JP2006204998A - 試料前処理方法及び試料前処理装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 湖沼・河川等の水に含まれる農薬、環境ホルモンなどを定量分析する際の分析感度や精度を向上させる。
【解決手段】低分子化合物である目的成分を濃縮するとともに主要な妨害成分であるフミン類を除去するための前処理カラム32は、疎水性を有する架橋ポリマーを基材とし、それに目的成分の疑似鋳型を用いてインプリント処理を施した粒子の表面を疎水性の小さな陰イオン交換基で修飾することで形成した充填材を充填する。液体試料が前処理カラム32を通過する際に、妨害成分のフミン類はサイズ排除と陰イオン交換基による静電的反発力とによって捕捉されずに迅速に通過し、目的成分は選択的に充填材の細孔に効率良く捕捉される。こうして妨害成分が除去されるとともに十分に濃縮された目的成分を移動相により前処理カラム32から溶出させて分析カラム4に導入し、夾雑物と分離した後に質量分析計5で検出する。
【選択図】 図1
【解決手段】低分子化合物である目的成分を濃縮するとともに主要な妨害成分であるフミン類を除去するための前処理カラム32は、疎水性を有する架橋ポリマーを基材とし、それに目的成分の疑似鋳型を用いてインプリント処理を施した粒子の表面を疎水性の小さな陰イオン交換基で修飾することで形成した充填材を充填する。液体試料が前処理カラム32を通過する際に、妨害成分のフミン類はサイズ排除と陰イオン交換基による静電的反発力とによって捕捉されずに迅速に通過し、目的成分は選択的に充填材の細孔に効率良く捕捉される。こうして妨害成分が除去されるとともに十分に濃縮された目的成分を移動相により前処理カラム32から溶出させて分析カラム4に導入し、夾雑物と分離した後に質量分析計5で検出する。
【選択図】 図1
Description
本発明は、液体クロマトグラフ装置や液体クロマトグラフ質量分析装置などの分析装置を用いて分析を行う際に、分析対象である液体試料に含まれる目的成分を濃縮するとともに不要成分や妨害成分を除去するための試料前処理方法及び前処理装置に関し、特に、水や土壌などの周囲環境中の残留農薬や添加物、環境ホルモン(外因性内分泌撹乱物質)などを定性分析、定量分析する際に好適な試料前処理方法及び前処理装置に関する。
分析対象である目的成分以外に様々な不要成分を含む液体試料について、そうした各種成分を分離して所望の目的成分の定性分析、定量分析を行うために、高速液体クロマトグラフ(HPLC)やHPLCの検出器として質量分析計を用いた液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)が広く使用されている。こうした分析装置で目的成分の分析精度や感度を高めるために分析カラムでの分離条件を適切に設定することが重要なのはもちろんであるが、試料を分析カラムに導入する前の段階で、分析の妨害となる成分や分析に不要な成分を除去したり、除去しないまでもこうした妨害成分や不要成分と目的成分とが分析カラム内で分離し易いように処理したり、或いは、目的成分を濃縮したりするといったことが益々重要になってきている。こうした目的のために、従来より、自動前処理装置が使用されている。
液体クロマトグラフ用の自動前処理装置では、高圧流路切換えバルブや試料中の目的成分を捕捉して濃縮するための前処理カラムを用いたカラムスイッチングによるものが一般的である。例えば特許文献1に記載のように、まず高圧流路切換えバルブにより分析対象である液体試料を所定量だけ前処理カラムに流し、該試料中の目的成分を前処理カラム内の充填材に捕捉させる。そしてその後にバルブにより流路を切り換え、前処理カラムと分析カラムとを接続して移動相を流すことにより前処理カラムから溶出させた目的成分を移動相に乗せて分析カラムに導入し、分析カラム内で成分分離させて検出器で検出する。
近年、湖沼・河川・海などの水の中や土壌中などに残留する農薬類、食品添加物、或いは環境ホルモンと総称される様々な化学物質を高い精度で分析することが要求されている。こうした物質は非常に微量であることが多いため、分析に際して上述したような妨害成分の除去や目的成分の濃縮といった前処理が非常に重要である。こうした試料をLC/MSなどを用いて分析する際に特に妨害となるのが、主として植物由来の腐食物(例えば腐葉土等)に含まれるフミン類である。目的成分は低分子化合物であるのに対しフミン類は分子量が非常に大きな化合物であるため、従来、疎水相互作用を利用した充填材を充填した前処理カラムを用いて目的成分を捕捉する一方、サイズ排除によりフミン類を除去するのが一般的であった。
しかしながら、そうした従来の方法による妨害成分の除去効率はあまり高いとは言えず、こうした妨害成分が多く残留した状態で試料をLC/MSに導入することで、目的成分を高い感度で検出することが難しかった。また、妨害除去の効果を高めるためには、1回の処理だけでなく多数回の繰り返し操作が必要となり、操作が煩雑で時間も掛かるという問題があった。
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであって、その目的とするところは、特に環境中の水や土壌などに含まれる農薬や環境ホルモンなどの比較的低分子量の化合物を分析する際に高い分析精度と感度とを達成することができる試料前処理方法及び装置を提供することにある。
上記課題を解決するために成された第1発明は、分析対象の液体試料に含まれる目的成分を濃縮するとともに不要成分を除去するための試料前処理方法であって、
疎水性を有するポリマーから成る基材の表面を該ポリマーよりも疎水性の小さな陰イオン交換基で修飾して形成された充填材が充填されて成る捕捉部を用い、
該捕捉部に分析対象の液体試料を通して該試料に含まれる目的成分を前記充填材に捕捉させるとともに該試料に含まれる不要成分を捕捉せずに排出させる目的成分捕捉ステップと、
該捕捉部に所定の溶出用溶媒を通して前記充填材に捕捉されている目的成分を該溶媒中に溶出させて分析装置に導入する目的成分導入ステップと、
を順次実行することを特徴としている。
疎水性を有するポリマーから成る基材の表面を該ポリマーよりも疎水性の小さな陰イオン交換基で修飾して形成された充填材が充填されて成る捕捉部を用い、
該捕捉部に分析対象の液体試料を通して該試料に含まれる目的成分を前記充填材に捕捉させるとともに該試料に含まれる不要成分を捕捉せずに排出させる目的成分捕捉ステップと、
該捕捉部に所定の溶出用溶媒を通して前記充填材に捕捉されている目的成分を該溶媒中に溶出させて分析装置に導入する目的成分導入ステップと、
を順次実行することを特徴としている。
また上記課題を解決するために成された第2発明は、分析対象の液体試料に含まれる目的成分を濃縮するとともに不要成分を除去するための試料前処理装置であって、
疎水性を有するポリマーから成る基材の表面を該ポリマーよりも疎水性の小さな陰イオン交換基で修飾して形成された充填材が充填されて成る前処理カラムと、
所定量の液体試料を前処理用移動相により前記前処理カラムに通し、該前処理カラムを通過した液体試料を排出するように流路を形成する第1流路形成手段と、
分析用移動相を前記前処理カラムに通し、該前処理カラム内の充填材から溶出させた目的成分を分析用移動相に乗せて分析装置に導入するように流路を形成する第2流路形成手段と、
前記液体試料に含まれる目的成分を前記充填材に捕捉させるとともに該試料に含まれる不要成分を排出させるべく前記第1流路形成手段により流路を形成した後に、前記充填材に捕捉されている目的成分を分析用移動相中に溶出させて分析装置に導入するべく前記第2流路形成手段により流路を形成させる制御手段と、
を備えることを特徴としている。
疎水性を有するポリマーから成る基材の表面を該ポリマーよりも疎水性の小さな陰イオン交換基で修飾して形成された充填材が充填されて成る前処理カラムと、
所定量の液体試料を前処理用移動相により前記前処理カラムに通し、該前処理カラムを通過した液体試料を排出するように流路を形成する第1流路形成手段と、
分析用移動相を前記前処理カラムに通し、該前処理カラム内の充填材から溶出させた目的成分を分析用移動相に乗せて分析装置に導入するように流路を形成する第2流路形成手段と、
前記液体試料に含まれる目的成分を前記充填材に捕捉させるとともに該試料に含まれる不要成分を排出させるべく前記第1流路形成手段により流路を形成した後に、前記充填材に捕捉されている目的成分を分析用移動相中に溶出させて分析装置に導入するべく前記第2流路形成手段により流路を形成させる制御手段と、
を備えることを特徴としている。
第1発明に係る試料前処理方法で用いる捕捉部、及び第2発明に係る試料前処理装置で用いる前処理カラムに充填されている充填材は、疎水性を有するポリマーから成る基材の外表面が、そのポリマーよりも疎水性の小さな陰イオン交換基で修飾されている。疎水性を有する基材自体は疎水相互作用により低分子化合物を保持する作用を有するが、疎水性の小さな陰イオン交換基がポリマー鎖として基材に導入されるため、目的成分の保持という点では不利である。しかしながら、陰イオン交換基が導入されることにより、分子量の大きな妨害成分・不要成分に対しては低分子化合物よりも相対的に高いサイズ排除効果が期待できる。これに加え、フミン類等の親水性妨害成分は水中では陰イオンとなって負に帯電しているため、基材に導入された陰イオン交換基と同極性の電荷によって静電的反発力を生じ、一層、充填材には捕捉されにくくなる。
したがって、上記充填材が充填された捕捉部又は前処理カラムに液体試料が導入されると、試料に含まれる低分子化合物である目的成分は充填材に保持され、一方、試料に含まれるフミン類などの親水性の高分子化合物は、サイズ排除と静電的反発力との両方の作用により捕捉されずにそのまま排出される。このような成分除去効果は従来のものよりも高いので、分析装置に導入される試料溶液中に残存する妨害成分や不要成分を減少させて、目的成分の検出感度を高めることができる。また、目的成分の濃縮、妨害成分の除去を行うために多数回の操作を行う必要がなくなるので、前処理の操作が簡略化でき、分析所要時間の短縮化を図ることもできる。
また、好ましくは、第1及び第2発明に係る試料前処理方法及び装置において、前記充填材の基材であるポリマーは目的成分に応じてインプリント処理され、そのインプリント粒子の表面が前記陰イオン交換基で修飾されるものとするとよい。
インプリントとは、目的成分に応じた鋳型(テンプレート分子)を用いて基材の表面に、その目的成分を捕捉し得るような所定のサイズ及び形状の細孔を形成する処理である。上述したように、基材の表面を陰イオン交換基で修飾することで全般的な保持性能は落ちるものの、インプリントによって目的成分に対する選択的保持性を向上させることで、各種の低分子化合物の中でも目的成分を特に効率良く捕捉することができる。それによって、目的成分の濃縮効率が高まるとともに、目的成分以外の妨害成分や不要成分の除去効果が一層高まる。
第1及び第2発明に係る試料前処理方法及び装置は、目的成分が低分子化合物であって、除去対象の妨害成分・不要成分が高分子化合物で且つ水中で陰イオンとなる化合物であるような試料に対して有用である。具体的には、液体試料に含まれる農薬、各種添加物、環境ホルモン等の低分子化合物を前記目的成分とし、該液体試料に含まれるフミン類を主たる不要成分として除去するものに特に好適である。
上記目的においては、例えば前記充填材の陰イオン交換基をスルホ基とするとよい。スルホ基は強酸由来であるため、弱酸由来のカルボキシル基などに比べてより広いpH範囲で陰イオンとして存在し得る。そのため、静電的反発力による妨害除去効果が広いpH範囲の液体試料において発揮できる。
また、前記充填材の基材は例えばエチレングリコールメタクリレートを架橋剤として重合したポリマーとするとよい。基材の疎水性が大き過ぎると疎水相互作用による非選択的な保持が強過ぎて、上記のようなインプリントによる特定成分に対する選択性の効果が相対的に下がるが、こうした点においてエチレングリコールメタクリレートを架橋剤としたポリマーであれば適度な疎水性を有しているため、インプリントの効果も発揮し易い。
なお、第1及び第2発明に係る試料前処理方法及び装置は、目的成分以外の不要成分を完全に除去するものではないから、液体クロマトグラフ又は液体クロマトグラフ質量分析装置のように、検出器の前段に成分分離の機能を有する分析装置に試料を導入するための前処理に使用するとよい。
以下、本発明の一実施例による試料前処理装置を具備するLC/MSについて、図面を参照して説明する。図1はこのLC/MSの要部の構成図である。
このLC/MSは、分析用移動相が貯留される分析用移動相容器1と、分析用移動相を吸引して略一定流量で送給する分析用送液ポンプ2と、分析対象である液体試料中の妨害成分や不要成分を除去するとともに目的成分を濃縮する前処理部3と、導入される試料中の各成分を時間的に分離して溶出させる分析カラム4と、分析カラム4で分離された試料中の各成分を検出する検出器としての質量分析計(MS)5と、分析用送液ポンプ2、前処理部3、質量分析計5などの各部の動作を統括的に制御する制御部6と、本装置に対する動作指示を行うための操作部7と、を備える。
前処理部3は、高圧流路切換えバルブである2ポジション6ポートパルブ31(以下、6ポートパルブという)と、後述するように目的成分を選択的に保持可能な充填材がステンレススチールカラム内に充填された前処理カラム32と、前処理の終了した不要な液体試料等を排出する排出ポート33と、前処理用の移動相が貯留された前処理用移動相容器34と、前処理移動相を吸引して送給する前処理用送液ポンプ35と、液体試料を導入するためのオートサンプラ36と、を含む。
本実施例に係るLC/MSにおいて、前処理カラム32の充填材は次のような構造である。即ち、充填材の基材としてはエチレングリコールジメタクリレート(以下EDMAと略す)を架橋剤として重合した疎水性の架橋ポリマーを用いる。このポリマー粒子それ自体は疎水相互作用により農薬、環境ホルモン、各種添加物などの低分子化合物を保持する性質を有する。この基材に目的成分、ここでは内分泌撹乱物質の1つであるビスフェノールA(以下BPAと略す)の疑似鋳型を用いてインプリント粒子を作製する。このインプリント処理により、ポリマー粒子の表面に目的成分であるBPAを捕捉するのに適当な細孔が多数形成され、その他の成分に比べて目的成分に対する保持性が向上する。さらに、上記インプリント粒子の表面に、基材であるポリマーよりも疎水性の小さな(親水性の大きな)陰イオン交換基としてスルホ基を持つメタクリル酸スルホプロピルカリウム(以下MASKと略す)を修飾する。修飾されたMASK同士は重合して長鎖状態となりインプリント粒子の細孔内に導入されるため、細孔密度は低下する。それによって、この表面修飾されたインプリント粒子は、サイズ排除の効果を増大させるともにスルホ基の陰電荷による負の帯電によって、主要な妨害成分であるフミン類が捕捉されることを阻止する。
上述したように基材であるポリマー粒子は疎水相互作用による保持作用を有するが、疎水性の小さな陰イオン交換基を表面に導入することで、多くの成分に対する保持作用は全般的に弱まる。そのため、妨害成分と目的成分とを分離するという点では不利になる。しかしながら、インプリントによって目的成分に対する選択的な保持性を向上させているため、低分子化合物であっても目的成分であるBPA以外の保持性は下がり、BPAの保持性は相対的に上がる。したがって、上記のような構造の充填材を充填した前処理カラム32を用いることで、目的成分であるBPAを効率良く捕捉する一方、BPA以外の多くの成分の捕捉を抑制することができる。また、親水性であって高分子化合物であるフミン類については、上述したようにサイズ排除と静電的反発力によって充填材に保持せずに迅速に通過させることで、効率良く排除することができる。
次に、図1の構成のLC/MSにおける分析動作を前処理動作を中心にして、図2により説明する。
制御部6はまず6ポートバルブ31を図2(a)に示す流路に設定し、前処理用送液ポンプ35により前処理移動相をオートサンプラ36を介して、6ポートバルブ31のdポート、cポート、前処理カラム32、6ポートバルブ31のfポート、eポートの順に流し、排出ポート33から排出させる。そして、所定のタイミングで以てオートサンプラ36から所定量の液体試料(例えば分析地点の川から採取した水等)を注入して前処理移動相に乗せて前処理カラム32に導入する。上述したように前処理カラム32内の充填材には液体試料中のBPAが捕捉され、主要な妨害成分であるフミン類は通り抜けて排出ポート33から排出される。なお、上記の目的成分の濃縮期間中には、分析用送液ポンプ2は分析移動相を吸引して略一定流量で以て分析カラム4に流している。
制御部6はまず6ポートバルブ31を図2(a)に示す流路に設定し、前処理用送液ポンプ35により前処理移動相をオートサンプラ36を介して、6ポートバルブ31のdポート、cポート、前処理カラム32、6ポートバルブ31のfポート、eポートの順に流し、排出ポート33から排出させる。そして、所定のタイミングで以てオートサンプラ36から所定量の液体試料(例えば分析地点の川から採取した水等)を注入して前処理移動相に乗せて前処理カラム32に導入する。上述したように前処理カラム32内の充填材には液体試料中のBPAが捕捉され、主要な妨害成分であるフミン類は通り抜けて排出ポート33から排出される。なお、上記の目的成分の濃縮期間中には、分析用送液ポンプ2は分析移動相を吸引して略一定流量で以て分析カラム4に流している。
その後に、制御部6は6ポートバルブ31を図2(b)に示す流路に切り換える。これにより、分析用送液ポンプ2により送給された分析用移動相が6ポートバルブ31のaポート、fポートを通り、前処理カラム32を上記濃縮時とは逆に右方に流れる。その際に、前処理カラム32内の充填材に捕捉されている目的成分であるBPAは分析用移動相中に溶出する。この溶出速度は速く、充填材に捕捉されているBPAは短時間の間に殆ど溶出するから、元の液体試料中の成分濃度に比べて格段に高い濃度でBPAを含む分析用移動相が分析カラム4に導入される。そして、分析カラム4を通過する間に目的成分のBPAと先の前処理では除去できなかった夾雑物とが分離され、時間的にずれて分析カラム4から溶出し質量分析計5に導入される。質量分析計5では時間経過に伴って順次導入される各成分を検出し、トータルイオンクロマトグラムや目的成分の質量数に着目したマスクロマトグラム、さらにはクロマトグラム上で目的成分のピークが現れる時間におけるマススペクトルを作成して出力する。さらに、その測定結果をデータ処理することにより、目的成分の定量分析などを実行する。
上述したような前処理によって質量分析の主要な妨害成分であるフミン類を除去しているので、BPAの含有量を高い精度で算出することができる。また、前処理によってBPAを十分に濃縮しているので、BPAを高い感度で検出することができる。
なお、ここでは検出器として質量分析計を用いているが、例えばUV検出器等の他の検出器を用いたり複数の検出器を併用してもよい。
次に、本実施例の試料前処理装置で使用される前処理カラム32の妨害成分除去効果の検証結果について説明する。図3はMASKによる表面修飾の有無が妨害成分の除去に与える影響を示す実験結果であり、質量分析計ではなく併設したUV検出器でクロマトグラムを測定したものである。また、図4はMASKによる表面修飾の有無が目的成分であるBPAの検出感度に与える影響を示す実験結果であり、質量分析計でその質量数をBPAに設定したSIM(Selected Ion Monitering:選択イオンモニタリング)測定を行ったマスクロマトグラムである。
図3に示すように、MASKでインプリント粒子を表面修飾した場合には表面修飾が無い場合に比べて顕著に妨害成分が除去されていることが分かる。こうした妨害成分の除去の効果として、図4に示すように目的成分であるBPAの検出感度は30〜40%程度向上している。これにより、上述したような構造の充填材を充填した前処理カラムを使用することにより、低分子化合物である目的成分の検出感度が改善されていることが確認できた。その結果として、例えば、採取した液体試料に含まれる目的成分が微量であって従来は高い精度での定量が難しかったような場合でも、本実施例の前処理装置を備えるLC/MSを用いれば高い精度で定量を行うことが可能となる。
上記実施例は単に本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正及び追加を行うことができる。
具体的には、前処理カラム32の充填材の基材としては疎水性を有する各種のポリマーを利用することができ、ポリマーの材料としてのモノマー、架橋剤も各種のものが利用できる。例えば、上記のEDMAを架橋剤としたポリマー以外に、例えばジ、トリ、テトラ(メタ)アクリレート系モノマー、スチレン系モノマー、ビニルエーテルなどが考えられる。上記実施例において基材としてEDMAベースのポリマーを用いたのは、適度な疎水性を持ち、取り扱いも容易であるからである。より疎水性の大きな例えばスチレンジビニルベンゼン系のものも利用することができるが、こうした基材では疎水相互作用による非選択的な保持が強過ぎて、インプリントによる目的成分に対する選択性の効果が相対的に下がる可能性がある。一方、より疎水性の小さな例えばGDMA(グリセリンジメタクリレート)系のものも利用することができるが、全般的に疎水相互作用が弱いため妨害成分除去効果は下がる可能性がある。もちろん、こうした効果は除去したい成分の種類等にも依存するから、特定の分野の分析においてはGDMA系がむしろより有用となり得る。
一方、表面修飾のための陰イオン交換基としては、上記のスルホ基のほか、カルボキシル基などが特に有用である。但し、スルホ基は強酸由来であって広いpH範囲で陰イオンとして存在し得るのに対し、カルボキシル基は弱酸由来であるため、陰イオンとしての静電反発による妨害成分除去効果を期待するためにはpHが4以上であることが望ましい。通常の分析対象である環境水試料であれば、殆どの場合、こうした条件に適合する。また、インプリント処理は、捕捉したい目的成分に応じて適宜の鋳型となる物質を選択すればよい。
さらにまた、上記実施例における表面修飾による電荷の導入手法は、分子陰イオンモノマー自体が重合して一定の大きさになるというものであるが、それ以外に、基材粒子にアルキル(メタ)アクリレートを用い、粒子調製後に開裂を生じさせて表面をカルボキシル基にすることで表面修飾する方法や、スチレン系の基材モノマー(クロロメチルスチレンなど)で作製した粒子にスルホ基を導入することで表面修飾する方法なども考えられる。
また上記説明のLC/MSは、前処理を含む一連の分析動作が自動的に実行されるものであったが、流路の切り替え等の操作を分析者が手動で行うようなものであっても本発明に係る試料前処理方法を適用することができる。
また、上記のような前処理によって濃縮された目的成分を移動相に乗せてそのまま液体クロマトグラフの分析カラムに導入するのではなく、ヘッドスペースサンプラ等で揮発させてガスクロマトグラフで分析するようなシステムにも適用することができる。また、クロマトグラフ分析以外の他の分析装置に導入するための試料前処理にも利用することができる。
1…分析用移動相容器
2…分析用送液ポンプ
3…前処理部
31…2ポジション6ポートパルブ
32…前処理カラム
33…排出ポート
34…前処理用移動相容器
35…前処理用送液ポンプ
36…オートサンプラ
4…分析カラム
5…質量分析計
6…制御部
7…操作部
2…分析用送液ポンプ
3…前処理部
31…2ポジション6ポートパルブ
32…前処理カラム
33…排出ポート
34…前処理用移動相容器
35…前処理用送液ポンプ
36…オートサンプラ
4…分析カラム
5…質量分析計
6…制御部
7…操作部
Claims (7)
- 分析対象の液体試料に含まれる目的成分を濃縮するとともに不要成分を除去するための試料前処理方法であって、
疎水性を有するポリマーから成る基材の表面を該ポリマーよりも疎水性の小さな陰イオン交換基で修飾して形成された充填材が充填されて成る捕捉部を用い、
該捕捉部に分析対象の液体試料を通して該試料に含まれる目的成分を前記充填材に捕捉させるとともに該試料に含まれる不要成分を捕捉せずに排出させる目的成分捕捉ステップと、
該捕捉部に所定の溶出用溶媒を通して前記充填材に捕捉されている目的成分を該溶媒中に溶出させて分析装置に導入する目的成分導入ステップと、
を順次実行することを特徴とする試料前処理方法。 - 分析対象の液体試料に含まれる目的成分を濃縮するとともに不要成分を除去するための試料前処理装置であって、
疎水性を有するポリマーから成る基材の表面を該ポリマーよりも疎水性の小さな陰イオン交換基で修飾して形成された充填材が充填されて成る前処理カラムと、
所定量の液体試料を前処理用移動相により前記前処理カラムに通し、該前処理カラムを通過した液体試料を排出するように流路を形成する第1流路形成手段と、
分析用移動相を前記前処理カラムに通し、該前処理カラム内の充填材から溶出させた目的成分を分析用移動相に乗せて分析装置に導入するように流路を形成する第2流路形成手段と、
前記液体試料に含まれる目的成分を前記充填材に捕捉させるとともに該試料に含まれる不要成分を排出させるべく前記第1流路形成手段により流路を形成した後に、前記充填材に捕捉されている目的成分を分析用移動相中に溶出させて分析装置に導入するべく前記第2流路形成手段により流路を形成させる制御手段と、
を備えることを特徴とする試料前処理装置。 - 前記充填材の基材であるポリマーは目的成分に応じてインプリント処理され、そのインプリント粒子の表面が前記陰イオン交換基で修飾されることを特徴とする請求項1に記載の試料前処理方法及び請求項2に記載の試料前処理装置。
- 液体試料に含まれる農薬、各種添加物、環境ホルモン等の低分子化合物を前記目的成分とし、該液体試料に含まれるフミン類を主たる不要成分として除去するものであることを特徴とする請求項3に記載の試料前処理方法及び装置。
- 前記充填材の陰イオン交換基はスルホ基であることを特徴とする請求項4に記載の試料前処理方法及び装置。
- 前記充填材の基材はエチレングリコールメタクリレートを架橋剤として重合したポリマーであることを特徴とする請求項4又は5に記載の試料前処理方法及び装置。
- 前記分析装置は液体クロマトグラフ又は液体クロマトグラフ質量分析装置であることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の試料前処理方法及び装置。
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