以下、図面を参照して、本発明に係る車両の挙動制御装置の実施の形態を説明する。
本実施の形態では、本発明に係る車両の挙動制御装置を、ランフラットタイヤを装着する車両に搭載される挙動制動装置に適用する。本実施の形態に係る挙動制御装置は、通常のパンク状態(ランフラット状態)を検知し、通常のパンク状態を検知した場合にはランフラットタイヤとホイールとの嵌合力低下を防止するための車速制御を行う。本実施の形態には、5つの形態があり、第1の実施の形態が横加速度に基づく車速制御を行う形態であり、第2の実施の形態がパンク輪が旋回外輪の場合にだけ横加速度に基づく車速制御を行う形態であり、第3の実施の形態がパンク輪が旋回外輪と旋回内輪とで横加速度に基づく車速制御の閾値を変える形態であり、第4の実施の形態がパンク輪が前輪と後輪とで横加速度に基づく車速制御の閾値を変える形態であり、第5の実施の形態がパンクした場合に車速制御を行う形態である。
図1及び図2を参照して、第1の実施の形態に係る挙動制御装置1について説明する。図1は、第1〜第3の実施の形態に係る挙動制御装置の構成図である。図2は、ランフラットタイヤとホイールとの嵌合力が低下する際の車速と横加速度との関係を示す図である。
挙動制御装置1は、ランフラットタイヤのパンク状態を検知した場合にはウォーニングランプによって乗員にその状態を知らせ、パンク状態を検知した後には横加速度に基づいてタイヤとホイールとの嵌合力低下を防止するための車速制御を行う。そのために、挙動制御装置1は、右前輪空気圧センサ2、左前輪空気圧センサ3、右後輪空気圧センサ4、左後輪空気圧センサ5、横加速度センサ6、ウォーニングランプ7、ブレーキアクチュエータ8及びECU[Electronic Control Unit]9などを備えている。なお、本実施の形態では、空気圧センサ2,3,4,5及びECUにおける処理が特許請求の範囲に記載するランフラット状態検知手段に相当し、横加速度センサ6が特許請求の範囲に記載する横加速度検知手段に相当し、ブレーキアクチュエータ8及びECUにおける処理が特許請求の範囲に記載する車速減速手段に相当する。
なお、この挙動制御装置は、ランフラットタイヤがパンク状態の時にブレーキ制御だけを行う挙動制御装置であってもよいし、あるいは、その他に車両のヨーレートなどに応じてブレーキ制御やスロットル制御などの他の制御も行う挙動制御装置であってもよい。
空気圧センサ2,3,4,5は、各輪のランフラットタイヤに取り付けられ、ランフラットタイヤの空気圧を検出するセンサである。空気圧センサ2,3,4,5では、その検出値を空気圧信号ASとしてECU9に送信する。横加速度センサ6は、車両に作用する横方向(左右方向)の加速度の大きさと方向を検出するセンサである。横加速度センサ6では、その検出値を横加速度信号YSとしてECU9に送信する。
ウォーニングランプ7は、コンビネーションメータ内に設けられ、ランフラットタイヤのパンク状態を知らせるランプである。ウォーニングランプ7では、ECU9からの警報信号WSに正常を示す信号が設定されている場合には消灯し、警報信号WSにパンク警報を示す信号が設定されている場合には点灯する。なお、この警報信号WSはウォーニングランプ7に直接送信されるのではなく、コンビネーションメータのECUに送信され、このECUによる電流制御によってウォーニングランプ7が消灯/点灯する。
ブレーキアクチュエータ8は、各輪に対してそれぞれ設けられ、各ホイールシリンダの油圧を変化させるアクチュエータである。ブレーキアクチュエータ8では、ECU9からブレーキ制御信号BSが送信され、ブレーキ制御信号BSに応じて各ホイールシリンダの油圧を変化させ、ブレーキ力を調節する。
ECU9は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]などからなる電子制御ユニットであり、挙動制御装置1の制御装置として機能する。ECU9では、一定時間毎に空気圧センサ2,3,4,5からの各空気圧信号AS及び横加速度センサ6からの横加速度信号YSを取り入れ、ランフラットタイヤのパンク検知、警報制御及びパンク時に車速制御を行う。
ECU9では、4輪のランフラットタイヤが正常の場合、空気圧信号AS,・・・による各ランフラットタイヤの空気圧についてパンク判定空気圧以上か否かをそれぞれ判定する。パンク判定空気圧は、ランフラットタイヤが通常のパンク(バーストなどによって大きく孔が開いたパンクを除く)状態にあるか否かを判定するための閾値であり、実験などによって設定される。
空気圧がパンク判定空気圧より低くなったランフラットタイヤがある場合、ECU9では、警報信号WSにパンク警報を示す信号を設定し、その警報信号WSをコンビネーションメータのECUに送信する。一方、4輪のランフラットタイヤの空気圧が全てパンク判定空気圧以上の場合、ECU9では、警報信号WSに正常を示す信号を設定し、その警報信号WSをコンビネーションメータのECUに送信する。
また、空気圧がパンク判定空気圧より低くなったランフラットタイヤがある場合、ECU9では、一定時間毎に取り入れる横加速度信号YSにより、横加速度が閾値より大きいか否かを判定する。閾値は、ランフラットタイヤのリード部とホイールとの嵌合力が低下する際に車両に作用している横加速度より小さい横加速度であり、実験などによって設定される。図2に示すように、ランフラットタイヤのリード部とホイールとの嵌合力が低下した場合、装着しているランフラットタイヤとホイールとの関係で決まる所定の横加速度が車両に作用しており、車速に関係なく略一定である。したがって、閾値は、安全度を考慮して、この所定の横加速度より安全度分小さい横加速度が設定される。
検出した横加速度が閾値より大きくなった場合、ECU9では、横加速度が閾値以下となるために必要なブレーキ力を設定する。そして、ECU9では、その設定したブレーキ力を発生させるためのブレーキ制御信号BSを設定し、各輪のブレーキアクチュエータ8にそれぞれ送信する。ちなみに、横加速度に応じて必要なブレーキ力については、実験やシミュレーションなどによって予め求めておいてマップ化してもよいし、あるいは、所定演算式により横加速度から算出するようにしてもよい。
車両の旋回中には横加速度が車両に作用し、車速が高いほど大きくなる。横加速度が大きいほど、閾値との差が大きくなるので、横加速度を大きく低下させる必要がある。したがって、横加速度が大きいほど、車速を大きく低減する必要があり、大きなブレーキ力が必要となる。
図1及び図2を参照して、挙動制御装置1の動作について説明する。特に、ECU9における処理については、図3のフローチャートに沿って説明する。図3は、第1の実施の形態に係るECUでの処理の流れを示すフローチャートである。
各空気圧センサ2,3,4,5では、各輪のランフラットタイヤの空気圧を検出し、その検出値を空気圧信号ASとしてECU9に送信している。また、横加速度センサ6では、車両に作用する横加速度を検出し、その検出値を横加速度信号YSとしてECU9に送信している。
ECU9では、一定時間毎に、各空気圧センサ2,3,4,5からの空気圧信号ASをそれぞれ受信し、4輪のランフラットタイヤの空気圧を取得する(S1)。そして、ECU9では、各輪のランフラットタイヤの空気圧がパンク判定空気圧以上か否かを判定する(S2)。
S2にて4輪全ての空気圧がパンク判定空気圧以上と判定した場合、ECU9では、ランフラットタイヤは正常であると判定する。そして、ECU9では、警報信号WSに正常を示す信号を設定し、その警報信号WSをコンビネーションメータのECUに送信し、S1の処理に戻る。この警報信号WSを受信すると、コンビネーションメータのECUではウォーニングランプ7に対して電流を供給しない。そのため、ウォーニングランプ7は、消灯したままである。
一方、S2にて4輪のうちの少なくとも1つの空気圧がパンク判定空気圧より低いと判定した場合、ECU9では、そのランフラットタイヤがパンク状態であると判定する。そして、ECU9では、警報信号WSにパンク警報を示す信号を設定し、その警報信号WSをコンビネーションメータのECUに送信する(S3)。この警報信号WSを受信すると、コンビネーションメータのECUではウォーニングランプ7を点灯させるための電流を供給する。そのため、ウォーニングランプ7は、点灯する。この場合、パンク状態ではあるが、ランフラットタイヤなので、車両は通常の走行が可能である。そのため、運転者は、ウォーニングランプ7の点灯でパンク状態であることを知るが、走行を続ける。
また、ECU9では、一定時間毎に、横加速度センサ6からの横加速度信号YSを受信し、車両に作用している横加速度を取得する(S4)。そして、ECU9では、横加速度が閾値より大きいか否かを判定する(S5)。
S5にて横加速度が閾値以下と判定した場合、ECU9では、ランフラットタイヤとホイールとの嵌合力が低下する可能性はないと判断し、次の横加速度を取得するためにS4の処理に戻る。ちなみに、この場合、車両は旋回中であっても、横加速度がそれほど大きくならないような低速で旋回しており、ランフラットタイヤとホイールとの嵌合力が低下することはない。
一方、S5にて横加速度が閾値より大きいと判定した場合、ECU9では、ランフラットタイヤとホイールとの嵌合力が低下する可能性があると判断し、車速制御を行う。ECU9では、横加速度が閾値以下となるために必要なブレーキ力を発生させるためのブレーキ制御信号BSを設定し、このブレーキ制御信号BSを各輪のブレーキアクチュエータ8に送信する(S6)。この際、ECU9では、S4〜S6の処理を繰り返し行い、一定時間毎の横加速度に基づくフィードバック制御を行う。各ブレーキアクチュエータ8では、ブレーキ制御信号BSに示される値に応じて各ホイールシリンダに油圧を発生させる。この発生した油圧に応じて各輪にブレーキ力が発生し、車両が減速していく。この減速によって、旋回中の車両に作用する横加速度が小さくなり、閾値以下まで低下する。そのため、パンク状態にあるタイヤとホイールとの嵌合力は低下せずに、正常な嵌合力を維持する。
この挙動制御装置1によれば、パンク状態となった場合には横加速度に基づく車速制限を行うことにより、車両に作用する横加速度を閾値以下に抑え、ランフラットタイヤとホイールとの嵌合力低下を防止する。その結果、車両の運動性能(特に、操安性)が保たれ、ランフラットタイヤの耐久性も向上する。
図1及び図2を参照して、第2の実施の形態に係る挙動制御装置11について説明する。なお、挙動制御装置11では、第1の実施の形態に係る挙動制御装置1と同様の構成について同一の符号を付し、その説明を省略する。
挙動制御装置11は、挙動制御装置1と比較すると、パンク状態を検知した後にパンク輪が旋回外輪の場合だけタイヤとホイールとの嵌合力低下を防止するための車速制御を行う点で異なる。そのために、挙動制御装置11は、各輪の空気圧センサ2,3,4,5、横加速度センサ6、ウォーニングランプ7、ブレーキアクチュエータ8及びECU19などを備えている。
ECU19は、第1の実施の形態に係るECU9と比較すると、パンク時における車速制御だけが異なる。そこで、この車速制御についてのみ説明する。
空気圧がパンク判定空気圧より低くなったランフラットタイヤがある場合、ECU19では、横加速度信号YSによる横加速度が旋回判定横加速度より大きくなったか否かを判定する。旋回判定横加速度は、旋回中か否かを判定するための閾値であり、実験などによって設定される。横加速度が旋回判定横加速度より大きくなった場合、ECU19では、横加速度の方向により旋回方向を判断し、空気圧がパンク判定空気圧より低くなっているパンク輪が旋回外輪か否かを判定する。
パンク輪が旋回外輪の場合、ECU19では、一定時間毎に取り入れる横加速度信号YSにより、横加速度が閾値より大きいか否かを判定する。検出した横加速度が閾値より大きくなった場合、ECU19では、横加速度が閾値以下となるために必要なブレーキ力を設定する。そして、ECU19では、その設定したブレーキ力を発生させるためのブレーキ制御信号BSを設定し、各輪のブレーキアクチュエータ8にそれぞれ送信する。
旋回外輪は、旋回内輪に比べて、接地荷重が大きくなるので、タイヤとホイールとの嵌合力が低下する可能性が高い。そこで、旋回外輪がパンク輪の場合だけ、減速して横加速度を低下させる。
図1及び図2を参照して、挙動制御装置11の動作について説明する。特に、ECU19における処理については、図4のフローチャートに沿って説明する。図4は、第2の実施の形態に係るECUでの処理の流れを示すフローチャートである。ここでは、S1からS3までの動作については第1の実施の形態と同様の動作なので、S11以降の動作ついてのみ説明する。
ウォーニングランプ7を点灯させると、ECU19では、横加速度センサ6からの横加速度信号YSによる横加速度の大きさにより旋回中か否かを判定する。旋回中と判定した場合、ECU19では、横加速度信号YSによる横加速度の方向により、パンク輪が旋回外輪か否かを判定する(S11)。S11にてパンク輪が旋回外輪でないと判定した場合、ECU19では、S11の判定を繰り返し行う。ちなみに、パンク輪が旋回内輪の場合、旋回中でも、そのパンク輪にはそれほど大きな接地荷重がかからないので、そのタイヤとホイールとの嵌合力が低下することはない。
S11にてパンク輪が旋回外輪と判定した場合、ECU19では、ECU9におけるS4〜S6と同様の処理であるS12〜S14の処理を繰り返し実行する。これによって、パンク輪が旋回外輪の場合だけ、各ブレーキアクチュエータ8では各ホイールシリンダに油圧を発生させ、この発生した油圧に応じて各輪にブレーキ力が発生し、車両が減速していく。この減速によって、旋回中の車両に作用する横加速度が小さくなり、閾値以下まで低下する。これによって、パンク状態にある旋回外輪のタイヤとホイールとの嵌合力は低下せずに、正常な嵌合力を維持する。
この挙動制御装置11によれば、旋回外輪がパンク状態となった場合には横加速度に基づく車速制限を行うことにより、車両に作用する横加速度を閾値以下に抑え、ランフラットタイヤとホイールとの嵌合力低下を防止する。特に、挙動制御装置11では、タイヤとホイールとの嵌合力が低下する可能性の高い旋回外輪のときだけ車速制御を行うので、旋回内輪がパンク輪のときには旋回中に車速が低下せず、スムーズな走行が可能であり、また、パンク輪が旋回外輪のときでもタイヤとホイールとの嵌合力が低下するようなことはない。
図1及び図2を参照して、第3の実施の形態に係る挙動制御装置21について説明する。なお、挙動制御装置21では、第1の実施の形態に係る挙動制御装置1と同様の構成について同一の符号を付し、その説明を省略する。
挙動制御装置21は、挙動制御装置1と比較すると、パンク状態を検知した後にパンク輪が旋回外輪と旋回内輪の場合で閾値を変えてタイヤとホイールとの嵌合力低下を防止するための車速制御を行う点で異なる。そのために、挙動制御装置21は、各輪の空気圧センサ2,3,4,5、横加速度センサ6、ウォーニングランプ7、ブレーキアクチュエータ8及びECU29などを備えている。
ECU29は、第1の実施の形態に係るECU9と比較すると、パンク時における車速制御だけが異なる。そこで、この車速制御についてのみ説明する。
空気圧がパンク判定空気圧より低くなったランフラットタイヤがある場合、ECU29では、横加速度信号YSによる横加速度が旋回判定横加速度より大きくなったか否かを判定する。横加速度が旋回判定横加速度より大きくなった場合、ECU29では、横加速度の方向により旋回方向を判断し、空気圧がパンク判定空気圧より低くなっているパンク輪が旋回外輪かあるいは旋回内輪かを判定する。
パンク輪が旋回外輪の場合、ECU29では、閾値としてα1を設定する。一方、パンク輪が旋回内輪の場合、ECU29では、閾値としてα2を設定する。α1、α2は、車速制御する際の横加速度に対する閾値であり、その大きさが異なる。パンク輪が旋回外輪の場合、パンク輪が旋回内輪より、小さい横加速度のときにタイヤとホイールとの嵌合力が低下する可能性がある。そこで、パンク輪が旋回外輪の場合、旋回内輪の場合より小さい横加速度以下に制限するように車速制御を行う。したがって、α1は、α2より小さい値に設定される。図2に示すランフラットタイヤとホイールとの嵌合力が低下した際に作用している所定の横加速度に対して、α1はα2よりも大きな安全度が採られ、この所定の横加速度より少し小さい横加速度としてα2が設定され、α2より小さい横加速度としてα1が設定される。
そして、ECU29では、一定時間毎に取り入れる横加速度信号YSにより横加速度が閾値より大きいか否かを判定する。検出した横加速度が閾値より大きくなった場合、ECU29では、横加速度が閾値以下となるために必要なブレーキ力を設定する。そして、ECU29では、その設定したブレーキ力を発生させるためのブレーキ制御信号BSを設定し、各輪のブレーキアクチュエータ8にそれぞれ送信する。
図1及び図2を参照して、挙動制御装置21の動作について説明する。特に、ECU29における処理については、図5のフローチャートに沿って説明する。図5は、第3の実施の形態に係るECUでの処理の流れを示すフローチャートである。ここでは、S1からS3までの動作については第1の実施の形態と同様の動作なので、S21以降の動作ついてのみ説明する。
ウォーニングランプ7を点灯させると、ECU29では、横加速度センサ6からの横加速度信号YSによる横加速度の大きさにより旋回中か否かを判定する。旋回中と判定した場合、ECU29では、横加速度信号YSによる横加速度の方向により、パンク輪が旋回外輪かあるいは旋回内輪かを判定する(S21)。S21にて旋回外輪と判定した場合、ECU29では、閾値をα1に設定する(S22)。一方、S21にて旋回内輪と判定した場合、ECU29では、閾値をα2に設定する(S23)。
そして、ECU29では、ECU9におけるS4〜S6と同様の処理であるS24〜S26の処理を繰り返し実行する。この際、S25の処理では、閾値が、パンク輪が旋回外輪の場合にはα1となっており、旋回内輪の場合にはα2となっている。そのため、パンク輪が旋回外輪の場合、パンク輪が旋回内輪の場合より小さい横加速度(α1よりは大きな横加速度)が作用しているときに、各ブレーキアクチュエータ8で各ホイールシリンダに油圧を発生させ、この発生した油圧に応じて各輪にブレーキ力が発生し、車両が減速していく。この減速によって、旋回中の車両に作用する横加速度が小さくなり、α1以下まで低下する。これによって、パンク状態にある旋回外輪のタイヤとホイールとの嵌合力は低下せずに、正常な嵌合力を維持する。一方、パンク輪が旋回内輪の場合、α2より大きな横加速度が作用すると、同様に、各輪にブレーキ力が発生し、車両が減速していく。この減速によって、旋回中の車両に作用する横加速度が小さくなり、α2以下まで低下する。これによって、パンク状態にある旋回内輪のタイヤとホイールとの嵌合力は低下せずに、正常な嵌合力を維持する。
この挙動制御装置21によれば、パンク状態となった場合には横加速度に基づく車速制限を行うことにより、車両に作用する横加速度を閾値以下に抑え、ランフラットタイヤとホイールとの嵌合力低下を防止する。特に、挙動制御装置21では、パンク輪が旋回外輪と旋回内輪とで制限する横加速度の大きさを変えて車速制御を行うので、パンク輪が旋回内輪のときには旋回外輪のときより高い車速を維持でき、スムーズな走行が可能であり、また、パンク輪が旋回外輪のときでもタイヤとホイールとの嵌合力が低下するようなことはない。
図2及び図6を参照して、第4の実施の形態に係る挙動制御装置31について説明する。図6は、第4の実施の形態に係る挙動制御装置の構成図である。なお、挙動制御装置31では、第1の実施の形態に係る挙動制御装置1と同様の構成について同一の符号を付し、その説明を省略する。
挙動制御装置31は、パンク状態を検知した後にパンク輪が前輪と後輪の場合で閾値を変えてタイヤとホイールとの嵌合力低下を防止するための車速制御を行う点で異なる。そのために、挙動制御装置31は、各輪の空気圧センサ2,3,4,5、横加速度センサ6、前後加速度センサ32、ウォーニングランプ7、ブレーキアクチュエータ8及びECU39などを備えている。なお、第4の実施の形態では、前後加速度センサ32が特許請求の範囲に記載する前後加速度検知手段に相当する。
前後加速度センサ32は、車両に作用する前後方向の加速度を検出するセンサである。前後加速度センサ32では、その検出値を前後加速度信号ZSとしてECU39に送信する。
ECU39は、第1の実施の形態に係るECU9と比較すると、パンク時における車速制御だけが異なる。そこで、この車速制御についてのみ説明する。なお、ECU39では、一定時間毎に、各空気圧信号AS、横加速度信号YS以外に前後加速度センサ32からの前後加速度信号ZSを取り入れる。
空気圧がパンク判定空気圧より低くなったランフラットタイヤがある場合、ECU39では、前後加速度信号ZSによる前後加速度が前輪判定加速度より大きくなったか否かを判定する。前輪判定加速度は、パンク輪が前輪か否かを判定するための閾値であり、実験などによって設定される。前輪がパンクしている場合、走行抵抗が大きくなるので、前後加速度が大きくなる。そこで、前輪判定加速度は、この大きくなる前後加速度より少し小さな加速度が設定される。
前後加速度が前輪判定加速度より大きくなった場合、ECU39では、パンク輪が前輪と判断し、閾値としてβ1を設定する。一方、前後加速度が前輪判定加速度以下の場合、ECU39では、パンク輪が後輪と判断し、閾値としてβ2を設定する。β1、β2は、車速制御する際の横加速度に対する閾値であり、その大きさが異なる。パンク輪が前輪の場合、パンク輪が後輪より、小さい横加速度のときにタイヤとホイールとの嵌合力が低下する可能性がある。そこで、パンク輪が前輪の場合、後輪の場合より小さい横加速度以下に制限するように車速制御を行う。したがって、β1は、β2より小さい値に設定される。図2に示すランフラットタイヤとホイールとの嵌合力が低下した際に作用している所定の横加速度に対して、β1はβ2よりも大きな安全度が採られ、この所定の横加速度より少し小さい横加速度としてβ2が設定され、β2より小さい横加速度としてβ1が設定される。
そして、ECU39では、一定時間毎に取り入れる横加速度信号YSにより横加速度が閾値より大きいか否かを判定する。検出した横加速度が閾値より大きくなった場合、ECU39では、横加速度が閾値以下となるために必要なブレーキ力を設定する。そして、ECU39では、その設定したブレーキ力を発生させるためのブレーキ制御信号BSを設定し、各輪のブレーキアクチュエータ8にそれぞれ送信する。
図6及び図2を参照して、挙動制御装置31の動作について説明する。特に、ECU39における処理については、図7のフローチャートに沿って説明する。図7は、第4の実施の形態に係るECUでの処理の流れを示すフローチャートである。ここでは、S1からS3までの動作については第1の実施の形態と同様の動作なので、S31以降の動作ついてのみ説明する。
ECU39では、一定時間毎に、前後加速度センサ32からの前後加速度信号ZSを受信し、車両に作用している前後加速度を取得する(S31)。そして、ECU39では、前後加速度が前輪判定加速度より大きいか否かを判定する(S32)。
S32にて前後加速度が前輪判定加速度より大きいと判定した場合、ECU39では、閾値をβ1に設定する(S33)。一方、S32にて前後加速度が前輪判定加速度以下と判定した場合、ECU39では、閾値をβ2に設定する(S34)。
そして、ECU39では、ECU9におけるS4〜S6と同様の処理であるS35〜S37の処理を繰り返し実行する。この際、S36の処理では、閾値が、パンク輪が前輪の場合にはβ1となっており、後輪の場合にはβ2となっている。そのため、パンク輪が前輪の場合、パンク輪が後輪の場合より小さい横加速度(β1よりは大きな横加速度)が作用しているときに、各ブレーキアクチュエータ8で各ホイールシリンダに油圧を発生させ、この発生した油圧に応じて各輪にブレーキ力が発生し、車両が減速していく。この減速によって、旋回中の車両に作用する横加速度が小さくなり、β1以下まで低下する。これによって、パンク状態にある前輪のタイヤとホイールとの嵌合力は低下せずに、正常な嵌合力を維持する。一方、パンク輪が後輪の場合、β2より大きな横加速度が作用すると、同様に、各輪にブレーキ力が発生し、車両が減速していく。この減速によって、旋回中の車両に作用する横加速度が小さくなり、β2以下まで低下する。これによって、パンク状態にある後輪のタイヤとホイールとの嵌合力は低下せずに、正常な嵌合力を維持する。
この挙動制御装置31によれば、パンク状態となった場合には横加速度に基づく車速制限を行うことにより、車両に作用する横加速度を閾値以下に抑え、ランフラットタイヤとホイールとの嵌合力低下を防止する。特に、挙動制御装置31では、パンク輪が前輪と後輪とで制限する横加速度の大きさを変えて車速制御を行うので、パンク輪が後輪のときには前輪のときより高い車速を維持でき、スムーズな走行が可能であり、また、パンク輪が前輪のときでもタイヤとホイールとの嵌合力が低下するようなことはない。
図2及び図8を参照して、第5の実施の形態に係る挙動制御装置41について説明する。図8は、第5の実施の形態に係る挙動制御装置の構成図である。なお、挙動制御装置41では、第1の実施の形態に係る挙動制御装置1と同様の構成について同一の符号を付し、その説明を省略する。
挙動制御装置41は、挙動制御装置1と比較すると、パンク状態を検知した後には横加速度に関係なくタイヤとホイールとの嵌合力低下を防止するための車速制御を行う点で異なる。そのために、挙動制御装置41は、各輪の空気圧センサ2,3,4,5、車速センサ42、ウォーニングランプ7、ブレーキアクチュエータ8及びECU49などを備えている。
車速センサ42は、4輪に各々設けられ、各車輪の回転速度を検出するセンサである。車速センサ42では、その検出値を車速信号SSとしてECU49に送信する。
ECU49は、第1の実施の形態に係るECU9と比較すると、パンク時における車速制御だけが異なる。そこで、この車速制御についてのみ説明する。ECU49では、一定時間毎に、各空気圧信号AS以外に車速センサ42からの車速信号SSを取り入れる。そして、ECU49では、車速信号SSを受信する毎に、各輪の回転速度から車速を演算する。
空気圧がパンク判定空気圧より低くなったランフラットタイヤがある場合、ECU49では、車速が所定車速以下になるために必要なブレーキ力を設定する。そして、ECU49では、その設定したブレーキ力を発生させるためのブレーキ制御信号BSを設定し、各輪のブレーキアクチュエータ8にそれぞれ送信する。所定車速は、パンク状態となっているタイヤとホイールとの嵌合力が低下するような大きな横加速度が発生しない車速であり、実験などによって設定される。
図8及び図2を参照して、挙動制御装置41の動作について説明する。特に、ECU49における処理については、図9のフローチャートに沿って説明する。図9は、第5の実施の形態に係るECUでの処理の流れを示すフローチャートである。ここでは、S1からS3までの動作については第1の実施の形態と同様の動作なので、S41以降の動作ついてのみ説明する。
ECU49では、一定時間毎に、車速センサ42から車速信号SSを受信し、車速を演算する(S41)。そして、ECU49では、車速が所定車速以下となるようにブレーキ制御信号BSを設定し、このブレーキ制御信号BSを各輪のブレーキアクチュエータ8に送信する(S42)。この際、ECU49では、S41〜S42の処理を繰り返し行い、一定時間毎の車速に基づくフィードバック制御を行う。各ブレーキアクチュエータ8では、ブレーキ制御信号BSに示される値に応じて各ホイールシリンダに油圧を発生させる。この発生した油圧に応じて各輪にブレーキ力が発生し、車両が減速していく。この減速によって、旋回中の車両に作用する横加速度が小さくなる。そのため、パンク状態にあるタイヤとホイールとの嵌合力は低下せずに、正常な嵌合力を維持する。
この挙動制御装置41によれば、パンク状態となった場合には車速制限を行うことにより、車両に作用する横加速度を抑え、ランフラットタイヤとホイールとの嵌合力低下を防止する。特に、挙動制御装置41では、車速制御を行う際に横加速度などを用いないので、制御や構成を最も単純化できる。
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
例えば、本実施の形態では横加速度が閾値以下かあるいは車速が所定車速以下になるように車速を制御したが、現在の車速から一定車速だけ減速するなど他の減速制御を行ってもよい。
また、本実施の形態では車速を低減するためにブレーキ制御を行う構成としたが、スロットル制御あるいはブレーキ制御とスロットル制御の協調制御などの他の制御により減速する構成としてもよい。
また、本実施の形態では旋回方向を横加速度を用いて判断する構成としたが、操舵トルク、操舵角、操舵角速度などを用いて判断する構成としてもよい。
また、第3の実施の形態ではパンク輪が旋回外輪の場合には閾値をα1に設定し、旋回内輪の場合には閾値をα2(>α1)に設定し、それぞれ設定した閾値と横加速度センサで検出した横加速度とを比較することによって車速制御を行う構成としたが、パンク輪が旋回内輪の場合には横加速度センサで検出した横加速度にA2(>1)を乗算し、旋回外輪の場合には横加速度センサで検出した横加速度にA1(>A2)を乗算し、それぞれ補正した横加速度と閾値とを比較することによって車速制御を行う構成としてもよい。
また、第4の実施の形態ではパンク輪が前輪の場合には閾値をβ1に設定し、後輪の場合には閾値をβ2(>β1)に設定し、それぞれ設定した閾値と横加速度センサで検出した横加速度とを比較することによって車速制御を行う構成としたが、パンク輪が後輪の場合には横加速度センサで検出した横加速度にB2(>1)を乗算し、前輪の場合には横加速度センサで検出した横加速度にB1(>B2)を乗算し、それぞれ補正した横加速度と閾値とを比較することによって車速制御を行う構成としてもよい。
1,11,21,31,41…挙動制御装置、2…右前輪空気圧センサ、3…左前輪空気圧センサ、4…右後輪空気圧センサ、5…左後輪空気圧センサ、6…横加速度センサ、7…ウォーニングランプ、8…ブレーキアクチュエータ、9,19,29,39,49…ECU、32…前後加速度センサ、42…車速センサ