JP2006201042A - 質量分析用イオン化基板及び質量分析装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 レーザー脱離イオン化質量分析に用いるレーザー光を吸収するイオン化媒体として、焦電性素子、又は前記焦電性素子が強誘電体素子、又は前記焦電性素子が結晶性の素子、又は前記強誘電体素子が結晶性の素子、又は前記結晶性素子の表面が平滑な特定の単結晶を用いる。
【選択図】 図1
Description
Laser Desorption Ionization-Mass Spectrometry)が採用される。試料は、マトリックス剤と呼ばれるレーザー光を吸収する低分子有機化合物と試料溶液からなる混合溶液を質量分析用試料基板上に塗布し、乾燥結晶化させることにより、基板上に形成される。
質量分析装置による測定にあたってはイオン源内に前記基板上に形成された試料を設置し、試料表面にレーザー光を照射する。レーザー光を効率よく吸収したマトリックス剤は瞬間的に気化・イオン化する。その際、混合結晶として取り込まれていた試料分子もほぼ同時に気化され、イオン化したマトリックス剤との電荷の授受によって、試料分子はほとんど分解せずにイオン化される。生じたイオンは質量電荷比の違いに基づいて、飛行時間型、四重極型、イオントラップ型、セクター型、フーリエ変換型、若しくはこれらの複合型のいずれかからなる質量分離部の作用により、質量分離された後に、検出器で該イオンが検出され、質量数が解析される。
これらのうち、飛行時間型の質量分離部を用いる方法は、原理上測定の質量範囲に制限がないため、これらを組み合わせたマトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間質量分析法(MALDI-TOFMS)が高質量の質量分析に汎用される。
レーザー脱離イオン化を飛行時間型質量分析装置と組み合わせれば分子量では免疫グロブリンM(平均分子量900kDa)まで検出でき、検出限界もamolレベルに達していると言われている。また、イオン化が可能な化合物はペプチド、タンパク質、多糖類、複合脂質、核酸関連物質等の生体関連物質一般、合成ポリマー、オリゴマー、金属配位化合物や無機化合物まで広範囲に及んでいる。マトリックスを用いる場合、そのマトリックスとしては種々のものが使用されている(非特許文献5)。
高分解能を与えるために、サンプルを分析するためのサンプル供給装置において、前記装置に導電性が付与される平坦な表面を有する基板を備え、前記平坦な表面上の抵抗が1平方インチ当たり約1500オームよりも小さい導電性であり、前記平坦な表面をグラファイト塗料でコーティングされており、前記基板は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネートなどから選択されるサンプル供給装置が提案されている(特許文献6)。
サンプル載置表面を、エネルギー吸収性の分子を用いて修飾して、先行技術において行われる外来性の基質分子の添加なしに、分析対象物分子の好結果をもたらす脱着を可能にするための手段として、前記表面が合成ポリマー、ガラスまたはセラミックを含むプローブも知られている(特許文献7)。
この微粉末を用いる方法では、溶液状の試料と微粉末からなるけん濁溶液を質量分析用試料基板表面に塗布するため、均一に試料を塗布することが難しく、高感度な質量分析を行なう場合にはしばしば困難となる。さらに、レーザー光の照射によりイオン化媒体がイオン源内で飛散することがあり、それによる汚染などが問題となる。
従来、イオン化剤を用いない高分子化合物のソフトLDI-MSのイオン化媒体には、レーザー光の波長と同等以下の微細な表面構造が必要であると考えられていたが、本発明では、表面が平滑な焦電体の単結晶体や強誘電体薄膜をイオン化素子に用いて高分子化合物のソフトLDI-MS測定を行なうものであり、他に類を見ない。すなわち本発明では多孔質シリコンのような微細な表面構造により被測定試料の脱離イオン化を行うのではなく、自発分極を有する結晶性材料を脱離イオン化媒体とすることを特徴としており、レーザー光等によるイオン化媒体へのエネルギー入射による急激な分極およびそれに伴い発生する局所的な表面電荷や電場を利用して脱離イオン化を達成し、目的のMS測定を行うものであり、原理からして全く新しい発想である。
該イオン化素子は無機化合物の結晶であるため、ソフトLDI-MS測定において、イオン化媒体由来の妨害ピークの発生を回避することができるものである。
(1)レーザー光を吸収する結晶性素子から構成されるイオン化媒体であることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
(2)前記結晶性素子が焦電性素子であることを特徴とする(1)記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
(3)前記結晶性素子が強誘電体素子であることを特徴とする(1)又は(2)記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
(4)前記焦電性素子が、チタン酸鉛系、チタン酸ランタン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系、チタン酸ランタン酸ジルコン酸鉛系、ニオブ酸リチウム系、タンタル酸リチウム系、ゲルマン酸鉛系から選ばれることを特徴とする(2)記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
(5)前記強誘電体素子が、チタン酸鉛系、チタン酸ランタン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系、チタン酸ランタン酸ジルコン酸鉛系、チタン酸バリウム系、ジルコン酸鉛系、ニオブ酸リチウム系、タンタル酸リチウム系、バリウム酸ニオブ酸ストロンチウム系、ゲルマン酸鉛系から選ばれることを特徴とする(3)記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
(6)前記結晶性素子が、表面が平滑な特定の単結晶のイオン化媒体を用いることを特徴とする(2)乃至(5)いずれか記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
(7)前記焦電性素子、又は強誘電体素子が基板上に薄膜状に製膜されている試料塗布部を有することを特徴とする(2)乃至(6)いずれか記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
(8)前記レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の試料塗布部が化学的に修飾されていることを特徴とする(1)乃至(7)いずれか記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
(9)前記レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の試料塗布部を除く一部が導電性物質により形成されていることを特徴とする(1)乃至(8)いずれか記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
(10)(1)乃至(9)いずれか記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面に、溶液化された試料を塗布、乾燥させて得られることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料。
(11)(10)記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料を備えることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析装置。
また、本発明の脱離イオン化基板は結晶性の無機材料であり、被測定試料を塗布する基板表面は化学的に安定であるため、微細な多孔質イオン化基板のような表面不安定性がなく、いつでも測定データを再現する事ができる。
また、本発明の基板はスパッタリング法などの汎用ドライプロセスを用いて製造する事も可能であるため、従来技術である微細な多孔質イオン化基板の製造で必要とされるフッ酸によるエッチング等のウエットプロセスに比べ量産化が容易であると考えられる。
図2は、素子表面に導電性層を付与した場合の質量分析用試料基板(110)の構成を示す図である。
結晶性のイオン化素子には、焦電体および強誘電体を用いることができる。
焦電素子としては、例えば、チタン酸鉛系(PbTiO3)、チタン酸ランタン酸鉛系(Pb1-xLaxTi1-x/4O3)(PLT)、チタン酸ジルコン酸鉛系(PbZrxTi1-xO3)(PZT)、チタン酸ランタン酸ジルコン酸鉛系(Pb1-xLax(TiyZrz)1-x/4O3)(PLZT)、ニオブ酸リチウム系(LiNbO3)、タンタル酸リチウム系(LiTaO3)、ゲルマン酸鉛系(Pb5Ge3O11)等が挙げられるが、焦電効果を発現する素子であれば本発明は上記に限定されない。
強誘電体素子としては、例えば、チタン酸鉛系(PbTiO3)、チタン酸ランタン酸鉛系(Pb1-xLaxTi1-x/4O3)(PLT)、チタン酸ジルコン酸鉛系(PbZrO3)、チタン酸ランタン酸ジルコン酸鉛系(Pb1-xLax(TiyZrz)1-x/4O3)(PLZT)、チタン酸バリウム系(BaTiO3)、ジルコン酸鉛系(PbZrO3)、ニオブ酸リチウム系(LiNbO3)、タンタル酸リチウム系(LiTaO3)、バリウム酸ニオブ酸ストロンチウム系(SrxBa1-xNb2O6、ゲルマン酸鉛系(Pb5Ge3O11)が挙げられるが、強誘電効果を発現する素子であれば本発明は上記に限定されない。
本発明で脱離イオン化に必要とされる電荷を誘起する能力は強誘電体物質やその結晶方位により異なるが、おおむね、10-5〜10-4C/m2K程度であり、この程度の焦電性が得られる物質であり、レーザー光等のエネルギーを吸収する物質であれば、イオン化基板として利用することができる。
また前記強誘電体及び焦電体素子は、表面が平滑な特定の単結晶基板を用いることができる。
製膜の方法は、蒸着法、レーザーブレーション法、MOCVD法など様々な方法を利用できるが、工業的にはスパッタリング法かゾル-ゲル法(MOD法)がよく用いられる。具体適な製造方法は以下の通りである。
基板には導電性のある平坦な物質を利用する。例えば白金や金、導電性ガラスを用いる。有機洗浄、及び純粋洗浄を施した後、スパッタリング装置に導入し、一度高真空まで真空引きした後、10-100mTorrまでアルゴンガスと酸素の混合ガス、もしくは酸素ガスをスパッタガスとして導入する。スパッタリングターゲットには目的の組成を有した焦電体物質や強誘電体物質の焼結体もしくは固化体をセットする。チタン酸鉛の様に蒸気圧の低い物質を含む組成をターゲットとする場合はあらかじめ蒸発する成分を割り増ししてターゲットに仕込む事が重要となる。このスパッタリングターゲットと対向位置に基板をセットして基板とターゲット間に高周波電力を注入することにより、プラズマが発生し、ターゲット表面がスパッタされ基板表面に所望の膜が形成される。成長条件としては、例えば、ターゲット基板距離5cm、投入電力300Wが有効である。製膜直後は膜内にひずみが残っているため800℃程度で1時間程大気中でアニールする事で、目的の強誘電体薄膜を得る事ができる。
たんぱく質、糖などの生体高分子化合物は、0.1〜1%のトリフルオロ酢酸を含む水とアセトニトリルの混合溶液(アセトニトリルの含量5-75%)に溶解して、濃度1〜100 pmol/μLの試料溶液を調製する。これは典型例であって、試料の溶解性などに応じて、水またはアセトニトリル100%の溶媒を用いたり、アセトニトリルの代わりにメタノール,エタノール,プロパノール,アセトンなどの有機溶媒を選択してもよい。また、糖の測定では、安定な試料イオンを生成させるために、アルカリ陽イオン付加分子を生成させるために、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウムなどの塩を0.1〜1mg/mLの濃度となるように加えてもよい。
合成高分子は、試料が可溶な有機溶媒に溶解して濃度0.1〜1mg/mLの試料溶液を調製する.有機溶媒として、クロロホルム,テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、プロパノール、エタノール、メタノールなどが挙げられるが、試料が溶解すればこれらに限定されない.また、水溶性の合成高分子は、水又は水と有機溶媒の混合溶媒に溶解しても良い.さらに、安定な試料イオンを生成させるために、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、トリフルオロ酢酸銀、硝酸銀などの塩を0.1〜1mg/mLの濃度となるように加えてもよい。
該試料基板に0.1〜1μLの試料溶液を直接塗布し、室温で自然乾燥させるだけで均一な乾燥試料を得ることができる。
また、素子101を導電性試料基板ホルダー102に設置するための両面テープなどの構成材料が不要となるため、高真空のイオン源内でその構成材料から放出されるガス成分の気化による真空度の低下や装置内部の汚染を抑制することができ、より高精度な質量分析を達成することができる。
試料溶液は、金属膜が形成されていない素子表面114に塗布される。金属膜112および113の材料は素子表面上に製膜できるものであれば任意に選択することができるが、たとえばAu、 Al、 Agなどが挙げられる。
金属薄膜の作成は、蒸着またはスパッタ等の成膜法、あるいは無電解めっき等のめっき技術など、公知の方法で行うことができる。
焦電素子としてBaTiO3素子を用いて以下の実験を行った。
ペプチド試料(angiotensin-I、モノアイソトープ質量数 [M+H]+ = m/z 1296.7)を、トリフルオロ酢酸0.1%含有アセトニトリル50%溶液に溶解し、20 pmol/μlの試料溶液を調製した。試料溶液(1μl)をBaTiO3素子に塗布して乾燥した後、該基板を試料ホルダー上に取り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(Voyager
DE-PRO)に装着し、分析した。
焦電素子としてPLZT素子を用いて以下の実験を行った。
アルキルフェノール系非イオン性界面活性剤(Triton X-100、登録商標)を、1mg/mLのヨウ化ナトリウムを含むメタノールに溶解し、1 mg/mlの試料溶液を調製した。試料溶液(1μl)をPLZT素子に塗布して乾燥した後、該素子を試料基板上に取り付け、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(Voyager DE-PRO)に装着し、分析した。なお、Triton X-100の化学構造は、R-(CH2-CH2-O)n-Hであり、Rはオクチルフェノール基であり、nは繰り返し単位の数を意味する。
H. Sato、 A. Shibata、 Y. Wang、 H. Yoshikawa、 H. Tamura: Polym. Degrad. Stab. 2001、 74、 69-75.)と、よく一致しており、本発明によりPLZT基板を用いた場合に界面活性剤試料のソフトレーザーイオン化が達成されたことを示された。
(実験方法)
実施例2に示した被測定試料を同じ方法でシリコンウエハn型(100)面上に滴下し、乾燥させ質量スペクトス測定を行った。この場合、スペクトルは検出されない。即ち、単純に表面が平坦な物質というだけでは脱離イオン化は達成されない。
請求項にて述べたように、焦電効果を示す物質や強誘電体物質でこの脱離イオン化の効果が顕著であることを示す事例である。
101 イオン化素子
102 試料ホルダー
110 質量分析用試料基板
111 イオン化素子
112 金属膜
113 質量分析装置への導通部
114 試料塗布面
Claims (11)
- レーザー光を吸収する結晶性素子から構成されるイオン化媒体であることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
- 前記結晶性素子が焦電性素子であることを特徴とする請求項1記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
- 前記結晶性素子が強誘電体素子であることを特徴とする請求項1又は2記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
- 前記焦電性素子が、チタン酸鉛系、チタン酸ランタン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系、チタン酸ランタン酸ジルコン酸鉛系、ニオブ酸リチウム系、タンタル酸リチウム系、ゲルマン酸鉛系から選ばれることを特徴とする請求項2記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
- 前記強誘電体素子が、チタン酸鉛系、チタン酸ランタン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系、チタン酸ランタン酸ジルコン酸鉛系、チタン酸バリウム系、ジルコン酸鉛系、ニオブ酸リチウム系、タンタル酸リチウム系、バリウム酸ニオブ酸ストロンチウム系、ゲルマン酸鉛系から選ばれることを特徴とする請求項3記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
- 前記結晶性素子が、表面が平滑な特定の単結晶のイオン化媒体を用いることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
- 前記焦電性素子、又は強誘電体素子が基板上に薄膜状に製膜されている試料塗布部を有することを特徴とする請求項1乃至6いずれか記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
- 前記レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の試料塗布部が化学的に修飾されていることを特徴とする請求項1乃至7いずれか記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
- 前記レーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の試料塗布部を除く一部が導電性物質により形成されていることを特徴とする請求項1乃至8いずれか記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板。
- 請求項1乃至9いずれか記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料基板の表面に、溶液化された試料を塗布、乾燥させて得られることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析用試料。
- 請求項10記載のレーザー脱離イオン化質量分析用試料を備えることを特徴とするレーザー脱離イオン化質量分析装置。
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