (1993) 114-119]、CRIPT、CRINEPT [Riek, R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 96 (1999) 4918-4923]、HMBC、HBHA(CBCACO)NH [Evans J. N. S., Biomolecular NMR Spectroscopy. Oxford University Press (1995) 71]、INEPT [Morris, G. A., et al., J. Am. Chem. Soc., 101 (1979) 760-762]、HNCACB [Wittekind, M., et al., J. Magn. Reson. B 101 (1993) 201]、HN(CO)HB [Grzesiek, S., et al., J. Magn. Reson. 96 (1992) 215-222.]、HNHB [Archer, S. J., et al., J. Magn. Reson., 95 (1991) 636-641]、HBHA(CBCA)NH [Wang, A.C., et al., J. Magn. Reson., B 105 (1994) 196-198.]、HN(CA)HA [Kay, L.E., et al., J. Magn. Reson., 98 (1992) 443-450]、HCCH-TOCSY [Bax, A., et al., J. Magn. Reson., 88 (1990) 425-431]、TROSY [Pervushin, K., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 94 (1997) 12366-12371]、13C /15N-edited HMQC-NOESY-HSQC [Jerala R, et al., J. Magn. Reson., 108 (1995) 294-298]、HN(CA)NH [Ikegami, T., et al., J. Magn. Reson., 124 (1997) 214217]、およびHN(COCA)NH [Grzesiek, S., et al., J. Biomol. NMR, 3 (1993) 627-638.]等の測定法が含まれるが、これらに限らない。
【0049】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1 1種類のアミノ酸のみを標識化した基質により合成した目的蛋白質のNMR測定
(1)鋳型mRNAの調製
酵母ユビキチンの遺伝子(Genbank accession No.X01474)は、Saccharomyces cerevisiase株より,Hereford法(L. Hereford , et al., Cell 18, 1261-1271 (1979))により調製した酵母ゲノムDNAを鋳型として、配列番号1および2に記載の塩基配列からなるプライマーを用いてPCR法を用いて増幅し、プラスミドpEU3b(Sawasaki, T., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 99(23),14652-14657(2002))のSpe IとSal Iの部位に導入した。16 mMのマグネシウムイオン存在下で上記プラスミドを鋳型として、酵母ユビキチンのmRNAをSP6 RNA polymerase(Promega社製)で転写し、合成した。また、GFPのmRNAについても同様にpEU-GFP(Sawasaki, T., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 99(23),14652-14657(2002))を鋳型として,SP6 RNA polymerase(Promega社製)で転写し、合成した。
【0050】
(2)1種類のアミノ酸のみを標識化した基質を用いた目的蛋白質合成
上記実施例1で合成したmRNAを100μg/130μlに成るように濃縮し、コムギ胚芽抽出液(ProteiosTM、TOYOBO社製)と混合した(1 ml)。その混合液を、20種類のうち1種類だけ15N標識され(Cambridge Isotope Laboratories社製)、残りの19種類のアミノ酸は通常のアミノ酸である透析緩衝液に対して、2日間反応を行い、透析緩衝液を交換しさらに2日間の蛋白質合成反応を行った。1 mlの反応液は、ミリポア製のCentricon-3限外濾過濃縮装置で250ulまで濃縮した。この濃縮液中の酵母ユビキチン蛋白質は120μMとなった。濃縮液を、あらかじめNMR測定用緩衝液(50 mM リン酸ナトリウム pH 6.5、 100 mM NaCl)で平衡化されたアマシャム社製 Micro Spin G-25 ゲル濾過カラムを通すことにより、測定用緩衝液に交換し、NMR測定試料とした。
【0051】
(3)NMR測定
NMR測定には、Bruker社製Avance−500スペクトロメーターを用い、測定試料には磁場の安定性を保つためのNMRロック用に10%D2Oを添加し、1H−15N HSQCの測定を行った。測定温度は30℃とした。それぞれのアミノ酸を1種類のみ15N標識し、それ以外のアミノ酸を非標識のもので合成した酵母ユビキチンの蛋白質のHSQCスペクトルを測定したところ、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の以外の15N標識アミノ酸については、アミノ酸の代謝が起こらず、15N標識を導入したアミノ酸だけを選択的に標識できることがわかった。
【0052】
しかし、アラニンだけ15N標識されたアミノ酸を用いた場合には、アラニンのシグナルに加えてアスパラギン酸とグルタミン酸由来のHSQCシグナルが観測された(図1)。またアスパラギン酸だけ15N標識されたアミノ酸を用いた場合には、アスパラギン酸のシグナルに加えてグルタミン酸由来のHSQCシグナルが観測された(図2)。また、グルタミン酸だけ15N標識されたアミノ酸を用いた場合には、グルタミン酸のシグナルに加えてアスパラギン酸とグルタミン由来ののHSQCシグナルが観測された(図3)。
【0053】
実施例2 トランスアミナーゼ阻害剤添加によるアミノ酸代謝および蛋白質合成能への影響の検討
実施例1で観察された小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系中のアミノ酸代謝酵素の活性のうち、トランスアミナーゼの活性を阻害することによる上記アミノ酸代謝への影響と、蛋白質合成活性への影響を検討した。実施例1で記載した方法と同様に目的蛋白質を合成する際、透析外液及び反応液中にトランスアミナーゼ阻害剤であるアミノオキシ酢酸の濃度を4、10、12、14、16、18、20、25、30、35mMとして、コムギ胚芽蛋白質合成によるGFPの合成量をGFPの蛍光強度を指標に調べた。図4に示すように、アミノオキシ酢酸の濃度が4mM以下の条件では、GFPの蛋白質合成量は減少せず、10mMにおいても、7割程度合成量が維持されることがわかった。
【0054】
次に、翻訳液及び透析外液中のアミノオキシ酢酸の濃度を1 mMとし、基質のアミノ酸に関して、(1)アラニンだけを15N標識し、残りの19種類を通常のアミノ酸にしたもの、(2)アスパラギン酸だけを15N標識し、残りの19種類を通常のアミノ酸にしたもの、(3)グルタミン酸だけを15N標識し、残りの19種類を通常のアミノ酸にしたものについて、実施例1と同じ方法で、酵母ユビキチンを合成し、1H−15N HSQCの測定を行った。(1) (2)については、それぞれ、アラニン、アスパラギン酸由来のシグナルのみが観測され(図5A(アラニン)およびB(アスパラギン酸))、選択的標識が可能になったことが確認された。(3)については、グルタミン酸からアスパラギン酸の代謝が抑制されていることが確認できたが、グルタミン酸からグルタミンへの代謝活性は依然として残っていることが確認された(図6)。さらに、アミノオキシ酢酸の濃度を、0.1μM、1μM、10μM、100μM、1mMの条件の元で、上記実験を行ったところ、10μMの濃度で2/3程度、100μM以上の濃度で完全に代謝が阻害されていることがわかった。
【0055】
実施例3 グルタミン合成酵素阻害剤添加によるアミノ酸代謝および蛋白質合成能への影響の検討
実施例2で観察された小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系中のグルタミン酸からグルタミンへのアミノ酸代謝酵素の活性の阻害による、上記アミノ酸代謝への影響と、蛋白質合成活性への影響を検討した。実施例1で記載した方法と同様に目的蛋白質を合成する際、透析外液及び反応液中にグルタミン合成酵素であるL-メチオニンサルフォキシイミンの濃度を0、0.1、1、3、10、20mMとして、コムギ胚芽蛋白質合成によるGFPの合成量をGFPの蛍光強度を指標に調べた。図7に示すとおり、L-メチオニンサルフォキシイミンの濃度が20mM以下の条件では、GFPの蛋白質合成量は減少しないことがわかった。
【0056】
次に、翻訳液及び透析外液中のアミノオキシ酢酸の濃度を1mM、及びL-メチオニンサルフォキシイミンの濃度を0.1mMとし、基質のアミノ酸に関して、グルタミン酸だけを15N標識し、残りの19種類を通常のアミノ酸にしたものを用いて、実施例と同じ方法で酵母ユビキチンを合成し、1H−15N HSQCの測定を行った。その結果、グルタミン酸からアスパラギン酸の代謝及びグルタミン酸からグルタミンへの代謝が両方とも抑制されていることが確認でき(図8)、グルタミン酸が選択的に15N標識されることがわかった。さらに、L-メチオニンサルフォキシイミンの濃度を、0.1μM、1μM、10μM、100μMの条件の元で、上記実験を行ったところ、10μMの濃度で2/3程度、100μM以上の濃度で完全に代謝が阻害されていることがわかった。
【0057】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系において、全てのアミノ酸が選択的に標識化された目的蛋白質を合成することができる。小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系は、合成された蛋白質を精製することなくNMR測定することができるため、本発明の方法により、NMR測定による蛋白質のより簡便な測定方法が提供される。
【0058】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】アラニンのみ15N標識した基質を用いて小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で合成した蛋白質のHSQCスペクトルを測定した結果を示す図である。
【図2】アスパラギン酸のみ15N標識した基質を用いて小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で合成した蛋白質のHSQCスペクトルを測定した結果を示す図である。
【図3】グルタミン酸のみ15N標識した基質を用いて小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で合成した蛋白質のHSQCスペクトルを測定した結果を示す図である。
【図4】小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系の蛋白質合成能に対するアミノオキシ酢酸の濃度の影響を示すグラフである。
【図5】アラニンまたはアスパラギン酸のみ15N標識した基質を用いて、1mMのアミノオキシ酢酸の存在下、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で合成した蛋白質のHSQCスペクトルを測定した結果を示す図である。
【図6】グルタミン酸のみ15N標識した基質を用いて、1mMのアミノオキシ酢酸の存在下、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で合成した蛋白質のHSQCスペクトルを測定した結果を示す図である。
【図7】小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系の蛋白質合成能に対するL−メチオニンサルフォキシアミンの濃度の影響を示すグラフである。
【図8】グルタミン酸のみ15N標識した基質を用いて、1mMのアミノオキシ酢酸および0.1mMのL−メチオニンサルフォキシアミンの存在下、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で合成した蛋白質のHSQCスペクトルを測定した結果を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系でアミノ酸選択的に標識された目的蛋白質を合成する方法に関する。具体的には、アラニン、アスパラギン酸、あるいはグルタミン酸選択的標識化タンパク質の合成方法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
蛋白質中の窒素原子を安定同位体でNMR観測可能な15Nで標識し,1H・15N HSQC(heteronuclear single quantum coherence)スペクトルを観測することは、蛋白質のフォールディング検定(例えば非特許文献1参照)、立体構造決定および、リガンドスクリーニングなどに広く用いられている。
【0003】
通常、1H・15N HSQCを測定するための蛋白質の調製に関しては、大腸菌、酵母、培養細胞などの生合成系、あるいは大腸菌、コムギ胚芽由来の無細胞合成系を用いて、栄養または基質となるアミノ酸を15N標識したものを用いて、目的蛋白質の標識を行い、しかる後に目的の蛋白質を必要があれば精製し、NMR測定試料とする。上記1H・15N HSQCについては、一般的に、目的タンパク質内の全てあるいはほとんど全てのアミノ酸の少なくとも主鎖のアミド窒素を15N標識したものを用いる。
【0004】
一方、アミノ酸選択的標識法とは、目的タンパク質に含まれるアミノ酸のうち1種類あるいは、数種類のアミノ酸だけを15N、13CあるいはD、又はそれらの組み合わせを用いて目的蛋白質を合成することにより標識し、NMR測定に用いる方法である。この標識法を用いると、蛋白質全体の情報から、望みのアミノ酸の情報だけを抽出して観測することができる。上記したように全ての主鎖のアミド窒素を15N標識した蛋白質の1H・15N HSQCを測定すると、プロリン以外のすべてのアミノ酸残基に対応するシグナルが得られるが、例えばアラニンだけを15N標識した蛋白質を作成して1H・15N HSQCを測定すると、アラニン残基由来のHSQCシグナルだけを観測することができ、HSQCシグナルのアミノ酸タイプ分けが可能になる。また、他の標識法と組み合わせることにより、特定の残基のシグナルを帰属することが可能になる。
【0005】
このように、アミノ酸選択的標識法は、NMR測定にいろいろ用いられているが、この方法を確実に行うためには、必要条件が存在する。この標識法は、生細胞あるいは無細胞蛋白質合成系を用いて目的蛋白質を大量合成する際に、基質のアミノ酸の1種類あるいは数種類を標識アミノ酸に置き換えることによって行うが、その蛋白質合成系において、アミノ酸代謝酵素の活性があると、標識アミノ酸が他のアミノ酸に変えられてしまい、狙った通りの標識法ができない。よって、これを回避するためには、アミノ酸代謝酵素を持たない蛋白質合成系か、アミノ酸代謝酵素の活性を抑えるかのどちらかが必要となる。しかし、生細胞系において、全てのアミノ酸代謝酵素を含まないようにしたり、活性を完全に抑えることは事実上不可能である。そこで、種々の無細胞タンパク質合成系に用いられる細胞抽出液中の残存アミノ酸代謝酵素の解析が試みられてきた。例えば、大腸菌生細胞を用いて、15Nのアミノ酸選択的な標識の方法は非特許文献2等に記載のとおりである。
【0006】
本発明者らは、先に、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系により標識化タンパク質を合成し、得られた蛋白質を精製せずにNMR測定を行う方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。この方法では、無細胞合成系のうち、小麦胚芽抽出液を用いることになるが、小麦胚芽抽出液中ではどのようなアミノ酸代謝酵素の活性が残存しているかについてはわかっていなかったため、該抽出液をアミノ酸選択的標識法に用いることはできなかった。
【0007】
【非特許文献1】
Montelione, G. T., et al., Nature Struct. Biol., 7 ,Suppl, 982-985(2000)
【非特許文献2】
Muchmore, D. C., et al, Methods in Enzymology 177, 44-73(1990)
【特許文献1】
特願2003-032381 明細書
【0008】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明は、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で、アミノ酸選択的に標識された目的蛋白質を合成する方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、小麦胚芽抽出液を含む無細胞蛋白質合成系においては、アラニンがアスパラギン酸およびグルタミン酸に代謝され、アスパラギン酸がグルタミン酸に代謝され、さらにグルタミン酸がアスパラギン酸またはグルタミンに代謝されることを見出し、さらにこれらのアミノ酸の代謝阻害剤を該合成系に添加することにより、上記のアミノ酸の代謝が阻害され、アミノ酸選択的に標識が可能になることを見出した。本発明はこられの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0010】
即ち、本発明によれば、
(1)目的蛋白質を、コムギ胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系においてアラニンがアスパラギン酸およびグルタミン酸に代謝されるのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件下で、アラニンが安定同位体により標識された基質を用いて合成することを特徴とする目的蛋白質中のアラニン選択的標識方法、
(2)目的蛋白質を、コムギ胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系においてアスパラギン酸がグルタミン酸に代謝されるのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件下で、アスパラギン酸が安定同位体により標識された基質を用いて合成することを特徴とする目的蛋白質のアスパラギン酸選択的標識方法、
(3)目的蛋白質を、コムギ胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系においてグルタミン酸が、アスパラギン酸および/またはグルタミンに代謝されるのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件下で、グルタミン酸が安定同位体により標識された基質を用いて合成することを特徴とする目的蛋白質のグルタミン酸選択的標識方法、
(4)アラニンがアスパラギン酸および/またはグルタミン酸に変化するのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件が、トランスアミナーゼ阻害剤の蛋白質合成を阻害しない濃度範囲での存在であることを特徴とする上記(1)に記載の方法、
(5)アスパラギン酸がグルタミン酸に変化するのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件が、トランスアミナーゼを阻害剤の蛋白質合成を阻害しない濃度範囲での存在であることを特徴とする上記(2)に記載の方法、
(6)グルタミン酸が、アスパラギン酸および/またはグルタミンに変化するのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件が、トランスアミナーゼ阻害剤およびグルタミン合成酵素阻害剤の蛋白質合成を阻害しない濃度範囲での存在であることを特徴とする上記(3)に記載の方法、
(7)トランスアミナーゼ阻害剤が、アミノオキシ酢酸で、蛋白質合成を阻害しない濃度範囲が0.01〜10mMである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法、
(8)グルタミン合成酵素阻害剤が、L−メチオニンサルフォキシイミンで、蛋白質合成を阻害しない濃度範囲が、0.01〜20mMであることを特徴とする上記(3)または(6)に記載の方法、
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の方法で合成した標識化目的蛋白質をNMR測定することを特徴とするタンパク質のNMR解析方法、
が提供される。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(1)目的蛋白質および翻訳鋳型
本発明の方法に用いられる目的蛋白質は、本発明の方法によりその一部のアミノ酸が選択的に標識されて、小麦胚芽抽出液を含む無細胞蛋白質合成系において合成され得るものであれば如何なるものであってもよい。具体的には例えば、ポリペプチド、糖蛋白質これらの誘導体、共有結合体および複合体等が挙げられる。ポリペプチドは10以上1000以下のアミノ酸残基からなるものが好ましく用いられる。また、糖蛋白質としては分子量1000以上10万以下のものが好ましい。具体的には、天然に存在する蛋白質、またはその一部、さらに人工的に産生されたポリペプチド、および天然に存在する蛋白質のN末端またはC末端に1以上のアミノ酸残基が付加されている蛋白質等が含まれるが、これらに限らず、この場合、これらの蛋白質またはポリペプチドのアミノ酸残基において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されていてもよい。
【0012】
このような蛋白質を、小麦胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系で合成する場合、まず鋳型となるDNAを調製し、これをRNAに転写して該合成系に供する。鋳型となるDNAは、該蛋白質をコードする配列が、適当な発現制御領域の制御下となるように連結されている構造が含まれるものが挙げられる。また、その下流に転写終了のための配列、および非翻訳領域等が連結しているものも好ましく用いられる。発現制御領域とは、プロモーター、エンハンサー等が含まれる。
【0013】
小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系に適したプロモーターとしては、転写にSP6 RNA合成酵素を用いる場合には、SP6プロモーター等が挙げられる。また、該プロモーター配列と、目的蛋白質をコードする塩基配列の間に、翻訳活性を増強する塩基配列を挿入することが好ましい。翻訳活性を増強する塩基配列として具体的には、真核生物においては、5’−キャップ構造(Shatkin,Cell,9,645−(1976))、コザック配列(Kozak,Nucleic Acid. Res.,12,857(1984))等が挙げられる。さらに、RNAウィルスの5’−非翻訳リーダー配列等にも翻訳活性増強活性があることが見出されており(特許第2814433号公報)、これらの配列を用いて蛋白質合成を効率良く行う方法が開発されている(特開平10−146197号公報)。また、ランダム配列について、そのポリソーム形成への「影響を指標として翻訳エンハンス配列を選択する方法によって得られた配列も挙げられる(特願2001−396941号公報)。このような構造を有するDNAを以下、翻訳鋳型DNAと称することがある。
【0014】
翻訳鋳型DNAの調製方法としては、それ自体既知の通常用いられる方法が挙げられる。具体的には、例えば、プラスミドベクターを用いて行う方法やポリメラーゼチェインリアクション法を用いる方法等が挙げられ、詳細は、Sawasaki,T.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,99(23),14652−(2002)に記載されている。かくして得られた翻訳鋳型DNAは、これを通常用いられる方法により転写され、必要に応じて精製することにより、本発明の方法に用いられる目的蛋白質の鋳型となるmRNAが取得される。
【0015】
(2)小麦胚芽抽出液
本発明の方法では、小麦胚芽抽出液を用いる無細胞タンパク質合成系において、目的蛋白質を合成する。小麦胚芽抽出液としては、適当な基質等を添加することにより翻訳反応が行えるものであれば特に制限はない。具体的には、例えば、コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系の場合、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、97:559-564(2000)、特開2000-236896号公報、特開2002-125693号公報、特開2002-204689号公報などに従って調製された小麦胚芽抽出液およびその無細胞タンパク質合成系を用いることができる。
【0016】
本発明で用いるコムギ胚芽抽出液として好ましくは、コムギ種子中の胚芽を胚乳を除去するように分離して、該胚芽から抽出して精製したものを用いることができる。このようなコムギ胚芽抽出液は、コムギ種子から以下のようにして調製したものか、あるいは市販のものを用いることができる。市販の細胞抽出液としては、コムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM(TOYOBO社製)等が挙げられる。
【0017】
コムギ胚芽抽出液の作製法としては、例えばJohnston、F.B.etal.、Nature、179、160−161(1957)、あるいはErickson、A.H.et al.、(1996)Meth.In Enzymol.、96、38−50等に記載の方法を用いることができるが、以下にさらに詳細に説明する。
【0018】
本発明で用いるコムギ胚芽抽出液の製造においては、先ず、コムギの胚芽以外の成分、特に胚乳をほぼ完全に除去することが好ましい。このような胚芽の調製方法としては、通常、まず、コムギ種子に機械的な力を加えることにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得、該混合物から、胚乳破砕物、種皮破砕物等を取り除いて粗胚芽画分(胚芽を主成分とし、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物)を得る。コムギ種子に加える力は、コムギ種子から胚芽を分離することができる程度の強さであればよい。具体的には、公知の粉砕装置を用いて、植物種子を粉砕することにより、胚芽、胚乳破砕物、種皮破砕物を含む混合物を得る。
【0019】
コムギ種子の粉砕は、通常公知の粉砕装置を用いて行うことができるが、ピンミル、ハンマーミル等の被粉砕物に対して衝撃力を加えるタイプの粉砕装置を用いることが好ましい。粉砕の程度は、例えばコムギ種子の場合は、通常、最大長さ4mm以下、好ましくは最大長さ2mm以下の大きさに粉砕する。また、粉砕は乾式で行うのが好ましい。
【0020】
次いで、得られたコムギ種子粉砕物から、通常公知の分級装置、例えば、篩を用いて粗胚芽画分を取得する。例えば、コムギ種子の場合、通常、メッシュサイズ0.5mm〜2.0mm、好ましくは0.7mm〜1.4mmの粗胚芽画分を取得する。さらに、必要に応じて、得られた粗胚芽画分に含まれる種皮、胚乳、ゴミ等を風力、静電気力を利用して除去してもよい。
【0021】
また、胚芽と種皮、胚乳の比重の違いを利用する方法、例えば重液選別により、粗胚芽画分を得ることもできる。より多くの胚芽を含有する粗胚芽画分を得るために、上記の方法を複数組み合わせてもよい。さらに、得られた粗胚芽画分から、例えば目視や色彩選別機等を用いて胚芽を選別する。
このようにして得られた胚芽画分は、胚乳成分が付着している場合があるため、通常胚芽純化のために更に洗浄処理することが好ましい。洗浄処理としては、通常10℃以下、好ましくは4℃以下に冷却した水又は水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させ、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することが好ましい。また、通常10℃以下、好ましくは4℃以下で、界面活性剤を含有する水溶液に胚芽画分を分散・懸濁させて、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄することがより好ましい。界面活性剤としては、非イオン性のものが好ましく、非イオン性界面活性剤であるかぎりは、広く利用ができる。具体的には、例えば、好適なものとして、ポリオキシエチレン誘導体であるブリッジ(Brij)、トリトン(Triton)、ノニデット(Nonidet)P40、ツイーン(Tween)等が例示される。なかでも、ノニデット(Nonidet)P40が最適である。これらの非イオン性界面活性剤は、例えば0.5%の濃度で使用することができる。水又は水溶液による洗浄処理及び界面活性剤による洗浄処理は、どちらか一方でもよいし、両方実施してもよい。また、これらの洗浄処理は、超音波処理との組み合わせで実施してもよい。
【0022】
本発明においては、上記のようにコムギ種子を粉砕して得られた粉砕物からコムギ胚芽を選別した後洗浄して得られた無傷(発芽能を有する)の胚芽を抽出溶媒の存在下に細分化した後、得られるコムギ胚芽抽液を分離し、更に精製することにより無細胞蛋白質合成用コムギ胚芽抽出液を得ることができる。
抽出溶媒としては、緩衝液、カリウムイオン、マグネシウムイオン及び/又はチオール基の酸化防止剤を含む水溶液を用いることができる。また、必要に応じて、カルシウムイオン、L型アミノ酸等をさらに添加してもよい。例えば、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、L型アミノ酸及び/又はジチオスレイトールを含む溶液や、Pattersonらの方法を一部改変した溶液(HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、塩化カルシウム、L型アミノ酸及び/又はジチオスレイトールを含む溶液)を抽出溶媒として使用することができる。抽出溶媒中の各成分の組成・濃度はそれ自体既知であり、無細胞蛋白質合成用のコムギ胚芽抽出液の製造法に用いられるものを採用すればよい。
【0023】
胚芽と抽出に必要な量の抽出溶媒とを混合し、抽出溶媒の存在下に胚芽を細分化する。抽出溶媒の量は、洗浄前の胚芽1gに対して、通常0.1ミリリットル以上、好ましくは0.5ミリリットル以上、より好ましくは1ミリリットル以上である。抽出溶媒量の上限は特に限定されないが、通常、洗浄前の胚芽1gに対して、10ミリリットル以下、好ましくは5ミリリットル以下である。また、細分化しようとする胚芽は従来のように凍結させたものを用いてもよいし、凍結させていないものを用いてもよいが、凍結させていないものを用いるのがより好ましい。
【0024】
細分化の方法としては、摩砕、圧砕、衝撃、切断等、粉砕方法として従来公知の方法を採用することができるが、特に衝撃または切断により胚芽を細分化することが好ましい。ここで、「衝撃または切断により細分化する」とは、植物胚芽の細胞核、ミトコンドリア、葉緑体等の細胞小器官(オルガネラ)、細胞膜や細胞壁等の破壊を、従来の摩砕又は圧砕と比べて最小限に止めうる条件で植物胚芽を破壊することを意味する。
【0025】
細分化する際に用いることのできる装置や方法としては、上記条件を満たすものであれば特に限定されないが、例えば、ワーリングブレンダーのような高速回転する刃状物を有する装置を用いることが好ましい。刃状物の回転数は、通常1000rpm以上、好ましくは5000rpm以上であり、また、通常30000rpm以下、好ましくは25000rpm以下である。刃状物の回転時間は、通常5秒以上、好ましくは10秒以上である。回転時間の上限は特に限定されないが、通常10分以下、好ましくは5分以下である。細分化する際の温度は、好ましくは10℃以下で操作が可能な範囲内、特に好ましくは4℃程度が適当である。
【0026】
このように衝撃または切断により胚芽を細分化することにより、胚芽の細胞核や細胞壁を全て破壊してしまうのではなく、少なくともその一部は破壊されることなく残る。即ち、胚芽の細胞核等の細胞小器官、細胞膜や細胞壁が必要以上に破壊されることがないため、それらに含まれるDNAや脂質等の不純物の混入が少なく、細胞質に局在する蛋白質合成に必要なRNAやリボソーム等を高純度で効率的に胚芽から抽出することができる。
【0027】
このような方法によれば、従来の植物胚芽を粉砕する工程と粉砕された植物胚芽と抽出溶媒とを混合してコムギ胚芽抽出液を得る工程とを同時に一つの工程として行うことができるため効率的にコムギ胚芽抽出液を得ることができる。上記の方法を、以下、「ブレンダー法」と称することがある。
次いで、遠心分離等によりコムギ胚芽抽出液を回収し、ゲルろ過等により精製することによりコムギ胚芽抽出液を得ることができる。ゲルろ過としては、例えば予め溶液(HEPES−KOH、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、ジチオスレイトール又はL型アミノ酸を含む溶媒)で平衡化しておいたゲルろ過装置を用いて行うことができる。ゲルろ過溶液中の各成分の組成・濃度はそれ自体既知であり、無細胞タンパク合成用のコムギ胚芽抽出液の製造法に用いられるものを採用すればよい。
【0028】
ゲルろ過後の胚芽抽出物含有液には、微生物、特に糸状菌(カビ)などの胞子が混入していることがあり、これら微生物を排除しておくことが好ましい。特に長期(1日以上)の無細胞蛋白質合成反応中に微生物の繁殖が見られることがあるので、これを阻止することは重要である。微生物の排除手段は特に限定されないが、ろ過滅菌フィルターを用いるのが好ましい。フィルターのポアサイズとしては、混入の可能性のある微生物が除去可能なものであれば特に制限はないが、通常0.1〜1マイクロメーター、好ましくは0.2〜0.5マイクロメーターが適当である。ちなみに、小さな部類の枯草菌の胞子のサイズは0.5μmx1μmであることから、0.20マイクロメーターのフィルター(例えばSartorius製のMinisartTM等)を用いるのが胞子の除去にも有効である。ろ過に際して、まずポアサイズの大きめのフィルターでろ過し、次に混入の可能性のある微生物が除去可能であるポアサイズのフィルターを用いてろ過するのが好ましい。
【0029】
このようにして得られた細胞抽出液は、原料細胞自身が含有する又は保持する蛋白質合成機能を抑制する物質(トリチン、チオニン、リボヌクレアーゼ等の、mRNA、tRNA、翻訳蛋白質因子やリボソーム等に作用してその機能を抑制する物質)を含む胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されている。ここで、胚乳がほぼ完全に取り除かれ純化されているとは、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳部分を取り除いたコムギ胚芽抽出液のことであり、また、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度とは、リボソームの脱アデニン化率が7%未満、好ましくは1%以下になっていることをいう。
【0030】
このような細胞抽出液は、上記のごとく低分子の蛋白質合成阻害物質(以下、これを「低分子合成阻害物質」と称することがある)を含有しているため、細胞抽出液の構成成分から、これら低分子合成阻害物質を分子量の違いにより分画排除する。排除されるべき物質(低分子阻害物質)の分子量は、細胞抽出液中に含まれる蛋白質合成に必要な因子よりも小さいものであればよい。具体的には、分子量50,000〜14,000以下、好ましくは14,000以下のものが挙げられる。
【0031】
低分子合成阻害物質の細胞抽出液からの排除方法としては、それ自体既知の通常用いられる方法が用いられるが、具体的には透析膜を介した透析による方法、ゲルろ過法、あるいは限外ろ過法等が挙げられる。このうち、透析による方法(透析法)が、透析内液に対しての物質の供給のし易さ等の点において好ましい。以下、透析法を用いる場合を例に詳細に説明する。
【0032】
透析に用いる透析膜としては、50,000〜12,000の排除分子量を有するものが挙げられる、具体的には排除分子量12,000〜14,000の再生セルロース膜(Viskase Sales、Chicago製)や、排除分子量50,000のスペクトラ/ポア6(SPECTRUM LABOTRATORIES INC.,CA,USA製)等が好ましく用いられる。このような透析膜中に適当な量の上記細胞抽出液を入れ常法を用いて透析を行う。透析を行う時間は、30分〜24時間程度が好ましい。
【0033】
低分子合成阻害物質の排除を行う際、細胞抽出液に不溶性成分が生成される場合には、これを阻害する(以下、これを「細胞抽出液の安定化」と称することがある)ことにより、最終的に得られる細胞抽出液(以下、これを「処理後細胞抽出液」と称することがある)の蛋白質合成活性が高まる。細胞抽出液の安定化の具体的な方法としては、上記(1)に記載した低分子阻害物質の排除を行う際に、少なくとも高エネルギーリン酸化合物、例えばATPまたはGTP等を含む溶液中で行う方法が挙げられる。高エネルギーリン酸化合物としては、ATPが好ましく用いられる。また、好ましくは、ATPとGTP、さらに好ましくはATP、GTP、及び20種類のアミノ酸を含む溶液中で行う。
【0034】
これらの成分(以下、これを「安定化成分」と称することがある)を含む溶液中で低分子阻害物質の排除を行う場合は、細胞抽出液に予め安定化成分を添加し、インキュベートした後、これを低分子阻害物質の排除工程に供してもよい。低分子合成阻害物質の排除に透析法を用いる場合は、細胞抽出液だけでなく透析外液にも安定化成分を添加して透析を行い低分子阻害物質の排除を行うこともできる。透析外液にも安定化成分を添加しておけば、透析中に安定化成分が分解されても常に新しい安定化成分が供給されるのでより好ましい。このことは、ゲルろ過法や限外ろ過法を用いる場合にも適用でき、それぞれの担体を安定化成分を含むろ過用緩衝液により平衡化した後に、安定化成分を含む細胞抽出液を供し、さらに上記緩衝液を添加しながらろ過を行うことにより同様の効果を得ることができる。
【0035】
安定化成分の添加量、及び安定化処理時間としては、細胞抽出液の種類や調製方法により適宜選択することができる。これらの選択の方法としては、試験的に量及び種類をふった安定化成分を細胞抽出液に添加し、適当な時間の後に低分子阻害物質の排除工程を行い、取得された処理後細胞抽出液を遠心分離等の方法で可溶化成分と不溶化成分に分離し、そのうちの不溶性成分が少ないものを選択する方法が挙げられる。さらには、取得された処理後細胞抽出液を用いて無細胞蛋白質合成を行い、蛋白質合成活性の高いものを選択する方法も好ましい。また、上記の選択方法において、細胞抽出液と透析法を用いる場合、適当な安定化成分を透析外液にも添加し、これらを用いて透析を適当時間行った後、得られた細胞抽出液中の不溶性成分量や、得られた細胞抽出液の蛋白質合成活性等により選択する方法も挙げられる。
【0036】
このようにして選択された細胞抽出液の安定化条件の例として、具体的には、上述のブレンダー法を用いて調製したコムギ胚芽抽出液で、透析法により低分子阻害物質の排除工程を行う場合においては、そのコムギ胚芽抽出液、及び透析外液中に、ATPとしては100μM〜0.5mM、GTPは25μM〜1mM、20種類のアミノ酸としてはそれぞれ25μM〜5mM添加して30分〜1時間以上の透析を行う方法等が挙げられる。透析を行う場合の温度は、蛋白質合成活性が失われず、かつ透析が可能な温度であれば如何なるものであってもよい。具体的には、最低温度としては、溶液が凍結しない温度で、通常−10℃、好ましくは−5℃、最高温度としては透析に用いられる溶液に悪影響を与えない温度の限界である40℃、好ましくは38℃である。
【0037】
細胞抽出液への安定化成分の添加方法は、特に制限はなく、低分子阻害物質の排除工程の前に添加しこれを適当時間インキュベートして安定化を行った後、低分子合成阻害物質の排除工程を行ってもよいし、安定化成分を添加した細胞抽出液、及び/または安定化成分を添加した該排除工程に用いるための緩衝液を用いて低分子合成阻害物質の排除工程を行ってもよい。
【0038】
本発明で用いるコムギ胚芽抽出液としては、DNA含有量および/または総脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸)含有量が低いものが好ましく、例えば、(a)260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90の時のDNA含有量が230μg/ml以下であるもの、あるいは(b)260nmにおける光学密度(O.D.)(A260)が90の時の総脂肪酸(パルミチン酸、オレイン酸及びリノール酸)含有量の合計量が0.03g/100g以下であるものが好ましく、さらに上記(a)及び(b)の両方の条件を満たすものが特に好ましい。
【0039】
(3)無細胞タンパク質合成反応
本発明の方法は、上記小麦胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系において、目的のアミノ酸が選択的に標識されるような条件下で目的蛋白質を翻訳することにより、特定のアミノ酸が選択的に安定同位体によって標識された目的蛋白質を合成する方法である。ここで、小麦胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系においては、実施例1で下述するとおり、該抽出液中に含まれるアミノ酸代謝酵素によって、アラニンがアスパラギン酸およびグルタミン酸に代謝され、アスパラギン酸がグルタミン酸に代謝され、さらにグルタミン酸がアスパラギン酸またはグルタミンに代謝される。
【0040】
そこで、上記のアミノ酸を選択的に標識する場合には、該アミノ酸代謝酵素の活性を阻害して、かつ鋳型RNAの蛋白質への翻訳を阻害しない条件下で、好ましくは上記アミノ酸のみが標識された基質を用いて小麦胚芽抽出液を含む無細胞蛋白質合成系において目的蛋白質を合成する。このような条件の検討方法としては、まず該アミノ酸代謝酵素阻害候補として選択された物質が該蛋白質合成系における蛋白質合成能を阻害しない濃度を決定する。例えば、適当な蛋白質の鋳型RNAを、標識されていない基質を用いて翻訳し、翻訳後取得された蛋白質を、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動などで分離し、定量する。あるいは、活性測定法が分かっている酵素蛋白質などや、蛍光を持つような蛋白質を翻訳して、該蛋白質の酵素活性あるいは蛍光量を指標として定量しても良い。この定量によって、該蛋白質合成系に存在するアミノ酸代謝酵素阻害剤が、合成される蛋白質の量を減少させない濃度範囲を決定する。さらに、目的のアミノ酸の代謝を阻害する物質を、上記で決定された鋳型RNAの蛋白質への翻訳を阻害しない濃度範囲で加え、例えば、アミノ酸配列がわかっている蛋白質の鋳型RNAを、好ましくは目的のアミノ酸のみが安定同位体で標識された基質を用いて該無細胞タンパク質合成系において翻訳し、翻訳後取得された蛋白質を後述するNMR測定し、投入した基質の標識が他のアミノ酸について観察されないかを確認することにより選択する。該合成反応に存在する候補物質の濃度によって目的のアミノ酸の代謝の阻害度が変化する場合には、充分にアミノ酸の代謝が阻害される濃度を測定する。この選択方法は、アミノ酸代謝酵素の阻害剤としてすでに知られているものを用いることによって換えることもできる。
【0041】
かくして選択される具体的な条件としては、アラニン選択的に標識化された蛋白質を合成する場合、およびアスパラギン酸選択的に標識化された蛋白質を合成する場合には、下述の無細胞タンパク質合成方法の翻訳反応液に、トランスアミナーゼ阻害剤を、蛋白質合成活性を阻害しない濃度範囲で存在させること等が挙げられる。ここで、トランスアミナーゼは、上記小麦胚芽抽出液中に残存し、アラニンをアスパラギン酸およびグルタミン酸に代謝する活性、および/またはアスパラギン酸をグルタミン酸に代謝する活性を有するものである。このようなトランスアミナーゼの活性阻害剤としては、該合成系において、トランスアミナーゼ活性を阻害する濃度範囲と目的蛋白質合成を阻害しない濃度範囲が重複するものが好ましく用いられる。具体的には、例えば、アミノオキシ酢酸等があげられ、その濃度としては0.01〜10mMの範囲が好ましい。
【0042】
また、グルタミン酸選択的に標識化された蛋白質を合成する場合の条件としては、下述の無細胞タンパク質合成方法の翻訳反応液に、トランスアミナーゼ阻害剤およびグルタミン合成酵素阻害剤を、蛋白質合成活性を阻害しない濃度範囲で存在させること等が挙げられる。ここで、トランスアミナーゼは、上記小麦胚芽抽出液中に残存し、グルタミン酸をアスパラギン酸に代謝する活性を有するものであり、グルタミン合成酵素とは、上記小麦胚芽抽出液中に残存し、グルタミン酸に代謝する活性を有するものである。このようなトランスアミナーゼの活性阻害剤としては、該合成系において、トランスアミナーゼ活性を阻害する濃度範囲と目的蛋白質合成を阻害しない濃度範囲が重複するものが好ましく用いられる。具体的には、トランスアミナーゼとしては、例えば、アミノオキシ酢酸等があげられ、その濃度としては0.01〜10mMの範囲が好ましい。また、グルタミン合成酵素としては、例えば、L−メチオニンサルフォキシイミンが挙げられ、その濃度としては0.01〜20mMの範囲が好ましく用いられる。
【0043】
このような条件下で行われる無細胞タンパク質合成方法とは、上記小麦胚芽抽出液に鋳型RNAや基質、エネルギー源等を添加し、さらに上記の必要なアミノ酸代謝活性を阻害する物質を添加して、目的蛋白質が合成される方法であれば特に制限はない。合成反応溶液の組成としては、上記細胞抽出液、鋳型RNA、基質となるアミノ酸、15N、13C、2H等の安定同位体で標識された特定のアミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、ATP再生系、核酸分解酵素阻害剤、tRNA、還元剤、ポリエチレングリコール、3’,5’−cAMP、葉酸塩、抗菌剤等が含まれる。これらは目的タンパク質によって適宜選択して調製される。
【0044】
基質となるアミノ酸は、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸で、このうち1種類が安定同位体で標識されているものが用いられる。特に本発明の合成方法においては、アラニン、アスパラギン酸、あるいはグルタミン酸が安定同位体で標識されているものを用いる。基質の濃度としては、0.05〜0.4mMの範囲が適当である。またエネルギー源としては、ATP、またはGTPが挙げられ、ATPは1.0〜1.5 mM、GTPは0.2〜0.3 mM添加することが好ましい。各種イオン、及びその適当な反応溶液中の濃度としては、60〜120mMの酢酸カリウム、1〜10mMの酢酸マグネシウム等が挙げられる。緩衝液としては、15〜35mMのHepes−KOH、あるいは10〜50mMのTris−酢酸等が用いられる。またATP再生系としては、ホスホエノールピルベートとピルビン酸キナーゼの組み合わせ、または12〜20mMのクレアチンリン酸(クレアチンホスフェート)と0.2〜1.6μg/μlのクレアチンキナーゼの組み合わせが挙げられる。核酸分解酵素阻害剤としては、反応溶液1μlあたり0.3〜3.0 Uのリボヌクレアーゼインヒビターや、0.3〜3Uのヌクレアーゼインヒビター等が挙げられる。
【0045】
このうち、リボヌクレアーゼインヒビターの具体例としては、ヒト胎盤由来のRNase inhibitor(TOYOBO社製等)等が用いられる。tRNAは、Moniter, R., et al., Biochim. Biophys. Acta., 43, 1 (1960)等に記載の方法により取得することができるし、市販のものを用いることもできる。還元剤としては、0.1〜3.0 mMのジチオスレイトール等が挙げられる。抗菌剤としては、0.001〜0.01%のアジ化ナトリウム、又は0.1〜0.2 mg/mlのアンピシリン等が挙げられる。核酸安定化剤としては、0.3〜0.5 mMスペルミジン等が用いられる。
【0046】
培養温度は10〜40℃、好ましくは15〜30℃、さらに好ましくは20〜26℃で行われる。反応時間はタンパク質合成が行われる限り特に制限はないが、本発明のように、翻訳反応で消費される物質を供給する系を用いると24〜75時間反応が持続する。
蛋白質合成のためのシステムあるいは装置としては、バッチ法(Pratt,J.M.et al.,Transcription and Tranlation,Hames,179-209,B.D.&Higgins,S.J.,eds,IRL Press,Oxford(1984))のように、該細胞抽出液に無細胞タンパク質合成に必要なエネルギー源やアミノ酸、あるいはtRNAを添加して行う方法や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞タンパク質合成システム(Spirin,A.S.et al.,Science,242,1162-1164(1988))、透析法(木川等、第21回日本分子生物学会、WID6)、あるいは重層法(Sawasaki, T., et al., FEBS Let. ,514, 102-105(2002))等が挙げられる。また、合成反応系に、鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する方法(特開2000−333673公報:以下これを「不連続ゲルろ過法」と称することがある)等を用いることができる。
【0047】
(4)目的タンパク質の回収および精製
かくして合成された特定のアミノ酸が安定同位体で標識された目的タンパク質は、これを反応溶液から回収し、必要であれば適当な方法により精製することにより取得することができる。しかし、目的蛋白質をNMR測定に用いる場合には、精製は必ずしも必要なく、それ自体公知の方法により適当な濃度に濃縮して、かつ緩衝液をNMR測定用に交換することで十分なことが多い。濃縮方法としては、例えば、限外濾過濃縮装置を用いる方法が挙げられる。また、緩衝液の交換は、市販のスピンカラムを用いる方法等が好ましく用いられる。
【0048】
(5)NMR測定
かくして合成された特定のアミノ酸が15N、13CあるいはD、又はそれらの安定同位体で標識された目的蛋白質をNMR測定に用いると、蛋白質全体の情報から、望みのアミノ酸の情報だけを抽出して観測することができる。ここで用いられるNMR測定法としては、NMRに用いられ得る方法であれば溶液、固体にかかわらず如何なる方法も用いることができる。具体的には、同種核多次元NMR測定法または異種核多次元NMR測定法のいずれでもよく、例えば溶液同種核多次元NMR測定法としては、COSY、TOCSY、NOESY、ROESY[Cavanagh, W.J. et al., Protein NMR Spectroscopy, Principles and Practice, Academic Press (1996)]等が挙げられ、異種核多次元NMR測定法としては、HSQC、HMQC、CH-COSY、CBCANH、CBCA(CO)NH、HNCO、HN(CA)CO、HNHA、H(CACO)NH、HCACO、15N-edited NOESY-HSQC、13C-edited NOESY-HSQC、13C/15N-edited HMQC-NOESY-HMQC、13C /13C-edited HMQC-NOESY-HMQC、15N/15N-edited HSQC-NOESY-HSQC [Cavanagh, W.J., et al., Protein NMR Spectroscopy. Principles and Practice, Academic Press(1996)]、HN(CO)CACB、HN(CA)CB、HN(COCA)CB [Yamazaki, T., et al., J. Am. Chem. Soc., 116 (1994) 11655-11666]、H(CCO)NH、C(CO)NH [Grzesiek, S., et al., J. Magn. Reson., B 101 (1993) 114-119]、CRIPT、CRINEPT [Riek, R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 96 (1999) 4918-4923]、HMBC、HBHA(CBCACO)NH [Evans J. N. S., Biomolecular NMR Spectroscopy. Oxford University Press (1995) 71]、INEPT [Morris, G. A., et al., J. Am. Chem. Soc., 101 (1979) 760-762]、HNCACB [Wittekind, M., et al., J. Magn. Reson. B 101 (1993) 201]、HN(CO)HB [Grzesiek, S., et al., J. Magn. Reson. 96 (1992) 215-222.]、HNHB [Archer, S. J., et al., J. Magn. Reson., 95 (1991) 636-641]、HBHA(CBCA)NH [Wang, A.C., et al., J. Magn. Reson., B 105 (1994) 196-198.]、HN(CA)HA [Kay, L.E., et al., J. Magn. Reson., 98 (1992) 443-450]、HCCH-TOCSY [Bax, A., et al., J. Magn. Reson., 88 (1990) 425-431]、TROSY [Pervushin, K., et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 94 (1997) 12366-12371]、13C /15N-edited HMQC-NOESY-HSQC [Jerala R, et al., J. Magn. Reson., 108 (1995) 294-298]、HN(CA)NH [Ikegami, T., et al., J. Magn. Reson., 124 (1997) 214217]、およびHN(COCA)NH [Grzesiek, S., et al., J. Biomol. NMR, 3 (1993) 627-638.]等の測定法が含まれるが、これらに限らない。
【0049】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1 1種類のアミノ酸のみを標識化した基質により合成した目的蛋白質のNMR測定
(1)鋳型mRNAの調製
酵母ユビキチンの遺伝子(Genbank accession No.X01474)は、Saccharomyces cerevisiase株より,Hereford法(L. Hereford , et al., Cell 18, 1261-1271 (1979))により調製した酵母ゲノムDNAを鋳型として、配列番号1および2に記載の塩基配列からなるプライマーを用いてPCR法を用いて増幅し、プラスミドpEU3b(Sawasaki, T., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 99(23),14652-14657(2002))のSpe IとSal Iの部位に導入した。16 mMのマグネシウムイオン存在下で上記プラスミドを鋳型として、酵母ユビキチンのmRNAをSP6 RNA polymerase(Promega社製)で転写し、合成した。また、GFPのmRNAについても同様にpEU-GFP(Sawasaki, T., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 99(23),14652-14657(2002))を鋳型として,SP6 RNA polymerase(Promega社製)で転写し、合成した。
【0050】
(2)1種類のアミノ酸のみを標識化した基質を用いた目的蛋白質合成
上記実施例1で合成したmRNAを100μg/130μlに成るように濃縮し、コムギ胚芽抽出液(ProteiosTM、TOYOBO社製)と混合した(1 ml)。その混合液を、20種類のうち1種類だけ15N標識され(Cambridge Isotope Laboratories社製)、残りの19種類のアミノ酸は通常のアミノ酸である透析緩衝液に対して、2日間反応を行い、透析緩衝液を交換しさらに2日間の蛋白質合成反応を行った。1 mlの反応液は、ミリポア製のCentricon-3限外濾過濃縮装置で250ulまで濃縮した。この濃縮液中の酵母ユビキチン蛋白質は120μMとなった。濃縮液を、あらかじめNMR測定用緩衝液(50 mM リン酸ナトリウム pH 6.5、 100 mM NaCl)で平衡化されたアマシャム社製 Micro Spin G-25 ゲル濾過カラムを通すことにより、測定用緩衝液に交換し、NMR測定試料とした。
【0051】
(3)NMR測定
NMR測定には、Bruker社製Avance−500スペクトロメーターを用い、測定試料には磁場の安定性を保つためのNMRロック用に10%D2Oを添加し、1H−15N HSQCの測定を行った。測定温度は30℃とした。それぞれのアミノ酸を1種類のみ15N標識し、それ以外のアミノ酸を非標識のもので合成した酵母ユビキチンの蛋白質のHSQCスペクトルを測定したところ、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸の以外の15N標識アミノ酸については、アミノ酸の代謝が起こらず、15N標識を導入したアミノ酸だけを選択的に標識できることがわかった。
【0052】
しかし、アラニンだけ15N標識されたアミノ酸を用いた場合には、アラニンのシグナルに加えてアスパラギン酸とグルタミン酸由来のHSQCシグナルが観測された(図1)。またアスパラギン酸だけ15N標識されたアミノ酸を用いた場合には、アスパラギン酸のシグナルに加えてグルタミン酸由来のHSQCシグナルが観測された(図2)。また、グルタミン酸だけ15N標識されたアミノ酸を用いた場合には、グルタミン酸のシグナルに加えてアスパラギン酸とグルタミン由来ののHSQCシグナルが観測された(図3)。
【0053】
実施例2 トランスアミナーゼ阻害剤添加によるアミノ酸代謝および蛋白質合成能への影響の検討
実施例1で観察された小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系中のアミノ酸代謝酵素の活性のうち、トランスアミナーゼの活性を阻害することによる上記アミノ酸代謝への影響と、蛋白質合成活性への影響を検討した。実施例1で記載した方法と同様に目的蛋白質を合成する際、透析外液及び反応液中にトランスアミナーゼ阻害剤であるアミノオキシ酢酸の濃度を4、10、12、14、16、18、20、25、30、35mMとして、コムギ胚芽蛋白質合成によるGFPの合成量をGFPの蛍光強度を指標に調べた。図4に示すように、アミノオキシ酢酸の濃度が4mM以下の条件では、GFPの蛋白質合成量は減少せず、10mMにおいても、7割程度合成量が維持されることがわかった。
【0054】
次に、翻訳液及び透析外液中のアミノオキシ酢酸の濃度を1 mMとし、基質のアミノ酸に関して、(1)アラニンだけを15N標識し、残りの19種類を通常のアミノ酸にしたもの、(2)アスパラギン酸だけを15N標識し、残りの19種類を通常のアミノ酸にしたもの、(3)グルタミン酸だけを15N標識し、残りの19種類を通常のアミノ酸にしたものについて、実施例1と同じ方法で、酵母ユビキチンを合成し、1H−15N HSQCの測定を行った。(1) (2)については、それぞれ、アラニン、アスパラギン酸由来のシグナルのみが観測され(図5A(アラニン)およびB(アスパラギン酸))、選択的標識が可能になったことが確認された。(3)については、グルタミン酸からアスパラギン酸の代謝が抑制されていることが確認できたが、グルタミン酸からグルタミンへの代謝活性は依然として残っていることが確認された(図6)。さらに、アミノオキシ酢酸の濃度を、0.1μM、1μM、10μM、100μM、1mMの条件の元で、上記実験を行ったところ、10μMの濃度で2/3程度、100μM以上の濃度で完全に代謝が阻害されていることがわかった。
【0055】
実施例3 グルタミン合成酵素阻害剤添加によるアミノ酸代謝および蛋白質合成能への影響の検討
実施例2で観察された小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系中のグルタミン酸からグルタミンへのアミノ酸代謝酵素の活性の阻害による、上記アミノ酸代謝への影響と、蛋白質合成活性への影響を検討した。実施例1で記載した方法と同様に目的蛋白質を合成する際、透析外液及び反応液中にグルタミン合成酵素であるL-メチオニンサルフォキシイミンの濃度を0、0.1、1、3、10、20mMとして、コムギ胚芽蛋白質合成によるGFPの合成量をGFPの蛍光強度を指標に調べた。図7に示すとおり、L-メチオニンサルフォキシイミンの濃度が20mM以下の条件では、GFPの蛋白質合成量は減少しないことがわかった。
【0056】
次に、翻訳液及び透析外液中のアミノオキシ酢酸の濃度を1mM、及びL-メチオニンサルフォキシイミンの濃度を0.1mMとし、基質のアミノ酸に関して、グルタミン酸だけを15N標識し、残りの19種類を通常のアミノ酸にしたものを用いて、実施例と同じ方法で酵母ユビキチンを合成し、1H−15N HSQCの測定を行った。その結果、グルタミン酸からアスパラギン酸の代謝及びグルタミン酸からグルタミンへの代謝が両方とも抑制されていることが確認でき(図8)、グルタミン酸が選択的に15N標識されることがわかった。さらに、L-メチオニンサルフォキシイミンの濃度を、0.1μM、1μM、10μM、100μMの条件の元で、上記実験を行ったところ、10μMの濃度で2/3程度、100μM以上の濃度で完全に代謝が阻害されていることがわかった。
【0057】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系において、全てのアミノ酸が選択的に標識化された目的蛋白質を合成することができる。小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系は、合成された蛋白質を精製することなくNMR測定することができるため、本発明の方法により、NMR測定による蛋白質のより簡便な測定方法が提供される。
【0058】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】アラニンのみ15N標識した基質を用いて小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で合成した蛋白質のHSQCスペクトルを測定した結果を示す図である。
【図2】アスパラギン酸のみ15N標識した基質を用いて小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で合成した蛋白質のHSQCスペクトルを測定した結果を示す図である。
【図3】グルタミン酸のみ15N標識した基質を用いて小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で合成した蛋白質のHSQCスペクトルを測定した結果を示す図である。
【図4】小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系の蛋白質合成能に対するアミノオキシ酢酸の濃度の影響を示すグラフである。
【図5】アラニンまたはアスパラギン酸のみ15N標識した基質を用いて、1mMのアミノオキシ酢酸の存在下、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で合成した蛋白質のHSQCスペクトルを測定した結果を示す図である。
【図6】グルタミン酸のみ15N標識した基質を用いて、1mMのアミノオキシ酢酸の存在下、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で合成した蛋白質のHSQCスペクトルを測定した結果を示す図である。
【図7】小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系の蛋白質合成能に対するL−メチオニンサルフォキシアミンの濃度の影響を示すグラフである。
【図8】グルタミン酸のみ15N標識した基質を用いて、1mMのアミノオキシ酢酸および0.1mMのL−メチオニンサルフォキシアミンの存在下、小麦胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系で合成した蛋白質のHSQCスペクトルを測定した結果を示す図である。
Claims (9)
- 目的蛋白質を、コムギ胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系においてアラニンがアスパラギン酸およびグルタミン酸に代謝されるのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件下で、アラニンが安定同位体により標識された基質を用いて合成することを特徴とする目的蛋白質中のアラニン選択的標識方法。
- 目的蛋白質を、コムギ胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系においてアスパラギン酸がグルタミン酸に代謝されるのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件下で、アスパラギン酸が安定同位体により標識された基質を用いて合成することを特徴とする目的蛋白質のアスパラギン酸選択的標識方法。
- 目的蛋白質を、コムギ胚芽抽出液を含む無細胞タンパク質合成系においてグルタミン酸が、アスパラギン酸および/またはグルタミンに代謝されるのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件下で、グルタミン酸が安定同位体により標識された基質を用いて合成することを特徴とする目的蛋白質のグルタミン酸選択的標識方法。
- アラニンがアスパラギン酸および/またはグルタミン酸に変化するのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件が、トランスアミナーゼ阻害剤の蛋白質合成を阻害しない濃度範囲での存在であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- アスパラギン酸がグルタミン酸に変化するのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件が、トランスアミナーゼを阻害剤の蛋白質合成を阻害しない濃度範囲での存在であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
- グルタミン酸が、アスパラギン酸および/またはグルタミンに変化するのを阻害し、かつ蛋白質合成を阻害しない条件が、トランスアミナーゼ阻害剤およびグルタミン合成酵素阻害剤の蛋白質合成を阻害しない濃度範囲での存在であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
- トランスアミナーゼ阻害剤が、アミノオキシ酢酸で、蛋白質合成を阻害しない濃度範囲が0.01〜10mMである請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
- グルタミン合成酵素阻害剤が、L−メチオニンサルフォキシイミンで、蛋白質合成を阻害しない濃度範囲が、0.01〜20mMであることを特徴とする請求項3または6に記載の方法。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の方法で合成した標識化目的蛋白質をNMR測定することを特徴とするタンパク質のNMR解析方法。
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