JP2006206543A - 抗癌剤、癌細胞の増殖を抑制する方法 - Google Patents

抗癌剤、癌細胞の増殖を抑制する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】白血病など疾患の治療に有効な新たな抗癌剤を提供することが本発明の課題である。
【解決手段】本発明により、KAARK(Me)3SAPATGGで表わされるペプチドを含む抗癌剤、および該ペプチドにより癌細胞の増殖を抑制する方法が提供された。本発明で用いるペプチドは、Bmi-1の結合部位においてヒストンH3とBmi-1の相互作用を阻害することにより癌細胞の増殖を抑制するので、癌治療のための新たな手段を与えるものである。
【選択図】図2

Description

本発明は、KAARK(Me)3SAPATGGで表わされるペプチドを含むことを特徴とする抗癌剤、および当該ペプチドにより癌細胞の増殖を抑制する方法に関する。
Bmi-1はポリコーム(Polycomb)遺伝子群(PcG)のメンバーであって、複合体を形成することにより造血を制御する事が知られている。PcGは元々ショウジョウバエの遺伝子発現が抑制された状態を維持する遺伝子群として見つけられた。ショウジョウバエにおいてはPcGに属する14種類以上の遺伝子が知られているが、それらの大部分に哺乳動物の相同遺伝子が存在する事が知られ、機能も良く保存されている。これらの遺伝子産物としては、M33-ring1A/B-bmi1-rae28-Scmh1に代表されるPcG複合体1と、YY1-eed-Ezh2に代表されるPcG複合体2が知られている。
PcG複合体2がポリコーム応答配列(PRE)と呼ばれる特異的な塩基配列を介してDNAに結合し、複合体に脱アセチル化酵素(HDAC)を引き寄せ、ヒストンを脱アセチル化することによって遺伝子発現を抑制する。そしてPcG複合体2に含まれるEzh2のSETドメインがヒストンH3のテイル領域に存在する第27番目のリジン(H3K27)をメチル化することによって遺伝子発現を抑制すべき染色体ドメインに目印を付ける。
PcG複合体1の構成成分の一つであるM33は保存されたクロモドメインを介してPcG複合体2によってメチル化されたH3K27を認識する。PcG複合体1がSW1/SNFによるATP依存的な染色体再構成を競合的に抑制するという知見もあり、特定の染色体座位にPcG複合体1を引き寄せて染色体の再構成を抑制することにより、PcG複合体1は遺伝子発現の抑制状態を維持していると考えられている。
このようにPcGは、ヒストンの修飾によってもたらされる染色体シグナル(ヒストンコード)を介して細胞メモリー機構を構築していると考えられており、エピジェネティクスの重要な分子基盤の一つを構成している。また遺伝子欠損マウスを用いた解析から、哺乳動物においてもPcGが造血制御に重要な役割を果たしていることがわかり、造血をつかさどる新たな遺伝子群として注目されている。PcGは特に未分化造血細胞の増殖制御に関与し、PcG複合体2に属するeedは増殖を負に制御しており、一方、PcG複合体1に属するBmi-1およびrae28はこれを正に制御していることが知られている(瀧原義宏、第45回日本臨床血液学会 総会合同シンポジウム2, 臨床血液45:5 p365-371; 瀧原義宏、分子細胞治療、Vol.3 No.2, 2004, p104-105)。
かかるPcG複合体を介した未分化造血細胞の増殖制御に関する知見を利用して、白血病などの造血器腫瘍の治療薬を得る可能性が考えられるが、ヒトにおける制御機構に関する知見も不足しており、造血器腫瘍に有効な新たな抗癌剤を得るには至っていなかった。なお、現在白血病などの造血器腫瘍の治療に使用されている抗癌剤には、ビンクリスチンなどの植物アルカロイド、アドリアマイシンやダウノルビシンなどの抗腫瘍性抗生物質などがあるが、これらの既存の抗癌剤には副作用などの問題があり、造血系腫瘍に有効な新たな抗癌剤を開発する需要は未だに大きいのが現状である。
ところで上記において述べてきたPcG複合体による制御機構に関する知見はショウジョウバエにおけるものであるが、ヒトのPcG複合体が結合する標的遺伝子領域が最近になって同定された(A.Kirmizis et al., GENES & DEVELOPMENT (2004) 18:1592-1605)。その文献の中で、ポリコーム標的遺伝子の複合体が結合するヒストンの部位はヒストンH3の第27番目リジン残基であり、ヒストンH3の第27番目リジン残基のメチル化が、Bmi-1などのポリコーム標的遺伝子のサイレンシングと関連している旨の知見が示されている。
瀧原義宏、第45回日本臨床血液学会 総会合同シンポジウム2, 臨床血液45:5 p365-371 瀧原義宏、分子細胞治療、Vol.3 No.2, 2004, p104-105 A.Kirmizis et al., GENES & DEVELOPMENT (2004) 18:1592-1605
本発明者は上記の報告に注目し、Bmi-1結合部位であるヒストンH3の第27番目リジン残基の周辺の配列から構成されるペプチドを、新たに人為的に合成して得られたその合成ペプチドを用いることにより、ヒト白血病細胞などの増殖を防ぐことができるのではないかと考えた。そこで本発明の課題はこの知見を利用して、白血病など疾患の治療に有効な新たな抗癌剤を提供することである。
上記課題を解決することを目的として、本発明により、ヒストンH3のBmi-1蛋白結合部位においてヒストンH3とBmi−1の相互作用を阻害することにより抗腫瘍効果をもたらすであろう抗癌剤が提供された。更に本発明により、KAARK(Me)3SAPATGGで表されるペプチド、又は該ペプチドの数個以下のアミノ酸が欠失、置換又は付加した変異ペプチドを有効成分とする抗癌剤が提供された。更に本発明により、抗癌剤を製造するためのKAARK(Me)SAPATGGで表されるペプチド、又は該ペプチドの数個以下のアミノ酸が欠失、置換又は付加した変異ペプチドの使用が提供された。
本発明により、KAARK(Me)3SAPATGGで表わされるペプチドを含む抗癌剤、および該ペプチドにより癌細胞の増殖を抑制する方法が提供された。本発明において得られた知見は、癌治療のための新たな途を開くものである。
下記の実施例において示すように、KAARK(Me)3SAPATGGからなるペプチド(以下本発明で用いるペプチドと略する)を添加した培地中で白血病細胞KG1を培養したところ、本発明で用いるペプチドの濃度と培養時間に依存して、生存しているKG1細胞数の減少が認められた。この知見はBmi-1ペプチドが新規な抗癌剤となり得る可能性を示すものである。なおKG1細胞株は、白血病細胞由来であるが、白血病細胞にBmi-1を強く発現する細胞をもつ患者の予後は悪いという知見や、骨髄異形成症候群においてCD38陽性分画のうちBmi-1を発現する白血病細胞をもつ患者の予後が悪いという知見を得ている。それを考えると本発明で用いるペプチドは、これまでの治療においては予後が悪い患者においても効果を発揮する、優れた抗癌剤となる可能性がある。
また上記において述べたように本発明で用いるペプチドは、ヒストンH3においてBmi-1複合体が結合する部位から得られたペプチドである。それを考えると、本発明で用いるペプチドはヒストン中のBmi-1の結合部位で競合し、それによって生体内のBmi-1の作用を阻害して白血病細胞の増殖を抑制していると考えられる。
本発明で用いるペプチドは造血器腫瘍、固形癌、肉腫など種々の種類の癌に有効であると考えられ、適用対象となる癌の種類は特に限定されるものではない。なお、未分化造血細胞の増殖を制御しているBmi-1を介して癌細胞の増殖を抑制するという本発明で用いるペプチドの作用機構を考えると、白血病に代表される造血器腫瘍に使用することは、本発明において特に好適な態様である。
なお明細書において、Kはリジン、Aはアラニン、Rはアルギニン、Sはセリン、Pはプロリン、Tはトレオニン、Gはグリシン、Meはメチル基を意味するものである。なお本発明で用いるペプチドにおいて5番目のリジン残基はトリメチル化されており、(Me)3はそのリジン残基におけるトリメチル化を示すものである。
本発明の抗癌剤において抗癌剤の有効成分として用いるペプチドは、KAARK(Me)3SAPATGGからなるペプチドに限定されるものではない。本発明で用いるペプチドにおいて1個または数個以下のアミノ酸に変異が生じてもなお同様の生物学的活性を保持することができる。よって該ペプチドの数個以下のアミノ酸を欠失、置換または付加することにより得られた変異体ペプチドも、ヒストンH3のBmi-1の結合部位においてヒストンH3とBmi-1の相互作用を阻害するという活性を有する限り、本発明の範囲内である。なお本願明細書において「数個以下のアミノ酸」とは6個以下のアミノ酸、好ましくは4個以下のアミノ酸、より好ましくは2個以下のアミノ酸を意味するものである。但しこの様な変異体においても、トリメチル化されたリジン残基については、そのままそれらのペプチドに含まれる必要があると考えられる。
本発明で用いるペプチドはいくつかの製造業者から入手することができる。またそのような市販のペプチドを使用する他に、通常のペプチド合成法に従って本発明で用いるペプチドを取得することも可能である。かかるペプチド合成の技術については多くの文献において述べられおり、その教示に従って当業者は本発明で用いるペプチドを合成することができる。
本発明で使用するペプチドの投与経路は特に限定されるものではなく、経口投与、非経口投与のいずれでもよく、非経口投与では、静脈内注射、筋肉内注射、貼付剤、パップ剤による経皮投与、直腸内投与当が可能である。本ペプチドの投与量は、化合物の種類、投与方法、患者の症状、年齢等により異なるが、通常は、血中濃度が0.1μg/ ml〜10mg/mlが一定時間持続するように投与経路、投与量を工夫することにより行う。また、別の観点では、1日から数日の一定間隔で、1m2〜100m2になるように、好ましくは、10〜30m2になるように投与する。
本発明で用いるペプチドはそれ単独でも使用できるが、通常は製剤用担体と混合して調製した製剤の形で投与される。製剤用担体としては、製剤分野において常用され、かつ本発明で用いるペプチドと反応しない物質が用いられる。具体的には、その様な物質の例として乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、蔗糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
剤型としては、注射剤として投与することが最も好ましいが、それに限定されるものではなく、必要に応じて錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤等とすることもできる。これらの製剤は定法に従って調製される。尚、液体製剤にあっては、用時、水又は他の適当な溶媒に溶解または懸濁する形であってもよい。また錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明で用いるペプチドを水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水あるいはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
これらの製剤は、本発明で用いるペプチドを0.01%〜100重量%、好ましくは1〜90重量%の割合で含有することができる。これらの製剤はまた、治療上価値のある他の成分を含有していてもよい。
本発明で用いるペプチドを含む注射剤を製造するには、有効成分を必要に応じて塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのpH調整剤、塩化ナトリウム、ぶどう糖などの等張化剤と共に注射用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、更にマンニトール、デキストリン、シクロデキストリン、ゼラチンなどを加えて真空凍結乾燥し、用事溶解型の注射剤としてもよい。また、有効成分にレチシン、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを加えて水中で乳化せしめ注射剤用乳剤とすることもできる。
また消化管や肝臓における分解を回避するために、直腸の粘膜を介して投与する態様も本発明において採用することができる。直腸投与剤を製造するには、有効成分をカカオ脂、脂肪酸のトリ、ジ及びモノグリセリド、ポリエチレングリコールなどの座剤用基材と共に加湿して溶解し型に流し込んで冷却するか、有効成分をポリエチレングリコール、大豆油などに溶解した後、ゼラチン膜で被覆すればよい。
経口投与を行うための固形製剤を製造するには、有効成分と賦形剤成分例えば乳糖、澱粉、結晶セルロース、乳酸カルシウム、無水ケイ酸などと混合して散剤とするか、さらに必要に応じて白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて湿式又は乾式造粒して顆粒剤とする。錠剤を製造するには、これらの散剤及び顆粒剤をそのまま或いはステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの顆粒又は錠剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸−メタクリル酸メチルポリマーなどの腸溶剤基剤で被覆して腸溶剤製剤、あるいはエチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。また、カプセル剤を製造するには、散剤又は顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をそのまま或いはグリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油、オリーブ油などに溶解した後ゼラチン膜で被覆し軟カプセルとすることができる。
経口投与用の液状製剤を製造するには、有効成分と白糖、ソルビトール、グリセリンなどの甘味剤とを水に溶解して透明なシロップ剤、更に精油、エタノールなどを加えてエリキシル剤とするか、アラビアゴム、トラガント、ポリソルベート80、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどを加えて乳剤又は懸濁剤としてもよい。これらの液状製剤には所望により矯味剤、着色剤、保存剤などを加えてもよい。
下記の実施例において本発明を更に詳しく説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
本発明で用いるペプチドは、シグマアルドリッチジャパンから購入することにより得た。白血病細胞株であるKG1細胞を96穴プレートにウエルあたり5×104個の密度で播種し、同時に本発明で用いるペプチドの存在下と非存在下で、RPMI1640培地(Gibco: 11875-093)に10%仔牛血清を加えた培養液で、5%炭酸ガスの雰囲気下37℃のインキュベーターで培養した。本発明で用いるペプチドは最終濃度10μg/mlおよび100μg/mlとした。培養開始後2日目と3日目に、トリパンブルー(シグマ)染色法で細胞の生死を顕微鏡にて評価した。
細胞の生存率を図1に、生存細胞数を図2に示す。図1と図2において、丸印のプロットは本発明で用いるペプチド非存在下の成績を、三角プロットは本発明で用いるペプチド10μg/mlにおける成績を、四角プロットは本発明で用いるペプチド100μg/mlにおける成績をそれぞれ示す。また図1の生存率を表1に、図2の生存細胞数(個)を表2にも示す。
Figure 2006206543
Figure 2006206543
図1から判るように、本発明で用いるペプチドの非存在下では、2日目においても3日目においても細胞の生存率は殆ど変化しなかった。一方、本発明で用いるペプチドの存在下では細胞の生存率の低下が認められた。図2においても、本発明で用いるペプチドの非存在下では生存細胞数は培養日数と共に増加したが、本発明で用いるペプチドの存在下では生存細胞数の低下が認められた。この結果より、本発明で用いるペプチドは濃度依存的・時間依存的にKG1細胞株の増殖を抑制することが示された。
白血病細胞株KG1を本発明で用いるペプチドの存在下で培養したところ、本発明で用いるペプチドで用いる濃度と培養時間に依存して、生存しているKG1細胞株が減少する現象が認められた。よって本発明で用いるペプチドにより、新たな抗癌剤を開発できると考えられる。
図1は、本発明で用いるペプチドの存在下と非存在下における細胞の生存率を示す成績である。 図2は、本発明で用いるペプチドの存在下と非存在下における生存細胞数を示す成績である。

Claims (4)

  1. ヒストンH3のBmi-1蛋白結合部位においてヒストンH3とBmi−1の相互作用を阻害することにより抗腫瘍効果をもたらす抗癌剤。
  2. KAARK(Me)3SAPATGGで表されるペプチド、又は該ペプチドの数個以下のアミノ酸が欠失、置換又は付加した変異ペプチドを有効成分とする抗癌剤。
  3. 造血系腫瘍の治療に用いるための、請求項1又は2記載の抗癌剤。
  4. 抗癌剤の製造をするためのKAARK(Me)SAPATGGで表されるペプチド、又は該ペプチドの数個以下のアミノ酸が欠失、置換又は付加した変異ペプチドの使用。
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